ハギヨシ「愛があれば年の差なんて」咲「関係ないよねっ!」 (369)

ハギヨシさんと咲さんがただイチャコラしてるだけのおはなし

NLが苦手な方はそっ閉じ推奨

投下ペースは亀並みです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403143575

突然ですが宣伝です!

文句があればこのスレまで!

加蓮「サイレントヒルで待っているから。」
加蓮「サイレントヒルで待っているから。」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401372101/)

『まなざし』

窓際に座っているハギヨシは、反対側の道からでも目立っていた。

これで連続4回目の遅刻だ。

スマホの時計を見て、咲は小さく息を吐いた。

申し訳なさで気が重い。

だが謝るなら早めにした方がいい。

そう結論を出して、咲は店へと歩き出そうとしたが。

ハギヨシへと近づく人物に気づいて足を止めた。

若い女性の二人連れだ。

彼女たちは笑顔でハギヨシに話しかけている。

これはひょっとして逆ナンというやつだろうか。

愛想を振りまく2人を影から観察する。

このまま席を立って、行っちゃったらどうしよう。

可能性はゼロとは言えない。

ハギヨシだって綺麗な女性に言い寄られて悪い気分ではないだろう。

30分も遅刻しているのだから、もう知るかと彼女たちと行ってしまうだろうか。

内心でハラハラしながら、咲は店内を伺う。

ハギ咲とはめずらしい

まだハギヨシは動かない。

女性の一人がハギヨシの腕に手を掛けた。

途端、やんわりと振り払われる。

ここからは聞こえないが、ハギヨシが何か言ったようだ。

彼女たちの顔が引きつり、すぐにそそくさと立ち去ってしまった。

それを意に介した様子もなく、ハギヨシは足を組み直している。

そんな彼の表情を見て、咲の顔が強張った。


あんな顔、見たことがない。


何を言ったかは聞こえなかったが、その横顔はとても冷たいものだった。

今までの付き合いで、ハギヨシの困った顔や呆れた顔は見てきた。

でもさっき見せた表情は、咲の前では決してしたことがない。

何の興味も無いものを見るような。

冷めた表情。


もしもハギヨシと別れたら。

その瞬間、彼は今と同じ顔をするのだろうか。

続きは夜に投下します。

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加蓮「サイレントヒルで待っているから。」
加蓮「サイレントヒルで待っているから。」 - SSまとめ速報
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乙だけど変なのが沸いてるぞ
スレ立て直した方が良くね?

おつー

期待

>>11
色んなスレに出没してるから意味ないと思う

おお、いいね
期待

うお、何事かと思いましたw
続き投下します

咲「遅くなってすみません、ハギヨシさん」

頭を下げて、咲はハギヨシの前に腰を下ろした。

すぐに店員は水とおしぼりを持ってくる。

咲「ミルクティーをお願いします」

メニューをパラッと見て注文する。

ハギヨシ「それで、遅刻の原因は?」

咲「道に迷ってしまって…」

ハギヨシ「またですか。本当にあなたは方向音痴なのですね」

咲「すみません…」

ハギヨシ「今度からは自宅に迎えに行きましょうか?」

咲「いえ、それはもっと申し訳ないので…」

ハギヨシ「しかし…」

続けようとしたハギヨシは、自分の顔を凝視する咲に気づき言葉を止めた。

ハギヨシ「私の顔に何かついていますか?」

咲「い、いえ。別にそういうわけじゃ…」

ハギヨシ「?気になりますね」

咲「あまり気にしないでください」

ハギヨシ「ひょっとして、見惚れていたとか?」

からかうようなハギヨシの言葉に、咲の頬が赤くなる。

咲「ち、違っ…」

店員「お待たせしました」

咲の声を遮るように、店員がミルクティーをテーブルの上に置いた。

咲「あ、あの。ハギヨシさん」

ハギヨシ「はい」

咲「本当に…ごめんなさい」

ハギヨシ「もう良いのですよ。あなたを待っている時間も、私は好きですから」

そう言って微笑むハギヨシに、咲の顔が更に赤くなる。

すっかりぬるくなったコーヒーに、ハギヨシは手を伸ばす。

咲もティーカップに口をつけ、喉を潤していく。



女性とどこかに行くかも知れないなんて、想像して申し訳ないと心の中で謝る。

自分を好きだと言ってくれたハギヨシの言葉、信じているようで分かっていなかった。

カップを置いたハギヨシは咲を見ていた。

初めて付き合った日から、そのまなざしは何も変わっていない。

日々をともに過ごしていくうちに、日常になりすぎて忘れていた。

こんなにも、他の人を見る視線と違うのに。


咲「…ハギヨシさん」

ハギヨシ「はい、何でしょう」

咲「例えばの話、なんですけど」

咲「別れ話をする際は、電話とかで簡単に言ってください」

ハギヨシ「どういう例え話なんですか?」

咲「最後に見るあなたの顔が、私のことまるで興味もないっていう他人の顔だったら…耐えられませんから」

ハギヨシ「……」

そう。きっと耐えられそうにない。

あまりに、彼の優しい目に慣れ過ぎた。


ハギヨシ「…あなたが何故急にそんな話をしたのかは分かりませんが」

ハギヨシ「私からも、言わせてください」

スプーンでカップをかき混ぜていた咲の手を、ハギヨシは掴んだ。

ハギヨシ「私は咲と別れる気なんて、全くありませんよ」

咲「……はい」

ハギヨシ「全く。あなたは本当に目が離せませんね」

くすりとハギヨシは笑う。

何も言い返せず、咲は空いている手をそっとハギヨシのそれに重ねる。

ハギヨシも同様にもう一方の手を重ねてきた。

咲「見られますよ。ここ窓際ですし」

ハギヨシ「では私だけ見ていてください」

そうすれば、恥ずかしくないでしょう。

言いながら笑みを深くしたハギヨシが顔を覗きこんでくる。

今までこの視線を前にしてよく平気だったなと、咲は耳まで赤くした。


カン

こんな感じで短編を書いていきます。
見て下さった方ありがとうございました。

乙 甘々でよかった


流石の完璧紳士

この組み合わせ好き

乙乙

咲「今日のお薦めはこちらですか?」ハギヨシ「はい、この本です」
これ書いた?

