勇者「それでも俺は魔王を倒す」ヒロイン「言うと思った」 (64)

※勇者、魔王系ファンタジーです
※以前ツクー○で制作した作品のSSリメイクです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1407721899

??????????
?????

【魔王城】

戦士「こ、ここまでか…」

魔王「くくく…勇者といったか。貴様ごときが人間共の頼みの綱とはな…」

勇者「ぐっ…」

魔王「まぁよい、充分に楽しめたからな。…さぁ、まずはヒロイン!貴様から葬ってやろうっ!!」

ヒロイン「!!」

勇者「…危ないっ!!」バッ

ザンッ

勇者「ぐあああああぁぁっ!!」

ヒロイン「え…」

戦士「ゆ、勇者?!」

魔王「ほう…愛する女の為に自ら身を投げたか」

ヒロイン「勇者…なん、で…?」

勇者「…ヒロインを守りたかった」

戦士「勇者、お前…」

ヒロイン「馬鹿…勇者の馬鹿…っ!!」

勇者「…馬鹿で、ごめんな。俺は…もう駄目みたいだ…」

ヒロイン「喋らないで!血が…血が…っ!」

勇者「だけどヒロイン…君は死なせない」

戦士「お、おい!お前まさか…」

勇者「ああ…そのまさかさ。どうせ俺はもう助からない…」

勇者「…だったら、俺の命と引き換えに、君を守ってみせる…」

ヒロイン「やめて!あの魔法は…!!」

勇者「…我、ここに禁を破りて、神にも等しき加護を汝に授けんっ!!」

ポワァァァァン

勇者「これならきっと…!!戦士と、力を合わせて魔王を倒してくれ…!!そして…いつか、誰も苦しむ事のない平和な世界…を…」ガクッ

ヒロイン「……」

ヒロイン「いやあああぁぁぁぁぁっ!!」

~~~~~

夜空の星を数えるの

あなたのキスを数えるように

言葉なんていらないよ

朝には消えてしまうから

~~~~~

【はじまりの村】

『目覚めよ…目覚めるのだ…』

勇者「……」

『さぁ立ち上がれ…我らが英雄よ…』

勇者「!!」ガバッ

勇者「え、あれ…。俺は一体…ここは…?」

勇者「…駄目だ、何も思い出せないな。」

勇者「…ん?」

勇者「…『魔王』、頭の中に浮かんでくるこの言葉はなんだ?」

勇者「どうしてだか、この言葉の意味を考えるだけで憎しみが湧いてくる…」

勇者「…魔王め!俺がぶっ飛ばしてやるっ!!」

勇者「…なんちゃって。そもそも魔王って誰だよ。」

勇者「…うん、とりあえず起きるか。よっと。」

勇者「ここは家だよな…俺の家なのか?」ガチャ

妹「あ、お兄ちゃん!おはよう」

勇者「あっ…」

妹「お兄ちゃん…あいつを倒しに行っちゃうんだね」

勇者「あいつ?」

妹「大丈夫…もう泣かないよ。私、いい子にして待ってるから…」

勇者「いや、その…君は」

妹「そうだ、これ持って行ってよ。私昨日徹夜で作ったんだから」

勇者「これは…お守り?」

妹「うん!どう、ちょっと嬉しい?なかなか兄想いの妹でしょ!」

勇者「あ、その…」

妹「ほらほら、ボーッとしないの。皆お兄ちゃんに期待してるんだから!行ってらっしゃい!」

勇者「なんなんだよ一体…半ば強引に追い出されたような…」テクテク

「やっほー」

勇者「?!」

「やっぱりここにいたんだね」

勇者「やっぱりって…?」

ヒロイン「私はヒロインって言うんだけど。あなたは自分の名前わかる?」

勇者「俺は…えっと、記憶が曖昧で…」

ヒロイン「…あなたは勇者っていうの。だから勇者って呼ぶね」

勇者「俺が…勇者?」

ヒロイン「うん。…何か他に覚えてる事はない?」

勇者「…そうだ、魔王を倒したい!倒さなくちゃいけない…気がするんだ」

ヒロイン「ふぅん。わかったわ」

勇者「いや、でも…その魔王っていうのが何なのか、誰なのかすら俺にはわからないんだ」

ヒロイン「いいんじゃない?目標があるって羨ましいよ。私も協力してあげる」

勇者「…きょ、協力?!え、だってそもそも魔王っていうのが…」

ヒロイン「…気が向いたら色々教えてあげるよ。どっちでも一緒だけどさ」

勇者「気が向いたら…?どっちでも一緒…?君、一体それってどういう…」

ヒロイン「ヒロイン」

勇者「?」

ヒロイン「私、『君』なんて名前じゃない。私の名前は『ヒロイン』」

勇者「…あ、ああ…悪かった。名前で呼ぶよ、ヒロイン…」

ヒロイン「…キスしてくれたら許してあげる」

勇者「は、はぁ?!」

ヒロイン「…冗談よ。戦士の家に向かいましょ」

勇者「戦士…?」

ヒロイン「戦士はね…まぁ、簡単に言えば仲間よ」

勇者「仲間…俺やヒロインの?」

ヒロイン「…会ってみればわかるわ、私より優しいから」

勇者「はぁ…」

ヒロイン「私に付いてきてね」

勇者「…まだなのか?その戦士って人の家は」

ヒロイン「もうすぐよ」

男の子「あー!勇者お兄ちゃんだ!」タッタッ

勇者「少年…?」

ヒロイン「……」

男の子「勇者お兄ちゃんと戦士お兄ちゃんが、あいつを倒してくれるんだよね!」

勇者「あいつ?そういえば家にいた…妹?も確かそんな事…」

男の子「僕も大きくなったら、お兄ちゃん達みたいに強くなりたいなぁ!」

勇者「俺って…強いのか?っていうか君は…」

男の子「やっべ!早く帰らないと母ちゃんに怒られちゃう!じゃあねー勇者お兄ちゃん!」タッタッ

勇者「あ…」

ヒロイン「どうかした?」

勇者「いや…今の少年、どうして俺の名前を知っているんだろうって…」

ヒロイン「勇者は記憶がないんでしょ?だったら、あなたの知らない相手が一方的にあなたを知っていても、何もおかしくないじゃない」

勇者「…まぁそれはそうなんだけど。ヒロインはどうして俺に記憶がない事まで知ってるんだ?」

ヒロイン「さぁ…どうしてかな?その理由だって勇者が忘れているだけかもね」

勇者「えーと…俺に記憶がない事をヒロインは知っていて、その理由は俺が記憶を失っているから知らなくて…ああ、混乱してきた」

ヒロイン「いいから早く行こうよ、もう戦士の家はすぐそこだから」

勇者「あ、ああ…」

戦士「よっ、勇者!」

勇者「…あんたが戦士?」

戦士「お前、何寝ぼけてんだよ!俺はお前の相棒じゃねーか!」

勇者「あ、相棒?!」

戦士「おいおい…頭でも打ったか?今日は旅立ちの日なんだから、しっかりしてくれよ」

勇者「……」

戦士「それはそうと、隣にいる可愛い子は誰だ?」

勇者「え?戦士とヒロインは知り合いなんじゃ…?」

戦士「へぇ…ヒロインっていうのか!こんな可愛い子、俺が知ってる訳ねーだろ!」

勇者「…可愛いってさ。よかったな?ヒロイン」

ヒロイン「…嬉しくない」

勇者「……」

戦士「よ、よーし!旅立ちの前に長老の所へ行こうぜ!」

勇者「長老?」

戦士「おうよ。きっと俺達を待ってるはずだ」

長老「おお!!勇者、戦士!今日が約束の日じゃが…本当にやってくれるのか?」

勇者「約束の日?」

戦士「あったり前じゃねーか!俺と勇者の2人に任せとけって!」

長老「うむ、そうか…ところで、そちらのお嬢さんは?」

ヒロイン「……」

戦士「それが、ヒロインっていうらしいんだけど…俺もよく知らねーんだ。勇者の彼女…かな?」

