女「わたしの話をしてあげます」(196)

男「・・人造人間?」

女「その言い方は好きじゃないんですけどね」

男「どこかのお偉い学者さまが女を造ったってことか?」

女「言っておきますけど、わたしも人並みに両親はいますから」

男「改造人間ってことか?」

女「んー、なんと言えば良いんでしょうね。身体そのものは完全に人工物ですよ」

男「誰かの右腕でも犠牲にしたのか?」

女「何も持ってかれてません」

男「しかしそういう言い方をする以上、もとは普通の人間だったのだろう?」

女「わたし自身はそう思ってますが、わたしの意識は仮想世界からサルベージされたものらしいです」

男「仮想世界からサルベージ? 仮想世界ってヴァーチャル・リアリティみたいなのか?」

女「たぶんそのイメージで正しいと思います」

男「なにそれ羨ましい」

女「そうですか?」

男「で、どこから質問すれば良いんだ?」

女「この話を他人に話すことなんてなかったので自分でも分からないです」

男「・・とりあえず女を造った? 人に会うことはできないのか?」

女「その人は死んでると思います」

男「え」

女「その人は仮想世界を組み立てたあとに研究を続けられなくなったみたいです」

男「じゃあなんで女がここにいるんだよ」

女「適当にサルベージする人間を選ぶ設計になってたんではないですかね」

女「わたしがわたしに関して把握している事情は、この身体に刷り込まれてた情報と、この世界で目覚めたとき部屋にいた少年に聞いた話くらいです」

男「少年?」

女「話を聞いた限りではわたしを造った人、博士らしいですが、の孫のようでした」

男「手がかりになりそうじゃないか」

女「わたしが目覚めたとき博士は意識不明だったそうです。そうでなくとも当時で孫がいるくらいですから、現在は亡くなってるのではないかと思います」

男「もしかして会いたくないのか?」

女「・・まあそうですね」

男「なぜ?」

女「大切な人たちと二度と会えなくした人の顔なんて見たくもないです」

男「・・」

女「仮に博士が生きていたとしてもまともな状況じゃないでしょうし会うだけ無駄だと思います」

男「じゃあその少年や少年の両親とか」

女「少年と会ったのはそのときだけですし今どこにいるかなんて分からないです」

男「そうか・・しかしとりあえず」

女「とりあえず?」

男「俺が女を好きだと言う話と女が人造人間(?)であることとはなんの関係もないよな」

女「そこに話を戻しますか」

男「重要だからな」

女「はぐらかそうと思ってたんですが」

男「答えてくれよ」

女「嫌いではないですけどね」

男「じゃあ俺のこと好きなのか?」

女「やっぱり嫌いってことにします」

男「おい」

女「というか道で会って話す程度の人になにを言ってるんですか、あなたは」

男「デートすれば良いか?」

女「そういう問題では・・」

男「じゃあどうすれば良いんだよ」

女「むむ・・」

男「嫌いじゃないんだろ? それともほかに相手がいるのか?」

女「・・いませんが、例え誰でも相手にする気はありません」

男「女が人造人間だからか?」

女「・・」

男「俺はそんなこと気にしないし、女のためならなんだってする」

女「言っておきますけど、わたしはあなたよりずっと年上ですよ」

男「全然問題ないよ」

女「多分あなたの両親と同じくらいかそれより年上ですよ」

男「え」

女「・・」

男「もしかして歳とらないのか?」

女「人の身体じゃないですからね」

男「・・それでも俺は女と一緒にいたい」

女「わたしは一人で生きられるので、いつあなたを見限るか分かりませんよ」

男「俺が死んだら女が号泣するくらい惚れさせてやるよ」

女「仕方のない人ですね・・」

男「え、え? いまのはOKってことか?」

女「NOだと思いたいならそうとってもらっても構いませんよ」

男「いやいや、OKなんだな?」

女「仕方がなくとりあえず、ですよ」

男「うおおおおお、マジか」

女「と言っても何をするんですか?」

男「同棲しよう」

女「気が早いですね」

男「嫌か?」

女「構いませんよ、好きにしてください」

【引っ越し】
女「お邪魔します」

男「いらっしゃい、って荷物そんな少ないの?」

女「着替えくらいしか必要ないので」

男「そういうものか? 夕飯はもう食べた?」

女「大丈夫です」

【睡眠】
男「んー布団は一組しかないから女が布団で寝て、俺はソファかなあ」

女「わたしは寝なくても大丈夫なので布団使ってくれて問題ないですよ」

男「眠れないのか?」

女「眠れますが、ほとんど眠る必要はないです」

男「じゃあ女が布団使いなさい」

女「眠るにしてもわたしがソファで大丈夫ですよ?」

男「俺をソファで寝かさせてくれって」

女「男の甲斐性ですか」

男「そういうこと」

女「・・しょうがないですね」

【朝ご飯】
男「〜♪」

女「朝から上機嫌ですね」

男「まあな」

女「とりあえずご飯とみそ汁を作ってみたので食べます?」

男「なんだこれ」

女「・・何か変ですか?」

男「いや幸せすぎてなんだこれって言ってしまった」

女「初めてつくったので何か変なのかと思ったじゃないですか」

男「料理初めてなの?」

女「そうですね、というかこの身体は食べる必要がありませんし」

男「・・スマン」

女「なにを謝ってるんですか」

男「うん、すげえ美味いよ」

女「・・刷り込みされてたおかげです」

【呼び方】
女「男は仕事に行くんですよね? 弁当も作ってみたので食べられそうなら持ってってください」

男「・・ありがとう。って名前で呼ばれた!?」

女「いつまでもあなたでは変でしょうに」

男「・・それはそれで夫婦みたいで捨て難いが」

女「何を言ってるんですかあなたは」

男「むむう悩む」

【メール】
仕事中
男「ん、メール?」

女『夕飯、何か希望はありますか』

男「ふむ・・女が作ってくれるならなんでも嬉しいよっと」

男「そういえば女はなにでメールを送ってきたんだ? それらしい端末は持ってないように見えたが・・」

帰宅
女「ああ、そんなこと気にしてたんですか。適当にその辺の回線に物理的に情報を流しただけですよ」

男「物理的って」

女「ジャックですよ、電波ジャック。情報工学や電気工学に関する知識は一通り刷り込みされてる上に、色々な機能が内蔵されてますからインターネットの閲覧も脳内でできるんですよ」

