俺「解除条件を満たさないと首輪が爆発する…ねぇ」(25)

………。

いつもとは違う空気、違う目覚め方。

俺は長く眠っていたようで、身体が妙に気怠い。

目を開けると、見慣れない天井が飛び込んでくる。

背中に感じる感触も硬く、明らかに自宅のベッドのそれとは違った。

なんだ?

俺は予想外の出来事に慌てて身体を起こした。

視界が天井から部屋の様子に変わる。

そこは見知らぬ小部屋。

俺はその床に座り込んでいた

部屋は洋室で、家具がいくつか設置されていた。

しかしよく見るとどの家具も古ぼけていて、誰も使わなくなってから長いようだった。

それを見た俺は自分の身体から埃を払いのけた。

ズキリ

再び頭痛。

さっきほどではなかったが、俺は顔をしかめて何度か首を振った。

俺自身は知る由もないが、それは彼が吸い込まされた薬物によるものだった。

彼はそうやってここへ連れ込まれたのだ。

どこだ、ここは?

俺は必死に記憶を辿る。

自分の中で一番新しい記憶は?

学園で授業を終え、一人帰路についた。

歩いて駅へ。

電車に乗り、最寄り駅で降りて自宅へ向かって歩く。

歩く。

そこで記憶は途切れてしまっていた。

最後に人の気配を感じたような気もするが、判然としない。

そのあたりの記憶は曖昧だった。

その記憶の直後は既にここでの記憶だった。

分からない。

一体何が起きた?

俺は慌てて体中を調べる。

怪我はない。

服も元のまま、財布も携帯もある。

何もなくなってはいない。

強盗にあったわけではないらしい。

服装は記憶のままであることから、記憶喪失やそういった類の事ではなさそうだった。

誰かに勝手に連れてこられたとか、そういう事なのだろうか。

じゃあ、誘拐?

俺をか?

なんでだ?

しかし誘拐だとしても何かがおかしい。

誘拐なら拘束されていたって良いはずだ。

俺はただ放り出されていただけだ。

そうだ、携帯だ!

俺は先ほど確認した携帯の電源を入れた。

しかし画面には圏外の文字が浮かんでいるだけで、通話は出来そうになかった。

俺は舌打ちをしながら携帯を再びポケットにしまう。

いよいよ何も分からない。

俺は何度目かの舌打ちをしながら立ち上がった。

背筋を伸ばすと少しだけ息苦しさを感じ、制服のネクタイを緩めようとした。

カチリ

爪が何かにあたる。

なんだ?

俺は首に手を触れる。

そこには金属製の輪が取り付けられていた。

俺「首輪?」

何だこれは?

引っ張ってみるがびくともしない。

そもそも首に密着していて指を滑り込ませる隙間がなく、力が込められない。

どうやら意識のない間に付けられたようだ。

首に巻かれているだけにその概観は手触りから想像するしかないが、つるっとした滑らかな表面の直径2センチ弱の半円のチューブを首に巻き付けたような形になっている。

素材はなんだが分からないが、金属なのは間違いない。

首輪はどうやら簡単には外せそうにない物のようだった。

引っ張った時の手応えからしてそんな感じがした。

強固で、隙間なく首に巻き付いていた。

このままでは埒があかない。

俺はそう判断すると、首輪から手を放し部屋を見回した。

どうにもならない首輪をいつまでもも弄っているよりは現状を把握したかった。

改めて見回すと部屋の様子がよく分かってきた。

さっきは特に感じなかったが、部屋に電気が通っていて明かりがついていた。

完全な廃屋というわけではないようだ。

すぐに一番大きなベッドが目に飛びこんでくる。

せめて床ではなくそこに寝かせてくれとも思ったが、マットレスにはいくつも穴が開いていてバネが飛び出していた。

ベッドの傍にはテーブル。

その上には何かが置かれていた。

薄い板状の物だ。

全体的に白い材質で出来ている為、くすみがちな色のこの部屋では一際目立っていた。

なんだ?

