にこ「夢なき夢は夢じゃない」 (189)

  

一人の少女の小さな夢が

一つの出逢いを生み

一人一人と繋がっていって

大きな大きな

みんなの夢になる


広がれ、笑顔の輪──!


※地の文有り。アニメ一期をベースに漫画の一部設定を吸収した、もう一つのラブライブ。

※独自解釈で挑むラブライブの微妙な謎解明譚。百合は原作と同じくらいか若干上かな? 友情青春劇。

この作品を佐藤君と話の都合上リストラされた尾崎さんという方に捧げます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406545781


【プロローグ ~憧れのアイドル~】

昨日最後の部員が辞めて一人になった。たった二ヶ月のスクールアイドル生活。部室に残った沢山のグッズ。

『スクールアイドルとかもう冷めたから、もう要らない』

その言葉すら胸を刺した。同じアイドル好きで、色んな楽しい話で盛り上がってたのに。

早々に辞めた子は廊下で挨拶しても無視された。何がいけなかったのか。

私はみんなと一緒に本気でスクールアイドルの頂点を目指していたかっただけなのに。

……原因は分かってる。私と皆の心の温度。

「ほら、まだ休まない! ふぁいとー!」

窓の外から聞こえてくる運動部の掛け声。あんな声が聞こえないくらいに、楽しい時間だったのに。

確かに、練習は妥協を許さない感じだったけど。

でも、それも輝かしいスクールアイドルの為に……。

アイドルやスクールアイドルに詳しかったり興味ありそうな子に声を掛けて集めたメンバーは私を含めて七人。

全員遊びというか、話をしたり、軽く真似たダンスをしたりするのが目的だったというだけ。

最初から仲間であるように見えて……にこだけが仲間外れだったんだ。

『丁度メンバーが七人だし《Lucky Girls》と名付けましょう♪』

始まりになるんだって、これから人気を集めて有名になって、スクールアイドルの祭典ラブライブに出場するんだって。

たった一人で考えて、空回ってた。酷く滑稽……。まるでピエロみたい。

でも、これが初めてって訳じゃない。私は小さい頃から気が付くと一人ってことが多かった。

みんなの輪の中に入れてた筈なのに、ふと気付けば一人ぼっち。

だからって、一人に慣れることなんてありえない。胸を締め付けるような苦しさが現実を教える度に、泣きたくなる。

せめて、せめて私が作曲出来ればみんなの心も変わっていたのかも。

「……はぁ~」

スクールアイドル雑誌に載っている子達は綺麗な笑顔を浮かべている。夢を信じて、夢に向かって輝いてる。

この中で何人が本物のアイドルになれるのか……。少なくとも優勝したグループは本物になることが多い。

お金やコネのある子はスクールアイドルという段階を踏まずに、養成所や子役という段階を経てアイドルデビューする。

うちにそんなコネはないし、お金だってない。だからUTXではなくて授業料もタダの音ノ木坂に入学したんだ。

だからこそ、私がアイドルを目指せるチャンスは一度っきりしかない。

スクールアイドルを結成してラブライブで結果を……ううん、優勝という栄光を得ること。

逆に言えば、ラブライブに出場すら出来なければ私はもうアイドルになる夢を諦めるしかない。

つまり、今一人になったからといって諦めるのは夢を諦めることと一緒。

私がアイドルに憧れるようになったアイドルの人がよく言っていた。

『夢なき夢は夢じゃない』

その人はもう何年も前に引退してしまったけど、今でもよく引退ライブのDVDを観ている。

引退ライブのその時までずっと笑顔を見せ続け、見ている人を笑顔にさせてきた。

あんな素敵なアイドルになりたい。だから、絶対に諦めない。

にこ「夢なき夢は夢じゃない」

この言葉が私の心の支え。

でも、今日だけは……。

これからの事ではなく、今日までの二ヶ月を思い出していたい。

最後になるだろう、Lucky Girlsがギリギリ20位で予選を突破して、決勝まで進んで歌うその姿。

それは終わってしまった未来。

アイドルが涙を流していいのは引退ライブだけだけど、今の私はスクールアイドルですらない。

だから、だから…………今日だけは、

にこ「うっ、うぅ……ひっぐ、うぅっ」

今日だけは……。

一年目【一人ぼっちのアイドルと孤高の姫 ~始まりの歌~】

一人で部室に戻り、入り口から近い椅子に崩れるように腰を置いた。

にこ「……そっか、にこが悪者なんだ」

部員の募集をかけようと思ってた。絶対にアイドルになれる子もいたし、男性人気の出そうな子もいた。

でも、それをすることが出来なくなった。

先ほど廊下で聞いてしまった言葉を思い出す。

『部長だから部にあるものはもう全部私のだって言い張ってさ』

『マジ最低の泥棒じゃん』

『貧乏って人の心がないんだろうね。あれが目的だったんじゃないかって思うわ』

『先生に言ったら? 犯罪だし』

『あいつに関わるの嫌だし。もう要らないからいいや』

『矢澤マジ最悪』

自分で要らないって言った筈だったのに、事実は歪められていた。

先生の耳に入るかどうかは別として、そういう噂が生徒の間で広まるのは間違いない筈。

今誰かを誘えば不快な思いをさせて、またアイドルを嫌いにさせてしまうかもしれない。

それだけは絶対に嫌だ。

にこ「……っ、泣くんじゃないわよ、矢澤にこ!」

込み上がる涙を指で拭う。零れてないから泣いてない。

このまま不貞腐れてたらそれこそ思う壺よ!

一人でこなせる練習メニュー作り直しましょう。

にこ「やだ……。いくら型遅れのPCとはいえ、画面が見難いじゃない。どうして、こんなに歪んで見えるのよ」

ハンカチを取り出して画面を拭いた。

それでも歪んで見える画面は直らない。

強がりをやめて、ハンカチの反対側の面を両目に押しあてた。

ハンカチが涙を吸い込んで重くなる。

今よりもずっと強くなりたい。

こんな些細なことで涙を流すようじゃ、あの人のようにはなれない。

絶対にアイドルになるんだから……。

── 一ヵ月後 公園

練習メニューで一番困るのが柔軟体操。

腹筋は壁に足をくっ付けた状態で無理やりするけど、柔軟だけは一人では無理。

家なら妹達が手伝ってくれるけど、そうなると限られてしまう。

ただでさえメンバーも集めることの出来ない状態。

他のグループは先輩から教えられたり、自分達で調べて練習しているんだ。

完全な焦りによる思考の空回り。

居ない者は居ないし、居た者も居ない。

もう夏休みに突入しそうなそんな時期。

休みに入ってしまえば絶対にメンバーは増えない。

でも、夏休みさえ明ければ噂は消えてるだろうし、メンバーは増やせるかもしれない。

二つの思いが行ったりきたりして心が安定しない。

その所為で最近余り眠れない。

朝起きた時に顔のパックを外した後のどんよりとした顔はアイドルに程遠いわ。

クラスでも完全に孤立して、学校内で話す人が誰一人として居ないのも心にキてる証拠ね。

にこ「はぁ……。眠い」

それでも毎朝の日課を寝不足を理由でヤメるわけにはいかない。

一人の場合は特に緩められない。一度でも自分に甘くするとズルズルといってしまうから。

土曜日の朝とはいえ、まだ早い時間だけに散歩している人が二人くらいしかいない。

準備運動と走るだけが目的だから人が少ない方がいいので都合がいい。

にこ「……っ……ふっ!」

外で一人で準備運動していると何故か恥ずかしさが込み上げてくるのはどうしてかしらね。

だからって手を抜くと足を釣ったりするから丹念に……。

柔軟がきちんと出来れば怪我しにくくなるしいいんだけどなー。

暗い考えになる前に走り出す……。


にこ「はぁはぁ……はぁ~」

外周を三週した後、半周歩いてから漸く足を止めて息を整える。背負ってるリュックからタオルを取り出して汗を拭う。

にこ「……ゴクゴクッ……ぷはぁっ」

魔法瓶の冷たい水が喉を潤して、心も潤してくれる錯覚さえするわ。

実際には寝不足と疲れが合わさって吐きそうだけど。

ベンチで少し休むことにしましょう。

寝不足はストレスも溜まるし、どうにかしないと。

もう夏本番とはいえ、朝はまだ涼しい風が吹いている。

目を瞑って吐き気を遠ざける……。

──大好きだばんざーい!

耳に届いたのは澄んだ綺麗な歌声。

吐き気すら忘れて、耳に全身系を集中させる。

それはまるで、あの人の歌を聴く時のように。

聴き終わって直ぐに体を起こして、歌ってた人の元へ走る……!

にこ「……はぁはぁはぁ……ちょっと、そこの釣り目の子!」

  「いきなり何よ! 失礼な子どもね!」ムッ

にこ「はぁはぁっ、あなたよね? さっきまで歌ってたの」

  「ち、違うわ」カァァ

にこ「歌声と同じ声なんだからあなたに決まってるわ」

  「だったら何よ。何か文句でもあるの?」ジロッ

にこ「文句なんてないわよ。というか、さんしょうしたいくらいよ!」

  「それを言うなら賞賛でしょ」

にこ「……わ、わざとよ///」

  「それで何の用よ」

にこ「あなたの歌に感動したの。にこと一緒にスクールアイドルの頂点を目指しましょう!」

  「はぁ?」

にこ「名前はなんて言うの? 私は矢澤にこっていうの」

  「どうして名前を言わないといけないのよ」

にこ「いっきいっかいって言うでしょ?」

  「いっきいっかい? ……あれは『いちごいちえ』って読むのよ」

にこ「え?」

  「背伸びして物を言おうとするのは恥ずかしいから止めた方がいいわ」

にこ「国語が苦手なだけよ!」カァァ

  「はぁ~。……私は真姫」

にこ「そう、真姫ちゃんっていうのね。どこの高校なの?」

真姫「高校? 私、まだ中学二年なんだけど。貴女こそ何歳なのよ」

にこ「中学生!? 生まれた時代が二年も違うと成長速度も変わるのね」

真姫「なに訳の分からないこと言ってるの」

にこ「にこは音ノ木坂学院の一年よ。今月の22日で16歳になるニコ♪」

真姫「え、だってあそこ高校よね?」

にこ「にこは高校生よ! 16歳になるって言ってるでしょ!」

真姫「自分を名前で呼ぶ高校生とかないわ」

にこ「キャラ作りよ。アイドルに一番大切なのはキャラ作りなんだから」

真姫「アイドルって……さっきも言ってたわね。スクールアイドルって何よ?」

にこ「えぇっ!? スクールアイドル知らないの?」

真姫「わ、悪い?」

にこ「悪くはないけど勿体無いわよ。いいわ、にこがスクールアイドルのあいうえおを教えてあげる」

──三十分後

真姫「ねぇ、まだ続くわけ?」

にこ「まだあいうえおのいにも到達してないわ!」

真姫「スクールアイドルっていうのは高校生でやる部活ってことでしょ? もうおまで到達してるじゃないの」

にこ「そんな簡単な話じゃないのよ」

真姫「貴女、私のクラスメイトよりウザいわ」

にこ「分かったわよ。それで、あの歌ってた大好きだばんざいって言うのは誰の歌なの?」

真姫「愛してるばんざーい、よ」

にこ「曲名はいいのよ。誰の歌なの?」

真姫「私が作ったの///」ポツリ

にこ「真姫ちゃんって作詞も作曲も出来るの!?」

真姫「それくらい誰でも出来るでしょ」

にこ「いいえ、誰にも出来ないわよ! それが出来てれば……」

真姫「何よ?」

にこ「ううん、何でもないの」

真姫「?」

にこ「作詞作曲出来て歌が上手くて見た目もよくて……身長も高校生になる頃には160越えそうね」

真姫「だったら何よ?」

にこ「今からでも遅くないわ。高校に入ったらにこと一緒にスクールアイドルを目指しましょう!」

真姫「お断りよ」

にこ「にこぉっ!?」

真姫「私の音楽は終わってるの」

──7月22日 朝・公園

にこ「おはよう、真姫ちゃん」

真姫「あなたもしつこいわね」

にこ「ふっふーん! アイドルの原石を見て見ぬフリする程にこは疎かじゃないのよ」

真姫「相変わらず言動が愚かね」

にこ「え、何が?」キョトン

真姫「恥を掻きたくないのなら夏休みの間に国語を勉強しなさい」

にこ「アイドルの研究なら日々怠らないけどね」

真姫「趣味を理由に勉強を疎かにするような人間は、誰からも信用を得ることは出来ないわ」

にこ「……うぅ」

真姫「ま、何も自分では努力しないくせに、人を貶めたがる俗物よりマシだけど」

にこ「学校で何か嫌なことでもあったの?」

真姫「夏休みに入って清々するような人達が多いのよ」

にこ「真姫ちゃんの場合は綺麗だし、歌うまいし。だからみんな嫉妬してるニコ♪」

真姫「……にこちゃんはいいわねぇ。物事を考えるのが単純で」

にこ「なによ! 安易に馬鹿って言いたいの?」ジロッ

真姫「違うわよ。褒めてるの」

にこ「どこがよ」プイッ

真姫「ふふっ」

にこ「もう、笑ってないでランニング再開するわよ!」

真姫「だからどうして私まで走らないといけないのよ?」

にこ「高校生になってアイドル活動するしないはともかく、運動不足になってそのプロポーションが崩れたらどうするの」

真姫「今までも太ったことなんてないんだけど。私、胃下垂だし」

にこ「正にアイドル体質じゃない! でも、運動不足は別問題よ」

真姫「……はぁ。強引ね」

にこ「さ、走るわよ!」

真姫「はぁ~……仕方ないわねぇ」


にこ「はぁはぁ……ふぅ~」

真姫「ゼーハー…………ゼーハー」

にこ「休憩したら今度は発生練習ね」

真姫「……はぁはぁ……はぁふぅ」

にこ「家でもきちんとストレッチや筋トレしないといつまでも体力つかないわ」

真姫「家でもって、どうしてそんなことしないといけないのよ」

にこ「アイドルは常に笑顔を浮かべる仕事なの。苦しい時や辛い時でも笑えるようにするにはまず筋トレよ!」

真姫「意味わかんない!」

にこ「筋トレしながら笑えるようになるのがアイドルへの第一歩よ」

真姫「だから私はアイドルなんて目指さないって言ってるでしょ!」

にこ「お医者さん目指すから?」

真姫「そうよ」

にこ「でもそれって、真姫ちゃんの夢じゃないんでしょ?」

真姫「……夢なんていうのは、選べる人が生み出す──」
にこ「──夢は希望の光を与える掛け替えのない物なの」

真姫「人の言葉に被せてこないで」

にこ「アイドルは相手に悲しい言葉を吐かせないの! まるっとラブニコ♪」

真姫「なによ、その変なやつ」

にこ「アイドルにポーズは必要だから。今色々と研究してるの!」

真姫「研究?」

にこ「左の人差し指で丸を描いて、描いた丸の中に両手で作ったハートを作って笑顔を浮かべるの」

真姫「にこちゃんって本当に自由よね。羨ましいわ」

にこ「羨ましいならスクールアイドルを目指すべきよ」

真姫「嫌味くらい気づいてよ。それに、音ノ木坂なんてうちの親が許すとは思えないし」

にこ「そうよね。本当にスクールアイドルになりたくなったらUTXの方がいいし」

真姫「そうね」

にこ「普通に医大目指すのなら偏差値高いとこを狙うわよね」

真姫「そう、ね」

にこ「……今日はちょっと用事があるから、にこはそろそろお家に帰るわ」

真姫「別に一々私に言う必要ないわ」

にこ「それじゃあ。また今度お話しようね。バイバイにこ~♪」パタパタ

真姫「あっ! にこちゃん!!」

にこ「ん、なぁに?」クルッ

真姫「誕生日おめでとう!」

にこ「……素直な真姫ちゃんの方が可愛くて、にこは大好きだよー!」ニッコリ

真姫「ばっ、馬鹿じゃないの!」カァァァ

にこ「まったねー♪」ノシ

真姫(だけど、この日から十日間にこちゃんが公園に姿を見せることはなかった)

真姫(別に寂しくなんかないし。毎日来てたのは歌の練習の為よ!)

──8月1日

にこ「やっほー☆ 真姫ちゃん! 久しぶり~元気だったニコ♪」

真姫「あなたねぇ! 何で十日も来ないのよ!」

にこ「走ったりしてなかった訳じゃないのよ? あの日からバイト始めて、終わってから走るようにしてて」

真姫「そういうことは先に言うべきでしょ!」

にこ「だって真姫ちゃん、一々私に言う必要ないって言うから」

真姫「……あれはそう言う意味じゃないわ」

にこ「よくわからないけど、アイドルは怒っちゃダメよ? 笑顔になる魔法。にこにこにー♪」

真姫「まるっとラブニコより悪化したわね」

にこ「なんでよ! 可愛いでしょ? 一緒にやってみましょうよ。せーの、にこにこにー♪」

真姫「」

にこ「何でやらないの!?」

真姫「そんな恥ずかしい真似出来るわけないでしょ。その前に謝りなさいよ」

にこ「えっと……何について?」

真姫「心配かけたことをよ!」

にこ「あっ、そういうことだったのね。じゃあ、ちょっと走る前に……少しベンチに座って待ってて」タッタッタッ...


にこ「お待たせ~! はい、心配かけたお詫びにおしるこ缶贈呈☆」

真姫「おしるこ?」

にこ「甘いけど美味しいのよ」

真姫「にこちゃんの言うことって大概信用出来ないのよね」

にこ「生まれてからにこは嘘吐いたことなんてないニコ♪」

真姫「その発言が既に嘘でしょ」

にこ「えー、そんなことないしー」

真姫「何でこないだよりぶりっ子が加速してるのよ……。って、あまーい!」

にこ「そこがいいのよ」ニコッ

真姫「うぅ……舌が溶けるわ」

にこ「そんなに無理? だったら、残りはにこが飲んで違うの買ってくるけど」

真姫「ヴェェェェ!?///」

にこ「どうしたの?」

真姫「の、飲みかけ飲むとかありえないわ。飲むわよ、飲めばいいんでしょ!」カァァ

にこ「真姫ちゃんって時々分からないわよね」

真姫「にこちゃんが原因でしょ! それで、何のアルバイトを始めたの?」

にこ「地元が秋葉だからメイド喫茶で働いてるわ。お帰りなさいませ、ご主人様っ♪」

真姫「それでぶりっ子が加速したのね。日本なのにメイドっておかしいじゃない」

にこ「えーどうして?」

真姫「だって日本にいたのはねえやでしょ? その後にいたのは家政婦だし」

にこ「ねえや?」

真姫「昔の風習みたいなものね。お屋敷に仕えて礼儀作法を学んで、どこかにお嫁に出してもらうの」

にこ「へぇ~。そういうのあったのね。お帰りなさいませ~お館様っ♪」

真姫「絶対に流行らないわよ」

にこ「にこなら流行らせられるわ」

真姫「その自信をもっと他に回しなさいよ。特に国語」

にこ「やってるわよ。その所為で夜勉強してて、そのまま寝ちゃって……こないだ休みの日も朝ここにこれなかったのよ」

真姫「へぇ……意外ね」

にこ「中学一年の勉強からし直してるわ!」キリッ!

真姫「褒めて損した。寝る間も惜しんでもっと勉強しなさい」

にこ「皆の笑顔がにこの元気☆ にこの笑顔で皆の周りに光の花咲く☆ にこにこにー♪」

にこ「あなたのハートににこにこにー♪ 愛も笑顔もまるっとラブニコ♪」

真姫「……国語の前に常識を学ぶべきだわ」ヤレヤレ

──8月10日

にこ「こうして一緒に練習してるんだから、やっぱり音ノ木坂目指して一緒にスクールアイドルになりましょうよ」

真姫「しつこいわねぇ。にこちゃんが強引にやらせてるだけでしょ」

にこ「だって真姫ちゃんはアイドルの素質ありなんだもの。アイドルから歌手になるのもありね」

真姫「だから私の音楽は終わってるの」

にこ「夢なき夢は夢じゃない。始まってないのに夢を見ないなんて勿体ないわよ」

真姫「夢なき夢は夢じゃないって……意味が分からないわよ」

にこ「私がアイドルを目指す理由になった、トップアイドルの言葉」

真姫「トップアイドル」

にこ「真姫ちゃんとなら、トップアイドルも目指せると思うの。その第一歩がスクールアイドルの頂点!」

真姫「…………。いい加減面倒だし、もし、私が困った時に助けてくれたらいいわよ」

にこ「困った時に助けたらいいの?」

真姫「ええ。その時は親を説得して音ノ木坂に入って、スクールアイドル目指してあげるわ。作曲もしてあげる」

にこ「にことの約束よ!」パチン☆

真姫「地味にウインクが上手いのがムカッとくるわね」

にこ「それで、真姫ちゃんは学校でどんな嫌なことがあるの?」

真姫「は? いきなりなによ」

にこ「以前言ってたじゃない。学校が休みで清々するって」

真姫「なんでにこちゃんに言わないといけないのよ」

にこ「たった一人の友達だからニコ☆」

真姫「と、友達くらい沢山いるわよ!」

にこ「真姫ちゃんにとってのじゃなくて、にこにとっての友達よ」

真姫「──え」

にこ「にこね、高校生になって直ぐにスクールアイドルを結成したの。でも、本気で頂点を目指してたのはにこだけ」

真姫「……」

にこ「二ヶ月で解散。その後、ちょっと色々あってね。嫌な噂が流れて、にこは学校では一人ぼっちニコ☆」

真姫「一人ぼっちニコってあなたねぇ」

にこ「えへへ♪ 空き教室に鍵が掛かってないからお手洗いでお弁当食べなくていいけどね」ニコッ

真姫「部室で食べればいいじゃない」

にこ「皆で食べてた頃を思い出すから、部室で食べる勇気がまだなくて」

真姫「」

にこ「にこが手に入れられるチャンスは一度だけだから。一人でも夢を諦めないの」

真姫「私には全く関係ない話ね」

にこ「そうね」

真姫「……私の通ってる中学って私立なのよ。だから妙にプライド高い連中が多くて」

にこ(少女漫画みたい)

真姫「その中でも一番癖のあるのが同じクラスでね。ウザくて押し切られて、家まで遊びにきて……」

にこ(真姫ちゃんは確実に押しに弱いみたいね)

真姫「それから何かと突っかかってくるようになったのよ」

にこ「嫉妬したってこと?」

真姫「そうみたいよ。体育では勝ってるけど、それ以外は劣ってるってやつがプライドを傷つけたみたいで」

にこ「でも、家に行ってショックを受けるってどんなのよ?」

真姫「別に普通よ。少し大きいってだけだと思うけど。もう《誰も家に呼ばない》って決めたわ」

にこ「ふぅん。私立だろうと国立だろうと嫌なやつはいるってことね」

真姫「まぁね」

にこ「でも、これで真姫ちゃんが初対面のにこと一緒にランニング始めた理由が分かったニコ☆」

真姫「別に運動で負けてることなんて気にしてないわよ!///」

にこ「真姫ちゃんは正直者で可愛いわねぇ」

真姫「////」

──8月29日

にこ「夏休みの宿題が終わらないにこぉ……」

真姫『そんなことを私に電話してどうするのよ』

にこ「真姫ちゃんって、頭良いのよね?」

真姫『二歳も下の中学生に勉強教えてとか言わないわよね?』

にこ「可哀想なにこを救って欲しいにこ~。まるっとラブニコ☆」

真姫『すっごい余裕あるみたいだけど……』

にこ「全然余裕がないのよ。宿題が終わらなくてシフトの方変えて貰って、それでも終わらなさそうなの」

真姫『もう少し早くから計画的にやってれば良かったでしょ?』

にこ「お叱りは後で全部受けるから!」

真姫『嫌な事を後回しにするから今みたいに困るんでしょ』

にこ「先生の心象悪くして一人しかいないことを理由にアイドル研究部を剥奪される訳にはいかないのよぉ」

真姫『……はぁ~。にこちゃんは本当に頼りにならないわね。仕方ないから今から言う通りに家まできなさい』

にこ「ありがとう! さっすがにこのマッキーにこ♪」

真姫『マッキーってなによ。変なこと言ってないできちんと道順覚えなさいよ』

──30分後 西木野邸

にこ(……予想以上に大きい。これはプライドが高ければ普通に自信なくすわね)

真姫「迷わずこれたのね。にこちゃんのことだから一時間くらい迷うんじゃないかと思ってたけど」

にこ「今の私に迷ってる時間はないの!!」クワッ

真姫「すごい理由ね。まぁ、いいわ。入って」

にこ「ありがとう、お邪魔します」

──真姫の部屋

真姫「ほら、ケーキも持ってきたあげたから。糖分摂取しなさい」

にこ「にこぉ~」

真姫「冗談かと思ったけど、本当に私が教える破目になるなんて」

にこ「……にこぉ」

真姫「今まで授業中に何をしてたのよ」

にこ「」

真姫「いつまでも凹んでないで食べなさいよ。紅茶が冷めるわよ」

にこ「……終わるかなぁ」

真姫「今のペースじゃ終わらないんじゃない」

にこ「にこの全てを掛けて終わらせるわ」

真姫「その前ににこちゃんが終わりそうな予感するけど」

にこ「甘いわ! 夢が掛かっている場面で、にこは決して諦めない!」

真姫「大事なのは決意じゃなくて結果よ」

にこ「……にこぉ」

真姫「くすっ。ケーキの御代わりならあるから、精々頑張りなさい」

にこ「うん」

真姫「でも、電話でも言ったけどもう少し早く言えばいいのに」

にこ「千里の道もいつか着くと思ってたの」

真姫「上手いこと言えてないわよ」

にこ「……そういえば、(こないだもう家には誰も呼ばないとか言ってなかった?)」

真姫「何よ?」

にこ「ううん、何でもない。このケーキ美味しいニコ♪」ニッコリ☆

真姫「摂取した糖分の分くらいは頑張りなさいよ」

にこ「ええ!」

──十八時四十五分

にこ「」

真姫「予定より大分進みが悪いわね」

にこ「」

真姫「しょうがない。今日はパパが帰ってこないから、家に連絡して泊まっていきなさい」

にこ「い、いや……。また明日来れば終わると思うし」

真姫「絶対に終わらないわよ」キッパリ!

にこ「っ!?」

真姫「それに、泊まると言っても夕食後にお風呂入ってから、二時間の仮眠を取ったら明日まで寝る暇はないわ」

にこ「ひぃぃ!」

真姫「七時に夕食だから、それまで特別に休んでて良いわ」

にこ「私帰る! 寝不足は肌荒れの原因なのよ!」

真姫「アイドル部を潰したくないんでしょ?」ガシッ

にこ「それはそれ。これはこれ! 私は矢澤家に帰るにこ~!」

真姫「私は結果を残せずに口だけは一人前の人間が大嫌いなのよ」

にこ「うぇ~ん! 真姫ちゃんのばかぁ~!」


この後、私矢澤にこは恐ろしい地獄を垣間見た。翌日も泊まり、二日間の睡眠時間は合計三時間半。

その甲斐あって、夏休みの宿題は全て終わり、アイドル研究部は無事存続出来た。

そして、秋になり。私と真姫ちゃん。

一人と一人だった私たちが絆で結ばれる実に些細で、でも忘れることの出来ない微妙に嫌な出来事が起こる。

結果を言えばμ'sの始まりはこんなにも単純だったと言える。

私達がこの出来事を他のメンバーに語るのは約十年後。

それまでは二人の秘密。

──秋分の日 公園

にこ「どうすれば真姫ちゃんみたいに歌が上手くなるのかしらね?」

真姫「にこちゃんは……」フイッ

にこ「どうしてそこで言葉を切って顔を背けるのよ!」

真姫「人には長所と短所があるから」

にこ「空を見上げながら誤魔化さないで!」

真姫「勉強なら最悪内容を理解しなくても暗記すればいいけど、歌は……ねぇ?」

にこ「音痴って訳じゃないんだからコツを掴めばいけるわ!!」

真姫「……ええ、そうね」ニコッ

にこ「何その子どもを見つめる母親の笑み!」

真姫「そんな怒鳴ってばかりだと喉を痛めるわよ。アイドル目指すなら喉を大切にしなさい」

にこ「誰の所為なのよぉ」

真姫「にこちゃんの所為でしょ?」

にこ「にこにはこの可愛い決め台詞があるからいいのよ」

真姫「嫌な予感しかしないけど」

にこ「にこにこにー♪ にこの笑顔は魔法の印。みんな笑顔にな~れ♪ にこにこにーでまるっとラブニコ☆」

真姫「どんどん意味不明になっていくわね。長ければいいって訳でもないでしょ」

にこ「ファンを喜ばせる為には努力を怠ったらいけないの」

真姫「『努力=台詞の長さ』って方程式が間違ってるって言ってるの」

にこ「真姫ちゃんはアイドルの何たるかを理解してないからよ」

真姫「アイドルのことなんて理解したくないわ」

にこ「ツレないわねぇ」

真姫「進む高校次第では私の音楽はあと一年ちょっとで完全におしまい」

にこ「……」

真姫「だから、最後の思い出としてにこちゃんに付き合ってあげてるだけだし」カミノケクルクル

にこ「……秋分の日とはいえ、まだまだ暑いわよね」

真姫「そうね」

にこ「それにしてもことわざって当てにならないわね」

真姫「何よ、当然」

にこ「人の噂も七十五日ってアレは嘘だったわ」

真姫「世間的な噂ならまだしも、閉鎖的な空間だと長続きするもの」

にこ「暇つぶしだとしても、真姫ちゃんがこうして一緒に練習してくれて助かってるわ」

真姫「……」

にこ「一人じゃ柔軟体操も出来ないから」

真姫「にこちゃんって寂しいわね」

にこ「新入生が入るまで勧誘は出来ないんだもの。仕方ないでしょ」

真姫「よくこんな小さい子をハブに出来るものね」

にこ「小さい言うんじゃないわよ!」

真姫「学校って本当に嫌なやつばっかり」

にこ「そんなことないわ。少なくとも……私の場合はみんなのことをきちんと把握してなかったのが悪いんだし」

真姫「にこちゃんって馬鹿に見えるけど、根は真面目ね」

にこ「なに失礼なこと言ってるのよ!」

真姫「夏休みの宿題」

にこ「……にこぉ」ショボーン

真姫「きちんと勉強しなさいよ」フフッ

にこ「そんなことはともかく、今は練習よ」

真姫「にこちゃんは誤魔化す時が露骨ね」

にこ「真姫ちゃんはダンスのステップが苦手だから、今日はそこを徹底的に──」
  「──あら? 話に聞いた時は嘘かと思いましたけど、こんな所で何をしてるんです?」

真姫「どうして、貴女がいるのよ」ギリッ

  「いいえ、西木野さんが貧乏学校の先輩とアイドルの真似事をしてると聞きまして」

真姫「わざわざ見に来るなんてよっぽど暇なのね」

  「ふふふっ。その言葉はそのまま西木野さんへ返します」

真姫「それで、何の用よ」

  「西木野さんの滑稽な姿を見せていただこうかと思いまして」

真姫「……」キッ!

にこ(こいつが真姫ちゃんが言ってた嫌な奴ね。なんとも典型的な嫌味キャラ)

  「まさかあの西木野さんがアイドルなんて物に興味があるなんて知りませんでした」

真姫「だったら何よ?」

  「ふふっ。いいえ、テストの点数が頭の良さと関係ない証明に思えたら可笑しくて」

真姫「なんですって?」

  「それとも遊んでいても将来は医者になれるとでも言うのかしら?」

真姫「貴女には関係ないことよ」

  「あら? 同じクラスで勉学に励む仲間として、愚かしい行為に身を染めていたら心配してしまいます」フフフ

真姫「どうして愚かって決め付けることが出来るのよ」

  「貧乏な人と一緒に居ると思考までお馬鹿になってしまうのかしら?」クスクス

真姫「今の発言取り消しなさい!」

  「あら、ごめんなさい。学友が居ない西木野さんにとっては唯一のお友達だったわね」クスッ

真姫「っ!」ギリッ!

  「まさか高校も今や意味のない歴史しかない音ノ木坂を受けるんですか?」

真姫「貴女には関係ないって言ってるでしょ!」

  「是非聞かせて欲しいですわ。学年一位の西木野さんがアイドルごっこの果てに音ノ木坂を目指すなんて素敵」フフ

真姫「私がどこを目指そうと関係ないわ!」

  「関係ありますわ。西木野さんは輪に入らない孤高の君ですが、皆が注目してますの」

真姫「だったら黙って注目してればいいでしょ。私達に関わらないで」

  「ふふふっ。わたくしは皆の意思を代表して会いに来たのです。そう邪険になさらないで下さい」

真姫「何が代表よ。ただ単に私が気に食わないだけでしょ」

  「どうしてそんな喧嘩腰なのかしら? やっぱり音ノ木坂なんかに通う人と関わると性格が汚れるのね」クスクス

真姫「何度も何度も! にこちゃんは関係ないでしょ!」

  「まぁっ! 名前で呼んでるだなんて……。嫉妬してしまいますわ」

真姫「見え透いた嘘ばかり並べて」

  「嘘なんて吐いたことありませんわ。育ちの悪い方と違って」フフッ

真姫「いい加減に──」
にこ「──はぁ~っ! 育ちが良い方が口が悪くなるのなら、私は育ちが悪くて良かったわ♪」

  「今、なんて言いまして?」

にこ「さっきまでの発言訳すとたった一言で纏められるわね。つまり届かない存在を地に引きずり込みたいんでしょ?」

  「見当違いの事を堂々と言い切るなんて怖いわ」

にこ「全て正解でしょ?自分より優れてる人間に対して努力で敵わないと諦め、最初から足を引っ張ることしか考えない」

  「なん、ですって?」

にこ「真姫ちゃんはあんたにとって偶像なのね。だから、汚す以外自分が勝る方法がない」

  「ふふふふ。冗談にもならない冗談は相手を不快にするってことも解らないんですのね」

にこ「真姫ちゃんはこうして私に付き合う暇があるのに、それでも追いつけないなんてとっても可哀想ニコ☆」

  「いい加減にしなさいよ。勝手な妄想吐き出して」

にこ「にこにこにー♪ 散々あんたが貧乏人って見下した私のことをあんたは将来TV越しに見ることになるのよ」

  「現実と妄想の区別も付かないんですの?」

にこ「見栄を張ることに精一杯で真姫ちゃんを陥れようとするあんたの発言も同じようなものでしょ?」

  「口が騒がしい人ですわね。もう少し考えて発言しなさい」

にこ「だったらあんたを支えてるプライドに訴えてあげる」

  「面白いこといいますわね」

にこ「あんたが真姫ちゃんに勝ってる部分って運動神経なんでしょ?」

  「少々感に触る発言ですが、運動神経なら絶対に負けませんわ」

にこ「つまり運動神経以外は全て負けてるってことは自覚してるってことね」フッフーン

  「貴女には全て勝ってますけどね」

にこ「私があんたに勝ってる部分ねぇ……。真姫ちゃんに勝ってる部分の運動神経を私が補うとして」チラッ

真姫「にこちゃん」

にこ「自分に誇れる夢を持ってるってところかしら」

  「貧乏人の語る夢? くすくすっ。それってただの現実逃避っていうやつですわね」フフン

にこ「夢なき人に私を否定させない!」

  「そういうのに縋るしかない生き方。今までそんな人種と交流がありませんでしたから新鮮ですわ」

にこ「ま、会話の一方通行しか出来ないあんたには結果を見せてあげるのが一番ね」

  「ふふっ。結果……ですか?」

にこ「自分より劣ってる運動神経の私にタッチしてみなさい。真姫ちゃんより運動神経上なら出来るでしょ?」

  「やる必要はありませんけど、夢とやらと一緒に砕いてさしあげます」

真姫「ちょっと、にこちゃん」

にこ「真姫ちゃんは黙ってみててくれればいいのよ。夢も運動神経もまるっとラブニコ★」

真姫「その台詞もポーズも場違いよ」フフッ

にこ「ルールはあんたの体力がなくなるまででいいわ。タッチ出来たらあんたの勝ち。出来なきゃあんたの負け」

  「始まって直ぐに触ってみせますわ」

にこ「あんたの言うところの、金持ちのプライドより貧乏人の夢の方が強いって証明してあげる。にこにこにー♪」

  「西木野さん。始めにもう一度だけ言って差し上げます。ご友人は選ぶべきですわ。いくらご友人がいなくても」クスッ

真姫「にこちゃんは私の最高の友達よ」

  「あらあら。貧乏人に完全に毒されて……。お可哀想に」クスクス

にこ「私を貶めれば貶める程に、負けた自分に反ってくるって考えないお天気頭ね」

  「貴女の言葉は本当に感に触りますわ。早く、始めましょう」

にこ「3M離れた場所からスタートしましょう。合図は真姫ちゃんお願いね」

真姫「ええ、分かったわ。…………スタート!」


──三分後...


  「はぁはぁはぁ」

にこ「もう息切れ? 真姫ちゃんより運動神経がいい割には大したことないのね」

  「はぁっ……はぁはぁ」

にこ「あんたは確かににこより頭も良いだろうし品性もあるんでしょうね。おまけに家もお金持ち」

  「そ……はぁはぁ。そうよ」

にこ「でもね、大切なのはそんな物じゃないの。夢を持ってるかどうかよ」

  「なにが夢よ。はぁはぁ……あんたの夢なんて何の価値もないわ」

にこ「私は誰に否定されても、嫌われても、夢だけは捨てない」

  「ただの強がりですわ」

にこ「あんたにはあるの? 本当に大切にしたい物なんて」

  「……」

真姫「本当に、大切にしたい物」ポツリ

にこ「大切な物を持たない、ううん……それを理解出来ないあんたの負けよ」ニッコリ

  「…………。貴女、名前はなんて言いましたっけ?」

にこ「矢澤にこよ。数年後、日本で知らない者がいないくらいのアイドルになってるわ」

  「くだらない戯言。ですがその名前は覚えましたわ。この借りは絶対に返しますから」

にこ「その時は私に相応しい人間になってることね」ニコッ

  「ふんっ! 今日という日を努々お忘れのないように。失礼するわ!」スタスタスタ...