女「人間離れしてて気持ち悪いって思いました?」

男「いや、単純に凄いなって思ったよ」

女「ちなみに男の送受信したメール内容も電波で分かるので、変なことはしないでくださいね」

男「・・」

女「引きましたよね」

男「いや大丈夫、大丈夫」

【電子マネー】
男「今までどんな風に生活してたんだ?」

女「どんなふうにもなにも、人に不審がられない程度に色々なところを歩いてまわってただけですよ」

男「もしかしてホームレス?」

女「その通りですがなにか?」

男「そのわりには綺麗な身なりしてたよな」

女「電子マネーって便利ですよね」ボソッ

男「・・聞かなかったことにするよ」

【人恋しい】
男「しかし歩いてるだけではそのうち顔覚えられて不審者扱いされるのでは」

女「電車とか使ってましたし」

男「かなり大規模な移動してたのか」

女「そうですね」

男「じゃあなんで連日俺に会ってたんだ?」

女「あなたが最初に会ったときからずっと別れ際にまた明日とか言うから仕方がなくです」

男「律儀だな」

女「・・いい加減人恋しかったのかもしれないですね」

男「女は元の世界に戻ることや、その身体をなんとかすることは諦めてるのか?」

女「元の世界に戻るも何も、元の世界にわたしはいますからね」

男「は?」

女「サルベージと言いましたけど、単純にコピーらしいですよ」

女「だから今ここにあるわたしの意識をあの世界に戻すことはできないんです」

女「それに時間が経ち過ぎてますから、戻っても自分も知ってる人も残ってないと思います」

女「もしかしたらあの世界、部屋すらもうないかも知れませんしね」

女「身体についても、身分証明がない以上、適当に誤摩化しつつ生活できるこの身体は便利ですからどうするつもりもないです」

男「それは女の意思ではないだろ」

女「でもこの身体でなければこの世界でわたしが生きることはできませんよ」

男「俺が女を助けると言ったら?」

女「・・なんでそこまでわたしに入れ込んでるんですか」

男「最初は単にかわいい人だなと思って軽い気持ちで話しかけただけなんだがな」

男「ただ話してるうちに楽しくなって、話を聞いてくれるのが嬉しくて、ずっと一緒にいてほしいと思った」

男「そんな理由では駄目かね?」

女「なんだかしょうもない理由でがっくりです」

男「人が人を好きになる理由なんてそんなもので十分だろ」

女「たったそれだけの条件を満たせる人なんてほかにいくらでもいるでしょうに」

男「よく一緒にいられるって条件が意外に厳しいんだよ」

女「つまりほかにそういう人がきたらなびくってことですね」

男「嫉妬してくれるほどに惚れた?」

女「どうぞ勝手になびいてください」

男「・・」

男「とにかくだ、俺は女とずっと一緒にいたいから女が助けてほしいと思ってるなら助けたい」

男「それを踏まえた上で、女は今の状態でも良いと思ってるのか?」

女「今のままでも誰かに迷惑をかけるわけでもないですし、わたしは一人で生きられますから困りません」

男「そういう話じゃないだろ」

女「・・今さら自分が何をしたいかなんて分かりません。ただずっと生きられるから生きてきただけなんですから」

男「少なくとも人恋しいとは思ったのだろ」

女「あなたに求められたから応じただけです」

男「俺がいなくなったらまた独りになるが、それでも平気だと」

女「わたしはこの世界に連れてこられた時からずっと独りでしたから心配いりません」

男「・・」

女「あなたはわたしの中に踏み込みたいのかもしれないですが、わたしは誰かに踏み込まれるのは不快です」

男「誰かじゃない、俺だ」

女「・・いずれにせよ不快です」

【キャットフード】
男「おはよう」

女「おはようございます。遅かったですね」

男「ちょっと考え事しててな」

女「そうですか。はいこれ朝ご飯です」

男「おお、ありがた・・ってなんだこれ」

女「幸せすぎましたか?」

男「んなわけあるか! なんでドッグフードが朝飯なんだよ!」

女「失礼ですね、ドッグフードじゃありませんよ」

男「・・キャットフードなら許されるという問題でもないからな?」

女「チッ」

【喧嘩】
男「なんだよ、なんか俺悪いことしたのかよ」

女「単に不快な相手に対して嫌がらせしただけです」

男「不快って昨日のか」

女「あなたがどう思おうがわたしは知りません」

男「・・」

女「ここはあなたの家ですから、追い出したければ追い出せば良いでしょう」

男「仕事中に勝手にいなくなったら怒るからな」

女「いない相手にどうやって怒るんですか」

男「絶対に見つけ出す」

女「・・それは怖いですね」

仕事休憩中
男「なあ友」

友「あん?」

男「してほしいことがないと言う人にしてやれることってなんだと思う?」

友「ないって言ってるんならないんじゃねーのか」

男「それで済むならなんであんなに暗いんだよ・・」

友「なんなんだよ」

男「役に立たん奴だな」

友「喧嘩売ってんのか?」

男「精密なアンドロイド作ろうと思うと何が必要かなあ」

友「はあ? なにそれ、ついに彼女を自作する時代か?」

男「ちげーよ」

友「アンドロイドなあ。今の技術的に一番ネックなのは人工知能なんじゃないのか」

男「やっぱりそこかね」

友「人の大きさにモータやら電池やらコンピュータやら詰め込んでもなお肉詰めできるくらいに軽量化、小型化、省電力化が進んでるからな」

男「アンドロイドの専門でもないくせに詳しいな」

友「誰だって憧れるだろ、人造人間」

男「・・まあそうだな」

男「自分の意識を解析してコンピュータに組み込むことはできるかなあ」

友「自分自身の人格をもった人工知能とか誰が得するんだよ」

男「・・」

友「どうした?」

男「人工知能に関する実用レベルの資料、あるかも知れん」

友「・・普段から分からん奴だとは思ってたが、今日のお前はずば抜けて頭がおかしいぞ」

男「状況的になきゃおかしいんだよ!」

友「お、おう」

男「女!」

女「え、まだ仕事の時間ですよね?」

男「早退した、ってそんなことはどうでもいい、女が生まれた家に連れてけ!」

女「いきなりなんなんですか。わたしはべつに男になにかしてもらいたいとは思ってないですよ」

男「女がどう思ってるかはこの際関係ない、俺が今したいことがあるんだ!」

女「嫌だと言ったらどうするんですか」

男「この通りだ!」

女「な、土下座ってバカですか、プライドとかないんですか」

男「何かできるかもしれないのに止まってるのは嫌なんだ!」

女「・・はあ、家がなくなってても知らないですからね」

男「ありがとう!」

【支払い】
男「まさかまた電子マネーを」

女「何か問題がありますか?」

男「俺が女の分も払うよ」

女「無駄な出費ですよ」

男「俺のところにいる以上、女は普通の人だ」

女「・・まあどちらにせよわたしは損をしないので良いですけど」

【通過】
男「懐かしい景色だなあ」

女「この辺りに住んでたことがあるんですか?」

男「あー祖母がな。とは言っても俺の小さい頃に死んでるから懐かしむほど覚えてないけどな」

女「そうなんですか。わたしが目覚めたのもこの辺りですよ」

男「え、電車通り過ぎてるけど」

女「特急で通り過ぎて普通に乗り換えてリターンするって戦法を知らないんですか」

男「ああ、なるほどな」

【田舎】
男「こんなド田舎で人造人間とかいう超ハイテクが生まれたのか・・」

女「身体さえ作ってしまえばあとの開発環境はスパコンと冷却環境だけあれば良いわけですから、無理に都会に住む必要はなかったのではないかと思います」

男「あーなるほどな・・ここなら発電所が近いから電気代も安そうだし、街みたいな熱気もないしな」

女「じゃ、こっちです」

女「ここです」

男「ここ、って・・」

女「どうかしましたか?」

男「え、女が目覚めた家と同じ家か? 建て替えられたりしてないか?」

女「同じですが、どうしたんですか?」

男「いや、これ俺の祖母の家だが・・」

女「え」

男「ていうか、この家まだ残ってたんだな・・」女「ここです」

男「ここ、って・・」

女「どうかしましたか?」

男「え、女が目覚めた家と同じ家か? 建て替えられたりしてないか?」

女「同じですが、どうしたんですか?」

男「いや、これ俺の祖母の家だが・・」

女「え」

男「ていうか、この家まだ残ってたんだな・・」

男「インターホン押してみるか」

・・・

男「・・表札も変わってないみたいだし誰も住んでないまま放置してるのかもな」

女「この家の鍵ならこの木の陰にありますよ」

男「・・そんなことまで知ってるのか」

カチャカチャ、ガチャ

男「おじゃま、いや・・ただいま」

女「わたしもただいま・・ですかね」

男「・・誰もいないな」

女「死んだ祖母の家なら当然じゃないですか?」

男「まあそうだな」

女「この部屋です」

男「地下室があったのか・・よしあけ」
ガチャ
女「はやく行きますよ」

男「お、おう」

男「これは、」

女「・・まだ全部のシステムが生きてるみたいですね」

男「みたいだな・・さすがに予想外だった」

男「一旦話を整理しようか」

男「ここは俺の祖母の家で、女の目覚めた家で、例の博士の家なわけだ」

女「そうですね」

男「少なくとも俺の祖母はメカニックでもなんでもないし、研究者でもないぞ」

女「男の祖父が博士、ですかね?」

男「ジイさんは俺が産まれる前に死んでるし、孫は俺しかいねーよ」

女「では男のお父さんがあのときの少年で、その祖父が博士でしょうか」

男「・・いや、ジイさんが博士ってのは間違いないみたいだ。その少年が誰かは知らんが」パラパラ

女「なにか見つけました?」

男「研究ノート、かな。律儀にジイさんの名前が書かれてる」

男「というか、女が目覚めた時期が分かれば時期的に少年が誰かってのも確定できるのではないか?」

女「言われてみればそうですね・・」

男「アンドロイドというわりには抜けてるよな・・」

女「人間らしさを追究した設計になってるみたいですよ。えーっと・・わたしがここに連れてこられたのは、、25年くらい前? ですかね」

男「その曖昧さも人間らしさの追究なのか?」

女「直接組み込まれてる知識以外は普通の人と同じように忘れるためのプロセスが働くみたいです」

男「ふーん・・。ん? しかし25年前ならもうジイさんは死んでたはずだぞ。親父が結婚するよりだいぶ前に死んだって聞いてるし」

男「そもそも25年前に俺は産まれてないし、親父は青年って頃だから、この家に少年がいるなんてことはないはずだが・・」

女「でもわたしは確かに25年前・・」

男「どうした?」

女『・・データの破損を検出。復旧は不可能と判断。処理を人格"女"に返します』

男「!?」

女「・・あれ? どうかしましたか?」

男「いや女がなんか今変だっただろ」

女「もしかしてエラー処理してました?」

男「そういえばデータの破損を検出とか言ってたな」

女「・・そうですか。あれ見られるのちょっと恥ずかしいんですよね」

男「そういう問題なのか?」

女「まあ問題はないので心配しなくていいですよ」

男「あのエラーはさっき言ってたシステムのせいで出ることもあるのか?」

女「そんなわけないじゃないですか。忘れるプロセスはあくまで人に似せるためのシステムで、例外ではありませんから」

男「だろうな。じゃあ25年前の記憶は外的要因の破損があるってことになるな」

女「うーん・・なにかあったですかね」

男「破損してれば思い出せないわな」

女「・・それもその通りですね」

男「しかしなんで俺のジイさんはこんな研究をしてたんだろうな」

女「単純に知的好奇心なのでは?」

男「世界の仕組みや人工知能についての研究なら女みたいなアンドロイドを造る必要は全くないだろ」

女「・・そうですね」

男「それに一人でこれだけの成果を出せるなら、支援があればもっと色々なことができたはずだ。女を作り上げるだけの個人的な信念があったはずなんだ」

女「わたしを造るに至った理由・・ですか。考えたことがなかったですね」

男「と、ここが祖母の家だったせいでつい謎解きみたいなことをしてしまったが、ここに来た目的はそれじゃないんだ」

女「そういえば何しにきたか聞いてなかったです」

男「言ったら連れてきてくれないと思ったからな」

女「・・」

男「大したことではないよ。ただここに来れば人工知能に関する資料があるかもしれないと思ってきたんだ」

女「それでどうするつもりなんですか?」

男「俺の人格を持ったアンドロイドを造る」

女「・・本当に連れてくるべきではなかったと思います」

男「言うと思ったよ」

女「仮に上手くできたとして、そのアンドロイドはあなたのコピーなんですよ」

男「そうだな」

女「男のコピーは自身を男だと思っているのに、そこには自分ではない誰かがいるんです」

男「・・」

女「それがどれだけ苦痛か分かりますか」

男「分からない」

女「ならやめてください」

男「けど、上手くいけば女はずっと一人にならないで済む。俺ではなく新しく産まれる俺に女を任せられる」

女「やっぱりそのためですか」

男「だめか?」

女「わたしは一人で大丈夫だと言ったはずです」

男「俺は女が独りでいるのを見たくない」

女「わたしは人のコピーなんて真っ平ゴメンです」

男「・・そうか。先走って済まなかった」

女「男がわたしのことを大事に思ってくれているのは分かりましたから、それだけで十分です」

男「・・」

女「とりあえず、今日は帰りましょうか」

男「そうだな」

【仲直り】
男「・・昨日のことも今日のことも、悪かったな、先走って。女のためと思ってたけど結局は嫌がることをしてたみたいだ」

女「さっきも言いましたけど、男がわたしを大事にしてくれているって分かったので、それで十分です。それにわたしも子供っぽい対応をしてしまいましたから、お互いさまです」

