すぐ終わるかもしれません
安価まで連投でー。
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人の世は弱肉強食。麻雀だってそれは変わりないし、強いからこそ最愛の仲間たちは全国へと行ける。
京太郎「なら、そのサポートこそが俺のやるべきことだよな」
残念ながら、俺には咲達みたいな異能も無いし、和みたいにそれと渡り合うだけの実力も無し。
そうなれば俺にできるのは麻雀以外の手。
理論を越えた、領域外からの手法――
京太郎「つまるところ…コレだよな」
鞄に一つ、危険物。ポンと叩いても増えたりはしないけど、頼もしい感触が俺の手に伝わってくる。
京太郎「見つかったら捕まるのかね…」
使う人によっては凶器そのもの。
部員共にとっては日常の道具の一つ。
俺にとっては――
京太郎「咲、お前らの戦いが麻雀で、武器が牌だっていうんなら」
これこそが、命の刃。
京太郎「いいぜ。俺の戦いは厨房で、お前らを支えてやる――!」
包丁に始まる数々の調理用具こそ、俺の最大の武器だ。
それはある時の事だった。
いつも通り部室で練習をするみんな。俺の仕事の一つ、昼飯を給仕してたときに、あいつは言った。
咲「ねえ京ちゃん」
京太郎「んー? なんか嫌いなもんでも入ってたか? ピーマン入れてないぞ」
咲「それは大丈夫なんだけど…えっとね」
言葉を濁す咲。大体のことはズバズバ言うくせに、珍しく躊躇うもんだから妙に気になったんだ。
京太郎「なんだよ、冷やし中華じゃ駄目だったか?」
咲「ううん! そうじゃないの…そうじゃないんだけど」
下を向いて横を向いて、最後には思い切った顔を上げて。言った。
咲「京ちゃん…最近、味が止まってるよ」
京太郎「…………っ」
知ってるよ。そう言いたくて、言えなくて。
ただ握りしめた箸が、音を立てて軋んでいた。
京太郎「そう、か。そうだよな」
咲「ダメとかそういうのじゃないの。でも京ちゃん…」
京太郎「いいよ。俺が一番分かってるし」
じっと見つめればそこには冷やし中華の姿。なんの面白みもない、麺と野菜とベーコンを切って整えただけの食べ物。
作っていても何も楽しくない、ただ食べるだけの物。
俺は――
京太郎「…咲」
こんなので、みんなをどう支えるって言うんだ。
京太郎「俺、旅に出る」
これでみんなをサポートしてるなんて、誰が言えるんだ。
京太郎「必ずみんなのために、最高の料理を作ってみせる…!」
旅は道連れ世は情け。けれと俺の連れ合いは包丁一本、財布一つ、着替え一日他こまごま。
京太郎「…修行ってだけで気持ちが昂るんだから、俺もオトコノコだよな」
目の前には電車が止まる。青春切符だ、時間さえあればどこにだって行ける。
京太郎「ま、俺にとっては一日も一年も同じだけどな」
京太郎「さあ――まずはどこに行くかね…!」
行き着く高校名を一つお願いします。
安価二つ↓
東京、そこは最初で最後のフロンティア。
数多の料理人が集い、数多の料理人が散っていく大都会。
だからこそ、俺は選んだのかもしれない。俺の決意を確かめるために。
京太郎「へ…遠いぜ。もう一文無しかよ」
京太郎「あと頼れるのはお前だけだよ相棒…」
鞄を揺らせば、頼もしい重さが伝わってくる。任せとけと言わんばかりのその感触に、唇が歪むのを感じた。
京太郎「つっても…信頼じゃ腹は膨れねえよなあ…」
京太郎「やべえよな…どうすりゃいいんだよ」
高校一年生、須賀京太郎。初の野宿は憧れの大都会であった。
京太郎「へっ、夕焼けが眩しいぜ」
海辺にて黄昏る俺。かっこいいぜ…
??「あれは…」
臨海女子から一人お願いします
安価二つ↓
ハオ「あの、どうしました?」
京太郎「え?」
夕闇、地平線に沈む太陽が俺と少女を染め上げる。
短く切りそろえられた紺の髪。お団子の後ろ髪が可愛らしい…冷ややかにも見える瞳は、けれどどこか優しくて。
ハオ「あの…どう、しました?」
数分見つめていたと思う。いつの間にか日は暮れて、その顔が闇に沈んだけれど。
彼女の心配そうな声色が、俺へと向けられていた。だから言いたくなってしまった。甘えたくなったのかもしれない。
京太郎「金が無いんだ」
ハオ「…」
京太郎「お腹も空いて」
ハオ「……」
京太郎「へへっ、男一人孤独な旅って奴で」
そして彼女は踵を返し、夕闇へと消えて行った。
京太郎「ふっ……」
京太郎「ま、待ってください! すみませんでしたァ!」
ハオ「どうぞ」
コトン、と目の前に置かれた皿。皿自体は随分と安物に見えて、多分百均だろう。
しかし…なんと、そこに盛られた中華の美しい事か。
京太郎「これは…点心に、焼き飯」
京太郎「八宝菜に麻婆豆腐…! か、完璧だっ!」
ハオ「そうですか? 日本の方が好きそうなものを選んだだけですが」
それが素晴らしいと言うことなのだ。
日本人が好む味という気配り、男の俺が好むものという気配り、一地方に拘らない気配り。
見た目も段違いと言うべきで、百均の安っぽさが吹き飛ぶほどに輝いている。見ているだけで唾液が零れそうだ…!
京太郎「…味は…」
大きい匙に盛って一杯、ほわっと湯気の立つ焼き飯を。
京太郎「ぐ…っ!?」
カランと音を立てて匙が落ちる。落ちてしまった。落としてしまった…ッ!
ハオ「…口に合いませんでしたか?」
くそっ…なんてこと、言いやがる…!
京太郎「うめえッ! 美味すぎるっ!」
止まらねえ…手が止まらなねえよ!
