勇者「戦士くんとウチ」(27)
勇者「戦士くん、戦士くん」
戦士「どうしましたか?勇者殿」
勇者「どうやったら戦士くんみたいに強くなれるん?」
戦士「自分は強くありませんよ」
戦士「魔法も使えませんし、力が少しあるというだけで」
戦士「勇者殿の方がよっぽどお強いです」
勇者「そんなことあらへん」
勇者「戦士くん強いで、ウチが保証する」
勇者「だから、ウチにも秘訣教えて欲しいんよ」
戦士「いや、秘訣なんてそんな……」
勇者「ウチももっと鍛えようかな」
戦士「い、いけません」
勇者「なんで?」
戦士「それは……」
勇者「理由、教えてくれな気になるやろ」
戦士「……勇者殿は今がベストです」
戦士「力は自分に任せて、魔法や戦略をよろしくお願いします」
勇者「えー、ウチそんなに頭良うないよ?」
勇者「身体使う方が得意やし」
戦士「……でも、あまり筋肉を付けすぎると、折角の美貌が損なわれます」
勇者「び、美貌て何なん!?」
勇者「いくらなんでも言い過ぎやって」
戦士「…自分の率直な感想です」
勇者「あ、あはは、戦士くん口上手いなぁ」
勇者「あんまりからかわれると、本気にしてまうよ?」
勇者「ウチ馬鹿やもん」
戦士「……事実は事実です」
戦士「勇者殿は、人々の支えになるお方」
戦士「生まれ持つ美しさを保つのも、勇者殿の務め」
戦士「ともかく、お気をつけ下さい」
勇者「……ウチ、可愛い?」
戦士「……自分はそう思います」
勇者「そ、そっかぁ」
勇者「えへへ」
勇者「戦士くん、戦士くん」
戦士「何でしょうか」
勇者「ウチの洗濯物、どこにあるか知らん?」
戦士「そこに干しておきました」
戦士「そろそろ乾いたでしょうし、取り込んでおいて下さい」
勇者「…あ、あの」
戦士「何ですか?」
勇者「どれが一番好みやった?」
戦士「どれが、と申されましても」
勇者「洗ったやろ?ウチの下着」
勇者「どうやった?」
戦士「…あまり意識していませんでした」
勇者「じゃあ、今見て決めてぇや」
戦士「……それでは、真ん中のものですかね」
勇者「そう?地味やない?」
戦士「あまり派手な物は品位に関わります」
戦士「勇者殿は清楚なイメージですので」
勇者「そんなん、ただのイメージやろ」
勇者「ウチは戦士くんの好みが聞きたいんよ」
戦士「…自分は右が良いと思います」
勇者「赤?」
戦士「明るい色の方が、勇者殿には似合うでしょう」
戦士「勇者殿に似合うものが、自分の好みですから」
勇者「そ、そうなん?」
戦士「さあ、早く支度して先を急ぎましょう」
勇者「あ、まだ話は終わってへんのに!」
勇者「戦士くん、これ見て」
戦士「禍々しい剣ですね」
戦士「どうしたのですか?」
勇者「さっきそこに刺さってたんよ、」
勇者「強そうやし、装備してみよ思てんけど」
戦士「やめておきましょう」
戦士「見るからに怪しいです」
勇者「戦士くん、何事も見た目で判断したらあかんで」
勇者「この子もきっと、そのせいで苦労してきたはずや」
戦士「……いくらなんでも、その剣が普通ではないことくらい分かりますよ」
戦士「明らかにこの辺りの刃は、持った時に自分を斬ることになりますし」
勇者「でも、かっこええやん」
戦士「勇者殿が傷だらけになるのを看過するわけにはいきません」
戦士「どうか、その剣は元の所に戻して下さい」
勇者「……嫌や!」
戦士「そう言わずに」
勇者「……じゃあ、もっとかっこいい剣、後で買うてくれる?」
戦士「一緒に探しますよ」
勇者「買うてくれなきゃ嫌」
戦士「……わかりました」
戦士「ですが、高すぎるものはダメですよ」
勇者「わーい、やったで」
勇者「そんじゃ、戻してくる!」
