演目『千早振る』
配役一覧
親父 :天海 春香
娘 :高槻 やよい、双海 真美、双海 亜美
隠居 :我那覇 響
竜田川:プロデューサー
花魁 :如月 千早
花魁 :四条 貴音
765プロ
春香「おっはようございまーす」ガチャ
真美「とぁっ!」バァン!
春香「わっ! な、なに!?」
やよい「あ、春香さん。おはようございますー」
亜美「おー、はるるん。おっはよー」
真美「おっはーはるるん。今日午後からじゃなかったっけ?」
春香「あ、うん。ちょっと早く来ておこうと思って。3人は何してるの?」
やよい「これですよー」
春香「百人一首?」
真美「そこの棚にあったのを真美が見つけたんだー」
亜美「で、せっかくだからちょっとやってみようかと思って」
春香「なるほど」
真美「でも歌の意味はさっぱりわからないけどねー」
亜美「はるるんこの意味わかる?」
春香「どれどれ? えっと、第72番か」
春香「この歌はね、浮気性な男の人を好きになってしまった女の人の心を詠んでるんだよ」
亜美「おおー! さっすがはるるん!」
真美「そのリボンは伊達じゃあないね!」
やよい「うっうー! はるかさんすごいですー!」
春香「えへへー」ドヤッ
春香(本当は昨日授業でたまたまやっただけなんだけど)
真美「じゃーはるるん、今度はこれの意味おせーて。第17番って書いてあるやつ」
春香「えっ! い、いやぁ、そのー……」
響「おはよーだぞー」ガチャ
春香「!!! そ、そうだ! そういうのは響に聞いたらいいんじゃないかなー!」
響「へっ? な、なんだ?」
真美「えーなんでー?」
亜美「はるるんひょっとして知らないのー?」
春香「いやぁ、そ、そういうわけじゃないんだけどさー」
春香「ほら、ちょっと記憶が曖昧だからー、間違ったこと教えちゃうかもしれないし」
響「? 何の話だ?」
春香「やっぱりこういうのはしっかりした人に聞いた方がいいよねー! というわけで響、よろしく!」
響「だから、一体なんの話なんだ?」
真美「ひびきんこの意味わかるー?」
響「んー? なんだこれ。百人一首か?」
亜美「これってどういう意味なの?」
響「うーん、自分も詳しいわけじゃないからなー。こういうのは貴音とか――」
やよい「よろしくお願いします、響さん!」ガルウィング
響「まかせるさー! なんたって自分、完壁だからなー!」
春香「うんうん、さすが響だね!」
響「えーと、17番ってこれか。『千早振る神代もきかず竜田川からくれないに水くぐるとは』?」
響「…………」
真美「ひびきん?」
亜美「どったの?」
響「! い、いや、なんでもないぞ! なんでもないさー!」
響「え、えーと……この歌の意味はだなー、『千早振る神代もきかず竜田川』だから、『からくれないに水くぐるとは』ってことさー!」
春香「え?」
真美「つまり……」
亜美「……どゆこと?」
やよい「うぅ~、わからないですぅー……」
響「だ、だからー、『千早振る』から『神代もきかず竜田川』で、『からくれない』に『水くぐるとは』という意味だぞ!」
春香「……」
真美「ひょっとして、ひびきん」
亜美「知らないんじゃない?」
やよい「うぅ~、やっぱりわからないですぅ……」
響「なっ! そ、そんなことないさー! だって自分、完壁なんだからな! これくらい知ってるぞ!」
真美「じゃあさ、ひびきん。もうちょっと分かりやすくならない?」
響「そっそれは……その、無理なんだ」
亜美「やっぱり知らないんじゃんかー」
響「ち、違うぞ! ただ、これはそのー……そう! プロデューサーと千早の秘密に関わるから、簡単に話すことはできないんだぞ!」
春香「響、その話くわしく」グワシッ
亜美「むむっ、兄ちゃんと千早お姉ちゃんの秘密とな?」
真美「それは聞かねばなるまいて」
響「わ、わかったから皆ちょっと離れて」
響「ただ、人の秘密だからな。絶対に誰にも話しちゃいけないぞ。いいな?」
春香「合点承知!」
真美「オッケーだよ」
亜美「分かってるってー」
やよい「うぅ~、でもそんなに簡単にだれかの秘密を聞いたらいけないんじゃ……」
春香「やよい、これは私たちが仲を深めるために必要なことなんだよ。だから安心して!」
やよい「春香さん……。わ、分かりましたー! 私、ぜったいに誰にもいわないです!」
社用車内
P「な、なんだ? 急に悪寒が」
千早「大丈夫ですか、プロデューサー?」
貴音「もしや、風邪でしょうか?」
P「いや、大したことじゃないさ。2人とも、もうすぐレコーディングスタジオに着くぞ」
響「じゃあまず初めに。みんな、この竜田川っていうのはなんだと思う?」
