俺「うさぎにつの……ってなんだ?」 (31)
俺はその日、いつも通りネットサーフィンをしていた。
俺「……」カチカチ
俺「……」カチカチ
俺「おっ……新しいSS上がってる」
俺「……ふふっ、これ面白いな」
俺「……」カチカチ
俺「……」
俺「……ん?」
目についたのは、俺がちょうど読んでいたSSのキャラのセリフだった。
男『兎に角、事態は一刻を争う』
俺「……は?」
俺「……?」
俺「うさぎに……つの?」
俺「うさぎにつの……ってなんだ?」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1409878583
俺「ネットで調べてもさっぱり出てこなかった。どういう意味だろ?」
俺「こういう時には友人に聞いてみよう」ピポパ
俺「おい! おいコラ! もしもし!? もしもし!?」
友『時計を見ろ、今何時だ』
俺「6時だけど」
友『そんな時間に電話よこすなって何度言ったら分かるんだよ!? で、なに?』
俺「今ネットで『うさぎにつの』っていう言葉を見つけたんだけど、これなんなの?」
友『アホかお前は。そんなことで電話よこすなよ! いいか、もうかけてくるなよ!』
ガチャン、ツーツーツー
俺「うさぎにつの、うさぎにつの……」
その日、結局『うさぎにつの』の意味はまったく分からなかった。
俺「ったく、冷たいやつだなー。亀にエサでもやろ」
『うさぎにつの』について考えるのも飽きてしまったので、俺は家で飼ってる亀の『ひーすけ』にエサをやることにした。
俺「あれ? ひーすけ?」
ひーすけの様子がおかしい。いや、様子がおかしいというか見た目がおかしい。
俺「なんだこれ、カビか?」
俺「え? うわ、うわ、カ、カーちゃーん! ひーすけが!」
ひーすけに毛が生えていたのだ。
カーチャン「そんなに驚いてなにどーしたの」
俺「ひ、ひーすけに、け、け、毛が!! 毛が生えてるんだよ!」
カーチャン「……」
俺「あ、あれ? カーチャン?」
カーチャン「なにいってんの」
俺「お、驚かないのかよ」
カーチャン「まぁ、ね。次からはもっと捻った冗談を考えるんだね」
俺「じょ、冗談?」
カーチャン「今晩は冷やし中華作るからね。野菜切ってた途中なんだから、つまんないことで呼び出さないでちょうだい」
俺「え? え?」
カーチャン「ったく……」
カーチャン「当たり前のこと言ってどうするんだか」
俺は何だか変な気分になって、友人に再び電話することにした。
俺「おい! おいコラ! もしもし!? もしもし!?」
友『その呼び出し方やめろ。なんだよ一日に何回も』
俺「変なことあったらすぐ電話しろって言ったのお前だよな!?」
友『で、要件はなんだよ。手短に。あんまり長いこと電話できないからな』
俺「あ、そうだそうだ。えーっと」
俺「なんだっけ?」
友『……』
俺「い、いや、ごめん。忘れちゃったわ。なーんかあった気がするんだけど」
俺「そういうことってよくあるよな。いや、なんというか、ホントごめん。どうでもいいことで電話かけちゃって」
俺「いや、ゴメンゴメン。電話切るな……じゃ」
友『ちょっと待て』
友『俺と付き合わないか?』
俺「えっ///」
俺「なに? お前から話すとか珍しいね。どうしたn」
友『あのさ、お前。本当に話したいことを『忘れた』のか? 早く答えてくれ』
俺「え? は? いや、俺はただ……」
友『本当に『忘れたから言えない』のか? それとも『自分の感じたことが間違っているかもしれないから言わない』のか? どっちだ』
俺「ええと……それは……」
友「おい! 早く言えよ! 早く丞峙縺励↑縺�枚蟄隱ュ言わㇾ䵷ないと」
友人の電話にノイズが入り始める。俺はこの時に自分がどんな状況に置かれているのか知るべきだったし、それを友人に話しておくべきだった。今となってはどうしようもないことだが。
俺「いや、でも、俺が間違ってるかもしれないし」
友『だから/≠{〉@⊇◯ヮ もしイチ・c・・l優ト2Iゥ?掛?兎角亀毛挌??/ル・??饗なら』
俺「え? なに!? 聞こえない!」
友『お前・ア・箙キ[の友人として言うけ・]1ニ3オL・・どな! 自分の正しいと思ったことは絶対に忘れるnヨK・惚ラテ絎・』
ツーツーツー
俺「あれ、切れちゃった」
俺「はぁ、今日何だか知らんが疲れたな。明日は学校だ、早く寝よ」
俺「……」
俺「……」
俺「……」
俺「さっき電話かけてきたやつ誰なんだろ」
朝起きるとやけに俺の頭はすっきりしていた。雨も降っているし、外は暗い。
俺「いい天気だ」
窓を閉めて電気を消す。少しまぶしいくらいがちょうどいい。
俺「ひーすけおはよう」
ひーすけ「よう、元気してるか?」
俺「おう、今日は天気もいいし早起きもできたから、学校行ってくるわ」
ひーすけ「よう、元気してるか?」
やっと伸びてきたひーすけの毛は身体を覆い、綺麗な紫色になっていた。
俺「いってきまーす」
ウサギに角…一角ウサギ?
