勇者「時空に飛ばされたら魔王がアパートに住んでいた」(328)

 
…ギュゥゥゥンッ…バチバチッ…!!

ドサッ…!!


勇者「ぐあっ!」

ズザザ…


勇者「くそ、一体何が…!?僧侶!魔法使い!戦士、無事か!?」バッ


…ザワザワ…

 
都会人「やだー、あれ…何?コスプレ?」

都会人「何かの撮影じゃないの?」

都会人「ぷっ、ださ…、何言ってるんだろ」


勇者「…!?」

…キョロキョロ…


勇者「この建物は…、この街は…、ここは…どこだ…?」

 
That's  where  the  story  begins!
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【勇者「時空に飛ばされたら魔王がアパートに住んでいた】
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Don't  miss  it!

 
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勇者「…物珍しそうに見てくる人の目から逃げたが、一体ここはどこなのだ…」

トコトコ…

勇者「見たこともないような巨大な建築物に目が眩む。異様な服装で奇抜な髪型…わけがわからぬ」


警察官「あの、君…ちょっといい?」

勇者「ん?」

警察官「さっき通報があってさ、街で暴れてたのって君だよね」

勇者「暴れてた…?」


警察官「あー、何も言わなくていいよ。職質、わかるでしょ?」

 
勇者「し、しょくしつ?」

警察官「職務質問。君、名前は?どこ住み?」

勇者「名前は勇者…、果ての村の出身だ」

警察官「果ての村…?聞いたことないな、東北あたり出身かな?」

勇者「東北?」


警察官「まぁいいか…仕事は?これからどこに行くの?」


勇者「仕事は魔王討伐の真っ最中だった。どこへ行くか…宛すらない。どうすればいいのだ」

警察官「ま、魔王?宛はないって…、家は?」

勇者「家、故郷はとうに捨てた!」

 
警察官「あぁ…ホームレスか。その腰につけてるのは何?」

勇者「…これは、女神より授かりし"聖剣"だ」

警察官「はい、見せてね」

勇者「構わぬが…」スッ


警察官「…え、これ、本物?」ギラッ

勇者「なっ、聖剣を偽物だというのか!それは俺が勇者という証拠なのだぞ!!」


警察官「…、何でこんなの持ってるの?」

勇者「魔物、魔王を倒し、世界に平和をもたらす為だ!」

 
警察官「はぁ…、どう見ても銃刀法違反だよね。わかってて街に出たの?」

勇者「銃刀法違反…何を言ってるかわからん!」

警察官「あくまでシラを切る、か。これは没収ね。それと、午後2時18分、銃刀法類所持等取締法違反で、逮捕ね」

勇者「…ん?」


警察官「だから、逮捕。わかる?」

勇者「逮捕…?それに、聖剣をどうするつもりだ!」

警察官「暴れるんじゃないぞ、公務執行妨害もつくからねー」カキカキ


勇者「ちょ、ちょっとまってくれ!それはだめだ!」ガバッ

 
警察官「だめだっていうのはダメだから。はい、大人しくついてきてね」

勇者「…まさか、貴様、魔王の手先だな!?」バッ


警察官「え?」


勇者「そうはいかぬぞ、その剣、離せ!」グイッ

警察官「ちょちょ!何してるの!」

勇者「えぇい煩い!離せ!」ゴツッ


警察官「いたっ!…公務執行妨害罪だぞ!」

 
勇者「知るものか、はぁっ!」ガシッ

警察官「くっ!」スチャッ

勇者「何だそれは?」


警察官「動くな!動くと打つ!無線機を…」ゴソゴソ

勇者「一体なんだというのだ…!」


警察官「もしもし、応答願います!こちら、2丁目にて不審な人物を発見!」

勇者「仲間を呼ぶ気か!?」

警察官「動くんじゃないっ!」

 
勇者「そうは行くか…、聖剣は奪い返した、お前を倒してやる!」チャキッ

警察官「倒すだって?動いたら、撃つぞ!」カチャッ


ウ~ウ~…


勇者「…この音は何だ」

警察官「仲間が近くにいたからすぐに来たんだ。抵抗するな、逃げられないぞ!」

勇者「この状況で交戦は望ましくないな…、逃げさせてもらう!」バッ

警察官「あっ、こら!」

 
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――――【 公 園 】


タッタッタッタ…

勇者「はぁ…はぁ、なんとか逃げ切ったか…」

…ストンッ

勇者「何がなんやら分からん…、疲れた…少し休もう…」

ゴロンッ…

勇者「…」


………スヤッ…

 
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魔王「ははは、我に挑むには、力不足であるな!」

勇者「何を、世界の為、俺はお前を倒す!」

魔王「はは…ならばかかって来るがいい!!」


勇者「僧侶、魔法使い、戦士…最後の戦いだ、準備はいいか!」

 
戦士「おう!」

僧侶「もちろんですー!」

魔法使い「任せてくれ!」


勇者「うおおおっ!食らえ、聖剣斬りっ!!」ビュンッ

魔王「ぐははは、軽いわ!」キィンッ

勇者「くっ…!」


魔王「…くくく、ただ貴様らを殺すのでは面白くないな」

 
勇者「何だと!?」

魔王「我が開発した新たな魔法…時空魔法を使ってやろう!」


勇者「な、なんだそれは!」


魔王「何、修行をしていた時代に戻れるというだけだ」ハハハ

僧侶「そんなことして、意味があるんですか!?」

魔王「"今の世"から、勇者が消える事になるな」ニタッ


勇者「そんな魔法、使わせるか!」ダッ

 
魔王「遅いわ!時空魔法っ!!」ブワッ


バチバチ…バチバチバチバチッ!!!

勇者「ぐ、ぐあああっ!」


僧侶「勇者様ぁぁ!!」

魔法使い「勇者ぁ!」

戦士「…勇者、しっかりしろーーっ!」


魔王「ぐははは!!…むっ!?」

 
バチバチバチ…ギュゥゥゥンッ!!!

魔王「こ、これは、魔力の暴走…範囲が増大している!」

勇者「ぐああああっ!!」バチバチ

魔王「こ、これでは我も飲み込まれてしまう!」


戦士「…どうする!?」

魔法使い「このままでは全員が時空魔法に飲み込まれます!逃げなければ!」

僧侶「…嫌です、勇者様がっ!!」

 
魔王「ぐ、ぐおおおっ!」

勇者「うあああっ!」


戦士「…逃げるったって、これじゃあな」

魔法使い「…覚悟、決めますか」

僧侶「勇者さまぁぁっ!」


バチバチバチ…ッ……バシュゥゥンッ…!!!!

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勇者「…」ハッ

カァ…カァ…


勇者「そうだ…思い出した。あの時、確か全員が時空魔法に飲まれて…!」

…スタッ

勇者「もしかしたら、みんなもこの世界へ来ているかもしれない…探しに行こう!」


タッタッタッタッタ…

 
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――――【 路地裏 】


勇者「あまり表に出ないほうがいいな…俺が目覚めたあたりを探すか…」

…ガランガランッ!!

勇者「ん?何の音だ?」


不良A「…うへへ、おい、姉ちゃん遊ぼうぜ?」

不良B「いいじゃん、どうせ暇だろ?」

不良A「いいところ知ってるんだ、遊ぼうぜぇ~!」


???「や、やめてください…!」


勇者「…何ごとだ?」

 
不良A「ほら、こっちこいって!」グイッ

???「嫌です、やめてくださいよぉ!」


勇者「はぁ…どこの世界でも似たようなのはいるんだな。おい、そこのやつ!」

不良A「あぁ?」

不良B「何、俺らのこと?」


勇者「その女性を離せ!嫌がってるではないか!」


不良A「は?何言っちゃってるの?白馬の王子気取り?」ハハハ

不良B「格好もうぜーし、しゃべり方もうっぜー、ボコろうぜ」

 
???「うぅ…」

勇者「全く…、か弱い女性を守らないで、襲う側とは。魔物と変わらぬではないか」


不良A「ぶつぶつ…うっせーんだよ、オラァ!」ブンッ

勇者「何だこれは?これが男のパンチか?」ガシッ

不良A「へっ?」


勇者「パンチというものはな…こうやるんだっ!」ブンッ

…バキィィッ!!!ズザザザ…ドォンッ!!!

不良A「」

 
不良B「はっ?へ?」

勇者「で、そっちのほうも…かかってくるのか?」ギロッ

不良B「あ、いや、俺は…すいませんでしたぁーっ!」ダッ

タッタッタッタ…


勇者「情けない…。さて、そこの女性、大丈夫か?」

???「あ、ありがとうございます!」


勇者「って、…お、お前!?」ガシッ

???「ひっ!?」


勇者「そ、僧侶…!」

 
僧侶「え?何で私の名前を知ってるんですか?」

勇者「な、何でって…、俺だ!勇者だ!」

僧侶「勇者さん?名前、勇者さんっていうんですか?」

勇者「は?」


僧侶「そうですか、勇者さん、助けていただいてありがとうございました」ペコッ

勇者「お、おい…」

僧侶「私、のんびりした性格だから…いつもこうなんですよね」アハハ…

 
勇者「僧侶、しっかりしろ!!」ユサユサ

僧侶「あわわ…ど、どうしたんですか!?揺れるぅぅ」グラグラ

勇者「俺のことが分からないのか!」


僧侶「ど、どこかで会いましたっけ?」

勇者「会ったも何も…仲間だろう、幼馴染だろう!」

僧侶「え?えーと…どういうことでしょうか…。私に幼馴染が…?」

勇者「は、え、お前僧侶だよな?」


僧侶「そうですけど…」


 
勇者「果ての村出身で、戦士や魔法使いと一緒に子供の頃から遊んできた、僧侶だろ?」

僧侶「あ、あの…私のこと…知ってるんですか…?」

勇者「どういう…ことだ?」

僧侶「私、記憶喪失なんです」


勇者「…」

本日はここまでです、ありがとうございました。

はたらく魔王様かなにか?

>>28
申し訳ない…その作品は聞いたことしかありません。
似たような作品として既にあるならば、違う方面の作品として見て頂ければ幸いです。

はた魔は魔王サイドメイン
勇者と激闘→戦略的撤退→間違いで地球に→ここ魔力ねぇ!?→カツドゥーン→目指せ正社員!!
俺はアニメしか見てない人
まあ、頑張ってくれ

皆様りがとうございます。投下開始します。

>>31 
解説感謝します。似たような所もありますね…大まかな部分は違うので、
別として楽しんでいただければ幸いです。

 
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――――【僧侶の住んでいるアパート】


僧侶「お茶でいいですか?」

勇者「あ、あぁ構わぬが…」


僧侶「えへへ、男の人を家にあげたのは初めてです」

勇者「…」

僧侶「3年前、記憶を失った状態で病院で目覚めて…」

勇者「病院…?」


僧侶「はい。それから色々な人にお世話になって、今の生活に落ち着いたんです」

 
勇者(俺の知ってる僧侶じゃ…ないのか。他人の空似?…名前まで?)


