少女「わたしはギロチン系ヒロイン!」(60)

ギロチン【guillotine】
(フランスの医師ギヨタンJ.I.Guillotin1738~1814の提唱による)死刑執行の斬首台。
2本の柱を立て、その間に斜状の刃のある斧を吊り、
その下に受刑者をねかせ、死刑執行者が縄を引くと、
その斧が落下して受刑者の頸部を切断するように造ったもの。

ヒロイン【heroine】
小説・物語・戯曲などの女主人公。⇔ヒーロー

※共に広辞苑第五版より





語感以外、なんら共通点の見出せない二つの言葉であるが──

あるところに、この二つの言葉を両立させる一人の少女があった。

< 町 >

巨大なギロチンを抱え、町を歩く少女。

少女「ふんふ~ん、さあ一日の始まりね!」

ギロチン「姐(あね)さん、今日はどこに行くつもりだい?」

少女「決まってるでしょ?」

少女「行き当たりばったりよ!」

ギロチン「ノープランすぎんよ~」

少女「うっさい! フランス生まれのくせに日本語喋りやがって!」

ギロチン「ボンジュール」

少女「それしか知らないくせに!」



このギロチン、フランス革命期に製造されたれっきとした本物。

ところが、さまざまな事情が重なり、まったく使われず放置されてしまった。

そして、寂しさのあまり言葉を話すようになった、といういわくつきの代物である。

少女「──ん?」

少女「なんだか向こうが騒がしいわね……行ってみよう!」

ギロチン「姐さんはなんにでも首を突っ込むんだよなぁ~、ギロチンだけに」



ザワザワ……

「生きる望みを捨てるな!」 「思い留まるんだ!」 「ご両親が悲しむぞ!」



一人の青年が、ビルの屋上から飛び降りようとしていた。

青年「ボクはもうダメだ……」

青年「どこにも就職できない……社会から必要とされてない人間なんだ!」

少女「あれってもしかして……自殺志願者?」

ギロチン「だな」

少女「チャ~ンス!」

少女「せっかく死にたがってるのに、飛び降りさせちゃうなんてもったいない!」

少女「行くわよ、ギロチン!」

ギロチン「姐さんの冷酷非情っぷりには肝が冷えるよ」

少女「ギロチンは人道的な処刑道具でしょ!」タタタッ

< ビルの屋上 >

少女「ねえ、お兄さん」

青年「!」ビクッ

青年「子供がこんなところ来るんじゃない! 危ないよ!」

少女「死にたいんでしょ? だったらわたしたちが手伝ってあげる!」ガシッ

青年「な、なにをっ!?(この子、ものすごい力だ……!)」

少女「よいしょっと」グイッ

ギロチンに青年をセットする少女。

青年「う、動けない……!」

少女「じゃ、いくね~!」

青年「な、なにをするんだ!?」

少女「決まってるじゃない、斬首よ斬首」

青年「!?」

青年「ま、待ってくれ!」

青年「ボクは飛び降りて死にたいんだよ! ギロチンなんていやだぁっ!」

少女「結果は同じなのに、なんでゴネるのよ」

少女「それに、こっちのが飛び降りよりよっぽど確実だしね!」

少女「首が飛んだ後もちょっと意識あるかもしれないけど、すぐよすぐ!」

青年「ひいっ!」

少女「それじゃ、刃を──」

青年「いやだ、いやだ、いやだぁぁぁっ!」ジタバタ…

青年「やだよぉぉぉぉぉっ!!!」ジタバタ…

ギロチン「姐さん、コイツ本気で嫌がってるみたいだけど……」

少女「えぇ~……?」

少女「ちょいとお兄さん!」

青年「は、はいっ!」ビクッ

少女「死にたいの? 死にたくないの? ──どっち!?」

青年「いや、あの……ボクは……」

少女「どっちかで答えないと、面倒だし斬首しちゃうわよ! ──さぁどっち!?」

青年「し、しっ、し……死にたくないっ!」グスッ…

青年「死にたくありませぇん……!」ウッウッ…

ギロチン「だとさ」

ギロチン「あ~あ、可哀想に。泣いちゃってるじゃん」

少女「なんなのよ……もう。だったらこんな騒ぎ起こすんじゃないっての」

