北上「駆逐艦マジうざいわあ……」 (132)

雷「ねえ、提督~、そろそろ私も出撃したーい!」

提督「うーん、そのうちね」

雷「そのうちそのうちって、前からそう言ってるじゃない!」

提督「うーん……」

白雪「私もそろそろ実戦を経験しておきたいですね」

電「あ、あの、電もお願いしたいのです……」



北上「……はあ、駆逐艦うざいわあ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405607329

雷「……!」

白雪「……!」

電「……!」

提督「き、北上さん、帰ってたんだ」

北上「うん、今さっきねー」

提督「結果はどうだった?」

北上「上々だよ~」

提督「そっか、良かった」

北上「……提督もさ~」

提督「ん?」

北上「その子達に、はっきり言った方がいいんじゃない?」

提督「……」

電「……あ、あの、北上さん?」

北上「あー?」

白雪「何をおっしゃりたいのでしょう?」

北上「いやだから、アンタらが役に立たないって事をだよ~」

雷「や、役に立たないって……」

北上「鎮守府の資源も無尽蔵じゃないんだからさ」

北上「弱くて役に立たない駆逐艦を出撃させてる余裕はないわけよ」

白雪「それは……確かに、北上さんと比べたらお役に立てないかもしれませんが……」

雷「強くなる為の経験を積むために出撃したいって言ってんのよ」

北上「いやいや、無駄だからそんなの」

電「うぅ……そ、そうでしょうか……」

雷「電!気後れしちゃ駄目だって!」

北上「今はうちらの艦隊もまだ数が少ないけど、そのうち戦艦とか空母とかが入ってくるよね~」

北上「そうなったら、駆逐艦なんてもう戦力に数えられないじゃん」

雷「……」

北上「だったら駆逐艦育てるのは無駄以外の何物でもないよね~」

白雪「そ、そんな言い方は……」

3-2「せやな」
東京急行任務「せやな」

雷「そ、そうよ!それに駆逐艦の中にだって出撃してる子はいるじゃない!」

北上「あれは数が足りないから仕方なくね~」

雷「だったら私達だって!」

北上「あの子等を鍛えて叱って実践積ませて、や~っとマシになったのにさぁ」

北上「まーたあんたらを育てなきゃなーんないと思うと……正直、うざい」

雷「ぐぐっ……」

北上「提督も、判ってるよね~、うちにそんな余裕ないって」

提督「う、うん……」

白雪「提督……」

北上「じゃ、そういう訳だから、あんたらは私達が使う魚雷でも磨いてればいいよ~」

電「……」

北上「じゃ、次の出撃の準備があるから、まったね~」

大井「はぁ……」

北上「ん?どったの大井っち」

大井「いや……北上さん?」

北上「ん~?」

大井「さっきのは流石に言いすぎじゃないかと……」

北上「別に、ほんとの事だし」

大井「……」

北上「ああやって直球で言わないと、判んないでしょあの子達」

北上「お遊び気分なんだから」

大井「北上さん……」

北上「あんな小さな子達でもね、出撃したら沈められる可能性はあるんだよ」

北上「本営発表では『大破進撃でもしない限り轟沈はありえない』ってされてるけど、実際は違うんだし」

北上「大井っちも、見たでしょ?最初にこの艦隊に居た子が無傷で進撃したのに敵戦艦からの一撃受けて沈んじゃったのを」

大井「……はい」

北上「だから、耐久力の劣る駆逐艦達は、前に出るべきじゃないんだって」

大井「……」

北上「せめて、せめて戦艦クラスが艦隊に導入されるまでは、私達が頑張らないと」

大井「そうですね……」

北上「ま、そんな訳だから、これからも駆逐艦には厳しく当たるつもり」

大井「……ふふふ」

北上「ん?何かおかしい?大井っち」

大井「いえ、こんな話を駆逐艦の子達が聞いたらどう思うかなって」クスクス

北上「……言っちゃ駄目だからね?大井っち」

大井「はいはい」ニコ

北上「そういえば、大井っち、次の出撃場所って聞いた?」

大井「あ、はい、何か南西へ進むらしいですよ」

北上「うーん、今の戦力で大丈夫なのかねえ……」

大井「不安ではありますね……何時ものように、小破艦が出たらすぐに撤退する方針で行きましょうか」

北上「んー、提督にもそう言っとく~」

北上「おーい、望月、さっさと起きてー」

望月「んあー、もう出撃~?寝足りないって……」モゾモゾ

北上「愚痴らない愚痴らない、ほい、眼鏡~」

望月「あんがとー……」

北上(望月は、真面目に任務に取り組む事が少ない)

