勇者「勇者、凱旋。」(45)
のんびり進める。んじゃ。
勇者「お久し振りです。国王陛下。三年振り、ですかな?」
王「お主は…いつぞやの勇者か。今日は何用にて参った?」エッヘン
勇者「何用にて…ですか……」
賢者「……」クスリ
戦士「……フッ。」
騎士「………………」
王「…?」
勇者「まあ、良いでしょう。今日は報告に参りました。」
王「ほうほう。ほう。報告、か。…なんじゃ?魔王を倒してきたとでも言うか?」ニヤニヤ
賢者「フン。俗物の愚君が。」ボソッ
勇者「ええ。その通りです。陛下。」
王「な、何!?なんじゃと!?それは真か!?」ガタッ
ザワ…ザワ…ザワ…ザワ…
勇者「ええ。勿論。陛下に偽りなど語れましょうか。」
王「お、おお…し、しかし、証拠は!?」
勇者「証拠、証拠、ですか…」
賢者「…ボソ…ボソボソ…コショコショ…」
勇者「ああ…そうだな…」
勇者「国王陛下。こちらに魔王が常に身に付けていたマントがございます。」バサッ
王「おお!それは…間違いない…!二十年前、わしに宣戦布告してきた時魔王が装備していた物に相違ない…」
勇者「信じて頂けますかな?我々が、人間と魔物の、二十年間の戦いの歴史に、終止符を打ったと。」
王「ええ!それは勿論!皆!勇者様の凱旋じゃ!宴を開け!」
王「いや、勇者様、お疲れ様でした!貴方こそ、この国、いやこの世界の英雄にございます!」
勇者「国王陛下からその様なお言葉を賜れるとは、光栄の極みにございます。」
王「ハハハ…ええ…して、勇者様、出来れば皆の前で、今までの冒険のお話等…聞かせては頂けませんか?」
勇者「それが陛下の望みならば。」
賢者「三年前、他国に渡る必要があり、船を買うための資金援助を陛下に要求し、あっさりと断られた事も、包み隠さず、ハッキリと語りましょう……」
王「うっ…い、いやあ…ハハハ……」
勇者「申し訳ありません。何分、言葉遣いも知らぬ、小娘でして。」ペコリ
王「い、いやあ、とんでもありませぬ!ハハハ……」
勇者「そうですな…まずは、経験、そして階級の話をしていきましょうか。」
王「経験…?階級…?」
勇者「陛下がご存じないのも、無理はありません。これは冒険者の中でも理解出来ているのはほんのごく少数。」
賢者「毎日馬車一つ買える程の額の葡萄酒を飲み干し、舞踏会を開いて宴に勤しむ陛下に理解出来る筈は、ありますまい。」
勇者「賢者。」
賢者「…失言でした。」
勇者「経験…経験値、EXPとは、魔物や動物を倒した時に得られる物で、それにより、人、いえ、生物は強くなるのです。」
王「な、なるほど……」
勇者「そして、階級…レベルとは、その生物の力がどれだけの持っているか表したものです。基本的にそれらは数値で表されます。」
王「しかし、それは何処でどのように知れば……」
賢者「……………」ハアァ...
