P「純粋な仲間」真美「愛すべき友」 (71)
P「ある日、俺が町を歩いていると、一人のおっさんが話しかけてきた」
P「高木社長だ」
P「あの人はティンときただとか何とか言って、俺をこの事務所に引っ張ってきたのさ」
P「いじめられっ子の俺にティンとくるなんておかしな人だよな」
P「それから俺は鬼教官律子様にしごかれまくったぜ」
P「全くひどいもんだったぜ、あのスパルタっぷりは」
P「アイドル達もほとんどみんなよそよそしいしな」
P「もう四ヶ月か……。なれてきたと言えばそうだが、精神的には疲弊する一方だ」
P「なんたって俺はアイドル達には相手されねえし、それだからやらされるのは雑用だけ」
P「アイドルからの信用が無い人間には売り込みもさせてやらんとか言われてなあ」
P「んなこと知るかってんだ。こっちは必死にやってんのにさ」
P「そっちが一方的に嫌っているだけじゃねえか」
P「かといって、俺にはほかの仕事の当てがねえ」
P「給料だって不満が出ないくらいにはもらってるし、やめて困るのは俺の方なんだよな」
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初めまして。
ssを書くのは初めてなので、改善点があればどんどん書き込んでください。
のんびり進行していくつもりなので、よろしくお願いいたします。
雪歩「……」
P「おはようさん」
雪歩「……」
P(無視か。まあ、これはいつものことだ。学生時代にいじめられまくった俺には屁でも無いね)
春香「おはようございます、プロデューサーさん」
P「ああ、おはよう」
P(俺とまともに話すことが出来るのは春香と真美……あと伊織も話せると言えば話せるな)
P(学生時代と比べたらまだましか)
真美「兄ちゃん、おはよう」
P「おはよう」
春香「ねえ、プロデューサーさん」
P「なんだ? 春香、真美。二人そろって真剣な顔で。はっきり言って似合わないぞ」
真美「……兄ちゃんはおかしいと思ったこと無い?」
P「何がだ?」
春香「みんなが不自然なほどプロデューサーさんを避けていること」
P(雪歩がこっちを見ている。すげえ怖い顔だ)
P「いや、別に。単に俺がむかつく顔立ちをしているからじゃ無いのか?」
真美「そんな冗談はいいよ、兄ちゃん。真美達はまじめな話をしてるの」
P「まじめに俺をのけ者にしようってか。まったく、最近のいじめはずいぶんストレートだな」
春香「プロデューサーさん。いじめられてたんですよね……学生時代」
P「おっと、そんなプライベートなことをおまえらに話したことは無いはずだけど」
P「まあ、俺はいじめられてたことなんて無いがな」
真美「それは嘘でしょ?」
P「お? 俺がおまえらに嘘をついたことがあったか?」
春香「……いいえ。今回が初めてですよ」
P(うん? 雪歩が立ち上がったぞ)
雪歩「二人とも、無駄だからやめたら?」
真美「ゆきぴょん……」
春香「ゆき、ほ」
P「おもしろいこと言ってくれるじゃ無いの、雪歩さんや」
P「確かに、俺のむかつくツラのことを言っても無駄だわな。俺には整形するような金が無いんだから」
雪歩「……ほら、プロデューサーは何もわかってない」
春香「そんな言い方は無いよ、雪歩」
雪歩「もちろんプロデューサーが悪くないことを知ってるよ」
雪歩「でも、何も分からない人に助けを求めても無駄だよ……」
雪歩「今までだって、プロデューサーは何も出来なかったんだから」
P「おうおう、雪歩さん、黙って聞いてりゃすごいこと言ってくれるじゃ無いの」
P「つまりは、俺が能なしの愚図だって言いたいんだろ? は、久しぶりだぜ面と向かって言われるのは」
雪歩「……」
律子「プロデューサー、アイドルを挑発しないでください!」
P(暴言を吐かれるのは慣れているつもりだったが、かわいい女の子に言われるのは少しばかり辛いな)
P「……すまん、雪歩」
雪歩「いえ、私の言い方が悪かったんです……」
P(言い方が悪かった、か)
P(それはつまりもう少し柔らかい言い回しもあったが、伝えたかった内容は今の言葉であってるってことだ)
P(雪歩は俺を使えない野郎だと思っている訳か。は、辛いねえ)
春香「すみません、プロデューサーさん。こんな話して雪歩と変な感じにさせて」
P「いいさ。それより、俺はおまえらの輪の中に入れなくてもいいから、おまえらだけでも仲良くしろよ」
P「見目麗しいアイドル達が険悪な雰囲気になっているのを見るなんて、俺はごめんだ」
真美「兄ちゃん……」
P「なんだ、真美? まだ何かあるのか? あいにくだが俺はそろそろ雑用係の仕事をしなきゃならんのだ」
真美「何でも、無いよ、うん」
P「そうか」
P(真美は少し泣き出しそうだった
P(ふう、雑用も一段落したし、わりかし暇だ。……お、あれは伊織か?)
