色事師P、誕生する (183)
おれが社長に見出され、性技の極みに到達するに至ったのは
まったく偶然の出会いからだった。
「うわっ、な、なんだね。君は」
社長が初めておれに言った言葉がそれだった。
(※このSSは性描写を含みます)
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無理もない。おれはその時『たるき亭』の男女共同トイレの個室の中で
女性従業員の裸体を想像しながらオナニーしていたからだ。
「わっ」
突然の来襲者に驚いたおれは勃起した肉棒をしごき続けるのも忘れ
身体を硬直させたまま、開いたドアの前に立つその男と目を合わせていた。
男の視線がおれの下半身に移動して、ますます目を見開いた。
「たまげたなぁ…」
これは後で知ったことだが、この社長は自分のペニスよりデカイのは
生まれてこの方50年は見た事が無かったため
おれのことをとんでもない逸材だとその時に直感したらしいのだ。
ここで知らせる必要性が生じたので言っておくと、おれのペニスの勃起時サイズは全長20cmをゆうに越え
先端の亀頭部は明治製品『きのこの山』のチョコ部分のようにカリ首とカリ高がしっかりしていて
陰茎の直径は缶ビールと缶コーヒーの中間に相当するぐらいだと思ってもらえば、その大きさが分かるだろうか。
しかしその巨大さのあまり高校の時付き合っていた彼女からセックスを拒否され
未だ貫通を果たしていない哀れなペニスでもあるのだ。
「君、うちで働いてみないかね」
次に男が目を合わせ、そう口を開いた瞬間、おれは自分の不運を嘆いた。
「いいや、私は怪しい人じゃない。芸能事務所を経営しているんだよ」
「はあ」
とるもとりあえずおれたちは連れ立って『たるき亭』の店内フロアに戻り
今度はテーブルを共にすると、男が勧誘話の続きを始めた。
おれは今すぐにでも逃げたかったのだが、オナニーの現場を見られてしまったという
弱味をこの男に握られている以上、迂闊に動けないのだ。
仕方が無くおれは彼に話を合わせる振りをして、断り口上の糸口を探ろうとした。
「あの、一体、どういうゲイ能事務所で…」
「うむ。この上で765プロダクションという事務所を構えていてね。
私はそこの社長をやっているんだよ。昔はプロデューサーもやってたんだがね。
いやなに、私はそちらの方は既に引退しているんだ。
今では一人か二人ばかりの馴染み相手を満足させればよい」
「あの、まったく話が見えないのですが…」
「とどのつまり君の巨根は芸能界に役立つんだよ。
あたり構わずオナニーにふける性欲。
想像だけで射精に至ろうとするイマジネーションの豊かさ。
しかもそうでありながら外見的には目鼻立ちも申し分ない好青年。
まるで昔の私を思い出すようだ」
社長がテーブルから身を乗り出して、おれの肩を掴み、熱い眼差しでそう説いた。
そして彼は立ち上がり、おれを手招いて言った。
「さぁ、場所を変えよう。私の車に乗りたまえ」
「ひっ!
す、すいません。すいません。
そちらの方面は申し訳ないですが、まったく興味がありませんので
本当に勘弁して下さい。もう二度とあの場所でいたしませんので」
おれはテーブルの上に頭を擦り付けて、平身低頭、謝罪した。
しかし社長はおれの首根っこを掴むと、ずんずんと店外まで出て行ってしまい
遂には店のすぐ前に止めてある車の助手席ドアを開くと、その上におれを投げつけ
素早い動きで向かい側に回って運転席に乗り込んだ。
エンジンを掛けると社長は言った。
「シートベルトを締めたまえ。君が逃げないようにスピードを飛ばす」
その言葉どおり、車は加速を帯びて車道の上に躍り出た。
「あ、あの。ど、どこへ行くんですか」
おれは慌ててシートベルトを締めると、運転席の社長に尋ねた。
「風俗店だ。君にはまずそこで一か月ほど修業してもらう」
社長に伴われ、とある風俗店の一室に通されると、薄暗い部屋明かりの中に
既に下着姿の女が二人いた。年は18~22ぐらいだろうか。
二人ともどちらも瑞々しい肌の下に美しいスタイルを備えていた。
社長がベッドの上に服を次から次へと脱ぎ棄てると
一人の女がそれらを順にハンガーに掛け、開いたクローゼットの中にしまい込んだ。
すっかり全裸になった社長はおれに向き直り、言った。
「プロデューサー業とはだね。
何を差し置いてもセックスで相手を満足させる事が一番重要なのだ。
その意味が分かるかね」
服を片付けた女が社長の股間の下にいざり寄り、太く逞しいペニスを口に含み始めた。
「アイドルとはファンの男の性欲や願望を受け止める存在でなければならない。
しかしそれには裏で充実した性生活があってこそだ。
信頼するプロデューサーの肉棒に支えていらればこそ
彼女たちは辛く苦しい仕事にも懸命に向き合えるのだよ」
女が音を立てて亀頭を舐め回すと、社長のペニスが徐々に反応を見せ
さらに愛しげに口を前後にしゃぶり出すと、遂には初老の男性のモノとは思えぬ
肉棒が雄々しくそこに屹立した。
「どういう事かまったく分からないのですが」
もう一人の女がおれの近くまで寄ってきて上着を脱がしに掛かったので
促されるままに服を脱ぎながらおれは社長に言った。
「あの、つまり、芸能事務所のプロデューサーとやらを
社長の事務所で、働く事はもう決定済みなのですか」
「その天性の長所を活かせる職業はAV男優か
花盛りのアイドルを率いるプロデューサー業だけだよ」
社長が素っ裸になったおれの下半身を見、笑いながらそう言った。
この時、おれのペニスはすっかり勃起していて、来るべき歓喜の予感に震えていたのだ。
おれの服を片付けた女に手を引かれ、おれたちは部屋の中央にある二組のダブルベッドのうち
左側の方に上がり込むと、既に社長たちは右側のベッドの方でシックスナインの体勢に入っていた。
「ところで君は」
枕に頭を乗せて、顔近くに差し出された女性器のクリトリスを舌で舐め
膣口に人差し指を出し入れさせながら社長がおれに言った。
「セックスの経験はあるのかね」
「いえ、ないです」
ベッドの上に寝転ったおれは、顔上に跨った女がパンツを脱ぎ捨て
指で徐々に膣を広げるさまを眺めながら喘ぐように言った。
「いやもう、これを生で見るのも初めてで」
「は、は、なるほど。じゃあたくさんと経験しなければならないね。
君、女を知るには、やはり場数だよ」
社長が笑いながらそう言った。そして彼は一段と強くクリトリスを吸い上げた。
「あぁ」社長の頭の上で女が腰をくねらせながら歓喜するように身を震わせた。
彼女が達したことを確認すると、社長はクリトリスから口を離し、おれに言った。
「いかんせん我々のようなサイズだと、普通にセックスしようとすると恐怖心を相手に抱かせてしまう。
つまり、まず、相手を絶頂に導いてからでないと、膣の方でわれわれを受け入れる準備が出来ないのだよ。
だからこそ、愛撫をマスターしないといけない。まず、自分が誠心誠意を込めて相手に尽くすのだ。
そうでないと、相手の方は君に尽くしてくれないだろう」
「なるほど、分かりました」
社長の言葉におれは頷き、目の前の女性器を彼の指南の下に愛撫を加え始めた。
「そう、クリトリスは私たちで言えば亀頭みたいなものだ―――
「優しく時には強く吸いたまえ。女性が何を求めているのかを想像力を働かせて―――
「君、手がお留守になっておるぞ。乳首をいじるか、膣の入り口付近の裏側辺りをこすりたまえ―――
「あっ、強くし過ぎると駄目だ。繊細に、世界最高の宝物を扱うようにするのだ―――
「夢中になっているな。いいぞ。いいぞ。その調子だよ―――
「んっ」
おれの口元に女性器を預けて、両足の太腿をおれの頭の間に挟んだ格好の女がそう言って
腰をびくりと浮かせたので、女陰から糸を引かせた唾液を後に唇を離し、おれは女の顔を見上げた。
すると女は目元を赤らめさせておれを見た。次におれが社長を振り仰ぐと社長は笑っていた。
「今のがイッたというやつだ。君はなかなかスジがいい」
そして社長は隣のベッドの上にもう一人の女を押し倒すと、その両足を押し広げて
おれに見せつけるように、期待に満ちてぬらぬらと濡れている膣を指した。
「本当はもっとイカせてからでないと
やっと待ちかねたという心境でないと
大きな満足感を与えられないと思うのだが。
今回、きみが初めてとのことで、君の方が辛抱できないと思うから
挿入の段階を先に教えておく」
「私が思うに」
社長のコンドームを被せたペニスの亀頭部分が徐々に膣の入り口に消えていく。
「われわれ男性が女性に対して、スレンダーやセクシーさなどの理想な女性像という願望を抱くように」
あぁぁあと切なげに小さく呻く女の声をよそに社長のペニスが半分近くまで侵入してゆく。
「当然、女性たちの方でも男性に対して、ある種の理想像があるのだ」
と、半分ぴたりでペニスの侵入を止めると、今度はゆっくりと後ろに引き
膣の入り口付近を重点的に擦り付けるように、スローテンポな前後動作を始めた。
「彼女たちは謙虚と恥ずかしさからその願望を直接口には出さず
ある程度での固さや長さでいいと慰めを込めた嘘偽りの言葉を言っておきながら
その実、寂しさ――膣の隙間をすっぽりと完全に埋めてくれるような
そういう巨大な逞しさを持つ男性を心底から望んでいるのだよ」
と、社長がそう言うと、今度は膣の奥までペニスを深々と突き刺した。
「あああ」女が大声で喘ぎながら、社長にしがみつくように両手を背中に回し
開いた両足をぴーんと天井に伸ばした。その光景を見て、おれは思わず生唾を飲んだ。
社長がすぽんとペニスを膣から抜いて、おれを振り返り言った。
「だからこそ、私が君をスカウトした理由も分かるね。
君のその巨大なペニスは、しかるべき鍛錬を与えれば
女たちの心を掴まえて二度と離さない立派な武器となるだろう。
そしてそれはプロデューサーとして働く人にとって
アイドルたちと信頼関係を作る大きな助けとなるのだよ」
とはいってもセックスでアイドルたちと信頼関係作りとは
あまりにも非現実的でもあり突飛過ぎる話で、未だ半信半疑のおれは社長に言った。
「理屈では分かるような気がしますが、そう単純に行くんでしょうか」
「それは大丈夫だ。かつて私が同じ事をやって成功できたのだから」
と、社長が鷹揚に頷いて言った。ふと彼の眼が昔を懐かしむような色合いに変わり
「私がプロデュースした彼女は間違いなく、一時期スターに最も近い人だった。
彼女は私の期待に応えようと懸命に頑張ってくれ、私も裏で彼女に奉仕した。
………有難いことに、アイドル業を引退した今でも彼女は私の為に働いてくれているよ。
とはいっても私の方で結婚する気が無かったから
彼女の中では私との性体験はノーカウント扱いになってるがね。
ともあれ昔の小さな事務所であそこまで彼女の名を売れたのは
特別な繋がりが私たち二人の間にあったからだと私は今でも信じているよ」
「……なるほど」
「しかし―――」
社長の目が今度はおれを値踏みするようにぎらりと光り、強い口調で言った。
「君を私の後継者として見込んだからこそ言うが
今後の君のセックスは自分の快楽の為でなく
アイドルたちの為に行うものでなければならない。
自分の欲を捨て、君はセックスを仕事として扱うことになるのだよ。
セックスにおいては何が何でも彼女たちを決して失望させてはいけない。いいね?」
社長の気迫に圧され、おれは思わず身震いして頷いた。
そして、その日、おれは社長の指南の下に女二人を相手に前戯、挿入、後戯の訓練を受け
それぞれ十度以上、射精し、未来のプロデューサーとなるべく初日の特訓を終えた。
何故これほど射精したのかは、第一におれが童貞だったからであり
第二に社長の慧眼の通り果てしれぬ精力がおれの中に眠っていたからであり
第三に社長の手ほどきを受けた女たちの具合が格別に良かったからであり
また今後はおれが自由気ままに射精できないだろうからという社長の温情があったのと
初めに強い刺激を与えれば徐々に刺激に慣れていくとの育成方針からだった。
特訓を終え、服を着終えたおれたちは、社長の車でおれの家まで送ってくれるとの事で
御厚意に甘えさせて頂くことにし、風俗店を出た。その途上で社長はおれに言った。
「これで私は一通りのセックスのやり方は君に教えた。
私の方も事務所の仕事があるから今後は君に付き合えなくなるが
後はあの店で君流のセックスを練習してくれればいい。しっかりやってくれたまえ」
「は――わかりました。これからの相手はやはりあの二人でしょうか」
「いいや、あの店には全員で13人、いる。既に店の支配人には300万円払って話をつけてある」
「300万!」
「安いもんだよ」
社長がおれに笑って言った。
「アイドルのスキャンダルを防ぐための投資なら、ね。
君以外の男に抱かれたくないとまで思うようになれば週刊誌の話題にもなるまい」
「はい――頑張ります」
おれは決意を新たに漲らせて社長に頷いた。
これほどまでおれを買ってくれ、高額の資金を投資してくれたのだ。その期待には応えねばなるまい。
社長が続けて言った。
「そして君がプロデュースするアイドルの数もまた13人。
順調に行けば一か月後には彼女たちと会えるが、その前にまず君はあの風俗店の13人を陥落させねばなるまい。
風俗嬢だって女だ。百戦錬磨の彼女たちは、分かりにくいが、確かなアプローチを君にする。
いいか。君は毎日決まった時間にあの店へ行け。そしてスケジュールの合う女とセックスするんだ。
それを繰り返し、君のセックスが成長して達人の域にまでなれば
やがて彼女たちは、君が店に来る時間に合わせて出勤するようになるだろう。