北上(テキトーに攻撃して、あとは逃げに徹してくれる)

北上(積極的に攻撃しないのは困ったものだけど、変に突出する事も少ないから被弾は少ないんだよね)

北上(だから出撃して貰ってるけど……)

望月「んー、眼鏡曇ってる……」ゴシゴシ

北上「ねえ、望月さ」

望月「はいはい、もう起きたってば~」

北上「ほんとに疲れてるなら、今日は休んでおく?」

望月「……」

北上「1回くらいなら、私らだけで何とか出来るしさ」

望月「……なんとかって、私が抜けたら3人しかいないじゃん」

北上「まあ、そうなんだけどね」

望月「だいじょーぶ、判ってますって北上さんの考えは。心配してるんでしょ?私の事」

北上「いやあ、そういう訳じゃ……」

望月「本当に疲れて辛い時はさ、布団にしがみついてでも出撃しないよ、わたしゃ」

望月「だからさ、心配とかしなくていいってば」

北上「……」

望月「ね?」

北上「あはは、望月らしいねえ」クスクス

島風「きたかみ、おっそーい!」

北上「はいはい、ごめんごめん」

島風「もう丸一日待ったよ!」

望月「流石にそんなに待ってないっしょ~」

島風「気分の問題!」

大井「あら、全員揃いましたね」

北上「うん、それじゃ、何時ものヤツやりますか~」

大井望月島風「「「はーい!」」」

北上「弾と燃料かくにーん」

大井「問題ないです」

望月「何時もどおりでーす」

島風「満タンなんだから!」

北上「旗艦は私で、副は大井っちね」

大井「了解です」

北上「被害受けたら即座に報告してね~、無理は禁物で」

大井望月島風「「「了解!」」」


北上「じゃあ、残りの2人にあいさーつ」


大井望月島風「「「いってきまーす!」」」


北上「……行ってくるね、響、暁」

旗艦は私、北上。

副は大井っち。

あとは望月と島風。

残る二人は……出撃ドックに遺影が飾られている。



この6人が、私達第一艦隊だ。

 






その日の作戦は失敗に終わった。


そして、遺影は2つから5つに増えた。




 

北上(あれ、私、夢見てるのかな)

北上(何だか、凄く身体が痛いや)

北上(寝違えちゃったのかな……)

北上(こんなんじゃ、任務に支障をきたしちゃうよね)

北上(しっかりしないと……)

北上(私が、しっかりしないと……)

北上(早く、目を覚まして……出撃の準備を……)

白雪「……」

雷「……」

電「……」

北上(……あれ、この子達、何時からここに)

雷「ねえ、白雪、このひと生きてんの?」

白雪「はい、生きてるみたいですよ、こんな状態でも」

雷「……ふーん」

北上(……何言ってるんだろ、この子達)

北上(ああ、こないだキツい事を言ったから、文句言いに来たのかな)

北上(まあ、文句くらいは聞いて挙げてもいいけどね)

雷「……みんな、死んじゃったのに、この人だけは生きてるんだ」

北上(……?)

電「……」

白雪「……」

雷「凄いよね、ほんと、言うだけの事はあるよ」

電「雷……」

雷「私達の事を弱いって言うだけの事あるよ、流石だよね」

北上(何言ってるんだろ、この子)

雷「だってそうでしょ?生きてるんだもん、1人だけ!」

北上(ひとり、だけ?)

白雪「……どうやって、生き残ったんでしょうね」

雷「さあ?強い人の事なんて、私には判んないよ」

電「……まだ信じられないのです、望月さんや、島風さんや、大井さんが死んでしまったなんて……」

北上(……え?)

北上(大井っち達が、死んだ?)

