ほむら「ゲッターロボ!」 第二話 (180)

原作版ゲッターロボとまどかマギカのクロスの第二話です。


「まどマギでやる必要があるの?」の最たる内容ですが、自分がまどかとゲッターが好きと言う理由のみでクロスさせて見ました。

ノンビリいきますが、よろしければお付き合いください。

なお、地の文が多めになってしまいましたが、その手のが苦手な方はご注意ください。


<第一話>

ほむら「ゲッターロボ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400685545/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1404772977

バラ園の魔女結界内


竜馬 「いまだ、暁美!」

ほむら 「わかってる・・・!」


私と流竜馬からの波状攻撃を受け、バラ園の魔女は紅蓮の炎に包まれた。

断末魔の雄叫びを上げながら、炎の中に崩れ落ちる魔女。

やがて。

炎の勢いがおさまり、魔女の身体が消し炭と成り果てた、その後に・・・


竜馬 「これか・・・」


私の目当てのものが、出現していた。

竜馬 「これが、グリーフシード・・・」


そっと手に取り、しげしげと眺めながらつぶやく竜馬。


竜馬 「魔女の卵であり、そして・・・」

ほむら 「私たち、魔法少女の成れの果て」

竜馬 「・・・」

ほむら 「いずれ私たち魔法少女は、例外なくその姿に成り果てる。途中で死んでしまわない限りは、ね」

竜馬 「今はそんな話は後回しだ。ほらよ」


竜馬が無造作にグリーフシードを放ってよこした。

弧を描いて飛んできたそれは、これまた無造作に差し出した私の手の中に、ストンときれいに収まる。


ほむら 「ナイスなコントロール・・・」

竜馬 「しんどいんだろ?早くお前の、それ・・・」

ほむら 「ソウルジェム」

竜馬 「浄化しちまえよ」

ほむら 「ええ・・・」

受け取ったグリーフシードをソウルジェムへとかざす。

どんよりと黒く濁り、今にも瘴気が溢れてきそうな私のソウルジェム。まさに限界の一歩手前といったところだった。

それがグリーフシードにより淀みを吸い取られる事により、徐々に本来の輝きを取り戻してゆく。


ほむら 「・・・」


私はソウルジェムが浄化されるさまを眺めながら、ぼんやりと昨日のことを思い出していた。

・・・
・・・


昨日

街中


時間の止まった街並みの中。

動く事のない人々を掻き分けながら、私たちは行く当てなどなく駆け続けていた。


竜馬 「いったいどこまで行くんだよ?」

ほむら 「巴マミから少しでも離れたい。これ以上彼女と事を荒立てるのは、得策ではないもの」


その時だった。


ほむら 「・・・?」


身体を駆け抜ける、違和感。

と、同時に。


ほむら 「・・・っ」


全身の力が頭の先から抜けていくような虚脱感が私を襲った。

足に力が入らず、思わず膝を折ってしまう私。


竜馬 「お、おい、いきなりどうした?!」


突然崩れ落ちた私に驚いて、思わず繋いでいた手を離してしまう竜馬。

しかし、彼の時が止まる事はなかった。


ほむら 「・・・え?」


地面に手をついて、荒い息を吐く私。

焦ったように私を覗き込む竜馬。

そして・・・

その脇を、怪訝そうな目で、幾人かの人々が行きすがる。

ほむら (時間停止の魔法が・・・解除されている・・・それにこの身体の気だるさ・・・まさか)


魔力が尽きかけている?

慌ててソウルジェムの輝きを確認すると、案の定だった。


ほむら (私のソウルジェム、黒く濁っている・・・)


でも、一体どうしてだろう。

そこまで魔力を消耗する戦い方なんか、していないはず・・・

竜馬 「暁美、どうした?ほら、立てよ!」


竜馬に促されるが、膝が笑って思うように足に力が入らない。


竜馬 「・・・立てないのか?」

ほむら 「無理みたい・・・」

竜馬 「一体いきなり、どうしたってんだ。どこか怪我でも負わされてたってのか?」

ほむら 「そうじゃない。ただ・・・」


そうこうしているうちにも、周りの視線は否が応にも集まってくる。

それはそうだ。ただでさえ目立つ格好の私が崩れ落ちていて、大柄の竜馬が側でなにやら話しかけている図は異様だもの。

人の目を引かないわけがない。


ほむら (早くこの場を離れないと・・・)

竜馬 「仕方がねぇな」


竜馬はくるりと後ろを向くと、チョコンとしゃがみこんだ。

彼の広く逞しい背中が、私の眼前を覆う。


ほむら 「え・・・なに・・・?」

竜馬 「背負ってやる。お前の家はどこだ。送ってやるよ」

ほむら 「え、あ、ちょ・・・」

竜馬 「早くしろ。これ以上目立ちたくないだろうが」

ほむら 「ほむぅ・・・」


確かに竜馬の言うとおりだ。

私は大人しく、彼の言うことを聞くこととした。


ほむら 「じゃ、じゃあ、とりあえずあちらに・・・」

竜馬 「あいよ」


私が指し示す方向に竜馬が駆け出す。

しばらくして人通りがまばらになったのを見計らい、私は変身を解いた。

魔力の負担が減ったためか、幾分身体が軽くなる。


ほむら (でも、どうして・・・ それにこれから、どうしよう)


竜馬の背に揺られながら、私は考えていた。

これからどこに向かおう。このまま家まで、大人しく送って貰っても良いものなのだろうか。


ほむら (クラスメイトなんだ。どうせ、隠し通せる事でもないのだし・・・)


夜の風が頬をなでる。疲れて火照った身体に、申し訳程度の癒しをもたらしてくれた。

・・・
・・・


ほむホーム


竜馬 「お前の家、どうなってるんだ」

ほむら 「開口一番、随分な言い草ね」


でも、竜馬の感想ももっともだ。

天井の歯車。

多数の映像が浮かんでいる壁面。

私が、私の目的を達するために、その作戦を練るために特化して作り上げた部屋は、他の者から見たら確かに異質なのだろう。


ほむら 「まずは・・・私を下ろしてくれないかしら。そこのソファーに」

竜馬 「あ、ああ・・・」

ほむら 「・・・ありがとう」


いったんソファーに横たえられた私だったが、すぐに身を起こすとキッチンへと足を運ぶ。


ほむら 「お茶、入れてくるわ。あなたも腰掛けて少し待っていて」

竜馬 「具合、もう良いのか」

ほむら 「ええ、だいぶ」


変身を解き、竜馬の背の上で休息を取れたお陰で、多少身体は楽になった。

とはいえ、私のソウルジェムが黒く淀んだままだと言うことに変わりはないけれど。

ほむら (迂闊だった)


こんなにも早くソウルジェムが濁るのだったら、先にグリーフシードの確保をしておくべきだった。


ほむら (濁ってしまった理由の詮索は後だ。まずは早急にグリーフシードを手に入れなくては・・・)

ほむら (戦えてあと一度が限度かしら。それ以上は無理が利かない)


魔女化してしまう・・・


ぞくりと寒気が、背を通り過ぎてゆく。

私が魔女となってしまえば、もうまどかを救える者はいなくなるのだ。


ほむら (そんなの、死ぬより恐ろしい)

明日、魔女を狩らなければならない。

それも速やかに見つけて、魔力を極力使わないように、戦闘自体もすばやく済ませてしまわねば。


ほむら (可能だろうか・・・)


あれこれ考えているうちにうちに煎れ上がったお茶を運びつつも、私の思案は途切れない。

ソファーでは、竜馬が落ち着かない様子で私の帰りを待っていた。


ほむら 「そわそわして、どうしたの?」

竜馬 「どうしたもこうしたも、どうもこの部屋は落ち着かない。お前はこんな所に住んでいて、落ち着いていられるのか?」

ほむら 「そうね。そもそも、くつろぐ事を目的とした部屋ではないから。さ、買い置きの安物で悪いけれど、これでもどうぞ」


言って、紅茶の入ったカップを差し出す。

スーパーで買った、徳用のティーパックで煎れたお茶。

巴マミが煎れてくれたような本格的な紅茶は必要ないし、今の私には興味もない。

味気はないが、ただ口を湿らせるだけなら、これで十分だ。


竜馬 「・・・ところでお前、さっきは一体何があったんだ?」

ほむら 「・・・」

竜馬 「今だって、そんなに回復してないんだろう。顔色を見れば分かるぜ」

ほむら 「・・・あなたには、今さら隠し事をしても意味がないし・・・」

竜馬 「え?」

ほむら 「これを見て」

竜馬 「これは・・・宝石?」


私が差し出したソウルジェムを覗き込みながら、竜馬が怪訝な表情を作る。


竜馬 「宝石のことはよく分からないが・・・なんだかあまり綺麗じゃないな。色がくすんでいやがる」

ほむら 「これはソウルジェム。魔法少女の魂・・・いいえ、正しくは魔法少女そのものよ」

竜馬 「は?」

ほむら 「見て、淀んでいるでしょう。これは、私自身が淀んでいるという事なのよ」

竜馬 「まったく、意味がわからねぇ」

ほむら 「魔法少女はね、契約した瞬間に、魂が肉体から抜かれてしまうの。抜かれた魂は、手にとって守りやすい形へと変化させられる」

竜馬 「ちょっと、待てよ。と言うことは、まさかこれが・・・」

ほむら 「キュウべぇが言うには、魔法少女の肉体は外付けのハードウェアでしかないそうよ」

竜馬 「・・・」

ほむら 「つまり、この宝石こそが私自身。本当の暁美ほむらなの」

竜馬 「じゃあ、さっきのマミって奴も・・・」

ほむら 「そう。そして、何の疑問も持たずにソウルジェムを持ち歩いている。これをただの変身アイテム程度に考えて、ね」

竜馬 「彼女は知らないのか、その事を」

ほむら 「ええ。彼女に限らず、このことに気がついている魔法少女は、ほとんどいないでしょうね」

ほむら (知ってしまったが最後、それはその子が魔女となる時でしょうから・・・)

