幼女「ふぇぇ…私の前に道はない、私の後ろに道ができるんだよぉ…」(42)

ここは大陸で一番豊かな国。

民は活気に満ち溢れていて、みんな笑顔。

でも最近は少し困りごとがあって……。

~お城~

王様「ええい! うっとうしい盗賊団め!」ドンッ

宰相「へ、陛下。お気をお沈め下さい」

王様「しかし姫が誘拐されかけたのだぞ! あの悪党どもめ…近隣の村々にも多大な被害が出ておる! 何とか手を打たねばなるまいぞ!」

宰相「お、お任せを! わたくしが頼りになる者を呼び寄せております。その者に任せれば万事抜かりはございません!」

王様「おお、それはまことか! いや、しかし相手は百からなる盗賊団。ただの一人ではあまりにも頼りない」

宰相「ご安心を。その者、稀にみる豪の者でございます! 一度拳を振るえば人が紙のように飛び、また呪文を唱えれば山が音をたてて崩れるのです!」

王様「なんと! それは頼もしい! さ、さっそくその者をわしの前に連れてくるのだ!」

宰相「はっ! おい! ヨウジョどのをお連れしろ!」

使用人1「はい!」

使用人2「ヨウジョさま、どうぞこちらです」

幼女「ふえぇ…知らない人がいっぱいだよぉ…」スタスタ…

王様「……なに?」

幼女「ふえぇ…ヨウジョ・フエェ・コワイヨーだよぉ…。ご拝謁の栄誉に預かり恐悦至極なんだよぉ…」

王様「……この者は?」

宰相「はっ、北では竜の化身とも称される勇士、ヨウジョどのでございます」

幼女「ふえぇ…懐かしい名なんだよぉ…」

王様「むう、これ娘、そのような小さい身なりで、まことにあの恐ろしい盗賊どもと戦うつもりか?」

幼女「お任せ下さいなんだよぉ…必ずやお城の門前に百の首を並べてご覧に入れるんだよぉ…」

王様「ほほう! よし、わしはその方に盗賊団の討伐を命ず! 必ずや先の言葉を現実のものとするのだ!」

幼女「御意なんだよぉ…」

~お城の廊下~

幼女「……」スタスタ

王子「おや?」

王子「やぁ小さなレディ。本日はどのようなご用件でこちらへ?」

幼女「ふえぇ…お初にお目にかかるんだよぉ殿下…」スッ

王子「やぁ、美しい礼だ」

王子「とんだ失礼を。どうやら君はすでに立派な淑女のようだな。フィアンセが居ないのなら王太子妃の席が空いているんだけど?」

幼女「お戯れをなんだよぉ…」

~応接間~

王子「なんだって! それじゃあ君は、本当にあの恐ろしい盗賊団のアジトに攻め込むっていうのか!?」

幼女「御意なんだよぉ…」

王子「信じられない! こんなことがあっていいはずがない! 父上はこの子を殺すつもりか!」

幼女「ふえぇ…殿下はたかが烏合の衆如きにわたしが負けるとお思いですか、なんだよぉ…」

王子「当然だ! 君のような、本来なら僕たち男が守るべきか弱い存在を戦場へ駆り出すなんて!」

幼女「女子供では戦士は務まらないと? なんだよぉ…」

王子「貶しているわけじゃない! しかしそれがさだめだ!」

幼女「……」フッ

幼女「運命がカードを混ぜ、我々が勝負する」

王子「!」

幼女「性別や体格など手持ちのカードの一枚に過ぎない…」クルッ

スタスタ… ガチャッ

幼女「いつだって勝敗を決めるのは当事者自身。だから負けを運命のせいにした者は…カードの切り方を忘れた者は、今後も負け続ける」

幼女「……ふえぇ…それでは失礼するんだよぉ…」パタン

王子「……」

王子「運命は…」

王子「ただ、カードを混ぜるだけ…か…」

エルフで似たような奴やってた?

>>8
やってない
ネタ被ってる?