そうなれば私は君を課題に合格したと認めて、13人のアイドルたちを任せよう――」
「社長!」
「期待しているぞ。
未来の、765プロダクションを、アイドルたちを支えるプロデューサー君」
社長の車が目的地のおれのアパートの前まで着いたので、おれは社長に礼を言って降り
そして車が闇夜にかき消えてなくなるまで、深く一礼してその場を動かなかった。
翌日、社長の言いつけ通りに昨日と同じ風俗店に行ってみると
髪を七三に分け固めた四十過ぎの支配人風の男がおれを出迎え
この時間帯に今居る店の娘はこれこれだといって写真の載ったアルバムを見せてくれた。
それでようやくおれは昨日の出来事が紛れもない現実であることを理解した。
驚いたのは昨日は気付かなかった事だが、店の壁に掲げられている料金表から
この店が相当高級な風俗店らしいことだった。60分100000円とは
おれのアルバイトの生計が一回当たりで3分の2ほど吹っ飛ぶ形になる。
支配人がおれに言った。
「それにウチの店は若さがウリで、どれも年齢偽りなしだよ」
その他に延長や大車輪(女性二人指名)などのオプションも他の客と被らなければ
好きなだけやってもらって構わないという説明も受け、この日おれは昨日抱いた女のうち一人を指名した。
この後、およそ三十日に渡っておれは平均年齢19才の風俗嬢13人を相手に
猛特訓を繰り広げることになるのだが、物語上のテンポを重視する為に
特訓の箇所をあえてくだくだしく描写する事は避け、次にダイジェストで報告するに留める。
これは決して面倒だから描写を諦めたというわけではないので、読者諸氏には御理解して頂きたい。
【特訓風景】
二日目から七日目まで十三人を相手に一通り性交しおれの顔と名前を覚えてもらった。
この辺りはまだおれの前戯の技術が追い付かず、挿入の段階になると苦痛の表情ばかりを浮かべていたので
後戯で心を込めたフォローをし、至らない点があったらすぐに言ってくれと紳士的に接する事を学んだ。
十日目になると初めに抱いた女の性感帯が手に取るように分かってきて、また彼女は後背位が好きでもあったので
アナルセックスも頼めばやらせてくれるようになり、注意深く扱えば肛交も大きな満足感を与える事を覚えた。
以後、彼女は最後の日まで、おれが店を訪れる時間になると必ず店に居てくれた。
十四日目にもなってくると十三人の女のそれぞれの好みのタイプがおのずと分かってくるようになり
一方は荒々しい方が好きだったり、また一方は物静かな方が好きだったりするので
そこら辺の機微を洞察と演技によって掴みとり、それぞれ態度を変えて接するようにした。
すると十七日目までに十三人のうち六人とは仕事上がりの後、一様に食事を奢ってもらい、ホテルや家でセックスした。
二十日目には射精のタイミングも自由自在に管理できるようになり、相手する女が五度はイカなければ
おれの方も射精しないようにとペニスを意のままに扱えるようになった。「死ぬ死ぬ」とセックスの最中に
おれを抱きしめて叫んでいた女が事が終わり「ね、あなた。この頃スゴク余裕が出てきたじゃない」と
熱っぽく見つめてきたのが印象的だった。また別の女はこうも言った。「最近のキミ、臭いが凄いよね。雄の強烈な臭いというか…」
ともかくおれに特訓の成果が顕著に現れつつあるようだった。
二十六日目になると会う女たちはおれに指名された喜びをいっぱいにして隠そうもせず
言ってもないのに自らペニスをしゃぶり出し懸命におれに奉仕するようになった。
それはまるで初日の社長に対して示した女の反応と同じようであった。
おれも彼女たちに負けず懸命に奉仕し返し、おれと一緒に居る間は、お互いの陰部に一時も渇きを与えさせなかった。
三月三十一日―――この日、三十一日目の約束の日まで、やがて十三人の女たちは支配人を通じて
おれの来る時間に合わせて、こぞって空白のスケジュールを用意するようになったので
ここで社長はおれに翌日からアイドルたちをプロデュースさせる事を決断した。
オープニングここまでです。導入まで長くなってすみません。
765プロのアイドルたちとの絡みが無いので飛ばしても結構です。
こちらから765プロのアイドルたちを相手にします。
お付き合いよろしくです。
≪一人目と二人目。――天海春香と如月千早の場合≫
春もうららかな快晴日和、そんなさ中の765プロダクションは一時の喧騒に包まれていた。
話題はもっぱらと新しくやってくるというプロデューサーの事であった。
朝、社長が765プロダクションに所属するアイドルたちを一同に集め
「君たちに朗報がある。我が765プロダクションでは人手不足ゆえに
これまでレッスンやオーディションを君たち一人だけに任せていたが
やはりと言うべきか、活動に臨むやる気や対策などで不十分な面があり
君たちの才能をなかなか活かし切れなかった。
そこで今まで黙ってはいたが、私は君たちのパートナーとなるに相応しい若者を探していた。
それに相応しい最適な相手がこの前やっと見つかり、これまで秘密裡に研修を施していたが
遂にその彼が与えられた課題をクリアしたので、今日からプロデューサーとして765プロダクションに合流する。
新しいプロデューサー君との二人三脚で、君たちのアイドル人生が花開くように一層に頑張りたまえ」
と、喜色を隠し切れない様子で発表したのがそもそもの発端である。
当の社長本人は上記の内容を喋り終えた後に、それでは彼を迎えに行ってくる、
と言い残してさっさと事務所を出て行ってしまったので
後に残されたアイドルたちは当然ながら自分たちの今後の展開や
これから来るプロデューサーは一体どんな人かという予想を話題にしないでいられなかった。
事務所の窓側に面したソファーに対になって座る天海春香と如月千早もその中の二人だった。
「新しく来るプロデューサー、ね。一体どんな人なのかしら。音楽に造詣が深い人だといいのだけれど」
藍色の美しい長髪を物憂げにかき上げて小さな唇が動いた。
華奢な体格に神経質そうな雰囲気を帯びたその美少女は
765プロダクションに所属するアイドルの一人、如月千早に他ならない。
「大丈夫だよ。新しいプロデューサーさんは社長が選んだ人でしょ。だったら安心だよ、千早ちゃん」
と、天真爛漫な笑顔を千早に向けて、安心させるように言うのは
これも765プロダクションに所属するアイドルの一人、天海春香。
常に前向きで楽観的な見方をする春香は、千早が心を許す数少ない友人の一人だった。
あまり明るくなさそうで起用するイメージに相応しくない、歌ばかり上手くてもトークが出来なくては……
などの理由でオーディションに不合格し、その度に塞ぎ込んで悲観的になる千早をいつも励ましてくれるのが春香だった。
『千早ちゃんの歌は本当に凄いから大丈夫だよ。きっと誰かがいつか認めてくれるよ。だからまた一緒に頑張ろ、ね』
彼女も千早同様にオーディションに落ちて苦しい筈なのに、本当に心底からそう思って言うのだ。
『ありがとう……春香。あなたも残念だったけど…ええ、次は一緒に合格できるように、ね』
指導するプロデューサーの居ない765プロダクションで
この美しい二人はお互いを励まし合い、揺るぎのない友情を築いていたのだった。
「ええ、そうね……」
その後に、私たちを引き合わせてくれた社長だもの――、と言い掛けて千早は止めた。
とても恥ずかしくて口に出せなかったのだ。照れ隠しの代わりに千早は言った。
「もしもプロデューサーが音楽に詳しくなかったとしても、私たちが教育すればいいだけのこと。
そうでしょう、春香?」
「ふふっ、千早ちゃんは相変わらずだなぁ」
二人の間で続いていたそんな会話が破られたのは、唐突に事務所の扉ががちゃりと開き、帰還者の到着を知らせたからだ。
春香と千早を含めた事務所の中の全員が一斉に入り口の方を見た。
「やあ、君たち。今、戻ってきたぞ。紹介するよ、彼が新しいプロデューサーだ」
社長の後に続き、凛々しい顔立ちと、スーツの下の骨身に均整のとれた筋肉を具えた若者が入ってきた。
彼は事務所の中に居る女たちの顔を一人ずつ見回すと、にっといたずらっぽい片えくぼを作った。
それは、水もしたたるような愛嬌ある笑顔で、自然と女たちの心にさざ波を立たせないでいられなかった。
「ええと、今日から765プロダクションでお世話になります。よろしくお願いします――」
次に社長が、隣の若者に集まる好奇心の視線を制するように言う。
「プロデューサー君の当面の業務だが、まずは天海君と如月君の担当をしてもらう。
いきなり13人も受け持つのは大変だろうから、その二人から徐々に慣れてもらうことにする。
君たちは三人は会議室へ行って、これからの方針を話し合うといい。
他の子たちは、まず自分たちのすべき事を、新しい指示が下るまで引き続き行うように、以上!」
……
…
…
……
「あの、お茶です。どうぞ」
春香が隣室から三人分のお茶を運び、震える手で会議室の机上にお茶碗を置くと、プロデューサーは頷いた。
「どうもありがとうな。ええと、天海春香さんか、春香でいい?」
「え、ええ! もちろんです!」
春香が何故か慌てた様子で頷いた。さきほどから続く匂いが原因で
胸が奇妙に高鳴っているのを、プロデューサーに気取られせないためだった。
プロデューサーの真向いの椅子に座り、視線を所在無げに動かしている千早も
同様に懸命に自分自身を落ち着かせようとしていた。
彼女たちの心に妙な胸騒ぎを起こさせる、この匂いは、目の前のプロデューサーから漂ってきていた。
彼はこの日も社長が迎えに来るぎりぎりまで、多数の女たちに要請されて風俗店で性交していたので
おそらく匂いの元は、彼の肉体に染み込んだ女たちの歓喜の汗と彼自身の精臭が混じり合ったものなのだろう。
しかし、そんな事情は風俗店に彼を迎えに行った社長と、彼しか知らない。
ましてや、処女の春香と千早にとっては、むろん精臭を体験した事もなくセックスが原因など想像の範疇外のことだ。
それでも現に匂いに触れた二人の心をかき乱さずにおれないのは、女の本能から来るものかもしれない。
「如月千早さんも――、千早でいいか?」
「まあ、なんでも、いいですけれど」
下の名前で呼ばれ、一瞬どきりとした自分を振り払うために、千早はわざと早口で言った。
「こうして話している時間も惜しいので、出来るだけ、早めに済ませてレッスンに行きたいのですが」
「おや、ストイックなんだな、千早は。
だが打ち合わせをする時間もレッスン同様に大事だ。さぁ春香も座って」
プロデューサーは笑いながらそう言って、春香を千早の隣の椅子に促した。
春香が空になったお盆を机上に置いて、あわてて椅子に腰掛けると
一枚の紙を手に持ったプロデューサーはそれを見ながら続けた。
「ふむ、二人のこれまでのオーディションの戦績は、一勝六敗。――なぜだ?」
プロデューサーの視線がじろじろと春香と千早の身体中に注がれる。
「しかも、どれも最終選考まで残ったりと、良いところまでは行っている。
確かに、春香は美人で、千早は可愛いから、当然と言えば当然なんだが」
「び、美人…」
「か、可愛い…」
二人は頬を紅潮させて、驚きの表情でプロデューサーを見た。
天真爛漫な明るさを持つ春香は愛玩動物のような可愛らしさがあり
長い青髪と張り詰めた雰囲気を辺りに漂わせる千早は冷淡な美人といった方がふさわしく
また二人も今まで周りからその通りに見られてたし、そうも言われてたから
プロデューサーが逆の言葉で二人を褒めたのが意外だったのだ。
しかし、二人を見るプロデューサーの眼は真剣そのもので
そこには嘘偽りが微塵も混じっていなかった。
見つめられる二人の方もどきどきとしながら、黙ってプロデューサーの言葉の続きを待った。
すると途端にプロデューサーはにっと笑って言った。
「は、は。さては、お前たち、自分の事で精一杯で、周りからどう見られているかという事を意識していないな」
「周りからどう見られているか…それはどういうことでしょうか」
そう口を開いたのは千早だった。自分の事で、の部分に触れなかったのはそれが図星だったからだ。
プロデューサーは頷いて、簡単なことだ、と言う。
「社長がまず俺に、二人を任せてみたくなった気持ちも、こうして見ると分かる。
お前たちは、自分の内に眠っている要素を、知らず知らずに相手に見出して求めているんだ。
春香は千早の美しさに。千早は春香の可愛らしさに。
しかし、本当はそれらはそれぞれ、自分の中にもある。
それを上手く引き出してやれないだけだ。その方法が今まで分からなかっただけだ」
「あ、あの、その方法とは何でしょう?」
次に口を開いたのは春香だった。
プロデューサーの抗しがたい言葉の魔力にふらふらと魅入られたのか
まるで熱にうなされた様子でかすかに喘ぎながら春香は言った。
「私――、確かに、千早ちゃんみたいになりたいと思った事がたくさんありました。
千早ちゃん美人だなぁ、千早ちゃん本当に綺麗だなぁ、って何度そう思ったかも分かりません。
で、でも、顔かたちは生まれつきのものだし…って諦めてたんです。
私、頑張ります! このままじゃ今までみたいにオーディションも失敗続きのままで…。
だから、アイドルとして成長するために、千早ちゃんみたいになれる方法があるなら……教えて下さい!」
「春香…!」
千早は春香のひたむきに目標に突き進む性格を、もちろん知ってはいた。
しかし、春香が、これほどまでに切羽詰めたような思い入れを
アイドル活動に対して密かに抱いていたとは千早には想像もしなかったことだ。
オーディションに落ちても次だよ次と、と健気に振る舞う春香。
その裏に失敗への恐怖、そして危機感が嵐のように渦巻いていたとは!