勇者「い、いやいや!彼女じゃないし!」

ヒロイン「誰だっていいでしょ。私は魔法が使えるわ、足手まといにはならないと思うけど」

戦士「ええっ?!ヒロインも俺達に付いてくるつもりなのか?!」

ヒロイン「そのつもりじゃなかったら、ここにいないでしょ?」

勇者「ヒロイン…」

長老「ふむ…まぁ、仲間は多い方が心強いしのぅ」

長老「ええと…ヒロインさん、どうか2人と仲良くしてやってくださいの」

ヒロイン「……」

長老「そして勇者…戦士。こんな事を言われては重荷かもしれんが…お前達には本当に期待しておる」

長老「今や魔物達のせいで、街から出る事すら危険な状況じゃ。…それも全ては憎き奴のせい!」

勇者「奴…?」

長老「魔王…奴が現れてから、この世界は…!」

勇者「魔王?!」

長老「ん?どうかしたか?」

勇者「あ、いや…なんでも…」

長老「ともかく、魔王と戦える程の実力を持つのは、少なくともこの村ではお前達しかおらん。」

長老「勇者が魔王を倒しに行くと言い出した時は驚いたもんじゃが…」

勇者「え、俺が?!」

長老「今となっては、お前達だけがワシらの希望の光じゃ。」

戦士「希望の光…悪くねぇ呼ばれ方だな。まぁ期待しててくれよ!」

長老「魔王を倒すと誓った勇者、そして勇者と共に旅立ちを決意した戦士…お前達はこの村の英雄じゃからのぅ。死ぬなよ…2人共」

戦士「へへっ了解だ。じゃ、そろそろ行こーぜ勇者!」

ヒロイン「ふぅ。話は終わったみたいね」

勇者「魔王を…俺が倒しに…」

戦士「旅には準備が必要だ、まずは道具屋に寄るぞ」

道具屋の娘「あ、勇者君!聞いたわよ、いよいよ魔王を倒しに行くんだって?!」

勇者「ああ、まぁ…」

道具屋の娘「大した物はウチじゃ扱ってないけど…好きなだけ持って行ってよね!」

戦士「好きなだけって…そこまで金が」

道具屋の娘「もう、何言ってんのよ!世界の為に…この村の為に旅立つんでしょ?そんな英雄からお金なんて受け取れないわよ」

勇者「い、いいのかな?」

道具屋の娘「…その代わり、約束してくれる?」

勇者「約束?」

道具屋の娘「…絶対生きて帰ってくるって!!」

勇者「…うん、約束するよ。俺は必ず魔王を倒してみせる」

道具屋の娘「ふふっ、その言葉が聞けてよかったわ。薬草は…えーと、これぐらいあれば足りるかしら?」

ヒロイン「…必要ない」

道具屋の娘「えっ?」

戦士「いやほら、こんなに持ち歩けねーし…俺達で選んで持って行くから!」

【森】

勇者「…でも、魔王を倒すって言ったって…どこに向かえばいいんだ?」

戦士「この森を抜けるともっと大きな街がある、とりあえずの目的地はそこだ。魔王の居所も、その街で情報を集めればわかるかもしれねーしよ」

勇者「わかった」

戦士「…ま、田舎育ちの俺達には世界の事は正直よくわかんねーけど、魔王を倒せば世界中の皆が平和に暮らせるんだろ?」

戦士「だったらやるっきゃねーよな!よし、張り切って行くぜ!!」

勇者「…うん、そうだな」

勇者「…ところでヒロイン」

ヒロイン「はい」

勇者「ヒロインは一体何者なんだ…?あの街の住人でもないみたいだし、どうして俺や戦士の事を…」

ヒロイン「…それを知ってどうするの?」

勇者「どうって訳じゃないけど…仲間の正体ぐらい気になって普通だろ」

ヒロイン「言わなかったっけ?『気が向いたら』教えるって」

勇者「…意地悪だな」

ヒロイン「意地悪?あなたの名前を教えてあげて、旅にまで付き合ってるのに?」

勇者「…ごめん、言い方が悪かった。じゃあ…質問を変えるよ」

勇者「どうして旅に付き合ってくれるんだ?俺は何か本能っていうか、魔王を倒さなくちゃならない使命みたいなものを感じてるんだけど…」

勇者「ヒロインも魔王を倒したいのか?」

ヒロイン「…違う」

勇者「ならどうして…?」

ヒロイン「…そこに勇者がいるから」

勇者「えっ…」

戦士「おーい!お前ら、早くしないと日が暮れちまうぞ!」

【大きな街】

戦士「ふぅ、やっと着いたぜ!」

勇者「人が多いなぁ」

「あら…勇者さんじゃないの!!」

勇者「え?」

ヒロイン「……」

「この度はヒロインを助けて下さって、本当にありがとうございました!」

勇者「…ヒ、ヒロインを俺が…?」

戦士「おい勇者、どういう事だ?」

勇者「お、俺に聞かれても知らないってば!」

「もう、謙遜しないで下さいな。本当に感謝しているんですから。よければ後でウチに寄って下さいね、ウチは防具屋の隣の家ですので」テクテク

勇者「あ、あのっ!」

戦士「…行っちまったな。なんだか家に呼ばれちまったけど…どーする?」

勇者「どうするって…」

ヒロイン「嫌。行かなくていいからね」

勇者「…と、とりあえず街を見て回ろう!」

『あんた達ならきっと魔王を倒せるだろうな!応援してるよ!』

『すごい活躍でしたね!私、感動しちゃいました!』

勇者「…どうしてこの街の人達は皆俺達を知っているんだ…?」

戦士「あり得ねぇ…俺達は初めてこの街に来たってのによ。気味が悪いぜ…」

ヒロイン「……」

勇者「…俺と戦士が2人揃って記憶喪失とか…?」

戦士「馬鹿言うなよ、そんな訳ねーだろ!」

勇者「でも…俺、戦士達とあの村で暮らしてたんだよな?それで、俺が魔王を倒しに行くって言い出したんだよな?実はその辺りの記憶が曖昧でさ…」

戦士「おいおい、マジかよ…。世界を救う英雄がボケちまったら洒落にならねーぞ」

勇者「し、仕方ないだろ!とにかく、戦士の記憶でもこの街に来た事はないんだな?」

戦士「ああ」

勇者「……」

勇者「…ごめん、ヒロイン」

ヒロイン「どうしたの?急に」

勇者「俺…さっきの人の家に行ってみたい」

ヒロイン「……」

勇者「ヒロインは行かなくていいって言ってたけど…俺、どうしても気になるんだ。あのおばさんは、俺がヒロインを助けたって…それが何の事なのか…」

ヒロイン「…わかった。好きにすればいいよ」

勇者「うん…ありがとう」

「あ、勇者さん達!いらっしゃったのね!」

勇者「は、はい…」

「ちょっとそこに掛けてて下さいな、料理の準備をしますので。」

戦士「いや、そんな悪いっすよ!俺達はただ話を…」グ~

「ふふっ、お腹は正直ですわね。」

勇者「…す、すいません」

~~~~~~~~~~

戦士「んー!美味いっ!!」ガツガツ

勇者「はぁ…。戦士、飯をがっつくのもいいけど目的を忘れるなよ」

戦士「わ、わかってるっつーの!」ガツガツ

勇者「…えっと、おばさんはその…ヒロインとはどういうご関係で?」

ヒロインの母「…?あら、お話しませんでしたっけ?親子ですよ」

勇者「で、ですよね」

ヒロイン「……」

戦士「それは見りゃわかんだろ、馬鹿!」

勇者「うるさいな、戦士が飯ばっかり食ってるから俺が…!」

ヒロインの母「ですから、娘を助けて下さったお礼がしたくて…」

勇者「…そ、そのっ!俺がヒロインを助けたっていう時の事を、詳しく教えてくれませんか?」

ヒロインの母「か、構いませんけど…もうお忘れに?」

戦士「い、いやー。ちょっと最近俺達、物忘れが激しくて…あはは…」

ヒロインの母「…で、では話しますね。」