僧侶「はい、ハーブティです」コトッ

勇者「あぁ、ありがとう」

僧侶「美味しいんですよ、3丁目のデパートに販売しているお茶」

勇者「そ、そうか…。デパート…はて…」グビッ


僧侶「…」

勇者「…」

 
僧侶「それで…あなたは、私のことを知っているんです…よね?」

勇者「…なんだか自信がなくなってきた」ハァ

僧侶「うーん」

勇者「…その病院で気づいた時の所持品とかはないのか?」

僧侶「所持品、ですか?」


勇者「身に着けていたものとか、な」

僧侶「あ、あぁぁ…なるほど!ありますよ!」

勇者「見せてくれ」

 
僧侶「…えー…、ちょっと、恥ずかしいんですけど…」

勇者「だが、それで僧侶が、俺の知っている僧侶だと分かるはずだ」

僧侶「…仕方ないですよね。待っててください」

勇者「わかった」


タッタッタッタ…ゴソゴソ…


僧侶「…あの、ひかないでくださいね…?」

勇者「ひく?」

僧侶「これなんです…」

 
…スッ

勇者「!」

僧侶「ちょっと薄めのタイツと、帽子、あとは何故か…杖でした」

勇者「…やっぱり」

僧侶「え?」


勇者「お前は…、僧侶だ。俺の知ってる、俺の幼馴染の…僧侶だ!」ガバッ

僧侶「そ、そうなんですか!?」

勇者「あぁ、そうだ。そうなんだよ!」ギュウッ

僧侶「あ、急にそんな抱きつかれたら、恥ずかしいで…す…?」ドクンッ

 
勇者「あ、すまん…」

僧侶「…」ドクンッ

勇者「…僧侶?」


僧侶「な、なんか…凄い…懐かしい感じがしました」ドキドキ

勇者「…」

僧侶「やっぱり、あなたは私のことを知ってるんですね…」ニコッ

勇者「あぁ…知っているとも。あぁ…」

 
僧侶「私は…一体誰なんですか?家は、出身は…」

勇者「…お前の名前は僧侶。俺の幼馴染で、果ての村の出身だ。仲間とともに、世界の平和の為に戦っていた」

僧侶「世界の平和のため!?」

勇者「だが、旅の最後という最後に時空魔法というものでどこかへ飛ばされたらしい」

僧侶「ま、魔法…?」


勇者「そうだ。だが失敗したらしく、その場にいた全員がどこかへ飛ばされたらしいがな」ウーン

僧侶「魔法…魔法ですか?魔法…」

勇者「どうした?」

 
僧侶「さすがに勇者さん、冗談きついですよ」アハハ

勇者「冗談だと?」

僧侶「さすがに魔法なんてファンタジーはありませんよ!」

勇者「ふぁ、ファンタジー?」

僧侶「面白いですね、勇者さん」


勇者「や…冗談では…ないのだが」

僧侶「でも、魔法なんか使えたら楽しいですよねー」

勇者「…?」

 
僧侶「空飛んだり、一瞬でキズを治したり、医者いらずになっちゃいますか」クスッ

勇者「そのキズを治すのが僧侶の仕事で…」

僧侶「え?」


勇者「…」ハッ

僧侶「?」

勇者「待てよ…そうだ、ここは一体どこなのだ!?」

僧侶「こ、ここですか?」

勇者「そうだ、見知らぬ街、夜も輝き、人々の姿は到底同じ世界とは思えぬ!」

 
僧侶「え…えーと…日本ですよ」

勇者「に、日本…?」

僧侶「はい」

勇者「同じ時代とは思えないほどの発展…こんな技術を持った国がこの世には存在しているのか…」


僧侶「時代?今年はもう2000と…何年だったかな…」 

勇者「に、2000!?」

僧侶「は、はいっ!」ビクッ

 
勇者「魔法がないものとされ…日本という聞いたことない国…」ブツブツ

僧侶「?」

勇者「まさか…異世界か…」ハッ

僧侶「異世界?」


勇者「そうか、そのショックで記憶がないのも頷ける…くそっ、魔王め…」

僧侶「何をぶつぶつと言ってるんですか?」

勇者「いや、何でもない。どうするべきか、記憶を戻す技術なんて俺はないし…」

僧侶「??」

 
勇者「よし、決めた。僧侶、一緒に住まわせてくれ」

僧侶「え」

勇者「元々一緒に住んでいたようなものだしな」

僧侶「え、え?え??」


勇者「旅とか仲間全員で大体一緒の部屋でだったしな…」


僧侶「い、許婚だったってことですか!?」

勇者「えっ」

僧侶「そうなんですかっ!?」グイッ

 
勇者(…待てよ、そっちのほうが都合が良いか?…しかし、相変わらず思い込みが激しいな)


僧侶「本当なんだ…でも、勇者さんは私のことを知ってるようだし…本当かも…」ウーン

勇者「…」

僧侶「助けてくれて…、ち、ちょっとカッコイイし…」チラッ

勇者「…ダメならいいんだ。俺は、お前が記憶を戻せるよう旅に出て、他の仲間がいないか探してみる」


僧侶「記憶を戻すのに、一緒に住んでいたほうがいいんです…よね?」

勇者「まぁ、そうだな」

僧侶「じゃあ…お願いします」ペコッ

 
勇者「…いいのか?」

僧侶「はいっ!」

勇者「…よろしくな」

僧侶「よろしくお願いします!」


勇者「それじゃ、えーと…どうするかな」

僧侶「明日、一応大家さんと住んでる人たちに、紹介しますから今日は寝ましょうか」

勇者「ん、あぁ…そうだな」

 
僧侶「では、布団とか用意しますね♪」

勇者「うむ、失礼ながら厄介になる」


僧侶「で…でも、記憶は戻ってないし…お布団は別々ですからね!」

勇者「当たり前だ!」

 
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【次の日の朝】

 
…コンコン

勇者「この部屋はなんだ?」

僧侶「1階のこの赤い扉が、大家さんの部屋です」

勇者「ふむ…大家な…」


コンコン…

勇者「返事がないようだが。留守か?」

 
僧侶「…いえ、いつも大家さんは起きるのが遅いんで…あっ」

カチャカチャ…ガチャンッ!


大家「朝っからうるさいね…」ボリボリ

僧侶「あ、大家さん、おはようございます」


勇者「…っ!!」

大家「ん?」

勇者「ま、魔王!!!」

 
魔王(大家)「…っ、なんでアタシの名前知ってるんだ?」

僧侶「え?勇者さん、大家さんと知り合いなんですか?」


勇者「知り合いも何も、世界を破滅へ導こうとした張本人だ!貴様、なぜここに!」クワッ

魔王「あぁ…?何のことだ」

勇者「とぼけるな!貴様ぁ…」チャキッ


僧侶「ちょ、それなんですか!」

勇者「聖剣…、魔王を切り裂く唯一の術…ここで、お前を倒す!」

魔王「ちょ…な、なんなの!何を言ってるか分からないって!」

 
勇者「てめぇ…」

魔王「何なのこの物騒な人は!」

僧侶「ちょ、ちょっと勇者さん落ち着いてください!」

勇者「ぐぬぬぬ…」ギリギリ


魔王「…僧侶、まさかこの男と一緒に住むとか?」

僧侶「ま、まぁそうなりました」

魔王「あっはっは、男らしくていい人じゃないの!アタシもこんくらい勢いのある男がほしいよ!」

僧侶「あはは…」

 
勇者(こいつも…記憶を失っているのか?)


魔王「本来なら2人分の家賃がほしいが、僧侶ちゃんは可愛いから特別に無料にしといてあげるよ」アハハ

僧侶「助かります!私の低収入じゃ厳しくて…」

魔王「男、ヒモに成り下がるんじゃないよ?」

勇者「なっ…」


魔王「それじゃ、私はまだ寝るとするよ、おやすみ」フワァ

勇者「ま、待て!」


…バタンッ

  
僧侶「ほら、挨拶は終わったんだから一回部屋に戻りますよ!」

勇者「だ、だがな…」

僧侶「午後から今日は仕事なんですから、留守番しといてくださいぃ!」


勇者「ええい!…睡眠魔法」ボソッ

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


魔王「ふー、やっとまた横になれる…」

コチ…コチ…コチ…

魔王「…勇者、か」ゴロン


…コンコン…

魔王「んー誰…。また、僧侶かねえ…」モゾモゾ


トコトコ…ガチャッ

 
勇者「おらあああっ!」

魔王「きゃああっ!?」

勇者「ふぅ…ふぅ…」


魔王「ゆ、ゆゆ、勇者!?」

勇者「…お前、やっぱり魔王だろ…」


魔王「私はこのアパートの管理人だ!お前のいう魔王は知らん!」

 
勇者「ならなぜ、さっき俺がお前の名前を呼んだ時、顔色が変わったんだ」

魔王「え…な、なんのことかな!」アワワ

勇者「ウソへったくそだなお前!おい!」

魔王「…ぐぐ」


勇者「一体ここはどこだ!なんでお前がこの大きな家を経営してるんだよ!」

魔王「…ふ、ふははは!バレてしまっては仕方ない!」

勇者「…っ!」


魔王「この魔王…全てを投げ打って…!」

 
勇者「来るのか…!」ググッ


魔王「…全力で旨い茶を淹れてやろう!!」

勇者「…は?」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

勇者「…どういうつもりだ」

魔王「まぁ落ち着け。戦うつもりはない」

勇者「戦うつもりはないってな…、この状況が理解できないんだが」ズズッ…


魔王「ふん、私だって訳が分からなかったさ」

勇者「どういうことだ?」グビグビ

魔王「あの時に暴走した時空魔法で、どうやら異世界に送られてしまったらしい」フゥ

 
勇者「異世界…やはり」

魔王「私は強大な魔力に守られ、記憶を失うことなく今までやってきた」

勇者「俺は…」

魔王「お前は私たちよりワンテンポ送れてここに送られてきたんだろう?見て分かる」


勇者「ワンテンポ?」


魔王「私がこの世界に飛ばされてもう6年目だ。今じゃアパート経営なんかやってるがな」

 
勇者「6年…、そうか、まさか僧侶は!」

魔王「そう。3年前にこの世界にやってきた。だが、記憶は失っていた」

勇者「じゃ、もしかして病院に送ったりお世話になった人って…」


魔王「私だ。この世界に放り出され、あの僧侶が今まで無事にやってこれると思うか?」

勇者「い…いや…、俺が言うのもなんだが…」

魔王「だろう?元の世界戻る手がかりになるかと、僧侶をかくまってやっていた」

 
勇者「それは感謝する。だが、俺が記憶を失わなかったわけはどういうことだ?」

魔王「聖剣の加護だろう」

勇者「なるほど」

魔王「ちなみにこの世界に魔法はないぞ。魔法という概念がないのだ」


勇者「本当に魔法がない世界…だと」

魔王「だが、この世界には"科学"という別の技術がある。いずれ慣れるだろう」

勇者「なるほど…」

 
魔王「はぁー…だが、これで戻れる手立ても探せるというものだ」

勇者「まさか、まだ戻る手立てがないのか?」

魔王「戻れるならとっくに戻っておるわ。魔力の供給がない以上、動けないんだ」

勇者「あー…」


魔王「お前がいれば、何とかなるかもしれん。力を貸してくれ」

勇者「魔王に力を貸す!?バカな!」

魔王「ここはあっちとは違うんだよ。平和な日本なの。戦いとかないの」

 
勇者「…」

魔王「戻りたくないならいいんだ。私も、諦めがついていた所だし」

勇者「諦めって…」

魔王「この世界も生きてみれば悪くはない。魔物もいなければ、戦いもなく暇すぎる程だがな」

勇者「…平和な世に、満足すると?」


魔王「こちら側は、幸せな世界だ。戦いに暮れた私でさえ、心地よく感じるほどに」

勇者「…」

魔王「それと、面白い話があってな」

 
勇者「なんだ?」

魔王「魔法使い、戦士もこのアパートに住んでいるぞ」ハハハ

勇者「は!?」


魔王「あいつらも3、4年前か。同じようにかくまってやった。そのせいで近所からは記憶喪失アパートとか…はぁ」

勇者「…仲間を養ってくれていたのか?お前が?」

魔王「だから戻る手段の一つだってば」

勇者「それも…礼を言わせてもらう」

 
魔王「僧侶は一般事務。戦士は土工、魔法使いは頭が良かったからコンピュータ会社に勤めている。後で紹介しよう」

勇者「何を言ってるのかさっぱりわからん」

魔王「はっはっは、そのうち慣れるさ」

勇者「慣れたくないがな」


魔王「それで、本題だ。お前、今も魔法は使えるのか?」

勇者「使える。元々魔道向きではないから…簡単なほうだが」

 
魔王「それだけで…十分な報酬だ!戻れるかもしれんぞ!」ダキッ

勇者「ま、魔王が勇者に抱きつくな!」

魔王「ん~…?だから言っているだろう、この世界は戦いなどないんだと」ギュウウッ

勇者「くっ…」


魔王「それとも何だ、こうやって女から抱きつかれるのは苦手か?」ククク

勇者「そんなわけあるか!」

魔王「ならいいではないか!こういうガッシリした男、実は嫌いではないのだぞ」

 
勇者「ぬぬぬ…」

魔王「あの僧侶とかいう女より、私と一緒の方がいいんじゃないかー?んー?」

勇者「だ、誰が!」バッ


魔王「なんだ残念。それじゃ、色々と戻れそうな手立ては考えておくよ。今のお前は少しでも生活に慣れていくほうがいい」

勇者「うむ…そうだな」

魔王「分かんないことがあったら、私に聞きにきたりしな」

勇者「うむ」


魔王「あ、あと…くれぐれも、"魔法"はこの世界じゃ多様するなよ。剣や、加護の力も同様だ」

 
勇者「そういうのがない…世界だっけな」

魔王「下手すりゃ捕まる。警察とか、色々厄介でねえ…私も最初は危なく…」ブツブツ

勇者「もうちょっと早く言ってほしかったわ」

魔王「何?」


勇者「いや、何でもない」

魔王「それじゃ、私は二度寝~♪起こすなよ!」

勇者「ずっと寝てろ!」


魔王「ばいばーい」

 
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本日はここまでです、ありがとうございました。

皆様ありがとうございます。投下いたします。

 
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僧侶「!」ガバッ

勇者(やっと起きた…ちょっと強く睡眠かけすぎたかな)

僧侶「え、あれ…私、寝てました!?」


勇者「そりゃもうグッスリと。もう午後2時だぞ」

僧侶「え、えええっ!ち、遅刻ですよおおお!」

勇者「遅刻?」


僧侶「今日は大事な会議が午後から合って…、少し遅れるって電話はしといたんですけども!」

勇者「何だどうした?」

僧侶「30分の電車間に合うかなぁぁ…と、とにかく行ってきます!」バタバタ

勇者「お、おう…何か分からんがいって来い」


…タッタッタッタ…ガチャッ!!