にこ「頭に血が上ってて気付かなかったみたいだけど、あんな格好と靴で捕まえられる訳ないじゃない、ねぇ?」クスッ

真姫「にこちゃん」

にこ「こっちは動き易い服装に運動靴で、準備体操もバッチリにこ♪」

真姫「……にこちゃん!」ギュッ!

にこ「ど、どうしたのよ?」

真姫「ごめんなさい。私の所為で不快な思いさせて」

にこ「アレくらい可愛いものよ。アイドルなんてアンチ多いんだから」

真姫「でも、にこちゃんはまだアイドルじゃないでしょ」

にこ「……確かにもうスクールアイドルですらなくなっちゃったけど、さ」

真姫「ごめんなさい」

にこ「謝らないでよ。学校では一人だけど、こうして真姫ちゃんが居てくれるだけで救われてるんだから」

真姫「にこちゃん」

にこ「いつも言ってるでしょ? 一人だと柔軟体操だって出来ないんだから」

真姫「買わなくてもいい恨みまで買って」

にこ「にこは嫌われるのだけは慣れてるのよ」

真姫「嫌われるのが慣れてるなんて、どんな、アイドルよっ……ひっぐ、うそつき……うっうぅ」ギュー

にこ「だからにこは今はアイドルじゃ……。一人でアイドルしちゃいけないなんてルールなかったわね」セナカナデナデ

真姫「ひっぐ、うっぐ」

にこ「真姫ちゃんは優しい子ね。にこの為に泣けるんだもの」

真姫「ううっ、ひっぐ、うぅっ」

にこ「今日の練習はお休みとしましょう」

真姫「にこちゃぁん。うっく、ひっぐ」

にこ「せっかくの休日だもの、にこのバイトしてるメイド喫茶でパフェ奢ってあげる。特別よ?」

真姫「ひっく、ふたりで、いっしょにでたべるっ」

にこ「はいはい。本当はカップル限定だけど、頼んでみてあげるから」ナデナデ

──数日後 明朝 公園

にこ「いだだだっ! 真姫ちゃん痛いっ!」

真姫「柔軟体操なんだから我慢しなさいよ。にこちゃんは硬すぎなのよ」

にこ「強い! 強すぎだって、もうちょっと手加減して!」

真姫「アイドルになるなら妥協なんて禁物よ。そんな甘い考え、私がメスで刻んであげる」

にこ「にこぉ~~!」

真姫「それに眠気も覚めるでしょ?」フフッ

にこ「お陰で授業中にぐっすりにっぴぃっ! あだだだっ」

真姫「喋らないで空気をお腹に入れたままだと柔らかくなるらしいわ」

にこ「痛くてムリムリムリッ!」ヒィィ

真姫「ダンスをするならお腹が地面に着くくらいにならなきゃ駄目よ」

にこ「何で急にそっち方面の情報に精通してるのよぉ」

真姫「この私が一緒に練習するんだから完璧を目指して当然でしょ? だから勉強してるのよ」

にこ「嬉しいんだけど、違う意味で涙が出そうよ」ウルッ

真姫「次は私と交換よ」

にこ「……にこにこにー♪ 復讐の時、来るってことね!」ニタァ

真姫「私もにこちゃん同様固いから、お手柔らかにね」

にこ「同じようにしてあげるわ! ……ほらほら、全然九十度から前に倒れてないわよ?」

真姫「痛い痛いって! 私こんなに力入れてなかったわよ!」

にこ「十分入れてたわよ! 背中が壊れるかと思うくらいにね!」

真姫「待って待って、一旦押すのやめてぇ!」

にこ「聞く耳持たないわ。むしろソレって押してっていうフリよね?」フッフーン

真姫「違うわよ!」

にこ「勉強ばかりしてるからこんなに固いのよ。ほれほれ☆」

真姫「いったぁ~い。勉強してないにこちゃんだって固い癖に」

──三十分後...

にこ「あの子、今日も走ってるわね」

真姫「基本毎日走ってるんじゃない?」

にこ「どこかのスクールアイドルなのかしら?」

真姫「何でもアイドルと結びつけるんじゃないわよ。にこちゃんの悪い癖よ」

にこ「でもあの容姿で運動してたら普通アイドルと結びつけるわよ」

真姫「確かに美人ではあるわね。大和撫子って感じで」

にこ「にこもリボン解けば大和撫子ニコ♪」

真姫「それはないわね」キッパリ

にこ「ツッコミ早っ!」

真姫「にこちゃんは普段はぶりっ子キャラでしょ」

にこ「仕方ないでしょ。身長が全然伸びないんだから」

真姫「私は小さい方がにこちゃんらしいって思うけど」

にこ「真姫ちゃんとそんなに変わらないでしょ!」

真姫「私は身長も胸もこれから成長するもの」

にこ「にこだって成長するわよ!」

真姫「どうかしら? 高校一年の間に伸びるの止まったりして」

にこ「不吉なこと言わないでよ。本当になったらどうするのよぉ」

真姫「その時はぶりっ子のままでいればいいじゃない」

にこ「それで思い出したわ!」

真姫「何を?」

にこ「昨日新しいポーズ考えたのよ。こうやって両手をパーにした後に、中指と薬指を倒して、顔の横に持ってくるの」

真姫「確かになんかアイドルって感じよね」

にこ「左右を交互に上下させるのがポイントね。……にっこにっこにー♪」

真姫「///」

にこ「あれ、無反応。ダメだった?」

真姫「べ、別に……。いいんじゃない?」

にこ「でしょ? 鏡の前でやってみたけどベストポーズだと確信したわ」

真姫「ベストかどうかは知らないけど」

にこ「今度は真姫ちゃんもやってみて☆」

真姫「お断りよ!」キッパリ

にこ「ほらほら、にっこにっこにー♪」

真姫「しょうがないわね。…………。にっこにっこにー」カァァ

にこ「可愛い♪」

真姫「ヴェェェェ!!」////

にこ「さっすがにこの考えたポーズね。可愛いわ」

真姫「ッ!?」

にこ「あれ、どうしたの?」キョトン

真姫「なんでもないわよ、この馬鹿にこ!」

にこ「何を怒ってるのよ?」

真姫「なんでもないわ!」

にこ「まぁいいや。以前と違ってやってくれてありがとうニコ☆」

真姫「気まぐれよ///」

にこ「あぁ~真姫ちゃんってば赤くなってるにこ~♪」

真姫「にこにこ煩いわよ!」

にこ「あぁ~楽しい☆ でも、一人ぼっちも慣れないけど、誰かと一緒に居て楽しい気持ちも慣れないわね」

真姫「え?」

にこ「……また唐突に終わるのかもって思うと、ね」

真姫「見くびらないで。私はにこちゃんを苛めたりしないわ」

にこ「イジメられてはないけど」

真姫「丁度いいわ。にこちゃん約束して。にこちゃんが困ったら私が助けてあげる。だから私が困ってたら、助けてね?」

にこ「勿論いいわよ☆ にこが年下の真姫ちゃんに頼ることなんてないと思うけどね♪」ニッコリ

真姫「夏休みの宿題」

にこ「にこぉっ!?」

真姫「その調子じゃ来年もまた手伝うことになりそうね」フフッ

にこ「来年の夏って、真姫ちゃんは受験生なんだから受験勉強しないとダメよ」

真姫「……受験勉強が必要な学校だったらそうかもね。だから、必要ないわ」

にこ「ん?」キョトン

真姫「音ノ木坂は受験勉強とは無縁でしょって言ってるのよ///」

にこ「真姫ちゃん……え、音ノ木坂?」

真姫「そうよ。恥ずかしいんだから遠まわしで言った時点で気付きなさいよ!」カァァァ

にこ「本当なの!? でも、両親は絶対に反対するんじゃない?」

真姫「前に約束したでしょ? 説得してみせるわ」

にこ「大丈夫なの?」

真姫「平気よ。高校の間くらい自由にさせてもらうわ。スクールアイドルは高校生じゃないと出来ないことだし」

にこ「真姫ちゃん♪」パァァ

真姫「私はまだ中学生だから正式なスクールアイドルにはなれないけど、でもにこちゃんの仲間よ」

にこ「くすっ。じゃあ、非公式スクールアイドル。音ノ木坂研究部の立ち上げね!」

真姫「ええ、にこちゃんを決して一人になんかさせないから」

にこ「だったらにこは真姫ちゃんに音楽を諦めなくてもいい道を指してあげるいわ」

真姫「……」

にこ「夢は諦めちゃダメなの。諦めた時点で夢じゃなくなるんだから」

真姫「夢なき夢は夢じゃないっていうやつね」

にこ「そうよ」

真姫「……そうね。取り敢えず夢はまだないけど、今のところはにこちゃんの面倒でも見てあげるわ」

にこ「にこの方が真姫ちゃんより年上なんだからね!」

真姫「普段は全く頼りにならないけどね」クスッ

にこ「なんですってー!」

真姫「本当のことでしょ? もう少ししっかりして欲しいわ」

にこ「だったら今度バイトしてる時に店に来なさいよ。にこの働きぶりに驚くがいいわ」

真姫「そうね。ところでにこちゃんはどうしてバイトしてるの?」

にこ「パソコンとアイドルグッズが欲しいっていうのもあるんだけど、後に必要となる部員全員の衣装代よ」

真姫「衣装代って部費で賄えないの?」

にこ「うちの学校本当に貧乏で。実績のないアイドル研究部の部費なんて五千円よ」

真姫「五千円って、何も出来ないじゃない」

にこ「ま、出ただけマシと考えるべきよね。UTXの所為でかなり入学志望者減ってるし」

真姫「あそこは制服がお洒落よね。校舎もビルみたいで綺麗だし」

にこ「スクールアイドルの本場にしたいみたいでかなり力を入れてるわ。劇場があるくらいだからね」

真姫「相手のスペックなんて関係ない。こないだにこちゃんが証明したじゃない」

にこ「そうね。とにかく今は真姫ちゃんと練習あるのみ!」

真姫「体力作りもしないとだしね」

にこ「新メンバーは入学生を皮切りに目を付けてる同級生を勧誘してもらうの」

真姫「自分でしないところがにこちゃんらしいわ」ヤレヤレ

にこ「仕方ないでしょ。それより、真姫ちゃんは学校であの女に何か言われたりしてない?」

真姫「今までみたいに突っかかってこないし、大人しいものよ」

にこ「結果的にはあの女がいたから真姫ちゃんが音ノ木坂目指すって言ってくれたんだし、お礼言いたいくらい」

真姫「別れ際にあんなこと言った相手になんて暢気なこと言ってるのよ」

にこ「あの女の執念が本物ならいつか会いにくるでしょう」

真姫「そんな日がこないことを祈るわ」

執念は本物で、約十年という時を経て再会することになるのだけど、この時はそんなこと微塵も思っていなかった。

にこ「ま、いいわ。真姫ちゃんの苦手なダンスの練習をするわよ!」

真姫「私が苦手っていうのは言う必要ないでしょ!」

にこ「肩に力を入れずにリラックスよ」

真姫「にこちゃんの所為で力入ってるんでしょ。……まったく」

にこ「アイドルは笑顔じゃないとダメよ?」

真姫「はいはい」

にこ「にっこり笑顔で愛も未来もまるっとラブニコ♪」

真姫「こんなぶりっ子年上詐欺でも、いざという時に頼りになるのが癪よね」ボソッ

にこ「何か言ったニコ?」

真姫「なんでもないわよ!」

にこ「そう? だったら笑顔を見せてよ。ほら、笑顔になる魔法☆ にっこにっこにー♪」

真姫「あんなの二度もやらないからね!」///

にこ「え~真姫ちゃんのいけずぅ~」

一年目【一人ぼっちのアイドルと孤高の姫 ~始まりの歌~ 】終了!

次回の夢なき夢は夢じゃない!(事実と異なる場合があるんだって!)

二人きりの季節は巡り、春が訪れた。

本家主人公堂々の登場!

穂乃果「こっとりちゃ~ん! うっみちゃ~ん! おっはよー!」

真姫という最高の友達の支えもあり、学院内での孤独に耐え切ったにこ。

運命は大きく動き始める。

にこ「にこはこれからどこでお昼を食べればいいの?」ウルウル

真姫「部室で食べなさいよ」

にこは悪い噂と解散させてしまった負い目から、自分から動くことを躊躇してしまう。

そんな弱いにこを励ます真姫に背中を押され、新入生勧誘に動く!

そして、出会う。主人公同士の対面。

にこ「ねぇ、私と一緒にスクールアイドルやってみない?」

穂乃果「スクールアイドル?」

ことり「同じ高校の子が集まってアイドルみたいに歌ったり踊ったりする、部活動みたいなものだよ、穂乃果ちゃん」

海未「……あなたが噂の矢澤にこ、先輩ですか」

勿論、あの二人も運命に引き寄せられる。

絵里「是非生徒会にって言われても、私はそういう柄じゃないのよね」

希「ウチは似合ってると思うけど」

絵里「私は駄目よ。一度、逃げ出した人間だもの」

希「えりち」

絵里「それなのに、押しに弱いから。そろそろ承諾しちゃうんだろうなって思うわ」

希「難儀な性格やね」


穂乃果バースデーに最低のほのうみSS仕上げないとなので、次回はきっと8月3日くらい。

にこ「イケメンとか照れるにこぉ」

真姫「私には『なにあの乙女』とか『可愛い真姫ちゃんプリンセス』とかないってどういうこと!?」

にこ「まぁまぁ。現実はそんなものなのよ。にっこにっこにー♪」 つづく!

前回までの夢なき夢は夢じゃない!

あの秋の日を境に絆は深まり、唯一の持ち歌である『愛してるばんざーい!』を二人で練習。

にこは歌が苦手で、真姫はダンスが苦手。

お互いの苦手な点を直しながら時は流れる。

時に家族との交流を深めながら、時に喧嘩して。

絆を強いものにしながら練習は続く……。

完璧な形になったのは寒い冬を越えて桜の咲く季節。

そして、運命は大きく回り始めるニコ!

【プロローグ ~輝かしい高校生活の始まり~】

穂乃果「こっとりちゃ~ん! うっみちゃ~ん! おっはよー!」

ことり「おはよう、穂乃果ちゃん。今日はいつも以上に元気一杯だねぇ」

海未「おはようございます。ですが、その元気を少しは早起きに回して頂けると助かるのですが」

穂乃果「あははっ、ごめんね。ついつい楽しみで遅くまで眠れなくて」

海未「早く寝たところでほとんど同じ結果ではありませんか」

ことり「海未ちゃん。遅刻した訳じゃないんだからその辺で、ねっ?」

海未「それもそうですね。制服、似合ってますよ」ニコリ

穂乃果「えっへへー。そうかな?」

ことり「うん! とってもキュートだよ♪」

穂乃果「ことりちゃんも海未ちゃんも最高に似合ってるよ!」ニッコリ

ことり「ありがとっ♪」

海未「ありがとうございます。さ、早く行きましょう」

穂乃果「うん! でもいよいよ始まるんだね。ほのか達の輝かしい高校生活が!」

ことり「輝かしいかどうかは分からないけど、音ノ木坂に一緒に通えて嬉しいな」

海未「考え深い物がありますね。自分の母や祖母が通っていた学校にこうして通うことになるというのは」

穂乃果「そうだね。だったらほのか達の子どもも音ノ木坂に通うことになるのかな?」

海未「どうでしょう。大分人数が減っているという話を聞きますし」

ことり「そうだね。同じ中学の子もほとんどが他の高校に進学しちゃったもんね」

海未「私達が通ってた小学校も今は公園になってしまいましたし……」

穂乃果「二人共ダメだよ! 今日は新しい始まりなんだから。そんな暗い顔してちゃ。ほのかの元気分けてあげる」

ことり「そう、だね。穂乃果ちゃんに元気分けて貰っちゃう♪」

海未「くすっ。その元気を貰うと、頭が少し緩くなりそうですね」

穂乃果「緩くならないよー」プクー

海未「謝りますからそんなほっぺたを膨らませないでください」クスッ

ことり「穂乃果ちゃんのふっくらほっぺはマカロンより美味しそう」プニプニ

穂乃果「ぴゅあっ! ことりちゃんほっぺを突っつかないで~」

ことり「可愛い~♪」

海未「ほら、二人共。このままだと本当に遅刻してしまいますよ」

ことり「続きは歩きながらだね」

穂乃果「せっかく高校生になったんだし、何か新しいことにチャレンジしたいな!」

海未「新しいこと……。私は中学校ではなかった弓道部に入ります」

ことり「ことりはどうしようかな? 穂乃果ちゃんは何か部に入る?」

穂乃果「うーん、どうしよう? 家の手伝いもあるしなー。でも、何か面白いことがあればやりたいな」

海未「穂乃果は行動し始めると止められなくなりますから、色々と心配ですね」

ことり「穂乃果ちゃんが何か部に入るならことりも入ろうかなぁ」

穂乃果「じゃあ、どんな部があるか一緒に回ろうね」

ことり「うん!」

海未「二人に合う部というのが全く想像出来ませんが」

穂乃果「そうだなーお菓子部とかどうかな? お菓子を作ったり食べたりするの」

ことり「わぁ~楽しそう☆」

海未「料理部はあったとしても、お菓子部は絶対にありません」

穂乃果「ことりちゃんのクッキー食べ放題だと思ったのに」

ことり「……あれぇ?」

海未「全く新しい事にチャレンジしてないじゃないですか」

穂乃果「おぉっ! 盲点だったね」

海未「やれやれ。穂乃果は子どもの頃から変わりませんね」

ことり「そこが穂乃果ちゃんの魅力だけど」

海未「取り敢えず朝に弱いんですから、運動部は止した方がいいですよ」

穂乃果「ほのかも海未ちゃんみたいに朝に強ければなー」

海未「少しは精進なさい。朝少し遠くの公園まで走りに行ってますが、穂乃果より小さい子がよく練習してますよ」

穂乃果「早く起きられたとしても、朝から走るなんて無理だよー」

ことり「そうだね、朝から走ったらこけちゃいそう」

海未「二人共ダイエットの必要はないですが、適度な運動は必要ですよ?」

穂乃果「じゃあ、今日は帰ったら公園で追いかけっこでもしよっか!」

ことり「えぇー」

海未「この年で追いかけっこはなしです!」キッパリ

穂乃果「海未ちゃんが自分で運動した方がいいって言ったのにー」

海未「どうして『運動=追いかけっこ』なんですか」ハァー

ことり「でも懐かしいね。昔は皆と一緒に色んな遊びしたよね♪」

穂乃果「あの頃の海未ちゃんは誰に対しても恥ずかしがってたよねー」ニヒヒ

海未「そっ、そんなことありません///」

ことり「恥ずかしがり屋の海未ちゃんの為にも三人同じクラスになれるといいよね」

海未「ことりまで乗らないで下さい!」

穂乃果「あははっ。でも、ことりちゃんの言う通り、同じクラスになれるといいね」

海未「そうですね」

二年目【スクールアイドルを集めよう!】

にこ「真姫ちゃん……。空き教室全てに鍵が掛かってた」ズーン

真姫「挨拶より先にそんなこと言われても困るんだけど」

にこ「にこはこれからどこでお昼を食べればいいの?」ウルウル

真姫「部室で食べなさいよ」

にこ「でも、ほら……ねぇ?」

真姫「にこちゃん。アイドルはメンタルが強くないとなれないのよ?」

にこ「だけどぉ」

真姫「一年近く前のことでしょ。今はほら、私が居るじゃない」///

にこ「どうして真姫ちゃんは二歳も年下に生まれてきたのよ!」クワッ

真姫「理不尽なこと言わないで!」

にこ「不吉だわ。やる気を奪われたにこぉ~」

真姫「新入生を部に引き込むんだって、あれだけ息巻いてたじゃないの」

にこ「アイドルは過去は振り返らないの。振り返るのは引退した後だけ」

真姫「ただの逃げ道として使ってるだけでしょ」

にこ「……正直言うとね、去年のあの噂が消えてなくて。勧誘していいのかどうか悩んでるのよ」

真姫「していいに決まってるじゃない。にこちゃんは何も悪くないんだから」

にこ「真実はそうでも、現状証拠があるから……ね」シュン

真姫「だったらアイドルグッズを処分──」
にこ「──それは絶対に無理よ!」キリッ!

真姫「じゃあ、家に持って帰るとか?」

にこ「妹達と同じ部屋なのよ。だから物とか多く置いておけないの」

真姫「だったら気にせず誘うしかないでしょ」

にこ「いざとなるとね、やっぱり怖いのよ。また離れていっちゃうんじゃないかと思うと」

真姫「その割りに私の時はかなりしつこかったわよ?」

にこ「真姫ちゃんは不思議と大丈夫って気がしてね。運命ニコ♪」

真姫「嫌な運命ね」////

にこ「それに、元々にこって自分から行動するタイプじゃないし」

真姫「それは嘘ね。すっごい行動派じゃない」

にこ「本当よ」

真姫「アイドル研究部だってにこちゃんが同級生集めて部にしたんでしょ?」

にこ「やっとスクールアイドルになれると思ったらテンションが上がってたから」

真姫「面倒な性格してるわね」

にこ「……恐怖ってどうすれば無くなるのかしら?」

真姫「恐怖はどうなったって無くなったりしないわよ」

にこ「そうよね」

真姫「それに、私は──」プイッ

にこ「言い掛けて何で顔を背けるの?」

真姫「──にこちゃんは恐怖に立ち向かえる人だって信じてるわ」カァァァ

にこ「」

真姫「な、何か言いなさいよ」

にこ「ありがとうニコ♪ 真姫ちゃんの信頼に応えないとアイドル以前に友達失格ね!」

真姫「そうよ。これでテンション上がったでしょ?」///

にこ「え、どうして?」キョトン

真姫「なんでもないわよ! ほら、さっさと準備体操するわよ」ムスッ

にこ「なんだか今日の真姫ちゃんは気合が違うわね」

真姫「ほら、早くする! にこちゃんは小さいんだから、人一倍体力付けなさい!」

にこ「くっ! にこより5センチも背が高くなったからって……くぅ~!」←153cm

真姫「悔しかったら成長することね」フフン

にこ「にこだってまだ成長が止まった訳じゃないんだから」

真姫「出会ってからの約一年間で何センチ伸びたんだっけ?」

にこ「……1センチよ」

真姫「もう成長は止まってるか後もうちょっとだけ伸びるかよね」

にこ「そんなことないわ! これからよ、これからグーンと伸びるのよ!」

真姫「グーンと伸びるのはこの私。最終的には170になるんじゃないかしら?」フフッ

にこ「ぐぬぬぬ……。以前より説得力が増したわ」

真姫「そうなると17センチも差があるから頭撫で易いわね」

にこ「ふーんっ」

真姫「ふふっ。ま、医者に身長なんて必要ないんだけど」

にこ「まだ夢を見つけてないんだから、医者になるとは限らないでしょ?」

真姫「どれだけ私の決まっている未来を壊したいのよ」

にこ「壊すなんて物騒なことアイドルのにこがする訳ないニコ♪」

真姫「思い切り私の医者という未来を壊しに来てる癖に」

にこ「えぇ~にこ分からな~い★」

真姫「……取り敢えず、にこちゃんにアドバイスしてあげる」

にこ「アドバイス?」

真姫「相手は後輩になるんだから勧誘する時はもう少しぶりっ子を抑えた方がいいわ」

にこ「そ、そうかしら? ほら、親しみあると思うんだけど」

真姫「全然! むしろ普通は引くわよ」

にこ「でも真姫ちゃんは全然引かなかったじゃない?」

真姫「興奮してて一人称が名前くらいしかぶりっ子してなかったわよ」

にこ「あぁ……そういえば。ほら、私の好きなアイドルくらい素敵な歌声が聞こえてきて興奮してたのよ」///

真姫「そ、そう」////

にこ「でも『愛してるばんざーい!』は二人で踊れるようにもなったわね!」

真姫「初めてだったから大分時間掛かったけどね」

にこ「コツさえ掴んだんだから次からはもっとスムーズにいけるわ」

真姫「とはいえ、作詞が問題よね。にこちゃんには誰でも出来ると言ったけど、アイドルっぽい曲となると考え付かないし」

にこ「にこも作詞はしたことないというか、ああいうのはどうしてもセンスが物を言うから」

真姫「そうね。それににこちゃんに任せたら『にこにこ』しか言わなそうだもの」

にこ「はぁ~。前途多難よね」

真姫「そういう弱気はまずはメンバーの数を増やしてからにしてよ」

にこ「うん、新しいメンバーに作詞できる子がいるかもしれないものね」

真姫「同級生には目をつけてる人が居るって言ってたけど、新入生はどうなの?」

にこ「いい格言があるわ。明日から頑張る!」

真姫「はぁ~。前途多難ね」ヤレヤレ

にこ「……にこぉ」

真姫「ま、怖くなったら私がこうしてにこちゃんの背中を押してあげるから」

にこ「ひゃうっ! いきなり押さないでよ!」

真姫「私が居ない時でも今の感覚を忘れないで。勇気の一歩を踏み出して」

にこ「うん、頑張ってみるわ。私は部長だもんね」

──翌日 火曜日 音ノ木坂学院 一年生の教室前

人数が少ないからこれぞって子に出会える確立も低いのよね。

なんせ今年の新入生はたった二クラス。

それに、スクールアイドルを目指すような子はUTXに進学するもの。

無理に誘っても去年の二の舞を演じるだけだし。

というか、真姫ちゃんみたいな子が早々居るわけないのよねぇ。

穂乃果「これなんてどうかな? オカルト研究部っていうの」

海未「穂乃果、オカルトがなんだか分かってますか?」

穂乃果「ううん。だけど面白そうじゃない?」

ことり「はぁん」ガクリ

海未「オカルトというのはつまりは怖い話とか不思議なものとかそういう類です」

穂乃果「んー、面白そうだけど三年間ずっとっていうのは飽きちゃいそうかなー」

ことり「ことりもオカルトはちょっと」

海未「部活紹介はまだ先ですから、そんな焦って決めなくてもいいと思いますよ?」

穂乃果「えぇー! ダメだよ。せっかくの高校生だもん。早めに新しいことしたい」

ことり「でもこれぞっていうのがないね」

海未「無理やり始めてみて直ぐに飽きてしまったら意味がないんですよ」

穂乃果「分かってるから悩んでるんだよ」

ことり「ことりは別に帰宅部でもいいと思うけど」

穂乃果「何か感じたんだけどなぁ。胸がグッと熱くなるような、そんな可能性」

ただ廊下の掲示板に張り出された部活勧誘のポスターを見ているだけ。

それなのに三人の中心にいる人物に目が釘付けになった。

容姿で言えば真姫ちゃんや同級生で目をつけてる二人の方が上。

だけど、自然と惹き付けられる魅力が確かに存在していた。

私が望んでも決して手に入れることの出来ないカリスマ性。

無意識に唇を強く噛み、手の平に爪を立てていた。

『にこちゃんは恐怖に立ち向かえる人だって信じてるわ』

思わず僻んでしまいそうになる自分を諌めたのは、真姫ちゃんの信頼の言葉。

身体から力を抜いて二度程深呼吸。

それと同時に覚悟を決める。

こんなにも嫉妬してしまうくらいの逸材は他に居ない。

去年の事、流された噂、臆病になりそうな一歩目。

だけど、ここには居ない真姫ちゃんが笑顔で背中を押してくれている。

優しい温もりを確かに感じながら一歩目、恐れのなくなった二歩目と踏み出してその子に近づく。

にこ「ねぇ、そこのオレンジ髪の子。私と一緒にスクールアイドルやってみない?」

穂乃果「え、私?」

にこ「そう、あなたよ。私は二年の矢澤にこ。音ノ木坂学院アイドル研究部の部長をしてるの」

穂乃果「スクールアイドルってなに?」

ことり「スクールアイドルっていうのは、部活でアイドルみたいに歌ったり踊ったりする人達のことだよ」

穂乃果「歌に踊りねぇ。私アイドルとか興味ないからなー」

にこ「凄いアイドルになれるって私が保障するわ!」

海未「──あなたが《あの噂》の矢澤にこ、先輩でしたか」

にこ「……あ」

その時、今まで黙っていた子が口を開いた。

興奮が一気に冷めて、表情が強張ったのが自分でも感じられた。

あの噂が示す意味は嫌という程実感している。

恐る恐るその言葉を発した子の顔を見た。

名前は知らないけれど、朝あの公園で走っているのをよく見かける大和撫子。

年下であったことへの驚きは恐怖で固まった思考に届かない。

ことり(アイドルと言えば可愛い衣装だよね! 自分で作って、それを穂乃果ちゃんに着せられるんだよね♪)

穂乃果「あの噂?」

ことり「穂乃果ちゃん!!」

穂乃果「ひっ! ど、どうしたのことりちゃん。ちょっとビックリした」

ことり「やろうよ、スクールアイドル!」キラキラ

穂乃果「え、ことりちゃんはアイドルとか好きだったっけ?」

ことり「興味が持てないんだったら、取り敢えず見学してみようっ。それで良さそうだったら是非っ!」

海未「……」

穂乃果「う、うん。ことりちゃんがそこまで言うならそうしようかな」

ことり「ありがとう、穂乃果ちゃん♪」

穂乃果「そういえば海未ちゃん。噂ってなんのこと?」

海未「いえ、心無い噂を流す人も居るものです。努力している人間を影で嘲笑ったり、最低ですね」

穂乃果「へ?」
ことり「ほぇ?」

海未「スクールアイドルですか。二人共可愛いですからいいんじゃないですか」

穂乃果「えぇー! もしやるなら海未ちゃんも一緒にやろうよ」

ことり「そうだよ。三人一緒が一番だよぉ」

海未「入学式の日にも言いましたが、私は弓道部に入るので」

穂乃果「それもそっか。でも、やるなら一緒がいいのに」

ことり「掛け持ちだって海未ちゃんなら出来ると思うよ」

海未「矢澤先輩」

にこ「え、あ、うん?」

海未「取り敢えず入部には少し早いですが、見学をさせてもらってもよろしいですか?」

にこ「い、いいわよ」

穂乃果「じゃあ今日の放課後にでもさっそく見せてもらおう!」

にこ「ええ」

思考が追いついたのは、そのままお互いのクラスと名前を教え合い、別れて教室に戻って自分の席に座った後。

噂を知っていながら公園の大和撫子、園田海未という少女は私を信じてくれた。

そのことを実感出来た時、授業中なのに泣きそうになった。

真姫ちゃん、私はやったわよ!

授業の終わる頃にもう一つ気付いたことがあった。

学院内で生徒と会話したのって随分と久しぶりだったなって。

──同日 放課後・公園 にこと真姫 会議中

にこ「ということで、電話で話した通りにこっ!」

真姫「こうも順調に行くと逆に怪しいんだけど」

にこ「人を疑うのはよくないわ」

真姫「にこちゃんは状況が状況なんだからもうちょっと人を疑いなさいよね」

にこ「あんな風に自分を鍛えられる子が人を嵌めたりしないわ」

真姫「只でさえ部室でご飯食べるのもトラウマなのに、今度は一年生の教室に行けなくなるわよ」

にこ「アイドルは人が好きだからなるのよ」

真姫「そのアイドル理論とにこちゃんの心が伴ってないから心配してるんでしょ」

にこ「うっ……。だ、だけどね。あの子達は大丈夫だって感じるの」

真姫「お得意の運命っていうやつ?」

にこ「ううん、妹達と根っこの部分が似てる気がして」

真姫「ココロちゃんとココアちゃんに?」

にこ「うん」

真姫「つまり運命を感じたのは私だけってことね」ポツリ

にこ「え?」

真姫「な、なんでもないわよ!」///

にこ「そういうことだから。疑うのは一旦止めてくれる?」

真姫「分かった。でも、何かあったら私がにこちゃんを守るからね」

にこ「大げさねぇ。世の中そんな悪い人はいないわよ」

真姫「激しく不安だけど『愛してるばんざーい!』を披露すればいいのよね?」

にこ「ええ、今日はお客さんが居るから緊張しないように」

真姫「緊張なんてしないわよ。ピアノのコンクールを一度観に行く? 観てる方も緊張するわよ」

にこ「そういう上品な趣味はないから遠慮しておくわ。さ、身体慣らしていくわよ!」


にこ「待たせてごめんね」

ことり「あれ? 衣装はないんですか?」

にこ「可愛い衣装に興味あった? ごめんね、ただ作るのと構想してから作るのって全然別物で」

ことり「じゃあじゃあ、入部したら私が考えた衣装を作ってもいいですか?」キラキラ

にこ「衣装作りとか出来るの!?」

ことり「はいっ! 将来は装飾系の職業目指してます」

穂乃果「ことりちゃんは昔から指先が器用なんですよ!」

真姫(話の流れが出来すぎてる。かなり怪しいわね)

にこ「素晴らしいわ! 是非入部して欲しい逸材ね」

ことり「えへへっ♪」

にこ「取り敢えずは私と西木野真姫ちゃんでスクールアイドルがどういうものか見せるから」

真姫「といっても私は正規のメンバーじゃないんだけど」

にこ「ここでは関係ないわ。じゃあ、いくわよ──」

にこまき「愛してるばんざーい!」

──同日 放課後・公園 にこと真姫 会議中

にこ「ということで、電話で話した通りにこっ!」

真姫「こうも順調に行くと逆に怪しいんだけど」

にこ「人を疑うのはよくないわ」

真姫「にこちゃんは状況が状況なんだからもうちょっと人を疑いなさいよね」

にこ「あんな風に自分を鍛えられる子が人を嵌めたりしないわ」

真姫「只でさえ部室でご飯食べるのもトラウマなのに、今度は一年生の教室に行けなくなるわよ」

にこ「アイドルは人が好きだからなるのよ」

真姫「そのアイドル理論とにこちゃんの心が伴ってないから心配してるんでしょ」

にこ「うっ……。だ、だけどね。あの子達は大丈夫だって感じるの」

真姫「お得意の運命っていうやつ?」

にこ「ううん、妹達と根っこの部分が似てる気がして」

真姫「ココロちゃんとココアちゃんに?」

にこ「うん」

真姫「つまり運命を感じたのは私だけってことね」ポツリ

にこ「え?」

真姫「な、なんでもないわよ!」///

にこ「そういうことだから。疑うのは一旦止めてくれる?」

真姫「分かった。でも、何かあったら私がにこちゃんを守るからね」

にこ「大げさねぇ。世の中そんな悪い人はいないわよ」

真姫「激しく不安だけど『愛してるばんざーい!』を披露すればいいのよね?」

にこ「ええ、今日はお客さんが居るから緊張しないように」

真姫「緊張なんてしないわよ。ピアノのコンクールを一度観に行く? 観てる方も緊張するわよ」

にこ「そういう上品な趣味はないから遠慮しておくわ。さ、身体慣らしていくわよ!」


にこ「待たせてごめんね」

ことり「あれ? 衣装はないんですか?」

にこ「可愛い衣装に興味あった? ごめんね、ただ作るのと構想してから作るのって全然別物で」

ことり「じゃあじゃあ、入部したら私が考えた衣装を作ってもいいですか?」キラキラ

にこ「衣装作りとか出来るの!?」

ことり「はいっ! 将来は装飾系の職業目指してます」

穂乃果「ことりちゃんは昔から指先が器用なんですよ!」

真姫(話の流れが出来すぎてる。かなり怪しいわね)

にこ「素晴らしいわ! 是非入部して欲しい逸材ね」

ことり「えへへっ♪」

にこ「取り敢えずは私と西木野真姫ちゃんでスクールアイドルがどういうものか見せるから」

真姫「といっても私は正規のメンバーじゃないんだけど」

にこ「ここでは関係ないわ。じゃあ、いくわよ──」

にこまき「愛してるばんざーい!」

──お披露目中 ことほのうみ

ことり「ふぁ~。思ってた以上に本格的」

穂乃果「すっごいね」

海未「日々の練習の賜物でしょうね」

穂乃果「すっごく綺麗で、キラキラしてる!」

ことり「これで可愛い衣装着てたらもっとキラキラするんだよっ」

海未「穂乃果、ことり。入部をするなら弛まぬ努力を約束する必要がありますよ」

穂乃果「剣道はやり切った気になって中三の大会で終わりにしたけど、やってみたい」

ことり「ことりも頑張りたい」

海未「そうですね、二人共やる気になれば何でもやれますからね」フフッ

穂乃果「それにしても凄いね。ダンスもそうだけどこの歌自体もダンスしてるみたい」

ことり「本当に。にこ先輩をまるで真姫ちゃんがリードしてるみたい」

海未「ダンスの方では矢澤先輩が西木野さんをリードしていますね」

穂乃果「これがスクールアイドルなんだ」

ことり「穂乃果ちゃん。ことりと一緒にスクールアイドルして欲しいなぁ」

穂乃果「うん! 穂乃果もことりちゃんとスクールアイドルやってみたい!」キラキラ

海未「絶望する前に言っておきますが、穂乃果あの二人は普段朝早くからこの公園で練習をしてますよ」

穂乃果「……ことりちゃん。頑張ってね」

ことり「諦めちゃ駄目だよ。毎朝穂乃果ちゃんのこと起こしに行くから、おねがぁい♪」

穂乃果「そうだね。こんなことで挫けてちゃダメだね。このときめきを私も表現したい」

ことり「穂乃果ちゃん♪」

穂乃果「海未ちゃんも一緒に入ろうよ。海未ちゃんは凛々しいから絶対に人気出るよ」

海未「なっ、何を言うんですかっ。私には弓道があるんですから、アイドルなんて絶対になしです!!」////

穂乃果「えぇ~。絶対に似合うのに」

ことり「剣道の時と違って久しぶりに三人一緒に大きなことを出来るって思ったのになぁ」

海未「クラスが同じなのですから、学園祭で一緒に何か出来ますから」

ことり「そういうのとはちょっと違うんだけどなー」

穂乃果「穂乃果とことりちゃんがスクールアイドルになってから、海未ちゃんもやりたくなったりするかもだよ」

海未「ありえません、そんなこと!」

──お披露目終了!

