提督「貴女達を置いて――」 (55)

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*艦これSS
*フロム脳患者
*需要かあれば続くかも
*遅筆






 ――少し昔の話から始めよう

 それはある男の物語

 と言っても、本題に差支えがない程度に

 そもそも全ての事柄を書き記すことは不可能である

 何処を書き何処を省くか

 その取捨は簡単なようで難しい

 ここでは敢えてバッサリと語るとしよう

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405276460

 その男はかつて神童と呼ばれていた

 彼が指揮する艦隊は連戦連勝。支援に要請すれば百人力

 事の全てが彼の手柄である……と言えば嘘になるが、彼の腕は本物だった

 しかしある日を境に噂は収束し、限りなく0に近づいた

 何故その噂を知っているのかは割愛しよう

 それは切るべき話である

 話を戻そう

 とりあえずこの段階で語れることは一つだけ

 その男はかつて神童と呼ばれていた、という事だけである
 


 そしてこれはある提督の物語であり、彼女の物語だ

「これで終わり、ね」

「お疲れ司令官!」

「ええ、お疲れ」

 そう言うと提督は雷を膝に抱え、その頭を優しく撫ではじめる。

 雷に嫌がる様子は微塵もなく、むしろ気持ちがいいのか目を細めて体を彼女に預けている。

「艦隊帰投しました、提督」

 タイミング良く帰ってきた飛龍を見て、提督は柔らかな笑みを浮かべる。

 そして雷を撫でる手はそのままに、彼女は口を開いた。

「お疲れ飛龍。それであの子達はどう?」

 そう問われ、飛龍は愛想笑を浮かべながら答える。

 そう問われ、飛龍は愛想笑を浮かべながら答える。

「頑張ってはいるんだけどね。なかなか壁を超えられないみたい」

 どうしたものかと彼女は内心で呟くが、いい答えが見つからなかった。

 彼女達の練度の向上は必要急務である。

 深海棲艦との戦いは苦戦を強いられている。

 現状ではまだ優位に立っているが、徐々に押され始めている。

 深海棲艦の突然変異種に分類される鬼級と姫級。

 そして戦艦レ級、潜水ソ級……これからも脅威は増えるだろうと推測されている。

 どちらにせよ、艦隊決戦の切り札である大和型。

 それを切らざるを得なくなったのが現状である。

 最前線を目指す彼女にとって色々と忌々しき事態だ。

「仕方ない」

 彼女はそう呟くと机の隅に置いていた携帯電話を手に取る。

 慣れた手つきでアプリを起動すると、ある男にリプライを送る。

 "提督、突然ですいませんが演習を頼めますか?"

 そしてすぐに彼から返事が返ってきた。

 "構わないよ。誰を向かわせればいい?"

 彼女は笑みを浮かべつつ返信を送る。

 "翔鶴と瑞鶴、装備はお任せします。全力で叩き潰すつもりでお願いします"

