京太郎「パラダイス・ロスト」 (704)

 チームIPS照「おもち党と新党iPSが連立!?」のスピンオフです。  

 仮面ライダー555の「パラダイス・ロスト」の世界観で、まないた党とヘテロ党、
その全てにかかわるものが殆ど絶えた世界になっています。   

 更新はできるだけはやくします。   

 これを見た本家の人、怒らないで下さい。それでは、始めます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402844361


 遠くない未来、日本。

 まないた党とヘテロ党、おもち党と新党IPSによる

日本の覇権を賭けた戦いは、前者のその全ての構成員、

及び関係者、後援者の殲滅を以って終結した。

 敗走、及び囚われ、裏切りを働いたごく一部の

幹部を除き、まともな人間達をIPSやおもち党から

守り続けたヘテロ党、まないた党は事実上消滅した。

 宮永照、龍門渕透華の二大巨頭が完全に歴史から

姿を消したことにより日本は新党IPSとおもち党の

支配下に置かれた。

 それから数年後、IPS細胞の研究により、既存の人類を

遥かに超越した人間の進化形たる新たな人類達が日本を

完全に統治し、日本の全てはIPS細胞によって両性を

備えた女性、同性愛者の巣窟と化していた。

 しかし、日本の人口の約半分が新人類への移行を

果たした頃、旧人類に突如原因不明の病が襲い掛かった。

 死んだ人間が再び生き返り、怪物となる病だ。

 その病にかかった人間の大半は、理性を失い本能のままに

人間を襲い、ねずみ算式に仲間を増やしていくのだ。

 日本IPS合衆国大統領松実玄は、この新たな脅威にいち早く注目し、

厳重な情報統制網を敷き、研究を始めた。

 禁忌を超越したこの怪物達はオルフェノクと名付けられ、

その正体は研究によりIPS類とは異なる人間の純粋な

進化の形と言う事が判明した。

 政府は極秘裏にオルフェノクを捕まえては研究を重ね、

その結果、オルフェノクの増殖のメカニズムを解明した。

 またIPS類は唯一オルフェノクに殺されてもオルフェノク化

しないことが明らかになった。

 政府は旧人類のオルフェノク化が新人類を滅ぼす最大のウイルスであると

結論を出し、恐るべき計画、全人類がIPS類への完全移行を以って

オルフェノクを絶滅させる計画、人類IPS類完全移行進化計画を発案。

人工型のオルフェノクの量産に踏み切った。

 そのオルフェノクのベースとなった素材が、捕えられた

旧人類であるということは言うまでもない。

 オルフェノクには二通りあり、一つは純粋な人類の進化形態で、人間が何らかの理由で

一旦死を迎えた後に再度覚醒したオリジナルの存在が一つ。

 もう一つは松実玄大統領率いる日本政府がオルフェノクのDNAを解析し、その因子を

記号として埋め込まれた疑似的なオルフェノクの素質と新人類の特徴をを併せ持った

後天的なオルフェノクとその予備軍の存在のことを並行して指す。

 数千万人を残すのみとなった普通の人間達は、忘却の片隅に追いやられ、

劣悪な環境下に置かれながら、いつ殺されるかわからない恐怖に脅える日々を

過ごしていた。

 そんな状況を打破すべく一部の者は解放軍を結成。

オルフェノク達もこの危機的状況を逆転させる唯一の手段として、秘密結社

スマートブレイン社を創立。

 流体エネルギー・フォトンブラッドの開発に成功。

 その直後スマートブレインは強化戦士デルタ、ファイズ、カイザを作り出す。

 この状況を受けた日本政府首相、原村和は松実玄大統領から政権の実権を譲り受け、

大総統原村和として、日本が世界の中心となり、かつ世界の男女比のバランスを

打ち崩すことを全世界に宣言する。

 そして、スマートブレイン社から三本のベルトの情報が流出し、そのデータを用いた

既存のベルトを遥かに凌ぐ、二本の帝王のベルトが創造される。

 世界は混迷と戦乱の時代へと突入しつつあった...。

 あの日から三年後、ウクライナ某所、

 京太郎「優希、今日から出張だからな」

 京太郎「子供達にいい子にしておくように言っといてくれ」

 優希「分かったわ。あなた」

 京太郎「ああ、それじゃあ三ヶ月間家の事を頼む」

 優希「できるだけ...」

 京太郎「できるだけ?」

 優希「ううん。なるべく早く帰ってきてね」

 京太郎「はいはい。それじゃあな。いってくる」

  俺の名前は須賀京太郎。

  三年前までは普通の高校生だった。

 塞翁が馬の例えのように、なにが人生における転機かというものは、その時に

ならなければ分からないのが人間の人生の一番の醍醐味なんだろう。

  朝と昼は学校、放課後は部活、そして夜は自由。

 普通の高校生に与えられる特権を満喫しながら、そのまま俺は大人になるんだろう。

そう考えながら毎日を過ごしていた。

  だけど、そんな俺の癒しともいえる日常はその周囲の環境によって完膚なきまでに壊された。

 三年前、日本某所

 京太郎「クッソなんだこれ……全然外れねえ……!!」

  その日のことはよく覚えている。

 初めて俺に和が笑いかけてくれた日だったから。

 和「須賀君、デートに行きませんか?」

  部活終わった後の部室で頬を赤らめ瞳を潤ませながら、

 俺にそういった彼女はとても緊張していた。

 今にしてみれば、それはきっと和が想い人である宮永咲を

 手に入れる為の重要な作戦の分水嶺だったんだろう。

  和の唇が俺の唇に触れた時は幸せのあまり人間は気絶する。

 そんなオカルトはあり得るんだ。そう思ったまま、当時の俺は気を失った。

 男A『いやぁ……今日暑いよね』
 
 男B『うん、すっごく暑い』

 男A『こういうときは海で泳ぎたくなるよね』

 男B『あぁ~。なるなる。それで可愛い男の子ナンパして』

 京太郎(な、何だコイツら……)

 京太郎(なんでこんな場所に海パン姿で……)

  気が付いた時には全てが和の手中だった。

  裸電球一つの真っ暗な地下室に閉じ込められた俺は

 ようやく自分の迂闊さと原村和の恐るべき本性に気が付いた。

  同性愛者の二人組の男に俺は犯されかけた。  

 気が狂いそうだった。  
 
 世界中の全てが崩れ落ちていきそうだった。


  更にショックだったのが、好みではなかった部活の仲間であった片岡優希が

 俺の事を好いていたことだった。

 (これは後で分かったことだったが、優希は秘密結社か政党のナンバー2の立場だった)

  おそらく彼女が知っている何らかの機密情報を吐かせる為、和は俺を体のいい駒として

 最大限利用したのだ。

  優希が情報を和に伝えなければ、きっと俺は薬漬けにされて廃人にされていただろう。

 俺の人間としての何もかもが全て終わった後、俺達は日本政府の手引きにより、

国外追放の名目でアジアから遠く離れた東欧の日本人学校に転校させられた。

 そこで数年後、俺と優希は形ばかりの結婚式を挙げ、子供を設けた。

傍から見れば若くして人生の絶頂を駆けあがっている、いわば成功者として周囲からの

尊敬と羨望を俺は集めていた。

  しかし、俺は何もかもが不満だった。

 日本を狂わせた松実玄とIPS細胞の存在。そして俺と優希を玩び、その人生まで

 狂わせた原村和。

  許せない。復讐してやる。殺してやる。

  そう思いながら俺はこの三年間、体を鍛え、外人部隊や犯罪組織に所属、世界各国の

 紛争地帯に赴き、様々な事をやってきた。

  そんな日々の中で俺はスマートブレイン社からのオファーを受けた。

  スマートブレイン社。

 いまや世界の全てにおける最先端を驀進し続ける日本の急成長に

 歯止めを掛けるべく、世界各国からの多国籍企業が作り上げた秘密結社。

  その秘密結社が作り上げた外部装置ライダーズギア。

 それにより形成される戦闘用特殊強化スーツの装着適合者に俺は何の因果か

 選ばれたのだった。

  既に開発は終盤を迎えデルタギアとカイザギア、そしてその一式は既に日本へと渡り、

 選ばれし人間の手によって用いられ、現地での諜報及び救出活動を行っているとのことだった。

  そして今日、俺はキエフ郊外にあるスマートブレインのヨーロッパ分社から

 最後のベルトであるファイズギアを受け取り、この三ヶ月の間に全てを終わらせる

 任務に着く。

  即ち、日本における現政権の打倒及び要人の抹殺。

  既に覚悟は決めた。

  俺の道を歩む邪魔となる人間は全て切り捨てる。

  それが一時でも心焦がれた想い人であろうと、窮地を救った命の恩人であってもだ....。

 京太郎が日本に来る一ヶ月前、

 
 水原「おーし、全員準備は出来たか?」

 兵士A「すべて滞りなく準備は整いました」

 兵士B「兵士Aから兵士Uまで総員いつでも出動できます」

 水原「わかった。それじゃあこれから俺達は」

 辻垣内「ちょっと待て、アンタ達何しに行くんだ?!」

 水原「決まってんだろ。帝王のベルトを奪いに行くんだよ」

 水原「執事さんが殺され、デルタのベルトが奪われただけでも十分な損害なのに、

    それを模した量産型の兵士達が作られた」

 水原「現に今月に入ってから、解放軍の各支部の人間達が次々に殺され始めている。

    そいつ等にな」

 水原「だったらこのまま指を咥えるわけには行かないだろうが」

 辻垣内「どう考えても無茶だろうが!!」 

 辻垣内「忘れたのか?奴らは既に人間を捨ててるんだよ!」

 辻垣内「AK47やUZIでどうにかなる相手じゃない」

 辻垣内「今を耐え忍ばないでいつ忍ぶんだ!」

 水原「うるせえッ!だったら宮永照を放り出してやってもいいんだぞ!」

 水原「デルタギアが奪われたのは彼女のせいなんだからな」

 水原「なんならアンタも一緒にいくか?!」

 辻垣内「くっ...」

 照「...」

 水原「宮永総裁よぉ、アンタからもなんか言ってくれよ」

 照「智葉、謝って」

 辻垣内「な、ふざけるな!どうして私がッ!」

 照「水原さん、彼女の失言を見逃してください」

 照「どうかこの通りです」

 水原「だとさ、総裁サマに土下座までさせやがってよ」

 水原「流石ヤクザの娘、格が違う」

 辻垣内「く...ッ、も、申し訳ありませんでした」

 水原「分かればいいんだよ、分かればな」

 水原「よし、時間だ」

 水原「お前ら、全員行くぞ!」

 兵士達「イエッサー!!!」

 首都、IPS合衆国軍事開発所


 社員A「なぁ、聞いたか。今日の新ニュース」

 社員B「聞いた聞いた」

 社員B「反乱軍だか解放軍の用心棒を新たなベルトの適合者として使うんだよな」

 社員C「社長も一体何を考えているんだかな?」

 社員D「私の上司が開発部門のチーフなんだけど、『天』のベルトが遂にロールアウトされるわ!」

 社員A「本当か?!じゃあ、その適合者は誰なんだ」

 社員D「知らないし、いやいや本当だよ!」

 水原率いる解放軍の面々は配達業者に扮し、順調に潜入を果たした。

 水原「情報によれば今から二十分後に護送車が来るらしい」

 水原「俺達は二手に分かれ、そのベルトを持ち運ぶ人間と運転手を襲い、ベルトを強奪する」

 水原「ベルト強奪隊はAからGまで、残りは俺と一緒に護送車を襲う。各自持ち場につけ。解散!」

  兵士達に指示を出した水原は懐にしまった小型端末を取出しボタンを押し、トラックの経路と

 自分達の逃走経路を出した。

 水原「待ってろよ...帝王のベルト」

  舌舐めずりしながら獲物を今か今かと待ち構える獣のように彼等は待ち続けた。

  しかし、時間が経過しても一向にトラックとそれらしき

 人間がで出てこない。

 水原「どうなってんだよ」

  焦る表情を浮かべる兵士達。それは水原も同じだった。

 ???「下の下だね。貴方達」

  困ったような表情を浮かべながら、音もなく兵士三人の首を一瞬の内に刎ね飛ばしたのは

 小柄な女性だった。

 ???「まぁ、帝王のベルトを盗みたい気持ちは分かる」

 ???「けど、残念な事に貴方達じゃ盗むことはおろか使いこなすことなど到底無理」

  ぶつぶつと話しかけるようにして呟く女らしき生物。

 生物と形容したのには下半身のある一点が過剰な程に膨れ上がっているからである。

  清水谷竜華。

 日本IPS合衆国の懐刀にして、帝王のベルトに適合した選ばれし人工のオルフェノク。

 水原「舐めやがって...」

  野蛮な言葉とは裏腹に水原の足は徐々に下がった。

 Ω「Standing by」

  携帯電話型トランスジェネレーター、オーガフォンに変身コードを打ち込んだ竜華は、

 オーガギアにそれを差し込む。

 竜華「HEN-SHIN!」
 
  黄金の閃光に包まれながら竜華の身体を包み込む強化スーツが徐々に閃光と共に

 その姿を顕わにする。

 Ω「Complete」

 水原「撃てーっ」

  水原の叫びと共に恐慌をきたした兵士達は、竜華目掛け一斉射撃を始めた。

 草加「遅いなぁ、何をしているのかなぁ?アイツ等は」   

  草加雅人は、本来なら合流する筈の地点で、それも

 計画との時間のロスが既に十分を経過している時点で

 水原の立てた計画が破綻したことに気が付いた。

 草加「やっぱり、当てにならない連中ばかりだな...」

  内心で毒づきながら雅人は愛車であるサイドバッシャーに

 乗り込み、スマートブレイン本社へと急行した。

  草加雅人、彼は一言で言うなら用心棒だった。

  日本の倫理と道徳が完膚なきまでに破綻した後、武道の心得と他人とは一線を画す

 蛇の如き狡猾さ、そして心の底から愛した女への一握りの愛を胸に秘め、彼はスマート

 ブレインの社員となり、この腐りきった日本政府とその配下であるオルフェノクと

 戦う事を選んだ男だった。

  雅人は水原よりかはましな程度の嫌な奴だったが、少なくともこの日本がいかに

 異常かという事を正しく認識している数少ない本当の常識人だった。

  腐った世界に愛する女を殺された雅人は、その時から自分の人生を復讐に

 捧げることを決意した。

 雅人「真理...俺は、君の為に」

  雅人は忘れない。園田真理が目の前で殺された時の光景を。

  雅人は忘れない。絶望の中で犯され、殺された真理のことを。

  雅人は忘れない。その犯人がオルフェノクだったということを...

  水原達の強襲ポイントに着いた雅人は、水原率いる兵士達が僅か三人になっていることに

 憐れみを覚えた。

  少なくとも俺だったら我慢する。当然の事すら出来ない解放軍のリーダーである

 水原、及びその取り巻きを雅人はとっくに見限っていた。

 Ⅹ「Standing by」

  カイザギアにカイザフォンを差し込み、雅人は変身する。

 雅人「変身」

 Ⅹ「Complete」
 
  静かに、けれどもオルフェノクへの憎悪を燃やした雅人は猛然と駆けだす。

 Ⅹ「Ready」

  ミッションメモリーをSB-913 C カイザショットへと挿入した雅人はそのまま兵士の一人に

 取りついたモスオルフェノクに精確な正拳突きを叩き込んだ。

 モス「ぐわあああああああ!!!」

  オルフェノクは黄色い閃光と共に粉々になった。

  カイザと交戦する竜華の護衛隊達。

 そして水原率いる敗残兵達は市街地へと逃亡を図る。

 雅人「足手まといどもめ!」

  仮面の超人カイザはカイザフォンに挿入されているミッションメモリーをブレイガンに

 挿入し、左腕の新装備、スマートメモリーを代わりに取り付けた。

  イーグルサットⅡから送られる量子に変換されたカイザのもう一つの姿が姿を現す。

  ブレイガンに取り付けられたカイザチャージャーの貯蔵フォトンブラッドを全開放し、

 周囲にいる政府の人工オルフェノク達に一斉にロックオンする。

 雅人「切り裂いてやるよ...真っ二つになぁッ!」

  舞うようにブレイガンのブレードで斬りつけ、距離を取っては通常の6倍の濃度を持つ

 黄色い濃縮フォトンブラッド弾を連射し続けた雅人はものの数分であっという間に

 オルフェノク達を殲滅した。

 竜華「くっ、やはり分が悪いな」

  変身が解け、地に膝をついた竜華を横目に雅人は水原達が逃げた市街地へと走り出した。

  チャージャーに溜まった残りのフォトンブラッドは勿論、周囲にいるオルフェノク達を

 消し炭にするのに使われた。

  逃げ惑う何の力も持たないオルフェノク達の中には当然ながら子供のオルフェノクもいる。

 池田「キャプテン、逃げましょう!」

 美穂子「待って華菜!あそこに子供達が!」

  キャットオルフェノクとコーラルオルフェノクこと池田華菜と福路美穂子は争いを

 好まない平和的な性格のオルフェノクだった。

 子供「ママー、パパ―!助けてー!」

  子供がインコのオルフェノクへと姿を変え、羽を広げて自分の父と母を探し回る。

 池田「キャプテン、逃げましょうよ!殺されますよ」

 美穂子「ダメッ!あの子を助けなきゃ」

  空を飛びながら、悲痛な叫びをあげるオルフェノクに駆け寄ろうとする二人の目の前で

 惨劇は起こった。

 インコ「わああああーー!!熱い、からだがあついよー」

  光の弾丸が、それがカイザの主武装であるブレイガンと

 フォンブラスターのものであることは二人にとって知るよしの

 ないことだったが、それが子供だったオルフェノクを焼き鳥に

 していく姿を彼女達は成す術もなく見るしかなかった。

 インコ「ママぁ...パパぁ...僕は、ここ」

  最後の言葉はカイザの右足によって踏みつぶされた。

 池田「貴様ーーーッ!ニャアアアアア!!!」

  我を失った池田は人の姿を捨て去り、オルフェノクへその姿を変え、カイザへと襲い掛かる。

 草加「フン、馬鹿な奴だ」

  わき目も振らず逃げればいいのに。

 その一言を耳にする前に、キャットオルフェノクの首は綺麗に跳ね飛ばされていた。

 美穂子「かなああああああああ!!!!」

  絶叫しながらも彼女は冷静さを失っていなかった。

 ほうほうの体で愛車であるカローラに乗り、惨劇の現場から軽やかに離脱しようとするも...

 草加「逃げられると本気で思っているのかなぁ?君は」

  力づくで車の外に引きずり出された美穂子は這いながらも、なんとか目の前の悪魔から

 逃げ出そうとした。

 草加「おい水原。部下を乗せてとっとと逃げろ」

 水原「ひいいいいいいっ」

  情けない声を上げながら足にナイフが三本以上突き刺さった水原が生き残った兵士、

 どうやら運よく生きのびた二人と合流した兵士と共に、カローラは

 軽やかなエンジン音を上げ、遠ざかっていった。

 美穂子「人殺し!返してよッ!私の華菜を返して!!」

  必死になってカイザに挑みかかる美穂子。

  しかし、当のカイザはそんな怒りもどこ吹く風で美穂子の頭をがっしりと掴み、

 そのまま地面へと叩き付けた。

 美穂子「ギャンッ!」

  意識を失う前に、命の灯が消える前に美穂子はカイザから漏れ出た怨嗟にに恐怖した。

 草加「滅べばいい...オルフェノクも、新人類も」

 草加「俺は、オルフェノクと新人類を許さない」

 草加「一つ残さず、殲滅し尽くしてやる...」

  まず最初に感じたのは頸椎が轢断される感触。

  次に感じたのは眩いばかりの黄色い閃光だった。

 福路(地獄に、おちろ)

  沈黙。

  嫌なにおいがした。鉄の匂いがした。

  それは血の匂いなのか、仮面の戦士の匂いなのか、それとも...