結局、少女は青年の斬首をやめにした。

少女「いい、お兄さん?」

少女「今度死にたいなんて抜かしたら、問答無用で斬首だからね!」

青年「は、はいっ!」

青年「二度と死にたいなんていいません! 絶対に! 神に誓って!」

少女「んじゃあ、帰ってよし!」ビシッ

青年「はいっ! さようならっ!」タッタッタ…

青年は逃げるように家路についた。

少女「ちぇっ、せっかく斬首を楽しめると思ったのにな」

ギロチン「斬首って楽しむもんじゃないから」

再びギロチンを抱え、町を歩く少女。

少女「あ、おばさん、こんにちは~!」

主婦「あらギロチン子ちゃん、こんにちは。今日も元気そうねえ」

少女「おばさん、いつもいってるけど、わたしをギロチン子って呼ぶのやめてよ~!」

主婦「どうして? “ギロチンを持ってる女の子”だから“ギロチン子”」

主婦「あなたにピッタリな呼び方じゃない!」

少女「う~ん……」

主婦「それじゃまたウチにもいらっしゃいね」

主婦「あなたの好きなお茶菓子、用意して待ってるから」

少女「ありがと~!」

ギロチン「……姐さん」

ギロチン「ギロチン子ってさ」

ギロチン「なんつうか、目つきが鋭いチンコみたいな響き──」

少女「うっさいっ!」

ドゴォッ!

ギロチン「おげえっ!」

少女「なんか疲れちゃったから、あの公園で一休みしましょっか」

ギロチン「オレって刃だけで40kgあるもんな……そりゃ疲れるよな」

< 公園 >

少女「ふうっ」ゴトッ

少女がギロチンを置いて、公園のベンチで休んでいると──

令嬢「オ~ッホッホッホッホ!」

令嬢「そんな粗末なイスに座って休憩なんて、みすぼらしいですわねぇ~!」

『移動用タイヤ付き電気椅子』に座った令嬢が現れた。

ギロチン(うっわ、うっとうしいのがきちゃったよ……)

少女「あっ、令嬢ちゃん! わたしになにか用?」

令嬢「オ~ッホッホッホ!」

令嬢「今日こそライバルであるあなたたちに」

令嬢「電気椅子こそが最高の処刑器具だと、思い知らせてあげますわ!」

令嬢「さあ、やりなさい!」

電気椅子「はい、お嬢様」

バリバリバリッ……!

鋭い電流が、令嬢の全身を駆け巡る。

令嬢「オ~ッホッホッホッホッホッホッホ!」バリバリバリ…

令嬢「いかがかしら? この迫力、この華やかさ、この美しさ!」バリバリバリ…

令嬢「ギロチンでは決して味わえなくってよ?」バリバリバリ…

電気椅子「電気加減はいかがですか、お嬢様?」

令嬢「電流も電圧も、もっともっと上げてよろしくてよ!」バリバリバリ…

電気椅子「では引き上げます」

令嬢「オ~ッホッホッホッホッホ!」バリバリバリ…



少女「え、え~っと……」

ギロチン(どうリアクションすりゃいいんだよ、こんなの……)

電気椅子「終了します」

令嬢「ふうっ」プスプス…

令嬢「いかがだったかしら?」プスプス…

少女「うん……す、すごかったよ!」

ギロチン「オ、オレも……電気椅子のすごさがよく分かったよ!」

令嬢「あらあら、わたくしまた勝ってしまったのね」プスプス…

令嬢「それじゃごめんあそばせ!」プスプス…

令嬢「オ~ッホッホッホッホッホ……」

ガラガラガラガラ……

電気椅子に座ったまま、令嬢は公園を出ていった。

少女「いつも思うんだけど、令嬢ちゃんってさ……絶対感電を楽しんでるよね」

ギロチン「電気を浴びてる時の表情、完全にエクスタシー感じてるもんな……」

少女「もうそろそろ、お昼の時間だね」

ギロチン「そうだな、姐さん」

少女「あ、あんなところに食堂がある」

少女「お腹空いたしさ、あそこ入っちゃおうか」

ギロチン「姐さん、オレけっこうデカイけど入れるかな?」

少女「大丈夫、ある程度高さを変えられるよう改造してあるから!」

ギロチン(いつの間に……)

少女「おジャマしまーす!」

ガララッ!

