拓海「耳かき」 (33)

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<ガチャ

P「ただ今戻りましたー」

拓海「おっすP。ん…?」ジーッ

P「どうした拓海?」

拓海「おいP。ちょっと止まれ…んー」ジーッ

P「その…何を見てるんだ?」

拓海「オマエ、最後に耳掃除したのいつだ?」

P「えっと…いつだっけ?」

拓海「手前の方はそれほどだけど奥に溜まってんのが見えてんぞ」

P「ゲッ、まじか…こまめにしないとだめだな…」

拓海「しゃーねえな。アタシが耳掃除してやるよ」

P「………へ?」


P「拓海…その、大丈夫か?」

拓海「あぁ? 何がだよ」

P「…鼓膜破らない?」

拓海「安心しな。こう見えても年少組の耳掃除もしてるからな」

P「…マジで?」

拓海「薫なんかしてやると喜ぶぜ?」

P「じゃあ…お願いします」

拓海「準備するから先に仮眠室に行っててくれ」

―仮眠室

拓海「よーし。んじゃ始めるぞ」

P「…お手柔らかに」

拓海「それじゃ頭をこっちによこしな」ポンポン

P「………えっ?」

拓海「え? じゃねえよ。ほら、早くしろよ」ポンポン

P「直に膝枕…いいのか?」

拓海「アタシはこっちの方がやりやすいんだよ。ほら、のっけな」

P「それじゃ失礼…」

 太ももに頭を乗せた瞬間、じんわりと頭に温かさが広がる。
 女の子特有の体温の高さ。そのせいだと言い聞かせるが、顔面に血液が集中しているのがはっきりわかる。
 気を紛らわせるために少し質問をしてみた。

「拓海は男に膝枕するのははじめてなのか?」

「こんなこと野郎にするわけねぇだろ。Pが初めてだよ」

 俺がはじめて。
その言葉を聞いて少しうれしくなったが、それと同時に恥ずかしさがこみ上げてきた。行き場のない羞恥心が俺を支配する。
 気恥ずかしかったので、何となく拓海の大腿に手を這わせてみた。


 ぴとっ、すりすり…

「ひゃうっ! な、何しやがんだテメェ!」

「イタイイタイ! じょ、ジョークだから! もうしないから!」

「ったく…次やったら鼓膜まで破ってやるからな」

「絶対しません」

 ぐりぐり、と拳をこめかみに押し付けられた。案の定怒られてしまった。
 鼓膜破り、ダメ、ゼッタイ。
 拓海の機嫌をこれ以上損ねることに対して、俺の危険信号が警告を発している。大人しく耳かきされよう。


 そう思っていると、拓海はおもむろに何かの容器を取り出した。
 透明な液体らしきものが入っているのが確認できる。

「拓海、なんだそれは?」

「エステローションだよ。最初にこれを使って耳の周りをマッサージしていくぜ」

 ぴちゃっ、ぴちゃっと数滴手のひらに垂らし、両手でじんわりとあたためる。
 ほんのりと水気を持った手が俺の両耳に触れた。
 まるで耳を舐められているような…身体がビクン、と反応してしまった。

「んっ…なんか変な感じだな」

「少し気持ち悪いかもしれねぇけど我慢してくれ。こうやってマッサージすれば血行が良くなって耳垢がとれやすくなるんだぜ」

 その言葉通り、拓海の指の動きに合わせて耳の周りがじんわりと熱くなる。
 普段耳の周りを他人に触らせる機会などほとんどない。

 耳の裏も、外耳も、耳全体を指が這う。指が這うたびに触れた個所は熱を帯びていく。
 そうこうするうちに耳周りは十分温まっていた。


「それじゃ耳かきしていくぜ」

 そういって取り出したのは、一本の竹匙。どうやら拓海はシンプル派らしい。

「やっぱ耳かきと言えばこれだよな。コイル型はどうにも好きになれねぇ」

「耳垢がとり辛いのか?」

「ゴッソリ取れるけど後始末がめんどくせぇんだよ。それじゃ手前からやってくぜ」

 そういって拓海は竹匙をあてがう。カリッ、カリッと手前から刺激していく。
 耳の形に沿うように、優しい手つきで耳垢を取って行く。普段自分でする機会はほとんどないせいか、結構気持ちいい。
 
「手前の方からとっていかねえと耳垢を奥に押し込んじまうからな。痛くねえか?」

「うん…気持ちいいよ」

「そっか。ならよかった」





かりっ、かりかり…

 手前から丁寧に耳垢が剥がされていき、少しずつ耳を刺激される。
 思いのほか気持ちよかったので誰かに耳かきをされるのも悪くないな、と思い始めていた

「んー、手前の方も結構あるな。こりゃ奥は相当だな」

「うっ…そ、そんなに汚れてるか?」

「まぁそうだな。恥ずかしかったらちゃんと耳掃除しろよ?」

「…反省してます」

 …前言撤回。いくら気持ちいいとはいえ、自分の担当アイドルに汚い耳をさらけ出すのは流石に恥ずかしい。
 耳かき、どこにやったかな…? そんなことに思考を巡らせる。


「んじゃそろそろ中の方も掃除していくな」

 直後、耳孔に耳匙が侵入してきた。
 ぷちっ、ぷちっという小さい音とともにむず痒さが襲ってくる。なんだこれは…くすぐったい。
 
「た、拓海…なんかすごくむず痒いんだが」

「多分耳毛のあたりを触ってるからだな。ちょっくらガマンしてくれ」

 いくら痒かろうと、頭は動かせない。動かしたら今耳に差し込まれている竹匙がどう鼓膜に襲い掛かってくるか…想像したくもない。
 俺が痒さをこらえている間に、拓海はせっせと耳垢を取り除いていた。カリッ、カリッという音が小気味よく聞こえてくる。

 かりっ、かりかりっ…ぺりっ!

