7月21日

○リビングルーム 早朝

「納豆食べてみる？」

「何それ」

「腐った豆」

そう言って、僕は納豆を箸でかきまぜて見せる。
オルガは糸をひく箸をみて怪訝そうに顔を歪める

「遊んでないで、捨てるべきよ、汚いわ」

僕は意味ありげに微笑んで見せる。
タレと薬味をいれて、ご飯にかける

「ちょっと、それ本当に食べるものなの？」

僕がわざとらしく大きな口を開けて食べるそぶりをすると、
オルガは顔をくしゃくしゃにして眉をひそめ、心配そうな声をだす

アメリカのホームコメディみたいだな、と僕は思う。
何かにつけて、オルガの顔は大げさに反応する。
コロコロ変わる彼女の表情は僕のいたずらごころを刺激する

「これは日本の伝統的なおかずなんだよ。せっかくだから、食べてみなよ」

お茶碗とお箸を渡す。
受け取りながらも、オルガは納豆から目を離せないで固まっている。

ゆっくりと、恐る恐る納豆ご飯を口の前まで運んだところで、動きが止まる。
視線だけ動かして、ジッとオルガが僕を見つめる。

「冗談だよ、っていうなら、今じゃないの？」

早口で、つぶやく様にオルガは僕に問いかける
僕は思わず小さく吹き出してしまう。そのまま微笑んで、無言のまま、どうぞ、と手で促す。

「ネバネバする」

僕はもう笑いを堪える事が出来ない。
オルガは箸を握ったまま僕の肩を思い切りはたく。

「ごめんって」

謝りはするものの笑いを止めることは出来ない
オルガは本当に怒っている。上目遣いで僕を睨みつけてくる。

「吐いてもいい？」

怒りながらも、
オルガは口に入れた食べ物を戻す事には抵抗があるようで、（本当に食べ物なのか半信半疑のようだけど、）判断を僕に委ねる。
僕が謝りながらティッシュを渡すと、とても恥ずかしそうにそっぽを向きながら口の中のものを吐き出すと、洗面所に向かって走っていく。

