悟空「……オッス、オラ悟空! 宜しくなマスター」雁夜「……バーサーカー…?」 (167)


悟空「おう、一応バーサーカーとして召喚されちまったみてぇだな」

悟空「まぁいきなり獲って喰ったりしないから安心してくれよ」

雁夜「……」

悟空「ん? どした」

雁夜「召喚されるのは西欧の英霊と聞いていたから、つい…」


悟空「前回の聖杯戦争まではそうだったんだけどなぁ…ま、何事も例外はあるってことさ」

悟空「よし、とりあえずはオラのステータスから確認してくれよな!」


雁夜「……あぁ」

雁夜(なんか……頼もしいな)



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……翌日。


悟空「んー……」ポリポリ

悟空「暇だなぁ…初めて召喚されたけど」

悟空(英霊の座も中々面白かっただけに、どうも……)


悟空「つっても気を抜けないのが現状なんだけどな」

悟空「殺気も敵意も感じねぇけどよ、『好奇心』が抑えきれてねぇぜ? じっちゃんよ」


< ユラァ……

臓硯「……ほう、やはりただの下位英霊ではないか」



悟空「下位って…ひっでぇなぁ、聖杯の出力を考えりゃそんな弱い奴は来ないと思っぞ?」

臓硯「そして聖杯に関する知識も充分、これはこれは……」

悟空「?」

臓硯「くっく、雁夜の奴にしては上出来だと思うてな」

悟空「かもしれねぇな」にっ

臓硯「だが此度の聖杯戦争……まともに戦っても勝てるとは限らんがのう?」

悟空「まだ続けんのかじっちゃん」


悟空「オラが全力になってマスターが耐えられるとは思えねぇ、どうすっかはオラが考える」

悟空「確かに暇だけどよ、朝っぱらから頭使う試し方はやめてくんねぇか」


臓硯「……」

臓硯「面白い」ニィイ…



< 「10421……10422…10423…」ギッ…ギッ…

< 「……やっぱ手応えねぇな」


雁夜「……バーサーカー?」ガチャッ


悟空「よ、おはよう」

雁夜「あぁ……それより、何故霊体化しないで…?……あまり魔力を吸われるのは……」

悟空「でも痛まねえだろ?」

雁夜「!」

悟空「大丈夫だ、オラは『今はそういう英霊』だと思っててくれりゃ良い」

悟空「昨日説明しときゃ良かったなぁ……わりぃわりぃ」テヘヘ


……冬木市内、ファミレス。


悟空「ガツガツガツ!! ハムッ…ズルズルッ! ムシャムシャ……」ガツガツ

雁夜「……」

雁夜(まだ食べるのか……ッ、そろそろ…クレジットカード使うにしてもヤバいんだが……)


< ポチッ…ピンポーン

店員「はいお待たせしました」


悟空「このフォアグラ乗ってるステーキを五皿、後はまたこのページを一通り」


店員「……は、はい…」

雁夜(聖杯戦争が終わるまでもつのか?……1ヶ月の間ならカードでどうにかなるとはいえ)


悟空「ぷはぁ、食った食った!」

雁夜「はは……あれだけ食べたらな…」

悟空「やっぱ腹減ってたら力出ねえからな、それらしい気配はまだねぇけどよ」

雁夜「あぁ、そういえばバーサーカーは索敵能力もあるんだったな」

悟空「正確には『何となく』で居る方向と距離が『何となく』分かるってのが正解だけどな」


悟空「それに、もう随分長い間生前の時みてえに戦ってないんだ」

悟空「だから慎重に行かなきゃな、マスター」にっ


雁夜「……ああ!」

雁夜(悟空の生前……やはりあの斉天大聖なのか…?)

雁夜(真名と能力がいまいち結び付かない……だが、それでも構わない)

雁夜(『実力』はそれなりにある…一部明かしてくれなかったものの、悟空はサーヴァントとしては申し分ない)