「んっ!?」

「おー、こびり付いてたのがとれたな。ほら、こんなでっかいのがあったぞ?」

「………えっ?」

 そういって差し出されたのは1センチ程度はあろう大きさの耳垢だった。こんなものが出てくるほど掃除を放置していたことを少し後悔した。
 確かにとれた瞬間に爽快感が襲ってきたが、それも納得の大きさだった。



「誰に見られてるかなんてわからねえんだから、ちゃんと耳は綺麗にしとけよ?」

「…気を付けます」

「よろしい。そんじゃ、もう少しとるぞ」



 かりっ、かりかりっ…

 拓海の表情は確認することはできないが、真剣な雰囲気は伝わってくる。
 普段のアイドル・向井拓海とはまた別の真剣さ…
 声色も普段の刺々しさはなく、どこか優しさを含んだ声。拓海にもこんな一面があるんだな。
 今の気分は、さながら姉に耳かきをしてもらっている弟だ。現実の弟がこんなことをしてもらえるとは思えないが。


 かりっ…かりかり、かりっ…

 拓海の耳匙の動かし方は、実に繊細だった。耳の中を傷つけまいとする気遣いが感じられた。慎重かつ的確に耳垢を排除していく。
 かりっ、かりっと耳匙が動くたびに、耳の中がじんわりと温かくなる感覚が続く。
 耳の中をマッサージされている感覚に襲われる。温かさと同時に睡魔も押し寄せてきて、瞼も重くなってきた。

「眠くなってきたか?」

「うん…ちょっと起きてるのがつらいな」

「眠たかったら寝ちまっていいぜ。疲れてんだろ?」

 その言葉を聞き遂げると、無意識に瞼は落ちていった。考える間もなく意識は闇に落ちていった…

―――――――――――



 かりっ、かりかりっ…

「…こうしてみると普段の精悍さはどこにもねぇな」

 右耳を終えて左耳を掃除しているが、一向に起きる気配はねぇ。
 Pの奴は電池が切れたようにお休み中だ。

 普段はアタシらのサポートに徹して、支えてくれる頼もしいプロデューサー。
 この男はアタシの知らない所でどれほど疲労をため込んでいたのだろうか。想像もつかない。

 初めは事務所に無理やり連れてこられた。アタシは拒否したものの言いくるめられ、期間限定でアイドルとして活動することに。
 それがいつの間にかここまで来てしまった。
 でもコイツのことは嫌いじゃねえ。
 むしろ………いや、なんでもない。その言葉を言うのにはまだ早すぎるからな。


 かりっ、かりかり…ぺりっ…

「…それにしても、結構可愛い寝顔だな。それっ」

「んっ…」

 ツンツンと耳かきの先でほっぺたを突っついてみるが、起きる気配はねぇ。ぐっすり眠っちまってるみたいだ。
 前よりも仕事が増えて、Pが休んでる姿を見る方が少なくなっていった。
 いくら元気を装っていても、疲労は蓄積していたんだろうな。
 
 だから、せめて今くらいは…

「…いつもありがとな、P」


――――――――――――



「………んっ?」

 ふと目が覚め、辺りを見渡す。窓からみた空は赤く染まり始めていた。
 いつの間にか仮眠室のベッドに寝かせられていたようだ。こんなにぐっすり眠れたのはいつ以来だろうか。。
 とりあえずベッドから出て拓海にお礼を言おうとした。が―



「すぅ…すぅ…」

「………えっ?」

 その拓海は、俺の横で寝息を立てていた。ど、どういうことだ…?
 まさか俺は拓海に何か…いや、そんなはずはない。
 耳かきをされてそのまま微睡んで…そこからは何もしてないはずだ。


「…P」

「へっ!?」

「…すぅ…すぅ…」

 どうやらただの寝言のようだ。急に名前を呼ばれて驚いてしまった…ちょっとドキッとした。
 とりあえずベッドから出ようとしたが…無意識の拓海に上半身を拘束され、身動きが取れない。
 まあ急ぐ予定はないし悪い気はしないので、もうしばらくこのままでいようか。

「ありがとな、拓海」


 おわり。

見てくれた人ありがとう
家庭的な拓海もいいと思ったので書いた。それだけ。

もしかして前美優さんの耳掻きの奴書いた人?

>>25
ちがうよ
前にはこんなの書いてた↓。基本は台本形式しかやってないよ
モバP「ヤンキーちゃんとメガネちゃん」 - SSまとめ速報
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