○

僕が納豆ご飯を食べていると、歯磨きを終えたオルガが戻ってくる。

「信じられないけど、本当に食べ物だったのね」
「日本人でも好き嫌いが別れるけどね」

ソファに寝転がり、両手で小さな顔を支えながら、オルガは納豆ご飯を食べる僕を不思議な生き物か何かのようにまじまじとみつめる。
可愛らしい仕草だと思う。

「腐ってるんでしょ？」
「発酵してるんだよ」

小首を傾げて説明を促すオルガ。

「チーズとかお酒とかピクルスとか、あとほら、スメタナみたいな奴だよ」

納得いかないのか、不満げに納豆に視線を落とすオルガ。

「湿気のせいかしらね」

発言の意図が汲み取れないので、黙って続きを促してみる
僕の表情を見てから、少し考えるような間があって、オルガは続ける

「日本は湿気が多いでしょ？だから、ステンレスみたいに」
「あぁ、腐る前に腐らせとくって？」

オルガは疑わしいげな視線を投げかける

「やっぱり腐ってるの？」
「発酵してるんだよ」

「まぁ、いいけど。……ねぇ、私に息はぁーってしてみて」

僕が食べ終えたと見るやいなや、オルガはニヤニヤしながらそんな事を言う。ので、僕は鼻の前まで口を近づける。思い切り息を吸って、吐きかける。

「くさ～い」

自分でやらせておいて、ケラケラと笑ながら顔を左右に振って嫌がって暴れて見せる。
収まったところで、僕はもう一度オルガの肩を捕まえて息を吐きかける。

「息が、くさ～い！」

とても楽しそうに、足をバタつかせてオルガはソファの上で暴れる。大笑いしている。釣られて僕も笑う。

「あっちいって！歯を磨いてきて！」

返事の代わりに短くもう一度息を吐きかけてから僕は立ち上がる。
オルガは笑い転げている。

○洗面所

僕が歯を磨いていると、廊下からひょっこりと顔だけ覗かせたオルガが鏡に映る

「夜は納豆食べないでね」

振り返ると、彼女はそっと僕の体に擦り寄ってきて真面目な口調でそんな事を言う。

「一緒のお布団で寝られないわ」

僕は歯磨きの泡を軽く吹き出してしまいそうになる。
僕達は普段、一つの布団で寝起きしてるわけじゃないのに
二、三歩歩いてからオルガは振り向いてニヤリと微笑んだ

ステンレスって腐ってるのか？

>>11
ステンレスは錆びないように、既に錆びてる

いいぞ

かわいい

タルパかな？

タルパってメジャーな言葉なのか…？

オルガとアパート

オルガと暮らし始めて変わったこと。

一つは、冷凍庫にアイスを常備するようになったこと。

特に雪見大福がお気に入りのようで、スーパーに行く時は必ず
「おもちだいふく買ってきてね」とおねだりをしてくる。
商品名を間違えて覚えているが、治すつもりはないらしい。
そして、大福餅を買ってくると、とても怒る。

「私のおもちだいふくは、アイスの外にお餅がついてるのよ？知らないの？」


一つは、部屋が片付いたこと。

オルガは整理整頓がとても上手だし、ゴミが出たらすぐに捨ててしまう。

「他人の家みたいだね」

まぁいいのだけど。

一つは、テレビ

オルガはテレビが大好きだ。
夕方のなんの役にも立たない情報番組（例えば、都心のランチの安いお店を紹介したりしてる、全国放送なのに！）なんかを好んで見ている。
僕にはテレビを見る習慣がなかったので、どうにも喧しく感じてしまうのだけど、僕の知らない知識をオルガが持ってる、というのも面白いので、暇な時はなるべくテレビをつけるようになった。

7月22日

◯リビングルーム 夕方

テレビでは、どこかの学生が池の水質調査だか、清掃活動だかをしている様子を映している。
オルガはテレビの前で胡座をかいている。
オルガが胡座をかいていると、何と無くタカアシガニみたいだなと思う。
僕はソファに寝転がりながらそんなオルガを観察している。

「そんなのみて面白いの？」

「今日のはそんなに面白くない」

とは言いながらも、テレビから視線を外そうとはしない。
テレビの光がオルガの顔を青白く照らしている。真剣な横顔はずいぶんと大人びて見える。

「もう少し離れて見なね、目悪くなるよ」

「離れて見るには、この部屋は少し狭すぎると思うけど？」

僕らの住む家は、二人で生活するには実際かなり狭い。
リビングとして使っている一階は六畳しかなく、ロフトも二人分の布団を引くと殆どスペースが余らない。
ただでさえ狭いのに、人が寝転がれる程のソファが一階を圧迫している。

「どうしてこんなに大きなソファを買っちゃったの？」

池のニュースが終わったからか、オルガは僕の足元に腰掛けながら訪ねる。

「タダで貰えたから」

「タダより高い物はない、だっけ？」

「すごいね、諺を知ってるんだ」

オルガはちょっと得意げだ。

「石の上にも三年」

「意味は？」

ちょっと、間があってから、オルガは首を傾げてしまう。
自分でも可笑しいと思ったのか、照れ笑いを浮かべている。

「カメと関係ある？」

そう言ってオルガは僕の上に寝転がる。

「オーリャ、重い」

「重くないでしょ？」

オルガが僕の顔を覗き込む。とても顔が近い。

「重くないけどさぁ」

オルガは褒めるように僕の頭をポンポンとなぜる。
ちょっと生意気なので振り落とそうと暴れてやると、
オルガはケラケラと笑いながら僕の髪の毛にしがみつく。痛い。

「ねぇ、なんでカメは石の上に重なるの？」

「石が狭かったからじゃないかね」

ワザとらしく不機嫌そうな声を出してみるけれど、オルガはかまってくれない。

「あ、わかった。狭いところで暮らすと仲良くなるってこと？」

「試しに上下入れ替わってみる？」

どうして突然亀が、と思ったが、
そう言えば、さっきテレビに石の上に折り重なった亀が写っていたのを思い出す。
くだらない生活情報も、外国人にはいいちょうど良い勉強になるのかもしれない。

