小鳥「じゃねぇよ！」ﾊﾞﾝｯ!

小鳥「どうしようどうしよう、なんか怖い」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

小鳥「あぁぁぁぁ！　もうダメ！　分からない！」

小鳥「……流れで準備はしてるし、きっと大丈夫、あとは色んな人に報告したり……」

小鳥「……心構えがー」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

小鳥「誰かに相談……こういう時の親は当てにならないし、社長も同じよね、多分。アイドルのみんなに言うようじゃもうおしまい」

小鳥「誰か、いないかしら、っと」ﾎﾟﾊﾟﾋﾟﾌﾟﾍﾟ

――――
――――
日高　舞　ﾋﾟﾀｯ
――――

小鳥「うっ……」

小鳥「……他にいないし、仕方ないか」

　ｐｒｒｒｒ

小鳥「……舞さん、あの、ちょっといいですか？　飲みません？」

　ジャラララッ

舞「こんばんは」

小鳥「こんばんは」ﾎﾟｰ

舞「よいしょ」ｽﾀｯ

舞「なんでもう始めてるの？」

小鳥「準備してただけです」

舞「先に酔いおって」

小鳥「ふーんだ」

舞「私も同じものお願いします」

舞「何か仕事で嫌なことがあった？」

小鳥「だったらどうします？」

舞「嘘だなって思う」

小鳥「えー」

舞「あんたが仕事を楽しめなくなったらおしまいよ」

小鳥「ですよね」

舞「それで、何があったの？」

小鳥「……」

小鳥「少し前にプロポーズされまして」

舞「あら」

小鳥「ＯＫしました」

舞「へー」

小鳥「へーって」

舞「ほー」

小鳥「むー」

舞「なんで？」

小鳥「え？」

舞「なんでＯＫしちゃったの？」

小鳥「はぁー……」

舞「好きなの？」

小鳥「好きですよ」

舞「じゃあなんで呼んだのよ？　わざわざ報告するため？」

小鳥「……」ｸﾞｲｯ

小鳥「怖い」

舞「それは幸せだからよ」

小鳥「舞さん」

舞「なぁに？」

小鳥「結婚した時、怖くありませんでした？」

舞「怖いとか、そういうのじゃなかった」ｸﾞｲｯ

舞「急いでたし」

舞「よく覚えてない」

小鳥「人選間違えた」

舞「交友関係の狭さを呪いなさい」

小鳥「指輪は貰いました？」

舞「私が選んだのは覚えてる」

小鳥「はぁ」

舞「楽しかったのが一通り終わって」

舞「また楽しい事が始まるって」

舞「ノリと勢いで生きてたから」

舞「思い返すと、もっと味わっておけばとか思ったりもするぐらい」

小鳥「早すぎましたもんね」

舞「うん」

舞「……」

舞「私の事はいいのよ。あんたよ、あんた」

小鳥「本当は、舞さんは四番目かなって思ってました」

舞「何が？」

小鳥「報告の順番」

舞「家族と、社長たちと、次は？」

小鳥「アイドルの子たち」

舞「私はそれ以下か」ﾁﾋﾞﾁﾋﾞ

小鳥「それぐらいでいいでしょ、舞さんは」

舞「そうね」

小鳥「……」ﾁﾋﾞﾁﾋﾞ

舞「そんな気を遣わなくても、小さい人間じゃないでしょ、あんたんとこのアイドルは」

小鳥「……そうですよ」

一旦今日はここまでかなって
あとは明日

舞「怖いのとか、どうしようもないわ」ﾔｷﾄﾘｷﾀ

小鳥「そんな」

舞「幸せなんだからいいじゃん」

小鳥「けど、こういうのって相手に伝わるじゃないですか」

舞「大丈夫大丈夫、伝わらないから、そんなの」ﾁﾋﾞﾁﾋﾞ

小鳥「根拠は？」

舞「旦那のことなんにも伝わってないじゃん。向こうも同じよ」

小鳥「……同じように不安なんでしょうか」