< 食堂 >

店主「ん、ああ、客か……めんどくせぇ」

店主「おう、とっとと座ってくれ」

少女「なにあの態度……いくらなんでも失礼すぎない?」ボソッ…

ギロチン「きっとこの辺にはライバルにあたる店がないから、殿様商売なんだな」ボソッ…

店主「注文は? あんまり迷わず、とっとと決めてくれよ」

少女「!」ムッ…

少女「じゃあ、トンカツ定食で!」

店主「トンカツか……揚げるの面倒なんだがな。まぁ、しゃーないか」

ギロチン(面倒ってそれが仕事だろうが……)

しばらくして、トンカツ定食が出てきた。

店主「ほらよ」ゴトッ

少女(んもう、乱暴に置くのやめてよね。ま、いいや)

少女「いただきまぁ~す」サクッ…

少女「!」

少女(うん……おいしい! 外はサクサク、中はジューシー!)モグモグ…

少女(これなら多少態度が悪くても、来る客は多いだろうね……)モグモグ…

少女「──だけど」

店主「?」

少女「このキャベツの千切りは、なっちゃいないね」

店主「な、なんだとォ!?」

店主「オイラの千切りにケチつけるたぁ、いったいどういうことだい?」

少女「これじゃ千切りどころか、せいぜい八百切りか九百切りってとこよ」

店主「…………」ピクピクッ…

少女「これならわたしの方が、よっぽど出来のいいキャベツの千切りを出せるわよ」

店主「ほぉう……いってくれるじゃねえか!」

店主「なら、ここにちょうどキャベツが二玉ある」

店主「キャベツの千切り勝負だ!」

少女「望むところよ!」

ギロチン(なんつうか、オレが必要ない流れになってきたな……)

店主の挑戦を受け、厨房に移動する少女とギロチン。

店主「よし、好きな包丁を使いな。あとで道具をいいわけにされたくねえしな」

少女「いいえ、わたしはこのギロチンでいい!」

店主「なにっ!?」

ギロチン(マジで!?)

店主「ふざけんな! ギロチンなんかでキャベツの千切りができるわけねーだろ!」

ギロチン(そうだそうだ!)

少女「いいえ、できるわ!」

ギロチン(いやいやいや、無理だろ!)

店主「ぐぬぅ……いいだろう!」

ギロチン(態度悪いわりに押しに弱いなコイツ!)

店主「先にペナルティを決めておこう」

店主「嬢ちゃんが負けたら、定食代+キャベツの代金をきっちり払ってもらうぜ!」

店主「ただしオイラが負けたら……」

店主「キャベツはもちろん、さっきの定食代もチャラにしてやろう!」

少女「……分かったわ!」

ギロチン(互いにヒートアップしてるわりに、ペナルティは案外しょっぱいな)

店主「フフフ、いい度胸だ」

店主「それじゃ……キャベツの千切り勝負、開始だ!」

店主「ふははははっ!」タタタタタン

店主「どうだ!? このスピード、この正確さ──」チラッ

店主「!?」

少女「ふんふ~ん」ダダダダダン

店主(なんだとォ!? ギロチンの刃をオイラの包丁以上の速度で上下させている!)

店主(どうすりゃあんなことできんだよ!?)

店主(もし仮に、全人類が死刑囚になっちまっても──)

店主(嬢ちゃんなら、たちまち全人類を斬首し終わっちまうだろうな……!)ゴクッ…

店主「くっ……くそぉぉぉ~!」タタタタタン

少女「ふんふ~ん」ダダダダダン

ギロチン(今さらいうことでもないけど、姐さんのオレの扱いは荒すぎる)

キャベツの千切り対決、終了──

店主「オイラの負けだ……!」

店主「オイラのキャベツはせいぜい千切り、二千切りってレベルだが──」

店主「嬢ちゃんのキャベツは万切りレベル……完敗だ!」

店主「どうやら、オイラはまだまだ修業が足りなかったようだ……!」

店主「もう一度、新米だった頃の気持ちを思い出してやり直すよ」

少女「分かってくれればいいって!」

ギロチン「…………」

少女「せっかくわたしが勝ったのに、黙っちゃってどしたの?」

ギロチン「いや、“マン切り”ってどことなく卑猥な響き──」

少女「黙ってろ!」

バキィッ!

