俺「女々しくて」(50)


女「ごめんなさい……っ!ごめんなさい……っ!!」

俺「……ふざけんな、ふざけんなよっ!!」

大学入学から四ヶ月、茹だるように暑い八月。
俺に……彼女ができた。

よく笑う、すぐにふらふらどっかに行って迷子になる。
俗に言う、天然な彼女。

告白したのは、俺からだった。

当時友人同士でしかなかった俺と彼女。
初めて二人で行く約束をした花火大会の数日前、

『大好きな彼女の、彼氏という立場で花火を見たい』

そんな思いから、意を決しての告白だった。
彼女は泣きながら、

「ありがとう、私も大好きだよ。これから、よろしくね」

そう言って、涙でぐちゃぐちゃになった顔で、綺麗に笑った。


――付き合いだして二週間も過ぎた頃だった。

その日は、彼女が俺の家に遊びに着ていたんだったかな。
一時騒いで、だべって、イチャイチャして……凄く、幸せだった。
彼女もそう思ってくれていたはずだ、と思う。

そのうち、疲れたのか彼女は寝てしまった。

「ガキみたいな顔で、気持ちよさそうに寝るなぁ」

そんなことを考えながら俺は、彼女の頭をそっと撫で、逆の手で携帯をいじっていた。

――時間は過ぎて、夕闇が落ち、夜になった。

俺『そろそろ起こさなきゃ、バスの時間間に合わないかな』

俺「おーい、女。起きろー、今日は帰るんやろ?」

女「ん……んん……」

彼女は小さく唸りながら、細く目を開けた。
寝起きだから、だけではない、億劫そうな顔で。


顔色が悪い、目の焦点が合ってない。
明らかに、体調が悪そうだった。

俺「ちょ、どうしたん!?」

女「ん……なんか、キツい。風邪気味、だったから、かな?」

言葉はハッキリしているが、息が荒い。
言われて額に手を当ててみると、確かにほんのり熱く、汗ばんでいた。

俺「……帰れる?無理そうなら泊まっていってもいいけど」

下心なしに、心配だった。

俺自身はあまり病気をしない人間だったため、部屋には薬や冷えピタなんて常備していない。
そんなことも忘れて、棚の中を漁るくらいに。

女「でも帰らなきゃ……ママが心配しちゃう」

フラフラしながら立ち上がって、彼女はそういった。

俺「じゃあ、送ってくよ。歩いて帰れない距離じゃないし」

彼女の家はココからバスで30分、徒歩で一時間弱の所にある。
時間が時間なせいで片道しかバスがないが、一人で帰らせて不安な思いをするより、歩いて帰ることになっても送り届ける方がよかった。


女「んぅ……」

俺「大丈夫?」

バスの振動で顔をしかめる彼女を気遣いながら、なんとか家まで送り届けた。

女「……ありがとう、俺。気をつけてかえってね。また、明日」

俺「おう、ゆっくり寝ときなよ?」

別れの挨拶を済ませ、帰路に就く。
道中、寝てたら悪いな、と思いつつも、一通だけメールを打った。

『早く体調治せよな。んで、遊び行こう。明日、キツかったら無理して出てきちゃダメだからな。連絡だけ頂戴。また無理して体調崩したら怒るからなー?それじゃ、おやすみ。愛してるよ、女』

そして、次の日。
――彼女は夕方まで連絡が付かなかった。


なにかあったのか?
よっぽど体調悪いのか?

不安が首をもたげ、ソワソワしながら彼女の携帯にメールを送り、時たま電話をかけた。
しかし、返信はなく、電話にもでない。

俺「女のお母さん……苦手なんだけどなぁ……」

母子家庭である彼女のお母さんは、俺を目の敵にしていた。
まぁ、仕方ないだろう。
アイツが俺といる分、母と大事な娘の時間が減っていくのだから。

家の番号は、知っている。
ただ、彼女のお母さんの印象から、掛けるのは躊躇っていた。

しかし、背に腹は代えられない。
意を決して、電話帳から『彼女:自宅』を選び、プッシュする。


プルルル……プルルル……ガチャ

『はい、もしもし?』

俺「もしもし、女さんとお付き合いさせていただいてる俺です」

『……あぁ、貴方ね。何の用かしら?』

予想通り、お母さんの声は冷たく、素っ気ない。
もしかしたら、彼女が体調を崩したのは俺のせい、などと思われていたりするのだろうか……
それも、あながち間違えてはいないんだろうけど。

俺「あの、女さん……起きてますか?」

できるだけ簡潔に、要点だけを伝える。
しかし、帰ってきた言葉で、俺は硬直することになる。

『はぁ?あの子ならお昼前に出かけたけど、貴方の所じゃないの?』

色々思い出して苦しくなってきたので
少し休憩します。

要所要所、特定材料になりかねない数字は誤魔化してますが、実体験です。
落ち着いたら続き書きます。

ntrじゃないですよね


俺「え……」

『なら、なんで連絡がないんだ?』
『体調悪いのに、どこに行ったんだ?』


――『アイツは……誰といるんだ』



その後、彼女のお母さんになんと言って電話を切ったかは、覚えていない。

それだけ、混乱していたから。

ぐるぐる思考がループする。
俺は、幸せを感じながらも、ずっと不安だったんだ。
人生で初めて、自分から好きになって、自分から告白した彼女だったから。
本当に彼女は俺が好きなのか、幸せを感じる度に、心のどこかで臆病な自分が囁いていた。