僧侶「…あ、夜までには帰りますから、待っててくださいね!」

勇者「うむ、一応見送る」

 
僧侶「ありがとうございます、それじゃ行ってきます!」

勇者「いってらっしゃーい」フリフリ

タッタッタッタ…


勇者「…一体なぜあんなに慌てているのだ…ふむ…」

 
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魔王「だからって、寝ると言った私に質問しに来なくてもいいじゃないか」

勇者「分からぬ事があったら聞けといっただろう」

魔王「早いわ!眠らせろ!」


勇者「で、遅刻とは何なのだ」

魔王「…勇者、お前にはちと最初からこの世界の仕組みを説明する必要があるな」

 
勇者「仕組み?」

魔王「社会のマナーと、経済について。この世界の秩序についてだ」

勇者「お前が言うと、なんかな…」


魔王「…私だって、元の国では私が正しいと思った道に導こうと勉強はしていた」

勇者「民を苦しめ、魔物の天下にすることがか?」

魔王「そもそも、魔物を迫害したのは人間が領地を広めるためだろう!」


勇者「お前だって…人型じゃないか」

魔王「私は人間と魔物のハーフなだけだ。決して人間には相容れない」

 
勇者「よく、こんな人間天下の世界に住んでいるよ」

魔王「…仕方ないことだ。受け入れるのには慣れている」

勇者「ほう?」

魔王「自我が芽生えた時には、既に魔の国の王女だった。それと比べたら…」ハハッ

勇者「…そうか」


魔王「まぁいい。で、お前にはちょっと勉強が必要なようだ」

勇者「勉強か…」

魔王「ま、お前なら覚えられるだろう。昔使っていた本を使って教えてやる」ゴソゴソ

 
勇者「…礼は言わぬぞ」

魔王「言ってもらってもいいのだぞ?」

勇者「ふん」


魔王「それじゃ、その本をきちんと読んでおけよ」

勇者「うむ、ではな」

魔王「今日は本当にもう来るな…寝かせてくれよ」

勇者「わかったわかった。またな」

 
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――――【 夜10時 】


…ガチャガチャッ!!

僧侶「遅刻したせいで、残業手伝わされました…。遅くなりました!!」ドタドタ

勇者「お帰り」

僧侶「お、おなか空いてますよね!?今から作ります!」


勇者「あ、いや…俺が作っておいた」

僧侶「勇者さんが!?」

 
勇者「この本で見た。俺はシェアハウスという存在なんだろう?」

僧侶「シェアハウスは共同の家のことで、人のことじゃないですけどね…」


勇者「ご飯を作っておくのも悪くないとあった。会社というものも大変らしいからな」

僧侶「何にせよ…ありがとうございます!」

勇者「これだ」スッ


…スッ…プゥ~ン…グツグツグツ…

 
僧侶「!?」

勇者「外にいた鳩やら、自然のものを使ってみたのだが、どうだ?」

僧侶「…は、鳩…」

勇者「味付けは分からんが、栄養はありそうだ。さ、食べろ」


僧侶「…」

勇者「旨いぞ…多分!」

僧侶「た、多分ですか…。い、頂きます…!」

 
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――――【 次 の 日 】


ゴロゴロゴロ…

僧侶「う…うーん…お腹が…」

勇者「どうした?」

僧侶「今日が休みで良かった…です。次からはご飯は私が用意するので…」ニコッ

勇者「そ、そうか…」

 
僧侶「…そういや、他の人に挨拶しました?」

勇者「他の人?」

僧侶「同じアパートに住む人たちですよ。隣の部屋とか」


勇者(そういや戦士や魔法使いもいるって言ってたっけ)


僧侶「まだでしたよね?行きましょう」

勇者「う、うむ」

僧侶「…どうかしたんですか?」

 
勇者「いや、どんな顔をして会えばいいのか」

僧侶「大丈夫ですよっ!みんな、気さくでいい人たちです」

勇者「そう…か?」


僧侶「善は急げ、挨拶は善です!行きましょう!」グイッ

勇者「お、おぉ…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…コンコン

戦士「はいよー」ガチャッ

僧侶「戦士さん、こんにちわ♪」

勇者(おぉ、戦士!!)


戦士「おや、僧侶ちゃん」

勇者(そそ、僧侶…ちゃん!?戦士の口調じゃねぇ…)ゾワゾワ


戦士「どうした…って、こっちの男性は?」

僧侶「勇者さんです。一緒に住む事になりました」

 
勇者「こ、こんにちわ」


戦士「お、おう…初めまして。一緒に住むって…何、僧侶ちゃんの…コレ?」クイッ

僧侶「コレって…小指立てないでくださいよぅ…」

戦士「いや…、そんな話聞いた事もなかったからちょっとキョトンと…」


勇者「まぁ結婚を前提に付き合ってる。これからヨロシク」

戦士「マジか…まあ、よろしく」


勇者(やはり戦士も完全に記憶がないみたいだな)

 
戦士「それじゃ俺はこれから仕事だから…また」

ガタガタ…ガチャンッ…


勇者(俺の知ってる戦士より元気がなさ過ぎる。まるで別人だ)


僧侶「さて、次の部屋に行きましょう」

勇者「次は?」

僧侶「魔法使いさんです」


…コンコン…

 
ガチャンッ…

魔法使い「はいはい…」


僧侶「魔法使いさんっ!」

魔法使い「おっやあー僧侶ちゃん!どうしたのー?」

僧侶「今日は紹介したい人がいまして…♪」

魔法使い「おー、誰だれ?」


勇者「初めまして、勇者です」

魔法使い「きゃーっ、かっこいいじゃない!よろしくねー!」

勇者(…魔法使いは魔法使いのままだな)ハハ

 
僧侶「相変わらずですねぇ」

魔法使い「かっこいいモノに目がないのはいつもでしょー!」

僧侶「目移りしすぎて前の彼氏に振られたんじゃないですか…」

魔法使い「うぐっ…それは言わないで…」


勇者(…コイツは少し変わってたほうが良かったんじゃないか?)

魔法使い「そ、れ、よ、り…勇者さん」ンフッ

勇者「ん?」

  
魔法使い「僕とお付き合いしなーい?」

勇者「えっ」

魔法使い「だから、僕さ、かっこいい人大好きなんだってー!」キャー


僧侶「勇者さんは私と住んでるんです!け、けけ…結婚の約束も…」


魔法使い「だよねぇ…友達の彼氏じゃ手は出さないよ」

僧侶「か、彼氏!?」

魔法使い「結婚の約束もしてるんでしょ?同棲してるし、彼氏彼女じゃないの?」


僧侶「…」チラッ

 
勇者「ま、まぁ健全なお付き合いだ」ゴホン

僧侶「で、です!」


魔法使い「はーっ…羨ましい。僕はこれからプログラム組まないといけないから失礼するよー」

僧侶「がんばって下さい!」

魔法使い「じゃあねぇ…」


…バタンッ

 
僧侶「えーと後は…」

勇者「何か疲れるな…」


僧侶「あと一人ですよ。あとは側近さんです」

勇者「そっ…側近!?」

僧侶「えぇ…その方も知り合いですか?」

勇者「知り合いも何も…宿敵の一人で…!」


…タッタッタッタッタ!!!

僧侶「と、噂をすれば側近さんが来ましたよ」

勇者「えっ」

 
側近「はぁぁ、遅刻する!」タッタッタ

勇者「…本当だ」


側近「うわっ!」

コケッ…ドサッ!!


勇者(えぇ…魔王の右腕が…ドジっ子になってる…)


側近「いたた…」

僧侶「大丈夫ですか?」スッ

 
側近「あっ…僧侶さん。ありがとうございます」ガシッ

僧侶「あ、そんなに強く引っ張られると…きゃあっ!」

ドシャッ…


勇者(こいつら)


僧侶「あいたたた…えへへ…」

側近「あはは、ごめんね」

僧侶「いえいえ、私も力がなくて…」

 
勇者「ほら…二人とも手貸せ」


側近「え、あ…いや。見知らぬ人にそんな」

僧侶「勇者さんですよ、大丈夫です。今度一緒に住む事になったんです」

…ガシッ

側近「僧侶さんと!?へぇぇ、ついに僧侶さんにも春が来たんですか」

…ガシッ


勇者「よいしょ」グイッ

 
側近「とと…、ありがとうございます」

僧侶「ありがとうです」エヘヘ


勇者「お前が…側近か?」

側近「そうですよ、初めまして。以後お見知りおきを」ペコッ

勇者「うん…まぁ…」


側近「あ、いけない!遅刻する…また今度ゆっくり話しましょうね~!」タッタッタッタ

勇者「あ、うん…またねー…」フリフリ

 
僧侶「まぁ…今のところ住民はこんな感じですね」

勇者「そうか。ちょっと俺は大家のところに行ってくる」

僧侶「大家さんですか?」

勇者「うむ。すぐ戻る」


僧侶「うーん?わかりました、いってらっしゃいです」

勇者「うむ」

  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【大家(魔王)の部屋】


勇者「そおおいっ!!」

…ドゴォォォンッ!!!


魔王「きゃあああっ!?」ビクンッ


勇者「…おい、魔王!」

魔王「ど、ドアを壊すなーっ!修理に幾らかかると思ってるんだ!!」

勇者「そんな事より、側近がいるなんて聞いてないぞ!」


魔王「あ、あー…言ってなかった?」

 
勇者「聞いてねぇよ!」

魔王「側近のやつも飛ばされたらしくて、同じように記憶がないんだよ」

勇者「しかもなんか、あの冷徹で沈着と言われた男がドジっ子キャラっぽくなってるぞ」

魔王「お前、その言葉どこで覚えた…」


勇者「昨日読んだ本にあったぞ」

魔王「…そんなモノまで貸していたか。まあいい…記憶を失うというのは人格形成も変わるものらしいぞ」

勇者「やりずれぇなぁ…。魔法使いだけそのまんまだったけど」

 
魔王「仕方ないだろう。私もやりにくかったが、知らぬ世界で知る顔があるだけでマシというものだ」

勇者「…」

魔王「最初は私一人だったからな。次々出会う懐かしい顔ぶれに、少し安心もした」


勇者「お前が言うセリフかよ」

魔王「だから言っているだろう。この世は戦うべき世ではないと」

勇者「はぁー…」


魔王「というかお主、まさか本当に僧侶のヒモになる気か?」

勇者「ヒモだ?」

  
魔王「女性に世話をされ、自分は家で惰眠を貪るのか?ということだ」

勇者「む…」

魔王「こればかりは、あちらもこちらも恥ずべき事だろう」

勇者「確かにそうだが…」

魔王「仕事くらい探したらどうだ?」


勇者「仕事?」

魔王「頭も悪いほうではないし、力もある。いざとなれば何でも出来るではないか」

勇者「ふーむ」

魔王「それにお前の仲間は全員働いている。そのリーダーがそんな低落でどうする」

 
勇者「そうだな…って、何でお前に説教されないといけないのだ!」


魔王「クックック、こちらでは私に媚びぬと死んでしまうぞ…?仲間を追い出すのも簡単だ、いいのか…?」

勇者「くっ…魔王め、本性を現したな!」


魔王「クク…勇者よ、この私の前にひれ伏せ!足を舐めろ!フハハハ!」

勇者「ぐぬぬ…」


魔王「…とは言いたいが、不安要素の塊は見過ごせぬ。私の計らいで、知り合いに頼んでみよう」ハァ

勇者「あん?」

 
魔王「新聞配達、というのはどうだ」

勇者「新聞配達?」

魔王「朝3、4時頃に起き、指定された家々に新聞を配るだけの簡単なお仕事だ」

勇者「悪くないな」


魔王「体力もあるほうだし、しっかりやれば給与も悪くはないだろう」

勇者「…世話になるのは癪だが…」


魔王「まぁ今は受け入れろ。特別に日雇い扱いにお願いしとく」

勇者「やむを得まい」

 
魔王「うむ…。はぁ、ドア壊しおって…普通に入れ普通に…」

勇者「寝ていてるのではないかと思ってな」

魔王「今日は税務署に行くために早起きだ…。帰りに業者に頼んで修理してもらうか…」


勇者「税務署?」

魔王「あー…もう本その辺の全部もってっていいから、詳しく読め」

勇者「わ、わかった…」

魔王「ほらほら、本取ったら出てってくれ。私も準備があるのだ」グイグイ


勇者「お、おい押すな、わかったよ!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…ガチャッ

僧侶「あ、お帰りなさい」
 
勇者「ただいま。魔王から沢山の本をもらってきた」

僧侶「凄い量ですね…」


勇者「何、暇つぶしには良い」

僧侶「マナー本ばっかり…」

勇者「あと、近々俺も仕事とやらをすることになった」


僧侶「えっ!?」

 
勇者「新聞配達…とかいったか。魔王の紹介らしい」

僧侶「へええ!」

勇者「気乗りはせぬが、女性に世話になりっぱなしよりマシだ」

僧侶「家にお金、入れてくれるんですか?」


勇者「こちらの通貨はあまり分からないからな、全部渡す。適当にしてくれ」

僧侶「それでいいんですか?お小遣いとか…」

勇者「お、お小遣い?」

僧侶「欲しいものはないんですか?服とか、食べ物とか、趣味とか…」

 
勇者「とはいっても、あまり知らないからな…」

僧侶「そういや服もそれ一着だし…、そうだ、服買いに行きましょうよ!」

勇者「服を?しかし、これは加護を受けし聖なる糸で出来て…」


僧侶「そんな変な事言ってないで、ほら、行きますよ!」グイグイ

勇者「ちょ、何でこういう時だけ力が強いんだ…うお、危ない、おい!」

 
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

 
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――――【東都・アーケード街】


…ガランガランッ!!