北上(何言ってるんだろ、この子達)

北上(私への仕返しかな)

北上(それはちょっと趣味が悪いよ)

北上(ここはガツンと言っておかないと)

北上(……)

北上(……)

北上(あれ、どうして私……何もしゃべれないんだろ)

北上(ど、どうして私……)

北上(あ……身体も、動かない、なんで……)

北上(お、起き上がれもしない……)

雷「私だって、あの子達が死んだなんて信じられんないよ……」

白雪「……私、出撃される前の大井さんと少しお話しました……」

雷「……どんなお話したの?」

白雪「普段通りに、行ってきますって」

電「……」

白雪「それと、北上さんの事、怒らないであげてくださいねって……」

雷「……」

白雪「なのに、まさかそれが最後になるなんて……」

雷「……島風や望月も、凄く良い子達だったよ」

白雪「……」

雷「島風はすぐムキになって色々勝負挑んできて……」

雷「望月は目を離すと良くサボって寝てたりして……」

雷「けど夕方にはみんなで集まって笑って一緒にご飯食べてた……」

白雪「……」

雷「明日も、明後日も、ずっとそんな時間が続くと思ってたのに……どうして、こんな……」

電「……」

雷「……この人が、死んじゃえば良かったのに」

電「雷、それは……」

雷「……」

電「……そんなこと、言っちゃだめなのです……」

雷「……判ってる、判ってるよそんな事……」

電「……北上さんだって、もう歩く事も出来ないのですし……責めては可愛そうなのです……」

雷「判ってるってばそんな事!これが八つ当たりだってことくらい、判ってる!」

電「雷……」

雷「けど、けど、やっぱり納得できないよ……!悔しいし、悲しいし、気持ちに整理なんてつかない!」タッ

電「雷!」

白雪「……電さん、追いかけてあげてください」

電「で、でも……」チラッ

白雪「電さんは、北上さんの代わりに旗艦になったのでしょう?」

電「!」ハッ

白雪「なら、雷さんを支えてあげないといけません」

電「は、はいなのです」

白雪「さ、北上さんは私が見ておいてあげますから」

電「白雪さん、ありがとうなのです!」タッタッタッ




白雪「……」

北上(私が、もう歩く事も出来ない?)

北上(私の代わりに、電が旗艦に?)

北上(な、なにがあったの……)

北上(なんで、なんでそんなことに……)


白雪「北上さん?目が覚めておられますよね」

北上(……!)


白雪「きっと、混乱されてるのでしょうね」

白雪「身体は動かないでしょうし」

白雪「もしかしたら、しゃべる事も出来ないのでしょうか」

白雪「……ふふふ」

北上(白雪……?)

白雪「北上さん、可愛そう、凄く可愛そうです」

白雪「可哀想ですから、私が北上さんの混乱を解消してあげますね?」

北上(……)

白雪「北上さん達、第一艦隊はね……」

白雪「あの日の出撃で」

白雪「全滅しちゃったんです」

北上(……!)

白雪「私も直接見た訳ではありませんが、酷い戦況だったらしいですね?」

北上(ぜん……めつ……)

北上(そ、そうだ、思い出した……)

北上(私はあの時……)

北上(あの時……)

北上(敵に奇襲されて撤退する間もなく島風が沈んで……)

北上(大井っちが孤立して助けられなくて……)

北上(何とか望月だけでも助けようとしたけど……)

北上(結局、あの子も……)

北上(あの子達全員……)

北上(沈んじゃったんだ……)


白雪「北上さんはね、鎮守府近くの島に流れ着いてたんです」

白雪「本当に、運が良かったのでしょうね」


北上(……違う)

北上(最後のあの時、望月が囮に、なってくれたから……)

北上(だから、私は……生き残っちゃったんだ……)

白雪「北上さん達が全滅した後、提督は凄く落ち込んでたんですよ」

北上(……)

白雪「それをね、皆で励ましたんです」

白雪「今度はきっと大丈夫ですよって、リベンジしましょうって」

北上(今度……は……?)

白雪「そうしたら、提督も納得してくれて……私達三人で第一艦隊編成していいって言って貰えました」

北上(……さんにん?)

