【モバマス×ニンスレ】「ザ・パーフェクト・デイ・フォー・ブックフィッシュ」 (124)

キークローゼットがサギサワを連れて部屋を出た後に間の抜けたアトモスフィアが残った。

聞こえるのはモバPの下で涙を流している男の時折しゃくりあげる音だけだ。

センカワ・チヒロは立ち上がり、出口に向かいながら言った。 1

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「さて、用も済んだのでそろそろモバP=サンも仕事に戻って下さい。また徹夜で事務所にカンヅメなんてごめんでしょう」

チヒロの先ほどまでの嗜虐心はどこへ行ったのか、いつものような調子でモバPに語りかけた。

破滅させたマケグミのことなど眼中にないようだ。 2

「こやつはどうする」

「適当に路地裏にでもマルナゲすればいいでしょう。社会の底辺なんて実際すぐ死にます」

「内通者とやらの件はいいのか?こやつからのインタビューは?」

「大方の目星はついています。追って詳細を話しますので、まずはその薄汚い薬物中毒者を事務所から捨ててきて下さい」 3

モバPは男の始末をマルナゲされた格好だが、珍しくチヒロの言葉をすぐに承服しなかった。

男の背に馬乗りになったまま、何かを言いたそうに金魚めいて口をぱくぱくさせていた。

「モバP=サン?どうしましたか?何かわからないことでも?」

「いや……」 4

「なら、早く仕事を済ませてくださいね。タイムイズマネー、ですよ?」

「よ、ヨロコンデー……」

チヒロは最後ににっこりと笑うと部屋から出て行った。

後にはモバPと男だけが残されたが、モバPは動かない。

男の上に馬乗りになったまま、険しい顔で虚空を睨んでいた。 5

やがてモバPは、意を決したように顔を上げ、男から降りた。

マグロめいて転がっている男を揺すりながら声を発した。

「おい、おい。起きろ。起きてくれ」

モバPが体を揺すり続けるが起きる気配がない。

それはまごうことなきツキジのマグロであった。

「お前に教えて欲しいのだ。頼む」 6

モバPは男にドゲザして懇願した。

「教えてくれ。お前と、サギサワ・フミカの物語を」 7

アイドルマスターシンデレラガールズ
×
ニンジャスレイヤー

第1部「ネオプロダクション炎上」より:
「ザ・パーフェクト・デイ・フォー・ブックフィッシュ」

(これまでのあらすじ)

(シンデレラガールズプロダクションに所属するモバPは、事務所に入り込んだ侵入者の排除するために応接室へと急行した)

(そこではかつてサギサワ・フミカのプロデューサーが彼女を奪取しようと目論んでいるのを発見、すんでのところでこれを阻止した)

(だがモバPは知らなかったのだ。2人の間にいかなる絆があり、それがいかに踏みにじられてきたかを)

(そしてまた知らなかった。チヒロや他のプロデューサーが移籍してきたアイドルをどのように邪悪なジツを持ってして従えているのかを)

前スレ
【モバマス×ニンスレ】「ライク・シング、ライク・ダンス」
【モバマス×ニンスレ】「ライク・シング、ライク・ダンス」 - SSまとめ速報
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―――――