P「伊織」
伊織「……何よ?」
P「おまえ、いつも元気ないよな。いつからそうなんだ?」
伊織「いつだっていいじゃない」
P「単純に気になるんだ。言いたくないなら言わんでもいいけどよ」
伊織「……そうね、少なくとも十年前は困難じゃ無かった気がするわ」
P「十年前? すると、おまえはまだ五歳か……。何があったんだ」
伊織「……大切なものを失ったの」
P「いくら大切なものつったって、十年前のことを引きずるなんて、おまえ相当だぞ」
伊織「毎年、同じ時期に、同じようなことになるの。それで、それが全部私のせい」
P「毎年? 一体何だそれは?」
伊織「あまり話したくないわ。誰だって、自分の失敗は人に知られたくないものでしょ?」
P「つまり伊織はそれが失敗だと思っているわけだ」
伊織「ええ、そうよ。あれは失敗だった。もっとちゃんとしてから実行すればよかったのに」
P「実行ってことは、何かの行動か。伊織の行動で、伊織の大切なものが毎年失われる……。分からんな」
伊織「分かって欲しくないわ」
P「そうか」
伊織「そうよ」
P(これ以上ここに居ても気まずいかな)
P「じゃあ伊織、俺はもう行くぜ」
伊織「ええ」
P「俺は学生時代すばらしい友人達に水分補給と称してけつの穴にスポーツドリンクを入れられたことがある」
P「今思い返すと、すげえことしてたよな、あいつら」
P「自分でも不思議なのはあの地獄がもう自分のものでは無いかのように思えることだ」
P「あのときはあいつらが憎くて憎くてしょうが無かったのに、今は遠い昔の記憶だ」
P「伊織は十年前から大切なものを失い続けている……」
P「それが何かは分からんが、俺に出来ることであれば助けてやりたいな」
P「まともに話せるやつの一人だし」
P「しかし、なぜ俺が不自然に避けられているのか、か」
P「あの感じだと、春香、真美、あと雪歩は理由を知っているみたいだな」
P「この状況が変わるってんなら知りたい気がするが、あのいじめのように理不尽な理由だったらいやだしな」
P「今の俺には友達どころか、知り合いすらろくにいない」
P「律子とは事務所の中では年が近いが、プライベートでの交流はないしな。あくまで仕事の仲間だ」
P「仲間? 仲間なのか? 俺と律子は。そもそも仲間ってなんだ? ……辞書で引いてみるか」
P「よっと、どれどれ……。一緒に何かを行う間柄、か。まあ、そういう意味なら仲間だろうな」
P「……いや。俺と律子が一緒に何かをしたことがあったか? ねえな」
P「つまり。俺と律子は仲間じゃ無い……。便宜上、仕事仲間と呼ばれても、それは純粋なものでは無い……」
P「そうか、俺には仕事仲間すらろくにいないのか」
P「いやあ、素敵な人生だな」
P「俺も出来ることなら仲間や友人に囲まれた明るい人生を送ってみたいもんだが」
P「現状がこれだとどうしていいかも分からんからな」
P「むやみに俺が近づいていっても、逃げられるだけだし、もっと険悪になるだろうな、あいつら」
P「だからといって開き直るのも精神的に辛い」
P「学生時代のあのいじめは精神的に来るってより、肉体的なもんばかりだったからな」
P「俺はどうすればいいのか……」
P「理由を知ってるんだったら、三人に聞くのもありだな」
P「なあ、真美さんや」
真美「なんだい、兄ちゃんさん」
P「なんで俺は嫌われてるんでしょうかねえ?」
真美「嫌われているだなんてとんでもない」
P「ほう、嫌われると言うよりもさらにランクが上の感情を抱かれているのですか」
真美「いやいや違いますぞ」
真美「兄ちゃんさんを見ると辛いから、出来るだけ接する機会を減らしているのです」
P「つまりそれは嫌われてるってことじゃね?」
真美「兄ちゃん。好意的な気持ちがあるから辛いってこともあるんだよ」
P「おまえは俺に話しかけられてるから好意的な感情を持っていない、と……」
P「くう、つらいねえ」
真美「いやいや、真美は兄ちゃんのこと、少なからず、その、す、好きだよ」
P「ほうほう」
真美「兄ちゃんを見るとやっぱり真美も辛いけど、それでも我慢しなくちゃいけないの」
真美「真美はもう大人だかんね!」
P「それでは大人な真美さん」
真美「何?」
P「そろそろ、俺が避けられている理由を教えてくれませんか」
真美「ああ……」
真美「えっとね?」
P「おう」
真美「兄ちゃんはさ、忘れちゃってるの」
P「俺が一体何を忘れているってんだ?」
真美「真美達との思い出」
P「え?」
真美「真美達との思い出を兄ちゃんは忘れちゃってるの」
P「なんだ? それ」
真美「そのままの意味だよ。兄ちゃんは忘れちゃってる」
真美「十三年分くらいの思い出を。全部」
真美「忘れちゃってるの」
P「どういうことだ? そんなこと言われてもはいそうですかとは言えねえぞ」
P「第一、俺がおまえらと会ったのは四ヶ月前だ」
P「十三年も前に会ったなんて……」
P「仮にあったとしても、十三年前って言ったら俺もおまえらも、まだくそがきだろ?」
P「そんな昔のこと覚えちゃいねえよ」
真美「ううん。兄ちゃんの言っている十三年前と、今真美が言っている十三年前は意味が違う」
真美「真美が言えるのはこんぐらい」
真美「後のことは難しいからうまく説明できないんだ」
真美「兄ちゃん。悩むがいい。真美の意味深な言葉に苦悩するがいいさ……」
P(真美は悲しそうな顔でにやにやと笑いながら俺に背を向けた……)
P「俺が、忘れてる?」
P「何を、忘れてるって言うんだ……」
P「何か忘れているものは無いか、思い出せ、俺」
P「……」
P「……だめだ。分からん」
P「真美のやつ、十三年分の思い出って言ってたよな」
P「どういうことだ?」
P「意味をそのままとると、少なくとも俺はあいつらと十三年間をともにしたことになる」
P「これはいよいよおかしいぞ」
P「俺は今まであいつらのような美少女とは関わりの無い人生を送ってきたんだ」
P「だから、今でも小学一年の頃の学年一かわいい子の名前も思い出せる」
P「あいつらみたいな美少女と会ったことがあれば忘れないはずなんだ……」
P「なのに真美は忘れていると言った……」
P「分からん」
P「いや、真美が言うことは比喩かもしれん」
P「……あいつ、そのままの意味だって言ってたっけ?」
P「そのままの意味ってどういうことだよ、真美……」
P「俺には全く分かりませんぜ……」
P(結局、真美の言葉の意味が理解できなかった……)
P(真美にヒントをもらうか、春香、雪歩に聞くか……)
P(真美にもう一度聞くのは負けた気がして悔しいし、雪歩は本格的に俺を避けている)
P(春香様にお伺いを立てるか)
P「もし、そのリボンさん」
春香「え? あ、プロデューサーさん。私はリボンが本体じゃ無いですよ、もう」
P「いや、そこまでは言ってないぞ」
春香「え? そうですか? なんか恥ずかしいですね」
春香「それで、なんのようですか?」
P(いきなり聞くのもなんだかあれだな……)
P「おまえらってアイドルとしての活動期間が短いくせに異常なほど動けるよな」
P「ダンスも歌もあほみたいにうまい」
春香「……」
P「初めて見たときは本当にびっくりしたぜ」
P「アイドルってのはデビュー前でもこんなに出来るものなのかって」
春香「私たちはずっとやってきましたから……」
P「ずっと?」