男「朝のキャットフードは衝撃だったよ。もう勘弁してくれ」

女「男がわたしを怒らせなければ良いんです」

男「・・はいよ」

女「不満げですね」

男「はい」

女「それでいいです」

【男女】
女「男はいきなり同棲しようと言ったわりにわたしになにもしませんよね」

男「」

女「草食系が悪いとは言いませんが、言うことは言わないと進めるものも進みませんよ」

男「・・それは誘ってるのか?」

女「まさか。いまこの流れで何かしてきたら丁重にお断りさせていただきます」

男「先手を打たれたってことか・・」

女「その通りです」

【充電】
男「そういえば女がご飯を作ってくれたけど、女が食べてるのは見てないな」

女「食べる必要はないって言いいましたよね。強いて言えば充電は必要ですけどね」

パカッ、ガチャガチャ、プスッ

男「うおお・・そういうところを見せられると本当にアンドロイドなんだなあと・・」

女「嫌いになりました?」

男「いや、線の出てるところが見た目に痛そうだと思っただけ」

女「当たり前ですが痛くないですよ」

男「・・」

【食事】
男「ご飯食べる必要がないってことは食べられないわけではないってことか?」

女「それは下ネタへの伏線ですか?」

男「被害妄想だ」

男「しかしそんな反応をするってことは食べることはできるわけか」

女「充電よりも非効率ですけどね」

男「その非効率さが人間っぽさなんだろ」

男「今度から一緒に食べよう」

女「・・そうですね」

【ケーブル】
男「そういえば食材ってまだ冷蔵庫に残ってたか?」

女「大分なくなってしまったと思います」

男「じゃあ今からスーパー行くか」ガッ

女「痛ッ!」

男「え、ごめん。ってなんで?」

女「男が充電中のケーブル蹴つまずいたんです」

男「あー・・ごめん・・」

女「なんでそんな微妙な顔をしてるんですか」

男「ケーブルに痛覚があるのか、と思ったらなんかな」

女「髪の毛引っ張られたら痛いですよね?」

男「あ、そういうことか」

女「・・」

男「いやホントゴメンって。そんな目で見ないで」

【買い物】
男「女はなにか好きな食べ物とかあるのか?」

女「昔は甘いものとか好きでしたけど、こっちに来てからは特に口にしてないです」

男「甘いものか・・デザートかな」

女「男のお勧めの甘いものでお願いします」

男「任せろ。デザートが甘いものなら夕飯は洋食っぽくかな」

女「そういうものですか」

【夕ご飯】
男「ハンバーグにプリンか・・お子様セットみたいだな」

女「気に入らないなら食べなくていいです」

男「そんなことはない。いただきます」

女「いただきます」

女「・・」

男「どうかしたか?」

女「人と温かいご飯を食べるって・・良いものですね」

男「・・だな」

【プリン】
女「なんだか懐かしい味がします」

男「女のいた世界にもあったのか?」

女「さあどうですかね、わたしは見たことがなかったですが」

男「なのに懐かしいのか」

女「・・変ですね。なんででしょう」

男「まあ良いさ、気に入ってもらえたなら」

女「また買いましょう」パクパク

男「めちゃくちゃ気にいったんだな・・」

今日はここまで

仕事休憩中
男「結局なにも出来なかったわ」

友「何を言ってるか分からん」

男「説明するのが面倒くさい」

友「おおう、言ってくれるな」

男「友に説明しても意味ないしな」

友「あーはいはい」

男「・・プレゼントでも買うかなー」

友「誰にだよ」

男「彼女だよ」

友「ついに完成したのか」

男「造ってねーよ」

友「なんだ、てっきりアンドロイド彼女を造ったのかと思ったのに」

男「・・造れるわけねーだろ、バカか」

友「彼女へのプレゼントなー。何かその子の好きなものとか分かるのか?」

男「プリンかな」

友「安いプレゼントだな」

男「・・」

男「普通にデートにしようかな」

友「日和ったな」

男「うるせー」

【誘い】
男「そんなわけで今度の休日にデートしよう」

女「どんなわけですか」

男「細かいところは置いといて」

女「デートですか・・べつに構いませんが特に行きたいところとかありませんよ?」

男「その辺は俺に任せろ」

【デート・映画】
男「定番だが映画はどうだろう」

女「創作を見るのはけっこう好きですね」

男「よし行こう」

映画終了
男「女?」

女「・・」

男「おーい・・」

女「なんですか」

男「面白くなかった?」

女「いえ、面白かったです」

男「じゃあこっち向いてくれよ」

女「嫌です」

男「もしかして泣いてる?」

女「・・仮にそうだったとしても関係ない話です、あなたには」

【使い道】
男「映画、そんなに好きならまた来週の休みも行こうか」

女「良いんですか、休みをそんなことに使って」

男「全然大丈夫だ、今まで金も休みもまともに使うことなんてなかったからな」

女「気の毒なことを言わせてしまってすみません」

男「そういう同情はやめろよ・・」

【デート・水族館】
男「水族館に行こう」

女「また定番ぽいところを選びましたね」

男「単純に俺が魚を好きと言うこともあってな」

女「まあそれなら付き合ってあげます」

男「ありがとな」

館内
男「あああ魚かわえええええええ」

女「」

出口
女「男をちょっと人として見れなくなりました」

男「え」

【女と魚】
男「外食しよう」

女「豪勢ですね」

男「女のためなら何も惜しまないよ」

女「水族館での男さえ見なければもう少し嬉しいと思えたんですが」

男「」

女「わたしと魚、どっちが好きなんでしょうね」

男「ぬぬぬ・・」

女「そこで悩んじゃうんですか」

男「いや女も好きだよ!」

女「へーそうですか」

男「信じてないな」

女「・・ふふ、信じてあげますよ」

男「お、おう」

【幸運?】
男「ここだ」

女「やたら高そうなお店ですけど、予約とかお金とか大丈夫ですか?」

男「心配無用だ」

女「予約済みなんですか?」

男「な、なんのことかなー」ヒュ–ルル–

「いらっしゃいませ、2名様ですね?」

男「はい」

「ではこちらのお席へ案内致します」

女「え、こんな眺めの良い席なんですか」

「当店自慢の展望席でございます、お気に召しましたでしょうか」

女「は、はい。でもこんな良い席、他の人に予約されてないんですか?」

「普段は予約でいっぱいですが、どういうわけか今日は予約がなかったのです」

「どうぞ、心行くまでこの景色と食事を楽しんでください」

【月が綺麗】
女「夜景が綺麗ですね」

男「そこは月が綺麗ですね、じゃないか」

女「・・そうですね、月も綺麗です」

女「本当にわたしのために一生懸命なんですね」

男「もちろんだ。女が求めるならなんだってやるし、女が求めなくたって女を楽しませるためならなんだってやる」

女「・・ここまでされると悪い気はしませんね」

【プロポーズ】
男「その、な」

女「?」

男「えっと、俺と結婚してくれないか」

女「なにを言ってるんですか」

男「そのまんまの意味だ」

女「わたしは生身の人間ではないですし、戸籍もないですから、結婚なんてできませんよ」

男「気持ちの問題だ。俺を好きか嫌いか」

女「・・嫌いです」

男「な」

女「面白そうだと思ってあなたに連れ回されてみましたけど限界です。嫌いです、あなたのこと」

女「・・では」

男「あ、おい・・待て!」

女「さようなら」

仕事休憩中
友「おうどうした、死んでるな」

男「ああ・・まあちょっとな」

友「デートでやらかしたか」

男「なにが悪かったんだろうな・・」

友「顔じゃないか、やっぱり」

男「・・」

友「冗談だぞ、真に受けるなよ」

友「まあ話くらいは聞いてやるよ」

男「良い雰囲気だったからプロポーズしたら嫌いだって言われてどこか行かれた」

男「連絡とろうにも電話もメールも反応しない」

友「この間まで彼女のかの字もなかったくせに手が早いな・・」

男「慰めろよ」

友「あー・・。まあ良いことあるさ」

男「慰められても全然嬉しくねえ・・」

友「殴るぞ」バキィッ

男「殴ってから言うな。痛くないが」

休日
男「・・なんもする気が起きないな」

男「そういえば今日も映画に行こうって言ったっけな」

『また明日とか言うから仕方がなくです』

男「・・行くだけ行ってみるか」

【待ち合わせ】

男「・・」


男「・・」

夕方
男「・・」

男「何してるんだ、俺・・」

女「本当に何してるんですか。一日中そんなところに突っ立ってたら不審者ですよ」

男「!?」

女「なにを驚いてるんですか、わたしを待っていたんですよね?」

男「あ、いやそうだけど」

女「このまま放っておいたら休日のたびに一日中映画館で突っ立ってる幽霊の噂が立ちますからね」

男「俺は生きてるっての」

女「・・よく分かりましたね、ここに来るって」

男「女は律儀だからな」

【こたえる】
女「男はわたしがいないと駄目だと言うのがよく分かりました」

男「うん」

女「だからこの間のプロポーズに応えようと思います」

男「うん」

女「・・」

男「?」

女「?」

男「返事の内容は?」

女「え? だから応えるって言ったじゃないですか」