8

カーボンフスマがベルの音と共にしめやかに開くと、LEDボンボリに照らされた薄暗い廊下が続いている。

その廊下を歩いて行くと、数m先にノーレンが視界を遮るように垂れている。

そこには蛍光ペイントで書かれた警告文が薄闇にぼんやりと浮かんでいる。 10

「警告する」「秘密重点区域」「見つけたら囲んで棒で叩く」「死ぬがよい」

恐怖感を催すオスモウフォントがペイントされたノーレンを何枚もくぐると、

「御吸血部隊様専用秘密談合会議室」の大きな看板が掛けられた巨大な扉が現れる。 11

申し訳程度にひっそりと添えられた「5時―8時貸し切り」の小さな看板を無視し扉の前に立つと、音もなくオブツダン開きにゆっくりと開いていく。

「シタニーシタニー」

電子マイコの声がしめやかに訪問者を知らせるが、廊下と同様に灯の落とされた部屋の中は薄暗く、中にいる者たちは気付かない。 12

ここに集まっているのは事務所の中でも特に精鋭であるグレータープロデューサーたちだ。

彼らは200人近いアイドルの中でもトップクラスの人気を誇るアイドルをプロデュースする立場にある。

その彼らが今事務所の運営方針を決める秘密会合に参加するために集合している。 13

彼らの通称は「レッドショルダー」。

シンデレラガールズプロダクションを牛耳るチヒロの手足となるべく集められた者たちだ。

チヒロが彼らを組織した理由は、かつて一介の営業担当者が地位と権力をほしいままにしていた反省によるものだ。 14

彼はある日唐突にいなくなってしまった。

カロウシした、とか他事務所の襲撃を受けた、とかクルセイダーらのゲコクジョに敗れた、とかあらゆる噂が流れた。

真相は闇の中だが、TV局や広告代理店とのパイプを失った事務所は次々とアイドル活動に支障を来たし、大混乱に陥った時期があった。 15

チヒロは二度と同じ失敗を繰り返さないために、息のかかったグレータープロデューサーに職能と権限を分け与えて編成、「レッドショルダー」を組織したのだった。

彼らの中には事務所のプロデューサー以外にもヤクザクランの一員やTV局から出向してきたプロデューサーもいるという。 16

おお、見よ!議長席に座り時計を睨んでいるのはサエ・コバヤカワ担当プロデューサーのシャチョウだ!

その近くで輪になって情報を交換しているのはクソラップ!シャコーシン!セッション!

それぞれが油断のならないアトモスフィアを漂わせている実力派プロデューサーたちだ。 17

たった今入場してきた男――モバPもレッドショルダーの1人だ。

彼はアイドルプロデューサーとしての実力は低くはないと自負している。

それでもトップアイドル32人のうちどのアイドルを担当しているわけではなく、内心何故自分がこのメンバーに選ばれたのか不思議に思っていた。 18

当然その疑問は他のプロデューサーも持つところであった。

チヒロ自らが組織した体制であるので表立っての批判がされることはなかったが、それでも同僚たちは訝しがる視線を常に投げかけていた。

(それでも構わぬ。全ては……アイドルのためならば)

モバPは暗い顔で呟いた。 19

やがてどこかからシシオドシが5回鳴らす音が聞こえた。

定刻が来たことを知ると、議長席のシャチョウが原稿を読み上げた。

「それでは定刻となりました。これより事務所運営に関する定例総会を開きます。会議参加者はご着席を……」

その声に従いプロデューサーたちが各々の席に向かっていく。 20

モバPもその声に従い、長机の末席に陣取る。

中には議長を無視して隅のほうで突っ立ったままの者もいるが、シャチョウは無視して議事を進め始めた。

「まず始めに2014年ハロウィンパーティに参加するアイドルについての協議です。御異議ありませんか。……御異議なしと認めます……」 21

シャチョウは原稿から顔を上げて周りの反応を見ることなく淡々と議事を進めていく。

彼はロボットなのであろうか?