次々と止まることなく手が動く。口へと入り、胃へと入っていく。
そんな俺の姿を見つめるハオさんの目が、どこか、恐ろしい色をしていることに。
俺は気付かなかった。
京太郎「ごちそうさまでしたッ」
ハオ「はい」
満足感に満腹感。幸福感やらなんやらが怒涛の勢いで襲い掛かってくる。このまま寝ちまいたいとこだけど…さすがにな。
京太郎「すみませんでした、上がり込んでご飯食べさせて貰っちゃって…ありがとうございます」
ハオ「いえ…ところで伺っても? どうしてお金もなく、一人旅を」
そう来るか。そう来るよな。
京太郎「…料理を頑張りたい、そう思ったんです。理由は大したことじゃないんですけど」
ハオ「……」
これは、睨まれてるのか? どうにも目線から意図を読めないな…
京太郎「それで厚かましいお願いなんですけど…」
ハオ「構いませんが」
京太郎「中華料理を教えて欲しいんです!」
ハオ「構いませんよ」
京太郎「ホントに迷惑だと思うんですけど、どうか!」
ハオ「はい」
京太郎「いいんかい!」
ハオ「いいですよ」
独り暮らしの女性の家…しかも同い年ときた。正直年上だと思ってました。
しかし意外と何もないんだな。えらく殺風景というか、女の子っぽい部屋とは言えない感じだ。
ハオ「あまり飾り付けるのは趣味ではないので…それより、料理のことですが」
京太郎「うっす! それじゃあ何から…」
ハオ「私が決めてもいいですが、自分で決めて貰った方がいいでしょう」
俺が決める、か。中華と言えばいくつも代表的料理はあるけど…そうだな。
京太郎「……それじゃあ」
京太郎「俺、アレがいいです!」
どの料理? 安価二つ↓
ハオ「なるほど、チンジャオロースですか…さっき出した料理ではないですね」
京太郎「はい。けど、あんなに美味しく作れるんならチンジャオロースは作れますよね?」
チンジャオロース。語感がいいよな。
これも日本人なら誰でも知ってる料理の一つだろう。ピーマン、豚肉。あとはタケノコなりが入った辛みの美味い中華料理。
ハオさんは手早く食材を冷蔵庫から取り出すと、俺の前へと並べだした。
ハオ「あまりたくさん作る必要はないでしょう。調味料ですが、醤油、砂糖、料理酒」
ハオ「そして水に溶いた片栗粉、あとはオイスターソースか…」
出てくるわ出てくるわ。細い指先が持ち上げるビンは小さくて、ハオさんが持ちやすい形のものばかり。
実用性に満ちた形だけれど…少し、可愛いよな。
京太郎「…ん? あの、ハオさん。これ使ってもいいですか?」
ハオ「構いませんが」
京太郎「ありがとうございます!」
さあて、食材も揃ったとこだし…包丁一本、鞄から取り出せば準備万端。
京太郎「唸れ包丁…舞え、食材! うおおおおおおおッ!」
包丁技能レベル5 安価↓ コンマ40以上で成功、ゾロ目で大成功
フライパン技能レベル3 安価二つ↓ コンマ60以上で成功、ゾロ目で大成功
俺は一体今まで何をしていたのだろうか。
いや、料理とはそもそも何なんだろう。俺が今までしてきたのが料理でないとすると…
ハオ「なるほど…肉は端が切れていません。ピーマンは大きさが揃わず」
ハオ「肉は生焼け。牛であれば問題ありませんが、豚には足りないでしょう。野菜も芯まで火が通っていない」
おお…もう…
京太郎「ナマ言ってすみませんでしたァ!」
冷たいフローリングの上で土下座。ハオさんと食材に対して謝罪する以外の選択肢などあるだろうか? いや無い。
ハオ「味付けはこちらでしましたが…なるほど」
ハオさんの顔を窺い知ることはできない。ただ、伏せることしかできはしない。
ハオ「わかりました。料理を頑張りたいということでしたが…」
ぐうの音も出ないとはまさにこのことか。
京太郎「すみません、ホント申し訳ないです…」
ハオ「いえ、初心者であれば仕方ありません。とはいえ包丁まで用意して、形から入るのもいいですが、基本の教本も買った方がいいですね」
ハオ「ではまずは切り方と種類、基本的な炒め方から教えましょう。まずは包丁使い方ですが…」
京太郎「……アッハイ」
そこからですか。そこからですね。そこからお願いします。
こうして俺達の夜は更けていくのだった…ああ、でも手を握って貰えたのは嬉しかったなぁ…
包丁技能レベル5→6
朝。新しい朝が来た。俺にとっては包丁との関係を見つめ直した、まさに新しい朝と言える。
京太郎「おはようございます、ハオさん」
ハオ「おはようございます…良かったんですか? 廊下で」
京太郎「ワンルームの部屋で一緒に寝るのは無理でしょう…」
床が固いとか、身体が痛いだのと甘えたことが言える筈も無し。上げて貰って御馳走になって、料理…の前段階まで教えてもらって文句なぞ、片腹痛いにもほどがある。
しかし…さすがに、一晩を越えてなお厄介になるのは厳しい。世間的にも、個人的にも。
最悪家に電話していくらか振り込んでもらう手もあるが…それか、一日バイトか。
京太郎「それじゃ…お世話になりました。チンジャオロース、ちゃんと作れるようになってみせますんで!」
ハオ「そうですか。それではお元気で…頑張って下さい」
大きな音を立てて扉が閉まる。閉じてしまえば、見えるのは無機質な文字で書かれた『ハオ』の文字。
ほんの一晩だったけど…得るものは、あったように思う。
京太郎「よし…それじゃまずは路銀を稼がないとな!」
安価二つ↓
振り込み:一時的に清澄へ。清澄から一人選択
バイト:白糸台、臨海女子、プロ勢から一人選択
男一代、修行と決めたからには親にすがるなんざできるか! とは思ったものの、さすがに世の中甘くない。
高1のガキを雇ってくれる短期バイトなんぞ見つかるはずもなく、当てもなく彷徨うしかなかった俺。
再び襲い来る空腹と、孤独のあまりハオさんの家に戻ろうとする俺の前に現れたのは、一人の女性。
智葉「…なんだお前は。家出か?」
京太郎「…ちがくはないですね」
まあ家を出てはいるから間違いはないだろう。一応メールで現在地とかは伝えてあるけど。
智葉「こんな所でうずくまっているあたり、余所者か…来い」
京太郎「へ? あ、ちょっ!」
お父さん、お母さん。不出来な息子をお許しください。
僕は今、大変なところにいます。
「お嬢、そのガキは?」
智葉「家出だ。シマの境で呆けていたから拾ってきた」
東京は怖いところとです…
人間、死ぬ気になれば何でもできる。
ほら見ろ。かつて正座が苦手で一分ともたず足を崩していた俺が、今では一時間正座して背筋を張りつめてる。
智葉「なるほど…つまるところ、ただの馬鹿か」
京太郎「はいっ! サッセンしたぁ!」
智葉「うるさい。少し黙ってろ」
任せてください。お口チャックは得意っす。
しかし…なんかアレだな。制服のまま肘掛にもたれかかる女子高生…アリだと思う。
例え周りに、いかついお兄さんが居たとしても…いや、やっぱ怖いっす。
智葉「まあいい…とりあえず家に帰れ。電車代は出してやる」
京太郎「いっ!?」
智葉「親に迷惑と心配をかけてまですることじゃないだろ。いいから…」
京太郎「いえ、そっちは大丈夫なんですけど…これ、メールっす」
智葉「なに…おい」
何度か目を瞑っては指で揉み、目を開けては目を閉じる。そんな智葉さんの気持ちはよく分かる。
修行してくるの一言に、頑張れの一言で返す親とは客観的に見てどうなのよ。
頭が痛いとため息を吐く智葉さんも、なかなか色っぽい。スカート、いいですね。
智葉「…おい、厨房の雑用が一人、いなくなったんだったな」
智葉「どうする? 住み込み飯付き、周りは男だらけだが…バイト代程度なら出してやる」
男だらけですか。そうですか。傷跡の多い逞しい方々でしょうか。
「どうするんじゃ兄ちゃんオラァ!」
京太郎「うっす! お願いしますッ! あざっす!」
「ありがとうございますお嬢じゃボケが!」
京太郎「ありがとうございますお嬢!」
智葉「…馬鹿だな」
皿洗いにお掃除と来たもんで、こればっかは道具や場所を教えてもらえれば問題なしだ。
京太郎「開始一日目にしてコレか…へへっ、雑用スキルなら一人前だぜ」
先輩方は切れたナイフみたいな目つきです。失敗したらと思うと気が気じゃありません。ありがとう部長、ありがとうみんな。
「おい新入り、人が足りねえ。野菜と肉切っとけ」
京太郎「イエッサー…!」
ここは正念場だ…失敗したら…こわっ!
京太郎「唸れ包丁…! マジで!」
包丁技能レベル6 安価↓ コンマ30以上で成功、ゾロ目で大成功
須賀流奥義、サイヤ乱れ切り。食材は綺麗に切れる。
京太郎「野菜と肉、上がりました! サーッ!」
命が掛かればこんなもんよ…! しかしなんつーか、今までも一番いい感じだぜ。
「ほう…やるじゃねーか。それじゃあついでにそっちもだ。お嬢や頭に出すもんだ、失敗なんぞしやがったら…」
ヒィッ! 二連続かよ! が、頑張れ俺の腕! 震えてる場合じゃねえぞ!