男「え? だから答えるんでしょ?」

女「うん? ・・あー、字が違います」

男「??」

女「はあ・・もういいです。帰りましょうか」スッ

男「お、おう」ギュッ

仕事休憩中
友「お、弁当とか珍しいな」

男「ああ、彼女が作ってくれたんだ」

友「・・別れたんじゃないのか」

男「その件はお騒がせしました」

友「人の不幸よりは幸福の方が良い飯の種になるがな・・」

男「友はなんの役にも立ってないくせに関係者面するなよ」

友「言ったな、てめえ。彼女紹介しやがれ」

男「また休日にでもな」

【顔合わせ】
男「こっちが女、こっちが友な」

女「はじめまして、女です」

友「はじめまして、友です」

友「男の彼女って言うからもっと変なのイメージしてたけど普通にかわいい感じだな。・・出るところも出てるし」ヒソヒソ

男「殴るぞ」

女「どうかしましたか?」

友「いやどうもしないよ」

【組み合わせ】
友「女さんは男のどこが良いと思ったの?」

女「良いところは特にないんですけど、・・わたしがいないとこの人だめみたいなので」

男「え」

友「くく・・ははは! 最高だな、お前の彼女」

女「ふふ、ありがとうございます」

男「これ駄目な組み合わせかも知れんな・・」

【無計画】
男「で、この3人でなにをするかね」

友「無計画かよ」

女「がっかりです」

男「俺か? 俺だけが悪いのか!?」

友「当然だろ」
女「当然です」

男「・・釣りに行こう」

友「釣りの用意なんてないぞ?」

男「釣り堀で釣って食べる、魚を愛でてかつ美味しく頂ける完璧な施設だ」

女「・・この人、本当に魚好きなんですね」

友「目を瞑ってあげなさい」

【役立たず】
男「釣れねー・・」

友「ははは、トーシロめ」

男「友が釣り上手いなんて知らなかったわ・・」

女「男頼りなさすぎです」

男「女も坊主じゃんかよ」

女「わたしは料理担当ですから、釣りができなくとも役立ちます」

友「役立たずは男だけなー」

男「くっそおおお」

【準備】
男「・・よく考えたらバーベキューに料理要素はほとんどなくないか?」

女「これを見ても言えますか」

友「まさか弁当箱!?」

男「いつの間に・・」

女「きっと出かけることになるだろうと思って準備してました」

友「男ホントにお前だけ役立たずだな・・」

男「ここに連れてきたのは俺だろ!!」

【1尾だけ】
男「じゃあ釣った魚を焼こうか」

友「自分で釣ったみたいに言ってんじゃねーよ」

男「お、俺だって1尾釣ったし!」

友「おーよしよし」

女「誰が釣ったのでも構わないので焼きますよ」

【誰の】
一同「いただきます」

男「よし、こいつは俺が食べる」

女「駄目です」バシッ

男「え」

女「それはわたしのです」

男「いやだってこれ俺が釣った奴だし」

女「そうでしたっけ? あっちの奴じゃないですか?」

男「んん? そうだったかな・・」

友「あついなー」

【足だけ】
一同「ごちそうさまでした」

男「さて、食べるもんも食べたし帰りますかね」

友「さっさと車出せ、役立たず」

女「さっさと出してください。男は足しか出来ないんですから」

男「クソ、クソッ!」

【解散】
友「この辺りで降ろしてくれー」

男「了解、どこか停められるとこで停まるわ」

友「サンキューな。女さんもまた遊ぼう」

女「そうですね、友さん面白い人ですからまた遊びたいです」

男「」

友「拗ねるな拗ねるな」

【嫉妬?】
女「面白い人ですね、友さん」

男「・・まあ良いヤツだとは思うよ」

女「もしかして嫉妬してます?」

男「してないよ」

女「つまらないですね」

今さらだけど>>29は2回ペーストするという痛恨のミス

男「実家に行ってみようかと思う」

女「なんですか唐突に」

男「祖母の家で女が目覚めたなら、親父が何か知ってるかもしれないだろ」

女「ん、まあそうですけど・・」

男「別に俺のコピーを作ろうとかはもう思ってないよ」

女「・・分かりました」

男「ただいまー」

女「おじゃまします・・」

男「この人が俺の彼女」

女「女と言います、不束ものですがよろしくお願いします」

母「ようこそいらっしゃい。何もないところだけどゆっくりして行ってね」

父「・・」

母「〜」

女「〜〜」

母「〜♪」

男「お袋と女が思ったより仲良さそうでよかったよ」

父「・・すまんが、母さんと男は席を外してくれないか」

母「まあ、息子の彼女と二人きりなんてこの歳で不倫ですか?」

父「お前はそういうアホなことをいつまで言うつもりだ」

母「それはもういつまでもですよ」

女「あの、男は一緒にいても良いですか?」

父「ん、・・まあいいだろう」

母「はいはい、わたしだけお邪魔なんですね。出て行きますよー」

男「なんかゴメン」

父「男も残したと言うことは、女についていくらかは知っているということだな?」

男「やっぱり親父は女について知ってるのか」

父「まあ私の育った家のことだからな」

女「・・」

父「さて何から説明したものかね」

男「女が普通の人になる方法はないのか?」

父「真っ先にそれか」

男「俺のコピーは女が嫌がるからな」

父「・・そうだな。少なくとも私が知る限り人間の様に成長し死んで行く身体を作る技術も、そこに既存の人格を組み込む技術も知らない」

父「親父、お前から見れば祖父だが、の研究もアンドロイドだけを前提に行われていたからな」

男「・・なんの役にも立たないな」

父「すまないな、力になれなくて」

女「・・父さんは、もしかしてあのときの少年ですか?」

男「なに言ってるんだよ、25年前に親父が少年なわけないだろ・・」

父「・・あのときと言うのは?」

女「わたしがあの部屋で目覚めたときです」

父「25年前、お前が目覚めたとき確かに私はあの部屋にいたが、男が言うように少年ではなかったよ」

男「女にお前とか言うなよ」

父「おっと、昔から口が悪くてな・・。気を悪くしたらすまなかったね、女さん」

女「いえ、お気になさらず。それに、意外とその響きも心地良いです」

男「・・お前って呼ぼうかな」

女「ちゃんと名前で呼んでください」

男「はい」

父「少年が誰かは分からないが、単に忘れて記憶がごちゃ混ぜになっているだけだろう。その身体はハードもソフトもかなり人間に近く造られているからな」

男「女はシステムによってデータが破損することはないって言ってたが、25年前周辺のデータには破損があるらしい」

父「・・ジジイも正確にそんなところまで検証しなかったのだろう。ただそれだけのことだ」

女「そうですか、変な質問してすみませんでした」

男「謝る必要はないだろ、親父が役に立たなかっただけだ」

女「魚を釣れない男の方がよほど役に立たないです」

男「うぐ」

父「なんだ、もう尻にしかれてるのか」

女「あ、いえそういうわけではないです・・」

父「ははは、頼りない息子だからな。尻ひっぱたいてこき使ってやってくれ」

男「・・」

父「とりあえず男と女さんが楽しくやっているようでなによりだよ」

父「おーい母さん、話終わったから戻ってきていいぞー」

母「はーい」

母「追い出されてる間に男の小中高の卒業アルバムとか引っ張りだしてきたけど、女さん一緒に見る?」

女「すごく見たいです」

男「待て、やめてくれ」

女「何か言いましたか?」

母「男は諦めが肝心だよ」

父「・・諦めろ息子よ」

男「・・親父、2人で席外そうか」

母「どこへでも行ってらっしゃい」

男「女ってこえー」

父「そうだなあ」

男「親父もお袋の尻にしかれてるじゃないか」

父「・・そうかもしれんな」

男「不甲斐ねーな」

父「魚も釣れない息子には言われたくない」

男「・・」

男「結局、収穫はなにもなかったなー」

女「・・そうですね」

男「ん? なにかあったか?」

女「いえ、あー、男の昔の話をたくさん聞けたので収穫はありましたよ」

男「俺の話を聞きたいくらいには好きになってくれたわけだ」

女「そういうところは好きじゃないです」

男「かわいいヤツめ」

男「昔の話と言えば、女がこの世界に来る前にどんな生活をしてたかまったく知らないな」

女「男はわたしの表面しか見てませんもんね」

男「そうやって言うと俺が薄っぺらみたいに聞こえるだろ・・」

女「ふふ、すみません」

男「話したくないことなら無理には聞かないが、興味はあるんだよ」

女「話すほど大したことはありませんよ、もとの世界でわたしはずっと病院のベッドの上でしたから」

男「え」

女「言った通りです。わたしはベッドの上でただ毎日を無為に過ごしていたんです」

女「だから実はこの身体を得たことを嬉しいと思ってるんです」

女「結局、病院にいたときよりも独りになってしまったことをのぞいて、ですけどね」

男「今は俺がいるし、友もいる。女が望むならもっとたくさんの友達だって作ってみせるよ」

女「ふふ、ありがとうございます」

女「病院でずっと寝たきりでしたけど、友達もいたんですよ」

男「へえ」

女「同じ歳くらいの男の子と女の子が一人ずつ。男の子が怪我で入院したらしくて、病院でたまたま知り合って、その子が退院したあとも幼馴染の女の子と一緒によく遊びにきてくれたんです」