真美「え? そりゃあ川なんじゃないの?」
亜美「川ってついてるしね」
春香「私も川だと思うけど」
やよい「きっとお料理のことです!」
響「普通はそう考える。でも違うんだ、これはプロデューサーの名前なのさー!」
真美「えー!? 兄ちゃんの名前!?」
亜美「嘘だー! だって兄ちゃんの名前は……あれ?」
やよい「そういえばプロデューサーの名前、知らないですぅ」
春香「ちょ、ちょっと待って響!」
響「な、なんだ春香?」
春香「確かに、私たちはプロデューサーさんの名前を知らないよ。最初からずっとプロデューサーさんって呼んでるからね」
春香「でも、どうしてプロデューサーさんの名前が百人一首に載ってるの?」
響「そ、それはッ!」
真美「そういえばおかしーね」
響「お、お前たちがやっていたのは百人一首であって百人一首じゃないんだぞ!」
春香「え? どういうこと?」
響「これは百人一首を元とした、パロディ百人一首なんだぞ!」
やよい「ぱろでぃ百人一首?」
響「そうだぞ! これをよく見るんだ!」
亜美「これって、百人一首が入ってた箱じゃん」
真美「ちゃんと小倉百人一首って書いてあるよー?」
響「それが間違いなんだぞ」
響「これはおぐら百人一首じゃなくて、おくら百人一首だ!」
春香「お、おくら百人一首?」
響「おくら百人一首っていうのは、そうだな……3年くらい前に作られた小倉百人一首のジョークグッズなんだ」
響「小倉百人一首の歌に似ている情景を集めたから、本当の百人一首とは違った意味合いの歌もあるんだぞ」
響「その証拠にホラ、箱の裏に貼られているシールにはちゃんと3年前の製造日がプリントされてるじゃないか!」
春香「た、確かに製造日は3年前だけど……」
やよい「でも、箱に入ってた説明書きには由来とかが書いてありますよー?」
響「うぐっ……ぱ、パロディだからな! ネタ元にはちゃんと敬意を払っているんだ!」
響「そして本物そっくりの説明書きに仕上げることで、よりいっそう洒落っ気を出しているんだぞ!」
響「なによりこの歌には『千早』って書かれてるじゃないか! だからこれは本物じゃなくて、パロディ百人一首なんだぞ!」
亜美「そっかー。製造日が3年前なら確かにそうなのかもねー」
真美「千早お姉ちゃんの名前が出てるのも、納得できますなあ」
やよい「うっうー! 響さん、すっごい物知りなんですねー!」
響「ま、まぁな!」エッヘン
春香「な、なんか色々と苦しいような気がするんだけど」
響「じゃ、じゃー春香は聞かなくてもいいんだな? プロデューサーと千早の秘密はやよいたちだけに教えることにするぞ」
春香「うっ……わ、わかったよー」
響「それじゃあ話を戻すぞ。えっと、どこまで話したっけ?」
真美「兄ちゃんの名前が竜田川だってところだよ」
響「そうだったな。それで、和歌っていうのは上の句と下の句に分かれてるんだ」
響「この歌だったら、『千早振る神代もきかず竜田川』と『からくれないに水くぐるとは』になるのさ」
亜美「ふむふむ」
響「ここで上の句をわかりやすく言い換えると、『千早振る神代もきかずプロデューサー』になるぞ」
響「つまり、プロデューサーが千早に告白して、千早はプロデューサーを振ったって意味だぞ!」
春香「響ストップ!」
春香「プロデューサーさんが千早ちゃんに告白したってどういうこと!? そんな話ちっとも知らないんだけど!!」
響「そりゃあ秘密の話だからな」
春香「で、でも! おんなじ事務所にいるんだからそういう話を聞かないのはおかしいよ!」
響「春香、この和歌が発売されたのは3年前だぞ。春香が千早と会う前の話だ」
響「それに、この出来事があったのは6年前なんだから、春香が知らないのは当然さー」
春香「6年前って……千早ちゃん10歳!?」
亜美「兄ちゃんロリコンぢゃん!」
やよい「驚きですー!」
響「当時大学生だったプロデューサーは、ランドセルを背負った千早に一目惚れして告白したんだぞ」
響「でも千早は『小学生を女として見る変態に興味はありません』ってばっさり斬り捨てたんだ」
やよい「千早さん、かっこいいです!」
真美「あー、千早お姉ちゃんっぽいねー」
響「そこで次にプロデューサーが目をつけたのが、千早の隣りにいた貴音だ。2人は同じ小学校に通ってたんだぞ」
亜美「へー! お姫ちんのむかしなんて初めて知ったよ」
響「でも貴音も貴音で、『申し訳ありませんが、わたくしはらぁめん顔が好みなので』って言ってプロデューサーを振ったんさー」
春香「プ、プロデューサーさんがロリコンだったなんて……千早ちゃんも、こんな話ひとことも…………友達だと思ってたのに」