ショップ店員「ありがとうございあっしたー!」


勇者「…何という肌のフィット感…っ!これはまさか、加護を受けし服…!?」

僧侶「何を言ってるのかわかりませんが、結構素材もいい服ですよ」

 
勇者「それに、体が丁度いい温度になったようだ」

僧侶「最近のはそういう物が多いんです。値段も手ごろですし」

勇者「恐るべき技術だ…」ゴクッ


僧侶「それと、もうすぐお昼ですけど、何か食べますか?」

勇者「食べ物か。これだけの技術を持つ国…料理店のレベルも高そうだ」


僧侶「レベルは高いですよね。世界で一番三ツ星レストランが多いらしいですよ」

勇者「ふむ…?」

僧侶「さすがにそんなに高いのは食べれませんが、安くて美味しい場所もあるので、適当に入りましょうか」

勇者「任せる」

 
僧侶「じゃあ、近場でいいかな…あそこにしましょう♪」

勇者「セイザリヤ…?」

僧侶「あそこだと女性向けのメニューも多いので。いいですか?」

勇者「うむ、任せるよ」


…ガチャッ…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【セイザリヤ】


僧侶「久しぶりですねーここも」

勇者「変わった名前だな」

僧侶「星座をモチーフにしてるらしいです」


…トコトコ

側近「いらっしゃいませー…って!」


勇者「側近!」

僧侶「側近さん!」

 
側近「お二人で食べにいらしたんですか?」

勇者「お前、ここで働いてるのか?」

側近「はい。あ…じゃあ、奥の席案内しますね。こちらです」ペコッ


トコトコ…


僧侶「そういや側近さんここで働いてたんですね、忘れてました」

側近「はは…、いつも問題ばかり起こすんですが、ここの店長は寛容でして」

僧侶「いい仕事場が見つかって良かったです」


側近「全くです。それでは、こちらのお席になります。メニューが決まりましたら、またお呼びください」ニコッ

 
勇者「…ふぅー…異質だ」

僧侶「異質?」

勇者「そのうち思い出せば、俺の気持ちもわかるよ」

僧侶「はぁ…?」


勇者「で、メニューとやらは…これか」パサッ

僧侶「へえー秋の新メニューですか」

勇者(我が世界と比べ、遥かにレベルの高い絵の技術…凄いな…まるで実物がそこにあるかのようだ)

 
僧侶「じゃあ私は、キノコとベーコンのクリームパスタにしよっかな…」

勇者「ほう。じゃあ俺は…鍋焼きうどんとかはあるのか」

僧侶「なべや…そ、それはないんじゃないですかね…」

勇者「ふむ…なら、この店はメニューを見る限り…パスタに力を入れているのか?」


僧侶「ドリア、グラタンなんかも美味しいですよ」

勇者「ドリア…?」

僧侶「知らないんですか?…グラタンの中に、ご飯を敷き詰めて…とっても美味しいです」

勇者「では、それにしよう」

 
僧侶「わかりました、じゃあそこのボタン押してください」

勇者「ボタン?」

僧侶「そこです、その白いベルのマークの」


勇者「これか」

…ポチッ………ピンポーン!!!


僧侶「…」

勇者「…」

僧侶「…」

勇者「…」

………シーン…

 
僧侶「…あれ?」

勇者「ん?」

僧侶「来ませんね…気づかなかったのかな。もう1回押してください」

勇者「何のことか分からぬが、押して反応がないなら…連打だ!!」

ポチポチポチポチポチ…ピンポンピンポンピンポンピンポン!!!!


僧侶「押しすぎ、押しすぎです!!」

勇者「む?」

タッタッタッタ…

側近「はいはーい!も、申し訳ないです!!お待たせいたしました、メニューはお決まりですか?」


勇者(…便利だ)

久々に少し多めに更新致しました。
本日はここまでです、ありがとうございました。

おっつつ

ありがとうございます、少し早めに投下致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 僧侶の部屋 】


ゴロンッ…


僧侶「ふーっ、歩いたし遊んだ…楽しかったです~」

勇者「あんな美味な食べ物まで恵んでもらって、すまなかったな」

僧侶「あはは、気にしないでください。服も何着か買えましたし、十分ですよ」


勇者「そうか。それにしても、本当に平和な世なのだな」

 
僧侶「そうですねぇ、日本は平和ですよ」

勇者(我が国も、戦いがなければ…このように皆が笑って過ごせたのだろうか)


僧侶「…どうしました?」

勇者「いや、何でもない」

僧侶「…?」


勇者(魔王の言った通り、この世界には言い知れぬ魅力がある。だが俺は…)

 
僧侶「…」

勇者「僧侶は、相変わらず何も思い出せないか?」

僧侶「ここ数年、こんな感じで…思い出すきっかけも得られなかったので…」

勇者「思い出すきっかけ…」


僧侶「医者にもお手上げで、私自身、過去を振り返らず生きていこうと決意してました」

勇者「俺の存在、もしかして迷惑…か?」

僧侶「い、いえ!助けていただきましたし、あなたの目は嘘をついてるように見えませんし」

 
勇者「そう言ってもらえると嬉しいよ。ありがとう」ニコッ

  
僧侶「いえ…これも運命。私も、きっと失った記憶を取り戻して見せます」

勇者(失った記憶…きっかけがない?俺が現れても、感覚だけで記憶は戻らない…)ブツブツ

僧侶「勇者さん?」


勇者(待てよ…、もしかしたら…)

僧侶「勇者さーん?」

勇者「ちょっと大家の部屋に行って来る!」


僧侶「あ、は…はい」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【魔王の部屋】


魔王「ふんふん♪夕方のお風呂は気持ちがいいなー♪」

…ドゴォォォンッ!!! 
 

勇者「魔王ぉぉぉっ!」

魔王「きゃああああっ!」

勇者「むっ、風呂上りだったか…す、すまん!」

魔王「…ま、またドアを壊しおって!!せっかく直したばかりなのだぞ!!」


勇者「それより、前隠せ!」

魔王「あっ、ちょっ、見るな!」バッ

 
勇者「すまぬ…、それよりちょっとまた気になった事があってな」

魔王「何だ!」

勇者「記憶のことだ。もしかしたら、戻らないのではなく、"戻れない"のではと思ったんだが」

魔王「…ほぉ?面白いことをいうな」


勇者「俺には加護の魔法が付いているということは、また会えた仲間にも加護の魔法の影響で記憶が戻ってもいいのではないか?」

魔王「なるほど…一理ある」


勇者「と、するとだ」

魔王「うむ…」ゴクリ


勇者「どういうことだ?」

魔王「考えてないのかい!」

 
勇者「うむ…」

魔王「…」

勇者「魔王は何か思い浮かばないのか?」

魔王「いや…私にもさっぱり。そもそも、思い浮かぶなら色々試しているだろう?」

勇者「そりゃそうか」


魔王「それより…ドア…」ショボン

勇者「あー…」

魔王「折角直したばっかなのに…高いんだぞこれ…」


勇者「す、すまん…ついクセで…」

 
魔王「そういや私の城に仲間と攻めてきた時もドア壊してたな…」

勇者「魔王と聞くと、ついな」

魔王「ここは戦乱の世ではない!忘れろ!」

勇者「う、うむ…努力する」


魔王「はぁーあ…今回までだからな…。次壊したら僧侶の家賃から上乗せして引くぞ」

勇者「それは困るな…以後気をつける」

魔王「そうしてくれ…それと。私のお風呂上りのティータイムを邪魔するでないわ!」


勇者「んーむ…わかった。それじゃ」

タッタッタッタ…


魔王「…はぁ」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【そして夜・僧侶の部屋】


勇者「…」

僧侶「…」


勇者「なぁ、僧侶」

僧侶「はい?」

勇者「僧侶は、記憶を取り戻したいと思っているんだろう?」

 
僧侶「そりゃ…そうですよ」

勇者「自分が何者だったのか、知りたいのだろう」

僧侶「本音を言うと、少し…怖い気もします」

勇者「怖い?」


僧侶「勇者さんの話を聞く限り、私はちょっと凄い人だったみたいですし」

勇者「凄いも何も、まお…、いや、全てを治癒する力を持つ巫女とまで呼ばれたんだぞ」

僧侶「あはは…」

勇者「…記憶を失って辛いのはお前だけじゃない。俺だって辛い」

僧侶「勇者さんが?」

 
勇者「だから、大事な仲間だといっただろう。そんな相手が記憶を失っているんだ」

僧侶「そう…ですよね」

勇者「だが、俺以上に僧侶は恐怖と戦ってきたんだろう。そう思うと、俺は泣き言を言ってられん」

僧侶「ふふ…やっぱり、やさしい人です」

勇者「…そうか?」


僧侶「はい…勇者"様"」


勇者「…!」

僧侶「え?あれ…私、勇者様って…何でしょう。変ですね」アセッ

 
勇者「いや…いいよ。呼びたいように呼んでくれ」

僧侶「…勇者様。なんか、言うと心が落ち着きます」

勇者「…あぁ」


僧侶「もしかして、私、以前は勇者さんを勇者様と…?」

勇者「だな。少しずつ、記憶が戻ってきてるのかもしれない」

僧侶「そうですか…こんな心が安らぐなら、記憶が戻ることは…怖くないです」ニコッ


勇者「そう言ってもらえると嬉しいよ」

僧侶「…はい」


 
勇者「さて、明日は仕事なんだろう。もう夜も遅い、寝ようか」

僧侶「そうですね、電気消します。おやすみなさい、勇者様」


…パチッ…


勇者「お休み…僧侶」

僧侶「はい、お休みなさい…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・

 
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 3日後・夕方 】


…コンコン…ガチャッ


魔王「勇者、入るぞ」


僧侶「あっ、大家さん。勇者様なら、今お使いに」

魔王「勇者…"様"?」

僧侶「あっ、えっと…勇者さんならお使いに…です」エヘヘ


魔王(記憶が戻り始めてるのか?聖剣と勇者の影響かもしれんな)

 
勇者「…おらああっ!」ゲシッ

魔王「あいたぁーっ!」

勇者「僧侶に何するつもりだ!」


魔王「何もせぬわ!お前に用事があって来たんだ!」

勇者「俺に?」

魔王「仕事の日取りが決まった。明日の朝3時に、この地図の場所へ行け」

勇者「新聞配達、というやつか」

魔王「その通り。私が無理やりお願いしたんだ…恥だけはかかすなよ」


勇者「わかってるよ。恩に着る」

 
魔王「…ほぉ」

勇者「何だよ」

魔王「いや、私に素直に礼を言うとはな」


勇者「…まぁ気にするなよ。とりあえずココへ行けばいいんだな」

魔王「朝3時過ぎと初日だから早いが、以降は4時に出勤だ。大丈夫だろ?」

勇者「朝方の戦いには慣れている。問題ない」キリッ


魔王「別に戦いに行くわけじゃないんだが…」


勇者「これで僧侶にも多少、楽させてやれるな」

僧侶「そんな…気を使わずとも」

 
魔王「僧侶、そういう精神ではこんな男スグにダメになる。もっと、慈悲深き愛を持って接するんだ」

僧侶「慈悲深き愛…。む、難しいですね」

魔王「ま、甘やかすなよってことさ」ハハハ


勇者「うっせ!いいから自分の部屋でティータイムでもしてろ!」

魔王「おお怖い…、私は寝るとするよ」

勇者「寝すぎだろ…」


魔王「疲れてるんだよ。それじゃあな」フリフリ

トコトコトコ…

 
勇者「うーむ…」

僧侶「どうしました?」

勇者「ちょっとついでに、戦士たちの部屋に行ってくる」


僧侶「戦士さんの部屋に?」

勇者「ちょっと用事があってな」

僧侶「いってらっしゃいませー」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


…コンコン


戦士「はいはい、どなた」ガチャッ

勇者「こんにちわ」


戦士「勇者…って言ったっけ。何か用か?」

勇者「魔王に聞いたんだが、アンタも記憶がないんだって?」

戦士「あぁ、まぁ…」

 
勇者(生活に慣れる事で精一杯だったが、他の面子の心配もしなければな)

戦士「記憶がないのがどうかしたか?」


勇者「アンタも、記憶を失ってた時に装備していたものを持っているのか?」

戦士「…なんで知ってる」

勇者「気にするな、見せてくれないか?」

戦士「何でお前に…」


勇者「失礼するぞ」スッ

戦士「あ、おい勝手に!」

 
ドタドタ…

戦士「ったく…マナーのない奴だな」

勇者「…どれだ?」

戦士「見せるから、見せたら帰れよ。今出してやる」

ゴソゴソ…ガランッ!!


勇者(戦士の装備していた鎧と盾…。はて、剣は?)