 その後、彼女は彼からの了承を旨を見てから飛龍に向き直る。

「二人を連れて来てもらってもいいかしら?」

「わかった。翔鶴と瑞鶴を連れて来ればいいのね」

 二つ返事で退出する彼女を見つつ、携帯を元の場所に置くと雷が口を開く。

「司令官、またあの人に頼んだの?」

 雷は彼女の膝の上から、背中を預けた状態で彼女を見上げる。

 彼と関わりを持つ事を雷は快く思っていない。

 その感情は嫌悪――という類ではない。

 自分達の在り方と彼女を照らし合わせた結果、不安に思ってしまう。

 彼女が居なくなってしまうのではないのか、と。

 現に雷は不安そうな表情で彼女を見つめ、幾度となく聞いた彼女の言葉を待っている。

「心配無用よ。私は彼の鎮守府所属一航戦加賀ではなく、この鎮守府を任せれた一人の提督」

「貴女達を置いてどこにも行かないわ」

需要があれば云々

おうはよはよ

続けて

良いぞ

はよ

――加賀提督執務室――

「向こうの鎮守府は平和そうね」

 加賀は携帯の画面を、元同僚たちのツイートを見ながら愚痴を漏らす。

 そしてその場にいた少女がその小さな呟きを拾う。

「お言葉ですが司令、全体から見た貢献度ではあちらの方がだいぶ上かと」

「そうね不知火」

 加賀はそれを短く肯定する。

 だいぶ、ね――加賀は内心で呟く。

 実際は彼女の鎮守府と彼の鎮守府では天と地ほど差が開いている。

 累計の戦果も、味方への支援の数も、艦隊全体の練度も、何を取っても劣っている。

「何と表現するべきか――そう、余裕があるというのは羨ましいってところかしら」

「勝たなければいけない。成功させなくてはいけない」

「そういう『~しなくてはいけない』という強迫観念が一番恐ろしいものよ。だからそういう余裕があるのは羨ましい限りだわ」

「……同意します」

 不知火は目を閉じ、考え、ゆっくりと答えた。

 彼女にもそういう経験があるのだろう。

 そしてそれは勿論――元は艦娘であった彼女にも。

「ねえ――貴女の目から見て今の五航戦をどう思う?」

「それは強迫観念に駆られていないか――ということでしょうか?」

 加賀は無言で頷く。

 珍しい――彼女の表情を見て不知火は思った。

 司令があの人達を心配するなど――と。

「問題ないかと。二航戦の方がフォローしていましたので」

「そう」

 彼女はそっと胸を撫で下ろす。

 疑問を持った不知火が初めて彼女に問いを投げる。

「……何故彼女達に厳しく当たるのですか?」

 その問いを聞いて彼女は少し困ったように人差し指で頬を掻く。

「私が鞭で、二人が飴。そっちの方が上手く回るのよ」

「それは経験上からの――いえ、分を超えた発言失礼しました」

「気にしないでいいわ。本当の――」

 そこで言葉を切ると彼女は不意に笑みを浮かべる

「そういうのも面白いかもね」

 その発言に不知火だけでなく、部屋の隅で手伝いをしていた雷も怪訝な表情を浮かべ、彼女を見る。

 そして加賀は口を開いた。

「ブレインストーミングをやりましょうか」

「皆さんお集まり頂きありがとうございます」

 不知火が口を開きそう言うと、食堂に集まった艦娘達が口を閉ざし静かになった。

 その食堂の隅で提督、間宮、明石、妖精さんと数多くの人が集まっていた。

 その中に、五航戦の姿は見えない。

「司令の指名より、不知火が司会を務めさせてもらいます」

「それではさっそくブレインストーミング、ブレストについての説明に入りたいと思います」

「それでは雷さんよろしくお願いします」

 雷が不知火の隣に立つと、食堂の一角から頑張れと声援が送られる。

 雷は頬を僅かに赤く染めながら不知火からマイクを受け取り、口を開いた。

 ブレストの安価説明
お題:『空母隊に不足している「練度」をどう補うか』
次の本番のための練習なのでレス番号+3~5ぐらいまでを対象とする↓


駆逐「倒れるまでキス島を周回するのです」●ワ●
軽巡「倒れるまでキス島を周回するのです」●ワ●
軽空母「倒れるまでキス島を周回するのです」●ワ●
空母「倒れるまでキス島を周回するのです」●ワ●
戦艦「倒れるまでキス島を周回するのです」●ワ●

各艦種の子の名前指定を指定してください。もちろん潜水艦など例にない艦種も可
ただし加賀の鎮守府は今3-2キス島 4-3リランカまでは攻略済みとする

ブレストなのでつまらないアイディア、乱暴なアイディア、見当違いなアイディア何でもあり
ちなみに本番は『加賀提督をどうやって「瑞鶴」にデレさせるか』なので適当に昇華してくださると助かる

説明がアレでこれで伝わるかどうかアレ

せやな。まあそうなるよな
内容自分で考えるからしばらくお待ちください

説明がいまいちわからんのだけど、
+3~5くらいの範囲に出てきた案をコネコネして実行しようか考えましょう的なこと?