俺はテーブルに歩み寄ると、それを拾い上げる。

その板状のものは、どうやら電子機器のようだった。

15センチ×10センチ程の液晶画面とそれを取り囲む白い塗装の金属製の枠。

スイッチらしきものは下部にひとつだけ。

種類の異なる端子が下面と側面に覗いている。

それだけね至ってシンプルな構造だった。

薄暗い液晶画面には9という番号が表示されていた。

概観を眺め終えると俺は何気なく唯一のスイッチを押し込む。

すると画面が切り替わり、同時にバックライトが点灯する。

ルール・機能・解除条件。

画面には順にその3つが表示された。

バックライトが点灯したおかげで、画面は鮮明で見やすくなった。

そうです。

キラークイーンです。

展開は180゚違うと思いますが。

なんだ? ルールだって?

どうやら全然関係ないゲーム機でも拾ったらしい。

俺はそんな風に考えた。

ふむ。

しばらく考えた後、俺は画面に指先を伸ばした。

このゲーム機には操作装置がない。

以前友人に見せてもらった携帯ゲーム機は、画面に直接触れる操作方法だった事を思い出したのだ。

ぴっ

軽い電子音。

同時に触れた『ルール』の文字の色が変わった。

すぐに画面が切り替わり、大量の文字列が吐き出されてくる。

俺の判断は正しかったようだ。

カタッ

タッタッ

それまで無音だった部屋に、外からの音が紛れ込んできた。

それは彼が気をつけていなければ、気付かなかっただろう程のかすかな音だった。

俺は携帯ゲーム機を上着のポケットに突っ込むと慎重に物音の方へと足を向けた。

その先には扉があり、音はその向こうから聞こえてきていた。

人がいる。

現実感の無さのために考えが及ばなかったが、自分の意志でここに来た訳ではないのだから他に誰か居るはずなのだ。

意味もなく連れてこられたなどという場合でもない限り。

ゆっくりと扉に近づく。

俺をここに連れ込んだ人間がいるかもしれないので、その歩みは自然と慎重になった。

カタリ

いる。

多分、扉のすぐ向こう。

そんなに距離はない。

カチリ

俺はドアノブに手をかけた。

その時ドアノブが立てた音が耳につく。

もしかしたら向こうに気付かれたかもしれない。

そんな風に思いながらも俺は思い切ってドアを引いた。

ドアを開けた先に見た光景。

そこにはこの場所に似合わない人物が立っていた。

少女。

学生服に身を包んだ少女だった。

目の前に立つ少女は驚きに目を見開いていた。

少女「あ、あ…」

少女は譫言のように口を震わせている。

俺「ああ?」

俺は別に難聴、という訳ではない。

しかし目の前の少女が何かを口走っているようだがよく聞こえないため、つい語気を荒めてしまう。

俺の二言に過敏を反応した少女は、更に口を震わせながらもはっきりと言った。

少女「あ、あなたが私をここに連れてきたんですか?」

俺の他にも人が居たのか。

自分と同じ境遇の人間に出会った事で、今の状況が相当ヤバいことだと分かり始める。

───しかし、この女は頭がおかしいのだろうか。

そう思わざるを得なかった。
拉致監禁されてるこの状況で俺たちは比較的自由に動けている。

犯人が近くに居るのはまずあり得ない事だ。

それに考えが至らないこの少女は、どうやら少し頭が悪いらしい。

もしかするとただ混乱しているだけなのかもしれないが。

とりあえず俺は少女からの質問に答えることにした。

俺「違うよ。俺も君と同じく連れ去られた側の人間だ」

少女「しょ、証拠はありますか…?」

ダメだ、キレてしまいそう。

ここで冷静さを欠いたらダメだ。

俺は自分にそう言い聞かせ、一旦落ち着く。

俺「証拠は、これかな」

俺はそういって自分の首に巻き付けられている首輪を右人差し指の爪先でカツカツと叩く。

俺「君にも着いてるよね?」

そのまま右人差し指を、今度は少女の首輪に向かって指す。

少女は突然に向けられた人差し指に若干の驚きを見せながらも、首を縦に振った。

俺「あとこれ」

俺はそういいながら先ほどポケットにしまっておいた手の平サイズの電子機器を取り出した。

俺「多分pdaってやつだな、これ。君にも配布されているでしょう?」

少女は慌てて自身が身に纏っている制服のポケットからpdaを取り出す。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom