スネーク「こちらスネーク、Fラン大学に潜入した。」 (67)

※この話の30%ほどはノンフィクションです

キャンベル「突然だが、ある大学に潜入してもらいたい。」

スネーク「大学だって?どうしてまた大学なんかに?」

キャンベル「スネーク、君はFラン大学というものを知っているか?」

スネーク「ああ、聞いたことはある。そのー、レベルが低い大学のことだろう?」

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キャンベル「低い、なんてものじゃない。最底辺だ。」

スネーク「そうなのか。それで、どうして潜入を?」

キャンベル「知っての通り、この国には数多く大学が存在する。
だが、一流の大学はその1割あるかすら怪しい。」

キャンベル「2流の大学ですら数は多くない。ほとんどは3流だ。」

スネーク「ふむ…」

キャンベル「教育レベルの低下は進む一方だ。
そこで最底辺の大学の現状を探り、
教育改革に役立てるというわけだ。」

スネーク「で、俺は何を?学生のふりでもするのか?」

キャンベル「いや、そんなくだらぬことではない。
君には運営側を探ってもらう。」

キャンベル「これが潜入先の大学だ。」

スネーク「見取り図を見る限り…随分広いんだな。」

キャンベル「この大学は今年で5周年を迎える、かなり新しい大学だ。」

キャンベル「そして大きな特徴が…この建物だ。」

スネーク「このバカでかい建物か?」

キャンベル「そう。この建物は『運営棟』と呼ばれているらしい。大学の校舎から100mも離れている。」

キャンベル「なぜここまで離れているかは謎だ。しかし潜入し易いという利点がある。」

スネーク「潜入は簡単だろうが…」

キャンベル「どうした?」

スネーク「広すぎる。まるで軍事施設だ。大学の校舎の3倍はあるぞ。」

キャンベル「…実は今回の潜入目的は、その点についての調査も含んでいる。」

スネーク「どういうことだ?」

キャンベル「この建物は不自然に広い。過去に何人か潜入したことがあるそうだが、帰ってこなかったらしい。」

スネーク「そんなことがあったのか!?」

キャンベル「もちろん、公にはされていない。」

キャンベル「率直に言うと、教育の現状調査は名目にすぎん。」

スネーク「この施設の謎を明かせ…ということか。」

キャンベル「まあ、可能であれば両方調査してほしい。一石二鳥だ。」

キャンベル「それと、今回の任務には協力者がいる。内部の人間だ。」

スネーク「内部の」

キャンベル「…と言っても学生だが。待ち合わせについては、当日に指示をする。」

スネーク「…わかった。」

一週間後…

その大学はへんぴな所にあった。
最寄りの駅へ向かう途中、車窓からは田畑が見えるだけ。しかし、その奥から突如、近代的な建築物が現れるのだ。
実に妙な感覚である。

Am 8:30
スネークが電車を降りると、小さな駅は学生で賑わっていた。

今は目立ぬように地味な服を着ている。

彼はまず学生を観察することにした。

ベンチに腰掛け、スマートフォンをいじるふりをする。

学生の外見は予想より普通だ。
髪を染めている奴はいるが、ごくわずかである。
あからさまな不良はいなかった。

それより目に付くのは、かなりの数の中国人だ。
おそらく留学生であろう。

テレレレン!テレレレン!