勇者「コラ。…まあ、それは少し、コツの様な物があるのです。頭に自分の姿を浮かべる。そのような……」
王「おお。確かに…頭に浮かべた体の上に、1と言う数字が…」
戦士「クッ…クククク…」プルプル
賢者「…レベル1。」
戦士「ギャーアッハッハッハ!!イッヒッヒッヒッヒ!!」ゲラゲラ
王「」
勇者「おい。お前ら。」
勇者「……まあ、そういう事です。…そして、ここで陛下に一つ、問いを出させて頂きます。」
王「はあ。」
勇者「まあ、あまり、大した問いではありません。…ずばり、全ての生物の中で最も経験値が大きいのは、どの生物でしょうか。」
王「す、全ての生物!?」
勇者「そう。全てです。ミジンコ等の微生物から獅子や虎等の肉食獣。龍やドラゴン等の魔物。全てです。」
王「む、むう…難しい質問ですな……」
勇者「陛下、時間切れにございます。」
王「おお!ハッハッハ!これは手厳しいですな!勇者様!」ガッハッハ
勇者「正解は…人間、でございます。」
王「人、間…?」ポカーン
勇者「ええ。何故か、強靭な肉体も、鋭い牙も持たぬ、人間でございます。」
王「な、なんと…」
勇者「不思議でしょう。と言っても魔王や四天王等の特別な魔物は例外です。」
王「それは、強い魔物でも、ですか?」
勇者「ええ。灼熱の炎を吐く竜より、そこに居るでっぷりと腹の膨れたセイウチの様な兵士長殿の方が、倍以上の経験値を手に入れられるのでございます。」
王「それはそれは…やはり人間には知性があるからなのでしょう…な……?」
勇者「おや、いかがなさいました?陛下。急に顔色が…」
王「勇者様、貴方は…何故、その様な事を……知っているのですか……?」
勇者「さあ?何故でしょうな…?」
賢者「……」ニヤリ
戦士「…クククク……」ニタニタ
騎士「…………………………」
王「貴方は、人を殺めた事があるのですか?」カタカタカタカタ
勇者「陛下、立ち寄った国で民を恐怖に陥れている賊が入れば、それを退治し、民を救うのも勇者の務めでございます。」
王「あ、ああ…なるほど…そういう事ですか……ハハハ………決して、人を襲い、経験を積んだ訳では…?」カタカタ
賢者「いいえ!まさか!小さな村を襲い一つずつ壊滅していったり等と…旅の勇者一行がするわけがございますまい?」ニヤリ
王「」ピタリ
戦士「賢者。」
賢者「別に良いだろう…知ったところで…いずれ…な…」ボソッ
王「本当なのですか?そんな…村人を皆殺しに……」カタカタカタカタ
勇者「陛下。我々はそれで得た経験で魔王を倒したのです。小さな村の百、二百と、この世界。大切なのはどちらですか?」
王「……そう…ですな……全ては大きな、永久の平和の為……多少の犠牲は……」
賢者「そう…多少の犠牲は…仕方がありませんな?」ニヤリ
戦士「クックック……」
王「…………」
賢者「そうそう。大人より子供の方が経験値は大きい事、ご存じですかな?国王陛下?」
王「………い、いや、知りませんでしたな。」
賢者「人間の子供を炎の呪文でゆっくり殺してからなるレベルアップはとても快感でしたな。」
王「…!?」ギョッ
賢者「甲高い悲鳴、助けを請う細い手、何度も母親に助けを求める小さな声と体。思い出すだけで………」ゾクゾク
勇者「賢者。」
賢者「ハッ。」ビクッ
勇者「少し我を忘れ過ぎだ。もう少し自制しろ。」
王「……っている……………!」
勇者「?何か…?」
王「狂っている!お前たちは!人間を殺して力を得る等!そしてその殺人に快感を覚える等とは!」
勇者「……狂っている……ですか……」フン
賢者「……」ギロリ
戦士「ケッケッケ……」クスクス
騎士「……………………………」
王「何がおかしい!お前たちは狂っている!お前たちは人間ではない!魔物だ!理性も良心も……!」
