男「見舞いに来たぞ」 女「…うん」 (24)

男「見るも無残な姿だな」

女「・・茶化しに来たならけぇれ」

男「冗談だよ。これコージーコーナーのシュークリームな」

女「お、おぉ…」

男「治ってからだぞ」

女「わ、わかってる…ふぅ」

男「熱どうなんだ」

女「さっき38.3度」

男「まだまだ辛そうだな」

女「うん・・」

女(35歳)

男「まぁ今日ずっと寝てれば熱も覚めるだろ。薬とかは?」

女「飲んだ・・」

男「その他食事とか…」

女「おかゆ食べたし・・冷えピタも張り替えたし・・汗もふいたし・・もうとこについて1時間たった・・」

男「そういうことは万端なのな」

女「うん・・」

女(田嶋陽子似)

女「・・ふぅ」

男「やることやったなら俺は邪魔だろ?もう帰っていいか?」

女「見舞いって・・」

男「ん?」

女「見舞いって・・お菓子届けるだけでつとまるのか?」

男「あーん?」

女「見舞いって・・憎まれ口叩いて、とりあえず物を釣るだけで・・済むことなの・・」

男「つまり?」

女「もうちょっといて」

男(素直じゃないな)

男「じゃあ、うつらない程度に。これ読んでいい?」

女「うん・・」

男「親御さんは?仕事か?」

女「お父さんは仕事で・・お母さんはパート」

男「共働きか。一人くらいいてくれればいいのにな」

女「・・いてくれたよ」

男「そうなの?」

女「深夜に・・熱出して辛くなったとき・・二人共側にいてくれた・・」

男「そうか」

女「後は治るの待つだけだから・・大丈夫って・・言ったから・・」

男(強がりなやつ)

女「ふぅ・・・」

男(寝てしまえばこっそり帰れるんだけどなぁ)

女「昨日じっくり泥のように眠ったから、眠くない・・」

男「話し相手が欲しかったとか?」

女「そう・・」

男「何話したらいいものやら。俺最近健康だからな、似たような体験はご無沙汰よ」

女「男は・・」

男「あん?」

女「男は・・孤独じゃない?」

男「いきなりなんだよ。家族はいるし友達だっているし、別に孤独じゃないぞ」

女「家族も友達もいても・・時々自分って孤独なんじゃないかって思うとき・・ある」

男「それって被害もう…ああいや、悪く取りすぎじゃないか?本当に友達すらいないボッチもいるじゃん」

女「友達と会話してても・・自分の気持ちがなかったり・・家族と会話してても・・うまく気持ちが伝わらなかったり・・」

男「…」

女「傍から見れば・・仲良く見えるけど、あたしの心は・・どこか他人と合わなくて・・すれ違ってて・・」

男「うーん」

女「そういうとき、孤独なんじゃないかって・・思う」

男(熱のせいかナイーブになってんかな)