  絶望の匂いだった。

  カチャリ、何かがあるべき場所へと嵌った音がした。

  ブウウウウーーーーーンと言う音が迫ってきた

  私の顔を覆った鉄が拳が黄色い光が...。


  思ったより、彼女の末期は派手ではなかった。

 重く鈍い肉を叩き付けた様な『バゴムッ!』という音がたった一度だけ鳴ったきりだ。

  一秒か二秒、まるで呆けたように立っていた福路美穂子。

  ぐらりと斃れ、地面に倒れるまで僅か二秒半。

  飛び散った彼女の返り血が、カイザのフォトンブラッドに触れたことにより、灰化を始める。

   佇むカイザの仮面に、オルフェノクの灰がまとわりつく。

   雅人は煩わしげな表情でそれを払った。

京太郎「久しぶりだな...。日本に帰るのは二年ぶりか」

  汗ばむ陽気が春の終わりを告げ、初夏の訪れを歓迎している。

  空路を取ればどうしても足がつく為、京太郎は慎重に一週間をかけて陸路と海路を

 経由しながら日本へと密入国を果たした。

  現在京太郎は大阪にある軍事研究所へと向かう途中だ。

  これは清竜会が統括管理する軍事研究所に囚われている

 愛宕洋榎と大星淡らを救出する為である。

  事前に知らされていた大阪府某所にある極秘研究所、これから自分は吹田区にある

 清竜会が管理するビルの地下に潜入して、そこにある機密情報の一切を盗み出し、

 大星淡と愛宕洋榎の救出をこれから一時間の間に済まさなければならない。

 京太郎「どちらにしろ」

 京太郎「彼女達が無傷だということは考えられないな」

  連中の事だ。

  顔も声も知らない二人だが、それでも性格は強気な方だろう。

 余計な事を言って暴行を受け、精神が摩耗、挙句に人体改造を行われてしまえば

 一貫の終わりだ。

 京太郎「もしも、彼女達が...」

  スマートブレインからの指令では、二人がもしIPS類へと変貌を遂げていれば、

 殺害もやむなしと命令の中には含まれている。

  だが、俺はそれでも彼女達を助けなければならない。

 俺の目の黒い内は、誰も奴らの、政府の犠牲にはさせない。

 清竜会 軍事研究所 最下層

 
 洋榎「は~ぁ、もう何年経つんやろなぁ」

 大星「ヒロエ~、もうやだよ~。帰りたいよ...」

  大阪を牛耳る清竜会の軍事研究所の最下層には機密情報やオルフェノクに関係する

 実験施設がある。囚われの身となったまないた党幹部である愛宕洋榎と大星淡が
 
 臭い飯を食べ続けてから二年が経過した。

 洋榎「オカンも絹もウチの事を見捨てたんや...」

 洋榎「恭子も、漫も、由子も誰もウチの事を助けてくれへんかった」
 
 洋榎「なぁ、大星。いっそのことIPS類になろか?」

 大星「やだやだぁあああ!!化物なんかになりたくない」

 大星「助けてよ~、テル―!セイコー!」

 菫「心外だな、ここにもお前を助けてやれる奴がいるんだぞ」

 大星「いやああああ!!!来ないで、来ないでえええ」

  地下施設で幾度も繰り返されてきた光景。

  弘世菫はこの小生意気な後輩の事がとても気がかりでしょうがなかった。

 菫「淡、もうあきらめろ」

 菫「宮永咲と天江衣は既に我々の手中に落ちた」

 菫「近いうちに原村首相が宮永咲と結婚をする」

 菫「同性婚による差別を厳罰化する法案がこの前漸く通過した」

 菫「私や清水谷組長の口添えがあれば、特別に恩赦をお前に与え、

   自由の身にすることだってできる」

 大星「いやだよ!スミレ、元に戻ってよ」

 大星「テル―にフラれたからって言って八つ当たりしないでよ!」

 菫「そうだな。三年前の荒川病院の侵攻は失敗に終わった」

 菫「だが、次こそしくじらない」

 菫「辻垣内智葉を殺し、照とお前を手に入れる」

 菫「絶対に誰にも、何も言わせない」

 大星「もう、殺してよ...。こんな世界で生きたくない」

 菫「それは私だって同じだ。だが、変革に痛みはつきものだ」

 菫「そうですよね?愛宕雅枝さん、絹恵さん?」

 愛宕「お、オカン...、絹...」

 雅枝「ヒロ、もうええんよ。はよウチ等の所に戻ってき」

 絹恵「お姉ちゃん、お母さんの言う通りやで」

 愛宕「うっさいわ、黙らんかい!この化けもんが」

 愛宕「股間にけったいなもんぶら下げた挙句、姉を襲うど畜生なんぞ

    妹でもなんでもないわ!!」

 愛宕「オカンもオカンや!」

 愛宕「なんやねんおもち党って、そないなことに積極的に参加せんでも

    ウチは別にこのままでもよかったんや!」

 愛宕「オカンと絹がいて、毎日幸せに過ごせればそれでよかったんや!」

 愛宕「返せや!あの幸せだった日々を」

 愛宕「返せや!うちの家族を、絹恵をオカンを!」

 絹恵「お姉ちゃん...」

 雅枝「ヒロ...」

 菫「残念だよ...、君達を殺したくなかった」

 菫「非常に残念だ」

 菫「原村大総統。彼女達はもう末期状態です」

 和「そうですか、では万事滞りなく」

 雅枝「ちょ、ちょっと弘世さん!なんでウチの娘が」

 菫「雅枝さん、絹恵さん」

 菫「そういう条件で私は貴女方を連れてきた」

 菫「彼女に私達が提示した条件を呑む意思がない以上、私も自分の本来の役目を

   果たす他なくなる」

 雅枝「お願いします!娘を、娘を」

 菫「邪魔だ、どけ!」

  携帯端末で和の指示を仰いだ菫は、溜息をつきながら腰に巻いたベルトに手を掛けた。

 菫「変身」

 Δ「Complete」

  瞬間、白銀の処刑人がその姿を現した。

 菫「さようなら。淡、愛宕洋榎」

 菫「こんな狂った世界になった元凶を恨みながら[ピーーー]」

 菫「Check!」

 Δ「Exceed Charge!」

  愛宕洋榎の胸に高濃度の三角錐状の青紫の光を放つフォトンブラッドが穿たれた。

 愛宕「あがっ」

 菫「本当に、すまない」

  弘世菫の悔恨が果たされることは...無かった。

  清竜会の軍事研究所に潜入した京太郎はファイズに変身。

 並み居るIPS共の悉くを全て殲滅し、機密情報とデルタ用に作られた新武装を携え、

 任務の仕上げに掛かっていった。

  京太郎がエレベーターを使って最下層に降りた時、洋榎はまさに絶体絶命だった。

  胸に穿たれた三角錐状の青紫の光に貫かれれば、人間は一瞬で灰になる。

 京太郎「させるかよ!そんなこと」

  大声をあげながら、 ファイズエッジにミッションメモリーを挿入した京太郎は

 エクシードチャージが完了したと同時に、彼女達が捉えられている牢の鉄柵を

 根元から切り裂いた。

 京太郎「でりゃああああああ」

  予想外の侵入者に面食らった菫は攻撃を取りやめた。

 菫「貴様はファイズか...」

 京太郎「そうだ。そのベルトは人類に残された希望の光だ」 

 菫「それは違うぞ?」

 菫「野望を叶え、敵を滅ぼす絶対の武器だ!」

  相容れない主張と主張がぶつかり合う。

 京太郎「弘世さん!デルタのベルトは貴女には過ぎた代物だ」

 京太郎「使いすぎれば精神が崩壊するぞ!」

 菫「うるさい!欲しいものさえ手に入れられればな、こんな代物捨ててやるよ!」

  京太郎のファイズエッジがデルタに致命傷を負わせるべく

 恐ろしい速さで突き、払い、斬り、穿つ。

  しかし、デルタの力は凄まじく、京太郎の斬撃の殆どをまるであざ笑うかのように

 完全に見切っていた。

 京太郎「埒が明かないな...」

  奥の手であるアクセルフォームを使えば確かにデルタですら一瞬で葬り去れるだろう。

  帰りの事も考えると出来るだけフォトンブラッドは温存しておきたい。

 京太郎「背に腹は代えられないな」

  ファイズアクセルをファイズフォンに挿入した京太郎を菫は見守る。

  一応、変身中に襲うという選択肢はあったもののフォトンブラッドは流体型の、

 どちらかと言えば放射線に近い物質である。

  アクセルフォームは10秒以上維持しようとするとスーツが壊れ、周囲を放射能汚染と

 同じように汚染する。

  それは無理矢理ファイズのスーツを破壊することでも同様の事態が生じる。

  だから菫は京太郎とその他二人を逃がすことにした。

 Φ「Start up」

  赤い強化戦闘スーツが白銀の甲冑へと変貌を遂げる。

 京太郎「相手をしてやるよ!弘世菫」

 京太郎「ただし、十秒だけだがな!」

  加速したファイズの時の流れにデルタは翻弄される。

  しかし、スペック上ではデルタのほうがそれでも上だ。

 菫は京太郎の斬撃を受けながら、必死に十秒間を耐える。

  しかし、菫が現在体感している時間はアクセルフォームの

 稼働時間の約3%でしかなかった。

 Φ「Exceed Charge!」

  ファイズエッジの百を超える斬撃がデルタを追い詰める。

  菫も己の身体の大半の自損はやむなしと腹を括り、ファイズの絶え間ない斬撃に

 己が肉を切らせ続けた。

  骨さえ残っていれば肉はいくらでも捕える。実際に現実は思い描いた通りになった。

  デルタのベルトが度重なるダメージの為に強制解除される。

 すかさず京太郎は菫の無防備な腹を横一文字に切り裂くべく刃を振るった。

 菫「うぐうっ!」

  致命傷と成る一撃を間一髪で回避した菫の、しかしそれでも大腿はその大腿骨の

 半分まで切り裂かれた。

 京太郎「大星さん!デルタのベルトで変身するんだ!」

 淡「う、うんっ!わかった」

  菫が変身した様子を見よう見まねで再現した淡はデルタの力を思う存分発揮し、

 自分を二年間閉じ込めた鉄の檻をぶち壊した。

 京太郎「洋榎さん、早くこっちに」

 洋榎「お、おう。ありがとな...///」

  助かった安堵の他に別の意図を含んだ眼差しが仮面越しに自分を見つめていた。

  京太郎はその意味するところに思い当たったが、取り敢えず、今はここから

 脱出することが先決と思い、敢えて自分の心の奥から湧き上がる感情を封じ込めた。

 京太郎「いきましょう。二人とも」

  こうして清竜会の軍事研究所を壊滅させた京太郎の初任務は、奪われたデルタのベルトの

 回収と、囚われていた反政府活動の要人である大星淡と愛宕洋榎の二人の救出、

 そして日本政府の重要機密情報の奪取という大金星という形でひとまずの決着をみた。

  淡と洋榎を救出した京太郎は逃走経路である下水道を駆け続けていた。

 淡「ちょっと待ってよ...からだが動かないよ~」

 京太郎「死にたいのか?」

 京太郎「それともまたあの牢屋に戻りたいのか」

 淡「ど、どっちもやだよぅ」

  オートバジンに洋榎と淡を搭乗させた京太郎は刻一刻と迫るタイムリミットに

 焦りを覚えていた。

  二人を救出したまでは良かったものの、軍事研究所の最下層からの脱出に思った以上の

 時間を取られてしまった。

  小型通信機から入った情報では、地上では既に戒厳令が敷かれており、蟻一匹

 通さない程の包囲網が敷かれている。

  それを見越した上で京太郎は下水道から海に出ることを決めた。

 京太郎「流石弘世組の精鋭部隊だな」

 京太郎「下水道の中まで隈なく探し続けるとは....」

  圧倒的人数にモノを言わせた人海戦術が確実に自分達を追い詰めている。

 京太郎はともかく後ろの二人もそれを薄々感じ始めている。

 洋榎「なぁ、須賀さん言うたっけ?」

 洋榎「いざとなったらウチ等を見捨ててもいいから...」

 京太郎「黙ってろ!」

 洋榎「ひっ」

 京太郎「愛宕さん。アンタこんな汚い下水道の中で死にたくないだろ?」

 京太郎「愛宕さんも大星さんも俺に命を預けて欲しい」

 京太郎「俺は、俺達は...生きて帰るんだ」

  二人にはどこに帰るとまでは言いきれなかった。

 こんな時代に帰る場所を持っている旧人類はほぼ皆無だ。

  居場所が欲しければ、少なくともそれを与えてくれる庇護者がいなければ...

 誰かから奪い取ってでも、戦ってでも勝ち取るしかないのだ。

  自分の明日を、それを得るための力を...

  ようやく追っ手を撒いた京太郎は地上にある誰も来ない安全な合流地点に到着した。

 京太郎「後二分で増援が来る」

 京太郎「二人ともよく頑張った」

 洋榎「ホンマか?!地上に出られるんか?」
 
 京太郎「そうですよ。貴方達のボスである宮永照さんも二人の帰還を待ち望んでいます」

 淡「テル―に会えるの?」

 京太郎「このまま何も無ければ会えます」

 京太郎「だけど、ここからが正念場だ」

  俺の一言を掻き消すように、解放軍の協力者と解放軍の混成救出チームが駆け付けてきた。

 隊長「須賀京太郎様で間違いありませんね?」

 京太郎「その通りです。貴女は誰ですか」

 隊長「私は亦野誠子です。まないた党総裁宮永照付のSP兼諜報部隊隊長です」

 淡「セイコー!」

 亦野「淡...こんなに、こんなにやつれてしまって...」

 淡「うわああああん。会いたかった、会いたかったよー!!」

 亦野「よしよし、それじゃあ至急手筈通りに作戦を実行する」

  涙を流す後輩を抱きしめながら亦野は矢継ぎ早に指示を出し始めていく。

 亦野「須賀さんは愛宕さんと同じ車に同乗して下さい」

 京太郎「分かりました。それと途中の休憩時間に二人にシャワーを浴びせてやって下さい」

 京太郎「精神的なゆとりを取り戻させる為です」

 亦野「...あまり時間はとれませんが、考慮します」

 亦野「よし、全員ここから撤収するぞ!」

 亦野「撤退始め!」

  亦野の一声により、京太郎達を乗せた車は解放軍のアジトへと向かっていった。

 京太郎達が大阪府から脱出中の時


 竜華「なんやて?!清竜会の軍事研究所が壊滅した?」

  西日本IPSエリア統括委員会委員長清水谷龍華は、二代目清竜会組長、船久保浩子から

 連絡を受け血相を変えた。

 竜華「嘘やろ!だって弘世菫が後れを取るなんて...」

 浩子「総代。泉も殺されました...」

 竜華「そんな、嘘や、泉が殺されたなんて...」

 竜華「セーラは?捜索隊は?」

 浩子「江口隊長は私と一緒に戒厳令の陣頭指揮を」

 竜華「分かった。私は今から首都に出向いて原村首相に事態の説明と今後の対策を

    練ることにします」

 竜華「江口隊長と弘世菫を同行して東京に飛びます」

 竜華「至急オスプレイの飛行準備をお願いします」

 浩子「了解しました。30分後には全て整っています」

 浩子「総代。お気をつけて」

 竜華「ありがとな。船Q」

 照「で?帝王のベルトを手に入れられず、むざむざと何人もの兵士達を

   見殺しにして帰ってきた訳?」

 水原「ちっ、違う!情報が悪いんだ。諜報班が悪い」

 智葉「この、野郎ッ!」

  任務に失敗して解放軍に戻った水原を待っていたのは、宮永照を始めとする

 解放軍の幹部たちによる責任の追求だった。

 照「確かに諜報班の使っているパソコンは政府に比べれば性能に劣りがあるのは事実」

 照「だけど、帝王のベルトを奪取しにいくことに一番執心してたのは貴方だった」

 水原「じゃあ、いつもふんぞり返ってるアンタは現場に出て戦えるのかよ?」

 水原「いつも現場に出て食料や武器の調達、実働の全部を担っているのは俺達だろ!」

 照「民間人を毎度の如く使い捨てる貴方に批判されたくない」

 照「そもそも女が戦場に出てくると士気が下がるとごねたのは貴方が最初に私に言った言葉」

  解放軍の象徴である宮永照は絶望していた。

  三年前に荒川病院で妹と仲間のほぼ全てをを失った後、彼女と辻垣内智葉は

 伝手を辿り、関東で最も人数の多いレジスタンスのリーダーである水原と交渉し、

 組織に加入することが出来た。

  しかし、既に水原の私軍と化した解放軍の面々の大半は最早照の言葉に耳を貸さず、

 身勝手な行動を繰り返し、多くの犠牲者を出し続けていた。

  照が加入した当時は500人いたメンバーが今では200人にまで減ってしまっていた。

  戦力差と言えばそれまでだが、オルフェノクに抗する術を持たない烏合の衆の

 集団でしかない名ばかりの解放軍は、明日の希望も見出すことのできない

 悲惨な状況になっていた。 

 『救世主が必要だ。闇を切り裂き、光を齎す救世主が...』

  竜門渕家の執事であるハギヨシがオルフェノクに抗する唯一の手段である

 ライダーズギアを携え、戦線に加わった時は少しだけ世界が変革することへの

 希望が芽生えた。

  しかしハギヨシは死んだ。

  逃げ遅れた自分をオルフェノク達から守る為に...。

  見苦しい言い訳をこの期に及んで続ける水原に、誰もが呆れ返ったその時、

 また一人解放軍の問題児がやってきた。

 草加「スープのお代わり、貰えるかな?」

 水原「お、お前」

 水原「お前の食事が俺達の何日分だと思ってんだよ」

 草加「俺は君達の何人分もの働きをしている」

 草加「食事ぐらいまともにとってもいいだろう?」

  草加の持つスープ皿をひったくるようにして奪った水原は叩き付けるようにして

 スープのおかわりを雅人へ渡した。

 水原「ほらよ!スープのお代わりだ」

 草加「汚い口を閉じろ。スープがまずくなる」

  忌々しげにスープを持って出ていった雅人を見遣った水原は苦し紛れに

 照に対して捨て台詞を吐いた。

 水原「あーあ、いっそアンタが救世主だったらな」

 水原「俺はもう疲れたよ」

  半ギレ状態で会議室を出ていこうとした水原は、次の瞬間血相を変えた。

 情報兵「み、水原さん。こ、これを見て下さい」

 水原「ああん、こりゃ電報じゃねえか」

  使われなくなった電報を実用的で安全な通信装置へと改造したのは元開発者である

 野村と言う男だった。

  色々な人間がいる中で野村もまた倦厭される類の人間だったが、少なくとも

 草加や水原と違い解放軍の為に日々貢献しているのはここにいる誰しもが認めている。

  その野村の電報を好んで使う人間を照は一人知っていた。

 照「亦野...成功したんだね」

  亦野誠子。自分の一つ下の後輩で解放軍では諜報を担当していた少女だった。

  三年前の副大統領の身内を誘拐に失敗した後、亦野は日本各地を逃げ回り続け、

 逃亡先での情報をずっと解放軍の為に流し続けてくれた。

  その誠子が水原の顔面を驚愕に染める知らせを持ってきたことに

 照の頬はいつになく緩んでいた。

 水原「信じられん。あのハギヨシさんでも手を焼いた要人救出を

    たった一人でやってのけたなんて...」

 智葉「要人救出って...助け出されたのは淡と洋榎じゃないか!」

 照「更に誠子達は二日後に戻れるって書いてある」

  水原に手渡された文面を見た照と智葉は喜びのあまり二人抱き合った。

 水原「...救世主伝説か」

  誰もが事態の好転を期待している中、水原は一人だけ

 底知れない闇を瞳に宿らせながら傍観していた。

 作者様、もしこのスレをどこかで見ているのであれば、貴方の作品をベースにこのssを

 書いている私に許可を下さい。
 
  作者様の作品に私はとても感銘を受けています。

  私は玄「まないた党とヘテロ党の連中をとっ捕まえるのです」の続編を心待ちにしておりました。

  しかし、待てど待てども無情に日々が過ぎ、気が付けば私はこの作品を書いていました。

  亜流の身ではありますが、この物語の完結を見てみたいのです。

  なにとぞ、一声お声をかけて頂ければ幸いであります。

 桜子「あっ、くさかさーん」

 草加「桜子ちゃん。こんにちは」

  部屋に戻る途中、雅人は解放軍が預かっている

 身寄りのない孤児たちの集団に出くわした。

  雅人自身、自分と相通じるものがある子供達を邪険に

 することなど出来るはずもなく、また彼等のことを

 解放軍の誰よりもずっと気にかけていた。

 草加「桜子ちゃん。今日も元気だね~」

 桜子「うんっ!おとーさんとおかーさんは元気が一番って

    元気にしてれば、みんな笑顔になれるって言ってた」

 綾「こんにちは草加さん。今日はどんなことがありましたか?」

 草加「あんまりいいことはなかったよ。だけどお菓子を

    いくつか買ってきたんだ」

 草加「他の子供達も呼んでおいで」

 ひな「わーい、草加さん大好き!」

 草加「ありがとう。じゃあ俺は部屋で待ってるから」

  雅人は喜び勇んだ子供達が部屋に戻るのを見届けた。

 雅人は物心ついた時に親に殺されかけた。

  無理心中といえば聞こえはいいが、その真実は保険金目当てで自分を

 始末しようとした父親の巧妙な罠だった。

  鬼の形相で鉄パイプを振り上げては、全力で振りおろして自分を殺そうとする

 両親のあの笑顔が、結果として雅人の心の中に自分とは相容れないものを

 排除するというスタンスを構成することになった。

  それは今になっても雅人を苦しめていた。

  だからこそ雅人は、自分に好意を寄せる人間に対し、自分の醜さを見せることの

 ないように仮面をつける。

  カイザと言う力を手に入れた時は、流石に出来過ぎだと思っていたものの、

 少なくともカイザとして、解放軍の用心棒としてここにいる間は、

 純粋に自分を慕う子供達に対し、少しだけ自分にも素直に向き合うことが出来た。

 子供達「わーい、お菓子だ~」

  バタンっ、と勢いよく扉を開いた子供達は早速雅人に群がり始めた。

 草加「はいはい。お菓子は逃げないからね」

 草加「ほらほら、まずは飴からだ。皆一列に並んで」

  彼等はこのお菓子を半ば強奪するようにして自分が奪ったことを知れば、

 一体どんな顔をするのだろう?

