女「何かしたいこととかはないんですか」
男「特にはないな」
女「ずっとこんな部屋に籠っていては暇でしょう」
男「たまにはコンビニに行って飯くらい買ってる」
女「暇潰しにはならないですよね」
男「そうだな」
男「そこまで言うならSSでも作ろうかな」
女「どんな話を書きたいんですか?」
男「見た人が面白いと思えるものが書きたいな」
女「すこぶるアバウトですね」
女「しかしネガティブで死ぬことばかり考えるあなたが面白い話を書くのは難しいと思います」
男「失礼だな、死ぬこと以外も考えてる」
女「へえ」
男「信じてないだろ」
女「信じられる要素があるんですか?」
男「仮にもこの学歴社会にも通用するレベルの頭脳を持った人間に、死ぬこと以外の考えがないわけがないだろう」
女「勉強なんて記憶力などの才能があれば片手間でできます」
男「君は今、大勢の人間を敵に回した」
女「あら失礼しました。でも人には向き不向きというのがあって、向いていることであればわずかな労力で大きな効果が得られます」
男「わずかな労力について具体的に説明してくれ」
女「その人にとって大した労力ではないと思える程度の労力ですかね」
男「他人から見たら頑張ってるように見えるかもしれないわけだな」
女「自分の感性に他人の評価なんて関係ないでしょう?」
男「まあそうだな」
女「話を戻すと、あなたの勉強の才能は面白い話を書く上でほとんど役に立たないという話です」
女「何故ならば、あなたは才能に物を言わせて、興味も持たないまま色々なことを終わらせてきたからです」
男「興味ねえ」
女「二言目には死にたいとかいなくなりたいとか言うあなたにはないでしょう」
男「言ってはいない」
女「思ってはいますよね」
男「自分の身の回りに特別に面白いことがあるなんて思えないんだよ」
女「ならあなたが書いたものが面白くなるわけないですよね」
男「僕の周りにあるものは面白くないから?」
女「そうです」
女「あなたが今一番人より理解していると思えるものはなんですか?」
男「僕の中で一番?」
女「そうです。知識でも技術でも、話のテーマになるようなものです」
男「首吊りは思いのほか苦しいという実体験」
女「話の題材になります?」
男「自殺をテーマにした話でも面白い話はあるだろう」
女「それは否定しないです」
女「しかしそれは自殺する理由などの背景に焦点を当てるものであって、方法そのものに焦点を当ててしまっては話ではなくただの解説ですよ」
男「確かに」
女「あなたは方法や技術に関する知識や感想は持ち合わせていますが、それらを得るに至った背景や想いを蔑ろにしすぎです」
男「過程をいくら積み重ねても結果に至ることができる人は一部しかいないのだから、最初から万人に結果を与える方が効率的だろう」
女「そう考えている時点で面白い作品が書けるわけないです」
男「僕の考えが表層的すぎて面白い話を書くには向いていないと」
女「その通りです」
男「面白い作品を書くには深い背景や心情が必要だと」
女「よく分かってるじゃないですか」
男「ふむ……」
女(凹んじゃった?)
男「ふむ、であれば僕自身の話をしよう」
女「あなたの話ですか」
男「他人の考えを慮ることはできないからな」
女「でしょうね」
男「背景を語れるとしたら自分のことくらいだ」
男「君は僕が死にたがりだと言ったな」
女「はい」
男「まあその通りなので、その理由から説明しようか」
男「と思ったが大層な理由もないな」
女「期待させといてそれですか」
男「別に楽しみもないし、特段生きていたい理由がないってだけだからな」
女「普通の人は今日はこうしよう、明日はこうしたいと思っていると思います」
男「知らんがそういうもんかね」
女「そういう他人への無頓着さはどういう経緯で生じたのでしょうか」
男「言うほど無頓着かすら分からんけれど、頓着しても良いことがないと思ったからではないのか」
女「気にかけるのが悪いことだと?」
男「悪いとまでは言わんが……まあそうだな」
女「なぜ気にかける必要がないのでしょうか」
男「僕が何かに気をかけたからと言って、その何かが変わるわけではないだろう」
女「本気でそう思ってるんですか?」
男「大勢の前では僕個人の行動なんて意味がないだろ」
女「ふーん」
男「納得できないか」
女「まあいいです」
女「あなたは大勢の前ではと言いましたが、大勢に対してだけでなく、比較的小さな事柄あるいは個人に対してまで同じように考えているようにみえます」
男「事実そうだしな」
女「個人すら変える力がないと」
男「あるように見えるか?」
女「頼りないことを言いますね」
男「頼られるよりは事前に諦められる方がマシだ」
女「本当に頼りないです」
男「言っとけ」
女「張り合いもないです」
男「悪いことでもないだろ」
女「決して良いことではないですからね」
女「なぜ何に対しても自分は影響しないと思うんですか」
男「僕からしてみれば君みたいに何かに影響できると思ってる人が不思議なわけだが……」
女「何かしらの心を折られるエピソードがあったわけではないんですか?」
男「心が折れた状態で産まれてきたのかもしれない」
女「生まれつきいじめられっ子的な」
男「そういえば保育園のときはいじめっ子だったな」
女「最低ですね」
男「好きでいじめてたわけではない」
女「仲の良い子がいじめを始めて止められず、なあなあで一緒にいじめた的な?」
男「エスパーかよ」
女「それでも十分最低ですね」
男「それで半ば不登校になったんだからな」
女「……あなたが?」
男「そう」
女「そんなに嫌だったのに何も言えないって本当にどうかしています」
男「今だったら平気な顔で両方に良い面できるよ」
女「それはどちらにもなんの影響も与えないで済むからですか?」
男「そうだな」
男「どちらに影響を与えても元よりいい結果になるとは限らないだろう?」
女「今とは違う結果になることは分かってるじゃないですか」