解ってたけど説明とか苦手なんだよなぁ
別サイトからパク……綿密に参考にしたりすればいい気がしてきた。
とりあえずもう少しお待ちを

安価スレでたまにあるミキサー系の安価か

 各艦娘に配られたメモを集めると不知火がその内容に目を通していく。

 全員の視線を集めながら不知火は白紙のメモを除外し、口を開いた。

「それでは一つ目の案を見てみましょうか」

 不知火は一枚のメモを手に取るとそれを読みあげる。

「空母隊が倒れるまでキス島沖を周回するのです●ワ●」

 "なのです"という独特な語尾とその内容から全艦娘の視線が電に集まる。

 当の本人は一瞬唖然とするも、直ぐに状況を理解し、かぶりを振った。

「と、まあこれは漣さんの意見ですが」

 不知火が電をフォローすると、今度は漣に視線が集まった。

 そして彼女は口に出すことなく身振りで答える。

 テヘペロッ☆

 漣の隣に座る曙がその頭に拳を落とす。

 頭を叩く軽い音が食堂に響いた。

「さて、それでは説明よろしいですか?」

「いやまぁ倒れるまでってのは言葉の綾だけど、補うじゃなくて上げる方向性もありじゃないかなって」

「Yes! その意見に賛成ネ!」

「……金剛さんの意見もいってみますか?」

「Ok! ずばりOne for All,All for Oneネ! 提督はDo u think?」

 そう言って金剛は手のひらを返して五本の指を使って加賀を指さした。

 金剛の表情は何かしらの意図があることを物語っている。

「……そこで何故私に振られるのかしら」

 意図が読めぬ彼女はそう前置きを置き、金剛の言葉を待った。

 そして金剛の代わりに霧島が答える。

「提督、先程の言葉の意味がわかりますか?」

 加賀はふと残り二人――比叡と榛名を見るが、彼女達も同じだった。

 彼女ら姉妹が何を言いたいのか、未だに理解できない加賀はぶっきらぼうに答える。

「一人はみんなの為に、みんなは一人の為にかしら」

「No違いマース」

 金剛は頭を振りその先の言葉を紡ぐ。

「本来最後のワンはOneじゃなくてWonネ! つまりVictory」

「一人はみんなの為に、みんなは勝利の為に――ネ」

「なるほど……そういうことね」

 ようやく意図を理解した加賀は帽子を深くかぶり直す。

 つまり彼女達は加賀を責めているのだ。

 なぜ五航戦に負け戦を挑ませたのか――と。

 なぜ提督自身が和を乱したのか――と。

「確かに……そうね。ええ、反省するわ」

 艦娘が艦隊の一員であるように、提督もまた一員である。

 理解していたつもりだったのだけど――加賀はかぶりを振る。

 元を辿れば提督である以前に彼女も艦娘である。

 実戦経験に至っては食堂にいる誰よりも勝っている。

 そんな基本的な事を忘れるほど、切羽詰っていたことに加賀は憔悴する。

 そしてそんな自分の未熟さに深いため息を漏らした。

「オ、Oh提督――そこまで落ち込まなくても、初心は大事ってだけネ」

 金剛は少し慌てながら落ち込む加賀に声をかける。

 彼女達にも加賀を注意する意図はあったが、思っていた以上に動揺しており彼女達も焦っているようだ。

 そんな彼女たちを落ち着けるために加賀は口を開いた。

「……わかってる。これからは肝に銘じておくわ」

「ま、まぁ私が言いたいのは伝わったはずネ! One for All,All for one!」

「でも具体的なアイディアはNothingだから誰かIdeaよろしくネ」

 金剛がそう言って誰となくウィンクを送ると、一人の艦娘が席を立ち勢いよく言い放った。

「はい! 夜戦!」

 不知火は無言で一枚のメモ――川内が書いた案を口にする。

「……川内さんの案は"やっぱり不足を補うには夜戦だよね! 夜戦!"です」

 その意見を聞いて率直に彼女らしいな、と加賀は微笑む。

 彼女の意見が彼女らしい故に僅かであるが加賀に余裕が生まれ、