戦士「……勇者殿のことになると、自分はまだまだ甘いな」
戦士「勇者殿」
勇者「ん?どないしたん?」
戦士「今日はあまり食が進んでいないようですが」
戦士「お体の具合が悪いのですか?」
勇者「そ、そんなことあらへんよ?」
勇者「ちょっと食欲ないだけやって」
戦士「しかし、いつもはおかわりまでするのに……」
勇者「う、ウチもお年頃やねん!ほっといて」
戦士「あ、勇者殿!」
戦士「行ってしまわれた…」
戦士「また、何か粗相をしてしまったのだろうか」
勇者「……言えるわけないやん」
勇者「今日ベルトがキツくなってたなんて」
勇者「…はぁ、最近モンスターと戦わへんかったもんなぁ」
勇者「戦士くんが頑張りすぎなんよ、もう」
勇者「…とにかく、バレる前に戻さな」
勇者「戦士くんも太い子は嫌やろうし」
勇者「にしても、細かすぎるで」
勇者「ちょっと食べる量減らしただけやのに」
勇者「……でも、そんだけ見てくれてるってことやんな」
勇者「……戻ろう、心配させたらあかんし」
勇者「戦士くん」
戦士「何ですか?勇者殿」
勇者「この近く村、モンスターの被害で野菜とかやられて大変みたいなんよ」
勇者「進路ズレてまうけど……」
戦士「…いいですよ」
戦士「必要な寄り道でしょう」
戦士「勇者殿のそういう所、自分は好きです」
勇者「すっ……!」
戦士「ど、どうしたんですか?」
戦士「往来でよろけると危ないですよ」
勇者「誰のせいやと思うとるん……」
勇者「と、とにかく早速向かうで」
戦士「は、はい」
勇者「……良かったな、なんとか解決できて」
戦士「モンスターの方も、言うことを聞いてくれましたし、上々でしょう」
戦士「勇者殿のその力は、精霊のお導きですね」
勇者「そんな特別なもんとちゃうて」
勇者「戦士くんもやってみればええねん」
戦士「自分には出来ませんよ」
勇者「やってみたん?」
戦士「…実は以前試してみたことが」
戦士「残念ながら、噛みつかれてしまいました」
勇者「そっかぁ」
勇者「今度コツ、教えたげるわ」
戦士「よろしくお願いします」
勇者「ふふ」
勇者「戦士くーん」
戦士「どうされました、勇者殿」
勇者「空見てみ?」
戦士「…満天の星空ですね」
勇者「綺麗やろ」
勇者「この地方来てから、なんや星がよう見えてな」
勇者「一緒に見いひん?」
戦士「御一緒します」
勇者「ほら、隣寝そべった方が楽やで」
戦士「それでは、失礼して……」
戦士「何と言うか、圧倒されてしまいますね」
勇者「昔はな」
勇者「どこでもこのくらいは見えとったんやって」
勇者「でも、最近は街から出る煙とかで見えにくくなったらしいんよ」
勇者「それ聞いたら、モンスターよりも人間のが悪者なんちゃうか?って思うねんな」
勇者「そうしたら、ウチのやってることって、なんなんやろ」
戦士「……勇者殿はモンスターの気持ちが分かるから、そういう考え方が出来るのです」
戦士「それは、とても素晴らしいことだと自分は思います」
戦士「勇者殿は、勇者殿の思うままでいれば良いのです」
戦士「自分は、それにお供するだけですから」
勇者「……くくっ、答えになってへんやん」
戦士「答えなんて出ませんよ」
戦士「出せるとすれば、それは勇者殿だけです」
戦士「自分は、それを尊重します」
勇者「…それじゃ、聞いた意味ないやんか」
戦士「すみません、お役に立てなくて」
勇者「…ううん」
勇者「そんかわり、最後までついて来てな?」
勇者「途中で居なくなったらダメやで?」
戦士「もちろんです」
戦士「この命尽きるまで、共にいると誓いましょう」
勇者「プロポーズみたいやな」
戦士「そうですか?」
勇者「あんまり他の人に言ったらあかんで?」