~~~~~

ヒロイン「や、やめて…離してっ!!」

魔物「ぐふふ…それはできない相談だな。光栄に思え…貴様は偉大なる魔王様の生贄となるのだ!」

ヒロインの母「だ、誰かー!ウチの娘を…っ!!」

勇者「はあああぁぁぁぁっ!!」

ザシュッ

魔物「ぐわぁぁぁっ?!」バタッ

戦士「おう、何とか間に合ったみてーだな」

ヒロイン「あ、あの…あなた達は…?」

勇者「俺は勇者!魔王を倒…」

戦士「と、その相棒の戦士だ!俺達は魔王を倒す為に旅をしてるのさ」

ヒロイン「ま、魔王を…?!…それはそうと、ありがとうございました!」

ヒロインの母「勇者さん…ウチの娘を助けて下さってありがとうございます!!なんとお礼をしていいか…」

勇者「いえ、結構です。俺達にはやるべき事がありますので」

戦士「なんだよお前…格好つけやがって。まぁそういう事だ、礼ならいいぜ!じゃあな!」

~~~~~

ヒロインの母「こんな感じですかね…。いやはや、あの時はどうなる事かと思いましたが…」

勇者「……」

戦士「……」

勇者「…な、なぁ戦士!腹も膨れたしちょっと運動したい気分だよな!」

戦士「あ、ああ!俺も丁度同じ事考えてた所だ!」

ヒロインの母「?」

勇者&戦士「「そんな訳で、少し外に行ってきまーす!」」ガチャ

ヒロインの母「は、はぁ…」

ヒロイン「……」

勇者「なぁ…今の話、どう思う?」

戦士「どうって…いや、身に覚えがないっつーか…記憶にねーぞ」

勇者「だよな…。嘘をついてるようには見えなかったけど…」

戦士「うーん…まぁ悪い勘違いをされてる訳じゃないんだし、話を合わせとくか?もしかすると、本当に俺達がド忘れしちまっただけかもしれねーしさ」

勇者「…それが賢明かもな。さっきの話が嘘でも本当でも、俺達のやる事は変わらない訳だし」

戦士「なら決まりだな。戻るぞ」

勇者「戻りました」

戦士「遅くなってすいません」

ヒロインの母「いえいえ、お気になさらず。それでさっきの話の続きですが…」

ヒロインの母「ヒロインが勇者さん達の後を追いかけ、付いていきたいと言った時は驚きました」

勇者「?!」

ヒロインの母「最初は正直反対でしたが…でも、勇者さん達になら任せられる…そう思ったんです」

戦士「そ、それはどうも…」

ヒロイン「……」

ヒロインの母「…そんな訳で、色々あるでしょうが、勇者さんに戦士さん。これからもウチの娘をよろしくお願いしますね」

勇者「は、はい!」

ヒロインの母「私にできる事があれば、何でも仰って下さい」

戦士「じゃあ、早速ですけど…1つ聞きたい事が」

ヒロインの母「何でしょう?」

戦士「魔王の事について何か知りませんか?居場所とか、少しでも情報が欲しいんっすよ」

ヒロインの母「そうですねぇ…魔王城という城にいるとは聞いた事がありますけど…」

勇者「魔王城…まんまですね」

ヒロインの母「すいません、私にはそれ以上は…」

ヒロインの母「そうだ、王様ならきっとご存じなんじゃないかしら!」

戦士「王様って…確か今は王都から離れた場所に移り住んでるって話っすよね?」

ヒロインの母「ええ。なんでも隣の街で暮らしておられるとか」

勇者「隣街…って事は近いんですか?」

ヒロインの母「ここから北にある山を越えた先の、湖の畔の街ですわ」

勇者「わかりました、ありがとうございます。では俺達はそろそろ…」

ヒロインの母「はい、いつでもいらして下さいね。ヒロイン、勇者さん達と一緒に頑張るんだよ!」

ヒロイン「……」

戦士「おいおい、返事ぐらいしてやれよ。母ちゃんが心配してんだぞ?」

ヒロイン「あなたには関係のない事よ。用が済んだなら行きましょう」ガチャ

戦士「あ、ちょっと待てって!」タッタッ

勇者「じゃ、じゃあまた!」タッタッ

【山】

戦士「おいヒロイン、あんな言い方はねーだろ?」

ヒロイン「…勘に触ったならごめんなさい」

戦士「ごめんとかじゃなくてよ…」

勇者「なんか変だぞ?お母さんとも全然喋ってなかったし…」

ヒロイン「…あの家に行きたかったのはあなた達でしょう?」

勇者「いや、まぁ確かに行こうって言ったのは俺だけどさ…」

ヒロイン「ならいいじゃない、私はあなた達の決定に従っただけよ。行って満足したんでしょ?」

戦士「違う!だから、なんで自分の母ちゃんに会うのがそんなに嫌みたいな…」

ヒロイン「…どうしても慣れないのよ、あの場所だけは」

勇者「慣れない…?」

ヒロイン「…心配しないで、私ならもう大丈夫だから。話しながら山を登ると舌を噛むわ」

勇者「…わかった」

【湖の畔の街】

勇者「ここが王様のいる街か…」

戦士「デカい湖だな…しかしよ、なんで王様なのに王都から離れて暮らしてるんだろーな?」

勇者「魔王から身を潜める為…とか?」

ヒロイン「さぁね」

勇者「さぁね、じゃないだろ」

ヒロイン「何が?」

勇者「…もしかすると、王都はかなり危険な状態なのかもしれない。こうしている間にも誰かが苦しんで…」

ヒロイン「それで?全てを救えるとでも思っているの?」

勇者「全て…とは言わないけどさ。一人でも多くの人を助けたいとは思うよ」

ヒロイン「…そうね、あなたはそういう人よね。一人でも助けたい…その気持ちは立派なものだわ」

ヒロイン「けど…それが本当に正義なの?一人だけ助けられたとして…家族も、友達も、生きる意味も…何もかも失ったその人はどうすればいい?」

勇者「そ、それは…でも死ぬよりはいいだろ!!生きていればきっといい事だってある!死んでしまえばそこで終わりなんだぞ?」

ヒロイン「…生きていれば、か。随分とわかった風な口を聞くのね」

勇者「なんだよ、馬鹿にしてるのか?!」

戦士「お、おい…喧嘩するなよ!」

勇者「そりゃ俺は何もわかってないかもしれないさ…だって記憶がないんだから!仕方ないだろ、だったらヒロインが教えてくれよ!俺の事も色々知ってるくせに勿体つけてさ!」

ヒロイン「…何?私はあなたにものを教える機械じゃないのよ?それなのに…いつもいつも…!!私は…私は…っ!!」

戦士「はいはーい!ストップストーップ!!」

勇者「せ、戦士!」

戦士「お前らどーしたんだよ、疲れてるんじゃねーのか?特にヒロイン、そこまでお前が感情的になるなんて珍しいじゃねーか」

ヒロイン「……」

戦士「いいか、王様に話を聞くのは明日でもできる。今日はもう宿屋で休むぞ、2人共ちょっと頭冷やせ」

勇者「…戦士の言う通りかもな」

勇者「…はぁ」

勇者「ヒロインは一体何がしたいんだろう…?俺を手助けしてくれたり、でもその割には協力的じゃないというか…」

勇者「そもそも…俺は何故かよくわからない使命感に駆られて、魔王を倒そうとしているだけなんだよな。魔王の顔すら知らないし」

勇者「いや…まぁ村の人達に背中押されまくったし、成り行きってのもあるんだけど…」

勇者「ヒロインが俺と戦士の旅に付き合ってくれる理由…あいつは『俺がそこにいるから』って言ってたよな…」

勇者「ヒロインの目的は俺のそばにいる事であって、魔王を倒す事ではない…」

勇者「うーん…」

コンコン

勇者「?」テクテク

ガチャ

ヒロイン「起きてた?」

勇者「ああ…まぁな。こんな時間にどうした?」

ヒロイン「…ちょっと話がしたい」

勇者「なんだよ急に…別にいいけどさ」

ヒロイン「外に行こう?きっと星が綺麗だよ」

勇者「…わかった」

勇者「本当だ…綺麗だな、星」

ヒロイン「勇者もそう思う?」

勇者「まぁ…別にロマンチストって訳じゃないけどね。星を見て綺麗だって思う程度の感性はあるつもりだよ」

ヒロイン「…今同じものを見てるんだよね、私達」

勇者「そりゃそうだろ、隣で空を眺めてるんだから」

ヒロイン「…私、星空が好き」

勇者「そうか」

ヒロイン「この世界で1番綺麗だもん」

勇者「1番って…大袈裟だな」

ヒロイン「…別に私の勝手でしょ」

勇者「なぁ…話ってのは?」

ヒロイン「……」

ヒロイン「…旅…やめない?」

勇者「…何の心変わりだよ。ヒロインは今まで俺の旅を手伝ってくれてたじゃないか」

ヒロイン「…どうせこうなるってわかってたもん」

勇者「?…ヒロインは一体何者なんだ?まさかとは思うけど…未来から来た、とか?」

ヒロイン「ねぇ…旅、やめないの?」

勇者「…質問に質問で返すなよ」

ヒロイン「ごめん…じゃあいい」

勇者「…旅はやめない。皆が俺達に期待してるんだ…ヒロインのお母さんだってな」

ヒロイン「……」

勇者「確かに…記憶のない俺にとっては、この世界の人達なんて大した価値はないのかもしれない」

勇者「だけど…皆いい人達だ。お守りをくれた妹、俺に憧れていると言ってくれた少年、俺達の無事を祈ってくれた道具屋の娘さん、俺達を希望の光と呼んだ長老…」

勇者「覚えてないだけで、きっと俺は村の皆に愛されて育ったんだと思う。…だったらやるさ。俺達しかいないんだろ?魔王を倒せるのは」

ヒロイン「…わかった」

勇者「それに…魔王が何か、俺の記憶の鍵を握ってる…そんな気がす…」

ヒロイン「わかったってば!!」

勇者「な…何怒ってんだよ?!」

ヒロイン「…ごめん」

ヒロイン「…あのさ、勇者」

勇者「ん?」

ヒロイン「私って…あなたにとって何?」

勇者「何って…俺の名前を教えてくれた子で、一緒に旅をしてる仲間で…」

ヒロイン「私は勇者が好き」

勇者「っ?!え、あ…そ、それは…お、俺だって、その…意識してない訳じゃ…!!さ、最初見た時に可愛いなって思ったし…」

ヒロイン「…そんな言葉、いらないの」

勇者「は、はぁ?!俺の事が好きって言ったのはそっちだろ?」

ヒロイン「そうだよ?私は勇者の事が好き。でも、勇者の返事なんて欲しくない。だって何の意味もないから」

勇者「意味がないって…随分な言われ様だな。…だったら何が欲しいんだ?」

ヒロイン「…キスしてよ」

勇者「な…ななっなんでいきなりそうなるっ?!」

ヒロイン「だって、あの時してくれなかったじゃん。出会った時」

勇者「いや…あ、あれは冗談だって自分で言ってたじゃないか!」

ヒロイン「…ほーら、できないんだ。だからね、言葉なんていらないの。そんなすぐに消えてしまうもの…」

グイッ

ヒロイン「きゃっ?!」

勇者「…これで…わかったか?」

ヒロイン「……」

勇者「ヒロイン?」

ヒロイン「…あはは、私…何してるんだろう」

勇者「お、おい…嫌だったのか?」

ヒロイン「…違う、違うの…」

勇者「だったらどうして…」

ヒロイン「…私、もう部屋に戻るね。ありがとう…お願い聞いてくれて」

勇者「あっ、待っ…うん…」

戦士「よう!2人共、よく眠れたか?」

勇者「…ま、まぁまぁかな」

ヒロイン「大丈夫、問題ない」

戦士「…ならいいけどよ。」

戦士「よし、王様を探して魔王の情報を貰いに行くぜ!街で聞き込みだ!」

『王様ですか?ええ…以前と変わらず、広場の噴水の向かいの屋敷にいらっしゃいますよ』

勇者「王様の屋敷って…ここかな」

戦士「噴水の向かい…ここしかねーだろ。にしても『以前と変わらず』って…まるで俺達が前にも王様を訪ねた事があるみたいな口ぶりだったな」

勇者「ああ…どうせまた王様も俺達の事を知っているんだろう」

戦士「もしそうだったら、また記憶喪失のフリして色々聞くしかねーな」

勇者「フリっていうか…実際に記憶喪失なんだけどな。じゃあ入るぞ」ガチャ

王「ゆ、勇者に戦士、それにヒロインも…?」

ヒロイン「…はぁ」

戦士「あなたが王様ですか?」

王「な、何を今更…?…魔王城へ向かったのでは?」

勇者「え、えーと…敵の魔法で記憶の一部を消されまして…」

王「なんと?!それは大変じゃな…つい先日の記憶もないとは…」

勇者「ですので、俺達と王様が知り合った時の状況や、交わした会話などを教えて下さいませんか?」

戦士「…勇者、お前嘘が上手くなったな」ボソッ

勇者「ほ、ほっとけ!」ボソッ

王「えー…では、詳しく話すとするか…」

