「へぇ~、じゃあもうテレビに映る事も出来るんだー」
そう普遍的な返事を返しながら、一番上の姉が朝食を作っていた。
母親が朝早くから出て行く為、朝食作りから弁当までは長女の仕事だというのが矢澤家の暗黙のルールらしい。
「いいなぁ~にこももうちょっとアイドル続けたかったなぁ」
「あの子達が皆にこの勤めてる事務所に来てくれたならまだチャンスがあったんだけどなー」
冗談交じりで話す言葉の中に、僅かながら本音が混じっている様に思えた。
数年間、この姉をずっと見てきた俺にとって、アイドルという物に一番執着心が強かったのは紛れもなくこの人だからだ。
「でもまぁにこも限界知っちゃったし、今でも関係あるお仕事に就くことも出来たし」
「後は若いあんたたちの世代に任せるわね」
…寂しそうな物言いとは裏腹に、長女の表情は嬉しげだった。
どんな形にせよアイドルという仕事に携わる事が出来た事を、姉は誇りに思っているらしい。
にこ「でも、この宇宙ナンバーワンアイドル矢澤にこの名前に泥を塗るような事をしたら…」
にこ「例え弟でも、にこにーがその座を奪っちゃうにこ♪」
俺は、そんな姉を誰よりも尊敬している。
恐らくこれからも、ずっと…
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訂正
×そう普遍的な返事を返しながら、一番上の姉が朝食を作っていた。
○何気なく返事を返して、一番上の姉は朝食作りの続きをやりだした。
お兄さんゆるして
「コタロー!準備出来たー!?」
大きな声を上げて俺の元にやって来たのは、下の姉のうるさい方だ。
何かを伝えるために持ち抱えている何冊ものノートは、目にするだけで気分が悪くなりそうだ。
「はいこれ!お姉さまの現役時代の活動記録!」
「ちゃんと読まないと、アイドルになんてなれないよ!」
驚くことにこの姉は、一番上の姉がスクールアイドル…そしてアイドル活動をやってきた中での全ての功績やイベント内容を全て記録に残していた。
何度か目にした事はあったが、どのノートの内容も『やっぱりお姉さまは素敵です!』のフレーズで埋まっていたというのだけは憶えている…。
「えっとね、この間もう一冊追加したんだけど、コタローまだ見てないでしょ?」
「だから行く途中で全部目を通しておくんだよ?」
…現役を引退した今でも、記録を残すことはやめていないらしい。
本人曰く、お姉さまの中に秘められているアイドルオーラはまだまだ健在なのだとか。
「でも未だに信じられないなー。コタローがアイドルの端くれになっちゃっただなんて」
「もしかして矢澤家の人間には全員お姉さまのアイドルとしての素質がっ…!これはノートにメモしておかないと…」
うるさい方の姉は、根っからの一番上の姉のファンであり、その熱意は誰にも負けない。
本人もそんな自分を好いていて、その顔は自信に溢れているように見えた。
ココロ「頑張ってねコタロー。お姉さまを超えることは絶対に出来ないだろうけど…」
ココロ「それでも、お姉ちゃんとしてはちゃんと応援してるよ!」
…でも、俺もこの姉の笑顔を見るのは嫌いじゃない。
真っ直ぐで正直な気持ちを伝えるこの人の性格は、俺の心を清々しい気持ちにさせるからだ。
―ガラッ!
「うわぁ!?な、何!?」
「ちょっとコタロー!その勢いよく扉開けるクセ直せっていつも言ってるだろー!?」
そう俺に怒鳴ってきたのは、下の姉の適当な方だった。
小さい時からの癖で、よく姉三人を怒られた事を思い出して少し可笑しく思えた。
「あんたさー…治す気ないでしょ?」
「顔ニヤけてるし」
普通にバレていた。
「別に私には関係ないけどさー」
「そういう癖が原因で干されるとかあるんじゃないの?アイドル業界って。」
「…大丈夫なの?あんた」
まさかこの姉に心配されるとは思ってもいなかった。
基本的にやる事なす事適当で、俺の事なんて全然気にかけてない様な気がしていたから。
「そこまで私薄情じゃないよ…」
「ただ、ねーちゃん見てたらやっぱすっごく厳しい世界なんだろうって思ってさ」
…厳しい事は、覚悟している。
ここまで上り詰めるだけでも相当な苦労をしたのだから。
それが分かっていて、この世界に足を踏み入れたんだ。
ココア「ま、一人のファンとして応援はしてあげるよー」
ココア「有名になったらサインとか頂戴ね、自慢したいから」 ケラケラ
形は違っても、俺を気にかけてくれている事を知って少し嬉しい気持ちになる。
期待を裏切らない様に、自分の出来る事を精一杯こなしていこう…そう思えた。
今日はここまで
明日までに完成させますん
にこにー誕生日おめで㌧
「…はい、みなさんお疲れ様でした。少し休憩とします」
レッスンが終わり、練習生が各々に休憩を取り始める。
自分も水分補給をする為に荷物を置いている場所へ歩いた。
「あ、矢澤君」
「ちょっといいかしら?話しておきたい事があるんだけど…」
トレーナーの横を通り過ぎようとすると、その人がいきなり俺に声をかけてきた。
…何だ?俺、レッスン中にヘマでもやったか?