P「律子に聞いた話だとみんながみんな今年事務所に入ってきたって」
P「それまでの経験は無いって……」
P「どういうことだ?」
春香「私たちは、十三年アイドルしてますから」
P(また、十三年か……)
P「あの、昨日真美に聞いたんだが……俺ってなんか忘れてんの?」
春香「……ええ、きれいさっぱり」
P「昨日は必死こいて思い出そうとしたんだけどなあ……」
春香「たぶんそれ、無駄です。今のプロデューサーさんはどうあがいても思い出せないと思います」
P「どういうことだ?」
春香「真美はなんて言っていたんですか?」
P「質問に質問で返すな。……まあいいや。えっと確か」
真美『真美達との思い出を兄ちゃんは忘れちゃってるの』
真美『十三年分くらいの思い出を。全部』
P「おまえらとの十三年の思い出を全部忘れてるって……」
春香「正確に言うと、一年を十三回分ですね」
P「訳分からん」
春香「まあ、分からないでしょうねえ」
P「こんなに分からんと、腹立たしくなってくる」
雪歩「春香ちゃん、それくらいにしたら?」
雪歩「言うなら言うで、はっきり言えばいいんだよ」
春香「雪歩……そうだね」
春香「プロデューサーさん」
P「おう」
春香「プロデューサーさんだけ忘れてるんです」
春香「みんな覚えているんですよ。十三年間の思い出」
P「……」
雪歩「私たちはアイドルになりました。十三年と四ヶ月前」
P「え?」
春香「それから一年もたたないうちに765プロは……無くなったんです」
雪歩「倒産したんです」
P「よく分からん」
P「765プロは今ここにあるんじゃ無いのか?」
春香「ええ、あります。でも、十三年前の765プロとは違うものです」
P「社長が、立て直したってことか?」
雪歩「いえ。無かったんです。十三年前の倒産なんて」
春香「そもそも、十三年前には765プロは存在していません」
春香「十三年前とは、私たちの体感です」
P「ますます分からん」
雪歩「やり直したんです。誰かが」
P「何をやり直したんだ」
春香「自分たちがアイドルを始めて、それからここが倒産するまでの一年間を」
P「は?」
雪歩「ループするんですよ。一年間がずっと」
P「ループ……?」
春香「今は、十三回目のループ」
P「……」
雪歩「……ずっと繰り返したんです」
春香「ループを始めて二回目で、765プロは倒産を回避できるようになりました」
雪歩「でも。ループ基点から一年がたつと、どんなに状況がよくてもループしてしまう」
春香「みんな疲れているんですよ。終わりの見えないこの一年に」
P「……」
雪歩「どんながんばりも、一年で無かったことになる」
春香「最初はお気楽でしたけど、四回目あたりから辛くなってきました」
雪歩「あれだけがんばったのに。全部消えちゃう」
春香「私たちの載った雑誌も、ライブの予定も、プロデューサーさんの記憶も」
雪歩「残るのは精神的な疲れだけ……」
春香「伊織は六回目と七回目と十回目、あと十一回目に自殺してます」
雪歩「次の一年が始まればまた生き返ってましたけど……」
P「……それで、俺に何をしろって?」
春香「一緒に考えてください。これから抜け出す方法を」
P「考えるっつったって、俺にはループの記憶が無いから、おまえらの言葉が真実なのかも分からない」
P「そして、おまえらにはわりかし辛く当たられたという思いもあるんだ」
P「これも俺をはめるための何かなのかもしれないって考えちまうね」
P「……俺はいじめられてきたから、どうしても考えが卑屈になってしまう」
春香「伸也さんでしたっけ……? いじめの主犯って」
P「知ってるのか……。前の俺が話したのか?」
春香「私、プロデューサーさんと恋仲になったりもしましたからね!」
P(辛そうな顔をして……)
P(恋人が自分のことをすっかり忘れてしまう……)
P(もし本当なら、辛いだなんてもんじゃ無いだろう……)
雪歩「真美ちゃんも、プロデューサーといい感じになったりしてましたよ?」
P「……俺は何で忘れるんだ?」
P「アイドル達はみんな覚えていることなんだろ?」
P「じゃあ、俺は?」
P「なんで、俺は忘れてるんだ? 何で俺だけ?」
春香「この765プロで忘れているのはプロデューサーさんと社長だけです」
P「社長も?」
P「……」
P「……少し考えさせてくれ」
P「今の俺はだいぶん混乱している」
P「俺は忘れている……」
P「世界はループしている……」
P「あいつらは苦しんでいる……」
P「伊織に至っては自殺までして」
P「誰がこんなことをしたのか全く分からんし」
P「そもそもこれは本当に現実の話なのか……?」
P「分からん」
P「分かるのは、あいつらが助けを求めていることだ」
P「もしかしたら、嘘かもしれない……」
P「いや、学生時代、俺はくそ伸也の嘘でもわざと引っかかって、あいつが満足するようにしたな」
P「これが嘘なら、あいつらが満足したときこの戯れは終わる」
P「本当だとしたら、何かの解決を見いださなくてはいけない」
P「だとすれば、俺のやれることは限られてくる」
P「嘘なら盛大に釣られ……」
P「真実ならあいつらを助けてやる」
P「俺はあいつらの話に乗ってやればいいのか」
P「俺が助けてやれるかは分からんが、やってみるのもいいだろう」
P「どうせ仕事は雑用ばっかりだ」
P「考える時間なら、少なくとも律子よりは多い」
P「もう少し話を詳しく聞いてみるか……」
P「真美」
真美「およ? 兄ちゃん、何?」
P「ループのこと詳しく教えてくれないか?」
真美「はるるんから聞いたのん?」
P「昨日、雪歩と一緒に教えてくれたんだ」
真美「ほう、ゆきぴょんが……」
P「雪歩がどうかしたのか?」
真美「いやあ、ゆきぴょんは脱出に消極的だったからさあ……」
P「消極的? なんでまた」
真美「あきらめたくなるほどに絶望してるみたい」
P「……絶望か」
真美「……」
P「真美はまだ希望を持っているのか?」
真美「……うん」
真美「だってね、ループは毎回違う展開になるんだよ?」
真美「いつか終わらせることが出来るかもしれないって思っちゃうの」
真美「はるるんと真美以外はもうかなり諦めムードだけど……」
P「そうか……」
P「真美は今回のループで終わると思うか?」
P「展開が違うんだろ? 前回とのどんな違いに希望を持てるんだ?」
真美「兄ちゃんが割と早く仲間になってくれたことかな」
真美「ループの影響を受けない人には説明が面倒だけど、真美達とは違う視点で見てくれるから」
P「それなら社長でもいいじゃ無いか」
真美「社長はあれでも社長だから、真美達が連れ回したり出来ないんだよね」
P「そうか、まあ社長だもんな」
真美「うん。ちかたないね」
P「最初から俺には助けを求めていたのか?」
真美「ううん。えっと、たしか五回目から。でもそのときはループする直前まで信じてもらえなかった」
P「ほう」
真美「六回目は真美とはるるんとゆきぴょんとでがんばったんだ」
P「俺には助けを求めずにか」
真美「うん。言っちゃ悪いけど、五回目で兄ちゃんがほとんど役に立たなかったから……」
P「……」
真美「がんばったんだけど、いおりんが自殺してからは真美達もがっくりきちゃって」
真美「いおりんはループの半分くらいのところで死んじゃったから……」
真美「本当にびっくりした。だっていおりん今までそんなそぶり全く見せなかったし」