「石の上にも三年いれば、石もあったまる。何事も忍耐が大切って意味だよ」

そう言いながら僕は、抵抗するオルガと上下を入れ替える。

「つーぶーれーるー」

殆ど体重をかけていないのだけど、オルガは僕の下で唸る。

「他には何か諺知ってる？」

僕の下からなんとか這い出したオルガは、今度は僕の背中の上に座る。

「お値段以上、ニトリ」

「意味は？」

オルガは僕のお尻をポンと叩く

「お家にあった家具を買いに行きましょう」

いいぞ

酉つけることにしました。
今日はとりあえずココまでです。
他の方のｓｓ見たら、今日はココまでとか書いてるみたのですけど
そういう報告ってあったほうが読みやすいんですか？

あった方が親切かもめ
どっちでも良いよ

あった方が乙と書きやすい。

乙。

レス
あんまり余計なこと書かない方がいいかと遠慮してたのだけど、それなら良かった。

乙

>>28
レス

>>28
レスthx

今日中に更新します

オルガは閉めるのが苦手
ペットボトルのフタも、冷蔵庫のトビラも閉め忘れてたらオルガのせい
開けたらあけっぱなし

シャワーが出しっぱなしになってることもある。

「私が開ける係、あなたが閉める係なの。仕事は平等でしょ？」

さいですか。


オルガは話せるけど、書くのはまだ上手く出来ない。特にタイピング。
最近、ネットゲームを始めたけど、チャットは僕が代わりに打つ。

「noob!よ！エヌ、オー、オー、ビー！noob!今すぐ！」

ゲームをしてる時のオルガはちょっと怖い。
noobぐらい自分で打てばいいのに。


オルガは飽きっぽい。
コップになみなみとジュースをついで、
一口二口飲んで飽きてしまうらしくて、その辺にほったらかす。

「あとで、飲もうと思ってるの」

と、言い訳をする風でもないから、そのつもりなのだろうけれど。
僕が飲み干してしまっても、別段気にする素振りもなくコップを洗いに行ってしまうので、持て余してしていたのだろうと思う。

その上で、

「男の人って、どうしてほんの流しまでなのに、片付けられないのかしらね」

と、わざとらしく、母親のような口調で小言を言ってみたりする。
誰の母親の真似なのかは知らないけれど。

7月23日

○アパートの廊下
何処の部屋からか音楽が聞こえてる。
その部屋の住人に、少し注意しなければならないなと足を運ぶ。
まぁ、僕の部屋からなのだけれど。


○リビング

「オルガ音大き過ぎだよ、外まで聞こえてる」

オルガはソファの上に立って全身を揺らしている。

「ごめんね、楽しくなっちゃった」

悪びれる様子もなく、オルガは爽やかな笑顔で言ってのける。
ため息で返事をして、僕はiTunesの音量を下げる。

「キャッチして！」

言うが早いか、オルガはソファから僕めがけて飛び付いてくる。今日のオルガは随分と、ゴキゲンだ。
しがみつくオルガを間髪いれずソファに投げ捨てる。
お腹から墜落して、低く呻いたかと思えば、今度は堪えるように笑いだす。
音楽は、オルガをちょっとおかしくする。