図書館の話書いた人っぽいね
こういう雰囲気すきだわ

『タイ』

咲「む~…」

向かい合うようにして膝に抱いた恋人が顔を少しだけ上向かせて唸っているのに

ハギヨシは小さく笑みを漏らした。

咲が手にしているのは、ハギヨシの執事服のタイ。

結んでみたいと咲に言われ、タイを外して渡したのはいいが

不器用な咲は悪戦苦闘。

何度もハギヨシの細い指先が簡単に結んでいくのを見ていたのだが、

渡されてから数分たっても今だ結べずにいた。

咲「うう、ハギヨシさんみたいに綺麗に結べない…」

がっくりと項垂れる咲の髪を撫でて、ハギヨシはくすっと笑んだ。

ハギヨシ「まあ、私は毎日していますからね」

要は慣れなのだと、するりと襟元から絡まったタイを外す。

今だ落ち込んでいる咲に苦笑を漏らすと、

ハギヨシは手にしたタイを咲の首元に巻きつける。

咲「え、私につけるんですか?」

どことなく楽しげなハギヨシの指が器用に動いていくのを、

ただ黙って見ていた咲だったが。

咲「…どうして、ちょうちょ結びなんですか?」

むうっと咲に軽く睨みつけられてもハギヨシは動じない。

ハギヨシ「咲にはこっちの方が似合いますからね」

咲「また子供扱いして…」

結んだタイを外そうとした咲の白い手をとって、

ハギヨシはすばやくタイをしゅるっと外した。

ハギヨシ「ほら、この結び方だとすぐに外せるでしょう?」

咲「えっ」

ハギヨシ「恋人同士の営みをするには、最適な結び方だと思うのですが」

咲が言われた言葉の意味を理解する前に、ハギヨシはその唇を塞いだ。


ハギヨシ「子供扱いなんて、した覚えはありませんよ」


カン

乙乙

乙 拗ねた咲ちゃん可愛い

すばらC

いいねえ

百合豚だけどこのカプは好き

『距離』

まこ「家が近くだったら良かったとか、考えたりはしないんか?」

一歩先を歩いているまこの背中に、咲は「え?」と聞き返した。

いい風だなとぼんやりしていたので、よく聞き取れなかった。

まこ「聞いてなかったんかい」

咲「すみません」

まこ「執事さんと同じ地域に住んでたら良いなとか、咲は思わんのかって話じゃ」

言われて、咲は少し考える。

ハギヨシと付き合っていることは麻雀部の皆には知られている。

隠すつもりもなかったので、皆に聞かれた時点で咲は正直に話した。

皆は「咲が決めたことなら」と、笑って祝福してくれた。

今まで詮索することも無かったのに、今日は一体どうしたのだろう。


まこ「普通はちょっとでも長く会いたいって思うじゃろ。好きな人が相手なら、尚更じゃ」

咲「染谷先輩?誰かそういう相手でもいるんですか?」

まこの口調から、他校に好きな人でもいるのかと思って鎌をかけてみた。

すると後姿でもはっきりとわかる位、まこの耳が赤くなった。

咲「わぁ、相手は誰ですか?私の知っている人ですか?」

まこ「それは…こないだの大会で出会って…」

咲「ふむふむ」

まこ「ってわしのことはええんじゃ!それよりさっきの質問の答えは!?」

咲「それは…寂しいに決まってます」

ぼそっと咲が小さい声で呟いた。

咲「でもハギヨシさんは大人だし仕事も忙しくしてるから、そんな我侭は言えませんし…」

まこ「そうか?案外執事さんの方も、咲に会えなくて寂しく思っとるかも知れんぞ」

咲「ハギヨシさんが?」

まこの言葉に、今は執務中である恋人に想いを馳せた。

翌日。

咲「ハギヨシさんは、その…寂しいって思ったことはありますか?」

ハギヨシ「いきなりどうしたんです?」

ハギヨシと会う日だったので、咲は昨日の疑問を早速ぶつけてみることにした。

咲「染谷先輩が、お互い家が遠いとあまり会えなくて寂しくなる時もあるんじゃないかって言ってて」

咲「ハギヨシさんはどうなのかなって、ちょっと思っただけです」

ハギヨシ「なるほど。そういうことですか」

ハギヨシは咲の頬に手を添えて、くいっと上へ引き上げた。

目が合った状態で、答える。

ハギヨシ「正直に言いますと、同じ場所に住んでいたら良かったと思うことはあります」

咲「そうなんですか」

意外、と目を瞠ると「そんなの当たり前でしょう」と苦笑いされる。

ハギヨシ「好きならもっと一緒にいたいと思うのは当然のことです。ただ…」

咲「ただ?」

咲が聞き返すと、今度はハギヨシに肩を引き寄せられる。

ハギヨシ「あなたのように危なっかしい人が側に居たら、いつもハラハラして心臓が持ちません」

咲「悪かったですね」

ハギヨシ「全くです。誰の目にも触れないよう、閉じ込めておきたくなる」

咲「え?」

ハギヨシ「冗談です」

笑いながら、ハギヨシは咲の鼻を軽く抓んだ。

冗談なんて軽い口調で言ったけれど、少しだけ真剣さが滲んでいた。

その位、咲にもわかるようになっていた。

ハギヨシ「でも、寂しくなったら真っ先に呼んでください。すぐに駆けつけますから」

咲「…はい」

お互いの住む距離を埋めることはできない。

だからせめて、会いたいという望みは叶えたい。

寂しい思いをさせないよう、可能な限り側に居たい。

そう思いながら咲の目を見つめると。

私の方からも会いに行きますから、と。

ふんわりと咲が笑った。

ハギヨシ「ふむ。咲がはたして私の元に一人でちゃんと来れるんでしょうか」

咲「任せてください。この頃方向音痴も大分治ってきたんですよ」

ハギヨシ「ついこの間迷子になって泣きべそかいてたのは誰ですか?」

と咲の額を軽く叩いてやる。

痛い、と笑いながら言う咲に、ハギヨシもつられて微笑んだ。


カン

乙 もう結婚すればいいと思うよ

まこの相手は誰なんだろう

ハギヨシは何歳なんだろう

25歳くらいかなぁ

『七夕』

部活を終えて、咲は校門へと急ぐ。

空はすっかりオレンジ色に染まっていた。

門に寄りかかり、咲を待っていた長身の人物へと走り寄る。

咲「ハギヨシさん、お待たせしました!」

ハギヨシ「いえ、私も今来たところですから。では行きましょうか」

ハギヨシと並んで咲は歩き出す。


咲「あ、あの家。すごく大きな笹が立てられてますね」

ハギヨシ「ああ、今日は七夕ですから」

咲「七夕…そうでしたね」

ハギヨシ「…牽牛と織女なんて、まるで私たちのようですね」

咲「え?」

ハギヨシ「一週間に一度しか逢えませんから」

咲「…そうですね」


社会人と学生という壁があり、お互いの時間の都合もあって

なかなか思うように逢えないもどかしさを、咲もハギヨシも感じている。

だが、一週間に一度の頻度で「しか」と言うならば、

今日の夜はとてもじゃないが天の河を見上げられない。

本当に僅かな時間しか逢瀬を赦されない恋人たちに申し訳がなくて。

咲「あの、ハギヨシさん」

ハギヨシ「はい?」

咲「もしも、越えられないくらい大きな河で好きな人と引き離されたら…どうしますか?」

唐突な咲の質問にハギヨシは刹那だけ瞳を大きくして、

けれど考える時間もなくさらりと答える。

ハギヨシ「私は瞬間移動を扱えますので、どんなに遠く離れていても問題ありません」

咲「あ、あはは…そうでしたね」

冗談ではなく本当に出来そうだから困る。咲は曖昧に笑った。

すると今度はちらりと咲を見たハギヨシが同じ問いを返してきた。

ハギヨシ「では、咲ならどうしますか?」

咲「私ですか?」

ハギヨシは静かに咲の答えを待つ。

咲「私は……」

咲はそっと目を瞑る。

咲「沢山の点棒で一河くらい越えれる橋を造って、相手に逢いにいきます」

ハギヨシ「……」

脳裏に浮かんだのは、嶺上開花で可憐に和了る恋人の姿。

ひらひらと舞い散る花びらの幻覚まで見えたような気がして一瞬言葉をなくす。

咲「…なんて、ね」

ぱちりと目を開き微笑む咲に、ハギヨシはハッと我に返る。

咲「ハギヨシさん?どうかしました?」

ハギヨシ「いえ…何でもありません」

あなたに見惚れてました、と正直に言うのも気恥ずかしい。

僅かに染まった頬を隠すため、ハギヨシはそっぽを向いた。

そんなハギヨシをきょとんと見つめる咲。


2人が通り過ぎた家の庭先では、風に揺れる笹飾りがさらさらと音を立てていた。


カン

乙 待ってた


そうか、今日七夕か

乙です

『花火』

めずらしく待ち合わせの時間ぴったりに来ていた恋人にハギヨシは微笑む。

今日は年に1度の花火大会だ。

咲「それじゃあ、行きましょうか」

ハギヨシ「ちょっと待ってください。これを…」

そう言ってハギヨシは咲の肩から上着を掛ける。

ハギヨシ「夜は冷えますから」

咲「あ…ありがとうございます」

うっすらと頬を染めて、咲はお礼を言う。

咲「私、この日をずっと楽しみにしてたんです」

咲はすっかりはしゃいでいる。

花火大会で頭が一杯な恋人が可愛くて、ハギヨシは笑みを深くした。

ハギヨシ「咲。足元危ないですから、気をつけてください」

咲「はい」

ハギヨシは咲と手を繋いで、携帯のライトで道を照らした。

階段を登りきると広がる街の景色。

ハギヨシ「間に合ったみたいですね」

咲「はい。…あ、始まりましたよ」

見上げてくる瞳が、パッと明るくなった。

花火が上がって、夜空に花を咲かせている。

咲「わあ、綺麗!」

連発で花火が上がると、わっと咲は歓声を上げた。

ハギヨシさん凄いですよ、と服を引っ張って興奮している。

歪な形になった人気キャラクターの花火を見て、あの花火面白いですねと咲がはしゃぐ。

どちらかと言えば花火より、ころころと表情を変える咲を見ている方が面白いのだが。

確かに好きな人と見る花火はいつもと違う景色を見せてくれる。

最後の花火が打ち上がると、隣で拍手をして称えていた。

辺りは静まり返り、虫の鳴き声すらしない。

花火綺麗だったですね、と満足そうな笑みで咲が呟いた。

ハギヨシ「でも、こうして終わってしまうと少し寂しい気分になりますね」

咲「そうですね…」

ハギヨシ「もう、帰りますか?」

そう言って瞳を覗き込むと、丸い咲の瞳がやや上目にハギヨシを見つめた。

もう少し一緒に居たいです、と。

ハギヨシの服をぎゅっと掴むから、堪らず咲を引き寄せて抱き締めた。

腕の中で嬉しそうに笑って、次は夏祭りですねと咲が楽しそうに言う。

その前に夏休みの課題じゃないですかと返せば、今はやめて下さいよと拗ねられる。

咲「来年もまた、こうしてハギヨシさんと花火が見たいです」

ハギヨシ「はい。来年も、再来年も。毎年夏は、2人で花火を見ましょう」

約束です、と指切りをする。

ではデートの続きをしましょうと手を握られ。

その辺の散歩しか出来ませんがと、照れ笑いするハギヨシと何年先も。

夜にこっそり手を繋いで、春も夏も秋も冬も歩きたい。

秋には紅葉を見ながら、冬は雪と戯れながら。

春は桜を愛で、そして夏には花火を。

ハギヨシ「じゃあ、行きますよ」

せーのと声を合わせ、右に行くか左に行くか指をさす。

咲もハギヨシも、左をさしていた。

奇遇ですねと笑い声が響いて。

夜空には一番星が、二人を見守っていた。


カン


やっぱりハギヨシssは良い

乙乙

ハギヨシと女の子の話って他の男キャラみたく自己投影してる下品な感じじゃないからすらすら読めるよね
また書いてくれ乙乙

お似合いだなぁ


正直ハギヨシSSの方が増えて欲しい

ハギ咲が結婚するまで続けて欲しい

乙待ってた

ハギヨシになら咲さんを任せられる

『月に焼かれる』

ふと眩しい感覚に囚われて、咲は意識を取り戻した。

ゆっくりと目を開け、天井に向かって息を吐く。

夢でも見ていたのかと顔をひと撫でした後で異変に気付いた。

休日前で家に泊まりにきていたハギヨシの姿がない。

どこに行ったんだろう。

起き上がって窓に向かって数歩進み、カーテンを開く。

遮るものがなくなった月の光は驚くほど明るく辺りを照らした。

部屋から縁側に出て小さく声を上げる。

咲「ハギヨシさん?」

ハギヨシ「はい」

頭上から降って来た返事に驚いた。

そこにあったサンダルをつっかけて庭に降りる。

屋根の上に、ハギヨシはいた。

思わず口をぽかんと開けて見上げる咲に手を振っている。

咲「そんなところにいたんですか…」

ハギヨシ「驚かせてすみません」

咲「一体どうやって登ったんですか?」

ハギヨシ「そこの、梯子をお借りしました」

庭木の手入れのために立ててあったものを動かしたのだろう。

彼の指差す方を見れば確かに梯子が架かっていた。

咲も裸足になって昇り、ハギヨシの隣に腰を下ろす。

屋根の上から見る月の光は先程よりも眩しく見えた。

咲「眠れないんですか?」

ハギヨシ「ええ。月が明るすぎて」

初夏の風のように穏やかなハギヨシの声が心地良く耳朶を擽った。

咲「ほんと、夜なのに明るいですよね」

ハギヨシ「空は暗いのに、地上は昼間みたいです」

咲「ですね。でも、こんな風に昼も月だけ出てくれたら日焼けしないで済むのになぁ」

ハギヨシ「咲はもうちょっと焼けたほうがいいですよ。ほら、頬もこんなに白い」

輪郭しか見せていなかった彼の顔がすぐ側に近付いて、息が止まった。

そのまま大きな手で咲の頬を包み込むように触れたハギヨシが、うっすらと目を細める。

ハギヨシ「咲は月で焼けてるんじゃないですか?」

細められた瞳が不思議そうな色に変わる。

ハギヨシ「太陽と違って、月は白く焼くんですね」

一度だけ瞬きをした咲の唇が、花の咲く嫋やかさで開かれた。

咲「私、月は好きですよ。ハギヨシさんみたいに、優しくて強い光です」

ハギヨシの顔が影になって、それを作っているのが自分だと気付いた時には

互いの唇が重なっていた。眩暈がする。

奇妙な遠心力で、今が昼か夜かも、ここがどこかも意識の外へと飛ばされて行った。

ただ、彼が好きだと、それだけが白い光に輝いて全てを照らす。

このまま、月に焼かれてしまいそうだ。


カン

乙 咲パパ公認なのかな

すばらです

乙 1の詩的な文章がハギ咲に合ってるね

『不安』

何で自分なのかな。

ふと考える時がある。

こんな完璧な人が、自分みたいな平凡な女子高生と付き合っているなんて。

告白された時、いいんだろうかと少し迷ったが

自分も彼に好意を抱いていたため、素直に首を縦に振った。

その時見せてくれた彼の嬉しそうな笑顔に

やっぱり受け入れて正解だったと思ったはずなのに。

何でだろう。

色々、考えてしまう。

純「あっ、それ。萩原さんの写真じゃねえか?」

手元を覗き込まれ、咲は思わず体を後ろに引いた。

その間に純は持っていた写真をひらっと奪ってしまう。

純「こんなの持ち歩いてんのか。愛されてるなぁ萩原さんは」

一「へぇ、僕にも見せてよ」

智紀「私にも」

騒ぎ出した龍門渕メンバー達に

咲「それ、私のじゃないですよ」

と咲は誤解が大きくなるまえに声を上げた。

一「なら、何で宮永さんがこの写真を持っているの?」

咲「先ほどすれ違ったメイドの方が落としていったのを拾っただけです」

純「とか言って、本当は宮永のじゃないのかぁ?」

疑いの目を向けられ「嘘じゃないんです」と咲は言い募る。


龍門渕邸は、咲にとってももう馴染みのある場所だ。

好きなように寛ぐといいと言う衣や透華の言葉に甘えることにして、

座り心地の良いソファの端にちょこんと腰を下ろしている。

ハギヨシが執事としての責務に追われている間、

咲はまったりとこの豪奢な部屋で衣たちと麻雀を打ったりして過ごしている。

時折一や純達にも話し掛けられるようになって、大分打ち解けて来たのだが

ハギヨシのことでからかわれるのは慣れないし、恥ずかしくもある。

どうやってやり過ごそうかと考えていると、

ノックの音とともにハギヨシがドアを開けて入って来た。

ハギヨシ「お待たせしました。咲」

純「おっと、それじゃあ俺らお邪魔虫は退散しますか」

一「そうだね。2人ともごゆっくり」 

そう言って龍門渕麻雀部の皆は部屋から出て行く。

残ったのは、咲だけだ。

ハギヨシ「遅くなってすみません。退屈だったでしょう」

優しく頭を撫でられ、咲は「いえ」と微笑む。

ハギヨシ「おや、この写真は?」

咲「あ、それは」

純が放り出していった写真を見付けて、ハギヨシは不思議そうな顔をする。

ハギヨシ「私の写真…?」

咲「え、ええと…」

純達にもした説明をもう一度口にするとハギヨシは成る程、と呟いた。

咲「あのメイドの方、きっとハギヨシさんのことが好きなんですね」

ハギヨシ「そうでしょうか?写真を落としても気付かないあたり、ただの憧憬程度だと思いますよ」

バッサリと言い切る辺りハギヨシらしい。

けど、自分の気持ちを伝える良い機会なのかもしれない。

ハギヨシ「それで、あなたは何を思い悩んでいるのですか?」

やはりハギヨシには感づかれていた。

こっちも誤魔化している場合じゃない。

説明するのは難しいが、思い切って咲は口を開いた。

咲「上手く言えませんが、ハギヨシさんって…半端無くモテますよね?」

ハギヨシ「……」

咲「さっきの、軽い気持ちだって言ってましたけど、本気の部分だってあると思うんです」

咲「いつかハギヨシさんの恋人になれたらって思っている人は、きっと沢山いるんじゃないですか」

ハギヨシ「……」

咲「それだけの人達に好かれていているのに、なんで選んだのが私なのかなって」

咲「あなたの隣にいるのに相応しい人なんて、沢山いるのに」

途端、写真をハギヨシに奪われる。

言葉が出るよりも先に、くしゃっと手で握りつぶされてしまう。

咲「あっ…」

ハギヨシ「そんなことで悩んでいたのですか。あなたは」

ふう、とハギヨシがため息を吐く。

ハギヨシ「誰が私を好きかなんて関係ありません。私は、あなたしか欲しくない」

ハギヨシ「触れたい、抱き締めたい、側にいたいと思うのは咲だけです。それではいけませんか?」

咲「……」

真剣な目で言われ、咲は自分がハギヨシを傷つけるようなことを言ったのだと気付く。

他の人が相応しいんじゃないかと逆の立場で言われたら、きっと悲しい。

咲「ごめんなさい。私、今無神経なこと言いました」

ハギヨシ「…もう、そんな悲しいことは言わないでください」

腕を引かれ、ぎゅっと抱き締められる。

痛いくらいだったけど文句は言わない。

むしろそうされのが、今の咲にとっては嬉しい。

ハギヨシ「まあ、不安に思っているのはお互い様ですからね」

咲「えっ」

ハギヨシ「咲だって原村さんや須賀くん、竹井さんらと親密にしているではないですか」

咲「和ちゃんや京ちゃんはただの友達ですし、部長も尊敬してる先輩ってだけですよ?」

ハギヨシ「あなたがそう思っていても、相手がそうだとは限らないでしょう?」

こつん、と額を合わせられる。

ハギヨシ「私も同じです。あなたと親しげにしている人物が傍にいれば、不安にもなる」

咲「ハギヨシさんも?」

ハギヨシ「ええ。人間ですからね」


どうして自分なのか、理由なんてどうでも良いのかもしれない。

彼が好きだと言ってくれるのなら、その内に周囲なんて気にならなくなる。

誰が騒いでいても、動じない位に好きでいてくれるなら。


ハギヨシから漂うフレグランスの香りが心地よくて。

もっと彼を近くに感じたくて、自分から体を密着させると。

少し驚いた顔をした後、すぐに頬に手を添えて口付けられる。

それから二人は今までの中で一番長い長いキスをした。


カン

乙です


ハギヨシぐらい完璧だと不安になるのはしょうがないよね

大人な雰囲気でいいね

『待ち人』

夏の終わりのこの時期は、夕方頃になると微妙な紅色で空を半分ほど覆う光景が見られる。

それは赤というには少しだけ鮮やか過ぎて、橙というには少しだけ影を帯び過ぎている。

黒みがかった空にかかる紅は幻想的な雰囲気を醸し出していて、

校門に寄りかかって上を見上げていると

何だか自分が居る位置も曖昧にぼやけてくる気がする。

咲はしばらくその姿勢のままで空を見上げていた。

長い間ずっと上を見ていた所為か痛みを訴え出した首筋に手をやり、

揉み解すようにしながら豪奢な造りの校門の中を覗き込んだ。

待ち人はまだ来ない。

そもそも待ち合わせの時間にはまだ早かったが。

今日は学校総出の教育会議が行われるとかで、

部活動を早めに切り上げて下校するようにとの御達しがあった。

途中本屋に寄ったものの約束より随分早めの到着時間となったのだ。

ちらほらと下校し始める生徒の姿の中に目当ての人物を探す。

厳密に言うと彼は生徒ではなく、ここに通っている一生徒につき従う執事なのだが。

別に他校生だからといって中に入るのを遠慮することはないのだが、

相手と行き違いになると困るし、第一こんなに広い学校内では迷子になってしまいそうで躊躇われた。

自分の方向感覚の無さは本意ではないが自覚せざるをえない事情が過去に多々あったので。

余りの咲の迷子ぶりに困り果てた相手から、

必ず見つけるからその場から動かないで欲しいと先日お願いされたばかりだ。

その彼は、まだ現れない。

恋人は忙しい身で、休日以外にデートする行為も数えるほどしか行っていない。

そのデート自体も互いの家で過ごすことがほとんどだ。

別に外に出歩くのがそれ程好きな性質でもないため、不満という程でも無いのだが。

どちらかの部屋で一緒に静かに過ごすほうがいい、

なんて今時の若者に有るまじき姿だが。

今日もハギヨシの部屋で2人、穏やかに過ごすのだろうか。

彼のいれてくれた香りの良いダージリンを思い出し、

咲はあわく微笑んだ。

ハギヨシ「お待たせしました。咲」

そんな物思いに耽っていた咲の前に、漸く待ち人が姿を現した。

咲「こんにちは。ハギヨシさん」

ハギヨシ「すみません、まさかあなたの方が先に来ているとは思いもよらず」

咲「いえ。今日はたまたま部活が早めに終わりましたので」

そう言って笑う咲に、ハギヨシはほっと息をついた。

ハギヨシ「そういえば、先ほど私が声をかける前にも笑っていましたね」

咲「え、そうでしたか?」

ハギヨシ「ええ。…何か、面白いことでもありましたか?」

咲「いえ。面白いこと、じゃないんですけど…」

そう言って一旦言葉を切った咲は。

ハギヨシを見上げ、続きを口にした。

咲「大好きなハギヨシさんを思いながら待つ時間が楽しくて、つい笑い顔になっていたのかも知れません」

極上の微笑みでそう言われ、珍しく頬を染めてうろたえるハギヨシの姿があった。


カン

乙 モンブチまでは迷わずに行けるんだな

乙です

うむ…ゴミ以下ほど糞スレだなこれは。

乙乙

応援してます

『筆談』

待ち合わせている図書館へいくと、窓際の席にハギヨシは座っていた。

夕日がハギヨシの黒髪を照らし不思議な色合いになっているのが

彼の儚さを際立たせているような気さえする。

綺麗だと、思った。

適当な本を選んでハギヨシが座る向かいの席へと腰をおろし会釈する。

ゆっくりと視線を上げた瞳は咲を映し、にこりと微笑んだ。

ただそれは一瞬で、彼の視線はすぐに本へと戻ってしまう。

どうやら相当本に熱中しているようだ。

そういう部分は自分とよく似ている。

こちらも本に集中するかと持ってきた大きめの本に目を落とせば、

それはちょっとした写真集のようであった。

小さく古びたものだったが、表紙を開けば満点の星が輝く夜空が写っている。

適当に棚から取ってきた本だったが、こうして写真を眺めるのも悪くない。

ふと、前にいるハギヨシが小さく動作を始める。

メモ帳を1枚破り、そこに何かを書いているようだった。

ペンを置いた彼は再び本を読み始めたのだが、

空いている手で先程のメモをテーブルを滑らすように咲へと差し出してくる。

受け取って内容を見てみれば、そこには『面白いですか?』との一言。

咲は問いに返すべく、鞄からボールペンを取り出すと『面白いですよ』と下に書き加えた。

ハギヨシにメモを滑らせて、返す。

まるで秘密のやり取りをしているようだ。

ハギヨシ『何の本ですか?』

咲『星空の写真集です』

ハギヨシ『星が好きなんですか、ロマンチストですね』

咲『そうかもしれないです』

ハギヨシの肩が震えている。そんなにおもしろいことを返したつもりはなかったけれど、

彼が笑ってくれた、それだけで妙な充実感があった。

切れ長の目を細め表情を緩める彼が愛しい。

ハゲヨシキに見えた

ハギヨシのもとにあるメモを引き寄せると、咲はもう一言書き加えた。

咲『でも星よりもハギヨシさんの方が好きです』

渡してから急に恥ずかしくなって顔を赤くする。

ハギヨシは暫く動きを止めていたが、顔を伏せメモにペンを走らせ始める。

こちらから表情は伺えなかった。メモが差し出される。

咲は若干緊張しながら受け取り、視線を滑らせて一番下の文章を確認した。

と同時に机に突っ伏した。

心臓がバカみたいに早鐘を打っている。

誰もいないところで、もう一度。

今度は声に出して伝えよう。

そうすれば彼も、メモに書いてくれた言葉を聞かせてくれるだろうか?