  解放軍の用心棒としてではなく、子供たちは純粋に自分の事をヒーローだと思っている。

 だが、自分はそこまで高潔でもないし、人間が出来ているわけでもない。

  オルフェノクのいるコンビニに押し入り強盗をして

 自分の腹を満たすことは数え切れないほどしてきた。

  それこそ、眼の前の子供達が餓えている最中にも関わらずだ。

  罪悪感を偽善で覆い隠すのは自分の十八番だが、それでも純粋に、

 ただのお菓子をまるで高級食品のようにゆっくりと味わう子供達の顔を

 雅人は正視できなくなる。

  ここ最近はそうした罪悪感が自分を苛み続ける。

 桜子「くさかさん?泣いてるの?」

 草加「あ、ああ。ちょっとね...大好きだった女の子のことを思い出したんだ...」

 草加「好きだったんだ...。ああ、心の底からね」

  おっと、いけない。

  今の自分は革命軍の用心棒ではなく、面倒見のいい好青年、草加雅人なのだ。

  年長者は年下を不安がらせてはいけない。

 ひな「くさかさん、大丈夫ですか?」

 草加「ああ、大丈夫さ」

 草加「なんていったって、俺はみんなのお兄さんだから」

 少年A「俺、草加さんみたいな優しくて強い男になる!」

 少年A「そうすれば悪い奴らからみんなを守れるもん!」

 草加「そうか。だけど君はそのままでいいと思う」

 草加「俺のような生き方をすれば早死するよ」

 草加「力に溺れた男は惨めだぞ」

  自戒と自嘲を込めた皮肉を理解できず、きょとんとする子供達を見遣りながら、

 雅人は引き出しからとっておきを取り出した。

 草加「さぁ、今日は大盤振る舞いだ」

 草加「おせんべいもあるし、ポテトチップスもある」

 草加「小さいけれど、ショートケーキだってある」

  子供達の無邪気な笑顔を自分はこうして見ることが

 出来るのは果たしてあと何回あるのだろう?

  雅人を悩ますジレンマはまだ終わらない。

 ―――

 ――
 

 和「そうですか。わざわざ報告ご苦労様です」

 竜華「は、原村大総統。それはどういう意味ですか?」

 和「私達新人類と旧人類の闘いが最終局面へと突入した」

 和「そういうことです」

  西日本iPSエリア統括委員会委員長清水谷竜華は

 自分達新人類の要となる重要施設が完全に破壊された事態を受けても、

 眉一つ動かさない目の前の彼女に軽いめまいを感じた。

 和「竜華さん、二条さんがどうしてあの施設の総責任者になったのか?

   その理由はお分かりですか?」

 竜華「仰ることの意味がよく分かりませんが?」

 和「彼女は裏切り者だったのです」

 竜華「そ、そんな...。嘘や、そんなん嘘や!」

 和「私達新人類の状況は薄氷の上に成り立っています」

 和「人類のほぼ全てを完全にに掌握したとしても、

   心の中には未だに自己の変質に対する恐怖があります」

 和「同性婚、雌雄同性同士での妊娠」

 和「そして私達iPS類という新たな種が出現する事態は五年前には

   考えられませんでした」

 和「二条さんはどちらかと言えば懐疑的な方でした」

 竜華「だからと言って彼女が裏切りを働くなんて...」

 和「竜華さん、彼女を軍事研究所所長に推挙したのは貴女ですよね?」

 和「彼女のパソコンの中から、証拠が出てきました」

 竜華「まさか、泉...」

 和「新党iPSの幹事長である彼女の立場は決して低くはありませんでした」

 和「機密条項のA+クラスまでの情報を閲覧できる権限が

   おもち党や新党iPSの上級幹部には与えられています」

 和「人類解放軍の水原という男と彼女は親類関係にありました」

 和「しかし、水原と言う男は私の子飼いの特殊部隊のスパイです」

 和「直属の上司である戒能さんとの巧妙な打ち合わせにより、

   私達はこの日本における旧人類の反乱の目を迅速に察知し、

   事態を誘導してきたのです」


 和「ですが、彼女は必要最低限を遥かに超えた行動、つまり、

   我々政府の機密情報を反政府組織や諸外国に漏洩したのです」

 和「竜華さん、貴女のお気持ちはお察ししますが、

   貴女の部下が起こした責任は貴女が取るべきです」
  
 竜華「申し訳ありませんでした」

 和「西日本iPSエリア統括委員会委員長、清水谷竜華」

 和「貴女を今日付けで現職から解雇します」

 和「そして新党iPS副総裁宮永咲の護衛隊隊長を命じます」

 和「貴女の後任には、オルフェノク隊隊長の赤坂郁乃が就任します」

 竜華「あ、あの『色欲』の赤坂がですか?!」

 赤坂「そうやで~、おひさしぶりやね~竜華ちゃん」

 和「彼女の副官として末原恭子、愛宕絹恵の両名、二名ともに

   貴女のSPですが、この二人が志願しています」

 竜華「はい、随意にしてください」

 和「分かりました。では竜華さん、一週間後に首都で

   私と咲さんの住む首相官邸に来てください」

 竜華「私の部下が、本当に...」

 和「竜華さん。貴女と弘世さん、そして福路さんは

   新党iPSとおもち党が出来た時からの付き合いです」

 和「ですが、福路さんは先日カイザに殺されました」

 和「私はこれ以上、理想に殉じ、共に歩んでくれる

   仲間を失いたくありません」

 和「どうか...死なないでください」

 竜華「はい。寛大なお心使い感謝しきれません」

 和「私からは以上です」

  和との長い話が終わり、会議室から退出する竜華を見送った和と郁乃は

 これからの予定について憚ることなく話しを始めた。

 赤坂「ふ~ん、原村大総統は随分と甘々なんですね~」

 和「彼女はまだ利用価値があります」

 和「少なくともスマートブレインの社長である小鍛治健夜や

   松実大統領と直接やりあえるのは、私達の陣営において

  『地』のベルトに選ばれた彼女と貴女だけです」

 赤坂「あは~、さっすがマッドなリアリストやな」

 赤坂「よ~し、いくのんも本腰入れるで」

 赤坂「関西方面は任しとき」

 赤坂「使徒再生のメカニズムは大方解明しつくした」

 和「多めに見積もっても成功率62%と言う所でしょう」 
 
 赤坂「まぁ、そうともいうなぁ」


 赤坂「けど、ウチが提出した研究報告書と並行した都道府県一万人

    ライオトルーパー計画は待ったなしやで」

 和「62%を確実に100%に上げて下さい」

 赤坂「はい。了解であります」

 和「さて、西日本iPSエリア統括委員会委員長さんに

   早速お仕事にとりかかってもらいましょうか」

 赤坂「粛清かぁ~、ええで」

 和「旧まないた党とヘテロ党の幹部を全員処刑して下さい」    
 
 和「これ以上、彼女達を生かしておいても悪影響しかありません」


 和「ウクライナにいる片岡優希も例外ではありません」

 赤坂「他の連中はともかく、ええんですか?」

 和「ええんです。人質を取るという事はそれだけ我々に無駄を、

   解放軍には反撃の時間を与える事になります」

 和「運が良ければ何人かはオルフェノクになるでしょう」

 和「人質にするのであれば、その後です」

 赤坂「全員いっぺんにまとめて使徒再生っと」

 赤坂「わかったで~。ほなしばらく首相とはお別れやな」

 赤坂「なにかあったらすぐに呼んでください」

 赤坂「それでは首相、御武運を」

 和「ええ、万事滞りなく秘密裏に事を進めて下さい」

 解放軍アジト

 
  万全と慎重を期した京太郎たちの解放軍のアジトへの撤退は無事成功した。

  東京都の郊外にある廃遊園地の近くの廃ホテルに解放軍はその本拠地を構えている。

 兵士1「止まれ、身分証明書と所属部隊を言え!」

 亦野「亦野誠子。宮永照付のSP兼諜報部隊隊長だ」

 亦野「極秘任務に成功した須賀京太郎、及び要人である

    大星淡と愛宕洋榎を連れ戻してきた」

 兵士1「少々お待ちください」

 水原「亦野、久しぶりだな」

 亦野「ご無沙汰しています。水原さん」

 亦野「宮永総裁にお目通りを願いたいのですが?」

 水原「そうだな。それじゃあ旧まないた党の幹部の二人だけを連れて行こう」

 水原「そこの金髪の男は誰だ?」

 亦野「彼が私達の新たな希望です」

 水原「...亦野、その男を地下牢に連れて行け」

 亦野「しかし...」

 水原「解放軍において新兵を新たに迎え入れる時の習わしだ」

 水原「ハギヨシさんも草加雅人もしたことだ」

 水原「例外は認められない」

 亦野「わかりました。ですが...」

 水原「ああ、手荷物だけは持っていられるようにしておくよ」

 水原「そういうことだ。救世主様」

 水原「悪いがここではこれが習わしなんでね」

 水原「シャワーは我慢してくれ」

 京太郎「分かった」

  京太郎はこの水原と言う男に少しの不信感を抱いた。

  今のところはその主張に一欠けらもやましい点は見受けられなかったが、

 彼個人が水原に抱いた第一印象は『気にくわないヤツ』だった。

 しかし、取り敢えず水原の信用は得られたようだ。

 京太郎「さぁ、早く俺を連れて行ってくれ」

  兵士たちは京太郎を地下牢へと連行した。

 121と122のコメントを書いてくださったお二方に感謝します。

 これからも頑張ります

 
 

 照「淡、洋榎...。よく、よく無事で生きて」

 淡「テル―、うわああああん、テル―」

 洋榎「ハハハ、夢やない。これは夢やないんや」

  あのハギヨシでさえ救出することが出来なかった仲間が、もう二度と生きて会う事は

 無いと思っていた仲間が眼の前にいることに照は感動の涙を流した。

  それは解放軍の面々も同じであり、彼等もまた希望を

 持てることに喜びを感じていた。

 照「さてと、じゃあ洋榎、淡。早速で悪いんだけど何でもいい、

   何かアイツ等の手掛かりとなる情報は手に入った?」

 洋榎「済まん。奴等はとにかく徹底しとった」

 洋榎「ただ、一回だけ天江衣と龍門渕透華がウチ等と

    同じ房に閉じ込められたことがあるんや」

 智葉「透華がか?!それで、透華はなんていってたんだ」

  捕えられた透華の行方は亦野の優れた調査能力を以って

 しても杳として知れなかった。

  思わぬところで出てきた仲間の消息に照と解放軍の幹部達に緊張が走る。

 洋榎「戦況は絶望的で、宮永咲が新党iPSの幹部になった」

 洋榎「それに、胡桃と哩が陥落した」

 照「そんな...咲が、嘘だ」 

  洋榎の口から出た言葉にその場にいた全員が凍りついた。

 淡「テル、おもち党の党員の殆ど全てが新党iPSに鞍替えしたのは知ってる?」

 照「知ってる。菫、尭深もその一員だってことも」

 淡「それでね、スミレはまだテルの事を諦めてないみたい」

 照「菫は?何を考えているの」

 淡「分からないよ...けど、もうスミレはダメになっちゃった」

 淡「サトハを殺してテルを手に入れるって」

 照「終わりが、終わりが始まる」

 洋榎「ウチ等が手に入れた情報はそれだけや」

 洋榎「奴等徹底して淡とウチを管理しよった」

 洋榎「なぁ、照。ホンマにウチ等は勝てるんか?」

 照「分からない。けど、私達には戦う事しか残ってない」

  深刻な空気が漂い始めたその時、口を開いたのは草加雅人だった。

 草加「で?わざわざ君達はそんな士気を下げるような

    ことを言うためにここに来たのかな?」

 草加「それに、ここにいる全員だって察している筈だろう?」

 草加「俺達が出来なかったことをいとも容易くしてのけた

    解放軍の救世主のことを」

  腹が立つほど爽やかな笑みを浮かべた雅人を睨む水原と照だったが、

 眼の前の二人を救い出した恩人を地下牢に閉じ込めているのは

 事実である。

 草加「加えて、彼女達がまだ精神的に落ち着いていない」

 草加「にもかかわらず、こういうことを話させるのは流石にどうなのかな?」

  フォローに見せかけた婉曲な嫌味に気が付いた人間はごく限られている。

  しかし、その嫌味の悪質な所はその全てに一本の筋が通っている所だった。     

 淡「そんなことない...です」

 草加「取り敢えず、アフターケアは宮永さんと辻垣内さんにしてもらうとして...」

  水原を差し置いて、正論を滔々と述べる雅人を誰も咎める人間はいない。 

  雅人をそれを理解した上で、改めて自分の意見を通した。

 草加「彼を、ファイズをここに呼んで話を聞こうじゃないか」

 廃ホテル ボイラー室

 
 京太郎「あまり衛生的とは言い難いな」

  京太郎が兵士達に連れられて一時的に監禁されたのは

 ボイラー室に簡易ベッドと机と椅子が置いてある部屋だった。

 京太郎「流石に一人部屋とはいかないよな...」

  京太郎が入れられたボイラー室には先客、一人デスクに

 向かって何かの本を読んでいる一人の青年がいた。

 ??「君はもしかして解放軍に志願した人なのかい?」

 京太郎「そうだ。俺は須賀京太郎。20歳だ」

 木場「そっか、俺は木場勇治。須賀君だね。よろしく」

  人当りのいい笑みを浮かべた木場と名乗る青年は迷うことなく右手を差し出し、

 京太郎に握手を求めた。

 京太郎「どっちのベッドに座ればいいのかな」

 木場「右側のベッド」

  木場に促されるままにベッドに座った京太郎はシーツの

 汚れやマットレスの固さを確かめた。

  流石に染みは残っているものの、こんなレジスタンスの組織の使う

 寝具にしては清潔感に溢れていた。

  シラミやダニが心配だったが、その心配をしなくていいことに

 京太郎は安堵した。

 木場「ところで須賀君、君はどうして解放軍に入ろうと考えたんだい?」

 京太郎「仕事でここに来てるんだ。私怨もある」

 木場「私怨?」

 京太郎「iPS類に自分の人生を滅茶苦茶にされた」

 木場「誰か...家族を失ったのかい」

 京太郎「誘拐されて男に犯されそうになった」

 京太郎「好きでもない女と結婚の真似事をして貴重な学生時代の青春を無駄にした」 

 木場「ゴメン...デリカシーのないことを聞いちゃって」

 京太郎「いいさ。大体ここにいる連中の大半が似たり寄ったりの境遇なんだ」

 京太郎「相手の墓穴や地雷を踏みぬいたことに目くじらを立ててたらきりがない」

 木場「...そっか、次からは気を付けるよ」

 京太郎「ところで、アンタはオルフェノクなのか?」

  目の前の相手がどんな人間なのか?