京太郎「う、唸れ包丁! 俺の命のために!」
包丁技能レベル6 安価↓ コンマ30以上で成功、ゾロ目で大成功
死ぬ気でやれば何でもできる。最高の出来が二連続と来たもんだ。ありがとう相棒…! 相棒じゃないけど! 持ち込み不可が毒対策とかなにそれこわい。
京太郎「上がりっしたァ!」
我ながらなかなかの角度だ。煮ても崩れず、焼いても壊れず、刺身も照りが美しく映える。
ハオさんの時のはなんだったんだと聞きたい。アレか、全然命の危機じゃなかったからか。俺の腕サボり過ぎだろ。
「…おう、やるじゃねーか。お前、次から調理に回れ」
京太郎「う…うっす! お願いしますッ!」
「おう。安心しろ、仕事の合間だが和食の一つくらい教えてやるよ」
なんと。このお方、顔と体に傷だらけで笑顔も超怖いけど、心は優しいお方だったか。
京太郎「マジっすか! あざっす!」
「簡単なもんだがな。何が作りたいか言ってみろ」
京太郎「ウス! それなら…」
どんな料理? 安価二つ↓
何がいい? まずは中華、洋食は論外か…言ったら次の瞬間生ゴミで捨てられかねん。
かといって肉じゃがとか言っても、睨まれて終わる気がする…なんだ、なにがいい!? あ、れはッ!
京太郎「かっ…カブの、煮物がいいっす!」
食材の山の隣、小ぢんまりとしたスペースに大事そうに置かれた野菜が数個。
白くて丸いその姿、渋いっちゃ渋いが…蕪のレシピなんて知らないから、丁度いいかも。
そうして、あのお方を見上げると。
「あぁ…!? てめえ、蕪の煮物だァ!? てめえ…お嬢に出す蕪しか在庫がねえって知らねえのかボケがぁ!」
京太郎「ひぃッ!? す、すんませんっした! ほんの出来心で!」
無茶苦茶怖いです。厨房は汚いから土下座はできない…したら、食材に触る手と服汚してんなとか言って刺されそうだし。
京太郎「そ、それじゃあ出し巻き卵で…」
「チッ…ああ、さっさと卵取ってこい」
智葉「いや、作ってみろ」
智葉「あまり同年代に好きな奴はいないからな…お前も好きとは、奇遇じゃないか。ふふ」
入り口に立つ制服姿。髪をおろし、眼鏡を外し、腕を組むその姿はまるで撮影の美少女かという御姿で。
いや、なんとなくっす。そんなことを言えるのは、タダのアホだろう。
「いいか、蕪の皮は厚めに切れ。筋が残ると舌触りが悪い」
「かつおだし、醤油、みりんをかけて蕪を入れろ。柔らかくなったら上げて、残った煮汁に片栗粉、酒を溶かせ」
「ダマにならないように、だ…トロミがついたら蕪に掛けて、柚子を刻んで乗せればいい」
「分かったな? お嬢が口に付けるんだ…おう、分かったら命掛けろや」
俺の命、掛かり過ぎっす。でも一応価値は上がってのかな…嫌な感じだけど。
てゆーかお嬢もこっち見てるし…失敗したら魚の餌とかじゃないよな?
智葉「ふふ、楽しみだな。上手くできたらボーナスでも出してやるよ」
やっべ、なんかマジで命掛かってる気がしてきた。お金とか絡むと余計に、マジで。
京太郎「う、うぅ…唸れ包丁、整え味覚ッ!」
胃が、胃が痛い。
包丁技能レベル6 安価↓ コンマ30以上で成功、ゾロ目で大成功
調合技能レベル3 安価二つ↓ コンマ60以上で成功、ゾロ目で大成功
智葉「ふむ…筋が残ってるな。こんな食べにくいのは初めてだ」
ひ、ひぃッ! こ、殺される! 目が、あのお方の目がぁ!
智葉「しかし、味は良い。普段から食べなれてるが…負けず劣らずじゃないか」
…なんか、もっと怖くなったんですけどォ! 褒められたんだろ…?
智葉「総評としては…あとは丁寧に切ってもらえれば全く問題なし。精進あるのみ、だな」
智葉「ふふっ、いいものを食べさせてもらったよ。次はしっかり頼むぞ」
お嬢はそう言って、廊下の向こうへと去っていく。
去り際の笑顔は…気のせいじゃ、ないよな。すっげえ可愛かったんだけど。
……さて。次は蕪の切り方じゃなくて、このお方のほう。
「おい雑用…テメェ、皮は厚めに切れって言ったよなァ…」
京太郎「は、はひ…おっしゃりました…」
「……筋が残ってるたァどういう了見だオラァ!」
京太郎「ひぃッ! すみません! ホントに、すみません!」
※レシピ習得
和食:蕪の煮物
現在取得レシピ
和食:蕪の煮物
洋食:
中華:
手探り感がハンパないですが、今日はここまでで。更新頻度は低めですが細々と続けたいと思います。
最終目標は清澄へ戻り、部員全員の舌を唸らせること。唸るに必要な情報はその都度開示する形で行こうかと。
ご意見など是非頂きたいと思います。ありがとうございました。
再開でー。週に二回くらいで行けたらいいなあという希望。
朝、昼、夜。人の食事は日に三度存在する。
つまりそれは、俺の最も忙しい時間帯が日に三度あるということだ。
京太郎「出汁巻き、上がりましたァ!」
「遅えぞオラァ! さっさと米よそわねえかッ!」
京太郎「っす!」
お嬢の好意で滞在を始めて、はや三日。だいぶ慣れてきたせいか動きもそれなりに洗練されてきた気がする。
しゃもじで掬う米はキラリと光って、艶やかな色を放つ。一粒一粒がはっきりと目に映るくらいに立っていて、ほんわり上がる湯気さえも上品に映る。
京太郎「すげえ米だよな…こんなの見たことねーよ」
さすがに下っ端も下っ端ではこの米は食べられないけど、それでも俺には十分上等な部類だ。
京太郎「しかもボーナスまで貰えたし」
この間の蕪の煮物。切り具合は微妙でも味は好評価だったおかげか、翌日適当に投げ渡された金一封。
さすがに両手の指で足りない…とまでは言わずとも、片手の指では足りない金額。
要するに、旅費には十分な金額を頂いたということで。
京太郎「…どうすっかな」
ここは良い場所だ。怖くても良い人がいて、お嬢みたいな人もいる。
けれど、どこか新天地を目指したい俺も居るのは確かな事で。
滞在か、旅に出るかを選んでください。
旅に出る場合は行きたい場所もお願いします。
安価三つ↓
ししおどしの鳴き声が坪庭に響く。石庭に流れる流水紋、脇を飾る松。
そこに浴衣のお嬢と来ればもう、任侠映画のワンシーンか何かだろう…眼福だけど。
智葉「そうか…もう行くか」
京太郎「へい。お嬢に頂いた路銀、修行のために使わせていただきやす!」
智葉「それ、やめろ」
京太郎「うす!」
俺ってば素直。
智葉「それで? どこに行くつもりだ。私としては長野に帰ってもいいと思うが」
それもいいな…けど、ここで引いたら男が廃るってもんで。
京太郎「今度は大阪に行こうと思います。食文化もだいぶ違うでしょうし」
智葉「大阪か。それなら新幹線か飛行機か…新幹線にしておけ」
京太郎「? うっす!」
一度だけ平伏を、これまでの感謝と別れの挨拶に。
そしてたっぷりと時間を掛けた後には。
智葉「…また来い。今度は知人として、辺りの観光案内でもしてやる」
纏めて結い上げた髪と、振り返った切れ長の瞳。浴衣からは白い首筋が漏れて、俺の目に突き刺さったのだった。
いいな浴衣。すっげー良い。
東海道をはるばると。五十三次をあっという間に越えるんだから、時代の進歩ってすげえよな。
京太郎「新幹線、もうちょっと止まってもいいんじゃね?」
停車駅で停車してからの出発早すぎて、これじゃあ名古屋についても味噌の一つも買えないだろう。
京太郎「ま…俺にはこれがあるけどな」
出発の時に受け取ったお弁当。あいにく智葉さんの手作りじゃないけど、あの方が拵えてくれたのはなんともありがたい。
京太郎「うめっ! なんだこれ…!」
パカリと蓋を開ければ、宝石のような黄色い粒に、つやつやの照りを返す鶏。いわゆるそぼろってやつだ。
箸で掴んでも崩れずに弾力を返す玉子、それだけでも優しい甘さが唾を引き出していくってのに!
