キョンの憂鬱 (1)
分かってるだろ。
アイツはもうこの世にはいない。
どれだけ手を伸ばしてももう遅いさ……。
12月25日の朝。最悪な夢を見て最悪な気分で目を覚ました俺は目を擦りながら階段を降りる。朝食をとって、顔を洗って、歯を磨いて、
制服に着替えて。今日も何時も通りの一日が始まろうとしていた。
「もう、一ヶ月か……」
そう呟きながら俺は、学校で使用する教科書等を鞄の中へ詰め込みながら溜息をついた。
そう、もうアイツが、あの涼宮ハルヒが死んで一ヶ月も経つ。未だに、アイツが死んでから一ヶ月、という実感が沸かない。いや、そも
そも、アイツが死んだという実感すら無いのかもしれない。”アイツの事だ、ひょっこり現れるに決まってるさ”と、心の中で思ってしま
っているのかもしれない。だがアイツはあの日、紛れも無く俺の目の前で、トラックに轢かれて即死した。それだけは俺がこの目で確認し
た事実だ。
あの日、忘れようもない11月25日。俺とアイツは部活が終わって、一緒に帰っていた。
「もうあと一ヶ月で、クリスマスなのね」
「そうだな、今年こそはサンタを捕まえるか?」
「ええ、勿論よ!リベンジマッチと洒落込もうじゃないの!」
そんな何時も通りの会話を交わしながら。
だが、大通りを歩いている時に事は起こった。
一人の子供が、黄色いゴムボールを持ってはしゃぎながら歩いてきた。はしゃぎすぎたのか、手に持っていたボールを落としてしまい、
そのボールは車道に転がっていった。その子がボールを追いかけるように車道へ出て行ってしまったので、アイツは咄嗟に「危ないじゃない!」
と叫んで子供を連れ戻しに車道へ出た……。ありきたりな出来事だがその後、アイツは確かに後ろから突然迫ったトラックに轢かれ四散した。
俺の頬へと飛び散った生暖かい血の感覚は忘れることもできない。アイツは、俺の、目の前で、脳漿をぶちまけて無残に死んだ。
……と、そんな事を考えているともう出ないとヤバイ時間だ。俺は教科書のせいで重い革の鞄を持ち、部屋を出て玄関へと向かった。
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