教師「我が国は云々」
同級生「なるほどなるほど。よって敵国軍は云々」
俺「はぇー、すっごい……」ボー
教師「おい、貴様! 聞いているのか!」
俺「アッハイ」
教師「全く貴様という奴は。そもそもこの国に生まれてきた言うことは、貴様が清く正しい○○国男児として云々」
俺(つまんねー授業だな……いつものことだけど)
俺達の住んでる国が隣の国といがみ合いを続けて30年程。開戦秒読みで、我が高校でも志願兵を募っていた
らしい。そのことをなぜか俺は知らなかった。昨日まではそんなことにはなってなかった気もするが、みんながそうだというのならそうなのだろう。
教師「次の授業は体育だ。着替えた後、速やかにグラウンドに集合しろ。いいな!」
「「「「はいっ!」」」」ビシッ
俺(うわっ!)
俺以外の生徒は、教師の声に立ち上がり敬礼した。俺も遅れて立ち上がるがもう遅い。
教師「おい、貴様!」
俺「は、はい……」
教師「後で職員室。いいな」
――職員室
俺「失礼します。先生いらっしゃいますか?」
教師たち「ひそひそ……軍の教えに従わない非国民ですって……」
俺(なんだこれ……なんだこれ……)
教師たち「ひそひそ……これは……ひそひそ……最前線に送られ……ひそひそ」
俺(ひそひそ話しているのに重要なことばっかり聞こえるんだが)
教師「おい、こっちだ」
俺(最前線? そんなところに送られたら絶対死ぬ!)
教師「早く来い!」
俺(嫌だ、嫌だぞ、そんなの! まだなんやかんややり残したことがあるんだ!)
俺は逃げ出した。校舎内の作りが変になっていていたが気にしない。兎に角、今は外に出――
俺「られませんでした」
校内は罠だらけ。俺は知らぬ間に袋小路に入ってしまった。
教師「よくも逃げたな! 憲兵殿、こいつを懲罰房へ」
憲兵「ええ。オラ! 立て!」
俺を囲むのは10人ほどの憲兵。最早、逃げる気力もなく校舎地下にある懲罰房へ引きずらて行くしかなかった。
俺(あれ? 校内に地下なんて……)
俺「そもそも懲罰房って……」
憲兵「何を言うかこの非国民! 校舎の地下には懲罰房があるものだろう!!」
教師「バカか貴様は! 精神的矯正指導が必要なようだな!」
俺(誰か助けてくれ……)
勿論誰も助けてはくれなかった。
俺(身体中いてぇ……鼻なんか折れてるんじゃないの……?)
何時間たったのだろうか。暗い牢屋の中、時間の感覚はもうない。『指導』という名の拷問は、俺の考える力をどんどん奪っていくような気がした。
俺(……あれ?)
俺(俺ってさ)
俺(『こうなって』から自分の考えを言ったことってあったっけ?)
突然耳鳴りが始まった。
俺「うっ、うあっ、うううううううううう!!」
吐き気のする雑音。それは俺が『考えた』瞬間、それを邪魔する為に鳴りだしたようだ。
俺(俺に、考えて欲しくないってことか?)
『自分の正しいと思ったことは絶対に忘れるnヨK・惚ラテ絎・』
俺(誰の声だ?)
俺(自分の正しいと思ったことは絶対に忘れる? そこから先がよく聞こえないから分からない)
俺(自分の正しいと思ったこと? 俺が忘れている……?)
俺(そんなものあるのか? 耳鳴りも止んできたし、少し考えてみるか)
俺が忘れている自分の正しいと思ったこと。それを考えていると憲兵がやってきた。
憲兵「おい貴様。喜べ」
俺「は、はい?」
憲兵「お前の出国予定日が決まったぞ、明日だ。晴れて国ために戦えるのだ。喜べ」
俺「そんな……」
俺(俺が正しいと思ったこと……正しいと思ったこと……)
憲兵「喜べと言っている」
『自分の正しいと思ったことは絶対に忘れるnヨK・惚ラテ絎・』
俺(またこの声かよ)
『自分の正しいと思ったことは絶対に忘れるnヨK・惚ラテ絎』
俺(聞いたことはあるんだけど、誰だか思い出せなかったこの声。さっきより雑音がなくなっている?)
憲兵「おい、貴様! 聞いているのか!?」
『自分の正しいと思ったことは絶対に忘れるn』
俺(……ああ、そうか)
憲兵「おい!」
『自分の正しいと思ったことは絶対に忘れるな』
俺(周りに流されて自分の思ったことが言えなかったんだ。せっかく『お前』が大事なことを教えてくれていたことにやっと気づけたよ)
友『お前の友人として言うけどな! 自分の正しいと思ったことは絶対に忘れるな!』
俺(ありがとう、そんでごめん。友達のお前のことを忘れてて)
憲兵「おい、貴様。よっぽど死にたいようだな」
憲兵が俺に向けた銃口。
俺「こんなのありえない」
憲兵「何を言っている。気でも触れたか非国民」
俺「あのさ」
俺「超展開すぎるんだよ、そもそも」
憲兵「は?」
俺「まずなんで学校の地下に牢屋があるんだよ。まず、学校に地下がある時点でおかしいだろ」
憲兵「馬鹿が! 我が国では反乱分子を捕縛し、その精神を矯正するために学校の校舎に地下を作り懲罰房を設けたことは誰もが知っているはずd」
俺「俺は知らない」
憲兵「え?」
俺「俺は知らない」
俺「知らないよ、そんなこと」
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