舞「こんな可愛いお姉さんを貰おうなんて人でしょ？　そりゃあ不安よ」

小鳥「可愛いお姉さん」

舞「お姉さんでしょ」

小鳥「まだお姉さんでいいんですか？」

舞「いいんじゃない？　しばらくは」

舞「準備はどう？」

小鳥「不安だけど進んでます」

舞「どんな感じにしたいの？」

小鳥「嬉しい感じ」

舞「嬉しい式ね」

小鳥「プロデューサーさんが嬉しい感じになってくれればと」

舞「これから嬉しい事はあるわよ、色々」

小鳥「指輪ー」

舞「安いのでもいいから納得できるの選びなさい」

小鳥「式場ー」

舞「武道館なんてどう？」ｸﾞｲｯ

小鳥「舞さんのほっぺがどれだけ年取ってるかチェーック……」ｻﾗｯ

舞「んー」ﾑﾆ

小鳥「あーーー……」ｶﾞｯｸﾘ

舞「現役復帰を果たした私を甘く見ない事ね。ぷくぷくしちゃって、まぁ」

小鳥「うーーー……ドレスー……」

舞「痩せなさい。生活を見直して身体を引き締めなさい」ｴﾀﾞﾏﾒｷﾀ

小鳥「どうして幸せだと不安になるんですか？」ｸﾞﾃﾞｰ

舞「その先にどんないいことが待ってるか分からないからよ。未体験ゾーン」

小鳥「……えへへー」

舞「愛が生まれる前なんかはただ楽しみだったものだけど、いざ生まれるとわけ分からなくなったっけ」

小鳥「……」

舞「今もたまに不安になるから願うのよ。愛がこの先、どんな風に幸せを掴んでいくか」

小鳥「……ごめんなさい」

舞「どしたの？」

小鳥「人選間違えました」

小鳥「結婚決まったのに、落ち着かなくて不安で」

舞「そうね」

小鳥「この状況で頼れるの舞さんしかいないし既婚子持ちだしいいやーって相談しようと」

舞「してるわね」

小鳥「聞くんじゃなかった」

舞「役に立たなかった？」

小鳥「ごめんなさい」

舞「なによさっきから」ﾁﾋﾞﾁﾋﾞ

小鳥「１６歳の舞さんは忙しすぎたんですよー」ｸﾞﾃﾞｰ

舞「そーね」

小鳥「……もっとちゃんとしたかったですか？」

舞「ちゃんとしてたわよ」

小鳥「急な引退、結婚も急、出産もでしょ」

舞「ええ、そうよ」

小鳥「自慢するために呼んだみたいなものですよ、これ……最悪」

舞「いいじゃない。結婚報告とかそういうものでしょ」

小鳥「考えれば分かることじゃないですか。バカじゃない」

舞「大丈夫、バカじゃない」

小鳥「……」

舞「私は楽しかったのよ、本当に。音無小鳥と日高舞は別人なんだから、価値観ってあるでしょ」

小鳥「だけど、味わっておけばって」

舞「それは本音だけど」

小鳥「じゃあ――」

舞「あの頃に幸せ全部持ってけた私はあんたに散々自慢できたわ」

小鳥「……」

舞「私に答えられることがあったら答えるけど、答えられない事を気に病む事なんてないの」

小鳥「……」

舞「それに、貰えるもの全部貰えたし」

小鳥「……」ｸﾞﾃﾞｰ

舞「聞きなさいよ、ちょっと」

小鳥「……」

舞「ったく……あっ、お勘定お願いします。タクシー？　いいです、いいです。私持って帰りますから」

～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～

小鳥『舞さーん』ｶﾞﾁｬ

舞『あっ、来たんだ』

小鳥『苦労しましたよ。記者とか凄い勢いでしたから』

舞『ここぞとばかりに動いてくれてるわねー』

小鳥『ところで舞さん、その、なんですね』

舞『なにー？　あんたまで「ウェディングドレスが撮影衣装みたいでありがたみがない」とか言うわけ？』

小鳥『ギクッ……そ、そんなことないぴよ？』

舞『まー、私もそー思うんだけどね』

小鳥『あ、あはは……』