否。これらの言葉は一種の儀礼的なプロトコルでありアイサツにしか過ぎないのだ。

それが分かっている会議の参加者は退屈そうに手元の端末をいじっている。 22

やがて議長に代わり隣に座っていたホシ・ショウコ担当プロデューサー、ソクシンブツが立ち上がり演説を始めた。

「先月末はパッションの属性から1番手に推されるアイドルが出ず、大変残念なことでした」

「そこで今月のハロウィンパーティにはホシ・ショウコ=サンを1番手とし……」 23

「あいや待たれよ。先週ニナ=サンやユウコ=サンが新しい絵をもらい今月はずっとパッションが続いているのではありませんか?」

「ヨイデワ・ナイカ。パッション重点!」

「『パッション重点』その通り!」

途端に野次が飛び交い会議はケンケン・ガクガクの喧騒に包まれる。 24

だがこれも事前に打ち合わせて決められたプロトコルに則り、議長は議論をすっ飛ばし強行採決を取る。

「採決を取ります。賛成と思われる方は挙手をして下さい……賛成多数によりホシ・ショウコ=サンを1番手として推していくことに決められました」

「ワー」

「オメデトザイマス!」 25

彼らは大半がチヒロの部下であり明確な序列は存在しない。

しかしアイドルプロデューサーカラテのワザマエ、アイドル同士の友好関係、チヒロへの献金額、

様々な要素が絡み合った複雑怪奇な社内政治力学によって目に見えない序列が確かに存在し、

その力によって会議は進められるのだ。 26

「次の議題と致しまして……ヘゴ=サン、メサイア=サンの退社に伴うシマムラ・ウヅキ=サンとホンダ・ミオ=サンの担当引き継ぎについて……」

「……御異議なしと認めワンダフルマジック=サンに引き継がれることに可決致しました」

「ワー」

「スゴイネェー」

疎らな拍手! 27

「次の議題と致しまして……シンデレラガールズアイドルのメディア展開に関して……」

「……賛成多数により、PS4ソフトのアイドルマスター3にカンザキ・ランコ=サン、トトキ・アイリ=サンが参加することを決定致しました」

「ワー」

「オメデトザイマス!」

疎らな拍手! 28

「次の議題と致しまして……新しいタイプのアイドルの発掘について……」

「……御異議なしと認め、スモトリアイドルのデビューは時期尚早とし却下することを可決致しました」

「ワー」

「スゴイネェー」

疎らな拍手! 29

「エー、次の議題と致しまして……ヒノ・アカネ担当プロデューサーについて……」

欺瞞的プロトコルに則ったやりとりを繰り返し、会議の参加者に疲れたアトモスフィアが漂い始めたその時、末席に座るプロデューサーが立ち上がり叫んだ。

「緊急議題を提案いたします!」 30

参加者たちが胡乱な目で見つめる中、そのプロデューサー――キークローゼットは力強く宣言した。

「先日発生した事務所への侵入事件!犯人は私の担当アイドルであるサギサワ・フミカ=サンを拉致しようとした他事務所の刺客!」

「むざむざ重要区画まで入られたことにカメムシ=サンはどのようにお考えか!」 31

なんという勘違いした態度か!

この会議は事前に打合せた筋書きに沿って進められるものであり、このような奥ゆかしさに欠けた言動は即座にムラハチにされてしまうのだ。

上座のグレータープロデューサーたちは忍び笑いを漏らした。

政治力学を理解しない無能な働き者を心の中で嘲った。 32

その中からカメムシと呼ばれたプロデューサーが立って反論した。

「常日頃から重要区画にはベテランクローントレーナーを配置し……警備会社とも契約し守りは完璧です。実際完璧……」

なんたる欺瞞的言説!

だがそれを追求するのはキークローゼットのみで、他は高みの見物を決め込んでいる。 33

何を言ってものらりくらりとかわすカメムシと誰も同調しない会議室のアトモスフィアにキークローゼットはようやく不利を悟り始めた。

(何故だ?何故誰も発言しない?)

だが自分の無能に気づかない者がどうしてその理由を理解できようか。

カメムシはさらに追い立てる。 34

「そういえば……サギサワ=サン、今は何をやっても無気力無関心でレッスンにすら出てこないらしいですね?自室に籠もってアイドルとして満足に活動していないとか……」

「な、何故それを……」

サギサワは先日の侵入事件以来、頻繁に記憶の封印が緩くなるのでその度にカギ・ジツを行使してきた。 35

この力はチヒロから与えられたものであり、彼女の許可無くしては使えない。

だが彼は以前邂逅したサギサワが慕い続ける元プロデューサーへの憎悪と嫉妬から、

無断で何度もジツを行使し記憶を封じこめた。

その結果サギサワは本当にジョルリ人形めいて反応が薄くなってしまったのだ。 36

なんたる暴虐!プロデューサーがこのようにアイドルを虐げて良いはずがない!