千早も歌に関しては、誰にも負けたくない、最高の音楽をこの声で奏でたい
という目標や自負心はあったが、それらはボーカリストへの願望であって
春香の持つ天性の可愛らしさに憧れや羨ましさは抱きこそすれ
千早が理想とする歌手にはやはり不要なものだと判断し、自然と諦めていたのだった。
「そうか…春香の気持ちは分かった。……千早は? 千早はどうなんだ?」
「わ、私は――」
プロデューサーに問われ、千早は一瞬逡巡した。
そして、千早の小さな唇が、微かに動き始める。
「分かりません。春香みたいな可愛らしさに憧れはあるのですが、私には、やっぱり歌しか無いから。
自分の歌を磨けば成功するというイメージしか……もちろん、このままだと、ダメだと思ってはいますが」
「ですから」
顔を上げた千早の眼に青い炎が宿っていた。
向上心に燃える瞳を、プロデューサーの顔に定めながら千早は言った。
「春香がプロデューサーの指導で、私の目から見ても、オーディションの結果でも効果が表れたのなら
私はプロデューサを信用します。プロデューサーの言う通りに、何だってします。
ですから、春香に指導する時、私にもご一緒させて下さい!
この目で確認してみたいんです。プロデューサーを信用していいのか、どうかを」
「千早ちゃん……」
「そうなると、俺と春香のレッスンに千早も来ることになるから
千早にも同じレッスンを受けてもらうことになるが」
と、プロデューサーが穏やかに笑いながら言った。
千早が、あ、と小さく口を開け、隣で春香がこくこくと頷いた。
「うん! プロデューサーさん! 是非、千早ちゃんも一緒に!」
「二人ともそれでもいいか? 俺は厳しくやるつもりだぞ」
「望むところです!」
「プロデューサーさん! よろしくお願いします!」
「ああ、春香、千早。これから、一緒に頑張っていこうな」
と、照れながら言うプロデューサーの人懐っこい笑顔に釣られて
春香と千早は微笑みながら同時に強く頷いた。
「……ところで普段のダンスレッスンとかはどこでやってるんだ?」
三人の結束の余韻を振りほどくように、プロデューサーが春香に言った。
「えぇと、都内のレッスン場ですね。レッスン日はそこを半日ほど事務所の名前で借りているんです」
「つまり貸切ということか」
春香がこっくりと頷いた。
するとプロデューサーは途端に押し黙って、二人の身体の線を頭のてっぺんから爪先まで眺め始めた。
その冷やかに観察するような目線に、春香と千早は少したじろぐ。
笑うと見事な愛嬌があり、相手に一切の警戒心を与えないような青年の顔が
こうして黙って相手を見ている時だけは、切れ長の眼に冷酷たる光を帯び
観察相手の心情を理解すれども同時に蹂躙する事も厭わないといった
酷薄な美しさを感じさせる風貌に変わるのは、どういう事だろうか。
これを春香は、社長が見込んだ人だからかな…仕事モード(?)ってやつになるとスゴイ、と感想を思い
千早は、厳しい人なのね…いえ厳しさこそが私の望んでいた事…どんなスパルタでも耐えてみせる、と解釈したので
次にプロデューサーが口を開いた提案にも、少々戸惑いながらも、二人は受け入れることが出来たのだ。
彼の要求は『明日のレッスンの時には、一段小さめの下着を着用して来てくれ』というものだった。
千早は家に帰ると、何も言わずに真っ直ぐに自分の部屋の中へと入る。
荷物を扉の下に無造作に置いて、ベッドに寝っ転がった千早は、しばらくして自分の視線が落ち着きなく
天井と衣類箪笥を行き来していることに気付いた。そして、その事を意識すると千早は少し顔を赤くした。
当然ながら今、千早の頭を占めているのは、プロデューサーが提案した下着の件のことだ。
彼は今日初めて会った千早と春香に、布面積のサイズが小さいパンツを着てレッスンに出てくれと言ったのだ。
そしてその意図は教えてくれなかった。明日になれば分かる事だとはぐらかされたのだ。
だが着用して来なかった場合は明日一緒に買い出しに行くぞと念を押されたので、遂に二人は承諾してしまったのである。
もう、どういう事なのかしら…
と、千早は呟く。
既に彼女の視線は横向きになっていて、衣類箪笥の下着類を収納した引き出しの箇所でぴたりと止まっていた。
そこを見る彼女は、青色のローレグのパンツだとかピンクの可愛らしいパンツだったり
引き出しの中に入っている筈のパンツの種類を思い浮かべては、いちいちそれを身に付ける自分の姿を想像していた。
あ、おなかすっぽりや、生理用のは…駄目ね
千早はふらふらと立ち上がり、衣類箪笥の前に行き、実際に確認する事にした。
ローライズだったりTバック系のショーツの中からさっさと適当に選べばいいものを
何の為かはろくに分からず、彼女は明日身に付ける下着を真剣に検討する気になったのだ。
ええと…その、可愛い下着があれば、いいのだけれど
誰かに向かってか予防線の類のような事を呟きながら、千早は衣類箪笥の引き出しに手を掛けた。
その時、携帯の着信音が部屋に響いた。着信音は扉の下に置いた鞄の中から鳴り響いている。
相手は、春香だった。
『あ、千早ちゃん。今、家にいる?』
「春香。ええ、今、家よ。どうしたの?」
『あ、――うん。今、帰りの電車に乗る前に、駅デパートに来てるんだけど』
「駅デパートに?」
と、すぐにある予感が頭を巡り、千早は言う。
「春香――。まさか、あなた、その、下着を」
『……うん。だって、これまで深く考えてこなかったから、今の、あまり自信がないんだもん。
それでね、千早ちゃん。今、ランジェリーショップ屋さんに居るんだ。だから、アドバイス欲しいなって」
「それはフェアじゃないわ。春香」
『フェアじゃない?』
電話の向こうできょとんとした春香の声が聞こえる。
咄嗟の事で言ってしまい、千早はあわてて取り繕うように続けた。
「ああ、なんでもないの。うん、アドバイスね。ええ、私で力になれるなら」
『わぁ、凄い。ほ、ホントに買っちゃった…』
千早と携帯で話すこと30分。春香が選んだのは小さなピンクのリボンが
前面に付いたメッシュの二重構造のTバックショーツだった。
二重構造というのは股の大事な箇所には「X」の中央点を下にずらして
ピンポイントに重なるようにクロッチが形作られているが
それ以外の下腹部、つまり「X」の上、「V」の部分は
ピンク色の薄地のメッシュで覆い隠されているものの肌が透けて見えることになり
むろんTバックタイプであるから後姿の臀部の割れ目に沿っては一本の筋がぴんと張っているに過ぎない。
千早と携帯で相談しながら様々な下着を手に取ったり試着してみた春香だったが
Oバックや膣が露わになるオープンクロッチなどは大胆で扇情的過ぎるので
初めから試着するまでもなく敬遠し、ローレグやハイレグは春香の持ち物にも
数種類あるとの事で惹かれる候補を幾つか試着したりと悩んだもののこれらも見送り
どうせならと最後に試着してみたのが冒頭のTバックショーツだった。
これを春香は大変気に入ったようで、『着心地も良いし、大人っぽい雰囲気が出て凄いんだよ』
と携帯の向こうで、今までのを試着したよりも一番はしゃぐので、千早が「それにしてみたら?」と背中を押したら
『う、うん…。これ以上、時間を掛けると帰りが遅くなっちゃうし……じゃあこれにするね』
と、購入を決断したのだった。ごと、と携帯を床に置いた音がし、次に、着替える布切れの音がして
その雰囲気がとても大人っぽく感じたので、千早は思わず「あの…それ…明日、見せてね」と小声で言った。
『ありがとう。千早ちゃん』
駅の改札口に向かう途上で春香が携帯の向こうで言った。
自分の部屋のベッドに腰掛けて、今まで春香の相談を受けていた千早は頷いて、
「いいのよ。春香。あの…ええと、私の方もそろそろ下着を選ばないと…だから」
『えっ、ええと、ごめんね。千早ちゃん。…私、邪魔しちゃって』
「あ、大丈夫。春香のおかげで、私の方も段々とイメージが掴めてきたから…」
『そう、それなら良かった。……ね、千早ちゃん。
千早ちゃんは、プロデューサーさんをまだ信用していないと言ってたけど
私が言い出した事で、千早ちゃんまで無理に付き合わせる形になっちゃって、ごめんね…』
「えっ、春香。私の方はそんなに…」
と言って千早は、あっ、と思った。
プロデューサーの提案を断るという思考が、今までの千早の頭の中から
丸々と抜け落ちていた事に、春香の言葉で気が付いたのだ。
千早の方では言葉巧みに乗せられたのか、あまりにも直接的な発言に面食らったのか
これまで明日に向けて、プロデューサーの要求に春香同様に応えるつもりでいたのだった。
携帯電話の中の会話で準備しようとする千早の姿を確認し、春香はそれを自分の所為で
望まない事を強いてしまったと反省し、千早に詫びているのだろう。
親友の言葉で自分の置かれている立場に気付き、少し恥じ入りながら千早は言う。
「そ、そうね。私はあくまでも、プロデューサーを信用していいかを確認する為で。
ええと、春香の為にレッスンに同席するだけであって、その、私まで、あの人の要求に従う必要はないわね」
『そう――よかった。千早ちゃん。プロデューサーさんには、私から言っておくから、ね』
携帯の向こうから響く安堵の声。しかし、それは妙に千早の心をざわつかせた。
千早はその苛立ちが何から来るものか、分からないままに春香に言った。
「あの――春香。あなたはプロデューサーを信用するの? 今日会ったばかりのあの人を」
『確かに、信じるかと言われたら、まだよく分からないけれど』
春香は、ぽつりぽつりと語り出した。
『プロデューサーさん言ったよね。私が千早ちゃんに憧れてるって。
……初対面でそう言われるとは思わなかったんだ。
だって、千早ちゃんは綺麗だし、歌は誰にも真似できないくらい上手だし。
千早ちゃん凄いなあって、いつもそう思ってたんだよ。
でもこのままじゃ私、いつか千早ちゃんに置いてかれる』
「春香。そんな事は」
『ううん、いいの。私が勝手にそう思ってるだけ。…ね、千早ちゃん。
私を応援してくれる人の為に、765のみんなや、千早ちゃんとずっと一緒にいる為に
私、もっと頑張らないといけないと思うんだ。
でも、オーディションも不合格続きだし…どうすればいいか分からなかった。
そう焦ってた時に、あのプロデューサーさんが来たから』
「春香」
『――うん。だから、今はプロデューサーさんを頼ってみようと思うんだ。
私の気持ちを汲んでくれた、あの人なら、私、なんだか変われそうな気がするから。
それに、いきなりあの要求はびっくりしたけど、頼み方も直球で潔くて
何か意図があるんだろうって分かったから、別に嫌じゃなかった。
現にこうして……買っちゃった訳だから……
…えへへ、私、カッコいい男の人に弱いのかなぁ』
「そうだったの、春香」
千早は微笑を小さく浮かべて言った。
友の真意を知った安堵感と、プロデューサーに対する感想が自分と瓜二つだったのが面白く感じ
まったく力が抜けたように穏やかな気持ちが千早の心中に広がりつつあった。
そして、春香の真意を知った今、千早の方にも覚悟が決まったのだった。
しかし、次の言葉を切り出す時、千早は緊張した。
何の違和感もなく受け取っていて欲しい、とさえ思った。
「あの…春香。あなたが頑張って現状を変えたいという気持ちは分かるわ。
ええ…そう、私も春香と同じ気持ちなの。このままじゃ良くないって私も思ってる。
…それで、社長が言ったように、プロデューサーは私のプロデューサーでもあるわけでしょう。
…だから、私の方もあの人の要求に従うのが筋なんじゃないのかしら。それに、一度は承諾したわけだし。
ええと、歌に因果関係があるかは分からないけれど、何か意味があってのことでしょうし
……ねえ、私も春香と一緒に頑張りたいの。
だから明日のレッスンや、これからの指導も春香と同じ条件で受けようと思うの」
そして千早は、春香の返事を黙って待った。
待っている間に、彼女は自分の心臓の鼓動が早まっている事を意識せざるを得なかった。
『……うん、そうだね! 千早ちゃん、一緒に頑張ろう!』
しばらく間があって、そう無邪気に喜ぶ春香の声が返ってきて、やっと千早は安心する。
安堵の微笑を浮かべながら千早は親友に言った。