にこ「楽しそうに雑談してたけど、期待はずれだった?」

穂乃果「逆です。とっても凄かったから、海未ちゃんも一緒にって誘ってたくらいです」

ことり「断られちゃったけど、私と穂乃果ちゃんは一緒にやらせてもらいたいです」

真姫(……にこちゃんの言う通り、なんかココロちゃんとココアちゃんに通じる雰囲気があるわね)

にこ「本当!? やった。これでメンバーが四人にこっ♪」

海未「アイドルのことはよく分かりませんが、とても素晴らしい踊りでした」

穂乃果「海未ちゃんのお家はね、家元なんだよ。だから日舞も出来るの」

真姫「ふぅん」

にこ(是非ともスクールアイドルに欲しい人材だけど、焦りは禁物ね)

ことり「とっても綺麗なんですよ」

海未「私自身はまだまだですから」

にこ「そうだ。アイドル研究部にも入部してくれるってことでいいのよね?」

ことほの「はい!」

にこ「だったら部長のにこから1つだけルールがあるんだけど、いいかしら?」

真姫「にこちゃん。ルールって何よ?」

にこ「という風に、にこと真姫ちゃんはこういう風に接してるから、グループ内での敬語や先輩付けはなしにしましょう」

ことり「え、でも……。それは学校内だとまずいんじゃ?」

穂乃果「そうだよね。他の人が見たらにこ先輩が舐められてるみたいに思われちゃうんじゃないですか?」

にこ「そんな些細な心配しないでいいわ。それに、悪いんだけど活動場所はこの公園が主になるから」

真姫「私の所為でね」

ことり「そっか。真姫ちゃんはまだ中学生だから」

にこ「改めてそれでもいいって言ってくれるなら、どうか私たちのメンバーに入ってください!」

穂乃果「うん、分かった。私入るよ。にこちゃん、真姫ちゃん」

ことり「私も当然入るね。えっと……その、にこちゃん。真姫ちゃん」

にこ「これから一緒によろしくね」

真姫「最初に言っておくけど、にこちゃんを苛めるようなことしたら許さないからね」

穂乃果「先輩を苛めるなんてしないってば」

ことり「そもそも先輩じゃなくても苛めなんてしないよ」

海未(噂のことはことりの耳にだけ入れておいた方がいいようですね。穂乃果に言えば一騒動起こしそうですし)

にこ「取り敢えず細かいことは後々説明していくわ。携帯の番号とメルアド交換していいかしら?」

穂乃果「勿論だよ。部室もあるんだよね? そこも見たいから後で何処にあるか教えてね」

にこ「ええ、教えるわ。明日の放課後して欲しいことがあるからまずは部室に来て」

真姫「私は?」

にこ「いつもよりちょっと遅れるけどここに来るから安心して」

真姫「ならいいけど。で、何をさせるつもりなの?」

にこ「能力差があると新しく入った人のやる気を削ぐ可能性があるから、気になってる同級生二人を狙っていくわ」

真姫「なるほどね」

にこ「ただ、私の噂が二年生が中心だから。入ってくれる可能性が低いのが問題ね」

真姫「……にこちゃん」

──水曜日 三年生の教室 絵里

会長「是非絢瀬さんには生徒会に入って欲しいのよ」

絵里「私よりも生徒会に相応しい生徒は居ると思います」

会長「いいえ、貴女以上に相応しい生徒は居ないわ」

絵里「すいません。もう少しだけ考えさせて下さい」

会長「また来るわ。この学校の為に、真剣に考えてみてね。失礼するわ」スタスタ...

にこ「……」ササッ


絵里「是非生徒会にって言われても、私はそういう柄じゃないのよね」

希「ウチは似合ってると思うけど」

絵里「私は駄目よ。一度、逃げ出した人間だもの」

希「えりち」

絵里「それなのに、押しに弱いから。そろそろ承諾しちゃうんだろうなって思うわ」

希「難儀な性格やね」

絵里「誰か代わりに生徒会に入ってあの会長さんを説得してくれないかしらね」

希「やる気があるなら去年の内に入ってるだろうし、難しいんじゃないかなぁ」

絵里「そうよね。困ったわね」

希「何か都合悪いことでもあるん?」

絵里「この春からロシアに居た妹が両親より先にこっちに引っ越してきたのよ」

希「えりちに妹さん居たんだ」

絵里「ええ。中学生になったばかりなんだけど、すっごい可愛いのよ」

希「以外にシスコンっと」

絵里「何か言った?」

希「なんも言ってないよ」

絵里「本当なら来年の春を予定してたんだけどね、お姉ちゃんっ子だから」ニコニコ

希「えりち、顔が蕩けてるよ」

絵里「いけないいけない。まだ日本に慣れてないから心配なのよ」

希「生徒会と言っても毎日遅くまでということはないとは思うけど」

絵里「それでもよ! 何かあった時に傍に居たいじゃない」

希(お姉ちゃんっ子の真相はともかく。えりちはけっこうなシスコンみたいやね)

絵里「日本語も読めるし、喋れるんだけどちょっと問題があるから」

希「問題?」

絵里「先日も自動販売機が珍しいらしく、ジッと睨めっこしててね」

希「ロシアと日本じゃ文化の違いも多そうだね」

絵里「文化以前にね、あの子ったら『あたたか~い』って使うようになっちゃって」

希「それは、また……。随分と天然入ってる」

絵里「そうなのよ。注意しても直ぐに戻っちゃって。色々と心配だわ」

希「今度ウチにも紹介して欲しいわ」

絵里「ええ、機会があれば是非紹介するわ。早くも朝の占いに興味津々だから占ってあげて」

希「ふふふっ。勿論いいよ」

絵里「で、訊きたいんだけど。占いのラッキーアイテムってどうすればいいの?」

希「どうって?」

絵里「持ってればいいの? それとも使えばいいの? 訊かれたんだけど答えられなくて」

希「TVの占いは正直適当だから。一般的に家庭にある物、もしくは手軽に購入出来る物をピックアップしてるだけやし」

絵里「なんだ、そうなのね。だったら持ってるだけで効果があるって伝えておくわ。ありがとう」

──同日 放課後 部室

にこ「昨日言ったけど、穂乃果に重要なミッションを与えるわ!」

穂乃果「ミッション?」

にこ「同級生で目をつけている二人の内一人が、生徒会に勧誘されてるのを目撃したの」

ことり「まるでスパイ映画の取引現場を目撃したみたい♪」

穂乃果「にこちゃんカッコ良い!」

にこ「はいはい、ありがとう。真面目に聞きなさいよ」

ことほの「は~いっ」

にこ「生徒会とスクールアイドルの掛け持ちは流石に難しいと思う。だから、生徒会に入る前に引き込むわ!」

穂乃果「それと私のミッションに何の関係があるの?」

にこ「察しが悪いわねー。つまり、絢瀬絵里という二年生を引き抜いてきて欲しいのよ」

穂乃果「えぇ~! にこちゃんの同級生なんだったらにこちゃんが適任じゃない」

ことり「……あっ」

ことり(昨日海未ちゃんが帰りに教えてくれたにこちゃんの悪い噂。その所為で自分で動けないんだ)

ことり「私も穂乃果ちゃんが良いなって思うなぁ」

穂乃果「ことりちゃんまで!?」

にこ「にこには真姫ちゃんとことりの指導があるから」

穂乃果「あ、そっか」

ことり「穂乃果ちゃんは剣道してたから、体力作りは後からでも平気だよね?」

にこ(ことりは機転が利く上に優しくていい子ね。正直助かるわ)

にこ「あの様子だと押しに弱そうだから、穂乃果の魅力でプッシュして即陥落が理想ね」

穂乃果「私の魅力って言われても困るんだけど」

ことり「穂乃果ちゃんは誰よりも魅力的だよっ!」

にこ「自分のカリスマ性を理解出来れば立派なアイドル目指せると思うわ」

穂乃果「将来は家を継ぐからアイドルにはならないけど、二人がそういうならやれる気がしてきたよ」

にこ「ありがとう。ただ、渡せる情報が少ないのよね。クラスと見た目くらいで」

ことり「穂乃果ちゃんは昔から誰とでも仲良くなれる才能があるから」

穂乃果「超恥ずかしがり屋さんの海未ちゃんとも仲良くなれたし」

にこ「きちんと相手の意思だけは尊重してよね。仲良くなって強引にってのはなしよ?」

穂乃果「そんなことしないよー」

ことり(ちょっとだけしちゃいそうな気がするなぁ)

にこ「それとね、運が良いことにもう一人狙ってる生徒が絢瀬絵里の友人だったのよ」

穂乃果「だったらその人も一緒に勧誘した方がいいのかな?」

にこ「それが出来れば万々歳だけど、軽くアプローチだけでいいわ。まずは絢瀬絵里」

穂乃果「うん、分かった。それで、その友人の名前は何て言うの?」

にこ「東條希。胸を見ちゃダメよ。あれはちょっとイラッとするわ」

ことり(にこちゃんのバストはぁ……70くらいかな?)

穂乃果「取り敢えず絢瀬先輩が生徒会に入る前に入部して貰えればいいんだよね?」

にこ「ええ、タイムリミットは短いと思う。だから無理なら無理で仕方ないから」

穂乃果「分かった!」

にこ「金髪でファッション誌の読モやっててもおかしくない見た目だから一発で分かるわ」

穂乃果「それなら目立つね。じゃあ、私は取り敢えずスカウトに行ってくるよ」

にこ「居ても居なくても昨日の公園で練習してるから。着替えは女子トイレ。それが嫌ならにこの家が近いから案内するわ」

穂乃果「了解だよ!」

ことり「穂乃果ちゃん。がんばってね♪」

穂乃果「うん! 頑張ってくるよ。いってきま~す」タッタッ...

ことり「いってらっしゃい」

にこ「気をつけてね。……さて、ことり。まずは体力作りが主になるわ」

ことり「うん」

にこ「衣装の構想は全部任せることになっちゃう。もし、負担に感じたら微力ながら手伝うから言ってね」

ことり「それは絶対に大丈夫っ」ニッコリ

にこ「製作の方なら力になれると思うから、遠慮なく言ってね」

ことり「ありがとう。でも、作るのも大好きだから時間が足りない時以外は大丈夫かなぁ」

にこ「見た目に反して以外に意思が強いわね」

ことり「くすっ。そうじゃなきゃ穂乃果ちゃんの幼馴染は務まりません」ドヤァ

にこ「なんでそこでドヤ顔になるのか分からないけど、意思の強さはアイドルにとって大事なことよ」

ことり「他に大事なことってあるのかな?」

にこ「まずはサインね。ことりは名前に鳥が付いてるから可愛い鳥っぽいサインとかがいいかもしれないわ」

ことり「スクールアイドルでもサインって必要なんだ」

にこ「まぁね。後は可愛いポーズかキャラ性があれば尚良しね。それに変わるインパクトでもいいけどね」

ことり「色々あるんだね。でも、可愛い衣装作ったり、穂乃果ちゃんに着せたりする為にがんばるっ!」

にこ「……まぁ、動機は個人によりけりだものね。さ、真姫ちゃんが痺れ切らす前に公園に行きましょう」

──三年生教室 絵里

絵里「希、悪いわね。手伝って貰えて助かるわ」

穂乃果(クラス聞き忘れちゃったけど、三年生は三クラスだし残ってるなら簡単に見つかるよね)

希「いいんよ。しかし、えりちは本当に頼まれたら弱いんだね」

絵里「自覚してても直せないから性格って厄介よね」

穂乃果(あっ、あの人だ! 本当に一発で分かるくらいインパクトある見た目)

希「そこもまたえりちの魅力なんだけどね」

絵里「直すべき部分を魅力と言われても嬉しくないわ」

穂乃果「失礼します!」

希「ん? 誰かに用事でもあった?」

絵里「でも見ての通り、残ってるのは私達二人しか居ないわよ」

穂乃果「絢瀬絵里先輩ですよね?」

絵里「そう、だけど。面識あったかしら」

穂乃果「初めまして。私は一年の高坂穂乃果と言います」

絵里「ええ、初めまして。絢瀬絵里よ。それで、何か用かしら?」

穂乃果「アイドル研究部に入ったんですけど、私と一緒にスクールアイドルをやりませんか?」ニッコリ

絵里「スクールアイドル?」

希「……アイドル研究部って、確か」ポツリ

穂乃果「スクールアイドルっていうのは」

絵里「それ自体は知ってるわよ。唐突過ぎて頭が付いてこなかっただけで」

穂乃果「だったら話が早いですね。一緒にやりましょう!」

絵里「せめて前置きくらい話してから誘って欲しいのだけど。どうして私なの?」

穂乃果「生徒会に入っちゃったら忙しくて入ってくれないだろうからです」

希「あははっ。建前なしの本音のストレートやね」

絵里「この場合私はなんて言えばいいのよ」ヤレヤレ

穂乃果「入ってくれるのが一番なんですけど」

絵里「そんな意味不明な理由で入る訳ないでしょうが」

希「ウチは大いにありだと思ったけど」

絵里「希、からかわないの!」

穂乃果「あなたが東條希先輩ですね」

希「うん、東條希。趣味は占い。困ったことがあったら相談に乗るよ」

絵里「ねぇ、もういいでしょ? 私達も暇って訳じゃないのよ」

穂乃果「分かりました。でも、明日また来ます」

絵里「来なくてもいいわよ」

希「あ、その前に穂乃果ちゃんに一つだけ訊きたいことがあるんだけど」

穂乃果「はい、なんですか?」

希「アイドル研究部の部長って矢澤にこさんだよね?」

穂乃果「はい、そうです」

希「どんな人かなって」

穂乃果「友達に聞いた話だと毎朝練習を欠かさない努力の人。私にとってはキラキラ輝いてる人です。小さいけど」

希「ありがとう。気をつけてな~」

穂乃果「では、失礼しました!」スタスタ...

絵里「台風みたいな子だったけど、なんだったのかしら」

希「スカウトでしょ」

絵里「いや、あれって罰ゲームかなんかじゃないの?」

希「明らかに本気だったし。えりちって微妙に天然入ってる時があるよね」

絵里「そんなことないわよ。それより最後の質問って何だったの?」

希「アイドル研究部の部長は部員を追い出して、皆で部室に持ってきたグッズを独り占めした」

絵里「極悪人じゃない!」

希「っていう噂があったけど、あの様子だと間違いなく嘘だね」

絵里「どういうことよ?」

希「逆恨み。もしくは他の何かが原因なのか。ただ、被害者なのは矢澤さんなんだろうね」

絵里「私そんな噂聞いたことなかったんだけど」

希「そこは……えりちだし?」

絵里「全然答えになってないわ。その矢澤さん大丈夫なのかしら?」

希「一人で一年間過ごした可能性が高いね」

絵里「生徒会は何してたのよ。その為の生徒会でしょ!」

希「……そうやね」

──木曜日 昼休み 三年の教室 絵里

穂乃果「ということでスクールアイドルをやりませんか?」

絵里「貴女、呆れる程積極的ね」

希「休み時間毎に現れて、更に昼休みまで。もはや天晴れやね」

穂乃果「それで希先輩もどうですか? 絶対に男性に人気出るってうちの部長が推してましたっ」

希「ウチは運動とか苦手だから」

穂乃果「私の友達のことりちゃんって言う子も運動苦手ですけど、今頑張ってます!」

希「それよりもえりちが先でしょ」

穂乃果「そうでした。それで、どうですか?」

絵里「今日だけで三回も言ったけど、遠慮するって答えは貴女の耳には届いてないのかしら」ハァー

穂乃果「絵里先輩は女性人気が出るって言ってましたよ」

絵里「それを今言われてもおべっかとしか受け取れないわよ」

希「でもウチもそう思うわ。ここがもっと物語に出てきそうな女子高なら間違いなくモテモテだった筈だし」

穂乃果「絵里先輩カッコ良いですよ」

絵里「希まで一緒にならないで。あのね、分かった本音を話すわ」

穂乃果「はいっ」

絵里「私は一度自分の夢から逃げた人間なの。だからスクールアイドルは目指せないわ」

穂乃果「自分の夢から、逃げた?」

希「……」

絵里「ほら、早く教室戻りなさい。お昼食べる時間なくなるわよ」

穂乃果「……はい、明日また来ます」ペコリ

絵里「だから来なくていいから」

希「また明日な~」

穂乃果「失礼します」スタスタ...

絵里「本音を言っても諦めないタイプね」

希「えりちのソレが《本音》だったら諦めてたと思うよ」

絵里「何よその何かを含んだ言い方」

希「ふふっ。えりちの運勢でも占ってあげようか?」

絵里「出会った頃にも言ったでしょ。私は占いとか信じないのよ」

希「信じる信じない別に、確かに運命っていうのは存在するんよ?」

絵里「こんな強引な勧誘が運命なんだとしたら、よほど歪んだ神様なんでしょうね」

希「もしくは、本心を素直に表さないえりちだからこそ、運命も真っ直ぐじゃないのかもね」

絵里「何よさっきから。私は真っ直ぐに生きてるわよ」

希「それで、えりちはどうするん。スクールアイドルを蹴って生徒会に入るの?」

絵里「……」

希「ウチは生徒会よりスクールアイドルをやってるえりちっていうのを見てみたいけど」

絵里「ばか、言わないで」

希「やっぱり占ってみよう。信じる信じないわえりちの自由だし」

絵里「本当に占いが好きね。いいわよ、どうせ信じないけどね」

希「じゃあ、えりちの運勢を占うよ」

絵里「タロットカードを常に常備してる女子高生なんて希くらいのものでしょうね」

希「…………。えりちの運勢は、死神の逆位置」

絵里「とか言われても不吉そうでしかないってことしか分からないわよ」

絵里「またからかってるの? あの時も一ヶ月以内に不幸が起こるとか言ってたわよね」

希「ふふっ。違うよ、えりち。死神のカードの逆位置は再スタートって意味だよ」

絵里「再スタート?」

希「ただ他の意味もある」

絵里「何よ。仕方ないから聞いてあげるから言いなさいよ」

希「挫折から立ち直る。……生徒会に入るのか、それともスクールアイドルを始めるのか」

絵里「……」

希「それを暗示してるかのカードやね」

絵里「言ったでしょ。私は占いなんて信じてないって」

希「そうだね」

絵里「……ま、占いをする希は信じてるけどね」

希「本当に素直じゃないんだから」

絵里「うるさいわよ」

希「審判の時まで考えるといいよ。えりち自身で選ばない未来に意味なんて生まれないから」

絵里「私自身が選ぶ未来、ね」

──土曜日 練習後 高坂家 穂乃果

穂乃果「うーん……んー」

雪穂「もう! こっちはテレビ観てるんだから、考え事があるなら部屋でしてよ」

穂乃果「ん~。難しいなぁ」

雪穂「って、人の話聞いてないし!」

穂乃果「もう、雪穂うるさいよ。悩み事あるんだから静かにしててよ」

雪穂「それはこっちの台詞だよ!」

穂乃果「あぁ~もう! 雪穂でもいいや。相談に乗ってくれない?」

雪穂「これがお姉ちゃんじゃなければ縁を切ってるところだよ」

穂乃果「何をそんなに怒ってるの?」

雪穂「……はぁ~。もういいや。で、相談って何か困ってる事でもあるの?」

穂乃果「音ノ木の先輩なんだけど、金髪で碧眼の綺麗な先輩がいるんだよ」

雪穂「へぇ~」

穂乃果「その人に私と同じスクールアイドルになって欲しいんだけど、中々うんって言ってくれなくて」

雪穂「そりゃ、普通の人は音ノ木坂のスクールアイドルなんてなりたくないよ」

穂乃果「どうして?」

雪穂「どうしてって、全校生徒何人の学校だと思ってるの?」

穂乃果「確かに人数は少ないかもしれないけどさー。そういうの関係ないじゃん?」

雪穂「大いにあるよ。秋葉にあるUTXなんて生徒数が物凄いし、設備だって綺麗で充実してるんだから」

穂乃果「A-RISEがいる学校だっけ」

雪穂「きちんとスクールアイドルのことも勉強してるんだね」

穂乃果「先輩のにこちゃんがね、最低限覚えるグループっていうことで覚えさせられたからねぇ」

雪穂「音ノ木坂なんてスクールアイドルする為の設備なんて何もないんでしょ?」

穂乃果「……部室はあるもん」

雪穂「そんなの普通の部活でもあるでしょ。綺麗な人なら尚更そんなところで失敗する経験積みたくないよ」

穂乃果「どうして失敗するって決め付けるの!?」

雪穂「せめて海未さんがメンバーに居れば違った意見にもなるけど、入ってないんでしょ?」

穂乃果「海未ちゃんは絶対に嫌だってさー」

雪穂「スクールアイドルファンって女子高生が多いから、女性受けするメンバー居ないと成功し辛いって話しだし」

穂乃果「雪穂って、けっこう詳しいんだね」

雪穂「別にお姉ちゃんが始めたから調べたって訳じゃないし///」

穂乃果「それはそうだよね」

雪穂(なんで少しも疑わないの! 本当にお姉ちゃんって馬鹿なんだから!)

穂乃果「その先輩なら絶対に女性受けするし」

雪穂「絵に書いた洋菓子は食べられないんだよ」

穂乃果「だからどうすればいいのか相談しようとしてるんでしょ!」

雪穂「無理だってば。金髪で碧眼な……あれ?」

穂乃果「どうかしたー」

雪穂「あのさ、その人の苗字ってもしかして絢瀬って言ったりしない?」

穂乃果「そうだよ。絢瀬絵里先輩」

雪穂「もしかしたら力になれるかもしれない」

穂乃果「んー?」

雪穂「私のクラスに今年から編入してきたクォーターの子が居て、その子が絢瀬亜里沙っていうの」

穂乃果「それって!」

雪穂「うん、お姉ちゃん居るって言ってたし、間違いないと思う」

穂乃果「このチャンスは掴まなくちゃね!」

雪穂「ちょっと協力してもらえるかどうかメールしてみるね」

穂乃果「ありがとう! いやぁ~雪穂は妹の鏡だよ」

雪穂「はいはい。っと、明日空いてるっていうから、お昼過ぎに家に連れてくるよ」

穂乃果「本当にありがとうね。じゃあ、私もにこちゃんに連絡入れておかないと」

雪穂「でも随分といい加減な部長だよね。一年生の勧誘ならともかくさ、二年生の先輩をお姉ちゃんに勧誘させるなんて」

穂乃果「きっと何か理由があるんだよ」

雪穂「私はただ利用されてるだけだと思うけどなー」

穂乃果「会ったばかりだけど私には分かる。にこちゃんはそんな人じゃないって」

雪穂「どうしてそんなこと言えるの?」

穂乃果「だってあんなにドキドキしてたんだもん。あんなに輝いてたんだもん」

雪穂「子どもじゃないんだからさー」

穂乃果「雪穂はにこちゃんに会ったことないからそんなことが言えるの」

雪穂「ま、昔からお姉ちゃんの人の目はあるというか、運命に愛されてて良い人と出会ってばかりきたけど」

穂乃果「その筆頭がことりちゃんと海未ちゃんだねっ!」

雪穂「でも、ことりさんも天然なところあるし。海未さんが一緒じゃないと激しく不安だなぁ」

穂乃果「も~! 妹の雪穂が心配することなんてないってば」

雪穂「その妹のお陰で悩み事が解決出来るかもしれないんでしょ?」

穂乃果「しょうがないなー。絵里先輩の事が上手くいったらお菓子でも買って来るから」

雪穂「だったら尚のこと明日の亜里沙との対面の時に変なことしないようにね」

穂乃果「私がいつ変なことしたっていうのよー!」

雪穂「えー? 自覚ないの。いつもじゃん」

穂乃果「そんなことないよっ。雪穂ってばいつも嘘吐くんだから」

雪穂「お姉ちゃんの一番の欠点は自覚ない行動力だよ」

穂乃果「というか、こんなことしてる場合じゃないね。ことりちゃんに明日の事を相談しなきゃ!」

──日曜日 高坂家 午後一時 穂乃果

亜里沙「初めまして。私は絢瀬亜里沙って言います」

穂乃果「こちらこそ初めまして。わざわざ来てもらってごめんね」

亜里沙「いいえ。何か面白そうなことにお姉ちゃんを巻き込もうとしてるって、雪穂に聞きました」

穂乃果「ちょっと、雪穂ー! 変な説明しないでよ」

雪穂「本当のことでしょー! 亜里沙は熱いお茶飲める?」

亜里沙「大丈夫だよ」

穂乃果「亜里沙ちゃんはスクールアイドルって知ってる?」

亜里沙「いいえ、知らないです。どういものですか?」

穂乃果「同じ高校の生徒が集まって、アイドル活動をするんだよ」

亜里沙「アイドルってあの歌ったり踊ったりするアイドルですか?」

穂乃果「そうそう。私もついこないだ入ったばかりなんだけど」

雪穂「はい、熱いからお茶気をつけて飲んでね。それから、これはうちの名物のお饅頭」

亜里沙「ありがとう、雪穂。ん? お饅頭……? これはシュークリームじゃないの?」

雪穂「違うよー。中に餡子が入ってるの」

亜里沙「あんこ?」

穂乃果「クリームと違って甘いだけのやつ」

雪穂「穂むら継ぐお姉ちゃんがそんな説明してちゃ駄目でしょ。餡子って言うのはね、大豆を煮込んだやつだよ」

亜里沙「ハラショー」

穂乃果「はらしょ?」

雪穂「それは亜里沙の口癖。それで、亜里沙頼んでたの持ってきてくれた?」

亜里沙「ああ、うん。持ってきたよ。どうして必要なのかと思ったけど、こういうことだったんだね」

穂乃果「何を持ってきたの? もしかしてシュークリーム!」

亜里沙「すいません。違います」

雪穂「馬鹿なお姉ちゃんでごめんね」

亜里沙「でも、雪穂いつもお姉さんのことじま──」
雪穂「──そんなことはいいから! そのバレエの動画を見せてあげて!」

穂乃果「バレーの動画?」

亜里沙「バレーではなく踊る方のバレエです。お姉ちゃん私が物心着く前からバレエやってたんです」

穂乃果「あぁ~。あれだよね。タッタッタッタッタ~タッタッタッタッ♪」

亜里沙「白鳥の湖……でしょうか?」

雪穂「つくづく馬鹿なお姉ちゃんでごめんね」

亜里沙「ユニークでとっても素敵。性格は全然違うけど、雰囲気がどこかお婆ちゃまに似てるわ」

穂乃果「えぇっ。私そんなにお婆ちゃん臭いかな?」

雪穂「もうなんでもいいから。お姉ちゃんは少し黙っててよ。進む話も戻りかねない」

穂乃果「そんな言い方ないでしょー」

亜里沙「あははっ。本当に仲良いんだね」

雪穂「亜里沙も早く動画見せて。そこからじゃないと話が始まらない」

亜里沙「うん。これなんですけど、お姉ちゃんがバレエをやってた時の動画です。どうぞ」

穂乃果「私のより最新のやつだ。私もそろそろ買い換えたいんだよねぇ」

雪穂「無駄口叩いてないで早く再生して!」

穂乃果「はいはい。スタート!」ポチッ

雪穂「お饅頭は熱いお茶と一緒に食べると美味しさ上がるから、お姉ちゃんは気にせずに食べてみて」

亜里沙「いただきます。……パクッ、モグモグ……美味しい。雪穂、これすごく美味しい!」

穂乃果「……」

雪穂「これでも老舗、つまりは昔から続いてるお店だからね」

亜里沙「ロシアに居るパパやママやお婆ちゃまにも食べさせてあげたいくらい」

雪穂「二人暮らしって寂しくない?」

亜里沙「お姉ちゃんが居てくれるから全然平気だよ。日本に来て直ぐ、こうして雪穂って友達も出来たし」

穂乃果「……」

雪穂「そんなこと言われると照れるな~」

亜里沙「まだまだ日本に慣れてないところもあるから、よろしくね」

雪穂「うん。といっても、私も人に教えられる程に知識があるかどうか不安な面もあるけど」

穂乃果「亜里沙ちゃん!」

亜里沙「はっはい!」

穂乃果「絵里先輩って凄いね! にこちゃんと真姫ちゃんとは違うけど、やっぱりキラキラ輝いてるっ!」

雪穂「あ~あ。お姉ちゃんの痛いスイッチ入っちゃった」

穂乃果「絶対に絵里先輩と一緒に踊りたい。スクールアイドルやりたい♪」

亜里沙「だったらお姉ちゃんに一番効果的な手段があります」

穂乃果「効果的な手段?」

亜里沙「お姉ちゃんは手を握られて、真っ直ぐ瞳を見つめられることに弱いんです」

穂乃果「ほうほう」

亜里沙「真っ直ぐに一言熱意を込めて言えば大丈夫だと思います」

穂乃果「分かった! 明日勝負に出てみるね。亜里沙ちゃん、情報ありがとう♪」

雪穂「亜里沙も悪乗りするんだね」

亜里沙「違うよ、雪穂。私ね、お姉ちゃんが踊るところまた見たいの」

雪穂「……そっか。じゃあ、お姉ちゃんが亜里沙のお姉さんを仲間にすること私も祈ることにする」

亜里沙「うん。……あ、それから」

雪穂「何?」

亜里沙「お饅頭、もう一つ食べてもいい?」

穂乃果「好きなだけ食べてもいいよっ」

雪穂「太ったら困るから、精々三つにしておきなよ。お茶、入れなおしてくるから」

穂乃果「私の分のお茶もよろしくね~」

雪穂「はいはい」

亜里沙「穂乃果さん。お姉ちゃんのこと、よろしくお願いします」

穂乃果「うん!」

──月曜日 三年生の教室 昼休み 絵里

希「穂乃果ちゃん来ないね」

絵里「諦めてくれたってことじゃない?」

希「あの子の勢いを考えると諦めるなんて考えがあるとは思えないけど」

絵里「実際に来ないのだし、諦めたってことよ」

希「えりちはそれで良かったん?」

絵里「最初からスクールアイドルをやるつもりなんてないわ」

希「ウチには本当はえりちはやりたがってる、そんな風に見えたけど」

絵里「馬鹿言わないでよ。もう踊ることはしないわ」

希(そんな寂しそうな瞳で言っても説得力ないよ)

絵里「私の意志とは別に、あの勢いのままなら頷いてたと思うけどね」

希「素直やないね」

絵里「何がよ?」

希「なんでも。……あ、えりち。別の方が来たみたい」

絵里「別の方? ああ、生徒会長ね。もう、色々と面倒だし。生徒会に入ろうかしら」

希「えりちが後悔しないのならそれでいいと思うけど。自分に正直になるんも必要やん」

絵里「私は素直に生きてるわよ」

会長「絢瀬さん、こんにちは。お昼の最中にごめんなさいね」

絵里「こんにちは。いいえ、気になさらないで下さい」

会長「どうするべきなのか、この休みの間に考えてくれたかなって思ってね」

絵里「そう、ですね」

会長「もう直ぐゴールデンウィークに入ってしまうでしょ? その前に正式な答えを貰いたいと思って」

絵里「なるほど」

会長「生徒会に入れば大変だけど、その分未来の自分に見返りが出ると思うの」

絵里「はい」

会長「次期生徒会長になれるのはこの学校で貴女だけ。これを私は確信しているわ」

絵里「そんなことは」

会長「いいえ、そんなことあるの。貴女が生徒会に入ってくれればこの学校の今後も任せられる」

絵里「過剰評価かと」

会長「絢瀬さんはもっと自信を持つべきよ。そして、自分の能力を一番効率的に使える場所を見極める力を得るべきだわ」

絵里「はぁ」

会長「絶対に後悔させないわ。絢瀬さん、この学校の為に生徒会に入って」

絵里「分かり──」
穂乃果「──ちょっと待ったぁぁぁ!!」

希「穂乃果ちゃん」

絵里「え、ちょっと待って。高坂さん、今は生徒会長と話をしててね」

穂乃果「そんなこと知らない! 取り敢えず、穂乃果と一緒に来てっ!」キュッ

絵里「えぇっ!? なんで手を握って、あれ、離れない。って、どこに連れて行くのっ。痛っ握力強すぎるわよ!」

会長「ちょっと待ちなさいよ!」

希「会長さん。今追いかけるんはちょっと無粋やん」ガシッ

会長「無粋とかそういう問題じゃないわ」

希「ウチは学校の為よりもえりちの為になる未来が欲しいんです。だから、ここで一緒に待ってましょう」

会長「……」ギリッ

希(自分に素直になるんだよ。えりちの素直なその瞳は嘘が吐けないんだから)

──屋上 穂乃果(手繋ぎ継続)

絵里「な、なんでそんなに握力あるのよ」

穂乃果「中学生の時は引退するまでずっと剣道やってましたから」

絵里「あ、そう。……だからってこれは強引過ぎるでしょ!」

穂乃果「その点はごめんなさい」

絵里「謝る前に繋いでる左手を離してよ」

穂乃果「話が終わるまでダメです」

絵里「なんでよ。片手繋いで話すとか不自然でしょ」

穂乃果「じゃあこうすればいいですよね?」キュッ

絵里「どうして右手まで握るのよ! こんなところを誰かに見られたら変な誤解されるわよ」

穂乃果「亜里沙ちゃんに絵里先輩のバレエの動画を貰いました」

絵里「なっ──」

穂乃果「私はにこちゃんと真姫ちゃんが目の前で踊って歌う姿を見て、スクールアイドルになることを決意しました」

穂乃果「その時胸に生まれたときめきと同じときめきを絵里先輩が踊る姿を見て感じました!」

穂乃果「こんな素敵に踊れる人と一緒に踊れたらなって。私には光ってみえたんですっ」

絵里「……私は、無理よ。結局結果を出せずにバレエから逃げ出したんだもの」

穂乃果「心配ないです。スクールアイドルをしたら逃げるなんて出来なくなりますから」

絵里「いや、やるなんて一言も言ってないでしょ!」

穂乃果「こうして私が絵里先輩の手を握って離さないから。逃げるなんて出来ません」

絵里「ちょっと、人の話を聞きなさいよ」

穂乃果「もし、挫けそうになったら頑張れって応援し続けますから」グイッ

絵里「顔が近いって!」

穂乃果「私は絵里先輩と一緒にやりたいの! スクールアイドルやりたいの!」

絵里「うっ……ぁあっ」

穂乃果「亜里沙ちゃん言ってました。『お姉ちゃんが踊るところまた見たい』って」

絵里「──」

穂乃果「偉そうに言いましたけど、ハッキリ言って私はまだ踊りも歌も素人です」

穂乃果「でも、絵里先輩みたいに踊れるようになるまで絶対に挫けないし諦めない」

穂乃果「だから一緒に頑張って欲しいの。あんなに綺麗に踊れる人が踊らないで居るなんて勿体ないから!」

絵里「……高坂さん」

穂乃果「はいっ!」

絵里「貴女、全然性格は違うのに私のお婆様に雰囲気が似てるわ」

穂乃果「あ、それは亜里沙ちゃんにも言われました」

絵里「亜里沙とはどこで知り合ったの?」

穂乃果「私の妹が同じクラスで友達だったんです」

絵里「……そう。これは亜里沙が一年早く日本に来たいと言った時、賛同した過去の私を恨むべきね」

穂乃果「え?」

絵里「スクールアイドルになるから、だからいい加減恥ずかしいからこの手を離して」

穂乃果「本当!?」パァァ

絵里「ええ、貴女の勝ちよ」

穂乃果「やったーっ! 絵里先輩、ありがとう」ギューッ!

絵里「ちょっ、ちょっと! なんで手を離したと思ったら抱きついてくるのよ///」

穂乃果「絵里先輩おっぱいおっきいから背中に手を回さないときちんと抱きつけないし」

絵里「回答になってない上に恥ずかしいこと言わないで! もうっ、なんなのよ~っ!」

穂乃果「絵里先輩大好き~!」

絵里「誰かに聞かれたら誤解されるでしょうが!!」////

──七分後 三年生の教室 絵里

絵里「申し訳ありません。部活動を始めることにしたので生徒会には入れません」

会長「部活動?」

絵里「アイドル研究部です」

会長「そう。……後悔するわよ?」

絵里「既に後悔してます。でも、間違った選択はしてないと、昔の自分に胸を張れます」

会長「……間違った選択よ。失礼するわ」スタスタ...

