少女「マッチ、マッチはいりませんか?」(56)

ある大晦日。街は雪一色。
その街にマッチを売る一人の色白で美しい少女がいました。
しかし貧乏なのでしょうか。服装が小汚い感じがしています。


少女「マッチ、マッチはいりませんか?」

しかし誰もマッチを買おうとはしません。

少女「このマッチを全部売らなければお父さんに叱られちゃう……」

少女は必死にマッチを売ろうとします。

少女「あの…、マッチは……?」

男「いらん。」

少女「はぁ………」ガッカリ

少女「マッチいりませんか?」

中年女「マッチなんていらないわ!」

少女「あう………」

次第に空も暗くなり寒さも一層酷くなっていきました。

少女「さむいよ………」フルフル


薄いスカートをはいているのでしょうか少女は凍えています。

少女「マッチはいかがですかぁ?」

しかし人々は大晦日ということもあり少女には目もくれずただただ通り過ぎるだけでした。


少女「全然売れないよー、どうしよう……。」

少女「寒い………」フルフル

少女の目から一筋の涙が零れました。

少女「マッチが全然売れない……、どうして………。」

少女は悲しみにくれました。

ふと家の中を見ると暖かそうにしている家族の姿が目に飛び込んできました。

少女「私も………あんなふうに………」

少女は商売道具であるマッチを一本火を点けました。

少女「暖かい………」

彼女の顔から笑みが浮かびました。
しかしマッチの火は簡単に消えてしまいました。


少女「あー………消えちゃった……。」

少女「じゃあもう一本……」ボッ

少女「暖かい………」

しかしまたマッチの火は簡単に消えてしまいます。
何度も何度もマッチの火を点けるごとに歩いている人たちは気味悪がれ足早に歩いてしまいました。

少女「ああ……もう真っ暗……」フルフル

少女「人………通ってない……」

少女「お腹もペコペコだし寒いよ………」


少女はハーと息を吹きかけました。

少女「やっぱり寒いから白い………」ガタガタ

夜も更けると誰一人歩いている人がいません。
少女の足は寒さにより感覚が麻痺してしまいました。

そしてとうとう座り込んでしまいました。

少女「マッチ……、マッチ……」ブルブル

少女「長時間立ちっぱなしはやっぱりきつい………」シュン

少女「なんか目の前がぼやけてきたのかも……」

そこに偶然若い青年が少女の前を通りかかりました。
しかし少女は気づきません。


青年「浮浪者かなぁ……?それにしても若い女性のようだ……。」

青年「あのー………?」


青年は少女に呼びかけてみました。
しかし少女はボーとしているせいか気づきません。

少女「………」ブルブル

青年「(震えている……?)」

青年「このマフラー、かけてあげるね。」

青年は少女に優しくマフラーをかけると少女は我に返りびっくりします。

少女「え?あ、あなたは?」

青年「ただの青年だけども、君こそ何してるの?」

少女「マッチを売ってるんです……」

青年「そうなんだ……」

少女「でも売れないんです……」


少女は悲しみます。

青年「まあ今日は大晦日だからねえ。正月の準備もあるんだし…。」

少女「そうですよね……。」

青年「だからもう家に帰ったほうがいいよ?」

少女「マッチ全部売らないとお父さんに叱られちゃうんです……」シュン

青年「そ、そっか………」

少女「あの………もしよければ………」

青年「ん?」

少女「マッチを買っていただけませんか?」

青年「あ、ごめん……。俺雑貨屋でマッチ買ってきたんだ………。」

少女「そうですか……」ガックリ

少女の目からは涙が溢れ出てきてしまいました。

少女「あの……マフラー貸してくれてありがとうございました……」

青年「あ、いや………うん………」

少女「少し体も暖まりましたので……」

青年「いや………」

少女「ありがとうございました。」ペコリ

青年「あ、ああ………」


青年は何かを言いたそうにしながら去って行ってしまいました。

少女「はあ……、マッチ売れると思ったのに……」ガッカリ

少女は落胆した顔は隠せません。

しばらくボーとしていると1人の男が話しかけてきました。


中年男「ねえねえ姉ちゃん、何してるの?」

少女「え…?あ…、マッチを売ってるんです……」

中年男「マッチね……」


その男は何やら少女の体を見るなり嫌な目つきをします。
少女は少し不安な表情になっていきました。

少女「あ、あの買ってくれますか……?」

中年男「もちろん買ってあげるよ。」

少女「本当ですか?」

中年男「君の体をね……。」

少女「え…………?」

中年男「君娼婦なんだよね?」

少女「い、いや、違います……」

中年男「否定するんじゃないよ、1人でここで待ってるてことは気持ちいいことをするためだろう。」

少女「本当に違うんです……」

中年男「静かにしてくれないかねえ?」

少女「や、やめてください………」ジタバタ


少女は必死に抵抗を試みます。