「…ふふっ。そのしかめっ面、姉にそっくり」
「大丈夫よ、別に取って食おうだなんて思ってないから」
いきなり呼び出されて面食らう俺とは逆に、トレーナーの顔はとても穏やかだった。
冗談を投げかけるという事は、言葉通り悪い意味で呼んだわけではなさそうだ。
「…今度、うちのチームからコンテストに参加するメンバーを決めようと思ってるんだけど」
「きみ、出てみようって気はある?」
トレーナが俺に知らせたのは、大会出場の話だった。
多くの人が耳にしたことのある有名な大会に、俺がここのメンバーに入って出場出来る。
…そんな事、願ってもないことだ。
「うん、そう言うと思った」
「なら私の組んだカリキュラムを期間内に全てクリアしてみて。そうすれば考えてあげるから」
どうやら、タダで機会をくれるというわけではないらしい。
カリキュラムの内容は俺が今まで行ってきたどのレッスンよりもレベルが高く、並大抵の努力では乗り越えることが出来そうにないと思えた。
「私もこのチームを担っていくトレーナー兼プロデューサーとしての沽券があるから、そう簡単にチームの質を下げるような真似はしない」
「見たところ今の実力は、中の下ってところだしね、くすっ」
ばっさりと切り捨てるように俺の評価を付けつけたトレーナーは、俺が落ち込む姿を見て笑っていた。
…ちくしょう、言われなくても自分の実力は自分が一番分かってるっての。
「…でも、あの矢澤にこの弟なら、この程度の壁はすぐに壊して乗り込んでくる」
「私はそう思ってるけど…くすくす、過大評価だったかしら?」
過大評価だろうがどうでもいい。
先生が出した宿題を提出する事なんて、小学校に通っていれば誰にだってできる。
俺はその場で、カリキュラムをこなす事をトレーナーと約束した。
ツバサ「うん、君ならそう言ってくれるって思ってた」
ツバサ「頑張ってね。私、贔屓するつもりは全然ないから」
俺だって折角降ってきたチャンスを無駄にするつもりはない。
…やってやるよ、自分が今出来ることを全てクリアしてやる、びっくりするなよ?
―ガラッ
「いらしゃいませー!あっ…」
「コタロー君久しぶりだねー。おまんじゅう買いに来たの?」
練習の帰りがけに穂むらに寄った。
理由は下の適当な方の姉にここの饅頭を買ってこいと命令されたからだ。
「そっかー、にこちゃんもこの前いっぱい買ってくれたんだよ」
「だから今日は少しおまけしておくねっ、いいのいいのこれくらい」
そう言ってガラスケースに展示されている穂むら特製の饅頭を大量に紙袋の中に詰め込んでいく。
ここの経営状況がすごく気になったけど、余計な事は聞かないことにした。
「でもすごいねー、あのツバサさんから直々に練習見てもらってるんでしょ?」
「でも物凄くキツそう…うへぇ」
今まではそこまで過酷ではなかったが、明日からめでたく地獄の様な練習が追加されることを伝える。
俺の事は一番上の姉から聞かされているのか、驚きはせずに柔らかな表情で俺に微笑んでくれた。
「ふふっ、でもねコタロー君、私嬉しいんだ」
「私達のライブをみてアイドルになりたいって思ってくれてたんだってね…この前、にこちゃんから聞いたの」
「スクールアイドルとしての活動が、今でも誰かの心の中に残ってる…私達にとって、こんな幸せなことはないよ」
前髪で目を隠して俺はそっぽを向いた。
恥ずかしさで彼女の顔をまともに見ることができない。上の姉はそんな事まで話していたのか…。
「あっ、コタロー君!」
「最後に一つだけ、先輩として言わせて欲しいな」
紙袋を受け取って颯爽と店を出て行こうとする俺を、彼女が呼び止めた。
穂乃果「…ありがとう。私達の夢を見届けてくれて」
穂乃果「穂乃果も陰ながら応援してるねっ!ファイトだよっ!」
一度だけ頭を下げて、俺は穂むらの店の扉から出て行った。
本当に礼を言いたいのはこっちなんだけどな。
…ありがとう、俺に夢を与えてくれて。
>>20
訂正