希「素直になったんやね」

絵里「妹の援護があったのよ。その所為だわ」

希「休み抜かして三日ちょい。見た目と違ってチョロイえりち」

絵里「変なこと言わないで!」

希「でも、スッキリした顔してる。まるで失くした大切な物を取り戻したみたいな感じ」

絵里「そうね。ずっと逃げ出したことから逃げてた。でもね、やっぱり踊りたいの」

希「素直に最初から入れば可愛いのに」

絵里「年を取ると素直から縁遠くなるのよ」

希「穂乃果ちゃんの行動力に拍手だね」

絵里「積極的過ぎるのもどうかと思うわ。あの子は危険よ。希同様近くで監視してないと心配で気が気じゃないわ」

希「ウチと同類なん?」

絵里「何を仕出かすか分からないって意味では同類よ」フフッ

希「えりちにどんな目で見られてるのか怖くなってきた」

絵里「早く食べないとお昼休みが終わっちゃうわね」

希「ウチもお腹空いた」

絵里「……食べてなかったの?」

希「一人で食べるご飯は家で食べる時だけで十分」

絵里「今日は夕飯食べに来て。姉を裏切った亜里沙にお仕置きするから」

希「日本には恩を仇で返すっていう諺があるんよ」

絵里「天罰覿面という四字熟語があるわ」

希「完全に使い道間違ってるけど。御馳走になるね」

絵里「ええ、腕によりを掛けて作るわ。奮発しちゃうんだから」

希「今のえりちは出逢ってから一番いい顔で笑ってるよ」

絵里「恥ずかしいこと言わないでよ」

希「日本ではこれを青春って言うんよ?」

絵里「知らないっ!」プイッ

──同日 放課後 公園

にこ「ということで、本日新たなメンバーが入ったわ」

絵里「絢瀬絵里。二年生。穂乃果に無理やり入部させられたわ。これからよろしくね」

穂乃果「絵里ちゃんはバレエをやってたから踊りはすっごいんだよ」

ことり「はぁ~。どんな衣装を着せようか迷っちゃう♪」

真姫「……スタイルいいわね」チラッ

にこ「どうしてそこで私を見るのよ!」

真姫「私はにこちゃんの方が好きよ。いつまでも小さなにこちゃんでいてね」クスッ

にこ「失礼でしょ! どっちのこと言ったのよ。事と次第ではただじゃおかないわよ!」

絵里「随分と個性的なメンバーを集めたのね」

にこ「質で選んだんだけど、性格は審査に入ってないのよ」

穂乃果「にこちゃんの言い方だと穂乃果達の性格がおかしいみたいに聞こえるよ!」

にこ「自覚ないのが一番性質が悪いのよ」

真姫「一番性質の悪いのは鈍感だと思うけど」

ことり「ことりも真姫ちゃんの意見に賛成です」

絵里「見事なくらい纏まりもないのね。これで踊ったり出来るの?」

にこ「穂乃果とことりがメンバーになって一週間経ってないんだもの、仕方ないでしょ。これからよこれから」

真姫「私とにこちゃんの纏まり具合は完璧だけどね」

ことり「だったら穂乃果ちゃんと私の纏まり具合も完璧だよっ」

絵里「グループなんだから全体で纏まらないと意味ないでしょう」

にこ「今日は顔合わせと軽い練習だけにしておきましょうか。皆浮ついてて怪我しそうだから」

絵里「それがいいわね。私も夕飯を豪華にしたかったから丁度いいし」

にこ「それから、この部では先輩後輩とかないから。呼び方も自由にしてるわ。プライド高かったりとかしないわよね?」

絵里「大丈夫よ。そんな狭量じゃないわ。みんな、気軽に絵里って呼んで」

穂乃果「うん! 絵里ちゃんって呼ぶね♪」

ことり「私も絵里ちゃんって呼ばせてもらうね」

真姫「じゃあ、私は絵里って呼ぶわ」

穂乃果「真姫ちゃんってにこちゃんだけ《ちゃん付け》で呼ぶんだね」

ことり「そうだね。年上だからかなって思ったけど、絵里ちゃんは呼び捨てにするみたいだし」

真姫「ヴェェェェ! 別に深い意味なんてないわよ!」////

絵里「ふふっ。このメンバーと踊るのは骨が折れそうね」

にこ「絵里には明日ミッションを課すから放課後に部室に来て」

絵里「ミッション?」

穂乃果「私はミッション達成したよ☆」

真姫「にこちゃんは速攻が好きね」カミノケクルクル

にこ「チャンスはいつまでも待っててくれないニコ♪」

絵里「よく分からないけど、分かったわ」

にこ「さ、改めて自己紹介から始めましょう!」

──火曜日 放課後 部室

にこ「東條さんを引き入れるのは絵里、あんたに任せるわ」

絵里「穂乃果は私で私は希ね。矢澤さん、自分から動くこともしないと示しが付かないわよ」

にこ「……そうね」

絵里「あ、ごめんなさい。今のは失言だったわ」

にこ「私のことはにこって呼びなさい。頼りない部長であることは十分自覚してる」

絵里「それはあなたの所為じゃないでしょう」

にこ「にこよ、にこ」

絵里「じゃあ、希は私に任せて。他の子のことは部長であるにこに任せるから」

にこ「ただ無理強いはしないでね? アイドルを嫌いになられるくらいなら、潔く諦めた方がいいから」

絵里「本当に真っ直ぐなのね。正直、羨ましいわ」

にこ「ううん、これは人を傷つけて覚えたことだから。羨ましがられることじゃないわよ」

絵里「不真面目に見えて根っこの部分が真面目ね。損するタイプよ」

にこ「本当の私なんてファンにとってはおまけ付きお菓子のお菓子でしかないニコ♪」

絵里「お菓子がメインでしょう」

にこ「人によってはお菓子は要らない物になるのよ。要らないのならにこに欲しいくらいだけど」

絵里「結局自分で食べたいだけじゃない」

にこ「女の子はお菓子が大好きにこ☆」

絵里「まぁ、私もチョコレート好きだけど」

にこ「だったら希を引き入れることに成功したら美味しいチョコレートパフェをこのにこちゃんが奢ってあげるわ」

絵里「希の事は分かったわよ。……別にチョコレートパフェの誘惑に負けた訳じゃないからね?」

にこ「分かってる分かってるって。にっこにっこにー♪」

絵里「絶対に分かってないでしょ。でも、奢ってもらうからね、二人分」

にこ「えぇ~。そこは二人で仲良く食べなさいよ」

絵里「約束だからね。速攻で攻めてくるわ。吉報を待ってなさい」スタスタ...

にこ「二人で一つの食べた方が仲良くなれるのに。絵里ってば恥ずかしがり屋さんなのねぇ」

──同日 神田明神

絵里「良かった。今日もお手伝いしてたのね」

希「えりち。練習あるんじゃないの?」

絵里「今日の私は敏腕スカウトウーマンなのよ」

希「それなら学校内の方がいいんじゃない」

絵里「分かってるでしょ? 私は他の誰でもない。希をスカウトに来たのよ」

希「それなら言った筈やん。ウチは運動とか苦手だから」

絵里「そんなこと関係ない。私は希と一緒にやりたいの」

希「そんな言い分通じるのは子どもの時だけだって」

絵里「私はまだ子どもよ。十六歳だもの」

希「急に駄々っ子みたいになって何かあったん?」

絵里「穂乃果とにこに刺激されたみたい。やり直したいの。逃げている時間は終わりにしたい」

希「えりちなら出来るって何度も言ってるんだけど」

絵里「違うの。あの学校で希だけは知ってるでしょ? 私ってけっこうドジな面もあること」

希「こないだタバコ型チョコを上げたら叩き落とされたのが記憶に新しいし」フフッ

絵里「ゔ……。あの事は忘れて///」

希「えりちは普段がしっかりしてるからミスが記憶に残り易いんだよ」

絵里「そんな私だからこそ、やり直すのは一人じゃ無理なの」

希「穂乃果ちゃん達が居るんでしょ?」

絵里「それだけじゃ足りないの。希との仲良くなった切っ掛けはムカッとする出来事だったけど、今は誰より信頼してる」

希「恥ずかしいこと言うね」

絵里「本当のことだもの。希が一緒に踏み出してくれるなら、私は新しい一歩を踏み出せる」

希「……えりち」

絵里「にこの強さを秘めた笑顔。穂乃果が差し出してくれた手。そこに希の優しさがあればどんな結末になっても後悔しない」

希「そういう真っ直ぐな瞳は将来好きな人に向けるべきだよ」

絵里「茶化さないで」

希「えりちは転校の連続だったウチにとって本当の意味で初めて出来た友達」

希「だから力になれるのならなりたい。でも、絶対に足を引っ張っちゃう。そういうのウチ嫌なんよ」

絵里「だったら私が希を個人的にも指導する。踊ることに掛けては一日の長があるわ」

希「それでも上手くならなかったらえりちに申し訳ないし」

絵里「弱気なんて希らしくないわよ」

希「今までは自分を見せずに当たり障りの無い自分を演じて接してきた」

希「だから、正直今すっごく怖い。ほら、足だけでなく手も震えてるんよ?」

絵里「でも、こうすると落ち着くものなのよ」キュッ

希「あっ」

絵里「私もバレエのコンクールの前はこうしてお婆様に手を握ってもらってたの」

希「いいお婆様なんだね」

絵里「終わった後は結果に泣いて、今度は頭を撫でて慰めてもらってたけどね」

希「……そっか」

絵里「ええ。そんな事が続いて、人前で踊ることが怖くなっちゃってね。バレエから逃げ出したの」

希「逃げ出したってえりちは言うけど、立ち向かったことがない人間にはそれすらも勲章なんだよ」

絵里「随分と傷だらけの勲章ね」クスッ

希「占いを覚えてからはソレを盾にして自分を守り続けた。ウチはえりちが誇らしいわ」

絵里「だったら一緒に踏み出してみましょうよ。一緒にお互いをもっと誇れる存在になっていきましょう」

希「……ウチがアイドル、か。今まで転校してきた子らが見たら目を疑うだろうね」

絵里「有名になると雑誌とかにも載るわけだし、皆を驚かせてあげましょう」

希「時々えりちって子どもっぽい目をするよね。ウチはそんなえりちが大好きや」

絵里「私も臆病な希も可愛くて大好きになったわよ」

希「ねぇ、えりち」

絵里「なぁに?」

希「スクールアイドルを始めて、もし震えてたらまた手を握って欲しいんだけど」

絵里「このかしこいかわいいエリーチカにお任せよ」

希「なにそれ?」

絵里「お婆様が慰めてくれる時にいつも言ってくれたの」

希「ユーモアなお婆様でもあったんやね」

絵里「そうだ。私の我がままに付き合ってくれるんだし、何か一つ我がまま聞くから。いつでも言ってね」

希「ウチの我がままは女神も慄くくらい大きいよ?」

絵里「ふふっ……。それは怖いわね。心しておくわ」

希「我がままと違ってお願いがあるんだけど」

絵里「なぁに?」

希「今日はウチの家に泊まりに来ない? なんか、今日だけは一人ぼっちは寂しいから」

絵里「意外と甘えん坊でもあるのね。いいわよ、ついでに踊りのなんたるかも教えてあげる」

希「まずは知識からやね」

絵里「頭で覚えてから、身体に馴染ませる。これが基本だもの」

希「これからも弱い面見せるかもしれないけど、よろしくね」ニコリ

絵里「相変わらずドジな面見せちゃうかもだけど、こちらこそよろしくね」ニッコリ

希「もう少しだけ、握っててもらってもいい?」

絵里「ええ、勿論。私も同じ考えだもの」

──GW明け 月曜日 お昼休み 部室

穂乃果「今日もパンが美味い♪」

ことり「……穂乃果ちゃんは元気だね」

希「ウチ、もう駄目かもしれん」

にこ「根を上げるのは早いわよ。それに、最初はきついけど慣れればなんてことはないわ」

絵里「ゴールデンウィークをフルに使った感じよね」

にこ「いい具合に練習と休みを取ったし」

希「始めたばかりのウチにはハード過ぎたよ、にこっち」

穂乃果「剣道の練習の方がもっとハードだよ。夏は暑いし、冬は寒いしで大変だったもん」

希「やっぱり剣道みたいな競技は過酷なんだね」

絵里「よく続けられたわね」

ことり「穂乃果ちゃんには海未ちゃんっていう素敵なナイトが居たから」

穂乃果「あれはナイトじゃないよ! 鉄壁のガーディアンだよ!」

絵里「ああ、入ったら最後。引退するまで逃がして貰えなかったのね。穂乃果のあの時言葉のルーツはそこなのね」

穂乃果「本当に辛かったなぁ……。その分、最後の大会で三位に入賞した時はすっごく嬉しかったけど」

ことり「一位は海未ちゃんでした」

にこ「ことりは何部だったの?」

ことり「私は応援部に入ってたよぉ」

希「応援部?」

絵里「高校生だと団旗とか持つあれ?」

ことり「ううん。各自が好きな人を応援するだけの部。帰宅部と余り変わらない部だったの」

にこ「ことりはなんていうか……自由ねぇ」

穂乃果「でも、ことりちゃんの応援があったからこそ頑張れたのも確かだよ」

ことり「えへっ♪」///

希「ということは、服飾関係は家庭科の時間と趣味で覚えたん?」

ことり「うんっ。元々可愛い服を着たり見るのが好きで、その内自分だけじゃ足りなくなって」

ことり「自分でデザインして、自分で作って。誰かに着せたいって思うようになったのっ」

絵里「にこ同様、夢に真っ直ぐに向かう人っていうのは尊敬出来るわね」

にこ「そうでしょそうでしょ! だからその餃子みたいなやつをにこにくれてもいいニコ♪」

絵里「欲しいなら素直に言いなさいよね。それにこれはペリメニって言うのよ。はい、あげる」

にこ「おぉ~ありがとう。代わりににこ特製ミニ豆腐ハンバーグを上げるわ」

希「にこっちは料理上手だよね。工夫が上手いのは良い奥さんになれるってよく言うけど」

穂乃果「でも、にこちゃんは奥さんの前に早く大人にならないとね。ネバーランドに連れてかれちゃうよ」

にこ「待ちなさいよ! それって遠まわしににこが子どもだって言いたいわけ!?」

穂乃果「ふぁいとだよ!」

にこ「答えになってないわよ!」

絵里「ここで真姫が居れば何かしらのフォローが生まれるんだけどね」

ことり「うぅん。どちらかと言うとトドメのような気が」

希「からかわれるってことは、愛されてると同意やから」

にこ「罰として何かよこしなさいって……言いたいけど、あんたパンなのよね」

穂乃果「家だと和食しか出ないんだもん。だからお昼は絶対にパン!」

にこ「そんなのばかりだと栄養偏るわよ。ほら、箸はもう一膳あるから。サラダ分けてあげる」

穂乃果「サラダか~。イチゴが入ってれば嬉しいんだけどねぇ」

にこ「イチゴはデザートでしょ」

絵里「くすっ。穂乃果は本当に良い意味でマイペースね」

希「そうだね。だからこそにこっちみたいに強くなれそう」

ことり「それに穂乃果ちゃんは他の誰にもない、強い行動力があるんだよっ♪」

絵里「それを実感させられたわよ。そうだ、聞いてなかったけど、予算はどれくらいなの?」

ことり「にこちゃんが六万円あるって聞いたよ」

希「六万円もあるん?」

絵里「多すぎるわね。普通の学校ならともかく、ここは音ノ木坂よ」

ことり「そういえば、その話をしてた時真姫ちゃんが何か反応仕掛けてヤメたような?」

にこ「材料費さえくれればお弁当作ってきてあげるわよ」

穂乃果「穂乃果はパンがいいの」

にこ「だったらせめて二日に一度にしておきなさい。ブランクあっても体力面はいい方だけど、いざって時に倒れるわよ」

穂乃果「平気だよ。穂乃果はこれまで一度も倒れるようなことなかったし、入院もしたことないんだから」

にこ「そんなこと自慢にならないわよ!」

絵里「あのちっこい部長さんてば自己犠牲多そうよね」

希「解散させてしまったっていう負い目がそうさせてる可能性があるね」

絵里「希。今日は真姫に《優しくお話》するわよ」

希「そうだね」

ことり「」

──火曜日 放課後 部室

にこ「あれ? 穂乃果とことりはまだなの?」

絵里「二人は帰らせたわ。真姫にも連絡済みよ」

にこ「はぁっ!? 何を勝手な事してるのよ!」

希「にこっち。何かウチらに隠し事してない?」

にこ「隠し事? このにこがそんな事をする筈ないでしょ」

絵里「だったらこれはどういう事かしら?」ダンッ!

にこ「今年度の……予算表」

希「六万円っていうのは流石にあり過ぎやん?」

絵里「その指摘通りだったわ。昨日ちょっと真姫と《優しくお話》したら快く真相を話してくれたわ」

にこ「昨日の夜動揺した真姫ちゃんから謎の電話来たと思ったら、あんたが原因だったのね!」

希「そもそもにこっちが悪いんよ」

絵里「それに、これは明らかな不正なのよ」

にこ「不正?」

絵里「部費の予算確定は五月の頭。つまり、ギリギリで私達もきちんと入部を受理してあったの」

にこ「でも実績もない部じゃ五人居たって変わらないでしょ。去年七人でも五千円だったんだから」

希「部の立ち上げ一年目は必ず部費っていうのは少ないんよ」

絵里「二年目からはきちんと上がるのよ。ロボット研究部はにこと同じ去年立ち上げた部だったわ」

希「マイナーというかコア過ぎた所為で直ぐに一人になったみたいだけど」

絵里「それでも今年の予算は二万円。確実な不正よ」

にこ「もしかして、にこの噂の所為?」

絵里「いいえ。これは私の所為でしょうね。生徒会の誘いを蹴って入部したから」

希「嫌がらせにしてもこれは度が過ぎてる」

にこ「先生に……あ、ダメね」

にこ(先生に言えば私の噂の内容を先生に伝えて、部の存続すら危ういことになるって仕組みね)

絵里「そういうこと。だからこんな不正を堂々と出来るのよ。許せない!」

にこ「でも、別にいいじゃない」

絵里「よくないわよ! 先生がダメなら私から直談判してくる」

にこ「そんなことしたら余計に面倒な事になる気がしてならないんだけど」

希「ここはえりちを信じよう」

絵里「ええ、信じて待ってて」

──生徒会室

会長「あら、絢瀬さん。漸く生徒会に入ってくれる気になったのかしら?」

絵里「生徒会長が不正を働くような生徒会に入る気はありません」

会長「んー? 何のこと、かしらねぇ」

絵里「アイドル研究部の予算のことです。部費が少なすぎます」

会長「そうは言うけど、何の実績もないのだから妥当だと思うけど」

絵里「ロボット研究部はたった一人なのに去年より部費が上がってましたが?」

会長「先行投資というものよ」

絵里「人数も多いアイドル研究部は何故そのままなんですか」

会長「人数が多いと言っても設立した時は七人で、現在は五人でしょ?」

絵里「だったらロボット研究部はどうなんですか!」

会長「あそこには期待してる声があるの」クスッ

絵里「完全な不正をしておきながら何をいい加減なことを!」

会長「不正不正って人聞きの悪い。でも、絢瀬さんが生徒会に入ってくれるのなら……当然話は変わるわ」

絵里「そんなことの為ににこを利用したって言うんですか?」

会長「そんなこと? むしろ矢澤さんのことがそうでしょう。この学校の為を考えれば当然の行動だもの」

絵里「ふざけないでください!!」

会長「その迫力も生徒会長向けよ」フフッ

絵里「そもそも、にこの噂は去年の時点で発覚しておいてなんで放っておいたんですか」

会長「《そんなこと》にかまけてる暇はなかったからよ」

絵里「最低な人間ね。あなたみたいな人が生徒会長をしてるっていうのが信じられないわ」

会長「酷い言い草ね。だったら次期生徒会長になるべきじゃない? 今生徒会に入れば私の監視も出来るしね」

絵里「どうしてそんなに私にこだわるんです」

会長「あなた以外いないのよ。生徒会長の席を任せられる人材なんて」

絵里「こんな腐った所に入る訳ありません」

会長「じゃあ部費はそのまま」

絵里「本当に最低ね」

会長「あなたがこの学校と大切なお仲間とやらの為に生徒会長になれば丸く収まる話よ」

絵里「絶対にお断りよ!」キッ!

会長「絢瀬さんを拒む戸はないわ。いつでも生徒会は貴女を歓迎するから、忘れないでね」

絵里「失礼しますッ!」

──部室

絵里「絶対に生徒会に入るものですか!」

希「まぁまぁ。えりち少しは落ち着いて」

絵里「大体誰があんな奴を生徒会長に選んだのよ!」

希「去年の立候補は一人だったから自然とだね」

にこ「ともかく部費は今のままということだし、これからもにこが稼ぐから平気よ」

絵里「馬鹿なこと言わないで。にこ一人に任せる訳ないでしょ。私もアルバイトするわよ」

希「ウチも占いで稼いでみようかな」

にこ「二人共、にこは大丈夫だから」

絵里「何を気にしてるのよ。大体一人で無理して大事な時に倒れでもしたらどうするつもり?」

希「えりちの言う通りや」

にこ「絵里は厳しく指導をしてくれてる。希は心のケアを優しくしてくれてる」

にこ「部長でありながら私だけ何も出来てないの。このままだと部長失格になっちゃう」

希「それは違うよ、にこっち」

絵里「そうよ。にこがスクールアイドルを諦めずに続けようとしたから、私達はこうして出逢えた」

希「カードにすら出ないくらいの薄い可能性を現実にしたんはにこっちの想いの強さ故」

絵里「一度逃げ出した私に新しいステージをくれたにこが部長失格なんてふざけたこと言わないで!」

にこ「絵里、希……」

希「ウチら上級生組が力を合わせて乗り越えよう」

絵里「こういう経験も大事だってお婆様も褒めてくれると思うし」

にこ「ありがとう。でも、これは私の夢だから」

希「にこっちの夢?」

にこ「……私ね、小さい頃からアイドルに憧れてて。今でも将来の夢はアイドルになること」

にこ「でもね、最近は夢を目指してる中で違う夢を感じてる」

絵里「どういう意味?」

にこ「夢って何かの拍子でも目を覚ましちゃうでしょ? それと同じで目を覚ましたらこの場所で一人ぼっち」

にこ「あの日に戻っちゃうんじゃないかって怖くなる。それくらい今という日々が幸せで私の夢なのよ」

にこ「だから頑張りたいの。みんなの力になりたい。この夢が終わったら、私の夢も終わっちゃうから」

希「にこっちはこの小さな肩に力を入れ過ぎだよ。もっと力を抜かないと」トントン

にこ「力は抜いてるわよ。みんなの為だって思うとバイトだってすっごく楽しいんだから」

希「そっか。でも、にこっち一人で頑張るのは反対だよ。……なぁ、えりち」

絵里「なに、よぉ」グスッ

希「勧誘された時の我がまま使わせてもらうね。ウチと一緒に生徒会に入ろう」

絵里「ええ、そうね。それしかないわ」

にこ「待ってよ! 何を二人で言ってるのよ。私は大丈夫だって──」
希「──にこっち一人が頑張るよりも、ウチとえりちの二人が頑張った方が時間効率がいいんよ」

絵里「早く終わらせればその分練習にも顔を出せるしね」

にこ「これだと二人を犠牲にするみたいじゃない」

希「犠牲は酷いな~。みんなとこの学校の為に頑張るだけやん?」

絵里「お婆様が通ったこの学校は私も好きだもの。あんな腐った人間に任せておけないわ」

にこ「……」

絵里「私が次期生徒会長になったらあんな噂を流すような学校にはしない」

希「その噂だってウチに教えられるまで知らなかったんだけどね」

絵里「希、うるさいわよ!」

絵里「一人の人間として尊敬する矢澤にこの為に頑張らせて。にこのその強さを私に分けて頂戴」

にこ「……絵里」

希「じゃあウチはにこっちの為に頑張るえりちの為に頑張ろうかな」

絵里「もう、希ったら何言い出すのよ」フフッ

にこ「だったら私も生徒会に入るわ!」

絵里「にこは駄目よ。にこまで生徒会に入ったら誰が残りの子を指導するのよ」

希「そうそう。にこっちがウチらの土台ってことを忘れたら駄目だよ」

にこ「分かった。なら私は絵里と希の分まで頑張ってあの子達の指導をするわ」

絵里「この事はなんか照れ臭いから三人だけの秘密よ?」

希「そうやね。こんな思いっきり青春っぽいことしたんはウチ初めてや」

にこ「そ、そうね。今更ながら思い返すと恥ずかしいことばかり言ってたわね」

絵里「にこって意外と乙女チックなのね」

にこ「にこぉっ!?」

希「涙ぐんでたえりちが言っても説得力ない気がする~」

絵里「なんですってー! 希だって恥ずかしいこと言ってじゃない」

にこ「そもそも勧誘の時の我がままって何よ? 私何も訊いてないんだけど」


こうして、私達上級生組だけで生まれた初めての秘密。

自然と心と心で繋がり合うような不思議な感覚に、頬が緩むのを必死で抑えるのが大変だった。

私の夢の中の夢がどんどん幸せで満ち溢れていく。

そして、季節が夏になり私達の元にラブライブ開催の知らせが届くことになる。

幸せの後にはどうしていつも現実は厳しい顔を見せるのかしらね。

でも、この大好きなメンバーとならどんな現実だって笑顔と幸せでまるっとラブニコ♪

二年目【スクールアイドルを集めよう!】終了!

※にこが好きな人・生徒会長が気になった人以外は2レス飛ばして次回予告へ!

【外伝 ~悪役の卒業~】  正確には元会長ですが会長表記にしてあります。

──二年目 三月某日 卒業式後

絵里「卒業おめでとうございます」

会長「絢瀬さん」

絵里「元生徒会長なのに見送りはゼロですか」

会長「私は嫌われてるもの。当然の結果ね」

絵里「でしょうね」

会長「私は学校の為に間違ったことはしていない。だから、絢瀬さんにも矢澤さんにも謝らないから」

絵里「学校の為にというのは正しかったかもしれません。ですが私は許せない」

絵里「にこの悪意ある嘘の噂を放置し、しかもそれを貴女は利用した。絶対に許せない」

会長「我ながら最低なことをしたわね」

絵里「本当に最低です」

会長「ハッキリと言うのね。そういう部分も生徒会長としては必要になってくるわ」

にこ「スクールアイドルが人に向かってそんな事を言っちゃダメにこ~♪」

絵里「なっ、にこ!」

にこ「卒業おめでとうございます、元生徒会長さん」

会長「……矢澤さん。大した嫌味だわ」

にこ「にこは嫌味なんか言いわないわ。というか、そもそも恨んでないし~」

絵里「はぁっ!?」

会長「え?」

にこ「だから、絵里の分を許してあげるニコ☆」

絵里「にこ! あなた自分が言ってる言葉をきちんと理解してるの!?」

にこ「落ち着きなさいって。叫んでると喉痛めるから」

絵里「だってあの噂の所為で一年生の時はほとんど孤立してたって話しだし」

にこ「あくまで学校の中の話でしょ? 私には最高の友達が傍に居てくれたもの」

会長「……」

絵里「だからって、許す必要ないじゃない」

にこ「逆に感謝してるくらいよ。あなたがそのまま噂を放置してくれたお陰で、私は最高の友達と出逢えた」

にこ「それだけじゃない、こうして自分のこと以上に私のことを怒ってくれるような最高の仲間とも知り合えた」

にこ「私がアイドルになる運命には、あなたという存在は絶対に必要だった。だから気に病まないで欲しいにこっ♪」

会長「矢澤、さん」

絵里「……にこ」グスッ

会長「UTXに入学希望者を奪われ、生徒数が減る一方。その中で一番優秀な人材に後を継いで欲しいという想い」

会長「それこそ最悪な手段を使ってだけど叶った。私は全く後悔してないわ。だから気に病んでもいない」

にこ「強がらなくていいわよ。本当に嫌なやつっていうのに私は去年出会ったわ。あ、この学校の生徒じゃないけどね」

にこ「自分のことを上に見せる為に人を貶めようとする。口から出るのは嘘バレバレの気持ち悪い言葉ばかり」

にこ「でも、あなたはその逆。自分のこと以外の為に自分を悪にすることが出来る」

にこ「そんな風に生きられるあなたは素敵な人だと思う。だから、笑顔で卒業して欲しいの」

絵里「あぁ~っもう! これで許さないとか言ってたら私が悪者じゃない!」

会長「矢澤さんだけでなく、絢瀬さんまで」

にこ「悪役気取りの善人も仲間想いの生徒会長も今日という日を笑顔でラブニコ♪」ニッコリ

会長「ふふっ。矢澤さんを生徒会に誘うべきだったかしらね?」

にこ「いいえ。にこはアイドルしか興味ないから。絵里に目を付けたのは正しいわよ」

会長「矢澤にこさん。絢瀬絵里さん。申し訳ありませんでした!」

にこ「最初から感謝しかしてないってば」

絵里「不本意ながら許してます」

にこ「そんな心が狭くちゃアイドルにはなれないわよ」

絵里「ならないわよ!」

会長「くすっ。この学校はこのままだと長くても後二年で廃校が決定すると思う」

にこえり「──」

会長「でも、あなたが生徒会長をして、副会長に東條さん。そして、生徒会ではないけど矢澤にこさんが居る」

会長「さっきまでは不安があったけれど、これで安心して卒業出来そう」

絵里「最後の最後で嫌な予言しないで貰えると嬉しいのですが」

にこ「でも、本当に生徒数が減少してるから間違ってないんじゃない?」

絵里「そうだけど……。生徒会長だから廃校撤回するなんて無茶よ」

会長「無茶でもやれる。私はそれを確信してるの」フフッ

絵里「ま、生徒会長なんだし。やれることは全部やってみせます」

にこ「ねぇ、どうしてそこまでこの学校にこだわるの?」

会長「私はこの学校が好き。お姉ちゃんが通う────この、学校が」


突然の強風に一部の言葉と視界を奪われる。

次に目を開けた時、彼女の頬は涙で濡れ、だけど綺麗な笑顔を浮かべていた。

あの人の引退ライブに重なる素敵な微笑み。

私達はそのまま何も語ることなく静かに別れた。

これは卒業の日のほんの一コマ。 外伝 了

次回の夢なき夢は夢じゃない!(事実と異なる場合が多いかも)

正規のメンバー五人で挑むスクールアイドルの甲子園・ラブライブ!

いよいよメンバー全員が物語に登場!

ことり「穂乃果ちゃんとことりと海未ちゃんは三人揃ってこそ、だよね?」

穂乃果「海未ちゃん。久しぶりに剣道で勝負しよう! 穂乃果が勝ったらμ'sのメンバーに入って!」

海未「中三の夏以降竹刀を握ってすらいないのでしょう? 勝てる筈がありません。剣の道を舐めているのですか?」

私やるったらやるの根性で、無謀すぎる勝負に挑む高坂穂乃果高校一年生。

凛「か~よちん! 公園に美味しいクレープ屋さんが来るようになったんだって。食べに行こう?」

花陽「で、でも……。買い食いは校則違反」

凛「大丈夫大丈夫。みんなやってるから」

花陽「それ全然大丈夫じゃ、ないよ」

凛「かよちんは細かいこと気にし過ぎにゃー」

花陽「……そ、そうかな?」


次でこのぶたくさな物語は多分最終回。

今回は色々と間違いが多いかも。ごめんなさい。 次回につづく...

ちょっと最終回難産中。最後なのに見せ場が思いつかない。

それなので、こころあを出して和み成分で誤魔化そうとSIDのにこ編を買ってきました。

今週中にはきっと終わらせます!


指摘通りです。教室+穂乃果の三年生は三クラスって部分は全部二年生の教室の間違いです。

#minomusimoon  saga

(本編に関係ないから読み飛ばしOKなんだって)

絵里「過剰評価って何よ、過大評価でしょ」ズーン

希「まぁまぁ。えりちは十分かしこいから平気だって」

にこ「でもツバサの方がかしこい・かわいい・かっこいいの三拍子揃ってるわよね」

絵里「うわぁ──ん! エリチカ、おうちに帰る!!!」

希「にこっち!」

にこ「ごめんごめん。でもほら、にこの為に次期生徒会になってみせるってところはカッコ良かったわよ」

希「そうやね。流石えりちって感じやった」

絵里「本当?」グスッ

にこ「でも勧誘が一歩遅ければ来年同じように冷酷生徒会長になってた気がするニコ」

絵里「」

希「にこっち? いい加減にせんと、わしわしするよ?」

にこ「わしわし? 何のことよ」

希「今思いついたウチの必殺技や」

にこ「必ず殺すってどんな物騒な技よ」

希「せやったら昇天技や」

にこ「意味変わってるようには見えないんだけど」

希「身体で教え込んであげる~」ワシワシ

にこ「ひぃっ! あんた何をやってるのか、わかってんの!?」

希「無駄口開いてる暇なんてないで~♪」

にこ「んっ、ほんとにヤメっ!」

絵里「のけ者にされてるみたいで寂しい。私も参加するわ! 希、覚悟!」

希「ひゃあっ! えりちっ、力入れすぎやっ」

にこ「うぎゃっ。揉まれる苦しみ分かったならあんた手を離しなさいよね!」

絵里「希の胸やっぱり私以上ね」ワシワシワシ

希「ちょ、えりち。い、いつまでもんでんのっ。や、やめ……っ。ああっ、百合はあか~~ん!」

穂乃果「状況がよく分からないんだけど。二期三話までしか観てないからにこちゃんのお母さんはオリジナルなんだって」

ことり「それじゃあ、お待たせしました。本編始めるねっ」


これまでの夢なき夢は夢じゃない!

新しいメンバーが四人も加わり、練習にもハリが出てきたそんな春!

地道な練習を積み重ねて、きちんと形になってきたけど、まだ肝心なことが決まっていない。

にこ「スクールアイドルで一番大切なことを決めるわよ!」

練習の前に真姫の家で重大会議を開くことになった。

にこ「そういえば真姫ちゃん。家にはもう誰も呼ばないんじゃなかったの~?」ニヤニヤ

真姫「にこちゃんに出逢った所為で、そんな昔のこと忘れたわよ!」////

私達の青春は更に輝きを増すニコ!

【プロローグ ~リーダーは誰だ?~】

絵里「広い部屋ね。お婆様の家みたいだわ」

希「少しロシアに行ってみたくなる感想やね」

穂乃果「おやつがケーキだよ、ケーキ! うちとは大違いだよっ」

ことり「穂乃課ちゃぁん。真姫ちゃんのお母さんに聞こえちゃうから、もう少し小さな声で」

穂乃果「だってケーキなんだよ! 餡子入ってないんだよ!?」グイッ

ことり「ぴぃっ!」

にこ「やれやれ。もう少し落ち着きって物を覚えなさいよねぇ」

真姫「ほら、にこちゃん。口の周りに生クリーム付いてるわよ」フキフキ

にこ「あ゙ぁ~。後で舐め取ろうと思ってたのにぃ~」

絵里「ふふっ。にこが一番穂乃果のことを言えないじゃないの」

希「まるでお母さんに言い訳する子どもやね」

真姫「誰がママよ!」
にこ「誰が子どもよ!」

希「流石親子。息ぴったりだね」クスッ

にこ「せめてにこがママでしょ!」

絵里「にこがお母さんとか無理がありすぎよ」

真姫「そうね。それだけは絶対にありえないわ」

穂乃果「モグモグ……はぁ~。雪穂じゃないけど、和菓子屋じゃなくて洋菓子屋の娘として生まれれば良かった」

ことり「その場合絶対に生クリーム飽きたとか言いそうだけど」

穂乃果「ないない。生クリームに飽きるなんてありえないよ♪」

にこ「って、和んでる場合じゃないわ。今日集まってもらったのは他でもないわ」

絵里「……にこ。そういう台詞を背伸びして使うから子どもっぽく思われるのよ」

にこ「うるさいわね! 大体メンバーの中で一番にこが早く誕生日を迎えるんだからね!」

真姫「人生の濃さは年齢と比例する訳じゃないわよ。ノンフィクションの本を読めばそういうの分かるわよ」

希「にこっちが真面目な本を読むのは似合わないし」

ことり「いつも見たいにアイドル雑誌読んでる方が似合ってるよね」

穂乃果「そんなことよりもケーキのお代わりって有るのかな?」

にこ「も~っ! だから人の話を真面目に聞きなさいよね!」

真姫「にこちゃんの反応が面白いから皆からかってるだけよ。怒らないの」

にこ「その筆頭が何言ってるのよ!」

穂乃果「お代わりはないのか~」

ことり「ことりの少し分けてあげるね。はい、あ~ん」

穂乃果「さっすがことりちゃん♪ あ~ん、ぱくっ」

絵里「踊ってる時は形になってきたけど、普段は纏まりがないわね」

希「真姫ちゃんの言う通り、にこっちをからかうのが原因だけど」

絵里「なんか止められないのよね」

にこ「少しは緊張感持ちなさいよ。スクールアイドルに必要な物を決める大事な日なんだから」

絵里「そう言えばそれって何のことなの?」

穂乃果「私としてはケーキが美味しかったからもう十分だよ」

ことり「穂乃果ちゃん幸せそうっ」

にこ「……にこぉ」シュン

真姫「にこちゃんは落ち込んだ時が妙にグッとくるから弄られるのよ」

希「真姫ちゃんだけ違う感情を抱いてると思うけど。それで、にこっちの言いたい事って?」

絵里「穂乃果とことりもそろそろ真面目に聞きなさい」

ことほの「はーいっ♪」

にこ「部長はにこなのに……。これじゃあ、絵里の方が部長みたい」

真姫「大丈夫よ。皆根っこの部分ではにこちゃんのことをリスペクトしてるから」

にこ「リスペット? もう何扱いでもいいわよ!」

にこ「グループとして一番大事なこと。リーダーを決めるわ」

絵里「リーダー?」

真姫「にこちゃんじゃなかったの?」

希「ウチもにこっちかと思ってた」

穂乃果「ところでリーダーって何をするの?」

にこ「主にMCの時に進行役をしたり、歌の時にセンターになるの。注目度ナンバー1ね」

穂乃果「だったらにこちゃんが良いんじゃないかな?」

にこ「にこはアイドル研究部のだからリーダーにはなれないわ」

絵里「その原理でいくと次期生徒会長の私もリーダーにはなれないわね」

希「だったらウチも次期副会長やし無理だね」

真姫「じゃあ私は中学生だから無理ね」

にこ「ということで、あっという間に穂乃果かことりという流れになったわね」

絵里「リーダーには何にも縛られない若さという勢いが必要になると思うし」

希(今のえりちは絶対に適当にそれっぽいこと言ってるなー)

にこ「どっちがリーダーする?」

ことり「穂乃果ちゃんパスっ♪」

穂乃果「えぇー! こういうの穂乃果は向いてないよ」

絵里「私のことを勧誘した時を思えば、これ以上ないリーダー素質よね。ブレーキ役にことりが居れば安心だし」

にこ「にこも文句なしの賛成よ。穂乃果はカリスマ性があるからね」

穂乃果「カリスマ? リトマス紙の仲間か何かかな?」

ことり「……ぁぅ、穂乃果ちゃぁん」

にこ「ま、まぁ。男ってお馬鹿な方が喜ぶから」

真姫「なんとなく分かるかも」

絵里「じゃあ、穂乃果がリーダーってことでいいわね」

希「意義なしや」

ことり「はいっ!」

にこ「問題無しね」

穂乃果「えー。でも、まいっか。皆が居てくれるんだし」

にこ「そうね。困ったことが誰でもいいから頼りなさい」

絵里「それじゃあ、練習を始めましょうか」

にこ「ううん、もう一つ決めることがあるの。リーダーの次に大事なこと」

穂乃果「リーダーの次に」

ことり「大切なこと?」

にこ「グループ名よ」

希「丁度良かった。ウチからその提案しようかなって思ってたところや」

にこ「何か良い名前考えてたりするの?」

希「うん。昨日カードが見せてくれた未来。九人のスクールアイドル」

真姫「九人?」

絵里「六人じゃないの?」

希「これから出会うのかもう知り合っているのか。それはまだ分からんけど、ウチらは九人で一つになるんよ」

にこ「九人で一つ」

希「だからグループ名は神話の九人の歌の女神から取ってμ's。どうかな?」

にこ「良いじゃない。神話は知らないけど清潔そうな名前だし」

真姫「薬用だからそれは清潔でしょうね」ヤレヤレ

絵里「残り三人。なんだかワクワクするわね」

穂乃果「絵里ちゃんも? 私もワクワクしてきたよ♪」

ことり「九人分も作れるんだ。楽しみっ♪」

にこ「今日からにこ達は音ノ木坂学院アイドル研究部スクールアイドルμ'sよ!」

穂乃果「前の部分が長いよ。今日からμ'sだね」

にこ「それでいいわ。希、今度神話の話を聞かせてね」

希「ええよ」

にこ「じゃあ、色々決まったところで今日の練習を始めましょう☆」

──練習後 帰り道 絵里

真姫「にこちゃんはこっち。どうしていつも車道側歩こうとするのよ」

にこ「にこの方が真姫ちゃんより年上なんだから当然でしょ」

真姫「当然じゃないわよ。にこちゃんの小さい身体に車が少しでも当たったら絶対に助からないわよ」

にこ「当たる前に避けるに決まってるじゃない。瞬発力ならμ's内でピカイチなんだから」

真姫「咄嗟の時に動けないに決まってるわ。素直に歩道側歩きなさいよ」

にこ「真姫ちゃんこそ素直にそのままで居なさいよね」

真姫「只でさえ不幸体質の癖に」

にこ「そ、そんなことないわよ。にこは今幸せだし」

真姫「そういう人が幸せだと、とんでもないどんでん返しが待ってそうで怖いのよ」

にこ「恐ろしいこと言わないでよ。なんだか心配になってくるじゃない!」

真姫「だったらほら、このままで良いから手を繋いであげる」

にこ「はぁ? どうして手を繋ぐのよ」

真姫「もし車に轢かれそうになっても引っ張って助けてあげられるでしょ。車道側をにこちゃんが歩く最低条件」

にこ「希じゃないけど真姫ちゃんは私のママかって言うのよ!」スッ

真姫「だからママじゃないわよ!」キュッ

にこ「年下の真姫ちゃんの言うことを聞いてあげただけなんだからね」

真姫「私がにこちゃんの我がままに妥協してあげたんだから」

にこ「なによぉ!」

真姫「なんなのよ!」

絵里「あの二人は本当に仲が良いわね」

ことり「手を繋ぎながら喧嘩始めたけどぉ」

希「正に喧嘩する程仲が良いってやつやね」

穂乃果「どちらかと言うと甘噛みし合ってる感じだけど」

絵里「言いえて妙ね。でも、ああいう平和な光景見てると疲れが癒えるわ」

希「……ウチは癒えないから、練習メニューを軽くして欲しいけど」

絵里「ふふっ。其れは駄目よ。むしろ、希ならもっと厳しくてもいける筈よ」

希「」

穂乃果「絵里ちゃんって時々熱血入るよね」

ことり「穂乃果ちゃん程ではないけど」

絵里「それはそうよ。穂乃果と比べて勝る人間なんて滅多にいるもんじゃないわ」

穂乃果「えー。海未ちゃんとかやる気スイッチ入ると穂乃果より凄いんだよ?」

ことり「あー、確かにそうかも」

希「そういう風には感じなかったけど。しっかり者って印象だったし」

絵里「どちらかというと穂乃果のブレーキ役っぽいわよね」

穂乃果「普段はそうなんだけど、人が変わるのが海未ちゃんの特徴で」

ことり「何気に趣味も多彩だったりするもんね」

穂乃果「恥ずかしがり屋さんじゃなければ、スクールアイドルもOKしてくれたんだけどなー」

希「にこっちとしては欲しい人材だろうね」

絵里「でも、強引には誘わないのが信条みたいだし。だから誘ったりしないのかしら」

ことり「海未ちゃんにも可愛い衣装着て欲しいんだけどなぁ」

穂乃果「曲によってはちょっとドスが効いてて怖い時もあるけど、基本的に私達三人の中では一番上手だし」

ことり「他の友達が居ると恥ずかしがって歌ってくれないけどね」

穂乃果「運動神経だって私達の中では一番なんだよ。剣道で海未ちゃんに一度も勝てなかったし」

絵里「万能タイプっていうことね。正直羨ましいわ」

穂乃果「えー! 絵里ちゃんだって十分万能タイプじゃん。歌も踊りも何でも出来るし」

希「えりちはこう見えてけっこう抜けてる部分があるから」

ことり「全然そんな風に見えないのに」

絵里「見せないように努力してるの。ま、希には恥ずかしいところを色々見られちゃってるんだけど」

希「そうそう、ついこないだなんて」

絵里「そうだ! 穂乃果は甘い物好きみたいだし、チョコレートパフェでも食べに行かない?」

穂乃果「イチゴパフェが良い!」

絵里「そう。じゃあ、今日は絵里お姉さんと希お姉さんが二人の分を奢ってあげるわ」

希「誤魔化し方が露骨やねぇ。でも、頑張ってる後輩を労うのも先輩の役目やし」

ことり「本当にいいの?」

希「いいんよ。そこでえりちの失敗談を語ることにするから」

絵里「ちょっと、希!」

真姫「ねぇ! 私はこのままにこちゃんのお家に寄るけど、皆はどうする?」

ことり「さっきまで喧嘩してたのに、やっぱり仲良しだねぇ」

穂乃果「そうだねっ」

絵里「私達はにこのバイト先でスイーツを食べに行くわ」

希「二人の邪魔はしないから安心してね」

真姫「意味わかんない!」///

にこ「からかわれてるだけよ。それじゃあ、朝練に遅れるんじゃないわよ~! ほら、真姫ちゃん行くわよ」

真姫「分かってるわよ。じゃあ、また明日ね」スタスタ...