女「まあ初めて会ったときこそ男の子、女の子でしたけど、二十歳過ぎても遊びに来てくれてたので、子って言うのも変な感じですね」

女「あの頃のわたしの楽しみはその子たちが話すこと、お土産で貰った漫画や小説を読むこと、お菓子を食べること、の3つくらいでしたね」

男「楽しかったか?」

女「それはもちろん楽しかったですよ」

女「あの子たちと話してるときは自分が病人だなんて思わないで済みましたから」

女「できるならまた会って、今度は・・みんなで外で遊びたいですね」

男「思い出して辛くなるならいいよ・・スマン」

女「辛くなんかないです。ただ懐かしくて、会いたくて・・、切ないんです・・・・」

女「そもそも居る世界が違うのですから会えるわけもないんですけどね」

男「・・元の世界に戻れれば会えるだろ」

女「前にも言いましたがわたしはコピーですから、戻るなんてできないんですよ」

女「それに、あの世界の時間の流れはきっとここよりもずっと速いと思うので、もしかしたらもう地球もなくなってるかもしれません」

男「・・そうだったな、スマン」

女「謝ってばかりですね」

男「・・」

女「別に気にしないで大丈夫ですよ、今は男がいますから」

女「・・そういえば、この世界にくる前、男の子がなにか大事な話があるって言ってたなあ」

男「こ、告白か!?」

女「だったんですかね? 彼はてっきり幼馴染の女の子のことを好きなのだと思っていたのですが」

男「いや普通に考えてそれだけ見舞いにくるくらいだから女のことを好きだったんじゃないか?」

女「だってわたしは身体が不自由でいつ死ぬかも分からないんですよ? きっとただの同情で来てたのだと思います」

男「・・」

女「いずれにせよ、今となっては分からないですけどね」

仕事休憩中
男「友達を増やしたい」

友「男は友達が少ない・・読まれそうにないタイトルだな」

男「誰がタイトルを考えろと言った。そうではなく女が寂しい思いをしないで済むようにしたいんだ」

友「お前とは違うんだから友達くらいたくさんいるだろ」

男「・・」

友「そうでもないのか?」

男「女の知ってる人は俺と友と俺の両親くらいだな」

友「おおう・・」

男「なんとか友達を増やしたいんだよ」

友「女さんは今仕事とかしてないのか?」

男「専業主婦状態だな」

友「難しいな」

友「しかし、もしも本当に欲しいなら女さん自身が言うんではないか?」

男「そういうものかね」

友「お前みたいにガキじゃないんだから」

男「少なくとも友は俺と同じ歳だよな?」

友「精神年齢の話だ」

男「なんでこんなにバカにされているんだ」

【先走り】
男「こういう話を友としてたんだけど、やっぱり余計なお世話なのか?」

女「そうですね」

男「ばっさり斬るな・・」

女「男は先走りすぎです。わたしの意見を聞いてから動いても良いと思います」

男「すみません・・」

【友達】
女「それに新しい友達なら最近できましたから」

男「え」

女「男が仕事に行ってる間、散歩することもあるので近所の人と仲良くなったりしてるんですよ」

男「へ、へー」

女「なにを動揺してるんですか」

男「べ、べつに女が誰と仲良くなっても良いけどな!」

女「相手は女性ですよ?」

男「!」

女「もしかして嫉妬しました?」

男「・・はい」

女「かわいいですね」

男「・・」

【計画】
男「じゃあ女の新しく出来た友達と、友と女と俺の4人で遊びに行こうか」

女「いいですね、楽しそうで」

男「その友達に今度の休日出かけられるか聞いといてくれ」

女「良いですけど、今度はどこに行くんですか?」

男「リベンジだ」

女「・・まあ頑張ってください」

男「ふっふっふっふ・・」

仕事休憩中
男「友、今度の休日暇だろ?」

友「お前俺をなんだと思ってんの?」

男「暇人」

友「・・否定できないところが辛いが、怒らせたいのか」

男「まあまあ落ち着いて。また一緒に釣りに行こうって誘ってんだよ」

友「また女さんも一緒なのか?」

男「なんと女と最近友達になったという人も来るらしい」

友「当然その人も女性だよな」

男「そうだけど、がっついてくるな」

友「そうか、ならば参戦せざるを得ないな」

友「前回は唐突で俺の実力の半分も発揮できなかったからな・・」

友「今度はもっと大物を大量に釣ってやんよ」

男「ふふふ、俺も時間を見つけては練習したんだ・・。前回のような無様は晒さないからな」

友「良いだろう、勝負だ」

男「望むところだ」

【顔合わせ2】
女「この2人が男と友さん、こちらが女友さんです」

男・友「どうもです」

女友「はじめまして」

男「さて挨拶を済ませたところで早速出かけましょうか」

友「さっさと車出せよ役立たず」

男「その汚名、今日こそ返上させてもらうからな!」

【女友】
友「女友さんはなにしてる人なの?」

女友「学生です。今年M1になりました」

友「あれ、じゃあ男や俺と同い年か」

女友「あ、そうなんですか?」

女「なのでこの人たちにも敬語を使う必要はありません」

友「その通りなんだけど、女さんが言うと何か含みがあるように感じる・・」

女友「あー、そうだね、ちょっと気をつけるよ」

【きっかけ】
男「女友さんと女はどこで知り合ったの?」

女友「大学から帰るときに通る道によくいるから話しかけたんだ」

男「帰るときってことは6時とか7時? 女、そんな時間に散歩してるのか」

女「日が沈む頃の方が落ち着いて歩けますから」

女友「日焼けとか化粧とか気にしなくていいから楽だよね」

女「そういうわけでもないんですが・・まあそうですね」

男「涼しくて良いのは分かるけど、日が沈む頃に歩くなら気をつけろよ」

女友「2人いるから安心だよー」

女「そうですよ。男は心配性です」

【学歴】
男「でもすごいなー、院まで行ってるってことは卒研からずっと研究続けてるんでしょ?」

女友「はい、でもまあ教授からテーマを貰って実験するだけなのでなんとか」

友「卒論でバカみたいに叩かれまくったからもう俺には無理だわ・・」

女友「あはは・・でも意外になんとかなるよ」

女「・・話についていけないです」

男「女は学歴ないもんなー」

女「頭たたき割りますよ」

男「え」

【釣り勝負】
男「さて友、勝負だ」

友「ハンデは必要ないか?」

男「・・ない」

女友「すこし声が震えてるような・・」

女「触れてあげないでください・・恥ずかしいです」

男「む、武者震いだよ!」

友「はっはっはっ、言ってろ」

女「"友さん"がいっぱい釣ってくれると思うのでわたしたちは観戦しつつバーベキューの準備をしてますか」

女友「う、うん。でも良いのかな、二人を放っておいて」

女「大丈夫ですよ、なんだかんだ仲はいいですから」

【タイミング】
男「負けた・・」

女「今回も1尾ですか・・。一体なにを練習したんですか」

友「どうせその辺の池で鯉やら鮒やらを釣ってたんだろ」

男「な、なぜそれを」

友「こういう渓流釣りでは合わせのタイミングが全然違うんだよ、バーカ」

男「クッソぉ・・」

【友情?】
女友「そ、そこまで言わなくても・・」

友「え、あ、これは決して喧嘩だとか侮辱だとかではなくスキンシップなんだよ!」

友「なあ男?」

男「チクショウ、拗ねるぞ!」

友「おい、誤解されるだろ!」

男「ウルセー、友なんか一生独りでいれば良いんだ!」

友「あんだと!?」

女友「ぷっ、あはは! 本当に仲良いんだね」

友「お、おう」

男「今の流れでそう見えたのか・・」

女「端から見てればそう見えますよ」

男「そういうものかね」

【誰の2】
一同「いただきます」

男「さて俺が釣ったイワナちゃんを・・」

女「それ、わたしのです」

男「え、あれ? おかしいなあ」

友「またか・・」

女友「あついねぇ」

【アルコール】
友「今回は前回の様に無計画ではないので・・アルコールがあります!」

女「さすが友さんです。男とは違います」

友「もっと褒めてくれ」

男「俺、運転手だから飲めないんだが」

友「役立たずの敗者のクセにアルコールを所望するのか?」

男「ぐあああああ!!」

女友「まあまあ落ち着いて」

友「女友さんはどれがいい? ビール、チューハイ、カクテル、色々あるよ」

女友「うーん、じゃあチューハイで」

【酔っぱらい】
女「じゃあわたしはこれもらいます」

男「え、それ飲めるの?」

女「? なにか変なんですか?」

男「いや飲めるなら良いけど・・度数メチャクチャ高いよ」

女「よく分からないですけど、高い方が美味しいんじゃないですか?」クイッ

友「うお、一気にとかマジかよ」

女友「すごい・・」

女「・・ふいぃ」

友「あ、これ出来上がってるパターンだぞ」

男「駄目だったか・・」

【説教】
女「男、こっちにきてください」

男「なんだ?」

女「そこに座ってください」

男「え」

女「リベンジとか言ってあの様はなんなんですか」

男「え」

女「大体、練習するならちゃんと下調べしてください」

男「・・はい」


友「・・アイツらのことは忘れよう」

女友「良いのかなぁ」

友「女さんが言ってることは正しいからな」

女友「男さん、気の毒に・・」

【優しさ】
友「さて、役立たず。さっさと車を出すが良い」

男「ぐぎぎ」

女「男は足になるしか出来ないんですから早くしなさい」

女友「女、まだ酔ってるよ・・」

友「まああんな強いの飲めばね」

女「女友も言ってやると良いですよ。あの人、今回リベンジすると意気込んだ結果がこの様なんですからね」

女友「・・次があるよ!」

男「優しさが辛い!」

女友「ええー」

友「男ならいくら責めても大丈夫だから心配ない」

女友「ええー・・」

【酔ってない】
女友「あ、わたしこの辺で降ろして」

男「ん、ってことは友の家の近くか」

友「かもな。送っていこうか」

女友「じゃあお願いします」

友「任されましたー」

女「友さん、女友になにかしたら許さないですからね」

友「はいはい。女さん、早く酔い醒しなよ」

女「酔ってません」

女友「酔ってる人はみんなそう言うよね」

女「酔ってないですー」

【足下】
男「ただいまー」

女「・・」

男「生きてるか?」

女「気持ち悪いです」

男「一杯でやめないからそういうことになるんだ・・」

女「面目ないです・・」

男「とりあえず布団のよこにバケツ置いておくが、念のため仰向けでは寝るなよ」

女「はい・・」

男「足下ふらついてるなぁ・・本当に機械なのかって感じだ」

【酔ってる】
女「・・まだ起きてますか?」

男「起きてるよ」

女「いつもわたしのために色々してくれてありがとうございます」

男「珍しいな、女がそんなこと言うの」

女「・・まだ酔ってるのかもしれません」

男「そうか」

女「いつかわたしはまた独りになってしまいますが、今は楽しくて幸せです」

男「独りになんかならないでいいだろ。もし俺がいなくなったって友も女友さんもいる。女は誰かと繋がることができる」

男「人といる楽しさを忘れなければ、また誰かを求めることができる。だから女は独りにはならない」

女「・・そうですね」

仕事休憩中
男「あー暇だなあ」

友「大学院行ってたらまだ研究三昧してたかと思うと就職してよかったわ」

