××年 秋
ここ王国に、新しい勇者のグループが誕生した。
グループの最年長は、魔法使い。王国に仕えていた彼は、王の信頼を得た後、勇者のグループに加わることになった。彼は、グループの旅のブレーンでもあった。
そして、勇者。弱冠16歳の彼が勇者に選ばれたとき、その後の旅に思いをはせ、大喜びだったに違いない。
さて、旅先を決めるにあたり、我々のもとへ、ある国からおいしい話が舞い込んできた。
「東京で、魔王を倒しに行く勇者たちを激励したい。」
聞けば、東京までの旅費も負担してくれるらしい。
我々は一も二もなく飛びついた。
さらに、貧乏性の戦士dは
「せっかく東京まで行くんだから、何かついでに企画をやりましょう。」
と、企画担当の魔法使いに話を持ちかけた。
そして魔法使いは、興味深い企画を提案したのである。
東京・六本木プリンスホテルの一室で、一行は激励を受けた。
激励会が終わった後、おもむろに僧侶dは小さな家庭用ホームビデオをまわし始める。
これから一体何が始まるのか?
いっさい内容を聞いてない男が一人いた。
勇者である。
彼は戦士dから、今夜は六本木プリンスホテルに泊まり、そこでその後の旅について考えると言われていた。
そんな幼稚なウソを彼は信じていたのである。
そしていよいよ、今後永きに渡って続く
勇者、魔法使い、戦士d、僧侶d、男4人の果てしない旅がスタートしたのである。
―××年 9月12日 木曜日 午後2時18分 東京 六本木プリンスホテル
魔法使い「さて、魔王が統べる『試される大地』北海道に向かうにあたり、六本木プリンスホテルでa総理から激励を受けたのだけれども。」
勇者「うん、楽しかったね!」
魔法使い「その激励に答えるためにも、我々はこれから頑張らなければならない!」
勇者「うん!」
魔法使い「そのためにも、せっかくわざわざ東京に来たのだから、ただ北海道へ進軍するのもつまらないと。」
勇者「うん、つまらない!」
魔法使い「そこで、企画を考えて・・・。」
勇者「考えましょう!」
魔法使い「・・・企画を考えてきました。」
勇者「え?」
おかしい、聞いてることとは違う。
そう思う勇者は、カメラの前でただただ話を合わせるのが精一杯である。
冒険の後、がっぽり稼ぐ目的で撮っているテープには、焦る勇者の姿が記録されていく。
勇者「なんだ、考えてきているんですね!?」
大きな不安に駆られながら、言葉を合わせる勇者に魔法使いはどんどん話を進めていく。
魔法使いが持ち込んできたボードには、呪文のような言葉が載っている。
ただし、勇者はその呪文を見たことなど無い。
魔法使い「どどーん!」
なんだ!何を始める気だ!勇者の頭に不安がよぎる。しかし、考えている余裕など、彼には無かった。
とにかく、王様も見るであろう、カメラの前でただただ言葉を合わせるしかなかった。
魔法使い「勇者君、ここにサイコロの目と色々書いてあると思いますが、何だと思いますか?」
勇者「え、なんですか・・・呪文か何かですか?」
魔法使い「呪文、いいですね、確かに呪文みたいなもんですね、でも違うんです。」
勇者は頭空っぽであった。そんなこと関係なく、魔法使いはいよいよ企画の全容を勇者に明かしたのである。
魔法使い「これはバスの名前、長距離バスの名前なんです。」
魔法使い「我々はこれから、当ての無い旅に出かけます。」
勇者「確かに元々当ては無いけど・・・。」
魔法使い「ですから、どうせならサイコロの目に従って、我々は旅をしようということなんです。」
勇者「・・・僕は、聞いてないぞ!」
では説明しよう!東京から魔王都市札幌までの交通手段・ルートを、全てサイコロの目に従って行くという余りにも運任せなこの企画。
東京から札幌、サイコロの旅、いよいよスタートである。
魔法使い「本当は、魔王城がある音威子府までにしたかったのだけど、札幌から先は流石に強敵ばっかなので、札幌までにしておきました。」
勇者「最初から、こんなこと企画するなよ。・・・と言うか、魔王城がなければ、誰も音威子府の読み方知らなかったんじゃないか。」
魔法使い「そんなこと、どうでもいいんです。音威子府のことなんか知ったこちゃありません。この企画の方が大事なんです。この企画の成功で、我々の将来がウハウハであるかどうか鍵となるのです。」
勇者「・・・音威子府の人間に謝れ!」
魔法使い「あそこには、人間はおりません。」
勇者「いるぞ!過疎化して大変だけど、いるはずだぞ!」
魔法使い「ま、そんなことはどうでも良くて。」
勇者「流された・・・これ見ている音威子府の人ごめん。」
魔法使い「ここに書かれている長距離バス。全部深夜バスなんです。」
勇者「え?」
発音、ネイコブ?