ハギヨシ『世界中のどんな物よりも咲が好きです』


カン

乙です
最後でニヤけた

気障な台詞もハギヨシなら許される不思議

>>100やめろ
ハゲヨシとしか見えなくってしまったじゃねーか

ぜひ1000まで続けてほしい

この二人の子供が見たい

京豚もハギ豚も気持ちの悪さは変わらんな

いつも更新楽しみにしてます。

>>107
すこやん並の魔物が生まれそう

早く来て

『全部熱のせい』

リビングのソファに座り、目を瞑ってヘッドフォンから流れるクラシックに耳を傾けていたら

腰の辺りに違和感を覚えて目を開けた。

ハギヨシ「…咲?」

そこに居たのは予想通り咲で、

ハギヨシの背中とソファーとの間に横からぐりぐりと頭をねじ込みながら

ハギヨシの腰に腕を回してがしりとしがみついていた。

普段の咲からしたらまずあり得ない奇行だったが、

ハギヨシは慌てることなく回された手に己の手を重ねる。

ハギヨシ「…やっぱり。咲、今すぐベッドへ行きましょう」

咲「やです、ここが落ち着くんです」

明らかに普段より熱い手の温度にため息をついて諭したものの

咲はいやいやと首を振って腕にぎゅっと力を込める。

普段はあまりそんな素振りを見せないくせに、

発熱すると咲はやけにハギヨシにくっつきたがり甘えたがりになる。

無理に引き剥がすと、負けじと更にべったりくっついてくる。

避けても避けても止まることはなく、最後にはふらふらしながらにじりよってくるのだ。

結局ハギヨシが折れるしかない。

ハギヨシ「咲。素直に離れるなら、抱きしめてあげますよ」

咲「だっこ、してくれるんですか」

ハギヨシ「ええ、だっこです」

言葉を繰り返すと、ようやく腕の力が緩んでくれる。

いそいそとソファーとハギヨシの背中の間から頭を引っこ抜いた咲は、

ちょこんとソファーの上に座りなおした。

そして明らかに熱で赤く染まった顔をへにゃりと緩ませ、

両手をハギヨシに向けて広げてわくわくと期待のこもった眼差しを向けてくる。

約束を違える訳にはいかないと、咲の脇の下に手を差し込んで持ち上げた。

膝に咲を乗せて軽く背中を撫でてやる。

こうすると咲が大人しく言うことを聞きやすくなるのは、既に経験済みだ。

ハギヨシ「咲、私の首に手を回してください」

咲「がってんしょうちです」

多少受け答えがおかしいのはもう、いちいち気にしないことにする。

咲の腕がしっかりと首に巻き付いたのを確認して、ハギヨシはゆっくりとソファーから立ち上がった。

いつもならば軽々と持ち上げようものならわたわたと慌てるだろうに、

すりすりとハギヨシの肩に額をすり付ける姿にその面影は微塵も無い。

ようやくベッドにたどり着いても、すんなりと寝てはくれない。

まずなかなかハギヨシから離れてはくれないことが分かっているから、

無理に剥がすことはぜずにベッドに腰掛けてゆったりと語りかける。

ハギヨシ「咲、ちゃんと休まないと熱が下がりませんよ」

咲「やです」

ハギヨシ「大人しくベッドに入るなら、何でも言うことを一つ聞いてあげます」

咲「じゃあずっとだっこしててください」

ハギヨシ「それ以外でです」

咲「わがままですね」

わがままなのはあなたです、と飛び出そうになった言葉を堪えてどうにか飲み込んだ。

いくつかの要求を却下した後ようやく落ち着いたのは、手を握ることと頭を撫でることの二つ。

それらを了承して、やっと布団の中に咲を押し込むことに成功した。

握った手も頭もさっきよりも心なしか熱くなっていたが、これ位の悪化で済んだなら良かったと安心するあたり

完全に毒されていることにハギヨシは気づいていない。

咲「そうだ、一緒に寝ましょう」

ハギヨシ「あなたのベッドは私には小さすぎます」

咲「じゃあ縮んでください。そしたら大丈夫です」

ハギヨシ「無理を言わないでください」

暫くそんな言い合いをしながら、優しく頭を撫でていればむにゃむにゃと言葉尻がぼやけてきて

次第に音が意味を為さなくなり、寝息に移り変わってゆく。

完全に寝入ったことを確認しても、しばらく咲の頭を撫でる手を止めない。

髪に指を通してこもった熱を散らしてやりながら、熱が下がった後のことを考える。


熱が下がったら、咲はきっと。

自分の醜態を思い出して恥じてのたうち回って落ち込んで。

一通りの謝罪をした後は、しばらくはぎこちない態度でハギヨシに接するだろう。

そんな恋人の姿を想像して、ハギヨシはくすりと笑い声をあげた。


カン

乙 この咲ちゃん可愛いな

乙 待ってました
相変わらず良いな

『あなたの時間』

ベッドサイドに置いてある目覚まし時計が鳴り響く。

いつもと同じ通りに手を伸ばして、

咲は聊か乱暴に繰り返されるデジタル音を止めてしまう。

咲(まだ…起こさないで…)