あえて彼が弁明するならば、彼はジツを何度も連続してかけたことはなく、どのような副作用があるか知らなかったのだ。

失態を隠すためこのことはチヒロにも報告していない案件だったのに、それが何故……? 37

何故、何故、何故。疑念で頭がいっぱいになり言葉が出てこない。

その間に野次が山のように飛んで来て、混乱に拍車をかける。

「これはケジメ案件ですなあ」

「いやいやこれはセプクでしょう」

「実際プロデューサー失格な」

上座のプロデューサーたちは口々に囃し立てる。 38

だがその時、喧騒の中からモバPが挙手をし、発言を求めた。

「議論がずれております故発言をさせてもらいます……」

「現在の議題は侵入者への対策が十分であったかどうかについて」

「ですがこれはカメムシ=サンの言い分もキークローゼット=サンの主張も妥当です」 39

モバPは適当に議論をまとめる。

元よりキークローゼットに助け舟を出すつもりはない。

「つまりこれは侵入者を誘い入れた内通者が優秀であったということです」

「この者について現在チヒロ=サンから調査を承っておりますので、近いうちにこの調査結果をこの場でお伝えできるかと思います」 40

「……この問題に関してモバP=サンに一任するということに御異議のある方はいますか?」

「「「「「「「異議なし」」」」」」」

チヒロから調査を任されているのであれば彼女の忠実な駒である彼らに異議など出るはずもない。

全員一致で内容を可決した。

そのまま会議はなし崩し的に終了し、解散となった。 41

解散後、キークローゼットは出口へと流れていくプロデューサーの間を縫ってモバPのところへ駆け寄った。

「ドーモ、モバP=サン。先程はすまない」

「ドーモ。礼には及ばない」

モバPはうっそりと言った。

彼は親切心から発言したわけではなく、政治的立ち回りから発言をしたまでのことだ。 42

どこまでも無能なオヌシにはわからないだろうが、とモバPは心の中で付け加えた。

「この後、どうですか?少し飲んでいきませんか?」

「いや、シツレイする。例の調査も進めなければならない」

モバPは素っ気なくキークローゼットの誘いを断って、出口へと向かった。 43

その時、モバPは頭の後ろに目がなければ気が付かなかったであろう。

別れ際のキークローゼットの顔が醜悪に歪み、モバPを憎悪の目で睨みつけていたことを。 44

―――――


 45

【the idolm@ster】

彼がこの先どんな責め苦を与えられるかは知らないが、今まで気ままに振る舞ってきた報いを受けるのだろう。

それを考えるだけでモバPは胸のつかえが降ろされた気になるのだった。

「エー、次に、ヒノ・アカネ担当プロデューサーについて……」 84

会議はまだ続いていたが、自分の成すことを終えたモバPは部屋から退出した。

そこで待っていたのは、あの日サギサワの危機を伝えに来たリボンザムとその上司のワンダフルマジックだった。

「ドーモ、ワンダフルマジック=サン」

「ドーモ。この度はご苦労だった」 85

機先を制してアイサツをすると、ワンダフルマジックはにこやかにモバPを出迎えた。 

「キークローゼットのことは万事任せられよ。チヒロ=サンもレッドショルダーの決定ということであれば決定を覆してとやかく言う事もあるまい」

「それでは、サギサワ・フミカ=サンのことは……」 86

「それも問題なく取り計らおう。本来であれば会議で採決を取るところだが、君に一時預けるという形にしておけば担当を明確にする必要もなく議題に上げる必要もない」

「重ね重ね、ありがとうございます。感謝の極みであります」

「いやいや……またこういうことがあったら、よろしく頼むよ」 87

モバPが深々とオジギをしたその肩に手を置き、ワンダフルマジックは鷹揚な言葉を残して去っていった。

モバPは達成感と同時にある種の苦々しさを感じていた。

サギサワを救い、悪徳プロデューサーを排除した。

代わりにチヒロだけでなくワンダフルマジックからも首輪を付けられてしまった。 88

恐らくこれからはワンダフルマジックからも良いように便利使いされるのであろう。

あの蛇めいて終始笑わずにいた瞳に己の未来が写っているような気がした。

恐らく隣に立つリボンザムも同じように首輪を付けられたのだろう。

視線がすれ違い、お互いに苦笑を交わした。 89