ギロチン「げぶうっ!」

今回はここまでです
よろしくお願いします

< 町 >

少女「ふうっ、おかげでお昼ごはんがタダになっちゃった!」

ギロチン「なんかいいことしたムードになってるけどさ」

ギロチン「料理にケチつけてタダにしてもらう、ってとんでもなくタチ悪い客だよな」

少女「いいの、いいの! 勝負の世界は非情なのよ!」

少女「それにあのままじゃ、近くにお手軽なチェーン店とかできたら危なかったって」

ギロチン「たしかにそれはいえるかも」

少女「つまり、わたしがあの店の首の皮をつないだってことよ」

ギロチン「突っ込まないよ、姐さん」

少女「ちっ!」

ギロチン「それより、あそこ幼稚園があるよ」

少女「ホントだ」

少女「ちょっと覗いてみよっか」

< 幼稚園 >

一人の幼児が、保母に詰め寄っていた。

幼児「ねーねー、どうして人を殺しちゃいけないの?」

保母「ええっとね、それはね……」オロオロ…

幼児「ねーねー、どうしてなの? ねーねー」



少女「あ~もう、じれったいわね。完全にからかわれてるじゃない」

少女「ああいうガキんちょは一度ガツンとやった方がいいのよ! ガツンと!」

少女「いくわよ!」ダッ

ギロチン「おいおい、幼稚園入っちゃまずいって!」

少女「人を殺しちゃいけない理由……わたしが教えてあげる!」

保母「あ……コラッ、勝手に入ってきちゃ──」

幼児「ふぅ~ん」

幼児「じゃあお姉ちゃんに聞くけど、どうして人を殺したらいけないの?」ニヤッ

少女「どうしてかっていうと──」

少女「人を殺していいのは、処刑器具使いであるこのわたしだけだからよ!」

幼児&保母「へ!?」

少女「あ、あと令嬢ちゃんもオッケーかな。ま、それはさておき──」

少女「さっそくあなたを斬首するわ!」グイッ

幼児「うわっ、なにすんの!?」

少女は幼児を“仰向け”にしてから、ギロチンにセットした。

保母「ちょ、ちょっとなんてことするの! 警察を呼ぶわよ!」

少女「首を飛ばされたくなきゃ黙っててくれる?」ギロッ…

保母「ひっ!」

少女「それじゃ、すぐこの刃を落とすからね」

少女「今度はもっといい子に生まれ変わるんだよ」

冷たく光る刃が、幼児の澄んだ瞳に映る。

幼児「あ、あ、あ……」ガタガタ…

幼児「う、うわわぁぁぁぁんっ!」

幼児「ごめんなさい、ごめんなさぁぁぁい!」

幼児「こんなおっかないこと、人にやっちゃいけないに決まってるよォ!」ジョワァ…

少女「ふふっ、分かればいいのよ」ニコッ

< 町 >

幼稚園を出た少女とギロチン。

少女「あ~、スッキリした!」

少女「これで当分、大人を困らせるような質問はしないでしょうね」

少女「しかも漏らしちゃってたし! なっさけない!」ププッ…

ギロチン「あのさ、姐さん」

ギロチン「子供に殺す殺されるの怖さを教えるってのはまだいいけどさ」

ギロチン「ありゃ下手すりゃトラウマになるって」

少女「大丈夫! 人間ってのはトラウマを抱えながら強くなるんだから!」

ギロチン(完全にトラウマを与える側の理屈だよな……おっそろしい)