× 付けつけた
○ 突き付けた
「あっ…あれって、コタロー君じゃないかな?」
「え?…あ、本当だ」
自宅に帰る途中、当時のスクールアイドルのメンバーを見かけた
向こうもこっちに気付いたのか、二人揃って俺の方に近づいてくる。
「こんばんわ。今から帰るんですか?」
「にこちゃんから話は聞いてるわ。…候補生入り、おめでとう」
メンバー二人から祝辞を貰うと、俺は頭を下げてお礼を言った。
この二人はよく家に遊びに来ていたので少なからずとも交流がある。
他の姉二人と混じって、食事をしたり一緒に遊んでくれたりと、俺にとっても楽しい記憶ばかりだ。
…ただ、この場にもう一人のメンバーがいない事だけが少し違和感を覚えた。
「ふふふっ…コタロー君、とっても悲しい顔してる」
「こういう所、にこちゃんにそっくりね…顔に出さないようにしてるつもりだけど、結局眉間に皺が寄っちゃうんだから」
俺は慌てて眉間を隠した。
普段から無表情を取り繕ってきたつもりだったけど、家族やこの人達には見透かされていたらしい。
…そう思うと、今更ながら凄く恥ずかしくなった。
「えっとね、私達はさっき別れたばっかりだから…」
「そうね、今追いかければもしかすると追いつくかも」
二人は俺に微笑みかけながら、行ってらっしゃいとでも言わんばかりに手を振った。
…あの人の家は、確か向こう側だった筈だ。
俺は二人にお礼を言うと、先程買った穂むらの饅頭を一つずつ渡して…そのまま走り出した。
花陽「…やっぱり、アイドルっていいよね」
真姫「そうね。…もう一度出来るなら、やってみてもいいかも」
道を抜けると住宅街が見える。
夕焼けに染まった町並みが、やけに眩しく思えた。
「…あれ?コタロー君だ!」
「どうしたの?そんなに急いで…何か用事でもあるの?」
後ろ姿を見つけて全力で走ってきた俺に、彼女は何気ない質問を投げかける。
体の火照りと走ったあとの激しい動悸で上手く言葉が出せなかったが、彼女は俺が落ち着くまで待っていてくれた。
…袖で額の汗を拭おうとすると、彼女がハンカチを差し出す。
「ダメだよ!折角格好良いお洋服着てるんだから!」
「シミになったら大変だよー?主ににこちゃんが」
ハンカチを受け取ると、俺はわざとゆっくりと汗を拭く。
顔が隠れている間に、自分が言いたいことを整理したかったからだ。
「あっ、ハンカチはそのまま返してくれていいよー?」
「大丈夫!知らない仲じゃないから遠慮なんて要らないよ!」
一瞬戸惑ったが、彼女が建前で言っているとは思えなかったので、俺は素直にハンカチを返した。
ハンカチで隠れていた視界が、彼女に返す事によって俺の視界が広がっていった。
凛「で、どうしたの?コタロー君」
凛「凛に何か用かにゃ?」
…別に、大事な用なんてなかった。だけど、彼女に伝えたい事はたくさんある。
俺はその為だけに彼女を追いかけたのだから。
訂正
× 彼女に返す事によって俺の視界が広がっていった。
○ 彼女に返す事によってどんどん広がっていく。
俺は、彼女に今の自分の状況を話した。
凛「うん。にこちゃんから聞いてるよ」
凛「いつか言おう言おうと思ってたんだけど、結局言いそびれちゃって…」
どうやらこの人にも上の姉は話していたらしい。
他二人に知れ渡っている時点で薄々と感じてはいたけど、実際に目の辺りにすると悲しいものがあった。
この人だけには、自分の口から言いたかったから。
凛「おめでとう!候補生でも本物のアイドルなんてすごいにゃー!」
凛「もう凛が教えれる事なんて何もないね。…ちょっと寂しいな」
彼女はあははと乾いた声で笑い、髪を触る仕草をしてみせる。
恥ずかしそうにしている表情はとても女性らしく、昔の彼女を彷彿させた。
続けて俺は、彼女に伝えたい事があると言った。
凛「えっ?他に凛に言いたいこと?」
凛「なんだろう?凛には思い当たる節がないんだけど…」
この人が疑問に思うのは当然のことだった。