勇者「・・・今日、ここで泊まるんじゃなかったの?」
魔法使い「あぁ、それウソです。」
勇者「うわぁぁぁぁぁ・・・」
魔法使い「というわけで、サイコロの目には、こう書かれています。」
1 エアポートリムジン号
2 パンダ号
3 ままかりライナー号
4 ブルーメッツ号
5 フローラ号
6 ニューブリーズ号
勇者「ほら、>>12が音威子府の読み方知らないじゃないか!」
魔法使い「はいはい、そんなことはどうでも良くて・・・はい、勇者サイコロです。」
勇者「これ、明治製菓のサイコロキャラメルじゃん!」
魔法使い「大丈夫です、中身は抜いておきましたので。」
勇者「そういう問題じゃない!」
ナニガデルカナ~ナニガデルカナ~
サイコロの目>>17
6
勇者「6・・・?ニューブリーズ号?」
魔法使い「どこ行くと思います?」
勇者「新しい・・・息・・・?どこだ?」
魔法使い「広島です。」
勇者「え?」
魔法使い「広島です。」
勇者「意味分からない名前付けてるな、おい。」
魔法使い「ちなみに・・・」
勇者「?」
魔法使い「乗車時間が約12時間ですので。」
勇者「・・・はい?」
6、いきなり出た、ニューブリーズ号、広島行き。
乗車時間12時間。地獄への旅が、今始まった。
勇者「12時間って、半日じゃねーか!」
魔法使い「まぁ、そうなんですけど。」
勇者「うぅ・・・不安だ。」
魔法使い「私もです。」
勇者「あなたが企画したんでしょ!」
魔法使い「目的地は私のせいじゃないです。あのひげ面の戦士dが悪いんです。」
戦士d「まぁまぁまぁまぁ。」
魔法使い「あ、そうそう。出発時間なんですが…20時40分に新宿ですので。」
勇者「だいぶ先じゃねーか!」
―同日 20時25分 新宿駅
魔法使い「はい、着きました新宿駅のバス乗り場です。」
勇者「着いたの数時間前だけどね。それまで、ヨドバシでビデオテープを買い込んでたじゃないか。」
魔法使い「先は長いですから。何があるか分かったもんじゃないですから!」
勇者「絶対、嫌な気がする。」
戦士d「ところで・・・」
魔法使い・勇者「うん?」
戦士d「言いにくいことなんだけど。」
魔・勇「え、やめてよ、そういうのは。」
戦士d「ほら、予算は元々限られてる中の旅じゃん。さらに、安価でとんでもない所に飛ばされそうだからと、テープを沢山買い込んだからさ。」
魔・勇「うん・・・。」
戦士d「そしたら、俺発見したんよ。得々シートなるものを。」
魔・勇「待て、嫌な気がしてきた。」
戦士d「あぁ、そのシートだけ4列らしい。」
勇者「お前馬鹿だろ!見つけんなよ、それを。」
戦士d「それで、その方が安いと思ってそれにしたんだ。そしたらよ、通常の3列が11600円のところが・・・。」
勇者「いくらになったんだよ!」
戦士d「11600円だったんだ。」
魔法使い「え?」
戦士d「変わんないんだってよ。」
勇者「お、おまっ・・・。馬鹿だろ!」
戦士d「ほら、行き当たりばっかりの旅だからさ。準備も何も出来てないし。」
勇者「あのな、そういうのは調べてから選択するものなんだよ!」
戦士d「しょうがないよね。」
勇者「しょうがなくないわ!」
魔法使い「まぁまぁ。」
このとき、魔法使いはこの旅の恐ろしさに未だ気づいてなかったのである。
―ニューブリーズ号車内