響「お気に入りの小学生2人に立て続けに振られたプロデューサーは失意のまま大学を卒業し、高木社長に拾われたんだけど……」
響「その頃の765プロは豆腐屋だったんさー」
亜美「豆腐屋!? な、なんでー!?」
真美「豆腐屋がどうして芸能事務所になるのさー!?」
響「まあそう焦るもんじゃないさー。物事には順序ってものがあるんだぞ」
響「豆腐屋小町と呼ばれたぴよ子と2人で豆腐を売っていたプロデューサーの心の傷は月日が経つにつれ癒されつつあったんだけど……」
響「そんな765豆腐店の店先に、お腹を空かせたひとりの子供が姿を現したんだ」
響「それは成長した千早……いや、あまり成長していない千早だったんだ!」
レコーディングスタジオ
千早「…………」クッ
P「ん? どうした千早?」
千早「いえ、なんでもありません」
P「? もう少しで貴音のレコーディングも終わるし、少し早いけど昼ごはんにするか。千早は何が食べたい?」
千早「そうですね、たまには麻婆豆腐などいいかもしれません」
P「中華か。そういえば、目黒においしい中華料理店があるって話だ。そこに行ってみようか」
千早「はい」
響「お腹を空かせて胸と背中がくっつきそうな千早は、プロデューサーに食べ物をせがんだのさー」
響「でも未だ心の傷が癒えきってないプロデューサーはつい千早を怒鳴りつけてしまったんだ」
響「『お前のようなやつにはおからだろうとくれてやるものか!』ってな」
響「それを聞いた千早は、ショックのあまり店先の水槽に頭から倒れ込んだんだ」
亜美「兄ちゃんひでぇ!」
真美「下衆の極みですな」
やよい「千早さんかわいそうです。お腹が空くのって、ほんとに辛いのに」
響「ま、まあほら、今はみんなで仲良くやってるから、あんまり気にしない方がいいと思うぞ!」
亜美「それで、その後はどうなったのー?」
響「ん? うーんとな、美少女が倒れ込んだ豆腐は大人気になって、とんでもない高値がついたんだ」
響「がっぽり儲けた社長は、それを元手にこの765プロを立ち上げたのさー! それでこの話はおしまいだぞ」
真美「なんだかすごい話を聞いちゃったねー」
やよい「とっても面白かったです!」
亜美「あれ? でもさー、亜美たちなんの話してたんだっけ?」
真美「あ! そういえば百人一首の話だったぢゃん! 話をそらすなんてひびきんズルいよー」
響「別に話をそらしたわけじゃないぞ」
真美「へ?」
響「だって、『千早振る神代もきかず竜田川からくれないに水くぐるとは』だろ?」
響「プロデューサーである竜田川を千早と貴音が振って、おからをくれないショックで千早は水槽に突っ伏したんだ」
亜美「あっなるほど!」
真美「じゃあ神代ってのはお姫ちんのこと?」
響「!!! そ、そうだぞ! 神代っていうのは、貴音の前の苗字なんだぞ!」
真美「たしかに神代って、なんとなくお姫ちんに似合ってるね」
響「だ、だろ!? あ、あははははははは!」
やよい「あれ? じゃあ最後の『とは』ってなんですか?」
響「え、と、『とは』? べ、別に『とは』くらいいいじゃないかー。なんくるないさー!」
亜美「えー、でも気になるよー」
真美「ひびきーん、最後の『とは』ってなーにー?」
響「え、えーっと……『とは』、『とは』っていうのはだなー、うーん……あ、そうだ! 『とは』っていうのは千早の幼名だぞ!」
亜美「ようみょう?」
響「千早が15歳まで名乗ってた名前だぞ! でも全部『とは』だと分かりにくいから、最初だけ『千早』って書かれてるんだ!」
真美「あー、そっかー。確かに2つともむかしの名前だったら誰のことかわからないもんねー」
P「ただいま戻りましたー」ガチャ
春香・響「!」
真美「あ、おかえりー兄ちゃん」
真美「今ねー、ひびきんから兄ちゃんの昔話を聞いてたところなんだよー」
P「? 俺の昔話? 響からか?」
響「あー! そ、そういえばもうお昼かー! いやー、話に夢中で気づかなかったなー! というわけで、自分はご飯を食べに行ってくるぞ!」ガチャ
やよい「プロデューサー、ひどいです! 千早さんに謝ってください!」
P「へ? ど、どうしたやよい?」
春香「ぷっプロデューサーさん!」
P「なっなんだ春香、いきなり大声だして」
春香「プロデューサーさん……いえ、竜田川さん!」
P「誰だ竜田川って」
春香「私……私、竜田川さんの為に7年若返ってみせます!」
おあとがよろしいようで
お目汚し、失礼いたしました
あと、おあとなんてありません
ありがとう。嬉しい
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