そもそも俺はこの人と特別な接点があるわけでもなく、周りからみたら「姉の友達と弟」ぐらいの関係でしかない。
たまに遊んでくれたり、面白い話をしてくれたことぐらいはあったけど…
だからこれは俺の単なる思い込みとエゴから来た身勝手な行動だ。
今まで自分が心の奥に閉まっていた想いを、この人が見てきた舞台に立つことができたなら、必ず全て伝えたい。
…そう思って今日まで頑張ってきた。
凛「コタロー君?」
彼女が不思議そうに俺に話しかけてきた。
元々会話をするのは得意では無かった為、いざ言おうとすると緊張して声が上手く出せない。
それでも俺は、
凛「……えっ」
凛「凛の…ファン?」
この人の一番のファンとして、感謝の気持ちを伝えたかった。
鼻垂れ小僧だった俺に、アイドルを目指すきっかけを与えてくれた張本人に…。
ごめん今日ここまで
明日必ず終わらせる。
関係ないけど花陽の兄の話すげー好評で嬉しかったわ。
またこんど似たようなもの書くかも
凛「え…ええええっ~!?」
凛「ほ、本当に…凛のファン、だったの?」
彼女は目を大きく開いてびっくりしていた。
だった、ではなく今でもファン続けてるんだけど…
凛「だ、だって!そんなの凛初めて聞いたよ!」
凛「結構一緒にいたのに…そんな素振り見せなかったし」
凛「い…いきなり言われても信じれないよ!?」
どうやら、俺のポーカーフェイスはこの人にだけは上手く機能していたらしい。
バレていなかったことを喜ぶ半分、少し寂しくも思った。
凛「…い、いつから」
凛「いつから…凛のファンに?」
彼女が探るように問いかけてくる。
どうやらどの時期に自分が好きだったのかを知りたいみたいだ。
凛「…えっ?」
凛「そ、そんなに…早くから?」
正直、正確な日付は覚えていない。
あの時の俺は3歳で、家族以外の人間がじゃがいもか何かにしか見えなかったから。
当時メンバー全員が矢澤家に訪問して顔合わせをした時…
まだ俺はこの人の事を「バックダンサーの一人」程度にしか思っていなかった。
あの騒動のが終わった後、色んなメンバーが家に遊びに来て俺や下の姉の遊び相手になってくれて…。
その時俺とよく遊んでくれたのがこの人だった。
凛「う、うん…あの時の事、凛まだ覚えてるよ」
凛「コタロー君、ずっと凛にピコピコハンマーで叩いてたね…あはは」
…そう言えばそんな事もあった気がする。
あの後この人が怒ってめちゃめちゃに擽られたっけ。
凛「で、でも凛とコタロー君って、そのくらいしか関わってないよね?」
凛「ますます凛のファンだったって事信じられないよ…」
彼女がうんうんと唸っているのを見ると、本当に心当たりがないらしい。
まぁ、この人にとっては気持ちが変わった後だし、心当たりを探すにも無理があるかもしれない。
一呼吸置いて、俺は彼女に全てを告げた。
凛「…えっ?」
…俺の中の彼女が「バックダンサー」から「星空凛」に変わったのは
彼女が制服以外の私服で俺の前に現れた時だった。
凛「…そ、そっか」
凛「あの時は、ちょうど凛が…」
元気で、活発で、取っ付きやすくて…
まるで男のような人だと思い、女しかいない矢澤家にいた俺にとってはこの人と遊ぶことをいつも楽しみにしていた。
そんなある日、彼女がフリルの付いたヒラヒラのスカートを履いて家にやって来た。
上の姉も下の姉もみんなに可愛い、可愛いと言われて彼女がとても嬉しそうにしていたのを今でも憶えている。
そんな中、俺は一人悲しみに打ちひしがれていた。
兄の様な存在の人がいきなり女らしくなり、周りのみんなと見劣りしないくらいに可愛く見える。
もう俺と遊んでくれる彼女はいなくなったんだと知って、自分一人だけ残された気分になりすごく泣きたくなった。
だが、それは俺の勘違いだった。
彼女は女らしくなったにも関わらず、俺と今まで通り遊んでくれたのだ。
一緒に対戦ゲームをしたり、漫画を読んでくれたり、戦いごっこなんかにも付き合ってくれてた。