肉はなんだ? 噛めば噛むほど味わいが広がって行きやがる…脂じゃなくて、タレと肉本来の旨味!
それが米と合わされば、米の一粒一粒が官能的な…っ!?
京太郎「こ、これ…あの米じゃねえかっ!」
間違いない…箸の上で光る米粒は、あの、超高級品! なんてイキなことしやがるんだよ…!
京太郎「うめえ…うめえっすお嬢…!」
作ったの、お嬢じゃないけど。ごっそうさんでした。
京太郎「はー…ここが大阪か。なんつーか東京とはまた、違った感じだな」
京太郎「そんじゃまずは腹ごしらえだな」
食ってばっかだな。まあ男子高校生だし、胃袋はそれなりってことで。
京太郎「ガイドブックでもいいけど…どうせなら誰かに聞いた方が早いか?」
ガイドブックor誰かに聞く どちらかを選んでください。
誰かに聞く、の場合は誰かも添えてください。
申し訳ない。ミス。
ガイドブックor誰かに聞く どちらかを選んでください。
誰かに聞く、の場合は誰かも添えてください。
安価二つ↓
悩む。なにせ大阪は初めてだ。ぶっちゃけ右も左も分からないときた。
京太郎「…どうすっかな」
ガイドブックを買ってもいいけど、それだと正直どこ行っても混んでそうだ。
それなら知人に隠れ家的な穴場的なおすすめスポットを教えてもらった方が、通っぽい。問題は。
京太郎「大阪って…誰が知ってんだ?」
清澄のみんなや知り合いは多分、知らないだろう。そうなると知り合い…東京のハオさんかお嬢か?
京太郎「可能性としちゃ、ハオさんよりお嬢だよな…」
一応携帯教えてもらって良かった。とゆーか、東京来たら電話しろって言われて大阪から電話して…大丈夫だろうか。
京太郎「ええい…ままよ!」
『それで私に電話した、と』
京太郎「うす」
『私が知ってるとでも?』
京太郎「…すんません」
『…いいさ、あまり知ってるわけじゃないが。大阪駅あたりなら、そうだな…』
知ってた!
『ああ、あの店があった』
何の店? 洋食、中華、和食、粉物、イタリアンから一つ選択してください。
またコンマ30以上で出会いあり(人物固定)
安価二つ↓
京太郎「ここか…やっぱ大阪って言えばコナモンだよな。さすがお嬢、分かってるぜ」
教えられた店の前、なんとも大阪っぽいというか、安っぽ…げふんげふん。
京太郎「そいじゃ入らせてもらおうかね――っと」
「っと、スマンなー。なんやにーちゃん一人か? そーゆーのもアリやと思うでー」
なんだなんだ、えらく元気な人だな…赤髪のポニーテール。いいね、真っ白ってわけじゃないけど、健康的な首の色とほどよい肉付きが映える。
ああいう人と同席できたら嬉しかったんだけどな…まあ、そんないい話は無いか。
「「「っしゃっせー!」」」
京太郎「ふーむ…お好み焼き、たこ焼き、もんじゃ焼き。クレープ、ホットケーキ…節操なしだなオイ」
粉ってマジで粉なら何でもいいのか…
京太郎「いくつも食っても仕方ないよな。ここは一つ、味覚と視覚を集中させて、味を盗む…!」
粉物から一つ、料理をお願いします。
粉なら何でも。コンマ30以上でレシピ仮習得。
安価二つ↓
イカ焼きやろ
コンマも含めて>>96採用になりますん
はい。例えば安価下などの場合全て下のレスを採用します。
あえて言うなら、裏切られたと言うべきか…だってイカ焼きだぜ? コナモンの店が何でイカ焼いてんだよって思うだろ。
けど、違ったんだ。
京太郎「…これが、イカ焼き」
目の前にはボウルが一つ。店員さんが一人。鉄板が一つ。
ボウルの中には粘っこい白さの…小麦粉か。そしてその中になんと、短冊切りにされたイカ!
熱気の溢れる鉄板はおよそ200度。引かれた油が飛び跳ねて、その熱を伝えてくれる。
そして、そして生地をお玉に一杯。すぐにフツフツと気泡が立ってきて、コナモン特有のいい匂い。そして混ざる、イカの焼ける香ばしい匂い。
更に本番は店員さんがひっくり返してからの話! ぎゅうっと男の体重が乗って押し付けられたその姿!
押し潰された気泡と、ツヤツヤの外面を見れば…食べなくてもモチモチ感が伝わってきやがる。
最後に内側にソースがたっぷり! 甘くて辛い、ソースが鉄板の上で気化すれば、残酷なまでに『美味さ』が押し寄せてくる…!
京太郎「やってくれるぜ…これが、大阪のイカ焼き…!」
口に含んで噛みしめる! 説明なんていらねえ!
京太郎「ぐっ!? う、うめえ…ッ!」
重い。胃にズガンと来る重さ…! これが本場って奴か。そして、重いのに、止まらない…!
京太郎「ごちそうさまでした――!」
イカ焼き。いいぜ…この食いもん、必ずモノにして見せる!
※レシピ習得
イカ焼き(仮):イベント後、完全習得可能
ホテル。最近はビジネスホテルでもネットができるんだからありがたい。
京太郎「とりあえず情報収集だよな」
情報の集め方はいくつかある。たとえばグルメナビみたいなページ。ほかには…
京太郎「ん? 地域別・年代別麻雀?」
チャットもあるのか…まあ時間はいくらでもあるし、ここらで一つ打ってみてもいいよな。
京太郎「ついでにこの辺の情報も聞けるかも知れないし」
京太郎「『よろしくお願いします』っと」
「ん…珍しいな、新規さんか」
「楽しみなのよー」
「おねーちゃんイカ焼き食べて来たんかー…なんかお腹減ってきた…」
誰かさん三人と対局! コンマ大きい順で結果判定。順位で一つ下の人と会える、かも。
京太郎:一つ↓
??:二つ↓
??:三つ↓
??:四つ↓
京太郎「二位か…まあまあなんじゃねえ?」
だいぶ運が向いたとは思う。切ってもほとんど当たらないし、ツモ自体も有効牌が次々寄ってくる。
それでも一位になれなかったのは正直アレだけど…ん?
京太郎「個別チャット? えーと」
『素人の打ち筋。運だけやったな…別に悔しいわけと違うけど』
なんだこれ。超悔しそう。
京太郎「『お疲れ様っした。一つ聞きたいことがあるんですけど』」
『なに? 人の言葉聞き流して質問とは余裕やな…敗者は勝者の言いなりになるしか無いってことやな…』
微妙に面倒くさいけど、まあ質問に答える気はあるって感じか。
京太郎「『大阪で美味しいもん知りませんか。もしくはイカ焼きの作り方』」
『イカ焼きは友達なら知っとるけど。うちが知っとるのは美味しいもんだけやな』
お? これは地元民の耳寄り情報来るんじゃないか?
京太郎「『是非教えてください!』」
『嫌』
こいつ…!
『どーしても教えて欲しかったら、もっかい麻雀で勝ったらええで』
京太郎「すげー悔しかったんだな…『分かりました。それじゃあもっかいやりましょう』」
『ヤリましょうとかセクハラか?』
ちげーよ! 訳の分からんボケすんな!