絵里「学校も年齢も違うのに本当に仲良しよね」

希「そうだね。あの二人の絆があったから、こうしてウチらは出逢えた訳や」

ことり「真姫ちゃんの方がにこちゃんの歩幅に合わせてるところが素敵っ♪」

穂乃果「そう思うと二人に感謝だね!」

絵里「ま、私達は私達で仲良くパフェ食べに行きましょう」

希「えりちは本当にチョコレート好きだね」

絵里「四人で食べに行くのが嬉しいの。……チョコレートパフェが早く食べたい訳じゃないわよ」

ことり「くすっ。絵里ちゃん可愛いっ♪」

穂乃果「これはバレンタインには絵里ちゃんにチョコを用意しないとだねぇ」ニヒヒ

絵里「ちょっと、バレンタインって随分と先じゃない。チョコをくれるならいつでも良いわよ」

希「あははっ。本当にチョコ好きやね」

ことり「ふふっ。じゃあ今度チョコレートクッキー焼いてくるね」

穂乃果「だったら穂乃果が作るチョコ饅頭をあげるね!」

絵里「チョコ饅頭はヤメて。チョコを嫌いになりそう。アレを思い出すから」

穂乃果「あれって?」

絵里「カカオ率が究極な物体X。製品名を出すのもおぞましい……。私のトラウマ」

希「あぁ~。そういえばそういうのあったなぁ」

ことり「99%のやつだね」

絵里「やめて! 99%なんて大嫌いなのよ!」

穂乃果「なんだか良く分からないけど、パフェ食べて嫌なことは全部忘れちゃおうよ☆」

絵里「そうね、それがいいわ。さぁ! 早く急ぐわよ」

希(意味が重複してる気もするけど、ツッコミは止してあげようかな)

絵里「一刻も早く口の中に広がる忘れたい苦味を甘い物に変えるわ!」

二年目【μ'sミュージックスタート】

──7月1日 放課後 公園

にこ「みんな! 今年もあるわよ!!」

穂乃果「何が?」

ことり「夏祭りなら夏休みに入ってからだけど」

真姫「誕生日なら毎年あるでしょ」

希「ほぅほぅ。今月がにこっちの誕生日なん?」

絵里「知らなかったわ。流石真姫ね」

真姫「ちょっと、待ちなさいよ! 別に今月に誕生日があるなんて言ってないでしょ!」

希「じゃあ今月じゃないん?」

真姫「……今月だけど」

にこ「そんなどうでもいいこと話してるんじゃないわよ! あるのよ、開催されるの! 第七回ラブライブが!!」

穂乃果「らぶらいぶ?」

ことり「ほぇ?」

希「なんのこと?」

絵里「意味を説明されないと驚けないわよ」

にこ「こっちの方が驚きよ! なんでスクールアイドルなのに誰もラブライブを知らないのよ!?」

真姫「私はきちんと知ってるわよ。夏から九月大体二週目に予選が終了して、上位二十グループだけが本戦に出場できる」

にこ「そうよ、その通りよ。スクールアイドルの甲子園と言われてるのがこのラブライブなのよ」

穂乃果「ふぅん。順位ってどうやって上がるの?」

にこ「これから這い上がるのよ。希、頼んでた物は手に入ったかしら?」

希「ほいさ。備品として貸し出しOKや」

ことり「ビデオカメラ?」

にこ「これでPVを撮ってスクールアイドルの掲示板にUPするのよ。それでファンを増やしていくの」

絵里「といっても、私達まだ曲が一曲よね?」

真姫「私の『愛してるばんざーい!』だけね」

ことり「だから衣装も一種類しか出来てないし」

にこ「そうね、だからまずは『愛してるばんざーい!』でPVを撮影して、その後は作詞問題に取り掛かるわ」

絵里「作詞は誰が担当するの。やっぱり真姫?」

真姫「私は作曲があるから無理ね」

にこ「そのことなんだけど、練習に撮影と色々忙しいと思うけど皆それぞれ一曲書いて来て欲しいの」

穂乃果「それって私も!?」

にこ「当然よ。あんたはリーダーなんだから」

ことり「私は衣装の構想があるから」

にこ「逃げ道なし! 全員よ。一番上手く書けた歌詞を使うか、その人がもう一曲捻り出すかしましょう」

希「ウチ作文も苦手やったんだけど」

絵里「ま、何事も経験よね。みんな、前向きにいきましょう」

真姫「最悪歌詞になってさえいれば曲は作ってみせるから」

穂乃果「でも期末テストもあるんだよねぇ」

ことり「そうだね」

絵里「こっちも今の会長を即座に引き下ろすべく、生徒会の引継ぎに余念がないから厳しいわね」

にこ「焦ってはダメね。まずは目の前のこと。期末テストを乗り越えてからにしましょう」

真姫「でも、それを乗り越えたら今度は、夏休みの宿題が終わらないにこ~ってオチになるんじゃないの?」

にこ「あ゙ぁ゙~! どうしてスクールアイドルってこう弊害が多いのかしら!」

絵里「ふふっ。学生なんだからしょうがないでしょう」

希「逆に言えば充実してるとも言えるね」

穂乃果「数学が心配だな~。赤点取らないといいけど」

ことり「そんなに駄目なの? 私でよければ勉強見るから」

真姫「仕方ないからにこちゃんの勉強は私が見てあげるわ。スクールアイドルが赤点とか恥さらしでしょ」

絵里「確かにそうね。学校だけど、頭悪いから応援しないとか言われたら癪だものね」

にこ「まずは勉強。夏休みに入れば色々と都合もつくでしょうし」

真姫「なんだか思い切り前途多難ね。気が付けば夏が終わってそう」

穂乃果「テストが過ぎてくれるなら夏が一瞬で終わってもいいよ~」

希「こらこら。逃げ腰じゃ勝てる勝負も勝てんようになってしまうよ?」

絵里「穂乃果に素敵な言葉を贈るわ。テストからは逃げられない!」

穂乃果「ひぃっ! ことりちゃ~ん。助けてー」

ことり「はぅん。勉強するしかないよ。がんばろう?」ナデナデ

穂乃果「くぅーん」

希「今カードを捲れば隠者の逆位置が出そう」

絵里「意味は?」

希「──無計画」

にこ「不吉なこと言うんじゃないわよ! 仕方ないから明日から練習は一旦やめて、テスト勉強するわよ!」

──7月2日 絢瀬家 テスト勉強

穂乃果「あの太陽を見たら、穂乃果を思い出して欲しいな」ガクリ

絵里「ほら、穂乃果? まだテスト範囲の半分も終わってないのよ。……あと、太陽を直視するのは目に悪いわ」

にこ「にこにーにこにーにこにこにー♪ 笑顔を届ける元気な魔法☆ にこにーって覚えてラブニコ♪」

亜里沙「にこ先輩可愛い~!」

にこ「でしょでしょ? あんた絵里の妹なのにセンスが良いわねっ」ニッコリ

絵里「一言余計よ。全く、真姫が席を外した途端に勉強しなくなるんだから」

にこ「他の人にとって一問はバリアフリーでも、にこにとっては絶壁なのよ」

穂乃果「その気持ちすっごい良く分かるよ、にこちゃん!」

絵里「そんなところで共感しないの。ほら、リラックス出来たなら次の練習問題やるわよ」

穂乃果「そんなぁ~」

亜里沙「ふふふっ。お姉ちゃんが希さん以外の学校の友達を連れてくるなんて楽しいな♪」

にこ「なに、絵里。あんたも希以外友達が居ない寂しい系JKだったの?」プクク

絵里「そんな訳ないでしょ。ただ、誘っても遠慮されるだけなのよ」

穂乃果「でも気持ち分かるかも。なんか庶民的代表のにこちゃんと正反対だもん」

にこ「待ちなさいよ! 誰が庶民的代表よ!」

絵里「ほら、二人共真面目に勉強しなさい。それから亜里沙、暇なら一階のことりの手伝いしてきなさい」

亜里沙「はーい♪ じゃあ、美味しいおやつになるように行ってきまーす!」

にこ「絵里とは違って素直な良い子じゃない」

絵里「私だって素直よ」

穂乃果「えぇー。全然素直じゃなかったよ。素直なら勧誘一回目でOKしてくれる筈だもん」

にこ「いや、それは流石に絵里じゃなくてもないわよ」

絵里「雑談で誤魔化そうとしないの。真姫が戻ってきたら怒られるの確実よ。一問くらいは自力で解きなさい」

にこ「……にこぉ」

絵里「真姫はにこの為にこの炎天下の中で買い物行ってるのよ?」

穂乃果「優しいよね。アイス食べたいって呟いただけで買いに行ってくれるなんて。雪穂にも見習って欲しいよ」

にこ「妹をパシリにしようとするんじゃないわよ」

絵里「にこと真姫の信頼関係は凄いわよね」

にこ「ふっふーん! このにこのお姉ちゃんオーラに掛かれば誰だってイチコロにこ♪」

真姫「誰がお姉ちゃんオーラよ。妹オーラの間違いでしょ」

にこ「げっ! 真姫ちゃんもう帰ってきたの?」

穂乃果「真姫ちゃん! 穂乃果が一生懸命勉強してるのに、にこちゃんは亜里沙ちゃんと喋ってばかりだったよ!」

にこ「この裏切り者!!」

絵里「穂乃果も人のこと言えないけどね」

真姫「まったく。にこちゃんは私が居ないと駄目人間なんだから。これだから目を離せないのよ」ヤレヤレ

にこ「何そのダメな妹を甲斐甲斐しく面倒みる姉ポジ気取り!」

絵里「違和感ないわね。寧ろ納得って感じ」

穂乃果「なんでもいいからアイス頂戴~♪」

真姫「はい、穂乃果にはイチゴ味。絵里にはチョコ味。……で、にこちゃんは本当にこれでいいの?」

にこ「何で嫌そうな顔するのよ。あずき味美味しいのよ」

絵里「渋いわね」

穂乃果「イチゴが一番だよっ♪」

真姫「私はレモンね。暑いとサッパリしたのが食べたくなるし。こころちゃんとここあちゃんもあずき味が好きなの?」

にこ「うちのおちびちゃん達はソーダ味かミルク味が好きね」

絵里「そう言えば双子の可愛い妹がいるのよね。今度矢澤家に招待してよ、是非会ってみたいわ」

穂乃果「私も会ってみたい。何でも少し小さいにこちゃんらしいね。でも性格は天使だって」

にこ「それだとまるでにこが天使じゃないみたいじゃない」

真姫「何でもいいけど、アイス食べたらきちんと進めるからね」

絵里「穂乃果もよ。次はことりのおやつまで休憩はなしだからね?」

にこ「……どうして舐めなくてもアイスは溶けてしまうのかしら」

穂乃果「穂乃果のアイスなんてもう直ぐなくなっちゃうよ」

にこ「夏のアイスって、少し切ないラブストーリーみたいね。あ、これ作詞に使えないかしらね?」

真姫「使えないわよ」

──7月22日 朝 矢澤家

にこ「どうしたのこんな早くに。ママが忘れ物でもしたのかと思ったわよ」

真姫「ごめんね。でも、どうせなら一番が良いじゃない?」

にこ「何の話よ?」

真姫「十七歳の誕生日おめでとう」

にこ「ありがとうニコ♪ それでわざわざ早くから来てくれたの?」

真姫「散歩の途中だったのよ」

にこ「んふっ。そういうことにしておくわ。朝ごはん食べた?」

真姫「まだだけど、その前に今年はきちんとプレゼントも用意したの」

にこ「プレゼント? 真姫ちゃんのサイン第一号なら部屋に飾ってあるわよ」

真姫「知ってるわよ。そんなんじゃなくて、にこちゃんが喜ぶ物よ」

にこ「まな板かしら。最近新しいまな板が欲しくなってきたところなのよね」

真姫「そんな所帯染みたものじゃないわよ!」

にこ「それじゃあ何かしら?」

真姫「なんでまな板しか出てこないのよ」

にこ「だってまな板ってほとんど毎日使う物じゃない。あれは縁の下の力持ちよ」

真姫「もういいから。仕方ないから正解をあげるわ。はい、どうぞ」

にこ「綺麗な手提げ袋ね。これなら買い物で使えるわ。あのスーパーレジ袋持参だと2円引きしてくれるのよねぇ」

真姫「もうっ! 誕生日なんだから素直にプレゼントで喜んでよね!!」

にこ「はいはい、まだおちびちゃん達寝てるから大声ださないの」

真姫「にこちゃんの所為じゃない」

にこ「それで、何が入ってるのかしらね。……え?」

にこ「あれ。おかしいわね。目が覚めたと思ってたけどまだ夢の中みたい。いつから寝てたんだっけ?」

真姫「いきなり危ない発言しないでよ。現実よ」

にこ「だって、これって《伝説のアイドル伝説DVD-BOX》じゃない」

真姫「にこちゃんが欲しがってたでしょ?」

にこ「でもでも、これ昨日発売で、私ネット予約瞬殺買えなくて残念」

真姫「日本語で話してよ」

にこ「携帯からだったから少しもたついたのもあるけど、それでも一瞬で完売だった既に伝説と言われてる物よ」

真姫「その日、丁度暇だったからついアクセスしたら予約できちゃったのよ」

にこ「……え、もしかしてにこの為?」

真姫「ついよ、つい。たまたま偶然」

にこ「それってにこの為?」

真姫「もうっ! 人の話を聞き──」
にこ「──真姫ちゃんっ! ありがとう♪」

真姫「別にいいわよ///」

にこ「って言いたいけど、流石にこんな豪華な物受け取れないわ」

真姫「にこちゃんの為に買ったんだから受け取りなさいよ!」

にこ「さっきは違うこと言ってたじゃない」

真姫「いいから受け取りなさい!」

にこ「四万円もするのよ? 受け取れないでしょうが!」

真姫「受け取りなさいよ!」

──40分後

こころ「マキちゃんもにこにーのおたんじょう日するの?」

ここあ「マッキーもするにこっ」

真姫「お誕生日するって?」

にこ「誕生日パーティーよ。といっても特別なことは余りしないけど」

こころ「ケーキ食べれるにこっ」

ここあ「ここあケーキ大好き」

真姫「じゃあお邪魔しようかしら」

こころ「やった♪ マキちゃんもおたんじょう日なの!」

ここあ「いっしょにケーキにこ♪」

にこ「じゃあ今日はにこの一番得意なチーズハンバーグ作ってあげるわね」

ここあ「チーズハンバーグがいちばん好きニコ♪」

こころ「こころもいちばん好きニコ♪」

真姫「二人が一番好きなら楽しみね。そうだ、じゃあ練習終わった後は皆で買い物に行きましょうか?」

こころ「買いものー?」

こころ「にこにーもマッキーといっしょに?」

真姫「ええ。にこちゃんの誕生日だから真姫お姉ちゃんが好きなお菓子買ってあげる」

こころあ「ほんとー?」

真姫「本当よ」

こころあ「わぁーいにこ♪」

にこ「真姫ちゃん。悪いわよ、ただでさえDVD-BOX貰っちゃったのに」

真姫「いいのよ。それに、転売できないようにってサイン書かせたんだからもう価値がないわ」

にこ「確かに。真姫ちゃんがアイドルになったら価値が付けられなくなるわね」

真姫「そういう意味じゃないわよ!」

こころ「なに買ってもらおうかなー?」

ここあ「ここあはね、ここあはね、こ~んなおっきいのがいい!」

こころ「ここあずる~い! こころもこれくらいおっきいのにするの!」

にこ「二人とも虫歯になるからそういうので張り合わないの」

こころあ「じゃあ、これくらいならいい?」

にこ「大きさじゃなくて味が好きなのを選びなさい」

真姫「ふふふっ。にこちゃんも私と出会う少し前はこんな感じだったのよね」

にこ「何度も言ってるでしょ。にこは真姫ちゃんと出会う前からそんな小さくないわよ!」

真姫「見栄を張らなくていいってば」

にこ「これでも小学生の頃は途中まで後ろから数えた方が早かったんだからね」

こころ「たけのこやま?」

ここあ「きのこのさと?」

にこ「たけのこの里ときのこの山でしょ?」

ここあ「きのこの山!」

こころ「たけのこの里!」

にこ「おかし買って貰えるんだからケーキの上のチョコ板がどっちが大きいかで喧嘩しちゃ駄目よ?」

にこ「もし喧嘩するようならお菓子はにこにーが全部食べちゃうからね?」

こころあ「けんかしないにこ!」

真姫「何度見てもお姉ちゃん《ぶってる》にこちゃん可愛い」クスッ

にこ「ぶってるんじゃなくて、お姉ちゃんなんだってば!」

真姫「でもにこちゃんのママはあんなにスタイルいいのに、どうしてにこちゃんは……」

にこ「そこで言葉切るんじゃないわよ。まるでにこがもう身長伸びないみたいでしょ!」

真姫「少なくとも、見た感じ胸は出逢ってから成長してない気がするんだけど」

にこ「」

にこ「そっそんな訳ないでしょ! ほんとー嫌になっちゃうわ。胸が成長しないアイドルなんんて居るはずないじゃない」

真姫「動揺し過ぎよ」

ここあ「にこにーおっぱいここあより大きいよ!」

こころ「こころよりもにこにーおっぱい大きいにこ!」

にこ「ありがとう、二人とも。でも、涙が出そうなくらい悲しいわ」ナデナデ

こころあ「えへへ♪」

真姫「本当にこころちゃんもここあちゃんもにこちゃんが大好きなのね」

こころ「マキちゃんも大好きにこ!」

ここあ「マッキーも大好きにこ!」

真姫「ありがとう。私も二人のこと大好きよ」ニッコリ

──同日 夜 矢澤家

こころ「それでね、マキちゃんがたけのこの里買ってくれたの!」

ここあ「ここあにはきのこの山買ってくれたにこ!」

こころ「いっしょにケーキもたべたニコ♪」

ここあ「あーんって、パクってしてくれたの!」

ママ「なんだかいつもお世話になってるのに申し訳ないわね」

にこ「恩返し出来ればいいんだけどね。結局今日の食材も全部真姫ちゃんが強引に払ったし」

ママ「お返しに何か用意しないと駄目ね」

にこ「でも真姫ちゃんそういうの喜ばないのよね。だから、誕生日の時みたいに手作りの何か作ってお返しするつもり」

こころ「にこにーなに作るの?」

ここあ「ここあもマッキーに作るにこ♪」

にこ「それは真姫ちゃんとっても喜ぶにこ♪」

こころ「こころも作るにこ♪」

ママ「みんな真姫ちゃん大好きさんね。それで、遅くなっちゃったけどお姉ちゃんに誕生日プレゼントがあるのよ」

にこ「本当? 嬉しいわ」

ママ「今年は驚くわよ。……じゃーん☆ お姉ちゃんが欲しがってた伝説のなんちゃらよ!」

にこ「で、伝説のアイドル伝説DVD-BOX!?」

ママ「ママの知り合いが予約取れてね、今まで内緒にしてたの。驚いたでしょ?」

にこ「」

ここあ「おなじのがおへやにもあるよー」

こころ「マキちゃんのサインつきのあるにこ!」

ママ「あ~。ダブっちゃったかぁ」

にこ「それは問題じゃないわよ。なんでこんな高価な物をわざわざ買うの?」

ママ「高校生の娘が家に生活費入れようとしたら、親っていうのは子を安心させようとする生き物なのよ」

にこ「余計不安になるわよ!」

ママ「いつもいつも我慢させてばかりなんだもの。一度くらいってね」

にこ「だからって豪華過ぎるわよ」

こころ「ママとにこにーけんかめーっ!」

ここあ「なかよくしないとめっなの!」

にこ「ごめんね。喧嘩じゃないのよ? 大丈夫だからね」

ママ「ここあちゃんもこころちゃんも立派にお姉ちゃんっぽくなってきたわね」ナデナデ

こころあ「にこぉ~♪」

にこ「これからは無理するにしても私じゃなくてこの二人にしてよね」

ママ「約束は出来ないわね。ママにとっては3人共可愛い娘だもの☆」

こころ「ママもかわいいにこー♪」

ここあ「ままといっしょでかわいいにこー♪」

ママ「でもダブっちゃうと喜び半減でしょ。内緒にしてたのが仇になったかなー?」

にこ「ううん。嬉しさは変わらないけど……。ママに貰ったのは皆に観てもらう為に部室に置いておくことにするわ」

ママ「あら? 真姫ちゃんに貰ったのはお部屋で、ママに貰ったのは部室なのね」

にこ「別に特別な意味なんてないにこ!」

ママ「あ~あ。ママ悲しいわ。しくしくっ」

こころ「にこにーママなかしたらめーっ!」

ここあ「にこにーわるいにこにーなの!」

にこ「ママは嘘泣きだから。笑顔の魔法☆ にこにーにこにーにっこにっこにー♪」

こころあ「にっこにっこにー♪」

ママ「でも本当に涙が出ちゃいそう。いつも通信簿に気が付くと一人で居ることが多いって書かれてたから」

ママ「ママより優先出来る友達が出来てとっても嬉しいわ」

にこ「……。うん、真姫ちゃんはなんか特別。何があっても絶対に傍に居てくれるような、そんな気がするの」

ママ「大事にするのよ。どんなに大切な物でも、意外と脆いこともあるんだから。今の関係に慢心しないこと」

にこ「うん」

にこ(去年痛みと共に知ったことだから。絶対にあんなことにはならないように気をつけるわ)

──8月8日 高坂家 夏休みの宿題

穂乃果「宿題もう飽きた~!」

希「宿題に飽きていいのは終わった人間だけだよ」

ことり「夏休みの宿題も、もう直ぐ半分は終わるから」

穂乃果「夏休みだって約半分終わっちゃったよ~」

ことり「はぅん」

希「駄々っ子したらあかんよ。見てみ、にこっちなんて静かなもんや」

にこ「  」

雪穂「静かというより、喋る気力もないって感じですけど」

絵里「一昨日は私の家。昨日は真姫の家でみっちり勉強させての今日だからね」

真姫「お陰で去年と違って順調そのものよ。ゴールも見えてるし」

雪穂「去年はどんな感じだったんですか?」

にこ「ひぃぃっ!」ガクブル

穂乃果「にこちゃんが恐怖に震えてる」

真姫「時間がなかったから、少しだけスパルタしただけよ。にこちゃんは大げさねぇ」

希(去年のにこっちに同情しとくわ)

絵里「少し厳しいくらいの方がいいのかしらね。じゃないと穂乃果の宿題は何だかんだでギリギリになりそうだし」

穂乃果「えぇっ!? そんなことないよ、ね! ことりちゃん?」

ことり「う、うぅん。どうかな~?」

雪穂「やるならビシビシいっちゃってください。お姉ちゃんは勉強面は本当に弛んでますから!」

絵里「身内の許可を得た訳だし、明日は家に泊まり決定ね。亜里沙が喜ぶから雪穂ちゃんもどうかしら?」

雪穂「是非!」

穂乃果「ひぃぃ~」

真姫「雪穂がしっかりしてるのは穂乃果の反面教師あってこそね」フフッ

希「そうやね。ウチらと一緒にスクールアイドル出来ないのが残念や」

絵里「逆に言えば卒業後に見る楽しみが生まれるわ」

雪穂「待って下さい! 私別にお姉ちゃんの居る学校に、しかもスクールアイドルやる気なんてないですから!」

絵里「そうなの? 亜里沙の話だとけっこうなシス──」
雪穂「──それは誤解です! こんな自堕落お姉ちゃん尊敬もしてないし、好きでもないです!」///

穂乃果「」

真姫「見事に死人に鞭打ったわね」

にこ「」
穂乃果「」

ことり「夏休みは学生にとっては天国でもあるけど、地獄でもあるねぇ」

──8月17日 公園

にこ「漸く歌詞が決まったわね」

絵里「にこの不慣れな日本語を正してからだけど、きちんとした歌詞になったわね」

希「真姫ちゃんの曲は相変わらず完璧だし。これで一気に順位を上げて決勝に行きたいね」

にこ「五十位からは固定ファンが多いから中々難しいけどね」

真姫「来月の十四日の午後六時が予選終了だから、もう一ヶ月ないのよね」

穂乃果「取り敢えずやれることは全部やろう!」

ことり「そうだねっ」

にこ「悪いんだけど、今回も真姫ちゃんに撮影お願いするわね」

真姫「遠慮しないで。私は正規のメンバーじゃないんだから」

絵里「PVの撮影終わったら亜里沙呼んで六人のPV撮ってもらいましょう。記念になるわ」

ことり「μ's幻のPVだね♪」

穂乃果「何かそう聞くとありがたい気がする」

希「思い出は多くて困ることはないからね。ウチは賛成や」

にこ「今回は川原で撮りましょうか。きちんと虫除けスプレーはしてきた?」

穂乃果「抜かりなしだよ!」

絵里「日焼け止めもバッチリよ」

ことり「ことりも完璧です」

真姫「私は言うまでもないわね」

にこ「じゃあ、撮影に行きましょう!」

──8月30日 南家

にこ「ぐぬぬ!」

絵里「唸ってもバストサイズが大きくはならないわよ」

ことり「これから、大きくなるかもしれないかもだし?」

真姫「ならないわよ」

にこ「って、うるさーい! そんなことじゃないわよ。順位よ、順位!」

絵里「77位。縁起はいいんだけどね」

にこ「やっぱり歌詞がイマイチなのよ。もっと良い歌詞が思いつければいいのに」

ことり「自分を責めないで。μ'sの中で一番センスあるのがにこちゃんなんだし」

真姫「そうよ。それ以外にも理由があるわ。理由があるってことは直せば良くなるってことだし」

絵里「真姫はいいこと言うわね。そうよ、未熟である部分を探して直すことが先決よ」

にこ「PV見ても直すべき箇所なんてそうないんだけど……はぁ~」

絵里「いっその事、審査員に駄目出しでもされれば見えてくるんだけどね」

真姫「ない物は仕方ないじゃない。それに、考え過ぎて悪い方に傾くと問題よ」

ことり「そうだね。今からでも新しい曲を作る方がいいのかも」

にこ「今からだと完全に練習不足になるわ。ううん、諦めるのは早計かしら」

真姫「曲の方は映画と同じで、時間を掛ければ良い物が出来るとは限らないから大丈夫よ」

絵里「作詞はにこにお願いするとして、後は振り付けと衣装ね」

ことり「やれるだけやるよ!」

にこ「いや、今から衣装までとなると現実的に無理よ。制服でやりましょう」

真姫「制服ってありなの?」

にこ「なんの為のスクールアイドルだと思ってるの?」

絵里「これで衣装関係に問題はなし。私の方も講堂か校庭が使えないか交渉してみるわ」

にこ「悪あがきかもしれない。でも、ラブライブ予選が終わるその瞬間まで足掻き続けるニコ!」

真姫「今のにこちゃんを笑うやつが居たら、私が殴ってあげる」

ことり「くすっ。暴力は駄目だよぉ」

絵里「練習メニューの方も色々と改善出来るところがないか見直してみるわ」

にこ「お手伝いで今日居ない希と穂乃果にもその旨伝えておいてね」

絵里「任せて」

ことり「はい!」

にこ「じゃあ私はこのまま真姫ちゃんの家で演奏聴きながら無理やりでも歌詞を思いつくわ」

真姫「明日まで夏休みなのが功を奏したわ。一日で終わらせるくらいのつもりでするわよ」

にこ「ええ、ラブライブに出場しないと私達の秋は始まらないわ!!」

──9月14日 公園 18:00 予選終了

にこ「……」

絵里「μ'sの最終順位は61位」

穂乃果「……ダメ、だったね」

ことり「うん」

希「ウチらで出来ることは全部やった結果や」

真姫「そうよ。十分に頑張ってたわ」

にこ「Lucky Girlsのメンバーの最後の子が退部した時、私が作曲出来れば変わってたんじゃないかって思ったの」

真姫「にこちゃん?」

にこ「でも、アイドルを目指す人間って人一倍欲張り」

にこ「今はもっと上手く作詞が出来ていればこの結果も変わったのかなって」

絵里「それはにこの所為じゃないでしょ」

希「ウチらの中で一番いい歌詞書けてたのは間違いない」

穂乃果「そうだよ。にこちゃんが書いたこの歌詞は一番だって胸を張って言えるよ!」

ことり「私もアイドルが好きって伝わるこの詞が好きです」

真姫「にこちゃんが書いてくれたから、私も最高の曲が作れたのよ。にこちゃんの所為じゃないわ」

にこ「ううん。みんなを最高に輝かせるにはにこの持つセンスじゃ全然足りないの。好きだからこそ分かるのよ」

絵里「それが全ての原因だって思うのは傲慢よ」

にこ「傲慢、かぁ……」

絵里「そうよ。にこが作詞をするってことは皆で決めたことでしょう?」

穂乃果「そうだよ! いくらにこちゃん本人でもそれを否定するのは許せないよ」

ことり「穂乃果ちゃんに同じく!」

にこ「うん、ごめんね……。予選はこうして敗退しちゃったけど、凄く悔しい。でも、すっごく嬉しいの」

にこ「以前夢に描いてた結果とは雲仙の差だけど、でも皆でラブライブに目指せる時間がとっても幸せだった」

にこ「ラブライブ予選が終わらなければいいのにって思えるくらいに。だから、お願いがあるの」

にこ「今よりもっと作詞頑張るから、これからもスクールアイドルを続けて、くれる?」

真姫「どうして声を震わせてるのよ。まったくもう! 私が何の為に音ノ木坂に入学すると思ってるの?」

にこ「真姫ちゃん」

絵里「一人ではこの重圧に耐えられなかった私だけど、皆と一緒なら何度だって挑戦してやるわ」

希「というか、そんなことを訊くなんて逆に失礼や。カードが告げてる明るい未来を実現させないと嘘になってしまう」

にこ「絵里、希」

穂乃果「私もすっっっごく悔しい! 剣道やってた時よりもずっと悔しい。悔しくてたまらっないよぉ」グスッ

ことり「穂乃果ちゃん」

穂乃果「ひっぐ、ほんとにっ、くやしっくて、うっう……。だからこそもう迷わない。絶対に来年は決勝に行こう!」

ことり「ふふっ。今よりも可愛くて見栄えする衣装を用意するからね」

真姫「そもそも! この完璧な真姫ちゃんが正規のメンバーから外れてるのが一番の敗因なのよ」

にこ「ふふっ、自信満々ね」

真姫「だから穂乃果の言う通り、来年は間違いなく決勝に行けるわ」

にこ「みんな、ありがとう。……あと、真姫ちゃん、ごめんね」ギュッ

真姫「っ! な、なんでいきなり抱きついてるのよ!」////

にこ「穂乃果が泣くから貰い泣きしちゃって。うぅっ、ひっぐ、でもっこれはうれし涙なんだから゙ぁ゙~」

真姫「もぅ。にこちゃんは全然年上っぽくないんだから」ナデナデ

希「言葉とは裏腹に聖母のような微笑みを浮かべる真姫ちゃんだった」

真姫「何変なナレーションしてるのよ!」

絵里「私達は絶対ににこを一人になんてしないからね」グスッ

ことり「絵里ちゃんまで涙ぐんでるよ?」

絵里「そんなことないわよぉっ」

穂乃果「……ことりちゃん。穂乃果は間違えてたのかも」

ことり「え? ……あ、そうだね! ことり達は遠慮する関係じゃなかったよねっ」

穂乃果「うん」

ことり「穂乃果ちゃんとことりと海未ちゃんは三人揃ってこそ、だよね?」

穂乃果「うん♪」

ことり「でも今回ばかりは簡単に頷いてはくれないよ?」

穂乃果「そうだね。海未ちゃんにきちんと納得してもらわないと」

ことり「あの海未ちゃんが納得してアイドルになる方法なんてあるのかなぁ」

穂乃果「何か良い方法ないかな?」

ことり「海未ちゃんは昔から真っ直ぐな性格だから……同じ土俵で勝つしかない、かな?」

穂乃果「それってダンス対決ってこと?」

ことり「違うよ。ちなみに、お相撲でもありません」

穂乃果「お相撲、って流石ことりちゃん。穂乃果の思考を読むなんて」

ことり「えっへん♪ それでね、無茶だと思うんだけど穂乃果ちゃんにしか伝えられないやり方が一つだけ」

穂乃果「私だけのやり方?」

ことり「海未ちゃんに剣道で勝つことだよ」

穂乃果「えぇっ!? 中学時代だってまともに勝ったことないんだよ?」

ことり「だからこそ、だよ。穂乃果ちゃんの根性で勝てれば海未ちゃんも納得してくれるよ」

穂乃果「ちょっと難しすぎる気がするよ~」

ことり「大丈夫。私の穂乃果ちゃんなら絶対にやれるって信じてるっ♪」

穂乃果「……うん。やる前から諦めるなんて私らしくないよね!」

希(今まで以上に大きく運命が動き始める、そんな感じやね)

真姫「にこちゃんは泣きすぎよ」ナデナデ

にこ「だっでぇ゙~」

真姫「ふふっ。今くらいは好きなだけ泣いてもいいわよ。だって約束したものね」

にこ「ひっく、やくそく?」

真姫「にこちゃんが困ったら私が助けてあげるって約束したじゃない」

にこ「うん」

真姫「にこちゃんが泣いてたら私がこうして抱き締めてあげる。だから、これからも何も恐れずに真っ直ぐに突き進んで」

にこ「うんっ!」

絵里(な、なんていうか二人の世界で私と希が空気扱いなんだけど)ボソ

希(親子を通り越して完全に恋人同士の会話って感じやね)ボソ

絵里(女の子同士なんだけどね)

──20分後...