男「やめろ卒研のことは忘れたいんだ」

友「だよなあ」

男「どうかしたのか?」

友「いや、女友さん頑張るなあと思ってな」

男「連絡とってるのか」

友「おう、帰りに連絡先交換したからな」

男「友も大概手が早いな・・」

友「好みの相手に手を出さないなんて手はない」

男「へー」

友「お前の恋愛相談には乗ってやったのにお前は俺の話を聞く気がないよな」

男「相談したっけな・・。ていうか聞いてほしいのか」

友「2人で遊ぼうって言えなくてなー」

男「・・俺と女をダシにしようってことか」

友「さすが話が早い」

男「ま、そのうちな」

友「期待してるぞ」

【興味】
男「また4人でどこか出かけないか?」

女「良いですけど、また役立たずって罵られたいんですか?」

男「罵らないでくれよ・・。懲りたのでまたしばらく練習するさ」

女「では今度はどこに遊びに行くんですか?」

男「女、遊園地行ったことないだろ? どうだろう」

女「興味はあります」

男「よし決定」

【偶然】
友・女友「お邪魔しまーす」

男「いらっしゃい、って一緒に来たんだ」

女友「そ、そこで会ったんだよ」

友「たまたまな」

男「まあそういうことにしといてやるよ」

女「じゃあ出発しますか」

【定番】
友「遊園地と言えばジェットコースターだよな」

女「お化け屋敷ではないんですか?」

女友「どっちも心穏やかに楽しめないよ・・」

男「そういうのは駄目な感じか」

女友「うぅ、面目ないです・・」

【みんなの】
友「大丈夫怖くないよ、女友ちゃん」

女「・・ずいぶんと馴れ馴れしくなったものですね」

男「なんで女が苛立ってるんだよ」

女「女友はわたしの友達ですから」

女友「あはは、わたしはみんなの友達だよー」

友「なー」

女「・・まあ女友がそう言うのであればしかたがないですね」

【照れ屋】
友「まあなにはともあれジェットコースターに乗らなきゃ始まらないよな」

女友「はわわ・・」

友「女友ちゃん、なにかあったら俺が守るから大丈夫」

女友「うぅ、じゃあ頑張るよ」

女「一列に2人ですか」

男「まあ俺と女、友と女友、じゃないか普通」

女「わたしと女友、男と友、はないんですか?」

友「ないない」

男「もしかして俺って嫌われてるのかなぁ・・」

女友「そ、そんなことないよ!」

女「余計なこと言わないでください」

女友「照れ屋さんだなあ」

【ジェットコースター感想】
男「見た目ほどのスリルはなかったなー」

友「だな」

女「・・もう絶対に乗りません」

女友「・・女に同じくだよ」

男「あらら・・」

友「初めて乗るとこうなるよなー」

女「初めてがこれで、どうしてまた乗ろうと思えるのか分かりません・・」

男「男には引けないときがあるからな・・」

友「だよな・・」

女友「男はみんなバカなんだねえ・・」

【暴落】
女「次はお化け屋敷に入りましょう」

女友「ふえぇ・・」

友「大丈夫だって、なにがあっても俺が女友ちゃんを守るから」

女友「さっきのジェットコースターで、人は人を守れないことが分かったよ・・」

友「」

男「無理に乗せた友の自業自得だな」

女「・・男も自分の株が落ちたことに気付くべきです」

男「」

【ペア】
女「男性陣は頼りにならないので、やはりわたしと女友の組みで行くべきだと思います」

友「いやいやいや、男と女は付き合ってるんだから二人で行くべきだろ」

男「・・やっぱり嫌われてるんだ」

女友「男さん、しっかり。女はツンデレちゃんなのだよ」

女「また余計なことを」

友「女さんがなんと言おうが俺は女友ちゃんと行くからな」ガシッ

女友「え」

女「あ」

男「・・連れてかれたな」

女「やられました・・」

男「じゃあまあ俺らも行くか」

女「・・そうですね」

【お化け屋敷】
女「きゃー」

男「・・女、怖がってないよな?」

女「な、なにを言ってるんですか、すごく怖がってます」

女「怖くなかったら男に抱きついたりなんかしません」

女「それとも男はわたしに抱きつかれるのが嫌なんですか」

男「嫌じゃないけど」

女「なら構わないですよね」

男「・・そうだな」

【お化け屋敷感想】
男「怖くなかったな」

女「そうです・・そんなことなかったですよ」

男「・・」

女友「わたしも、友さんのおかげで意外と平気でした」

友「頼りになるだろ」

女友「うん、頼りにしてる」

友「とりあえずはこれで汚名返上だ」

女「男の汚名返上はいつになるんでしょうね」

男「うぐ、ここでもその話題を出すか・・」

【時間】
男「そろそろ帰るか」

女「もうそんな時間ですか」

女友「遊んでると早く時間が過ぎるよね」

友「遊び足りないならまた来ればいいだろ」

女「そうですね。期待してた以上に楽しかったです」

男「それはよかった」

仕事終わり
男「終わったー」

友「お前は良いよなー、帰れば飯もあるし人もいるもんなー」

男「友も同棲すれば良いだろ」

友「まだもう少しかかるわ」

ヴー、ヴー

友「ん、俺か」

友「はいはい? え、なに男に? どうしたの?」

友「・・? 男、女友ちゃんが代われって」

男「? なんだろ」

男「はいもしもし」

男「女友さん!」

女友「あ、男さん・・」

男「な・・」

女友「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・」

男「あ・・あ・・・・」

男「なん・・で・・?」

女友「いつもみたいに一緒帰ってたら・・はねられて・・わたしなにもできなくて・・・・」

男「・・・・」

男「・・親父ならなんとかできるかも知れない」

男「クソッ、さっさと出てくれ!」

父『おう、お前から電話をくれるとは珍しいな』

男「女が事故に遭った。動かないんだ。親父、なんとかできないか?」

父『・・とりあえずジジイの家に連れてこい』

男「ジジイ、ってばあちゃんの家か」

父『そうだ、さっさと連れてこい』

車内
女友「あの・・女ってやっぱり人じゃないんだよね」

男「・・知ってたのか」

女友「なんとなく、ときどき普通じゃないなって思ってただけだったんだけど・・」

女友「車にぶつかられたあと、女がおかしくなって・・。それに傷だらけなのに血も出てなくて・・」

男「・・女は人造人間なんだよ」

女友「人造人間・・」

男「ああ。身体は全部機械なんだよ」

女友「・・そうなんだ」

男「だから救急車とか呼ばれなくて助かったよ」

女友「うん・・よかったんだよね、これで」

男「ありがとうな」

小休止

男「親父!」

父「おう、ってなんだ浮気か?」

男「冗談は後で言え! 今は急いで女をなおして」

父「落ち着け、男。女さんは機械なんだ。1秒が原因でなおらないということはない」

男「・・」

父「むしろ時間をかけて慎重に確実に事を進めるべきだ」

男「・・分かった。なにをすれば良い」

父「とりあえずこっちに女の身体を運んでくれ」

女友「・・うちの研究室より立派な設備かも」

父「とは言ってもほとんどが私の父の時代のものだからね、50年以上前のコンピュータばかりだよ」

男「50年前でも演算速度は大して変わってないだろ」

父「維持費は新しい方が安いよ」

父「さて、ここからは君らに手伝ってもらうことは特にないし休んでていいよ」

男「邪魔でないならここで見てる」

女友「わ、わたしも」

父「そうか、分かった」

父「・・身体の損傷は控えの部品と交換するだけで良さそうだ」

男「本当か!? じゃあなおるんだな?」

女友「本当ですか!?」

父「身体はな」

男「・・なんだよ、その言い方」

父「人格データに破損があるらしい、復旧できない」

男「・・どうなるんだよ」

父「人格がなければ身体を起動できない。つまり目覚めない」

男「バックアップとかないのかよ!」

父「あるにはある」

男「なんだよ、驚かせやがって・・だったらそれで起こせば良いだろ」

父「しかしこれは女さんが一番最初に目覚めたときのデータだ」

女友「なにか問題があるんですか?」

父「もし、記憶領域も破損しているようであれば、バックアップから復元した女さんの意識は25年前目覚めたときと同じことになる」

男「!」

父「つまり、また女さんは誰だかも分からない私たちによってこの世界に連れて来られ、大切な人たちを失うことになるんだ」

男「・・」

父「・・私はもう女さんを眠らせても良い頃だと思うよ」

女友「え・・?」

父「・・すこし昔話をしようか」

50年前
少年「・・誰だ、お前」

女「・・ここは?」

少年「ここは俺の家だ」

女「君の? こんな小さい子が家を持ってるの?」

少年「う、うるせー! ジジイのものは俺のものなんだよ!」

女「ジジイ・・ああ、おじいちゃんの家なんだね」

少年「お前、もしかしてジジイの研究を盗みにきたのか?」

女「ち、違うよ! 気付いたらここにいただけで・・」

少年「・・ふーん。なら良いけど、ジジイなら今はいないぞ」

女「・・そのジジイってどんな人なの?」

少年「よくわかんねーけど、すげえ博士で、すげえ研究をやってるんだって母さんが言ってた」

女「博士なんだ、すごいね」

少年「ふふふ、って全然すごくねーよ、あんなジジイ! このあいだ眠ったっきり起きやしねえ! 母さんに苦労ばっかりさせるクソジジイだ!」

女「・・そっか。ゴメンね、君のお家に勝手に入っちゃって」

少年「・・いいよ、泥棒じゃないんならね」

30年前
青年「お前・・、あのときの」

女「・・どちらさまですか?」

青年「お前が目覚めた部屋にいた子供だ」

女「! あのときの少年ですか、大きくなりましたね」

青年「そうか、お前がジジイの研究してた人造人間だったんだな」

女「・・さっきからお前、お前と失礼ですね。わたしには女と言う名前があります」

青年「あ、ああすまない。俺は青年という者だ」

青年「お前、この20年間なにをしてたんだ?」

女「とくになにもしてませんよ。ただ色々なところを歩いていただけです」

青年「金は?」

女「電子マネーって便利ですよね」

青年「・・これからは俺が払ってやるからそんなことはするなよ」

女「なんなんですか? 人のことをお前呼ばわりする人にそんなことされる言われはありません」

青年「・・」

青年「・・なんだこれは」

女「ご飯とみそ汁ですが」

青年「お前はこれを食べてみたのか?」

女「わたしは充電すれば大丈夫なので」

青年「・・食べてみやがれ」

女「なんですか、もう」パクッ

女「・・・・」

青年「ヘタクソ」

青年「お前、甘いものが好きって言ってたよな」

女「なんですか薮から棒に」

青年「これ帰りに買ってきた。プリンだ」

女「プリン、ですか。初めて見ました」

青年「食べてみろよ」

女「・・美味しいです」

青年「それはよかった」

女「青年はいつになったらわたしのことを名前で呼んでくれるんでしょうね」

青年「・・別にかまわないだろ、お前で通じるんだから」

女「まあ慣れましたけどね」

女「青年の研究はどうなんですか? 順調ですか?」

青年「とりあえず、ジジイに追いつかないことには話にならないな・・。あの人、たった一人でお前を作り上げたんだからとんでもない人だ」

女「まだまだ道は長いですか」