京太郎「そんじゃもっかいやるか…」
末なんとかさんと対局! コンマの大きさで結果判定。
京太郎:一つ↓
末なんとかさん:二つ↓
おお…なんか今日は来てるな。楽勝じゃねーか。
京太郎「『俺の勝ちな。約束守れよー』っと」
『……悔しくないわ。あーもー分かったわ! 明日暇やし案内したるわアホ』
なんかすげーガキっぽいな。同年代っつっても10代チャットだし、もしかしたら年下かも。いや、20代とかもあるかもだけどさ。
『明日の朝9時、USJで。ハリポタ行きたい』
京太郎「『食いもんだっつってんだろ!』」
『チッ…じゃあ大阪駅で』
不安になってきたぞ…まあ簡単に会おうってくらいだし野郎だろうけど、遠目に確認してヤバそうなら帰るか。
恭子「…あかん、なんか勢いだけで約束したけど」
恭子「これってヤバイんと違うかな…でもこっちからやっぱやめとは言えんし…」
恭子「…とりあえず、行くだけ行ってヤバそうなら帰ろかな」
本日マル、ハチ、ゴ、ゴ。潜入先にて。
京太郎「…人多すぎてわかんねー」
なんなんだ大阪。人がゴミのようだってのは東京で身に染みたけど、ここまで雑多な感じは無かったぞ。
京太郎「『お前どこ居るんだよ。俺は紫のスマホ持ってる』」
正直怖いっちゃ怖いけど、待ち合わせの身としてはすれ違いで会えないってのが一番微妙だ。
まあ…メアドも捨てアドだし、姿見られても別に大したことじゃない。っと…
『うちは赤いスマホ。ほんとに来てる?』
失敬な。気持ちはわからんでもないけども。つーか、いねーんだけど。
京太郎「『赤いスマホなんて分かりやすい奴、どこにもいないぞ』」
『そっちこそ紫なんてアホみたいな色おらんやんか。ちゃんと掲げてもっとき』
京太郎「『お前も天高く持ち上げとけ!』」
京太郎「……」
恭子「……」
居ました。隣に。
京太郎「…なんでスマホカバーなんてつけてんだよ」
恭子「あんたこそ…」
お互い画面を見せ合えば、寸分変わらない文面のメールが映っていて。
可愛らしい女の子だったという事実に、俺の心は高鳴りを覚え――
京太郎「腹減ったし、早く案内頼むわ」
恭子「しゃーないな…早く行くで」
――なくてもいいや。心の前に腹がへこんでちゃなんにもできん。
今日はここまででー。安価とは一体…もうちょい安価要素を入れたいところです。
また次は日曜かその辺りで。
週2どころか週一スタイル。末なんとかさんと味道中。いきましょう
時期に関してはなんかこう余裕のあるふわっとした時期で。
ひょこひょこ揺れる薄いナスみたいな色の髪。ゆるく後頭部に結い上げているせいか、首筋が見えないのはマイナスだ。
しかし…目の前でひょこひょこ揺れられると…なんつーか。
恭子「ええか? 美味いもん案内するとは言ったけど、奢るとは言ってないから…」
引っ張ってみたくなるよな。
恭子「むあっ!? な、何してん、ひゃあっ!」
おお…イナバウアー。背筋が反って見えるようになった目が、俺に抗議するように大きく見開かれている。
京太郎「いや、引っ張りやすいし…つーかなんで制服なんだよ」
恭子「別にデートするわけでも無し、着飾る必要ないやろ! や、やめーやー!」
制服の方がデートっぽい気がするのは気のせいか。気のせいですね。
京太郎「それより早く美味いもんのとこ連れてってくれよ…腹減ったんだけど」
恭子「なら放さんか! あーもー!」
リードのように髪の毛を軽く引っ張りながら、人込みを掻き分けていく。
分けて分けて分け入って、その先に彼女オススメの店があったんだが…
恭子「ったく…ほら、ここがうちのオススメや」
何の店? 洋食、中華、和食、粉物、イタリアンから一つ選択してください。
安価二つ↓
和食 串カツとか和食でいいよな?
意外や意外、しっとり佇む竹垣と、苔生してはいないまでも趣ある潜り戸。
その先にはししおどしがカコーンと音を立てて、外の喧騒から隔絶した世界になっていた。
京太郎「無理」
恭子「は? ちょ、ちょい待ち! どこ行くんや!」
愚か者め。こんなあからさまに高そうな店、俺みたいな金欠のガキに…ん?
鞄、大事なモノを入れる場所。膨らんだ封筒。お嬢からのボーナス。
京太郎「……おし、やっぱ行こう。案内頼むわ」
恭子「はあ? まあええけど…踵かえしたり、また戻ってきたり忙しいやっちゃな」
京太郎「うっせー…おお…」
カラカラ音を立てて開いた扉。その中には十分すぎるほど広い部屋があって、その広さにそぐわないと感じるほどゆとりを持ってテーブルとイスが配置されている。
畳の座敷もあって、テーブル座椅子、どれもこれも漆塗りの肌触り。出てくる店員さんも落ち着いた和服姿。
なんだこれ。俺ら高校生だっけ? つかなんでこいつ、こんな落ち着いてんだ。
恭子「どれにする? うちのオススメはそやなあ…」
恭子「これ、かな」
そう言って向かいの少女はお品書きに指を立てる。
一本、白魚の如き指が指し示すものは、なんとも値段の飛び出た――
和食から一つ、料理をお願いします。>>133には申し訳ありませんが131の安価はジャンル安価とさせていただきます。
コンマ30以上でレシピ仮習得。
安価二つ↓
ライブクッキングというものがある。詳しくは食戟のソーマ参照にて。
恭子「ただのお蕎麦って思うかもしれんけどな…こうやって見てるだけで、十分価値があると思うんや」
そう言う彼女の目線の先では、鼠色の生地が料理人の手で勢いよく練られ、叩かれ、引き伸ばされて。
十分すぎるほど伸びた傍から折りたたまれていく。その所作の一つ一つが蕎麦という食材を魅せていくみたいだ。
トトトトトッ! とまな板と蕎麦切り包丁が音を立てると、一本一本の断面が見えるほど。
空気を含むように釜へ入れられれば、湯の中で踊る蕎麦が、独特の匂いを店の中に放っていく。
それは粉モンみたいにパンチのあるものじゃなくて、そう、日本人であるという当たり前のことを、再認識するような望郷の匂い。
恭子「――なんや、そういう顔もできるんか」
京太郎「…あん?」
恭子「真剣な目、しとったわ。食べるだけならそんな顔せーへん…そっちのほうが、ええな」
京太郎「うっせ。俺は蕎麦作りを盗むのに必死なんだよ」
時間がもったいない。目を蕎麦に向ければ、冷水で締めているところだった。これが肝要、その時間、洗い方、全部モノにして見せる。
――隣の彼女が、また少し笑ったような気がした。
恭子「別に、そんなことせんでも」
京太郎「いや…御馳走になりっぱなしは性にあわねーし、和食作れるんなら俺のも評価して欲しいんだよ」
恭子「…それ、お礼とちゃうやん」
京太郎「まあな」
蕎麦の余韻に浸りつつ、さあお会計と懐の具合を気にしたその時だった。コイツときたら、実は親戚の家で、特別価格でいいと抜かしやがった。
ホントに材料費だろってくらいの価格。しかし料理を見て、味わった俺としてはそれだけじゃ気が収まらない!
そこで、だ。多少和食をたしなむと言うコイツ――末原恭子、実は年上。に礼代わりに俺の和食を披露してやろうではないか。
つっても。俺が作れる和食…っつーか持ってるレシピって一つしかねーんだけど。
恭子「ふうん…蕪?」
京太郎「おう、蕪の煮物だ。ちょっと待ってろよ…」
なんか随分久々な気がするが…行くぜ!