「ええ、春香。これからも一緒に頑張りましょう」
……
…
…………
………
溺れる者は藁をも掴むという故事ことわざがあります。
春香と千早の心境を故事ことわざになぞらえて例えるならば
迷えるアイドルはPをも掴むとなりますが、この物語は稀代の色事師Pのお話であって
このPがどういう存在なのかを彼女たちが知るのは、いよいよこれからとなります。
………
…………
翌日正午。765プロダクションのアイドルたちが利用している
都内某所の貸レッスンスタジオに三人の滞在者がいた。
二人は牡丹も羨むような美少女で、もう一人は不可思議な色気を漂わせている若者だ。
若者は昨日765プロダクションに合流したプロデューサーで
彼は、今、自分が担当している美少女の二人、天海春香と如月千早が
更衣室から出て来るのを、飄然とした様子で椅子に座って待っていた。
一方、既に準備が終わっているはずの春香と千早は未だに更衣室から出られなかった。
彼女たちの上下は、プロデューサーに用意されたエクササイズウェアを身に付けていた。
上半身は黒一色のシンプルなスポーツブラで、これは彼女たちのそれぞれの胸囲に合わせたとのことで
肌にジャストフィットしており実に動きやすそうで、下半身のスパッツも一丈という短さながら履いてみれば
程好い締め付け感でこれもまた運動に適した素材だったが、問題はその下半身スパッツの透過率なのだった。
そのスパッツは運動には適していても、透過率を抑制しておらず、中身を人の目から守るという最重要項を果たしていないのだ。
すなわち、昨日、春香が悩んで購入したピンク色のTバックショーツと、千早が寝る間も惜しんで熟選した
ブルー色のローライズビキニショーツが、それを身に付ける人肌とともに白日の下に晒されてしまうのだった。
いや、これには理由があるとプロデューサーはこの衣装を渡す際に二人に言った。
アイドルとは大勢の人々から見られる事を前提とした職業であるから
ファンの特に男性の視線を意識すべきで男性の耳目を集めることに
慣れていなければならない。そしてまたアイドルは売春婦のように
容易く脱いではならない。有難味が無くなるからである。AV女優
などは肉体を晒して商売をするがああいうのは衣服を着たままで
注目を浴びる技術が無いからテレビタレントに進出しても際どい服
を着なければ他のスターたちと並んで立つと埋もれてしまうのだ。
またアイドルはバックダンサーではないから彼らと並んで踊っても
群を抜いて注目されるようでなければならない。バックダンサーは
振付に従い踊るのが仕事であるがアイドルは注目を浴びるのが仕事
だからである。春香と千早がオーディションに落ちるのは服を身に
付けたままで他の候補者たちより注目を浴びる技術が無いからだ。
そしてその技術は男性の注目を浴び続ける事により次第に洗練され
てゆく。注目されたい気持ちと実際に注目を浴びる事により技術は
さらに向上してゆくのだ。また注目される事にも慣れる必要がある。
一週間後のオーディションに合格するにはこの方法が最善だと思う。
節々の理屈が通っているようで、その実、一気に飛躍する上の論理であるが
プロデューサーはこれを春香と千早の近くまで寄り、二人の目線に合わせて
真実味の込もった物言いで、ゆっくりと噛んで含めるように言うので
最後には二人も納得させられて、衣装を受け取り、更衣室へ入っていったのだった。
ところがいざ下着も含めて着てみれば、更衣室の鏡に映るのは、見事に透けた下半身の姿であって
この姿のままプロデューサーの前に出て行くのは、処女の二人には著しい心理的苦痛を伴うことだった。
「プロデューサーさんは、ああ言ってたけど……
でも、これは無理だよぉ…千早ちゃん」
春香が目元に小さく涙を溜めて、千早に言う。
春香は昨日購入したショーツの選択に時間を掛けなかった事を、この時になって甚だしく後悔していた。
年端もいかぬ処女とはいえ、やはり女のたしなみとして、春香も今日の為に陰毛処理をきちんと施していて
数センチ程度のクロッチで隠された箇所もそれ以外の箇所にも、陰毛は殆ど薄くしか見えていない。
しかし、問題はその二重構造のクロッチなのだ。
直立不動に近い姿勢では動かなかった、この二重構造のクロッチが
例えば開脚などの股を大きく開く動作をすると、それに伴いオープンクロッチ型に
移行することが、この更衣室で装着してみて初めて分かったのだ。
もちろん不良品でもなく、そういう意図で作られた下着である。
その上に透過するスパッツを着けてみても、少し股を開くと
オープンクロッチの中から処女の薄桃色の膣が微妙に覗いてくるのは確認済みであった。
この仕様に気が付いてたら、即座に別のショーツを選んでたに違いないのだが
既に後の祭りで、この時ばかりは春香も自分の注意不十分な性格を激しく恨むしかなかった。
「春香…」
如月千早は責任を感じていた。
先ほどから更衣室の扉の下にうずまくって、羞恥に震えている春香の姿。
携帯電話の会話ゆえに確認できなかったとはいえ、春香にその下着を購入するように勧めたのは
千早だったし、プロデューサーから説明と共に渡されたエクササイズウェアを真っ先に受け取り
春香を先導するように、更衣室に入ってすぐに着替え始めたのも彼女だったからである。
もっとも千早が後者の行動を取ったのは、プロデューサーの説明の中に挑発的な響きを感じ取り
元来、生真面目で負けん気気質な彼女の性格が刺激されたからに他ならないのだが。
「千早ちゃん、本当に綺麗……」
千早が着替え終わると、バッグの中からこれから身に付ける予定の下着を取り出したばかりの
春香は、ほぅとため息をつくように言った。
鎖骨から腰に掛けてほっそりとした曲線、細くしなやかに引き締まった肢体、透き通りそうなほど白く輝く肌―――
胸部の隆起を大いに欠けるとはいえ、その短所を打ち消して余りある華奢な美少女の肉体美がそこにはあった。
更衣室の鏡に映る自分の姿を見、千早は頬を羞恥に染めて言った。
「やだ……やっぱり、恥ずかしいわね……」
千早の目は鏡の中の自分の下半身に止まっていた。千早が身に纏っていたスパッツは
彼女が昨夜選びに選び抜いた、ブルー色の極浅のローライズショーツを容赦なく剥き出しにしていたからだ。
誰にも見せた事の無い千早の処女の秘裂部分は花柄をまぶしたクロッチで保護されているとはいえ
極浅の布は膣肉をわずかに食い込ませ、ショーツの全体は臀部の双眸の割れ目半分までしか庇護されていなかった。
「……こんなことになるなんて……もう少し余裕があるのにしてたら……」
喘ぐようにそうつぶやき、でも、と千早は思い直した。
確か…プロデューサーは駄目だったら、一緒に買い出しに連れて行くと言ってたわ
変に余裕があるのにしてたら、これよりもっと過激なのを買わされて無理矢理履かされる羽目になるのかも…
それに…私が持ってるもので彼のリクエストに沿えそうのがこれだけだったから、仕方が無いじゃない…
…それに、うん、大丈夫、春香も一緒にいるのだから
そして伏し目がちに千早は、露わになっている尻の割れ目部分を両手の平で隠しつつ、春香を振り返った。
顔を赤くして春香は頷き、更衣室内に異様に高まる緊張と興奮を敏感に感じながら、着替え始めた。
その後に春香の下着に関する欠陥――悲劇は起こったのだ。
如月千早は責任を感じ、そして彼女の怒りの矛先はプロデューサーへと向けられた。
千早は落ち込む友を慰め、怒気を含めた声で言う。
「春香、止めましょうよ。スパッツだけ履き変えて、普通にレッスンを受けるようにしましょう。
こんな恥ずかしい思いをしてまで、レッスンを受ける必要ないじゃないの」
しかし、春香は首を振った。
「駄目だよ、千早ちゃん。
せっかくプロデューサーさんが、私たちの為に服まで用意してくれたんだし……。
お願い千早ちゃん、先に行ってて。私は、まだ決心が付いていないだけだから……」
「春香……」
千早は自分を見上げる春香の真摯な瞳に、眉を曇らせて、
「でも、春香。大丈夫なの? あの…それ、見えちゃうんでしょう?」
「ん…でも…角度的に、下から、見られなきゃ大丈夫かなって。
でも、出て行くのにちょっと勇気が要るだけだから…千早ちゃん、先に行ってて
私も後からすぐに行くから」
「そうなの…? じ、じゃあ分かったわ」
と、春香の気迫に圧されて、ついに千早はこくりと頷いた。
春香が退いた更衣室の扉の前に立つと、不意に千早の心臓が早鐘のように鳴り始めた。
「…じゃあ後でね…春香」
千早は深呼吸し、扉のカギを開けると、震える手でドアを後ろ手に引いた。
「やあ、千早」
壁一面の鏡板を背に椅子に座っていたプロデューサーが
更衣室から出てきた如月千早の姿をみとめて、立ち上がる。
千早はプロデューサーの背後の鏡板に映る自分の姿に少し躊躇し
それでも意を決すると、プロデューサーの所へとおそるおそる歩を進めた。
「千早――」
プロデューサーの彫の深い顔立ちがフッと優しげなものに変わり、彼の方も千早に近付いた。
千早は両手をスパッツの前に重ねて、頬を紅に染めながら、プロデューサーの方に向かって歩き
レッスンフロア内のちょうど中央位置で、二人は恋人同士の再会のようにぴったりと対面した。
ぴったり、といったのはプロデューサーの最後の歩幅が、千早の想像以上に大き過ぎたからだった。
千早の鼻先が、プロデューサーの白Yシャツの襟に触れるほど二人は接近していた。
あっ、と思い、身体を少し後ろへ下がろうとする千早の手首を、プロデューサーの手が力強く掴んだ。
両手首を掴まれた瞬間に、心臓がドキンと飛び出しそうになり、思わず千早は目を閉じた。
その美少女の耳朶に、優しい声が下りてくる。千早、可愛いよ。
千早が目を開くと、プロデューサーの顔が目の前にあった。
千早は、平均的成年男性より一段大きい彼の掌によって自分の両手首を一つに纏めて
頭上に持ち上げられ、無防備な美少女の全身を彼の前に晒す格好となっていた。
そして彼の眼は、千早の下半身にジッと注がれている。
この状況下を理解すると、千早は途端に全身の血潮が熱くなったように感じ、内股を必死によじらせて
「離して!」
と叫ぼうとした。
その刹那、千早の開いた小さな唇を、プロデューサーの唇が塞いで舌が侵入してきた。
ファーストキスを奪われた瞬間、千早は大きく目を見開き、自分の身に何が起こったのかがまるで把握できていなかった。
「ッ……!」
歌姫の可憐な口内が、厚みのある男の舌に吸われ、嬲られ、無遠慮に蹂躙されている事に
千早は息詰まるような苦しさと共に、濃厚な白い靄に覆われた脳髄の奥で、次第に快感の音が強くなり
抵抗する気を徐々に失い、この無法行為を半ば受け入れ始めている己の姿を意識せざるを得なかった。
「……」
そして今では千早の方も目を閉じて、自分の小さな口内への蹂躙を
侵略者の為すがままにさせている。
変化に富む舌の動きは、千早に抵抗の意志が無くなった事を確認するや、荒々しいものから
優しいものにと変わり、千早の舌には直接触れず、ジワジワと焦らすような小さな快感を作り出して
彼女の舌の動きを誘った。
「ン…」
ついに千早が焦れて自分の方からプロデューサーの舌に触れると、彼の舌はその誘いに応じ
彼女の舌を隅々まで味わうように舐め尽くしてやり、その都度に痺れるような快感を千早の脳髄に送った。
あ…頭がぼーっとする…これ…気持ち良い…
やがてプロデューサーの唇が離れると、千早の顔はすっかり締まりの無いものに変わっていて
無意識的に潤んだ瞳でせがむような視線を彼に送った。しかし、彼は笑いながら言った。
「春香が更衣室から出て来たよ。千早」
え…春香が…?
そのプロデューサーの言葉で我に返ると、いつの間にか彼は既に千早の両手首を解放していた。
彼は普段と変わらぬ表情に戻って千早の前に立ち、千早もその前で直立の姿勢を取っている。
嘘…いつから…?
千早は背後を振り向くことが出来なかった。
代わりに、彼女は自分の指をそっと唇に触れてから、少し俯いた。
背後からは春香のものと思われる足音が迫ってきていて、不安げな千早がプロデューサーの顔をちらりと見ると
その目は背後の来訪者の姿を観察するように、しっかりと捉えていた――。
パァン!
