店主「君が此処に来るは、既に知っていたよ。歓迎しよう」
男「……なんだコイツ」
メイド「我が大いなる店主<マスター>です。お見知りおきを――」
男「その、店主ってのが言うに、俺がココに来るのを知っていたらしいな」
メイド「きっとそれは、夢色の宝珠<フトゥレサイト・フィースハイト>の事ですね」
男「夢色の宝珠<フトゥレサイト・フィースハイト>……? 何を言ってr」
店主「未来を見せる珠、それは夢幻の闇色に――美しいだろう?」
以下は私が私に課した縛り<フォーシュリフェン>です。ここに記しておきます。
・七行ノ規約<フォーシュフライフェン・ジッフェン>……自らを七行へと縛るる束縛
・括弧ノ統一(フェスト・ベグリフ・アインガンス)……"人物「内容」<br>"への束縛
・溜書ノ禁止(ブリフ・ニハト・ブラハウフト)……賢者の系譜を妬みし愚者の魂
・惰眠ノ制約(イェーデ・デルイェンス)……堕天使との契約を永久破棄させる条約
以上の3つです。では書いていきますね。
男「俺は昔から好奇心旺盛な人間だった」
男「路地を見つけては入り込んでいた子供時代を過ごしたこともある」
男「だが、雀百まで踊り忘れず、かな。と思わせる事態に遭遇した」
男「いつも通りの退社後に、何の変哲も無い裏路地だ」
男「もちろん俺は入っていったが、その中で一際興味を引く店があった」
??「――気づいたようですね。この店は、賢者には見えないのですよ」
男「おいおい嘘こけ……って、俺は、どこから話しかけられたんだ?」
女の声「気づく由もありません。あなたの前にある店の中ですから」
女の声「でも、貴方のその瞳が澄んでいることくらいは分かります」
女の声「見たところ、連れの女は居ないようですね……丁度いい」
女の声「貴方に、この店へと入る権利を与えました」
女の声「少し寂しいですが、このまま帰る権利も与えましょう」
男「……いや、たぶん入るけど……何のお店なんだ?」
女の声「ほんの喫茶店<ダス・カフィ>ですよ」
男「その……ダス・カフィってのは何を扱ってるんだ?」
女の声「っ!? ……こほん。これは失礼いたしました」
女の声「いわゆる、キッサテンのことです」
男「いや、明らかにおかしい言葉が聞こえたよ俺!?」
女の声「それは、きっと言葉の"あや"です」
女の声「契約者は、示された一定の言語域を使用するものなのです」
男「そ、そうなのか……業界用語みたいなヤツなんだな、きっと」
ちょっと異世界との契約により、出かけねばなりません。
こちらからは現世界の魔術――電子技術<オパラティヴン・アイングリフ>を。
向こうからは闇の術式を、それぞれ提供しあいます。
今、両世界は実に協力関係にあるのですよ。
ちょっくら行ってたてまつります。
最初は3つだった
→計画変更で4つへ
→慣性の法則により3つと表記
→実は5つだったことが判明 ←New!