戦士「これでいいか?」


勇者「お前、剣はどうした?銀の剣を持っていただろう」

 
戦士「警察に取られた。つか、何で知ってるんだよ色々と」

勇者「…」

戦士「…別に俺もあんな危ないモン持ってたくないしよ。で、他に用事ないんだろ?」

勇者「う、うむ…」


戦士「じゃあ帰れ。あんま男を長居させるのは趣味じゃないんだ」シッシ

勇者「そうか…わかった」

戦士「僧侶ちゃんによろしくとでも言っといてくれ。じゃ」

…バタンッ

 
勇者「次は…魔法使いか。いるかねえ」

トコトコ……コンコン


魔法使い「はいー!…あ、勇者さんでしたっけ?」ガチャッ

勇者「うむ。ちょっと聞きたいことがあってな」

魔法使い「はい?」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


勇者(…やはり皆、装備は持っていた。間違いなく仲間たちだ)

僧侶「…勇者様、どうしたのですか?」


勇者「いや、何というかな…」

僧侶「記憶に関することですか…?」

勇者「まぁ…」


僧侶「他の方も、記憶を失っているんですよね。記憶喪失アパートですし…」

勇者「もし、他の人が君に関係ある人物だったとしたら…どうする?」

 
僧侶「えっ?」

勇者「…少なくとも、俺は他に住んでいる人間たちの素性は知っている」

僧侶「ほ、本当ですか!?」

勇者「…あぁ」


僧侶「じゃ、じゃあ教えてあげないと!」ガタッ

勇者「落ち着け」バッ

僧侶「で…でも」

勇者「信じるわけがないだろう…、今は少なくとも言うべきじゃない」

僧侶「そうですか…」

 
勇者「ま、今日は早めに寝ておくかな」

僧侶「そうでしたね…初出勤、がんばってください!」グッ

勇者「新聞配達…何をすればいいのだろうか」


僧侶「新聞を配達です。指定された住所に、新聞を入れるだけですよ」

勇者「何だと…それだけでいいのか」

僧侶「朝早いですし、体力使いますし、それが意外と大変なんですよね」


勇者「体力に自身はあるし、時間が早いのも問題ないしな」

 
僧侶「ある意味…天職?」

勇者「俺の天職は魔王をとうば…いや、悪者を討伐する一介の兵(つわもの)さ」

僧侶「悪者退治…私も助けてくれましたよね」


勇者「当然だ。全く、今思い出しても腹が立つ。この国の青年はどうなっているのか」

僧侶「まるでヒーローみたいでした…えへへ」

勇者「はは…さて、寝るよ」


僧侶「はい、おやすみなさい」

 
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・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・

 
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――――【次の日・新聞配営業所】


ガサガサッ!…チリンチリン…!!


バイト「おはようござあーっす!」

勇者「ふむ…ここが新聞配達をしているところか」


営業所長「…おー!君が魔王さんの言ってた、勇者クンかい?」

勇者「あ、どうも。えーと…」

営業所長「所長とでも呼んでくれ。大変だったねぇ、異国から女の子と再会する為にやってきたんだろう?」


勇者「へっ?え、ま、まぁ…」

 
営業所長「俺でよけりゃ、力になるからね。ただ、雑草は食べないでね?」

勇者「はいっ?」

営業所長「雑草、好きなんでしょ?」

勇者「え、ざ、雑草?」

営業所長「魔王さんが、勇者クンはその辺の野草と突然食べ始める病気を持ってるとか…」


勇者「あー、は、はぁ…気をつけます」

営業所長「それならいいんだよ」ニコッ

勇者(後でまたドアぶっ壊す)

 
営業所長「業務に関してはわかってる?」

勇者「新聞を配達する担当ですよね」

営業所長「2区から、3区までやってもらうよ。相当数があるけど、体力があるから大丈夫って聞いてたんだけど」

勇者「まぁ大丈夫です」


営業所長「それじゃ、既に自転車に住所と新聞積んであるからヨロシクね」

勇者「じ、自転車…?」

 
バイト「自転車知らないんですか?」

営業所長「いやさすがに外国人さんでも、自転車は乗れるでしょう」

バイト「ですよねー!」アハハ


勇者(不味い、自転車なんぞ聞いたことないぞ)ダラダラ


営業所長「じゃ、早速だけど頼むよ」

勇者「お、お任せ下さい!」

 
…スッ

勇者(不味い、乗り方はこれでいいのか。どうすればいいのだ!)

営業所長「…」ジッ

勇者(所長が見ている…、ええい…勢いだ!)


グッ…ググッ…フラフラ……ガシャーンッ!!!


営業所長「!」

バイト「!」

 
勇者「ぐぬ…不覚…っ!」

営業所長「大丈夫かい!?自転車…乗れないのか!?」

バイト「うっそーん…」


勇者「すまぬ…実は、見たこともなかったもので」

営業所長「参ったな…、今日は配達お願いしてる人も少ないし…」


勇者「それを、時間内に届ければいいのでしょう?」

営業所長「まぁそうだが…意外と距離もあるし、新聞も重いよ?」

バイト「そうですよ、自転車乗れないなら代わりに僕でも…」

 
勇者「届けるだけなら心配ご無用。よいしょっと」ヒョイッ

バイト「も、持ち上げた!?結構重いのに…」


勇者「…風速魔法」ボソッ


営業所長「だ、大丈夫かい?」

勇者「それでは、住所まで届けてまいります」

営業所長「あ…あぁ」


ダッ…、ダダダダダダダダダッ!!!!!!

ビュウウウッ…

 
営業所長「あし…早っ!!!」

バイト「え、えぇぇ…足はやいってレベルじゃないですよ!どう見ても、一瞬で…」

営業所長「さすがは魔王さんの紹介だ。素晴らしい人を連れてきてくれたな」ウンウン

バイト「えぇぇ~…」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…ビュウウウウウッ!!

タタタタタタタッ…


勇者「山田さんっ!佐藤さんっ!大木さんっ!田中さんっ!」

…ポイポイポイッ

勇者「大野さんっ!秋野さんっ!小川さんっ!日野さんっ!」

ポイポイポイポイッ…


ズザザザ…ビュウウウッ…


勇者「ふぅ、これで全部かな。…戻るか」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


バイト「それじゃ、自分の準備が終わったので、配達してきます」ペコッ

営業所長「おーう、気をつけてね」


…ダダダダッ…ガラッ!!!


営業所長「あれ、勇者くん?」

バイト「え…まさか…」

勇者「終わりました」

バイト「えええぇ~…」

 
営業所長「は、はやっ…ここから2区まで行くのに自転車でも10分はかかるよ…」

勇者「そうなんですか?意外と近かったですよ」アハハ

営業所長「あ…はは…」


勇者「これで終わりですか?」

営業所長「本当は往復で1時間とかかかるんだけど…」

勇者「思った以上に楽ですよ。余ったのも配達しましょうか?」フンフン

営業所長「いやいや…他の人も沢山いるからさ…」

勇者「そうですか、ではこれで今日は終了で?」

 
営業所長「うん、ありがとう。ちょっと色々予想外だったけど、頼もしい味方が増えたよ」

勇者「ありがとうございます。それでは」ビシッ

ダダダダダッ…


営業所長「…あ、そうだ。明日も忘れず来てねー…って、もういないな…最近の若い子は凄いんだなぁ…」

バイト「あの人が規格外すぎるだけですって…」


営業所長「あ、日雇い分のお金渡すの忘れてた」

本日はここまでです、ありがとうございました。

皆様ありがとうございます、投下致します。

 
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勇者「という訳で、最高の出だしだった。いい仕事を紹介してくれて感謝するぞ」

魔王「それは良かった。だが、朝方に寝ている所にドアをぶっ壊して住宅侵入は良くないな」

勇者「…お前、人のこと雑草食べるとか言っただろ」


魔王「はて、何のことやら」

勇者「ドア、まだまだ壊してやるからな」ニコッ

魔王「申し訳ありませんでした」

  
勇者「…」グゥゥ

魔王「…」

勇者「朝から動いたら腹が減ったな」

魔王「…ずうずうしいにも程があるな。お前が本当に勇者なのか怪しくなる」


勇者「朝から動いたら腹も減るだろうが!」


魔王「僧侶に何か作ってもらえばよかろう」

勇者「女性を朝に叩き起こして作ってもらうのはさすがにな…」

魔王「お前、自分が何を言ってるのか分かってるのか」


勇者「まぁまぁ。何かないか?」

魔王「…はぁ~、仕方ない。ハムエッグとトーストくらいしかないぞ」ヨイショ

 
勇者「十分だ」

魔王「待ってろ全く…エプロンはどこだっけな」パタパタ


勇者「しかし、俺らの部屋より少し広いんじゃないか?」

魔王「そりゃそうだ。私がアパート経営するまで、相当な苦労もあったんだぞ」

勇者「へぇー…」

魔王「それは、6年前に遡り…」


勇者「あ、興味ないから大丈夫。魔王が俺より良い部屋ってのが気に食わないだけだ」

魔王「…」

 
勇者「まぁ苦労は察するよ。こんな世界で、こんな立派な建物を構えられたんだからな」

魔王「はぁー…」

勇者「…お前に聞きたい事があるんだが」

魔王「何だ?」


勇者「もし、戻れる手段が確立されたら、戻るのか?」

魔王「愚問だな。私は全ての魔物を率いる王だぞ?」

勇者「それを言うなら、俺も全ての人間たちの希望だった」


魔王「それが、朝から一緒の部屋で朝飯とは…笑えてくる」ククク

勇者「…はは」

 
魔王「出来たぞ。簡単なものだからな…こっちの椅子に座って食べろ」

勇者「変な物入れてないだろうな?」

魔王「疑うなら食べるなー!もういい!」


勇者「い、いや心配しすぎた。すまん、いただく」

魔王「それでいい。飲み物は牛乳でもいいか?」

勇者「あ、あぁ…」


魔王「…」ゴソゴソ

カチャカチャ…トプトプ…コトン

魔王「はいどーぞ。もう残りわずかだな…今日の特売で買ってこないと」

 
勇者「…」モグモグ

魔王「全く、ドアを何度も壊しおって…修理費用が…、維持費用もあるのに…うぅぅ」

勇者「…」グビグビ

魔王「電気代の支払い幾らかなぁ…、お風呂もよく入るから、今月は飛びそうだ…」


勇者「…魔王」ジー

魔王「何…」

勇者「お前…」

 
魔王「?」

勇者「よく見たら…可愛いんじゃないか…?」

魔王「えっ」

勇者「最初は悪の大魔王と思っていたが、よく見たら女性らしくて…」

魔王「急に何を言っているのだ。頭でも打ったか?」


勇者「魔王…」ガタッ

魔王「おい、何で席から立つ。おい、こっち歩いてくるな、おい…おい!」

トコトコ…

 
勇者「魔王…」グイッ

魔王「ちょっ…」

勇者「魔王、こっち見ろよ…」

魔王「どどど、どうしたんだ!離せバカ…!」

勇者「この間、俺の事好きかもって言っただろ…?いいじゃないか…」


魔王「一体何が…」ハッ

勇者「…」

魔王(料理に添えたの、魔界樹のハーブだったー…!!酔っ払ってるなこいつ!)

 
勇者「…魔王」ググッ

魔王「お、おい本当にやめ…、あ…」ブルッ


…ドサッ

勇者「」


魔王「…へ?」

勇者「」

魔王「あー…やっぱり人間には強すぎたか…気絶してくれた…」ホッ

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
勇者「…」パチッ

魔王「…おはよう」


勇者「あれ?俺…飯食ってて…まさか、睡眠剤を!?」ガバッ

魔王「いや…すまん、普通のハーブを添えたつもりが魔界樹のハーブを添えていた」

勇者「あーだから何か変な感じがしたのか…つか、魔界樹?」

魔王「私がこっちに飛ばされた時、育てていたのが一緒に着いてきたんだよ」

勇者「なるほど」

 
魔王「…危なく、お前に襲われるところだった」

勇者「あん?」

魔王「いや…気にするな。私も忘れる…」グヌヌ


勇者「今何時だ?」

魔王「もう9時になる。戻ったほうが良かろう」

勇者「そうだな…」ノビノビ

 
魔王「…私は寝る」フワァ

勇者「もっと健康的な生活しろよ」

魔王「…心がけるよ」


勇者「んじゃ、また来る」

魔王「また来るのか」


勇者「…クセだよ!」

タッタッタッタ…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ガチャッ…ドンッ!!

僧侶「きゃっ!」


勇者「おおっ、すまん。今から出かけるのか?」

僧侶「今日から午前出勤ですから。一応ご飯は作っておきました」

勇者「うむ、すまない」

僧侶「それじゃ行ってきます。あ、あと…今日からだったんですよね?新聞配達」

勇者「うむ」 
 
僧侶「どうでしたか?」

 
勇者「さて、俺はどうするか…」

チチチ…

勇者「…眠くもないし、暇だなー。外に出るにもなぁ…」


………ニタッ

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


魔王「う~ん…もうそんなに食べれない…」ゴロゴロ

勇者「何が食べれないんだ?」

魔王「…豚マン……」ジュルリ


…ハッ!!


魔王「ゆゆ、勇者!?」ガバッ

勇者「鍵もかけずに寝ているとは、無用心だな」

魔王「お前が朝に壊したばかりだから、直してないんだよ!」

 
勇者「…そうか」

魔王「というか、戻ってくるの早いだろ!出てって…、まだ10分もたってないじゃないか!」

勇者「お前、寝るのはやいんだな」

魔王「…」


勇者「それより、出かけようぜ。平日だし、どうせお前以外誰もいないし」

魔王「はぁ?私が、お前と?」

勇者「どうせ暇なんだろ。町のことも詳しく知りたいし、いいじゃねえか」

魔王「お前な…、自分で勇者と魔王の立場でとか言ってただろう…」


勇者「んー…まあいいかなと。ほら、行くぞ」グイッ

 
魔王「…寝てたい」

勇者「お前いつも寝すぎだろ!」

魔王「疲れてるんだよ!」

勇者「ほら、いいからいいから」グイッグイッ


魔王「わかったよ!わかったから、引っ張らないでって!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


…ガヤガヤ…


魔王「はー…まぁついでにドアの修理も頼めたからヨシとしよう」

勇者「結果オーライ」グッ

魔王「全く、なんで私が勇者なんかと…」ブツブツ

勇者「んー?何か言ったか?」ヒョイッ


魔王「!!」

…ゲシッ

  
勇者「い、いてぇ!何で蹴飛ばすんだよ!」

魔王「か、顔を近づけるな!」

勇者「何だよ全く…」


魔王(朝の事があるから、余計に恥ずかしいんだよ!)