 少なくとも解放軍に逗留するしばらくの間は、自分にとって誰が信用できるかを

 見極めるのが当面の課題である。

 
  そう考えた京太郎は質問を続けた。 

 木場「なっ、なんでそういう事を言うんだ」

 京太郎「俺が人間だったら今の質問に驚かずにむしろ喰ってかかる」

  カマを掛けたその直後に自分がオルフェノクだと認めてしまう

 その迂闊さには何とも言えない閉口感が否めないものの、木場勇治の場合は、

 それが彼の人柄の良さを際立たせるのに一役買っていた。

 京太郎「それに身なりが清潔感に溢れている」 

 京太郎「今日日こういう地下組織に潜入するスパイでも掃いている靴と

     服のくたびれの演出には細心の注意を払う」

  自分の経験論とオルフェノクでなければ今の時代にできないことを織り交ぜた

 軽い質問で京太郎は勇治がどういう人間か、今までどんな暮らしをしてきたのかを

 容易に把握することが出来た。

 京太郎「ま、こういう不衛生な環境でシャンプーの匂いが

     プンプンするのが一番不自然なんだけどな」

 木場「まいったな...どうしよう」

  知られたくないことを、それも今日初めて会ったばかりの人間に看破された

 勇治はがっくりと肩を落とした。

  流石にこれ以上の質問を続けると勇治が可哀想だと感じた京太郎は、質問の

 内容を勇治の過去にすり替えた。

 京太郎「なぁ、アンタはオリジナルか?」

 木場「そうだよ。交通事故で死んだ後、二年間植物状態に

    なった後オルフェノクとして覚醒した」

 木場「鏡に映った自分は馬のオルフェノクだったよ」

 京太郎「ホースオルフェノクか」

 京太郎「なら尚更腑に落ちないんだが」

 京太郎「どうして政府の軍隊に入らなかったんだ?」

 京太郎「オリジナルのオルフェノクはこのご時世引く手あまただろう?」

 木場「清貧を気取るには、俺は恵まれた生活を送ってきた」

 木場「だけど俺は、iPS類や同性愛者達が旧人類を追いやって

    豊かな生活を享受している現実に耐えられなかった」

 木場「知ってるかい、京太郎君」

 木場「オリジナルのオルフェノク達が、しかも政府軍の使徒再生によって作られた

    オルフェノク軍によって迫害されてることを」

 京太郎「なんでだよ?そんな必要ないだろ」

 木場「あるんだよ」

 木場「いいかい?今の世界には三つの勢力がある」

 木場「新人類、旧人類、そしてオルフェノク」

 木場「そしてこの三大勢力で一時的にとはいえ死を

    超越したのがオリジナルのオルフェノクだ」

 京太郎「おいおい、まさか大統領は本気で頭が狂ったのか?」

 京太郎「不死身を目指すなんて正気の沙汰じゃない」

 木場「そのまさかなんだよ」

 木場「君の持っているケースは三本のベルトの内の

    ファイズとデルタだよね?」

 木場「人間が変身できるのはデルタギアだけだ」    

 木場「だけど、君は察するにファイズなんだろう?」

 京太郎「何者だ、お前?!」

  先程までは勇治に対するイニシアチブを京太郎が握っていたが、いつのまにか

 その立場が逆転した、いや、勇治によってそう誘導されていたことにようやく

 京太郎は気が付いた。

 京太郎「くっ。まさかお前、スパイか?!」

 木場「違う!!俺はオルフェノクだけど人類との共存を

    模索しているんだ。政府やiPSの犬じゃない!」

  京太郎がデルタのベルトを装着したと同時に勇治もまた人間の姿をかなぐり捨て、

 オルフェノクとしての正体をあらわにした。

 京太郎「剣を下ろせ!」

 木場「君と戦いたくない!」

  睨み合う二人の膠着状態は長く続かなかった。

 辻垣内「おい、お前達。解放軍のリーダーがお前達を呼んでいるぞ。

     早く出て来い」

  智葉の声が聞こえた二人は慌てて身なりを整え、開いた扉から外に出た。

 辻垣内「須賀京太郎って言うのはどっちだ?」

 京太郎「俺だ」

 辻垣内「そうか。命令だ。先にそのケースと情報を預からせてもらう」  
 
 京太郎「そうはいかない」


 辻垣内「なんだと?私達を信用していないのか」

 京太郎「情報公開は解放軍の幹部たち全員がいる前でする」

 京太郎「生憎、俺はまだアンタ達を疑っている」

 辻垣内「わかったよ...。取り敢えず二人ともこっちだ」

 辻垣内「連れてきたぞ」

  智葉に連れられて京太郎と勇治がやってきたのは、廃ホテルの最上階のホールだった。

 照「ありがとう。それじゃあ二人ともそこの席に座って」

  照が指差した席には既に五人の青年たちが座っていた。

  草加の事を知らない京太郎にとってはどうでもいいことだったが、

 ホールの隅で草加雅人が苦虫を噛み潰した表情で彼等を見遣っているのを

 しっかりと二人は確認した。

  京太郎、勇治の二人が席に着いたのを見計らった

 照は早々に本題を切り出そうとした。

 照「須賀京太郎君」

  しかし、その前に照はどうしても京太郎に聞いておかなければならないことを

 聞くことにした。

 京太郎「アンタは、咲の姉か?」

 照「その通りだよ。私の妹は宮永咲。貴方の同級生」

 京太郎「アンタの事、咲はずっと気にしてた」

 照「今となっては後悔してるけど...それでも私は」

 京太郎「アンタの後悔なんて今はどうでもいい」

 照「そう、だよね」

 照「じゃあ、始めよっか」

  照の一声と共に強烈な電流が京太郎の身体を襲った。

 京太郎「ぐううぅっ、な、なんのつもりだ!」

 水原「炙り出しだよ」

 水原「オルフェノクやスパイが解放軍の中に上手に潜入して、紛れ込んでいることが

    ここ数年間、何回もあった」

 水原「そしてこれがてっとり早く、一番効果のある方法だ」

  必要最低限の説明をしたリーダー格の男はその後30分に渡って京太郎達に

 電流を浴びせ続けた。

  気を失うまいと京太郎は必死に歯を食いしばった。

 隣の勇治もまた京太郎同様に自分を苛む電流の責め苦に

 必死に耐え続けていた。

 洋榎「な、何してんねん!いますぐやめーや!」

 淡「そうだよ!!どうして仲間を信じないの!」

 淡「ねぇ?!聞いてるのテル―!!」

  眼の前で起きている光景をみた洋榎と淡はショックを隠せなかった。

  こんな仕打ちは、少なくともこれから互いの命を預ける仲間に対して絶対にしては

 いいことではない。

  そう思った二人は何とかして水原からスイッチを奪おうとした。

 草加「...無駄な事を」

  雅人は自分が酷い表情をしていることに気が付いた。

  きっと今の自分は普段とはかけ離れたようなひどい表情なのだろう。

  その理由がかつて自分と同じ釜の飯を食べ、共に育ってきた流星塾の同窓生が

 情けなく失禁していることにあるのは誰も知らない。

水原「よし、取り敢えず今回志願してきた新入りの中には

オルフェノクはいないとわかった」

 水原「宮永、後はお前がやれ」

  吐き捨てるように照へとスイッチを渡した水原はそのまま部屋を出ていった。

 照「須賀君と木場君以外のメンバーを例の場所へ連れていきなさい」

  照の一声で兵士達が気を失った五人を抱え上げ、そのままホールを出ていった。

 京太郎「随分な歓迎だな、おい...」

 照「ほかに手段があれば私もその手段を使う」

 照「だけど、この世界には正直者より嘘吐きの方が遥かに多すぎる」

 木場「嘘つきは自分の命には嘘をつかない」

 木場「つまり、そういうことだろう?」

 照「ごめんなさい」

 照「疑心暗鬼の種は早めに一つでも摘み取っておきたい」

 京太郎「分かったよ。それじゃあとっとと話を始めてくれ」

 照「分かった」

  勇治は自分にされた仕打ちの理不尽さに諦めすら感じ始めていたが、

 かつての仲間であった海堂や結花が受けた痛みに比べればましだと思い直し、

 何とか怒りだしたい気持ちに歯止めをかけた。

  電流を流し、自白を強要させるのはのはお世辞にもいい方法とは言えないが、

 少なくとも前時代的な、ある種の野蛮さと狂気を秘めたこの類の方法は、

 少なくとも痛みを知らないゆとり世代には抜群の効果があったようだ。

  京太郎は照と幹部たちにデルタとファイズのベルト、そして敵側が

 保有していた機密情報の紙媒体の書類の全てを引き渡した。

  照と智葉が書類を、そして兵士達にとっては重要な意味を持つ三本のベルト。

  その残り二本を彼等は食い入るように覗き込んでいた。

 京太郎「もういいだろ、早くベルトを返してくれよ」  

 照「...分かった」

京太郎「もういいだろ、早くベルトを返してくれよ」  

 照「...分かった」

  疲れ果てた様な表情を浮かべた照は、京太郎の持つファイズのベルトを

 返したが、デルタのベルトを返すのは拒んだ。

 京太郎「おい、デルタのベルトを返してくれよ」

 京太郎「アンタ達じゃそれに振り回されておしまいだ」

 照「悪いけど、これは元々私達革命軍のもの」

 京太郎「はぁ?!なに言ってるんだ」

 京太郎「そのベルトは、俺の雇い主であり、アンタの組織を陰から

     支援しているスマートブレイン社の最重要機密だぞ」

 照「嘘じゃない。これを見て」

  照が懐から引っ張り出した書状に書かれている文面を見た京太郎は、

 忌々しげに照を睨みつけた。

 照「スマートブレインが送り込んできたハギヨシという

   エージェントがこのベルトの所有者」

 照「その文書に書かれている通り、その所有者が死んだ

   場合、このベルトを革命軍に貸与する」

 照「これはスマートブレイン社則、第三百六条にもある」

 照「三本のベルト及びその保有者は一人一つ以上の

   ライダーズギアを保管してはいけない」  

 京太郎「要するにアンタらの慢性的な戦力不足を補う為にベルトを

     最大限独占、利用する為の方便っていうことだよな」

 照「なんとでも言って」

 照「今日はもう遅い。だから手短にこれからの用件を話す」

 照「須賀京太郎君、木場勇治君」

 照「君達は三日後に強襲班のチームに入ってもらいます」

 照「それまでは自由に過ごしてもらって結構です」

  最初から最後まで失礼な女だ。それが京太郎が宮永照に抱いた第一印象だった。

  そしてその女はやりたい放題言いたい放題と理不尽さを残して

 俺と木場の目の前から立ち去った。

 京太郎「...しょうがないな」

  デルタのベルトはとられてしまったが、まだ手元にはあの地下施設から奪った

 デルタの専用モジュールとメモリースティックに保管した機密情報のファイルがある。

  当分の間は、少なくともこれから訪れる三度の機会が訪れる日までは

 慎重に動かなければならない。

 京太郎「おい、木場」

 木場「なんだい、須賀君」

 京太郎「後で話がある。凄く大事な話だ」

 木場「奇遇だね。僕も君に聞きたいことが山ほどあるんだ」

  当分の間、俺はこの隣にいる親愛なるオルフェノクと

 共に行動をすることになりそうだ。

  しかし、今思えばこの出会いが俺達を、ひいては日本を

 大きく変えるとは俺を含め、誰もが思いもしなかった。

  新兵達の身体調査を終えた草加と水原の部下の兵士達は

 彼等に割り当てた部屋へと一人一人を運んで行った。

  最後に残った三原修二と言う男を運ぶ役を買って出た

 雅人は部屋に着くなり、気絶した三原を踏みつけて起こした。

 三原「や、やめてくれよ...。だから俺は君達とは関わり

    合いになりたく無かったんだ...ふぁぁ」

  こんな時にもなってあくびをかみ殺そうとする三原に

 殺意を覚えた草加はやり場のない怒りを爪先に乗せ、

 無抵抗の三原を蹴り続けた。

 草加「三原ァッ!なぜ、何故キサマが生きている」

 草加「真理を見捨てた挙句、多くの流星塾生を死に

    追いやった貴様がッ!」

 草加「クソッ、まぁいい。お前にはあの日の事を何もかも話してもらう」

  誰にも愛されなかった自分の事を掬い上げてくれた真理を殺したのは

 オルフェノクだ。今目の前にいる三原修二と言う同級生ではない。

  それが分かっている雅人は、やり場のない怒りをなんとか押し込め、

 平静さを取り戻した。

 三原「草加...。真理の事は本当に悪かったと思ってる」

 草加「ごたくはいい。一体流星塾の同窓会の日に何があったのか」

 草加「お前はそれを俺に今すぐ話すべきだ」  

 三原「...分かったよ。だけど草加」

 三原「今から俺が君に話すことは残酷な真実だ」

 三原「今更格好つけようとは思わないけど...」

 三原「それでも、君には伝えなきゃいけないことがある」

 草加「さっさと話せ。真理の仇は一体誰だ」

  危ういほどの激情を迸らせた草加のあまりの形相に

 三原は恐れをなし、草加の知らない真実を話しはじめた。

 三原「草加、俺達がいた流星塾は孤児院だったよな」

 草加「ああ、同じ境遇の子供達を集めた施設だった」

 三原「真理も君も俺も、何らかの形で両親を亡くした。

    で、その直後に流星塾の先生が来て身寄りのない

    俺達を流星塾に引き取った」

 草加「そうだな。で?それが今更なんだっていうんだ」

 三原「率直に言わせてもらえば、あそこはオルフェノクを

    人工的に作り出す、いわば政府の秘密組織だ」

 草加「何だと!じゃあ、俺もお前もいずれオルフェノクに!?」

 三原「それは...死んだ後ならそうなる可能性が高いけど」

 草加「嘘だ...」

  いきなり自分のアイデンティティを覆される発言をされた雅人は、

 普段の傲岸さが嘘のように抜け落ち、がっくりと肩を落とした。

 三原「俺達は十歳を過ぎた頃に里親の元に引き取られた」

 草加「ああ、だけどお前や犬飼、澤田、沙耶を始めとした

    殆どの塾生がまた流星塾に舞い戻ってきた」

 三原「俺の場合は里親がヤクザだったからね。へへっ」

 草加「どうしてだ...少なくとも、里親がわざわざ

    引き取った子供達を再度放棄するのはありえない」

 三原「そこなんだよ。草加」

 三原「俺達流星塾生を引き取ったその殆どの里親が

    何者かに殺されたんだよ」

 三原「木村沙耶。知らなかったのか草加?」

 三原「彼女とあんなに仲の良かったお前が、彼女がその実

    心身共に恐ろしい化物だったってことを」   

 草加「ま、まさか...じゃあ、真理も他の流星塾生も」

 三原「このことを知っているのは流星塾生では俺だけだ」

 三原「他は同窓会の日に全員沙耶が殺した」

 草加「真理、すまない...。俺があの時君を助けて

    やれなかったせいで...」

 三原「...草加、同窓会の日の事はどこまで覚えてる?」

 草加「同窓会の日、流星塾生が午後六時に集まって
 
    バーベキューをして楽しんでいたところまでだ」

 
 三原「ああ。草加はその時買い出しに行ってたんだよな」

 草加「そうだ...。真理を誘おうとしたのに澤田の奴が

    邪魔して、結局俺だけで行くことになった」

 三原「話を戻すけど。草加、君がいなくなった後に

    沙耶が皆に一緒にずっと暮らそうって話をしたんだ」

 三原「最初はまぁ、みんな沙耶だから話を真剣に聞いた」

 三原「彼女は俺達の憧れのマドンナだったから、それに

    賛同した生徒達は結構いた」

 三原「だけど、真理がそれに真っ向から反対したんだ」

 草加「真理が?一体どうしてだ」

 三原「...おかしいよ、沙耶って真理はそう切り出した」

 三原「多分ニュアンスとしては私達はいつでも会える。

    そんな必要ないってことを伝えたかったんだろう」

 三原「彼女の一言で、まるで皆が目覚めたように彼女の

    意見に反対し始めた」

 草加「そして、それに耐えきれなくなった沙耶が

    本性をあらわにしてオルフェノクとなった」

 三原「話の前後としてはあってるけど、実は澤田も

    オルフェノクだった」
 
 草加「アイツ...真理にしつこく絡んでいたと思ったら」

 三原「真理は人気者だったから..その分お前以外の

    男子にも結構人気があったんだよ」

 三原「草加、沙耶がどうして流星塾に来たのか知ってるか」

 草加「...知らないな」

 三原「生まれながらにしてのオルフェノクだったんだよ」

 三原「母親が死んだ後にオルフェノクとなって、その時に

    胎児だった彼女も一緒に死んで蘇ったんだ」

 草加「信じられん...オルフェノクは遺伝するのか...」

 三原「心技体ともに彼女は優れたオルフェノクだった」

 三原「だけど、彼女は他のオルフェノクと異なっていた。

    人間性がぽっかりと欠如していたんだよ」

 草加「それを見抜けなかった俺達は更に間抜けだがな」

 三原「君のプライドを傷つけるのは心苦しいけど、

    君をいじめた生徒達の主犯は澤田と沙耶だった」

 三原「澤田は真理にべったりだった君を疎しく思っていた。

    沙耶は君を永遠に独占したいと言っていた」

 三原「そして同窓会の幹事も澤田と沙耶だった」

 草加「ちょっと待て、真理はどうしてあの時お前と一緒にいたんだ」

 草加「オルフェノクとなった沙耶はともかく澤田の奴は真理を

    真っ先に捕まえるはずだ」

 草加「なのにどうしてお前は真理と一緒にいた?」

 三原「沙耶はまず手始めに先生を殺した」

 三原「澤田は蜘蛛のオルフェノクだったから皆を拘束して

    森の中の木に吊り下げていった」

 草加「それで?沙耶の要求を聞いた奴はどうなったんだ?」

 三原「手足をもがれて殺された」

 三原「当然だよな。ショック死だよ」

 三原「俺を助けてくれたのは里奈だった」

 三原「トイレに行ってた里奈は興奮状態にあった二人を

    出し抜いて森に火を放ったんだ」

 三原「当然沙耶は皆を逃がした」

 草加「追いかけながら一人ずつ[ピーーー]ためにか?」

 三原「その通りだよ」

 三原「その通りだよ」

 三原「澤田と沙耶が標的にしたのは真理だった」

 三原「俺は里奈と一緒に他の塾生を助けて何とか逃げ出そうとした」

 草加「俺が戻ってきた時に森が火事だったのは、そういう

    理由があったんだな」

 三原「君が記憶を失ったのは多分、沙耶が君を見つけて

    吹き飛ばしたからだと思う」

 三原「君が戻ってきたを確認した俺と里奈は足を怪我した

    真理を担いで君の所に急いでいった」

 三原「だけど、澤田は...大きな手裏剣で真理の両足を、切飛ばしたんだ」

 草加「澤田ぁ...」

 三原「真理が崩れ落ちた後、里奈が頭を握り潰された」

 三原「俺は死を覚悟した。だけど...」

 澤田『ふん、情けないな三原』

 三原「それで、それでお前の事を殺しはしないって...

    高笑いしながら、真理を、オルフェノクの姿になって

    リンチし始めたんだ」

 三原「気が狂いそうだった!」

 三原「草加、君の気持はよく分かる!俺は我が身可愛さに真理を

    押し退けて逃げ出した卑怯者だ」

 草加「それで...真理はお前になんて言ってたんだ?」

 三原「俺が逃げ出す時に、一言だけ」

 真理『草加君、ごめんね』

 真理『できるだけ、私は早く死ぬから』

 草加「ま、り...なんで、何で君がこんなひどい目に...」

 三原「ゴメン、本当にゴメン草加!」

 三原「何一つできなかった俺が生き残ってしまって!」

 三原「俺を許さないでくれ!」

 草加「ああ、許すもんか」

 草加「望み通り、俺はお前を絶対に許さない」

 草加「だけど、お前には俺の復讐に手を貸してもらう」

 三原「ああ、俺は澤田を殺さなければ気が治まらない」

 三原「できることなら沙耶にも一矢報いたい」

 草加「決まりだな」

 草加「三原、もう一度言うが俺は貴様を許すつもりはない」

 草加「だが、帰る場所を無くしたお前にとってはおそらく

    ここが最後の居場所になるだろう」

 草加「贖罪なんて生ぬるい言葉で自分を美化するな」

 草加「戦え!戦うんだ三原」

 三原「ああ、やってやるさ!恐怖のあまり逃げ出しても

    何が何でも生き延びて、二人の仇を取ってやる!」

 東京都某所、首相官邸

 
 玄「それで?おねーちゃん?」

 玄「全人類iPS類完全移行進化計画の最終段階は一体全体

   どこまで進んでいるですのだ?」

 宥「現状では地球上の全人口、大体四割くらいの男女が

   完全なiPS類への移行を果たしたみたい」

 玄「うむうむ、この調子なら十五年と掛からずに人類全てが

   iPS類になることは間違いないのです」

 穏乃「玄さん。今年の日本iPS合衆国の食料自給率は

    史上初の八割を超えました!」

 玄「高鴨穏乃農林水産省大臣。よくやったのです!」

  かつて世界の男女比のバランスを崩壊させた元凶である松実玄元大統領、

 現在は諸々の事情もあり、国防長官となった彼女は、腹心である姉と

 名誉iPS類である高鴨穏乃と国政について話し合っていた。

  同様に副大統領であった石戸霞は現在外国との交易を一手に引き受ける

 外務貿易省の全てを取り仕切っていた。 

  iPS類という人類最大の禁忌を松実玄は革新と捉えていた。

  世界でも類を見ない程に自由を保障している日本の最大の欠点は

 既に保障されている自由だった。

  労働の自由、表現の自由。彼女は足りない頭で必死に年々減り続ける若年層の

 労働人口の増加や慢性的な人手不足に陥っている第一次産業や第二次産業の

 労働人口の増加へと腐心した。

  まず彼女が着手したのは労働の自由の範囲を狭めることからだった。

  第三次産業の抜本的な改革という名の粛清。

 即ち大手企業の取り潰しを圧倒的武力を背景に、

(その大半は、オルフェノクというiPS類にとっていずれは

 解決しなければいけない脅威ではあるが)