スキマ時間に何個かだけ上げてくよー
あと酉つけとく
女の声「さぁ、どうぞ」
男「では、遠慮なく…… ……わぁお」
男「一見してただ乱雑に置いてあるだけに見える、このグッズっ!」
男「だがその実は一定の法則によって築き上げられた――」
男「所謂・不確定性の原理を最大限利用した巧妙な配置ッ!!!」
男「しかも、全てがオカルトちっくなグッズばかりだ……!」
男「ここの店主、デキる……ッ!!!」
女「混沌なる清純<コスモス・ディス・カオス>ですよ……男さん」
男「なっ、何故俺の名前を――」
女「雰囲気に呑まれるのは悪くないですが、程ほどに、ですよ」
男「そ、そうか……なるほど、とりあえず落ち着いたよ」
メイド「ならばテストをしましょう。私は何に見えますか?」
男「いや、メイドだろ」
メイド「……なるほど、やはり所詮は人間ですか――」
契約を再開しに行き奉ってくる
男「……そう、俺は人間だ」
メイド「ですが、私や貴方は選ばれし人間<アウスケヴェルテ・パズーン>です」
男「確かにな。ところで、ここはキッサテンなんだろ?」
メイド「ええ」
男「何か頼まないとマズいんじゃないか?」
メイド「……すみません。店主<マスター>が居ないとお出しできないのです」
男「――オマエの酷い版がいるのか?」
メイド「いいえ……店主は、それは素晴らしいお方です」
男「えっと……あなたとの関係は?」
メイド「私の雇い主であり、唯一の理解者――です」
メイド「あと私、メイドって言います。よろしくです」
男「まぁ、ここの雰囲気は好きだ……また来るよ」
メイド「今度は、店主の居るときにお願いします」
メイド「……日々悪と戦っていて、不定休ですが――」
男「何日か後まで、俺はその店まで通うことになる」
男「その際にメイドに色々聞いた」
男「……半分は、まだ見ぬ店主<マスター>の自慢話だったが」
男「だが、あの店の雰囲気はなぜか嫌いになれなかった」
男「そして俺は、会社を辞めた」
男「別に自分から辞めたわけじゃない。単に短期契約だったのだ」
男「これは契約が終わった後の、最初の日曜日の話である」
男「……普段の日曜日は遅くまで寝てるからな」
男「陽の光の眩しきを、まるで思い出したようである」
男「……あの店、行くかな」
男「そうだ、今日こそ店の名前を聞いておこう」
男「早朝ゆゑか、メイドの玄関コールが無い」
男「そしてふと横を見た俺は、遂に見てしまったのだ」
男「本物の、魔道術式らしきものを」
メイド「……っっ」
男「……あの、メイド……さん……?」
メイド「………」
男「普段は笑顔を振りまいていたメイドが、今日は真剣だ」
男「話しかけないでおこう」
メイド「……あっ、男さん。今日はお早いのですね」
男「ここ数日はそうだろう。仕事は俺を見捨てたんだ」
メイド「……確かにそうでしたね…ははは……」
メイド「――見て、ましたか?」
男「一応、な。桃色の――魔道術式<オペラティヴ・ワーファルレン・デア・マージェ>か?」
メイド「……私の話、ちゃんと聞いていたんですね。意外です」
男「一応、な……高次の人間のみ発現可能とかなんとか」
メイド「私の術式は――"恋愛の術式<リーベフォル>"ですから」
メイド「いつか、活かせればいいな……とぞ思ひけり」
男「……今日は、店主が来る予定があるのか?」
メイド「男さんには、先見の能<フトゥレサイト>があるかもしれませんね」
メイド「今日、かの地に来ると思われます」
男「本当に不定休だったんだ……」
メイド「私は人間を騙したりしません」
メイド「本当の賢者<サルベイ>か、本当の愚者<アイン・ナル>か――」
メイド「人間を騙すのなんて、そのうちのどっちかです」
男「……だが、待てど店主は来なかった」
男「そして、明くる日も、明くる日も来なかった」
男「日曜日だけは来る希望があるらしいが、やはり来なかった」
男「そして、俺の中でひとつの疑問が生じてしまった」
男「彼女の店主<マスター>は、本当に実在するのか?」
男「という、至極単純なものだ」
男「俺にそう思わせた理由のひとつは、日曜朝の術式だ」
男「あれは練習といっていたが、本当は何のためなのだろうか?」
男「彼女は『まだ少しだけ完成していないのです』と言っていたものの――」
男「俺には少なくとも、アレは完成しているかのように見えた」
男「なぜなら、俺がこうやって彼女に気を病んでいるから。であろう」
男「もちろん彼女は美しいまでの店主一筋愛である」
男「これはいわゆる、三角関係<ダイエクスベティェォング>であるのだ」
男「彼女の瞳に、俺は映っていない。俺に投影してもいない」
男「何も出されていないから、お金も落としていっていない」
男「見るに、俺以外の客もいないようだ」
男「だから……」
男「……店主を、見つけにいくしかないんだ――!!」
男「だが、その希望は薄い」
男「とりあえず今日も、彼女に会いに行こう」