賢者「……」ドムッ
王「おう!?ガ…ハッ。」
勇者「賢者。腹パンはやり過ぎだ。」
賢者「加減は致しました。」
衛兵「陛下!」
王「なんでもないわ…この程度……」ムクリ
勇者「流石は陛下。見事な気概にございます。この勇者、感服致しました。」
勇者「陛下は仰いましたな。我々は狂っている、と。」
王「ああ…お前たちは狂っている……!」
勇者「私は今年で、齢二十となりました。」
王「そ、それがどうしたと言うのだ……」
勇者「十年の歳月を掛けて、やっと魔王を倒したのです。」
王「…………」
勇者「私は十歳の時に、この国の領土の西の果てにある村からこの王宮に召還され、魔王を倒す様命じられました。」
王「……それと、お前たちが狂っている事と、何の関係があるのじゃ。」
勇者「御言葉を返すようですが、陛下。十五に満たぬ子供に魔王を倒せ、とは。いかがなものでございましょう。」
王「………………」
勇者「私には、そちらの方がよっぽど狂気に沙汰だと思いますが。」
王「……くっ…………………」
勇者「それだけではございませんぞ。陛下。その五年後には、わずか十一の賢者を私に預けて。しかも賢者には両親も居たのに。わざわざ親から引き離して魔王を殺す為、戦えと。わずか齢十、十一の少年少女に。」
王「今では…すまぬと思っている……」
賢者「!!」ブン
戦士「おい!止せ、賢者。」ガシッ
賢者「話せ……!コイツ…殺してやる……!!今更後悔等…!」
王「………おぉおぉおぉ…………………」ビクビク
勇者「陛下。これほどまでに彼女の恨みは深いのです。」
王「………………………………」
勇者「私は思うのです。歴史は、過ちは、繰り返してはならない、と。」
王「……何が言いたい。」
勇者「陛下とて悠久の時を生き延びる事は出来ません。いずれ、次の世代に王座を明け渡す時が参ります。」
王「………………」
勇者「その時王となった者、いえ、時代の王達が、同じ過ちを繰り返さないように、これらの事はしっかりと形に残すべきだと思うのです。」
王「……どういう、事じゃ………」サッ
勇者「私が旅に出てから今までの陛下の行いや御言葉は、全てこの書に書き納めてあります。これの内容を纏めて、歴史書に記してはいかがでしょう?」
王「な、何じゃと……?」
勇者「陛下の今までの功績を書に記すのです。陛下の名が、歴史に刻まれるのですぞ?」
王「ならぬ!そんな事はさせん!」
勇者「おお!なんと!それは何故ですか?」ニヤァ
王「そ、それは………」
賢者「今までの行いに、疚しい事がなければ、何の問題がありましょうか。」
王「ならぬと言ったらならぬ!止せ!止してくれ!止めてくれ!」
勇者「…騎士、読み上げろ。」
騎士「○月、×日。国王、齢十の少年に勇者の任を与え、魔王討伐を命じる。」
王「誰じゃ!誰がこんな物を!」
勇者「分かっているのでしょう?陛下。私の幼馴染が書いたのだと。だからこそ彼女を殺した。己のした後ろめたい過去を、しっかりと書き記され、いずれ誰かに知られるのが怖かったから。」
騎士「□月、△日。A村にすむ少女、幼馴染が国王の息のかかった下手人に殺される。」
王「……何故、貴様らがそれを……」
勇者「まだ幼かった私は国内で己を鍛練していました。まあ、陛下は既に国の外にでもいるとお思いだったのでしょう。そのついでに立ち寄ったのです。あの村に。そして、村を出る前日、アイツは殺された。宿の部屋に血だらけで飛び込んで来て、寝ぼけ眼の俺にこの書を渡してアイツは死にました。間一髪、間に合った、のでしょうか。…いや、死んでいる時点で手遅れだったのか。わずか十歳の娘が、ですよ。」
王「………………………」