白雪「私と電さん、それに雷さんの三人です」

北上(……)

白雪「話し合いで、電さんを旗艦にするって決めました」

白雪「それで、北上さん達が負けちゃった海域に再度挑みます」

北上(……駆逐艦、三人で?)

北上(……あのじごくに?)

北上(ま、まって、まってよ)

白雪「私達三人でも、慎重に行けば突破できます」

北上(ムリ、むりだよそんなの……)

白雪「きっと北上さん達は大破してるのに欲を出して進撃したんですよね?」

北上(ち、違う、違うっ)

白雪「私達はそんな無茶はしませんから」

北上(白雪、だめ!)

白雪「提督だって、きっと出来るだろうって」

北上(提督と、提督と話をさせて、白雪!)

白雪「悔しいですか?北上さん、けど北上さんが悪いんですよ」

北上(お願い、白雪、気づいて……)

白雪「失敗してしまった北上さんが悪いんです」

北上(白雪……!)

白雪「……ああ、それともう一つ……」

白雪「実は、北上さんが生きてたって事をまだ提督に報告してないんです」

北上(……!)

白雪「私達が訓練中に偶然発見しただけですしね……一応、鎮守府に運び込んで寝かせてはありますが」

白雪「提督はまだ『第一艦隊全滅』の報告しか知らないんです」

北上(し、白雪……?)

白雪「ですから、提督がお見舞いに来てくれる事は無いんですよ」クスッ

北上(……)ゾクッ

白雪「ふ、ふふふ……」

白雪「……冗談ですよ、北上さん、ちゃんと提督には報告します」

北上(……)ホッ

白雪「……私達、新第一艦隊が最初の出撃から戻ってからですけどね」

北上(!?)

白雪「これは、ちょっとした嫌がらせです……」

白雪「北上さんだって、酷い事沢山言ったんですから、これくらいの仕返しはしてもいいですよね?」

北上(ま、まって、白雪、それじゃ遅すぎるよ……)

白雪「大丈夫です、夕食までには戻りますから、ほんの1日ほどです」

北上(まって、まってってば!)

白雪「そろそろ、雷達も落ち着いている頃でしょうし……もう行きますね」

北上(白雪!)

白雪「それでは北上さん……またです」

北上(白雪!!)

提督「出撃準備はできた?」

電「はいなのです!」

提督「けど、本当に大丈夫かな……」

雷「大丈夫よ!私がついてるんだから!」

白雪「心配はいりません、決して無茶はしませんから」

提督「そ、そっか……なら大丈夫だよね」

電「そ、それでは、だいいち艦隊!しゅ、出撃します!」


雷白雪「「おーー!」」


提督「気をつけてね、ほんとに」

 



数時間後、電達が全滅したとの報告が鎮守府にもたらされた




 

~翌日~


提督「はぁ……残ったのは私一人か……」

提督「資材ももう尽きちゃったし……」

提督「やっぱり、私には提督としての才能ないのかなあ……」

提督「軍で活躍して地位と名誉を得ようと息巻いて田舎から出てきたけど……」

提督「向いてないのかも……」

提督「……」

提督「……提督辞任するか」

提督「そうだよね、無理して海軍で働く必要もないんだし」

提督「そうしよっと……」

提督「えーと、申告書はこれか……」

提督「本日を持ちまして職を辞する決意を……と」

提督「所属艦娘は0人、資材も無し……全滅しちゃったからこの辺の記載は楽でいいよね……」

提督「さて、あとは私物を纏めて本営にコレ届けて」

提督「挨拶する人もいないから、そのまま田舎に帰ろうっと」

北上(照明はもうずっと前に消えたまま、真っ暗だ)

北上(声も出せない)

北上(身体も動かせない)

北上(何でこんな事に……)

北上(何で……)

北上(……)

北上(……)

北上(いや、本当は判ってるんだ)

北上(きっと、これは罰があたったんだよ)

北上(皆を守れなかった罰が)

北上(駆逐艦の子達に酷い事を言った罰が)

北上(だから、だから私はこんな目にあってるんだ)

北上(きっとそうだ)

北上(けど、けど)

北上(もしかしたら、まだ間に合うのかもしれない)

北上(もしかしたら、電も雷も白雪もまだ生き残ってるかもしれない)