 彼女の意見が暴論であるからこそ、この場では素晴らしい。

「詳しい説明よろしいですか?」

 説明を求める不知火に川内は少し放心した様子で答える。

「……え、これ以上の説明あるの?」

 その一言に不知火は頭を抱え、他の艦娘達――川内の姉妹を含めて皆愛想笑を浮かべる。

 ――約一名を除いては。

「私はその意見アリだと思いますよ」

「飛龍さん!」

 川内は嬉しさの余りに彼女の手首を掴んで上目づかいですり寄る。

「し、不知火さん。私の案もいいかしら?」

 飛龍は川内の対応に少し困り、不知火に話を振った。

 彼女は改修したメモから飛龍の書いたメモを開くとそこに書いてある内容を読み上げる。

「"空母を防空のみに特化する"ですね」

「まぁ私のも説明しようとしたらそのまんまなんだけどね」

 彼女は川内に手を離してもらうように小声で伝えると、

 川内も小さな声でごめんねと謝り手を離し彼女から少し距離を置いた。

 そして彼女は詳細について話始める。

 それを簡潔に述べるなら攻撃隊を防空に回すことで艦載機の練度不足を補うというものだ。

 そこで不足する火力を夜戦に特化することでどうにか補えるのでは、というものだ。

 彼女は敢えて口にしなかったが、二航戦の面々の練度は高水準を保っている。

 つまりこれは、主に五航戦についての話である。

 その意見を聞いて、更に挙手をする者が一人。

「そらなら私達の水上機も役に立てないか?」

 日向がそう切り出した時、ブレインストーミングを知るが故に加賀は口の端を僅かに歪める。

 ブレインストーミングにおいてはよくあるアイディアの誘発。

 アイディアがアイディアを呼び、結果画期的なアイディアが生まれるものである。

 あらかた意見も言いつくし、加賀が締めくくりの為に不知火からマイクを受け取る。

 途中から話しの脱線等があったが、参加したほとんどの子が和気藹々としていたため成功と言ってもいい。

 加賀にとっては本来息抜きでしかなかったのだから。

「さて、今日は突然にも関わらず集まってくれてありがとう」

「今日決まったことはまず演習で試し、それから判断するわ」

「実戦で試すならおそらく一ヶ月か二か月後」

「それまでは各艦娘の練度の向上を最優先とするわ」

「助けられあいではなく助け合い。"提督"と"艦娘"一丸となって艦隊に勝利を」

 加賀がそう締めくくり食堂を後にすると、辺りは解散するムードとなった。

 しかし、不知火はそこで再び口を開いた。

「皆さんにお話があります」

 中には既に食堂を離れた子もいたが、秘書官である雷を除き、再び食堂に集まることになった。

「もう一度、ブレインストーミングをしませんか?」

 彼女はそう切り出すと、単刀直入に議題を提示する。

 加賀に指示されたのと違う、別の議題を。

 どうすれば提督が瑞鶴にデレさせることができるのか――と。

――加賀提督執務室


 執務室に戻り、椅子に座ると彼女の携帯に一通のメッセージが届いていた。

 宛先の名前を確信し、内容に目を通すと彼女は携帯を閉じて溜息を洩らす。

 そのメッセージは彼女の上官であり、元司令官に当たる彼の名前が表示されていた。

「やっぱり勘違いじゃないようね」

 そう呟くと執務室に戻っていた雷が首を傾げる。

「司令官、どうしたの?」

「なんでもないわ」

 雷の問いにそう答えると、加賀は携帯を机の上に置いて窓の外に写る海を睨む。

 既に日没後で、外に写る水平線は暗闇が支配をしている。

 そんな水平線の彼方から訪れようとしているナニカの気配を加賀はただ見つめるのだった。

10スレ分しか書いてないのにかなり疲れた。
他の人はもっとペース早いとかマジなんなの?
オリョクルさせてくるわ……

10レスを10スレと間違えるとかマジなんなの?
キスクルさせてこよ……

あく10スレ分投下しろよ(追い討ち)