男「その結果を受けるのは僕ではないんだから、無責任なことはできない」
男「かと言って、その結果を僕が受けるような自己犠牲の精神もない」
女「恨まれるのが嫌なんですか」
男「誰だってそうだろう」
女「誰だって、ですかね」
女「私は"誰かに恨まれる"ことと"私がしたいことをできない"ことを天秤にかけたら"私がしたいことができない"方が嫌です」
男「自分にそこまでの我を通す価値があるとは思えない」
女「自分より価値のあるものを見出しても構いはしないですが、自分を何者より優先できないのは辛くないですか?」
男「だから死にたいと言っている」
女「あなたの価値を決めているのは誰ですか」
男「僕自身だろう」
女「なら何故自分自身に下駄を履かせることができないんですか」
男「履ける下駄もないからかな」
女「自信がないってことですか?」
男「自信はないな」
女「例えば何について」
男「何についても」
女「高学歴を自称するくらいだから勉強は自信持てるのでは」
男「一桁の足し算ですら自信を持った回答はできないが」
女「なんでですか……」
男「ヒューマン・エラーがどこで入るかなんて分かってたら誰も苦労はしないだろう」
女「過剰です」
男「事実として一桁の足し算ですら何度間違えたか分からんからな」
女「失敗の経験は成功への
男「要所要所でヒューマン・エラーが出るかも知れないプレッシャーなんてどう克服するんだよ」
女「出なくなるまで繰り返せば良いです」
男「それは単純作業な仕事でなければできない」
男「日々異なる仕事を求められる場において、ルーチン・ワークなんてほとんどない」
女「それは向いてないんだから辞めればいいのでは」
男「今さら辞めて何をするあてもないし、気力もない。どこに行き着いてもしたいことがないからな」
女「……」
男「ここまでの死にたいって考えに対する理由らしきものは二つかね」
男「1つ目に自信のなさ。これが自分を不要だという考えにして、無力感や他人への無関心を産んでいる」
男「2つ目に興味のなさ。色々なことに興味がないから、生きてまでしたいと思えない」
男「面白いSSを作るってところから大きく逸れて、ただの面倒くさい話になってきてる気がするな」
女「そうですね」
女「自信についての話も気になりますが、興味のなさについてもそろそろ言及してみましょうか」
男「興味ね」
女「本当に何にも興味はないんですか」
男「厳密にはなくもないな」
男「エロ関連の動画や画像はよく漁るし、生き物なんか可愛くて好きだ。それに今だって暇潰しにSSを作ろうなんて言っている」
女「普通っぽいです」
男「だろう」
女「ではなぜ生きてそれをしたいという欲求にまで昇華されないのでしょう」
男「できると思わないからだろうなあ」
女「自信がないから?」
男「まあそうだな」
女「結局そこに落ち着くんですね」
女「自信がないからしないというのは罪にすべきです」
男「極論すぎる」
女「するから自信がつくのでしょう?」
男「しても自信がついてない人間がここにいるわけだが」
女「してないんじゃないですか」
男「勉強をして成績を出したからと言って、勉強ができるなんて自信がつくわけではないのは僕自身が実証している」
女「それはあなたが"自分のやり方が正しい"という思い持っていなかったからでしょう」
男「そんな考えはそれこそ自信がなければ持てないだろう」
女「正しいと思えないやり方で結果的に上手くできても、そのやり方に自信なんてもてません」
男「自信を持つために最初から自信を持てというのは無理な話だろう」
女「最初は自分ではなく方法を信じるだけですから」
男「色々な方法があるのに一つの方法を盲目的に信じるのは良くない」
女「あなたは今、勝って勝って勝って勝ってその果てに、方法論とは無関係な場所で負け続けているわけですが」
男「う……」
女「あなたがそれでもずっと勝ち続けられるというならあなたの考えを否定する気はないですが、自信をなくして折れ曲がったままのあなたには反論できませんよね」
男「自信をなくしても何も、最初から自信なんてない」
女「少なくとも折れる前は多少の自信があるように見えていました」
男「……気のせいだと思うけれど」
女「あなたがどう思っていようが、私は周りはあなたをそういう人だと思っています」
男「…………見る目がないよね」
女「あなたがあなたを見る目がないのでは?」
男「帰ってくれ」
女「え」
男「もう面倒くさいんだ。帰ってくれ」
女「……」
男「俺が人に褒められて喜ぶような人間だと思っているのなら大きな間違いだ」
男「人に期待されるのなんかもうウンザリなんだ」
男「お前らは俺を認めて何をしたいんだ」
男「俺にはなにもできない、それは俺自身が一番知ってる」
男「だから誰にも認められず非難されなければならない」
男「認められるようなことなんて何もできないんだ……」
女「えっと……その、私はただあなたにはできることがあるから自信をもってほしいと」
男「だからその"できること"なんてのは俺にはないと言ってるだろ」
男「俺に期待するな、俺に何かを任せるな」
男「……俺なんか要らないと言え」
男「言えよ!」
女「……」
女「今日はこれで失礼します……」
男「帰ったか」
男「はは、最低だ」
男「彼女は何も悪くない。ただ俺が最低なだけだ」
男「最低……だな」
男(俺なんかに期待する人は本当に馬鹿だよなぁ……)
男(何もできない人間だって言ってるのに、アホみたいに期待して)
男「本当に……馬鹿、だよなぁ……」
男(俺のことなんか考える時間が無駄なんだよ)
男(俺はゴミクズなんだから、俺のために時間を使うことは金をドブに捨てるのと同じだ)
男(みんなが俺のことを忘れてくれれば良いのになあ)
男(……そろそろ死ぬか)
疲れたからここで終わり
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