北上(だったら、だったら私が行ってあげないと)

北上(今度こそ、皆を守ってあげないと……)

北上(何とか、何とか身体を……)

北上(動け、動いて……)ズルッ

北上(ああ、良かった、動いた、少しなら……這いずる程度なら……)ズルズルッ


ゴトンッ


北上(痛いっ……)

北上(はぁ……はぁ……けど何とか、ベッドから落ちれた……)

北上(待ってて、待っててね、今行くから……)ズルズルッ

北上(扉が、邪魔……)

北上(手が使えないのに、どうしたら……)

北上(……いや、悩んでる暇はない、手が使えないなら、頭で……)ゴンッ

北上(痛い……痛いよ……けど、けどこれは罰なんだから、痛くても仕方が無い)ゴンッ

北上(開け、開け、開け、開け)ゴンッゴンッゴンッ

北上(ああ、血が目に入る……けど、気にして何かいられない……)ゴンッゴンッゴンッ

北上(あの子達を、助けないと、今度こそ、今度こそ)ゴンッゴンッゴンッ


ゴンッゴンッゴンッゴンッ


 

北上(ああ、やっと開いた、扉が開いた)

北上(あれからどれくらいたっんただろう)

北上(どれくらい頭ぶつけてたんだろう)

北上(頭が痛くて、身体中が痛くて、前ももうあんまり見えないけど)

北上(行かなくちゃ……)

北上(行かなくちゃ、行かなくちゃ、行かなくちゃ)ズルズル



ズルズルズル


北上(……あれ、何処に、行くんだっけ、わたし)ズルズルッ


ズルズルズルッ


北上(そうだ、駆逐艦のコ達を、オいかけるんだ……)ズルズルッ

北上(オいかけて、トめないと……)ズルズルッ


ズルズルズルズルッ


北上(けどドコに、何処に行けば……)ズルズルッ

北上(クチクカンはいるのかなぁ……)ズルズルッ

北上(というか、ここは、ドコだっけ……)ズルズルズルッ

北上(ドコだっていいか……)ズルズルッ

北上(はやく、クチクカンを、見つけて、あげなイト)ズルズルッ

~数ヵ月後~


阿武隈「はぁー……何で私が使われなくなった鎮守府の巡回なんてしなくちゃなんないんだろ……」

潮「まあまあ、阿武隈ちゃん、誰かがやらないといけない仕事ですしっ」

阿武隈「まあそうなんだけどね……」

潮「け、けど、なんだか人がいない鎮守府って気味が悪いですよね……」

阿武隈「うん、ここには何か怖い噂もあるしね……」

潮「こ、怖い噂?」

阿武隈「……何か、ここの近くの海で野戦訓練してた駆逐艦の子が、誰かに追いかけられたらしいのよ」

潮「誰か……深海棲艦ですか?」

阿武隈「ううん、味方の識別信号が出てたらしいの」

潮「え、じゃあ誰かの悪戯……?」

阿武隈「それがね……信号を調べてみたらもうとっくに沈没してる艦の識別番号だったらしいの」

潮「……!」

阿武隈「だからね、幽霊艦なんじゃないかって噂が……」

潮「ひゃあぁぁぁっ!や、やめてください阿武隈ちゃんっ!」

阿武隈「も、もうも潮叫ばないで、怖いから」

潮「あ、阿武隈ちゃんがそんな話するからですっ」

阿武隈「大丈夫よ、だってココは一応陸の上だもん、海の幽霊はきっと出ないのっ!」

潮「そ、それならいいんですが……」

阿武隈「まあ、けど怖いのは確かだから、パパッと巡回終わらせて帰ろっ!」

潮「は、はいっ!」


ズルッ


阿武隈「……!」

潮「ど、どうかしたんですか?阿武隈ちゃん」

阿武隈「い、いや、いま何か……物音がしたような」

潮「え……」

阿武隈「潮は何か聞かなかった?」

潮「い、いえ、私は何も……」

阿武隈「そっか……」

潮「き、気のせいでは……?」

阿武隈「……潮は、ここで待ってて、一応確認してくるから」

潮「え……ひ、1人で行くのですか?」

阿武隈「大丈夫、きっと気のせいだと思うから」

潮「は、はい……お気をつけて……」

阿武隈(確か、こっちの通路から……)

阿武隈(けど、あれは何の音だったんだろ)

阿武隈(何かを引きずるような音だったけど)

阿武隈(ま、まさか噂の……)

阿武隈(……)

阿武隈(帰りたい帰りたい帰りたい)ブルッ

阿武隈(け、けど潮もいるし、怖がってる素振りなんか見せたら格好悪いし……)

阿武隈(よし、パパーッと確認だけして、何も無かったって事で帰ろうっと!)