静かになった音に、再びぬくぬくと暖かいベッドの中で丸くなる。

柔らかい温かさが心地よくて。

笑みさえ浮かべながら、そのぬくもりに身を任せた。


夢を久しぶりに見ていた。

安心できる温もりは柔らかな布団なのに、

それがいつしか恋人の温かい腕に変わって。

優しく微笑んで、額に口付けが降りてきて。

咲「私、幸せです…大好きなハギヨシさんの腕の中がいちばん安心できます」

どうせ夢なんだからと。

普段は恥ずかしくて言えない言葉を、夢の中の恋人に伝えれば。

ほんの少し驚いた顔をしてから、本当に嬉しそうに微笑んだ。

ハギヨシ『ありがとうございます、咲』

そう言った後に彼が何かを呟いたけれど。

そのまま私は寝てしまい、声を聞けなかった…


咲「嘘!?もう7時!?」

すっかり寝過ごしベッドから飛び起きれば、

枕元に小さな包み。

その後上の空で授業を受け、

部活もそこそこに咲は待ち合わせ場所へと急いだ。

咲「ハギヨシさん!」

ハギヨシ「どうしました?そんなに慌てて」

咲「だって…、朝起きたら、この箱があって…」

手に持っていた箱を差し出せば、

穏やかに笑って頬にキスをされた。

ハギヨシ「気に入ってもらえましたか?」

それはやっぱりハギヨシがくれたもので。

明け方見た夢は、夢じゃなかったんだと気が付いた。

咲「どうして起こしてくれなかったんですか?」

恥ずかしくて、咲は頬を膨らませる。

ハギヨシ「寝言であんな嬉しいことを言われて、つい起こすのを忘れました」

なんて言われて今度は鼻先に軽くキスされる。

私、なんて言ったっけ…

夢のなかのことを思い出して。

頬が、一気に熱くなった。

咲「も、もうっ!人の寝言、勝手に聞かないでくださいっ」

恥ずかしくて恋人の胸をポカポカと叩くと

すみません、と本当に謝ってるのか分からない満面の笑みで言われた。

ハギヨシ「ほら、貸してみてください。つけてあげますから」

苦笑したまま咲の手から箱を受け取ると。

咲の腕をとって、手首にそれを巻いた。

咲「素敵な腕時計…」

ハギヨシ「前に欲しいものを聞いた時、『私の時間』だって言ってましたので」

ハギヨシ「私なりに考えて、形にしてみました」

ハギヨシの時間がほしい。

それは冗談まじにり言った自分の本音。

気にしてくれていたなんて、と思わず咲の頬が緩んだ。

咲「じゃあ、これはハギヨシさんの時間なんですか?」

ハギヨシ「形として表現するなら、ですが」

形のないものだからこそ、形にしたくなる。

それは単なる気休めなのかもしれないけれど。

咲「…ありがとうございます。大切にします」

嬉しくて、涙が出そうになる。

ハギヨシ「鳴くなら私の腕の中で鳴いてください」

何か泣くの意味が違うような気がするけど、気づかないフリしておこう。

ハギヨシ「気づかないフリがいつまで出来るのか楽しみですね」

咲「何のことですか?」

すっかり気づかれていることに苦笑しながらも、知らないフリをしていると。

彼の長い指が頬に触れてきて。

優しく抱きしめられて。

そっと、耳元に囁きが落ちてきた。


ハギヨシ「誕生日おめでとうございます。咲」

咲「ありがとうございます。ハギヨシさん」


最高のプレゼントと、大好きな人と過ごせる年に一度の誕生日。


咲「ハギヨシさんの時間は、もう私のものですからね」

ハギヨシ「はい。全部、あなたのものです」


カン

良いね

乙 癒される…

おつやで

この二人ならではの雰囲気が良い

『リップスティック』

咲「つぅ…っ」

ハギヨシ「どうしたんですか?」

突然顔を顰めた咲にハギヨシは怪訝な顔で尋ねた。

咲「唇が乾燥して…割れちゃいました」

舌でぺロリと唇を舐めながら咲が告げる。

ハギヨシ「ああ、そういう時は舐めてはいけませんよ」

ハギヨシ「私のでよければどうぞ」

そう言ってハギヨシに渡されたのはリップスティック。

咲「ありがとうございます、ハギヨシさん」

咲は差し出されたリップを唇に塗る。

その様子を意味深な笑顔でハギヨシが見ている。

咲「?どうしたんですか、ハギヨシさん」

首をかしげた咲に、ハギヨシはにこりと笑みながら言う。

ハギヨシ「いえ、間接キスだなと思いまして」

瞬間、咲の顔が耳まで真っ赤になる。

ハギヨシ「照れてるんですか?可愛いですね」

咲「あ、あまりからかわないでください…」

赤くなった顔を背けて、ぼそっと咲は呟いた。

衣「咲ー!麻雀しよう!」

ハギヨシ「ほら。衣様が呼んでますよ」

咲「うう、はい…」

赤くなった頬を気にしながら、咲は衣たちの待つ卓へと歩いていった。

咲「ロン、1000点です」

衣「うむ。やっぱり咲と打つ麻雀は楽しいぞ」

咲「ふふ。私も楽しいよ」

一「…おや?宮永さんの唇、何だかぷるぷるしてるね」

咲「えっ?ああ、リップ塗ってますから」

衣「ほんとだー、美味しそうな唇だ!」

智紀「妙な色っぽさがある」

一「うん。なんか吸い付きたくなってくるよね」

咲「え、ええっ?」


ハギヨシ「……」

ハギヨシ「咲、ちょっと」

咲「はい?」

ゲームが終わったと同時にハギヨシに呼ばれ、咲は廊下に連れ出される。

咲「…っ!」

2人きりになった途端、腕を強く引かれ口づけられる。

咲「ん、んんっ…」

角度を変えて何度も唇を食むように塞がれる。

息も絶え絶えになった咲に、やっとハギヨシは唇を離した。

咲「はぁ…、い、いきなりどうしたんですか?」

再び頬を染めながら唇に触れると、先ほど塗ったリップがすっかり落ちていた。

咲「もう、リップ取れちゃったじゃないですか」

ハギヨシ「少し荒れてる位がちょうど良いんですよ」

咲「さっきと言ってること違いませんか?」

小首をかしげる咲に聞こえないような小声で、ハギヨシはぼそりと呟いた。


ハギヨシ「私以外に吸い付かれては困りますからね」


カン

乙 ニヤニヤした

乙です


独占欲強いハギヨシさん良い

『手袋』

今日はご飯ついでに買い物でもしようか、と和と街に繰り出していた。

咲「とりあえず、寒くなってきたしコートでも買おうかなって」

和「そうですか。咲さんならやっぱりダッフルが似合うと思います」

咲「ダッフルかぁ……」

和「紺色……いえ、ここはあえて真っ赤なダッフルとかどうでしょう」

咲「え、真っ赤はちょっと……」

幾つかの店を覗き歩いていると、ふと和の目が咲の手に留まった。

和「咲さん、手袋はしないんですか?」

咲「え?」

和「手、真っ赤ですよ」

ほら、と両手を持ち上げられ、指先が赤くなっていることに気づいた。

確かに感覚が無いと言う程冷たいわけではないけれど、じんわりと指先が冷えている。

咲「考えたこと無かったなぁ」

和「手袋をすることが?」

咲「うん」

和「手が冷たくなった時とか、手袋があったらなって思いませんか?」

咲「いつもはそんな風に手が寒いとか、冷たいとか意識することがないんだ」

咲「なんでだろ?………あ」

和「どうかしました?」

咲「ううん。何となく分かったんだ」

いつも手袋をしない咲の手を取って、隣を歩くハギヨシがぎゅうと握ってくれるのだ。

そしてそのままハギヨシのジャケットのポケットに片手を突っ込まれ、

彼が持ち歩いている手袋の片手をもう片方の手に嵌められる。

ポケットの中でつながれた手は、いつもハギヨシの手に包まれて暖かかった。

だから咲は、いつも手袋のことなど考えないのだった。

繋いでいない手だってハギヨシが手袋を貸してくれるから。

いつも、咲の手は暖かい。

和「…?手袋、買っていきます?」

咲「ううん。今シーズンはいらないかな」

和「そうですか?」

咲「うん」

手袋なんて買って帰って、あんな風に暖めてくれなくなったらきっと勿体無い。

とりあえず、今は彼に甘えていることにしよう。

その暖かさが今年も、来年も続いて行きますようにと願いながら。


カン

乙乙

乙です

おつやで

『初雪』

居間にあるこの部屋のどの窓よりも大きなそれは、ベランダに面した窓。

その窓に大粒の雨だれが落ちていく。

つい1時間ほど前に昼食を終えたばかりだというのに

その窓から眺める町はどこも薄暗く寂しい。

あまり好きではないからとテレビを点けていないせいで、余計に雨音が響いている気がした。

普段ならば心地いいはずのその音も、

今日は薄暗さや昨日よりも更に冷え込んでいるせいか寂しいばかりだ。

咲「…はぁ」

小さくため息を零し、せめて体は暖めようと

コーヒーを淹れるためにキッチンへと向かった。

土曜日の昼下がりの一番ゆったりとしたこの時間に、咲は一人きりでここに居る。

こんなことはよくあることだし、一人でも苦になるということがあまりないはずなのに。

どうしてか、今日は溜息ばかりが零れている気がした。

朝からテレビを点けてみたり、部屋を掃除してみたり、

先日買ったまま置いてあった本を読んでみたりしたけれど…。

何故か、どれも集中などできなかった。

大好きな本ですら、だ。

咲「…」

天気や寒さのせいではない。

彼が、仕事だからと隣にいないからだ。

ハギヨシとすれ違いの生活になることは結構よくあることで、

何日も会えない日が続くのも幾度となくあったのに。

どうして、今日はこんなにも…。

咲「…はぁ」

もう一度ため息を吐いて、最近はハギヨシにも褒められるほど上達したコーヒーをカップに注ぐ。

それに口を付けると、暖かさにほっとした。

そのまま元居たソファに戻って座ろうかと思ったけど、何となくベランダに出てみた。

外は寒く吐く息も白い。

雨のせいで更に気温も下がっているし、

もしかしたら有名なあの歌の通り「雨は雪に変わる」のかもしれない。

尤も、今日はクリスマスでもなんでもないけれど。

咲「…あ、れ?」

そう思っていたら、しとしとと降り続けていた雨に若干の重みが増す。

思わず手を差し出すと、ベランダの屋根の向こうに降る雨は、みぞれに変わっていた。

掌に落ちた粒は、多少の氷が混ざっている。

咲「雪になるのかな…」

小さく独り言を零し、暖かいコーヒーを飲み込んだ。

しばらくみぞれを眺めていると、徐々に空から降る重たい水滴は軽くなり

ひらひらと白いものが落ちてくるようになった。

咲「雪…!」

思わず子供のように喜んだ瞬間。

聞きなれたメロディーが、ポケットから聞こえてきた。

咲「もしもし」

ハギヨシ『咲ですか?』

咲「はい。どうしたんですか?仕事は?」

ハギヨシ『もう終わりました。今からそちらに向かいます』

咲「分かりました。…じゃあ外に居るんですか?」

ハギヨシ『はい。少し前から雪が降り出してますよ』

彼の声を聞いて先程まで感じていた寂しさや寒さが、一気にどこかに飛んで行ったような気がした。

咲「ええ。みぞれから雪に変わる瞬間を見てしまいました」

ハギヨシ『…?咲、今どこにいるんですか?』

咲「どこって、家ですよ?」

ハギヨシ『家の…どこですか?周りが少し騒がしい気がするのですが』

騒がしい、というのはちょっと誇張されているが

外に出ている為車の音が聞こえるのだろう。

咲「ちょっとベランダに出ているだけです」

ハギヨシ『全く、この寒い中…風邪をひいたらどうするんですか』

咲「平気です。少しくらい」

ハギヨシ『すぐに家の中に戻ってください』

咲「でも、コーヒーを飲んでますし暖かいですよ」

ハギヨシ『そう言う問題ではありません…』

呆れたように溜息を吐く気配に、心が温かくなる。

心配されているんだなぁと思ったら嬉しかった。

だけど、こんな機械越しではやっぱり物足りないし、もう少しだけ暖かさが欲しくなる。

ハギヨシ『車を飛ばして駆けつけますから』

咲「はい、早くきてください。でないと私はベランダで凍えちゃいますから」

ハギヨシ『だったら早く部屋に入ってください』

咲「もう少し雪を見ていたいんです。…出来れば、ハギヨシさんと一緒に見たいです」

だから、早く会いにきてください。

そして冷たくなってきてしまった指先を、あなたの暖かい手で暖めてください。

羞恥に顔を赤くしながら、それでも今の咲の一番の望みだったから早口で伝えてみた。

案の定ハギヨシは黙り込み、その後で

ハギヨシ『…すぐに行きます』

小さく答えて電話を切った。


目の前には、まだ止む気配のない雪。

どうか彼が来るまで止みませんように。

ひらひら、はらはらと零れ落ちる白い雪に、願い事を乗せる。

叶うと良いのだけれど。


カン


心配性なハギヨシ良いわ

乙乙

乙。いいねいいね

乙 あったまったわ

『聖なる夜に』

恋人と過ごす、はじめてのイヴの夜。

電話を切った後にもその約束につい頬が緩んでしまう。

咲は慌てて顔をぺちぺちと軽く叩くが、

毎日カレンダーを見る度にそわそわしてしまっていた。


イヴの当日。

終業式が終わり、自分のできる精一杯のダッシュをして家に帰宅した。

ふらふらになりながらお風呂に入って色々と準備をしていたら、

ハギヨシの家に到着したのは当初の予定より僅かに遅れ19時になっていた。

チャイムを鳴らせば30秒も待たない内に扉が開く。 

玄関に出て来たハギヨシの髪もいつもより少し重たげな色をしていたので 、

彼もお風呂を済ませた後なのだろう。

咲「こんばんは、ハギヨシさん。遅くなってしまってすみません」

ハギヨシ「お待ちしてました。冷えるでしょう、早く中に入ってください」

手にしていたバッグはハギヨシにさっさと奪われ、

キャメル色のダッフルコートの細長い水牛のツノのような形をしたボタンを片手で器用に外される。

咲のコートを手にとったハギヨシに、ほどよく温められた部屋に通された。

夕食の準備に取り掛ろうと言うハギヨシの髪に、手を伸ばして軽く触れる。

ハギヨシ「どうしたんですか?」

咲「髪、濡れているように思ったので… 」

ドライヤーで乾かしてからの方が良いのでは、と思ったが

少し湿り気があるだけでほとんど乾いている様だったので部屋も暖かいし大丈夫そうだ。

指通りの良い漆黒の髪をサラサラと撫でていたら、

穏やかに細められた彼の瞳が視界いっぱいに広がった。

そして見えなくなると同時に、触れるだけの口付けが唇に落とされる。

角度を変えて2度、3度と繰り返された甘い戯れは、

先ほどのお返しとばかりに髪を撫でられた事で終わりをむかえる。

ハギヨシ「…では、食事の準備をしますね」

咲「…あ、私も手伝います 」

なごり惜しげにゆっくりと離れた大きな手を、

離れて欲しくないと願ってしまった事が恥ずかしくて少し目を伏せる。

こんな場所で、キッチンで何をやっているのか。 

それを誤魔化すように、鍋の中のシチューを無駄にぐるぐるとかき回す。

夕食はビーフシチューとパン、チキンにサラダ。

飲み物は定番のシャンメリーをワイングラスに注ぎ、

咲が持参した手作りのクリスマスケーキも一緒にテーブルに並べる。

二人はグラスを手にとり、互いのグラスにカチンと音を立ててくっ付けた。


咲・ハギヨシ「メリークリスマス」


声を揃えてそう囁いて、顔を見合わせて微笑み合う。

ハギヨシ「量は多くないですか?咲は小食ですから無理はしないで下さいね 」

咲「大丈夫です。あ、にんじん可愛いですね」

シチューに入っていた人参は星型で、咲は目を輝かせる。

ハギヨシ「ふふ。あなたはこういうのが好きなのではないかと思いましてね」

そう言って得意げに笑うハギヨシに、咲もつられて微笑んだ。

そんなゆったりとした時間のなか食事を終わらせる。

咲「ごちそうさまです。すごく美味しかったです 」

ハギヨシ「咲にしては食が進んでいましたね。良かった 」

すっと音も立てずに椅子から立ち上がったハギヨシが、

テーブルの近くにある棚を開け、ラッピングされている包みを取り出した。

ハギヨシ「これは私からのプレゼントです」

横の椅子に腰かけ、紡がれた言葉と一緒に包みを差し出された。

咲「ありがとうございます、ハギヨシさん。…開けてもいいですか?」

ハギヨシ「どうぞ」

促され、丁寧にラッピングを解いていく。

リボンも包装紙もただのデコレーションなのに、何か特別な物のような気さえする。

最後のシールを剥がし目に入って来たのは落ち着いた色合いの深いグリーンだ。

厚めのふわっとした柔らかい糸で編まれたロングマフラーはシンプルだが洗練された印象で、肌触りも良い。

するりと手で撫でていると温もりがじんわり広がり、これからもっと寒くなる冬に活躍しそうだ。

咲「あったかいです…ハギヨシさん、ありがとうございます。大事に使わせて頂きますね 」

胸元にマフラーを抱き締めるように持って改めて礼を言ってから見上げると、ハギヨシが笑みを浮かべる。

咲「あの、私からはこれです」

そう言って咲がバッグから包みを取り出し、ハギヨシに差し出した。

ハギヨシ「ありがとうございます。私も開けて良いですか?」

咲「はい、どうぞ」

丁寧に包みを開けたハギヨシの目に映ったのは、シックな黒色の手袋だった。

手にはめてみると、しっとりと肌に馴染んで心地よい。

ハギヨシ「サイズもピッタリですね。咲のことですからぶかぶかだったりを予想していたんですが」

咲「酷いですハギヨシさん。私そんなにドジじゃないです」

ハギヨシ「ふふ、冗談ですよ。…ありがとうございます、咲」

頬を膨らます咲に、ハギヨシはお詫びとばかりに優しく頭を撫ぜた。

食事の後片付けを終えた2人は、リビングに移動してテレビの電源をつけた。

テレビから流れて来た映像は巨大なクリスマスツリーのキラキラと輝くイルミネーションで、

沢山の恋人達がその美しい光景を目に焼き付けている姿だ。

溢れかえるような人のなか、それでも恋人同士身を寄せ合って見つめる非日常的な夜の景色は、

世界にふたりきりであるかのような夢に浸れるのだろう。 

人ごみは苦手だけど、ハギヨシとならそれも悪くない。

咲「綺麗ですね」

ハギヨシ「ええ。今までは寒い中、人の多い場所に行く意味がわからないと思っていましたが…」

ハギヨシ「成程。特別な人がいると変わるんですね。…あなたと見られるのなら悪くない」

ハギヨシ「来年は、一緒に本物を見に行きましょう」

咲と同じような考えに至っていると知り、嬉しくもあり恥ずかしくもなったが。

それ以上に来年も恋人として側にいるビジョンを当然の様に描いているハギヨシに

胸が熱くなり息もできないほどの切なさが襲う。

ハギヨシ「咲?」

咲「っ、なんでもありません。ぜひ連れて行って下さい 」

水分を瞳に含んだ事を知られたのか、目元に唇を落とされ体ごと引き寄せられる。

髪に差し入れられた長い彼の指が頭の形を確かめるように髪を掻きわけ、その心地よさに背中に震えが走る。

ハギヨシ「咲……」

休むことのない口付けの間に、低い情欲を孕んだ声音で囁かれながら、

耳の柔らかい肉を優しく甘噛みされる。

ぎゅうっと目を閉じ喉を反らしたまま、咲は快感で体を震わせる。

咲「…ん…、ふっ…、ハギヨシ、さん…っ」

ハギヨシ「…ベッドに行きましょう 」

こんな場所では嫌だという意思は直ぐにハギヨシに伝わったようだ。

先ほどとは違う意味で潤んだ瞳を、もう隠すこともできずに彼に向けながら

咲が小さく頷けば軽く両腕で抱き上げられた。

自分に出来る事といえば、落ちないようにとハギヨシの首元に抱きついていた腕に力を込め、

その滑らかな首に真っ赤に染まった顔を埋めてしまう事だけだった。


ふたりきりの甘い蜜月は、まだこれからだ。


カン

乙 甘い蜜月編はよ

乙でした
ダッフルコートのあれはトグルという

おつー

乙です
お互い大事にしてるのが伝わってくる

『新年もふたりで』

咲「和ちゃんに甘酒の作り方を教わって来ました。味見してもらえますか?」

ハギヨシ「ん……美味しいです。でもそうですね、もう少し甘くてもいいかと」

咲「ですよね。私も甘いのがいいと思ったんですけど……」

咲「和ちゃんが私の味付けじゃ甘すぎるって言うから控え目にしたんです」

ハギヨシ「甘い方が美味しいですよ」

咲「はい!ちょっとお砂糖足してきますね」


甘党ふたり編、カン

ハギヨシ「煩悩は108つあると言いますが、その煩悩の元を辿ればひとつしかないように思います 」

咲「ストイックなハギヨシさんの煩悩ですか。ちょっと興味があります」

ハギヨシ「咲に会いたい、抱きしめたい、触りたい、ずっと側にいたい」

ハギヨシ「こんな煩悩まみれではあなたに幻滅されてしまいますね。……すみません、忘れてください」

咲「私がいつもハギヨシさんに会いたいと思っていたら、どう感じますか?」

ハギヨシ「もちろん嬉しいです」

咲「私があなたを抱きしめたい、触りたい、ずっと側にいたいと、そう思っていたらどうですか?幻滅しますか? 」

ハギヨシ「そんなこと、あるはずもありません。幸せだと感じます」

咲「ふふ。そのままお返しします」


煩悩編、カン

ハギヨシ「熱いから火傷しないよう気をつけて食べてください」

咲「はい」

ハギヨシ「ああ、餅は喉に引っ掛けやすいから少量ずつゆっくり食べるように」

咲「はい……あの、ハギヨシさん。私の事子供だと思ってませんか?」

ハギヨシ「いいえ、愛しい恋人だと思っていますよ」

咲「………」

ハギヨシ「咲?大丈夫ですか?顔が赤いですが雑煮で火傷でもしましたか?」

咲「いえ、お雑煮でなく胸が熱いです……」

ハギヨシ「はい?」


咲(ヤケドしたのは心臓の方です、ハギヨシさん )


お雑煮編、カン

ハギヨシ「咲、寒くはないですか?」

咲「ハギヨシさんに後ろから抱っこされてるので温かいです。ハギヨシさんは寒くないですか? 」

ハギヨシ「胸に大きなホッカイロがあるので大丈夫です」

咲「人のことホッカイロ扱いですか」

ハギヨシ「咲も人の事は言えませんよ」

咲「………」

ハギヨシ「………」

咲「……くすっ」

ハギヨシ「……ふふ」

咲「なら、もっとホッカイロらしく温める事に集中しますね」

ハギヨシ「協力しますよ」

ぎゅうぎゅう抱きしめ合ってぬくぬく初日の出参拝。


初日の出「正直、俺より輝いてた……」


カン

正月にちなんだ超短編ネタでした。
マイナーカプのスレではありますが今後ともよろしくお願いいたします。

乙だし


初日の出さんにはもう少し頑張ってこの2人の後ろから後光射すくらいやってほしかった

乙 ニヤニヤが止まらない


このスレのお陰でハギ咲が好きになりました
今年も楽しみにしてます

百合豚だけどこのスレは応援してます。

じゃあsageろよニワカ

まだかな

『マフラー』

咲「あ……」

和「どうかしましたか咲さん?」

咲「うん、向こうの通りにハギヨシさんを見かけたんで」

和「あ、ほんとですね。声をかけてきますか?」

咲「ううん。何だか急いでるみたいだし」

街のカフェテリアで和とコーヒーを飲んでいると、窓の向こうにハギヨシの姿があった。

荷物を抱えているので、おそらく遣いか何かだろう。

それより気になったのは……。

咲「……ううん。彼も大人だし大丈夫だよね」

和「はい?」

咲「あはは、なんでもないよ」

一人無理矢理納得させてコーヒーを啜った。

けれど心にもやもやとしたものを残しているのがどうしても気になってしまう。

咲「……」

和「咲さん?どうかしました?」

咲「えっと……、やっぱりハギヨシさんの所に行って来る」

和「ふふ。分かりました」

咲「ごめんね和ちゃん」

和「いいえ、それより早く追いかけないと見失ってしまいますよ」

咲「うん、それじゃあまたね!」

和に手を振って、カップを返却口へ戻してカフェを出る。

空はどんよりと暗く雨でも降りそうな気配だ。

雪ならいいのだけれど、と思いつつ大急ぎで足を進める。

咲「ハギヨシさん!」

ハギヨシ「咲?どうしてここに?」

驚いたようにこちらを振り向くハギヨシに、小走りで追いつく。

ハギヨシ「どうしたんですか、そんなに急いで」

咲「ちょっと用事がありまして」

ハギヨシ「用事?」

冷たい風がぴゅうぴゅうと吹いてかなり寒い。

コートをきっちりと着込んだ咲と違い、薄着の彼は寒そうに見える。

咲「私の用事は、これです」

そう言って背伸びした咲はハギヨシの肩に後ろからマフラーを乗せた。

少し長さのある柔らかい素材のグリーンのマフラーは、

ハギヨシが昨年のクリスマスの時にくれたものだ。

それを大事に使っていたのだけれど、こんな風に彼の役に立てる日が来るなんて思わなかった。

おお久々

ハギヨシ「これは……」

咲「私の大事な人が買ってくれたマフラーです。その大事な人が風邪をひいたら困りますから」

だから、特別に貸してあげます。

そう言ったら心なしか、ハギヨシの頬が薄っすらと赤くなった気がした。

それはきっと寒さのせいではないと思う。

ハギヨシ「……ふふ。使ってくれているんですね」

咲「もちろんです。ハギヨシさんがくれた物ですから」

ハギヨシ「ありがとうございます、咲……」

そう囁いたハギヨシがそっと咲の手をとった。

繋いだ指先はじんわりと熱を持って暖かい。

首元はほんの少しスースーと寒いけれど、今日くらい我慢できるだろう。

彼の首元を温めることが出来たのなら、大満足なのだから。


カン

乙 待ってた

ぜひ結婚まで続けてほしい

乙です グリーンのマフラーは咲さんにもハギヨシにも似合っていいね

おつー

すばら!