 怪物軍団であるオルフェノク達に日本iPS軍特殊部隊という隠れ蓑を与え、

 松実玄率いる日本iPS合衆国政府は未だに旧人類の支えとなっている

 国内外の大財閥をあっというまに無力化していった。

  その影響は日本はいうに及ばず、世界にも幅を利かす大企業の半分以上に

 大きな影響を与えた。

  当然失職者で日本は溢れた。

  職が無ければ誰も生きて行けない。 

  就職先を失った人間達は我先にと脱サラを始め、農業や漁業へとその生活の糧を求めた。

  ここでも松実玄の意外な才覚が冴え渡った。

  自国の排他的水域をさらに拡張すべく、かねてからロシアに奪われたままの

 北方領土を取り戻し、そこで取れる天然ガスを自国の第一次、第二次産業に

 優先的に回したのだった。

  当然これを世界が看過するはずもなく、敵愾心もあらわに真っ先に戦争を

 仕掛けてきたのは中国だった。

  しかし、松実玄率いる日本iPS軍は数の不利をものともせずこれを撃退。

 満州国と呼ばれた地域を復活させ、そこから手始めに全アジア征服を視野に

 入れた外交政策に打って出た。

 玄「資源がないなら奪えばいいのです」

 玄「これが本当のストロー作戦なのです」

 穏乃「玄さん、ネーミングセンスなさすぎですよ...」

  ...色々とやっていることに問題点が多すぎる松実玄。

  しかし、名実ともにアジアを制した彼女達の覇道を阻むものは

 神であれ、アメリカであれ、今のところ現れていない

 和「しかし、私達は敵を作り過ぎましたね」

 玄「おお、原村大総統。ご結婚おめでとうですのだ」

 和「まだ式は挙げてませんよ。入籍しただけです」
 
 霞「大総統のご指摘はもっともです」

 霞「本来私達新党iPSの掲げたマニフェストは真の意味で

   男女差別をなくし、かつ恒久的な世界平和を実現させる」

 霞「これが理念なのです」

 霞「しかし、世界の約四割がiPS類とオルフェノクへと変貌を

   遂げた為に残りの旧人類が猛反発を掲げ、半ば暴徒と化しています」

 玄「全くおかしな奴等ですなぁ」

 玄「世界が平和になる事のどこに不満があるんでしょう」

 霞「松実国防長官」

 霞「スマートブレイン社の存在はご存知ですか?」

 玄「知っています。彼等の存在が今の日本の最大の懸念です」  

 霞「報告書にあるように、オリジナルのオルフェノクの

   集団である彼等は短命である代わりに旧人類と

   動物とのパワーが合わさった存在です」

 霞「例外的な特権階級と言えば聞こえはいいですが、

   彼等は厄介な事に殆どが死人です」

 宥「そして最近になって飛び交う救世主伝説」

 宥「未だに徹底抗戦を続ける旧人類のレジスタンス達」

 宥「将来的には日本が地球の半分を牛耳る盟主になるのは

   当然として、彼等をどう扱うのかが問題です」

 玄「うーん。色々考えたのですが放置が一番ですな~」

 和「ちょ、ちょっとそれはどういう意味なんですか?」

 霞「いくらなんでも聞き捨て成りませんよ、それ」

 玄「ふっふっふ~、別に私はなにも手をこまねいている

   というわけではありません」

 玄「全人類iPS類完全移行進化計画は既に成果を出し、

   確実に成功していると言えます」

 玄「しかし、それでもWW2で抱え込んだ日本の負債や

   将来への不安は確実に膿として残っているのです」

 玄「彼等はその膿を絞り出すための重要な存在なのです」

 玄「全面的にとは言いませんが、私は彼等の行動を支持しています」

 玄「人類iPS移行プロジェクトの最終目標は性の選択の自由を個々人が自由に

   選べる世界を作る事ではないのです」

 玄「本当の狙いは別の所にあります

 玄「なので皆さんにここで改めて聞きたいことがあります」

 玄「私達は現時点から前に進むべきか否か」

 京太郎が日本に来てから一週間後

 
 照「少なくともこのぶんだとジリ貧になる、か」

  元まないた党総裁の宮永照は解放軍の現状と京太郎からもたらされた

 政府軍の資料を照合し合わせていた。

  機密情報の中にはオルフェノクに関する詳しい調査報告書や各地方の

 旧人類のアジトやその活動内容についてが書かれてあった。

  そしてこれは解放軍の、正確に言えば絶望的な確率だが、旧人類がiPS類に

 形勢逆転することのできる僅かな可能性が三回ほど残されていることが分かった。

  一つは来月に日本初となる原村和と宮永咲の同性結婚。

  二つ目は三ヶ月後、日本で開かれる六ヶ国協議。

  そして最後は松実玄の3月15日の誕生日。

  京太郎の資料は打つ手なしだった解放軍にとって天からの救いに等しかった。

   照は水原にこの資料を見せていなかった。

  水原がここのリーダーではあるものの、照はここ最近水原が怪しいと思い始めていた。

  解放軍にとって失敗が許されない計画の大半は、政府の手によって失敗に

 終わっているものの、その大半の闘いで多くの兵士達が死んでいく中、

 水原だけが大なり小なりの負傷を負いながらも必ず生き延びている。

  それはハギヨシが立案した彼の主人である龍門渕透華と天江衣を救出するための

 作戦でも同じことだった。

  なので、照はともかくその副官である智葉はいざとなれば水原を始末し、

 照を解放軍のリーダーに就けることを考えていた。

 智葉「照、そんなに疲れるなら私が代わるぞ」

 照「いや、これは私がやる」

 智葉「須賀京太郎には悪いことをしてしまったな」

 照「彼は私達にとって最後の頼みの綱」

 照「ここで彼に最大限働いてもらわないと困る」

 智葉「そうだな。だが、水原の部下が見せてくれた

    カメラの映像に映っているのは新型の強化戦士だ」

 智葉「照、今の私達に出来ることは限られている」

 智葉「宮永咲が旧人類のままだという保証はどこにもない」

 照「理解してる。咲があの原村和の魔手に落ちていたら

   きっとまた多くの罪もない人達が殺される」

 照「今度は私のせいで、また死人が出る」

 照「もう嫌だよ...誰かが死ぬのは。何もできない自分が」

 智葉「大丈夫だ。お前には私がいる」

 智葉「だから、私を信じてくれ照」

  かつての仲間達が戻ってきたにも関わらず、宮永照の

 抱える心の闇は測り知れないほど深かった。

  それは涙を流す照を抱きしめる智葉も同じだった。

 三原「ハハハ、直也君。そっちにボール行ったよ~」

 直助「うおおおおお!」

 桜子「なおやく~ん。パスパス」

  解放軍に入った三原修二に与えられた最初の仕事は

 孤児達の遊び相手だった。

  ただでさえその数を減らしていく仲間達の死に直面する

 解放軍の兵士達にはそんな精神のゆとりがないため、

 半ば無理矢理に草加雅人にそのお鉢が回ってきたのだった。

  しかし、草加は予想外の働きを見せ、それに答えるように子供達は自分が

 孤児だという事を自覚し、なおかつそこから前に進もうとなんとか試行錯誤を

 繰り返しながら日々を生きている。

  ひどい時は朝昼晩の食事が缶詰一つをつつくような解放軍だ。

  そんな中でも彼等はよく明るさや前向きさを失わずに、

 生きようとする努力を欠かさないものだと三原は感嘆した。

 淡「私は高校百年生!だからシュートするのだ!」

  そして、解放軍に自分と時を同じくして戻ってきた大星淡という少女に

 三原は心惹かれる物を感じた。

  草加から聞いた所によると彼女は二年間政府軍の地下施設に囚われていたらしい。

  しかし、そんな苛酷な環境で二年間囚われてもなお彼女の明るさは消えていなかった。

 淡「ダイビングボレー!」

  元気のいい淡の掛け声と共に三原の顔にサッカーボールが激突した。

 綾「み、三原さん、大丈夫ですか?」

 三原「ああ、大丈夫だよ」

 淡「ミハラ―!なにやってんだー!」

 子供達「ミハラ―!なにやってんだー!」

 三原「ハハハ、ごめんごめん」

  淡の明るい声に合わせて子供達が三原をからかう。

 三原「よーし、それじゃあ今度は俺も攻めるぞー」

  キーパーであるにもかかわらず、三原はドリブルで

 子供達を躱しつづけ、あっという間に点を取り返した。

 淡「ずっるーい、ミハラがずるしたー」

 三原「ずるじゃないぞ。これはキーパーの反撃だ」

 淡「ギバ子ー!ミハラにマイナス百点」

 桜子「あいよー!」

 三原「そ、そんなぁ」

  理不尽な点数調整を受けた三原は涙目になった。

 草加「ぐっ!」

  三原修二が子供達と遊んでいる中、雅人は自室に一人

 籠っていた。

  カイザギアの影響で体の至る所に様々な欠陥が生じ始めてきた。

  食事以外の気晴らしがない解放軍での唯一の慰めである子供達と

 遊ぶことが出来なくなったことに、雅人はますます機嫌を悪くした。 

 草加「カイザギアの高出力に俺の身体が適応できていない」

 草加「くそっ!俺は、俺はまだ何も...」

  少なくともカイザのベルトを三原に託し、自分はファイズかデルタの

 ベルトを装着し戦えば、少なくとも今の状況が打開できると雅人は踏んでいた。

  しかし、それは雅人のプライドが絶対に許さなかった。

 草加「俺は、真理の敵を討つまで止まらない」

 草加「解放軍はそのための手段だ」

  自分に言い聞かせるようにその発言を何度も反芻する。

  それが革命軍の用心棒、草加雅人の本音だった。

  自分が愛した女は、その愛を彼に与える事無く死んでしまった。

  もしかしたら、自分にも仲間と呼べる存在がいたかもしれない。

  だが、孤独を恐れた自分に残るものがあるとすれば、

 それはきっと死だけだ。

 草加「だから、俺の存在証明は俺がしなければならない」

  何もかもを失って、それからカイザギアを手に入れ、そこからようやく

 雅人の人生は輝き始めた。

  初めて自分の存在を肯定してくれる存在に出会えた。

  だが、雅人が本当に欲しいのは無機物ではなく、ありのままの自分を

 受け入れてくれる、血の通った人と人との間で育まれる真実の愛だった。

  その温もりを最初に教えてくれたのは真理だった。

  だから、真理という拠り所を失った雅人はその精神の依りどころを

 カイザのベルトに求めた。

 ??「草加さん?のお部屋でいいですか」

  聞きなれない若い男の声がした雅人はのろのろと身体を起こし、

 自室のドアを開けた。

  目の前には木場勇治と須賀京太郎がいた。

 草加「初めまして、でいいのかな?」

 草加「俺は草加雅人。草加って呼んでくれ」

  突然の意図せぬ来訪客に面食らいながらも、雅人は部屋にある椅子を

 勇治と京太郎に勧めながら、自分は窓際に腰かけた。

 草加「ところで、君達二人は須賀君と木場君でいいのかな」

 木場「はい。僕は木場勇治といいます」

 木場「日本がこうなる前では建築家を目指していました」

 草加「そうか...。災難だったね」

  目の前にいる二人のうちの木場と言う男は、狡猾な雅人から見れば、

 いかにも純粋そうで、その様を例えるのならば、自分を騙した人間を懲りずに

 何度も信用しそうな、いかにもな人の良さが表れていた。

 (まぁ、問題はもう一人の男だ)