>>35
もう一杯(一杯)でち

おうでち公次の投下あくしろよ

――二か月前、赤城提督執務室

「――これはどういう事かしら」

 叢雲は冷ややかな目線で提督を見つめる。

 当の彼女は叢雲から必死に視線を逸らしており、その額には薄らと汗が滲んでいる。

「いちを聞いてみるけど、大型建造の最低資材量は?」

 そう問われるも彼女は頑なに答えようとしない。

 彼女の犯行であると既にばれており、状況と証拠の全てが揃っている。

 故にこれは正確に言うと"問い"ではなく"尋問"であった。

「燃料一五〇〇、弾薬一五〇〇、鋼材二〇〇〇、ボーキサイト一〇〇〇。それが最低の量ね」

「でも報告書にはボーキサイトが一五〇〇となっている。工廠の記録では一〇〇〇となっているのにね」

「……」

 彼女の額に汗が一筋流れ落ちる。

 なんでこの提督の秘書官をやっているのかしら――叢雲は冷静にそう思いながら口を開く。

「しかも一回だけの犯行じゃないわね。二、三、四……合計九回かしら」

「まあ結果が良かったからこれ以上の言及はしないつもりだけど、ボーキ四五〇〇はどこに消えたのかしら。提督はどう思う?」

「さ、さあ。わかりかねますね」

 そう苦し紛れに答える彼女に叢雲は溜息をついた。

「……そういうことにしてあげるけど、次はないから」

 叢雲は身を翻すと執務室を後にしようとする。

「この件で損失した分、なんとかしないさいよ」

 そう言ってドアを締めた叢雲は大きなため息と一緒にドアに寄りかかる。

 もう少しなんとかならないかしら――そう考えると叢雲はもう一つ溜息をもらした。

――赤城提督執務室

「……やりすぎよ」

 叢雲は鎮守府に貯蓄されている資材の報告書を見てそう呟いた。

 二か月前と比べると、ボーキサイトの貯蓄は200倍。

 数字にして現すと二〇〇〇〇〇を超えている。

「……」

「提督……?」

 そこで叢雲は彼女の様子がいつもと違うことに気付く。

 いつもの彼女を一言で表すなら駄目提督の一言に尽きる。

 作戦指揮に関しては本物だが、他の事は凡人以下である。

 執務室にいる時は特に酷い。

 執務室にも関わらず風呂を用意して湯を張り、仕事を放り投げて入浴する。

 他にも前科は多々あるが、挙げるとキリがないため割愛させてもらう。

 とにかく彼女が何かをやらかす度に秘書官である叢雲は頭を抱えていたが、今の彼女は叢雲に見せたことのない表情をしていた。

 凛々しくて真剣な眼差し。

 その先に一体何が写っているのか――と叢雲もまた窓の外に写る水平線の彼方を見つめる。

 そして彼女は不意に言葉を漏らした。

「四週間……いや三週間? 不味いわね」

「三週間――何の話?」

「確証がない。でも――」

 彼女はそこで言葉を切ると、叢雲を見る。

「全艦隊、艦娘通達。遠征が終わった艦隊から順次ここに集めて」

「……此処に全員は入らないわよ」

「えっ? ああ……それもそうね」

 真剣な表情をしても、提督は提督ね――叢雲はそっと安堵する。

「しょうがないわね。みんなを一か所に集めればいいんでしょ? 私に任せない」

 そう言って叢雲は迅速に執務室を退出する。

 彼女に任せれば私よりは安心ね――赤城は机の引き出しの中に隠していた携帯を取り出すと旧友に電話を掛ける。

 ディスプレイには加賀さんと書かれていた。

――加賀提督執務室

 正午過ぎ、執務室に呼ばれた六人は執務室の中に入った。

 先頭を切ったのが川内、それに続いて北上、大井。そして曙、朧、潮の順に入っていく。

 五人が横隊に整列する中、一人だけ机に手を付き乗り出すと口を開く。