まだかなー

『未来』

高校生じゃまだ親の保護下にあるのは当然か。

平日は泊まれないと言った咲に、ハギヨシはそんなことを考えた。

翌日が休みの日は大丈夫。でも学校がある日は駄目。

放任主義だと思われる咲の父・界だが一定のルールは存在していて、それを破るのは許されない。

子供のことが心配。親としては当たり前のことだ。

界の気持ちがわかるからこそ、ハギヨシは引き止めたい気持ちを抑えて

平日はきちんと咲を家へ送り届けていた。

だが本当の気持ちとしては、毎日恋人と一緒に過ごしたい。

帰したくないという心が大半を占める。

だけど待っている親が居る限り引き止めることは出来ない。

咲はまだ高校生なのだから。

一緒に暮らせるようになるには後何年掛かるのだろうと時々考える。

勿論その頃にはもっと不自由なことが増えて、

苦労もあるに違いないのだけれど。

それでもお互い別々の家で眠るよりずっと些細な問題に思える。

当たり前のように、同じ家に帰る。

早くそんな日が来ないかと密かに願っていた。

休日前に泊まりに来た咲が隣りですうすうと寝息をたてている。

中々眠気がやってこないハギヨシは幼い恋人の寝顔を見つめながら軽く息を吐く。

瞬間、咲がもぞりと動いた。

ハギヨシ「咲?起こしてしまいましたか?」

咲「…ハギヨシさん…、ずっと、一緒に……」

ハギヨシ「…!!」

ぼそりと呟くと、そのまま再び聞こえ出す寝息の音。

咲も自分と同じように、離れ難く思っていたことに顔を綻ばせる。

ハギヨシのシャツの裾をきゅっと握って寝入る姿が愛おしい。

今はまだ咲は子供で、親や大人のルールに従う立場にある。

思うように一緒にいれなくて寂しい気持ちになったりもするけれど。

そう近い未来は、すぐにやってくる。

毛布を片手で引き上げて咲の肩の上へと掛けてやる。

安らかな寝息を聞いている間に、

ようやくハギヨシ自身も眠くなってきて瞼を下ろした。

今なら幸せな夢が見られそうだ。

二人がお互いの家へ一緒に帰るような。

そんな幸せな未来の夢が。


カン

ハギヨシ視点は新鮮で良いね

乙です

咲の性格が変にキャピキャピしてなくて好感が持てる

おつや

乙なのよー

すばら!

おつ

『特別な日』

ハギヨシは何でもソツなくこなす。

いや、言い直そう。

ハギヨシは何でも流麗にこなす。

その見た目に相応しく、彼の全ては普通の事がいちいち洗練されて美しい。

それが嫌味に感じられないのはひとえに彼の人柄のせいだ。

咲「お誕生日おめでとうございます」

ありがとうございます、と笑う顔も美しいハギヨシがケーキのロウソクを吹き消した。

咲が作ると言ったのに、結局ほとんど彼が作ったケーキはきっと美味しいだろう。

ハギヨシ「咲に祝って貰えて嬉しいです」

咲「私もハギヨシさんをお祝いできて嬉しいです」

二人で見つめあって、どちらからともなく笑う。

咲がハギヨシの誕生日を祝うのはこれが初めてだ。

「衣ちゃんの所の執事さん」が「私の恋人」になったのは、もう半年以上も前のこと。

まさか自分が彼とこんな関係になるとは思いもしなかったというのに、

その点でもハギヨシは流麗だった。

いつの間にか連絡先を交換し、いつの間にか二人で会うようになり、

いつの間にか手を握られることに違和感すら感じさせなくなり。

気付いたら彼にキスをされ、好きですと囁く彼に頷いていたのだ。

それはそれは素晴らしい手管であったと後に咲は語る。

思い出を照れ隠しで締めて、咲はカトラリーを手に取った。

咲「いただきます」

綺麗に盛り付けられた料理は咲の好きな物ばかりで、

作ったのはサラダ以外は皆ハギヨシだ。

これじゃあどっちが誕生日か分からない。

せめてとても美味しいと伝えようと顔を上げると、ミモザサラダを口に運んだ彼と目が合った。

ハギヨシ「とても美味しいです、このサラダ。たまごが特に」

いつも通りのハギヨシに苦笑して、ぺこりとお辞儀をする。

咲「ありがとうございます。このラタトゥイユも美味しいですよ」

ハギヨシ「お口に合いましたか、それは良かったです」

彼の作る料理は本当に美味しい。

見慣れない料理も多いのだが、意外と家庭的な味わいがあって、咲の好みによく合った。

だから咲は本心から何度もおいしいおいしいと彼の料理を褒めて、

彼がついに吹き出すまで言い続けた。



料理もあらかた片付け、デザートのケーキはリビングで食べることにした。

コーヒーを淹れるのは咲の役目だ。

ハギヨシに教わったやり方で、丁寧に手で湯を落とす。

大きめのマグカップに注いだコーヒーとともに、二人でケーキをつつき始める。

咲「ケーキ、とっても美味しいです。さすがはハギヨシさん」

ハギヨシ「ふふ。ありがとうございます」

咲「美味しいものを食べるのって、幸せですね」

ハギヨシ「そうですね」

咲「好きな人と一緒にいるのって、幸せですね」

虚を突かれたように、ハギヨシは咲の顔を見たまま固まった。

そんな彼の姿は珍しかったので咲は笑う。

咲「ハギヨシさん、お誕生日おめでとうございます」

咲「これからもあなたと一緒にご飯を食べて、美味しいって言い合いたいです」

ハギヨシ「……咲」

囁くような彼の声。

どちらからともなく顔を寄せ合い、お互いの唇が重なった。

咲の唇を食むようにハギヨシの唇が動く。

ハギヨシ「……美味しいです」

唇を離したハギヨシはそう言って笑う。

咲「私は食べ物じゃありませんってば」

ハギヨシ「食べ物ですよ。咲も、私も」

咲「ハギヨシさんも?」

咲を囲い込むように抱きしめて、ハギヨシが囁く。

ハギヨシ「そうです。私の夢は、ずっと咲と二人で生きていくことで、最後は一緒に死ぬこと」

咲「最後だけはなかなか難しそうですね」

ハギヨシ「はい。ですから私達は食べ物になって、一緒にモンスターに食べられたいです」

ぶっと咲は思わず吹きだした。

咲「それは……中々すごい夢ですね」

ハギヨシ「嫌ですか?」

ぎゅうと咲の肩に顔を埋めるハギヨシが堪らなく愛おしくて、咲は首を横に振る。

咲「いえ、望むところです。あなたと一緒に食べられて、一緒に消化されましょう」

ぶっとハギヨシも吹き出した。

ハギヨシ「それは……いいですね。すごく」

それに、と咲はハギヨシの黒髪を撫でながら思う。

ミモザサラダもラタトゥイユもコーヒーの淹れ方も、咲はハギヨシに教わった。

キスも、恋のしかたも、何もかも全て彼のやり方でしか知らないのだ。

だから最後も彼と一緒がいい。

モンスターだか何だか知らないが、食べられてやろうじゃないか。

だからいつかそんな日が来るまで、二人で幸せに溺れよう。

共に笑い合いながら。


カン

乙です

今日ハギヨシの誕生日だったのか。おつ

おつ!

乙乙なんて破壊力だ

ハギヨシの誕生日を祝ってるSSは初めて見た

『桜咲く』

月夜に照らされ少し肌寒い風が吹く。

さわさわと音を立てる芝生に大きめの風呂敷を敷くと、ともに腰を下ろした。

咲「夜桜、綺麗ですね」

咲は顔を綻ばせる。

ハギヨシもつられた様に笑んで空を見上げた。

桜は月の光に照らされ、自身が光を放つ様に淡い桜色で彩られていた。

空の深い群青と相まって、幻想的な光景に暫し時を忘れ見いる。

ふと視界の端にちらちらと咲の茶色の髪が映った。

ハギヨシ「……咲?何をやっているんですか?」

咲の方を向くと、ハギヨシを下から覗く様な低い態勢で見上げている。

咲「何とかハギヨシさんと桜を同時に眺められないかって……それに……」

咲は上目遣いにハギヨシを見ると口ごもった。

ハギヨシ「それに……なんですか?」

咲は仄かに頬を染めると、今度はハギヨシから目を反らした。

咲「ハギヨシさんにも桜だけでなく、私も見てもらいたいなって……」

ハギヨシ「……では、こうしましょう」

そう囁いたハギヨシに肩を押され、ぐるんと咲の視界が変化する。

敷物に横たえられた咲がハギヨシを見上げると、

その背後には空の深い群青、きらきらと細やかに煌めく星、淡く光る桜が見えた。

ハギヨシの黒髪がさらさらと風に靡き、

咲には星より桜よりそれが煌めいて見え、うっとりと目を細めた。

咲「……でも、これじゃあハギヨシさんは桜を見れないじゃないですか」

そう言って困った様に眉を寄せる。

ハギヨシ「ふふ。私はこれで良いのですよ」

咲「…でも……」

ハギヨシ「今は、桜よりも咲を愛でていたいので」

囁くように言い、ハギヨシは艶やかに笑んだ。

完全に顔を赤くした咲には

既にハギヨシ以外のものは見えてはいなかった。


カン

乙です

乙 花よりハギ咲

お互いメロメロですなぁ

文学少女×執事すばら!