  木場勇治と言う男の有用性を認めた雅人はもう一人の男、須賀京太郎に向き直った。

 京太郎「自己紹介は一応しておく」

 京太郎「俺は須賀京太郎。二十歳だ」

 草加「そうか、木場君も同い年なのかい?」

 木場「いいえ、僕は二十一歳です」

 草加「ま、二十歳も二十一歳もそんなに変わらないな」

 草加「これから背中を預けて戦う同士になるわけだから」

  ごく自然な形で草加はまっさきに京太郎に手を差し出した。

 京太郎はそんな雅人を見つめて微かに笑った。

 京太郎「こちらこそ、よろしく」

  短い言葉と同じくらいの時間で握手を済ませた京太郎は照れ隠しなのか、

 その端正な横顔をそむけた。

  対照的に勇治はがっしりと草加の手を掴み、しきりに一緒に頑張ろうと言っていた。

  握手を終わらせた三人の間には奇妙な静寂が漂っていた。

  今まで旧人類の希望の一つであるカイザとして、旧人類の解放軍の戦いを

 担ってきた雅人だったが、これからはもう少しだけ自分の負担が減りそうだ。

 と、らしくない楽観を抱き始めていた。

  だが、そんな希望的観測が壊されるのは次の瞬間だった。

  京太郎の持ってきたファイズギアケースの中から、

  照の手元にあるデルタフォンから、

  そして雅人の手に持っているカイザフォンから、

  彼等の運命を左右する一本の電話がかかってきた。

 ??「もしもし」

 ??「誰か聞こえている人がいたら返事をしてください」

 草加「貴様、何者だ」

  真っ先に電話の主に喰ってかかったのは雅人だった。

 小鍛治「あー、君はカイザの草加雅人君でいいのかな?」

 小鍛治「私は小鍛治健夜」

 小鍛治「君達の雇い主のスマートブレインの日本支社の社長だよ」

 草加「小鍛治健夜...。スマートブレインはいつから貴様のように

    政府に媚びるようになったんだ?」

 小鍛治「違うよ~?どうして私達がiPS類なんてわけのわからない

     化け物の傘下におさめられなきゃいけないの?」    

  理由にはなっていないが、筋の通った答えを返す小鍛治。

 小鍛治「私達の方がずっとずっと強いのにさ」

 小鍛治「ねぇ、そう思わない?宮永照さん?」

  ふざけたスタンスを崩さずに冷静にこちらの出方を窺っていることが

 話し方一つで理解できる。

 照「私達は誰の手も借りずに、残された人類を救い出し、世界を変えて見せる」

  こわばった声音ではあるものの、照は自分の意志を電話先の相手へと伝えた。

 しかし、それが力なき者の見る都合のいい理想絵図であることに違いないのは

 明白だった。

 小鍛治「獅子身中の虫を使って政府をボロボロにする考え方はないんだ?」

  確かに政府の作り出した後天的なオルフェノクとは異なるオリジナルの

 高い能力を持つオルフェノク達の集団の助けを得れば、これから俺達が

 成そうとしている現政府への革命がかなりの確率で成就することは間違い無い。

 照「少なくとも貴女方が政府の援助を受け、世界で類を見ない

   完璧なまでのオルフェノクの牙城を作った事実がある以上」

 照「私はオルフェノクを信用できない」

  照の切り捨てるような一言に、オルフェノクと人間の間に生じた深い闇を

 勇治は垣間見たような気がした。

  それは京太郎も草加も同じだった。

 小鍛治「そこはさ、ギブ&テイクって奴だよ」

  このままだと埒が明かないと判断した俺は、前から気になっていた

 ある人の消息を尋ねることにした。

 京太郎「お取込み中済まないが、そっちにハギヨシさんはいないのか?」

 小鍛治「うん。いるよ~」

 京太郎「電話に代わってくれないか?」

 小鍛治「いいよ~。ハギヨシさーん」

 小鍛治「ハギヨシさんが言ってた京太郎君から電話だよ」

  能天気に電話に代わることを約束した小鍛治に代わり、俺がもう二度と聞くことが

 できないと思っていたハギヨシさんの懐かしい声がそこから聞こえてきた。

 ハギヨシ「京太郎君ですか?」

 京太郎「お久しぶりです。ハギヨシさん」

 京太郎「衣さんや透華さんはお元気にしていますか?」

 ハギヨシ「お嬢様と衣さまは未だに囚われの身です」

 ハギヨシ「私も三度目の脱走の時に絶命し、小鍛治社長と同じように

      オルフェノクとして覚醒しました」

 京太郎「そうですか...」

  聞きたくなかった答えが開口一番帰ってきた。

  更に最悪だったのが、次の一言でハギヨシさんが完全にオルフェノク側へ

 落ちていたことが分かったことだった。

 ハギヨシ「京太郎君。今からでも遅くありません」

 ハギヨシ「これは私の個人的な願望ですが、オルフェノクと旧人類軍が

      手を携えることは可能でしょうか」

  ハギヨシさんの言いたいことは分かる。

  人間とオルフェノクの共存。

  しかし、現実ではオルフェノクの方が人間より強い力を持っている為、

 その提案は空々しく聞こえるだけだった。
 
 草加「ふざけるな!」

 草加「貴様等の手口は見え透いているんだよ!」

 草加「オルフェノクは全て敵だ!化けモンなんだよ!!」

  病的なまでに、忌避の一言で片づけられない程の嫌悪感を剥き出しに

 雅人は電話越しのハギヨシに怒鳴り散らした。

  草加のオルフェノクに対する異常なまでの嫌悪は、きっとコイツが

 オルフェノクに殺されかけたか、あるいはオルフェノク絡みのことで己が身に降りかかった

 災厄への根源的な恐怖に根差しているものだろう。

  しかし、それでも奴らは数段草加よりも上手だった。

 ハギヨシ「では、草加雅人さん」

 ハギヨシ「私どもの誠意として、貴方にまつわる因縁に片をつける

      お手伝いをさせていただけませんか」

 小鍛治「うんうん。確かにオリジナルのオルフェノクは貴重だけど、

     それでもヒト殺しはいけないよね」

 小鍛治「一応、君の事を知っているオルフェノク達を個人的に

     私は匿っているけれど、今の会話だけは特別に聞かせてるんだ」

  電話越しに聞こえてくる小鍛治とハギヨシのやりとり。

  仮にもオルフェノクを束ねる集団のリーダーであれば、末端のオルフェノクにまで

 気を配る必要はない。

  にも拘らず、社長室には後何体かのオルフェノクが存在している気配がする。

  そして、そのオルフェノクは並みのオルフェノクを遥かに凌駕する力を持った

 上級オルフェノクである可能性が高い。 

 草加「なにぃ!」
  
  草加の追求を遮るように、小鍛治と代わった声の主は電話先でも分かるような

 冷たく透き通った声をしていた。

 沙耶「雅人?雅人なのね!」

 草加「沙耶...俺の質問に答えろ」

  電話越しの相手との会話を聞かせたくないのか、草加はメモにペンを走らせ、

『出て行ってくれ』と書かれた文面を見せた。

  俺と木場は素直に従って草加の部屋を出た。

  俺は盗み聞きなんて下衆な事はしなかったが、耳に当てたファイズフォンから

 漏れ聞こえてくる草加と言う男の過去に耳を澄ませざるを得なかった。

 草加「流星塾の同窓会の日、真理を殺したのはお前か?」

 沙耶「いいえ、澤田君よ」

 沙耶「正確に言えば手足をもがれて、彼専用のラブドールに

    なって...今はどうしているのかしらね?」

  悍ましいことをさらりと言ってのける沙耶と言う女は、草加が思いを

 寄せていた女性を殺した澤田と言う男に電話を替わった。

 澤田「くっくっく、久しぶりだな草加」

 草加「澤田ァッ!貴様、貴様よくも真理をおおおお!」

  激高する草加。

  この時、俺は草加が解放軍の用心棒をしているのか、その理由を理解することが出来た。

  復讐。

  草加雅人は人生の全てをオルフェノクの撲滅に捧げるつもりだ。

 澤田「真理には感謝してるんだ。俺」

 澤田「彼女のお陰で俺は完全にオルフェノクの力を

    制御することが出来たんだ」

 澤田「今ではさ、ほら、こんな時代だから俺みたいな優秀なオルフェノクが

    引っ張りだこでさ、幾らでも引く手があまたな訳なんだよ」

  あまりにも外道な発言をし続ける二人組に俺は怒りで手が震えた。

  隣にいる木場もそれは同じようで、俺の手からファイズフォンをむしりとり、

 まるで親の仇が目の前にいるかのような面立ちで、草加達のやりとりに聞き入っていた。

 澤田「で?どうするんだ?」

 澤田「俺達スマートブレインの力が必要なんだろう?んん~?」

 草加「お前の、お前達のボスと代われ...」

 沙耶「雅人...だから言ったでしょ?」

 沙耶「貴方は私の元に帰ってくる」

 沙耶「貴方の隣には私しかいないの」

  草加の感情を押し殺した声の中に、恐怖の色がありありと濃くにじみ出していた。

 草加「いいから早く代われ!」

 小鍛治「はいはい、もういいでしょ沙耶ちゃん」

 小鍛治「私の貴重な時間を取らせないでほしいな」

  草加の祈りが通じたのかどうか分からないが、沙耶と呼ばれた女性は

 耳に残るような美しい笑い声を残し、小鍛治健夜に電話を代わった。

 照「さっきの草加さんの話は本当なの?」

  静かな声で宮永照が今までのやり取りの真偽を問いただす。

 小鍛治「ん~?そんなの知らないよ」

 小鍛治「仲間なんでしょ。さっきの彼みたいに威勢よく

     『私は信じる!』とか言わないの?」

  聞きたいことをはぐらかしながらも、小鍛治健夜も電話に出た二人の

 オルフェノクには嫌悪感を隠せていないようだった。

 照「草加さんは解放軍に必要な人」

 照「彼がオルフェノクと敵対する以上、私は彼を

   同志として認め、最後まで責任を持ちます」

  ...まぁ、少なくとも新参者の俺がここに来るまでは

 草加が解放軍の『正義』の象徴だったんだろう。

  裏表のある人間性はともかく、今まで貢献してきた、そしてこれからも

 貢献するであろう忠実な駒を宮永照、いや解放軍は重大なリスクを払ってでも
 
 手元に置いておきたいのが充分理解できた。

 小鍛治「ま、草加君がどうなろうと知ったこっちゃないんだけどね」

 小鍛治「話を戻すけど、組むの?組まないの?」

  終始一貫して、気楽な口調を崩さなかった小鍛治健夜だったが、
 
 彼女が聞きたかったのは今の一言に対する明確な答え。

  即ち、オルフェノクの走狗となるか、オルフェノクとiPSの二大勢力を

 敵に回すか。という二択だった。

 照「私個人とその副官、そしてライダーズギアの適合者」

 照「貴方のお話に同意を示し、手を貸すのはこの面々です」

  淀みなく、ギリギリの最適解を瞬時に出した宮永照。

  最悪、このやりとりが漏洩したとしても、オルフェノクを利用する為の

 交渉に赴いたと言えば、解放軍の他の幹部達にもまだ説明のしようがある。

  少なくとも今の俺達にとって、またiPS類の狂った世界に抗することを考えている

 世界中の同志から見れば、小鍛治健夜からの申し出は渡りに船だった。

 照「近いうちに私達はスマートブレイン社に赴きます」 

 照「その時に利害の一致をはっきりさせましょう」

 小鍛治「うん。いいよー。じゃあ二日後の朝十時にね~」

  ケラケラと笑いながら小鍛治健夜は電話を切った。

  スマートブレイン日本支社長、小鍛治健夜は電話を切った後、いかにも

 面白そうな表情を浮かべ、ハギヨシにもたれかかった。
 
 健夜「ねね、ハギヨシさんはどう思う?」

 健夜「旧人類の解放軍は私達と手を組むかな?」

 ハギヨシ「小鍛治様の思い描くように全ては進むでしょう」

 健夜「んもう、ハギヨシさんは上手いんだから」

  デレデレと鼻の穴の舌を伸ばした健夜は、思い立ったように社長室の

 奥にある個室にハギヨシを伴って入った。

  自分の手を引く女の笑顔を無感情に見つめるハギヨシ。

  そんなハギヨシの心の複雑な機微などお構いなしに、健夜はベッドの上に

 ハギヨシを横たわらせ、一つ一つ丁寧に彼の執事服のボタンを取り外していった。

 ハギヨシ「ですが、ここで僭越ながら一つ」

  あっという間に上半身をはだけさせられたハギヨシの乳首を、

 巧みに右手で愛撫しながら、同時に甘噛みする健夜の頭をやんわりとハギヨシは離した。

 ハギヨシ「彼等は恐らく、私達に幾つかのおねだりをしてくるでしょう」

 ハギヨシ「我々スマートブレインへと所属している純粋なオルフェノクは、

      日本政府の庇護下に置かれ、旧人類ばりの自由な経済活動、

      並びに多くの権利が100%保障されています」

 健夜「例えば、政府要人を警護しているオルフェノクの勤務時間帯、

    あるいは宮永咲の居場所とかかな?」

  ハギヨシの弱弱しい反抗にくすりと笑った健夜は、無防備な彼の唇を

 己の唇に重ね合わせ、ゆっくりと舌を絡ませた。

 ハギヨシ「恐らく、現在の日本合衆国政府の最大目標はオルフェノクという

      癌細胞をこの世から完全に撲滅させることでしょう」

  艶めかしく動く左手がハギヨシのスラックスを切り裂き、残った右手が

 25㎝を超える剛直をしっかりと握る。

  ハギヨシはその強さに思わず顔をしかめたが、思い直したように健夜の

 首筋に唇を押し当て、強く吸い上げる。

 健夜「う~ん、じゃあこうしよっか」

 健夜「私が直接宮永照と護衛を伴って、彼等を宮永咲に合わせてあげる。

    うん、一石二鳥♪」

 ハギヨシ「それは...いけません」

 健夜「どうして?」

  股間を濡らしながら、邪魔なスカートを脱ぎ捨てた健夜はハギヨシの

 二つの睾丸を握りこみながら、その上についている逸物を上下左右にしごき始めた。

 健夜「旧人類達が私達との話を聞くってこと自体が、自分の急所を

    掴まれているのと同じことなんだよ」

 健夜「それともハギヨシさんは政府の人たちと組んでいて

    なにか良からぬことをたくらんでいるのかな?」

 健夜「そうだったら、いくら私でも見逃せないよ」

  上気した顔に狂気を滲ませながら、健夜はハギヨシの上に跨り、

 自分の股間にハギヨシの剛直をあてがった。

 ハギヨシ「ぁっ!」

 健夜「ハギヨシさんは、ぜーんぶ私に任せておけばいいの」

 ハギヨシ「お嬢様は...衣さまは?」

 健夜「...彼女達は私の責任下において、宮永咲同様の待遇をうけてるよ」

  健夜は無表情になりながらも、膣を自在に締め付け、腰のグラインドを

 少しずつ早めた。

  膣肉がまるで一つ一つ意志を持ったかのような蠕動が、脳髄を蕩かし、つい最近まで

 童貞だったハギヨシを快感の渦に叩き落とす。

  むき出しの女の欲と男の性に板挟みにされたハギヨシは、すぐに射精を始める。

 健夜「...もっとも、これが私がハギヨシさんへの最大の信頼の証というのは、

    勿論、自覚してるよね?」

  大量の精液を射精する快感を味わう前に、健夜はいきなりハギヨシの

 陰茎の尿道、その根元を強く抑えた。

 ハギヨシ「はい...自覚しています」

 健夜「嘘はいけないなぁ...」

 健夜「ハギヨシさんが小鍛治様って私を呼ぶときは

    大抵、龍門渕さんと天江さんのことを想っている」

 健夜「馬鹿にしてるの?」

  左手で押さえつけた陰茎をそのままに健夜はハギヨシの右手の指を

 一本ずつ彼の尻穴へと突き刺していった。

 ハギヨシ「めっそうも、ありません」

 ハギヨシ「執事たる者、公私混同はできません」

  ごしごしと前立腺周辺を絶妙な力加減でこすられたハギヨシは、荒い息を

 吐きながら言葉を続けた。

 ハギヨシ「今、私がお仕えしているのは健夜様唯一人です」

 ハギヨシ「ですが、健夜様は私を近侍と認めて下さらない」

 健夜「ハギヨシさんを認めないつもりなんて、そんなこと

    微塵たりとも私は思っていないよ?」 
  
 健夜「ただ、私の事をハギヨシさんが仕事相手としか


    見てくれないことに凄い反感を覚えているだけ」

  自分より小さいこの女に犯される事は何度もあったが、

 ハギヨシは未だに最後の一線だけは越えずに踏み止まっていた。

 健夜「そろそろ私のことを真のご主人様としてみないと」

 健夜『ハギヨシさんの大事な龍門渕透華、壊しちゃうよ?』

ハギヨシ「...透華様にもしものことがあれば...っ」

  私は刺し違えても貴女を...。

  という言葉を健夜にぶつける前に、ハギヨシの意志は押し寄せる快感と

 自分の精液によって見事に洗い流されてしまった。
     
 ハギヨシ「うあっ、あああっ、出てる...出してしまった」

  がっくりと全身の力が抜け落ちながらも、健夜の膣は

 貪欲なまでにハギヨシをずっと犯し続けている。

  ハギヨシは体を震わせながら、十分もの間、絶え間ない

 絶頂と射精を健夜に味わわされた。

 健夜「あんっ、ハギヨシさん。セックスで一番重要なことってなんだと思う?」

  間欠泉の如く吹き出した精液の残りをフェラチオで吸い出している健夜が、

 ふと思い出したようにハギヨシに尋ねた。

 ハギヨシ「捧げあう事、です」

 健夜「正解。でも今のハギヨシさんは不正解」

 健夜「私はこういう歪な形でしか、人に愛情を伝えられない」

  虚脱感に襲われた健夜はハギヨシの逞しい胸板に倒れ掛かり、

 彼と束の間、自分の本音を語った。

 健夜「自分がオルフェノクである前に、一人の女だって

    自覚できているのは間違いなくハギヨシさんのお陰」 

 健夜「だから私は、貴方の事が好きになった」

  ハギヨシとて紳士の端くれ。

  目の前の女性が人間ではなくオルフェノクであっても、その胸に抱いている

 感情を自分の主観で嘘偽りだと断じることはしない。

  ただ、彼女が自分に求めているものと自分が求める者があまりにも違いすぎている。

  それがハギヨシの心を苦しめ続ける。

 ハギヨシ「私では...貴方の心を救うことは出来ない」

 ハギヨシ「私にも貴方にも定められた生がある」

 ハギヨシ「今更、己の生き方を変えるなど...」

  それは、この世界で生きる全てに当てはまる言葉だった。

  ハギヨシはこの世のままならなさに涙を流した。

 水原「で?どうするんだよ宮永」

 水原「聞いてないぞ、スマートブレインは俺達と協力体制に

    あるんじゃなかったのか?!」

 水原「奴等はiPSと今まで密通していた。そしてiPSの連中がアンタを誘き出す

    罠を張ったんだよ!」

  照と京太郎を含めた三人は、事の次第を水原に報告した。

  スマートブレインの本当の姿を知る人間はここには殆どいない。

  それは旧人類に取って代わった新人類も同じである。

 草加『今、解放軍の幹部達に真実を話しても無駄だろう』

 草加『重要なのは俺達はスマートブレインに何が何でも

    いかなければならないという事だ』

  木場と京太郎はオルフェノクの存在を解放軍のメンバ-に

 正しく公表すべきだと考えていたが、草加の言う通り、解放軍の士気を

 下げかねない行動は回避しなければならないと照は判断した。

 京太郎「だけど、いままで何も接触を図ってこなかったスマートブレインが

     こうして積極的な行動を起こした」

 京太郎「危険はあるがそれを冒す価値はある」

 水原「うるさい。新参者であるお前達に何が分かる」

 水原「大体な、スマートブレインに俺達が要求しているのは、奴らを殺せる

    武器と政府の連中たちがどう動くかの正確な情報なんだよ」 

  水原の言いたいことは分かる。

  解放軍に入って日が浅い京太郎は知らないことだが、

 スマートブレインは日本各地に散在する旧人類解放軍に多大な援助を

 惜しまなかった。

  それは決して水原によるものが大きかったわけではなく、オルフェノクが

 iPS類とのシーソーゲームを制する為の先手を打ったにすぎない。

  水原の解放軍には宮永照がいる。

  他の解放軍の物資の援助をおざなりにしても、照に恩を売るだけ売り、

 iPS類へと残りの旧人類が流れないようにさせる意図がそこには明確に存在していた。

  アメリカやロシアはともかく、現在iPSとオルフェノクの戦争が一番激しいのが

 日本である。

  日本を制した存在が、次の世界へとその野望の翼を広げ、世界征服の

 凱歌を上げて、進軍することが出来るのだ。

  それを踏まえた上で、iPS類に抗しうる旧人類の希望の星となった

 宮永照の存在の大きさは計り知れない。

  しかし、水原は何を勘違いしているのか、いつのまにかスマートブレインが

 解放軍のバックであると思い込むようになっていた。

 草加「それすらもうまく使いこなせなかった間抜けに

    彼等が苦言を呈したいと思ったことはないのか?」

 水原「なんだと?!」

 幹部A「おい、草加。この解放軍の和を乱し続けるといくらなんでも

     本当に出て行ってもらうことになるぞ」

  火に油を注ぐ草加の発言に、照と智葉の二人の頭が悩まされるのは

 いつものことだったが、その一言に過剰に反応した他の幹部達が、一斉に騒ぎ出した。

 幹部D「そうだ。お前生意気なんだよ」

 幹部D「自分だけが使えるベルトを会社に作ってもらって満足か?」

 幹部C「俺は選ばれた人間だぁ?」

 幹部C「ふざけんな!お前なんか役立たずだ!」

  草加雅人の人間性には大いに問題がある。

  自分が利用できると思った人間の前では仮面を被るが敵と看做した人間は

 徹底的に排除するというのが彼の性格だった。

  そして、彼の『排除』には、明確な意図の抹消も含まれている。 

 草加「へぇ、じゃあ分かったよ」

 草加「そんなにこのベルトの装着者になりたければ、ほら」

  幹部連中の前にカイザギア一式を放り出した雅人は傲慢な態度を崩さずに

 言葉を続けた。

 草加「俺がこういう態度を取ることが出来たのはこのベルトのお陰だ」

 草加「この中に勇気のある奴がいるなら、この組織の和を乱す不穏分子を

    即刻排除するべきだ、今すぐにな」

 智葉「おい、何言ってるんだ、草加!」

  怒りの表情を浮かべた雅人は、カイザギアを食い入るように見つめる

 幹部達を睥睨しながら、彼等が次にどうするのかをじっと観察していた。

 草加「どうした?怖気づいたのか?」

  雅人の煽りに顔を歪めた一人の幹部。

  彼はそのまま前に出てきて、雅人を睨みつけてカイザのベルトを腰にまわした。

 草加「そうそう。そういう風に使うんだ」

 草加「変身コードは913だ」

 幹部D「て、ててテメェ、ぶぶぶ、ぶっ殺してやる」

  一番最初に雅人に喰ってかかった幹部が怒りも露わに、雅人の指示通りに

 カイザフォンに変身コードを打ち込んだ。

 Ⅹ「Standing by」

 幹部D「変身」

 Ⅹ「Complete」

  震える手でカイザフォンのエンターキーを押した彼は、カイザギアに

 そのままそれを差し込んだ。

  全員が見守る中、幹部Dは黄色い光に包まれ、カイザへと姿を変えた。

 幹部D「よ、よっしゃー!」

 幹部D「こ、これでお前はこの組織に不要になった」

  幹部Dが変身できたことを受けて、水原を始めとする古参の幹部達は、

 草加雅人を合法的に排除できることに歓喜し、手を叩き喜んだ。

 木場「ひどい...どうしてそんなことが出来るんだよ」

  ただ一人、オルフェノクである木場勇治だけが、この状況の異常性を

 正しく判断できる存在だった。

 須賀「...木場、お前はこの無駄な話し合いが終わるまで

    口を閉じていた方がいい。絶対にだ」

 木場「それは?どういうこと...」

  京太郎の諦観に満ちた表情の理由を勇治は理解した。

 Ⅹ「error」

  カイザギアから放たれた不適合の音声に続き、再び黄色い光がカイザを包み込む。

 幹部D「あ、れ?どうして俺の変身が解けたんだ?」

  きょとんとした幹部Dはまず自分の手を見た。

 幹部A「おい、お前...どうして」

 幹部D「え?え、ええ?」

  事態が把握できない幹部D。

  だってそうだろう?

  自分の身体の至る所が灰化し始めている。

 幹部D「俺は、一体、何を」

  その一言だけを残し、哀れ幹部Dはその命を散らした。

 水原「お、お前は一体何者なんだ?」

 草加「だから言ったろ?俺もまた『選ばれし者』だって」

  仲間が一瞬にして灰になって散った様に誰もが言葉を失った中、ただ一人

 平然と雅人は水原に話しかけた。

 草加「このベルトを着ける資格の持ち主は旧人類に殆どいない」

 草加「旧人類をベースにしたiPS達でもその数は限られてくる」

 草加「分かっただろ?」

 草加「俺や須賀君がどれだけ危険な状況に置かれ、命がけで戦っているのか?」

 論より証拠。

  先に雅人に仕掛けた解放軍の幹部達はこれ以上

 何もいう事が出来ずに黙る事しかできなくなってしまった。 

  灰塗れのベルトを雅人は水原に差し出した。

  水原も今の光景を見ていなければ、いつか雅人を秘密裏に殺害してカイザの

 ベルトを奪おうと目論んでいた。

  しかし、あれでは呪いのベルトではないか?

  それに耐える体を持っている草加や須賀もまた自分達の敵の仲間ではないのか?

 というあらぬ予想が頭の中に渦巻き始める。   
 
 水原「わ、わかった。疑って悪かったよ、な?」


  ガシャンとベルトが自分のデスクの上に落とされた音で我に返った

 水原は慌てて手をこすり合わせて雅人に殺されないようにした。

 草加「フン」

  先程までとは一変した情けない水原を含めた連中を一瞥した雅人は、

 そのまま会議室から出ていった。

 水原「わ、わかったよ...」

 水原「宮永は自分の好きな護衛を伴って二日後にスマートブレインとか

    行きたい場所に行けばいい」

 水原「ほら、お前達も解散だ!」

 水原「聞こえなかったのか!解散だ!」
 
  水原は怒声と共に立ち上がり、会議室にいる全ての人間達を外へと追い出したのだった。

 洋榎「はぁー。オカン、絹...」

  愛宕洋榎は一週間前の事を思い出していた。

  二年もの間、自分を鉄の牢獄に閉じ込めた新党iPSの

 連中はとてもではないが許せない存在だ。

  しかし、日本の全てが何もかも全てが変わってしまった時に

 自分の身を挺してまで助けてくれたのが血を分けた家族だけだったという

 真実が彼女の心に今も強く突き刺さっている。

 洋榎「なんでや...なんで、こんな目に遭うんやろ」

  一応、名目上では自分は解放軍の幹部待遇だ。

  行動の自由や外出の制限は一応、他の解放軍が匿っている旧人類の

 一般人よりかは遥かに軽い。

  なので洋榎は解放軍のアジト近くにある廃遊園地、旧人類の数少ない

 人間達が閉塞的なコミュニティを形成して暮らしている居住区へと

 足を延ばしていた。

 八百屋「いらっしゃい...今日はねぎとレタスだけだよ」

 靴屋「靴はいらんかね~、一足、えーと一万円だよ」

 魚屋「干物だけなら何でもそろってるよ~」

  大阪の下町生まれの洋榎にとって、この光景は到底耐えられなかった。

 元来お祭り騒ぎが好きで、輪を掛けて活発だった彼女は、ここが子供が

 消えた後の活気がうせたハーメルンの街のように思えてならなかった。  

  尤も笛吹きは子供と一緒に残された大人たちの生きる

 希望すらも共に奪い去っていったのだが...。

  既に何もかもを失ったような瞳をしている人間達の

 死んだ魚の様な目に見続けられるのに耐えられなくなった洋榎は

 靴だけを買い、解放軍のアジトへと戻っていった。

  靴のサイズは28㎝の頑丈な作業用の靴だった

 洋榎「はぁっ、はぁっ」

  まだ全力疾走が出来るだけの体力が戻っていない洋榎にはそれに耐える

 精神の強さも戻っていなかった。

  その理由はもはや言うまでもない。

 洋榎「もう、いやや...」

 洋榎「誰も、なんも悪くないのに...どうして?」

  廃ホテルに帰る途中にある川の近くに腰を下ろした洋榎は膝を抱えて蹲り、

 涙を流し始めた。

  これだったら、いっそのことiPSの奴隷になった方がまだましだと思える

 悲惨な状況に洋榎の心は早くも折れかけ始めていた。

  今からでもここを抜け出し、最寄りの警察署にタレこめば

 すぐにでもカタが付くだろう。

 洋榎「アカン...でも」

 洋榎「絹...オカン...、会いたい」

  あの時差し出された手を掴んでいれば...。

  瞼を閉じると浮かび上がる家族の笑顔。

  それは、世界で一番尊くて...。

 木場「大丈夫ですか?」

  どうやら新入りの兵隊の一人が自分を見つけたらしい。

 洋榎「ん、ああ。なんや自分?」

  洋榎の前に立った男は、人間が持つべき美徳や善性の

 全てを兼ね備えた容姿をしていた。

  清潔感がある。確かにそうだ。

  誠実そうな感じがする。それもしっくりくる。

  よくわからないけど、何故か胸が高鳴る。

 木場「ああ、昨日付で解放軍に入った新兵なんだ」

 木場「木場勇治。貴女は?」

  木場勇治と名乗った青年は、恐らく自分と歳の差は殆ど変らないはずだ。

  二十歳を越えた洋榎だが、その振舞いや言動には未だに青臭さや、

 彼女の持つ無邪気さが残っている。

  だが、勇治にはその年齢に似つかわしくない程の落ち着きがあり、

 それが初心で奥手な洋榎の心へと絶対的な安心感をもたらしているのだ。

 洋榎「ぁ、うぅ...」

  かあっ、と頬に鮮やかな赤が差した。

 洋榎「洋榎、愛宕洋榎や」

 木場「そっか。よろしくね、愛宕さん」

  勇治は目の前で恥じらうように顔を赤らめる洋榎へと笑いかけた。

  洋榎はただその笑みに魅入られていた。

 勇治と洋榎は解放軍のアジトへ戻れなかった。

  川沿いを二人で手をつなぎながら歩きながら、周囲を見回した時に

 勇治は森の中に小屋を見つけた。

 洋榎『な、なぁ...。ちょっと雲行きが怪しないか?』

  洋榎が指差した空はいつの間にか雨雲が立ち込めていた。

 勇治『うわっ!雨だ』 

  ざああああと降り出した豪雨にびしょ濡れになりながらもなんとか廃屋に

 駆け込んだ二人はそのまま雨が止むのを待つことにした。 

  服が濡れ、びちゃびちゃに雨水が全身を濡らしている。

  随分と人がいなくなって久しい廃屋だったが、幸いにも居間には囲炉裏が

 設置され、埃を被り湿気ていたもののマッチがあった。

  勇治が囲炉裏の中の炭に着火する間、洋榎は落ちていたハンガーに勇治の服と

 自分の服を掛けていた。

  ようやく火が付いた暖炉に下着姿で腰かけた二人。

  勇治は上下とも黒のタンクトップとトランクス。

  洋榎は対照的に白のブラジャーとショーツ。

  気負うことなくごく自然に互いの視線が交差する。

 勇治「ん?どうかしたの」

 洋榎「恥ずかしい...」

  消え入りそうな声で顔をそむけた洋榎。

  勇治は火箸で炭をかき混ぜながら、そっぽを向いた洋榎の背中に目をやった。

  薄れてはいるものの、所々に裂傷や噛み傷、そしてタトゥーか何かが

 彫られていた皮膚を乱暴に切り取った痛々しい痕跡が見受けられた。

 木場「洋榎さん、寒くない?」

 洋榎「...なんや、変なこと考えてるんか?」

 洋榎「ええで、処女やないけど一発ヤるか?」

  寒さとは別の、思い出したくもない程の最悪の過去に身体を震わせた洋榎は

 何の脈絡もなく、勇治を押し倒し、そのまま唇を押し付けた。

  ねっとりと熱く滴る唾液が勇治の唇をこじ開け、その隙間から洋榎の舌が

 勇治の口腔に侵入する。

  勇治はなされるがままに洋榎のキスに応じた。

  洋榎は嬲るように勇治の舌や唇を甘くを噛み、対して勇治は自分の厚い胸筋に

 僅かばかりの膨らみをグイグイと押し付ける洋榎の下半身に自分の下半身を

 絡めながら、徐々にゆるやかな蠕動を開始する。

 木場「少しは温まった?」

  これ以上は自分の理性が保てそうにないと判断した勇治は洋榎の全身を抱きしめ、

 そのまま彼女と一緒に寝転がった。

 洋榎「なんや、もう終りかいな...」

 洋榎「やっぱり男は巨乳が好きなんやな」

 木場「それは否定しない。けど」

 洋榎「けど、なんや?」

 木場「もう少しだけ君を温めたい。いいかな?」

 洋榎「変わってんなぁ。じゃ、お願いしますわ」

  ふふっ、と母親譲りのたれ目をゆるませた洋榎は勇治の左胸に頭を押し当て、

 彼の心臓の鼓動を聞いた。

 洋榎「あ~ぁ、凄く落ち着くなぁ」

 洋榎「昔は絹の胸に抱かれることが今まで、この世で最高のぬくもりや。

    そう思っとった」

 洋榎「けど、待ってくれなかったんや...」

 勇治「もしかして、ご家族に何があったの?」

 洋榎「アホ、勝手に死なすな」

 洋榎「まぁええわ。ちょっと聞いてくれるか?」

  瞳を閉じながら、洋榎はゆっくりと口を開いた。

  世界が変わる前はな、ウチと妹、絹恵っていうんやけど

 姉妹揃って仲良く高校に通ってたんや。

  オカンがプロ雀士ってこともあったから、当然ウチも絹も麻雀を
 
 子供の時からずーっとやってきた。

  けどな、人には必ず秘密の一つ二つがあるんや。

  誰にも言えない性癖、心に秘めた破滅的な願望。

  
  それらは本来秘めるモンであって、表に出しては

 決してアカン存在なんや。心の中に檻をしっかり作って

 その中に全部をぶち込むしかないんや。

  三人寄れば文殊の知恵。更には派閥や似た者同士の同好会やグループができる。

  今、日本の政権を握ってる新党iPSやおもち党。その前身がなにか分かるか?

  そう、一部の異常性癖者が憲法を使って団体とは名ばかりの、自分達の

 馬鹿げた望みを叶える為の結社を作ったんや。

  今の日本を支配している二大巨頭。首相の原村和はレズで、大統領の

 松実玄は無類の巨乳好き。

  人倫に縛られる事なく性の解放の為に立ち上がる。

  それが妹が所属していた新党iPSのスローガンやった。

  信じられへんやろ?

  僅か17かそこいらの女子高校生があっというまに共感者や大金集めて、瞬時に、

 爆発的に国を席巻する一大勢力を築きあげたんや。

  iPS細胞がコテンパンに叩かれた時期があるやろ?

 実はアレ巧妙なカモフラージュやったんや。

  その存在が公表された時、既に秘密裏に実用化が完全に終了していたんや。

  適合者の体内にあるDNA配列の解析や、染色体の調整、被験者となった

 デザインベビーのその受け入れ先まで何から何まで全部整ってたんや。

  絹はその中でも最も適合率の高かった被験体で、完全に後遺症もなく

 iPS類への移行を果たしてた。

  いつやったかな?ウチが処女を無くしたのは。

  あー、そうそう卒業式の時の夜やった。

  そん時はオカンがな、おばあちゃんが危篤っちゅうことで

 実家に戻ってたんや。

  オトンは物心ついた時には死んどった。

  まさか妹にレイプされるとは思わんかったから、一緒の部屋で寝たんや。

  夜の三時くらいに、何か胸騒ぎがして目が覚めた。

  すっぽんぽんの全裸で手足がな、ベッドに頑丈な鎖で拘束されてた。

  押し入り強盗やったら、まだ憎悪程度で済ませられてん。

  けど、その犯人が自分の血を分けた妹やったらどうや?