勇者「知っていたのでしょう?全て。何もかも。知っていた上で殺した。あまつさえ、自分は人を殺した事など無いかのように振る舞って。」
王「そこまでバレてしまったか。」
勇者「…………………」
王「わしは国の中では評判が良くてな。歴代最高の王などとも今では言われとるのだ。」
戦士「…」ケッ
王「それを、歴代最悪の暗君などとは書かれたくはない。どうか、それを捨てて、その中身も忘れてはくれんか?」
勇者「お断りします。」
王「ならば仕方ない。わしはどうあっても止めるぞ。お主らを殺してでもな。」
司祭「…………」ツカツカ
武闘家「…………」テクテク
魔剣士「……………」カツカツ
王「こんな事もあろうかと、傭兵を雇っておいて正解じゃったな。」
勇者「…………」
王「悪いが、お主らには死んでもらうぞ。」
勇者「……陛下、そういえば、大事な事を報告し忘れておりました。」
王「フハハッ!話を今更誤魔化そうとしておるのか!?無駄よ。お主らはここで死ぬ。」
王「この者達だけではない。後には何十、何百という数の傭兵がこの城には居る。いくら魔王を倒した勇者一行とて……」
勇者「我々は多くの人間を殺し、莫大な量の経験値を手に入れました。何度転生、転職しようとも余る程に。その中でも特に私は多く経験値を手に入れました。」
王「だからどうした?自分は強いとでも言いたいのか?」
勇者「ええ。というか、勝てる人間が居ないのです。……………大量の人間を虐殺し人の生き死にに関わり、おぞましい程の経験値を手に入れ、結果……私には、レベルという概念がなくなりました。」
王「…ん?なんじゃと。」
勇者「今の私には体力も魔力も攻撃力もありません。0にして無限。それが今の私のレベル。能力値です。」
王「……………………………………」
勇者「報告は以上です。」
司祭「嘘でしょ!?そんな…もしホントなら勝てる訳ないわよ…」
武闘家「まずいな…ズラかるか…?」
魔剣士「落ち着け。ハッタリだ。能力値が無限なんてのは聞いた事がない。」
王「そ、そうだ!ハッタリだ。…ゆ、勇者よ、そんな戯れ言を言って我々が動じると思うのか?」
戦士「…………」
賢者「…………」
勇者「ご安心を。私は戦いませんので。」
王「むっ?なんじゃと?」
賢者「その程度の傭兵等、私と戦士だけで十分、と申しているのです。」
司祭「へぇ……」
武闘家「ほぉ……」
魔剣士「ふむ……」
勇者「いや、待て。騎士、お前が一人でやれ。」
騎士「……………………………」コクン
王「ええい!どいつもこいつも舐めた口を!やってしまえぃ!」バッ
賢者「フン。まさに、愚君の俗物だな。」ニヤッ
騎士「………………………………」チャキン
_____________________
魔剣士「クッ…」バタ
武闘家「ガハッ…」バタリ
司祭「うぅ……」ガクッ
王「何故だ…最強の傭兵の攻撃が…全く効かぬ…じゃと…」
賢者「最強…?」フッ
戦士「聞いて呆れるな。」
王「…バカな……こんなハズでは……」
勇者「国王陛下。ここでお別れとは残念です。ですがご安心下さい。この国の国民、その全ての命…我々が貰い受けましょう。それゆえ、陛下は後世の事などは全く考えず、安らかにお眠り下さい。」
王「ぬおおおおおおお!!」
戦士「うるさい。」ザン
勇者「死んだか…」
戦士「間違いなく。」
勇者「砂漠の王国、港の帝国、邪教の教国、そしてこの国。」
賢者「世界の四大皇国は滅ぼしましたな。」
勇者「まだこの国の国民は滅ぼしてないぞ。」
賢者「兵士は皆まだ詰所。そこに火を放てば殲滅は容易。後は出口を塞いで国民を滅ぼすだけです。」
勇者「ん?」チラッ
戦士「衛兵と兵士長は騎士が既に。」
騎士「………………………………………」
勇者「うむ。まずはこの国の国民を滅ぼす。」