雁夜「必ず勝つ…」ボソッ

悟空「……」


悟空「じゃ、そろそろマスターには案内を頼んじまっていいか?」


雁夜「…え、案内?」

悟空「まだ他のマスターもサーヴァントも集まって無いなら、地理を把握するのは有利になる」

悟空「オラが若ぇ頃はそれをあんま分かってなくて道に迷った事もあったしよ、間違いはねぇと思っぞ?」

雁夜「そ…そうだな、なら当座は冬木の地理を把握する為に歩くか?」

悟空「おう!」


……某空港。


< カツンッ…

「御待ちしておりました、アーチボルト様」


ケイネス「うむ」カツンッ

ケイネス「足元に気をつけてくれ、ソラウ」

ソラウ「あら、心配は必要ないと思うのだけれど?」

ケイネス「……許嫁を心配するのは当然であろう」

ソラウ「ありがとう、でも大丈夫でしょう? 『ランサー』」クスッ


ケイネス「ふむ……」


「ではホテルへご案内します」

< バタンッ

ケイネス「少し待ってくれ」

「はい」


ケイネス「……」

ケイネス【いるな? ランサー】


────── 【ここに、我が主よ】


ケイネス【これより冬木へ入る、目的地までの間は車と並走して護衛しろ】


────── 【承知した、我が槍にかけて御守りします】


ケイネス「……フン」

< バタンッ


< ブロロロロロ……



悟空「ひゃぁ……やっぱ何処行っても美味いモンは美味いなぁ!」モグモグ

雁夜「バーサーカーは本当に食べるのが好きなんだな」

悟空「んー? いや、本当は腹一杯になりゃ充分なんだけどさ……って、あり?」

雁夜「どうしたんだ」

悟空「…………」


悟空「マスターは念の為、人混みに入って紛れててくれ」

雁夜「!」

悟空「サーヴァント……気配が曖昧だったから、多分霊体で気配を殺しつつ走ってる」

雁夜「バーサーカー!」

悟空「おう、ちょっと行って来るぞ」バッ!



────── 【我が主】


< ブロロロロロ……

ケイネス「!」ピクッ

ケイネス【……どうした、ランサー】


────── 【サーヴァントらしき者が追って来ていますが、どうなさる】


ケイネス【何だと? ……霊体のランサーを追って来ているのか】


────── 【然り、それも実体化したままの様です】


ケイネス【厄介だな……迎撃してから適当に離脱しろ】


────── 【御意】




< シュタタタタタタ……!!

悟空「……!」

悟空(方向を変えた! ……人の居ない所でオラと戦うつもりか)ズザァッ!

悟空(しまった……もうちょいでサーヴァントのマスターも確認出来たんだけどなぁ)


< ヒュッ! バッ! バッ! シュタタタタタタ……!!

悟空(召喚されてあんま日数が経ってねぇ今は、多分『この状態』でしか戦えねえ……!)


悟空(とりあえずは挨拶程度にやっか……!)にっ



……某倉庫街。


< ヒュッ!

悟空「……随分遠くまで来るんだな、おめぇもマスターから離れたかったのか?」ズザァッ!


< ユラァ……

ランサー「如何にも、我が槍にかけて主には近づけさせん」ザッ

悟空「ランサー、ってところか」


ランサー「……市街地で俺の姿を視認出来た事、そしてこのランサーの脚に着いてこれた速さ」

ランサー「何よりその格好、『アサシン』と見受けるが…?」

悟空「わりぃけど外れだ、オラのクラスはバーサーカー」

ランサー(……バーサーカーだと?)


悟空「……それじゃあ宜しくな、ランサー」スッ…


ランサー「……参る」チャキッ



─────── ヒュカッッ!!


悟空「よっ…と、2日目じゃこんなものかもしれねぇな」トッ

ランサー「今の身のこなし……見事だ、本当にバーサーカーなのか疑いたくなる程にな」


瞬時に呪符を巻き付けられた長槍を突き出し躍り出るランサー。

得物を視認していた事もあってか、対する悟空は刺突する穂先の僅かな先端を足場に軌道を逸らしながら後方へ跳び退く。

体の重さを確かめる様に、悟空は足を数度踏み締めて構えを再び取る。


悟空「この感じ……久々にワクワクして来たぞ」


ランサー「……」

ランサー(眼で分かる、一片の隙も無い……何らかの宝具で狂化を封じているのか)

ランサー(いずれにせよ来たばかりでこれ程の強者と出会すとはな…!)



燈の閃きが一直線に駆け抜ける。

爆風が後を追うように余波を撒き散らしながら突き進む悟空が振り上げるのは、右脚。


ランサー「……!」ヒュッッ

大振りの回蹴を片手の長槍でいなすと同時に、短槍で薙ぎ払う……かに、思えた直後。


悟空「やっぱ上手く二本の槍を使うんだなぁ……オラ、多分それあんま出来ねぇぞ?」

─────── パァンッ!

ランサー「ッ……!?」


刹那にランサーが垣間見たのは悟空が大振りの回蹴を放ったのに続き、大振りだった右とは違い鋭利な左の打払い。

二槍を持つランサーはたったその一瞬で気づいたのだ。


ランサー(こいつ……俺と同じ捌き方を……)


教官「ハンドルを切ってください」
悟空「切ったぞ」(手刀で)


長槍と短槍による止む事の無い乱舞を正面からいなし、打払い、受け止めていく。

猛然とランサーは詰めて行くも、悟空はそれを難無く受け流し、そして反撃の搦め手を打って来る。


ランサーが悟空の手刀を短槍で払い上げ、吹き荒れる風を切り刻むが如く長槍を回転させ追撃を阻む。

間合いを図ろうとランサーは悟空の足を僅かに止めたのだ。


ランサー「やるな、バーサーカー!」

悟空「おめぇもな、若ぇ頃に戦った奴等を思い出すぞ」

ランサー「フッ、それは誉れと受け取って良いのか?」

悟空「おう!」


ランサー「ならば俺からも称賛しよう、貴様の武術もまたこのランサーに相応しきモノであると!」



─────── ヒュカッッ!!