阿武隈(えっと、ここの曲がり角の辺りから……)


ガッ


阿武隈「え……」

バタンッ


阿武隈「い、いたたたっ……な、何かに躓いて転んだ?」

阿武隈(い、いや、今のは何かに躓いたというより……何かに足を掴まれた?)

阿武隈「……」ドキドキ


パッ


阿武隈「……な、なんだ、誰もいないよね」

阿武隈「やっぱり躓いただけか……けど、何に?」

阿武隈「う、ううー、転んだ拍子に打った頭が痛い……」

阿武隈「絶対髪型も乱れてるよコレ……」



ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!



阿武隈「……!」

阿武隈「こ、この声は、潮……!」

阿武隈「潮!何かあったの!?」タッタッタッ

潮「……」

阿武隈「ど、どうしたの潮、座り込んで」

潮「……」

阿武隈「お、おーいっ!」

潮「……あぶくま、ちゃん」

阿武隈「な、なに?」

潮「あ、あれ……」

阿武隈「あれ?」クルッ



その時、阿武隈は見た

長い黒髪を振り乱しながら

ミノムシのようにズルズルと這いずり

こちらに向かってくるモノを

阿武隈「ひっ……!」


阿武隈から漏れた悲鳴に反応して、そのモノは動きを止めた。

顔を上げ、まるで耳を澄ますかのような仕草を取る。

その目は乾いた血で堅く閉ざされていた。


阿武隈(そ、そうか、コレは……目が見えないんだ……)

潮「ひ、ひい……」

阿武隈(潮、駄目っ)


悲鳴を漏らしそうになる潮の口を咄嗟に塞ぐ。

しばらくすると、そのモノは再びズルズルと這いずりはじめた。

ゆっくりと、阿武隈達の横を通り過ぎる。

その時、阿武隈は、聞いてしまった。

そのモノの声を、聞いてしまった。

くちくかん、どこへいったのかな

みつからないな、くちくかん

わたしがこんなにさがしてるのに

どうしてみつからないのかな

かくれてるのかな

にげてるのかな

こんなにしんぱいしてるのに

うざいなあ

くちくかん

こんどみつけたら

ぜったいににがさない

てあしをもいで

にがさない

くちくかん

くちくかん

どこにいったのかなあ

阿武隈(こ、こわいこわいこわいっ!どっか行けどっか行けどっか行けっ!)ブルブルッ

潮「……」

阿武隈(お、お願い、早く通り過ぎてっ!)ブルブルッ


ズルズルズルッ


ズルズルッ


ズルッ



阿武隈「……」

潮「……」

ズルッ……

……ズルッ



阿武隈(よ、良かった、通り過ぎてどっか行っちゃった……)

阿武隈(い、今のうちにっ)ハァハァ

阿武隈「う、潮っ!逃げようっ!」ハァハァ

潮「……」

阿武隈「潮?」ハァハァ

潮「……」

阿武隈「も、もう、気絶してる場合じゃないって……」ハァハァ

阿武隈「は、早く起き……」ハァハァ


ハァハァ


阿武隈(……?)


ハァハァ


阿武隈(あ、あれ、この吐息の音……私じゃ……無い?)