不意に千早はカッと煮え滾るような怒りを覚え、とっさにプロデューサーの頬を右手の平で張り飛ばしたのだ。
千早の平手打ちの音は、実に小気味良く、レッスンフロア内に響いたのだった。
「わっ!?―――ど、どうしたの!? 千早ちゃん!」
次にそんな春香の驚愕の声がフロア内に響き、たたた、と足音が大きくなった。
到着した春香がプロデューサーと千早の間に挟み込むように入り、ぎょっとして目を見開いた。
千早は春香を見ていなかった。プロデューサーを睨みつける千早の眼には鬼気迫るものがあった。
「ち、千早ちゃん…」
春香には、眼前の千早の怒りが理解できていない。
恥じらいに俯きながら、更衣室から出てきた春香の眼には
千早とプロデューサーがレッスンフロア内のちょうど中央で立っていて
二人とも春香の到着を待っているようにしか見えていなかったし
ましてやそんな二人が、先程まで熱狂的なキスを交わしていたことなど想像だにし得ない。
それ故に千早に張り飛ばされた後の、プロデューサーの行動を、春香はもっと理解することが出来なかった。
無言の千早がプロデューサーの顔に、第二撃目の平手打ちを加えようと右手を頭上に振りかざした――その時。
プロデューサーの身体がずいと前に出て来て、彼は素早く千早を抱き締めた。
右手は千早の細い腰に回され、左手は千早の首元のうなじに張り付くように添えられ、そのまま彼は千早の唇を吸った。
千早の目が驚愕に見開き、右手でプロデューサーの後頭部の髪を掴んで引っ張ったり
もがいたりしていたが、二人のキスの強弱の音が部屋中に響いていく内に
彼女の抵抗は段々と弱々しいものになっていた。
しばらくしてプロデューサーが顔を離すと、涎にまみれた千早の顔はすっかりと火照り切っていた。
数秒後、ハッと正気に戻ると、千早はきりと眦を決して、第二撃目の平手打ちをプロデューサーの頬に喰らわせた。
パァン
レッスンフロア内に、皮膚の張った音が響いた。
しかしプロデューサーはその再度の平手打ちを意に介さず、身体を引き寄せて再び千早の唇を貪り出した。
「ンン……!」
今度のキスは、まるで男が女を屈服させる事を目的とした激烈さを帯びていた。
しかし、千早はプロデューサーの意図を知るやいなや、たちまちにその凌辱に容易く屈した。
如月千早の先天性のマゾヒズム気質が刺激されたのか、単なる息苦しさからプロデューサーの舌の侵入を許したのかは
近くで見る春香には分からなかったが、唇同士が触れ合ってからの二人の烈しい唾液の交換、舌を出せ、とささやき
それに応じる千早の舌をじっくりと舐るプロデューサー、そして千早の口腔へ心ゆくままに行われる舌や指の侵入
―――強姦は、これまで見てきたどの恋愛映画よりも生々しく、過激で狂想的な光景だった。
それが春香の目の前で繰り広げられているのである。
彼女は白痴のように一部始終をひたすら見守るしかなかった。
胸の内に拡がる疼きと息が徐々に荒くなるのを感じながら……。
三度目にプロデューサーが唇を離したとき、如月千早に抵抗する意志はとっくに失くなっていた。
冷たい美貌の顔が弛緩し、架った唾液の橋の向こう側にいる男を眺める瞳は、ぼんやりと潤んでいた。
しかも二人の身体は密着したままである。その事が千早に、傍らに春香が居るという事実さえも忘れさせて
彼女は自分の右手でプロデューサーの頬をそっと撫でて、次のキスを遠回しに催促する為に
撫でた頬の近くに自分の顔を寄せて、それきり黙った。
するとプロデューサーは千早の両瞼を目隠しするように、左手で覆い隠した。
「ん……ぁ」
プロデューサーの手が触れた瞬間、千早はピクリと肩を震わせたが、口吻の甘美な愉しみを共有した当事者の一人として
この状況で取るのが最も相応しいと思える行動を、賢い彼女はただちに悟り、実行に移した。
目隠しされた千早は、自分の口元をプロデューサーが接吻しやすいように彼の方に傾けてやり
それからおずおずと口腔を開いて、期待と唾液に塗れたピンク色の肉塊を、褒美を待ち侘びる犬のように差し出した。
如月千早は異様に興奮していた。
彼女は己の口、唇、舌に新しく与えられた役割に没頭し、夢中になっていた。
今までの千早にとって、口、唇、舌とは歌を奏でる為の器官だった。
プロデューサーによって穢され、丹念に陵辱されるまで、彼女はこれらの器官に
このような役割が隠されていて、しかも没入すればするほど陶酔感をもたらすとは思いもしなかったのである。
それは恋に憧れる女子中高生を満足させる為に創作された、虚構の中だけの出来事だと決め込んでいたのだ。
プロデューサーの巧緻な愛撫の技術に先導されて、お互いを求めて、溶け合い、一体化してゆく
官能の世界に引きずり込まれた千早は、歌う為にあった器官が、生の実感と歓喜を知らせる器官にも
変化しうる事実に魅了され、今や青い果実は性的刺激の虜になっていた。
それにプロデューサーから求められる事は、千早にとって自尊心が認められた思いがし、確かな幸福感さえあったのだった。
彼とは一目会った時にいずれ遅かれ早かれこうなるだろうという直感があったし
そうでなければ、私が許す筈がないし、こんなにも喜ぶ筈がないのだ。
相手でなければならないという理由を、無意識に探し求めたら、恋の第一段階だという。
そういう意味では千早は、対象が彼自身なのか彼の技術なのか曖昧なまま、スタートを迎えることになったが
この相手でなければならない行為――恋をしているといえた。
しかし、その事に彼女が気付くのは、もっと後のことである。
分厚い男の手で目隠しされたまま、犬畜生のように舌を晒け出している千早は
頬から耳朶まですっかり紅潮していて、息も切れ切れといった様子になっている。
みっともなく舌を差し出しているという事実と
それに対する褒美――口腔への蹂躙がなかなか与えられない状況に
周りの様子が見えない千早は焦れて段々と不安になっていた。
彼女は、自分が待っているということをプロデューサーに伝える為に自分の右手を
彼の首元に移動して、微妙な力加減を加えて引っ張り込む仕草をしたし
屈辱感に堪えながら口腔を一層大きく開けて、彼の顔の位置を予測し、進んで舌を差し出しさえもした。
しかし……まだ、その官能の報酬は与えられない。ますます千早は不安になる。
やがて、彼女の耳元で誰かが囁いた。
「君は可愛いよ。千早」
プロデューサーの声だ。
彼にそう言われ千早は口角が思わず緩みそうになるのを、強固な意志で抑えねばならなかった。
彼女の腰に回されたプロデューサーの手の力加減が強くなる。彼女は顔を少し強張らせ、期待に胸を膨らませる。
「そしてこれから」
そう言うと、千早の視界を覆っていた暗闇が消え、眼前の光景が目に入る。
プロデューサーが千早を見ていた。そして、その隣には、春香が恥ずかしげに俯いていた。
――――春香
友人の姿を目にした途端、今まで千早の脳髄を支配していた陶酔感は奇麗に消え去り
たちまちと正気が身を翻して、彼女を元通りの千早に戻そうとしていた。
――――すると春香の目の前で、私は。プロデューサーは
千早の唇が真一文字に結ばれ、陶酔から正気に引き戻された反動で、瞳に批難の色が宿りはじめる。
その時、千早の腰に回された力がぐっと強くなった。
千早の身体はプロデューサーに引き寄せられ、彼の身体と密着した。
すると、千早の下腹部に、何か大きく固い物体の感触が当たることに気付く。
彼女は驚いて、プロデューサーを見上げる。
彼は申し訳なさそうな、複雑そうな表情を浮かべて、そして許しを乞うような視線を千早に送っていた。
その顔色で、千早は自分の下腹部に触れている固さの正体を悟る。
「あっ」
途端に千早の頬がカッと赤くなり、彼女は慌てて自分の肉体をプロデューサーから引き離した。
プロデューサーもそれを無理に引き留めなかった。
二、三歩下がった位置からプロデューサーを見る千早の表情には
先ほどの批難の色はすっかりと失われ、代わりに頬が仄かに紅潮している。
千早は固さの正体を、体験ではなく知識から知っていた。
そして先程の感触をまざまざと思い返しながら、一方で動悸が高まるのを感じていた。
あれは……仕方が無いことだわ
プロデューサーとのキスを思い返し、自分の痴態を思い返し、耳元で囁かれた言葉を思い返し
いつの間にか彼女は「仕方が無いことだ」と言う風に、思考の中でプロデューサーの弁護人に立っていた。
なぜならば、官能に身を任せたのは決して彼女だけではないということを、
彼も彼女と共に愛撫の瞬間を愉しんでいたという証拠を、彼はおずおずと差し出してきたのだ!
そして、差し出された証拠は、彼女の美貌と魅力を証明するものだった。どうしてそれを一蹴できようか?
そう……雰囲気や流れで、ああなっただけかもしれないし……仕方が無いわ
精神的優位に立った千早は、女の特性に従って謙虚に結論付け
すっかりと目の前の男を寛大に許す気持ちになっていた。
「これから……なんでしょう、プロデューサー?」
そう言う千早の美貌には、明らかな余裕と―――期待の色があった。
「うん、これからレッスンに入る。さっきのは千早だけだったんだが、これからは春香にもやらないといけない」
そう言うプロデューサーの声音はすっとぼけたような響きを帯びていた。
彼は千早の内心の余裕を見透かし、なおかつそれを崩そうとしているのか、『レッスン』の言葉を再び使った。
「春香のレッスンがまだなんだ。かわいそうだろ」
そう言いながら彼は隣に立つ春香の肩を抱く。
「千早のレッスンは口。春香のレッスンは体だ」
プロデューサーに肩を抱かれた瞬間、春香は微かに身体を震わせたが
ちらりと千早を見てから、コックリと頷いた。
「さぁ、春香。こちらに」
プロデューサーは春香の肩を抱いたまま、背をくるりと千早に向けて、レッスンフロアの鏡板の前に向かう。
肩を抱かれた春香は、向きを変えてよろよろとプロデューサーの動きに従って歩く。
急に勝者の心地から置き去りの境地に一転された千早はあっけにとられたまま二人を眺めていた。
天海春香はただ圧倒されていた。
この異様な雰囲気を作り出したプロデューサーの傍若無人な振る舞いに。
プロデューサーが如月千早を無理矢理に組み敷き彼女に口付けする様に。
口付けされた千早が、蕩けきったような顔をして恍惚に誘われる瞬間に。
しかもそれらの全ての行為がレッスンだというプロデューサーの宣言に。
プロデューサーの次の目標が春香に設定されこれから何かが始まる事に。
プロデューサーのたくましい腕に自分の肩を抱かれた時
彼女は不安の中に期待が無性にときめくのが分かった。
肩を優しく抱かれた感触――むせ返るような強烈な男の臭い――そして脳裏に焼き付いた如月千早の恍惚の表情。
『春香のレッスンがまだだ』『千早は口。春香は体』
プロデューサーからそんな直接的な表現をされながら、次の標的が己の肉体に据えられたという事実。
しかし、天海春香はそれに肯いて、『レッスン』を受ける事を望んだ。
嵐のように渦巻く不安と期待――遂に彼女はプロデューサーの魔性に抗い切れず、受け入れる事を選択したのだ。
天海春香は、下半身の透けたスパッツの中の、昨夜選んだTバックショーツの二重構造クロッチに
庇護された処女の蜜壺が、その奥で熱を帯び潤い始めている事に、気付いていた。
プロデューサーが千早に口腔での快感(それは傍目から見た友人の目にも明らかだった)――を与え続ける光景に
傍らの春香が息を呑んで見守る内に、彼女の下腹部の奥底からじいんと響くような疼きは始まっていたのだ。
美しい友人が口腔を蹂躙されるシーンに、目を奪われた彼女は、途中からプロデューサーの接吻を受ける千早の姿に自分を重ね合せていた。
快美に浸る千早の姿が、バードキスの体験すらない高校2年生の春香には、とても大人びて見え羨ましく思えたからだった。
あぁ……あんなに激しく……
二人の唾液を交換する音が、春香の耳にも入り、思わず自分でもごくと生唾を呑んだ。
二人は春香の存在が眼中にないかのように、お互いの唇を熱心にむさぼり合っていた。
プロデューサーさんって…千早ちゃんの事が好きなのかな…それはやっぱり千早ちゃんが綺麗だから?…
キスは好きな人同士でやるものだし…あ、千早ちゃん…とっても気持ち良さそう…あんな顔見た事なかった…
そして、肩で息をしながら淫靡な光景を見つめる彼女は、熱に魘されたようにふらふらと
自分の身体が勝手にプロデューサーの隣に進み出るのを、抗い止めることができなかった。
如月千早の可憐な唇に愛撫を与えていたプロデューサーが春香の接近に気付くと
即座に彼は左手で千早の両瞼を覆い隠した。
それから春香を振り返って、彼女の全身を冷たく観察したかと思うと
やがて彼は何かを感じ取ったのか、にっと心憎い片えくぼを作った。
そして、プロデューサーはそのまま春香の方に微笑みながら、千早の耳元に近付き、
「君は可愛いよ。千早」
と、春香にも聞こえる声量で囁いた。
囁くあいだも、千早の耳元から口を離した後も、彼は春香を見つめていた。
その顔には、まるで子供のように悪戯っぽい笑顔が浮かんでいた。
――あっ!
プロデューサーの、なんという言行不一致な行動だろうか!
声音には真実味が篭っていて、それだけを聞けば、愛する彼女を賛美する彼氏の態度だが
発言の主は、千早を一瞥もせず春香に微笑みながら言ったのだ。
プロデューサーの態度を、目の当たりにした春香は大きく混乱するのと同時に
俄かに、どうしても期待せずにはいられなかった。
プロデューサーが友人を侮辱したという義憤は、不思議と湧かなかった。
衝撃のあまり彼女はそこまで気が回る余裕もなく、彼のその態度の意図を、瞬時に次のように受け止めた。
プロデューサーサンハ千早チャンヲ、好キデハナイノダ
モシ、千早チャンヲ好キダッタラ、私ヲ見ナガラ、可愛イト、言ウ筈ガナイノダ
プロデューサーの態度からその確信めいた仮定に至った時、天海春香は、顔を真っ赤にしたり
そわそわと落ち着きなく辺りを見まわしたり、頭のリボンをいじったりと、少し挙動不審になってしまった。
なぜなら、その仮定を辿ると、どうしてもある予測が浮かんでくるからだった。
プロデューサーが好きなのは千早ではない。では彼がその事を友人の春香に示したのは何故だったか。
彼が本当に好きなのは――少なくとも好ましく思うのは千早より春香の方だったからではないか?
そうでないと、千早に隠れて、春香にだけ分かるように、明らかな好意の視線を寄せ続ける事があろうか?
ああ…もう…わけがわからないよぉ…
この時の春香の胸中を詳しく説明するのは難しい。
優越、憐憫、義憤(いまかすかに湧いた)、恐怖、予期、欲情、恥情、幸福――が彼女の胸中にない交ぜとなっていたからだ。
若い女は自分が選ぶよりも、選ばれる事に幸福を見出す傾向にあるという――天海春香もまた。
しかし、それで不幸に陥る事も多々少なくない。若い女は自分が選ばれる事に対して、断るすべをまだよく知らないからである。
ただ、この状況に置かれた彼女の肉体だけが、別個の感情を持ったようにある高まりを見せていた。
――あ!
先程からしびれるような疼きを示していた自分の処女膣が、ショーツの下で
潤いを帯び始めていることに、天海春香が気付いたのはその時だった。
それに気付いた時、春香の動揺はいかほどばかりだったろうか。
気の毒なほど顔を赤くし、彼女はあわてて自分の両手をスパッツの前に重ねた。
そして、上目遣いでプロデューサーを見る。プロデューサーと春香の目が合った。
彼はその短時間の一部始終を見ていたが、春香の心中をどこまで察知したのか、黙って頷いただけだった。
彼の視線から逸らすように、すぐに春香は顔を伏せた。
「そしてこれから」
プロデューサーの声がする。ちらりと見ると、プロデューサーの左手が如月千早の両瞼を解放していた。
しかし、キスの目撃者でもあり、プロデューサーの意図を知らされた当事者あるいは共犯者のような立場の
春香には、友人を直視することは耐え難く、うつむいたまま平静を装った体で、場をやり過ごそうとする。
春香の脳には様々な思念が駆け巡っていた。
千早ちゃんにはなんて言えば。プロデューサーさんのあの頷きはどういう意味だろう。
それより私の身体が。これプロデューサーさんにバレてない。千早ちゃんはどう思ってる。
これから何が起こるの。身体が熱い。レッスン場の気温が。いいえ。私の身体が。
そして、急に春香の思念を妨げるように、誰かが春香の名を呼んだ。プロデューサーだ。
「春香のレッスンがまだなんだ。かわいそうだろ」
そんな言葉と共に、春香の肩の露出した肌に吸い付くようにプロデューサーの手が触れた。
あ…。プロデューサーに触れられた瞬間、春香はそんな呟きを口の中で漏らし、身体をびくりと震わせる。
プロデューサーの言葉は続いた。
「千早のレッスンは口。春香のレッスンは体だ」
『レッスン』
果たしてプロデューサーの発したその単語は、いかなる響きをもって二人の美少女に迎えられたか。
如月千早の心境は深く描写するに忍びないので『冷水を頭からバケツでぶっ掛けられたよう』のみ記し、あとは伏せるが
天海春香の場合は少し違っていて、彼女には腑に落ちるものがあった。プロデューサーのあの態度の理由がそれで判明したからだ。
しかし、春香はプロデューサーの思わせぶりな態度と、女の尊重を軽んじるような行為に反感を抱かなかったのだろうか?