戦士「…こんなこと、勇者殿にしか言えませんよ」
戦士「勇者殿」
勇者「ん?何?」
戦士「城の兵が手合わせしたいと申しております」
戦士「いかがいたしましょうか」
勇者「ウチと?」
戦士「はい」
戦士「恐らく、箔を付けたいのでしょう」
勇者「ふーん」
勇者「戦士くんはどう思う?」
戦士「本気をだされては、兵士の士気に関わるでしょう」
戦士「適度に揉んでやるのがよろしいかと」
勇者「ふふふ、ほんならやったろか」
勇者「勝ったら腕枕やで」
戦士「仰せのままに」
勇者「よっしゃ、負けへんで!」
戦士「勇者殿」
勇者「はい」
戦士「やり過ぎです」
戦士「何も兵士長まで叩きのめさずとも良かったのではありませんか?」
勇者「いや、こいつらあんまりにも弱いから」
勇者「ちょっと活いれたろう思っただけやねん」
勇者「ウチのせいちゃうもん」
戦士「……言い訳をする前に、言うべきことがあるでしょう」
勇者「……知らん」
戦士「勇者殿?」
勇者「……ああもう、言えばええんやろ、言えば!」
勇者「…ごめんなさい」
戦士「よろしい」
勇者「戦士くん、戦士くん」
戦士「引っ張らなくてもついて行きますよ」
勇者「もっと早くせな、売り切れてまうよ」
勇者「一日百個限定なんやし、時間との勝負やん」
戦士「わ、分かってますから」
戦士「ほら、列があります」
戦士「並びましょう」
勇者「うー、買えるかなぁ」
戦士(勇者殿もまだまだ子供だな)
戦士(色気より食い気、まあ元気であれば良いのだが)
戦士(しかし、最近とみに成長なされて)
戦士(自分も気を抜けば……)
勇者「戦士くん、後ろの人詰まっちゃってるから」
戦士「し、失礼しました」
勇者「んふふ、買えた買えた」
勇者「甘い、美味い、最高」
勇者「そっちのはどうなん?」
戦士「やはり、自分には甘過ぎますね」
戦士「勇者殿、これもどうぞ」
勇者「ええの?それじゃ遠慮なく」
勇者「うまうま」
戦士(……無邪気なものだ)
戦士(本来は、こちらの顔が勇者殿なのだろうな)
勇者「ん?やっぱり食べたいん?」
戦士「いえ」
戦士「それより、頬にクリームがついていますよ」
勇者「じ、自分で取れるからええて…」
戦士「じっとしていて下さい、すぐに取れますから」
勇者「……また子供扱いするし」
戦士「ははは、自分にとっては、まだまだ…」
勇者「ううー、今に見とれよ…」
勇者「こう、もっと色気ムンムンになったるからな」
戦士「はいはい、期待していますよ」
勇者「軽くあしらわれると傷付くわぁ」
戦士「ははは」
勇者「ぬぐぐ」
勇者「戦士くん」
戦士「はい?」
勇者「旅が終わったら、ウチのこと貰ってくれな?」
戦士「その時に考えます」
勇者「そこは二つ返事ちゃうのん?」
戦士「適当に応えられる願いとも思えませんが」
勇者「お固いなぁ」
戦士「まあ、将来のことですからね」
勇者「ウチじゃ不足なん?」
戦士「とんでもない」
戦士「むしろ、自分には勿体無いです」
勇者「勿体無いって何や」
勇者「飾っといたら腐ってまうで?」
戦士「それでは、早く世界を平和にしなければなりませんね」
勇者「くぅっ、そうやってはぐらかすし」
戦士「はは、その時になれば、きちんとお応えしますよ」
戦士「……自分の正直な気持ちでね」
勇者「今ならどうかでもええんよ?」
戦士「いいえ、お教えできません」
勇者「けちけちせんで、ほら」
戦士「……お断りします」
勇者「あ、待たんか、コラ!」
おしまい
次は、少し長めにする予定。というか、今までのを絡める予定。毎日完結が夢です。
それでは。
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