真美「次のループでは始まってすぐまたいおりんが自殺して……」
真美「あんまり思い出したくないなあ……」
P「それで、どうなったんだ?」
真美「みんなくらい感じになってさ」
真美「だって、ずっと一緒にいた仲間の一人が二回も続けて死んじゃうんだもん……」
真美「それから八回目と九回目は真美達何も出来なかった」
真美「兄ちゃんにも助けてっていったけど、状況は変わらなかったんだ」
P「そうか……」
P(真美の目には涙がたまっていた。美少女の悲しそうな顔を見るのは辛い……)
真美「十回目と十一回目はまたいおりんが死んじゃうの……」
真美「その頃にはもうはるるんと真美以外はみんな諦めてた」
P「何でおまえ達は諦めなかったんだ?」
真美「真美はね、兄ちゃんがいたから」
真美「今の兄ちゃんは知らないと思うけど、ループが始まっていない本当に最初の時」
真美「兄ちゃんはかっこよかったんだよ。自分が倒れそうになってまでみんなのためになることをしてさ」
真美「今みたいにみんな兄ちゃんを避けてなかったから、プロデューサーらしいこともできてね」
真美「本当に輝いてたの」
真美「真美、多分に恋してたよ。兄ちゃんに」
P「……」
真美「ループが終わったとき、あのかっこいい兄ちゃんが見られると思ったらがんばれるの」
真美「たぶん、はるるんも真美と同じ」
P「……俺はどうしておまえ達を助けてやれないんだろうな」
P「こんなにも一生懸命な子がいるってのに」
真美「……」
P「せめてループの苦しみを分かってやれればいいんだが、俺には記憶が無い……」
真美「真美ね、このループで終わるとは思ってないよ」
P「え?」
真美「今までだって結構やってきたつもりだもん」
真美「でもね、いつかは絶対に終わる。ううん、終わらせるの。真美達が終わらせる」
P「……真美はさ、仲間ってなんだと思う?」
真美「え?」
P「俺、仲間ってものが出来たためしがないんだ」
P「同じ目的に向かってがんばれる仲間が俺は欲しいんだ」
P「真美、俺とおまえは仲間になれるかな?」
P「ループの脱出に向けて、一緒にがんばれるかな?」
P「正直なところ、今の俺は半信半疑で、若干他人事だと思っている節があるんだ」
P「でも、そんなものを捨てて、やれるかな?」
P「俺、怖いんだよ。仲間だと思ってたやつがいなくなんの」
P「そんなことが何度もあったからさ」
真美「大丈夫だよ。真美達は一年周期で兄ちゃんという仲間を失っているから……」
真美「真美にはそのつらさが分かるもん。兄ちゃんにはそんな思いさせたくないって思う」
P「俺は真美の仲間か?」
真美「うん。十三年前からずっと」
P(なんとなく真美に救われた気がして悔しい)
春香「プロデューサーさん」
P「! 春香か……」
春香「なんだか真美といい感じになってたみたいですけど」
P「いや、そんなんじゃ無いさ」
春香「じゃあどんなんですか?」
P「何にも無かったよ。おまえが言うようなことは」
春香「むう……」
P「ところで春香、前回のループのことを教えてくれないか?」
春香「前回のループ? 真美から聞かなかったんですか?」
P「ああ、聞き忘れてた」
春香「まったくプロデューサーさんはドジですねえ」
P「おまえには言われたくないね」
春香「えへへ……」
P「で、前回のループは?」
春香「前回のループは……えっと、確かプロデューサーさん、伊織にばっかりかまってましたよ」
P「……で? 何か脱出のヒントはあったのか?」
春香「さあ? 私は何も聞いてません。聞いてないってことは何も無かったんでしょう」
P「適当だな、おまえ」
春香「悪かったですね。……前回のループと今回のループで変わったことと言えば……」
春香「伊織の落ち込み具合がひどくなったことくらいですかね」
P「ほう」
春香「なまじプロデューサーさんがかまっちゃうからいけないんですよ」
春香「相手に感情移入するから何かあったときに落ち込むんです」
P「そんなこと俺に言われたってな……」
P「伊織にばかりかまってたって言ったって、それは前回の俺だからなあ……」
春香「まあ、そうですけど」
P「そもそも何でループが始まったとおまえは思っているんだ?」
春香「え? ああ、考えたこと無かったですね」
P「はあ……」
春香「なんですか! 文句あるんですか!」
P「いや、何でも無いさ。……まあ、いい。今考えてくれ」
春香「……」
春香「うーん……」
春香「……765プロが倒産したから?」
P「765プロが倒産するとどうして時間がループするんだ?」
春香「うーん……」
春香「誰かが何かしらの能力で?」
P「誰がやったんだ」
春香「さあ?」
P「おまえ、よくそれで脱出しようとか言えたもんだな」
春香「どうせ私はドジでのろまな愚図ですよーだ」
P「今までのループでは何をしていたんだ」
春香「えっと、前と状況の違いをまとめたり?」
春香「こんなことをしたらこうなりましたよーって」
P「具体的に一つあげてみろ」
春香「え? そうですね……」
春香「たとえば前回プロデューサーさんが伊織ちゃんと遊んでいるとき……」
春香「私たちは私たちでいろいろしていたんですけど」
P「おう」
春香「伊織ちゃんのCDがいつもより売れていることに気が付いたんですよ!」
P「おう?」
P「それが脱出につながるのか?」
春香「さあ?」
P「脱出に関わりそうなことを言ってくれよ」
春香「ええー。そんなこと言われても……」
P(真美が『このループで終わるとは思ってない』といった意味が分かった気がする)
P「まあ、いいや」
P「で、これからどうするんだ?」
春香「プロデューサーさんは今度は雪歩を攻略したらどうです?」
春香「避ける人が減れば気分がいいでしょう?」
P「そんな理由で動くのかよ……」
春香「だって、何をすればいいか分からないですもん!」
P「確かにそうだな」
P「じゃあ、ちょっとがんばってみるか!」
P「雪歩」
雪歩「え? プロデューサー……」
P「おう、プロデューサーだ。一対一で話すのは初めてかな?」
P「いや、おまえにとっては始めてなんかじゃ無いんだろうけどさ」
P「雪歩。ループもなんも無かったときの俺について教えてくれないか?」
雪歩「なんでそんなことを知りたがるんです?」
P「いや、純粋な興味さ。おまえ達とうまくやれていた俺ってものにすごく興味がある」
雪歩「今だって、私たちが歩み寄ればみんなで仲良く出来るんです」
雪歩「でも、思い出を作ることはすごく怖い……」
雪歩「作れば作るだけ無くなってしまうから」
P「……」
雪歩「思い出が壊れてしまうのって、すごく辛いことです」
雪歩「だから伊織ちゃんは何度も自殺したし、私たちもあまりプロデューサーに近づかない」
P「……俺がみんなと仲良くなりたいって言ってもだめなのか?」
雪歩「少なくとも私は、いや、です……」
雪歩「プロデューサーを見れば、楽しかった思い出がどんどんわき上がってくるんです」
雪歩「でも、それは失われたもの」
雪歩「本来なら、持ってはいけない、思い出、なんです……」
P「……雪歩。辛い思いをさせてすまなかった」
P「みんなを苦しめる疫病神はここで退散するよ。じゃあ、またな」
雪歩「……」
P(雪歩のやつ、少し泣いていたよな……)
ところでPさんは誰を攻略すればいいのですかね?