「ねえ加賀さん! 話って何!?」

 先日の話合いの後の今日の呼び出しである。

 期待と喜びに胸を膨らませるのも無理はない。

 そんな川内の呼びかけに加賀は冷静に答える。

「何度も言ってるけど、ここでは提督と呼びなさい」

「――まあまあ良いじゃんそんなことは」

 そう言葉を遮る彼女は期待の余りに周りが見えない一種の興奮状態にあるようだ。

「せっかく夜戦の話を持って来たのに……代わりに神通か那珂に頼もうかしら?」

 加賀が溜息まじりにそう惚けると、川内が勢いよくかぶりを振る。

「じょ、冗談に決まってるじゃん。提督」

「……落ち着いたかしら?」

 加賀がそう問いかけると、息を大きく吸った後に首を縦に振る。

 そして五人の横で他の五人と同じように基本姿勢である気をつけの姿勢で待機する。

 加賀は集まった六人を見渡すと口を開いた。

「今日、演習の申し込みがありました。編成はお任せとの通達でしたので貴女達にお願いしたいと思います」

「集まってもらった子達からわかる通り、本日の演習では夜戦まで敢行してもらいます」

「相手は赤城提督。彼女の性格からすると、編成は高火力が出せる空母機動部隊と思われます」

「提督、それならうちも空母機動部隊で挑んだ方が良くない?」

 北上がそう問うと、加賀は彼女に向けて答える。

「通常の戦闘ならそうでしょうね。水上機の支援を受けた重巡・戦艦の火力は圧倒的の一言」

「故に制空権の確保は空母機動部隊の最大の見せ所と言っても過言ではないわ」

 制空権を取った後の弾着観測射撃は現状の海域攻略において必須とまでされている。

 弾着観測射撃による高火力高精度の砲撃、特に戦艦のソレは一撃必殺と形容してもいいからだ。

 だからこそ北上はその制空権を棄てる行為に疑問を抱いている。

 しかし加賀はその特性をよく知る故に、その弱点も知っている。

「しかしそれは制空権を取るために艦上戦闘機をたくさん配備しているということよ」

「相手は赤城提督。おそらく私が航空戦を棄てるとは思わない」

「だから艦上攻撃機と爆撃機の数は少なくなる」

 相手が良く知っている赤城提督であるだからこそ――彼女が真っ向から勝負を挑むことを知っている。

「そして制空権の取り合い――戦闘機の数の読み合いでは彼女に勝てない。だから敢えて捨てる」

「雷、装備のリストを配って」

 彼女の横で待機していた雷が手荷物資料を六人に配る。

 そこには演習で使う予定の装備とその大まかな作戦が取り上げられている。

「駆逐級には10cm連装高角砲に四連装酸素魚雷。そして照明弾」

「重雷装巡洋艦は甲標的に10cm連装高角砲と四連装酸素魚雷」

「そして川内、貴方は10cm連装高角砲に61cm五連装酸素魚雷に探照灯」

「それって……!」

 川内は目を輝かせながら近づこうとするも、一度咳をして自分を律する。

 確かに彼女は夜戦馬鹿と呼ばれているが、二度同じ轍を踏むほど馬鹿ではない。

「ええ、旗艦は貴方に任せるわ」

 川内は小さくガッツポーズを取るも、周りからは丸見えである。

 加賀はそれを見て微笑みながら目を閉じる。

「さあ、目を閉じて」

 彼女がそういうと川内を筆頭に、秘書官である雷含めた七人は目を閉じた。

「まずは北上と大井が遠距離隠密魚雷戦を仕掛ける。要するに開幕雷撃を仕掛ける」

「次に相手の攻撃機、爆撃機来るわ。数は少ない。全員で迎撃して」

「この間に、北上と大井の雷撃が相手の元に届くわ。相手を一人、欲を言えば二人を大破させる」

「砲撃戦。相手は水上機の支援で高精度の砲撃を行ってくるわ。それを逆手に取って回避する。貴方達の回避速度で翻弄してあげなさい」