竜馬 「お前、本当のことを知っているなら、どうして教えてやらないんだ?」

ほむら 「知っていても知らなくても、やらなければならないことに変わりはないからよ。この濁りにジェムが完全に染まってしまった時、私たち魔法少女は全ての魔力を失ってしまう」

ほむら 「そうならないように魔女を倒し、魔女の卵であるグリーフシードを手に入れなければならないの」

竜馬 「なんだ、その・・・グリーフなんちゃらというのは・・・」

ほむら 「魔女を倒すと、まれに出現する物の事よ。それでソウルジェムを浄化する事ができるの」

竜馬 「お前が具合悪そうにしているのは、つまりはその宝石が濁っているせいだって言う事か?」

ほむら 「そう。そして、今の私にはグリーフシードの持ち合わせが無い。一刻も早く手に入れなければならないの」

竜馬 「・・・」

ほむら 「なに?」

竜馬 「その宝石が、もし濁りきってしまったら・・・お前はどうなるんだ?」


当然の疑問だった。

先ほど自分で言ったが、今さら竜馬に隠し事をしても仕方が無い。

それに、私の言ったことを信用してくれた彼になら、むしろ話してみたい。

話して、どういった反応が得られるのか。それを知ってみたい。

そんな妙な好奇心も、今の私の中には芽生えていた。


ほむら 「・・・死ぬわ」

竜馬 「!」

ほむら 「人としては、ね」

竜馬 「・・・持って回った言い方をするな。一体どういうことなんだ?」

ほむら 「濁りきったソウルジェムは、別のものへと生まれ変わるの」

竜馬 「・・・?」

ほむら 「グリーフシードへと・・・」

竜馬 「ちょ、ちょっと待てよ。それって、魔女の卵の事だってお前、さっき言ったよな?それってつまり・・・」

ほむら 「そう、魔法少女は魔女へと生まれ変わるのよ」

竜馬 「!!」

ほむら 「それが私たち、魔法少女の逃れられない終末。運命」

竜馬 「じゃあ、お前も魔女に・・・?」

ほむら 「ええ、いずれ、必ずね」

竜馬 「・・・」

ほむら 「そんな悲しい結末が少しでも先延ばしになるように、私たち魔法少女にはグリーフシードが必要不可欠なのよ。でも・・・」

ほむら 「皮肉な話よね。私たちが命を永らえるためには、かつての同胞の魂を喰らう以外に方法がないなんて、ね」

竜馬 「・・・」

ほむら 「まるで、たちの悪いジョーク」

竜馬 「お前、そんな事・・・なんで平然と話してるんだよ・・・」

ほむら 「嫌と言うほど、見てきたからかしら。魔女に成り果てた魔法少女達と、その運命の結末と、を」

竜馬 「馴れるような問題でもねぇだろ」

ほむら 「馴れじゃないわ。諦観よ」

竜馬 「・・・」

ほむら 「魔法少女になった以上、避けられない宿命なの。受け入れるしかない。問題は・・・」


全てが終る前に、成すべきことを成せるかどうかなのだ。


竜馬 「・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「そんな、大事な事だったならば、だ」

ほむら 「なに?」

竜馬 「なおの事、なぜマミに教えてやらない?」

ほむら 「教えたほうが良いと、あなたは思うのね」

竜馬 「当然だ。人は誰しも、死ぬまでにやり遂げなければならない事がある。自分の運命を知ると知らないとでは、歩む道を選ぶ上でも大問題じゃねぇか」


おそらく彼は、自分の覚悟の事を絡めて、言っているのだろう。

まったく正論だ。だけれど・・・


ほむら 「あなたは強いから・・・そう言い切れるのでしょうね」

竜馬 「何が言いたい?」

ほむら 「・・・あなたには全て本当のことを言うわね。私、実は未来から来たのよ」

竜馬 「・・・は?」

ほむら 「未来といっても、たった一ヶ月後の事だけれど。私はその一ヶ月を、何度もやり直しているの」

竜馬 「・・・」

ほむら 「それがキュウべぇに望んだ、私の願いを叶えるために与えられた力。そして、失敗するたびに時間をさか戻し・・・」

ほむら 「どうすれば運命を変えられるか、その答えだけを探して、何度も最初からやり直して・・・」

ほむら 「今日という日を迎えるのは、これで何回目になるのかしら。そんな事すら忘れてしまうほど、何度も何度も、ね」

竜馬 「暁美・・・」

ほむら 「信じてくれる?」

多少、すがる色が声に乗ってしまったかもしれない。

ここでまた、彼に真実を否定されたらと思うと、胸が少しうずいてしまうのだ。

かつて、仲間だと思っていた人たちに受け入れてもらえなかったあの時と、今の自分がオーバーラップする。

だけれど・・・・


竜馬 「信じるさ」


竜馬は一瞬の間もなく、即座にそう断定して頷いてくれた。


竜馬 「この状況で、嘘をつかれるいわれがねぇ」

ほむら 「ありがとう・・・」

竜馬 「お前らが俺の常識の通用しない手合いだってのは、もう何度も思い知らされている。今さらそんなのが、一つや二つ増えたとして、驚くほどの事でもないだろ」

ほむら 「順応性が高いのね」

竜馬 「まぁ、少しばかし感覚が麻痺してるのかもしれないがな」

ほむら 「・・・かつての時間軸で、巴マミや他の魔法少女達に、私の知った真実を話したこともあったわ」

竜馬 「どうなったんだ?」

ほむら 「誰も信じてはくれなかった。そして、ある子が限界を迎えて魔女化して、否が応にも真実を突きつけられてしまった時、巴マミは正気を保てなかった・・・」

竜馬 「見た感じ、そんなヤワな奴とは思えなかったが・・・」

ほむら 「彼女は強い人を演じているのよ。もともとが繊細すぎて、傷つきやすい人だから」

竜馬 「・・・嘘で塗り固めた自分てわけか。自分の心を保つために、なりたい自分を演じ続ける。そうと分かれば、あの芝居がかった身のこなしも納得ができようってもんだが・・・」

ほむら 「だから、言えないのよ。かえって事態を混乱させてしまうだけに終ってしまうから」

竜馬 「俺が考えなしだったよ。悪かった」

ほむら 「いいえ・・・」


素直に頭を下げる竜馬に、少々面食らってしまう。

案外、私が思っていた以上にまっすぐな好人物なのかもしれない。

しばし沈黙。

テレビすらないもの寂しい部屋に、静かに響くのは互いがすするお茶の音のみ。

竜馬 「立ち入った事だが、一つ聞きたい」

ほむら 「なにかしら」

竜馬 「お前はキュウべぇに何を望んだんだ?」

ほむら 「・・・」

竜馬 「命を懸けた戦いを受け入れてまで、お前が望んだ事。何度も時を戻しながらも成し遂げようとしている目的。それは一体なんなんだ?」

ほむら 「・・・」

竜馬 「・・・鹿目、なのか?」

ほむら 「なぜ、そう思うの?」

竜馬 「暁美の鹿目に対する執着は、ただ事には思えなかった。彼女を守る事。そして、キュウべぇと契約させない事。お前の行動の根幹は、全てそこに集約されているとしか思えない」

竜馬 「魔法少女の成り行きを知った今なら、余計にそう思える。どうだ?」

ほむら 「そう・・・ね、当たりよ」

竜馬 「やはり、鹿目を守るために・・・」

ほむら 「ええ」


私は竜馬に、本来の私の時間軸で起こった、まどかとの出会いと別れの顛末を語って聞かせた。

そして私の願い。それが


「まどかとの出会いをやり直したい。彼女を守れる私になりたい」


だと言うことも。

だから、「やり直す」ために、幾度でも時間という壁を越えて旅を続ける。

だけれど、未だに一度として、まどかの救済と言う私が望んだ形で、時間軸の終わりを迎えた事はない。

まどかがどんな最期を迎えたのか。それ自体はその都度違えど、どの旅の終着点においても必ず彼女は死んでしまう。

そして、私は「まどかとの出会いをやり直」すために、再び過去へと時間を遡行させる。

・・・その繰り返しだったということの説明も忘れずに。


竜馬 「暁美・・・じゃあお前は、守ろうと誓った相手の死を、何度も何度も見せ付けられてきたっていうのか・・・」

ほむら 「・・・ええ、数えるのを諦めてしまうほどに」

竜馬 「・・・お前」

ほむら 「流君が初めて私を見たあの日も、あれはまどかが死んでしまった直後。今から一ヵ月後の世界だったの」

竜馬 「じゃ、じゃあ、俺が見たデカイ化け物・・・もしかしてあれが鹿目を・・・?」

ほむら 「ええ」


嘘は言っていない。


ほむら 「あなたがなぜあの場所に現れたのかは分からない。でも、今のこの時間軸にいるのは、あの後に起こった私の時間遡行に巻き込まれたからだと見て間違いはないと思うわ」

竜馬 「俺も知らないうちに、時間の壁を越えていたということか。じゃあ、はぐれてしまった俺の仲間も、この時間のどこかに辿り着いてるのかも知れないな・・・」

ほむら 「断言はできないけれど、おそらくは。あなたの二人の仲間もきっと、この近くのどこかに流れ着いていると思う」

竜馬 「・・・いや、一人だ」

ほむら 「・・・?ゲッターチームと言ったかしら。それには流君も含めて三人いたんでしょ?」

竜馬 「・・・」


口をつぐんでしまう。

ほむら 「・・・?」


彼の顔を覗きこんでみると、額に張り付いているのは悲しみの色。

そういえばこの表情は、廃ビルで話している時にも見た。

ああ・・・と、私は納得する。

彼も大切な人を失っているのだ。


竜馬 「俺は決めたぞ」

ほむら 「な、なによ、藪から棒に」

竜馬 「暁美、俺はお前としばらく行動を共にする事にする」

ほむら 「え、ちょっと・・・」

竜馬 「そうすることで、消えたゲッターと仲間を追わせてもらう」

ほむら 「私と一緒にいたって、ゲッターロボに辿り着けるとは限らないと思う・・・」

竜馬 「そうは言っても、お前の話を聞いた後ではキュウべぇを頼る気にはとてもなれない。そうなると唯一のゲッターへの手がかりは、やはり暁美しかいないわけだからな」

ほむら 「まぁ、確かにそれはそうかもしれないけれど・・・」

竜馬 「その代わり、お前と共にいる間は、俺にできる限りのことはさせてもらうぜ。魔女との戦いにも手を貸そう」

ほむら (それは魅力的な提案かも・・・魔力消耗の原因が分かるまでは、彼が共に戦ってくれると言うなら、とても心強いもの・・・)