分かりません。教えてください。
春香・伊織・雪歩・真美
この中から攻略する子
>>36
雪歩
雪歩ですね。了解しました。
P「だめだ。春香、真美」
真美「何がだめなの? 兄ちゃん」
P「俺、雪歩と話そうとしても、苦しめることしか出来ない」
P「おまえ達も、辛いんだろ? 俺の話すこと……」
春香「まあ、ぶっちゃけ辛いですね」
春香「だってプロデューサー何にも覚えてませんもん」
真美「真美達から見たら初対面じゃ無いのに、自己紹介とかしなきゃなんないし」
P「すまんな」
真美「兄ちゃんのせいじゃないって、真美達分かってるから」
春香「そうですよ。プロデューサーさんはむしろ被害者なんです」
P「俺は被害者……」
春香「だから、一緒に犯人見つけましょう?」
P「そう、だな。次のループまではあと七ヶ月くらいだ。ぐだぐだしてられないな」
P(俺はこいつらを助けてやりたいんだからな)
P(雪歩とは何とかすれば仲良く出来る気がするが、そのたびに彼女の悲しげな顔を見るのは辛いな)
P「真美、俺は出来ればみんなと仲良くやっていきたい」
P「どうにかいい方法は無いだろうか」
真美「うーん。そんな簡単にいい方法って言われてもそんな簡単には浮かばないよう」
P「それもそうか」
真美「うーんうーん。……あ」
P「何か思いついたのか?」
真美「まあ、ねえ」
P「教えてくれないか?」
真美「真美的にはあんまりやって欲しくないけどね?」
P「おう」
真美「……惚れさせちゃえばいいんじゃないかなって」
P「うん?」
真美「兄ちゃんラブにしちゃえば話しかけてくれるんじゃないの?」
P「あのなあ……」
P「俺は美少女を振り向かせる方法なんて知らないぞ」
P「なんたって、女子に引かれるくらいひどいいじめを受けていたからな」
P「今までろくに会話もしたこともないんだよ」
真美「そこはまあ、何とかがんばってよ」
P「何とかって……。何とか出来るわけないんだよ」
真美「ええー。……でもさ、真美は兄ちゃんのこと、好き、だよ」
P「お、おう」
真美「その微妙な反応やめてよー。真美は恥ずかしいんだからさ」
P「……俺、異性に好きって言われたことないからさ」
真美「兄ちゃん……」
春香「!? 甘い雰囲気を感知しましたよ!」
P「は、春香。なんの用だ?」
春香「何か用がなければ話しかけちゃいけないんですか?」
P「いや、そういうわけじゃないけれど……」
真美「はるるん、邪魔しないでよう」
春香「うへへ、メインヒロインは私ですよ!」
P「春香は元気だなあ」
春香「ところでなんの話をしていたんです?」
真美「兄ちゃんがみんなとラブラブになるって話」
P「いや、合ってるんだけどなんか違う」
春香「うぬぬ、この春香様を差し置いてラブラブだなんて……」
P「俺はただみんなと仲良くなりたいだけだぞ。ラブラブじゃなくていい」
真美「でもいちゃいちゃ出来るならしたいでしょ?」
P「まあ、ぶっちゃけそうだな」
春香「じゃあ私といちゃこらしましょう!」
P「まあ、そのうちな」
P(そう言って俺は雪歩を探すために席を立った……)
P(雪歩は事務所の隅の部屋に一人でいた)
雪歩「プロデューサー……」
P「おう、雪歩」
雪歩「何をしに来たんですか?」
P「おうおう、ずいぶんな言い方だな」
雪歩「すみません」
P「いや、攻めてるわけじゃないさ」
P「今日は雪歩の意見を聞きたくてな」
雪歩「ループに関してですか?」
P「ご明察。俺にはなんだかよく分からんことばかりでな」
P「少しでも多く意見が欲しいんだ」
雪歩「私は積極的に行動していませんから、知っていることなんてたかがしれてますよ」
P「それでもいいんだ。たかがしれてるっつっても、俺より知っているはずだろ?」
雪歩「そうですけど……」
雪歩「じゃあ、最初から話しますけど……」
雪歩「最初、一番初めのループも何もなかったとき、ある日私たちが事務所に来ると見慣れない男の人がいました」
P「俺か」
雪歩「そうです。社長はその音この人をプロデューサーだと紹介して、私たちのアイドル生活が始まったんです」
P「……」
雪歩「アイドルとしての評価はあまり伸びませんでしたけど、それ以上に私は楽しかったんです」
雪歩「仲間達と一緒にレッスンをして、その成果をファンの人たちに見せる」
雪歩「本当に楽しかったなあ……」
P「今だって、やってることは変わらないじゃないか」
雪歩「やってることは同じでも、みんなの気持ちがばらばらになってますから」
P「……」
雪歩「話を戻しますね」
雪歩「私たちがアイドルとしていくらがんばっても、事務所的には売れなければ意味がありません」
P「まあ、そうだな……」
雪歩「アイドルとして活動を始めてからそろそろ一年がたとうとしていた頃」
雪歩「とうとう765プロは倒産しました」
P「……」
雪歩「それから、私たちはばらばらになり、そのうちに連絡を交わすこともなくなりました」
雪歩「楽しい時間を共にしたからこそ、それがなくなったことが辛かったんです」
雪歩「それから少しして、社長が、崖から飛び降りたって、連絡があったんです」
P「社長が……?」
雪歩「はい。助からなかったって……」
雪歩「それから、それから……」
雪歩「また連絡が来て……」
雪歩「プロデューサーが、自殺したって」
P「俺、が? 自殺……?」
P「俺は、死んだのか……?」
雪歩「その連絡が来てから私はアイドルのみんなとは一切会わなくなりました」
雪歩「外出も減って、何もかもがどうでもよくなりました」