にこ「ということで反省会よ!」

絵里「さっきまで真姫の胸の中でずっとぐすぐす言ってたのに元気ね」

にこ「うっさい! 今まで以上にポエムとか読んで良い歌詞が作れるように努力するわ」

真姫「私ももっと甘い感じの曲を作れるように努力するわね」

穂乃果「ちょっと待って!」

にこ「何よ?」

穂乃果「明日新しいメンバーを勧誘してくる。その子なら歌詞も書けると思うの」

希「そんな子がいたん?」

ことり「うん。私達の幼馴染なんです」

にこ「園田海未のことね」

穂乃果「うん。恥ずかしがり屋だけど絶対に納得してμ'sに入ってもらう」

にこ「だから幼馴染だからって甘えはなしよ」

ことり「にこちゃんのやり方は正しいんだけど、ちょっと強引な方が穂乃果ちゃんのやり方なんです」ニコリ

絵里「確かにそうね。私の時はかなり強引だったし」

希「というか、えりちが簡単に落ち過ぎなだけやって」クフフ

絵里「う、うるさいわね!」///

穂乃果「もう後悔したくない。それに感じるんだ。μ'sの九人の内の一人は絶対に海未ちゃんだって」

真姫「希が占いで見た未来のメンバーね」

にこ「そこまで言うのなら穂乃果のやり方でやってみなさい」

穂乃果「うん! 私やるったらやる!」

希「ということは明日は久々に練習はお休みってことやね」

絵里「最近根を詰めすぎてたからいい休暇かもね」

にこ「そうね。穂乃果には悪いけど、明日は休みってことにしましょう」

ことり「明後日は私が皆にクッキー焼いてくるね」

絵里「ハラショー。ことりのクッキーは美味しいからとっても楽しみだわ」

真姫「あ~あ。服が汚れちゃったわねー」

希「突然棒読みでどうしたん?」

真姫「棒読み言うんじゃないわよ!」

にこ「……にこぉ」シュン

真姫「そうよ、にこちゃんの所為よ。そういう訳だから明日はにこちゃんの家で三食ご飯を御馳走になるからね」

にこ「それはいいけど、三食って。朝から来るの?」

真姫「朝軽く運動して、食材とかスーパーで買って帰りましょう」

にこ「そうね。真姫ちゃんがそうしたいならいいわ」

真姫「別に私がしたい訳じゃないわ。にこちゃんが一人だと泣いちゃうだろうから、わざわざ朝から付き合ってあげるの」

にこ「なんですってー! 誰が泣くなのよ!」

希「真姫ちゃん、ごめんにこぉ」

絵里「にこは真姫ちゃんが大好きにこぉ」

にこ「まっ、待ちなさいよ! 絵里の台詞なんて言ってないでしょ!」

絵里「にこちゃんが泣いてたらこうして抱き締めてあげるから!」

希「真姫ちゃんっ。人前で恥ずかしい。でも、嬉しいにこっ」

真姫「ヴェェェェ! そんなこと言ってないわよ!」////

にこ「にこだってそんな反応してないわよ!」///

穂乃果「なんか楽しそう。私もにこちゃんやる!」

ことり「だったら私は真姫ちゃん役やるね☆」

穂乃果「にっこにっこにー♪」

ことり「そんなの流行らないわよっ」

穂乃果「えぇ~そんなことないわよぉ。真姫ちゃんもやってみるにこっ!」

ことり「えぇっ。しょうがないわね。にっこにっこにー♪」

にこ「穂乃果もことりも流れが読めないなら無理に混ざるんじゃないわよ!」

真姫「もうっ、意味分かんない!!」

絵里「ね、希。今占いをしたら何のカードが出るか私分かるわ」

希「偶然やね。ウチもカードに触れる前から分かるよ」

絵里「じゃあ」

希「一緒に言ってみよう」

のぞえり「死神のカードの逆位置!」

絵里「ふふふっ」

希「あははっ」

穂乃果「よーしっ! じゃあ、景気づけに本物のにっこにっこにーを皆でやろうよ!」

ことり「そうだね、いいかもっ♪」

絵里「普段なら恥ずかしいけど、今日くらいはいいかもね」

希「明るい未来が近づきそうやし」

真姫「何で私があんなポーズしなきゃならないのよ!」

にこ「と言いながら既に両手がにこポーズになってるニコ☆」

真姫「中指と薬指が他の指と喧嘩しただけよ///」

穂乃果「じゃあ部長! 明るい一言からお願いしますっ!」

にこ「えっ? えっと…………ご~!」

真姫「それはないわ」キッパリ

絵里「にこは時々どうしようもないくらい残念になるわね」

希「ウチはそこがにこっちの魅力だと思うけど」フフッ

ことり「くすっ。かぁわいい♪」

穂乃果「なんかごめんね。絵里ちゃんに頼めばよかったね」

にこ「同情風に言うんじゃないわよ! ほら、元気出していくわよ。来年のラブライブで優勝する為に!!」

μ's「にっこにっこにー♪」

──9月15日 13:10 園田邸 穂乃果

海未「それで、真剣な話があるということですが」

穂乃果「うん。もう変に遠慮して後悔したくないの。にこちゃんにはにこちゃんの、私には私のやり方があるんだ」

ことり「穂乃果ちゃんの一番冴えたやり方、だね」

海未「話が見えないのですが、何の用でしょうか?」

穂乃果「海未ちゃん。穂乃果達と一緒にスクールアイドルになって!」

海未「……そんな話の為にこうしてわざわざ来たというのですか?」

穂乃果「そんな話じゃないよ。穂乃果は真剣だよ」

海未「ことりも答えの分かってるんですから、穂乃果を止めて下さい」

ことり「ごめんね、海未ちゃん。でもね、ことりも穂乃果ちゃんと同じ意見なんだぁ」

海未「ことりまで何を言ってるんですか。矢澤先輩のアイドル熱がうつったんですか?」

穂乃果「海未ちゃんが入ってくれれば今よりもっと輝くんだよ。穂乃果はもっともっと輝きたい!」

ことり「今までのようにやっぱり三人で一緒にやりたいの」

海未「はぁ~。あのですね、私は弓道部に入ってるんです。わざわざ掛け持ちする必要性なんてありません」

穂乃果「海未ちゃんはアイドル似合ってるよ!」

ことり「可愛い衣装着せたてみたいっ」

海未「あの時も言いました。アイドルはお断りです!」

ことり「はぁん」シュン

穂乃果「今回はそれだけで引く訳にはいかないんだ。言ったよね、もう後悔したくないって」

海未「私だってアイドルをやるような後悔したくありません」

穂乃果「今なら毎日ほむまん一個進呈しちゃうよ☆」

海未「……。そんな物で釣ろうとする考えで世間を渡っていけると思ってるんですか?」

ことり「でもちょっと考えたよね?」

海未「そんな訳ありません!」カァァァ

穂乃果「海未ちゃんは昔からうちのおまんじゅう好きだからねぇ」

海未「その話は今はどうでもいいではありませんか。とにかく、アイドルはなしです」

穂乃果「うん、最初からそう言うと思ってた」

ことり「だからこっちも海未ちゃんに合わせた提案があるの」

海未「私に合わせた方法、ですか?」

穂乃果「穂乃果と剣道で勝負しよう。穂乃果が勝ったらμ'sのメンバーに入って!」

海未「今なんて言いましたか?」

穂乃果「久しぶりに剣道で勝負しようって言ったの」

海未「聞き間違いであって欲しかったのですが……。部活を引退してから竹刀を握ったことあるんですか?」

穂乃果「ないよ」

海未「それで勝てるとでも思ってるんですか? ことりもことりです。何を考えてこんな馬鹿げた提案をするのですか」

ことり「やる気全快の穂乃果ちゃんなら不可能だって可能に出来るって信じてるから」

穂乃果「うん。今の穂乃果なら可能に出来るよ!」

海未「剣の道を舐めているのですか? いいえ、舐めているのですね」

穂乃果「舐めてなんかない。でも、やる」

海未「正直本気で腹立たしいです。そんな勝負を受けるなんて剣道への冒涜です」

海未母「どんな理由であれ、勝負を挑まれて拒むは園田家の恥ですよ、海未さん」

穂乃果「あっ、こんにちは!」

ことり「お邪魔してます」

海未「母さん! これは私達三人の問題です。口を挟まないで下さい」

海未母「冷静さを保てないのは愚か者の証。冷静になりなさい」

海未「うっ……。すーはー、すーはー」

海未母「今日は丁度道場が空いてます。審判は私がしましょう。二本先取りでいいですね」

穂乃果「はいっ!」

海未「待って下さい。冷静になっても受ける理由が私にはありません。これは恥でもなんでもないことです」

海未母「一番大切な友人が心からぶつかってきているのです。貴女が一人の人間であるというのなら受けなさい」

海未「……母さんは昔から穂乃果に甘過ぎです」キッ!

海未母「穂乃果ちゃんは元気で根性もありますから。娘だったらどんなに良かったか」

穂乃果「あははっ」

海未「ま、結果は見えている勝負ですが仕方ないので受けて立ちます」

ことり「ありがとう、海未ちゃんっ」

穂乃果「やった♪」

海未「そちらの敗北条件は穂乃果が諦めること。もしくは立ち上がれなくなること」

穂乃果「うん、それでいいよ。絶対に私は諦めたりしないからね」

海未「そんなこと言われるまでもなく知ってますよ。だからこそ、完膚なきまでに叩きのめしてあげます」

穂乃果「こっちは海未ちゃんに勝てばいいんだよね?」

海未「ええ、どれほど負けを重ねようと一勝すれば穂乃果の勝ちです」

海未母「では必要な物を準備するので二十分後に道場で始めましょう」

ことり「準備は私も手伝います」

海未母「ありがとう、ことりさん。そうしてくれると助かるわ」

穂乃果「海未ちゃん。私はスクールアイドル始めてからずっと鍛えてるんだからね」

海未「それも知っています。ですが、いくら体力があろうと負けが続けば心から折れていくものですよ」

海未母「かなり暑いので途中に何度か休憩を入れます。海未さん、よろしいですか?」

海未「勿論です。私は穂乃果を病院送りにしたい訳ではありませんから」

ことり「水分は沢山取らないと熱中症になっちゃうもんね」

海未母「長引くようなら一度軽く食事も入れます。その場合はシャワーを先に浴びてもらいます」

海未「逆に穂乃果に不利になりそうですが、私は何でも構いませんよ」

穂乃果「睡眠は流石に入れなくていいですからね。明日の朝になる前には海未ちゃんに勝ってみせるから」

海未「そんな事を言えるのは今だけですよ。始まれば竹刀の痛みを思い出すでしょう」

──13:33 園田家道場 穂乃果

海未母「今回は喉元への突きは禁止とします」

海未母「三本勝負一本目! お互いに礼! 始め!」

海未「面!」

バシーン!

穂乃果「あぅっ!」

海未母「一本!」

海未「穂乃果、これで目が覚めましたか? 私から一勝を取るということがいかに不可能か」

穂乃果「た、確かに強烈だけど。まだ一本先取りしただけだよ。絶対に負けないから」

海未「そうですか。もう一度言います。手加減はしませんから」

穂乃果「うん、勿論だよ。絶対に勝って海未ちゃんを仲間にするんだから」

海未母「二本目! 始め!」

穂乃果「やぁ!」

海未「胴!」

バシッ!!

穂乃果「ぐっ!」

海未母「一本! 勝負あり! お互いに礼!」

海未「あっさりと終わりましたが、続けるのですか?」

穂乃果「続けるよ。……まだ一勝しただけなのに、海未ちゃんは余裕持ち過ぎだよ?」

海未「実力差があり過ぎです。勝負になっていないので余裕以前の問題です」

ことり(穂乃果ちゃん。海未ちゃん)

海未母「では続けて始めます。お互いに礼! 一本目開始!」

──14:12 高坂家 雪穂

雪穂「それでお姉ちゃんったらまた馬鹿なこと言い出して」

亜里沙「雪穂は本当に穂乃果さんのことが好きだよね」

雪穂「はぁ!? 悪口言ってるじゃん」

亜里沙「そんな笑顔で言われても悪口に聞こえないよ」

雪穂「亜里沙は絵里さんって素敵なお姉さんが居るからそんな風に思うんだよ」

亜里沙「どういうこと?」

雪穂「本物というか、普通の姉はあんなカッコ良くないから。妹からするととっても頼りにならなくて面倒で困る存在」

亜里沙「穂乃果さんが困ってたから直ぐに私に連絡してきたのに?」

雪穂「あれは放っておく方が逆に面倒だっただけ!」

亜里沙「雪穂は穂乃果さんのことになると子どもっぽくなるわ」

雪穂「変な事ばかり言うからでしょ!」

亜里沙「でも、私穂乃果さんにはとっても感謝してるの」

雪穂「なんで? お饅頭が美味しいって分かったから?」

亜里沙「あ、それもあるわ。スクールアイドルって言うのがあるのを教えてくれたから」

雪穂「ああ、当然ながら日本にしかないもんね」

亜里沙「それに、お姉ちゃんをもう一度踊るようにしてくれたこと。これが一番感謝してるわ」

雪穂「強引に誘って根負けしただけだと思うけどね。お姉ちゃんは痛いスイッチ入ると止まらなくなるし」

亜里沙「少なくとも私には出来ない。それをしてくれた穂乃果さんは憧れでもあるの」

雪穂「お姉ちゃんがぁ?」

亜里沙「私も再来年音ノ木坂に入って、穂乃果さん達とスクールアイドルやりたいって思ってる」

雪穂「気が早いなー」

亜里沙「でも、真姫さんは同じ中学生なのに活動してるわ。それに、志すのに遅すぎるってことないと思う」

雪穂「志すって、難しい単語知っててそっちに驚きだよ」

亜里沙「最近辞書を引くようにしてるの。歌詞で分からないの出てきたら困るから」

雪穂「スクールアイドル目指すなら秋葉のUTXの方が断然良いと思うけど」

亜里沙「私もUTXは知ってるわ。綺麗だし設備は十分過ぎると思う」

雪穂「でしょ? 私がもしスクールアイドル目指すとしたら間違いなくUTXを選ぶけどなー」

亜里沙「おばあちゃまが言ってたわ。場所より人なんだって。人が居るからその場所を好きになるんだって」

雪穂「場所より人、ねぇ」

亜里沙「だから私が目指すのは音ノ木坂なの!」

雪穂「本人の自由だけど、亜里沙はお姉ちゃんのことを買いかぶり過ぎだよ」

亜里沙「そんなことないってば。それより穂乃果さんは今日は居ないの?」

雪穂「お姉ちゃんは海未さんの家に行ってるよ。物置の中から剣道の一式持って行ったけど、なんだったんだろう?」

亜里沙「剣道? 知ってるわ。あの木の剣で斬り合う競技よね」

雪穂「斬り合いじゃなくて打ち合うかな。詳しいルールとか詳しくないけど。お姉ちゃんが中学時代やってたんだよ」

亜里沙「ハラショー! 穂乃果さんは何でも出来るのね」

雪穂「出来ないことの方が多いよ。剣道だって続けなかったから意味なんてないし」

亜里沙「そんなことないわ。経験より価値あるものはないって言ってたもの」

雪穂「確かにそうとも言えるけど。私は剣道って好きじゃないんだよね」

亜里沙「どうして? かっこいいと思うけど」

雪穂「室内でする競技でもっとも熱中症になり易いんだよ、剣道って」

亜里沙「そうなの?」

雪穂「うん。幸いにもお姉ちゃんが倒れるようなこともなかったみたいだけど、何かあったら怖いでしょ?」

亜里沙「そうね」

雪穂「絵里さんみたいに心配の要らないお姉ちゃんならどれ程気が楽か」

亜里沙「ふふっ。口元緩んだ笑顔で言っても説得力がないわ」

雪穂「緩んでなんてないよ!」

──15:10 園田家道場 穂乃果

海未母「一旦休憩とします。ことりさん、穂乃果ちゃんの汗を十分拭ってあげてください」

ことり「はいっ!」

海未母「私は濡らしたタオルと換えの水を持ってきます」

ことり「お願いします。穂乃果ちゃん、今脱がしてあげるからね」

穂乃果「ぜーはーぜーは……はーはー」

海未「……ふぅ。穂乃果、貴女は十分に頑張りました。諦めも必要ですよ」

穂乃果「はーはーっ、あきっ、はーはー」

ことり「無理して喋らないで。さっき拭ったばかりなのに、もうこれだけ汗だくになって」

海未「呼吸が無駄に乱れれば乱れるだけ体力を使い、余計な汗が流れ落ちることになりますからね」

穂乃果「はーはーはーはー」

ことり「穂乃果ちゃん。もう直ぐ水がくるからね」

海未「一勝するどころか一本すら取れない現状。結果は最初から揺るぐことはありません」

ことり「海未ちゃん酷いよっ。どうしてそんなこと言うの?」

海未「ことりは穂乃果に甘すぎます! 何でも出来る訳ではない。それを知るのに良い機会です」

穂乃果「ふーっ……何でも出来なくっても、いいんだ」

穂乃果「はー、はー。ただ、穂乃果はこれからも歌い、続けたい」

穂乃果「スクールアイドル楽しいんだ。でもね、やっぱり隣に海未ちゃんが居て欲しい」

穂乃果「穂乃果が感じてる楽しい気持ちを共有して欲しい。それだけなの」

海未「いつまでも私達は一緒のことを出来る訳ではありません」

穂乃果「うん、知ってるよ。これが穂乃果の我がままだってことも」

穂乃果「だけど、穂乃果達だけじゃ届かない。海未ちゃんが一緒じゃないと駄目なんだって、今回のことで分かったの」

海未「他力本願は甘さの証拠です。力を貸して欲しいというのなら、結果を見せてみなさい!」

穂乃果「うん、勝つよ。だから絶対に諦めない」

海未母「水を持って来ました。冷たいタオルで拭う前に水分を補給なさい。海未さんもですよ」

──16:00 自室 希

希「穂乃果ちゃんなら何とか出来る、ウチはそんな予感がしてるよ」

絵里『私は穂乃果は自分の限界以上に頑張りそうで心配なのよ』

希「確かにそういうところあるよね」

絵里『でしょ? にこみたいに意外としっかりしてれば心配しないで済むんだけど』

希「にこっちはああ見えてお姉さんやからね」

絵里『穂乃果だってお姉ちゃんの筈なのよ?』

希「末っ子のイメージしかないところが逆に凄い」

絵里『雪穂ちゃんは穂乃果と違ってしっかりしてるから』

希「姉妹でも色んな形があるんだねぇ」

絵里『オーソドックスな姉妹であって欲しかったわ』

希「それだとえりちの勧誘がタイムオーバーで、生徒会入りを理由にスクールアイドル断ってたやん?」

絵里『それも、そうだけど』

希「相手が見ず知らずの相手なら心配だけど、気心しれた幼馴染なんでしょ?」

絵里『ことりとは対照的に人に厳しく、自分にもっと厳しくな性格じゃない』

希「ことりちゃんは人に甘いからね。特に穂乃果ちゃんのことになるとお菓子系」

絵里『こんな心配で何も手に付かなくなると分かってたら、どこで何をするのか問い詰めておけばよかったー』

希「電話はしたん?」

絵里『二人共繋がらないのよ。当然ながら園田さんの番号は分からないし』

希「今出来ることは祈ることだけやね」

絵里『お祈りでどうにかなるのなら祈ってあげるわよ』

希「というか、えりちの今の状態で祈っても逆効果になりそう」

絵里『え、なにそれ。お祈りに逆効果とかあるの?』

希「落ち着きを持った正常な心でないとお祈りに効果はないんよ?」

絵里『そうなの? でも、落ち着けとか無理よ』

希「えりち、目を瞑って」

絵里『う、うん』

希「大丈夫。手を握ってないけど、目を瞑ればウチはえりちの直ぐ傍に居るから」

絵里『……希』

希「穂乃果ちゃんなら大丈夫。ウチらμ'sの立派なリーダーだよ」

絵里『うん』

希「えりちがすることは明日笑顔で報告してくる新メンバーを喜んで受け入れること。穂乃果ちゃんを労うことだけ」

絵里『待って』

希「ん?」

絵里『ことりのクッキーを美味しく食べることが抜けてるわ』

希「調子出てきたみたいやんか」

絵里『希のお陰よ。私は駄目ね。強くあろうとしても、直ぐに動揺しちゃって』

希「一緒にお互いをもっと誇れる存在にしていこう」

絵里『そうね。あー自分の青春一色の発言を逆に使われるなんて恥ずかしいわ』

希「いいじゃない。だって、ウチらは今正に青春時代なんだから」

絵里『大人になって振り返ったら笑い話にも出来なさそうな地雷だけどね』

希「皆の笑い者にされるのもそれはそれで良い思い出になるやん」

絵里『ふふっ、そうかもね。皆にならいいかもね』

──17:20 園田家道場 穂乃果

園田母「少し早いですが食事休憩とします。まずは汗を流してきてください。その間に食事を用意します」

海未「その前に聞きます。穂乃果、諦めたらどうですか?」

穂乃果「……っ、あき、らめな……い」

海未「そうですか。では、私は先に汗を流してきます」

ことり「穂乃果ちゃん。もう、これ以上は……」

穂乃果「うう、ん」

園田母「余り食は進まないでしょうが、少しでも消化し易い素麺にします」

ことり「私達の我がままに付き合ってもらってありがとうございます」

園田母「いいのよ。寧ろこちらが感謝してるくらいです」

ことり「感謝、ですか?」

園田母「誰に似たのかってくらいに恥ずかしがり屋だったあの子が強くなれたのはあなた達二人のお陰ですから」

穂乃果「つよ、すぎるけど」

ことり「う、うん。もうちょっと弱いと助かるんだけどね」

園田母「そういう部分の不器用さはあの人の血でしょう。不器用だけど真っ直ぐな人ですから」

穂乃果「でも、負けない。一緒に、アイドルしたいから」

園田母「あの子がアイドル。私には想像出来ませんけどね」

ことり「でも、海未ちゃんは私達三人の中で一番乙女だから」

穂乃果「うん。絶対に似合うよね」

園田母「ですが今回は分が悪すぎました」

ことり「まだ終わってません。結末は最後の頁を捲るまで分からないですっ」

園田母「……。では、私は食事の用意をしてきます。身体を十分に休めて下さい」

穂乃果「はぁ~。体力作りしてるから平気かなって思ったけど、全然だね」

ことり「しょうがないよ。海未ちゃんにとってはずっと続けてることだから」

穂乃果「そうだよね。にこちゃんや真姫ちゃんが言うには中学の時から走ってたってことは、朝練の前からだもんね」

ことり「うん。だから体力面ではμ'sの誰よりも高いよ」

穂乃果「お饅頭で勝負をつけるべきだったー」

ことり「くすっ。でも、あそこまで真剣に続けるとは思わなかったなぁ」

穂乃果「そうかな?」

ことり「……うん。それより、汗を十分にふき取ったらお風呂行こうか」

穂乃果「熱いお風呂に入って良い意味で汗掻きたい~」

ことり「お風呂上りにマッサージしてあげるね」

穂乃果「ありがとう、ことりちゃん。迷惑掛けちゃってごめんね」

ことり「全然迷惑なんかじゃないよ。むしろ私の方こそ何も出来なくてごめんね」

穂乃果「何言ってるの? ことりちゃんが支えてくれるから穂乃果は全力で頑張れるんだよ」

ことり「そんなことないよ。穂乃果ちゃんも海未ちゃんもことりと違って何でも出来るから」

穂乃果「前にも言ったでしょ? 中三の最後の大会で三位になれたのはことりちゃんの応援のお陰だって」

ことり「応援なんて誰にでもっ!」

穂乃果「ううんっ! ことりちゃんの応援は穂乃果にとっては特別なんだよ」

穂乃果「だってことりちゃんは穂乃果の最初に出来た一番の友達なんだから」

ことり「ほのかちゃん」

穂乃果「だから、自分には何もないみたいに言わないで。穂乃果の好きなことりちゃんを否定しちゃ嫌だよ」

ことり「……はいっ!」

──17:40 園田家庭 ことり

ことり「ねぇ、海未ちゃん。どうしてあんなに本気で戦うの? 相手は穂乃果ちゃんなんだよ!」

海未「穂乃果だからこそです」

ことり「理由になってない!」

海未「穂乃果はいつでも真っ直ぐです。普段はそれが魅力であることは誰よりも認めます」

ことり「だったら」

海未「あくまでも普段の話です。何か起こってから、自分が頑張ればと思い込んで穂乃果が走り出したらどうします?」

海未「必ずそれが正しいことではないのです。進む方向が間違ってるかもしれません。そうなって傷つくのは穂乃果です」

ことり「その時は間違える前に私か海未ちゃんが修正してあげるか、止めてあげればいいじゃない」

海未「もしその時に私とことりが傍に居てあげられなかったらどうするんですか?」

ことり「ずっと一緒だよ!」

海未「現実から目を背けないでください。穂乃果もきちんと理解してることです。一緒にいられるのは高校まで」

海未「私達がそれぞれ別々の道を歩むことは初めから決まっています」

海未「それに男女じゃないんです、家の事情がなかったとしてもずっと一緒には居られません」

ことり「でもだったらまだいいよね? だって、まだ私達は高校生なんだから」

海未「今から自分でブレーキの掛け方覚えないと穂乃果は一生自分で止まれませんよ」

ことり「……そう、かもしれないけど。だからってこんなやり方で教えなくても」

海未「このやり方を望んだのはそちらの筈です」

ことり「だけど……」

海未「それに穂乃果は今はグループのリーダーをやっているのでしょ? だったら尚更自覚しなければいけません」

海未「自分が周りにどれほどの影響力があるのか。それが良い意味だけではないということを」

海未「取り返しのつかない失敗をしてからでは遅いのですよ」

ことり「……」

海未「ことりからすれば穂乃果は無敵のヒーローのように見えるかもしれません」

海未「ですがそうではないのです。穂乃果は普通の女の子。些細な失敗で深く傷つくかもしれない」

海未「自分の行動した結果で誰かを傷つけてしまえば、ショックで塞ぎこんでしまうかもしれない」

海未「そんな可能性を少しも残したくありません。傷つくことから遠ざけてあげたい」

海未「そのことで私が穂乃果に憎まれても構いません。穂乃果を守ることに繋がるのであれば」

ことり「…………海未ちゃん」

──19:10 園田家道場 穂乃果

園田母「残念ですが勝負はここまでとします」

穂乃果「まって、まだ……できる。せめて、もういっかい」

園田母「審判としての判断です。穂乃果ちゃん、分かって下さい。立てない人間に続行を掛ける審判は居ません」

ことり「穂乃果ちゃん! 頑張って! あと一回ならっ穂乃果ちゃんなら出来るよ!」

穂乃果「ぐっ! はぁはぁ、ふぅ~。ありがとう、ことりちゃん」

穂乃果「立てたからっ、これでいいですよね?」

海未「穂乃果じゃ勝てない! まだ分からないの!?」

穂乃果「分からないよ。だって、ほのかはバカだもん。うみちゃんから絶対に一本取るんだから」

ことり「穂乃果ちゃんがんばって! ことりはずっと穂乃果ちゃんを応援してるからね!」

海未「分かった。穂乃果、次で最後!」

穂乃果「うん!」

園田母「三本勝負から一本へ変更します。尚、試合時間は三分とします。今回ばかりは礼は不要。始め!」

穂乃果(穂乃果は海未ちゃんと一緒に輝きたい)

海未(熱意と根性だけは認めます)

穂乃果(絶対に勝つから一緒にスクールアイドルをしようね!)

海未(まったく……。穂乃果にはブレーキが付いてないのですか)

穂乃果(多分お母さんのお腹に忘れてきちゃった。だから雪穂はブレーキ二倍なんだよ)

海未(そんなことある訳ないでしょう!)

穂乃果(だったら、海未ちゃんとことりちゃんが穂乃果のブレーキを半分ずつ持って生まれたのかも)

海未(そんなことはありえません。……と、言い切れないのが怖いところです)

穂乃果(私達三人はこうして出逢う運命だったんだよ♪)

海未(もっと素敵な運命がよかったですが、穂乃果とことりには感謝しています。家族よりも誰よりも)

穂乃果(それは穂乃果だって同じことだよ!)

海未(だからこそ、いつまでも一緒に居たいと願ってしまう。叶うことのない夢なのに)

穂乃果(そんなことないよ。夢なき夢は夢じゃないんだって、にこちゃんがよく言ってるよ)

海未(夢なき夢は夢じゃない?)

穂乃果(不思議な言葉だよね。でも、何故か胸にストンって落ちてくるの)

海未(……そう、ですね)

穂乃果(まるで生まれる前になくした心の欠片みたい)

海未(心の欠片、ですか?)

穂乃果(私達は家のこともあるし、夢を諦めて迷子にならないようにって。きっとこの言葉を残してくれたんだよ)

海未(誰がですか?)

穂乃果(んーっと、九人の歌の女神!)

海未(ミューズですか)

穂乃果(ううん、μ'sだよ!)

海未(でも夢より現実でしょう? 夢はどんなに言葉を尽くそうと現実には無力です)

穂乃果(そんなことない。だって、夢は何よりも強くて輝いてるんだから!)

海未(それだとまるで夢とは穂乃果のような存在ですね)

穂乃果(えー、そんなことないよ)

海未(そんなことあります。では、仕方ないですね。夢を始める為に、生涯一度だけの──をします)