竜馬 「それと」

ほむら 「?」

竜馬 「鹿目を守るために、俺が力になれることがあるなら、力の出し惜しみはしないつもりだ」

ほむら 「え・・・」

竜馬 「その代わり、ゲッターに関する手がかりを掴む事ができた時には、今度はお前の力を貸して欲しい。・・・それで、どうだ?」

ほむら (まどかを守るための力になってくれる・・・かつての時間軸で、真実を告げたがために誰からも理解されなかった私の・・・)


・・・私の話を聞いて、力になってくれようと言う人が、今、目の前にいる。

それって、つまり・・・


ほむら 「仲間・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「仲間に、なってくれるの・・・?」


思わず言葉が上ずってしまう。

まるで、かつての私。常に自分に自信が無く、人の顔色ばかりを伺って生きてきた頃の私。

あの頃に戻ったかのように、言葉が舌の上を滑って、うまく外に出す事ができない。

かつては渇望し、そして絶望して諦めてしまっていた物。共に戦う仲間。

それが今、手を伸ばせば届くところに現れてくれたのだから、無理もないと思う。


ほむら 「・・・私たち、仲間、なの・・・?」

竜馬 「ああ、仲間だ」


もう一度繰り返した私に、竜馬はうなずきながら右手を差し出した。

一瞬差し出された手の意味を量りかね、しかしすぐに理解して、私はおずおずと。

だけれど、しっかりと彼の手を握った。

次回へ続く!

再開します。

・・・
・・・


竜馬 「暁美?」


竜馬に声をかけられて、我に返る私。

回想の世界に浸り過ぎていたようだ。すでに魔女の結界は消滅し、私たちは現実の世界へと戻ってきていた。

ソウルジェムはといえば、穢れはすっかりと浄化されていて、本来の輝きを取り戻している。

まるで重りを背負ったかのようだった倦怠感も、すっきりと消え失せていた。完全復調だ。


ほむら 「・・・ふぅ」


これでひとまずは安心。

早めにグリーフシードの在庫を確保しておかなければならないけれど、これで少しは余裕を持って、次の行動を思案する事ができる。


ほむら 「さて、どうしようかしら」


まずは、流竜馬というイレギュラーが舞い込んでしまったせいで、いつも以上に厄介な間柄となってしまった、巴マミとの関係の修復から手をつけるべきか。


ほむら 「ひとまずは、登校する?」

竜馬 「今からか?もう、大遅刻もいいところだぜ」

ほむら 「本当は休むつもりだったけれど、思いのほか魔女を早く倒す事ができたから。今から行けば、三時間目には間に合うでしょ」

竜馬 「まじめなんだな」

ほむら 「そうじゃない。可能な限りは、まどかの側に付いていたいだけよ」


そして、巴マミと接触するため。

他の生徒も大勢いる学校でなら、いきなりの戦闘、なんて展開も避けられるはず。

竜馬 「なるほどな、了解。じゃ、お前、先に行けよ」

ほむら 「え・・・流君は?一緒に行けばいいじゃない」

竜馬 「おいおい・・・俺と暁美、揃って遅刻してきたんじゃ、さすがに目立ちすぎるだろ?」

ほむら 「ああ・・・案外、細やかなのね」

竜馬 「お前がそういう方面に無頓着すぎるんじゃないのか?俺と噂にでもなったら、鹿目の心象も良くないだろう?」

ほむら 「それは・・・とても困る」

竜馬 「分かったら、早く行きな。俺も頃合いを見て、おっつけ登校するさ」

ほむら 「分かったわ。じゃ、流君、また後でね」

竜馬 「あ、そうだ。暁美」

ほむら 「なにかしら?」

竜馬 「リョウ、で良いぜ」

ほむら 「え・・・」

竜馬 「呼び方だよ。俺の仲間はみんな、リョウって呼んでたんだ。お前も、そう呼んでくれて構わないぜ」

ほむら 「え、ええ・・・?」


そんな、いきなり愛称で呼べと言われても、困ってしまう・・・


ほむら 「考えておく・・・じゃあ、学校で・・・」

竜馬 「おう」


あいまいな返答に竜馬もそれ以上は何も言わず、私たちはひとまずの別行動を取る事となった。

・・・
・・・


見滝原中学

教室


・・・ひそひそ

・・・ひそひそ


ほむら 「・・・」


転校翌日にいきなり遅刻してきた私は、昨日とは別の意味で皆の注目の的になっていた。

それも当然か。基本的にこの学校、志筑仁美や巴マミに代表されるように品行方正な生徒が多い。

場にそぐわない事をしてしまえば、目だってしまっても当然。


ほむら (不良だと、思われてしまったかしら)


別に構わないのだけれど。


? 「重役出勤、おはようさん!」

ほむら 「・・・?」

そんな「場」の空気など関係ないといった顔で、快活に声をかけてきたのは美樹さやかだった。


ほむら 「・・・」

さやか 「今日はどうしたの?退院間もないって聞いてたから、具合でも悪くしたかと心配しちゃったわよ」

ほむら 「・・・昨日は緊張しすぎたせいか、昨晩はあまり眠れなくって。心配かけたのなら、ごめんなさい」

さやか 「なんだぁー、ただの寝坊か。心配して損したっ」

ほむら 「・・・」

さやか 「でも、元気なら良かったっ」


そう言って、さやかは明るく微笑んだ。

敵対する事が多い彼女だけれど・・・


ほむら (この時間軸では、昨日のいざこざに巻き込まれなかった分、まだ私に好意的なのね)


好都合だ。私は彼女の事にも気を配らなければならないのだから。


ほむら (美樹さやかが巴マミと接触をすれば、彼女は高確率で魔法少女へとなる道を選んでしまう)

ほむら (そうなれば、ほぼ確実に、短期間にして魔女化する運命を歩むこととなってしまう)


その場合のまどかへ与える影響は甚大だ。

ある時間軸では、さやかを人間に戻すという願いを契約として、魔法少女となってしまったほどに。


さやか 「ところでさぁー」

ほむら 「?」

さやか 「暁美さんって、まどかと以前どこかで会ってるの?」

ほむら 「どうして?」

さやか 「んー・・・まどかがさ。昨日暁美さんに自己紹介した時に、もう自分の名前を知ってたって不思議がっていたから」

ほむら 「ああ・・・」


ふ、とまどかの方に視線を移す。

何となくこちらを伺っていたらしいまどかだったが、私の視線に気がつくと、慌てたように顔を背けてしまった。


ほむら (まぁ・・・昨日の件では、私に対しての悪印象ばかりが強調されてしまったし、仕方がないか)


嫌われてしまったのね。

・・・

別に私は、まどかを救う事ができるのなら、どう思われたって構わないのだけれど・・・

さやか 「・・・暁美さん?」

ほむら 「一応、クラスの人の名前はね、あらかじめ覚えておいたのよ、美樹さやかさん」

さやか 「私の名前まで・・・!クラスメイト全員の名前を?暁美さん、記憶力どんだけ!?何気にすごいのね」

ほむら 「別に。ずっと入院していて、時間と暇を持て余していただけだから」

さやか 「そっかそっか。ま、何事も無いなら、良かったよ。せっかく同じクラスになっただしさ、これから仲良くやっていこうね」

ほむら 「ええ」


気を使ってくれたのね。

思えば一番最初の時間軸でも、病み上がりで気弱な私のことを、何かと気を配って親切にしてくれたっけ。

ほむら 「美樹さん・・・」

さやか 「ん?」

ほむら 「あ、いいえ・・・」


・・・とにかく、この時間軸での美樹さやかとは良好な関係を築いていけそう。

そうすれば、彼女にキュウべぇの魔の手が伸びた場合でも、私のアドバイスに素直に従ってくれる可能性が高い。

魔女化を防げて、まどかへの負担も減らせる。


ほむら 「美樹さん、これからよろしくね」

さやか 「こちらこそ!」


快活に笑うさやかを、まどかが複雑な表情で見つめていた。

・・・
・・・


昼休み。

流竜馬はまだ登校してこない。

やむなく私は、一人で三年生の教室へと向かう。

巴マミと接触し、話をするために。


ほむら 「・・・」


教室内を覗き込む。お目当ての顔は見当たらない。

席を外しているのか・・・


ほむら 「あの・・・」


通りかかった女生徒を捕まえ、巴マミの行き先を聞いてみることとする。


ほむら 「巴さん、どこに行ったかご存知ありませんか?」

女生徒 「ああ、巴さんなら今日はお休み取ってるよ」

ほむら 「え?」


意外な答えが返ってきた。


ほむら 「あの、風邪とか、でしょうか?」

女生徒 「んー・・・え、と。あなた、巴さんの友達?」

ほむら 「ええ、まぁ」


嘘は言っていない。私は巴マミの友達だった事がある。

・・・この時間軸の事ではないけれど。


女生徒 「だったら知ってるよね。彼女、以前に事故に遭って・・・」

ほむら 「ええ・・・知っていますけれど、それが?」

女生徒 「うん。巴さん、ご両親が亡くなってから一人で生活していたんだけれど、今度お兄さんが外国から帰ってらして、一緒に住むことになったんですって」

ほむら 「・・・お、お兄さん!?」


耳を疑う。巴マミに兄が?