どこからともなく、不気味な笑い声が近づいてきた。

女「うふ、うふふ」

少女&ギロチン「!?」ビクッ

女「今あなたたち……トラウマがどうとか話してたわよね」

女「トラウマといったらこのアタシ」

女「“心に傷を抱える女”よねぇ……」ニタァ…

女「お久しぶりィ~」

少女「ど、どうも」

ギロチン(こいつとこんなところで出くわすとは……)

女「ほら見て、アタシの手首!」サッ

少女「手首がどうしたの?」

女「せっかくつけてもらった傷が、だいぶ薄れてきちゃったの」

女「だからまたやってちょうだい、リストカット! 通称リ、ス、カ」

少女「またぁ~?」

女「だってアタシみたいな女には、リスカ跡がないとねぇ。みっともないじゃない」

女「ってわけでお願いね!」

少女「はぁ……」

少女「じゃあ、ギロチンに手首を乗せてちょうだい」

女「いよっ、待ってました!」

ギロチン(なんでこんなにウキウキしてるんだよ、この女は……)

少女「じゃ、手首を動かさないでね~」グイッ

少女の操作で、首を簡単にハネ飛ばす刃が落ちる。

ギュオオオッ!

ピタッ……!

ギロチンの刃が、女の手首に触れるくらいの位置で停止する。

手首には、女の望みである『リストカット傷』がうっすらとできていた。

もし少女がほんのわずかでも操作を誤れば、女の手首は落ちていただろう。

少女「はい、できあがり!」

女「ありがとぉ~! これでまた、アタシがんばれちゃう!」タタタッ



少女「なんなんだろ、あの人」

ギロチン「多分、“心に傷を抱える自分”ってやつに酔ってんだろ?」

少女「ふ~ん、よく分かんないや」

ギロチン「分かんなくていいよ」

ふと少女が空を見上げると、西の空がだいぶ赤らんでいた。

少女「日が沈んできたね」

ギロチン「ああ、そろそろ怪しい奴らがうごめく時間だ」

ギロチン(ま、オレらも十分怪しいんだけどさ)

ギロチン「ウワサをすりゃ、ほら来たよ」

ギロチン「火葬が主流である現代日本では、すっかりレアになった奴がさ」

ズルズル……

ゾンビ「あ、どうも、ちわっす!」ズルズル…

少女「ゾンビじゃん、どうしたの?」

少女「こないだ、遊園地のお化け屋敷に就職が決まったっていってなかった?」

ゾンビ「それなんすけど、実は──」

支配人『あの話だけど、なかったことにしてくれないかな』

支配人『今時の客は、ゾンビぐらいじゃ全然驚かないしさ』

ゾンビ『そ、そんな……お願いしますよ! 俺、本物っすよ!?』

ゾンビ『こんな体でもやっぱ金は欲しいし……そこをなんとか!』

支配人『今はいくらでもリアルな人形を作れるしねぇ……』

支配人『せめて、もう少しインパクトがあれば、雇ってもいいんだけど……』

ゾンビ『分かりました、もう一度チャンスを下さい!』



ゾンビ「──ってことになっちゃいましてね」

少女「あらら……お気の毒」

少女「それでどうするつもり?」

ゾンビ「あのぉ~、俺の首をギロチンで落としちゃってくれません?」

ゾンビ「自分の生首でリフティングするゾンビとか、結構インパクトあるっしょ?」

ゾンビ「これでも生前はサッカーうまかったんすよ、俺」

少女「ん~、やってあげてもいいけど」

少女「もしそれでダメだったとしても、わたしは首をくっつけられないよ?」

ゾンビ「あ、それは大丈夫っす! ちゃんとボンドとアロンアルファ買ってあるんで」

ギロチン「それなら安心だな」

ゾンビをギロチンにセットする少女。

少女「じゃ、いっくよ~!」

ゾンビ「いつでもどうぞ~!」

少女「えいっ!」

ギュオオッ!