しかし、男の力と寒さによる衰弱によりあっさりとねじ伏せられてしまいました。

中年男「静かにしてくれたら痛いことしないからね?」ニヤ

少女「!!」

中年男「ふふふ………」

少女「(だ、誰か助けて……… 涙)」


男は少女を抱えるとどこかへと消えてしまいました。

その2,3分後でした。
青年がさっきまで少女がいた場所に戻ってきました。


青年「はぁ…はぁ……」

青年「あれ?あの娘はどこに行った?」

青年「せっかく暖かい服を持ってきたのに……」

青年「仕方ない、帰るか……。ん?」

青年は少女の商売道具であるマッチの入った籠を見つけました。


青年「これは……あの娘のマッチ……」

青年「でもこれを置いて行くだろうか………?」

青年「父親に叱られるくらいならこれは置いて行かないよなあ………」

青年「あれ?」

青年は下を見ると足跡に気づきました。


青年「俺がいない間に誰か来たのか………」

青年「この足跡を急いで追うか……」

雪が降る中、足跡が消えないうちに青年は足跡の行方を追いました。


青年「はあ…はあ……まだこの足跡は続いている……」

青年「マッチが入った籠と自分も持ち物を持って走るとは思わなかった……」

青年は急いで走ります。
すると、とある一軒の建物で足跡は途絶えました。
中は真っ暗です。


青年「仕方ないやるっきゃないだろ………」

青年は意を決して中に入ることにしました。

青年「(気がつかれないように………)」

青年「(ほ、本当にここであってるのかな………?)」

青年「(早く捜さねば………む……?)」


青年は奥の部屋に動く影らしいものを見つけました。

少女「や、やめて………」ジタバタ

中年男「いやもいやも嬉しそうに、ふふふ」モミモミ

青年「!!」

少女「胸を揉まないで……」ジタバタ

中年男「しかしいい上玉じゃないか。」モミモミ

青年「………」

少女「い、いやあ!」

中年男「こんなでかい胸をして……、俺に襲われるのが嬉しかったんだろう?」

少女「ち、違います………」

中年男「キスしようよ、チューしよう」

少女「嫌です!!お願いします……」

中年男「おやおや、君は処女か?」

少女「えぐ……えぐ……」

中年男「ということは今キスすればファーストキスも………ふひひひひ」

中年男「王子様といいことしましょうね~」チュー

少女「いやあああああああああッッッ!!!」

青年「………」バゴーン

中年男「ぎゃあああッッ!!」

少女「え?」

中年男「てめえ、何するんだ!!」

青年「………」バゴーン

中年男「ぐわああああッッッ!!!」

少女「ひいいぃぃ!!」

中年男「」プルプル


青年は鍋で中年男の頭を殴りました。
2度殴ったために中年男は気を失ってしまいました。

青年「………」

少女「ひ、ひ、ひ………」ガタガタ

青年「………」カランコロンカラン

少女「ひぃい!!」


青年は鍋を床に捨てました。
しかし少女はフードを被った男が青年だとわかりません。
自分もまた襲った男のように殴られ挙句の果てに殺されるのだと思ったのでしょう。

少女「あ、あ、あの………」ガタガタ

青年「ふう………」パサッ

少女「………!!」

青年「大丈夫だったか?大事な商売道具も持ってきたぞ?」

少女「うええええええん!!!!」ガシッ


少女は青年の姿に安心したのか大粒の涙を流しながら抱きつきました。

少女「怖かったよー!!」エグエグ

青年「そっか………。でも助かってよかったな。」

少女「うん………。ぐすっ………」

青年「すごい寒かっただろう。服着せるね。」

少女「あ、はい………。ありがとうございます。」

青年「動けたりできる?」

少女「そ、それが………。」


少女はしもやけをしていました。

青年「ちょっと酷いね。温めないと」

少女「う、うん。」

青年「お腹すいてないかい?」

少女「うん……、今日何も食べてないから……」

青年「パン1個しか持ってないけども食べながらしもやけを治すね」

少女「本当にありがとう……」


少女のしもやけを治すと青年はおんぶして気絶した男を放置して外へと出て行きました。

青年「ふう寒い……、本当に冷えるね……。」

少女「うん………。でも青年さんの温もりを感じてるから私はそうでもないよ?」

青年「もうすぐ年越しちゃうね……」

少女「そうだね……」

青年「家まで送ろうか?」

少女「うーうん。帰りたくない……。」

青年「どうして?」

少女「だってマッチ売れなかったから……」

青年「だったら俺のところに泊まるか?」

少女「いいんですか?」

青年「外に放り出すわけにもいかないからな。」

少女「それもそうですね」クス

青年「しっかし1人きりで歩く大晦日より2人で歩く大晦日のほうがいいよね」

少女「そうですね。でも私はおんぶされちゃってますけどね」クス

青年「そうだね。」

青年と少女は微笑みあいます。
大晦日の夜にあった1つ奇跡。
そして青年の部屋で年を迎え、2人はそこで1つになりました。
こうして2人は幸せな夜を過ごしましたとさ。