~~~~~

ヒロイン「…ここに王様がいらっしゃると聞いて参ったのですが…あなたが?」

王「ふむ、そうじゃが…。そなたらは一体?」

ヒロイン「申し遅れました、私はヒロイン。彼らは私の旅の仲間です」

戦士「俺は戦士といいます。で、こっちが勇者」

王「…ほう。その旅人達が、このワシに何か用かな?」

勇者「俺達は、魔王を倒す為に旅をしているんです」

王「な…っ!!ま、魔王を…?!」

ヒロイン「はい。何か魔王についてご存じなら、どんな事でもいいので伺いたいのですが…」

王「……」

勇者「王様?」

王「…知っているも何も、ワシが今ここにいるのは、他ならぬ奴から逃げてきたからじゃよ…」

王「奴が居城にしている魔王城は、元はワシの城じゃ…。奴は王都を襲い、そのまま王城に攻め込み…そして自らの城にしおった」

戦士「じゃ、じゃあ…王都はもう…」

王「ああ、既に壊滅しておるよ…王であるこのワシが城を追われ、世界は一気に混乱に包まれた…」

王「…頼むっ!!もはや王として立場などどうでもよい!ワシの…ワシの愛する家族や部下、民達の仇を討ってくれ!!」

ヒロイン「王様…」

勇者「…俺達に任せて下さい!」

王「…その言葉、信じてもよいのか?」

ヒロイン「彼は…勇者は、魔物に襲われていた私を助けてくれました。勇者は困っている人を見捨てるような真似は絶対にしない…心の強く優しい人です」

王「…そうか、では頼んだぞ…。情けないが、ワシでは何も力になれそうにない」

戦士「気にしなさいで下さいよ!俺達は元より魔王を倒すつもりだったんですから!」

勇者「それで…王都への行き道を教えてほしいのですが」

王「うむ。この街を出て西にしばらく行くと、雪の大地が見えてくるはずじゃ。その雪原を通り抜けた先が王都、当然そこに王城…いや、魔王城もある」

ヒロイン「西ですね…わかりました」

勇者「よし…行こう!」

~~~~~

王「以上じゃが…」

勇者「…ありがとうございます。」

戦士「もう何が何だか…けど、これで進むべき道がわかったな!」

王「…本当に大丈夫か?」

勇者「…はい。約束は果たしてみせます」

王「うむ…朗報を待っておるぞ」

戦士「さて、まずはこの街から出ねーとな。西っていうと…俺達が来た山の方角が南だから…」

ヒロイン「…また、か」

勇者「ヒロイン、何か言ったか?」

ヒロイン「いいえ、何も」

勇者「そうか…ならいいんだけど」

ヒロイン「さぁ…行きましょ、あの雪原に」

【雪原】

戦士「へ、ヘックション!!」

勇者「き、汚いな、こっちに飛ばすなよ…」.

戦士「し、しし仕方ねーだろ!こんなに寒いんだからよ!」

勇者「寒いのは…おお俺も同じだけど…い、いやだからこっちに飛ばすなって話で…」

ヒロイン「……」

戦士「ヒ、ヒロインは寒くねーのか?!涼しい顔してるけど…」

ヒロイン「うん、別に大丈夫」

勇者「…そういやヒロインはいつも動じないよな。寒くても暑くても、雨が降っても魔物に噛みつかれても…」

ヒロイン「…私は魔法が得意だから。身体能力自体はあなた達に到底及ばないけど…魔力を全身に纏う事で、防御力を最大まで押し上げているの」

勇者「なるほど。道理で怪我とかも全然しない訳だ」

戦士「すげー。俺は魔法なんて全然使えねーからなぁ。羨ましいぜ」

ヒロイン「……」

勇者「魔法かぁ…一応俺も使えるんだけどなぁ。ヒロインみたいに難しいのは…」

「ここは遠さないよーん!」ビュンッ

戦士「おわっ!!ま、魔物…?!お前一体どこから…」

「クスクス、相も変わらずまたノコノコやって来たんだぁ?ほんっと懲りないねぇ?」

勇者「…お、お前も俺達の事を知っているのか?!」

サキュバス「もちろん知ってるよぉ?あたしは魔王様の側近のサキュバスっていうの!短い間だけどよろしくねぇ」

ヒロイン「……」

サキュバス「クスクス…しっかしヒロインちゃん、あんたもいい加減飽きないのぉ?それとももしかして、楽しいなんて思っちゃったりしてるのかなぁ?こーんなおままごとが」

ヒロイン「…黙って」

サキュバス「あらら、怒っちゃった?ごめんねークスクス」

ヒロイン「…お喋りをする為に来たんじゃないわ。始めましょ?」

サキュバス「それもそーだねぇ。じゃあ…始めちゃおっか!」バッ

勇者「…来るぞっ!!」

戦士「ちぃっ!!こんな所で負けられるかよっ!!」ブオッ

サキュバス「あはは!そんな攻撃効かないよ。でも、これだけ実体化できるなんて大した能力だよねぇ…勇者君の魔法?それとも幻術なのかな?」

勇者「実体化?何をだよ!」ザシュッ

サキュバス「きゃっ!!いったーい。女の子傷付けるなんて、サイテーだぞぉ勇者君!ブラックガスト!」ブシュッ

勇者「ぐああっ!!…ヒ、ヒロイン!さっきから何ボーッとしてるんだよ?!魔法で援護してくれ!」

ヒロイン「…ふぅ、わかったわ。ファイア」ゴォッ

サキュバス「そうそう、まとめてかかっておいでよ!その方が楽しいじゃん?クスクス」


サキュバス「ふふっ、なかなかやるじゃん。ちょっと前より成長したんじゃない?」

ヒロイン「……」

戦士「ああ?馬鹿にしてんのかてめぇっ!!」ブオッ

サキュバス「でも残念ー。戦士君の攻撃は、あたしには殆ど効果ゼロなんだってば」

戦士「くそっ、なんで俺の攻撃だけ…!!」

勇者「…今だ!食らえぇぇぇぇっ!!」

ザシュッ

サキュバス「あっ…」

ヒロイン「?!」

勇者「へっ。調子乗ってよそ見してるからだ」

サキュバス「え…嘘、でしょ…?」グラッ

戦士「や、やったじゃねーか勇者!!」

サキュバス「んぐっ…あはは、は…。自分の血って…こんな、味、なんだね…。魔王様ぁ…ごめ…なさい…」ガクッ

ヒロイン「え…」

勇者「なんとか無事に倒せたみたいだな…ヒロイン、治療を頼む」

ヒロイン「…どうして?!なんで、こんなはず…っ!!」

勇者「ん?何驚いてるんだ?早く俺と戦士の傷を…」

ヒロイン「勇者」

勇者「なんだ?」

ヒロイン「…ごめんね」

ブシュッ

勇者「ぎゃああああぁぁっ?!」

戦士「ゆ、勇者っ?!」

勇者「ヒロ…イン…?」

ヒロイン「勇者…」

勇者「…な、なんでだよ…。騙して、たのか…?もし…かして、ヒロインは魔王の…」

ヒロイン「…違う…」

勇者「だったら…どう、して…」

ヒロイン「…知らない方がいい事もあるんだよ?」

勇者「そん、なの…嫌だ…。何1つわからないまま…これで、終わりだなんて…」

戦士「お、おいヒロインっ!!何やってるんだよ!!」

ヒロイン「……」

勇者「…なぁ、俺はもう死ぬんだ…。最後に教えて、くれたって…いいだろ…?」

ヒロイン「…ごめんなさい。ごめんなさい」

勇者「違う…そう、じゃない…」

ヒロイン「私の事…恨んでくれていいから…」

勇者「だって…ヒロインは、俺の…事…」



好きだって言ってくれたじゃないか。