ハァハァ

阿武隈(……う、後ろから、吐息の音が)

阿武隈(だ、誰の吐息なんだろ、潮は前で気絶してるし)

阿武隈(誰の……)


ハァハァ


阿武隈(……だ、誰のって……)

阿武隈(そんなの、そんなの決まってるよね……)

阿武隈(……)

阿武隈(……)



阿武隈が、ゆっくりと振り返ると……

そこには……

そこには……

  






北上「何と北上さんがいたんですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」





 

北上「という話をね、聞いた事があるよ」

阿武隈「あわわわわわわ」

電「がくがくがくがく」

望月「いやあ、怖い話だったねえ……」

望月「けど、それアレだよね、阿武隈は見つかっても駆逐艦じゃないから別に何もされない的な?」

北上「だと思うよ~」

阿武隈「き、北上さん!最後に大きな声出して脅かすの反則ですって!」ブルブル

北上「ふっふっふー、北上はセオリーを守る女」

電「がくがくがくがくがく」

望月「もー、電も落ち着きなって、ただの怪談なんだから」

電「け、けど、けど、電は駆逐艦なのです、み、見つかったら手足をっ……」ガクガク

望月「だから、見つからないって、ただの噂話なんだし」

北上「そうそう、この広い海の中にそんな鎮守府があったのかも~って話だよ~」

電「そ、それそうなのですが……」ガクガク

北上「という訳で、私の話は終わったし蝋燭消すね」フーッ

望月「いやあ、百物語は楽しいねえ」

北上「うんうん、主に阿武隈と電の反応がね~」

電「ううっ……」

阿武隈「くっ///」

北上「今回初参加の大井っちはどうだった?面白かった?」

大井「……」

北上「大井っち?」

大井「……」ヒック

北上「へ?」

望月「え?」

電「大井さん……?」

阿武隈「も、もしかして……」

大井「うっ、ううっ、うぇぇっ」グスッ

北上「お、大井っち泣いちゃったの!?」

大井「だ、だって、き、きたかっ、きたかみさっ、こ、こんなのっ」ヒックヒック

北上「ご、ごめんよぅ大井っち、怖かったの?」ナデナデ

大井「ひ、ひどいっ、き、きたかみさっ……」グスッ

北上「ごめんね、大井っちが怪談に弱いなんて知らなくて……」ナデナデ

大井「ち、ちがっ、き、きたかみさんがっ」ヒックヒック

北上「え?私がどうかしたの?」

大井「き、きたかみさんが、かわいそうでっ」グスッ

北上「え?」

大井「きたかみさん、あんなの酷い、きたかみさんがんばったのに、がんばってたのにっ」ヒック

北上「お、大井っち落ち着いて」

大井「あんな目にあうなんてっ、ぐすっ、あ、あんまりですっ、かわいそうでっ、もうっ」ヒック

北上「た、ただの怪談だし、ね?」

大井「うわああああんっ!」ビー

北上「あー、もー、大井っちはしょうがないなあ……」ナデナデナデ

望月「あー、こりゃあ今日はお開きかなあ」

電「なのです」

阿武隈「……」ブー

望月「阿武隈、何か拗ねてる~?」

阿武隈「え、べ、別に」

望月「まあ、また次の機会があるって~」

阿武隈「は、はあ」



大井「うう、ひっくひっく」

北上「よしよし~、今度間宮のようかん奢ったげるね」ナデナデ


阿武隈「……」

阿武隈「……いいなあ」ボソッ

阿武隈「……」

阿武隈「///」ポッ

阿武隈「い、いや、ようかんの事よ///」

阿武隈「ああ、もう私一人で何言ってんだろ///」ジタバタ

~阿武隈の部屋~


阿武隈「はー、なんか疲れたー……」ゴローン

阿武隈「ふー……」

阿武隈(今日は、部屋まで送ってくれなかったなあ、北上さん)

阿武隈(……まあ、大井さんがあんな状態じゃ仕方ないよね……)

阿武隈(というか、北上さんにそんな義務はないわけだし)

阿武隈(私も別に送って貰いたいとかは……)

阿武隈(思わないし……)

阿武隈(むう、眠い……)

阿武隈(もう寝ちゃおう……)

阿武隈(……けど)

阿武隈(やっぱり、大井さんは……ずるい……なあ……)

阿武隈「……」zzz





おわりん

関連SS

北上「艦これ百物語?」 電「なのです!」
大井「北上さんのベットの中にいるのは……誰?」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年06月25日 (木) 22:58:07   ID: EGr7foE9

地味に怖いね(´・_・`)

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