  悪夢やろ?お姉ちゃんずっと大好きやった。愛してる。

  ゲームじゃあるまいし、何言うてんねん。

  けどな、パジャマの一点が異常な程にもっこりと凄く盛り上がってるのに

 気が付いてもうた。

  普通レイプ魔っていうのは目が完全に性欲に溺れているっちゅう話や。

  けどな、絹は狂ってなんかいなかった。正気のままやった。  

  正気のまま道を踏み外したんや。

  こう、な。ウチの股をぐいっとおっぴろげた後、絹はパジャマを乱暴に

 脱ぎ捨てて裸になった。

  その間ずーっとぶつぶつ何かを呟いてるんや。

  「お姉ちゃん、なんであかんの……」
  
  「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん……」

  ブツブツが聞き取れなくなった後の一言、
 
  「ねえ、お姉ちゃん……私と、付き合って……」

  その一言でウチはもう逃げることを諦めた。

  絹に覆いかぶさられて、ウチは何度も必死に抵抗した。

  けどダメやった。ウチも絹の事が大好きやったから。

  心の奥底では絹が正気に戻って謝ってくれると信じてた。

  けどな、でっかいアレの先走りが凄い量でウチの下腹部を

 濡らし続けてたんや。

  身体中の至る所を舐めつくされて、吸われ続けてウチはもうなんも

 考えられなくなった。

  愛してる、結婚して。

  アホ抜かせ、ウチはレズやない。ノーマルや。

   そう言ったら絹がガチでキレた。

  お姉ちゃんは何もわかってない。世界は変わる。

  どうして愛し合う二人が引き裂かれなければならないの?

   だったら、どないするっちゅうんや?

  ...お姉ちゃんに私の子供を産んでもらう。

  

  絹が鎖を外した時にはウチは既に駆け出した。部屋から逃げたかったんや。

  けど、部屋を出る前に絹に腰を掴まれて、そのままズブリと

 合体させられてしもた。

  必死に足掻いて足掻いた。けど、けど...。

  絹はそのたんびにウチの首筋に噛みつきまくった。

 血がタラタラ~って首筋を伝う感触があれほど悍ましいとは思わんかったなぁ。
    
  駅弁の体位でぬぷぬぷと出し入れされる絹のアレでウチは何回も何回も

 イッてもうた。

  絹は結局夜が明け、朝になるまでずーっとウチをレイプし続けた。

  その後は、よう覚えておらん。

  精液でドロドロになって気を失いそうな体に鞭打って住み慣れた

 我が家から逃げ出したんや。

  助けてくれ、助けてくれって何度も叫んだ。

  おまわりさんは助けてくれへんかった。
    
  結局、精液塗れのウチを保護したのは龍門渕のお嬢様だった。

  なにやら不穏な動きをする同性愛を推進する集団が財政界に強い悪影響を

 及ぼし始めている。

  iPS細胞を作った人間達が次々に殺害される中、その技術が悪用された

 痕跡を持つ人間達が数ヶ月間に爆発的に増加している。

  で、聞いたんや。悪用される人間にはどんな共通項があるのかを。

  そしたらな、貧乳や被害者と一番親しかった人間がそいつに対して

 友情以上の感情を抱いているケースが七割を超えてるんやと。

  もし貴女が協力してくださるのでしたら、貴女をひどい目に遭わせた

 連中に罰を与える力と大義と組織を与えましょう。

  幸いにも日本のマスメディアは新党iPS派と日本政府が抑えている。

  故に合法非合法を問わず彼等に対し、あらゆる対策手を講じることが可能です。

  日本の秩序を守る為です。協力を願います。

  一も二もなくその話に飛びついたわ。

  そっからやったな、ウチがヘテロ党に入党したのは。

  うん?ヘテロ党とかまないた党が一体何をやってたのか?

  そうやなぁ、一言で言えば狂ったiPS類をとっ捕まえ、尋問して、

 その被害者を保護し続けたんや。

  iPS類の走り、まぁ、プロトタイプみたいなもんや。

  そいつらはな、えーっと、男性ホルモンの異常分泌やったか...、

 とにかく脳やら身体に変調をきたした奴等は、手当たり次第身近な女どもを

 襲い始めた。

  とにかく勃起が治まらない。

  ムラムラすると見境なく誰かを犯したい。

  まぁ、年齢制限があったのがせめてもの救いや。

  で、その解決策として出来たのが、悪名高いおもちカースト制度や。

  その時にはおもち党が新党iPSと連立する話が大分な、大詰めになってた。

  極端な差別制度ではあるけど、その後の研究によって、iPS類となった連中には

 ある共通項があったんや。

  そう、磁石の様に真逆の性質を持つ異性や同性に惹きつけられるんや。

  貧乳は巨乳、みたいな感じで自分にないセックス・アピールを持つ人間が

 その...レイプ被害に遭っていたことが明らかになったんや。

  SEXの時以外は、いたって何も変わらない自分の身内や友達や。

  だけど、ほら心の傷があるやん。

  だから、松実達はそういった都合の悪いことだけをひた隠しにして

 自分達から目をそらさせる隠れ蓑として、またiPS類の性の暴発を

 最低限の『自家発電』程度で収めさせる為におもちカーストを

 日本全国に敷いたんや。

  で、これはおもちカースト制度が出来た後の話なんやけど...

  ウチがいたヘテロ党は、そんな一部のバカどものせいで本来の使途から

 外れて生まれた怪物であるiPS類の連中、そいつ等によって引き裂かれた

 男女の無念を晴らすべく動いていた政党。

  まないた党は貧乳女子や年端もいかない子供達が愛玩動物の代用に取って

 代わる風潮により、性的に虐げられた彼等を助けて保護し、精神のケアに

 あたった政党やった。

  血で血を洗う抗争や。

  殺し殺され、遺恨が祟ってはまた殺しあうんや。

  修羅道の世界に日本が徐々に染まり始めた。

  次の世紀の覇権を賭けた闘いの火蓋が切って落とされた。

  けど、iPSやおもち党は己の力を得るためにあらゆる手段を講じたんや。

  iPS細胞とナノテクノロジーを組み合わせた最強最悪のウイルス兵器を

 搭載した人工衛星を宇宙に打ち上げ、手始めに日本、オセアニア、

 ヨーロッパを陥落させた。

  当然、その中には各国の要人が含まれてん。

  朝起きたら自分のチンコが消えてた。顔と体つきはそのままなのに

 どうしてこうなったんだ?

  そんなの恐怖以外の何物でも無いやん。耐えられる訳ない。

  彼等が原因を突き止めるのには全く時間がかからなかった。

  元凶となった日本に犯人がいると断定した各国政府は日本に

 宣戦布告をしたんや。

  けど、そのナノテクの副作用がその死の雨を浴びた連中に起きたんや。

  ふふっ、愕然とした顔をしてるなぁ。

  そう、人間のオルフェノク化や。

  いきなり自分の見知った人が灰になったり、灰褐色の化けもんになって

 襲い掛かるんや。

  世界崩壊のプレリュードや。

  今にしてみれば、そん時の日本政府の首脳陣は全員iPSの魔の手に

 囚われてたんやろな。

  今、不覚にも笑ったやろ?

  還暦に近い、あるいは60過ぎの人生の円熟期を迎えているお偉方の身体が

 ツルツルの無毛地帯やったり、バインバインな爆乳やったら、結構笑えるやろ?

  ま、軍備も金も労働人口も周辺諸国に劣っていた極東の死につつある

 黄金の島、ジパングがようやく世界の全てを掌握したんや。

  それから日本の首脳陣達は、今の日本を支配しているトップが党首を

 務める政党に全政権を譲渡し灰になった。

  ウチ等も負けじと政界進出を果たしたんや。

  けどな、どうしても後手に回ると反則や禁じ手を使わざるを得ない

 状況に陥らざるを得なかった。

  闇討ち、暗殺。

  命令を出すのもしんどいし、出された側もいややろ?

  離反、裏切りは日常茶飯事。それで四年は保った方や。

  だけど、第一回掃討作戦と称されたiPS側からの一方的な大虐殺で

 パワーバランスが大きく傾いてもうた。

  旧人類の矛と盾、その大半を担っていた辻垣内組が手始めに血祭りにあげられ、

 次に日本に住む男達の大半がおもち党と新党iPSに懐柔された。

  そりゃそうや。

  奴らに頭を擦り付けてへつらえば一人に一人ずつ必ず性奴隷が付くんや。

 ペドフィリアやロリコンには堪らん世の中やろ?

  エロゲメーカーも真っ青や。

  中世に行われた魔女狩りを凌ぐ密告と裏切りの嵐が常識や倫理が

 崩壊する前の日本を席巻したんや。

  マシュー・ホプキンスなんて目やないで。

  中世では密告した魔女の財産を丸ごと貰える話やったらしいけど、

 日本では一人に一人だけの奴隷が密告するごとに一人増えるんや。

  ハーレム万々歳やろ?

  そんな世紀末の嵐が吹き荒れる中、ウチと淡は遂に捕まった。

  淡は一時的に菫のペットになり、ウチは幸か不幸かわからんけど、

 一時的に家族の元に戻された。

  保護監禁処分や。

  処分が下されてから三ヶ月後、恐れてた事態が遂にウチに起きてしもうた。

  妊娠や。同性の近親相姦による子供をウチは身籠った。

  オカンはその知らせを聞いた時に、泣き崩れたわ。

 『ごめんな。洋榎』

 『絹の暴走もお前の悲しみを知って尚、助けて

  受け止めることが出来ない自分が凄く情けない』

 『贖罪としてアンタ達の子供は必ずウチが育てる』

 『洋榎、洋榎...』

  それから九ヶ月後、ウチは女の子を出産した。

  父親はウチの初めてを奪った他ならぬ絹や。

  生まれたばかりの我が子と早々に離されたウチを待ち受けていたのは

 地下軍事研究所の収容施設への無期限収容の刑やった。

  そっから後は須賀が来るまで人体実験されとったわ。

  今の自分は人間やけど、あまり長くない。

  死んだあとは灰になるんかな?

 洋榎「ふぅ、大体一時間でウチの転落人生の殆ど全部を語り尽くしてもうた」

 木場「...子供の名前は、なんていうの」

 洋榎「決める前に、取り上げられてもうたからな」

 洋榎「男やったら勇人って名前にしたろかと思ってん」

 木場「そっか...」

  性行後のような、奇妙で気だるげな余韻が二人の間に流れていた。

  一時間に亘る洋榎のあまりにも凄惨な過去を期せずして聞かされてしまった勇治。

  己の境遇とは異なった悲しみを背負う洋榎に対して、彼の心の中には

 憐憫の情と、そんな彼女を自分が必ず守らなければいけないという

 強迫観念めいた義務感が生じ始めていた。

 洋榎「さてと、雨も止んだ。服も靴も乾いた」

 洋榎「こんなかび臭い所にいたら、気が滅入ってまう」

 洋榎「ありがとな」

 洋榎「出来ればな。また寂しくなったときにウチをさっき

    みたいに抱きしめてくれればありがたいんやけどな」

 木場「ああ、いくらでも俺が胸を貸すよ」

 木場「だから、そんな辛そうな顔をしないで...」

 洋榎「そりゃ無理や。けど」

  服を着て、靴を履いた洋榎は勇治の背中に抱き着いた。

 洋榎「折角だから、解放軍のアジトまでおんぶして」

  勇治は黙って洋榎を背負って歩き出した。

 首都、ピンクハウス内部の一室


 咲「京ちゃん...お姉ちゃん」

 和「須賀君に会いたいですか、咲さん?」

 咲「和ちゃん...。ううん、もういいの」

 咲「今の私には和ちゃんが全部だから」
 
 咲「お腹の中の子供の遺伝子には、京ちゃんは一片たりとも入っていない」

 和「そうですね。今の咲さんは須賀咲ではなく」

 和「原村咲なのですから」

 咲「でも...」

 和「先程、スマートブレインの小鍛治さんから連絡が入りました」

 和「二日後にお義姉さんと須賀君が秘密裏に貴女に会う手筈が整っています」

 咲「ありがとう。和ちゃん」

 和(咲さんは今、臨月を迎えている)

 和(出産予定日は一ヶ月を切り、いつ私との子供を彼女が出産しても

   おかしくない状況です)

 和(出来る事なら、須賀君とお義姉さんに私達のことを認めて貰いたい)

 和(虫のいい話だけれど、私は咲さんを何が何でも...幸せにしなければならない)

 和(彼等をオルフェノクに抗する先兵として、我々の陣営に引き込みたい)

 和(後戻りができない程、私達は地球の生態系を変革し過ぎた)

 和(世界最強のアメリカの掌握と牽制がようやくここに来て実を結ぼうとしている)

 和(全世界に残存する大量破壊兵器を全てまとめ、宇宙の彼方に廃棄する

   計画も大詰めです)

 和(咲さん...貴女と、私達の子供は絶対に私が守る)

 和(だから安心してください)

 和(その上で立ちはだかるというのであれば...)

 和(私は誰であれ、[ピーーー])

 和(必ず殲滅して、私の愛と希望を守りきる)

 東京、スマートブレイン社


  俺と宮永照を始めとする六人は革命軍のアジトを朝早くに立ち、

 スマートブレインが用意した車両に乗り込み、首都圏内に潜り込んだ。

 雅人「...真理」

 勇治「海道、結花...やっと」

 辻垣内「照、お前顔色が悪いぞ?唇が真っ青だ」

 照「気にしないで、智葉」

 照「ようやく反撃の狼煙を上げる切っ掛けを手に入れた」

 照「武者震いが止まらないだけ」

  宮永照と辻垣内智葉と対照的に草加雅人と木場勇治は

 トレーラーに揺られながら眠っていた。

  時々聞こえる彼等の寝言は、きっと彼等にとってかけがえのない大切な

 仲間達の名前なんだろう。

 水原「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」

 水原「この車はスマートブレインにちゃんと向かってるのか?」
    
 京太郎「ああ、大丈夫だ」

 京太郎「仮に山奥や海に廃棄されても、その時はその時だ」

 京太郎「ただ、俺達の人生が終わるだけだ」

  青ざめた表情を浮かべ、しきりに唇を舐める水原。

  揉めに揉めたが、結局俺達は水原をスマートブレインの交渉会議へと伴う事を決めた。

  解放軍のリーダーを差し置いて、新参者が今後の解放軍の中心になることを

 阻止する為と言う名目で無理やり周囲を納得させ、辻垣内智葉が水原を強引に

 しょっ引いてきた。

 運転手「皆様、スマートブレイン日本支社到着まで三十分ほどです」

 運転手「皆様の席の下にスーツをご用意してあります」

 運転手「小鍛治社長のご意向です。必ず着用をお願いします」

  考えを遮るようなアナウンスに全員が座席の下を探る。

 雅人「これは、須賀のスーツか...」

  草加が立ち上がり、俺の名前が書かれたスーツケースを

 手渡し、俺の席の下にあった自分のスーツケースを持っていった。

 辻垣内「中々上等な仕立てじゃないか」

  笑いながらスーツに袖を通した彼女は久々に晴れやかな笑顔を浮かべていた。

 辻垣内「フォーマルスーツも中々悪くない」

 照「智葉、ネクタイ締めて?」

  仲の良い姉妹のように世話を焼きつ焼かれつ服を着替える照と智葉のやりとりが

 何故だか無性に悲しさを誘った。

 運転手「まもなくスマートブレインに到着します」

 運転手「皆様、お忘れ物の無いようにご注意ください」

  運転手のアナウンスと共に、トレーラーの扉が

 音もなく、荘重に開いた。

 スマートブレイン日本支社社内


 ??「はーい、皆さんこんにちは~」

 ??「今日はぁ、このスマートレディがみなさんのガイドを一日中

    務めさせてもらいまーす」

 京太郎「部長...アンタもか」

 竹井「久しぶりね~。須賀君」

  トレーラーから降りた俺達を待っていたのは、かつて

 俺がいた高校の麻雀部の先輩だった。

  青いタイトなヘビータイプのレオタード服に身を包み、甘ったるくて

 鼻にかかるような、まるで人を小馬鹿にした話し方は、俺の知っていた

 竹井久と眼の前の女がもはや別人であるという事を示していた。

 水原「とりあえず早く案内しろよ」

 水原「お前達のようなバケモノがいつ襲ってくるかも分からない状況に俺達はいる」

 竹井「ひっどーい。ぷんぷん」

 竹井「お姉さんはショックを受けました。えーん」

 竹井「でもでもぉ、優しいスマートレディちゃんはぁ、こわーい

    人間達を約束通り、小鍛治社長の元へと送りまーす」

 竹井「さ、みんなこっちに来て~」

  ひらひらと蝶が舞うようにエレベーターに案内するスマートレディの

 後姿を見ながら、俺は衝動的に部長に声を掛けようとした。

 辻垣内「やめろ、余計につらくなるだけだ」

 須賀「人のプライバシーに土足で入りこむな」

  肩に手を置いた辻垣内の優しさを払いのけた俺は、水原に続いて

 エレベーターに乗り込んだ。

  全員がエレベーターに乗り込んだのを確認したスマートレディは、

 ドアを閉め、最上階のボタンを押した。

 スマートブレイン日本支社、社長室

 
 竹井「失礼します。スマートレディです」

 竹井「人間解放軍の六名の代表を連れてきました」

  鋼鉄の扉に閉ざされた社長室。

  スマートレディが用件を手短に告げると、ゆっくりと重量感溢れる扉が

 音を立てて開いた。

 小鍛治「ほんとに来たんだね。まぁ来ると思ってたけど」

  社長室の中央にあるデスクに深く腰かけている女がスマートブレインの

 日本支社のトップ、小鍛治健夜だ。

 小鍛治「草加君、またまた男前になったね~」

 草加「...貴様、澤田と沙耶はどこにいる?」

  カイザギアを腰に巻き付け、餓狼の如き殺意の波動を健夜に叩き付ける草加。

  その表情には、人間性の欠片もなかった。

 小鍛治「そんなに慌てないでよ~。会いたいんでしょ?」

 小鍛治「沙耶ちゃん。澤田君。草加君きたよ~」

  その一言に草加を除く全員に緊張が走った。

  辻垣内智葉と木場は宮永照を後ろに庇い、俺は腰の

 ファイズギアに変身コードを入力したファイズフォンを勢いよく差し込んだ。

 小鍛治「あれ?あれ?どうしてこないの~?」

 ハギヨシ「健夜様、彼等は今LEO様と共に戦闘訓練中です」

 ハギヨシ「草加様、須賀様。どうかここは穏便に願います」

  瞬時に姿を消したハギヨシさんは、あっというまに

 草加の背後をとり、カイザフォンを抜き取ろうとした。

 草加「貴様ッ!」

  間一髪カイザへと変身した草加はハギヨシの右足甲を

 踏みつけ、そのまま十分な距離をとった。

 草加「須賀ァッ!何をしている?変身しろッ!」

  草加とて百戦錬磨の経験を持つライダーズギアの適合者。

  にも拘らずハギヨシさんとの直接勝負を避けたのは...。

 京太郎「変身」

  分かりきったことをわざわざ考える事は無駄だ。

  俺はファイズに変身し、睨み合う草加とハギヨシさんの間に割り込み、

 仲裁に入った。

 京太郎「草加、俺達は話し合いに来たんだ」

 京太郎「自衛の範囲で今なら済ませられる」

 京太郎「変身を解け」

 草加「そこをどけぇ!」

 草加「奴等には最初から話し合う気などさらさらないッ!」

  草加はブレイガンをホルスターから抜き、俺に詰め寄る。

 沙耶「雅人、雅人なの?」

  俺のすぐ真後ろから甘い金木犀の香りが漂っていた。

  慌てて瞬時に後退すべく、足を撓めるが、まるで強力な接着剤に

 地面に張り付けられてしまったかのように、足が 動かない。

 澤田「くっくっく。同窓会以来だなぁ。草加」

  電話越しの声の主達がその姿を俺達の前に晒す。

 沙耶「こら雅人、誰かを困らせることをしちゃダメでしょ」

 沙耶「罰としてカイザギアは没収します」

  目にも止まらぬ速さで沙耶はカイザギアを毟り取った。

  黄色い光に再び包まれた雅人は生身に戻った

 LEO「The man who has no imagination has no wings.」

   (想像力のない奴は、翼を持てない)

 LEO「To say Good bye is to die a little.」

   (さよならをいうのは、少し死ぬことだ。)   

 LEO「Before you point your fingers,

   (指をさして人を非難する前に、

    make sure your hands are clean.

