櫻子「撫子ねーちゃんが怖いんだよ」 (42)

向日葵「また何か怒らせるようなことをしたのではなくて?」

櫻子「いや、そういうんじゃない」

向日葵「じゃあ何ですの?」

櫻子「とりつかれてるんだと思う」

向日葵「まさか、そんな」

櫻子「夜中になるとな、部屋からうめき声がきこえるんだよ」

向日葵「寝苦しいだけじゃないんですの?」

櫻子「いや違う」

向日葵「なぜ?」

櫻子「お風呂場からきこえることもあるもん」

向日葵「……」

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向日葵「櫻子、その話題にはあまり触れないほうが……」

櫻子「なんで?」

向日葵「なんでって……プライバシーといいますか、その」

櫻子「あ! わかった。向日葵、お前――」

向日葵「ち、違いますわ! 私はたまにしかしてな」

櫻子「怖い話苦手なんだろ!」

向日葵「はい?」

櫻子「向日葵はお子様だなぁ」

向日葵「どちらかといえば、あなたのほうが子どもですわ」

櫻子「おっぱいでかいのに肝っ玉はちいさいなんて、まったく」

向日葵「あなた――(いえ、ここはそういうことにしたほうが撫子さんの名誉にも……)」

櫻子「どした?」

向日葵「え、ええそうですの。怖いのは苦手でして」

櫻子「ダメだなぁ、向日葵は」

向日葵「だからやめにしまs」

櫻子「しょうがないな。怖かったら櫻子様が一緒に寝てやるよ」

向日葵「続けてどうぞ」

櫻子「気になったから撫子ねーちゃんに直接きいてみたんだよ」

向日葵(行動力のあるアホは手に負えませんわね)

櫻子「…なんか私のこと馬鹿にしてる時の顔してる」

向日葵「いえいえ。それで、撫子さんはなんて?」

櫻子「怖い顔で『それ絶対他人に言うな』って」

向日葵「私に言ってるじゃありませんの」

櫻子「まぁ向日葵なら他人じゃないかなって」

向日葵「……」

櫻子「顔赤っ!? お前もとりつかれたの!?」

向日葵「ところで、そのうめき声の時って名前とか……」

櫻子「え、なんで名前呼んでるって知ってんの?」

向日葵「た、たんなる勘ですわ!」

櫻子「んーとね、たしか『あい』とかそんな名前だったかな」

向日葵(あい……さん。きっとあの時の電話の方ですのね)

櫻子「あとは『みほ』と『めぐみ』とかかなぁ」

向日葵「えっ、複数?」

櫻子「あー、あとたまに『ひま子』もあったよ」

向日葵(狙われてる!?)

櫻子「ただ花子と私は呼ばれない。差別だな」

向日葵「それを聞いて少し安心しましたわ」

櫻子「あとな、ねーちゃん、動物に興味を持ち始めてるっぽい」

向日葵「普通でしょ」

櫻子「でも、猫耳付きカチューシャとかしっぽとかそういうのばっかだぞ?」

向日葵「……肉球が好きな人もいるわけですし」

櫻子「ぬいぐるみとか写真とかは一切ないのに変だろ?」

向日葵「隠してるのかもしれませんわ」

櫻子「それはない。ちゃんと探した。そんで耳とかみつけたんだもん」

向日葵「いますぐ謝ってきなさい」

櫻子「ほら、キツネ憑きとかタヌキ憑きとかオカメ憑きとか……」

向日葵「うどん・そばじゃないのよ」

櫻子「あ! そういえば動物関係でまだおかしな点があった!」

向日葵「はいはい。なんですの?」

櫻子「首輪とリードがあった」

向日葵「……」

櫻子「うち、ペットいないぞ」

向日葵「ちょっと待って。私の中で撫子さんが生まれ変わってますわ」

櫻子「ただ、あれ犬につけるには大きすぎる気がするんだよな」

向日葵「やめて」

櫻子「この前なんてな、ねーちゃんが夜中に外出て行ったのよ」

向日葵「……散歩ですの?」

櫻子「この時期にコート着てか?」

向日葵(……内容がわかってしまう私もダメかもしれませんわ)