そんな話は聞いたことが無い。彼女は一人っ子で身寄りと言える身寄りも無く、遠い親戚が遠方にいるのみだったはず。

その彼女に兄!?


女生徒 「今日はそのお兄さんが帰国する日なんだって。それでお出迎えするために、お休みを取ってるのよ」

ほむら 「・・・」

女生徒 「えっと・・・どうかした?」

ほむら 「あ、いいえ、ありがとうございました」


私の様子に怪訝の色を覗かせ始めた女生徒に頭を下げ、足早にその場を去る。


ほむら (確かに、それぞれの時間軸では、細かな点での相違は少なからずあった)


だけれど、その人の家族構成のような、存在の根本に関わるところまで異なった試しはなかった。

これは一体、どういうことなのだろうか。


ほむら 「あいつの言葉を借りれば、とびっきりのイレギュラーといったところかしら」


・・・イレギュラー?

自分で言った言葉が、頭の隅に引っかかる。

そして、同時に思い浮かんだのは、彼の顔。

流竜馬・・・


ほむら 「そういえば・・・」


竜馬は言っていたっけ。


(竜馬 「俺が今まで生きてきた人生、経験や経歴、年齢や家族にいたるまで、俺はこの場所に何一つ持ち込めなかった」)

(竜馬 「全てのお膳立ては済んでいた。俺は俺自身が理解できないままに、この街の住人として迎え入れられたって訳だ」)


つまり、彼の今おかれている境遇は、竜馬を迎え入れるために改変された、この時間軸だけに存在するポジション。

だとするならば・・・


ほむら 「もしかして・・・!」


自分の教室に駆け戻る。

教室の中を見回す。

・・・彼はまだ来ていない。


ほむら (登校時間をずらすと言って、一体いつになったら来るってのよ・・・)


やむなく席に座る。気もそぞろだが、とりあえず今は成す術もない。

巴マミの兄。その正体を一刻も早く、確認に行きたい。

気ばかり逸るが、一人で学校を抜け出しても仕方がないし、第一どこに行けば良いのかも分からない。

さやか 「今日もさー、帰りにファミレスでパフェでも食べて行かない?」


聞くとはなしに、さやかの声が耳に入ってきた。

・・・どうやら、まどかを放課後の寄り道に誘っているようね。


まどか 「あ、さやかちゃん。今日はちょっと、用事があって」

さやか 「なぬっ!?」

まどか 「ごめんね、さやかちゃん。また今度誘ってもらっていいかな」

さやか 「むぅ、このさやかちゃんのお誘いを断わるとは、それってどんな用事なのですかな?気になりますなー。デートか、デートなのか!?」

ほむら (まどかがデート!?)ほむぅっ!

まどか 「うぇひっ、違うよー。あのね・・・」


チラッと私を見た後で、声を落とす。

あまり、私には聞かれたくない内容のようね・・・

まさか、本当にデート?

一応は否定してるけれど、男の人と会うとか!?

まどかは純粋でいい子だから、それがどういう意味を持つ事なのか、理解できていないだけと言うことも・・・!


まどか 「えっとね・・・」

ほむら (まどかぁーっ!)ほむうっ!!


まどか 「コショコショ・・・」

まどか 「ゴニョゴニョ・・・」


ほむら 「・・・」
 
まどか 「・・・ていう訳なんだ」

さやか 「そっかぁー。て、なんで小声?」

まどか 「うぇひひ・・・別に。まぁ、そういうわけだから、ゴメンね、さやかちゃん」

さやか 「おっけー、仁美と二人で行ってくるわ。今度は一緒に行こうね」

まどか 「うん」

ほむら 「ほむぅ・・・」


なるほどね。

今日、17時に見滝原駅。

巴マミに誘われて、出迎えた兄を紹介されつつ一緒に食事か。

ホッ・・・デートじゃなかった。


ほむら (い、いや、まどかがそんなフシダラな事、する筈ないって分かってたし。分かってたけど!)


と、とりあえず!

分かった事が二つある。

一つは多くの時間軸と同様、まどかとマミは出会ってすぐに意気投合、急速に仲を深めつつあるという事。

マミの一挙手一投足には、まどかの運命を左右させる要素が幾つも含まれている。気をつけなければ。

そして、もう二つ目。

それは今日の放課後、まどかの後を追えば、巴マミの”兄”の正体も判明すると言う事だ。


ほむら 「渡りに船と言うか、一石二鳥と言うか」


私はそっと。

耳に施した魔力を解除した。途端に聴力が通常のそれへと戻る。

・・・
・・・


放課後。

まどかが教室を出た後、少し時間を置いて私も学校を出た。

まどかが言っていた時間には、充分に余裕がある。

問題は、放課後になっても流竜馬が登校してこなかったという事だが・・・


竜馬 「よ」


校門にもたれかかりながら、竜馬が手を上げている。


ほむら 「あ、あなたね・・・」


少し脱力しながら、私は彼の元に駆け寄った。


ほむら 「流君、後から来ると言っておいて、どうして学校をサボってしまうわけ?」

竜馬 「ちゃんとこうして、後から来たろ?」

ほむら 「・・・もう、そういう事をして、あまり悪目立ちしては欲しくないのだけれど」

竜馬 「ちょっとな、魔女の結界を探していたら、遅くなっちまった」

ほむら 「え・・・」

竜馬 「暁美、グリーフシードの備蓄はたくさんあったに越したことはないんだろ?だから、探す手間を省いてやろうと思ってよ」


この人は・・・

た、たしかに魔女を見ることのできる彼なら、魔女の結界の入り口だって見分ける事はできるだろうけれど・・・


ほむら 「どうやって見つけたの?いくら”見る”事ができると言っても、ソウルジェムを持たないあなたでは、結界の気配を察する事はできないはず・・・」

竜馬 「そんな宝石は無くったって、俺には二本の足がある」

ほむら 「まさか・・・」

竜馬 「走り回った。最近はくさくさしてて、身体もあまり動かしてなかったからな。なまった身体に良いリハビリになったぜ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「とは言っても、やっぱ何の手がかりも無しに探すのは無理があったな。これだけ時間をかけて、見つけられたのは一箇所だけだった」

ほむら 「それだって、充分すごいわ・・・あの・・・」


竜馬は・・・

私に余分な魔力を使わせないために、一生懸命に魔女の結界を探してくれたのだろう。

自分のできる事なら、力を出し惜しみしない。

彼自身が言った、その言葉のままに・・・


ほむら 「あ、あり、が・・・あ、あぅ・・・ありがt」

竜馬 「それより」

ほむら 「ほむっ?」

竜馬 「お前、どこに行くところだったんだ?こっち、家とは反対方向だろ?」

ほむら 「あ、そうだった・・・あ、あのね、流君」

竜馬 「おう」

ほむら 「あなたの仲間、見つかるかも知れない」

竜馬 「・・・っ!」

・・・
・・・


道すがら、私は事のあらましを竜馬に語って聞かせた。


ほむら 「本来存在しないはずの、巴マミの兄という存在。これはどう考えても・・・」

ほむら 「この時間軸でだけ与えられた、存在としての立ち位置。あなたが置かれている状況と、とてもよく似ている」

竜馬 「お前の言うとおりなら、確かに俺と同じ、この世界に迷い込んだイレギュラーの可能性が高いな。それにしても、巴マミの兄か。巴・・・」

ほむら 「何か?」

竜馬 「あ、いいや。それで、俺たちはどこに向かっているんだ?」

ほむら 「見滝原駅よ。そこでまどかと巴兄妹が合流する」

竜馬 「見滝原駅!?」

ほむら 「ええ、どうかしたの?」

竜馬 「天使の悪戯か、悪魔の罠かってな」

ほむら 「なんのこと?」

竜馬 「まさに俺が見つけた場所だよ。魔女の結界を、さ」

ほむら 「・・・嫌な胸騒ぎがする」

竜馬 「奇遇だな。俺もそんな気がしてたところだ」

ほむら 「急ぎましょう」

竜馬 「ああ」

・・・
・・・


見滝原駅

駅前は帰宅途中の学生やサラリーマンなどで賑わっていた。

そんな彼らが吸い込まれていく駅舎の壁に、明らかに場違いな文様が刻まれている。

私たちにしか見えないあれは・・・


竜馬 「あれだろ、結界の入り口ってのは」

ほむら 「間違いない。しかもあれって・・・」


・・・お菓子の魔女の結界。

なぜこんな所に。この時間軸では、魔女結界の出現時期や場所まで、従来とは大きく隔たっているようだ。

まずい。

まずい。

焦燥感が汗を呼び、私の額をうっすらと濡らす。


竜馬 「・・・どうした?」

ほむら 「巴マミの身が危ない。この結界の主は、彼女との相性が最悪なの」

竜馬 「・・・かつての時間軸で、巴マミはこの結界の主に敗北しているんだな?」

ほむら 「ええ」

竜馬 「天敵って訳か。マミはもう、この中なんだろうかな・・・?」

ほむら 「分からない。分からないけど・・・」


だけれど、マミなら。

辺りが結界に飲み込まれるのを阻止するため、何をおいてもこの中へと踏み込んでいるだろう。

あの人は、そういう人だ。


竜馬 「・・・おい」

ほむら 「え?」


竜馬の指し示す方に視線を移す。

そこに佇んでいた少女は・・・まどかだ。

私は彼女の元へと駆け寄った。


ほむら 「鹿目さん」

まどか 「・・・うぇひっ!?ほ、ほむりゃちゃん・・・と、流君・・・?」


私の顔を見て、身をこわばらせるまどか。

そんな、名前を噛むほど怯えなくっても・・・

と、今はそんな所で感傷に浸っている時ではなかった。

傷ついた心を内に隠し、私はまどかに巴マミの所在を質す。


ほむら 「巴さんは?あなた、一緒にいたんでしょう?」

まどか 「ど、どうしてそれを・・・」

ほむら 「彼女は今、どこに?」

まどか 「そ、それは・・・」


言いよどむまどか。無理もないけれど。


ほむら 「勘違いしないで。私は巴さんと事を構えたいわけじゃない。むしろその逆。助けたいのよ」


来るべきワルプルギス戦のために。戦力は少しでも多い方がいい。


まどか 「助ける・・・?ほむらちゃんがマミさんを・・・?」

ほむら 「ええ」

まどか 「・・・え、ええと」


多少逡巡しながらも、まどかは結界の入り口を指し示してくれた。

やはりね・・・


ほむら 「彼女は一人で?巴マミのお兄さんはどこに?」

まどか 「何でそんな事まで、知ってるの・・・?」

ほむら 「結界の中に、一緒に入っていったのかしら?」

まどか 「う、ううん。マミさん、魔女の気配を感じたから、駅の中の喫茶店に理由つけておいて来ちゃったって言ってた。私もまだ、会ってないよ・・・」

ほむら 「そう・・・で、彼女が結界に入ったのは、何分くらい前?」

まどか 「えっと・・・10分くらい、かな・・・」

ほむら 「ありがとう。良い、鹿目さん。あなたは絶対、この中に入ってきてはダメよ」


10分か。間に合うか?