──────── ドゴッ!!


悟空「……」ズザァッ!

悟空(そろそろオラの動きを読める様になってきたかもしれねぇな)ヒュッッ

悟空(ランサーの槍捌きを真似てみたものの、やっぱ三騎士クラスが相手じゃ今は勝てねえな)バッ!

悟空(魔力を気に変換すりゃちったぁマシになるんだけどな……カリヤがあれじゃあ頼れねえ)パンッ


悟空(…………惜しいけど、逃げるしかねぇな)ズガァッ!!


倉庫街にあるコンテナの一部が吹き飛び、迅風が迸る中で悟空は突き刺していた拳をコンテナから抜き取る。

その眼にはランサーの穂先が映っていた。


悟空(宝具を出されてねぇのが幸いかもなぁ……今のオラが全力出しても良い結果は生まねえ)

悟空「さっき見栄張ったばかりなのにわりぃなランサー」


ランサー「なにがだ」


悟空「オラは帰る」



──────── ッ…………………………


ランサー「……?」

ランサー(何だ? バーサーカーの動きが止まった…のか?)


突然の言葉と同時、静寂が辺りを埋めていくのがランサーにも分かった。

静まり返り、余波で巻き上がっていた粉塵すら晴れた中。

ランサーの眼前で悟空は動かなかった。

否、それはまるで……。


ランサー「馬鹿な……」

ランサー「『残像』だと言うのか……!?」


そう、『残像』である。

蜃気楼に映り込む幻影の様に、ランサーの目に微かに焼きついてしまっていたのは残像の悟空だったのだ。

ランサーは即座に周囲を警戒するも、先程までその場に存在していた『戦意』が消えているのを思い出した。

既にランサーは感じていた筈なのだ、静寂が辺りを埋めていくのを。

即ち、あの時点で襲撃者を逃がしていたのに違いは無かった。



ランサー「おのれ……ッ、バーサーカーめ…」




……間桐邸。


雁夜「……そうか、駄目だったのか」

悟空「わりぃなマスター、ランサーの奴が思ったより今のオラじゃ通じなくてよ」

雁夜「……」

悟空「とりあえずアイツの『気』は覚えた、6日目からは何処に居ても見つけ出せるしよ」

悟空「マスターがどうしてもって事なら今夜ランサーを探し出して倒してもいい」

雁夜「!」

悟空「オラとしちゃ聖杯戦争が本格的に始まっちまうより先に、ランサーと決着つけときてぇしな」にっ


雁夜「……なぁ悟空」

悟空「?」

雁夜「お前のステータスに……『逃走スキル』というのが追加されているんだが」


悟空「あー……あり? そんなのも見えちまうのかー……」

雁夜「どういう事なんだ」

悟空「ランサーとの戦いで何となくやってみたんだけどよ、思ったより成功してなぁ」

雁夜「自覚のないスキルだったのか……?」

悟空「わかんねぇ、『前』はそんなスキル無かったからよ……」

雁夜「そうか……」


悟空「とりあえず、どうすっか決めててくれ」スタスタ


雁夜「悟空?」


悟空「……腹一杯にして力が出るようにしねぇとな」

悟空「だから、メシ食ってくる」


雁夜「…………」

雁夜(なんだ? 何か……悟空は隠そうとしている…?)


……某冬木市内ホテル。


ケイネス「……理性あるバーサーカー、か」

ソラウ「敵の宝具は?」

ランサー「分かりません、終始こちらには手の内を見せず……相当の武術に通じた英霊かと」

ケイネス「ふむ」

ランサー「推測ですが、霊体を見破った事などからバーサーカーの名乗りはやはり虚言……アサシンと思われますが 」


ソラウ「それなのだけどね、ランサー」

ケイネス「アサシンは遠坂のアーチャーに敗北、既にアサシンは落ちている」


ランサー「! 確かなのですか」

ケイネス「使い魔を先程回収し見た事は記録してある、後でお前も見ておくがいい」

ランサー「……」

ランサー(では、あの男が本当にバーサーカーなのか?)