勇者「~♪」

魔王「はぁー…お前な、私にそんなに話かけて…楽しいか?」

勇者「え…えー?俺は楽しい…のか?」

魔王「知らんよ」

 
勇者「なんていうか、あっちの世界を知っている人がいるという事が安心するのかもしれん」

魔王「なるほどな。その気持ちはよく分かる」

勇者「確かにあっちでは敵同士だが、この世界では争いがないんだろう?」

魔王「そうだな」

勇者「それで理由は充分かなと思えた」


魔王「だったら、もっとデリカシー、マナーを守れ。仮にも私は女性だぞ…」

勇者「うーむ、そこは慣れないんだよな」

魔王「…」

勇者「魔王は魔王だから、女性として扱うよりも…素のままで当たった方がいいと思えてな」ハハハ

 
魔王「私を無下に扱うな…」

勇者「まぁまぁ」

魔王「これでもこっちの暮らしで、女性らしさというものを磨いたんだぞ?」フンッ

勇者「よく言う。それが常時寝ているやつのいうことか」

魔王「うっさい!」


…サァァッ…

勇者「おっ、風が…」

 
…ビュウウウッ!!!

子供「あーっ!」


勇者「なんだ?」

魔王「ん?」


子供「僕の風船がぁ~…」

…フワフワ…


勇者「風船…?アレが飛ばされたのか」

魔王「…はぁっ!」バッ

 
ガシッ!!!…クルクル…スタッ

魔王「ふっ…」

勇者「…おま」


魔王「もう離すんじゃないぞ」スッ

子供「わぁーいっ、ありがとう!」

魔王「うむ、きちんとお礼が言えるのはいいことだ」ナデナデ

子供「えへへ…ばいばい!」

魔王「うむ、またな」フリフリ

 
勇者「お前、あの子の風船をとってあげたのか?」

魔王「うん?そうだが…見てて分かるだろうが」

勇者「…」

魔王「どうした?」


勇者「相手は、人間だぞ?」

魔王「分かってるよ」

勇者「信じられない光景だよ。お前、いつもあんな事してんのか?」

魔王「いつも風船が飛ばされてるわけではないが、困った人がいればな」

勇者「…へぇ」

 
魔王「本当に最初は、我が力を使い、この異世界すらも混沌に…!と思ったが」

勇者「が…?」

魔王「魔法は使えぬ、この世界は思った以上に笑顔が絶えなかった。私の考えは無駄だったわけだ」

勇者「元々、立場は違えど…誰かしらの笑顔の為に戦ってたんだからな」

魔王「その通り。だから、多少残っている力は…あのような事だけに使っている」


勇者「…そうか」

魔王「だが、私はあの世界の統一する為に…戦い続けるがな!フハハハ!」


勇者「何…そうはさせぬぞ!」バッ

魔王「フハハ!勇者よ、悔しくば…私を倒してみるがいい!」バッ

 
勇者「ついに本性を現したな…魔王!」

魔王「ククク…騙されていたな!?いざ尋常に…勝負!」


…ピー…ヨロロロ…

ガヤガヤ……ザワザワ……


幼稚園児「ママー、あれなぁに?」

人妻「だめ、見ちゃいけません!」


勇者「…」

魔王「…」

 
勇者「…戻るか」

魔王「…そうだな」


トボトボ…


勇者「…平和だな」

魔王「あぁ、平和だ」

勇者「どうするかなぁ…、どうやったら元の世界に戻れるんだろうなぁ」

魔王「魔力がない限り、私にもどうしようもない」

 
勇者「…」


魔王「あっ…」フラッ

勇者「え?」

魔王「眠くなってきた…」フラフラ


勇者「…おい」

魔王「あ、だめだ…家まで運んでくれ…」ドサッ

勇者「はぁー!?」


魔王「…」スヤスヤ

 
勇者「おい、面倒だぞ!抱きかかえろってか!」

魔王「…」スゥスゥ

勇者「…ったく、仕方ねぇな」グイッ…

…フワッ…


勇者「…ん」

魔王「…」スヤスヤ

勇者「…お前…まさか」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【魔王の部屋】


魔王「…」ハッ

勇者「…」スヤスヤ


魔王「…おい」

勇者「んあ」

魔王「何でお前も隣で寝ている」

勇者「あーいや、運んだらついウトウトと。ドアは直していったみたいだな」フワァ

 
魔王「全く…」

勇者「ああ、そういや…お前さ」

魔王「うん?」


勇者「魔力の枯渇で、体力が限界なんじゃないか?」

魔王「…そんな訳ないだろう」

勇者「あきらか魔力枯渇の症状だ。考えて見れば、よく寝る事といい…お前…」

魔王「…ふふん、心配してるのか?」

勇者「だ、誰が魔王の心配など!」

 
魔王「…ふふ」

勇者「本当に大丈夫なのか?」

魔王「大丈夫だ。私は魔王だ、無限大の魔力を秘めた魔界の王だぞ?」

勇者「それならいいんだが…」


魔王「さて、私はお風呂に入ることにするよ。もう夕方じゃないか」

勇者「そうか。じゃあ僧侶も帰ってきそうだし、俺は部屋に戻ってるかな」

魔王「うむご苦労」

勇者「おう」

 
…ガチャガチャッ…バタンッ


魔王「ふーっ…」ヨイショ

…フラフラッ

魔王「おっとっと…、とと…」ドサッ


魔王「…はぁ、参ったね。そろそろ限界かな」

 
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
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・・・・・・
・・・・
・・・
・・

本日はここまでです、ありがとうございました。

乙です。
>>194のあとって抜けてる?
僧侶の質問のあたり

皆様ありがとうございます、投下致します。

>>220
抜けてますね…足りない分貼り付けて安価示唆しておこう…。
ご指摘感謝します。

>>194 >>195の間】足りない分貼り付けておきます。
 
勇者「まぁ楽なものだった」

僧侶「それは良かったです。応援してますから、お互い頑張りましょうねっ!」グッ

勇者「あぁ、そうだな」

僧侶「それじゃ、行ってきます!」


勇者「うむ、気をつけてな」


…タッタッタッタッタ…

 
>>194 >>222 >>195 ~ と続きます。

 
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――――【 1週間後・朝 】


バタンッ…

僧侶「お帰りなさいっ!」

勇者「うおっ、起きてたのか」

僧侶「えへへ、たまには朝ごはんくらい作りますよ」


勇者「そうか…だけど、僧侶もしっかり寝ないとダメじゃないか?」

僧侶「それよりも、早朝から頑張ってる勇者様に朝ごはんを作るのが大事です!」ムフー

勇者「はは、それじゃ有り難く作ってもらおうかな」

 
僧侶「はいっ、お待ちください!」

勇者「…ついでに所長にもらって来た新聞でも…」パサッ


…ペラッ

勇者「…殺人事件は絶えないな」

僧侶「そうですね…、もっともっと平和であればいいんですが」

勇者「…だな。暴力でしか解決できないなんて情けないな…って」ハッ

僧侶「…ですねえ」

勇者(…俺も、か)

 
僧侶「準備だけはしときましたから、朝はご飯と納豆、味噌汁と佃煮、小松菜の海苔添えです」

勇者「おーっ、美味そう!」

僧侶「朝ご飯を食べない人が多いですけど、食べたほうがいいんですよー」

勇者「全くだな。いただきます!」

僧侶「私も、いただきます」


…カチャカチャ…モグモグ…

勇者「うん、いい味付けだ。小松菜が美味い」ポリポリ

僧侶「あ、納豆にネギ入れるの忘れてた…いいですか?」

勇者「あったほうが好きなんだが、ないのはないでいいと思うぞ」モグモグ

僧侶「そうですか…そう言っていただけるとありがたいです♪」

 
勇者「味噌汁は…昨日のじゃないな。わざわざ作ったのか」ズズズッ

僧侶「ちゃんと残さず飲んでくれましたから。お代わりしますか?」

勇者「うーむ、美味い。お代わりしておこう」


僧侶「夜ご飯は何がいいですか?」

勇者「肉じゃがとかいいか?薄口醤油で、やや甘く仕上げて、ホクホクしたジャガイモを食べたいな」

僧侶「いいですよ!ナスも余ってたので、焼きナスか、茄子味噌炒めにして食べましょう」


勇者「いいねぇ~」

僧侶「一品も作って、ビールとかいかがです?」

 
勇者「うんうん、僧侶の一品は美味いんだよなぁ」

僧侶「えへへ…」

勇者「んー…いい朝だ」ノビノビ


僧侶「日も上がってきましたし、ご飯食べたら掃除しちゃおうっと」

勇者「手伝うよ」


僧侶「え、いえいえ。私だけでも」

勇者「それくらいはさせてくれ。風呂掃除もしておこう」

僧侶「じゃあ…お願いしちゃいます!」

勇者「うむ」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【午前8時20分】


僧侶「それじゃ、会社にいってきますね」

勇者「あぁ気をつけて」

僧侶「いってきまぁーっす!」

タッタッタッタ…


勇者「そういや全然音沙汰ないな…久々に魔王の部屋に行ってみるか」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…ガァンッ!!!