櫻子「変だろ? だってねーちゃんも暑いってわかってるんだぞ」

向日葵「話してましたの?」

櫻子「あとで部屋覗いたらブラとパンツが脱ぎ捨ててあった」

向日葵「もうやだ。この姉妹」

櫻子「こんなことばっかだからさ、さすがの私も心配なわけよ」

向日葵「はぁ」

櫻子「だから、うめき声し始めたらいきなりドア開けてやったのよ」

向日葵「それはマナー違反でしょうに」

櫻子「裸で寝てたみたいでさ、いきなり体に毛布まとってんの。めっちゃ慌ててた」

向日葵「いきなり部屋に入ってこられたら誰だってそうでしょう」

櫻子「でもさ、携帯依存症のねーちゃんが着信を無視してるんだぜ? よっぽどだよ」

向日葵「そうなんですの?」

櫻子「うん。ずっと布団の中でブィィィンって音がして――ハッ」

向日葵「……」

櫻子「携帯はねーちゃんが持ってたのに、音は布団の中から……まさか」

向日葵「その……撫子さんも大人ですし、まぁそういうモノに」

櫻子「サランラップってやつだ! こわい」

向日葵「ラップ音ですわ」

櫻子「あと、あれだよ、ポスターなんとか」

向日葵「ポルターガイスト?」

櫻子「そうそれ。ベッドがめっちゃギシギシ鳴ってるの」

向日葵「……」

櫻子「それで、それに合わせて私も手拍子するじゃん?」

向日葵「は?」

櫻子「この前、テンションあがって掛け声も出したのよ」

ギシギシ パンパン(あ、そーれ) ギシギシ パンパン(どっこいしょー)

櫻子「って感じで」

向日葵「バカじゃないの」

櫻子「すっごい怒られた」

向日葵「でしょうね」

向日葵「その、ギシギシも毎晩ですの?」

櫻子「いや、それはたまにだけ。ねーちゃんの友達が来た日くらいだな」

向日葵(あぁ確定ですわね)

櫻子「ん? ねーちゃんの友達が来た時だけギシギシ……」

向日葵(さすがに、気づいたかしら)

櫻子「ねーちゃんの友達がお化け?」

向日葵「私の親友はおばかですわ」

櫻子「おま――」

向日葵「なんですの」

櫻子「親友とか……」

向日葵「きゃわいい」

櫻子「というわけなんだよ」

向日葵「……まぁ、心配の必要はありませんわ」

櫻子「なんで言い切れるんだよ! 怖いからって適当だな」

向日葵「櫻子も成長すればわかりm」

櫻子「解決のために今日、うちに泊まれ」

向日葵「!?」

櫻子「ほら、さっき約束したしな」

向日葵「わ、私にも支度が必要でして……」

櫻子「そっか、嫌ならいいけd」

向日葵「先にシャワー浴びてこいよ」

櫻子「撫子ねーちゃんのやつ、向日葵が来てるのに顔も出さないなんてまったく」

向日葵「まさか、本当に具合悪いのでは?」

櫻子「いや、昼間はやけにうれしそうだったからな。部屋に閉じこもってるだけだろ」

向日葵「部屋に……」

櫻子「部屋に閉じこもってなにしてるんだろうな」

向日葵「ナニしてるんでしょうね」

櫻子「ん?」

向日葵「ごめんなさい」

櫻子「いつもならこのくらいの時間なんだよ」

向日葵「眠いなら我慢しないで寝なさいな。私も我慢の限か」

……ぉ

櫻子「!! ほら、向日葵もきいてみろ!」

向日葵(まさか、他人の嬌声をきくなんて……)

……っ、ぁ

櫻子「な? 怖いだろ」

向日葵「な、撫子さん。まるで別人みたい」

櫻子「ドキドキしちゃうよなぁ」

向日葵「ほほう、それでそれで」

櫻子「なんで服脱ぐの?」

ギシギシ

櫻子「あれ? 今日、友達きてたのか?」

向日葵「あ、だから部屋に閉じこもってらしたんですのね」

櫻子「よし、こうなったら」

向日葵「邪魔しないように寝ましょう。一緒に」

ギシギシ

櫻子「びっくりするほど!」パンパン

向日葵「!?」

ギシギシ

櫻子「ユートピア!」パンパン

向日葵「櫻子!!」

櫻子「ワンモアセッ!!」

花子「櫻子……うるさいし」

櫻子「おお、花子。起きてたのか」

花子「起こされたんだし!」

向日葵「ごめんなさい、花子ちゃん」

花子「ひま姉、どうせ櫻子の悪ふざけだし。ごめんし」

櫻子「なにをー! 姉ちゃんのうめき声を解明してるだけだ!」

向日葵「それは内緒――」

花子「ハァ……寝言は寝て言えし」

櫻子「なにおぅ!!」

花子「撫子お姉ちゃんは『今日、友達の家に泊まる』って夕方から出かけたし」

櫻・向「え?」




おわり

「姉ちゃーん、辞書貸してー」

「なんだ留守か。じゃあ仕方ない、勝手に借ります。ただで」

「――ん? なんだこれ?」

向日葵「櫻子ぉ……櫻子ぉ……」クチュ クチュ

櫻子「向日葵! いるか――おお、着替え中か、ごめんごめん」

向日葵「さ、櫻子!! ノックをしなさいといつも言ってますでしょう!」

櫻子「いいから、いいから。それよりコレみてよ」

向日葵「いったい何ですの?」

櫻子「ねーちゃんの部屋で見つけたんだけどさ、使い方わかんなくて」

向日葵(どうせ電子辞書かなにk)