京太郎「唸れ包丁、整え味覚ッ!」
※蕪の煮物……実行技能:包丁、調味
包丁技能レベル6 安価↓ コンマ30以上で成功、ゾロ目で大成功
調味技能レベル3 安価二つ↓ コンマ60以上で成功、ゾロ目で大成功
蕪の皮は厚めに、筋を残さないように。しゅるりしゅるりと剥いていく。
恭子「……ほーん」
さあできた、剥いた蕪は瑞々しい白さ。煮る前から柔らかそうじゃないか。
お次はお味。かつおだし、醤油、みりん…うん、良い具合だ。お嬢に出した時と遜色無しだ!
柔らかくなった蕪にトロリと片栗粉を溶かした煮汁をかけていく。蕎麦とは違ってどこか力強い輝きの汁。
そこにパラっと刻み柚子。強い香気が湯気と合わさって昇り立ち、唾液腺を刺激する。
恭子「なんや、ホントに料理修行しとるん?」
京太郎「そう言ってんだろ…ほら、おまっとさん。あったかいうちにどーぞ」
恭子「…いただきます」
ぱちん。軽い音を立てて合わさる手の平は、すぐに離れてお椀に手を付ける。
恭子「ん…! 筋も綺麗に取ってある。一口大で食べやすい大きさやな」
恭子「味も、蕪を殺さんように優しく味付けしてある…柚子も多すぎず、少なすぎず、か」
ひょいひょいと摘ままれて、あっという間にお椀からは白い蕪が居なくなる。
恭子「ごちそうさまでした」
京太郎「お粗末さん。どうだ? 少しは礼にはなったか?」
聞くと、末原さんは笑って、言った。
恭子「もちろん…けど、その腕で蕪の煮物しか作れんのは勿体ないな…よし!」
そして振り向き、厨房へとずんずん歩を進めていく。俺の腕を、手に取って。
恭子「うちの十八番、教えたるわ。多くを作れてこそ料理人やろ?」
そしてもう一度、俺を振り返ったとき。悪戯っぽい、楽しそうな笑みを浮かべて、俺を見つめていた。
包丁スキル:レベル6→7へ。
調味スキル:レベル3→4へ。
京太郎「で? お前の十八番ってなんだよ」
恭子「だから末原恭子、年上やって言ったやろ…」
出会いが出会いだしな…末原、ならともかく末原さんとか声に出すのは正直ムズい。男の子は意地っぱりなんだよ。
恭子「ま、ええわ。うちの十八番はな――」
恭子から和食の伝授!
和食から一品、お願いします。
安価二つ↓
京太郎「ハモ…そういや、関西では夏にはハモ食べるんだよな」
恭子「ん。さすがに捌くとこからする奴はおらんけど、骨切りされたのを湯引きにするくらいはできるで」
ハモ。夏の京都に行ったことのある人なら、鱧寿司くらいは見たことがあるかもしれないな。
俺も一回食べたことがあるっきりだけど…
恭子「長野やったな。そっちにはなかなか出回らんやろーけど、こっちはスーパーにも売っとるくらいや」
京太郎「へえ…確か、小骨が多いんだよな?」
一つ頷く末原。もう末原でいいか…心の中でも敬称がめんどくなってきた。
恭子「だからこその骨切りや。ま、これは熟練の腕でやるんが一番やけど…」
そう言うと、末原は包丁を引き抜く。眼前に構えたそれは武士の刀のようで、どこか恐ろしく、美しく見えた。
恭子「――よう見とき。これが、骨切りや」
言うやいなや。
凄まじい速度で、かつ細やかに。皮を下にして置かれたハモの切り身に、なんとも狭い間隔で均等に包丁を入れていく。
少しでも狂えば見た目も悪く、皮が切れてしまいそうな勢いなのに…!
そして――あっと、言う間に。今にも花が咲きそうなほど、切れ目の入ったハモが出来上がった。
ヒュン、という音と共に包丁が末原の手を離れ、宙を舞う。
恭子「ま…こんなもんや」
パシン、という音。末原の手には再び包丁が握られて、俺に向かって差し出されていた。
恭子「やってみ。ま、できんでもええ。できんかったら魚屋でやってもらえばええわ」
ああ…でも、さ。
京太郎「できたら、カッコイイよな」
クスリと、末原が笑って頷いた。
京太郎「……行くぞ」
京太郎「唸れ、包丁…!」
包丁技能レベル7 コンマ20以上で成功
安価二つ↓
完璧だ、とは言わないまでも。はっきり言って十分すぎるくらいには、骨切りできたんじゃなかろうか。
恭子「ほーん、やるやん…本腰入れて教えたるわ」
末原も驚いたように言った後、目に強い色が灯る。ま、伊達にお嬢のとこで修行してねーぜ…二日くらいだけど。
恭子「切った身は、次は茹でなあかん。湯引きはこれが肝心かなめや」
そう言って手早く用意するお湯は、たっぷりと。さじ一杯の塩を入れて沸騰させていく。
恭子「まずアカンのは、切り身をそのままお湯にボチャンと入れる事。これは最低や…ザルを使って、少しずつ」
ザルの上には三切れのハモ。薄く湯面に皮だけを浸し、チリチリと歪みだす。
京太郎「…入れないのか?」
恭子「焦ったらアカン。皮がある程度したら…ここや! 全身を湯に沈める…!」
そしたらもう、あっという間だ。透明な身は白く濁り、どんどん反り返っていく。いわゆるハモ、写真通りの姿へと変わっていくのがよくわかる。
恭子「反り返ったら引き上げて、すぐに氷水や。これも入れすぎたらアカン、素早く手早く。あとは皿に盛って…これで仕舞いや!」
京太郎「おー」
まさに花が咲くような出来。涼しげなガラス皿に乗せられたハモがふんわり広がって、ちょいと梅肉酢を添えられれば、なんて素敵なジャポニスク。
京太郎「すげーな…お見事」
恭子「ま…茹でる技術は要るかもしれんけど。ダメでもおいおい勉強すればええわ。とりあえずやってみ」
京太郎「お、おう」
ザルの上にハモを三切れ、ゆっくりおろしていき――
京太郎「各の如く、茹で上がれ!」
茹でスキル習得!
茹で技能:レベル3 コンマ60以上で成功
安価二つ↓
京太郎「ふー…どうだ?」
緊張の一瞬。睨みつけるようにしてどうにか見極めたその瞬間。厨房に咲いた白い花は、桜のように満開で。
恭子「気ィ抜いたらアカン! 冷やし!」
京太郎「お、おう!」
思わず力が抜ければ容赦ない叱責。けれどこれは仕方ない…気を抜いた結果料理がまずくなるなんて、料理人失格だ。
冷水を潜ったハモは、末原の物と遜色ない出来栄えに見える。あとは…実食か。
恭子「それじゃ、須賀の作ったのをうちが食べる。須賀は」
京太郎「末原のを食べる。だろ?」
そういうことや、と笑う末原は、ちょんと梅酢を引っ掛けて口へと運んでいく。
俺も迷うことなく口に運んで――
京太郎「――ん! うっめえ!」
プリップリの弾力、かといってゴムとは違う感触…! 淡白で引き締まった味が、梅のサッパリ感を存分に引き出してくる!
そして反対に梅が、ハモの繊細かつ大胆な味を壊すことなく教えてくれる…!
思わず一口、もう一口。運んで手元からハモが消えた時。
恭子「がっつきすぎや…もうちょっと、食べたい?」
京太郎「おう! これ、ホントうめーよ。つっても…もう無いか」
ハモ自体はあるとはいえ、勝手に使うわけにもいかないだろう。そうなればあるのは末原の手元、俺が湯引いたハモの切り身。
出来栄え自体はいい感じだから、味も十分なはずで――?