~~~~~

【はじまりの村】

『目覚めよ…目覚めるのだ…』

勇者「……」

『さぁ立ち上がれ…我らが英雄よ…』

勇者「!!」ガバッ

勇者「え、あれ…。俺は一体…ここは…?」

勇者「…駄目だ、何も思い出せないな」

勇者「…ん?」

勇者「…『魔王』、頭の中に浮かんでくるこの言葉はなんだ?」

勇者「どうしてだか、この言葉の意味を考えるだけで憎しみが湧いてくる…」

勇者「…魔王め!俺がぶっ飛ばしてやるっ!!」

勇者「…なんちゃって。そもそも魔王って誰だよ」

勇者「…うん、とりあえず起きるか。よっと」

勇者「ここは家だよな…俺の家なのか?」ガチャ

妹「あ、お兄ちゃん!おはよう」

勇者「あっ…」

妹「お兄ちゃん…あいつを倒しに行っちゃうんだね」

勇者「あいつ?」

妹「大丈夫…もう泣かないよ。私、いい子にして待ってるから…」

勇者「いや、その…君は」

妹「そうだ、これ持って行ってよ。私昨日徹夜で作ったんだから」

勇者「これは…お守り?」

妹「うん!どう、ちょっと嬉しい?なかなか兄想いの妹でしょ!」

勇者「あ、その…」

妹「ほらほら、ボーッとしないの。皆お兄ちゃんに期待してるんだから!行ってらっしゃい!」

勇者「なんなんだよ一体…半ば強引に追い出されたような…」テクテク

「やっほー」

勇者「?!」

「やっぱりここにいたんだね」

勇者「やっぱりって…?」

ヒロイン「私はヒロインって言うんだけど。あなたは自分の名前わかる?」

勇者「俺は…えっと、記憶が曖昧で…」

ヒロイン「…あなたは勇者っていうの。だから勇者って呼ぶね」

勇者「俺が…勇者?」

ヒロイン「うん。…何か他に覚えてる事はない?」

勇者「…そうだ、魔王を倒したい!倒さなくちゃいけない…気がするんだ。それと…もう1つ。」





勇者「なんだか、心の中に深い悲しみがあるんだ。大切な人に裏切られたような…そんな痛みが」





ヒロイン「えっ…」

勇者「…なぁ、ヒロインは俺の事知ってるんだろ?教えてくれよ…俺の存在している意味を。俺のこの悲しみの理由を」

ヒロイン「それ、は…」

勇者「ヒロイン…君を見ていると、何故か胸が締め付けられるんだ。どうしてかな…なんでこんなに…」

ヒロイン「…知りたい?」

勇者「ああ…知りたいよ」

ヒロイン「…例え、それがどんなに残酷でも?」

勇者「…頼む」

ヒロイン「…わかった、まずは勇者に本当の世界を見せるね」

勇者「本当の世界?」

ヒロイン「…ええ。私がずっと見続けてきた、本当の世界。あなたに掛かっている魔法…いや、呪いかな…。それを今解いてあげるから」

勇者「…け、景色が歪んでいく…?!」

ヒロイン「私はこの村の入り口で待ってるね」

勇者「な…なんだこれ…?!村がボロボロじゃないか…!!」

勇者「…さっきまで俺がいた家も…」ガチャ

勇者「うっ…すごい臭いだ…」

妹「……」

勇者「?!す、透けてる…?!」

妹「私…いい子にして待ってたのに…。お兄ちゃん、どこ…?痛いよ…寒いよ…」

勇者「…お、おいっ!!なぁ!!」

妹「苦しい…。こんな事なら、お兄ちゃんを引きとめればよかった…。あの日にはもう戻れない…」

勇者「俺の声が…聞こえてない…?」

妹「痛いよ…寒いよ…」

勇者「……」

村の人「……ぶつぶつ」

勇者「駄目だ…この人達は皆幽霊なのか…?話しかけても返事がないし、どう見ても俺とは違う…」

勇者「…この建物は比較的まだ綺麗だな。なんて書いてあるんだ…?ど…ぐや?」ガチャ

勇者「ここにも誰かいる…」

道具屋の娘「…ひどいよ」

勇者「え?」

道具屋の娘「絶対、生きて帰ってくるって…約束したのに…」

勇者「約束…?この子は誰かと約束を交わしたまま死んだのか…?」

勇者「こっちも…入ってみるか」ガチャ

戦士「…勇者の馬鹿野郎」

勇者「ゆ、勇者って…俺の事だよな?!」

戦士「1人で先に逝っちまいやがって…。お前がいなきゃ、魔王に勝てる訳ねーだろ…」

勇者「えっ…」

戦士「ちくしょう…ちくしょう…」

勇者「……」

ヒロイン「…遅かったね」

勇者「……」

ヒロイン「…どう?こんな現実知りたかった?」

勇者「なんなんだこれ…どうして皆死んでるんだよ?!どうして俺だけ生きてるんだよ?!」

勇者「この村は魔王に滅ぼされたんじゃないのか?!俺が何かしたのか?!…なぁっ?!」

ヒロイン「…落ち着いて。全部話すから…」

~~~~~

遥か昔…この世界は王と呼ばれる1人の男によって治められ、たくさんの人々が平和に暮らしていた。

…しかし、突如異世界から魔王という禍々しい存在が数多の魔物達を従えて現れた。
魔王は王の住む城を襲い、自らの居城と化し…王はかろうじて逃げ延びはしたものの、世界は瞬く間に混乱に包まれた。

…そんな中、とある辺境の村に暮らす1人の青年が、魔王を倒す決意をした。
青年は村の皆の期待を背負い、戦士という親友と共に旅に出た。
村の人々は、勇敢な彼らの背中を祈るような気持ちで見つめていた。

青年は旅の途中に立ち寄った街で、魔物に拐われかけていた1人の少女を助けた。
青年に恋をしたその少女は、恩返しの意味も含め、旅に付いていく道を選んだ。
少女を仲間に加えた青年達は、力を合わせて旅を続けた。

湖の畔の街で、逃げ延びた王に会った青年達。
王は魔王に全てを奪われ、悲しみに暮れていた。
そんな王と、青年達は魔王を倒す約束を交わした。

青年はいつしか、世界中の人々から『英雄』と呼ばれるようになっていた。
また、この頃には青年と少女は互いに愛し合うようになっていた。

…そしてついに青年達3人は、魔王の元へと辿り着いた。
しかし、青年は少女を庇い瀕死の重傷を負ってしまう。
自らの死を悟った青年は、残り僅かな命と引き換えに、道中で魔術師から学んだ『禁呪』を使用する。
禁呪により少女は、決して傷付く事のない無敵の体を手に入れた。
『戦士と力を合わせ、魔王を倒してくれ』…そう言い残し、青年は愛した少女に未来を託し息を引き取った。

…だが、その後すぐに戦士も殺されてしまい、少女1人では魔王を倒す事は叶わなかった。
当然魔王も少女を殺す事はできなかったが、少女の攻撃だけでは魔王の再生能力を上回る事が不可能だったからだ。

長い年月の中で、魔王達は世界中の人々を殺し回り…ついに地上から人類はその姿を消した。
…ただ1人の少女を除いては。
禁呪により神にも等しき体を手に入れた少女は、同時に永遠の命も手に入れていたのだ。
あらゆる攻撃を受け付けず、体が劣化していく事もない…禁呪の効力は、青年の予想を遥かに超えたものだった。

…しかし、少女にとって幸か不幸か…奇妙な事態が発生した。
魔王によって殺された人々…それらの期待を一身に背負っていた青年。
数えきれない程の無念や恨み…そして悲しみが、なんと青年の魂を現世に呼び戻したのだ。

ヒロイン「…その青年が、勇者…あなたよ」

勇者「…じゃあ、1人残された少女っていうのは…」

ヒロイン「…そう、私」

勇者「……」

ヒロイン「勇者ったら酷いんだよ。私の事なんて、ちっとも覚えてないんだもん。生き返ったあなたが持っている記憶はいつもただ1つ…魔王への憎しみだけ…」

勇者「…いつも?」

ヒロイン「そう…いつも。生き返った勇者は、生前に比べて力が半減していたの。だからね…魔王の元に再び辿り着く前に、魔王の側近に殺されちゃったんだ」

勇者「え…だ、だけど俺は今ここに…」

ヒロイン「…あなたは世界中の人々の怨念が生んだ、いわば復讐の意志の塊。何回殺されたって、その度に蘇ったわ。何度も何度も…数えるのも馬鹿らしくなるくらい」