勇者「ぬぐおっ!!!」

ジンジン…

勇者「魔王め…ドアの素材を変えやが…指が…っ!」


…ガチャ

勇者「くそっ…普通に開けるしかないか、魔王~」

 
シーン…


勇者「あれ?おーい、魔王~!!」

シーン…

勇者「…ドア開いてるっつーことはいるはずだよな…ってことは!」ダッ


魔王「…」ハァハァ

勇者「魔王っ!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


勇者「…すげぇ熱だ」

魔王「…」ハァハァ

勇者「体が魔力を欲しているのか…お前、やっぱり無理してたんだな」

魔王「何を…、我こそ魔王…、魔力の枯渇など有りえぬ…」


勇者「あーもう、分かってるよ。いいから休め」

魔王「…ごほごほっ、そこの机の上に生っている実をくれ…」

勇者「これか?…ほれ」ポイッ

 
魔王「…」パクッ…ゴクンッ

勇者「…」

魔王「…ぷはぁ!はぁ…はぁー…」


勇者「魔界樹の実か」

魔王「…うむ。前も言ったが、一緒についてきたやつだ…」

勇者「なるほど。これを食べて何とかしてたってわけか」


魔王「ほんの僅かながら、魔力がある。本当に微々たるものだが…な」

勇者「…ったく、あんま無理すんなよ?」

魔王「お前が私の心配するとはな」

勇者「べ、別に!お前が倒れたら、他の仲間が困るからだ!」

 
魔王「はは…」

勇者「この魔界樹がなくなったらどうする気だ?」

魔王「最近…魔界樹の魔力のもちが悪くなってきた」

勇者「それじゃ…」


魔王「少なからず…近々枯れるだろう。魔力を維持できなくなったら…私は死ぬだろうな」

勇者「…」

魔王「どうしようもないことだ。…異世界で朽ちる事になりそうだな」ゴホゴホ

 
勇者「許さんぞ」

魔王「…?」

勇者「勝手に死ぬんじゃない!お前がいなくなったら、俺らはどうする!」

魔王「何を今更」

勇者「それに、お前のことを待っている奴らが向こうにはいるんだろう!」

魔王「…」


勇者「お前は半分は人間だ。魔力を失おうとも、生きることが出来るはずだろう…しっかりと気を保て!」

魔王「…お前に励まされる事になるとは思わなかったよ」

勇者「俺だって励ますとは思わなかったよ」

  
魔王「ふ…」

勇者「ふふ…」


魔王「はははははっ!」

勇者「はっはっは!」


魔王「…ははは……、ごほっ…ごほごほ…」

勇者「…大丈夫か」

魔王「なぁにこれくらい、慣れている…」

勇者「お前は休んでろ、掃除くらいしてやるよ」

 
魔王「…」

勇者「掃除機掃除機…」ゴソゴソ


魔王「生活には、慣れたか?」

勇者「ぼちぼちな。まだ失敗することもあるが」

魔王「さすがだな」


勇者「周りも気さくでいい奴が多いしなぁ…、たまに魔法を使っちまうが」ハハ

…カチッ…ブォォォォォ…


魔王「そうか。それならいいんだ」

 
勇者「…慣れてきて、少し怖いことがある」

魔王「既にそれぞれの生活がある。…戻ることを諦めているのかもしれない、か?」
 
勇者「…お前、俺が恐れている事をサラっと口にしやがって」

魔王「だから記憶も戻らないのかもしれん。お前に気が合った僧侶は少しずつ戻ってるみたいだがな」ククク

勇者「あぁ…アイツはな…」


魔王「…はぁ」

勇者「お前の魔力、何とかならないのか?異世界とはいえ、少なからず魔力が宿りそうなものはあると思うのだが」

魔王「こっち側では魔力は眉唾モノだよ」

勇者「うーむ」

 
魔王「ごほごほ…、この実がなくなったら、私もそこまでだ」

勇者「…聖剣を使って、何とか元に戻れないか?」

魔王「私に聖剣を?はは、溶けてしまうよ」

勇者「上手く使えれば…」

魔王「無茶いうな。私だって…生きたいとは思う。だけどな…」
 
 
勇者「まぁ待てよ。時空の魔法はどういうものなんだ?俺には絶対に使えないか?」

魔王「相当数の魔力、技術がいる。お前は魔法が苦手だろうが」

勇者「…使えるとしたら、1人だけ心当たりはある」


魔王「…魔法使いか」

 
勇者「だが、魔力がないこちらの世界では」

魔王「…そこで聖剣の出番じゃないのか?」

勇者「あっ、そうか」

魔王「お前、時々バカだよな。バカ勇者だ。アホか」

勇者「うっせ!」 


魔王「だがいきなり"お前は異世界の住民で、その異世界を旅してました"とか…信じるわけがないだろう」

勇者「…確かに」

魔王「だが…言ってみる価値は…」


勇者「ある。呼んでくる」ダッ

ガチャガチャッ…バタンッ

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


勇者「…という訳なんだ…が」

魔法使い「…」


勇者「やっぱり無理か?」ボソボソ

魔王「見ろ、私たちを頭のおかしい人と思ってる眼だぞ!」ボソボソ

勇者「お前はいいが、俺がそう思われるのは嫌だな」

魔王「何っ!」


魔法使い「…り、ですか」

勇者「え?」

 
魔法使い「やっぱりですか…僕、そんな気がしてたんです…」

勇者「へっ?」

魔王「えっ?」


魔法使い「夢でも、異世界で空を飛んだりする夢を見て…そうじゃないかって気がしてたんです」キリッ


魔王「おい、魔法使いは空を飛べるのか?」ボソボソ

勇者「いや…飛べないはず」

魔王「じゃあただの狂言か」

勇者「お前ひどいな」

魔王「私は魔王だぞ…」ククク

勇者「うっせ」

  
魔法使い「…で、どうすればいいんですか?」

勇者「あー、えーと…魔法の使い方は全部忘れてるんだよな」

魔法使い「ですねぇ、記憶がないですし」

勇者「ではまずは形から。記憶を失ってた時に持ってた服と、杖を装備してみるんだ」

魔法使い「は、はいっ!」


ゴソゴソ…


勇者「ば、バカ!今ここで着替えるな!」

魔法使い「え、えぇ…あ、そっか…、勇者さんは男性でしたね」

勇者「お前は頭がいいくせに、どっか抜けてるんだからよ…」

 
魔法使い「…まぁ気にしません。着替えます」ゴソゴソ

勇者「おい!」

魔法使い「かっこいい人好きなので」キラキラ

勇者「…」


魔王「お前も大変だな」

勇者「同情してくれよ」

魔王「同情するよ」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


魔法使い「なんか恥ずかしいな…コスプレみたいだ」

魔王「懐かしい衣装だ」

勇者「うむ、やはりこうでなくては。さて、聖剣を持ってみろ」スッ


魔法使い「わっ!重い!」

勇者「む…女性には少し重いかもしれん」

魔法使い「でもこれが、勇者さんから僕に感じる愛の重さだと思えば…頑張れるっ」


勇者(うぜぇ)

魔王(うぜぇ)

 
魔法使い「で、どうすればいいんだろ」ブルブル


勇者「俺が軽く魔力を入れる。感覚を思い出せ」

魔法使い「うん」

勇者「…」ボソボソ


ピカッ!!!

魔法使い「うわっ!光った!?」ポイッ

勇者「あ、バカ!聖剣を投げるな!」


クルクル…ポスッ

魔王「ん」

 
勇者「あっ」

魔王「あばばばばば!」ビリビリ


勇者「あー…」

魔王「」プスプス


魔法使い「おー…魔法っぽい!」

魔王「…ば、ばかもの!!!死ぬかと思ったわ!!!」

魔法使い「ひえぇ、ごめんなさい!」


勇者「ごほんっ…仕切りなおしだ」

 
魔法使い「あはは…よいしょ」スチャッ

勇者「では改めて…。今度は投げるなよ?……」


ボソボソ…ピカッ!!!


魔法使い「眩しい…」

勇者「…」ボソボソ

魔法使い「…っ!」

魔王「…」

 
ギュウゥゥンッ…
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

魔法使い「勇者ぁ、今日はどこに行くの?」

勇者「さぁなー、新しい仲間を探すのも悪くないだろう」

僧侶「勇者様、あそこに魔物が!」

勇者「よし、任せろ!」チャキッ


魔法使い「ふふ、僕に任せてよ!大火炎魔法っ!」ボワッ

…ドゴォォンッ…

勇者「おぉ…さすがだな…」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…ウゥゥゥン

 
魔法使い「…」ハッ

勇者「どうだ?何か思い出せそうか?」

魔法使い「…勇者?」

勇者「うん?」

魔法使い「勇者…勇者?勇者!!!」

勇者「なんだよ!!」


魔王「お前、まさか」

勇者「何だ?」


魔法使い「…思い出したんだよ!!僕たち、魔王に飛ばされたんだよ…ね?」

勇者「!!」

 
魔法使い「うん…思い出したよ。僕たち、旅をしてたんだよね」

勇者「本当か…記憶が戻ったのか…!?」

魔王「聖剣の加護と、勇者の魔力のおかげか…もしかして、これなら…全員の記憶が戻るんじゃないか?」

勇者「そうかもしれん…仕事場からでも無理やり、全員連れてくる!」ダッ


魔王「…全員の記憶が戻ったら、私、殺されそうだな」アハハ…

本日はここまでです、ありがとうございました。

後、書き込み忘れですが…
予定では、明日の投稿で最終回となります(元々短編予定だったので)

皆様ありがとうございます、投下開始致します。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…ピカッ!!!


僧侶「…勇者様ぁ!」

戦士「勇者…」

魔法使い「みんな、記憶が戻ったんだね」

勇者「…よかった」


魔王「私にとっては良くない気もするが…」

 
僧侶「思い出しました…。勇者様、私にウソをついてましたね」ニコッ

勇者「ちょっ、それは…必要なウソで…」

僧侶「純情な乙女の心を弄ぶなんて、許せませんー!!」ウガー!!


戦士「まぁまぁ…それよりお前な、聖剣の加護とかあるんだったら…真っ先にこの方法思いつけよ」

勇者「俺だって必死だったんだよ」

戦士「ったく…」

魔法使い「あはは、でも…皆でまたこうやって並べたことが僕は嬉しいよ」


魔王「…」


勇者「魔王のおかげでもあるな。ありがとうよ」

 
魔王「別に、私は…」


戦士「あれほど憎かった魔王が、今じゃ命の恩人だしな」

魔法使い「そうだねぇ、で…魔王の命がやばいんだっけ?」

僧侶「ですねぇ、どうやったら治るでしょう」

勇者「聖剣を上手く使えば、魔力注入もできそうだが」


魔王「…おい、お前ら」

 
勇者「ん?」

魔王「今のお前たちなら、私も倒せるだろうが。無視しててもいずれは朽ちるぞ?」

勇者「そんな事したら…なぁ…」

戦士「今更放っておけるかよ」

僧侶「そうですよ。あっちはあっち、こっちはこっちです」


魔王「…いいのか?」

僧侶「気にしないでください。少なくとも、私たちを救ってくれたのは、貴方なんですから」

 
勇者「魔法使い、お前、闇魔法も使えたよな」

魔法使い「少しだけね」

勇者「俺が聖剣を中継にして、魔力を送る。それをお前が変換して、魔王に渡そう」

魔法使い「へぇ、魔術に疎い勇者にしては面白い考えだね」


魔王「…私に力が戻ったら、暴れるかもしれんぞ?」ククク

勇者「うっせ」ゴツッ

魔王「いたいっ!」

勇者「さ、始めるぞ…」

 
…パァァッ

魔法使い「おぉ…この感覚久しぶり。いつもパソコンばっかいじってたから」バチバチ

勇者「頼むぞ」

魔法使い「はいはーい。変換…」ボソッ

グオオォン…バチバチバチ…


魔法使い「魔王に飛んでけ~っ!」バチバチ!!


魔王「お、おぉぉ!」ギュンギュン

魔法使い「どう?」

魔王「ち、力が戻っていく…!」

魔法使い「よしっ!」

 
魔王「聖剣で増幅された魔力か…なんとも複雑だが」グググッ

勇者「文句いうな。俺がこっちの世界に来なかったら、お前は死んでたんだぞ」

魔王「ま、そうだな」


…バチバチバチッ…


魔法使い「ほい、終わり」

魔王「おぉぉ、この力、久しぶりだ…!!」

戦士「で、どうする」

魔王「今なら…今なら!時空魔法も扱う事ができる…と、思う!」

勇者「思うだけかい」

 
魔王「やってみる価値はあるぞ?」

勇者「…本当に、戻れるのか?」

魔王「…あぁ、確証はないが、おそらくな」


僧侶「で、でも待ってください。もし戻れたら、どうなるんですか?」

魔王「異世界の出来事だ。元々なかったことにされて、こっち側の世界に影響はない」

僧侶「そうですか…じゃなくて、魔王さんのことですよ」

魔王「え?私?」

 
僧侶「向こう側に戻ったら、また記憶を失って…折角仲良くなれたのに、また戦う事になりませんよね?」

魔王「…」

魔法使い「そうだねぇ、僕も少しそれは心が痛いかな」

戦士「あんま良くはねえな。本当の殺し合いになるだろうよ」


魔王「…じゃあ、戻りたくないのか?」

僧侶「そ、それは…」

魔法使い「戻りたくないって言ったら、嘘になるかなぁ。でも、こっち側の世界も好きだよ」

戦士「土方の先輩、いい人だったなー」

 
魔王「…どうするのだ」

勇者「お前は?魔王」

魔王「え?」

勇者「お前は、戻りたいのか?」

魔王「あ、私か…。私は、どうだろうな、正直な事を言えば…わからん」

勇者「…」


魔王「戻れたら、やりたいことは沢山ある。だが、お前たちと戦う事になるのは…やはり…」

勇者「俺もだ。魔王と戦うのは…」

魔王「だがしかし!戻らねば、私たちを待っている仲間が沢山いる…」

 
勇者「…」

魔王「…なぁ、勇者。もし、お前が戻れたら…こちら側のように、平和な世に出来ると思うか?」

勇者「俺はやってみせる。覚悟がある」

魔王「我が配下の魔物を全て殺しても…か?」


勇者「いや…皆が笑い合える世界ってのも悪くないと思ってるよ。俺らしくないけどな」

魔王「…奇遇だな。私もだ」ハハハ

勇者「全く、こちら側の世界は温すぎる」


魔王「…勇者、そして仲間たち。私らしからぬ言葉だが、せめてもの幸せを願うぞ」

勇者「あ?」

 
ギュゥゥゥンッ…!!!


勇者「!」

戦士「おいおい、いきなりかよ!」

魔法使い「…新しく出来た友達に挨拶しとけばよかったなぁ」

僧侶「楽しかったですが、やはり私たちはあちらの世界が似合ってますよ」


魔王「…さらばだ。勇者よ、その仲間たち」

勇者「なっ…お前…!」

魔王「ククク…私は"魔王"だぞ?卑怯者さ。最後は、私の勝ちさ」ニタッ


勇者「待てコラ…急に…おい……、お…」ギュウウウッ!!!


……ウウウウウンッ!!!!バシュンッ…!!!

魔王「…これでいいんだ」

 
ゴォォォォォッ…


戦士「すげええ、何だこれ!」

僧侶「体が引き伸ばされそうです!!」

魔法使い「…消されていく。僕たちの記憶が」


勇者「…魔王の野郎、自分だけ犠牲になりやがって!!」

魔法使い「彼女が選んだ道だよ、勇者」

勇者「そんな事言ってもよ…、卑怯すぎるだろう!!」

僧侶「…勇者様」

勇者「くそっ、こんな決着認めねぇ!」

 
戦士「…んお…なんか…急に眠気が…」ウトウト


僧侶「…戦士さん?」

魔法使い「影響が出始めた…眠い…」フワァ

僧侶「…あ、私も…」フワァ


勇者「…くっ、くそぉぉ!」


魔法使い「…」クゥクゥ

僧侶「…」スヤスヤ

 
勇者「聖剣よ!こんな決着は、決着じゃないっ…!俺に、力を貸してくれ!!」

…ググググッ…!!!

勇者「無理やりにでも…魔王を引き戻すぞ!!!うらああっ!」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…シーン

魔王「行ったか…ごほごほ…、さて…、私はどうするかな…」

バチッ…


魔王「ん…?」

バチバチバチッ!!!

魔王「な、何だっ」


バチバチバチッ!!!ギュウウウンッ!!!

 
…ギュッ…グイッ!!!

魔王「こ、これは時空の渦…勇者の手!?まさか!」


勇者「卑怯な魔王がよ…、お前一人で勝ち逃げはさせねえぞ!」

魔王「お前!!」

勇者「聖剣も…もう力尽きる!無理やりにでも引っ張らせてもらう!」

魔王「…私がいなくなれば、お前だけで平和な世を築けるのだぞ!」

勇者「そんな事関係ねぇ!!うおおおっ!」


ギュウウウウウンッ…!!!!

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゴォォォォッ…!!!