京太郎「……どーゆーつもりだよ」
恭子「んー? 物欲しそうな顔しとるから、上手にできたご褒美や」
ひょいと摘まんだハモ一つ。末原の箸が、俺の口元へと近づいてくる。
恭子「はい、あーん」
ニコニコと笑う末原に、俺は――
1 「あ、あーん…」
2 「誰がするか!」
3 「俺が食べさせてやるよ。ほら、あーん」
安価三つ↓ 上から一つ選んでください。
誘惑には逆らえないよな。食欲的な意味であって、末原がどうという話じゃないぞ。
京太郎「あ、あーん…」
口を開けて待って、数秒間。じっと俺を見ていた末原は、プッと噴き出すと箸を自分の口元へ運んで行った。
半分を引き裂く小さな歯列。咲いたハモの半分が、末原の口へと消えて行った。
恭子「アホ、誰がそんなことするかっちゅー話や」
京太郎「……これだから末原は」
恭子「こらこら、これだからってどーゆーことや…あーもー、そんなイジけんと」
京太郎「誰がイジけとるか!」
そう、口を開いたその直後。
恭子「ほーら、隙アリや」
箸の先と一緒に。半分のハモが、俺の口へと運ばれた。
恭子「ふふ…美味いやろ?」
京太郎「……俺が作った湯引きだからな」
仏頂面が作れていたか、鏡がないから分からない。
けれど目の前の末原の顔は、確かに満面の笑みで。少しだけ、梅酢のように赤かった。
※レシピ習得
和食:鱧の湯引き
現在取得レシピ
和食:蕪の煮物、鱧の湯引き
洋食:
中華:
茹で技能:レベル3→4にレベルアップ
今日はここまでで。色んな料理が挙げられてどれも魅力的。
是非とも作ってみたい気がしますね。
お付き合いいただきありがとうございました。
実家が料理に関係ありそうなのってこんぐらい?
マコ(喫茶店)
漫(お好み焼き屋)
玄(旅館)
穏(和菓子屋)
週一どころか隔週スタイル。次第に延びていく間隔です。
少しだけ進めていく感じ。
昔小学校かなにかの合唱で歌ったように、楽しい時はやがて去りゆく、と言うやつで。
恭子「それじゃうちは帰るけど、須賀はどうする?」
京太郎「そうだなあ…とりあえずホテル行って、それから考えるさ」
恭子「そっか。まあ楽しかったし、今度長野に行った時はよろしく頼むわ」
京太郎「おう…つってもラーメン屋くらいしか知らないけどな」
俺の言葉に笑みを零して、末原は小さく手を振った。
相変わらず小さい手だと思う。それがあんなに上手に鱧を湯引くのだから、まったく馬鹿に出来ないものだ。
末原の姿は徐々に小さくなって、やがて人込みへと消えて行く。寂しいような気がした。
京太郎「……ん?」
スマホが震えて教えてくれるのはメールの着信。誰かと思って見てみれば。
京太郎「ったく」
返信メールはすぐにでも。歩きながらと洒落込んでおくとしよう…どうせ、ホテルまでは暇だしな。
『今日はありがとな。思ったよりも楽しかったわ』
さてと、さてとのビジネスホテル。帰ってシャワーを浴びて、寝るまでの間は情報収集だ。
京太郎「さて…どうすっかな。このまま大阪で美味いもん探すか、別の場所行くか…」
幸いにしてまだ金はある。飛行機に乗れば九州なり北海道なりも行けるし、あえて近場で探してみるのもいい。
京太郎「……ん?」
適当に巡回していたグルメサイト。そこに載っていた場所は――
滞在か、旅に出るかを選んでください。
旅に出る場合は行きたい場所もお願いします。
安価2つ↓
京太郎「京の味、か」
そうだ、京都に行こう――なんて。ありきたりなキャッチコピーが目に止まる。
よくよく考えれば大阪からは大した距離じゃない。それに観光もできるわけで、行先としては悪くない。
まあ京太郎が京の味、なんてのはヘタクソなジョークみたいだけど。
京太郎「思い立ったが吉日…つっても明日になるか」
決断したらば動きは早い。さっさと荷物を纏めれば後は寝てしまうだけだ。
京太郎「…っと、末原にもメールしとくか」
文面を考えるのは面倒くさいな…キャッチコピーでいいだろ。
――翌日――
京太郎「よ」
恭子「ん」
改札の手前にあるのは、昨日出会った少女の姿。昨日と同じ制服姿だった。
京太郎「また制服かよ…服無いのか?」
恭子「あほ。今日は学校行くから制服や。その前に寄っただけ」
京太郎「そっか」
思い出話をするような関係でもない。正しく見送りに来たんだろう。もちろん、大した言葉は無い。
京太郎「んじゃまたなー」
恭子「ん。また」
お互い手を振って、改札を越えて一回振り返ったらはいおしまい。こういう一期一会な関係も、悪くない。
京太郎「おお…これが京都か」
すごい。外国人とかキャリーバッグ持ってる人が超多い。長野とは大違いだ。
改札を出て、なんかグニャッとした通路を横切れば真向かいにそびえる京都タワー。
食事処は地下街やらどこやらにいくらでもあるけど、どうせなら何か食べたいものを決めたいものだ。
京太郎「どうすっかな…」
案内板、観光地図、スマートホン。探す手段はいくらでもあるけど、正直食べるものを絞らないとどうにもならない。
モノによってはレシピでも聞ければいいんだけどな…さすがに難しいか?
さて……
京太郎が食べたいものは?
安価二つ↓
南禅寺はご存じだろうか。昔の水道があることで有名なんだけど、もう一つ、湯豆腐が有名でもある。
正直俺としては、豆腐に何千円ってどうなんだと思っていた。思っていたわけだ。
京太郎「むあっ! はふ…ぐぅ」
ぐぅの音も出てしまうほど、思い知らされてしまったわけだ。
箸で優しく持ち上げた時の、ぷるんと揺れる白い肌。ほかほかのそれを口に含めば熱が弾けて広がっていく。
舌で愛撫? いやいや、これは舌を嬲られているみたいだ。清楚な見た目とは裏腹に、ここまで来るかと!
味はもちろん、濃くは無い。濃厚とは無縁の、けれど、このダシときたら!
舌鼓じゃなくて鼻腔まで覆い尽くすダシの香り。そして豆腐の優しい味覚。
ただ、美味い。
京太郎「ふぅ…」
まあ問題は、豆腐だけだと腹持ちが全然ということか。
京太郎「……ん?」
なんか、見られてる。まあガキが一人で湯豆腐ってのも珍しいか。けどいったい誰が…あの人か?
京太郎を見ていたのは誰? コンマ50以上で接触
安価二つ↓
サービス内容は?
1 気に入られて一緒にお食事(料亭であーん付き)
2 気に入られて一日おデート(料理? そう、関係ないね)
3 なんか自由にどうぞ。
安価三つ↓
咏「ほーう。お兄さん、なかなかいい顔してるねぇ」
京太郎「ん?」
パッと見たところ、ぶっちゃけ子供だ。でも雰囲気が子供っぽくないんだよな…天江さんみたいにちっちゃいだけか?
しかしいい顔とは、なかなか見る目があるじゃないか。
京太郎「ま、長野のイケメンとは俺のことだしな」
フッ、と指を頬に添える。なかなか決まった気がするが、帰ってきたのは爆笑だった。なぜだ。
咏「あっはっはっは! そうじゃなくて食べる時の顔さね。美味しそうに食べるから気になっちゃってさあ」
パタパタと振るう扇子がビシリと俺を指す。
咏「しっかし、顔だけじゃなくて中々面白い。うん、うん…気に入った!」
京太郎「は、はあ…」
何度も頷く女性は一人合点を繰り返している。何が何やら…帰っていいものか?