ザンッ……! ゴロン……

ゾンビ生首「おおっ、やったぁ! さっすが!」ゴロン…

ゾンビ体「…………」

ゾンビ生首「よぉし、俺をドリブルしながら、遊園地にGOだ!」ゴロン…

ゾンビ体「…………」コクッ



少女「ゾンビといえど人間に溶け込んで生活するなら、やっぱりお金は欲しいもんね」

少女「死後も就職難に苦しむなんて大変ねぇ」

ギロチン「まったくだな、姐さん」

辺りはすっかり暗くなり──

ギロチン「姐さん、ちょっと明るい道に出た方がいいんじゃないか?」

少女「そうだね、そうしよっか」

少女「あ」



スーツ姿の男が、数人の若者に囲まれ恐喝を受けている。

不良「金出せよ、オヤジ!」

中年「ウチも裕福じゃなくって……見逃して下さいっ……!」

DQN「あぁん!? 未来ある若者のために奉仕しろや、老害なんだからよ!」



ギロチン「あれは、いわゆる親父狩りってやつか」

少女「わたし、ああいう連中が一番嫌いなのよね」

少女「よ~し、やっちゃおう!」

少女「ちょっとあんたたち!」

不良「あ!? なんだガキ……!」ギロッ

少女「弱い者いじめはやめなさいよ! 斬首しちゃうわよ!」

不良「はぁ~!? うっせえよ、ガキ! てめぇも金出せやァ!」

少女に掴みかかろうとする不良たち。

少女「ったく、男なら『女の子だから勘弁してやる』くらいいってみなさいっての」スッ

バキッ! ドカッ! ガンッ!

少女はギロチンを振り回し、あっさり不良グループを倒してみせた。

少女「セットするの面倒だし、斬首はしないでおいてやるわ」

ギロチン「姐さん、オレ鈍器じゃないんだけど」

不良「ち、ちくしょう……」タッタッタ…

少女「おじさん、大丈夫?」

中年「うん、ありがとう……」

中年「預金を下ろしたばかりだったから、財布を奪われたら大変だったよ」

少女「早く明るい道に出た方がいいわよ。ああいう奴らってしつこいし──」



ウワサをすれば──

ドドドドド……!

不良「ガキやオヤジになめられたまま、終われるかよォ!」

近くで待機していた仲間を集め、再び不良たちがやってきた。



少女「ゲ!?」

ギロチン「今度は20人以上はいるぞ。しかも武器まで持ってる」

少女「ま、まずいわね……」

少女(わたしはともかく、このおじさんは守り切れないかも……)

すると──

令嬢「オ~ッホッホッホッホ!」バリバリバリ…

令嬢「悪い人間は許しませんわよぉ~!」バリバリバリ…

猛スピードで走る電気椅子に乗って、令嬢が現れた。

不良「電気を浴びながら笑ってやがる……! なんだ、あの変態女は……!?」

バリバリッ!

不良「ギャッ!?」ドサッ…

電気椅子「お嬢様を侮辱する輩は、この私が許さん」

バリバリッ! バチバチッ! ビリビリッ!

「ぐえええっ!」 「ぎゃああああっ!?」 「シビれるぅ~!」

電気椅子の放電により、不良グループは全員失神した。

令嬢「オ~ッホッホッホ、命は奪わないでおいてあげますわ!」バリバリバリ…

電気椅子「お嬢様の優しさに感謝するがいい」

少女「ありがと、令嬢ちゃん!」

令嬢「お礼なんていりませんわ!」バリバリバリ…

令嬢「困っていたら助けるのもまた、ライバル関係というものですもの!」バリバリバリ…

ギロチン(まあやったのは電気椅子で、アンタは感電してただけなんだけど)

令嬢「またいつか勝負しましょう、ごめんあそばせ~」バリバリバリ…

令嬢「もっと電流と電圧を上げなさい! 刺激が足りませんわ!」バリバリバリ…

電気椅子「はい、お嬢様」ガラガラ…

激しくスパークしながら、令嬢たちは夜の街に消えた。



少女「ふうっ、今回は令嬢ちゃんに助けられちゃったな」

ギロチン「あいつらは敵に回っても怖くもなんともないが」

ギロチン「味方になるとやたら頼もしい……。なんというか珍しいタイプだな」

中年「また助けてもらっちゃったね……どうもありがとう!」

少女「どういたしまして……ってわたしは、なにもしてないけどね」

中年「いや、そんなことは──ん?」

少女「?」

中年「君は……あの時の! おおっ、まさかまた会えるなんて!」

少女「おじさん、だれ?」

ギロチン「ナンパでよくある手口だな」

中年「覚えていないかい?」

中年「あれは忘れもしない、半年前──」

………………

…………

……

半年前──

< 公園 >

中年「はぁ……」

中年「もう死ぬしかない……。妻よ子よ、許してくれ……!」

少女「え、おじさん死ぬの? どうして?」

中年「!」ビクッ

中年(いきなりなんなんだ、この子は……)