ほむら 「流君、行きましょう。追いかけるわ」

竜馬 「分かったぜ。じゃあな、鹿目。また今度な」

まどか 「あ、う、うん・・・」


私たちは怪訝な表情のまどかに見送られながら、魔女結界への入り口を潜ったのだった。

次回へ続く!

再開します。

・・・
・・・


まどか 「ほむらちゃん、マミさんを助けるって・・・一体・・・」

まどか 「ほむらちゃん、マミさんの敵なの?味方なの?私、分からない」

まどか 「分からないよ、ほむらちゃんが考えてる事、やろうとしている事が・・・」

まどか 「・・・」


? 「ちょっと、良いかい?」


まどか 「は、い・・・?」

? 「あー、やっぱり君だ。鹿目まどかさんだろ?マミのお友達の」

まどか 「あ、はい。あ、もしかしてマミさんのお兄さん?」

? 「うん、はじめまして。事前にマミから貰った写メに君も写っていたから、すぐに分かったよ。ところでマミ、どこに行ったか知らないかい?」

まどか 「えっと、その・・・」

? 「用があるからって先に一人で駅を出て行ってしまって。心配だから、探しに出てきたんだけれど」

まどか 「う・・・その・・・えっと・・・」(ちらっ)

? 「・・・どうしたんだい?そっちに何か・・・ん?」

まどか 「あ、あのっ、マミさんは今・・・」

? 「なんだ、あの変なマークみたいなの。何かの、入り口・・・?」

まどか 「え・・・お兄さん、あれが見えるんですか!?」

? 「見えるけど?ていうか、周りの人は誰も気にしていないみたいだな。あんな、場に不釣合いな物があるってのに」

まどか 「・・・あのっ、実はお兄さん・・・!」

? 「ん??」


キュウべぇ 「・・・」

・・・
・・・


魔女の結界内を私たちは駆けていた。

行く手には使い魔たちの死骸が累々。

これをたどって行けば、巴マミの元まで導いてくれるはず。良い道標代わりだ。


竜馬 「これを一人で片付けながら進んだってのか。巴マミ、かなりの手練のようだな」

ほむら 「彼女は歴戦の魔法少女。使い魔程度になら、絶対に遅れをとることはないわ」

竜馬 「高く買ってるんだな、マミのこと」

ほむら 「それは、まぁ・・・」


新人魔法少女として右も左も分からなかった私に、戦いのイロハを教え込んでくれたのは他ならない巴マミだった。

彼女の実力は、誰よりも理解しているつもり。

そう、弱点も含めて。

竜馬 「お・・・」


私の少し先を駆けていた竜馬の足が、不意に止まる。

あまりに突然の停止だったので、私はたまらず竜馬の背に激突。したたか鼻を打ってしまった。

全速力で走っていたのだ。車じゃなくったって、ほむらも急には止まれない。


ほむら 「ほむっ」どんっ

竜馬 「おっと。おいおい、気をつけろよ」

ほむら 「いたた・・・それはこちらのセリフよ・・・一体どうしたの、何か見つけた?」

竜馬 「ああ。使い魔の死体が、ここで途切れてる」

ほむら 「え・・・」


確かに。

これまで途絶えることなく転がっていた無数の死骸が、ここから先でピタリと無くなっている。

竜馬 「・・・ここで何か、彼女の身に起こったのか?」

ほむら 「まさか、こんな結界の途中で。巴マミに限ってありえn


私が言い終える前だった。

物陰から光の帯が、私に向かって襲い掛かってきたのは。


ほむら 「・・・っ!?」


光の帯が私に絡みつく。たちまち全身を、がんじがらめに縛り上げられてしまう。

動きを封じられた!?これじゃ、身動きが取れない・・・!


ほむら 「しまった、これは・・・!」


かろうじて自由の利く首を動かし、確認する。光の帯のように見えたのは、巴マミが魔力で生み出したリボンであった。

竜馬 「暁美っ!!」


急の異変に慌てて私へと駆け寄ろうとした竜馬にも容赦なく、光の帯の第二派が襲い掛かる。

私に意識が向きすぎていたせいだろう。彼らしくもなく、竜馬もまたリボンの縄に絡め取られてしまった。


竜馬 「くそっ、なんだこれは・・・!これも魔女の仕業だって言うのか」

暁美 「いいえ・・・」


視線を通路の奥へと向ける。つられた竜馬の視線も、そちらへ。

視線の先。そこにいた者は、凛とした立ち姿で、私たちを見つめている少女の人影。

カツンカツンと床を鳴らし、こちらへと向かってくる影の正体こそ・・・


竜馬 「縦ロール・・・」

マミ 「ちょっと、変な呼び名で呼ばないでくれる!?」

・・・巴マミ。

彼女を求めて、結界に踏み入った。

今、目的のマミと接触する事ができたと言うのに、この状況は・・・


マミ 「・・・ふふっ」


自分の放ったリボンの仕事ぶりを満足そうに眺めながら、彼女は笑った。


マミ 「やっと捕まえた。この間は、どういうマジックを使ったのか、急に消えてしまうんだもの」

ほむら 「バカ、こんな事をやってる場合じゃ・・・!」

マミ 「こんな事って?」

ほむら 「今度の魔女は、これまでの奴らとはワケが違う!私が狩るから、あなたは手を引いて!」

マミ 「・・・いったい何をたくらんでいるの?それともグリーフシードの手持ちが寂しくって、切羽詰っているのかしら?」

ほむら 「そうじゃないわ。ここの魔女はあなたの手に余るって言ってるのよ。このままじゃ、取り返しのつかない事になる・・・!」

マミ 「・・・私が魔女に遅れをとるというの?」

竜馬 「そうじゃねぇさ。手を引けないってんなら、一緒に連れて行けよ。協力した方が、勝率も上がるってもんだろ」

マミ 「信用すると思って?」

ほむら 「信用してくれなくったって良い。とにかく今だけ、私たちに任せて。悪いようにはしないから」

マミ 「信用できない人たちに、背中を預ける気にはなれないわね」

ほむら 「・・・巴さんっ!」

マミ 「・・・」


ツイっと背を向け、私たちを置き去りに奥へと進もうとするマミ。

私は慌てて止める。


ほむら 「巴さん・・・!巴マミっ!!」

マミ 「・・・あなたと・・・そちらの男の子には問いただしたい事が山ほどあるわ。でも、今はここの魔女を倒してしまう事の方が先決」

マミ 「大人しくしていれば、帰りにはちゃんと回収してあげるわ。話に納得がいけば開放もしてあげる」

ほむら 「わからずや!」

マミ 「・・・怪我をさせる気はないけれど、暴れたりしたら身の保障はしかねるわよ。じゃ、また後でね」


私の制止を無視し、歩み去ってしまうマミ。

人の気も知らないで・・・!