魔法使い「出発して、どれぐらい経った?」
勇者「1時間ぐらい。」
魔法使い「あと、11時間ですか。」
勇者「辛い。」
魔法使い「あぁ、辛いよ。まさか、こんなに隣り合ってるとは思わなかった。」
勇者「それに。」
魔法使い「うん?」
勇者「俺の前、席が無いからペットボトル置けないんだわ。」
僧侶d「ぶっ・・・。」
勇者「そこは笑うところじゃないから、僧侶さん!」
―9月13日 金曜日 7時50分 広島駅
運転士「ありがとうございましたー。」
・・・
魔法使い「はい、広島駅に着きました。」
勇者「えぇ。」
魔法使い「私たちは今、魔王を倒すために広島に来ています!」
勇者「だいたいね、方角が違うからね。俺たちは、北海道に行かなきゃいけないんだから!」
魔法使い「まぁまぁ。」
勇者「だいたい、バスの中で聞いてたからな!このビデオを魔王にも売る相談してたじゃないか!」
魔法使い「そりゃあ、売れなきゃいけませんから。」
勇者「だめだろ!」
魔法使い「いいんです。」
4列シートで不幸な席で一晩を過ごした勇者。いきなり、深夜バスの洗礼を受けた彼は、何故だか苛立っていた。
しかし、それはもう後の祭り。この旅は、まだまだ続く。
魔法使い「というわけで、サイコロを振るわけですが。」
勇者「広島で何も見ない気か。」
魔法使い「えぇ、観光とか戦いとかどうでもいいんです。」
勇者「ダメだろ!」
魔法使い「というわけで、次の行き先はこちらです。」
1)一気に北海道へ!jal3403便で新千歳へ
2)四国に上陸!フェリーで松山へ
3)スタート地点へ戻る!のぞみ6号で東京へ
4)神々の街へ!スーパーみこと号で出雲へ
5)ちょっと移動!在来線で宮島へ
6)こりゃあ一気に南だ!さくら541号で鹿児島へ
魔法使い「ここは1か3を出したいですね!」
勇者「でも3で東京に戻れたとしても、今までなんだったんだろうな・・・。」
魔法使い「そういうの気にしちゃだめですよ。」
勇者「むぅ・・・6は嫌だな。」
魔法使い「えぇ、6など出したらこの先偉いことになりそうですね。あと、2も地味に嫌ですね。」
勇者「じゃあ、今度は魔法使いが。」
魔法使い「私ですか!?」
ナニガデルカナ~ナニガデルカナ~
サイコロの目>>30
2
戦士d「おいおい、勇者君よ~!」
勇者「なにさ。」
戦士d「君のやるネタがつまらないから、安価にコメントが届かないじゃないか!」
勇者「お、俺のせい!?」
戦士d「そうだよ、君のせいだよ~!」
勇者「絶対違うぞ!俺は認めんぞ!」
魔法使い「まぁまぁ、やめなさい勇者君。」
勇者「俺は今怒っている!!」
戦士d「なんだと~!」
魔法使い「というわけで、>>29を採用するでいいでしょうか?」
魔法使い「というわけで、我々は今、広島・宇品港を9:20に出発したフェリーにいます。」
勇者「俺はまだ怒っているぞ!」
魔法使い「勇者君は未だに不機嫌です。」
勇者「が!」
魔法使い「ですが!ここで残念なお知らせです。」
勇者「どうするの、これ・・・。」
魔法使い「カメラ担当の僧侶dがダウンしています。」
勇者「船に弱かったのか。」
魔法使い「みたいですねー。」
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