待ってます

『あなたの声が聞きたくて』

夜も更け、そろそろ寝ようとベッドに潜りこもうとした咲は

突然鳴り響いた携帯にびくりと体を揺らせた。

ディスプレイには恋人の名前。

急いで通話を押して耳元に当てる。

咲「もしもし」

ハギヨシ『こんばんは、咲』

咲「こんばんは。どうしたんですか?こんな時間に珍しいですね」

部屋の時間はもうすぐ12時になろうとしている。

普段ならそんなに遅くに電話なんてしてこないハギヨシが、

珍しい時間にかけてきたのだ。

心配げな咲の声に、ハギヨシはいつもの通り穏やかな口調で答えた。

ハギヨシ『特に何かあった訳ではないのですが…すみません、もう寝ていましたか?』

咲「いえ、今から寝ようとしていたところです」

ハギヨシ『そうですか。それは良かった』

言葉とともに耳元に聞こえる、小さく息を吐く音に彼がほっとしたのが分かる。

咲「ひょっとして、声が聴きたくなった…とかですか?」

ハギヨシ『そう思いますか?』

咲「だったら良いなって思っただけです。…私もハギヨシさんの声が聴きたかったですし」

ハギヨシ『ふふ。嬉しいことを言ってくれますね』

咲「だって、ハギヨシさんが出張に行ってからもう二週間ですから」

咲「こうして声を聞くのも久しぶりですし……」

ハギヨシ『声が聞きたいのなら、いつでも電話してくれて良いんですよ』

そう優しく告げるハギヨシに、少々の沈黙の後咲は答えた。

咲「一度でもあなたの声を聞いたら、毎日でも聞きたくなりますから……」

ハギヨシ「咲……」

遠慮がちにそう告げる咲に、ハギヨシの顔に自然と笑みが浮かぶ。

ハギヨシ『私もです。毎日でもあなたの声を聞いていたい』

咲「ハギヨシさんも?」

ハギヨシ『はい』

ハギヨシの答えに、咲の顔にも笑みが浮かんだ。

咲「でも…やっぱり直接逢いたいです。こうやってお話していても、顔が見えないのは寂しいです…」

ハギヨシ『……咲』

弱弱しい咲の声音を聞いて、ハギヨシは殊更ゆっくりと、一言一言を噛み締めるように話し掛けた。

ハギヨシ『咲、私もあなたに逢いたい。あなたの顔が見たいし、すぐ側で声が聞きたい。抱きしめたい』

咲「…っ」

ハギヨシ『出来ることなら、今すぐにでもあなたの元へ飛んで行きたいくらいです』

咲「ハギヨシさん…」

ハギヨシ『あと数日で帰りますから。…咲』

咲「…ごめんなさい。何だかすごく弱気になってました。久々にハギヨシさんの声を聞いたら安心しすぎたみたい」

自分で思っていた以上に、ハギヨシ不足はダメージになっていたらしい。

久しぶりに彼の声を耳にして、改めて自覚してしまった。

いつも当たり前のように聞けた彼の声が、どれだけ自分にとって大切だったのかを。


ハギヨシ『両手に抱えきれない程のお土産を買って帰りますから』

咲「ふふっ。一体どれだけ買うつもりですか」

ハギヨシ『咲』

咲「はい」

ハギヨシ『愛してます』

咲「……はい。私もです」


真摯な声で囁かれた言葉に、小さく、でも精一杯の気持ちを込めて返事を返す。


逢えなくても、傍にいなくても

いつも想いを送っているから


カン

乙です

乙 相変わらずラブラブですな

乙です 早く結婚させてあげたい

おつおつ

このスレ大好き

『キスの秘密』

ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。

咲「あっ」

ぎゅうと目をつぶった咲の5回目の着陸は、

予測を大きく外れてハギヨシの高い鼻のてっぺんに落下した。

咲「ご、ごめんなさい!」

真赤になってうろたえる咲を見上げて、ハギヨシはくすくすと楽しそうに笑う。

ハギヨシ「今のは唇じゃなかったからノーカンです。あと96回ですね」

家の中で過ごす休日。

いつもの二人ならば読書なり映画鑑賞なり、のんびりとした部屋デートを楽しんでいるはずなのに。

何故こんな事になっているのかというと、そもそもの発端は。


咲「ハギヨシさんはどうしてそんなにキスが上手なんですか?」

という咲の発言にある。


ハギヨシ「そうですか?別に普通だと思いますが」

ちゅ、と軽い音を立てて、ハギヨシの唇が咲の唇を吸う。

咲「だって私、ハギヨシさんにキスをされると胸がどきどきして、頭がくらくらして、気が遠くなりそうになるんです」

ゆったりと広いソファの上、隣に座る恋人を見つめて咲は生真面目な顔で言う。

ハギヨシ「……ふふ。では教えてあげましょうか?上手なキスの秘密」

咲「教えてもらえるんですか?」

ハギヨシ「はい」

にこりと笑みを浮かべたハギヨシは、とん、と自分の唇に人差し指を当てる。


ハギヨシ「ということで、咲から私にキス100回してみてください」



ハギヨシ「今のは唇じゃなかったからノーカンです。あと96回ですね」

咲「うう……」

96回、という数字が果てしなく遠く感じる。

ハギヨシ「そんなに離れたところから目を閉じるから位置がずれるんです。もっと近づいて」

咲の顎を軽く指先でつまんだハギヨシが顔を寄せてきて、咲はドギマギする。

ハギヨシ「で、このくらい……鼻がくっつくぐらいに近くなったら目を閉じる。簡単でしょう?」

お互いの睫毛が触れあいそうなほど近くで囁かれては、せっかくのアドバイスも頭に入ってこない。

咲「む、無理です!」

ハギヨシ「どうして」

咲「ハギヨシさんの綺麗な瞳に近くで見つめられていると、恥ずかしくてつい目をつぶってしまうんです」

ハギヨシ「……またそんな殺し文句を無自覚に……」

咲「えっ?」

口元を手で覆って視線をそらしたハギヨシに、咲はきょとんと首を傾げる。

咲「どうかしましたか?」

ハギヨシ「……いえ、何でもありません。なら目を閉じててあげますから、続きをどうぞ」

咲「は、はい」

ぱちりと目を閉じたハギヨシの顔は秀麗で、長い睫毛が影を落としていて。

やっぱり咲はどきどきして見とれてしまう。

それでも頑張ってぎりぎりまで目を開けたまま顔を近づけ、そっと恋人の唇に口づけた。

押しつけるだけの、つたないキス。

いつつ。むっつ。ななつ。やっつ。

咲「ハギヨシさん……」

触れあう唇から生まれた熱に思考がとろとろに溶かされてしまいそうだ。

咲「100回キスが出来たら、私もキスが上手になれるんですよね?」

そうしたら、ハギヨシにもっと好きになってもらえるのだろうか。

そんなことを考えていた咲は、

ハギヨシ「さあ、どうでしょう」

咲「えっ」

予想外のハギヨシの返事に驚いて身を起こした。

咲「ど、どういう事ですか。まさか私をだまして……!」

ハギヨシ「騙すも何も、100回キスが出来たら上手になれるなんて一言も言っていませんよ」

咲「なっ……」

意地悪く目を細めて笑うハギヨシは、言葉を失う咲の頬に両手を添えると自分の方に引き寄せた。

咲「んっ?ん、う……」

そのまま呼吸ごと唇を奪われて、咲は思わずハギヨシの腕にすがりつく。

ハギヨシ「キスはただ私がして欲しかっただけです」

咲「……も、もうっ」

ハギヨシ「すみません。ですが私には咲のキスは上手だと感じましたよ」

囁かれた言葉に、咲は「そんなはずありません」と呟いた。

咲「私、ハギヨシさんのようには出来なくて……」

ハギヨシ「テクニックがどうとかではなく、私が咲に惚れているから。……ここまで言えば、分かるでしょう」

彼の声も、まなざしも、頬をなでる指先も、すべてが甘く優しい。

咲「……ハギヨシさん」

恥ずかしそうに微笑んだ咲の手がハギヨシの頬に触れ、

互いの唇が惹かれあうように、再び重なる。


テクニックも、ロマンティックなシチュエーションも必要ない。

愛する人とするキスは、それだけで、とびきりの極上。


カン

乙 甘々で良いね

おつ
ハギヨシ男前だなぁ

乙 お似合いすぎる…


ハギヨシ19歳にはびっくりした
咲さんとの歳の差、気にするほどじゃなかったねw

15の咲さんからしたら19でも大人に見えるかもな
新情報で1の創作意欲が刺激されるのを願う

10代の年差は大きいし、相手は働いてるから実際以上に感じてても不思議じゃない

素晴らしい

はぎよしさんじゅうきゅうさあい

27歳ぐらいだと思ってた

『君に夢中』

静かだ――そしてその静かさは、ときに咲の心を不安にさせる。

久々の逢瀬だというのに恋人は先ほどから手元の書類に夢中だった。

仕事の邪魔をしてはいけないという思いと

それでも少し位は構って欲しいという思い。

相反する心を持て余し、咲は小さく息を吐いた。

ハギヨシ「お待たせしてすみません。もう少しで終わりますから」

咲の様子に気づいたハギヨシが、机の上の書類から目を離さずに告げる。

咲「いえ、私に構わず続けてください。大事なお仕事なんでしょう?」

忙しい最中まで自分の事を気遣ってくれる優しい恋人に、

咲は無理に笑みを作ってそう言った。

咲「私、しばらく外に出てますね」

ハギヨシの邪魔にならないようにと、咲はそっと立ちあがる。

そのまま扉へ向かおうと歩き出したところで首元に腕が二本回される。

暖かいそれがハギヨシの腕であることに気付くのに、

ほんの少しばかり時間がかかった。

後ろから抱き締められる体勢であることに気付くと

だんだんと頬が熱を持って来て、それを隠すように咲は俯いた。

ようやく触れられた恋人のぬくもりに咲はうっとりと目を閉じる。

ハギヨシ「お待たせしました、咲」

咲「仕事は終わったんですか?」

ハギヨシ「はい。ようやく片付きました」

咲の耳元で囁きながら、ハギヨシは軽く笑んだ。

ハギヨシはあくまで執事かな?

本当は嘘だ。

仕事はまだ片付いていない。

だが側で寂しそうにしている恋人をこれ以上放っておくことなど出来なかった。

そして自分自身も早く咲に触れたくて仕方がなかったのだ。

仕事よりも他の何かを優先する事など、

咲と出会う前の自分では考えられなかったことだ。


ハギヨシ「全く……こんなにも私を夢中にさせるなんて、あなたは罪な人ですね」

咲「えっ?」

ハギヨシ「これは、責任をとって貰わないといけませんね」

大きな目をさらに広げて見上げてくる4つ年下の恋人に、

ハギヨシは微笑みながら抱きしめる腕に力を込めた。


カン


ハギヨシさんベタ惚れですなあ

おつ

乙です

癒されるなぁ

おつおつ

『あなたの香り』

目に染みるような深い緑だ。

ハギヨシが帰った後、咲は彼からプレゼントされた扇を開いてつくづくと眺めた。

ごく薄く削られた扇骨は寸分の狂いもなく要に集まり、しっとりと手に馴染む。

普段こういった物を使う習慣が無い咲にも、その扇がとても質の良いものだと分かった。

咲(……あ)

そよ、と揺らすと、覚えのある香りが立ち昇ってきた。

落ち着いた甘みのあるそれは、ハギヨシが愛用しているフレグランスの匂いだ。

きっと扇を懐に入れて持ち歩いたせいで香りが移ってしまったのだろう。

そう思い、咲はなんとなく赤面してしまった。

香りなんて、よほど傍に近づいた時にしか分からない。

咲にとってそれは、恋人の胸に顔を埋めてる時に感じる香りであり

情事の後まだ息が整わず、けだるくベッドに打ち伏している咲の裸の背中に

ハギヨシがそっと着せ掛けてくれるシャツから漂う匂いであった。

咲(わ、私は何を)

脳裏に浮かんだ艶めいた情景を、ぶるぶると頭を振って追いやり、咲は扇を閉じた。

淡く笑みを浮かべると、まるでそれがハギヨシその人であるかのように

きゅっと扇をおし抱いた。




さんさんと日差しに照らされ汗ばむ程の陽気のなか。

恋人の元へと向かっていたハギヨシは、

待ち合わせ場所である図書館の奥まった場所にある椅子にひとり腰掛ける咲の姿を見つけた。

その手には先日ハギヨシが彼女に贈った、深緑色の扇が握られている。

ハギヨシ(持ち歩いてくれているのですね)

肌身離さず大切にする、と目を輝かせて喜んでいた咲を思い出し、思わず頬が緩む。

何となくそのまま足を止めて咲の様子を眺めていたハギヨシであったが。

やがて不思議な事に気がついた。

咲は手にした扇を大事そうに両手で包んだり、時折持ち上げて眺めてみたりするものの、

一向にそれを開いて扇ごうとはしないのだ。

ハギヨシ「咲」

その行動を訝しく思ったハギヨシは咲の方へと近づいた。

咲「あ、ハギヨシさん」

ハギヨシ「どうしてその扇を使わないのですか?」

ずばりと尋ねたハギヨシに一瞬虚をつかれて目を丸くした咲だが、

すぐに恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。

咲「……見てたんですか」

ハギヨシ「ひょっとしてその扇、何か調子がおかしいのですか?」

咲の為にと、龍門渕お抱えの職人の中でも特に腕利きの者にあつらえさせた扇だ。

考えにくいことだが、どこか故障があったのかもしれないと思ったハギヨシだったが。

咲は「いいえ」と首を振った。

咲「違うんです。これは、その……」

頬を染めながら咲は身を縮める。

咲「わ、笑わないでもらえますか」

ハギヨシ「それは勿論ですが」

頷くハギヨシを見上げ、咲は口を開いた。

咲「開くと、ハギヨシさんの移り香が消えてしまいそうで…名残惜しいんです」

ハギヨシ「……」

予想外の返答にハギヨシは目を丸くした。

普段は愛の言葉を口にするだけで恥ずかしがるくせに、いきなり凄い殺し文句だ。

しかも言った本人はまったく無自覚なのだから恐ろしい。

ハギヨシ「…香りなら」

しばし押し黙っていたハギヨシが、ぼそりと呟いた。

「え?」と聞き返そうとした咲は、急に伸びてきた腕に抱きすくめられて息をのむ。

咲「は、ハギヨシさん?」

ハギヨシ「香りなら、いくらでもあなたに移してあげますよ」

だから、使ってください。

そう囁きながら咲をぎゅっと胸に抱きこんだ。

咲「ハギヨシさん……」

こんな場所で、通りかかった誰かに見られたりしたら。

そう思いつつも、咲はハギヨシの腕を振りほどけない。

頬に触れる恋人の襟元から立ち昇る、甘い香り。

咲「……はい」

酔ってしまいそうだと思いつつ、咲は体の力を抜いた。

咲(あと少し、あとほんの少しだけ…こうしていたい)

愛する人の香りが、この身に、心に、染みこむまで。


カン

おお、久々!

乙 待ってたよ

乙!このカップルはいつまでも初々しいんだろうな

so good!

