モノクロナイト(9)

――――――――――

剣士「…………ぐっ…!」ガシャ

魔王「……こんなものか。女神の切り札とやらも」

魔王「だが、その魂の器の大きさと力は目を瞠るものがある……」

魔王(ここで殺してしまうには惜しいな。まだどこかで使い所があるかもしれん)

剣士「………………」

魔王「どれ……お前は生かしてやろう。ただし、記憶と力を封じてな……」

魔王「いずれ私が必要とする時まで暗闇の中で生きているが良い」

―――――――――――

鬱蒼とした森の中で一人の男が目を覚ました。

(………………)

男には記憶が無かった。

在ったのは自身の存在と、

(……これは、剣?)

ひとふりの白銀の剣のみだった。

(…………何も……思い出せない)

開拓暦102年――

人間達が全てを司る素の”マナ”の溢れる大地を発見し、開拓を始めて一世紀。

その大地にあるとある町に一人の旅人が訪れた。

剣士「………………」

柄の悪い男「よォよォ待ちなァ! お前、旅人か?」

柄の悪い男「知らないようだから教えてやるよ。この町に入るには通行料が必要なんだよ」

剣士「……生憎、物乞いにくれてやる金は無い」

柄の悪い男「………………」チョイ

柄の悪い男の合図で物陰から数人の男達がそれぞれ武器を持って現れる。

剣士「…………」

柄の悪い男「おまえら、みぐるみ剥がれンのがご所望だってよ」

――

――

剣士(開拓地は盗賊が多いな)

柄の悪い男「ゲゲ……」

剣士(この町で何か……記憶の手がかりがみつかるといいんだが)

数人の追いはぎを一人であしらった剣士であった。

その姿を影から見ていた者が一人……

「………………」

剣士は数日その町で過ごしたが、目当ての結果は得る事ができなかった。

こうして記憶が無い剣士はあての無い旅を続けている。

始めに目を覚ました大陸を歩きつくし、その後この開拓地がある大陸へと渡ってきたのであった。

剣士(いろんな人が集まる開拓地なら、俺を知っている人の一人くらいはいると思ったんだけどな)

剣士(これでいくつ町を巡ったんだろう……。全く、当てが外れたのか)

剣士(もうこの町にも用は無いな)

何かを決めたら行動がはやい剣士だった。

もう日が傾きはじめていた時間だったが、すぐに次の町を目指して歩きだす。

「待ちなァ!」

剣士「…………」

柄の悪い男「へへへ……、この前の借りを返しにきたぜ」

剣士「貸したつもりの無い借りを勝手に作る奴は嫌いだ」

柄の悪い男「調子に乗ってンじゃあねぇッ! こいつを見ろ!」

少女「きゃああああ! たすけて!」

剣士「…………」

柄の悪い男「分かるな? このガキは人質だ。人質を傷つけられたくなかったら、素直に言う事を聞くんだな」

剣士「名前の知らないような他人が人質になるとでも?」

柄の悪い男「さぁな……、だが。そんなことは試してみりゃあ分かるぜ」

柄の悪い男は片腕に抱える少女に、もう片方の手に持ったナイフを近づける。

剣士「…………!」

柄の悪い男「へへ……、動くなよ。この前の借りを返してやる」

再びぞろぞろと物陰からどこかで見たゴロツキ達が顔を見せる。

柄の悪い男「その背中にあるご立派な剣もこっちに投げ捨てな! その白銀の剣の事だ!」

剣士は言うとおりに背負った白い長剣を前に放る。

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