雪歩「楽しかったあのときの、中心にいた人がいなくなって――」
雪歩「もう、あの時間は二度と戻らないんだって……」
雪歩「現実を突きつけられた気がしたんです」
雪歩「それから三年が経って、少しずつ立ち直っていた頃」
雪歩「その日はちょうどプロデューサーが事務所に来てから四年でした」
雪歩「いきなり視界が揺れて――」
雪歩「次の瞬間には事務所にいました」
P「……」
雪歩「何が何だか分かりませんでした」
雪歩「もうないものだと思っていた事務所に私はいて」
雪歩「二度と会うことはないと思っていた仲間がみんないた」
雪歩「十三人が集まっていたんです」
雪歩「みんな慌ててました……。そこには私たち以外にも自殺した社長とプロデューサーがいたから」
P「……時間が戻ったのか」
雪歩「はい、確かあのときは伊織ちゃんが日付を確認したんです」
雪歩「確かに時間は戻っていました。四年前に……」
雪歩「始まったんです……ループが……終わらない、苦しみの時間が始まってしまったんです……」
P(雪歩のほおを涙が伝っていく……)
P「……雪歩、ほれハンカチ」
雪歩「……ありがとう、ございます」
P「雪歩辛かったら、もういいぞ」
雪歩「はい、すみません……。今日は、もう、だめです……」
P「そうか。思い出させてすまなかった。また、な」
P(俺はその部屋を出た……)
社長とPの記憶は一切が無くなるが、これは「アタマの中の記憶」が無くなるのか?それとも「社長とPに関する一切のもの」が無くなるのか?
例えば、メモを遺したりしたらそれは継承?
>>47
アイドル達の記憶以外はすべてがリセットされます。
ですから、メモをのこしたりしても、ループするとそのメモは一年前の状態に戻ります。
真美「兄ちゃん」
P「なんだ?」
真美「さっき、ゆきぴょんが泣いてたけど、兄ちゃんが泣かせたの?」
P「泣かせたってのは言い方が悪いが、まあ、俺のせいだろうな」
真美「何したのさ」
P「おいおい、顔が怖いぞ」
真美「何したのん?」
P「雪歩にループのことを聞いたんだ。辛いことを思い出したようでな……」
真美「ああ、そうなんだ……」
P「俺、やっぱり雪歩に悲しい思いをさせることしか出来ない」
真美「そんなことはないと思うよ」
P「慰めはいいよ。俺が雪歩を泣かせたのは事実だから」
真美「……」
P「……」
春香「あ! プロデューサーさん! さっき伊織が探してましたよ」
P「……伊織が? また珍しいな……。どこにいるんだ?」
春香「たぶん屋上じゃないですかね」
P「分かった。行ってくるよ」
伊織「来たのね」
P「おう。なんのようだ?」
伊織「……少し、人と話したくて」
P「そうか。まあ、人と話すのはいいことだからな。俺はあまり好きではないが」
伊織「悪かったわね、つきあわせて」
P「いや、いいさ。こうやって人のわがままに振り回されるのも悪くない」
P「で、俺が話をすればいいのか? おまえの話を聞けばいいのか?」
伊織「とりあえず何か話してくれない?」
P「そうだな……」
P「じゃあ、俺の話をしよう」
P「俺はおまえ達との思い出をすっかり忘れちまってる。これが意外と辛いもんなんだ」
P「自分の知らないところで自分という人間が知られている」
P「これは俺が学生時代に受けていたいじめと似たような性質を持っていると思う」
伊織「それはずいぶんな思考じゃない」
P「そうでもないさ。自分の理解の及ばないところであることないことを言われる」
P「俺の知らないところでおまえ達は俺との思い出を作っている」
P「俺は何度でも記憶を失ってしまう。どんなに大切な記憶でも、簡単に」
P「思い出したくても思い出せず、おまえ達からその思い出を聞いても結局は他人のことにしか思えない」
P「辛いもんさ」
伊織「それが当たり前なのよ」
伊織「765プロのアイドル以外の人間はループを認識できていないんだから」
P「それでも辛いもんは辛いのさ」
P「いじめなんてものは相手を満足させれば終わるが、これはいつ終わるかも分からない」
P「……おまえは何でこんなことが起きてると思う?」
伊織「どうせどこかの馬鹿が何かをやらかしたんでしょ」
P「その尻ぬぐいを俺たちがするってか」
P「世知辛い世の中だねえ、全く」
伊織「そうね。本当にいやになるわ」
P「伊織、あんまりいやでも自殺はするなよ」
伊織「私が自殺したこと聞いたの?」
P「ああ、四回だっけか?」
伊織「ええ、そうね。でも、もう自殺する気はないわ。何度死んでも次のループでは生き返ってるんだもの」
伊織「それなら、死ぬ苦しみは味わいたくないわ」
P「そうか」
伊織「あの感覚はなかなか慣れるものじゃないわ」
P「死ぬ感覚になれてもうれしいことにはならないだろ」
伊織「それもそうね」
伊織「でも私、結構悲しいのよ」
P「何がだ?」
伊織「このループで、みんな会話が減ってること」
伊織「あんなに仲がよかったのに、心がばらばらになってるみたいで」
伊織「このループの犯人を本気で殴ってやりたい。そいつを私は絶対許さないわ」
P「犯人、いるのかな」
伊織「いるわ、きっと。じゃないと私の気持ちがおさまらないから」
P「そう、だな」
P「犯人、誰なんだろうな……」
伊織「さあ?」
伊織「今は誰でもいいわ。とにかくこの地獄から抜け出したい」
伊織「同じことを何度も繰り返すなんてまっぴらよ」
P「そうだな。今は脱出することだけを考えよう」
伊織「がんばってよ。私のためにも」
P「ああ、そうする」
伊織「少し一人にして」