櫻子「ほら、コレ」ブィィィィン

向日葵「Oh」

向日葵「戻してきなさい、今すぐに!」

櫻子「えー、せっかく持ってきたのにー」

向日葵「いいから! 撫子さんが気づく前に戻しなさい!」

櫻子「ちぇっ、面白いものなら一緒に遊b」

向日葵「まったく、仕方ありませんわね」

櫻子「いつになく乗り気だな」

向日葵(この際、なぜ撫子さんがローターを持ってるかなんてどうでもいいですわ)

向日葵(神様が下さったチャンス い た だ き ま す)

櫻子「ところでさ」

向日葵「何ですの?」

櫻子「向日葵はコレなにか知ってんの?」

向日葵「マッタクモッテ、シリマセンワ」

櫻子「なーんだ、じゃあ遊べないn」

向日葵「わからないならイロイロ試していけばいいだけでしょう!!」

櫻子「なにその執着心」

櫻子「どうもこのスイッチで振動するようなんだ」ブィィィン

向日葵「ハァ ハァ」

櫻子「あとついてる機能はダイヤルで強弱を調整できるぐらいだな」

向日葵「向日葵らめぇ……」ブツブツ

櫻子「きいてる?」

向日葵「準備オッケーですわ」

櫻子「準備ってなんd」

向日葵「スイッチオン!!」

「で、これいったいどう使――」

櫻子の言葉はそこで途切れた。唐突に重ねられた向日葵の唇が続きを邪魔する。
予想だにしない向日葵の行動に、櫻子が目を見開いた。

普段は自分をののしるか注意するかにしか使われていない幼馴染の口。
それがあらゆる段階を飛び越えて、奇妙な使われ方をしている。

(え? まさか、私ちゅーされて……?)
ようやく櫻子の思考が回復する。だが、向日葵はすでに先を歩いていた。

舌先で櫻子の唇をなぞり、少しづつ奥に沈ませていく。

抵抗しなくてはいけない。櫻子も頭ではそうわかっている。

わかってはいるが、抵抗できなかった。

(向日葵、なんで?)
初めての感覚に戸惑う。しかし、不思議と嫌悪感は無い。
向日葵の舌がねじ込まれていく。やわらかく、かたく、不思議な感触が口中に広がっていく。

(櫻子、オレンジジュース飲んだのかしら?)
愛しい人の口から伝わる甘酸っぱい味。ファーストキスはレモン味と誰かが言っていたが、個人差があるようだ。

たっぷりと櫻子を堪能し、ようやく向日葵が口を離した。涎が一筋の線となり、互いをつなぐ。

「櫻子」
「……ん」
熱に浮かされたような顔をする櫻子。向日葵がゆっくりと口を開く。

「もしこれ以上嫌なら――ただの幼馴染でいたいなら、私の右手を握って」
少し震える声。平静を装うが、向日葵の不安は隠しきれていない。
何度かの呼吸を置き、続きを語る。

「でも、あなたがもっと望むなら、私の左手を握って」
差し出される手。向日葵が差し出したのは無論、左手。本音を代弁した手。

櫻子も恐る恐る手を伸ばした。

力なく掴んだのは向日葵の――

右手。

櫻子が選んだのは平常。向日葵も覚悟はしていた。
これより先には行きたくないのだろう。

そうならば、なぜ――

(そんな顔しますの?)

想い人は依然、とろけた顔で向日葵を見上げている。
褒美を待つ子犬のような表情で。

拒絶しておきながら、要求するような矛盾。
好かれているのか嫌われているのかわからない。
それがより一層、向日葵を悩ませる。

「ねぇ、続き…」
ポツリと声がした。櫻子の掴む力が少しだけ強くなった気がする。
向日葵が櫻子の目を見つめると、きまりが悪いのか、櫻子が視線を外した。

「でも、あなたが選んだのは……」
「これ、向日葵の左側の手でしょ?」

櫻子の混乱は、向日葵の想像をはるかに超えていた。

(まさか、ここまでとは)
向日葵の全身の力が抜けていく。それと同時に自然と笑いがこぼれた。

「な、なに笑ってんだよ!」
赤い顔で抗議する櫻子。もはや緊張は完全に姿を消していた。

勉強以外に関して櫻子の学習能力は高かった。
3回目のキスでは自分から舌を絡めるようになり、唇以外にキスをしたのも櫻子からだった。


「櫻子、どうして……そんなに? あっ」
向日葵の首筋の弱さは誰にも話していない。しかし、櫻子は唇でなぞっただけですぐに読み取った。
耳たぶから舌を這わせ、ゆるやかに下降してゆく。吐息が冷たく感じる。