ことり「海未ちゃんの竹刀が降りた!?」

園田母「海未さんが自ら負けを?」

穂乃果「めーっ……あれ? せかいがまわって、あぇ~? ……あぅっ」バタン

ことり「穂乃果ちゃん!?」

海未「穂乃果!!」

園田母「穂乃果ちゃん!」

──30分後 園田家 海未の部屋 穂乃果

海未「まったく! どうして一番大事な部分で力尽きるのですか!」

穂乃果「いやぁ~面目ない。いきなり世界がぐるぐる回り出して、立っていられなくなって」

ことり「本当に心配したんだよ?」

穂乃果「ごめんね、ことりちゃん。もう大丈夫だから」

ことり「無理しちゃ駄目だからね」

海未「これだから穂乃果を放っておけないんです」

穂乃果「あははっ。負けちゃってから言うのも反則だけど、だったらいつまでも一緒に居て!」

海未「本当に反則ですよ、それ。勝負の意味がなくなるではないですか」

ことり「んふっ♪ でも穂乃果ちゃんらしいっ」

穂乃果「改めて感じたの。海未ちゃんはμ'sになくてはならない存在だって」

海未「私がアイドルなんて……何を考えているのやら」

ことり「とか言ってるけど、最後は自分で負ける為に竹刀を下げてたよね?」

海未「なっ! あれは穂乃果の油断を誘う兵法です」

穂乃果「あの海未ちゃんが自分から負けようとしてくれてたの!?」

海未「だから違います!」///

ことり「あの瞬間ことりジーンとして泣きそうになっちゃったぁ」

穂乃果「それで倒れる穂乃果って、漫画の主人公ならカッコよく決めるシーンなのに」

海未「カッコ悪くても、ブレーキがなくても、穂乃果は間違いなく主人公ですよ」

ことり「そうだねっ♪ ことりと海未ちゃんにとっては主人公なのっ!」

穂乃果「じゃあ穂乃果にとってことりちゃんと海未ちゃんはヒロインだね♪」

海未「ヒロインの意味が分かっているのですか」ヤレヤレ

ことり「ことりと海未ちゃんは両親の陰謀で結婚式を挙げられるの」

海未「は?」

ことり「誓いのキスの瞬間、主人公の穂乃果ちゃんが登場して、そのまま私達を連れて逃げるの」

海未「一体何の話ですか!?」

ことり「ウェディングドレスだから丁度いいねって、これからずっと一緒に未来を歩んで行こうって誓うの」

穂乃果「それいいね! よ~しっ。ことりちゃん、海未ちゃん。これから先ずっと一緒に未来を歩んでいこう!」

海未「なんでことりの変な話に影響受けてるんですか!」

ことり「はいっ!」

海未「ことりもことりです。何を考えてるんですか!」

穂乃果「三人いつまでも仲良しさん。それでいいじゃない。だって、私達はそうして生きてきたんだもん!」

海未「……はぁ~。本当に、穂乃果にはブレーキがないんですね」

ことり「だって穂乃果ちゃんだもん」

海未「夢なき夢は夢じゃない。……そうですね。夢をみつけて、同じ夢だったら必然的に未来も一緒ですね」

穂乃果「よ~し! じゃあ、今日は三人でお泊り会♪」

ことり「海未ちゃんスクールアイドルデビュー前夜だねっ」

海未「今日この日を一生後悔しそうですね」

──翌日 朝 公園

海未「本日よりスクールアイドルμ'sの一員になりました、園田海未と申します。よろしくお願いします!」

絵里「ハラショー。本当に説得出来るとはね。穂乃果、何か無茶したんじゃないの?」

穂乃果「あはは……」

ことり「まぁまぁ。過ぎたことだから」

希「つまりは無理したんやね」

にこ「リーダーなんだからその辺はしっかりしなさいよね」

真姫「部長だからって無理するにこちゃんが言っても説得力ないわよ」

にこ「最近は自粛してるでしょ?」

真姫「どうだか」

海未「弓道部との掛け持ちになりますが、やるからには全力でしますので御指導お願いします」

絵里「正統派大和撫子ね」

希「穂乃果ちゃんの幼馴染してるんが不思議なくらい」

ことり「海未ちゃんはこう見えても色々あるんですよ」

海未「色々ってなんですか、色々って!」

にこ「新入部員の海未に決め台詞を用意してあげたからやってみて」

真姫「昨日のアレ本気だったの? 絶対にヤメた方がいいけど」

にこ「海未だけに『ら~ぶうみぃ~ちゅっちゅっちゅっ♪』よ!」ドヤァ

海未「──は?」

にこ「だから『ら~ぶうみぃ~ちゅっちゅっちゅっ♪』よ。穂乃果とことりの三人でするのもありね」

ことり「くすくすっ。可愛いかも♪」

穂乃果「恥ずかしいけど、三人一緒なら!」

海未「辞めます! 私はスクールアイドルを辞めます!!」////

穂乃果「海未ちゃん! まだ始めたばかりだよ」

海未「そんな恥ずかしいこと言うくらいなら辞めます!」

ことり「可愛いから大丈夫だよぉ」

海未「全然大丈夫ではありません!」

希「確かに色々ありそうやね」

絵里「でも、個性あってこそのμ'sだと思うわ」

真姫「個性あり過ぎだけどね。私以外」

にこ「何言ってるのよ、真姫ちゃんだって十分個性的でしょうが」

海未「穂乃果、ことり、離してください! 私は家に帰ります! アイドルはやっぱりなしです!」

──10月第1木曜日 放課後 公園

海未「穂乃果! 疲れてきましたか? テンポが若干遅れてますよ」

穂乃果「まだまだだよ!」

海未「はい、そのテンポを忘れないように。逆ににこは気持ち一つ早いです」

にこ「皆が私に追いつけないのはにこが圧倒的部長──」
海未「──無駄口はいいですから。はい、その感覚を忘れないで下さい」

海未「希はいい感じですよ。そのままリラックスして踊れるようになってください」

希「了解や!」

海未「絵里は文句なしですね。素晴らしいです」

絵里「これくらいなら序の口よ」

海未「では一旦休憩にしましょう。鍛えてきただけあって、基本的にむらがなくて素晴らしいです」

真姫「遅れてごめん。みんな、お疲れさま」

にこ「あっ、真姫ちゃん。病院に寄らなきゃいけなかったんでしょ? 仕方ないわよ」

絵里「将来総合病院を継ぐとなると大変ね」

にこ「まだ継ぐとは決まってないわよ!」

真姫「本当にどれだけにこちゃんは……。もういいわ」

穂乃果「はぁ~やっぱり海未ちゃんが居ると気合の入り方が違ってくるよね、ことりちゃん♪」

ことり「うんっ! 場が引き締まるし、でも安心感あるから頑張れるよね♪」

海未「そ、そんなこと言っても指導を緩めたりはしませんからね」

希「最初はダンスに戸惑ってたんに、直ぐに覚えちゃったよね。天才肌なんかな?」

にこ「違うわね。海未は完全に努力人間よ。弓道に家でも剣道や日舞とかやってるみたいなのに、尊敬するわ」

真姫「私達と知り合う前から公園で走ってたものね」

にこ「うん。それに……」

絵里「それに?」

にこ「にこの噂を知っていても、海未はにこを信じてくれた。あの心の真っ直ぐさが本当に憧れるわ」

希「ウチも穂乃果ちゃんににこっちのこと訊くまでは半信半疑だったし、耳に痛いわ」

にこ「何を言ってるのよ。それでも信じてこうして仲間になってくれたじゃない」

絵里「私が生徒会長になったら根絶やしにしてあげるわ。もう少しだけ待ってなさい」

にこ「こうして仲間が居てくれるんだもん。今でも十分よ」

真姫「そうね。なんせ空き教室に鍵が掛かってて、どこで食べればいいのって泣いてたくらいだものね」クスッ

にこ「泣いてはないわよ!!」

海未「PVはまだ良いのですが、人前で歌うということを意識すると怖いですね」

穂乃果「何かおまじないでもあればいいんだけど」

ことり「一番は自信がつくことなんだけどぉ」

海未「弓道は己との勝負ですし、剣道は相手との勝負。日舞は舞うことだけに集中できます」

ことり「アイドルは見られることを前提とし、笑顔を振りまくからね」

穂乃果「海未ちゃんの笑顔は可愛いんだし、怖がることなんてないのに」

ことり「そうだよ。凛々しいけど可愛い!」

海未「ふ、二人して変なことを言わないでください///」

穂乃果「昔よりは大分恥ずかしがり屋な部分も収まってきたんだけどねー」

ことり「そうだよね。ほっぺ突っついたら恥ずかしさで泣いちゃうくらいだったもんねっ」

海未「止めて下さい! 恥ずかしさで死んでしまいます!」

穂乃果「友達とか呼んでライブを見てもらって、徐々に慣れていくとかが一番かな?」

ことり「穂乃果ちゃん頭脳派キャラみたい♪」

穂乃果「えへへっ。そうかな? 眼鏡とか似合っちゃうかな?」

ことり「あー……眼鏡はどうかなぁ」

穂乃果「だってアイドルファンの中でも眼鏡好きの人も居るって話だよ」

海未「しかし、需要は少ないようですよ」

穂乃果「眼鏡掛けてる子も必要なんじゃないのかなー?」

──某中学校 放課後 花陽

花陽「くしゅん!」

凛「かよちん風邪かな?」

花陽「ううん、大丈夫だよ」

凛「そっか、なら安心。これで悠々と帰れるね!」

花陽「凛ちゃんは体育の授業の時か帰る時が一番元気だよね」

凛「だって勉強って退屈なんだもん」

花陽「でも、今年は受験生なんだから。勉強しないと……」

凛「音ノ木坂は勉強しなくても入れるって噂だから大丈夫!」

花陽「だけど、きちんと勉強はしないと駄目だよ」

凛「それはともかくかよちんはあの話聞いた?」

花陽「あの話って?」

凛「公園に美味しいクレープ屋さんが来るようになったんだって。早速帰りに寄って行こう!」

花陽「で、でも……。買い食いは校則違反」

凛「大丈夫大丈夫。みんなやってるから」

花陽「それ全然大丈夫じゃ、ないよ」

凛「かよちんは細かいこと気にし過ぎだよ」

花陽「……そ、そうかな?」

凛「そうだよ、へーきへーき♪」

花陽「あ、でも。花陽お財布持ってきてないから、一度家に帰らなきゃ」

凛「凛が貸してあげるから平気だよ」

花陽「う、うん。ありがとう」

凛「バナナクレープが美味しいって話だけど、かよちんは何を食べる?」

花陽「私は写真、見てから決めようかな」

凛「それもいいかも! 早く行こう♪」

花陽「あ、待って。直ぐに教科書鞄に詰めちゃうから」

──公園 花陽

凛「目立つピンクの車って言ってたけど、どっこかな~?」

『確かめたい力~』

花陽「歌?」

凛「見つかった?」

花陽「あ、ううん。そうじゃなくて歌が聞こえたから」

凛「公園だし、誰かが歌っててもおかしくないよ」

花陽「そうなんだけど、なんだか凄く気になって」

凛「アイドル好きの顔になってるよ? 公園にアイドルは居ないと思うけど」

花陽「取り敢えず歌の所に行ってみよう!」グイッ

凛「分かったから、引っ張らないで欲しい~!」

花陽「はぁはぁはぁ……っ!」

絵里「流石幼馴染三人組みって感じね」

にこ「この曲はこの三人用としてライブで披露することにしましょう。これは三人だからこその曲だと思うし」

真姫「余裕が出たらそういう曲も増やしていきたいわね」

希「真姫ちゃんが燃えてるね」

真姫「当然よ! ラブライブだろうとなんだろうと、にこちゃんを傷つけたお礼はたっぷりとするんだから」

にこ「友情パワーね!」

真姫「……そうね!」

絵里「三人とも素晴らしかったわ!」

希「息が合ってて正にアイドルグループって感じやったよ」

パチパチパチ……

穂乃果「拍手ありがとー!」

海未「は、恥ずかしいですっ////」

ことり「あの制服は中学生だよ。恥ずかしがらなくても」

海未「相手の年は関係ありません!」

花陽「あ、あのっ。もし、かして……その、スクールアイドルですか?」

穂乃果「そうだよっ。音ノ木坂学院アイドル研究部μ's♪」

凛「みゅーずって石鹸?」

花陽「たぶん神話の女神から取ってる、んだと思うよ」

希「その通り。お嬢ちゃん達はスクールアイドルに興味あるんかいな?」

凛「このかよちんは幼い頃からアイドルを目指してるんだよ」

花陽「え、いや。私は……」

絵里「あら、ということはにこの仲間ってことね」

にこ「ふっふっふ。同じアイドル好きとして問うわ」

真姫「なんで無駄に偉そうなのよ」

にこ「アイドル関係で一番好きな言葉は何?」

花陽「──夢なき夢は夢じゃない、です」

にこ「あなたとならいいお汁粉缶が飲めそうね。最上のセンスしてるわ」

花陽「あの、あなたもあの人のファンなんですか?」

にこ「ええ。あの人に憧れてアイドルを志して今に至るんだもの」

花陽「私もです!」

にこ「どのライブのどこが一番感動した?」

花陽「特に引退ライブの挨拶後の礼をした後、顔を上げた時に涙が伝ってるのに笑顔なところが」

にこ「あそこが一番素敵よね! どんな時も涙を流さなかったのに、引退ライブの最後に見せた儚い涙!」

花陽「分かります! あの瞬間、世界が止まった錯覚すら覚えました」

にこ「本当に分かるわね。私は矢澤にこ。高校二年生。あなたは?」

花陽「わ、私は花陽。小泉花陽と言います。中学三年生です」

絵里「なんだか出会って即親友って感じね」

希「同じアイドルを好きになった者同士の自然な流れだね」

真姫「……」ムスッ

凛「……むぅ」ムスッ

海未「こうして出会ったのも何かの縁ですし、全員で自己紹介しましょうか」

ことり「そうだね。飲み物もクーラーボックスにまだあるし」

穂乃果「私高坂穂乃果高校一年生! μ'sのリーダーやってます!」

──公園 自己紹介終了後

にこ「本当に? 二人とも来年は音ノ木坂を受けるの?」

花陽「は、はい。それで、にこ先輩は……思い出の曲とかありますか?」

にこ「そうね。『歌姫より...』も独特の雰囲気があって思い出深いわ」

花陽「ライブ会場の全員が思わず魅入ってしまうというアイドル史上唯一の出来事です」

にこ「なのに一度しか歌わなかったのよね。アルバムにも収録されなかったし」

花陽「遠い誰かに感謝を捧げる為に歌ったと言ってましたね」

凛「むぅ~! かよちんは凛のものだよ!」グイッ

花陽「えぇっ?」

にこ「は?」キョトン

凛「さっきからかよちんとベタベタし過ぎ!」

にこ「ベタベタって、別に触れてもいないんだけど」

花陽「そうだよ。矢澤先輩に失礼だよ」

凛「そんなことはどうでもいいの! 凛達はクレープ食べに来たんだから、早く行こう!」

花陽「待って、まだお話の途中で」

凛「凛とお話すればいいよ。そんな子どもっぽい先輩必要ないもん」

真姫「待ちなさいよ! にこちゃんを子どもっぽいっていいのは私だけよ。訂正しなさい」

にこ「」

穂乃果「これって何が始まったの?」

絵里「妹が出来て両親が妹に構ってばかりで駄々捏ねる経験あるでしょ?」

穂乃果「あったあった。本当に小さい頃だけど」

絵里「そんな感じだと思うわ」

海未「ではクールな真姫が苛立ちを露わにしてるのは何故でしょうか?」

希「あんな可愛い歌詞書くのに、意外と人の機微に疎いんやね」

ことり「穂乃果ちゃんよりはマシなんだけどぉ」

海未「なんですかそれは!」

穂乃果「そんなことよりも皆はどう思う?」

絵里「何が?」

穂乃果「穂乃果はなんとなくだけどあの二人こそ、μ'sの残りのメンバーな気がするんだけど。眼鏡だし」

海未「まだ眼鏡を引っ張ってたんですか」

絵里「でも、あの二人もまだ中学生よ。希は何か感じたりする?」

希「ウチはなんとも言えんね。にこっちと真姫ちゃん次第、かもしれないし」

凛「なんなの!?」

真姫「謝れって言ってるのよ。確かに身長は153cmでバストは71cmだけど、にこちゃんは子どもじゃないわ!」

真姫「しかも皆に書かせたプロフィールには自分のバストサイズ3cmも盛るような事するけど、子どもじゃないわ!」

にこ「にこぉ……」ウルウル

花陽「あ、あの。大丈夫、ですか?」

凛「やってることまんま子どもじゃん!」

真姫「否定しないけど、言ってはいけないことがあるのよ」

凛「意味分かんないよ!」

真姫「取り敢えず勝負よ。私が勝ったらにこちゃんに謝りなさい」

凛「勝負? 凛が勝ったら?」

真姫「クレープ奢ってあげるわ」

凛「だったらしてあげるよ」

真姫「勝負内容は──」
にこ「──真姫ちゃんの方が失礼なこと言いすぎよ! だから勝負は無効ニコ!!」

真姫「どうして止めるのよ」

にこ「子ども子ども言いすぎよ! それに、一般ピープルに喧嘩吹っ掛けるアイドルが何処にいるのよ!」

真姫「にこちゃんよ!」

にこ「う……」

海未「にこは一般人に喧嘩売ったりしたことがあるんですか?」

絵里「私は聞いたことないけど」

ことり「私もないよ」

希「寧ろ弄られるのがにこっちの役割やし」

穂乃果「そうだねっ♪」

にこ「同い年なんだから仲良くしなさいよ」

にこ「ごめんね、真姫ちゃんは同い年の友達がいないからどう接すればいいのか分からないのよ」

真姫「その言い方誤解が生まれるでしょ! いないんじゃなくて、必要としてないだけよ」

にこ「こんな感じで素直になれない子なのよ。良かったら仲良くしてあげて欲しいんだけど」

花陽「凛ちゃん。友達になってあげようよ」

凛「そういうことなら仕方ないから仲良くしてあげる」

真姫「なんでこんな流れになってるのよ! 意味分かんない!」

にこ「来年同じ学校に通うなら友達になる方が得でしょ?」

真姫「誰がそんなこと頼んだのよ!」

にこ「怒らないの。ほ~ら、スクールアイドルなんだから笑顔よ笑顔」ムニー

真姫「ふぁにふんの!」

花陽「あ、あの喧嘩はやめてください」オロオロ

にこ「これで少しはその口も素直になったでしょ」

真姫「何するのよ!」///

にこ「音ノ木坂は嫌な奴とか居ないんだし、敵を作ろうとしないの」

絵里「……あれだけ色々あって嫌な奴はいない、ね」

希「強くあろうとするにこっちの姿勢は本当に尊敬出来る」

穂乃果「?」

真姫「別に敵を作ろうとしてる訳じゃないわ。仲間を作ろうとしないだけ」

凛「同じような意味じゃん」

真姫「全然違うわ」

にこ「普段の真姫ちゃんはクールなんだけど、今日は鞭の日みたいでごめんニコ」

花陽「ひぃっ、鞭の日?」

凛「恐ろしい日だー」

真姫「そんな日ないわよ!」

にこ「でも、真姫ちゃんが初対面の相手にこんなになるなんて運命を感じるわ」

にこ「二人共一週間だけスクールアイドル体験してみてよ」

にこ「来週は金曜日は自由参加。土日にゆっくり考えて、正式に入ろうと思うなら月曜日にまたここに来てって感じで」

凛「無茶苦茶だよ!」

花陽「スクールアイドル体験……ダレカタスケテー」

真姫「にこちゃん本気なの!? まだ中学生なのよ」

にこ「真姫ちゃんもでしょうが。にこ達の今年は終わったの。だったら中学生でも構わないでしょ?」

真姫「……ふん」プイッ

にこ「それでどうかしら? 見た目は二人共平均をかなり超えてるし」

凛「アイドルとか興味ないから」

花陽「わ、私も……その」

にこ「ずっと気になってたの。凛って言ったわね。語尾に時々《にゃー》とか付けてみれば可愛さアップよ」

凛「凛が可愛いとかありえないし」

にこ「謙遜とかいいからいいから。語尾ににゃーって付けてみなさい」

凛「どうして凛がそんな喋り方しないといけないの!?」

にこ「アイドルの原石を前に妥協はなしだからよ。さぁ、言うにこっ!」

凛「……そんなの恥ずかしいにゃー」カァァァ

花陽「凛ちゃんすっごくかわいいよ」

にこ「にこの目に狂いはないわ。猫っぽいから似合うと思ったのよ」

凛「確かに猫は好きだけど、凛は猫アレルギーだし」

にこ「いいのよ、キャラだもの。実際は関係ないの。後は、そうね。可愛い系だけどたまに毒を吐くのがいいかしらね」

凛「毒~? 凛毒なんて吐けないよ。モンスターじゃないんだから」

にこ「憎まれ口というか、ストレートに物事を言ったりする治癒よ」

真姫「治癒じゃなくて比喩でしょ。もっと国語勉強しなさい」

にこ「ま、真姫ちゃんのツッコミを誘ったのよ」

凛「にこ先輩は馬鹿なの?」

花陽「凛ちゃんっし、失礼だよ」

にこ「という感じに毒を吐くのよ。分かったかしら?」

凛「え、今の言わせる為にわざと間違えたの?」キラキラ

にこ「当然でしょ?」フフーン

真姫(絶対に嘘ね。上手く誤魔化しただけで)

絵里「あれは止めなくてもいいのかしら。新手の詐欺みたいな感じがしてきたんだけど」

希「押し売りの訪問販売みたいなオーラ出してるね」

海未「相手を自分の方へ引き込むという意味では成功してますね」

ことり「仲間が増えるのなら嬉しいけどっ」

穂乃果「やっぱりあの子達と合わせて九人になるんだよ!」

にこ「取り敢えず一週間、一週間だけだから。もし嫌なら再来週の月曜日にここに来なければいいんだし、ね?」

花陽「分かり、ました」

凛「かよちんがするなら。でも、一週間だけだよ?」

にこ「ええ、それで十分ニコ♪」

真姫「……」ムスッ


今はなくなってしまった思い出深い公園。

真姫ちゃんと出逢い、海未が私を信じてくれる切っ掛けをくれた場所。

最後のメンバーと更なる出会いをもたらしてくれた最高のステージ。

これは私達がμ'sになる為の最後の物語。

同時に、私の小さな夢が大きな大きなみんなの夢になる始まりの物語。

──金曜日 公園

凛「痛いにゃー!」

絵里「運動をしてたんでしょ? だったらどうしてこんなに体が硬いの?」

凛「生まれつきだよぉ」

絵里「体が硬いと怪我や故障に繋がるわ。スクールアイドルになるか別として、柔らかくしないと駄目よ」

凛「そんなの無理だよ~」

希「ウチらも硬かったけど、今はお腹が地面に着くんよ」

にこ「嘘吐きなさい! あんたの88cmバストに阻まれる癖に」ケッ

真姫「ほら、喋ってないで腹筋しなさいよ」

にこ「はいはい。……いちっ。って、顔近くない?」

真姫「ヴェェェ! 勘違いでしょ!」///

にこ「顔がくっ付きそうなんだけど」

真姫「気のせいって言ってるでしょ。早くやりなさいよ」

にこ「分かってるわよ。あまりの速さに腰を抜かすんじゃないわよ。……にっ!」

ことり「絵里ちゃんの言ってた通り、真姫ちゃんはにこちゃんと組んでれば大丈夫だね」

希「まだ心が不安定な中学生らしくて可愛いけど」

ことり「くすっ、そうだね」

希「多少強引に誘ったけど、これも運命なんかな?」

ことり「穂乃果ちゃんがそう感じてるなら、私もそう信じてますっ」

希「ことりちゃんの穂乃果ちゃんへの信頼も一途やね」

花陽「うぅっ……あっ!」フラッ

海未「よっと、大丈夫ですか?」ガシッ

花陽「ご、ごめんなさい」

海未「バランス感覚は慣れるまでが難しいですから。何度でも支えるので気にしないで慣れて下さい」

穂乃果「穂乃果達の時は海未ちゃんが居なかったから、誰も支えてくれなくて大変だったんだよー」

花陽「そ、そうなんですか?」

海未「花陽、敬語は不要ですよ」

花陽「はい、じゃなくて、うん」

穂乃果「敬語の海未ちゃんが言っても説得力ないけどね~」

海未「私のは習慣ですから今更崩せません」

ことり(こないだ穂乃果ちゃんに対して敬語じゃなくなったのは覚えてないのかな?)

希「どうしたん?」

ことり「私達三人はいつまでも一緒に居たいなって」

希「本当に仲良しさんだね」

ことり「ふふっ♪」

絵里「体力もあるし、脚力もいい、バランスもそこそこ。逸材ね」

凛「なんでもいいけど、背中が壊れるから離してよ!」

絵里「元気いいわね。腕立て腹筋背筋30回ずつを3セットやりましょう」

凛「鬼にゃー!」

──火曜日 公園

にこ「い~い? アイドルにはポーズやキャラ性という物が求められるわ!」

花陽「分かります! 可愛いポーズはあざとくなり過ぎないように、キャラ性は飽きられないようにだね!」

にこ「その通り。自分の思ってるのと違うことも演じて見せるのがアイドル」

真姫「にこちゃんは演じてるというより、素のままじゃない」

凛「子どもそのままだよね」

にこ「真姫ちゃんは背が高いから別として、同じ身長のあんたに言われたくないわよ!」

凛「凛ははまだ成長期だからこれからグングン伸びるし」

真姫「くすっ。……その台詞と似たような事を言って出会って2cmしか伸びなかった人が居たわね」

にこ「ぐぬぬ!」←154cm

花陽「い、今はアイドルの講座の時間だから。にこちゃんを弄るのはなしにした方が」

にこ「その通りよ! あんた達真面目にアイドルになる気あるの!?」

真姫「ないわよ。医者になるんだってば」

凛「アイドルにはかよちんがなるだけだし」

花陽「私はあります!」

海未「……本当にあの三人をにこに任せていいのでしょうか?」

穂乃果「にこちゃん本人が絵里ちゃんと希ちゃんが遅れるから、それまでは面倒見るって言い出したことだし」

ことり「完全に弄ばれてるけど」

海未「にこの努力は認めるのですが、絵里や希が高く評価してることが不思議で仕方ありません」

ことり「にこちゃんはここぞという時には頼りになるんだよ」

穂乃果「そうそう。世界を裏から牛耳るタイプだよ」

ことり「穂乃果ちゃん、それは悪評だよ」

海未「穂乃果をリーダーにする辺りは人の見る目はあるのでしょうが……」

にこ「にこのポーズを真似て可愛さとは何かを学びなさい。いっくわよー! にっこにっこにー♪」

凛「そのポーズ物凄くダサいニャ」

真姫「見慣れるとまぁ、元気は出るんだけどね。自分でやりたくはないわ」

花陽「うぅっ。自分でするのは、恥ずかしい///」

にこ「やる気ないわね! 今日から家で鏡を見ながら『にっこにっこにー♪』100回を命ずるわ!」キリッ

花陽「百回も!?」

凛「絶対にやらないよ」

真姫「そんな暇あるなら勉強するわよ」

にこ「もし何か事件に巻き込まれても『にっこにっこにー♪』があったから助かったってこともあるんだからね」

真姫「ないわよ!」
凛「ないよ!」

にこ「息ピッタリになってきたわね。ふーん! だけど家できちんとやりなさいよ」

花陽「にこにこにーを百回も……うぅぅ、できるかな?」

海未「あんな事を言っているにこがいざという時に頼りになるんですか?」

ことり「あ、はは……。でもね、縁の下の力持ちなんだよ?」

──木曜日 公園

にこ「二人共一週間で見違える程いい動きするようになったわ」

絵里「というのは大げさだけどね。でも、バランスも取れるようになってきたのは確かよ」

花陽「はい!」

凛「……」

にこ「最初に言ったけど明日くるかどうかは自由。その次は月曜日」

真姫「歌の方は花陽がもう少し声を出せるように心掛ければいい感じになるわ」

花陽「真姫ちゃん……。ありがとう、声の出し方とか教えてくれて」

真姫「べ、別に。綺麗な声なんだからきちんと歌えればって思っただけよ」

にこ「自信と言えば凛もそうよ。可愛いってことを自覚してソレを武器にするように出来ればいいのに」

凛「何度も言ってるよ。凛は可愛くなんてないって」

絵里「十分可愛いじゃない。まぁ、うちの妹の亜里沙には少し負けるけど」

希「身内贔屓の意見はともかくとして、凛ちゃんは十分可愛いってウチも保障するよ」

凛「可愛くなんて、ない」

花陽「凛ちゃん」

にこ「とにかく、私はこの九人がμ'sだと思ってる。だから、来週の月曜日もこうして会えることを期待してるわ」

凛「凛はかよちんと違ってアイドルは似合わないから。それじゃあ、凛は先に帰るね」タッタッ...

花陽「待って、凛ちゃん! すいません、私も今日はこれで失礼します!」タッタッ...

海未「どうしたのでしょうね?」

ことり「花陽ちゃんは日に日に元気になっていったけど、凛ちゃんは元気なくなってきちゃってたよね」

絵里「言葉通り、花陽の為に無理やり付き合ってたのかしら?」

希「そうなんかな?」

穂乃果「でも、穂乃果には凛ちゃんがアイドルになりたがってるように見えたけどなぁ」

にこ「……そうね。でも、だったらどうしてあんな悲しそうな瞳をするのかしら」

真姫「ま、理由はともかく。あの二人も一緒にやれるといいわね」

海未「おや、意外ですね。真姫がそんなことを口にするなんて」

真姫「私は努力してる人はきちんと認めるわよ」

にこ「なんだかんだで直ぐに仲良くなっちゃう辺りが真姫ちゃんのチョロイところよね」

真姫「なんですってー!?」

にこ「きゃー♪ マッキーが怒った~。にこにーこわ~い♪」

絵里「緊張感が全く持たないメンバーね」

希「それでいいやん。だって、もう向こうから来てくれないと手も貸せない状況だもの」

海未「穂乃果。そんな顔をしなくても、明日も花陽は絶対にきてくれます」

ことり「そうだよ。凛ちゃんのことはその時に対策練ろう」

穂乃果「……うん」

──金曜日 某中学校 花陽

花陽「凛ちゃん。今日はどうするの?」

凛「……凛はもう、いいや」

花陽「どうして? にこちゃんも真姫ちゃんも他の皆も待ってるよ?」

凛「だって、凛がアイドルなんて無理だもん」

花陽「そんなことないよ」

凛「アイドルっていうのは、かよちんやμ'sのメンバーみたいに可愛かったりかっこ良い人がなるものだよ」

花陽「凛ちゃんは花陽から可愛いよ」

凛「そんなことない」

花陽「凛ちゃん」

凛「ごめんね。だから、今日は一人で行って。凛は家に帰るにゃ」

花陽「……うん」

凛「ばいばい、かよちん」

花陽「ばいばい」


凛ちゃんが頑なに自分を可愛いと思えない理由を私は知っている。

小学生の時、ずっとズボンを穿いていた凛ちゃんがスカートを穿いて登校したあの日のこと。

私は凛ちゃんに守ってきてもらって、今現在も守られ続けている。

そんな私が凛ちゃんを守れなきゃいけなかった出来事。

クラスの男の子に対して言い返せる勇気が私にあれば……。

私の罪で今も凛ちゃんは苦しんでいる。

あの日の傷を上書きしたくて、何度も何度も凛ちゃんに可愛いと言っても傷は癒えなかった。

……強くなりたい。

そう思いながらも、臆病な私は凛ちゃんに守られることに依存している。

こんな弱いままじゃアイドルになんてなれない。

夢なき夢は夢じゃない。

この言葉は強い人だけが言える言葉なんだって最近思う。

同じアイドルが切っ掛けで、同じように幼い頃からアイドルを目指すにこちゃん。

にこちゃんが私の立場だったらどういう行動を起こせるのかな?

──同日 公園 にこまきぱな

にこ「小学生の時のトラウマねぇ」

真姫「その前に一つ言っておくけど、にこちゃんは強くなんてないわよ」

花陽「わ、私に比べれば十分強いです」

にこ「恥ずかしいけどね、ある理由で私高校一年の途中から孤立しちゃってね」

にこ「自分の所為でもあるんだけど、この公園で真姫ちゃんに出逢ってなかったら夢を諦めてたかもしれない」

真姫「お弁当食べる場所一つでグダグダ言ってるくらい弱い子なんだから」

にこ「そうそうって言いすぎでしょ!」

真姫「私も色々あって学校では孤立してるけどね、にこちゃんが居るから寂しくないの」

真姫「私とにこちゃんはどっちかが居ないと成立出来ないくらいには弱いのよ」

真姫「ただ、一緒に強く在ろうとしてるだけ。張りぼてがいつか本物になるって信じてね」

にこ「恥ずかしいこと言うんじゃないわよ!」///

真姫「本当のことでしょ?」

にこ「ま、そうね。そもそも夢なき夢は夢じゃないって言葉がなければ挫折してただろうし」

花陽「それでも羨ましいくらいに、私には輝いてみえます」

にこ「だったら簡単よ。花陽も今日から強く在ろうとすればいいのよ」

花陽「私が、強く?」

真姫「私ににこちゃんが居るように、花陽にも凛がいるんだから。強くなれるわ」

にこ「その為に凛をスクールアイドルに引き込めばいいのよね?」

花陽「う、うん。何か良い方法……あるかな?」

にこ「難しいわね。でもこれはある意味で必要な行為ね」

真姫「どう言う事?」

にこ「二人がアイドルを目指すには避けては通れない試練ってことよ」

にこ「凛はアイドルになる前に棘を抜いておきたい。花陽は強さを踏み出す一歩を経験したい」

にこ「つまりこれを上手くいけば将来のアイドル二人が生まれることになるニコ♪」

真姫「相変わらずアイドル脳なんだから」ヤレヤレ

花陽「ふふふ。そうなれたら、嬉しいな」

真姫「花陽もアイドル脳ね」

にこ「確かな友情がそこに存在しているのなら、方法は一つしかないと私は思うわ」

花陽「その方法は?」

にこ「言いたいことを素直に言うのよ。遠慮なしにね。喧嘩になっても構わない勢いで」

真姫「ちょっと、にこちゃん!」

にこ「友達の関係って色んな形があるんだと思う。でも、本当に言うべきことを言えない友達関係なんて可哀想よ」

にこ「私は嫌な部分があったら素直に言うし、素直に言って欲しい。それで喧嘩することもあるわ」

にこ「でもね、喧嘩する度にまた一つ絆が深まるの。それが友達なんじゃないかなって思うのよ。実例がここにあるし」

花陽「……絆」

真姫「そりゃ、私とにこちゃんは数え切れないくらい喧嘩してるけど」

にこ「親しき仲にも礼儀はあるけど、言いたいこと言えないんじゃ親しい以前の問題よ」

にこ「凛に言いたいこときちんと伝えたらさ、過去の花陽のことを許してあげなさいよ」

花陽「過去の、私?」

にこ「いつまでも苦しんでるから自信が付けないのよ。過去の自分を許してあげることが出来れば、自信も付くわ」

花陽「……うん」

にこ「ま、勇気の第一歩っていうのがどれくらい恐怖なのか経験あるから一人だと無理よね」

花陽「付いてきてくれるの?」

にこ「ううん。一緒に行くわけじゃないけどね、私の誰よりも尊敬する人のおまじないをしてあげる」

真姫「にこちゃんが誰よりも尊敬する人?」ポツリ

にこ「背中向けなさい」

花陽「う、うん」

にこ「怖くなったら私がこうして花陽の背中を押してあげる」ストン

花陽「あっ」

にこ「だから、今の感覚を忘れないで。勇気の一歩を踏み出してきなさい。それで二人で月曜日ここに来なさい」

真姫「////」

花陽「ありがとう、にこちゃん。真姫ちゃん」

にこ「お礼は無事に迎えられたら言いなさいよ」

花陽「うん。怖くなっても逃げない。過去の凛ちゃんを救って、過去の私も許してあげたいから」

にこ「もし、上手くいかなかったら私は自分の夢を諦める。花陽に私の夢を預けるわ」

花陽「──」

にこ「二人分の夢も持っていけば絶対にハッピーエンドが待ってるわよ」ニコッ

花陽「にこちゃん」

にこ「頑張りなさいよ。本物のアイドルになった時も一緒に歌いましょう」

花陽「うん! 凛ちゃんのところに行ってくる」タッタッタッ...

にこ「行ってらっしゃい」

真姫「///」

にこ「真姫ちゃん……。どうかしたの?」

真姫「ヴェェェ!? な、んでもないわよ。それより早くみんなのところに帰りましょう///」

にこ「うん。変な真姫ちゃんね? 頑張んなさいよ、花陽も凛もね」

──同日 凛の部屋 花陽

凛「どうしたの? かよちんは練習に行ったんだよね?」

花陽「ううん、練習しには行ってないの」

凛「そうなの?」

花陽「うん。大事な物を貸してもらってきたから」

凛「大事な物? あぁ、あの伝伝伝とかいうやつかにゃ?」

花陽「《そんな物》よりも比べにならないくらい大切な物だよ」

凛「か、かよちん。熱でもあるんじゃないの?」

花陽「凛ちゃんに言いたいことがあって来たの。聞いてくれる?」

凛「う、うん。でも、その前に座った方がいいんじゃない」

花陽「このままの方がいいから。花陽ね、一つだけ凛ちゃんの嫌いな部分があるの」

凛「嫌いな部分……。A-RISEに興味がないところ?」

花陽「ううん。違うよ」

凛「もしかして凛がお魚食べられないってことかな」

花陽「そうじゃないの。お魚はカルシウムたっぷりだから食べられた方がいいけどね」

凛「かよちんみたいに好き嫌いない方が少ないにゃ~」

花陽「私ね、凛ちゃんの自分を可愛いって思えない部分が大嫌いなの」

凛「……え?」

花陽「私はアイドルが好きだし、A-RISEの特にツバサなんて凄い憧れるし」

花陽「でもね、一番可愛いなって思うのは凛ちゃんなんだよ?」

凛「な、に言ってるの。凛は可愛くなんて──」
花陽「──それが嫌なの! そうやっていつまでもあんな言葉に縛られないでよ!」

凛「かよちん」

花陽「凛ちゃんがスカート穿いて来た時ね、あの人を始めてテレビで見た時より感動したんだよ?」

花陽「でも心無いクラスの男の子の言葉で凛ちゃんが……。あの時、私が勇気を出せたら守れたのに」

花陽「それなのに、凛ちゃんはそれ以降もずっと私を守ってくれる。ごめんね、それなのにずっとこの事言い出せなくて」

花陽「あの時のことを忘れずにずっと後悔していることで、罪として残すことで懺悔になると思ってた」

花陽「でも違う! 凛ちゃんが苦しんでたら意味ないんだって、教えてもらったの。勇気を貰ったの」

花陽「凛ちゃんは可愛い! 凛ちゃんにはスカートが似合ってる! 可愛い衣装とか絶対に似合うの!!」

凛「……」

花陽「私なんかよりもずっとずっと可愛くて似合ってるの。どんなアイドルよりも花陽にとってはナンバー1なの!」

凛「か、かよちん」

花陽「私ね、凛ちゃんとスクールアイドルやってみたい。輝く凛ちゃんと一緒に笑顔を浮かべて歌いたい」

花陽「これからは守られるだけじゃなくて、凛ちゃんを守れるように強くなりたい」

花陽「いきなりは無理だと思う。でも、一緒に手を取り合って弱さを強さにしていきたい!」

凛「……」

花陽「だから、お願い。もう、自分のこと可愛くないって、可愛いなんて言葉似合わないなんて言わないで」

凛「でも、凛は……凛は」

花陽「あのね、夢を見つけると人って強くなれるんだよ」

凛「え?」

花陽「スクールアイドルをしてる間は花陽の夢を半分わけてあげる」

凛「夢を半分わける?」

花陽「そう! そうすれば今の弱い凛ちゃんは半分の夢の力で強くなれるの!」

凛「無茶苦茶言ってるよ?」

花陽「うん、知ってる。でもね、凛ちゃんと一緒に強くなる為だから。何だって言っちゃうよ?」

凛「急にかよちんが強くなっちゃったみたい。凛よりもずっと」

花陽「今の花陽は憧れの人に勇気を貰ってるから。凛ちゃんは可愛いよ。この言葉受け止めて」

凛「受け止めるって、恥ずかしいよぉ」

花陽「恥ずかしくないよ。だって本当のことだもん。凛ちゃんは可愛い! 凛ちゃんは可愛い! 凛ちゃんは可愛い!」

凛「もっ、もうやめてぇ! お母さんに聞こえちゃうよ!」////

花陽「例え全世界の人に聞こえても意味ないの。凛ちゃんの心に伝わらないと意味ないんだから!」

凛「う、あぁ///」

花陽「凛ちゃんの可愛さは花陽が一番知ってるんだから! それを本人が認めないなんておかしいよ!」

凛「今のかよちんの方がおかしいにゃ!!」

花陽「そうだよ。その言葉遣い。にこちゃんが言ってたのをきちんと使ってるけど、もうその必要ないよね?」

凛「それは、ただ癖になっちゃっただけで」

花陽「違うよ。可愛いを否定する心に、無意識な想いが可愛くありたいと訴えてるんだよ」

凛「本気で滅茶苦茶だよ~」

花陽「凛ちゃんは可愛い! 自分のことを可愛くないって否定する凛ちゃんなんか大嫌い!」

凛「……分かったから、もう分かったから。かよちん、許して」ウルウル

花陽「だったら言って! 凛は可愛いって! 大きな声で!」

凛「えぇー!」

花陽「そうじゃないと信じないからね」

凛「そんなぁ……」

花陽「凛ちゃんは可愛いんだから自画自賛しても許されるよ!」

凛「うぅ~誰か助けて~」

花陽「凛ちゃんが認めるまで可愛いを止めないよ!」

凛「──凛は可愛いにゃー!」カァァァ

花陽「うん! 凛ちゃんは誰よりも可愛いよ」ニッコリ

──月曜日 放課後 公園 約束の日

花陽「うぅ~新しいトラウマがぁ」

凛「それは凛の方だよ!」

にこ「ということで、めでたくμ'sは希の占い通り九人揃ったわ」

真姫「でもいきなりダメージ受けてるみたいなんだけど」

にこ「いがみ合うような喧嘩にならなかったんだから良しとしましょう」

絵里「しかし、本当に希の占いは凄いわね」

希「ウチが凄いんやない、カードが凄いんや」ドヤァ

ことり「希ちゃんのドヤ顔可愛いー!」

海未「若さ溢れる後輩が入るというのは活気も出ますし、とても良いですね」

穂乃果「でも花陽ちゃんが眼鏡外しちゃったよ」

海未「まぁ、需要が少ないからというのもあるのでしょうが、ダンスの時に眼鏡は外れる危険性がありますから」

にこ「それを可能にしてるルーキーが今年のラブライブ本戦で顔を見せたわ」

花陽「福岡の二人組Dreamだね!」

真姫「流石アイドル脳。復活もアイドル関係の話題なのね」

にこ「来年も脅威だけど、二年間経験を詰んだ再来年が一番の脅威ね」

絵里「つまり穂乃果の代ね」

海未「未来のライバルですか。心湧く展開ですね。嫌いじゃありません」

穂乃果「海未ちゃんって何だかんだで熱血好きだよね」

ことり「こないだの穂乃果ちゃんとの対決は凄かったよねぇ」

絵里「今日は練習終わりに何か食べに行きましょうか?」

にこ「いいわね。今日はママも早く帰ってくるから。凛は食べたい物ある?」

凛「凛はラーメンが好き!」

希「じゃあラーメンを食べに行こう」

穂乃果「お店の常連のおばさんが美味しいラーメンの店教えてくれたからそこ行こうよ!」

真姫「穂乃果がそういうこと言うとお店が休みって可能性ありそうね」

にこ「ちょっと真姫ちゃん。嫌なフラグ立てないでよ」

真姫「旗? 旗なんて持ってないわよ」

絵里「やれやれ。本当に個性的なメンバーだけになっちゃったわね」

希「ふふっ。これを纏めるのはかなり苦労しそうだね」

海未「ですが、この九人を活かす曲が出来れば最高の物になりそうです」

ことり「海未ちゃんと真姫ちゃんの腕の見せ所だね♪」

絵里「ことりの衣装にも期待してるわよ」

ことり「はいっ!」

にこ「そうね。曲が出来たら練習して、ここでライブしましょう」

穂乃果「ついに……ライブ!?」

花陽「ここでするんですか?」

にこ「ここがμ'sの始まりの場所なのよ。だから九人揃ったμ'sの最初のライブに相応しいと思うの」

真姫「いいんじゃない?」

穂乃果「なんだか今から胸がドキドキしてきた!」

ことり「どんな可愛い衣装にしようかなぁ」

海未「場所に意義はないですが、余り短いスカートにはしないでくださいね?」

花陽「ライブ……初めてのライブ。不安だけど、凛ちゃんと一緒なら」

凛「いっぱい練習して最高のライブにするよ! かよちんと一緒なんだから」

絵里「占い師の東條さん。九人揃ったμ'sの初ライブはどうなるかしら?」

希「そうやね、初めて占いで結果を知りたくないって思った」

絵里「そうね。それに占わなくても分かるものね」

希「生涯忘れられない、そんなライブになるんは間違いなしや」

にこ「さぁ、正式に九人揃ったμ'sの練習を始めるわよ! まずはにっこにっこにー♪ 100回」

真姫「さ、にこちゃんは放っておいて、真面目に練習しましょう」

にこ「なんでよ! 皆やりなさいよね! にっこにっこにー♪」

──公園 初ライブ

にこ「いよいよこの日が来たわね」

真姫「非公式スクールアイドル九人揃ったμ'sの初ライブね」

穂乃果「この日まで長かったねっ!」

ことり「でもお陰で素敵な衣装も出来たし」

海未「昔のポエムと違って胸を張れる歌詞が書けたと自負しています」

凛「憧れを語る君の瞳」

海未「や、やめて下さい。歌うならいいですが読み上げないでください////」

にこ「全然胸張れてないじゃないの」

絵里「海未をからかわないの。緊張しないのはいいことだけど」

希「そそそうやね」

花陽「だだだよね」

真姫「二名ほどガチガチなんだけど」

絵里「希は任せて。ほら、希手を貸してね」キュッ

希「あっ。えりち」

希「ウチ、やっぱりあかん」

希「立ってるだけで限界や」

絵里「無理して喋らないでいいわ。まずは呼吸を整えましょう」

希「すーはー……すーはー……」

絵里「失敗することが怖い?」

希「」コクリ

絵里「だったら失敗しちゃいましょう」

希「は?」

絵里「一度失敗を経験しておけば強さに変わるのよ。嘘じゃないから失敗を恐れないで」

希「でも、失敗したら皆の迷惑になるから」

絵里「なるわね。でもそれは失敗したことじゃなくて、失敗したことで希が傷つくことがよ。正確には心配ね」クスッ

希「えりち」

絵里「希は自転車の補助輪を外してから一度もこけずに乗れた?」

希「何度も転んだ」

絵里「自分で歩けるようになってから一度も転んだことがない?」

希「それも同じで、何度も転んだけど」

絵里「スクールアイドル始めてからダンスで転んだ回数覚えてる?」

希「数え切れないくらいにあるから」

絵里「だったら本番で転ばないなんて無理よ。諦めて転びなさい」

希「──」

絵里「緊張してただ頭が真っ白になって、足が動かなくて転んで失敗するのが一番駄目」

絵里「でも、きちんとやろうとして失敗するなら経験になるの。失敗した回数なら経験者なんだからね」

絵里「ライブ中に手を差し伸ばせないけど、終わった後ならまたこうして手を握ってあげる」

絵里「だから失敗を恐れないで、逆に愛しい経験値なんだって思って抱き込んであげて」

希「やっぱり、えりちにはかなわんなぁ」

絵里「私に勝ちたいなら数え切れないくらい失敗を積むことね」フフッ

希「なら、今日のライブで一歩えりちに近づけそうだよ」

にこ「普段人のことからかってる割に、あの二人が一番アレなんじゃないの」

穂乃果「アレ?」

にこ「いや、なんでもないわ。思わず二人の謎時空に閉じ込められてたわね」

凛「かよちん、大丈夫?」

花陽「う、うん。緊張してたけど、絵里ちゃんの言葉聞いてたら……自然と震えも治まったかも」

花陽「それに凛ちゃんと一緒に強くなるって約束だもん」

凛「約束というか半ば強制だったけどね」

花陽「今思い出しても恥ずかしい///」

凛「凛の方が恥ずかしかったよ! 今でもお母さんにからかわれるんだから」

花陽「凛ちゃんのお母さん経由でうちのお母さんにも伝わって、花陽もからかわれてるよ」

にこ「さっき絵里も言ってたけど、私達はまだ非公式なんだもの失敗を積む期間みたいなものよ」

海未「しかし、それでは見に来てくれた方に悪いのではないのですか?」

ことり「そうだよね。せっかく足を運んでくれたのに」

にこ「バカねぇ~。今は借りておけばいいのよ」

にこ「それで、私達が九人が正式なスクールアイドルになったら利子付けて返すのよ」

にこ「それどころか将来自慢話出来るわよ。あのμ'sがまだ公園で失敗してたライブから俺は知ってるんだぞ~ってね」

にこ「むしろ失敗っていうのはこういう頃にしか見えないプレミアムな物よ。恐れる必要はないわ」

にこ「今日がμ'sの始まりなんだから!」

希「上級生組で弱いのはウチだけか。なんか恥ずかしいなぁ」

絵里「以前にも言ったけど、弱い希は大好きよ」

希「///」

海未「弱さを知っている方が強くなった時、最初から強かった者より心が強くなれると言います」

凛「なんかカッコ良いにゃ~♪」

真姫「そうね。にこちゃんを見ると強くそう感じるわ」

穂乃果「よ~し! 穂乃果ももっと強くなるぞー!」

ことり「ことりも応援してるよっ♪」

花陽「私も頑張らないと!」

にこ「観に来てくれるファンの人は当然少ないけど、数は問題じゃない。全員を笑顔に出来るかどうかが問題点なのよ」

穂乃果「全員は難しいかもしれないけど、頑張るよ!」

にこ「ダメよ。難しくても可能にする。それがアイドルなんだから」

海未「アイドル関係のことになるとにこは厳しいですね」

花陽「でも、それが本当のアイドルだから」

絵里「誰かが失敗しても笑顔になってくれれば問題ないのよね?」

にこ「当然よ。まずは徐々に人前に慣れていくことが重要だから。踊りや歌は練習しながら上手くなっていきましょう」

希「うん。ウチも緊張が抜けてきた。今なら失敗せずにいけそう。ありがとう、えりち」

絵里「いいのよ」

にこ「それじゃあ、リーダーの穂乃果。何かよろしく!」

穂乃果「九人揃って初めてのライブ。ステージなんてないけれど、でもだからこそ自由な私達らしいと思うんだ」

穂乃果「いつか大人になって、ふと公園を見る度にこの日を思い出すような、そんなライブにしよう!」

ことり「穂乃果ちゃん最高に素敵だよ♪」

穂乃果「ありがとう」

にこ「じゃあ、ライブを始めるとしましょうか。行くわよ!」

──ライブスタート!