P「……分かった。あんまり長いことここにいるなよ。風邪を引かれると困るからな」
伊織「ええ、分かったわ」
P(俺はその場を離れた……)
P(今日は俺と春香、伊織、雪歩、真美の五人でちょっと話し合っている)
P(といっても、伊織はずっと聞くことに徹しているが)
春香「犯人がいるなら、どうしてこんなことをしたんだろう?」
雪歩「私には分からないよ」
真美「真美にも分からんちん」
P「分かっているなら状況がかなりよくなるけどなあ」
伊織「……」
真美「まあ、簡単に分かるわけないしねえ」
P「そうなんだよなあ」
春香「ただ考えてるだけじゃ出てきませんからねえ……」
雪歩「どうしよう……」
P(雪歩はあれから俺がしつこく話しかけまくったおかげか、それなりに会話に参加してくれるようになった)
P(まあ、あれだけ話しかければ辛いとか考えてる暇はないよなあ)
P(ループ前の俺とアイドル達の関係がどんなものなのかは分からない)
P(けれど、一度関わっちまったんだ。これまでのループで一番いい関係を作っていきたいな)
P(友人なんてものがいなかった俺には『いい関係』ってのがどんなものかはよく分からんが)
雪歩「プロデューサーはどう思います?」
P「うん? すまん聞いてなかった」
真美「兄ちゃんはたまにそういうことがあるよね。考え事をしてるって言うか」
P「本当にすまんな。元々人と話すより、一人で考え込んでいた方が楽なんだ」
春香「完全にぼっちの思考ですね!」
P「ああ、そうさ。悪いか? ……で、雪歩。なんの話だったんだ?」
雪歩「ええと、犯人はどんな人間なんだろうって」
P「犯人の人物像か……」
伊織「……」
P「正直なところ、よく分からんな。……でも、765プロに関係のある人物だと思ってる」
真美「兄ちゃんは、真美達の中に犯人がいると」
P「そこまで言っていないが、可能性があるとしたらここに近しい者だとは思う」
P「第一、アイドル達だけループで記憶を失わないってのがおかしすぎるんだよ」
伊織「まあ、そうよね」
春香「い、伊織がしゃべった!」
伊織「何? 私がしゃべっちゃまずいことでもあるの?」
春香「いや、ずっと口を閉じてたからさあ……」
伊織「まあ、いいわ。……でも、私は時間が経てば犯人は分かると思うわ」
真美「いおりん、なんで?」
伊織「この状況が不自然すぎるもの。私たちだけが都合よく記憶を失わないって」
雪歩「そうだよね……」
伊織「どこかでぼろを出すわよ」
P「……じゃあ、どうして犯人はこんなことをしたのか」
P「どうして、アイドル達の記憶を奪わなかったのか……」
雪歩「記憶を奪わなかったって言うことは、記憶がないと犯人に不都合が起きるんですかね?」
春香「どんな不都合だろ」
P「最初のループがない世界と、この何度もループした世界。何が違う?」
P「何か違うものが欲しかったから犯人はループを始めたんじゃないのか?」
P「そしてその欲しいものはアイドルの記憶がなければ手に入らない」
真美「でもさ、ループが終わってないってことは、犯人の望むものはまだ手に入ってないんじゃ?」
真美「欲しいものがあったら、こんなループ止めそうだけど」
春香「うーん」
雪歩「頭がパンクしそう……」
伊織「……」
P「訳が分からなくなってきた」
P「あんまり考えすぎても思いつかないだろ。今日はもうお開きにしようか」
春香「そうですね」
真美「真美も疲れたよう」
P(昨日の話し合いは結構まじめに進んだな。普段なら真美あたりがふざけそうだけど)
P(それだけこのループに嫌気がさしているんだろうな。俺もどうにか助けてやりたい)
P(しかしどうやればいいのか見当がつかないぞ。この前のように話し合うだけじゃだめだろうし)
P(うーん……)
P「……」
春香「プロデューサーさん、最近ぼーっとしてない?」
真美「そだねー。真美はちょこっと心配だよー」
伊織「いいのよ。あいつはあれくらいがちょうどいいわ」
雪歩「そうなのかな……」
真美「ゆきぴょんも心配?」
雪歩「え? 私? 私は、まあ……心配だけど」
春香「これは雪歩もライバルになると考えていいのかなあ?」
雪歩「そんなんじゃないよう……」
P「うーん……」
P(一番初めの世界で、俺とアイドル達は出会い、一年を過ごした……)
P(しかし765プロの業績は良くなく、とうとう倒産……)
P(俺と社長は自殺し、それからアイドル同士の交流も少なくなっていった……)
P(そして、三年後にループが始まった……)
P(うーん)
P(正直なところ、俺が自殺したなんて言われても、全く他人事にしか思えん)
P(俺は現実に生きているからな)
P(しかし……このループは誰がなんのために……)
P(いや、実のところ誰がやったのかはもうおおかた予想が出来ている)
P(だが、どうしてこのループが終わらないのかが分からん)
P(俺の予想が外れているのか? それとも、まだ何かあるのか?)
P(俺の予想が正しいとして、どうすればこのループを終わらせれるんだ?)
P(犯人に土下座すればいいのか?)
P(土下座は得意だからまあやってもいいが、それだけではこのループ、終わらないだろうな……)
P(やっぱり、犯人から話を聞くしかないのか?)
P(でも、犯人はきっと悪意があってこのループを作り出したわけではないだろう……)
P(そんなやつに、てめえが犯人だろくそぼけって言うのは逆に追い詰めることになるだろうな)
P(どうすれば……)
P(それとなく聞き出すしかないのか?)