~お城の門~

従者「くそ! くそ! 何でよりにもよってこの俺が!」

従者「王都の軍人は遊んで暮らせるって聞いたから入隊したのに! こんなのあんまりだ!」

従者「くそー! 盗賊団の討伐だなんてー!」

幼女「ふえぇ…それはわたしのお務めのはずなんだよぉ…」

従者「うわっ! って、子供か…」ドキドキ

幼女「ヨウジョ・フエェ・コワイヨーだよぉ…」

従者「あ、あなた様が! 失礼致しました! わたくし、王国軍第三大隊所属、アニマル隊あひる組、ジューシャでございます!」ビシッ

従者「此度、ヨウジョ様の大任の一助となるべく軍を代表して推参致しました! なんなりとお申し付け下さい!」

幼女「ふえぇ…よろしくなんだよぉ…」

従者「いやぁ。しかし驚きました。陛下から直々に盗賊団討伐の任を授かった北の勇士と聞き及んでいたものですから、まさかこのように可憐な方とは…」

幼女「可憐だなんて…恥ずかしいんだよぉ…」テレテレ

従者「ははは(マジでただの餓鬼だな。こりゃ扱いやすそうでいいや。とっとと任務失敗ってことにして帰ろ。この子もそっち方がいいだろ)」

従者「それでヨウジョちゃん、これから盗賊団の──」ヒュパッ

従者「……」タラッ

従者「……え、頬…切られ…え?」

幼女「ふえぇ…仮とはいえ、上官に対して敬意を持たぬ豚は必要ないんだよぉ…」ギラリ

従者「し、しつれっ、失礼致しました上官どの!!」ビシッ

幼女「ふえぇ…元気いっぱいだよぉ…」

~王都~

幼女「まずはお馬さん屋さんに行くんだよぉ…」

従者「はっ! ご案内いたします!」

幼女「ふえぇ…黒くておっきいのがいいんだよぉ…」トコトコ

ドンッ

幼女「……」ドサッ

少年「イテッ! てめぇ、前見て歩きやがれ!」スタスタ

従者「……だ、大丈夫ですか?」ドキドキ

幼女「ふえぇ…痛いんだよぉ…」

従者「あの……何分子供のしたことです。勘弁してやってください」

幼女「ふえぇ…もうやっちゃったよぉ…」

従者「えぇ!?」バッ

少年「……」スタスタ

従者「……?」

幼女「それよりお馬さんだよぉ…」

従者「あ、こ、こちらです!」

~王都の郊外~

従者「馬二頭、首尾よく手に入れられましたね」

幼女「なによりなんだよぉ…」ポンポン

黒馬「ヒヒーン」ブルル…

従者「……そいつ、店主が誰にも懐かない暴れ馬って言ってましたよね。現に俺には見向きもしないのに…」

幼女「それだけ賢い子なんだよぉ…」

従者「はぁ。しかし何でこの場で待機なんです? …あ、なるほど。これで討伐には行った、という態をとる訳ですね。ここでしばらく時間を潰してから、王都へ戻ると」

幼女「ふえぇ…惰弱者の言葉を聞いてると耳が腐っちゃうよぉ…」

従者「ぐっ…じゃ、じゃあ何故こんなところで…」

少年「あー! てめぇ! やっとみつけた!」タッタッタッタ

従者「さっきの餓鬼…?」

少年「お前だろ! 俺の財布をスッたの!」

幼女「ふえぇ…そうだよぉ…」ゴソゴソ

ジャラ…

従者「ええ!?」

少年「返せ! このコソ泥野郎!」ダッ

ブンッ

幼女「先にわたしの持ち物に手を出してきたのはそっちだよぉ…」スルリ

少年「う…、わ!」ドサッ

幼女「ふえぇ…痛そうだよぉ…」

少年「か、返せ! それは妹の薬代なんだ!」バッ

幼女「どうせスリで手に入れた汚いお金なんだよぉ…」スルリ

少年「ぐっ!」ドサッ

幼女「こんなお金で買ったお薬なんかで助かっても、きっと妹さんも嬉しくないよぉ…安らかに逝かせてあげるべきだよぉ…」

少年「ふざけんな! テメェには関係ねぇだろ! 返せ!」

従者「そ、そうですよ。家族助けるのに盗んだ金とか関係ないです。返してやりましょう? ね?」

幼女「……」

幼女「ふえぇ…」ポイ

少年「うわ、ととと…」パシッ

従者「ほっ」

少年「くそ、焦らせやがって。こんなにアッサリ返すなら最初からやるなよな…」

幼女「他に目的があったんだよぉ…」

幼女「それにしても……そんなはした金でお目当てのお薬が買えるのか、心配だよぉ…」

少年「中を見たのか! 盗ってないだろうな!」