正確には――反感はあった。だが、その一方で筋が通っているようにも彼女には思えたのだ。
もともとは明朗快活で、他人にもその場に適した態度で、気を配ることの出来る春香の性格。
彼女はその気質と思いやりの精神から、プロデューサーの行為を春香と千早、それぞれ公平に『レッスン』を行う為だと察したのだ。
千早に対しては口で説明するよりは、実際の口を用いて実行に移した方が明らかに早いだろうし
春香に対しても本気ではないという態度を示し、それから春香にも『レッスン』を行うという事を
説明するだけで事足りると、プロデューサーは判断したのだろう。
春香が咄嗟に編み出したこの理屈は、なるほど十中八九正しいように思われ、彼女自身もそうに違いないと納得した。
だが、それらの理屈には一つ、重要なものが抜け落ちていた。それは、『レッスン』の効果の真偽についてだ。
しかし、彼女はその重要な事柄についてにも、頭の片隅で気が付きながら、敢えて直面しなかったし、しようとも思わなかった。
なぜなら、彼女はプロデューサーの『レッスン』を受けるのに、必要な理屈が欲しかっただけだからだ。
プロデューサーと如月千早との官能的なキスを見せられ、そして今、プロデューサーの手に触れられて
プロデューサーの強烈な男の芳香に包まれながら、プロデューサーから春香に対する『レッスン』は「体」と説明される。
どうして抗うことが出来るのだろうか。春香の肉体は、既に『レッスン』を予期し、歓びに震えている。
そして、彼女は千早を一瞥し――頷いた。
「さぁ春香、こちらに」
春香の肯定の頷きを確認するや、プロデューサーは彼女の肩をがっしりと掴んで向きを変える。
春香の身体もプロデューサーに従って、くるりと向きを変えると、彼女の目に飛び込んだのは3メートルほど離れた先の鏡板だった。
その鏡板には、春香がプロデューサーに肩を抱かれて立つ姿が映る。そして、その二人の背後には、ちらちらと如月千早の姿。
鏡板に映る春香が身に着けているのは、スポーツブラと一丈の透過スパッツという、素肌を大きく露出した衣装。
そんな自分の卑猥な姿を改めて確認させられて、春香の瞳孔は少し見開き、心臓の鼓動が早まるのを感じていた。
「鏡板の前に行こう。春香」
と、プロデューサーがそう言って歩き出す。肩を抱かれているから自然と釣られて春香も歩く。
鏡板に映る二人の姿形はますます拡大し、如月千早の姿はもう映らなくなった。
鏡板より五歩の距離で、二人は立ち止まる。
それからプロデューサーは春香の背後に回った。鏡板の中の春香の頭の上に、プロデューサーの首があった。
彼の目は、鏡板に全身を大写しされている春香の姿を捉えている。
「春香は本当に良いスタイルをしているな」
と、鏡の中のプロデューサーの口が動く。
そして、彼は自分の両手を、スパッツの中の下着を隠すように股間の前に置いた春香の両手の上に重ねあわせた。
「あ、あの、プロデューサーさん。これから何をするんですか?」
と、少し身じろぎながら微かに喘ぐように春香は言った。
極度の恐怖と興奮とで、彼女は気が遠くなりそうだった。
「なにって?」
プロデューサーの両手が春香の手を掴み、股間の前から優しくどかす。
すると、春香のTバックショーツが露わになる。春香は大きく目を見開いた。
―――ピンク色のクロッチの一部分が、濡れていた。
「『レッスン』だよ。春香」
次にそう言うと彼は、自分の右手を春香の股間に滑り込ませた。
そして、驚愕で悲鳴が出そうになる春香の口を、左手で素早く塞ぐ。
確信めいた笑みを浮かべながら、彼は小さな声で囁いた。
「安心してくれ、春香。俺を信じて身を任せてくれ。
ただ、今は千早がまだ俺を信用していない。だから口を塞ぐ。
なに、大丈夫だ。すぐに気持ち良くさせて、春香をもっともっと綺麗にしてやるさ…」
馬鹿にしてるわ
如月千早は激怒していた。
音楽に傾倒するあまり妥協性を嫌い孤高に身を置きがちな、如月千早にも
人並みの少女と同じように、恋愛に対する憧れは、それなりに抱いていたのだ。
理想の男性とのロマンチックな出会い……彼と自分とが愛しているという証拠を互いに提示するに相応しい、整ったムードでのファーストキス……
その先については実体験のサンプルが無い為、恋愛漫画や恋愛映画にありがちなご都合主義展開しか予想できていないが
ともかく如月千早にも、そういった類の願望があり、いつかは叶えられる筈だと密かにロマンチックになったりもしていた。
だが、プロデューサーはそんな夢見る乙女の淡い願望を踏み躙るように、あっさりと千早のファーストキスを奪っていったのだ。
しかも一回では飽き足らず、二、三回に渡って千早の口腔を犯し、三回目には指の挿入や唾液の交換までしていったのだから
千早の口腔の中には、今でもプロデューサーの余韻がありありと残っている。
許せないわ……これだけの事をした理由が『レッスン』? 人を馬鹿にするにも程があるわ
この千早の怒りはもっともであり、なお余計に腹立たしさを募らせるのが
プロデューサーの巧みなキスに溺れ、我知らず求めてしまった自分の姿と
興奮した証拠を率直に示したプロデューサーをいじらしく思い、内心で擁護してしまった自分の心情の動きだった。
先程のそれらの記憶は千早の中に鮮明に残っていて、だからこそ、どうしようもなく苛立つのである。
かと言って、『レッスン』じゃなく本当に千早が好きだからやった事だとプロデューサーから言われれば
千早はどう思ったのかというと、それは自分でもよく分からないし、今となってはそこまで想像する余裕もない。
肝心なのは、プロデューサーが千早に『レッスン』としてキスを行ったという事実である。
それから、千早の位置からは内容が見えないが、プロデューサーが鏡板の前で春香に必要以上に身体を密着させて
なにやら『レッスン』を行っているらしいのだ。――そして、その事も、千早の怒りを増幅させている要因となっていた。
何が『千早のレッスンは口』なのよ。あの男に少しでも期待した私が馬鹿だったわ
と、憎々しげにプロデューサーの背中を見る如月千早。
レッスンフロアの中央に立つ千早の身体の芯には官能の火照りがまだ残っていて、唇が妙に艶っぽい濡れ方をしている。
物足りなげに少し開いた口腔の中には、ピンク色の肉塊が無意識の渇きを慰めるように上下の口蓋をゆっくりと舐め回し、そこから悩ましい芳香のため
息が自然と漏れ出ていた。
しかし、今の千早には、そんな自分の肉体の変化に気付く余裕すらない。
あるのは、千早を見ようともせず春香に『レッスン』を励むプロデューサーに、どういう強烈なしっぺ返しをしようかという彼女の誇りを賭けた一心だ
った。
「―――ッ!」
天海春香はプロデューサーの手に覆われた口の中で、懸命に歯を食いしばって耐えていた。
初めは恐怖の叫び声を、プロデューサーの『千早が俺を信用していない』という囁きの言葉によって
素直な性格の春香は、ともあれこれは『レッスン』の為だと一旦は信じ、押し殺すつもりでいた。
いや――正確には、悲鳴からすぐに嬌声に変化しそうになった声を押し殺し、その上で、これは『レッスン』だと自分自身に言い聞かせたのだった。
そうでもしないと、気が抜けた甘い喘ぎ声が口の中から漏れてしまい、それが背後のプロデューサーに伝わるかもしれないのだ。
いくら素直な春香といえども、淫らな反応を男の前でそっくりそのまま示すのは、とても恐ろしく、恥辱に耐え難いことだった。
それ故に、彼女は必死の思いで耐えていた――。
先程からプロデューサーのもう一方の手は、春香の肉付きの良い太腿の間にぴっちりと挟まれているが
その人差し指と親指は、スパッツとショーツの上から、春香の肉芽を正確に捉えていた。
それが強弱をつけた一定のリズムで、揉んだり、擦ったりする度に、春香の身体がビクンと震え、手を挟む太腿の力が一気に緩んだり、強まったりする。
――あっ! だめっ! そこを、そんなに強く、擦らないで!
股間の上に張り付くように固定されたプロデューサーの手から陰核を刺激され、女芯から未知の快感が全身に拡がりつつあるのを
春香は、恥辱と恐怖で張り裂けるような思いでそれを中断させようと、プロデューサーの腕を掴んで懸命に自分の股間から剥がそうとする。
しかし、皮肉にもプロデューサーの腕を掴む春香の力の強弱の変化は、張本人に愛撫の効果を知らせる先導役となってしまい
知らず知らずのうちに、より的確で強烈な刺激を、春香の陰核へとそのまま誘う羽目に陥っていた。
「あぁんっ!」
そして、遂に春香は、陰核への執拗な愛撫に堪えきれず、食いしばった口の中から快感の喘ぎ声を漏らしながら絶頂した。
「ありがとう…春香…」
一気に身体中を駆け巡った快感に抗うすべを知らず、全身で快美に浸るようにぐったりと脱力して
自分の背中をプロデューサーに預けている春香に、優しい声が囁いた。
「あっ……プ、プロデューサー、さ、ん……?」
彼の左手は春香の口を解放していて、そこから真っ赤に火照った春香の顔が露わになり、やっと声を出すことが出来たが
最後にそれが疑問の声音に変わったのは、プロデューサーが彼女の両手を掴んで彼女自身の口元に押し付けるように運んだからだ。
そして、プロデューサーは相変わらず囁くように言う。
「俺の為に、声を出すのを我慢してくれたんだな…よく頑張った。だがこれで終わったわけじゃない」
「ひぁっ!」
ビクッと身体を強ばらせた春香が、そんな嬌声交じりの悲鳴を上げ、あわてて自分の両手で口を塞いだのは
プロデューサーの左手がスポーツブラの下から中に侵入し、春香の形付きの良いお椀型の乳房をその手で直に揉みながら
「しっ。声を出さないで。千早に気付かれたらどうするんだ」と、春香の反応を制するように、プロデューサーがそう囁いたからだった。
――そんな、だって、プロデューサーさんがそんなことをする、からっ!
顔を真っ赤にして鏡板の中のプロデューサーの顔を睨む春香の目には、そう強く抗議したい思いがあった。
だが、彼女の眼はすぐにきつく閉じられ、漏れ出そうになる喘ぎ声を抑えるために
両手を自分の口に強く押し当てて、歯を食いしばらなければならなかった。
プロデューサーの右手が春香の下の陰核を押し摘み、左手が春香の左側の乳房の先端を摘まんで引っ張ったからだ。
上と下の先端の肉芽を同時に強く刺激され、春香の全身に快感の電流が貫く。
しかも、プロデューサーはそのまま春香の乳首をこね回し、春香の陰核を押し揉みながら、二つの敏感な性感装置をしっかりと捉えて離そうとしない。
――プロデューサーさん、わ、私…これ以上は、もう、無理です…お願い…やめて下さい
とめどめなく襲われる快感に身体を震わせながら、春香は潤んだ目を開けて、鏡板の中のプロデューサーに伝わるように
しっかりと彼の目を見つめて、首を振って拒絶の意志を伝えた。
声は出せない。出そうとすれば嬌声交じりの大声となってしまい、ともすれば背後の如月千早に異変が伝わる危険性があったからだ。
すると、鏡板の中のプロデューサーの顔が頷いた。春香は少し安堵する。しかし、愛撫は収まるどころか、より一層の強い刺激を彼女に与えた。
「ぁんっ!」
思わず塞いだ指の間から、そんな嬌声が漏れ出てしまい、咄嗟に春香は赤く染まり切った顔を、背後のプロデューサーに振り仰いで
目元に微かな涙を浮かべながら、ちがうちがうの今の声は仕方がないのだってプロデューサーさんがやめてくれないんだから……
と、意味するメッセージを込めて、首を振った。
プロデューサーは春香に愛撫を与え続けながら、微笑して頷き、そっちを見ろという風に、やや右側後方に顎をしゃくった。
快感で痺れる頭の中で春香がおぼろげにプロデューサーの指示を了解し、それに従ってゆっくりと反対側に首を向けると
―――そこには如月千早が立っていた。
2メートル離れたやや右側後方の、二人の様子がはっきりと見える位置で、如月千早が全身を凝固させたように身動きもせず二人を見ていた。
ち、千早ちゃんっ!?