竜馬 「取り付く島もなし、か・・・だったら、力ずくで、この戒めを・・・」

ほむら 「・・・無駄よ。魔力で作られた結束帯ですもの。いくら流君の力だって、破る事はできないと思う」

竜馬 「うおおおおおお・・・くっ・・・どうやら、そのようだな・・・こいつ、どうやったら解けてくれるんだ?」

ほむら 「巴マミが気を失うか・・・もしくは命を絶たれるか・・・」

竜馬 「・・・そいつは、難儀だ」

ほむら 「こんなところで縛られてる場合じゃないのに・・・!」


ぼやいてみても、今の私たちに成す術はなかった。

・・・
・・・


時間の経過が遅い。

巴マミが立ち去ってから、まだ数分しかたっていないはずなのに、何十分もこうして縛られている気がしてならない。

もどかしい。

まもなく取り返しのつかない事になるであろう巴マミの身の上を分かった上で、こうして縛られている事しかできない自分が。

巴マミ。

思えば、対立してばかりいた気がする。

人の脅威となる魔女と使い魔を殲滅する事を至上主義とする彼女と、まどかの身を守る事を専一とする私では、進むべき道と取るべき手法が決定的に異なっていたから。

だけれど、望んでいがみ合っていた訳ではない。

そもそも、本来の時間軸でマミとまどかに助けられていなかったら、ここにこうしている自分も存在してはいなかったのだ。

厄介だと思った事はある。しかし、感謝こそすれ、マミの身の破滅を望んだ事などあるはずもない。


ほむら 「・・・くっ」

竜馬 「どうするよ」

ほむら 「どうもこうもないわ。今はただ、あの人が無事に戻ってくるのを祈るだけよ」


少数の例として、マミがお菓子の魔女に勝利した時間軸がないわけではない。

・・・ただ、その時には大抵、マミの隣には、まどかであったり私であったり、他の魔法少女が共同していたわけだけれども・・・

竜馬 「こんな場合、何に祈りゃいいんだ・・・?」

ほむら 「イレギュラーだらけのこの時間軸に、もう一つ。マミを破滅から救うイレギュラーが現れてくれる事・・・かしら・・・」

竜馬 「そんなもんが都合よく・・・ん・・・」

ほむら 「・・・?流君、どうかした?」

竜馬 「気配だ。俺たちが来た通路の方から、何かがこちらへと向かってきている」

ほむら 「まさか、マミの手を逃れた使い魔が、まだいた・・・!?」


だとしたら、身動きの取れない私たちは、使い魔にただ貪り食われるしかない。

万事休すだ・・・

竜馬 「・・・ち、違う」

ほむら 「・・・?」


ざすっ ざすっ


この時になって、私の耳にも通路の奥から響いてくる足音が届き始めていた。


ほむら 「これは・・・人の足音?」

竜馬 「間違いねぇ・・・この足音は・・・この気配はっ!」


やがて、足音の主が通路の奥から姿を現す。


ほむら 「人・・・」


紛れもない、人間。

人間の・・・男性だった。

竜馬 「お前か、お前がイレギュラーだったのか・・・!」

? 「竜馬・・・竜馬なのか!?」

ほむら 「流君、その人、もしかして・・・」

竜馬 「ああ・・・」


私の問いかけに、心なしか潤んだ瞳で竜馬がうなずく。


竜馬 「俺の仲間、ゲッターチームの・・・一員だ!」

・・・
・・・


マミ 「・・・ここが結界の最深部ね。魔女は・・・いた。まだ、グリーフシードのままだわ」

キュウべぇ 「マミ、魔女のグリーフシードは間もなく孵化するようだよ」

マミ 「キュウべぇ、あなた、いつの間に?」

キュウべぇ 「そんな事より、僕たちの後ろから招かれざる客がやって来ているようだ」

マミ 「暁美さんたちのこと?それだったら・・・」

キュウべぇ 「そうじゃないよ。別にもう一人、この結界に入り込んできた者がいる。それも、人間の男性がね」

マミ 「まさか・・・!」

キュウべぇ 「状況的に見て、あの流竜馬という男と同質の存在と考えて間違いないだろう。間もなくここに到達するだろうね」

マミ 「時間の余裕は無いって訳ね」

キュウべぇ 「彼らが何者で、何を考えているか。予断は許せないよ。マミ、気をつけて」

マミ 「分かってる・・・!」

キュウべぇ 「魔女が孵化するよ」

マミ 「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!」


魔女が孵化すると同時に駆け出すマミ、先手を打ち魔法で魔女を縛り上げる。

魔女の動きを封じたマミは、すかさず魔法の砲を出現させ、その標準を敵へと定め・・・

撃つ!


マミ 「ティロ・フィナーレっ!!」

狙い違わず、魔弾が魔女の身体を貫く。

勝利を確信したマミから、会心の笑みがこぼれた。

・・・だが、その笑みは一瞬の後に凍りつく。


マミ 「・・・え?」


彼女は信じられないものを見た。

撃ち抜かれ、事切れたと思い込んでいた魔女の口から、もう一体の魔女が吐き出されたのだ。


マミ 「そ、そんな・・・なにアレ」

新たに出現した魔女は、大口を開け、マミに覆いかぶさるように襲い掛ってきた。

予想外の出来事に対応できず凍り付いてしまうマミ。


マミ 「・・・」


信じられないといった表情で、目前に迫る魔女を前に、マミは身じろぎ一つ取る事ができない。

彼女の頭を一飲みにしようと限界まで開かれている魔女の口。

その中は、まるで異次元の入り口の様に、底がまったく見えない異質の空間のようだった。

マミもまた限界まで目を見開き、自分の命を断ち切ろうと迫る魔女の口中を見つめたまま、ただ成す術もなく立ちつくしている他なかった。

・・・
・・・


ほむら 「あ・・・」


私たちを束縛していた魔力の縄が、力を失って地面に落ちた。

それの意味するところは・・・


ほむら 「巴マミの身に、何かが起こった」


考えたくはないけれど、やはり最悪の事態が頭に浮かんでしまうのを止める事ができない。


竜馬 「お前の考えてる事は分かるけど、まぁ、それはねぇだろ」

ほむら 「流君・・・」

竜馬 「あいつが来たんだ。そして、縦ロールを助けるために奥へと向かった。何とかするはずさ。間違いねぇよ」

ほむら 「信頼、しているのね」

竜馬 「ああ。あいつとは、命を預けあって共に戦ってきた仲だ。あいつは強い男だ。女の子一人救えないはずがない」

ほむら 「どんな理屈」

竜馬 「そうか?道理だろ」

ほむら 「まったく無茶苦茶だわ。だけれど」


竜馬の自信に満ちた表情には、私にまでそんな根拠のない話を信じさせる、説得力のようなものが宿っていた。


ほむら 「とはいえ、ここの魔女が手ごわい事に変わりはないわ。さっきの人がどれだけ強いかは知らないけれど、一人では魔女の相手は手にあまるはずよ」

竜馬 「ああ。せっかく自由の身になれたんだ。俺たちも後を追うとしようぜ」

ほむら 「ええ・・・!」

・・・
・・・


? 「うおおおおおっ!!!」


どすんっ!!


マミ 「あうっ!?」


突然の雄叫びと衝撃。

地面にしたたか身体を打ち付けられた痛みで、マミはやっと正気を取り戻した。

と、同時に、誰かに突き飛ばされたと言う事実にも気がつく。

死が逃れようのない現実として彼女に迫り、迫りくる運命と苦痛に身を委ねるしかないと、諦めの境地に達しかけた矢先。

予想もしなかった方向から、マミは吹っ飛ばされていたのだ。

マミ 「な、なんなの・・・」


衝撃で遠くなりそうな気を何とか繋ぎとめ、身を起こした彼女が見たものは。


? 「マミちゃん、無事か!?」


マミが今まで居た場所で、魔女から彼女を守るように立ちふさがる、広い背中。

重心深くドンと構え、魔女の巨体を両の手でしっかと支えている男の姿であった。

? 「この化け物、すげぇ力だ。長くは持たない。早く、安全な場所へ・・・!」

マミ 「お、お兄ちゃん・・・?」

? 「おう、お兄ちゃんだ!」


心持ち、顔をマミのほうに傾ける男。

時代はずれの学ラン姿に角刈りの頭。鋭いながらも、どこか愛嬌を帯びた目元は、彼の人柄を現すかのように優しげだった。

この男こそ、誰あろう・・・!

マミはもう一度、目の前の男性を呼ぶ。


マミ 「武蔵お兄ちゃん・・・!」


巴マミの兄、巴武蔵その人であった。

次回へ続く!

再開します。

マミ 「武蔵お兄ちゃんっ・・・!!」(どさっ)