ランサー(武術使いのバーサーカー、次に会う時は我が宝具で……)


……その日の夜。



雁夜「……」Zzz

雁夜(……悟…空…………)




────────── 『全身の気を一点に集中して放つ……』

────────── 『それが、このかめ……波なのじゃ』


────────── 『へぇ~亀のじっちゃんはやっぱ強いんだなぁ』


────────── 『オラ、ちょっと見直しちゃったぞ』


────────── 『たわけ! ワシを誰だと思っておる!』





────────── 『亀仙流、亀仙に…………』






< ドゴォオオオオオオオッッ!!


雁夜「っ!!」ガバッ!

雁夜「悟空!?」


悟空「いてて……やっぱ気を集中させるのすら、今は無理なんだなぁ…」


雁夜「隣の部屋の壁が……」

悟空「壁で済んで良かったと思うぞ…? 咄嗟に余波をオラが遮ったから良かったけどよ」

雁夜「悟空、一体何をしたんだ?」

悟空「『三日目』でどこまで出来るようになったのか、一応知っとこうと思ってさ」

悟空「多分出来てたらランサーの所まで撃てたんだけどよ……わりぃマスター」テヘヘ


雁夜「……今のが悟空のもうひとつの宝具なのか?」

悟空「いや、分類としちゃ魔術に近ぇ、でも宝具の神秘と真っ向からオラが戦うなら必要だったんだ」




雁夜「必要って……大丈夫なのか」

悟空「おう!」



悟空「今度は逃げねぇ、正々堂々と戦って勝つさ」にっ



雁夜「……」

雁夜「わかった……」

悟空「それじゃあマスター、昨日の続きになっけど」

雁夜(何故だろうな……)

悟空「今夜、ランサーを倒すのか?」

雁夜(悟空を見てると、自然と今まであった怒りが薄れてしまう……)

雁夜(俺は、桜を救うために戦っていると……妙に誇らしげになってくる)

悟空「……どした?」


雁夜「ああ、バーサーカー」

雁夜「今夜ランサーを討つぞ」


ああ、しまった
ザイードが原作本編で殺られたのは悟空にとっての『三日目』の真夜中だった

悪いがその矛盾は『悟空が召喚されている事で登場人物たちが本編とは違う動きになっている』という事で脳内補完してくれ


……夜。


悟空「……」ザッ…

悟空(ランサーの気をこのホテルから感じる、上にいるみてぇだけど……)

悟空「どうなってるんだ…? ランサーの気が何か別の気で乱されて……」


─────── 【来たな、バーサーカー】


悟空「!」

悟空「……念話、もしくはそれに近い音声の伝達魔術か」


─────── 【如何にも】

─────── 【……正面から来るつもりだったなら、俺の主はお前との一騎討ちを許して下さる】

─────── 【どうする、バーサーカー】


悟空「ならありがてぇ、オラは最初から正面から戦うしか能が無いからな」

悟空「ランサーのマスターが何か仕掛けてて一騎討ちを誘ってるのは分かってるつもりだ、構わねぇ」


─────── 【ならば……】


< ユラッ…

ランサー「場所を変えるぞ……バーサーカー」

悟空「!」

悟空(ホテルから感じてたのは、ダミーの気だってのか……まさかオラへの対策がこうも早くされちまうとは思わなかったぞ)



……冬木・ハイアットホテル。



悟空「……よう、お前がランサーのマスターか」

ケイネス「如何にも、私がランサーのマスターだ」

悟空「良いのか? 仮にもバーサーカーを自分の魔術工房に入れちまって」

ケイネス「何の問題も無い」


ケイネス「これは決闘なのだ、ならばそちらのマスターにも来て貰おう」


悟空「……? そんなの良いわけねぇだろ」

ケイネス「では、こうさせて貰うまでだ」ヴンッ




────────── バチィッッ・・・




悟空「…………」ズシッ…

悟空「リスクを犯す代わりに、英霊にも通じる多重結界か……二重属性か何かか、おめぇ」

悟空「オラがお前を殺すより先に、超重力で動きを封じてランサーにトドメを刺させる」

悟空「そんな所じゃねぇか?」


ランサー(……ケイネス殿の魔術と戦術を見破った……のか?)



ケイネス「ふむ、話に聞いた通りのバーサーカーとは思えぬ口振りだが……」

ケイネス「既にアサシンは倒され、アーチャーは遠坂の手に、キャスターも昨夜召喚されたばかりとあっては信じざるを得まい」

ケイネス「故に」コクン


ランサー「……俺の勝利は確定したも同然、というわけだ」


悟空「おいおい、それじゃぁまるでランサーがオラと戦うのはまるでランサーよりオラが弱いからみてぇだぞ?」

ランサー「……断じて違う」

悟空「だろ? それに何度も言うけどオラは正々堂々ランサーと戦いてぇんだ」

ランサー「…………」チラッ


ケイネス「…なんだその目は、何が言いたいランサー」


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