勇者「…俺は化け物かよ…」

ヒロイン「目の前で何度も勇者が死んで…その度に蘇って…私の顔すら忘れてるんだもん」

勇者「…ごめん」

ヒロイン「……」

勇者「…俺が見ていた世界は幻だったって事なのか?俺が目を覚ました時、家も村も綺麗だった。それで妹がお守りをくれて…家から出たらヒロイン、君がいて…」

ヒロイン「その通り。勇者は皆の希望として魂が呼び戻された存在だから…あなたの目に映っていたのは、あなたの記憶の奥底に眠るまだ生きていた頃の人達」

ヒロイン「もっとも、あなたの記憶自体は失われているし、皆本当は死んでいる訳だから…色んなものが混ざって、過去にはなかった歪んだ部分もあったみたいだけど」

勇者「人々の念が俺に幻を見せていた…いや、俺が幻を生み出していた、の方が正しいのか…」

ヒロイン「廃墟の街で、何もない空間に向かって話しかける勇者…。あなたは草花を見てその美しさを語り、湖を見て泳いで行こうかと冗談を言って笑ったわ。」

ヒロイン「…だけど、私の目に映っているのはただ無残に荒れ果てた世界だけ…正直気が狂いそうだった。いや…もう狂ってるのかもね」

勇者「…そんな事がずっと…?」

ヒロイン「勇者のそばに長くい過ぎたせいか、今ではあなたの見ている幻が私にも少し見えるようになったけど。だから多少は会話を合わせたりする事もできた…」

ヒロイン「…でも、私は知っているんだもの。本当はそんなものは存在しないんだって。この世界はもう、終わってしまっているんだって」

勇者「……」

ヒロイン「勇者に全てを話そうと思った事もあったよ?でもね…そんな残酷な事、できなかった。本当は皆死んでいて、あなた自身も亡霊みたいなものだなんて…やっぱり言えなかった」

ヒロイン「それに…結局同じだもの。どう足掻いても、勇者は魔王への復讐という使命からは逃れられない…私がどんなに止めたって、いつも魔王を倒す為に旅立っていったわ。私1人の思いが、世界中の人達の思いに叶う訳なんかないもんね…」

勇者「…苦しかったよな。辛かったよな。それがどれ程のものか、俺には想像もつかないけど…ヒロイン、本当にごめん…」

ヒロイン「…私も謝らなきゃいけない事があるるの」

勇者「…ヒロインが俺に?」

ヒロイン「さっき言ったよね?蘇った勇者は元の勇者に比べて力が半減していて、魔王の側近に殺されちゃったって」

勇者「ああ…うん」

ヒロイン「その側近…サキュバスは王都に続く雪原を支配していたの。だから勇者はいつもそこで戦いに負けて死んでいたんだけど…」

ヒロイン「前回はそうじゃなかった。ただ運が良かったのか、それともあなたの力が転生を繰り返す中で増してきたのか…なんとサキュバスを倒す事に成功したの」

勇者「…あれ?でも俺がまたここにいるって事は、その1つ前の俺も死んだんだよな?魔王に殺されたのか?」

ヒロイン「…私が殺したの」

勇者「な…っ?!」

ヒロイン「…今の勇者は魔王への復讐の為に生まれた存在…魔王をもし倒せてしまったら、恐らく成仏してしまうはず…」

ヒロイン「私は1人になりたくなかった。あなたのいない世界に取り残されて、永遠の孤独を味わうなんて…そんなの耐えられない」

ヒロイン「だから…殺したの。またこの村から、同じ茶番を始める為に」

勇者「…そんな…」

ヒロイン「だから謝らなきゃ…ごめんなさい」

勇者「…どうして今回は真実を話してくれたんだ?今までずっと隠し続けてきたんだろ?」

ヒロイン「…嬉しかったから」

勇者「え…?」

ヒロイン「さっき勇者、言ったよね?大切な人に裏切られたような痛みが、胸の中にあるって」

勇者「ああ…」

ヒロイン「いつもは前の勇者の記憶なんて何1つ残ってなかったのに…私に殺された事がよっぽど悲しかったんだよね、ごめんね…」

ヒロイン「でも私、それが嬉しくて…私の事、初めて少しでも覚えててくれたから…」

勇者「ヒロイン…」

ヒロイン「だから…話してみようかなって。私に殺された事を知った勇者は、私にどんな顔をするのかなって…」

勇者「…もうどんな顔をしていいかわからないよ。でも…俺にヒロインを責める権利はない。俺のたった1度の苦しみなんて、ヒロインの苦しみにくらべたら…」

ヒロイン「…ねぇ、勇者はどうしたい?この絶望しかない世界で私と生き続けたい?それとも…」

勇者「俺は…」

勇者「俺はやっぱり魔王を倒したい」

ヒロイン「……」

勇者「真実を知ったからこそ…全ての元凶である魔王を、どうしても許す事ができないんだ。…俺がこう思うのも、やっぱり俺が復讐の意志から生まれた存在だからかもしれないけど…」

ヒロイン「…言うと思った」

勇者「いつは負けていたはずの、そのサキュバスという魔物に1つ前の俺が勝てたのだって…ただの偶然なんかじゃなくて、きっと何かの必然っていうか…魔王を倒せって事なんだと思う」

勇者「魔王を倒す事…それが、俺がここに存在してる意味だから」

ヒロイン「…わかった、2人で何もかも終わらせよう」

ヒロイン「その代わり…もし魔王を倒せたら、1つだけお願い聞いてくれる?」

勇者「…なんだ?」

ヒロイン「…その時まで内緒」

勇者「…俺にできる事ならなんでもするよ」

ヒロイン「…まず、この村を出て森を抜けましょう。案内は私がするから」

勇者「…なぁ、ヒロイン」

ヒロイン「何?」

勇者「俺の事…恨んでるか?」

ヒロイン「…わかんない」

勇者「…そっか」

【大きな街】

ヒロイン「ここはね…私の生まれ育った街なんだ」

勇者「ヒロインがここで…」

ヒロイン「私と勇者が初めて出会ったのもここなんだよ」

勇者「俺がヒロインを魔物から助けたっていう…?」

ヒロイン「うん。いきなり現れてね、あっという間に魔物を倒しちゃった。あの時は格好よかったなぁ…」

ヒロイン「…やっぱり覚えてないよね」

勇者「…ごめん」

ヒロイン「…ううん、私の方こそ意地悪だった。…ごめんなさい」

勇者「ヒロインが謝る事じゃない…」

ヒロイン「ねぇ…もう行こう。次は北の山を越えるから」

勇者「…いいのか?ここはヒロインの住んでた街なんだろ?」

ヒロイン「…何もかも見飽きたの」

勇者「あ…」

ヒロイン「たくさん泣いたよ?…家族も友達も、皆死んじゃったんだから」

ヒロイン「お母さんね…頭しか残ってなかったの。だからそれを抱きしめて…血塗れになって泣き喚いた」

勇者「うっ…」

ヒロイン「…そんな頃もあった、ただそれだけ。今はもう涙も出ない…だって皆、何百年も前に死んだ人なんだから」

勇者「何百年…」

ヒロイン「ねぇ…もう行こう」

勇者「…ああ」

【湖の畔の街】

ヒロイン「…ここが、王様のいた街。ここで私達は、王様から魔王の居場所を聞いたわ」

勇者「…魔王はどこに?」

ヒロイン「この街を出て西に行くと、雪原に繋がってるんだ。勇者が幾度となく死んだ…あの雪原」

勇者「もうサキュバスはいないんだろ?今回は…死なないよ」

ヒロイン「その雪原を抜けると、王都があるの。そこの元王城…現魔王城が私達の最終目的地よ」

勇者「…ここはどんな街だったんだ?」

ヒロイン「湖が綺麗な街だったよ。魔術も盛んでね…勇者はここで魔術師から禁呪を教わったわ」

勇者「禁呪…」

ヒロイン「…1つ前の勇者と、この街で星空を見たの」

勇者「星空か…こんな世界でも、星空は綺麗なんだろうな」

ヒロイン「うん…綺麗だよ。大地がどんなに荒れ果てても、空は何も変わらないからね」

ヒロイン「その星空を見た時…勇者にキスされたの。…まぁ私が頼んだようなものだけど」

勇者「えっ?!」