フッと意識が戻ったのは、携帯が振動していることに気づいたからだった。
表示に『着信:女』とでているのを見た瞬間に、自分でも驚くくらいの素早さで携帯を手に取っていた。

>>12
ntrありですが、あくまで俺自身の目線の話ですので、ネガティブ妄想描写とかはないです。

書いて吐き出したいから、ここに来させていただいているので、それでも無理という方はどうぞ、他の方の面白いssを見に行かれて下さい。

見ていただける方は、どうか「女々しい馬鹿だなぁ」と笑いながら、お付き合いいただけたら幸いです。


俺「……も、もしもしっ!?」

舌を噛みそうなほど早口で、電話に出る。
きっとこの時、俺の声は滑稽なほど上擦っていたと思う。
馬鹿みたいに慌てていたから。

『もしもーし、電話くれてたのにでれなくてごめんね?今起きたよー』

今、起きた?
――どこ、で……?

聞きたかった、でも、聞けなかった。
臆病で女々しい自分が邪魔をして、言葉が出なかったんだ。

『? あれ、電波悪い?聞こえてる?』

俺「あ、あぁ、聞こえてるよ……」

『そっかー、今から俺の家行くから待っててね!今日はお泊まりできるよー』

俺「……うん、了解」

――『りょ!!!』

その日は、彼女が来ているのに、全然笑えなかった。

彼女が色々話しかけてきていたのはわかっているが、また思考がまわり続けて、何を話したのか、まったく覚えていない。


その夜、俺と彼女は四度目のsexをした。
体を重ね、キスをするときに、幾度も目が揺らいだように見えたのは、俺の思い違いなのだろうか。

女「俺、汗だくだねー。頑張ってくれてる感じがして嬉しい、ありがと」

俺「………」

聞くなら、今しかないと思った。
彼女を抱いている間なら、自分に自信がもてたから。
彼女は俺の物だ、という気持ちが、臆病な自分をその瞬間だけ消してくれたから。

俺「体調、良くなったんよね?」

女「うん、もう元気だよ!」

――女「ずっと 家 で寝てたからねー」


ガツンと、鈍器で頭を殴られたような気がした。
視界が揺れて、吐き気がした。

そして、確信したんだ。

――彼女は俺に、嘘をついている、と。



俺「……家、いなかったんじゃないの?」

女「え?なんで……あ、いや、あのね!お友達の家だよ!」

俺「……友達?」

女「うん!朝はちょっと気分良かったから、友達の家に行ったんだけどね、また気分悪くなって、そこで寝ちゃったの!」

身振りが大袈裟で、明らかに挙動不審な状態で、彼女は言う。
まぁ、既に疑心暗鬼になってた俺が、そう感じてしまっただけなのかもしれないが。

俺「……そっか、友達って、女の子?」

女「うん!」

目線が、泳いで。

女「なにー?俺、女の子に嫉妬でもしちゃった?」

歪な笑顔で、隠れた。


――それから、一週間と少し後。

俺がバイトから帰ると、部屋には彼女がいた。
前日から泊まっていて、朝に
「俺が帰ってくるの、待ってるね!」
と言って、送り出したのだから。

彼女は寝ていた。
そして、その傍らには――彼女の携帯が放り出されていた。

珍しい、絶好の機会だった。
罪悪感がチクチクと胸を刺す。
それでも、知りたい気持ちが勝った俺は……

――彼女の携帯を、手に取った。

あの日の日付のメールを探し、画面をスクロールする。
スマートフォンの扱いになれてなかった俺には、それだけでも一苦労だった。




ママ

ママ


スクロールする内に、ひとつの名前が目に留まった。

元彼

嫌な予感が、した。
べたべたした汗が、途端に吹き出す。

着ていたシャツの裾を握りしめ、汗を拭いて

――画面を、タップした。

ごめん吐きそう休憩

ありがとうございます。

ですが、これは俺のエゴですので、このまま、ありのままで吐き出させて貰います。
すみません。

ここからは思い出す度に気分が悪くなるので、遅々とした進行になりますが、お付き合いいただけたら幸いです。


『また家来る?エッチしよーよ』

また?またって――なんだ?

メールの日付は、最近だった。
この日付から、彼女と連絡が取れない日はあったか?
長い時間、どこかに行っていたことはあったか?
……いや、なかったはずだ。

つまり、最近は大丈夫、大丈夫だ。
そんな、気休めにもならないことを自分に言い聞かせて、再び画面をスクロールする。

動機が激しく、呼吸は浅くなる。
手が震える。
――それでも、もう引き返せなかった。

元彼
元彼

元彼
元彼


元彼

あの日、俺が彼女に宛てたメールが、未返信のまま、『返信済み』の元彼のメールに埋まっていた。

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