彼女の外見は驚くほど変わったが、中身は俺の知っている彼女のままだった。
自分が見捨てられていない事を安心して、俺は泣きそうになったが、それ以上にまた遊んでくれる事に対しての嬉しさでいっぱいだった。
俺の中での優先順位は可愛い人より遊んでくれる人だったから。
だから、そんな気持ちの俺にこの人が時々見せる女の子の表情には幾度となく驚かされた。
ゲームで勝って喜ぶ時の笑顔や、本を読んでくれる時の母の様な優しい笑顔…
そのどれもが俺にとって印象的で、俺の中の何かが変わった様な気がした。
…人は、こんなにも綺麗になる事が出来る。
それを知った俺は、彼女が変わるきっかけとなったアイドル活動に興味を持ち、姉たちの会話にも加わるようになった。
そして、俺がアイドルになりたいと思い始めるのは、それからそう長くはかからなかった。
凛「…そう、だったんだ」
そして今、俺はやっとこの人が立っていた舞台に立つことができた。
今の俺があるのは、この人との出会いがあったからなんだ。
俺は改めて彼女と向き合うと、はっきりと聞こえるように声を出した。
「俺に夢を魅せてくれてありがとうございました」
「あなたとの思い出は、俺の一生の宝物にします」
…そう言った後、恥ずかしさで顔が真っ赤になるのが分かって、顔を見られたくない俺は一目散に逃げた。
凛「し、知らなかった…」
凛「凛のファンが、こんなに近くにいたなんて…」
凛「そ、それに…凛を見てアイドルになりたいって思ったなんて…」
凛「うぅぅぅ…!今更ながら凄く恥ずかしいにゃぁぁぁぁぁ…」
…辺りは、既に真っ暗だった。
夏の虫の鳴き声が、俺の足音に合わせて演奏をしている様に聞こえた。
――
…辺りは既に真っ暗で、街灯が至るところで点灯している。
饅頭を買ってそのまま真っ直ぐ帰るつもりだったのに、随分と寄り道をしてしまった気がした。
上の姉から何本か留守電が入っていた。
今どこにいるの?早く帰ってきなさいと、…まるで母親みたいな事を言うんだな。
走り過ぎて疲れた足を再び動かしてゆっくりと帰ることにする。
どうせ今から走って帰っても、こっぴどく説教されるの事に変わりはないから…。
ふと、上を見ると夏の夜空に星が輝いていた。
星座なんてオリオン座と夏の大三角形しか知らないけど、この時期は両方見えるから俺にとっては丁度良い。
…輝きの弱い小さな星の周りに、大きく輝く星が見える。
それはまるでアイドルのライブを楽しんでいる観客の様だった。
虎太郎「…μ's」
不意に何故か、その言葉が浮かび上がった。
星と全く関係ない言葉の筈なのに、どうしてだろうか?
…このご時世、アイドルなんて星の数ほど居る時代だ。
ガキの頃馬鹿にしていたバックダンサーになるのにも尋常じゃない努力が必要なのに、その上の上の世界なんて想像も出来ない。
この真っ暗な空の中に小さく光る星の様に、誰にも気付かれずに消えていったアイドルだって沢山居る事を知ってるし、実際に見たこともあった。
もしかしたら俺も、その一人になってしまうのかもしれない。
デビューも出来ず、バックダンサーとしての役目も全う出来ないまま消えていくのだろうか?
そんな最悪の結末がある事を知っていても、俺は俺の夢を叶えたい。
あの9つの大きく星の様に輝いていた、9人の女神達の様に俺はなりたいんだ。
俺の夢は、バックダンサーで終わるつもりはない。
沢山の観客に俺という存在を刻み付けることが出来るまで、絶対に夢を終わらせてたまるか―
…家に帰ろう。
明日から地獄のような練習が始まる。その為に早く寝ないと。
上の姉から、もう一度電話が掛かってきた。
俺は小さくため息をつきながらも、笑った顔で家に帰るために歩き始めた。
~おわり~
語彙力低くて文才無い奴が地の文を書くとこうなる
虎太郎は中一くらいで脳内変換してください。
読んでくれてありがとう
長い間放置しててごめんなさい。
じゃあの
このSSまとめへのコメント
面白い
もう少し上手く締めろ