兄を呼ぶ一語を最後に、糸が切れた人形のように崩れ落ちてしまうマミ。


武蔵 「ま、マミちゃん!!」

マミ 「お・・・にぃ・・・ちゃ・・・」

武蔵 「ほっ、気を失っただけか。よし、待ってろよ。お兄ちゃんがすぐに、こんな訳の分からないところから連れ出してやるからな」

お菓子の魔女 「」

武蔵 「け、化け物め。貴様なんざぁ、ぜんぜん怖くないぜ。力も大きさでも、メカザウルスには遠くおよびやしねぇや!」

お菓子の魔女 「」

武蔵 「しかも、なんだか可愛らしい顔しやがって、却ってむかつくんだよ!!俺の可愛い妹にひどい事しやがって、絶対に許さん!!」

お菓子の魔女 「」

武蔵 「うおおおおおっ、いくぞ!喰・ら・い・やがれっ!!!」

・・・
・・・


武蔵 「大・雪・山っ、おろしぃーーーっ!!」


ほむら 「すごい・・・」


結界の最深部に辿り着いた私たちが目にしたものは、生身の体で魔女を投げ飛ばしている巴武蔵の姿だった。

したたかに巨体を地面に叩きつけられる魔女。その振動で、結界内がぐらりと揺れた気さえした。


ほむら 「なんて力なの・・・あなたにも驚かされたけれど、あの武蔵という人も大概人間離れしているわね」

竜馬 「褒め言葉と受け取っておくぜ。それよりも、巴マミはどこにいる?」

ほむら 「ええと・・・」


巴武蔵に釘づけだった視線を少しそらすと、武蔵の足元に別の人影があるのに気がついた。

途端に血の気が引く。あれは・・・


ほむら 「巴マミっ!!」


私は人影に向かって駆け出した。間違いない。あれは巴マミ。巴マミがピクリとも動かずに、倒れていたのだ。


ほむら 「巴さんっ・・・!」


慌てて彼女を抱き起こす。

ほむら 「頭・・・付いている・・・」


私は、ほっと胸をなでおろす。

まず一番に確認すべきなのは、巴マミの頭部の有無だった。

それは、彼女の端正な顔もそのまま、一切傷つく事もなく、あるべき場所にきちんとそのまま存在してくれていた。

最悪の事態は、避けられていたのだった。


竜馬 「胸が上下している。呼吸は問題なく、あるようだぜ」

ほむら 「え、ええ」

竜馬 「だから言ったろ?武蔵が来たからには、絶対に何とかしてくれるってな」

武蔵 「マミちゃんは気絶しているだけだ。危ないところだったからな、大好きなお兄ちゃんが来たってんで、気が抜けてしまったんだろう」

竜馬 「お兄ちゃんって面かよ。ともかく一旦、ここは引こうぜ。積もる話は、その後だ」

武蔵 「ところが、どうもそいつはいかんらしいな」

竜馬 「・・・」


武蔵が睨み、竜馬がその後を追って視線を向けた先。

そこには、体勢を立て直したお菓子の魔女がいた。

投げ飛ばされただけで、ダメージなんて喰らうはずもない。

無傷の魔女が、獲物を喰らう楽しみを邪魔された怒りを隠しもせず、私たちの前に立ち塞がっていたのだ。


竜馬 「出口を塞がれたか。どうあっても、俺たちを喰らわないと気がすまんらしい」

武蔵 「・・・というより、俺を喰らいたいんだろうぜ?食事を邪魔し、なおかつ自分を投げ飛ばした、憎い俺を、さ」

竜馬 「どうやらそのようだ・・・」

武蔵 「リョウ、マミちゃんを頼む。俺が囮となって時間を稼ぐから、その隙に彼女を安全な場所へ」

竜馬 「男だな、武蔵」

武蔵 「お兄ちゃんだからな。一つ、よろしく頼んだぜ」

竜馬 「了解だ」

ほむら 「お話中、悪いのだけれど・・・」


なんとなく気のあった二人の会話に入り込めずにいた私だったけれど、ここは敢えて間に割り込ませてもらう。


ほむら 「その役目は私が貰う。巴・・・武蔵さんは流君と一緒に安全な所へ」

武蔵 「えっと、君は・・・」

竜馬 「暁美ほむら。俺の仲間だ」

武蔵 「仲間・・・リョウが認めた子なら、俺にとっても仲間だ。そんな子に危険な事はさせられないぜ。俺に任せてくれ」

ほむら 「任せられない。確かに武蔵さんなら時間稼ぎ程度はできるかもしれない。だけれど、それでは魔女を倒す事はできないわ」

武蔵 「倒すって・・・君なら、あの化け物を倒す事ができるというのか?」

ほむら 「私はあいつとの戦い方を熟知している。絶対に遅れをとることはないわ」

武蔵 「リョウ、この子の言っていることは本当なのか?」

竜馬 「暁美は以前から、多くの魔女との戦いを経験してきている。そいつの言うことに嘘はないさ。それに」


竜馬が私の肩にぽんと手を置く。


竜馬 「暁美の強さは折り紙つきだ」

ほむら 「流君・・・」

武蔵 「リョウがそこまで言うなら、間違いはねぇな。分かった、暁美さんとやらに任せるぜ。かわいそうな目に遭ったマミちゃんの仕返しをしてやってくれ!」

ほむら 「わ、わかってるわ。任せて」


頷きながら、ちらりと竜馬に目をやると、彼もまた深く頷いて見せてくれた。

不思議な安堵感が心を包む。

これが、背中を預かってくれる仲間の存在感というものなのだろうか。


ほむら 「行ってくる」


私は一言だけを後に残すと、お菓子の魔女へと向かって駆け出した。

・・・
・・・


竜馬 「武蔵、暁美が戦っているうちに、早く巴マミをつれて後方へ引け」

武蔵 「あ、ああ。いや、リョウ。お前はどうするんだよ」

竜馬 「俺はここにいる」

武蔵 「リョウ・・・?」

竜馬 「暁美の戦いを見届ける。俺は、あいつの仲間だからな」

武蔵 「・・・分かったぜ。早く追いついてきてくれよ。正直、よく分からない事ばかりで、こんがらがって、脳みそがどうにかなっちまいそうなんだ」

竜馬 「こんがらがるほど、物が詰まってるようには見えねーけどな、その頭」

武蔵 「抜かせ」


武蔵はにっと笑うと、倒れていたマミを背負った。

魔女の意識は、突貫していったほむらに向けられている。今が好期だ。

彼は魔女の隙をつき、結界の最深部から抜ける通路に駆け込むと、あとは後ろも振り返らずに奥へと消えて行った。


竜馬 「さあ、後は思う存分暴れられるぜ。暁美、ここにはお前と俺だけだ。お前の戦い、俺が余すことなく見届けてやるぜ」

次回へ続く!

再開します。

・・・
・・・


眼前にはお菓子の魔女。

奴は大口を開けて、私を飲み込もうと迫ってくる。

巴マミで満たせなかった食欲を、私で代用するつもりらしい。


ほむら 「お望みとあらば」


期待に沿いましょう。

私は足を止め、魔女と対峙した。

魔女はすでに指呼のあいだ。こうしている間にも、ぐんぐんとその距離は縮まってきている。


ほむら 「さ、どうぞ?お腹、空いているのでしょう」


誘うように、語りかける。

と、同時だった。


お菓子の魔女 「ばぐんっ!!」


魔女の大口が、私を頭から丸呑みしてしまったのは。

竜馬 「っ暁美!?」


外から竜馬の驚愕に満ちた叫びが届いた。しかし、魔女の口の中にいる今の私に、無事を知らせる術はなし。

ただ速やかに、この魔女を倒して、五体満足で彼の前に現れてあげるだけだ。


ほむら 「私のことを食べた気でいるようだけれど、見ていなさい」


お菓子の魔女は驚異的な再生能力を持っている。

外側からいくら攻撃しても、傷ついた身体を脱皮するかのようにに脱ぎ捨てて、何度でも無傷で復活してしまうのだ。

・・・だったら内側から破壊してやれば良い。身体の中から攻撃されては、さしものお菓子の魔女の回復能力も意味がないもの。

私はわざと飲み込まれることで、魔女の体内に侵入。あとは中から、砲弾の雨あられを喰らわせてやるつもりだった。

それが私の狙い。

待ってたぞ

ほむら 「・・・」


武器を取り出すため、バックラーに手を突っ込む。

と、ここで前にも感じた、あの違和感が再び私を襲った。


ほむら 「まったく、なんなの・・・」


嫌な気分。

私の体のことなのに、私の与り知らない所で良いように弄られている、そんなえもいわれぬ不快感。

それってつまり・・・


ほむら 「この中に、私の意志とは関係なしに入り込んでいるものがある・・・?」

>>145

大変遅くなりました。申し訳ないです。

そんな事があるはずがない。

否定と共に下らない仮定を頭から追い出そうとした、その瞬間。

なぜか竜馬の顔が脳裏に浮かんだ。


ほむら 「・・・まさか、まさかね」


ある仮説が心を一瞬かすめたが、今はそんな詮索をしているときではない。

事実の検証はひとまず後回し。今は、この邪魔な魔女を退治してしまわなくては。


ほむら 「いくわよ」


気を取り直し、再び武器を取り出すため、バックラーに手を差し入れる。


ほむら 「・・・・っ!?」


私の全身から力が抜け、突如として目の前が真っ暗になったのは、まさにその直後だった。

・・・
・・・


竜馬 「・・・おかしい」


魔女の様子を伺いながら、竜馬は呟いた。


竜馬 「化け物に何の変化も見られない。まさか・・・」


ほむらは彼の目の前で魔女に一飲みにされた。

その様を見せられた直後こそ驚きはしたものの、あのほむらが何の無抵も無しに魔女に喰われるはずがない。

何か考えがあってのことだろう。

すぐにそう思いなおし、物陰からの静観を決めこんでいた竜馬だった。

何せほむらは自信満々に


「絶対に遅れをとることはないわ」


そう、自分と武蔵の前で嘯いたのだ。

仲間がそうだと言った以上、信じて待つ以外に、取るべき道などあろうはずもない。

・・・だが。


竜馬 「いくらなんでも、遅すぎる」


動きがないのだ。

ほむらには当然うつべき手があったはずだ。だが、それにしては何らかの行動に出るにしても、時間がかかりすぎている。

嫌な予感と共に、冷たい汗が彼の背を走る。

竜馬 「暁美、信じて任せたんだ。頼むぜ・・・俺は・・・俺はもう・・・」


ほむらを喰らった魔女は、他にもいたはずの獲物を求めて、辺りを徘徊し始めた。

やがて竜馬が隠れている辺りにも、確実にやってくる事だろう。


竜馬 「これ以上、仲間を失うのはゴメンなんだ・・・っ!」

キュウべぇ 「なるほど、君には以前に失った仲間がいたわけだね」

竜馬 「キュウべぇ!?お、お前、いつの間に・・・」

キュウべぇ 「僕はマミと一緒に、最初からここにいたよ。もっとも、暁美ほむらはどういった訳か僕を毛嫌いしているようだから、ちょっと隠れて様子を見ていたんだけれどね」