P(……どちらにせよ面倒だな。もう少し様子を見てみようか)
P「なあ、雪歩。俺はどうやったらおまえ達を助けてやれるんだろうな」
雪歩「……分かりません。でも私、プロデューサーに助けてもらいたいなんて思っていませんよ」
P「おお、言うねえ」
雪歩「言ってしまえばプロデューサーが一番の被害者ですから」
雪歩「一番ひどい目に遭っている人に助けてなんて言えるわけありませんよ」
P(雪歩は俺と一対一で話すときは驚くほど無表情だ。まあ、泣かれるよりはいいか)
P「俺は被害に遭ってる気がしないよ。それに記憶がないってのはおまえ達より大分楽だろ」
雪歩「プロデューサーは、ループだとか信じているんですか? こんなめちゃくちゃな話……」
P「さあ、どうだろうな。俺自身にもそれはよく分からない」
P「自分が信じているから助けてやろうと思っているか」
P「それとも、単におもしろがっておまえらの話に乗っかってるだけなのか」
P「まあ、俺としてはどちらでもいい」
P「そもそも、アイドル全員で口裏合わせるには少々面倒ないたずらだとは思わないか?」
P「それに俺からしたら初対面だったんだから、そんなやつに出会ったその日から無視を決め込むだとかひどすぎる」
P「無視されんのはそこそこ慣れてるけどよ。それでも十三人全員はきついぜ」
雪歩「……」
P「だからな、俺は俺の顔面のせいでこんなひでえ目に遭っているとは思いたくないわけだ」
P「初対面から始まるいじめってのはなかなか斬新で刺激的だが――」
P「その行為にちゃんとした理由があるのなら、そっちの方が俺的には助かる訳よ」
P「美少女に無視されるってのは、人によってはうれしいことなのかもしれねえけどよ」
P「残念ながら俺は精神的に辛かったね」
P「あと、俺は多少人を信用しきれない部分がある」
雪歩「いじめの、せいですか……?」
P「ああ」
P「プロデューサーという立場にいる野郎がこんなことを言うのはちっとばかし問題だとは思うがな――」
P「俺はおまえ達を信用できていない」
雪歩「……」
P「まあ、出会って半年もしないくらいで完全に信頼するってのは俺にはとうてい無理なことでね」
P「これからこの性分が改善されていくかは分からんが」
P「美少女が俺に話しかけてくれるんだ。少しくらい心を許してもいいかなって思っちまう」
P「一歩間違えれば惚れてしまうわけだが、まあそれは問題がある」
P「……俺が何を言いたいかってのはな」
P「俺はおまえらを信じているわけじゃないが、それでも協力くらいはしてやってもいいって思ってるってことだ」
P「協力するってことは、俺としちゃおまえらの好感度を稼ぐことが出来るわけで」
P「俺も男だからな。美少女に好かれてみたいとは思うんだ」
雪歩「……」
P「だからそんなに積極的に動く気がなくても、助けてやりたいっていう台詞が勝手に口から出る」
P「全く困ったもんだね」
P「今だって俺はこんなこと言うつもりはなかったさ」
P「だが、恋愛ゲームの中には主人公が本音を語っただけで好感度が上がったりするやつもあるわけだ」
雪歩「プロデューサー、ちょっと気持ち悪いです……」
P「は、だろうな。俺も自分がきもくて仕方がない」
P「……つまりだ。俺はおまえらを信用していないが、それなりに動くつもりではいる」
P「何かあったらすぐに言って欲しいんだ。俺みたいなぺーぺーより律子の方が信用できるだろうが――」
P「律子よりは俺の方が暇だからな。雪歩達のために動いてやれるのさ」
P「さっきからずっと同じようなことを言ってる気がするな」
P「……ところで、俺と話すのはまだ辛いか?」
雪歩「……辛い、です。だけど、辛いままだとだめですから……」
P「雪歩は強いよ。俺は辛いいじめから逃げるためにいじめを受け入れた」
P「だけどおまえは正面からぶつかれる。うらやましいね、全く」
P「……俺の話は終わりだ。雪歩はなんかあるか?」
雪歩「ないです」
P「俺はおまえの辛い気持ちを分かってやれない。だが、応援くらいならしてやれるからな」
P「じゃあ、またな」
雪歩「……はい」
『Pという人間がこの世に存在している時、一体何人の人間が不都合を被るだろうか』
P(中坊の時の作文だな。国語の時間に提出してどえらい怒られた)
P(これを書かされたのもいじめの一環だったが、まさか職員会議で取り上げられるとは思わなかったな)
P(中坊にしては結構な分量書いたんじゃないか? なんたって原稿用紙百枚だからな)
P(しかし、いじめとは言ってもこの作文、自分と向き合ういい機会だった)
P(俺がいつどこで生まれたかやら、この時はどうしてこんな行動をしたのかやらを延々と書き連ねたんだから)
P(いやあ、こんなものを二週間でかけなんて言われたときは無理だと思ったが意外と出来たんだよな)
P(最初の三日で何を書くかを決めて、そこから十日で完成させたんだっけ)
P(二週間って伸也の野郎にしては良心的だったんだな……)
P(……)
P(自分と考えを整理するためにもちょっと文章にしてみるのもいいな)
P(今はあのときと違って手書きという条件もない。PCを使えるから幾分か楽だろう)
P(やってみるか)
765プロが巻き込まれたループに関して
初めの世界にて
Pが765プロに入社し、アイドル達がデビュー。
アイドル達は全員で活動を続けていくが、会社としての成績は芳しくなく、一年も経たずに倒産。
高木社長とPが自殺し、アイドル達は次第に疎遠になっていく。P入社から四年目の日ループ開始。
――
P(この十三回目の世界以外のことは俺は知らないからそんなに書けないことに気が付いたぞ)
P(まあ、いいか)
――
ループ一回目の世界にて
突然過去に戻ってしまいアイドル達は戸惑うが、まあ何とかがんばる。しかし倒産。
ループ二回目の世界にて
がんばって765プロの倒産を回避できるように。
ループ三回目の世界にて
ループ二回目がうまくいっただけに、アイドル達はループがいやになる。
――
P(……)
P(こんなものでいいのか?)
P(……そういえば、ループ一回目では最初と同じく会社が倒産したけど――)
P(俺と社長は自殺したのかな……? 分からん)
――
ループ四回目、五回目の世界
アイドル達はループ脱出の方法を探し始める。PにSOSも。
ループ六回目、七回目の世界
伊織が自殺。ほかのアイドルもループに嫌悪感。
ループ八回目、九回目
ループ脱出を諦めるアイドルが出てくる。
ループ十回目、十一回目
伊織が自殺。
ループ十二回目
Pは伊織と交流を深める。
――
P(……)
P(最初以外は一行になっちまった)
P(俺、あんまり情報持ってないんだな……)
P(明日はもうちっとちゃんと話を聞いてみようか)
すみませんが、少しの間更新できそうにありません。
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