青年「お前になにかあってもなおせる程度には、実家の設備を理解してきたよ」

女「それは心強いですね。わたしに何かあったら、ちゃんとなおしてくださいよ?」

青年「任せろ」

女「リベンジです」

男「ご飯とみそ汁か」

女「今回はちゃんと味見をしながら作りましたよ」

男「みそ汁ごときで味見なんてって気もするが、まああの腕じゃな・・」

女「だから今回は美味しいですから」

男「はいはい、いただきます」

男「・・美味い」

女「そうでしょう。伊達に色々なレシピを検索してません」

男「うまい、うまい。これなら毎日作ってほしいわ!」

女「そ、そこまで言うなら仕方がないですね・・」

25年前
青年「・・おい! 嘘だろ、目を覚ませよ! なんで俺なんかを庇ったんだよ、お前!」

女「・・・・」

『わたしに何かあったら、ちゃんとなおしてくださいよ?』

青年「・・ああ、そうだ。俺がなおせば良いんだ。待ってろよ、すぐに起こしてやるからな」

・・

青年「データのバックアップが起動時のものしかない・・か。しかし記憶データさえ破損してなければ・・・・」

女「・・ここは?」

青年「目が覚めたか、女。ここは・・俺の家だ」

女「・・あなたは誰ですか? なんでわたしの名前を知ってるんですか? わたしはなんでこんなところに?」

青年「なんでって・・」

女「こ、来ないでください! 人を呼びますよ!」

青年「・・あっちが出口だ」

父「これが女が最初に目覚めてから、2回目に目覚めるまでにあったことだ」

男「・・・・嘘ついてたんだな」

父「25年前に彼女が目覚めたときに私はこの部屋にいたし、少年でもなかった。なにも嘘は言ってないだろう」

男「そういう話じゃない!」

父「・・2人が楽しく生きるのにこんな話は必要ないだろう」

男「そうかも知れないけど・・!」

女友「男さん、落ち着いて・・」

男「・・ごめん」

父「・・一つ、方法がある」

男「どんな!?」

父「ただ彼女の不安を取り除くだけの話だけどな」

父「さっきバックアップデータがあると言ったが、あれは彼女がここに連れて来られる直前の世界すべてのデータのバックアップだ」

父「そこにお前の意識のコピーを送り、彼女にすべての事情を説明してここに来るかを選ばせる」

父「そうすれば少なくとも、目覚めたときに私たちを見て逃げる、ということはないだろう」

男「女のいた仮想世界にダイブできるのか」

父「ジジイはそれについても研究していたからな」

男「・・やる。それでもう一度女に会えるならやらないわけがない」

??
男「・・ここは」

男「あそこにあるの病院、か?」

『わたしはベッドの上でただ毎日を無為に過ごしていたんです』

男「あれ、女が入院してる病院か・・暗くなり始めてるし面会時間終わってなければ良いけど」

・・

男「すみません、女さんの病室を探してるんですけど」

「ああ、それならあっちですよ」

男「ありがとうございます」

男「あった、この部屋だな」

ガラッ

男「うおっと」

青年「・・誰だ、お前」

男「お前こそ・・ってどこかで見たことあるような・・」

青年「なにを言ってるんだ、俺はお前なんか知らないぞ」

男「あ、ジイさんの写真とそっくりなんだ」

青年「・・まさか。おい、着いてこい」

男「は?」

男「なんだよ、お前は」

青年「俺は青年だ」

男「ジイさんと同じ名前だ」

青年「・・やはりか」

男「なんだよ、お前ばっかり納得しやがって」

青年「俺はお前の祖父で間違いないだろう。お前、現実は何年だった?」

男「~年、って"現実は"?」

青年「・・俺がここにダイブしてから50年以上経ってるのか」

男「はあ? ジイさんはここにダイブしてたの?」

青年「・・とりあえず状況を整理してやろう」

青年「俺は女を助けるためにこの世界を創ったんだ」

男「女を助けるために? 適当にサンプルを採ったんじゃないのか?」

青年「誰に聞いたんだそんなこと」

男「女から聞いたんだが・・」

青年「・・確かにあいつにはまだ説明しておらんが、現実に送る前には説明をする予定だぞ」

男「はあ? 女は目が覚めたらいきなり知らないところにいたって言ってたぞ」

青年「・・どういうことだ、俺の設計にミスがあったのか?」

男「というか、女を助けるってどういうことだよ。ここは仮想世界なんだろ?」

青年「ここは仮想世界だが、現実世界の過去そのものだ」

男「は?」

青年「俺は0から始まる現実とまったく同じ世界を創りだして、その中で生まれた女を現実に連れ出すことであいつを助けようとしたんだ」

男「え、え?」

男「じゃあ、女は50年前、いやジイちゃんが若い頃だから・・70年か80年前に現実に生きていた、ってことか?」

青年「そうだ」

男「じゃあ・・女が会いたくないって言ってた博士って・・友達の男の子、だったのか・・」

青年「・・ああ、現実ではそんな風になってしまったのか」

男「・・それどころか、女が目覚めたときにはジイちゃんは意識不明で、俺が産まれる前にはそのまま死んでしまったよ」

青年「そうか・・、それはかえって忘れてくれて助かったな」

男「・・しかし、今回は忘れられちゃ困るんだ」

青年「ふむ。そういえば50年越しにお前がここに来た理由を聞いてなかったな」

男「事故で人格データが破損して女が目覚めなくなったんだ。だからこのバックアップからもう一度人格を呼び出す」

男「ただ記憶データも壊れていた場合、また女が寂しい思いをするから、今回はちゃんと事情を伝えて現実に行ってもらわないといけない」

青年「そうか。ところで、女が最後に覚えていた記憶がなにかは分からないか?」

男「・・」

『男の子がなにか大事な話があるって言ってたなあ』

男「男の子に大事な話があるって言われた、って言ってた」

青年「やはりそこまでか」

男「だからジイちゃんばかり納得するな」

青年「それは今日、さっきのことだ」

青年「恐らく、記憶のうち、睡眠による整理を行われてるものだけが正しく送れるのだと思う」

男「じゃあ明日伝えて、明後日に人格を現実に送れば良いんだな」

青年「それは無理だ」

男「なんでだよ」

青年「女は明日の午後、容態が急変して死ぬからだ」

男「な!? なんでそんなギリギリの日程なんだよ!」

青年「俺たちは女のことを最期まで知ってるから・・かね。できるだけたくさん、同じ記憶を持った女に会いたかったんだ」

男「・・思い出か。俺も女の記憶が残ってれば、と思ってるんだから同じか・・・・」

青年「しかし病院の面会時間は終わってしまったな」

男「電話とかメールとかは」

青年「女はずっと病院暮らしだったからそういうのは持ってないんだ」

男「・・侵入するか」

青年「病院のセキュリティ次第だな」

男「ジイちゃん、この世界の創造主なんだろ。それくらいなんとかしろよ」

青年「女の人格を現実に送る以外、内部からは干渉できない設計になってるからな」

男「え」

青年「さらに言うと、外部にこの世界の様子を描写するシステムも作ってないから、現状を現実に伝える術はない」

男「どういうことだよ」

青年「お前が今知った情報を現実に伝えることはできないから、仮にやり直したとしても蓄積はない、ってことだ」

男「現実に情報を持ってかえれるのは現実に目覚める女だけってことか」

青年「そういうことだ」

男「警察に捕まってでも今日中に女に伝えるべきことを伝えないと・・」

青年「俺は明日女を現実に連れ出すプロセスを実行するまでは捕まったりできないぞ」

男「俺一人で行けばいい」

青年「今の女はお前の知ってる女じゃない、まるっきりの初対面だ」

男「それでもいい。話すのは俺じゃないんだからな」

青年「分かりやすく言え」

男「俺が女のところに行って携帯端末を置いてくる。その端末にジイちゃんから連絡が行くことを伝える」

青年「・・なるほどな。実際に俺が電話をすれば女も信じてくれる、ということか」

男「なんだったらジイちゃんに手紙をつけてもらえばもっと信じてもらいやすい」

青年「相分かった」

青年「・・失敗するなよ」

男「見つかったって、捕まらずにゴールまで行けば良いんだ。楽勝だよ」

青年「手紙を見てもらえなかったらお終いだからな」

男「分かってるって!」

青年「ではな」

男「ありがとうな、ジイちゃん」

男「さて、まずはどうやって病院に入るか、だよなー」

男「あれだけ大きな病院だし、やっぱこれかな」

男「・・一応公衆電話でやろう」

男「もしもし、道でいきなり人が倒れまして・・」

男「よし、あとは倒れておこう」

ウーウー

「通報があったのはこの辺りだったな。急患はどこだ!?」

男「こ、ここです・・。う、ぐあああああ!!!」

「ここだ! ここに急患がいるぞ!」

「目の前が大病院でよかった、あそこに行くぞ!」

男「がああああああああ!!」ガクッ

「ではこちらの病院でお願いします」

「はい」

ガラガラ

男(今だ!)

「あ、患者さん!?」

「侵入者か!?」

男「はは、入っちまえばこっちのもんだ!」

「待てー!」

男「ここだ!」

男「女!」

女「!? 誰ですか!?」

男「今は誰か分からなくても良い、青年からこれを預かってきた。話を聞いてやってくれ!」

女「青年から? え?」

男「頼む、受け取ってくれ!」

女「・・分かりました」

男「ありがとう」

「いたぞ、ここだ!」

「女さんの病室に入ってるぞ! 女さんは大丈夫か!?」

男「大丈夫、心配しないでよ。俺は女の顔を見にきただけなんだ」

「こっちに来い! 警察に突き出してやる!」

男「あはは、参っちゃうなあ」

男「女、お前のこと絶対に助けるから信じてくれよ」

・・
青年『女か?』

女「うん」

青年『ってことは男は無事に役目を果たしたんだな』

女「捕まってましたけど」

青年『・・なにをやってるんだアイツは。まあ良い、もう就寝時間だろうし黙って聞いてくれ』

女「」コクン

青年「本当は明日の朝ゆっくり説明しようと思ってたんだが、どうやら時間がないから今すべて説明するぞ」

・・・・

現実
女「・・ここは?」

男「女? 女なのか?」

女「あなたは、あのときの」

男「あのとき?」

女「・・男ですよね」

男「俺が分かるのか!? よかった・・記憶は壊れてないんだな」

女「・・心配かけましたね、女友も」

女友「うあああ!! もう会えないかと思ったんだよ・・! もう絶対にこんな風にさせないんだからね!!」

女「・・それに父さんにも本当に色々な迷惑をかけました。今回も・・昔も」

父「!? ・・いや全然迷惑なんかじゃないよ」

女「・・ありがとうございます」

【お盆】
女「男、博士のお墓がどこにあるか知ってますか?」

男「ん、あー祖母と一緒だからあの家の近くだよ」

女「そうですか、今から一緒にお墓参りに行きませんか?」

男「良いけど、博士のこと嫌いだったんじゃないのか?」

女「ふふ、お墓参りの道すがら話してあげますよ。わたしの、いえ博士と・・みんなの話を」

とりあえずは終わり
おまけというか補足エピソードがあったりするけど、もう黙ってた方が傷が浅くて済むかも知れないから反応次第で

本編考える傍らオチを数日考え続けたけど思いつかなさすぎて、
今ちょうどお盆休みやん!
って我ながら上手いと思ったけどやっぱり尻切れですよねー(´・ω・`)