賢者「この国の国民を滅ぼせば世界の人口は魔王出現時のおよそ1/7となります。」
勇者「うむ。人口を減らすのはそれ位で良いな。」
戦士「その後はそれらの事を残りの人間共に教え、従えるだけですな。」
勇者「ああ。やはり人はよりよい指導者に導かれねばならん。次の魔王の出現までにな。」
賢者「兵士の詰所へ最大火力の火炎呪文を放ちました。兵士は皆死んだものかと。」
兵士「な…き、貴様それは本当か!?まさか、貴様らがこれを…!」
騎士「……」ズバン
肉片「」ヌチャ
勇者「相変わらず惚れ惚れする居合の技だ。賢者。検死に行ってこい。念のため、な。」
賢者「…はっ。」タタタッ
勇者「戦士、お前は出口を塞いで来い。」
戦士「はっ!」ダッ
勇者「ふん。バカな王め。籠城に備えて国全体を城壁で覆って出口を一つなんぞに絞るからこう言う事になるのだよ。」
-百年後-
魔王「フハハハハ!!愚鈍なる人間の王よ!宣戦布告に来てやったぞ!これよりこの人間界は余が支配する!抵抗したくばするが良い!こちらには戦う用意がある!今宵はその宣戦布告に参ったのだ!」
覇王「ほぉ…魔王がやっと来たか…てっきり前の年に来るものかと思って待って居たが、待ちぼうけだったのでな。忘れていた。……さて、小僧。宣戦布告と言ったな?」
魔王「お、おう…?…そ、そうだ!宣戦布告だ!これよりこの世界は余が支配してくれる!」
覇王「それにしても随分とテンプレートな魔王が来たものだ。そして何より、弱そうだ。うーむ…」
魔王「な、弱いだと!?今ここで斬ってやっても良いのだぞ!?」
覇王「無理だ。俺は神より強いからな。五十二年だか、三年だか前にそれが証明された。」
魔王「…????」
覇王「はぁ…じゃあ…俺の指先を良く見ろ。風属性の呪文で作った小さな球があるだろう?」
魔王「それがどうしたと言うのだ。」
覇王「見てろ。例えばこの部屋はこの城の上から二番目の階にあるが、これを俺の頭上に投げてぶつけるだけでここから上は消滅するからな。」
魔王「は…?」
覇王「そら。」ヒョイ カン バアァァン ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
魔王「ほ、本当に…上が…吹き抜けに…」
覇王「やれやれ…再建にまた時間が掛かるな……まあ、とにかくわかっただろう。今のお前と俺では天と土竜の巣程の差があるんだ。大人しく魔界に帰るか、ここで俺に斬られるか、それとも勇者が生まれるの待ってそいつに斬られるかのどれかの三択だ。」
魔王「え、えっと…」
覇王「まだ迷うのか。勘弁しろよ。二年前家臣二人が同時に謀反起こして俺を殺そうとしたんだよ。」
魔王「え。」
覇王「あんなの同時に片付けるのは10分ありゃ充分だったよ。けどそれで混乱した国民落ち着かせるのには一年、謀反に続こうとした奴ら全員八つ裂きにするのには更に三年かかるんだよ。正直お前に備えて勇者とか国力とかの備えで一年使ったのも充分勿体なかったんだよ。お前来なかったし。わかるか?それでどうしようと悩んでる所でお前が現れたんだよ。何を今更なんだよ!俺に更に一年使って魔王退治に対応しろってか?そんなんする位ならしきたりだの世の摂理だのなんかぶっ壊して自分で魔王ぶっ殺した方が早いわ。」
魔王「お、おう……」
覇王「だから帰れよ。もう。いや、もうホントお願い、帰って。頼むから。」
魔王「いやでもこっちも仕事なので……」
覇王「…ハァ…分かった。もう。良い。もう。居ても良いから。その代わり一年魔物出さずじっとしてろ。なんなら俺のこの城でゆっくりしてても良いから。とにかく邪魔すんな。良いな?」
魔王「お、おお?」