ヒロイン「勇者がどんな言葉をくれたって、どうせすぐに過去になってしまう…私にとっては何の意味もない。でも…この唇の感触は今も残ってるから」

勇者「……」

ヒロイン「あはは…私何言ってるんだろう。こんな死者達の魂が彷徨ってる場所で…不謹慎だよね」

ヒロイン「私、色んな感情を失くしちゃった気がする…自分が怖いよ…」

勇者「そんな事…言わないでくれ…」

ヒロイン「…さ、次は雪原だよ。ここから西だから」

勇者「…うん」

【雪原】

勇者「すごい雪だな…」

ヒロイン「そうだね」

勇者「…寒くないのか?」

ヒロイン「…私には殆ど痛覚がないから」

勇者「……」

勇者「…魔王に勝てるのかな」

ヒロイン「どうして私に聞くの?」

勇者「俺はまだ、魔王がどんな奴かも知らないからさ…3人掛かりでも勝てなかったんだろ?」

ヒロイン「あの時とは状況が違うわ。私1人の攻撃じゃ魔王の再生能力を上回れないだけで、私だけでも負ける事はないんだから」

勇者「でもさ、それならどうしてサキュバスにいつも負けていたんだ?」

ヒロイン「…最初は本当に勝てなかったの。勇者の力も元に比べて半減していたし、元々私は回復魔法が専門の非戦闘員だったから」

ヒロイン「長い時の中で私も戦えるようになったけど、その時にはもう世界はボロボロの状態で…魔王を倒す意味も見失っていたっていうか…」

ヒロイン「…ううん、こんなのただの言い訳だね。私は1人になるのが怖かった…それだけの為に、あなたを見殺しにしてきたの」

勇者「…いいさ。そのまま仮に魔王を倒せたとしても、その時の俺は何も知らなかったんだろ?今回初めて、ヒロインからこの世界の真実を聞く事ができたみたいだし」

ヒロイン「…真実を知る事ができて良かったと思っているの?」

勇者「…どうかな。でも、ヒロイン1人に全て押し付けて、俺は何も知らずに幻の世界で英雄気取り…それはあんまりだと思うから」

ヒロイン「…優しいね」

勇者「やめてくれよ、せめてもの償い…とでも言えばいいかな」

ヒロイン「…どう返事をしていいかわからないよ」

勇者「……」

ヒロイン「…そんな事より、王都が見えたわ」

勇者「あ、ああ…」

【王都】

勇者「ひどい有り様だな…」

ヒロイン「王都は、私達が最初に訪れた時から既にこうだった…昔と殆ど変わっていないわ」

勇者「そうか…じゃあ、ここが滅んだのは俺のせいじゃないんだな…」

ヒロイン「他の街だって勇者のせいじゃないでしょ」

勇者「…昔の俺が魔王を倒せていれば、他の街は守れたはずだ」

ヒロイン「やめて…勇者は私を庇って大怪我をしたのよ。私が足を引っ張ったようなものなのに…」

勇者「けど、ヒロインがいなければ魔王の所まですら辿り着けなかったかもしれない」

ヒロイン「それは…」

勇者「…もうやめよう。言い出したのは俺だったな、ごめん」

ヒロイン「……」

勇者「誰のせいにしたって、何も変わらない。どれだけ後悔しても…時間は戻せないんだ。俺達にできる事は…ただ1つ魔王への復讐」

ヒロイン「そうだね…私だって魔王が憎くない訳じゃないよ。魔王さえいなければ、誰も苦しまずに済んだのに…できる事なら、なるべく痛め付けて殺してやりたい」

勇者「……」

ヒロイン「…私の事、怖いと思った?」

勇者「いや…当然だと思うよ」

ヒロイン「…そっか。そろそろ行こう…全てを終わらせに」

勇者「ああ…絶対に倒してみせるよ」

ヒロイン「…うん」

【魔王城】

魔王「…おや、久しいな勇者。サキュバスを倒したそうじゃないか」

勇者「こいつが…魔王…!!」

魔王「おっと。初めまして、の方が良かったかな?くくく…」

ヒロイン「…その薄気味悪い笑みを苦痛に歪めてあげるわ。覚悟して」

魔王「おお、怖い怖い。本当にそんな事ができるとでも思っているのか?」

勇者「やってやる!2人で攻撃すればお前の再生能力を上回れるはずだ!」

魔王「確かにその通りだが…ならば貴様を狙うまでよっ!!」

勇者「!!」

魔王「出でよ闇の稲妻、ディザスターアーク!!」バチィッ

ヒロイン「…させないっ!!」バッ

魔王「ちっ…こしゃくな…」

勇者「た、助かったよヒロイン」

ヒロイン「私を盾にして。私はダメージを受けないから」

勇者「なっ…そんな事…!!」

ヒロイン「倒したいんでしょ…魔王を」

勇者「…くそっ!!」

魔王「どうした?反撃してこぬなら続けていくぞ!受けよ地獄の業火、エビルクリムゾンッ!!」ゴオッ

ヒロイン「具現せよ氷の十字、フリジットクロス!!」カキーン

魔王「氷の魔法でこの私の炎を相殺しただと?!」

ヒロイン「…見くびらないで。私が何百年生きていると思っているの?今の私は並の魔術師とは比較にならないわよ」

魔王「ぬぅ…以前より魔力が増しているという事か」

ヒロイン「それともう1つ」

魔王「ん?」

ヒロイン「…背後には気を付けた方がいいわ」

魔王「!!しまっ…」

勇者「切り裂け!聖光破斬っ!!」ズシュッ

魔王「ぐっ…」

魔王「この死に損ないがああぁっ!!」ゴンッ

勇者「ぎゃああぁぁぁっ?!」ズサッ

ヒロイン「勇者?!」

勇者「だ、大丈夫だ…この程度の傷…」

ヒロイン「待って、すぐに回復魔法をかけるから!」

魔法「ふん…その間に私も再生させてもらうとしよう」

勇者「くそっ…」

ヒロイン「…長期戦になりそうね」

魔王「しぶとい奴らだ…滅せよ!グラビティスフィア!!」ボムッ

ヒロイン「…外れたわよ?」

魔王「ちっ!狙いが狂ったか…」

勇者「魔王も疲れてきてるみたいだな…」

ヒロイン「勇者…今から言う事をよく聞いて」ボソッ

勇者「ん?」ボソッ

ヒロイン「今の魔王なら、あなたの全力の攻撃を正面から当てられれば倒せると思うわ。私が大きな魔法で魔王の視界を奪うから、その影に隠れて飛んで」ボソッ

勇者「影に隠れてか…やってみるよ」ボソッ

ヒロイン「同じ手は2度は通じないはず…失敗しないようにね」ボソッ

魔王「さっきから何を話している?」

ヒロイン「さぁ?敵に手の内を明かすとでも?」

魔王「まぁよい、その間に私もいくらかダメージを回復できたからな」

ヒロイン「それは良かったじゃない。けれど残念ね…次の一撃であなたは終わる」

魔王「ふん、デタラメを…」

ヒロイン「嘘かどうかはその目で見極めればいいわ!荘厳たる浄化の意志…我の元に集いて全ての悪を断罪せよ!セイクリッドクライシス!!」ギラッ

魔王「ひ、光の最上位魔法を広範囲に展開だと…?!ぬおおおぉぉぉぉっ!!」

魔王「…はぁっ、はぁっ…。確かに人間技とは思えぬ威力だった…貴様の魔力の強さは評価してやろう。だが…この私を消し去るには、いささか威力が足りなかったよう…」

勇者「…これで終わりだ!」

魔王「?!」

勇者「冥導乱翔閃っ!!」ザシュッ

魔王「ぐおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

ヒロイン「やったわ!!」

魔王「ま、まさか…この私が…敗れるとは…」

魔王「だが…くくく、実に皮肉だな…。今更私を倒した所で、貴様らの望んだ平和など…もはや叶いは、しな…」ガクッ

勇者「た…倒したのか?」

ガラガラ…

ヒロイン「な、何?!まだ何か…きゃっ!!」

ドゴォンッ

勇者「…城が崩れてるんだ!恐らく魔王の魔力で形を保っていたんだろう…脱出するぞ!」

ヒロイン「う、うん!」

【王都】

勇者「…どうにか脱出できたな」

ヒロイン「…すっかり夜だね」

勇者「ああ…星はあんまり出てないけど」