顔見知りゆえの気楽さが、モバPの暗い気持ちを和らげた。

「これからどうする?一杯飲んでいくか?」

「いや、すまない。これから終わらせなければならないものが残っている」

そう、サギサワ・フミカのことで、一番重要な仕事が待っている。

リボンザムと別れたモバPは携帯端末を取り出し、あの男を呼び出した。 90

―――――


 91

コンクリートに形作られ、過剰電飾が彩るこの街にあって季節感を伝えるものは少ない。

風に乗って幽かに届くバイオスズムシの声が、わずかに秋のワビサビを教えてくれる。

モバPは虫の音に耳を澄ませながら、女子寮の屋上でじっと人を待っていた。 92

指定した時刻を大幅に過ぎている。

もう日付も変わろうかという時間だ。

人を待たせるというのは実際シツレイな行為なのだが、モバPは怒ろうとは思わなかった。

今回ばかりは彼らの好きなようにさせなくてはならないのだから。 93

やがて屋上に通じる階段を登ってくる音と共に、元サギサワPが現れた。

その顔は怒りと悲しみによってノウ・オメーンのごとく無表情に固定され、流し尽くした涙で汚れていた。

赤く充血した目から放たれる視線に射抜かれ、モバPは覚悟していた以上に動揺する。 94

「……まずは礼を言わせてもらう」

男は嗄れ声とともにオジギした。

「あのクソ野郎に復讐するチャンスをくれたこと、そして実際にフミカを救ってくれたこと。感謝の言葉もない」

モバPはそれを無言で受け止める。

「……俺に彼女をプロデューサーすることを認めるというのも、信じていいのか?」 95

モバPは先ほど見たサギサワの姿を思い出し、彼女を元のようにプロデュース出来そうにないことを改めて確信していた。

「ああそうだ。私に彼女をプロデュースする力はない」

「それに先ほども言った通り、オヌシが近くにいればあの忌々しいジツの影響から早く抜け出すこともできるだろう」 96

「これからサギサワ=サンをプロデューサーするのはオヌシだ」

モバPが改めて伝えると、男はむせび泣きを始めた。

(涙も枯れるほど流し尽くした後だというのに、よくよく泣く男だ)

モバPは呆れ、今後の方針について伝えるのをやめた。

チヒロに露見しないようにとか、今はそんな気分ではないだろう。 97

男が泣き止むのを待ってから、モバPはふと思いついたように言った。

「そういえば、オヌシのプロデューサーとしての名前を聞いたことがなかったな」

「名前……」

「前のプロダクションで使っていた名前でもいいが……どんなものを使っていたのだ?」 98

男はしばし思案してから首を振った。

「前のやつはやめておこう。縁起が悪いからな」

「ならば、良い名前があるぞ。セルゲームという名前なのだが……」

男はそれに答えず、モバPの隣に立った。

屋上の縁にある落下防止のための手すりによりかかり、遠くを眺めながら言った。 99

「『ブックメーカー』」

「ほう?」

「それを俺の名前ということにしておいてくれ」

「そうか」

そのままモバPも視線を遠くに遣り、男――ブックメーカーと同じ景色を眺めた。

退廃的なまでに糜爛した街の灯は、澄んだ空気の中でいっそう強く輝いているように見えた。100

やがて時計の針が0時を回った。

新しい一日を運んできた秋の風の中で、2人のプロデューサーはいつまでも街を眺めていた。 101

(第一部「ネオプロダクション炎上」より:「ザ・パーフェクト・デイ・フォー・ブックフィッシュ」)

(終わり)

これにてこのSSは終わりです。

なお>>6,7において
モバPが「オヌシ」と呼びかけるところが「お前」となっておりました。

これは担当者の忍殺成分が途切れたためと判断し
担当者をケジメした上で「10月14日発売、物理書籍最新巻『キョート・ヘル・オン・アース(上)』」
を読ませることを決定いたしました。
読者のみなさまに大変に迷惑をお掛けしました。

以上です

プロデューサー名鑑#8【ワンダフルマジック】
シンデレラガールズプロダクション所属。
ウヅキ・シマムラ、シブヤ・リン、ホンダ・ミオの3名のアイドルを担当する。
ヘゴ、メサイア両名のプロデューサーを排除しその担当アイドルを奪った狡猾な闘争者。

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