竜馬 「・・・」

キュウべぇ 「はて・・・君も僕に良い感情を持っていないようだね。僕の記憶では、君に嫌われるような接し方をした覚えはないんだけれど」

竜馬 「・・・魔法少女達とお前がどういう風に関わりあってきたか。テメェの胸に聞いてみろ」

キュウべぇ 「僕は少女達の望みを叶え、その見返りに魔法少女となって戦ってくれるようお願いしてきただけだけど。常に彼女達の意志を尊重してね」

竜馬 「言うべきことを言わずに決断を迫るってのは、上手いこと言って騙してるのと何もか変わらねぇんだよ」

キュウべぇ 「僕には君の言っていることの真意が、さっぱり分からないよ」

竜馬 「・・・」

キュウべぇ 「そんな事より、良いのかい?暁美ほむらをあのままにしておいて」

竜馬 「なんだと!?お前、今のあいつの状況が分かっているのか!?」

キュウべぇ 「まぁ、おおよそは。彼女の狙いは魔女の内部からの破壊だったようだけれど、どうやら暁美ほむらは・・・」

竜馬 「どうなったってんだ?!言えよ!」

キュウべぇ 「魔女の口の中で、魔力が尽かけているようだ。君はもう知っているようだから言うけれど、彼女のソウルジェムがグリーフシードへと変化しかけているようだよ」

竜馬 「なんだと!」

キュウべぇ 「逃げるなら早くしたほうが良い。間もなくこの魔女結界には、二対の魔女が揃う事になるんだからね」

竜馬 「ば・・・ばかな。だって、あいつの魔力は今朝方に補充したばかりじゃねぇか。こんな早くに魔力が尽きるなんて話、聞いてねぇぞ!」

キュウべぇ 「僕も意外に思っている。だからね、竜馬。きっとほむらは今、なんらかの特殊な現象に襲われているんじゃないかと思うんだよ」

竜馬 「特殊なって、一体なんだよ、それは・・・?!」

キュウべぇ 「異常な魔力の消耗現象、そして異質な存在である君、くわえてマミの兄を名乗る武蔵のという男の登場・・・」

キュウべぇ 「”異質”がこれだけいっぺんに揃うなんて、そうそうある事じゃないよね。さて、これらに共通する事項はなんだろう?」

竜馬 「・・・?」

キュウべぇ 「いずれも、イレギュラーな出来事、または存在だという事だよ」

竜馬 「・・・!!」

キュウべぇ 「君との係わり合いが、ほむらの変調の原因じゃないかと、僕は思っているんだ。この仮説が正しかったとしたら・・・・」

竜馬 「まさか・・・」

キュウべぇ 「その鍵となりうるもの、それは君が捜し求めているものの他には、ありえないんじゃないのかってね」

竜馬 「・・・」


竜馬は呆然と立ち上がった。

物陰から身を乗り出した竜馬を、魔女が目ざとく発見する。

新たな獲物の発見に、魔女は嬉々として竜馬に向かい歩を進め始めた。

が、竜馬は逃げない。

魔女に向かって。

いや。

その中にいる、ほむらに。

さらには、ほむらと共にいるのかもしれない、あるものに向かって声を張り上げた。


竜馬 「暁美、待ってろよ!俺が今行く!!」

キュウべぇ 「逃げないのかい?」

竜馬 「暁美は、あの中で動けなくなってるんだろうが!?だったら、ここで俺が逃げたらあいつはどうなる!」

キュウべぇ 「まぁ、死ぬだろうね」

竜馬 「仲間が死ぬと分かってて、自分だけおめおめ逃げられるか!」

キュウべぇ 「無謀だよ。君がいくら強くたって、魔法少女の助けも無しに、一人で魔女に勝てるはずがない」

竜馬 「一人じゃねぇ」

キュウべぇ 「?」

竜馬 「癪だが、テメェの仮説を今は信じてやる。ゲッターが暁美と共にいるなら、俺は決して一人じゃねぇ!」


竜馬は駆け出す。

魔女に向かって。

いや、仲間と認めたほむらと、そこにいるであろうゲッターロボに向かって!


竜馬 「うおおおおっ、ゲッター!そこにいるなら返事をしやがれ!そして、俺に力を貸してくれ!」

竜馬 「仲間を!大切な人をもう二度と失わないため、俺にお前の力を再び貸してくれ!」

狙いを定めた魔女が、竜馬に向かって跳躍する。

躍り上がった魔女は空中で姿勢を整えると、後はそのまま一直線。解き放たれた鏃のように、竜馬を一口で食い殺そうと急降下してきた。

が、竜馬は避けない。

迫り来る魔女を睨みすえ、ひたすらに叫び続ける。

自分と武蔵と、そして散っていった仲間が命と青春の全てをかけた、己の分身とも言うべきマシンに向かって!

魂の限りに、叫ぶ!!


竜馬 「こいっ!応えろ!ゲッタァアアアアアっ!!!」

・・・
・・・


ほむら 「・・・」


唐突に、かつ急激に身体の力が抜けていった。

この感覚には覚えがある。

つい昨日、原因不明の魔力消耗に見舞われた時。

あの時に覚えた、頭の先から全身の体力が抜けていく、不快感。

あれとまったく同じだった。


ほむら 「ま、まさか・・・」


ありえるはずが無いと思いながらも、私は自分のソウルジェムの輝きを確認する。

一点の光すら射す事の無い魔女の口の中。その中にあって、唯一光を発っしているのは私のソウルジェム。

・・・だけれど。


ほむら 「・・・」


今や霞んではっきりとしない両目に鞭打ち、見つめた先。

そこに見えたものは・・・


ほむら 「濁っている・・・」


魔力が尽きる直前の、あの黒くくすんだ、おぼろげな光だった。

ほむら 「なぜ・・・だって、朝に魔力を補充したばかりなのに・・・」


自問しても、応えてくれる者はいない。

唯一つ分かっている事は、このままでは時を得ずして、自分のソウルジェムが砕けてしまうという事。

それは、人としての生を終え、魔女として生まれ変わる事を意味する。


ほむら 「なんとか、なんとかしないと・・・」


しかし、なんとかと言っても、一体どうしたら良いの・・・?

ここに魔力を補充させるためのグリーフシードなんて、存在しない。

お菓子の魔女を倒せばグリーフシードは手に入るけれど、戦うための魔力はすでに尽きている。


ほむら 「な、流君・・・」


助けを求めるように、私を仲間と認めてくれた人の名前を呼んでみる。

だけれど私のか細い声が、魔女の身体の外にいる竜馬に届くはずも無い。

・・・万事休すだ。


ここで魔女の餌として消化されるか。

それより早く魔女として生まれ変わるか。


ほむら 「どっちにしても、暁美ほむらは消えてしまう・・・」


自分が消えてしまったら、結界に取り残された竜馬はどうなるだろう。

マミが正気を取り戻してくれたら、結界の壁を破り逃げる事も可能だろうけれど、もしそうでなかったら・・・

そして、まどかは?

まどかはキュウべぇの誘惑から逃れ、人としての生を選び取ってくれるだろうか。

ほむら 「・・・ねない」


私は呟く。


ほむら 「こんなところで死ねない・・・っ!」


仲間を残し、まどかを置き去りにし、こんなところで朽ち果てるわけにはいかない。

ここで倒れてしまったら、私は私の願いすらも裏切ってしまう事になる。

まどかを守る。たった一つの道しるべさえも・・・!

そんな事、絶対に認められない・・・!!


? 「ならば、力を貸そうか?」

ほむら 「!?」

男の声が聞こえた・・・?

それも、私のすぐ側から・・・


ほむら 「ううん、違う・・・これは・・・側と言うよりも・・・」


むしろ、私の頭の中から、直接語りかけられてきているような・・・


? 「暁美ほむら。リョウが仲間と認めた女。お前が望むなら、俺がお前の力になろう」

ほむら 「リョウ・・・流君のこと?」


竜馬の言っていた、ある一言を思い出す。


”俺の仲間はみんな、リョウって呼んでたんだ。お前も、そう呼んでくれて構わないぜ”


彼の事を愛称で呼ぶなんて、この声の主はいったい・・・?

ほむら 「私の心に直接呼びかけてくる、あなたは何者なの!?」

? 「今、死なれては困るんでね。リョウや武蔵をこの世界に呼び込み、そして、元の世界に唯一戻す事ができる存在のお前に・・・」 

ほむら 「私が流君たちを、こちらに呼び込んだ・・・?」

? 「そう、お前こそが元凶だ。だが、文句は言うまい。お前もまた、世界のシステムの被害者の一人でしかないのだからな」

ほむら 「元凶って・・・あなたが誰かは知らないけれど、なぜそんな事を言われなくちゃいけないの!?」

? 「俺には全てが分かるんだよ。だが、細かい問答はまたの機会にしよう。今はただ、お前のたった一つの意志を確認したい」

ほむら 「・・・」

? 「虎口を逃れ、生き延びるための力。それをお前は欲するか」

謎の声。謎の存在。謎の問いかけ。

誰かも分からない声の主に、私は決断を迫られている。

彼の言っている言葉が、何を意味するのかは分からない。

ただ、本能が私に訴えかけてくる。

ここでYESと応えれば、もう後戻りはできないのだと。

だけれど・・・


ほむら 「聞かれるまでもないわ・・・」


ここで命が尽きれば、後戻りも何も無い。

一巻の終わりなのだ。

それだったら・・・!


ほむら 「誰かは知らないけれど、力を貸して!私はここで倒れるわけにはいかないっ!!」


私は尽きかけた力を振り絞り、竜馬の事をリョウと呼ぶ、謎の声の主に向かって声を張り上げた。

・・・
・・・


竜馬 「!?」


竜馬の直前。

突然にお菓子の魔女が動きを止めた。


キュウべぇ 「・・・竜馬、下がったほうが良い。あぶないよ」

竜馬 「・・・っ!」


後ろからのんきそうに呼びかけるキュウべぇの声が、竜馬の本能に危険を訴えかけた。

とっさに地を蹴り、後ろへと距離をとる。

その刹那だった。


お菓子の魔女 「---------------っ!!」


声にならない断末魔の叫びと共に、お菓子の魔女の身体が四散したのは。

竜馬 「うわっ、ちくしょう、なんなんだ!?」


降りかかる魔女の肉片に全身を汚されながらも、竜馬は何とか事態の把握に努めようとした。

魔女の血煙で視界が塞がれ、周囲はぼんやりと曇っている。

だが、血煙の向こうに竜馬は見た。

先ほどまで魔女がいた場所に、黒い巨大な影が佇立しているのを。

竜馬 「・・・あ、あれは」


全貌はいまだつかめない。

だが、その特徴的なシルエット。

大きさ。

全てが見えなくとも、竜馬に分からぬはずがなかった。


竜馬 「応えてくれたんだな・・・」


竜馬は影に向かって語りかける。


竜馬 「仲間を守ってくれたんだろ。な、ゲッター・・・」


やがて・・・

血煙の晴れた向こう。

そこに立っていたのは、見紛うはずもない。

竜馬や仲間達と幾たびの修羅場を潜り、共に傷つき合ってきた彼の分身とも言うべき存在。

ゲッター1の勇姿であった!

・・・
・・・


キュウべぇ 「あれが竜馬の言っていたゲッターロボとかいうロボットか。まったく驚いたよ、あんな物が実在するなんてね」

キュウべぇ 「それにしても、あのロボット・・・いや、あのロボットが纏うエネルギー・・・なんだろう」

キュウべぇ 「感じる。どういうからくりかは知らないけれど、あれからは僕達と同種の匂いがする・・・」

キュウべぇ 「・・・これは、僕たちの計画も一から練り直す必要が出てきたかもしれないね」

・・・
・・・


次回予告


謎の声に導かれ、ゲッターの力を手にした暁美ほむら。

しかし、依然として魔力消耗による魔女化の危険からは開放されていなかった。

そこで彼女は、ある心当たりに思い当たる。

そして一方で暗躍するキュウべぇ。彼の狙いとは一体なんなのか?


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第三話にテレビスイッチオン!

以上で二話終了です。

引き続きノンビリですが、三話でもお付き合いいただけたら幸いです。

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