覇王「ぶっちゃけ今の俺の仕事大変なんだわ。全世界統率指揮して。魔王出現しても世界守る為に備えをして、国民が反乱しないように政策考えて。勇者も毎年毎年、お米見たいに生まれるもんじゃねえんだわ。十年に一人生まれるか否か位なの。桃栗三年柿八年、勇者生まれんの十五年。勇者生まれる前に魔王来たらどうすんの?先代にやってもらうしかないでしょ?大変なんだって。隠居して遥か遠い里で田んぼ耕してるオッサン先代勇者に魔王退治お願いすんの!43年前なんか、二回連続で勇者生まれなかったから死にたてホヤホヤのジジイ先々代勇者にザオリク掛けて魔王退治行ってもらったわ!どんだけ心痛んだと思うよ?しかもジジイ半分ボケてたぞ。勇者討伐してってお願いしてんのに野菜作り始めて!挙げ句の果てには世間話だよ。いやあ、勇者もこの野菜みたいに、ポイポイ生まれてスクスク育てば良いのにね、だとよ。ジジイ勇者が。そんぐらい大変なの。分かる?」
魔王「は、はい…あの、失礼しました……」シャッ
覇王「さて、帰ったか……久し振りに無邪気そうな奴みてついはしゃいでしまったな……」
覇王「二年前、あの二人が謀反を起こしてからしばらく笑える事もなくなってしまったからな………」
覇王「今、俺の横に居るのは……騎士と野望剥き出しにして近づいてくる家臣ばかりだからな………」
覇王「百何年前の俺の方が輝いてた…か。」
覇王「いや、止そう。これが俺の望む世界だ。神をも殺し、俺が地上に住む神となった以上、魔界から敵が現れても、人間が滅ばぬよう、導くのが俺の使命だ。」
終
本編の後もまだまだ続くよ!
けど今日はもう無理だ。んじゃ。
覇王「ん?なんだこれは。本?いや。日記か。」パラリ
賢者の日記
今日から日記をつけてみようかと思う。日記というのは始めてなので、なんだか新鮮だ。
とりあえず、今日までの事から書いてみようか。
三年前、私は王宮に召し出され、魔王討伐を命じられた。仲間は四歳年上の勇者様と九歳も年上の戦士。
勇者様と戦士の二人に引き合わされた後、私達は追い出される様に旅に出させられた。
拒否権等無かった。お母様とお父様とは長く会っていない。
三年前に拐われるように王宮へ連れ出された私を呼ぶ声。それが最後に聞いたお父様の声だった。
私はお母様とお父様の事を思いだしてよく泣いた。その旅に勇者様と戦士が慰めてくれた。
それが無ければ今の私は無かっただろう。二人にはしてもし切れぬ程感謝している。
よくよく考えてみれば最初の私は二人からすればどれだけお荷物だった事だろうか。
魔物に出会う旅に怯えて逃げようとする。使える呪文も下級火炎呪文と下級の爆発呪文だけ。
何故途中で捨てて行かなかったのだろう。やはり二人には感謝してもしきれない。
特に戦士には深く感謝している。私が魔物に攻撃される度に、庇い、反撃して敵を倒してくれたのだから。
三年間魔物と戦っているのに体に傷一つ無いのは間違いなく戦士のおかげだ。
しかし、それも今となってはそれも必要ない。戦士や勇者様に迷惑をかけぬよう、ひたすら回避を訓練したのだから。
今の私は、物理攻撃ならボスクラスの攻撃すらほぼ100%の確率でかわすことが出来る。
全ては勇者様と戦士が鍛え、助けてくれたおかげだ。私は、一生二人について行こうと思う。
………パラパラパラ………
二人と旅に出て四年の歳月が経ち、魔王の城へ行く用意も整った。
人間を殺してレベルを上げる、と聞けば聞こえは悪いが、それらは全ては賊なのだと戦士は言っていた。
私より年下の子供も居たが、それらは皆、刃物を持って私に襲いかかってきた。
賊とは言えやはり子供なので、殺すのは少し気が引けたが、やらなければこちらがやられる。
戦士にその事について話すと、戦士はすまない、と私に謝った。