「だって、向日葵だもん」
答えになっていない答え。だが互いにはそれだけで十分だった。

櫻子の弱点は脇腹だろう。向日葵の指先が触れただけでそう感じたようなものだ。

「じゃあ、これ」
向日葵が件のオモチャを手に取る。櫻子が小さくうなずいた。


櫻子の後ろに向日葵が位置を変える。そのまま腕を回すと、ちょうど抱き付く形になった。
向日葵の腕に力が入ると、櫻子の背中に柔らかな圧力がかかる。逆の立場では到底味わえないであろう感触。


そのままの格好でダイヤルで強さを調節していると、櫻子がくるりと振り向いた。

「ちょっと、これじゃしづら――」
「向日葵が見えなきゃヤだ」
ふて腐るように呟き、向日葵の胸に顔を沈める。目だけは向日葵を見つめ続けていた。

「……本当に馬鹿」
微笑みながら向日葵が手を動かす。櫻子の嬌声が漏れ始めた。

「ひま、ちょっと待、あっ」
服の上から、それも極限まで弱くしたはずなのに、櫻子が震える。
離れようとする櫻子を向日葵の片手が抑え込む。優しい嗜虐心が向日葵に芽生え始めた。
胸の周りをなぞるだけの動きが次第に攻撃的になっていく。

「次にいきますわ」耳元で甘くささやき、ステップを進む。
薄手のシャツの裾に向日葵が手をかけ、オモチャを中へと潜らせる。
櫻子は息を荒げてはいるが、嫌がるそぶりはない。

「うんっ」
振動が脇腹に響いたのか、櫻子が体をよじった。
お詫びのしるしに額にキスをすると、櫻子が口を突き出す。
イタズラ心で放置していると、櫻子が無理やり向日葵を引き寄せた。

昔のように仲良しな二人。違うのは大人に近づいていることだけ。

向日葵がブラジャー越しにゆっくりとオモチャを押し付ける。
櫻子が大きく体をのけ反らせた。

「それっ! やぁ、めっ、ん!」
声に比べて力なく首を振るが、向日葵は受け入れない。
反応を楽しむようにダイヤルをいじり、押したり離したりと遊んでいる。

「だめ、だよぉ。ひま、ちゃん」
ふと漏れた懐かしい呼称。それが向日葵に、より火をつけた。

オモチャを持ったまま、少し乱暴に下着の奥へと手を入れる。

(櫻子、こんなに興奮してますのね)
向日葵の指先が何かに触れた。平坦な櫻子の胸に似つかわしくないふくらみ。
櫻子の顔から、それが何なのかはすぐにわかった。

そっとオモチャを近づけると、櫻子が泣きそうな顔をする。

「なんか、胸がキュってなるよぉ、ひまちゃん」
「私はここにいますわ、さーちゃん」

臆面もなく向日葵にしがみつき、快感を訴える。向日葵もまた、むさぼるように櫻子にキスをした。
ダイヤルが壊れるほどいっぱいに回し、比例して櫻子が声をあげる。

互いの名を呼び合ううちに、櫻子が激しく体を強張らせた。
ブルブルと体を震えさせる櫻子。そのまま眠るように倒れこみ、向日葵に身を預けた。

汗まみれになっているが、顔はとても安らかな顔をしていた。

(胸だけでなんて、まだ子どもですわね)
秘部のことを知っている、自分の方が少しだけ大人なのだろう。

櫻子に勝ったところが一つ見つかった。
向日葵は少し誇らしくなった。

「スイッチオフ」

向日葵「櫻子、絶対に内緒ですわ……」

櫻子「ふぁい……」


~翌日~
「花子ー! お姉様がイイこと教えてやるぞー!」

花子「何だし。ていうか床が汚れるから浮けって言ってるし」

櫻子「さらりと無理を言うな」

花子「要件があるならさっさとしろし」

櫻子「そんな強気でいられるのもいまだけだぞ」ブイィィィン

花子「なに馬鹿なこと――」


ダシー


櫻子「気分はどうだ? 花子」

花子「櫻子……お姉さま……」

櫻子(計画通り!! このアイテムさえあれば、私は神になれる!)

櫻子「撫子姉ちゃーん! イイこと教えてやるぞー!!」

撫子「……それどこで見つけた?」

櫻子「ねーちゃんの――はぁう!!」

撫子「ちょうどいいや、ソレの本当の使い方を教えてあげる」

櫻子「いや…やめて……」


ゴメンナサーイ


撫子「ふぅ……反省した?」

櫻子「お尻、痛いよぅ」



おわり

読んでくれてありがとう

またな

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