ハギーが男前すぎる
そら咲ちゃんもメロメロになりますわな

『酔わされる』

浴室を出た咲が部屋へと向かえば、ハギヨシは窓際でグラスを片手に月を見上げていた。

月光を浴びた儚く美しい彼の姿に魅せられ心の音がどくんと高鳴る。

咲は無言でハギヨシに近づくと、その背中に頬を寄せた。

ハギヨシ「おや。今夜はずいぶん甘えたですね」

咲「…そんな気分なんです」

少し冷たい背中にすり、と頬をすり寄せる。

そんな猫のように仕草にハギヨシはくすりと笑う。

ハギヨシ「どうせ甘えてくれるなら、正面からの方が良いのですが」

咲「え?」

ハギヨシ「こっちです」

咲「あっ…」

グイと腕を引かれて正面に向かされ、唇が重なる。

咲「ん……」

すっぽりと唇を覆われて、吸われて、舌を絡められる。

ハギヨシの動きに翻弄されるばかりで、やはり上手くは出来ないと思う。

自分ばかり、ふわふわと心地よくなるばかりで。



ふと彼の舌から僅かに漂うアルコールの香り。

それだけで酔ってしまいそうだ。

咲「お酒の香りが…」

ハギヨシ「ああ、先ほど少し飲んでましたので」

咲「そうなんですか」

ハギヨシ「でもこの酒は私には少々甘すぎますね」

呟きながら、ハギヨシは一気にグラスの中身を飲み干した。

ハギヨシ「やはり甘いです」

そう言って珍しく顔を顰める彼の姿に、咲はくすりと微笑んだ。

咲「よっぽど甘いお酒のようですね」

ハギヨシ「ええ。これは口直しが必要です」

咲「はい?……んっ!」

ぐいと肩を引き寄せられ、再び彼に口付けられる。

舌で口中を味わうように舐めあげられ、唇が離れる。

ハギヨシ「甘いですね」

咲「ま、まだお酒の余韻が…」

ハギヨシ「いえ、咲が甘いんです。あなたの甘さは夢中になる甘さです」

咲「…っ」

かあっと真っ赤になった恋人の頬に口づけて、ハギヨシはその耳元にささやく。

ハギヨシ「だから、もっと私に咲をください」

そうして再び唇が重ねられた。


カン

おつ
こっちが胸焼けしそうです

良いね

お似合いですなぁ


夢中になる甘さだった

乙です

こういうやり取り見てるとこっちも幸せになれるな

ほしゅ

『イニシアチブ』

カーテンの隙間から入り込む朝陽の眩しさに、咲は眉を顰める。

そしてゆっくりと瞼を開いた。

先程まで闇に包まれていた瞳に、その輝きはあまりに眩しくて。

咲は目を細めながらゆっくりと目を慣らす。


今日も天気が良い。

近頃は涼しくなってきたし、休日には最適な一日となりそうだ。


ふと自分の身体の隣に視線をやった。

そこには、まだ眠る恋人の姿。

普段はあまり感情を出さずにいるこの人も寝顔は幾分幼いんだな、と微笑みながら見つめた。

咲「…ハギヨシさん」

愛しそうに相手の名を呼ぶ咲の声は、まだ掠れていた。

その呼びかけにハギヨシは薄く反応し長い睫毛を揺らす。

しかし起きた訳ではないらしい。

くすりと笑い、眠るハギヨシの髪へと手を伸ばした。

その艶やかな黒髪と、未だ瞼を閉じて寝息を立てるその人の顔を見つめ、綺麗だ、と思った。



いつからだっただろう、こうしてハギヨシと夜を共にし始めたのは。

この人を愛しいと感じ、また愛しいと想われて、身体を預けたのは。

初めは混乱した。

互いの好きと言う気持ちだけでは安心するに足らない程混乱した。

でも自分が不安そうな表情を浮かべる度、この人は自分を守ってくれた。

心配させたくなくて、そんな顔は見せない様にと努めていたが、何故だかいつも見抜かれた。

急に切なくなって、そっと彼に身を寄せた。

温かい。

誰かと身体を重ねるなんて初めてだったけど、こんなにも心地よく安心できる事だとは思っていなかった。

静かにゆっくり、恋人の身体に腕を回し、優しく抱き締める。

ハギヨシの香りが鼻を擽る。

それに切なさが更に増した。

ハギヨシの唇を指でなぞる。

自分の鼓動が五月蝿い。

どうにも胸が切なくて苦しくて、どうしてももっと触れたくて、そっと自分の唇を重ねた。

柔らかい感触にほっとして、触れるだけの口付けを少しの間堪能すると唇を離す。

閉じていた瞼をゆっくりと開けた。

すると、

ハギヨシ「どうしました、珍しいですね」

先程まで閉じられていた瞼が開いて、口元には嬉しそうな笑みが浮かべられていた。

その唇から紡がれる言葉は掠れていて、気が遠くなるくらい色っぽい。

咲「!?お、起きて…!?」

咲の顔が一瞬で真っ赤になる。

身体を離そうとしたが、動かない。

いつの間にかハギヨシの腕が自分の身体を包んでいた。

その力は、見た目から想像出来ない程に強い。

ハギヨシ「どうしたんですか?咲…私に口付けたかったんでしょう?」

意地悪い笑みを浮かべながら、ハギヨシは己の顔を咲の顔に近づける。

相変わらず咲の顔は真っ赤だ。

ハギヨシの舌が、咲の唇をぺろりと舐める。

咲「!!は、ハギヨシさんっ」

ハギヨシ「はい?」

楽しそうに笑うハギヨシを、恥ずかしさのあまり涙の滲んだ瞳で睨む。

しかし呼びかけに反応した彼の声があまりに甘くて、その表情があまりに優しくて。

何も言えなくなってしまった。


なんだか悔しい。

いつも、年上の彼に容易く主導権を握られてしまう。

咲は少し唇を尖らせ、赤い顔を隠す様にハギヨシの胸元へと顔を埋めた。

ハギヨシ「咲?どうしました?」

相変わらず優しい声音で問い掛けながら、ハギヨシは咲の髪を優しく撫でる。

そして「煽った貴女が悪いんですよ」と笑いながら咲のパジャマに手を掛け、はだけさせる。


いつもこうなのに。彼にされるがまま翻弄される自分が悔しいのに。

それを喜んで受け入れている自分が余計に悔しい。


次こそ私が主導権を握ってやるんだから。

咲は熱を持ち朦朧とし出した頭で、そう考えた。


カン

乙です
悔しがる咲さん可愛い

寝起きの小野Dボイスは色気ありそうだな

乙乙
月一度の楽しみになってます

おつ
仕事疲れに咲ハギは癒されるわぁ

もう結婚すればいいよ

ぜひ結婚式まで見たいな

華菜ちゃんは新婚イチャイチャも見たいし

ほしゅ

『甘えたい』

咲「ハギヨシさん、甘えてください」

ハギヨシ「どうしたんですか?突然……」

両腕を広げた恋人を前に、ハギヨシは長い睫毛を瞬かせた。

咲「あなたを甘やかしたい気分なんです。さあ、遠慮せずに」

さあ来い、と構える咲の意図が全く分からない。

とりあえず言われるまま、咲に覆いかぶさるようにして抱きつく。

すぐに咲の腕が背中に回された。

ふふ、と笑う声が耳元で聞こえる。

そこで初めて、これは逆だとハギヨシは気付いた。

甘やかしたいのではなく、甘えたかったのだ。

思わず咲を抱く腕に力が入った。

ハギヨシ「まったく……突然何かと思えば」

咲「もっと甘えていいんですよ」

ハギヨシ「そうですか」

咲「はい。私はまだまだ甘やかし足りません」

ハギヨシ「では遠慮なく」

ぎゅう、と更に腕に力を込める。

すると咲はますます幸せそうに笑うので堪らなくなった。

咲「まだまだ、ぜんぜん大丈夫です」

ハギヨシ「日本語がおかしいですよ」

少し痛いくらいの力を徐々に込めたが、咲は歌うようにまだまだ、と言い続ける。

ハギヨシは手心を加えた膂力を、彼女が満足するまで如何なく発揮した。

咲「いたいいたいいたい!すごく痛いですっ」

ハギヨシ「おや、すみません」

咲「ううっ……意地悪です」

ハギヨシ「じゃあ離しますか?」

咲「ま、まだ駄目です」

ハギヨシはこっそりと力を緩めながら囁いた。

ハギヨシ「――咲」

彼女の名を口にしながら、一回り小さな身体を引き寄せる。

咲「……ハギヨシさん?」

わずかに身じろぎ、声を漏らした相手の首筋に唇を寄せ、もう一度。

ハギヨシ「咲」

肌に直接、伝わせるように。

深く、奥まで、染み込ませるように。

ハギヨシ「――咲」

もう一度。

咲「……な、何なんですか」

ハギヨシ「何がですか?」

咲「この状況ですっ」

ハギヨシ「状況もなにも、ただ名前を呼んでいるだけですよ」

咲「どうして私の名前を?」

ハギヨシ「『甘やかしたい』と言い出したのはあなたでしょう」

そう主張した途端、腕の中の咲がぴくりと反応した。

咲「まさか、これがハギヨシさんの『甘えている』行為なんですか?」

人の名前をひたすら連呼するというだけの行為が。

咲の問いに、ハギヨシは即答した。

ハギヨシ「はい。愛しい恋人の名を呼ぶのは、とても心地が良いですから」

咲「………っ」

顔中を真っ赤に染め、瞳を潤ませる咲を見やりながら。

名前を。何度も呼び続ける。

ハギヨシ「咲」

咲「は、い」

ハギヨシ「咲」

咲「はい」


咲はその一つ一つに、律儀に丁寧な返事をくれる。

間近く静かに響く声。

聴けば聴く程、もっともっとと欲を産む。


ハギヨシ「咲」


呼ぶ名前に、平仮名二文字に、ありったけの想いを込めて。

上手く言い表せない、伝えられないものを、全部。

ハギヨシ「咲」

咲「はい。……もっと、呼んでください」


もっと、私に甘えて。

そう瞳で伝えてくる4つ年下の恋人に向けて。


ハギヨシ「もちろんです。―――咲」


大切なのだ。名前を口にした途端、他の全てが吹き飛んでしまう程に。

貴女がいればそれだけで良いと、本気で思ってしまう位に。


咲「もっと……、ハギヨシさん……」


何度でも呼ぼう。

心底、

いとしい。と、伝えるように。


カン

乙 とても癒される…


お互いべた惚れやね

おつおつ

乙です
イチャイチャしてるのにイラっとしないのはこの二人ならではだなw

乙 甘え合うのいいな…

すばらC!

嫁田の本名が判明したことだし、ハギヨシの本名も知りたいところ

>>295
萩原は正式な苗字なのかな?

『彼シャツ』

心地よい夢の余韻を残したまま咲が目を覚ました時。

昨日、夜を共に過ごした部屋の主は傍らに居なかった。

咲「ハギヨシ……さん……?」

名を呼ぼうとした声はがさがさに掠れていて、咲は驚きに目を丸くする。

咲(あ……)

声が掠れた理由は昨夜、ハギヨシの腕の中でしきりに彼の名を呼び続けたせいだ。

その理由に思い当たり、さらにその時の情景まで鮮明によみがえって来て咲は慌ててぶんぶんと首を振る。

咲(は、ハギヨシさん、どこに行ったんだろう)

周囲を見回すと、自分がこの部屋を訪れた時に着ていた服が消えている。

咲(まさか、洗濯しに行ったんじゃ……)

急いで後を追わねばと思うが、今の咲は掛け布団をかろうじて身に巻きつけただけの裸だ。

何か代わりを、と思案する咲の目に、椅子にかけられたハギヨシのシャツが目に止まった。

勝手に借りるのは申し訳ないが、他に着る物もない以上止むを得ない。

心の中でハギヨシに詫びつつ、シャツに袖を通す。

咲「う……」

丈が長すぎてワンピースのようになってしまった。

袖口も、手の甲がすっぽり隠れて指が半分ぐらいしか出ていない。

すらりと手足の長い彼の立ち姿や、彼が隣に立って話しかける時、

ほんの少し屈んで目線を合わせてくれる仕草を思い出して咲は苦笑した。

咲(ハギヨシさんは立っているだけでも絵になって、とても素敵で……ずるいなぁ)

そんなことを思いながら、くるりと勢いよく踵を返した瞬間。

咲「わっ」

目の前に立っていた人物の胸に、ぼふんと顔から体当たりしてしまった。

ハギヨシ「……すみません」

頭上から振って来た聞き覚えのある声に、痛む鼻を押さえながら顔を上げる。

ハギヨシ「急に振り返るとは思いませんでした……大丈夫ですか?咲」

彼の言葉に平気です、と頷いてみせてから、咲は首を傾げる。

咲「いつ戻ってたんですか?」

ハギヨシ「咲が私のシャツを着ようとしていた時からですよ」

咲「あ、ごめんなさい。勝手にハギヨシさんのシャツを借りちゃいました」

ハギヨシ「それは一向に構いませんが」

咲「あの、私の服が見当たらないんですけど……」

ハギヨシ「ああ。先ほど洗わせてもらいましたよ」

やはりそうだったか、と咲は内心頷きつつハギヨシを見る。

咲「ハギヨシさんのお手をわずらわせてしまってすみません」

ハギヨシ「いえ。あなたの服を汚してしまったのは私ですから」

咲「でも……」

ハギヨシ「咲は脱がせてほしいと頼んだのに、私がわざと服を着せたまま咲の」

咲「は、ハギヨシさん!それ以上は言わなくて良いです!」

さらっととんでもない事を言い出す恋人の口を、背伸びした咲の指が塞いだ。

昨夜、自分がハギヨシの手によってどんなにはしたない姿を晒してしまったのかを思い出して。

首まで赤くした咲を、ハギヨシは目を細めて見下ろす。

ハギヨシ「それで、謝罪のつもりで洗濯したんですが。……まさかこんな報酬まであるとは思いませんでした」

咲「え?」

何のことか分からず、きょとんとする咲にハギヨシは小さく微笑みかける。

ハギヨシ「今のあなたの姿、できれば他の人達にも見せびらかしたいところですが……やはり私一人のものにしておきたいですね」

だから、と言葉を切り。

咲の目線に合わせて少し屈むと、その頬に優しく唇を押しあてる。


ハギヨシ「服が乾くまで、ずっとそのままの姿でいてくださいね」


カン


ハギーのシャツじゃさぞブカブカだろうなあ

身長差あるからな

やハギ咲N1!


エロいのに上品だ…

>>1の余計な自分語りをせず黙々と書くスタイル良いね

『初詣』

ハギヨシ「咲、そろそろ起きてください」

咲「ん……もうちょっと……」

毛布にくるまってぬくぬくと眠る咲に、ハギヨシが本日三度目のため息をついた。

先程から何度となくこのやり取りを繰り返しているが、咲がベッドから出てくる気配はない。

ハギヨシ「いつまでも寝ていたら初詣に行けませんよ」

己の身支度は終わっているが、咲はまだパジャマのままだ。

これ以上遅くなると家を出るのが昼を過ぎるかもしれない。

そんなハギヨシの懸念など知らぬ存ぜぬな咲がごろんと寝返りをうちながら「はあい」と間延びした返事をする。

ハギヨシ「咲……」

痺れを切らしたハギヨシの声がわずかに低くなる。

咲「今日すごく寒いって天気予報で言ってましたし。わざわざこんな日に初詣に行かなくてもいいんじゃないですか?」

窓の外からはびゅうびゅうと吹きすさぶ風の音が時折聞こえる。

ハギヨシと出掛けるのは咲だってやぶさかではないが、寒いとなれば話は別だ。

咲「だから、初詣には明日行きましょうよ。ハギヨシさん」

ベッドの隅に腰を下ろし、布団から半分だけ顔を出している恋人の髪を優しく撫でる。

くすぐったそうに身をよじる咲に、ハギヨシがかすかに目元をほころばせる。

咲「出掛けなくても、ハギヨシさんとこうしてるだけで楽しいですし。今日は寝正月ってことでのんびり過ごしましょう」

まだ眠たそうな咲が甘えるように言った。

きちんと身なりを整えたハギヨシのシャツの袖をつんつんと引く。

ハギヨシ「……わかりました」

咲「本当ですか?じゃあ」

ハギヨシ「寝正月、といきましょうか」

ぐいと身体を押し付けられ、ハギヨシが覆いかぶさってきた。

咲「えっ?ハギヨシさ……んぅっ」

噛みつくような口づけをされ、咲は驚いて身体を硬直させる。

が、次第に力を抜き始め、ハギヨシにされるがままに体を預ける。

ハギヨシ「……ん……ふ……」

咲「……はぁっ。い、いきなり何なんですか……っ」

ハギヨシ「咲が寝正月を過ごしたいと言うから、叶えてあげようと思っただけです」

咲「そ、その意味の寝るじゃありませんっ!!」

ハギヨシ「ふふ。ちょっとからかってみたくなっただけですよ」

咲「ひどいです、ハギヨシさん。だいたい私が今こんなに眠いのだって、昨夜ハギヨシさんが……」

ハギヨシ「遅くまで咲を寝かせてあげなかったから、ですよね。すみません」

咲「……っ」

意味ありげに笑みながら囁かれた言葉に、咲の顔が真っ赤に染まる。

布団をがばりと被り、目だけ出した状態でじとりと恨みがましく恋人の美貌を見上げた。

ハギヨシ「すみません、ちょっと苛めすぎましたね」

すっかり拗ねてしまった咲の頭を軽く撫ぜる。

その心地良い感触に咲は目を細め、ゆっくりと起き上がった。

咲「……分かりました。行きましょう、初詣。でも……」

ハギヨシ「でも?」

咲「ハギヨシさんのおかげで身体がだるいので、甘酒でも買ってもらいますからっ」

恋人の可愛いおねだりに、ハギヨシは思わず笑ってしまった。

そんなものでお返しになるのなら甘酒でも何でも買ってやりたくなる。

こみ上げる愛しさに逆らうことなく、恋人のやわらかな唇に口づけを落とした。



ハギヨシ(どうかこの先も、私の未来が貴女と共にありますように)


カン

乙 相変わらず良いな


今年も楽しく見させてもらいます

百合豚の俺が唯一みてるノンケスレ

や咲ハギN1!

ハギ咲はあってもまだハギ透がないのが不思議

無駄に登場人物を増やさず二人の世界なのが好感持てる

このスレでハギ咲好きになりました

スレタイ見ただけで糞スレ確定。>>1さっさと死んどけゴミks


とても癒される…

待ってます

『さくらんぼ』

一体なぜこんな事になっているのだろうか。

今の自分が置かれている状況についていけない。

頭はもの凄い勢いで空回りを繰り返して、全く役に立たなくて。

そんな中、視界の端に見えるのは、皿いっぱいに盛られた赤い綺麗なさくらんぼ。



そのさくらんぼは自分で買ってきたものだ。

夕食の食材を買いにスーパーへ出かけた際に、色鮮やかに熟れたさくらんぼが目に入って。

少々値段は高かったけれど、なんとなく食べたくなって思わず買ってしまったのだ。

買った一番の理由は自分が食べたかったからなのだが、きっとハギヨシも喜んでくれるだろう。

彼の家を訪れると、ハギヨシが笑顔で迎えてくれて、自分も機嫌がよくなって。

買ってきたさくらんぼを示せば、やはり喜んでくれて。

食後のデザートとして食べようという事になったのだ。

そんな訳で食後にさくらんぼを冷蔵庫から取り出し、美味しく食べていたところだったのに。

ハギヨシ「咲はさくらんぼのヘタを口の中で結べますか?」

咲「えっ?さあ、やったことないので分かりません」

ハギヨシ「そうですか。それではちょっとやってみてください」

そういって出された舌の上には結ばれたヘタが乗っていた。

本当に器用な人だなあ、と関心しつつさくらんぼを一つとり、ヘタが付いたまま口の中へ放り込んだ。

甘酸っぱい果肉を味わい種を出してしまって、残ったヘタを口の中でもごもごと動かし頑張ってみるも上手くいかない。

もう少しで結べそうなところまでは行くのだが、中々出来ない。


少々躍起になってどうにか結ぼうと頑張っている最中。

咲(そういえば、上手く結べる人はキスが上手いとか何とか、そんな話があったような……)

不意にそんな事が頭をよぎった時、ハギヨシが意地悪な笑顔を浮かべる。

ハギヨシ「出来ましたか?」

貴女には出来ないでしょう、と言わんばかりの笑みを浮かべる恋人の態度に少しムッとしたけれど。

頑張っても結べないのは確かだし、甘酸っぱい後味が残ってたはずの舌にはヘタの味が充満してきて何だか不味い。

少し歪んだヘタを口から出す。

咲「苦い……」

何てことないのだけど、出来ない事が悔しくて。

口直しに新たなさくらんぼを頬張った。

その様子を見てハギヨシがクスリと微かな笑みを漏らす。

ハギヨシ「咲、うまく結べるようになる方法があるんですが……試してみますか?」

咲「結べるようになる方法?そんなものがあるんですか?」

そう言ってハギヨシの方へ視線を戻すと。

必要以上に至近距離にまで近づいた笑顔が目の前にあった。

びっくりして思わず身を引くが、いつの間にか背中にハギヨシの手が回っていて動きを止められてしまう。

咲「な、なんですか、ハギヨシさん……」

ハギヨシ「さくらんぼのヘタを口の中で結べる人は、キスが上手いって言いますよね?」

咲「だからどうし……」

ハギヨシ「だから、結べるようになるにはキスが上手くなればいいんですよ」

いつもの声と違い、少し低めの艶っぽい声で囁かれる。

かぁっと顔に熱が灯り、とっさに言葉が出ないうちに口を塞がれた。

微かな接触で離れた唇が妖しい笑みを浮かべて追い打ちをかける。


ハギヨシ「上手く結べる私が徹底的に教えてあげますよ。………実戦で、ね」


咲が声を発する間もなく、実戦練習は開始された。

その後、この実戦練習が実を結んだかは二人だけが知る。


カン


そろそろ来ると思ってた!