しかし問題はその後に起こったのです。

翌朝、少女の家───

少女父「おい、ガキ。どういうことだ?」

青年「え、ですから…昨日は少女さんを自分の家に泊めまして……。」

少女「………」

少女父「ほうそうか。よくも大事な娘をきずものにしてくれたなあ…」

青年「す、すみません!」

少女父「少女、お前マッチを売れって言ったよな?」

少女「は、はい……。」

少女父「それがマッチは売れもせず処女を売るとはどういうことだ!!」

少女「売ってません!」

少女父「そうか、この男に無理やり犯されたということか!」

少女「違います!」

青年「僕が少女さんが襲われていたところを助け出したんです!」

少女父「嘘をつくな!」


2人は少女の家に行くなり、少女の父に叱られてしまいました。
嫁入り前の娘です。父親は娘が可愛かったんでしょう。

少女母「あなた……」

少女父「お前は出てくるな!重病人のくせにとっとと寝てろ!」

少女母「どこの誰でしたっけ…。」

少女父「ん?」

少女母「お互い一目惚れして、その日のうちに私の処女を奪ってそのまま駆け落ちしたおばかさんは…」

少女父「お前!!」

少女「///」カアァ

青年「………」

少女母「少女」

少女「はい!」

少女母「あなたは私たちの子です。」

少女「」コクリ

少女母「好きな人ができたら猪突猛進でいってしまうタイプです。」

少女「なのかな……?」

少女父「ちょっと母さん。」

少女母「あなたはちょっと黙ってて」

少女父「はい」ショボーン

少女母「そもそもこのご時世でマッチが簡単に売れると思わないでください!」

少女父「はい」

少女母「そもそもあなたにはちゃんと働いてもらわないと困ります!」

少女父「本当にすみません……」

少女母「私に内職ばかりさせた罰ですからね!」

少女父「これからは働きます………」

少女母「よろしい」

青年「………(彼女のお母さんは敵に回してはいけないタイプみたいだな)」

少女母「さて…、少女自分の好きな人にはそのまま素直にぶつけていきなさい」

少女「は、はい!」

少女母「そして青年さん」

青年「はい」

少女母「娘をよろしくお願いします。」

青年「い、いえ、こちらこそお願い致します」

少女「///」ドキドキ

少女父「少女~、行かないでくれ~」

少女母「あなた、いい加減子離れしてくださいね!」

少女父「はい………」ショボーン

少女「もうお父さんったら…」

青年「あはは」

少女母「少女、お幸せに」

少女「うん!」


こうして少女と青年は出会ってすぐに結婚へと運びとなりました。
待っているのはどんなものなのでしょう。
それはまだ誰も知らないのです。

雪降る大晦日の夜がもたらした奇跡。
それは2人の心をグッと寄せたものなんでしょう。

おしまい

~エピローグ~

大晦日の出会いからちょうど20年後の大晦日───

あの少女ももう35歳。
青年も40歳になりました。

少女⇒人妻「次女ちゃん、マッチ売りに行きましょうね!」

次女「えー、なんで?」

人妻「だって、長女ちゃんもそれでカッコイイお婿さんをゲットしたのよ?」

次女「それはわかってるんだけど……、なんでこんな寒い日に出ないといけないの?」

人妻「それが我が家代々伝わる習慣なんだから~」ニコッ

次女「もうパパからも言ってよ……」

青年「パパは何も関知しません……」

次女「もうパパったら……。」

人妻「あー、なんて幸せなんでしょう?」ナデナデ

青年「うんそうだね。子供作り過ぎたんだけど…」

人妻「あなたー、お腹の子また女の子がいいなあ」

青年「俺は男の子でも女の子でもいいと思うけどなあ。」

人妻「せっかく女の子7人いるんだからもう1人女の子が生まれても罰は当たらないわ~」

青年「もうすぐ10人目の子供が産まれるのか~。」

人妻「ということで次女ちゃん、マッチ売りのほうお願いね?」

次女「もうママったら………」ガックリ

人妻「だって私たちのように幸せになってほしいんだからね!」ギュ

青年「おいおい!」


蛙の子は蛙とはよく言ったものです。
この後次女がどうなったかはまた別のお話。

本当に本当におしまい


本当に血は争えないみたいですね。

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