ヒロイン「…仕方ないよ、空は気まぐれだから」

勇者「なんだろう…魔王を倒したせいか、肩の荷が下りたっていうか…」

ヒロイン「…私も。復讐からは何も生まれない、なんてよく言うけど…あんなの綺麗事だよ」

ヒロイン「本当に全て奪い去さられて、もう何も生み出す事すらできなくなってしまったら…行き着く答えなんて1つしかないもの」

勇者「…そうだな」

ヒロイン「…約束、覚えてる?」

勇者「えっと…魔王を倒せたらお願いを聞く、ってやつだよな?」

ヒロイン「うん」

勇者「いいぜ、言ってみろよ」

ヒロイン「まぁそう急かさないでよ」

勇者「なんだよそれ…」

ヒロイン「ふふっ…目、瞑って?」

勇者「え?こうか?」

ヒロイン「…ちゅっ」

勇者「わっ?!」

ヒロイン「…びっくりした?」

勇者「なな、何するんだよ!!」

ヒロイン「いいじゃない、別に。たまには私からしても」

勇者「たまには私からって…あ、そうか…い、いつもは俺が…」

ヒロイン「赤くなってる。可愛い」

勇者「か、からかうな!…って、お願いって目を瞑るだけでよかったのかよ!」

ヒロイン「ううん、違うよ。今のは私のただの我が儘だもん」

勇者「はぁ…じゃあお願いってのは?」

ヒロイン「…私を殺して」

勇者「…は?」

ヒロイン「聞こえなかった?私を殺してほしいの」

勇者「な、なんで俺がヒロインをっ?!大体、ヒロインは死なない体なんじゃ…」

ヒロイン「そう、誰も私を殺せはしない…ただ1人、私に禁呪を掛けた勇者以外は」

勇者「……」

ヒロイン「あなたは魔王を倒し、人々の無念を晴らしたわ…きっともうすぐ成仏してしまう。そうなってしまっては遅いの…私を1人で置いて行かないで」

勇者「そんな…俺がヒロインを殺すなんて…」

ヒロイン「約束したじゃない、お願い聞いてくれるって」

勇者「そ、そりゃそうだけどさ…って?!」シュウウウ…

ヒロイン「勇者が消えかけてる…お願い、早くしてっ!!」

勇者「…できねぇよ!!俺だって…俺だってヒロインの事が好きなんだ!」

ヒロイン「だったらさっさと殺してよ!その好きな人を永遠の檻に閉じ込めたいの?!」

勇者「そうじゃない…そうじゃないけど…!!」

ヒロイン「もう疲れたのよ…解放してって言ってるの!!」

勇者「……」

ヒロイン「…そう」ジャキン

勇者「ナ、ナイフ?!何のつもりだ?!」

ヒロイン「…あなたにその気がないなら、私がその気にさせるわ。無抵抗の相手を殺すのは躊躇いがあるでしょ?」シュッ

勇者「お、おいっ!!」バッ

ヒロイン「次は外さない…私は本気よ。それとも何?また私に殺されたい?」

勇者「くっ…」

ヒロイン「…気に入らない目ね。今更善人ぶらないでよ!平気な顔して私をこんな体にしたくせにっ!!」ブンッ

勇者「…平気な訳ないだろ!!最初の俺は、自分の命と引き換えにヒロインに禁呪を掛けたって言ってたよな?!こっちだって命懸けで選択したはずだ!」キンッ

ヒロイン「命懸け?死んでもすぐに生き返る、そんな安い命で偉そうに言わないでよっ!!」ブンッ

勇者「や、安い命だと…?!ふざけるな、誰が好きで何度も何度も生き返るかってんだ!」キンッ

ヒロイン「さぁどうかしら?私と違って、勇者の目に映っていたのは希望に満ちた幻の世界だもんね!そりゃ何回やり直しても楽しいんじゃないっ!!」ブンッ

勇者「それは…ヒロインがずっと何も教えてくれなかったからだろうが!!」キンッ

ヒロイン「ええ、そうよ!!だったら何?!もっと早く教えてあげれば良かった?勇者の見てる世界なんて全部…ぜん、ぶ…」

勇者「ヒロイン?」

ヒロイン「…うぅ、うああぁぁぁっ!!」

勇者「ど、どうしたんだよ?!」

ヒロイン「うあ、う…なんで…なんでそんなに意地悪するの…?こんな事言いたくないのに…大好きな勇者に、本当はこんな事言いたくないのにっ!!」

勇者「ヒロイン…」

ヒロイン「…これだけ煽っても殺してくれないんだね…。ひどいよ…私は…私はただあなたと一緒に楽になりたいだけなのにっ!!」

勇者「……」

ヒロイン「どうすればいいの…?自分でも死ねないんだよ?!何度も試したわ…ナイフで胸を貫こうともした、炎の魔法で自分を炙ったりもした…それでも駄目だった!!」

勇者「……」

ヒロイン「これ以上どうしろって言うの?!崖から飛べばいい?!海に沈めばいい?!それとも…」

勇者「…もうやめてくれ」

ヒロイン「……」

勇者「…やるから」

ヒロイン「…本当?」

勇者「もうすぐ俺は完全に消滅する…自分でわかるんだ」

ヒロイン「そう…」

勇者「…俺がヒロインを、殺すから」

ヒロイン「お願い…」

勇者「……」

勇者「くそっ…手が震えやがる…」

ヒロイン「大丈夫だよ、私達はずっと一緒…。2人で違う世界に行くだけだから…」

勇者「うぐ…お、俺は…俺はっ…!!」

勇者「…あああぁぁぁぁっ!!」

ブシュッ

ヒロイン「んっ…」

ヒロイン「…あり、がとう…」


勇者「…なんで、どうして礼なんか言うんだよ…!!俺はヒロインを苦しめる事しかできなかったのに…っ!!」

ヒロイン「そんな事ない…。私、勇者に出会えてよかった…。辛い事も苦しい事もたくさんあったけど…げほっ、こうして、あなたの腕の中で…」

勇者「う、うぅっ…!!」

ヒロイン「泣かな…いで?」

勇者「…ヒロインだって…泣いてるじゃないか…」

ヒロイン「えへ、へ…バレちゃった?私、まだ涙なんか…流せたんだね…。久しぶりに、人の体に戻ったみたい…だよ…」

勇者「人だっ!!お前は人だ、俺が愛した人だっ!!何回死んで、何回生まれ変わったって…今だってそう!!俺はヒロインが…好きなんだっ!!」

ヒロイン「嬉、しい…。私も…ゆ、しゃ…」

ヒロイン「す…」

勇者「…ヒロ…イン?」

ヒロイン「……」

勇者「…おやすみ」

勇者「…ごめんな…ごめんな…。ずっと寂しい思いさせて…」

勇者「こんな事、俺には言う資格なんてないのかもしれないけど…せめて安らかに眠ってくれ…」

勇者「ほら、俺も…もう消えるからさ。…最後ぐらい一緒に逝こうな…」ギュッ

勇者「…はは、なんだよ…お前の手…」

勇者「まだ、こんなに…温か…」

勇者「……」シュウウウ…



ごめんな



ありがとう



辛かったろ?



あぁこれが死か



もう充分だ



愛してる



…バイバイ


それが俺の見た…最後の光景だった。

もはや人の身ではなく、成仏という形で消滅していく俺の体…

肉体は光の粒となり、夜空へゆっくりと舞い上がっていく。

それはまるで輝く星のようで…

どこか幻想的で…

この景色を、ヒロインにも見せたかったな…なんて。

そんな馬鹿な事を考えながら、俺の意識は夜の静寂へと消えていった。

~~~~~

夜空の星を数えるの

あなたのキスを数えるように

今度はずっと一緒だよ

私も星になれたから



~fin~

最後までお読み下さった方、ありがとうございました。

途中にあった質問に答えますね
ツクー○のDSで作っていた物なので公開も何もないですね…
当時はコンテストには応募したり、燃えてましたよー
ストーリー重視で作ったこの作品よりも、システム重視で作った作品の方が高評価をいただけて受賞にまで至ったのは少し複雑な気分でしたが…w
ゲームはやっぱりゲームらしい方がいいんだろう、という事でストーリー重視のこの作品をSSにしてみました

どういう意図でしょうか?
作者は自分なのですが…

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom