青春勇者と高慢魔術師(33)
勇者「君が魔王討伐に協力してくれる人かい?」
魔術師「ああそうだ。よろしく頼むよ勇者君」
勇者「こちらこそよろしく!」ニコッ
魔術師「ふっ…真摯な対応。君は利口な様だ」
勇者「そうかい?褒められると嬉しいな」テヘッ
魔術師「(扱いやすそうな馬鹿勇者だな。都合が良い)」
勇者「それじゃあ、早速行こうか!」
魔術師「そうだな」
魔術師「ところで勇者君。僕の事は知ってるよな?」
勇者「え?ごめんなさい。知らないや」
魔術師「………なんだって?」
勇者「ひょっとして、魔術師さんって有名なの?」
魔術師「いかにも!!僕の家は王国で…いや、世界一の魔術師の家系でね。両親はもちろん、親族の全員が魔術師なんだよ?」
勇者「へ、へ~」
魔術師「曾曾祖父は王国の魔法図書館の創設者だし、祖父も父も高名な魔術師なんだよ?名前ぐらいは聞いたことがあるだろ、ねえ?」
勇者「そう言われれば……聞いたことがあるような……ないような…?」
魔術師「(……チッ)まあいいさ。勇者君は王国の田舎で育ったらしいからねぇ。知らなくても仕方ないだろう」
勇者「あははははは…」
勇者「…そ、それじゃあ魔術師さんも何か凄い事をしたんだ」
魔術師「はぁ?何を言ってるんだ君は。有名な家柄に生まれただけで僕がどれだけ優れているかわかるだろ?それに、僕は長男なんだよ。つまりは跡取りだよ、跡取り」
勇者「そ、そうなんだ…?」
魔術師「それに、僕は今から魔王を討伐する旅に出るんだ。僕の家系の箔はさらに上がるだろうね」
勇者「え?魔術師さんは家の為に旅に出るの?」
魔術師「そう言う勇者君は何の為に旅に出るんだい?」
勇者「もちろん!世界の平和の為さ!」ニコッ
魔術師「それは素晴らしい。流石は勇者君だ」
勇者「そうですか?普通だと思いますけど」
魔術師「そんなことは無いさ。一般人には到底出来ない心構えだよ」
勇者「また褒められちゃった」ニコッ
魔術師「ところで勇者君。立派な装備だけど、どうしたんだい?」
勇者「ああこれ?王様が全部準備してくれたんだ」
魔術師「(…ハァ?)」
勇者「なんかさ、王国で一番の武器と防具だってさ」
魔術師「それは凄いな。流石勇者君だ」
勇者「そう言う魔術師さんだって凄い格好良い装備だよ?」
魔術師「そんなのは当たり前だ。僕の装備は一族の叡知を結晶させた世界に一つしかない僕だけの、僕の為だけに両親が準備してくれたんだ」
勇者「そうなんだ!凄いね!」
魔術師「このローブは下級魔術を無効化する能力を持ってるし、サークレットや指輪は魔力増強の能力を持っている」
勇者「ペンダントやイヤリングも?」
魔術師「ああそうだ。アクセサリー全てに魔力増強の能力が付いている」
勇者「凄いね!!それじゃあ、その大きな杖は?」
魔術師「これは僕の家系に代々伝わる世界最強の杖だ」
勇者「世界最強?」
魔術師「フェニックスの尾、ドラゴンの髭、ユニコーンの角、デーモンの血…etc…etc。あらゆる魔物の魔力の源を封じ込めてある。事実上最強の杖だ」
勇者「よくわからないけど、とにかく凄い杖なんだね?」
魔術師「まあ、そんな認識で構わないさ」
勇者「それじゃあ魔術師さん!一緒に魔王を倒す旅に行きましょう!!」
魔術師「任せたまえ。一族の誇りに賭けて僕が君を本当の勇者にしてあげよう」
勇者「魔王討伐がんばるぞー!えいえいおー!!」
勇者「魔王は北の大陸を拠点としているんだよね?」
魔術師「ああそうだね。海を二つ越えた先にある最北の大陸だ」
勇者「ねえ魔術師さん」
魔術師「なんだね?」
勇者「北に向かうのなら、僕の実家に寄って良いかな?」
魔術師「……勇者君の旅だ。好きなようにしたまえ」
勇者「ありがとう魔術師さん!」ニコッ
魔術師「わかってると思うけど、長居は出来ないぞ勇者君」
勇者「うん!」ニコッ
勇者「魔王なんか~怖くない~怖くないったら怖くない~♪」
魔術師「(随分と上機嫌になったな。故郷に帰るのがそんなに嬉しいのか…?)」
勇者「魔術師さんも一緒に歌いませんか?」
魔術師「…結構だ」
勇者「そうですか…」ショボン
魔術師「………」
勇者「そういえば、街の外に出たのにモンスターを見かけませんね」
魔術師「そういえば、言い忘れていたね」
勇者「ん?」
魔術師「右手の腕輪には魔物除けの効力があるんだよ」
勇者「魔物除け?」
魔術師「君のマントに聖なる紋章が描かれているだろう?」
勇者「あ、本当だ」
魔術師「それにも同じ効力が付いている」
勇者「へえ…知らなかった」
魔術師「魔物除けが二つあれば、モンスターと出会う可能性は極端に減る。洞窟や深い森以外ではね」
勇者「あ!魔術師さん!!あそこ!」
魔術師「行商人がモンスターに襲われている…!?」
勇者「助けなくちゃ!行くよ!!」ダッ
行商人「ぎゃああ!!ゴブリンだぁ!!?」
ゴブリン「「「「garuuuuu!!」」」」
魔術師「(小鬼か……厄介だな)」
勇者「そこまでだ!!」ズバッ
ゴブリン「gyaaa!?」
行商人「た、助かった!」
勇者「大丈夫ですか!?」
行商人「ああ…!?危ない後ろ!!!」
ゴブリン「gruuuuu!!」バッ
勇者「っ!?」
ゴブリン「ga………!?」バタリ
魔術師「下級モンスターといえども、数が多い。気をつけたまえ勇者君!」
勇者「あ、ありがとう魔術師さん」
魔術師「勇者君『補助魔術:加速』だ!」
勇者「ありがとうございます!」
勇者「身体が軽い!これなら楽勝だ!」
魔術師「(まさか小鬼程度に手間取るレベルとは……)」
行商人「あんたら…すっげーなぁ」
魔術師「ところで行商人。荷物は奪われて無いんだな」
行商人「へえ。おかげ様で…」
魔術師「うむ。よろしい」
勇者「コイツで、最後!!」ズバシュッ
ゴブリン「guha…」バタッ
魔術師「ご苦労だったな勇者君」
勇者「いえいえ。魔術師さんの補助魔術のおかげで助かりました」
魔術師「ま、当然だね」
勇者「あははははは…」
行商人「いやーあんたら。助かりましたー。なんと御礼を申し上げて良いやら」
勇者「勇者として当然の事をしたまでです」ニコッ
魔術師「勇者君は本当に立派だな」
勇者「そうかな?へへっ」
行商人「ところでお二人さん。どちらに行くんですかい?」
勇者「故郷の○○村に行くんです」
行商人「そりゃあ奇遇だ!私も○○村に行くんですよ」
勇者「そうなんですか!?」
魔術師「だったら調度良い。一緒に連れていって貰おう勇者君」
勇者「え?そんなのご迷惑じゃないですか?」
行商人「とんでもない!お二人がいれば安心して○○村に行けますよ。ささっ、どうぞ後ろに乗って下さい」
魔術師「では、失礼しよう」
勇者「馬車の揺れって、なんか独特で良いですよね?魔術師さん」
魔術師「そうかい?僕はそうは思わないけど」
勇者「車輪と蹄の音とか、聞いてると心地好くなりませんか?」
魔術師「勇者君?王国で暮らしていた頃の僕の生活を知っているかい?」
勇者「いいえ?」
魔術師「ふっ……。まず、馬車に乗ったのは初めてだ」
勇者「え!?そうなんですか!?」
魔術師「王国では騎竜車か、使い魔のグリフォンにしか乗った事が無かったよ」
勇者「へ、へぇ~」
魔術師「それにしても……中は酷い有様だな。物置でも、もう少しマシだぞ」
勇者「そうですか?キチンと整理されてると思いますけど」
魔術師「なに…?」
勇者「だってほら、馬車が揺れても崩れたりしてないでしょ?」
魔術師「(言われてみれば……確かに崩れる気配が無い。ところ狭しと敷き詰められている形ではあるが、意外にも考えられてあるようだ)」
勇者「ただ…匂いは気になりますね」
魔術師「ふん。『補助魔術:空気浄化』」
勇者「…あれ?」
魔術師「本来は火山や毒沼を渡る時に使う魔術だが、こういう使い方もある」
行商人「○○村に着きましたぜ~お二人さん」
勇者「ありがとうございました」ペコリ
行商人「いんや~、おかげさんで助かりました~」
魔術師「そうか。それじゃあ主人、ここの薬草を数種類分けてもらいたいんだが」
勇者「ええ?ダメですよ魔術師さん。無理言って送って貰ったのに」
魔術師「何を言ってるんだ勇者君?行き先は同じだったし、護衛も兼ねての同乗だ。そうだろう主人」
行商人「ま~薬草程度だったらよろしいですよ?」
勇者「え~?悪い気がするんですけど」
魔術師「主人も良いと言ってるんだ。遠慮するな」
勇者「う~ん…」
魔術師「それじゃあ主人。世話になったな」
行商人「また御縁があれば~」ニコッ
勇者「ありがとうございました!」ペコリ
魔術師「それじゃあ勇者君。○○村に着いた訳だが、どうするんだ?」
勇者「そうですね。とにかく両親の所に行きます」
魔術師「そうか。村のどこだ?」
勇者「ハズレの方です」
魔術師「ずいぶんと離れた所にあるんだな」
勇者「ええ。まあー色々ありまして」
魔術師「……ん?アレは、教会か?」
勇者「あ、そうだ。神父さんに先に挨拶してきますね」ダッ
魔術師「あ、勇者君!?………この僕が、置いて行かれた…!?」
魔術師「(……それにしても、村のハズレに教会を置いておくなんて、少々に理解に苦しむな)」
魔術師「(だいたい、これが教会だと?都なら個人店の方が立派だぞ)」
魔術師「(これだから田舎と言うのは…武勲を上げる為、勇者の旅に同行するのは早急な考えだったか…?)」
魔術師「(いや、そんなことを言うのは無しだ。僕は単純なエリートに終わらない存在だ。泣き言など言うわけ無い)」
魔術師「(…それにしても勇者の奴。僕をどれだけ待たすつもりだ…!?)」
勇者「お待たせしました魔術師さん!」
魔術師「…………」ジトー
勇者「すいません。神父さんと話し込んでいて」
魔術師「まったく誠意が見えないぞ勇者君。詫びを入れるときは頭をもっと下げるべきだ」
勇者「本当に申し訳ありませんでした!」ペコリッ!