本当にただの自己満足&補足エピソードなのでさらに尻切れ感が増すと思いますがそれでもよければ続きをどうぞ

女「実を言うと、事故のときに記憶データはほとんど壊れたんですよ」

男「冗談だろ?」

女「本当です。世の中そう都合良くは動いてくれないものですね」

男「少なくとも今の様子を見る限りでは都合良く動いてるように見えるが・・」

女「目にはなかなか映らないけれど、この世界にはたくさんの優しさがあるんです」

男「なんだそれ」

女「だからそれを今から話してあげます」

女「と言っても、どこから話しましょうか・・」

男「・・記憶が壊れたのに話せることがあるのか?」

女「みんなのおかげです」

男「??」

女「とりあえずは、壊れてた記憶についてですかね」

仮想世界・女の死ぬ前夜
女「・・あの人、いったい誰だったんですかね」

女「あの人が置いていったもの・・携帯端末? と手紙が2枚、ですか」

女「一枚目の内容は・・」

『青年だ。詳しくは21時に電話で話すが、概要だけ手短に手紙で説明する』

『この世界は仮想世界で、現実の女は明日の昼過ぎに死んでしまった』

『俺は女を救いたい一心でこの世界を創り、現実に女の身体を用意した』

『・・色々な事情があって、現実の世界は70年の時間が過ぎ、俺も幼馴染もいないらしい』

『それでも女が生きたいと思うならば、明日現実に女を送るための処理を実行する』

女「・・なんですか、それ? この世界が青年の創った世界?」

女「わたしが創作が好きだからこんな話をしてるんですか・・?」

女「仮にこれが本当だったとして、青年も幼馴染もいない、わたし一人の世界になんて行きたくないです・・」

女「わたしは、生きたい・・ですけど、それはみんなとだから、なんですよ・・・・」

女「・・手紙、もう一枚ありましたね。・・21時までにはまだありますし、こっちも一応・・」

『この手紙を届けた男と言う者だ。なにを説明しようか悩んだが・・、俺の話をしよう』

・・・・・・・・・・

女「・・本当に青年の言う現実に行けばこんな人たちが待っていてくれるんでしょうか・・」

女「・・・・わたしは・・人と笑っていられるんでしょうか・・」

女「・・信じて、良いんですか?」

『お前のこと絶対に助けるから信じてくれよ』

女「・・うん。・・・・うん」

女「わたしが覚えてるのはこのあと、青年から受けた電話までですね」

女「あの手紙があったから壊れた記憶データの断片の多くを復元できたんです」

男「おー、なんか俺のコピー頑張ったんだなぁ」

女「確かにあれは男のコピーですが、もし男でも同じように一生懸命になってくれたのでしょう?」

男「当然!」

女「ふふ、信じてますよ」

女「男が知らないと言えば、女友との出会いもちゃんと知らないですよね」

男「そうだな」

女「女友と初めて話したのは男にプロポーズされた次の日です」

女「・・・・・・・・」

女友「・・あの?」

女「はい?」

女友「風邪、ひいちゃいますよ? こんな雨の中、傘もささないでいたら」

女「・・大丈夫ですよ。わたしはそういうのにはならないですから」

女友「なにか、あったんですか? いつもはもっと楽しそうに歩いてますよね?」

女「・・」

女友「あ、すみません。でも最近この時間に帰ると可愛い人がいるなーって思ってたんです」

女「・・ああ、最近はよくここ歩いてますね・・」

女「なにかあったか・・ですか。・・何もありませんよ、わたしには」

女友「・・わたし、女友って言います。よかったら一緒にお話しませんか?」

女「・・」

女「わたしは長い間病気で、人のお荷物だったんです」

女「・・今でこそ病気ではありませんが、相変わらず欠陥のある身体であることには違いありません」

女「だから人と友達になることはあっても、それ以上踏み込むことも踏み込まれることもないだろうって勝手に思ってました」

女友「・・」

女「でも昨日、そこに踏み込まれました」

女「絶対に来ないだろうと思っていたところに踏み込まれて、その人のことを嫌いではないはずなのに・・どうしようもなく怖くてたまらなかったんです」

女「自分なんかのために大切な人の時間を奪うのはもう嫌なんです・・」

女友「・・その人はきっとなにも奪われてなんかいないですよ」

女「・・」

女友「わたし、けっこうドジでたくさんの人にたくさん助けられてますけど、でもわたしも出来るだけたくさん周りの人を助けてます」

女友「わたしなんかでも人を助けられるとありがとうって言ってもらえるんです。もし、その人がわたしに何かを奪われてるなんて思ってたら絶対そんなこと言ってくれないと思うんですよね」

女「・・」

女友「たしかに、その時はその人の何かを奪うかもしれませんけど、ちゃんと返すことができるんですよ」

女友「だから、えーっと・・名前なんでしたっけ?」

女「・・女です」

女友「だから、女さんもその人に何かを返さなきゃいけないんですよ」

女「でもわたしは・・」

女友「その人は女さんの身体のことを知らないんですか?」

女「いえ・・」

女友「だったら、その人はそんな形で何かを返してもらおうとは思ってないはずです」

女友「その上で、女さんに色々なものをあげたいと思ったんだと思います」

女友「それとも女さんはその人のことが嫌いなんですか?」

女「そんなことはないです! ・・」

女友「だったらきっと、戻れば良いんだと思います。それだけできっとその人はあなたからたくさんのものを得られるはずです」

女「・・ありがとうございます」

女友「・・ちょっと出しゃばり過ぎちゃいましたかね?」

女「ふふ、そんなことないです。また一緒に話してくれますか?」

女友「もちろんです」

男「戻ってきたの、女友さんのおかげだったのか」

女「・・自分で言ってて恥ずかしくなってきました」

男「でも戻ってきてくれたとき、本当に嬉しかったよ」

女「・・それはよかったです」

男「たしかに、人の優しさっての思いがけずあるもんだなあ」

女「優しさと言えば、電子マネーのことですが」

男「うん?」

女「わたしは適当にデータを誤摩化して使っていたんですが、どうやらその情報は父さんに送られていたみたいですね」

男「え、そうなの?」

女「みたいです。わたしが勝手に使った分のお金を父さんがずっと立て替えてたらしいです」

男「親父がストーカーみたいに思えてきた」

女「そう言わないでください、良い人なんですから」

男「俺は?」

女「・・素敵な人です」

男「なら良いかな」

女「・・扱いやすい人ですね」

男「なんだと!?」

男「・・怖くて聞きたくない気持ちもあるんだけど、お袋と卒アルとか見てなにを話してたんだ?」

女「・・聞いちゃいますか?」

男「うああああ、聞きたくねえけど、聞かないのも怖い!!」

女「これ男なんですか? かわいい顔してますね」

母「でしょー。それが今はアレだからねえ」

女「あはは、でも今は今で良い顔してますよ」

母「わたしから見ると情けない顔ばっかりでねえ」

女「やるときはちゃんとやってくれますよ」

母「そうかあ。それを聞いて安心したよ」

男「思ったより普通な会話で良かった・・」

女「まあこれ以外はオフレコでってことになってますから」

男「うわああああああ・・」

女「そんなに聞かれたくないような思い出があるんですか?」

男「・・・・」

女「そういえば男の手紙には男が告白してくれたところからしか書いてなかったんですが、

  最初に会ったとき、男はどんな風に話しかけてきたんですか?」

男「それは修復できてないのか」

女「女友との話とかも、本人に聞いて修復してますからね」

男「そうか、そういうもんか」

男「最初に会ったときか・・」

男(あー、すげえ可愛い人がいる)

女「・・あの?」

男「は、はい!」

女「・・いえ、すみません人違いでした。古い友人に似ていたので」

男「あ、そうですか・・」

男「あ、あの!」

女「はい?」

男「俺はあなたの古い友人ではないですが、新しい友人にならなれると思います」

女「あ、はい、・・そうかもしれないですね」

男「・・明日もこの時間にここを通るので、また明日」

女「・・はい、また明日」

女「なんですか、それ。カッコ悪いですね」

男「必死だったんだよ・・」

女「ああでもなんとなく思い出しました。なんとなく博士の面影のある人だなって思ってつい話しかけてしまったんですよね」

男「ジイさんの孫で良かったわ・・」

女「わたしも、男が博士の孫で良かったと思います」

補足エピソードはここまで
キリの良さとかナニソレ美味しいの?

ここから先は本当に蛇足な自己満足

【温情のない物語】
仮想世界・女の死んだ日
男「あの・・、ホントに申し訳ないと思ってるのでそろそろ解放してくれないでしょうか・・」

「救急車の出動も、急患の受け入れもタダじゃないんだよねえ」

男「いや、でも俺金も身分証明書も持ってませんし・・」

「だから、家族に連絡するから実家の連絡先を教えてって言ってるでしょ」

男「あー、俺の親まだ生まれてないんですよ・・」

「何を言ってるんだお前。バカなのか?」

「お前、もしかして密入国者か?」

男「邦人ですよ・・。ていうか外国語なんてなにも喋れないのでお願いですから海外追放なんてしないでください」

「あーもう埒が明かねえな・・」

男「それは俺の台詞ですよ・・」

「ああ?」

男「ひっ、すみません」

【語り部のない物語】
青年「女、昨日の返事を聞きにきた」

女「・・わたしは青年や幼馴染がいない世界で生きたいなんて思ってなかったんですよ」

青年「やはりそう言うか・・」

女「最初は・・ですけどね」

青年「最初は?」

女「現実で、わたしを待ってる人たちがいるんだそうです」

青年「・・ああ、らしいな」

女「こんなただ眠ってるだけのわたしを大事だと言ってくれる人が、一緒に笑ってくれる人が、いるんです」

女「・・これまで死ぬのが怖くてたくさん泣いちゃいましたけど、こんなに嬉しくて泣くのは初めてです」

青年「・・待ってるのは彼らだけじゃない」

女「?」

青年「俺も幼馴染も、・・もう現実では死んでしまったらしいが、ずっとまた女と会いたいと思ってた」

女「・・うん」

青年「これで俺は女を助けられるんだよな・・?」

女「うん」

青年「そうか、良かった」

青年(女の記憶は昨日の夜までしか現実に引き継がれない)

青年(であれば今、俺が女に思いを伝えても問題はない・・が)

青年(俺はもう死んでいる身、か)

青年(これからを生きる人の、ましてや自分の孫の枷になるようなことはしてはなるまいよ)

青年「・・今から女の意識を現実に送るぞ」

女「・・お願いします」

「先生! 女さんの容態が!!」

「いかん! このままでは・・」

「南無三・・」

幼馴染「女ああ! バカ、バカ! まだたくさん話したかったのに!」

青年「・・ああそうだなよあ。もっとたくさん話したかったし、色んなところに連れて行ってやりたかったなあ」

青年「うぅ・・ああぁぁアアアア!!!!!」

青年「俺は・・、俺は・・なんのためにここまで来たんだよ! お前に! 女に、思いを伝えたくて、伝えたくてここまで来た俺は・・なんだったんだよ・・・・こんなの・・ねえよッ!!!」

青年「うああああああアアア!!!!!!」

博士好きすぎてこんなことになってしまった
見せ場が作りたかったんだ・・

蛇足もこれで終わり

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