脳内少女観測日記 (42)

オルガと日々

彼女の名前はオルガ。愛称はオーリャ、時々オーニャ。
小さくて、白くて、柔らかい髪をしている。
彼女は生まれたばかりで、年は10歳前後。
少し芝居がかった口調は、洋画の吹き替えで日本語を覚えたから。
ああ本当に、目にいれても痛くないくらい可愛い。
けど目には映らない。
彼女の名前はオルガ。
可愛いオルガ、愛しのオーリャ。
彼女は僕の頭の中に住んでいるの。

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7月21日

○リビングルーム 早朝

「納豆食べてみる?」

「何それ」

「腐った豆」

そう言って、僕は納豆を箸でかきまぜて見せる。
オルガは糸をひく箸をみて怪訝そうに顔を歪める

「遊んでないで、捨てるべきよ、汚いわ」

僕は意味ありげに微笑んで見せる。
タレと薬味をいれて、ご飯にかける

「ちょっと、それ本当に食べるものなの?」

僕がわざとらしく大きな口を開けて食べるそぶりをすると、
オルガは顔をくしゃくしゃにして眉をひそめ、心配そうな声をだす

アメリカのホームコメディみたいだな、と僕は思う。
何かにつけて、オルガの顔は大げさに反応する。
コロコロ変わる彼女の表情は僕のいたずらごころを刺激する

「これは日本の伝統的なおかずなんだよ。せっかくだから、食べてみなよ」

お茶碗とお箸を渡す。
受け取りながらも、オルガは納豆から目を離せないで固まっている。

ゆっくりと、恐る恐る納豆ご飯を口の前まで運んだところで、動きが止まる。
視線だけ動かして、ジッとオルガが僕を見つめる。

「冗談だよ、っていうなら、今じゃないの?」

早口で、つぶやく様にオルガは僕に問いかける
僕は思わず小さく吹き出してしまう。そのまま微笑んで、無言のまま、どうぞ、と手で促す。

「ネバネバする」

僕はもう笑いを堪える事が出来ない。
オルガは箸を握ったまま僕の肩を思い切りはたく。

「ごめんって」

謝りはするものの笑いを止めることは出来ない
オルガは本当に怒っている。上目遣いで僕を睨みつけてくる。

「吐いてもいい?」

怒りながらも、
オルガは口に入れた食べ物を戻す事には抵抗があるようで、(本当に食べ物なのか半信半疑のようだけど、)判断を僕に委ねる。
僕が謝りながらティッシュを渡すと、とても恥ずかしそうにそっぽを向きながら口の中のものを吐き出すと、洗面所に向かって走っていく。




僕が納豆ご飯を食べていると、歯磨きを終えたオルガが戻ってくる。

「信じられないけど、本当に食べ物だったのね」
「日本人でも好き嫌いが別れるけどね」

ソファに寝転がり、両手で小さな顔を支えながら、オルガは納豆ご飯を食べる僕を不思議な生き物か何かのようにまじまじとみつめる。
可愛らしい仕草だと思う。

「腐ってるんでしょ?」
「発酵してるんだよ」

小首を傾げて説明を促すオルガ。

「チーズとかお酒とかピクルスとか、あとほら、スメタナみたいな奴だよ」

納得いかないのか、不満げに納豆に視線を落とすオルガ。

「湿気のせいかしらね」

発言の意図が汲み取れないので、黙って続きを促してみる
僕の表情を見てから、少し考えるような間があって、オルガは続ける

「日本は湿気が多いでしょ?だから、ステンレスみたいに」
「あぁ、腐る前に腐らせとくって?」

オルガは疑わしいげな視線を投げかける

「やっぱり腐ってるの?」
「発酵してるんだよ」

「まぁ、いいけど。……ねぇ、私に息はぁーってしてみて」

僕が食べ終えたと見るやいなや、オルガはニヤニヤしながらそんな事を言う。ので、僕は鼻の前まで口を近づける。思い切り息を吸って、吐きかける。

「くさ~い」

自分でやらせておいて、ケラケラと笑ながら顔を左右に振って嫌がって暴れて見せる。
収まったところで、僕はもう一度オルガの肩を捕まえて息を吐きかける。

「息が、くさ~い!」

とても楽しそうに、足をバタつかせてオルガはソファの上で暴れる。大笑いしている。釣られて僕も笑う。

「あっちいって!歯を磨いてきて!」

返事の代わりに短くもう一度息を吐きかけてから僕は立ち上がる。
オルガは笑い転げている。

○洗面所

僕が歯を磨いていると、廊下からひょっこりと顔だけ覗かせたオルガが鏡に映る

「夜は納豆食べないでね」

振り返ると、彼女はそっと僕の体に擦り寄ってきて真面目な口調でそんな事を言う。

「一緒のお布団で寝られないわ」

僕は歯磨きの泡を軽く吹き出してしまいそうになる。
僕達は普段、一つの布団で寝起きしてるわけじゃないのに
二、三歩歩いてからオルガは振り向いてニヤリと微笑んだ

ステンレスって腐ってるのか?

>>11
ステンレスは錆びないように、既に錆びてる

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