キャンベル「スネーク、駅に着いたようだな。」

スネーク「ああ。」

スネークは小声で答えた。

キャンベル「これからの潜入のために、こちらに専門家を呼んでおいた。」

スネーク「専門家だって?」

キャンベル「この国の大学事情に精通しているそうだ。」

「スネーク、聞こえる?」

スネーク「ああ。」

「私はセシリア。教育のスペシャリストよ。」

キャンベル「セシリアは『大学改革委員』の委員長を務めている。」

セシリア「よろしくね、スネーク。」

スネーク「ああ、よろしく頼む。」

セシリア「早速だけど、何か気になることはある?」

スネーク「ああ、中国人らしき学生が多く見られる。彼らは留学生か?」

セシリア「ええ。レベルが低い大学だと、当然だけど学生は集まらないわ。」

セシリア「大学側は何としても学生が欲しいから、補助金を出して留学生を集めるの。多いのは中国人ね。」

スネーク「留学生はいいカモってわけか?」

セシリア「そうよ。正直、こんな大学に通っても本人たちにとっては無意味よ。金のために呼び込むだけ。あんまり珍しい事じゃないわ。」

スネーク「なるほどな…。」

スネークは駅を出て、大学へ向かった。大学の建物はかなり近代的だ。
しかし周辺には畑と、小さな民家しかなく、違和感しかない。

大学の向こうに、大きな工場が何軒か見えてきた。
有名な大手企業のロゴが貼り付いている。
工場の存在自体は、郊外では珍しくない光景だ。

コンビニは2軒ほど、駅の近くにある。しかしファミリーレストランや呑み屋の類いは無い。

スネーク「学生は何処で遊ぶんだ?この辺りには何も無いぞ。」

セシリア「そこから電車で3駅のところに、ちょっとした盛り場があるみたい。おそらくそこに集まるんでしょうね。」

スネーク「そうか。」

大学の門に近づいた。問題の『運営棟』が左手に大きく構えている。

実物を目にすると、想像以上に巨大な姿があった。後ろに見える工場と、大きさはほぼ変わらない。

スネーク「不自然すぎる。あまりに大きい…。」

キャンベル「そちらへの潜入は夜だ。まずは校舎の方で調査を始めてくれ。」

スネーク「どうすればいい?」

セシリア「その大学の図書館は一般に開放されているわ。探すふりをして、学内を見回ってみたら?」

スネーク「…それは作戦と言えるのか?まあいい、協力者は?」

キャンベル「午後1時に会ってもらう。場所については追って連絡する。」

スネーク「分かった。ところでセシリア。」

スネーク「この大学は、どうしてこんな辺境にあるんだ?」

セシリア「首都圏は土地が高いからよ。こういういい加減な大学は、建物には金をかけるのに、土地代を渋ることが多いの。」

セシリア「でも郊外にある大学に学生は集まらない。レベルが下がる。悪循環ね。」

セシリア「それと…スネーク。」

スネーク「何だ?」

セシリア「こういう大学を調査する以上、知っておかなければならないキーワードがあるわ。」

セシリア「『理事長』」よ。

スネーク「理事長?」

セシリア「Fランクと言われる大学の
ほとんどでは、学長よりも理事長が権力を握っている。そして理事長は、どうも私利私欲に走る傾向が強いの。」

スネーク「と言うと?」

セシリア「これらの理事長は、儲けることだけを考えることが多い。学生のことなんて、一切考えないわ。自分が好きなように運営する。」

セシリア「それも教育レベルの低下に一役買うわけね。」

スネーク「…分かった。覚えておく。」

テレレレン!テレレレン!

スネーク「セシリア、ちょっといいか?」

セシリア「何かしら?」

スネーク「一般人が食堂に集まっているんだ。どういうことだ?」

セシリア「その大学は、一般人向けに食堂を開けているみたい。近くにいくつか工場があるでしょ?そこの職員やパートの人が、朝食、昼食を食べに来るのね。」

セシリア「評判を上げるためか金儲けのためか分からないけど。でも、どうやら学生は困っているみたい。」

スネーク「なぜ?」

セシリア「一般客が来すぎて、学生が入り切らないそうよ。あふれた学生はコンビニで買い食いするしかないわけ。」

スネーク「妙な状態だな…。しかし君は詳しいんだな、大学に。」

セシリア「当然よ。スペシャリストだもの。分からないのは『運営棟』についてだけ。」

セシリア「だから今回の調査には、私も大いに興味があるの。」

スネークは学内をぶらついた。
メディア棟というガラス張りの建物がある。
中で学生が、何かの作業をしている。
セシリアによると、文化祭が近いらしく、その準備だそうだ。

スネークは特に大学関係者に声をかけられることもなく、昼になった。

テレレレン!テレレレン!

キャンベル「スネーク、協力者とは午後1時、図書館の前で会うことになっている。どこかで昼食をとって、図書館へ向かってくれ。」

スネーク「分かった。」

スネークは食堂を覗いた。
幸い空席があったので、スネークはホットドッグを食べることにした。

スネーク(うーん…)