穂乃果「最初に歌う曲は私達が九人揃って初めて出来た曲です。μ'sの始まりの曲です」

穂乃果「聞いて下さい」

《僕とのライブ君とのライフ》

にこ「海未って意外にも乙女チックな歌詞を書くのね」

絵里「私にも見せて。……本当だわ。でも素敵な歌詞ね」

希「これはμ'sで一番乙女かもしれんなー」

凛「かよちんだって負けてないよ!」

花陽「それを言うなら凛ちゃんだって、負けてないよ」

真姫「背伸びって単語がにこちゃんを表してるわね」

にこ「どういう意味よ!」

穂乃果「じゃあ羽ばたくはことりちゃんだよね♪」

ことり「元気は凛ちゃんでゆずらない瞳は穂乃果ちゃんかな?」

にこ「つまずいての辺りは希かしら」

希「じゃあ何度でもの件はえりちやね」

凛「かよちんは持ってる勇気の部分はかよちん!」

花陽「えぇっ!? そんな、私に勇気なんてないよっ!」

凛「あの時のかよちんは迫力あったにゃー」

ことり「空の色は海未ちゃんだね」

真姫「……あれ、私は?」

にこ「それは勿論! 新しい夢に決まってるじゃない。これは運命なのよ! 真姫ちゃんはアイドルになる運命にこ~♪」

海未「皆さん! 勝手に解釈し過ぎです。ただ思いついた単語を歌詞にしただけですから」

穂乃果「ううん、勝ってじゃないよ。だって、海未ちゃんはみんなのことを考えながら作ったんでしょ?」

ことり「そうだよ。だからきっと皆のことが歌詞に詰まってるんだよ」

絵里「完全に世界に一つしかない。私達だけの為に生まれた歌ね」

希「海未ちゃんの影響でえりちがちょっと恥ずかしいこと言ってる~」

絵里「ちっちがうわよ!」///

海未「というかその言い方は私に一番失礼ですよ!」

花陽「ふふふっ。アイドルってやっぱり華やかで楽しいなぁ」

凛「うん、楽しい! もっともっと、色んな歌を歌って踊りたい!」

μ's『大好き!』

──公園 ライブ全曲終了後

穂乃果「曲数もまだ少ない私達のライブに来てくれてありがとうございました!」

穂乃果「私達九人揃ったμ'sはまだ非公式スクールアイドルです。理由はメンバーの三人がまだ中学生だからです」

穂乃果「来年は全員が音ノ木坂に入学するので、来年のラブライブはこのメンバーで出場出来ます」

穂乃果「今年は六人で予選通過には遠い順位で終わってしまったけど、来年は優勝を目指しますっ!」

にこ「そんな小さいこと言ってるだけじゃつまらないわ」

にこ「来年のラブライブから三年連続音ノ木坂学院が優勝してみせるニコ♪」

にこ「それだけじゃないの、今のこのメンバー九人揃って本物のアイドルになってトップアイドルを目指します☆」

絵里「待ちなさいよ! 誰がアイドルになるなんて言ったのよ!」

希「ウチの将来はまだ決まってないし」

真姫「だからどれだけ私の医者になる将来を壊したいのよ!」

穂乃果「私は実家を継ぐって言ってるのに」

海未「私も穂乃果と同じく実家を継ぎますので」

ことり「私は装飾系の仕事を目指してるからぁ」

凛「凛はまだ夢はないにゃー」

花陽「私は頑張ってアイドル目指すよ」

にこ「えぇ~い! うるさーい! と、まぁまだ息は合ってないですが、来年には息ピッタリ」

にこ「ラブライブで優勝間違いないことになってるわ!」

にこ「だからこれからも私達九人のμ'sを応援をお願いするニコ♪」

──シーン……

にこ(痛いくらいの沈黙。まだ発言力が弱かったかしら)

にこ(でもこれくらいじゃないとスクールアイドルの頂点なんて目指せない)

……パチパチパチ

ツバサ「それは私の所属するA-RISEにも勝つということだけど、本気かな?」

花陽「うそっ」

にこ「A-RISEのツバサ!?」

ツバサ「うん、私はA-RISEの綺羅ツバサ。それで、質問の答えなんだけど?」

にこ「と、当然でしょ。A-RISEも魅了して私達がスクールアイドルの頂点に花咲くわ」

ツバサ「ふふっ。まだまだ拙いのに言うわね」

にこ「拙いのは非公式の内だけよ。春になるまでに完璧にしてやるわ。そうでしょ? リーダー!」

穂乃果「うん! A-RISEは凄いと思う。でもね、私達はもっと輝いてみせる!」

ツバサ「面白い。その挑戦受けるよ。それでも、三年連続優勝は大きく出すぎかな」

にこ「今はそう聞こえるでしょうね。でも、来年の決勝戦が終わった後は現実味を増すわ」

ツバサ「惹き付ける魅力で言えばリーダーの子だけだと思ったけど、君は黒く光るブラックパールみたいだね」

ツバサ「本当に興味深い。たまたま歌声が聞こえたから見てたけど、今なら確かに思い浮かぶよ。決勝で歌う君達の姿が」

にこ「最高の褒め言葉ね。完成に近いA-RISEと始まったばかりの未完成のμ'sの勝負ね」

ツバサ「完成に近い、か。それはどうかな? 希望的観測っていう言葉じゃないかな」

にこ「にこのアイドル眼を舐めて貰っちゃ困るわ!」キリッ!

ツバサ「……ま、そう思いたいならそれでもいいや。ライバルを見つけたことに意味があるし」

にこ「質問じゃないんだけど、一つだけいいかしら?」

ツバサ「何かな?」

にこ「大ファンなんです! サイン下さい!」キラキラ

花陽「にこちゃんずるい! 是非私にもサインを下さい!」キラキラ

ツバサ「ふふっ。いいわよ」ニッコリ

にこぱな「ありがとうございますっ!!」

真姫「締まらないわねぇ」

凛「かよちんらしいと言えばらしいけど」

絵里「現時点でのスクールアイドルの頂点だものね。アイドルファンなら仕方ないわ」

希「しかし、大胆な宣言しちゃったね」

海未「にこもそうですが、穂乃果も穂乃果です。どうするつもりですか?」

穂乃果「勿論優勝するよ!」

ことり「くすっ。穂乃果ちゃんの瞳が燃えてるねっ」

にこ「ありがとうございます! 一生の宝物にしますっ♪」

花陽「はぁ~~~~ん♪ ありがとうございますっ!」

ツバサ「私を失望させないでね、非公式スクールアイドルμ'sさん」


後に花咲くことになる、私達みんなの大きな夢。

この時に芽吹いたんだと確信している。

言霊という言葉があるけど、口にしたからこそ夢が動き始めたんだって。

三連覇を口にしなければツバサとは会話することはなかっただろうし。

私一人の小さな夢から始まった物語は、こうして未来へ広がっていく。

ラストエピソード 三年目 春 ススメ→トゥモロウ

にこ「……」

朝起きて、数分間ボーっとしていた。

より正確に言えばどちらが現実なのか確認してたいうかもしれない。

不思議な夢を見た所為だ。

夢の内容は少し未来で、二年生の穂乃果がμ'sを立ち上げ、それに私が加わって仲間を増やしていく。

ラブライブ決勝に出場し、勝ったグループとも交流を深めながら望むA-RISEとの決勝戦。

優勝する辺りが私の図々しさというか、願望の表れかしらね。

こうして目が覚めている時点でどんどん薄れていく中で、ハッキリと覚えていることが二つある。

卒業後にアイドルになったのは私と一年生いや、もう二年生組ね。二年生組の三人だけ。

これがもし少し違った形の予知夢なのだとしたら、その未来は要らないわ。

だって私は欲張りなアイドルだもの!

早く着替えて朝ご飯作らなきゃ。ちびちゃん達が遅刻しちゃうわ。

その夢はまるで予感だったのかもしれない……。

朝礼で伝えられることになるのは、理事長からの衝撃的な言葉。

『音ノ木坂学院は来年より生徒募集を止め、廃校とします』


──同日 音ノ木坂学院 三年生の教室 朝礼後

にこ「前生徒会長の言葉より早く現実になっちゃったわね」

絵里「……これは、大分厳しいわね」

希「えりち、にこっち」

にこ「なぁに二人してアイドルに似合わない顔してるのよ。まだ本決まりかどうかも確認してないのよ?」

絵里「そういえば、そうね」

希「にこっちは妙に落ち着いてるね」

にこ「希のスピリチュアルじゃないけど、今日は不思議な夢を見たのよ」

希「不思議な夢?」

にこ「妙にリアルでね、コトの夢だっけ? あれっぽい現実と夢がどっちか区別付かなくなったくらいリアルな夢」

絵里「胡蝶の夢でしょう」ヤレヤレ

希「勉強の方は頼りにならんなぁ」

にこ「うっさいわね!」///

絵里「それで、その夢がどうかしたの?」

にこ「ええ、その夢の中でこんなこと言ってる奴が居たわ。今この瞬間を楽しめば後から結果が付いてくるってね」

絵里「後から結果が付いてくる?」

にこ「無駄に気負って失敗するより、精一杯全力で楽しめばいいのよ」

絵里「いやいやいや! 楽しんだところで結果は変わらないじゃない!」

希「でも、ウチはなんとなく納得」

絵里「えぇっ!? どうしてよ?」

にこ「つまり、私達がラブライブで結果を残せば必然的に音ノ木坂は注目を浴びることになるでしょ?」

絵里「そりゃそうでしょうね」

にこ「そうなれば廃校撤回に待ったが掛かる筈よ。スクールアイドルの注目度舐めんじゃないわよ」

希「その通りやね」

絵里「でも、そんなこと言われたら今まで以上にラブライブを意識しちゃうわよ」

にこ「一生徒の私達に廃校問題は大き過ぎるわ」

絵里「でも、前生徒会長はソレを撤回させる為に色々な手回しをしてあったわ」

にこ「前会長は特別よ。あれ程のメンタルの強さを持ってる人間なんて本当に一握りの人間だけだわ」

希「そうやね。機械みたいに自分の感情を押し殺してたし」

にこ「だから今の私達がすべき事は簡単よ。廃校問題の事を後輩達には意識させないこと」

絵里「意識させないって、そんなの無理でしょ」

希「流石に無理あるなぁ」

にこ「穂乃果みたいな一直線お馬鹿娘や海未みたいな責任感の塊緊張娘が意識したら大変よ?」

絵里「余計に頭痛くなること言わないで」

にこ「後輩達のお手本になるほど今を全力で楽しみましょう。私達はもう最上級生になったんだから」

にこ「廃校問題を意識しそうになってたら強引に手を引っ張って走りまわしちゃいましょう」

にこ「難しいことなんて考えながら運動なんて出来ないしね。絵里だって楽しんで掴める光の方がいいでしょ?」

絵里「ええ、そうね」

希「にこっちは強いなぁ」

絵里「ええ、私もにこを見習わないと」

にこ「私なんかを見習うとか言ってると生徒会長失格よ」

希「真姫ちゃんの鈍感の意味が少し分かった瞬間や」

絵里「そうね。頼もしいのかそうじゃないのかちょっと分からないわね」

にこ「九人揃ってμ's。スクールアイドルの本当のスタート地点に辿り着けたんだから、グダグダ言ってる暇はないわ」

絵里「やる気が凄いわね……。って、当たり前か」

希「にこっちにとってはある意味二年間も遠回りさせられたような物だしね」

にこ「絶望が目の前にあったとしても、それ以上の希望で包み込んで皆を笑顔にさせましょう」

にこ「私はこんなこと位じゃ夢を諦めない。明るい未来も夢もまるっとラブニコ♪」

絵里「にこのアイドル感性のセンスだけが残念だわ」

希「これも個性やん。ウチは元気出るから好きだよ」

にこ「よ~し! じゃあ、私達三人気合を入れる為に元気になる魔法をやるわよ!」

希「やっぱり訂正! にこっち、そのセンスは駄目や!」

絵里「そうよ、教室でやるとかヤメて! ここは私と希のクラスなの。初日から浮くことになるでしょ!」

にこ「大きな絶望が目の前にあったとしても、どんな時でもどんな人でも元気にさせる」

にこ「アイドルだけが使える笑顔の魔法。あなた達にも掛けてあげる☆」

にこ「いっくわよ~! にこにーにこにー笑顔の魔法♪ にっこにっこにー♪」キラキラ

──同日 放課後

にこ「そういうことだから、他の子には内緒よ? 廃校問題は余り気にしないでね」

真姫「まぁ、私は一人でいるのが好きだから後輩とか要らないし」

にこ「寂しいこと言うわねー」

真姫「別に。本当の事よ」

にこ「廃校がもう一年早かったら、こうして真姫ちゃんと同じ学校に通えてなかったのよ?」

真姫「…………。って! 意識させたいのかさせたくないのかどっちなのよ!?」

にこ「多少は気にして欲しいっていうのが本音ね。真姫ちゃんって困難があった方がモチベーション上がりそうだから」

真姫「私のモチベーションはそんな理由なくても上がったままだから平気よ」

にこ「それならいいわ」ニコッ

真姫(漸くにこちゃんと同じスクールアイドルになれたんだから、やる気十分よ)

にこ「後はこの一年間で真姫ちゃんの夢を見つけてあげられれば言うこと無しね」

真姫「どうして上から目線なのよ?」

にこ「年上だからに決まってるニコ♪」

真姫「夢なんて簡単に見つからないわよ。それにどうしてこの一年の内で見つける必要がある訳?」

にこ「にこが卒業しちゃうから」

真姫「──」

にこ「まだ始まったばかりなんだから、そんな顔しないでよ」

真姫「……だって、にこちゃん卒業したら残りの二年間なんて何も残らないじゃない」

にこ「真姫ちゃん。あのね、にこは残りの二年間も充実して過ごして欲しいから夢を見つけて欲しいの」

真姫「……」

にこ「これも真姫ちゃんだから言うんだけど、他のメンバーには秘密にしてね?」

真姫「」コクリ

にこ「皆も一緒に同じ夢を見て欲しいなって、そう思ってるの」

真姫「一緒の夢ってアイドルになるってこと?」

にこ「そう。思い始めたのは去年の冬からうっすらとね」

真姫「ふぅん」

にこ「真姫ちゃんだけはね、誰よりも強く同じ夢を見て欲しいって思ってる」

真姫「な、え……私っ!?」カァァァ

にこ「勿論、普通に考えたらお医者さんになる方が良いんだって理解してるわ」

真姫「ま、普通はそうよね」

にこ「真姫ちゃんが自分の意思でお医者さんになりたいって思うのが理想なのかもしれない」

にこ「不思議な未来の夢でも真姫ちゃんはお医者さんになってたような気がするし。運命なのかもしれない」

真姫「……運命、ね」

にこ「でも、運命から真姫ちゃんをまるっと包み込んで、にこの世界に連れて行きたい。一緒にアイドルになりたい」

真姫「////」

にこ「高校だけじゃなく、将来の夢までにこ色に染めてあげる! にこの一番の目標☆」

真姫「にこちゃん色って……そんな言葉で人生棒に振るう程、馬鹿じゃないわ」

にこ「アイ活を通して止められない程の喜びを教え込んであげる♪」

真姫「変な言い方しないでよ!」

にこ「アイドルが夢なら二年生になっても三年生になってもスクールアイドルを頑張るしかなくなるでしょ?」

真姫「そんなことにはならないわ」

にこ「じゃあ勝負ね! 真姫ちゃんが夢を見つけて、その夢がアイドルだったらにこの勝ち」

にこ「もし夢を見つけたけど別のならにこの負け。どうかしら?」

真姫「それって私が夢を見つけたこと前提になってるんだけど」

にこ「夢だけは絶対に見つけさせるから安心して。夢なき夢は夢じゃないのよ?」

真姫「ちょっと待って。よく考えたら人の夢で勝ち負け決めるとか失礼じゃない!」

にこ「にこと真姫ちゃんの仲じゃない♪」

真姫「どんな仲よ!」///

にこ「将来同じ夢を掴む仲ニコ♪」

真姫「勝手に決めないで!!」

にこ「ふふふっ。じゃあ、将来を祝して今日はにこ先輩がパフェ奢ってあげるわ」

真姫「人の話聞きなさいよ!」

にこ「はいはい。ちゃんと聞いてるから、行くわよ」キュッ

真姫「ヴェェェ! どうして手を握るのよ////」

にこ「しゅっぱーつ♪」

真姫「だから人の話を聞けっていってるのよ、この馬鹿にこ!」

にこ「怒ったらダメよ。アイドルは常に笑顔じゃないと。にっこにっこにー♪」

真姫「絶対にアイドルなんかにならないんだから~!」

にこ「真姫ちゃんの未来もμ'sの未来もまるっとラブニコ♪」

○エピローグ○ 三代目音ノ木坂学院アイドル研究部にて...

私たちが入学して直後に告げられた理事長の衝撃的な言葉。

動揺を隠せなかった私と凛ちゃんを優しく励ましてくれたのは、絵里ちゃんを始めとした卒業した先輩達。

翌日に元気良くにこちゃんが宣言した言葉は今も胸に宿っている。

『廃校問題? 関係ないわ! 今この瞬間を全力で楽しむにこっ♪』

意識させないようにしてたというのはもっと経ってからで、当時はそれでどうにかなる筈ないって思ってた。

でも、そんな私の心なんて無視するように、にこちゃんは音ノ木坂だけでなくあのUTXとの交流を深めた。

当時スクールアイドルの頂点であり、今本物のアイドルとして活躍するA-RISE。

そんなA-RISEのある問題に首を突っ込み、私達まで巻き込んで一騒動あった。

結果として、そのお陰で私たちはUTXの劇場でライブをしたり、逆に音ノ木坂でA-RISEがライブをしてくれた。

それだけでなく、UTXの他の生徒とも交流を深めることが出来た。

ライバルとして戦うのではなく、共にお互いを高め合っていくことが真のアイドルの形。

にこちゃんは全力で楽むことで、それを私たちに教えてくれた。

ツバサさんに宣言した音ノ木坂学院の三連覇。

その記念すべき最初の優勝を見事に手中にした私たちμ's。

あの時のライブは生涯忘れることが出来ない一つ。

そして、影のリーダーのにこちゃん・優しく包み込んでくれた希ちゃん・厳しくも丁寧に指導してくれた絵里ちゃん。

三人の卒業後、入部してくれたのは雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんだけ。

生徒数は増えたのにラブライブに優勝したアイドル研究部の敷居は高くなってしまい、こういう結果になってしまった。

でもリーダーの穂乃果ちゃんは全然気にしてなかったんだ。

「メンバーの数は問題じゃないよ。この瞬間を全力で楽しんでいこう!」

にこちゃんから受け継いだ言葉通り、穂乃果ちゃんは穂乃果ちゃんで凄いことをしていった。

昨年二年生だけで準決勝まで上り詰めた『Littele Tokyo』と交流を深めていったの。

勿論、私たちを巻き込んで一騒動あったんだけど、思い出は綺麗に思えるから不思議だよね。

UTXとの交流も続いてたから、三グループ共同でライブをしたりもしたよ。

幼い頃からアイドルに憧れていた私にとっては正に夢の中の夢みたい。

丁度その頃から、にこちゃん達をTVで見かけるようになった。

今でも全部録画してるよ!

楽しい日々の中で、ラブライブで連覇を成し遂げた。

にこちゃんの宣言まで後一歩。

でも、それが意味するのは一つ。

絶対的リーダーの穂乃果ちゃん・衣装担当兼ポスター担当のことりちゃん・作詞兼指導担当の海未ちゃん。

μ'sの先輩だったみんなが卒業するということ。

どんなに悲しくても、その時はやってきてしまう。

心の準備が出来ないまま、三人は卒業してしまった。

残った五人で話し合い、リーダーは私がすることになっちゃった。

しかも、今年の入部希望者はたった一人。

誰か助けてーって叫びたいけど、もう三年生でリーダーだからそんな弱気になれない。

今は全力でこの瞬間を楽しめるようになろうと努力の真っ最中。

「姉さまー! どうかなさったんですか?」

「かよちん、どうかしたの?」

「待っててあげるんだから、早くきなさいよね」

「ぱなよ。忘れ物でもしたの?」

「ぱなちゃん。何か困ったことでもあったの?」

遅くなった私を心配して、他のメンバーが部室に戻ってきた。

「ちょっと思い出に浸ってただけだから。遅れてごめんね」

私たち三代目音ノ木坂学院アイドル研究部がラブライブで三連覇するまでには、本当に多くの事件が待ち受けている。

何故か私を姉と慕うなんでもこなせる器用な新入生。

でも、過去に色々あったようで、悪い噂が常に付きまとってる。

昔のにこちゃんに重なるらしく、真姫ちゃんがそういう噂をしている人を見ると真っ先に怒る。

そんな真姫ちゃんは入学した頃より少し髪を伸ばして、普段は後ろで二つに結んでいる。

明らかに誰かを意識した赤いリボンで結ってるんだけど、指摘すると怒るので内緒。

凛ちゃんは髪を伸ばして、結び目は逆だけど穂乃果ちゃんみたいになった。

自由にしながらも結果を残して行く穂乃果ちゃんは、凛ちゃんの中で目標になったんだって。

って、いつまでもこうしてちゃ駄目だね。

皆と一緒にパフェを食べに行くんだから。

それでは、これで失礼しますね。

リーダーの小泉花陽でした。

追伸。これはまた別のお話です。 おしまい

【外伝 ~二人の秘密の物語~】 ※μ'sがトップアイドルグループになってからのお話。

──某年3月末 事務所

事務員「にこさんと真姫さんにお話があると、佐藤財閥婦人がお見えになってます」

にこ「にこと真姫ちゃんに? μ'sとしてでなくて?」

真姫「佐藤財閥なんて繋がりなかったけど……」

事務員「社長の方から先に挨拶はさせて頂きました。応接間で待っています」

にこ「分かったわ、ありがとうね。真姫ちゃん、行きましょう」

真姫「ええ。でも、本当に何か心当たりないの?」

にこ「ある訳ないじゃない。そんな大物」

真姫「出逢った頃から目を離すと何を仕出かすか分からないから心配なのよ」

にこ「子どもじゃないんだからそんな心配要らないわよ」

真姫「引退した後変な男に引っかかるわね」

にこ「それは真姫ちゃんでしょ! なんせ高校までサンタを信じてたんだから」プクク

真姫「うるさいわねっ!」///

にこ「未だにお嬢様発想が顔を出す時があるし」

真姫「勝手に交流関係広げてくるにこちゃんよりマシでしょ」

にこ「μ'sの為になるんだからいいじゃない」

真姫「背伸びしないでそういうのは顔の広い絵里に任せておけばいいのよ」

にこ「今年で二十七になるのよ? いつまでこんな扱いなのよ!?」

真姫「こころちゃんとここあちゃんの方が身長もスタイルもよくなったわよね」

にこ「……にこぉ」ズーン

真姫「あの天使ちゃん達が今や音ノ木坂を背負うスクールアイドルになるなんてね」

にこ「メンバーもかなり個性的らしいわよ。なんでも勧誘した一人目なんて留年して他校から編入してきたらしいし」

真姫「確か英玲奈の妹も居たわよね」

にこ「そうそう。音ノ木坂アイドル研究部を潰す為だけに入学したらしいわ」

にこ「でも、今は逆に取り込まれてμ'sの信奉者だって」

真姫「にこちゃんの勢いが2倍なんだもの。誰でも取り込まれちゃうわよ」

にこ「あの子達の勢いは当時のにこの2倍はありそうだけど。っと、話はそろそろおしまいね」

真姫「佐藤財閥夫人。何の用なのかしら」

にこ「誰かのバースデーライブならスケジュール次第だけど」

真姫「本人がわざわざ来る訳ないでしょ」

──応接間

にこ(うわぁ。典型的な金持ちって感じね。建物の中でグラサンかけてるんじゃないわよ)

真姫(趣味悪い女ね)

佐藤「お久しぶりですわ。まぁ、矢澤さんの方は見た目変わらずですが」

にこ「……どこかで会ったことありましたっけ?」

佐藤「わたくしのことをお忘れとは……言いませんわよね?」スイッ

にこ(グラサンを取ったところで分かったりはしないんだけど。でも、どこか引っかかるわね)

真姫「もしかして貴女。元同じ中学の?」

佐藤「ええ、西木野さんはお解かりになっていただけたようで嬉しいですわ」

にこ「真姫ちゃんの同級生なら私は関係ないわね」

真姫「関係大ありよ。私が音ノ木坂を目指すことになった切っ掛け忘れたの?」

にこ「……あぁっ! 思い出した! そうそう、こんな喋り方してたわね。いや~懐かしいわ」ニッコリ

佐藤「思い出して頂けたのならそれで結構ですわ」

佐藤「佐藤財閥は芸能関係、主にアイドルを中心に手を伸ばそうという話になりまして」

にこ「へぇ~。で、にこ達μ'sに関係あるの?」

佐藤「矢澤にこ。貴女にあの日の借りを返しにきました」

真姫「十年近くも前の話なのにまだ根に持ってるって、貴女相当根暗ね」

佐藤「何と言われようと結構です。次の矢澤さんの誕生日のライブなのですが、佐藤財閥に一任してもらえませんか?」

にこ「一任って具体的にはどういうことよ」

佐藤「全てです」

にこ「全てって凄いこと言うわね」

真姫「にこちゃん! こんな奴の言うこと聞いたらバースデーライブが台無しにされるわ!」

佐藤「……うふふっ」

にこ「真姫ちゃん落ち着いて。じゃあ、今年のにこのバースデーライブはあんたに全部任せるわ」ニコッ

真姫「にこちゃん!!」

にこ「喉元過ぎればにっこにっこにー♪ ってことわざ知らないの?」

真姫「そんな諺ないわよ。だったら言うわよ、三つ子の魂百までって知ってる?」

にこ「永遠に離れない?」

真姫「違うわよ! 人間百年経っても性格なんて変わるもんじゃないってことよ」

にこ「ふぅん。……つまり?」

真姫「このバカにこ! つまりこの女の性格が九年と何ヶ月かで直る筈ないってこと!」

にこ「確かに思い出せば本当に最悪な性格してたわよね」

佐藤「まぁ、酷いですわね、そんなことありませんわ」

にこ「音ノ木坂の一つ上だった生徒会長の赤の爪飲ませてあげたいくらいだったわ」

真姫「誰よそれ?」

にこ「色々と縁があってね。今は音ノ木坂で教師やってて、今はここあの担任やってるのよ」

真姫「その縁って話、この後詳しく聞かせてよね」

佐藤「本当にお二人は仲が良いですわよね。公園でお見かけした時は《孤独の君》とは思えませんでしたもの」

真姫「……その呼び方はヤメなさいよ///」

にこ「そういえば真姫ちゃんはぼっちキャラだったわね」

真姫「にこちゃんに言われたくないわよ! どこでお弁当食べればいいのって瞳潤ませてた癖に!」

にこ「そんな昔のこといつまでも覚えてるんじゃないわよ!」

佐藤「お話を戻しますが、一つだけこちらから要望がありますの。よろしいかしら?」

真姫「駄目に決まってるでしょ。にこちゃんぺろぺろ舐めてるの!」

にこ「言葉が色々おかしいわよ。で、要望ってなに?」

佐藤「最後の曲は『Snow halation』でお願いしたいの。わたくし、あの曲だけは嫌いではありませんから」

にこ「既婚者があの曲好きとか言うとなんかムカッとするわ」

真姫「心が狭いわね。結婚なんてしなくていいじゃない」

佐藤「駄目、ですの? そちらの社長からは全て話し合いで決めていいと許可を頂きましたけど」

にこ「そういうことならいいわ。再会した記念ってことでね」

佐藤「優しいですわね」

にこ「あんたが居たから真姫ちゃんが音ノ木坂受けてくれたのも事実だしね」

真姫「そこの一点だけは感謝してるけど」

佐藤「あら、嬉しいですわ♪」

真姫「ただ、変なこと企んでたらただじゃおかないわよ! 佐藤財閥だかなんだか知らないけど、絶対に潰してやるわ!」

佐藤「勇ましいことで。ですが、私が考えてることは一つだけ」

にこ「一つ?」

佐藤「わたくしは借りを返す……。それだけですわ。では、詳しい打ち合わせは後日うちの者が訪れますので良しなに」

真姫「にこちゃんはどうしてあんな奴の提案を受け入れたのよ?」ムスッ

にこ「にこの目指すアイドルはまるっと全部を受け入れて笑顔にさせるアイドルなのよ。まるっとラブニコ♪」パチッ

真姫「相変わらずウインクが上手くてムッとするわね///」

にこ「トップアイドルですもの」

真姫「にこちゃん一人がじゃないでしょ」

にこ「そうね。でも……ゴールは見え始めた。いい記念だと思うのよ」

真姫「」

にこ「そんな顔をしないの。A-RISEだってそれぞれの道を歩み始めた。きっと私達もそういう時期が近いわ」

真姫「まだ平気よ。だってトップアイドルだもの」

にこ「それを言えばあの人だってもっと続けられた。でも、引退を選んだ」

にこ「アイドルっていうのは他の人たちのことも考えられてこそだと思うのよ」

真姫「……うん」

にこ「ま、でも安心なさい。ツバサのように海外に行くわけでもないし」

真姫「うん。にこちゃんは引退後のこととか考えてるの?」

にこ「アイドル界には素晴らしい格言があるわ。引退してから考える!」

真姫「全然進歩してないじゃない!」

にこ「あははっ。今は皆と一緒に見てくれる人を笑顔にするので精一杯。それだけで十分」

真姫「はぁ~。そうね。でも、心の準備はしっかりとするわ」

──7月22日 野外会場 ラストソング『Snow halation』

鈴の音が聞こえ始めた時、七月の綺麗な星空から本物の雪が降り始める。

熱気の上がっていた観客すら息を飲むシチュエーション。

そんな中で九人が奏でる切ない恋の歌が会場に響き渡る。

アイドル史上に名を残すμ'sの伝説の野外ライブ。

しっとりとした想いの中、最後は矢澤にこの明るい感謝の声。

そして、一年後の今日。μ'sが解散することをファンに告げた。


にこ「結局あの後一度も顔を見せに来ないわね」

真姫「そうね。仕方ないからお礼を言ってあげようと思ってたのに」

にこ「今にして思えば、本当に嫉妬したのは真姫ちゃんの家じゃなくて、にこのことだったのかもね」

真姫「はぁ?」

にこ「不器用そうだし、プライド高いし。普通に仲良くする方法を知らなかったんじゃないのかなって」

真姫「根っからよ!」

にこ「根っからだったとしたら、今回何もしなかったのはおかしいじゃない。だって、三つ子の魂百までなんでしょ?」

真姫「それは……」

にこ「もしかしたら、選択が違えばあの子もμ'sのメンバーだったのかもね」

真姫「μ'sは九人だからμ'sでしょ」

にこ「じゃあ、幻のメンバーね」

感謝の言葉も掛けさせないのは彼女のプライドの問題か、はたまたこれが復讐の方法だったのか。

それは彼女の心中でしか分かり得ない。

そして、佐藤財閥がアイドルに関わったのは一度限りのことだった。

佐藤「借りは返しましたわ」


引退ライブが終わり、にこと真姫は皆に語る。

二人の秘密であったμ'sの始まりの物語。

他のメンバーが顔を合わせることのなかったμ'sの十人目のこと。

あの嫌味で嘘吐きで意地が悪い彼女が登場する懐かしい青春の欠片。 μ's伝説エンド☆

にこ「これでにこの青春の物語は終了にこっ♪」

にこ「レスやコメをくれた人ありがとうね!」

にこ「正直な話、皆が居なかったら会長とりんぱなは出てこなかったし、海未の見せ場もなかったわ」

にこ「穂乃果の曲だけど『夢なき夢は夢じゃない』是非聴いてみてね。本編とリンクしてる部分もあるらしいわよ」

にこ「本当はにこの卒業の日に一つの物語があったんだけど、それはにこの秘密☆」

にこ「それじゃあ、最後まで読んでくれてありがとう。ばいば~い♪」

おつてすと

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月04日 (月) 13:18:41   ID: DZ8bpApm

凄く素敵な話で感動した!
アニメ,漫画,SIDの設定を独自解釈してオリジナル展開しながらも
しっかりとしたプロットが感じられて良い作品
続きが気になる~~~

( ・∀・)イイ!!

2 :  SS好きの774さん   2014年08月17日 (日) 16:48:00   ID: 1GWs5S2m

よかったです、

3 :  SS好きの774さん   2014年08月18日 (月) 10:51:24   ID: ArMtX5Rj

すっごい良かった

4 :  SS好きの774さん   2014年08月19日 (火) 03:47:37   ID: OTP7iCxy

素晴らしかったです。真姫ちゃんの「バカにこ」に萌えました

5 :  SS好きの774さん   2014年08月19日 (火) 17:34:11   ID: 4iwK-utJ

次回作やスピンオフ書いてくれるとなお良し

6 :  SS好きの774さん   2016年01月21日 (木) 02:22:40   ID: 6TRERD63

乙乙
素晴らしいSSでした
次回作も期待してます

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