男「――もう何年も会ってないって!?」
メイド「はい、実は、そうです……」
男「もし会えたら、気づけるのか?」
メイド「あっ、当たり前ですっ!! 絆をナメないで下さい!!」
男「なるほど……分かった。今日はありがとう」
メイド「あれ。今日はもうお帰りですか?」
男「……まぁな」
メイドの声『店主<マスター>! やりました!』
メイドの声『……今日も、任務を全うできたのか。よろしい』
メイドの声『あっ、ありがとうございます……っ!!』
男「……盗み聞きしてみたはいいものの」
男「幸せそうで何よりだった……はぁ、もう帰ろうかな」
メイドの声『そうですマスター、今日も男さんに会いましたよ』
男「っ!」
メイドの声『いつものように凛々しくて、どこか掴めなくって』
メイドの声『観察眼が凄くって、それで……いつも傍にいてくれる』
メイドの声『そう、マスターの、よう、な……人で……っ!』
メイドの声『………マスターの、ような……っ!』
メイドの声『マスターが居ないと、私、もう……もうっ……うえええええん……っ』
男「……俺は、何も出来ないのか……っ!?」
メイドの声『帰ってきてください、マスター……っ……』
男「……俺は、話すべきなんだろうか?」
男「店主はたぶん、事故でもう居ない、って」
男「それとも、気づかないフリをして、このまま――」
メイドの声『……今、行きますよ。マスター……待っててくださいね』
メイドの声『……ッ!!』
男「メイドっ!! 早まるな!!!」
メイド「!!??」
男「……遅かったか――」
メイド「……んぅ……?」
男「見えてしまったんだよ、メイドの未来が……くそおぉおおおっ!!」
男「俺のバカ! どうして、どうして何も出来なかったんだっ!!」
メイド「……気にすることは、ありませ、ん………」
男「血だらけじゃねーか……どう気にするなってんだよ」
メイド「やはり、優しい人なんですね……店主<マスター>は――」
男「違っ――」
男「……いや、あっている。それでいいんだ、メイドよ」
メイド「ふふふっ……」
メイド「……」
メイド「…………」
男「!!!!」
男「……夢、か」
男「日曜日……だな。もう昼だが」
男「いやー、悪夢だなんて本当に久しぶりだ」
男「メイドがナイフで自殺? そんなわけあるか」
男「……そんなわけ、ない、って言い切れるのか?」
男「……」
男「………俺は、どうすべきなんだろうか」
男「でも、その結論は、得られた気がするな」
男「俺が店主を演じてやればいい。ただそれだけだ」
男「もし俺に先見の能<フトゥレサイト>があったなら――」
男「メイドは、今日の夕方には死んでしまうんだ」
男「それくらいなら、自信を持って救えるさ……っ!」
男「さて、店主の格好ってどんなだ?」
男「……魔道士のローブ、とかなんだろうなきっと」
男「さっさと調達して、メイドを助けるんだッ!!!」
男「裏路地前」
男「そう。確か最初は夜だったな」
男「今は夕方だ。ローブ探しにかなり手間取ったからな」
男「……懐かしいな。最初に来たときも、ここを通ったっけ」
男「その後は、最適ルートを見つけちゃって、通らなかったけど」
男「よし、行こう。メイドが待ってる」
男「……これで、いいんだよな」
店主「君が此処に来るは、既に知っていたよ。歓迎しよう」
男「……なんだコイツ」
メイド「我が大いなる店主<マスター>です。お見知りおきを――」
男「その、店主ってのが言うに、俺がココに来るのを知っていたらしいな」
メイド「きっとそれは、夢色の宝珠<フトゥレサイト・フィースハイト>の事ですね」
男「夢色の宝珠<フトゥレサイト・フィースハイト>……? 何を言ってr」
店主「未来を見せる珠、それは夢幻の闇色に――美しいだろう?」
男「……俺には何も見えませんけど」
メイド「私もです」
店主「見える。今日は"男"以外に、客人が来ることはない」
男「あなた、本当に店主さん?」
店主「……如何にも、そうだ」
男「まじかよ……」
男「……マジかよおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」
男「……」
男「皆さん、未来を見てしまったことはありますか?」
男「それは偶然です。絶対に偶然です」
男「客が来るときは、あんな店にも来るんです」
男「それと、正夢なんてのはきっと存在しません」
男「それでは、よい週末を。おやすみなさい<グーテ・ナハト>――」
店主「ようこそ、闇色の巣窟<ディエ・フーレ>へ――」 END
これにて完結です。
本当はもっと色々やりたかったんですけどねぇ……
でもこれから、悪魔との交渉<ディスカッション>があるのですよ。
急がねばなりません。彼らは重要な取引先ですので――
それではそれでは。
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