魔術師「ふん………ところで、その蝋燭はなんだ?」
勇者「これですか?神父さんが両親にって」
魔術師「……??」
勇者「まあ、すぐそこなんで、行きましょうか」
勇者「…ただいま。父さん、母さん」
魔術師「(これは…………)」
勇者「絶対に魔王を倒してくるからね。見守ってて下さい」
魔術師「(僕は…勇者の事をただのラッキーボーイだと思っていた。
田舎の育ちの少年を、王宮の神官が勇者として連れて来た。
女神に選ばれたか何だか知らないが、底辺から英雄にラッキーでなれたと思っていた)」
勇者「これ、神父さんからの贈り物。ちょっと見ててね……『補助魔術:点火』」
魔術師「(勇者は、どんな気持ちで王国に居たのだろうか……魔王への復讐だろうか?
…あの笑顔を見る限り、それは無いだろう)」
勇者「………うん。大丈夫だよ」
勇者「…それじゃあ、全部が終わったら…帰ってくるから」
魔術師「…………」
勇者「お待たせしました!魔術師さん!」ニコッ
魔術師「もういいのかい?」
勇者「バッチリです!それに、絶対に帰って来ますから」ニコッ
魔術師「(ああ…きっとコイツは、自分のせいで両親が殺されたと思っているんだ。
勇者の資質を持っていた自分が居たせいで……)」
勇者「魔術師さん?どうかしましたか?」
魔術師「(仮面なのだろう。万人が描く勇者。それに成り切る事で、コイツは…自分を殺す事でコイツは許されているのだろう。
でなければ、さっきの表情に説明が付かない。
それらしい言葉は出ても、焦点の定まらない瞳と強く握られた両拳に…説明が付かない)」
魔術師「…まったく、欠伸を堪えるのが大変だったよ勇者君」
勇者「ごめんなさい」ペコリ
魔術師「なぁに、そこまでしてもらわなくて結構。…用事はこれで終わりだろうね?」
勇者「あ、あと一カ所だけ!お願いします」ペコリ
魔術師「……まったく、仕方の無い勇者様だよ、君は」
勇者「あははははは」
魔術師「……ふぅ」
魔術師「(……ならば僕は、僕を変えない。コイツの正体を知っても、僕は変わらない。僕は仮面に頼らない)」
魔術師「……ここに、君の恋人がいるのかい?」
勇者「恋人じゃありませんってば!ただの幼馴染ですって」
魔術師「まあ、僕にはどうでも良いことだ」
勇者「だったら変なこと言わないで下さいよ!!」
魔術師「わかったわかった。……ところで勇者君?僕の許嫁の話は聞きたくないか?」
勇者「え、、遠慮しときます…」
魔術師「非常に美しい女性でね、なんと幼馴染なんだよ。
一般的には許嫁と言うと親通しが勝手に決めるという認識だが、僕と彼女は自分達で許嫁になったんだよ勇者君?」
勇者「あの、静かにお願いします」
魔術師「……ふむ、仕方ない」
勇者「こ、こんにちはー!」
魔術師「声が裏返っているぞ…」ボソッ
勇者「な、なんか緊張しちゃって…」テレッ
無愛想な男「…どちらさまっすか?」
勇者「あの!お久しぶりです。お兄さん!」
無愛想な男「……誰かと思えば、君か」
勇者「突然ですいません。幼馴染ちゃん、いますか?」
無愛想な男「ああ。部屋にいるよ、上がってくれ」
勇者「失礼します」
魔術師「(………勇者を迎える対応では無かったな。地元でまで勇者扱いされたくないだろうが、僕から見れば、一般常識が無いようにも見える)」
無愛想な男「…あんたは誰だ?」
魔術師「勇者君の補佐役だよ」
無愛想な男「そうか。身なりを見る限り、魔法使いか何かか?」
魔術師「いかにも。ところで、貴方は幼馴染さんのお兄さんで良いのかな?」
無愛想な男「…一応、そういうことになっている」
魔術師「……??」
勇者「お兄さん?魔術師さん?入口で立ち止まってどうしたんですか?」
魔術師「なんでもないさ」
無愛想な男「ああ。なんでもない」
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