あんまり美味くない。
そそくさと食事を済ませ、図書館へ行く。

図書館の入り口付近で一時まで待つと、地味な服装をした男が近づいてきた。

男「スネークさん…ですね?」

スネーク「いや、違う。俺はテリーだ。」

男「失礼、メガネが合わないもので。」

キャンベルから言われていた手順で、お互いの確認が済んだ。

スネーク「で、どうするんだ?」

男「メディア棟内で個室が使えます。会議用に、予約したんです。」

スネーク「予約…そうか、君は学生だったな。」

男「ええ、ジャンです。よろしく。」

ジャン「学生といっても、僕は潜入のために受験しました。あなたと同じように、『運営棟』探るためにね。」

スネーク「成果はあったのか?」

ジャン「いえ…。入り口は一つだけで、厳しく監視されています。学生は近寄ることすら不可能です。」

スネーク「そうか…。」

ジャン「でも一つ、気になることが…。」

スネーク「なんだ?」

ジャン「いえ、また後にしましょう。」

ジャン「僕は、『教育レベル低下に関しての調査』について協力するのと、『運営棟』への潜入に少しばから手を貸します。その先は、あなたが。」

スネーク「ああ。」

ジャン「では、行きましょう。」

2人はメディア棟の5階へ向かった。
入ったのは窓が無い一室で、人目にはつかない。

ジャン「いくつかの講義室に、盗聴機をしかけました。そろそろ3限目が始まるので、一緒に聴きましょう。」

スネーク「ああ。確かに、どんな講義をやっているか気にはなる。」

ジャンは備え付けの器具にスマートフォンを取り付け、スピーカーから音を出した。

ジャン「チャンネル1です。『西洋史学』の講義が行われます。」

スネーク「この大学の学部はどうなってる?」

ジャン「キャンパスはここだけで、文学部、教育学部、メディア学部があります。」

スピーカーから音が出た。

「えーどうもね。えー今回は11世紀からね、12世紀にかけてのね、教皇権のね、伸張についてね。」

教授らしき、落ち着かない声が聞こえてくる。
私語はあまり聞こえない。

スネーク「以外と静かなんだな。」

ジャン「ええ、喋るより、眠る学生の方が多いんです。」

「11世紀にね、叙任権闘争というのがね、起こります。時の神聖ローマ皇帝のね、ハインリヒ4世って人がね、時のローマ教皇のね、グレゴリウス7世って人とね…」

スネーク「レベルは低いが、普通の講義だな。」

ジャン「ええ、割と真面目な講義も多いですよ。チャンネル2にしましょう。『情報コミュニケーション』の授業です。」

スピーカーからは騒音が飛び出した。学生の話し声のようだ。

ジャン「…まだ教授が来てないようです。」

ジャンはチャンネルを3に変えた。

「…さらに物質を『静』として考えることに難点があると、マルクスは気付いたわけです。そのため彼は、フォイエルバッハの唯物論を「意識が人間の存在を決定するのではなく、人間の社会的存在が意識を決定する」という定式に変え、1844年に…」

ジャン「『社会思想史』ですね。」

スネーク「なかなか本格的な講義じゃないか。」

ジャン「真面目に聴いている生徒なんて、誰一人いませんよ。」

ジャン「チャンネル4は、『教育学』です。」

「ですから子供というのは幼い頃の記憶というものをとても大事にするわけですねそれがいいかわるいか構わず記憶に残り続けるわけですですからその時期の教育というのは非常に重要であるということですね小学校の教員の大変なところはそこです真剣に接しないと子供は精神的に問題をかかえる可能性もある…」

スネーク「早口すぎて聞き取れん。」

ジャン「チャンネル5です。」

「エスタ エス ミラ。」
「ミラ、エスト エス パブロ。エス ミ アミーゴ。」
「ムチョ グスト パブロ!」
「エンカンターダ ミラ!」

スネーク「スペイン語だな?」

ジャン「ええ。一応、第二外国語はやるんです。基礎レベルで終わりですけど。」

ジャン「チャンネルはここまでです。」

スネーク「チャンネル2はどうなってる?教授は来たか?」

「ガヤガヤ…ガヤガヤ」

ジャン「まだですね。」

スネーク「もう30分は経っているぞ?」

ジャン「教授が遅れるなんて、大学では日常茶飯事ですよ。」

スネーク「うーむ…」

「ガタッ…シーン」

ジャン「お、来ましたよ。」

「えー、テキストの43ページから、50ページまでを、しっかり読んでください。以上。」

「…ガタッ…ガヤガヤガヤ」

スネーク「な、何だ…この講義は…?」

ジャン「僕は文学部なので知りませんでしたが…いるんですねえ、こういう教授も。」

それから2人は4限目まで講義を聴き続け、気が付けば夕方になっていた。

ジャン「『運営棟』の見取り図をお渡しします。…実際とは異なる可能性が高いですが。」

スネーク「ああ。」

ジャン「隣町にあるモーテルに部屋を借りてあります。中に物資も届けました。これが鍵です。金庫の暗証番号は、6139です。」

スネーク「ありがとう。」

ジャン「僕にできるのはこれくらい。頑張ってください。」

スネーク「恩に着る。」

スネーク「そういえば、気になることがあると言ってたな?」

ジャン「ええ。実は午後6時ぐらいになると、20人ほどの学生が『運営棟』に連れていかれるんです。僕はまだ入ったことはない…彼らが中でどうしているか、分からないんです。」

Pm 5:30
スネークはモーテルに到着した。

部屋に入って金庫を開けると、催眠銃やレーダーなど、仕事道具一式が揃っていた。
スネークは部屋の中でゆっくり準備を済ませた。

Pm 6:30
すでに空は暗くなっている。
スネークは装備を大きめのリュックに入れて、大学に向かった。

『運営棟』の外、塀の内側では警備員が巡回している。
スネークは建物の北側で巡回が過ぎるのを待ち、塀を乗り越えた。
そして茂みに隠れた。

ガサガサ

警備員「うん?」

警備員「何の音だ?」

警備員は音のした方、茂みに近づいた。

ガサッ!

突然、茂みからスネークが飛び出し、警備員を思い切り地面に叩きつけた。
警備員は声も出さず、気絶した。

スネークは全身灰色の迷彩服に身を包み、
同じく灰色のバンダナをつけていた。
その目は鋭く、何事も見逃さない、鷹のような目に変わっていた。

スネーク「待たせたな。」

スネークは『運営棟』を見上げた。
どんよりとした白色の、窓の少ない無機質な壁。

中には何があるのか。
本当の任務はこれからだ。

スネークはその建物が、とんでもなく恐ろしい、
背筋が凍るような気配を漂わせているように感じた。


To be continued…

キリがいいので分けます。

続きはそのうち投下するつもりです。

見てくださった方、ありがとうございました。

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