「オルガ、住めなくなっちゃうよ」

「お引越しするの？」

「お引越ししたくないの」

僕は言いながら、オルガの髪の毛をくしゃくしゃにしてやる。オルガの柔らかい髪。

期待

「空はこんなに青いのに。私は音楽も聞けないの？」

空はこんなに青いのに。
最近、オルガが気に入っている言い回しだ。
こんな気持ちのいい日には、気持ちのいい事をしたいでしょ？というのがオルガの理屈。

残念ながら、否定しかねる。
僕も常識人ではないのだ。全くもって。

窓の外ではセミが煩い。

「ここは楽園だな」

「私がいるから？」

この手の冗談が義務かのように、おざなりにオルガは言う
そして、ソファに寝転がったまま僕の買ってきたスーパーの袋を漁る。

「オルガもいるし、何よりエアコンが効いてる」

見つけたパピコを無言で僕に差し出すオルガ
半分に割れということなのだろう。
オルガの横着は堂にいっている。

「あ、この曲、前にライブでコピーしたわ」

ソファに腰掛けて、ドラム替わりにオルガをパピコで叩く。

「食べ物で遊んだらダメなんでしょ」

ふふふ、と笑ながら、パピコを一つひったくり、オルガはソファから逃げ出す。

「ドラムも叩けるの？」

曲に合わせて、ソファを叩く僕をみながら、オルガはたどたどしく真似して両手を振っている

「教えてあげようか」

オルガはパピコを加えながら頷くと、僕の隣に腰を掛ける。

「右手はこう1.2.3.4.5.6.7.8、1.2.3.4.5.6.7.8.って、ずっと動かして、左手は3.7の時だけ、こう。まずは手だけやってみて」

「1.2.3.4.5.6.7.8.1.2.3.4.5.6.7.8、あれ？出来てない？」

眉間にシワを寄せて小首をかしげるオルガを尻目に、僕は買ってきた食材を冷蔵庫へ片付けにむかう。

「1.2.3.4.5.6.7.8.1.2.3……ねぇー、私これ出来てるの？」

「出来てないよ」

唇を尖らせるオルガ。パピコはテーブルで忘れ去られている。

「1.2.3.4.5.6.7.8.1.2、……あれ？ねぇなんでー？」

タイトルをつけるなら、陸で溺れてる人、だな
と笑いそうになったけど、口に出すのはやめておいた。
こういう時にからかうと、オルガはとても拗ねる

「お昼、ソーメンでいい？」

「冷やし中華ー」

下手くそなロボットダンスにも似てるな、と思う。
ばれない様に僕はひっそりと吹き出す

○リビング

「ちょっとは出来るようになった？」

お箸でからになった食器を軽く叩きながら、オルガに尋ねる。


「考えたのだけどね。」



そこで言葉を切って、オルガは真剣な顔で続ける


「楽器を出来なくても、私は音楽は楽しめるわ。歌ったり踊ったりするの。」

「ふむ」


僕もオルガに合わせて真剣な話を聞くかのようにして頷く。
　

「音楽だって、私が楽器を出来なくても、たくさんあるし、困らないでしょ？」


考えながら喋っているのか、オルガの理屈は迷走していく。
なんの動きなのかわからないジェスチャーが余計に迷走っぷりを誇張している。
半ばオルガもわざとやってるようだ。


「飽きちゃったの？」



芝居がかったため息をついて

「練習しないでも楽しい方が、練習したら楽しいより、楽しいでしょ？それだけよ」


そういってオルガはiTunesを起動して、大音量で音楽を流す。


すると、
ドスン、と壁から低い音が響く
どうもお隣さんは昨晩、夜勤仕事だったらしい。



一瞬、二人して動きが止まって、顔を見合わせる


「楽園追放かしら？」

「アップルのせいでね」


オルガはやれやれのポーズをとる。

今日はここまでです。

乙

おつです
最後うまいな

>>33
>>38
>>39

レスどうも。

今回のラストは楽園追放、アップルうんぬんって掛け合いが出来てから、わかりづらいかと思って途中をiTuneって言葉に書き直したんですけど、
若干わざとらし過ぎて言葉が浮いてる気もします
こういう言葉選びは正解がわからないですね

うっかりとか無意識とか、衝動的な行動をオルガのせいって事にして、逃避してるのか