ゆっくり踵を返そうとした俺の腕を、しかし女性が掴む。
咏「いやいや待った待った。どうだい少年、湯豆腐だけじゃお腹が足りないんじゃないかな?」
京太郎「むっ…」
咏「ふふ、図星っぽいねぃ。どうだい少年、お姉さんとちょいとご飯でも行かない? もちろんこっちの奢りでさ」
…悪くない提案だと思う。正直京都も知らない俺にはどこが美味いのかも分からない。
けど目の前の女性は着物が素晴らしく似合ってるんだから、京都の美味いものに精通してる、かもしれない。
何より奢り! やっぱり奢ってもらうっていうのは素敵な響きだ…ただ。
京太郎「あの…それはいいんですけど」
咏「うん? どうかしたかい?」
京太郎「名前、聞かせてもらってもいいですか?」
ペチ、と扇子で頭を叩く。やっちったね、と笑う女性はなかなか可愛らしい…つーか、どっかで見たことあるな。
咏「咏さんの名前は三尋木咏。咏さんでも咏ちゃんでも呼び捨てでもいいけどね。そいで、君は?」
京太郎「俺は須賀京太郎っす。呼び捨てでも京ちゃんでもなんでもいいっすよ」
咏「ほほー。そいじゃお姉さんオススメのお店に行くとしようか、ダーリン」
京太郎「ははは、行きましょうかハニー」
笑いあう二人の空気は、会ったばかりとは思えないくらいに柔らかい。残念なのは身長的に肩を組めないことか…
なお、彼女が麻雀プロだと気付くのはもっと後のこと。
今日はここまででー。お食事デートは次回(いつか)に続きますん。
いつぶりやねん(驚愕)
落ちないうちにちょっとだけ透華というエタ化一歩手前仕様。投下始めます。
カチンコチンを視覚的に提示する例を一つ挙げてください、と言われれば、今の俺を推挙したい。
咏「ありゃりゃ、さっきまでの勢いはどこへやら…情けないなあダーリン」
京太郎「い、いや…あーいうノリの場所じゃないじゃないですか…」
美味いものに釣られてホイホイついていった俺を待っていたのは、シシオドシがカコンと鳴り響く料亭だった。
これがまたエライところで。京都の町中に大きな門、潜れば都会的な雰囲気を一掃した日本庭園に、離れのような小さい建物が点在するトンデモ空間。
ビビリ倒す俺の手を引きながら、慣れた足取りの咏さんが辿り着いたのは、見事な枯山水を臨むこれまた風情たっぷりの小屋。
…いや、小屋っつーか。ちっこいのに上品な和室って感じだ。つくづく国語の勉強不足が悔やまれるってもんだな。
咏「別になんでもいーよ。お品書き以外にも色々あるし、ここはよく来てるから無理なお願いも聞いてくれるぜぃ」
京太郎「牛丼とかでもっすか?」
咏「あっはっは! それもいいねぇ…ただここの牛肉は脂が多くて、牛丼にするとあんまり美味しくないんだよ」
困ったもんだ、と快活に笑う咏さんは、ちっこいくせに数段上の世界に住んでるっぽい。
やけくそ気味の提案すら…これ、前に頼んだことある反応だろ。
とにもかくにも、色々と観念しつつ手元のお品書きに目を落とす。基本的には和風なんだけど、正直実物を拝んだことのない料理も多い。
これはこれで参考になるんだろうけど…作ってるところが見えなさそうだし、味と形くらいしか参考にはならないか。
それならもう、ここは好きなものを頼む方がいいだろう。俺はちょっと考えると、素直に食指が伸びた料理の名を告げた。
一つ、料理をお願いします。
和食なら何でも。洋食も可。
安価二つ↓
京太郎「……ん?」
咏「おっ、なんかいいのがあったかい?」
人はとかく分かりやすいものを好むとかなんとか。その例に漏れなかったようで、俺の目に止まったのは『金』というありがたそうな文字。
つらつら横に流れていた目線が、しっかりと下を向く。なるほど、金目鯛か。いいじゃないか金目鯛。まだ旬じゃないにせよ、どことなくありがたい。
…お品書きの量も多いし、ここはコイツで決めておくべきだろう。
京太郎「金目鯛の煮付け、ってどうですかね」
咏「金目鯛か…旬はもうちょっと先だけど?」
京太郎「まあそうなんですけど…直感っていうか…ダメでした?」
咏「ん、まっさかぁ。お品書きにあるんだから、ダメなことは全く無いよん」
一枚板の重厚かつ大きなテーブルに、べたーっと顎を乗せる咏さんは子供みたいでなんか可愛い。
…若干現実逃避が混じってる感じもあるけどな。
咏「それじゃあ注文しようか。おーい、ちょっといいかなー」
京太郎「いやいや、大声出てないですし。どっかに呼び出しボタ…とか要らないんすね…」
全く声量が変わらない咏さんに少し呆れて、ファミレス的なボタンを探そうとするものの。どうやら無知の俺の知ったかぶりだったらしい。
咏さんが声をかけるだけで、フスマが開いて三つ指折った仲居さんが入って来るというありさまだ。マジで別世界じゃねーか!
咏「ま、来るまでちょいと時間が掛かるからね。なんか暇つぶしでもしよーか」
京太郎「はあ…つってもここでできることって…」
咏「そうだねえ、庭の散歩って手もあるけど、なんかしたいことある?」
したいことか…ううむ、チラッと見える首筋は結構いい線してるけど、いかんせん発育の具合がな。
ここはそうだな…
京太郎「……一応、料理の修業してるんですよ俺」
咏「ほーぅ、それはそれは。わざわざそう言うってことはソレナリの腕ってやつ?」
京太郎「むぅ…見てみます?」
咏「……ほーう、なかなかの自信家さんだねぃ。そんじゃ一つ見せてもらおうかな」
咏「ほうほう。包丁捌きはなかなかのもんだねぃ」
京太郎「ども」
なんとも恐ろしいことに、咏さんが一声かけただけで包丁にまな板、美味そうな食材がやってきた。マジで、ササッと運ばれてきやがった。そんなサービスも超一流なんだな…
そんで一番得意な包丁を見せた訳なんだけど。反応は上々ってとこか?
なんかこう、背筋が伸びるっつーか、鼻が高くなる気がするな。ふふん。
咏「けど火の使い方がサッパリだねー! フライパンの使い方が雑、酷い、終わってるねぇ」
京太郎「おうふ…」
そんで一番苦手な炒める技能も見られちまったわけで。まあ一般的な男子高校生に比べれば上手いけど、それだけだし。
料理の修業とか言ってる奴にしちゃ、レベルが低いのは確かだ。
咏「それに料理のバリエーションも和食重視…ま、一般的な家庭料理は作れるみたいだし、そこはいいかねぃ」
京太郎「むぅ…」
咏「ま、総じて言えば。裏方で野菜でも切ってろってとこかねー! あっはっは!」
京太郎「ごふっ!」
うぐぐ…お、俺が同じように思ってたのは秘密だ…料理で炒めるのがダメって致命的じゃね? 下働きだよなあ…
あー、床って気持ちいいなー。倒れ伏すってのも案外気持ちいい感じがするぜ。
するとなにやら、やわこい手が俺の頭を撫でる。ちっちぇーけど、なんか気持ちいいな…
咏「結構頑張ってるぜ少年。これからが期待ってやつ、なんならご飯食べた後でフライパン捌きくらい教えてあげよっか?」
京太郎「ま、マジっすか!?」
咏「おーう。これでも炒め物は大の得意さね、まずまず失敗しにくいくらいには仕立ててあげるよん」
京太郎「お、オナシャス!」
咏「あいよー。そいじゃそろそろ食事も来るだろうし、片付けよっか。まずはご飯から、料理するんなら料理には欠かさない、当然だよねえ」
京太郎「うす!」
全然短いすけど、今日はここまででー。
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