春香が驚愕で目を見開き、それから食いしばった口の中から、甘い喘ぎ声が
彼女の意に反して出てこようとするのを、恥辱に満ちた表情で必死に押しとどめようとする。
「もう声を出してもいいんだよ。春香。千早に言う事があるだろう」
と、春香の乳首と陰核を同時にきつく摘みながら、プロデューサーが春香に助け舟を出すように言う。
「ち、千早ちゃあんっ」
二つの肉芽を同時に強く刺激され、一気に身体中が快感に振り切り、頭の中で正常な思考がろくに出来ていない春香は
プロデューサーのそんな言をすぐに信用し、千早に向かって甘い嬌声交じりの大声を上げる。
「いゃっ! ぁぁあ! 千早ちぁ、あぁああん! み、見ないでっ! お願いっ!! ぁあんんんんっ!!」
ところで、今まで声を出す事を我慢していた春香にとって、快感に上り詰めた状態で大声を上げる事は
さらなる強烈な快感を招くことになり、太い電流の柱が一気に彼女を脳天まで貫いて、全身を大きく弛緩させた。
春香の甘い喘ぎ声が糸を引くように、レッスンフロア内の隅々まで響き渡り、それからちょろちょろと別の音が伴奏を奏でる。
大きな絶頂を迎えた天海春香は失禁し、気絶した。
「春香が気絶した」
天海春香が床に倒れ込まないように右腕の中に抱き締めたプロデューサーがそう言って、如月千早を見る。
春香が背中を反り返って大声を出しても、そして遂に堪え切れず尿を出し始めても、一切の愛撫を中断させずに
そして、自分が失禁した事に気付いて血の気が引いたようにみるみる顔が青褪めていき、そのままフッと意識を失うまで
容赦の無い刺激を春香に与え続けていた張本人のプロデューサーは、一向に悪びれもせず、平然とした様子だった。
そんな一部始終を見ていた筈の千早は、ずっと前から、目の前の事態を呑み込めていないような、呆然とした様子だったが、
「千早、俺はあとで床を掃除する。千早は春香をきれいにしてくれ」
と、プロデューサーがそう言いながら、春香をお姫様だっこで抱き上げ、更衣室に足を進めたところで
やっと正気に戻り、若干慌ててプロデューサーの後に従った。
……確か……二人とも着替えはバッグの中に仕舞ってるわよね
と、千早は、プロデューサーに見られて困るようなものが無いかを頭の中で記憶を反芻しながら
春香をお姫様だっこで抱いてる為ドアを開けられないプロデューサーの代わりに、更衣室のドアを開けてやる。
プロデューサーが更衣室の中央に進み出て、上下に並んで置かれたスチール製ベンチの上に春香の身体を仰向けに寝かせると、
「千早、これで春香の全身を拭いて掃除してやってくれ」
と、ドアの前に立つ千早に言いながら、Yシャツの胸ポケットから折り畳まれた白いハンカチを取り出した。
千早は頷いて、プロデューサーから渡されたハンカチを受け取り、更衣室から出ようとする彼の身体とすれ違いざまに更衣室の中に入ろうとする。
「ああ、それと」
不意に、呟くようにプロデューサーがそう言い、すれ違った千早の右手を握り締めると、途端に彼女はドキッとして全身を硬直させる。
「なんですか」と、彼女は普段の調子でそう言う事も、プロデューサーの方を振り返る事すらも出来なかった。
背後のプロデューサーの気配を窺いながら、ただ彼女は待っていた―――何かを。
プロデューサーの千早の右手を掴む力が一段と強くなり、いよいよ彼女の心臓の鼓動が一気に高鳴りだす。
……嘘…ここで…? しかし…あのプロデューサーなら…あるいは…
そんな動揺した思考が彼女の頭を掠める。そして、「千早」とプロデューサーから三回呼び掛けられ、ようやく彼女は振り返った。
――今まで鏡の前で作ってきた、自分自身が最も美しいと思えるような顔付きを、丹念に作り上げてから。
「ん、千早…」
プロデューサーと千早の視線が更衣室の入り口の間でバチッと交差し、それから、プロデューサーは呻くような声で彼女の名を呼んだ。
千早は、その彼の変化を鋭敏に感じ取りながらも、「なんですか」と言いたげに小首をかしげて、あくまでも平常を装う。
「ああ、いや、春香をな」
次にそう言い、にっと笑ったプロデューサーの表情には、彼のいつもの調子が戻っていた。
少し出鼻をくじかれたような思いの千早は、横目でちらりとベンチの上に横たわる春香を見る。
プロデューサーの空いた一方の手が、春香の下半身を指し示し、彼は言った。
「あの中まで、隅々と、きれいに掃除してやってくれ。俺がやるわけにもいかないだろう? 頼んだよ、千早」
「―――ばっ」
プロデューサーのその言葉の意味を、数秒間、頭を巡らせてから察知すると
千早は少し頬を紅潮させて、怒りを込めてプロデューサーの手を振り払った。
「じゃあ、頼んだよ。一通りの掃除が終わったら、またこちらに来てくれ。春香の事も含めて、その後を相談しよう」
と、千早に手を振り払われたプロデューサーはそう言い残し、更衣室から出て行くと、静かにドアを閉めた。
…………ふんっ
プロデューサーが更衣室から出て行くのを、千早は返事もせずに背中で見送った。
自分自身でも上手く把握できていない、プロデューサーへの複雑な――怒りの感情に満ちていたのだ。
それでも、と千早がベンチの上で意識を失っている友人の姿態を見、その安否を気遣うような表情を取り戻すと
更衣室のドアの外から、再び彼女を呼ぶプロデューサーの声がした。
「千早……さっきは言い忘れたが、プロデューサーとして言わなきゃいけない。
……さっきの、千早の表情……とてもすごく可愛かったよ…本当に。
あの表情がオーディションやイベントでも出来れば……千早はおれの手助けはいらないだろう。
ともかく、今後どうするかは後で話し合おう…それじゃあ、春香を頼んだよ。千早」
そして、プロデューサーの足音が遠のいていき、更衣室が静寂に包まれると、千早は更衣室の鏡をちらりと見た。
そこには、美少女が頬を紅に染めて、ハンカチを握りしめている姿があった―――。
陰核乳首の二点責め、これは道具を使用しない場合の、女性のオナニーを想像してもらえば
分かりやすいと思うが、一般的に「陰核」は身体の中で最も性感帯が集中した場所であり
女性の気分が性的に傾いている状態で、適切な刺激を、この陰核に一定時間与え続ければ
殆どがオーガズムに至るといわれる、強度の高い快楽装置であり、一方の「乳首」に関しても
ある学説によれば、乳首は、初期段階ではあまり感じないが、これを特に意識した状態で触れる・つまむ等の
外部刺激を与え、開発を進めれば、やがては陰核部位の約50%に相当する快楽を得るまでに発達し
人によっては80%強ほどの快楽を得られることも珍しくない、とまでいわれる部位なので
必然的に、殆どの女性は、冒頭の陰核と乳首を同時に用いたオナニーパターンに耽りがちで
特にこれは、未だ破瓜されていない処女ほど、このオナニーパターンに強く嵌り込む傾向があった。
そして、思春期の真っ只中にあり、成熟化しつつある肉体が、上から83・56・82と
素晴らしい発育の良さを見せている、美処女の女子高生、天海春香もまたその一人だった。
さらに、特筆すべきことに、天海春香は中学生の頃に、意識的に陰核と乳首を用いたオナニーに耽ることを覚え
その頻度も当初は週六、七回、風呂場の中や、自分の寝床の中で行い、その度に痺れる快感に陶酔していたが
高校生になり、肉体が成熟化するにしたがって、春香のオナニーの頻度は週三、四回に定められたのだが
しかし、この理由は決して、春香の貞操観念の強さや、感度の低下、性的への興味の薄れ
そのいずれにも起因するものではなく、むしろ逆で、第二次性徴期の後期を迎えて、ほぼ完成された春香の肉体が
特に、乳首周辺と陰核周辺に張り巡らされた性感帯が、オナニーのたびに、春香本人が想定する快楽の度合いを
大きく越えた反応を示すほどに、尋常なく、敏感な方向へと発達した為だったのだ。
それ故に感度が発達した事に気付いた天海春香は、その気付きによって、おのずとオナニーの頻度を少なくしていった。
ともすれば、没頭するあまりに、我知らず声を上げて乱れてしまう場面が多々あり、その快感の度合いに比例して
愛液の分泌も一層甚だしいので、家族にバレないように、入念な対策と準備を必要とされたからだった。
それでも、家族の目を盗みながら、一週間の半分はオナニーに充てたので、感度の鋭敏さを持て余す春香自身も
この一時の快楽を、習慣と惰性の範疇を大きく越えて、日々の秘かな愉しみにしていたことには間違いがなかった。
さて、上記の流れは、春香の先天性の性的敏感さが、彼女の肉体の成長につれて花開いたとみるべきだったが
しかし、他女性のオナニーを直接見た事もなく、春香のおマセな女友達たちとの一時の話題にのぼっても
他人と自分が享受する性的刺激の感覚を共有できるはずもなく、春香はおのれの肉体の敏感さを
普通の少女も同様であると無理に思い込んで、多大な困惑と快美の秘密を一人で抱え込んでいたのだった。
ところが、プロデューサーの手によって、春香の抱えていた秘密は白日の下に晒され、彼にも共有されることになった。
いや、プロデューサーは薄々と感付いていたかもしれない。
彼が、春香に当て嵌めた『レッスン』の『身体』というキーワードは
一見、美少女には間違いがないが、それ以外に特徴の無さそうに見える
天海春香の内にある特別な資質について、彼女自身に気付かせる為だったのではないか。
そして、春香自身も、おのれの身体の淫靡な特徴について思い当たる節があるからこそ
プロデューサーと千早の淫らなキスの後に、『レッスン』を春香の『身体』に行うと聞かされて
彼女は肉体がこれから享ける多大な快感を直感し――不可抗力的に、『レッスン』を承諾しつつ
その裏で、ショーツのクロッチに、愛液の染みの広がりを作ったのではないか。
レッスンフロアの鏡板を見る春香の視界に、ショーツの濡れが目に入った時には、既に遅かった。
プロデューサーの確信めいた手の動きが、春香の股間の上に侵入し、たちまちに彼女は淫靡に悶えた。
それは、今まで春香が秘かに愉しんでいたオナニーとは、まったく異次元の快感だった。
春香は、その敏感すぎる体質ゆえに、陰核の包皮を剥かずに、陰核周辺部を押し揉んだり押し広げるだけで
必ずと言っていいほどオーガズムに至れるので、陰核部への直接の刺激を、日頃のオナニー行為では行わなかった。
これは、春香の技巧の稚拙な時期に、包皮を剥いた陰核に間違えて直接爪をあててしまったことによる
多大な苦痛の反省の意もあるが、彼女が技巧に慣れた現在でも、包皮を剥いた陰核に直接触れようとしないのは
好奇心から露出した陰核を優しく撫でたときに、たちまち返ってきた絶大な快感の反応に、思わず、大きな喘ぎ声を漏らしてしまった記憶による。
そして、それ以降、彼女は、オナニーに耽る時には、どれだけ没頭しても陰核には直接触れないという厳重な対策を立てたのだった。
そんな天海春香が、本人も薄々と自覚しつつある自分の敏感な性感帯――乳首と陰核を
かつて前述したようにプロデューサーに弄り回され、全身を襲う快感と羞恥の二重苦と
戦っていた事を如月千早は知らない。
千早がその光景を目撃してから、当事者の春香と目を合わせるまで、十秒余りも掛からなかった。
春香が千早の存在に気付き、絶叫を上げるまでの、約十秒の間、千早の思考は停止していた。
もともと千早は『レッスン』の意図について、プロデューサーに厳しい追及をするつもりだった。
千早を蹂躙したプロデューサーの舌の感触は、彼女の心身にまだ生々しく残っていたが――
それでも自分の誇りを取り戻す為に、『レッスン』を拒む意思表示をすべきだろう、と、千早は思っていたのだ。
それに、彼女が拒否を示した場合、プロデューサーがどんな振る舞いを見せるかが、千早には気に掛かっていた。
彼の返答に誠実、熱意、反省が感じられたら、許してあげてもいいと思うようになるかもしれないし
そうでなかったら、彼を担当から外すように社長に直訴することを匂わせて、事の重大さを知らせるべきだろうし
あるいは再び抱かれて唇を奪われるかもしれない――しかし、そうなったら私は彼を拒めるのだろうか?
そんな妙な期待と不安を胸に抱きながら、でも、ここでいちど拒否の態度を示してみせることは
決して私にとってマイナスにはならない筈だ、という確信めいた結論に背を押され、千早は、二人の元へ近寄った。
しかし、そんな如月千早の思考は、天海春香の痴態によって一気に吹っ飛んだのだった。
自分の登場が、春香の失禁と失神を兼ねた絶頂への決定打となった事を、千早は知りようがない。
彼女は、プロデューサーがどんな反応をするか、その事ばかりを考えていたのだから。
プロデューサーが春香に、千早と同じ部屋で(自分のキスと比較して)性的で露骨な行為をしているとは
『春香は身体』という発言の伏線があるにせよ、処女の千早に予測するには、どだい無理な話だ。
そして、今、千早は、気を失った春香の介護をプロデューサーに任されて、更衣室の中にいる。
――かわいそうな、春香
千早は、プロデューサーへの憤りよりも、その犠牲者に対して同情の念が強かった。
春香の身体は、烈しい快感の痕跡を思わせるように、全身が汗でぐっしょりと濡れている。
特注のスポーツブラには、汗が染み込んでいて、春香の張りがある乳房のかたちを
くっきりと浮かび上がらせていたし、それぞれの乳房に張り付く布の中心点には、二つの突起物があった。
――かわいそうな、春香!