中年「実はおじさん、会社をリストラ──っていっても分からないよね」

中年「おじさん、会社でクビを切られちゃったんだ」

少女「ウッソォ~、最高じゃない! クビを切られたなんて!」

少女「じゃ、斬首しよ、斬首! 苦痛もなにもなく死ねるからね!」ガシッ

中年「え? え? え?」

中年を強引に、ギロチンにセットする少女。

少女「セット完了! じゃあ斬首しちゃうね!」

中年(なんかよく分からないけど、これで死ねるのか……)フッ…

少女「!」ムッ…

少女「今の笑み、気に入らない!」

中年「うん……?」

少女「今からギロチンで死ぬっていう人間はね」

少女「罪を悔いたり、泣き叫んだり、絶望したり、祈りを捧げたり……」

少女「そういうことをしなきゃならないの! 分かる?」

少女「笑う余裕が残ってるような人間の血で、ギロチンを汚したくないわ!」

中年「なにいってるんだ……おじさんはもう死にたいんだよ!」

少女「だまらっしゃい!」

中年「!」ビクッ

少女「だったら笑うこともできないほど、ボロボロになってから──」

少女「わたしのところに来ること!」

少女「まったく……図々しいったらありゃしない!」

中年「!」ハッ

中年(そ、そうか……私はまだそこまでボロボロじゃない……)

中年(まだ笑うことだってできる! まだやれるんだ……!)

………………

…………

……

中年「──あの一喝で、私はもう一度奮い立つことができた」

中年「小さな会社だけど、なんとか再就職できて、こうして働いてるんだよ……」

少女「ふーん」

ギロチン(なんつう、興味なさそうな返事だよ。実際、ないんだろうけど)

少女「ま、とにかくよかったわ!」

少女「だけどもう一度死にたくなったら、今度はちゃんとやってあげるから声かけてね!」

少女「一瞬でズバッと斬ってあげるからさ!」

中年「ハハ、ありがとう。だけど……そうならないように頑張るよ!」

少女「じゃあね~!」

中年もまた、少女に礼をいいながら夜の街に消えた。

少女「……すっかり暗くなっちゃった」

少女「わたしたちもそろそろ帰ろっか」

ギロチン「そうだな、姐さん」

少女「今日も町じゅうを歩いたけど、結局斬首できたのはゾンビだけだったな~」

少女「面接うまくいってればいいけど」

ギロチン「なんだかんだいって、姐さんって生きた人間の首を斬ったことないしな」

ギロチン「もちろん、人の首を斬るなんて可哀想とかこわ~いってタイプじゃないけど」

ギロチン「なんというか、姐さんはそういう星の下に生まれてきたのかもな」

ギロチン「人を斬首しようとしてもできない運命になってる、みたいな」

少女「むぅ~……」

少女「……そんなことない! わたし、いくらでも人間の首ぐらい斬れるもの!」

少女「わたし、やるわ! ノルマは一日三斬首!」

ギロチン「いやだから姐さん、斬首ってそういうもんじゃないから」

少女「だけど今日はもう疲れたし、わたしたちの屋敷に帰って、ぐっすり寝ましょっか」

ギロチン「おっと寝る前にオレのことを洗ってくれよ? キャベツとゾンビ斬ってるし」

少女「分かってるって!」



ギロチン系ヒロインの長い一日、これにておしまい。

もしかしたら次は、ギロチンを抱えてあなたの街に現れるかも──







                                 ~ おわり ~

これにて完結となります

スレ開いた方読んでくれた方レスくれた方
ありがとうございました!

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