魔王「な、何てことを…再びお前たちと戦う事になってしまうだろうに…」

勇者「何、今のお前とならしっかりとした話し合いが出来ると思うさ」

魔王「ばか者!私は魔力がない、記憶を守る事ができぬのだ!分かっていたからこそ…」


勇者「だが、本当のお前がどういう奴かは分かったつもりだ。忘れていたら、納得するまで話し合うさ」

魔王「…バカ者が」

勇者「さぁ、帰ろうぜ。俺らの世界に」

魔王「…本当の…バカ者だ…」グスッ

 
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・
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・・・
・・

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


勇者「…」ハッ


戦士「…時空魔法だぁ?何も起こらないじゃないか!」スチャッ

魔法使い「はっ、そんな魔法聞いた事もない!脅しだったようだね!」

僧侶「勇者様は、貴方なんかに負けませんから!」


勇者(ここは…、俺たちが飛ばされる時か!失敗したっつー事になってるみたいだな)

僧侶「勇者様、一気に行きましょう!」


勇者(だとしたら…魔王は!)

 
魔王「時空魔法が使えぬだと…、なぜだ!」

勇者「魔王…っ!」

魔王「だが、"我"には強大な魔力がある!闇の魔法で、葬り去ってくれるわ!!」

勇者「…」


魔王「…どうした?勇者…キョトンとして…我が気運に脅かされたか!?フハハハ!」

勇者「魔王…」

魔王「むっ?」

 
勇者「…お前は、この世界をどう思う?」

魔王「何だ急に…世界だ?愚問だ…、腐りきっている!」

勇者「戦いでしか、解決できないか?話し合いで、何とかならないか?…とか」

魔王「…貴様、バカにしているのか?」


勇者(やはり…記憶はなくなっている…のか)

魔王「どうした…かかってこないのか!?」


勇者(この雰囲気で、仲間に戦いをやめようなんて本気で説得できるのか…クソッ!)

 
魔王「…何をボーっとして…!隙は逃さん、大闇魔法!!」グワッ!!!

勇者「…っ!」


僧侶「ひっ…!」

戦士「うわあああっ!」

魔法使い「くっ…!」


ドォォォンッ!!!…ドサドサドサッ…

僧侶「」

戦士「」

魔法使い「」

 
勇者「み、皆…!」

魔王「ククク…ファッハッハッハッハ!!」

勇者「…皆をよくも…やはり記憶は…守れなかったのか…!だが、俺はっ…」

魔王「どうした…?貴様の仲間なぞ、そんなものか…?」


勇者「…く、くそ…俺が…中途半端なまま戻ってきたから…」ブルブル

魔王「ククク…」

勇者「だ、だけど…だけど…っ!」

 
ゴロンッ…ギュッ

僧侶「う~ん…勇者様ぁ」

勇者「!?」

僧侶「…もう、食べれないですぅ…」スヤスヤ


勇者「はっ?」

 
戦士「…」ンゴー!!!

魔法使い「その数式は違うよぉ…」クゥクゥ


勇者「え…寝てるだけ?」

魔王「…」

勇者「え?何これ?」


魔王「はぁー…仲間たちに"私"の事を忘れてられると、少々悲しくなるな」


勇者「お前…まさか」

魔王「どうやら…大丈夫だったみたいだ」ハハハ

 
勇者「ま…マジか」

魔王「この衣装も久々だ。ったく…時空の渦に無理やり引っ張りおって。これからどうするつもりだ」

勇者「魔王…まじかぁぁ!」ダッ

魔王「…っ!」


勇者「おぉぉ、良かった!良かったなぁ!!」ギュウウッ

魔王「ば、ばか!くっつくな!!」

勇者「んなこと言ってもなぁ…お前、びっくりさせるなよ!」

 
魔王「いや久々だし、ちょっとこういうのやりたくなった。あと、眠らせたほうが楽だろう。色々と」

勇者「…」ギューッ

魔王「いだだだだっ!つねるな!」

勇者「この、バカ野郎が!」

魔王「お前ほどではないよ」ハハハ


勇者「…だが、よかったよ。本当に…」

魔王「喜ぶのは早い。これからが大変だぞ?本当に、皆が笑い合える世を作れるのか…」

 
勇者「…やってみせるさ。俺は勇者だぞ?」

魔王「ククク…ならば、私もやってやろう。私は…魔王だぞ?」

勇者「…ははは!」

魔王「ふははは!」


…ギュゥゥゥンッ!!!

勇者「…?」

魔王「おや、なんだ?」

 
…バチバチバチッ…


側近「いらっしゃいませ!セイザリヤへようこそ!お二人でよろしいでしょうか!…あ、あれ?」

魔王「…あ」

勇者「…あ」


側近「…?お客様は…ってか、セイザリヤは!?あれ…!?ここどこですか!?」

魔王「お、お前」

側近「あれ、大家さん!?どうしたんですかその格好…」

魔王「…」

 
側近「あ、勇者さん?ってか、アパートの皆さんが倒れてる…大丈夫ですか!?」アワアワ


勇者「…どうすんの、アレ。忘れてたし、聖剣も使ってないのによく戻ってこれたな…」

魔王「干渉する世界の鎖がこちらに強くこちら側に引かれたからだろう。正しい移動方じゃないから、記憶もそのままのようだな…」

勇者「…お前、忘れてたな」

魔王「ま、まぁ…そのうち、こちら側の空気に触れていれば、いずれ全て思い出すだろう…」

勇者「そう願うよ」

魔王「…はは」


勇者「さてと、俺は仲間を連れて一旦、王に報告かな」

魔王「私も緊急幹部会だ。人間との和解、一筋縄ではいかんぞ」

勇者「望むところだ」

  
魔王「…また、な」

勇者「あぁ、また」


…ガチャ…バタンッ


魔王「…お前に助けられた命、お前の願いを叶えて見せよう。必ずな」

 
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・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・

 
それから長い月日が流れた。

魔物と人、それは決して相容れぬと言われた関係。

共存の道は幻とまで思われた。


だが、ある2人が架け橋となり…それはやがて現実となっていった。


もちろん、問題も多々ある。

だが…本当の"平和"が訪れるのはきっと、そう遠くない未来だろう…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 世界共存会議場 】



炎帝(魔物側四天王)「さて、今回の議題は…国境の問題だ」

王国幹部(人類側代表)「問題は魔物側の捕食だ…」


炎帝「すまぬな…早急に対処はする」

王国幹部「既に人は避難している。早めに出没を伝えてもらってよかった」

炎帝「何々、そのくらい」

 
勇者「…それで、魔王」

魔王「んー?」

勇者「大体の問題は解決してきた。本当にこうして、平和が訪れるとは思わなかったぞ」

魔王「はは、全くだ」


勇者「最初は王に牢にぶち込まれたよ。魔物側の手先が成り代わってるとかな」

魔王「私なんか、拷問に合うところだった…」

勇者「ま、何はともあれ」

魔王「私たちが望む世界に、なった…か?」

 
勇者「…そうだな。まだまだ、本当の平和とは言い難いが」


側近「ごほん。魔王様、あなたは多くの事をしてきました。そろそろ、お暇をしてもよろしいかと」

魔王「だが…」

側近「いえ、そろそろあなたは自分の為に生きるべきです」

魔王「…」


側近「…人間は自分たちと比べて寿命は短いのです。貴方が望むこと、それは勇者さ…」

魔王「わーっ!!!わーっ!!」

勇者「?」

 
側近「はぁー…いつまでたっても、貴方は…」

魔王「側近、こら!」


側近「実はですね、勇者様、耳をお貸しください」

魔王「うおおおいっ!」


勇者「ん?」

側近「…」ボソボソ

魔王「うーーーわーーーーっ!!!」

 
勇者「…まじで?」

魔王「…もう、側近なんて知らん!!!」


勇者「へー、へえぇぇ」ニヤニヤ

魔王「うおーーーっ!再びこの世を混沌に導いてやる!!」

勇者「はははは、いいぜ、魔王」

魔王「…え」


勇者「お前が望むなら。実は…俺も望んでいるよ」

魔王「…っ!」

 
側近「ふふ」


魔王「…本当か?」

勇者「ウソでこんな事を言うか」


魔王「…よ、よろしくな…なのか?」


勇者「あぁ、ヨロシク!」

魔王「…うむ…よろしくな…」


側近「…やれやれ、世話のかかる魔王様です」

  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

勇者「時空に飛ばされたら魔王がアパートに住んでいた」

【…E N D…】

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
■あとがき

他の勇者系作品に感化され、魔王勇者のSSを書きたいなと思っておりまして、ほのぼのメインでいかせていただきました。
 
書いてる途中で「あれ…?」という場面も多々ありましたが、強行的に進めましたw


書き足りない事、矛盾点を気にせず突貫工事でいかせていただいた作品なので、中々上手くまとまらなかったところもあると思います。

が、こうやって終わらせられた事を嬉しく思います。

読んでくださった方、ありがとうございました。


P,S 最後にちょっとしたストーリーを載せて終了となります。

 
■スペシャルストーリー


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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【時空から戻り、一行が魔王の城を出た後】


僧侶「勇者様」

勇者「ん?」

僧侶「私、こんな服持ってましたっけ…?バッグに入ってました」パサッ


魔法使い「あ、僕も不思議なんだ。見たことないようなモノが、ポケットから…」

戦士「このタオルを見ると、なんだか懐かしい気持ちになる。男の匂いのような…」

魔法使い「それは…少し嫌だね」

戦士「あんだと!?」

 
勇者(…なかったことにされる、異世界の自分…か)


僧侶「恥ずかしいですよね、なんかゴワゴワしてるし」

魔法使い「そーぉ?僕はこういう服好きだよ?」

勇者(ゴスロリだよ)


僧侶「魔法使いさんだって、それ何に使うか分からないんですよね?」

魔法使い「この変な小さな機械みたいなの…何だろうね」

勇者(USBだよ…)


魔法使い「…うーん」

戦士「俺らが共通して変なモノを共通して持ってるって…いつの間に?」

 
魔法使い「うーん・・・みんな身に覚えがないなら、僕らが、記憶を失っているということになる」

勇者(うわっ、鋭い!)


僧侶「えぇ?」

魔法使い「僕らが魔王に眠らされている間に、何かされた…わけはないよねぇ」

僧侶「ですねぇ」

魔法使い「勇者は何か知らない?」

勇者「え?い、いやぁ心当たりはないなぁ…」


魔法使い「うーん…」

側近忘れられてるかと思た

 
戦士「まぁいいよ。コレを見て、何となく懐かしい気分になれるだけで…俺は何か嬉しい」

魔法使い「僕もさ。これを眺めると、どうにも懐かしい気分になる」

僧侶「私もです」


勇者(…話すべき事じゃない、よな。懐かしむ気分だけで、充分だろう)

 
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――――【数ヵ月後・魔法使いの家】


…コンコン

魔法使い「どうぞーっ」

ガチャッ

勇者「失礼。呼ばれたから来たぞ…何の用だ?」

魔法使い「…勇者」


勇者「ん?」

 
魔法使い「これ、見て」

勇者「んー……はっ!?これ、パソコンじゃねーか!?」

魔法使い「パソ…?」

勇者「…あ、いや」


魔法使い「この小さな機械を読み込ませるために組み込んだ手製の僕のオリジナルだよ」

勇者(おいおいおいおい、どんだけだよコイツ。自作でUSB読み込ませるの作っちゃったよ)

魔法使い「どうやら、勇者はコレに関して知ってるみたいだねぇ…?」ニコニコ

勇者「え、あ、いや…その…」

 
魔法使い「コレを読み込ませたら、僕が僕自身に宛てたメッセージが出てきたよ」

勇者「…は?」

魔法使い「異世界のこと、写真というもの、魔王のこと、勇者のこと、皆のこと。驚いたよ」

勇者(こいつ、まさかコッチの世界に戻ってきた時の準備をしていたってのか…)


魔法使い「向こう側にいた僕が、どう考えていたのか最早知る術はないけど…」

勇者「…」

魔法使い「少なくとも、悪い世界じゃなかったみたいだね」

勇者「…バレバレか。あぁ…みんな、楽しんでいた」

 
魔法使い「勇者が記憶を失っていないのは、聖剣の加護のおかげかな。魔王もしかり、でしょう」

勇者「…」

魔法使い「隠したって意味ないよ。全部知ったし…ま、他のみんなには言わないでおくよ」

勇者「それがいいだろうな」

魔法使い「はーっ、それにしても向こう側の僕はプログラマーっていう職だったんだ…」


勇者「そ、そうらしいな。その辺は詳しくは知らないぞ」

魔法使い「だけど魔法が使えない世界は、不便だっただろうなぁ。勇者、助けに来てくれてありがとう」

勇者「たまたま飛ばされて、たまたまが重なっただけだ。それに…」

魔法使い「それに?」

勇者「俺よりも、魔王のほうがずっとずっと大変だっただろうよ」

 
魔法使い「…だね。どうやら、魔王と勇者は和解した理由もわかってきた」

勇者「あぁ」

魔法使い「さてっと、みんなは広場かな?お祭りなんだっけ?」

勇者「そうそう。平和の式典とかっていう」


魔法使い「それじゃ行こう!」


勇者「魔王もあとで来るはずだ。先に行って待ってよう」

魔法使い「うん。出発!」


…ガチャッ…バタンッ…

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・



………タッタッタッタッタ…ガチャッ…

魔法使い「いけない、忘れてた…パソコンだっけ、魔動力入れっぱなしだった…消しとかないとね」


…カチカチッ……


魔法使い「ばいばい…向こう側の僕たち、友達たち。またね!」

ザザザ…………ザーーーーー


………プツンッ…


……………………………

 
【E N D】

 
これで本当に終了です。
皆様、ありがとうございました。

じゃあね、向こう側の、みなさんたち…。

>>300 >>303 >>306
お早い乙、コメント等ありがとうございます

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