千早は、プロデューサーによって刺激を与えられた春香のそれが
意識を失って横たわる今でも、かつて受けた快感を強く主張し続けている事実――勃起した乳首に
気付いていながらも、同情心を喚起させることで敢えて無視し、作業に集中しようとしている。
意識しないように努めながらも、しかし、時折、何を考え何を想像するのか
顔がぼうっと火照ってる千早は、緩慢な動作で、春香の上半身から下へと順に汗を拭いていった。
そして、白いハンカチが、春香の下半身に移り、太股や脛についた汗とおしっこの水滴を
拭き終えたところで、千早の手が止まった。
最後に残ったその部分は、千早が、春香の勃起した乳首の存在以上に
努めて意識しないように避けていた箇所――春香の陰部だった。
「………」
改めて、春香の股間を、視界の中央に捉えた千早は思わず生唾を飲む。
春香の股間――中身のものが透けて見えるスパッツと、薄地のTバックショーツが
夥しく濡れていていたが、そのせいで、春香のやや膨らんだクリトリスのかたちから
少し厚みを持った小陰唇が薄く開き、中身の膣口が小指の爪程度に開いていることが
目に見えて分かったからだ。
意識を失い仰向けとなっている春香の、半開きとなった両足の間からは
アンモニア臭と、汗と、それら以外の何かの臭いが混ざり合っていて、奇妙な芳香を立ち込めさせていた。
「とりあえず、拭かないと……」
千早は、慌てて春香のスパッツに手を掛ける。
しかし、異様な興奮に手が震え、また春香の両足が半開きの状態で、片膝が少し屈んでいることもあって
千早は、思うようにスパッツを脱がすことが出来ない。
こういう時には相手が協力して腰を多少浮かせてくれれば、阿吽の呼吸で、楽に脱がせられるのだが
大の人間が気を失っていて、場所も狭いベンチ上と限定されていては、千早の細腕で無理に脱がす事は困難だった。
「困ったわ。どうすれば」
と、つぶやく千早に、一つ考えが閃く。彼女は思い出したのだ。
春香のTバックショーツのクロッチが、少しいじれば中身に触れられるオープン型クロッチであることを。
「――仕方が無いわ」
千早は、つぶやく。背に腹は代えられない。
女なればこそ分かる、小便後の尿を膣に付着したままの不快感、放置による病気の恐れ。
そして、春香の為に、それらを取り除かねばならないのだ。
プロデューサーの手を借りずに、千早ひとりで遂行するには、春香のスパッツの股間部分を破るしかなかった。
千早は両手を春香の股間にあてがい、スパッツの布を軽く摘まみ、力を込めた。
「……え」
と、千早は、そんな気の抜けた声を漏らす。
伸縮性の強そうな、このスパッツを破るのに、多少の力と時間が掛かると思ったら
非力な筈の千早が軽く両側に引っ張っただけで、あっさりと真一文字に裂けたのだ。
春香の夥しく濡れたピンクのショーツのクロッチが、外気に露わになる。
「……嘘、そんなにすぐ破けるものなの?」
千早は、自分のスパッツを見下ろし、つぶやいた。
千早が履いていたブルーのローライズショーツが透けて見えるスパッツは
春香同様に、布の表面が薄いことには薄いが、伸縮性が強く、千早の尻肉をぴっちりと包んでいて
無理な姿勢や多少の運動を強いったとしても、簡単に破けそうにはとても見えないのだ。
まさか……これを渡したプロデューサーがわざと?
と、すぐに千早は、そんな思考に行き着いて、顔をかっと赤くした。
邪推かもしれないが、ありえることだ、と思う。あのプロデューサーなら!
確認……しなければ
千早は、そう思った。
そして、おそるおそる自分のスパッツの股間部分に両手を当てて、布を掴んだ。
覚悟を決めたように目を閉じてから、千早は両側に軽く布を引っ張る。
――二度目の、布の裂ける音と、布の千切れる感触を予感しながら。
しかし、千早の意に反して、スパッツは破れなかった。
彼女は自分の手に返ってきた頑丈な感触に、驚いて、目を開ける。
そして、もう一段と力を込めて引っ張ってみたり、また一段と込め
角度を変え、何度か試しても、千早のスパッツは破けなかった。
いや、これ以上の力を振り絞れば、無理に裂けるかもしれないが、それは千早の望む回答ではないのだ。
「――なぜ?」
千早は、破れない自分のスパッツと、春香の裂けたスパッツの股間部分を見比べて、つぶやく。
「…なぜ、春香だけ…」
彼女は、思わず漏らしたその声音に、自分自身で気付いてぎょっとする。
千早のスパッツにも春香と同じように処置しなかったプロデューサーへの怒りと
特別扱いを受けた春香への嫉妬が込められているように思えたからだ。
あぁ、私ってば何を言ってるのかしら
と、すぐに千早は、首を振った。
そう、春香のスパッツが破れるのは好都合なことじゃないの、そう、今は綺麗に掃除して
そう、あとでこんないやらしい仕掛けをしたプロデューサーをとっちめてやればいいの……
そして、千早は、プロデューサーから渡された白いハンカチの布地を裏返し
露わになった春香のクロッチに、ゆっくりと手を伸ばした。
春香のクロッチを押し開き、その下に隠されたものを見た千早はうめいた。
「あぁ……」
今や千早の心を占めるのは、春香への同情心ではなかった。
春香の性器を見つめる千早の瞳には、明らかな羨望の眼差しがあった。
千早の眼前に晒された春香の処女口は、一目見て分かるほど
夥しく濡れていたが、それは放尿のみが原因だったろうか。
そうではない。千早は瞬時にその事を認めたのだ。
晒された春香の中身を見てみると――――。
彼女のクリトリスの包皮は半分まで剥かれ、陰核亀頭が上向きに屹立している。
薄桃色の膣全体は、尿によっても濡れていたが、その半分以上は、ねとっとした愛液に塗れている。
微かにひくつく膣口からは、濃厚な白い粘液のスジが二、三本、ヨダレのように垂れ落ちている。
そのうちの一本は、肛門の窄まりに吸い込まれ、愛液に濡れ光った淫裂とともに、視る者に淫靡な気持ちを抱かせた。
これを見たのがわたしで良かった!
と、やがて正気に戻った千早は、思った。
プロデューサーに任せていたら、きっと春香の貞操は、この時になくなっていたに違いないだろうから。
そして、そのシーンを想像し、千早は、初めてプロデューサーを心底から憎悪した。
「ご苦労様、千早」
千早が更衣室から出てこちらに歩いてくる姿に
プロデューサーが手に持った雑誌を畳んで、声を掛けた。
プロデューサーは、鏡板を背後にし、パイプ椅子に座っていた。床は綺麗に掃除されている。
彼の右隣には、もう一つパイプ椅子があった、
その座面に、読みかけの雑誌を置いて、彼は千早を見上げた。
「お疲れ様、千早」
「プロデューサー。春香の身体は綺麗にしておきました」
プロデューサーの前に立ち、見下ろして、千早が刺々しい口調で言う。
「春香の状態は、とてもひどいものでした。精神的なショックからだとは思いますが
まだ気を失っているので、かわいそうにと思って、そのまま寝かせています」
「うん。春香には、後で心を込めてお詫びするよ」
「いいえ。そのまま、あなたと春香を会わせるわけには」
と、千早が言った。プロデューサーから目線を離さずに、苛立ちを抑えきれないような表情で。
「もう一度言います。春香の状態はひどいものでした。どうして、あんな事をしたのですか?」
「うん」
「ちゃんと、答えて下さい。プロデューサー」
「千早」
と、プロデューサーは言った。彼は立ち上がって、千早に近寄る。
プロデューサーの意図を掴みかねた千早だったが、彼の手が伸びてくると
さっと顔色を変え、後ずさった。
「来ないで。いやっ! 触らないで!」
しかし、男女の体格の差もあり、抵抗虚しく、千早はプロデューサーに正面から抱きすくめられた。
プロデューサーが、なおも暴れようとする千早の耳元で囁く。
「本当に千早は可愛いよ……友達の為に、俺のところに来てくれたのだから」
「プロデューサー」
「うむ」
「レッスンはもう終わった筈です。身体を、離して」
「なぜ?」
「なぜって――その、私は、もう着替えたから」
「着替えた? は、は、確かに」
と、彼は千早の全身を一瞥し、笑った。
「君はどちらでも可愛いよ」
千早は、プロデューサーが用意した衣装から普段着の姿に戻っている。
千早のファッションにあまりこだわらない私服は、今日もまるで女っ気が無かったが
それでも普段着に好んで着ているタイトなジーンズが、彼女の細長い足の曲線美を映えさせていた。
「プロデューサー、いい加減にして下さい」
目元を少し赤く染めた千早が、自分の肩を抱く男の顔を、きっと睨みつけて言った。
彼女は、プロデューサーの胸板を両手でぐいぐいと押しのけようとする。
「ところで、このレッスン場の貸切時間は十八時までだ」
「え?」
「つまりあと三十分は使えるんだよ。時間は有効活用しなくちゃいけない。
何しろ、オーディションまでは後一週間。そのうちの一日をレッスンに充てられる時間は二時間弱」
プロデューサーの顔が真剣になり、説明する唇が動くのを、千早はじっと見ていた。
「だから、終わったあとで必ず説明はする。今は千早のレッスンをしよう。
それに、君の方でも、準備は出来ているようだから」
プロデューサーのその言葉で、千早は自分が置かれている身体の位置関係に、改めて気付いた。
彼女は彼の胸の内に抱かれている。見上げる彼女の眼は彼の唇に吸い寄せられている。
そして、彼の方も、彼女の潤みを帯びた唇だけを見つめているらしいことが分かったのだ。
男女は、至近距離でお互いの唇だけを見つめ合っていた。
「準備って?」
なおも千早が、グロスを薄く塗った唇を、艶めかしく動かして言う。
その美しい唇の動きを見つめて、プロデューサーは微笑した。
そして、千早に唇を重ね合わせようとする前に、彼は言った。
「本当に千早は可愛いよ! この時に備えて、あらかじめ準備してくれたんだから」
「――本当に、あとで説明してくれるのね?」
と、千早は念を押した。彼が頷いたのを視界の端で確認すると、彼女は睫毛を深々と閉ざした。
千早を度胸づかせたのは、この『レッスン』が終わった後に彼の真意を知りたいという知的欲望と
彼と何度も重ねたキスの経験から予期する、あの甘い感触をまた味わいたいという肉体的欲望に他ならない。
千早は、取り澄ました美貌の下で、自分がキスの際にどう振る舞えば
より一層映えるかも、心得ているかのように見えた。
それは、彼女が更衣室の中で、グロスを薄く塗ろうと決めた時に
何度もシミュレーションを重ねなければ、到達し得ないものに違いなかった。
一時の付け焼刃で、キスを待つ美少女の図を完璧に現実に描き出させたのは
まさしく千早の天稟のスター性に因るものだった。
「本当に……君は素晴らしい」
と、プロデューサーは、言った。
なにやら彼が深い感動に捉われているらしいことが、千早の肩を掴む彼の手の震えと、声音の震えと
間近に迫った息の荒さと、千早の手が触れている彼の胸から伝わる動悸の激しさで、千早には読み取れた。
それでも、千早は、彼から素晴らしい一時を授かるまで、決して美貌を取り乱すまいとしていた。
しかし、まだ経験の少ない千早は、顔色まで取り澄ましたように維持し続ける事は出来なかった。
彼の躊躇いが、千早を焦らし、キスへの期待感を煽る格好となり、彼女は興奮で耳たぶまですっかり赤くなっていた。
美少女が恥辱に顔を赤く染め上げる様子が、さらに彼を迷わせたのか。
彼は、千早の肩を掴む手に力を込めた。
彼は、生唾を飲んだ。
「それでも……あと…三十分しかない」
と、喘ぐようなプロデューサーの声。
「千早」
と、彼は言った。
「おれのレッスンは『唇』と言ったが、君には必要がなさそうに思える」
と、彼は言った。
千早の胸の内は、一瞬にして、どす黒いものに押し潰されたようだった。
彼女は、閉じた瞼の中に、絶望を見た思いだった。
彼女は、唇をきゅっと一文字に引き締めて、彼の続きを待った。
「このまま行くと」
プロデューサーは言った。
「俺はとても自制できない。
は、は! 三十分!
三十分しかないという状況が、逆によかった。
なにしろ君は美し過ぎる。
俺の目的はあくまでも事務所の卵たちを立派なアイドルに仕上げることだ。
ここで君を押し倒したら――」
「押し倒す?」
ぎょっとして千早は目を開けた。
プロデューサーから出たその危険なキーワードは、彼女の想定外だった。
さらに驚いたのは、眼前に現れたプロデューサーの表情があまりの悲痛さに彩られていたことだった。
哀れな新人色事師は、苦悩に満ちた表情で、ぽつりと呟く。
「借りがあるというのは辛いもんだ」
「あなたが何を言っているのか分からない」
「ふむ」
「押し倒すってどういう――こと?」
千早は、怒るべきか、意気地なしと嘲笑うべきか、泣くべきか、平常を装うべきか、安堵すべきか
を一瞬の内に逡巡し、結局はそう素直に訊いた。
しばらくの沈黙。
千早は、キスを待つのと同じ――以上にどきどきしながら、彼の返事を待った。
「俺には借りがあるんだ。社長もだが、千早や春香からも。
君たち二人は、俺の無茶な頼みにも聞き入れてくれた。
そうだろう?」
「ええ――さっきまでは」
と、千早。
後半の咎めるような声音は、明らかに、プロデューサーの先程のしくじりを示唆していた。
それも無理もなかった。彼女の方も今まで以上に期待し、自ら演出してまで、待っていたのだから。
「バカげたレッスンかもしれないが、これを繰り返しをやれば、間違いなく君たちを成功させられると信じる。
君たちの才能と、俺が訓練で身に付けた技術との、二人三脚によって」
「プロデューサー」
と、千早が言った。
彼を見上げる視線に、さらなる追及の眼差しがあったのは
彼女の求める答えがまだだということを示していた。
「うん」
彼は、その追及の視線を受けて、弱々しく笑った。
「俺は君たちに借りを返さなくちゃいけない。これは重要な使命だ。
でも、俺は、改めて君をとても可愛いと思った」
「…………」
「なあ、千早。
本当にその女の子が、とびきり可愛いと思ったら、男はどうするべきだと思う?」
「さあ――分からないわ」
千早は胸が張り裂けそうなほど、どきどきしていた。
彼女の顔は、気の毒なほど、赤く染まっていたが、表面上の態度は見事なまでに落ち着いていた。
「今まで、俺たちがレッスンでやったことは?」
と、プロデューサー。
千早の視線が、彼の唇に移動したが、瞳が勝手に潤みを帯びただけで
彼女は何も言わなかった。それだけで十分だった。
「でも――それ以上の事が、三十分で出来ると思う?」
と、プロデューサー。
それ以上の事――。千早は、愛液に塗れた春香の性器の映像を、ふと思い浮かべた。
今や彼女の心臓は、かつてないほどの鼓動を響かせていた。
本当に申し訳ありません。
こちらはアイマスハーレムのareを目指して
書き始めたつもりですが、筆力が追いつかず、それでも書き進めるうちに
スラムダンク時空に入ってしまったので、HTML化申請をして、ここで中断いたします。
テンポの良いものを、お届けできるよう精進いたしますので、またの機会によろしくお願いします。
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