幼女「はした金と言ったはずだよぉ…一夜にして大金を得られる目途のあるわたしには石ころ程度の価値しかないよぉ…」

少年「!」

幼女「ふえぇ…目の色が変わったよぉ…」

少年「……儲け話があるのか?」

幼女「ふえぇ…」

少年「最初からそれを聞かせるつもりで俺をおびき寄せたんだな?」

従者「え、そうだったんですか?」

幼女「ふえぇ…」

少年「聞くだけ聞いてやるよ。話せ」

幼女「ふえぇ…ジューシャ、説明してあげてなんだよぉ…」

従者「え。あ、はい」

少年「盗賊百人の討伐!?」

幼女「報酬は思いのままなんだよぉ…」

少年「お前ら二人でか!? 正気か!?」

従者「やっぱり正気の沙汰じゃないよなぁ…」

幼女「囮役があと一人いれば楽になるんだよぉ…」

従者「お、囮役!?」

少年「楽になるって…あんた、百人の武装集団相手に本気で勝てるつもりでいるのか?」

幼女「ふえぇ…あなたこそ、本気で妹さんを救うつもりでいるのか疑問なんだよぉ…」

少年「な、なに!?」

幼女「あのお財布の中には色んな国のお金が混ざりあっていたんだよぉ…手段はスリだとして、不特定多数の旅人相手に小金を稼いでいた証拠だよぉ…」

少年「それがどうした!」

幼女「賢いやり方だよぉ…流れの人間なら遺恨は残りにくいんだよぉ…それに旅慣れした者なら「見せ」の財布を盗られた程度で別段騒ぎ立てはしないんだよぉ…」

幼女「ふえぇ…なぜ、今回はいつものように「見せ」の財布を盗ろうとしなかったの?」

少年「……ちっ」

幼女「私の姿を見て、汲みやすそうだと思ったから? 王城から出てくるのを見て、金を持っていると思ったから?」

少年「……」

幼女「妹さんのお薬代が、早急に必要になったから?」

少年「……っ」

幼女「図星だよぉ…」

従者「(こえー)」

少年「……そうだよ。妹の病気の進行が早い…今すぐ大金がいるんだ。それには…いままでの稼ぎじゃ絶対おっつかない。アンタみたいな身分のある人間の持ってる、金貨が必要なんだ」

幼女「ふえぇ…目的のためなら命を捨てる…その目が気に入ったんだよぉ…ぜひ討伐隊に加わって欲しいよぉ…」

少年「馬鹿か! 何でもやるっつっても盗賊退治よりもっと割の良い仕事はあらぁ! 俺が死んだら妹は助からねぇんだよ!」

従者「だよなぁ…」

幼女「それならあなたの命を妹さんの薬代で買うんだよぉ…」

少年「なに!?」

幼女「あなたが頷けば、今この時点で妹さんの生命は保障されるんだよぉ…」

少年「……」

幼女「さぁ、自分の命と妹さんの命……天秤にかけるんだよぉ…」

少年「……くっ」

少年「(天秤になんてかけるまでもない。妹が大切に決まってる……でも、この話を受ければ俺は確実に死んじまうだろう)」

少年「(もしかしたら、俺も妹も助かる道がまだあるのかもしれない…)」

少年「(でもやっぱり、このままスリを続けて薬を買える保障なんてどこにもないんだ。「もしかしたら」じゃない。ここで俺が死ねば、引き換えに妹は……妹だけは絶対に助かる!)」

少年「(日和ってる場合じゃねぇだろ! こんなチャンスが、二度も来る訳がない!)」キッ

少年「……薬が先だ。これが飲めないなら話は受けない」

幼女「ふえぇ…二人目の部下、ゲットだよぉ…」

従者「不憫な…」

~街道~

少年「うう…グスッ…助かってよかった…!」グシグシ

従者「良かったなぁ。でも妹さんに何も言わないで出てきちまってよかったのか?」

少年「ああ。今から死にに行く、なんて言ったら良くなるもんもらなねぇよ」

従者「……そうか」

幼女「ふえぇ…」

従者「……」チッ

ツンツン

少年「ん? なんだよ」

従者「心配すんな。お前は俺がちゃんと家に帰してやるからよ」コソコソ

少年「はぁ? 盗賊百人相手に勝てるわけねーだろ」

従者「馬鹿。何も勇者様とご一緒に死ぬこたねぇんだ。状況を見て逃げればいいだけの話だろ?」コソコソ

少年「……でも俺、この人に命売っちまったし…」チラッ

幼女「……」

従者「真面目な奴だな。よく考えて見ろよ、今ここでお前が死んだら、誰が一番悲しむと思ってんだ。妹さんだろ? 妹さんのためにも生きればいい。お前にはその資格があるよ」コソコソ