乙です


確かにハギヨシはうまく結べそう

結婚しろ

『あなたの手で』

意識が浮上して。

まだ眠たいけれど、何となく『起きねばならない』気がする。

そこでやけに重たい瞼をこじ開ければ、すぐ傍でハギヨシがじっと咲を見ていた。

どうやら咲はその視線に起こされたらしい。

咲「おはようございます。……そんなじっと見て、私の顔に何かついていますか?」

ハギヨシ「はい。ある意味は」

そんなはずないと思って言ったのに。

ハギヨシは意味深に頷いて、そっと指で咲の目の下をなぞった。

ハギヨシ「私は一緒に起きた朝の、咲の顔が色っぽくて好きなんです。まるで化粧しているみたいで」

咲「へ……?」

一瞬意味を掴めなかった咲だったが、やがてかっと顔を赤らめた。

咲「だ、誰のせいですか!」

ハギヨシ「もちろん私のせいなんですが、それが嬉しいって話です」

咲「え……?」

ハギヨシ「私があなたを色っぽくしているなんて、最高の幸福ですからね」

咲「――…っ」

そんなことを、幸せそうに微笑んで言われてしまったら。

文句を言う気力を大幅に削がれてしまう。

咲「……この頃、麻雀部の皆に心配されるんですけど」

ハギヨシ「何て言い訳をしているんですか?」

咲「『ちょっと読みたい本があって、夜更かししちゃった』って」

ハギヨシ「まあ、妥当な嘘ですね」

実際私より本を取るときもありますしね?

と訊ねられた咲は開き直って頷いた。

咲「楽しみにしていた新刊の読書を邪魔する人は、たとえ恋人でも許しません」

ハギヨシ「許してくれないんですか」

咲「許しません。読み終わるまでは、構ってあげません」

意地悪ですねと囁いたハギヨシの唇を、咲はつつ、となぞった。

咲「ハギヨシさんのベッドの中での『意地悪』に比べれば、全然大したことないと思いますけど?」

ハギヨシ「それは仕方ありません。あなたの反応がいちいち可愛らしいのが悪いんです」

当然のように言われた言葉に、咲はさらに顔を赤らめる。

ハギヨシ「もっと泣き腫らして、もっと可愛くして差し上げましょうか―――咲」

再び目元を撫ぜられて、咲はとうとう降参した。

咲「今日はもう勘弁してください……また、今度」

ハギヨシ「発売日以外に?」

咲「はい」

咲もハギヨシと迎える朝は好きだ。

身体はだるいし、瞼は重いし。

声がかすれていることもある。

けれど甘い空気の中、他愛ない言い合いをする時間がとても好ましい。



いくらでも可愛くなりたいと思う。

ハギヨシの手で、ハギヨシのために。



咲は繰り返されるキスに、そっと目を閉じた。


カン

乙 そしてごちそうさまと言いたい


相変わらず安定感のある二人でいいなぁ

月に1度の楽しみです。乙

おつ

『ふたり記念日』

咲「何か記念日が欲しいですね」

ふと咲が切り出したそれに、ハギヨシは首を傾げた。

ハギヨシ「記念日、ですか?」

咲「はい。私たちの記念日です」

そう言ったら、ハギヨシはますます首を傾げてしまった。

咲「もちろん私にとっては、ハギヨシさんに告白してもらった日が一番の記念日なんですけど」

そう前置くと、ハギヨシはわずかに照れを滲ませた顔をする。

こういう表情は付き合いはじめてから見られるようになった。

咲だけが見られる顔だ。

咲「でも、私の誕生日はハギヨシさんが祝ってくれるじゃないですか」

ハギヨシ「それは勿論。大切な恋人の生誕日ですから」

咲「ふふ、ありがとうございます。それでハギヨシさんの誕生日は私が祝うでしょう?」

咲「あとは定番の季節の行事があるとしても、もうひとつくらい何か――あなたと一緒に迎える特別な日が欲しいと思うんです」

ハギヨシ「ああ、成程。そういうことですか」

くすりと微笑んで、ハギヨシは咲の髪をゆるりと撫ぜた。

ハギヨシ「咲がそんな風に考えてくれていて嬉しいです」

そのまま恋人の髪に触れながら、ハギヨシはしばし考え込む。

ハギヨシ「……そうですね。では4月なんてどうでしょう」

咲「4月、ですか?」

ハギヨシ「はい。春を、新しい年度や生活を迎える季節です」

咲「分かりました。では覚えやすいように、4月4日でどうでしょう」

ハギヨシ「良いですね。それでは4月4日は咲と私の記念日ということで」

ハギヨシ「私たちもそれまでの関係に感謝しつつ、またより良い関係を築いていきたいと、そう思える日にしたいですね」

咲「はいっ」

ハギヨシがそんな風に言うから、これからも自分たちの関係がこうして続いていくことを改めて実感できて、嬉しく思う。

今年の4月4日は月曜日だった。

日曜日の夜に2人で待ち合わせて、共に迎えることにした。

場所はハギヨシの部屋だ。

二人で夕飯を作って食べ、シャワーを浴びた後。

ハギヨシはちらりと時計を見たあと、咲に手を伸ばした。

ハギヨシ「……咲、いいですか?」

咲「はい、ハギヨシさん……」

もつれ込むように、二人してベッドに転がった。


…………
…………


しばらく経って、咲とハギヨシは裸の肩を並べて向き合っていた。

咲「ハギヨシさん、そういえば」

ハギヨシ「はい?」

咲「私、何も贈るものとか用意して来なかったんですけど、明日どこかで何か買いますか?」

ハギヨシ「それも悪くないですが、物だけが記念じゃないでしょう?」

咲「え……?」

ハギヨシ「……あと10秒ですね」

恋人が視線を送った先に、枕元の時計があった。

それはもうすぐ12時――0時を指そうとしている。

そして秒針が重なるタイミングで、ハギヨシは布団の中にしまっていた咲の手をすくい上げた。

ハギヨシ「記念日に、あなたの隣を私にください」

一瞬目を丸くした咲は、ついで小さく吹き出していた。

咲「もう、隣にいるじゃないですか。――ずっとハギヨシさんにあげます」

ハギヨシ「それは光栄ですね。……記念日は、愛の言葉を贈る日にしたいと思ったんです」

咲「なら、私も考えないとですね」

ハギヨシ「ふふ。楽しみです」

咲「ハギヨシさんと違って考える時間がないです。ずるい!」

照れながら拗ねるという珍しく器用な表情をして。

咲はハギヨシに甘えるように、その身をすり寄せた。


カン

乙です


相変わらず甘々ですな

乙 待ってた
籍入れてないのが不思議な位の相思相愛っぷりだな

おつー


というかここの咲さんまだ高校生なんだろうか

作中で高校生とか書いてあったような気が

そろそろ来るかな

0615

セルフ保守
更新遅くて申し訳ない

保守してくれるだけでもありがたい
気長に待ってます

待ってますよー

『ずっと、一緒に』

余韻も何もなく、咲はさっとベッドから這い出してしまった。

ハギヨシ「もう帰ってしまうのですか」

思わず腕を掴んだのは、まだ離したくなかったからだ。

一週間ぶりの逢瀬。

こんな短い時間じゃ足りない。

まだ十分温まった気もしない。

咲「シャワーを浴びてこようと思って…このまま じゃ帰れませんし」

ハギヨシ「泊まっていけば良いではないですか」

咲「私もそうしたいんですが、お父さんが…。この間の外泊もあまり良い顔してなかったので」

まだ高校生の咲は、外泊するのに父親の許可が必要だ。

16歳という立場からしたら当然なのかも知れない。

しかし本心は、このまま帰したくないという思いが胸中に渦巻く。

咲「なので、支度をしてきますね」

ハギヨシ「……帰らせないって言ったら、どうしますか?」

掴んだ腕を引っ張り、咲の体を引き寄せる。

抵抗も何もなく華奢な体はすっぽりと両腕に収まり、

密着した体からは咲の体温が伝わってくる。

ハギヨシ「まだ帰らないでく ださい……もう少し、一緒にいたいです」

顔を上げさせ、唇を重ねる。

咲「ん……」

目を伏せて、咲は恋人からのキスに身を任せる。

ハギヨシ「咲……」

咲「……んっ、はぁ……」

長い長いキスの後、ゆっくりとお互いの体が離れる。

咲「ふふ。口ではそう言ってても、ハギヨシさんはちゃんと私のこと帰しますよね」

分かってますから、と咲が微笑む。

ハギヨシ「……」

分かってない。今だって、こんなに引きとめたいと思っている。

けれど咲の言う通りに頷くことしか出来ない。

ハギヨシ「……シャワーを浴びてくるのでしたね。どうぞ、行ってきてください」

咲「ハギヨシさん」

ぎゅっと咲の方から抱きついてくる。

ハギヨシ「せっかく私が苦渋の思いであなたを離したというのに……何をしているんですか」

ハギヨシ「……今度こそ、離せなくなってしまう……」

咲「……私も。私もあなたと離れなくない」

ハギヨシ「……」

咲「早く大人になれればいいのに……」

ハギヨシ「……そうですね」

ずっと一緒にいられれば、どんなに幸せだろう。

想像したのは1度や2度じゃない。

ハギヨシ「いっそのこと、あなたをここに住まわせる許可が欲しいくらいです」

咲「ええっ?」

ハギヨシ「冗談です」

咲「もうっ。脅かさないでください」

頬を膨らませる咲の頭を、手のひら で優しく撫ぜる。

ハギヨシ「今は無理でも……近い将来、きっと……」

咲「……はい。その時まで、ハギヨシさんが私のことを好きでいてくれたら…」

ハギヨシ「それには自信ありますよ。咲の方こそ」

咲「私だって、結構一途なんですから」

ハギヨシ「ふふっ。信じてますよ」

咲「任せてください」

お互い笑い合って、ぎゅうっと抱きしめあった。

先のことは分からない。

一週間会えないだけでこんなにも苦しくて仕方ない気持ちだって、変わらないと誰が言える?

それでも、願うのは自由だ。

叶うなら、いつまでも。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




数年後。

がちゃっとドアが開く音がして、ハギヨシが帰ってきたのだとソファから立ち上がった。

咲「お帰りなさい」

ハギヨシ「ただいま帰りました。今日は早かったんですね」

頬に手を添えられ、ちゅっと軽く唇が重なった。

咲「明後日から海外遠征なので、休養しつつ荷物の準備をしておけって」

ハギヨシ「ああ、そうでしたね。…では明日はオフですか?」

咲「はい」

ハギヨシ「それは良かった。私も休日ですので、久々に二人でゆっくりしましょう」

咲「ふふっ、嬉しいです」


結婚して一緒に暮らすようになって、もう何年たつんだろう。

出会った頃はなかなか会えない時間にお互いもどかしい 思いもした。

今だってそれぞれ抱えている仕事が忙しくて、会えない日も続いたりするけれど。


ハギヨシ「向こうに着いたら連絡してください」

咲「もちろんです」

ハギヨシ「それと、迷子にならないよう気をつけてください」

咲「……それは自信ないです」


二人の帰る場所は、この家だから。


カン

結婚させちゃいました!
というわけでこのスレはこれで終わります。
2年の間ダラダラと続けてきましたが見て下さった方、レス下さった方々には本当に感謝です。


楽しませてもらいました
欲を言えば結婚式も見たかった

乙~
二人とも幸せそうで何より

乙です
二年間癒しの時間をありがとう

『誓いの日』

咲「どう、かな?」

和「すごく綺麗です……咲さん」

純白のウエディングドレスに身を包んだ咲を見て、和がうっとりと呟いた。

咲「そ、そうかな……何だか照れちゃうな」

優希「孫にも衣装だじぇ」

まこ「こりゃ優希!」

透華「ふふ。ハギヨシも幸せ者ですわね」

一「うん。こんなに素敵なお嫁さんを貰えるんだから」

咲「そんな、大袈裟ですよぅ」

久「咲ったら照れちゃって」

衣「うむ。決して大袈裟ではないぞ――――なあ、ハギヨシ」

衣の言葉と同時に、がちゃりと控え室のドアが開く音がした。

ハギヨシ「ええ。私には勿体無いほどです」

咲「ハギヨシさんまで……」

近づいてきたハギヨシがおもむろに手を伸ばす。

化粧を崩さないように、触れるか触れないかくらいの慎重さで咲の頬に触れた。

ハギヨシ「綺麗です……咲」

その言葉と、ふわりと笑んだハギヨシに赤面した咲は思わず俯いた。

それを押し留めるように咲の顎に指を添えたハギヨシがくい、と持ち上げる。

ハギヨシ「何故隠すんですか?もっとよく見せてください」

咲「は、恥ずかしいです……」

久「はいはいそこまでー!」

純「いちゃつくのは式が終わった後にしてくれな。お二人さん」

咲「うぅ……すみません」

ハギヨシ「これは失礼しました」

顔を真っ赤にしてうろたえる咲と、あくまで余裕を崩さないハギヨシ。

対称的な新郎新婦を、周りの皆は暖かな目で見やっている。

界「咲、そろそろ時間だぞ」

呼びにきた界がドアから顔を出す。

咲「あ、うん。お父さん」

照「咲……」

咲「あ、お姉ちゃん……」

界に続いて部屋へと入ってきた照に、咲は目を向ける。

薄らと涙を浮かべながら、照が祝いの言葉を口にした。

照「あなたたち夫婦がこれから幸福な道を歩めるよう祈ってる」

泣くのを堪えているのか、早口で言い切った照を、咲はぎゅっと抱き締める。

咲「ありがとう、お姉ちゃん……」

囁くように言えば、とうとう我慢できなくなった照が泣き出した。

苦笑した界が照の肩を抱く。

界「ほら、照。あんまり泣くと化粧が崩れるぞ」

照「ぐすっ……分かってるよ……咲ぃ……」

咲とハギヨシは腕を組み、ゆっくりと進む。

待ち構えていた神父が祝詞を読み上げた。

咲(――幸せだな)

皆が祝ってくれている。隣には誰よりも愛おしい人がいる。

これ以上の幸せがあるのだろうか。

銀色の指輪が薬指に嵌められる。

ハギヨシは真摯な眼差しで咲を見つめた。

ハギヨシ「あなたを幸せにしてみせると誓います。――私と、一生を共にしてください」

何度も言われた言葉が、今までにないほどの感情を含んで告げられる。

思わず潤んだ瞳を拭って、咲は深く頷いた。

咲「はい。――――ずっと、あなたと一緒にいたいです」

輝くような笑顔でそう告げた咲へと、ハギヨシは顔を寄せる。

触れ合った唇から限りのない幸せが体中に広がって堪らなくなる。

ハギヨシが咲を幸せにしてくれるのと同じくらい、

彼を幸せにしたい、と熱に浮かされたような頭で思った。


カン

結婚式を見たいとのありがたいレスを頂きましたので書いてみました。
マイナーカプにも関わらず、毎度暖かいレスを下さり本当にありがとうございました!
またネタが浮かびましたらこの二人で話を書きたいです。それでは。

おつおつ
ハギヨシも咲さんも幸せそうでほっこりする

おお結婚式も乙!


お互い大事にしあっててすばらだった

乙乙

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月05日 (金) 14:27:36   ID: Y2hKp7T_

京太郎SSには☆5をつけてハギヨシSSには☆1くらいしかつけない屑京豚
ハギヨシSSに☆5つけて京太郎SSに☆1つけときますねー

2 :  SS好きの774さん   2014年09月18日 (木) 22:43:27   ID: GmxaOCbF

しかし京太郎SSは百合豚に☆1をつけられて低評価な事実

3 :  SS好きの774さん   2014年10月31日 (金) 13:53:37   ID: APZ3Wa7X

※1、2
はぁ?なんだ?こいつら

4 :  SS好きの774さん   2019年03月05日 (火) 23:55:20   ID: rJMs53mo

ハギ咲けっこう好き

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