どうやら自分が不甲斐ないせいで私が辛い思いをしているのだと考えているらしい。
私はそんな事は無い、と戦士を抱き締めた。戦士は少し恥ずかしそうだったが、すぐに抱き締め返してくれた。
最近の勇者様は様子が変だ。歩いている時、戦っている時、何時でも何かを考えている様に見える。
今日も何処か遠くを見つめていた。何を考えているのだろうか。聞いてもはぐらかされるばかりだ。
きっといつか話してくれる時が来るのだろう。私はそれを戦士と共に待てば良い。
………パラパラパラ………
旅に出て五年、やっと魔王を倒す事が出来た。勇者様は体力、魔力共に無限。戦士は体力が無限。
私は魔力が無限だった。それが、人間を虐殺して得た力。魔王ごときが敵う筈は無かった。
魔王を倒した後、勇者様はこれまでの旅で知った事、そして、これからの世界の事を話した。
魔王は二十年に一回程、決まった時期に私達の住む世界…人間界に現れる事。
世界の国と国王達の様子を見る限り、次、魔王が現れると世界が魔王に支配されてしまうかも知れない事。
自分が世界の四大国を滅ぼし、残った人類を統制すれば、魔王が何度現れても世界を守れる事。
そして、自分達は、年を取らない、と言う事。
正直、私は四大国を滅ぼす等、考えた事も無かった。そして、滅ぼしたく等無かった。
国王ならまだしも、そこに住む民には何の罪も無い。私は嫌だ、と言った。
勇者様は譲らなかった。四大国を滅ぼす事で世界の均衡を崩し、人間同士の争いを止める。
そして自分が世界の王となり世界全てを統べる事で、世界全体の国力を上げ、魔王に備えるのだと。
しかし、私は言った。そこまで言うのなら勇者様が次の魔王も倒せば良いのだと。
実質私達は不老不死の様なものだった。次の魔王もその次も、自分達で倒せば良いと。
しかし、次に勇者様は恐ろしい真実を述べ、恐ろしい予言をした。
次の魔王を私達が倒すと、それは人間達の戦争を激化させる事に繋がる、と勇者様は言った。
以前、私達が生まれる前、魔王が倒された事をきっかけに、四大国の大戦が勃発したと言う。
世界四大国大戦と言われたそれは数に表せぬ程の命を奪ったらしい。
結果、四大国それぞれでクーデターが起き、王が暗殺される事で、戦争は終結したと言う話だった。
そして、次の魔王を私達が倒した場合、今度こそ四大国とそれらの属国の間で第二次世界四大国大戦が勃発し、世界が滅ぶと言う。
魔王を倒しても滅ぶ。倒さなくても滅ぶ。それを避ける道はただ一つだと勇者様は言った。
四大国を滅ぼし、他の小国と村々を統制し、支配する。その上で魔王を新たに生まれた勇者に倒させる。
その事実を知った以上、私と戦士には二つの選択肢しか残されて無かった。
四大国を滅ぼすか、世界を滅ぼすか。
実質的に、私と戦士に残された道は一つだった。
今後の方針が決まった後、勇者様は私達に完全に悪人を演じる事を提案した。
悪人を演じれば恐怖、と言う感情が生まれ、人を支配する事が容易になる。
また、狂人を演じれば、これまでの事を筋道立てて説明する必要も無くなる。と言う事だった。
私も、元僧侶の戦士も、初めは勿論嫌がった。
だが、勇者様の一言で、二人とも納得せざるを得なくなった。
誰かが悪人を演じ、罪を背負わなければならない。それが、業と言うものだ。
私は二人についていく。そう誓った。迷いは無かった。
気絶して倒れていた騎士を見つけたのは話を終え、城を出る直前だった。
瀕死ではあったものの、息はあった。
傷だらけでありながら生き絶える事無く、また魔物に見つかる事も無かったのは、彼の幸運だ。
私達は彼を馬車に運び込み、城を後にした。
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