従者「お前の為じゃない。妹さんの為に逃げるんだ。これも一つの勇気だぜ」コソコソ

少年「……あいつの為に…」

少年「……いや。やっぱり俺はやめとくよ」

従者「は、はぁ? 何でだよ」

少年「恩があるってのもある。逃げたくないって気持ちも。でもそれよりも……これ以上自分の価値を下げたくないんだ」

幼女「……」

従者「自分の、価値…?」

少年「ああ。俺の命の価値は今、妹の薬代の金貨一枚分しかねぇ。当然さ……さっきそいつで自分を売っぱらっちまったんだからな」

少年「……納得できねぇよ。この先十年も生きれば、俺は必ずこの何百倍も価値のある男になってるはずだったんだから…」

従者「だから逃げようって──」

少年「でも、盗賊と戦って死ぬことに金貨一枚の価値があるのなら、そこから逃げた俺には、その金貨一枚分の価値すらなくなっちまう」

従者「!」

少年「そんな惨めな思いは……ゴメンだぜ…!」

従者「な、なんだよ。じゃあ俺は金一枚以下の男ってことか? 冗談じゃねぇぞ。こちとら軍から給金を頂いてる身だ。半年も働けば金貨なんてすぐだぜ?」

少年「違ぇよ。なんつーか……俺には命よりも大切なものが二つあった。一つは妹。これをあの人に助けて貰ったんだ。だから二つ目の信念を、恩返しがてら貫こうっていう……ま、それだけの話さ」

幼女「……」クスッ

少年「あんたは命よりも大切なものが別にあるから、その為に逃げるんだろ?」

従者「!! …あ、ああ」

少年「だったら俺と変らない。あんたの命の価値は、まだ誰にも計れねぇよ」


~村~

幼女「ふえぇ…日が暮れてきたんだよぉ…今日はこの村でお休みするんだよぉ…」

幼女「明日、早朝に盗賊団のアジトへ攻め込むんだよぉ…二人とも良く食べて良く寝るんだよぉ…」

少年「はぁ…最後の晩餐か…」

従者「……」

幼女「ふえぇ…お返事が聞こえないんだよぉ…」

従者「ひゃっ、はいっ!」

幼女「それでいいんだよぉ…」

~宿屋~

女将「はい、たーんと召し上がれ」

ズラッ…

従者「……」

少年「……」

幼女「いただきますなんだよぉ…」カチャッ

バクバクバク モグモグモグ

幼女「ふえぇ…おいしいんだよぉ…」ゴックン

従者「うっぷ…」

少年「俺、このシチューだけでいいや…」

~食後~

幼女「腹八分目なんだよぉ…」フキフキ

従者「あの量を全部食いやがった…」

少年「ありえねー……」

幼女「それじゃあお休みなさいなんだよぉ…二人とも夜更かしはしないよう気を付けるんだよぉ…」ガタッ

少年「いやいや作戦とかどうすんだよ! 明日の朝だろ、俺たちの集団自殺はよ!」

幼女「ふえぇ…作戦はごくシンプルなものだから明日教えるんだよぉ…それに今具体的に戦いのことを考えると、二人とも眠れなくなっちゃうんだよぉ…」

少年「そ、それにしたって武器の扱いとかさぁ…! まさか無手で殺し合えって訳じゃないんだろ!?」

幼女「ふえぇ…はい、これ…」スッ

少年「は? コレあんたの剣だろ? あんたはどうすんだよ」

幼女「寝るんだよぉ…」スタスタ

少年「あ、おい! 俺だけに戦わせる気かよ!」

バタン

少年「~~っ、クソ!」

従者「(あーあ、だから言わんこっちゃない)」

従者「(何が命の価値だか。こりゃこいつも金貨一枚男決定だな)」ケラケラ

従者「(……って、何がこいつも、だよ。俺は違うだろうが…)」チッ

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