女「人って、大体は表面的に付き合うじゃん・・?」

男「まぁ、本音ばっかりだと喧嘩になるしな」

女「遠慮なくなんでも言い合ってたら、自分のことを押し付けてるようじゃん・・?」

男「対応に困るよな」

女「でもそれって、抑えすぎると・・自分の本音なんか二の次で・・その場作りの建前にならない?」

男「否定はしないけど」

女「そんなことばっかり繰り返して・・・孤独じゃないって・・・言えるかな」

男「俺はな」

女「うん?」

男「こだわりがある」

女「そう・・」

男「俺のこだわりに反したり、もしくはそぐわない場合は、そこは本音だろうとも言い返すぞ」

女「それってさ・・やっぱり自分の押し付けなんじゃ・・」

男「押し付けだ。だがそれの何が悪い」

女「・・・」

男「人間なんてのはな、自分で意識してようとしてなかろうと、自分の価値観を押し付けあってるんだよ」

女「・・・」

男「お前のその…孤独論?それもお前の価値観の押し付けになってるんじゃないか?」

女「そうだけどさ・・」

男「それが悪いわけじゃないし、言うなとも言わんよ。だから、そこまで気張らないでいいと思うのよ」

女「うん・・・あ」

男「なんだ?」

女「ちょっと着替える・・少し出てって」

男「はいはい」

男「もういいか」

女「うん…」

男「まぁなんだ、風邪で調子悪いときに偉そうなこと言ったけど」

女「うん・・?」

男「いいんじゃない、別に」

女「いいの?」

男「少なくとも俺には、いいんじゃね」

女「本人のお墨付き?」

男「そういうこと」

女「ばーか」

男「バカって言うなよ」

女「あーほ」

男「一緒だろ・・・」

女「その漫画さ・・」

男「これか?」

女「作者がすごい体弱くてさ・・何度も休載して、何年もたってるのに・・それしか出てないんだ」

男「ふーん、あ、一巻10年前じゃん。最新刊4巻て」

女「年数がたってるから、1巻ごとに絵柄もすごい変わってるし、出版も遅すぎるし・・読者としてははがゆいっていうか・・」

男「昔から読んでるのか」

女「連載当時からのふぁん・・」

男「そうかい」

女「でもね・・話の大筋は全然ぶれてなくてね・・」

男「まぁ、うん」

女「作者が読者に伝えたいこと、ずっと同じでさ・・」

男「うん」

女「あたしが死ぬのと、その本が完結するの、どっちが早いかはわかんないけど」

男(それ以前に作者大丈夫なのかよ)

女「出なくなるまでは、読んでたいな・・」

男「そうだな。そうすればいいんじゃね」

女「ふぅ・・」

男「話まくって疲れたろ。寝ちまえば?」

女「・・眠くない」

男「そうかいっ」

男「ああそうだ、お前が休んでる間のノート」

女「ん・・・」

男「俺が書いたわけじゃないけど、ほれ」

女「あんがと・・うあああ、なんで数学」

男「お前が専攻してるからじゃないの」

女「うーー、もう、勉強遅れるし一人だし辛いし、病気なんてさいあくだよー」

男「だから、さっさと治せばいいんよ」

女「自分の意志で治せたら苦労しない・・」

男「テレビつけていいかー?」

女「いいけど・・」

男「…ん、この時間帯にテレビ観ないから、なんか新鮮だな」

女「この芸人嫌い・・」

男「そりゃまたなんで」

女「Twitterやってないから」

男「理不尽な理由だな」

男「あれ、このロケ地隣駅じゃん」

女「あたしらのガッコ・・一応県庁所在地だし・・」

男「あ、この居酒屋、前打ち上げで言ったな」

女「未成年のくせに・・」

男「顧問がいたし、誰も飲んでないから」

女「顧問も?」

男「車だったし。飲みてーとは言ってたけどさ。あ、ここのラーメン屋たまに食いたくなるんだよなー」

女「・・・・・」

男「結局楽しんでしまった…ん?」

女「くぅ・・・くぅ・・・」

男「寝ちまったか。番組もようやく終わったし、帰らせてもらうかな」

女「お・・男」

男「…、寝言か」

女「あんた・・うぅん・・あたしに・・え、え」

男(なんだよ)

女「エロいことしても・・後悔しか・・しないぞぉぉ~・・・ぐぅ」

男(しねぇよ)

女「そういうわけで風邪は治ったが」

女「なんだろう、男が少しだけ馴れ馴れしい態度を取るようになった」

女「見舞いに来てくれたのはありがたいが、あんときあたしは何を話したんだろうか」

女「ん?なにこのノート」

女「え?男が風邪ひいた?前の見舞いのお返しで渡してこい?」

女「まったく…世話の焼けるやつだ」

女「…コージーコーナーのドーナツでも買ってってやるか」

女「これで貸し借り0だな」

おわり

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