舞『あんたも早くこれ着なさいよ』

小鳥『私はもうちょっと後でいいかな』

舞『もうちょっとねぇ』

舞『実感って、意外とあるものね。急だったのに』

小鳥『そんなものですか？』

舞『そんなものよ』

小鳥『へー……』ｿﾜｿﾜ

舞『さってと、そろそろ気合入れ直すか』

小鳥『……』

舞『ん？　どーかした？』

小鳥『やっぱり、舞さんいいなって』

舞『そう？　ありがと！』

小鳥『似合ってますよ。結婚おめでとう、舞さん』

舞『あ、やっと言われた。なぜかあっちの方ばっかり言われるのよねー、それ。挙句の果てに相手が私で心配までされてるし。失礼千万！』

～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～

　――あたしだけだったのかなぁ……ああ言ってあげられたの。

「結婚おめでとう」

　……言ってくれるかなぁ。

「結婚おめでとう」

　こんな、妄想舞さんじゃなくて、あの傍若無人なちゃんとした舞さんで……。





「あっさでっすよーーーーーーーーーーー！！！！」

小鳥「ぴよっ！？」

愛「小鳥さーん、朝ごはんできちゃいますよー！」

小鳥「あ、愛、ちゃん？　あれ？　ここ……」

愛「ママの部屋です。小鳥さん昨日はここに泊まったんですよー」

小鳥「嘘！？」

愛「酔って寝ちゃってたみたいでした」

小鳥「うわぁぁぁぁ……やっちゃった」ｶﾞｸｯ

愛「それより小鳥さん、朝ごはんです！」

小鳥「え？　あ、はい、その、鏡ください」

舞「あ、起きてきた。おはよー」

愛パパ「おはよう、音無さん」

小鳥「……おはようございます。昨日はご迷惑をおかけしました」

舞「そこ座って待ってて。今朝食出すから」

小鳥「……起こしてくれてもよかったんですけど」

舞「あのまま家に帰して一人泣かれでもしたらどうしようかと」ﾃｷﾊﾟｷ

小鳥「ぁー……」

愛「だけど結婚すれば一人じゃなくなりますよね！」

小鳥「まぁ、そうだけど……ん？」

舞「うふふ」

小鳥「……愛ちゃん、私が結婚してるって知ってるの？」

愛「はい！」

小鳥「……あー」ｽﾀｽﾀ

舞「ふんふーん」ﾃｷﾊﾟｷ

小鳥「水ください」

舞「はい」ｽｯ

小鳥「……」ｺﾞｸｯｺﾞｸｯ

小鳥「……」

舞「頭の中ハッキリした？　つーかしてるって何よ。したのは婚約でしょ」

小鳥「あー……」

小鳥「……」

小鳥「いや、ちょっと、舞さん」

舞「なーに？」

小鳥「話したんですか！？　話しちゃったんですか！？　愛ちゃんに！？」

舞「つい、うっかり」

小鳥「うわぁぁぁぁっ！？　広まる、これ絶対広まっちゃいますよ！？」

舞「報告の手間が省けて良かったわね」

小鳥「ちょっとぉぉぉぉぉ！」

小鳥「愛ちゃん、どこまで！？　どこまで聞いたの！？」

愛「え？　あの、結婚するところまで」

小鳥「それだけならセーフ！」

愛「７６５プロのプロデューサーさんと！」

小鳥「アウト！」

愛（これは小鳥さんがうわ言で言ってたんだけど……）

舞「ほれ、朝食」

小鳥「うぅ……いただきます」

舞「あと」

小鳥「はい？」

舞「勝手に寝るな」

小鳥「ごめんなさい」

舞「おめでとうって、言いそびれたじゃない」


おわり

おまけ

小鳥「舞さんも来てくださいよ、式」

舞「嫌よ。折角の式に戦車なんかいらないでしょ」

小鳥「戦車がデフォですか。フツーに来てくださいよ」

舞「騒がしくしたくないのよ。代わりに愛を送るから」


愛パパ「愛、結婚式初めてだったね、大丈夫？」

愛「歌えばいいの？」