律子「誕生日……か」 (24)
気づいたら日をまたいでた……
一応、亜美「誕生日ねぇ……」
亜美「誕生日ねぇ……」 - SSまとめ速報
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律っちゃん誕生日おめでとう
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疲れた、という独り言と共に、社長室のソファに身を投げる。
亜美「お疲れちゃーん」
律子「……あんた、何当然のようにココにいるのよ」
違う。本当はそんなことを言いたいのではない。彼女、双海亜美がここにいる理由だってちゃんと解っている。
律子「あんたはウチの大事な看板タレントなんだから。身体を休めるのも仕事の内よ」
だというのに、口は勝手に言葉を紡ぐ。
亜美「身体を休めるのが仕事なら手当ちょーだいよ」
律子「バカなこと言わないの。で、何の用?」
亜美「こないだのお返し」
亜美が鞄から、随分と高級そうな酒瓶を取り出してにんまりと笑う。いつだったか私が飲んでみたいと言ったものだ。亜美、覚えていてくれたんだ……
亜美「私の誕生日にゃ、随分遅くまで付き合ってくれたからね」
律子「部下の慰労も社長の務めよ」
亜美「またまた。相変わらず素直じゃないんだから」
全くだ。その素直でない、面倒くさい私にここまで着いてきてくれた彼女に言いたいことはもっと別の言葉のはずだ。だというのに、やはり素直でない私には、その言葉を紡ぐことがとてつもなく難しく感じる。
律子「まぁ、明日は流石に休みにしてるから良いけどね」
やっとの事で絞り出した、二人きりの酒宴への了承の言葉のなんと色気のないことだろう。
まってましたとばかりに、勝手知ったる様子で亜美がグラスを取り出す。口ずさんでいる歌は、懐かしいことに「SMOKY SRILL」だ。
亜美「はい、律っちゃんのグラス」
手渡されたグラスをあいまいな笑顔で受け取り、コツンとあわせる。
律子「……ふぅ」
亜美「いい飲みっぷりだねぇ。はい、おかわり」
それなりに人気のタレントを何人か抱えるプロダクションの社長である私が手を出すのをためらうくらい高価なお酒を、亜美は関係ないもんねとばかりに注いでくる。
律子「ちょっ、亜美! あんたこれの価値分かってんの?」
亜美「買った本人なんだから知ってるに決まってんじゃん」
それはそうだ。今日はどうにも不調だ。私らしくない。亜美に何度も良いようにしてやられっぱなしだ。
律子「亜美、後悔してない?」
亜美「へ?」
らしくないついでに、ずっとずっと聞きたかったことを聞いてみることにした。
何か珍獣でも見たかのような失礼な顔を浮かべる亜美に対して、私達の間ではもはや定番となっている少々怒気を孕んだ声で再度問う。
律子「だから、765プロを抜けて私に着いてきたこと、後悔してないかって聞いてるのよ!」
我ながら可愛げの無い女だ。そんな私を、嫌な顔をしないどころか笑顔で見つめる亜美。これではどちらが年上か分かったものじゃない。
亜美「律っちゃん、不安だったんだね」
そう言いながら、私の頭をポンポンと撫でる。そう言えば、亜美が私の背を抜いたのはいつだっけ……などと関係のないことを思い浮かべながら、暫しの間亜美に頭を預ける。
亜美「大丈夫。良いことも、悪いことも、律っちゃんと一緒なら全部いい思い出だよ。もちろん、765プロを一緒に抜けたこともね」
そう言って、私の頭上の手をそっと離す。
律子「あっ」
いけない。思わず声が漏れてしまった。私の切なそうな声を聞いて、亜美はニヤニヤといやらしい笑顔を見せる。
亜美「おやぁ、律っちゃん物足りないって顔してますなぁ」
律子「ば、バカなこと言わないの。ボーナスカットするわよ!」
亜美「うげー、鬼軍曹は健在かぁ」
律子「……その台詞もなんだか懐かしいわね」
亜美「あれ、そう言えば最近ずっと言ってなかったっけ?」
律子「うちを立ち上げてからは、ほとんど言わなかったと思うわよ」
亜美「あー、まああの頃はお互い必死だったもんね」
律子「そうね。私は思った以上に経営が上手く回らなかったし」
亜美「私は一からのスタートになっちゃったし」
律子「……プロデューサー殿の所に残ってれば、今頃トップアイドルだったかもしれないわよ」
ああ、私ってこんなに弱かっただろうか。亜美の返す言葉など分かっているはずなのに、こんな試すような事を聞いてしまう。
亜美「……ていっ」
ビシッと今度は頭にチョップを入れられた。
亜美「もー、律っちゃんは相変わらず寂しがり屋さんなんだから」
手刀を形作っていた亜美の右手は、そのまま再び私の頭を優しく撫でる。お酒が回ったのか、撫でられるのが気持ちいいのか、頭の中がどうにもフワフワする。
亜美「大丈夫。亜美はずっと一緒だから」
律子「……うん」
時計の鐘が日付が変わったことを告げる。一つ、二つ、三つ……十一度目の鐘に紛れ込ませるように、私は呟いた。
律子「亜美、ありがとう」
十二度目の鐘が鳴って、私の誕生日が終わった。
以上です。お目汚し失礼しました
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