「雷撃戦。動ける子だけで魚雷を。一人大破させれば上出来よ」

「最後に夜戦。相手は夜戦用の装備なんてしていないでしょうから、此処からは貴女達の独壇場よ」

「照明弾でシルエットを浮かび上がらせ、探照灯が投射される」

「さぁ、相手の姿が見えたかしら? 後はそこに目掛けて魚雷を打ち込むだけよ」

「――目を開けなさい」

 加賀は静かにそう言うと七人はそっと目を開く。

 この子達もいい表情をするようになった――軽巡と駆逐三人組を見て内心で喜ぶ。

 問題があるのは――。

「どう? 空母級に、戦艦級に勝てるイメージはできたかしら?」

「……責任重大だね」

「ええそうね――北上、大井」

 二人の表情は不安に包まれている。

 建造されて数ヶ月の彼女達にとって、戦艦とは格上の相手だ。

 耐久と装甲で劣り、自慢の魚雷を持ってしても総火力において彼女達に劣る。

 それほどまでに弾着観測射撃というのは強力な武器なのだ。

 故に本当に彼女達を止められるのか――と不安になっても仕方がないだろう。

「相手は長門型、金剛型を旗艦とした空母隊。複数回長期の戦闘を想定した現状最強に近い編隊」

「かつて高速輸送艦に改装された貴方達が、重雷装巡洋艦として果たせなかった――戦闘を優位に進めるという任を今日果たす」

「北上――貴女はこの作戦、不可能だと思う?」

 北上は答えない。

 肯定できるほどの実戦経験がないから。

「大井――貴女達の魚雷は、相手に通用しないと思う?」

 大井もまた答えない。

 北上と同じ理由で答えることができない。

「私は不可能だと思わない。通用しないとは思わない」

 自然と下を向いていた二人が顔を上げて加賀を見る。

 かつて、"重雷装巡洋艦此処に在り"と名を馳せた黄金の時代があった。

 同艦隊に空母と戦艦がいてなお、彼女たちが活躍した時代が。

 その時代に生きた加賀であるからこそ断定する。

「確かに現在――長期の戦闘においては彼女達が上かもしれない。でもこと短期決戦に置いては貴方達が上よ」

 戦艦より早く敵を攻撃・撃沈することができて、空母の雷撃や爆撃よりも高威力。

 今では廃れつつあるが、そんな時代が確かにあったのだ。

「かつての私たち(空母)がそうだったように、貴方達(重雷装艦)も彼女達(戦艦)を倒すことができる」

「二人とも――いえ、みんなに問うわ。この作戦、不可能だと思うかしら?」

 執務室に沈黙が流れる。

 川内と駆逐三人組は答えない。

 作戦の要が彼女達二人だから。

 大井もまた答えない。

 それでもなお、自信が持てないから。

 そして北上だけは口を開き――その問いに答える。

「ジャイアントキリング――いいね……痺れるねぇ」

「いいよ。ギッタッギタにしてあげる。それに――」

 北上は大井を見て微笑む。

「二人で組めば、最強だよね。大井っち!」

 大井は一瞬唖然とするも、直ぐに北上に微笑み返し、加賀を真っ直ぐに見て答える。

「……ええ、やってあげるわ」

こら加賀さんの予想が外れてみんなしょぼーんやな

 この演習編成は最近のマイブーム
 夜戦込みで燃料25弾薬70ぐらいで済むし、相手ガチ編成でも思ったより勝率悪くないという
 ロマン気味だけど勝てるロマン。
 やっぱり雷巡は偉大だわ。


 さて、戦闘の描写は飛ばしていいよね?
 地の文書き込みすぎて死んでしまう

 更新が遅いのは絶対に地の文のせいだわ

絞りに絞ると第六大北という収まりのいい形が見つかる

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