 君のその手が汚れていないか確かめてくれ)

 LEO「become cool -- an article of virtue」

   (クールになれよ、早とちり君)

  鋼鉄のドアを力ずくで押し開けた最後の一人。

  彼は何者にも囚われることのない悠々自適さを、漲る自信と共に

 その全身から発散している。

  それは発散と言うより、絶対的王者の風格だった。

 LEO「President,They carry hastily the situation

  (社長、彼らは些か以上に自分達が直面している

where one are faced rather above, too much.

    事態を性急に運びすぎている)

 小鍛治「んもう、言われなくてもわかってるよ!」

 小鍛治「ほら澤田君は蜘蛛の糸を解く!沙耶ちゃんは

     元彼だか何だか知らないけどとにかく離れて!」

  パンパンと手を叩き、手下のオルフェノク達を下がらせた小鍛治健夜は

 ここでようやく俺達を直視した。

 小鍛治「全くもう、みんな聞かん坊なんだから」

  苦笑いを浮かべながらも、沙耶が手渡したカイザギアを力を込めて

 圧し折ろうとするその姿に改めて全員が緊張を隠すことなく、彼女を見守る。

 澤田「社長、俺もカイザに変身して良いっすかぁ?」

 澤田「泣き虫雅人の大事なものを久々に穢してやりたい。

    今はそんな気分なんですよ」

 ハギヨシ「澤田君、これ以上下衆な事を言わない方がいい」

 ハギヨシ「木村さんに殺されたいのですか?」

 ハギヨシ「社長。スケジュールも大分押しています」

 ハギヨシ「お戯れに興じるのも、ここが潮時かと」

 小鍛治「ハギヨシさんがいうならしかたないか」

 小鍛治「草加君。カイザギア返すね」

  ポーンとカイザギア一式を草加に放り投げた小鍛治。

  それを動じることなく掴み取った草加の表情は屈辱と憤怒に染まっていた。

 小鍛治「さーてと、それじゃあお話を始めますか」

 照「単刀直入に言う。iPS類は一体何を企んでいるの?」

 健夜「へぇ、いきなりそこから突いてくるのかぁ...」

 照「政府と結託して例外的な特権階級のトップである

   オルフェノクの長である貴女なら知っている筈」

 健夜「答えは簡単。オルフェノクの絶滅と貴方達残りの旧人類を

    完全にiPS類に変化させるつもりだよ」

  解放軍、オルフェノクのトップの会談は最初からトップギア全開で始まった。

  照の質問に当然のように、俺達が恐れている最悪の結末をすらすらと

 紙を読むように伝える小鍛治。

  隣にいる木場が息をのみ、水原はがたがたと震えていた。

 健夜「先月の終わりごろ、日本が完全な同性婚可能な国に

    なったのは知っているよね?」

 健夜「今まではiPS類の結婚は認められていなかったけど

    来月の中頃からは、同性同士の結婚ができるようになる」

 健夜「そこはもう、須賀君が研究所から盗んできた資料に

    詳しく書いてあると思うんだけどな」

 照「6月14日に私の妹と原村和が結婚する」

 照「その前に咲を救い出したい」

 健夜「無駄だと思うよ」

 照「どうして?」

 健夜「人間を捨てた怪物に魅入られた人間の末路なんて

    殆ど決まったようなものじゃない」

 照「まだ、そんなことになったと決まった訳じゃない...!」

 健夜「ま、幾つか条件を呑んでもらえれば、妹さんに確実に会えるように

    取り計らってあげる」

 辻垣内「照、耳を貸すな!」

 京太郎「黙ってろ!」

 照「話の内容を聞かせて」

 健夜「まず一つは、人間解放軍がオルフェノクとiPS類の

    戦いにおいてオルフェノクの味方になる事」

 健夜「スマートブレインの正体を知ってるでしょ?

    そしてベルト適合者が何者なのかも」

 草加「おい、それはどういうことだ!」

 健夜「二つ目に現政府の重役達の暗殺。わかるよね?」

 健夜「私達が貴方達にターゲットを依頼する。その度に
  
    確実に、完全に殺してほしい」

 健夜「勿論、オルフェノクの側からもちゃんとした腕を持つエージェントを送る」

 照「続けて」

 健夜「第三に...」

 健夜「宮永照、貴女がオルフェノクになること」

 ―――

 ――

  小鍛治健夜が出してきたあからさまな数々の条件。

  その最後に出された条件は、俺達『人間』にとって到底受け入れがたいものだった

 辻垣内「馬鹿な、そんなこと許されるはずがない!」

 辻垣内「照、耳を貸すな!」

  そう、今ここで宮永照が頭を縦に振れば、その瞬間ここにいる俺達は

 全員iPS類と同じような、いや、それ以下の存在に成り下がってしまう。

 救世はあくまでも人の手によってなされることだ。

  それは決して人の尊厳を棄てた怪物には成し得ない。

  だが...怪物は俺達の尊厳を毀す為の甘言と毒を

 常にその手の中に隠し持っている。

 辻垣内「お前まで人間を捨ててしまったら...私は」

 照「...」

 健夜「オルフェノクが手を指しのべる相手は同胞だけ」

 健夜「今、私が人間である貴女に対し、どうして

    こんな話をしていると思ってるの?」    

 健夜「貴女の後ろに私達の同胞が控えているからだよ」

 健夜「そうだよね?須賀君、木場君」

  ....。

 木場「僕は、俺は...人間だ」

 水原「おいおいおい聞いてねぇぞ!そんなこと」

 水原「なんだよなんだよなんだよ!」

  遂に精神の限界を振り切った水原が発狂した。

  ぼさぼさの髪の毛を頭皮から思いきり引き剥がしては泣き喚いて、

 宮永照を掴み揺さぶり始めた。

 水原「じゃあ、じゃあお前は本当は人間じゃなくて、

    オルフェノクのスパイだったのかよ!」

 辻垣内「黙れ水原!」

 辻垣内「照に向かってそんな口を叩くんじゃない!」

  宮永照の首を絞め始めた水原の鳩尾にデルタギアの入ったケースを

 ぶち込んだ辻垣内智葉は、怒りの眼差しを俺達に向けてきた。

 辻垣内「お前達...、やっぱりそうだったんだな」

 辻垣内「あの日地下室から漏れ聞こえてきた諍いは

     嘘なんかじゃなかったんだな!!」

 木場「...」

 京太郎「...」

  オルフェノク達との対談は阿鼻叫喚の様相を呈し始めてきた。   

  俺も木場も正論に何も言い返すことは出来ず、草加はここにいる全員に

 憎悪の眼差しを向けている。

  水原は奇声を上げながら、床を転げまわり、辻垣内智葉は必死の形相で

 泣き出しそうになる宮永照を抱きしめていた。

  そんな人間達を横目に、ハギヨシはかつて自分がまだ人だった頃に

 己を慕ってくれた青年に視線を向けた。

 LEO「Hagiyoshi(ハギヨシ)」

  ハギヨシの怪しい視線に気が付いた彼の上司、現存するオリジナルの

 オルフェノクの中でも選ばれた存在、ライオンオルフェノクのLEOが

 ハギヨシに声を掛ける。

LEO「As for that man

   (ファイズのベルトの隣にいる男、

    that is next to the conformity person of Faiz's belt,

    彼は上級の、それも伝説種のオルフェノクだ)

and him, the upper it is also legendary Orphenoch.」

 LEO「Furthermore, I am secure if the youth about whom

   (更に、君の気にかけている青年も

    you are worried also goes into our friend.」
   
    我々の仲間に入ってくれれば心強い限りだ)

    
 ハギヨシ「LEO.I think so.(LEO、貴方の言う通りです)

  元々の身体的ポテンシャルが高かったハギヨシは死後、蝙蝠の特質を

 備えたオルフェノクへと変成した。

  彼は生前密かに銃や飛び道具を愛好していた。

  その名残なのか、武器は二挺拳銃やブーメラン等の飛び道具だった。

  オルフェノク化によって更に向上された身体能力。

  傍から見れば「適当に撃ってる」とも思えるほど無造作に連射した多数の弾丸を、

 跳弾などすら利用し、全て目標の急所に的確に命中させることが可能となった。

  ダブルアクションによる射撃ながら、その腕はまさに非凡の一言に尽き、

 高い命中精度を誇る。

  それはハギヨシを至上最強の魔弾の射手たらしめた。
  
  彼もまた最初の内は、iPS類やオルフェノクに襲われる人間達を

 その圧倒的な強さで救って回ったのだが、LEO率いるスマートブレインの

 精鋭部隊に囲まれ、三日三晩戦った末に、LEOに敗北した。

  その後ハギヨシはスマートブレインに拾われた。 

 ハギヨシ「However, it is sacrificed to the ideal which

     (しかしながら、彼等には私と同じように

      should be protected like me to them,

      守るべき理想や尊ぶべき愛に殉じています)     

      and the love of which it should think much.」

 ハギヨシ「Aside from him who satisfied you completely,

     (君を完全に満足させた彼はともかく、京太郎君が

      there is no possibility that Mr.kyoutaro

      我々の側に靡く可能性は皆無でしょう)

will bend to the we side.」

 LEO「Huh!you will not have time?

   (随分と余裕だな?君には時間がない筈だぞ?

persuading him at this golden opportunity --

    この好機に彼を説得したらどうだ?旧知の中なんだろ?)

it will be in ? old acquaintance?」

 LEO「probably understands --

  
   (社長の性格は分かっているだろう?   

    the promise which she made is not broken

    彼女は交わした約束は絶対に破らない。絶対にだ)

    by any means.」

 LEO「The woman there can get an opportunity to save

(社長が提示した好条件と自分を引き換えに

    one's younger sister absolutely in exchange for

    そこの女は自分の妹を救う機会を絶対に得られる)

the conditions to show.」

LEO「I cannot understand what they are hesitating.」

   (俺は彼らが何を躊躇しているのかが理解できないね)

 ハギヨシ「LEO、そろそろ社長が口を開きます」

 ハギヨシ「我々はただ黙して待ちましょう」

 LEO「Yes,sir」

 ――

 ―

  唐突に話は変わるが、ここでオルフェノクとiPS類の主張に目を向けよう。

  オルフェノクの理念はオルフェノクによる世界征服。

  iPS類の理念は同性愛者にとっての楽園を作りたい。

 両者共にあまりにも単純明快である。

  オルフェノクは旧人類の特徴を残す種である。

  人間の中から半ば自然的に発生する存在であるため、種全体として組織化や

 分類されているわけではない。

  スマートブレインはオルフェノクとして覚醒した者が現れると、

 いち早く接触を図って同種として受け入れ、オルフェノクに関する知識と

 援助を与える一方で、その管理下に置こうとする。

  しかし、スマートブレインの情報収集能力や統制力はその強大な権力とは

 裏腹に限定的なものに留まり続けている。

  なぜか?

  それは、オルフェノクには理性が残っているからだ。

  いずれ人間に自分の正体が露見し、殺害、あるいは研究材料として

 解剖されたとしても、ちゃんと痛覚もあれば、他人の痛みに共感することが出来る。

  最も、オルフェノクになった後も人間性を保ったまま過ごせる

 オルフェノクは圧倒的に少ない。

  理性が本能に凌駕され、殺されるからだ。

  命、形、姿がたとえ異形と化しても尚生きたい。

  だが、人間は同種と異なる存在を管理、淘汰する。

  我々を[ピーーー]?やってみろ。

  お前たちが我々を淘汰するのなら、我々もお前達から

 全てを奪い、その立場へと成り変わってやる。

  かくしてスマートブレインは歴史の表舞台へと躍り出た。

  新たな種であるiPS類の台頭前は闇に埋もれながらも、王の帰還を待つため。

  そしてiPS類の台頭後は、理性を保ちながらオルフェノクと同等の力を

 手に入れ、更に同胞達をiPSの走狗と化させるその卑劣さに激憤しながら、

 iPS類と競うようにして爆発的にその数と勢力を増やしていった。  
  
  現在iPS類とオルフェノクには、これは旧人類の殆どが知りえないことだが、


 停戦同盟が結ばれている。

  スマートブレインが管轄する、あるいは死後覚醒したオルフェノクや襲われて

 オルフェノクになってしまった、生きる場所を失った人間達へ、日本政府が

 かつて旧人類に保障されていた経済活動、及び自由を全面的に保障したのだ。

  勿論、iPS類はその見返りとしてスマートブレインの技術とオルフェノクを

 裁く権限の譲渡などを迫り、スマートブレインは武器開発研究の成果の大半と

 殺人を犯したオルフェノクを日本政府に引き渡す条文にサインした。

  しかし、これが一部の政府の上層部を含めるiPS類の逆鱗に触れた。

  それは、松実玄や原村和が数の暴力で押し通した人権の不平等を覆い隠す上で

 必要なふざけ...もとい必要な制度、おもちカースト制度を根底から

 ひっくり返すと分かっていたからだ。

  人権を無視した奴隷制度でありながら、それを支持する奴隷の数が

 一向に減らない理由は彼等の行動すべてを是認することによって得られる

 優遇措置が垂涎モノだからである。

  iPS類の大半は女性である。

  かつてとある歌人が歌ったように、かつて月だった女性が太陽へと成り代わった

 ことにより、その座を追われた男達を待ち受けていた現実は、生きる場所も

 権利すらも剥奪された存在の烙印を押されたことである。

  しかし、おもちカーストにただ頷き、一部の条件を是認し、実行に移すだけで、

 カーストと見做された不適合者、貧乳だったりノーマルな性癖の持ち主である

 異端者を有無を言わさず、自分の所有物にできるのだ。

  裏を返せば、どんな人格破綻者や容姿に著しい問題を抱えている男達でも、

 歪んだ形であれこそすれ、人並みの幸せを手に入れられるのだ。

  かつて太陽だった頃の時代のように自分の家庭を持ち、絶対者として君臨し、

 王様の如く振る舞う事ができるのだ。

  その対価として、おもちカースト恭順者となった男達には兵役や食糧生産などの

 苛酷な労働を強いられるが、その点においても、しっかりとした福利厚生や

 きちんと出る高額な給料、週休二日制、そして過労死や残業が殆ど皆無と

 あれば誰だって命や時間を惜しんで働くだろう。

  世界征服を目論むiPS類とオルフェノク。

  かたや数の暴力と技術力。

  かたや質の向上と団結力+αのオルフェノク軍団。

  貴方は果たしてどちらの側に付きたいだろうか?

 沈黙、憎悪、惑い、猜疑、叫喚、そして決断。

  照達が答えを出さなければならない時が遂に来た。

 照「私は...まだ、オルフェノクになることは出来ない」

 健夜「うん。それは保留にしてあげるよ」

  照の苦悩が凝縮された一言をいとも容易く肯定した

 小鍛治はにこやかに笑って、俺達に意見を求め始めた。

 健夜「そうだねぇ、他のメンバーの意見も聞きたいかな」

  草加雅人は忌々しげに全員を一瞥した後、真っ先に口を開いた。

 草加「...不本意極まりないが、俺は賛成する」

  意外な事にこの中でオルフェノクを一番憎悪している筈の草加が

 同意を示したことに全員が驚いた。

 草加「そこのバケモノどもをアンタ達が今すぐ殺してくれれば」

 草加「後は、解放軍の子供達をオルフェノクにしなければ」

 草加「俺はアンタ達の策に乗ってやる」

 辻垣内「草加...お前」

  呆然としながらも、改めて智葉は雅人の意志の強さに瞠目した。

  最初から嫌な奴だとは思っていた。

  智葉なりに草加雅人の事を端的に現すのならば「もの凄く嫌な奴」だ。

  それと同時に智葉は雅人が嫌な奴にならざるをえなかったのは、

 幼少期に多くの傷・トラウマを負ったからだろうと推測していた。

  ウエットティッシュで手を拭く癖もその名残なのだろう。

  だが、それでも草加雅人は過去から抜け出せずとも、今も必死に

 抗い続けているのだ。

  自分をこんな目に遭わせた世界やオルフェノクを憎悪しながらも...。

  善悪や感情の起伏が激しく、卑屈なまでに攻撃的な男であっても、

 それは彼が確かな信念のもとで進み続けているれっきとした証拠なのだ。

  その心の在り方は、雅人が人間を捨てることは天地が逆転しても

 絶対に有り得ないという不動の証を如実に表している。

 健夜「へぇ...。君の過去を調べさせてもらったけど、

    うん、宗旨替えにはまさにぴったりのタイミングだね」

 健夜「分かったよ。沙耶ちゃんと澤田君と君の因縁には

    私達がしっかりと責任を持つ」

 健夜「子供達は、まぁ、必ず悪いようにはしない」

 健夜「私の目の黒いうちはね」

 健夜「譲歩はここまで。いいよね?」

 草加「ああ、オルフェノクになるのは大分後になるだろうが」

 草加「アンタの提示した条件に賛成するよ」

  心なしか智葉は雅人が僅かな安堵にホッとしたように思えた。

  次に口を開いたのは水原だった。

 水原「おっ、おっ俺はオルフェノクになるぞ!」

 水原「iPSでも、オルフェノクでも俺は生きたい!」

  水原の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

  ストレスの蓄積が祟ったせいか、もはや水原には精神的な余裕が何一つ

 残されていなかった。

  そろそろガタがきてもおかしくなかっただろう。

 健夜「ふーん...。私もオルフェノクだけどさぁ」

 健夜「君、犬にも劣るね」

 水原「へ、へ?」

  健夜が掛けた言葉の意味を理解する間もなく、水原の耳と口へと触手が

 するりと入り込んできた。

  いつの間にか降りてきたプロジェクターには、水原がiPSの

 手の者と思われる奴等と取引している映像が映し出されていた。
  
 澤田「甘いなぁ、リーダーさんよぉ」

 澤田「お前、本当にスマートブレインを舐めてるよ」

 澤田「こっちはな、一枚岩じゃないんだ」

  オルフェノクの姿になった澤田亜希は俺達に向かって

 悶え苦しむ水原のプロフィールを朗々と読み上げた。

 澤田「尾山豪。iPS軍徴兵部隊東海支部、実働隊隊長」

 澤田「直属の上司は戒能良子であり、iPSのおもちカーストに

    恭順を誓った後は、日本各地に散分した人間達を集め、

    烏合の衆の解放軍を組閣した」

 澤田「もっとも、諜報活動に長けてたアンタは自分の

    都合のいいように勢力や人間達を解放軍にプールし、

    定期的にiPSへと引き渡した」

 澤田「ま、水原って名乗り始めたのは、こいつが最初に

    潜入した人間解放軍の男と入れ替わり作戦で

    水原と言う男になりすましたからなんだとさ」

 水原「あ、あああぁ」

  水原と名乗った男の最後は、オルフェノクの触手によって

 全身を穴だらけにされた上での失血死だった。

  スカスカに干からびた水原の目元には、一筋の涙が伝っていた。

 健夜「ま、可哀想だけどしょうがないよね?」

 健夜「裏切り者には死の制裁あるのみ」

 照「水原さん...」 
  人間に与する者たちの意見をあらかた求め終わった

 健夜は今度は俺達にその食指を向けてきた。

 健夜「さてと、それじゃあ次は木場君の返事が聞きたいな」

 健夜「見た所、君はオルフェノクみたいだけど」

 健夜「どうして君はそんなに人間に固執するのかな」

 木場「...僕からも聞きたいことがあります」

 健夜「いいよ、答えてあげる」

 木場「どうしてスマートブレインはオルフェノクを

    増やそうとするんですか?」

 木場「僕達オルフェノクにだって、自分の人生を決める権利はあります」

 木場「それはオルフェノクになった後でも、捨てることの

    出来ない尊厳として、心の中に根付いています」

 木場「貴方たちのやっていることはiPSとなんら変わりない」

 木場「だから僕は貴方達を信用できない」

 健夜「ふーん。共存共栄がお望みってわけね」

 木場「貴方だってれっきとした人間だ」

 木場「例え姿形が変わったって、オルフェノクも人間と何も

    変わらないじゃないですか!」

  この場にいる全員にとって、これから木場の出す答えの

 去就は重要な意味を持つ。

  以前彼が俺に語って聞かせた、オルフェノクと人間の共存。

 それはこの世界でも類を見ない程の愚かしい夢物語だ。

  認めたくない気持ちと裏腹に、オルフェノクもiPS類も、

 種としては旧人類の遥か上の存在だからだ。

  種としての優劣がすでに明確になっているにも拘らず、

 なお木場はオルフェノクでありながら人間との共存を

 模索しつづけている。

  俺を除く、この場にいる全員にとって木場は爆弾なのだ。

  いつその理想に絶望して、心を失うのか分からない。

  だからこそ、彼の理想はこれから先成就しない。

したとしても、長くは続かないだろう。

 健夜「なんとまぁ、幼稚な考えなんだろ」

 健夜「でも、だからこそ君みたいなオルフェノクが必要なんだ」

 健夜「ねぇ、木場君?」

 健夜「オルフェノクの最後はどうなるのか知ってる?」

 木場「...青い炎に包まれて灰になります」

 健夜「違う違う。その前に心にガタが来て怪物になるんだ」

 健夜「オルフェノクになりたての時に、人間を殺せって

    頭の中にガンガン響く声がしたでしょ?」

 健夜「大抵のオルフェノクはそれで理性を失う」

 健夜「だけど、スマートブレインの研究でね...。全人類は

    遅かれ早かれオルフェノクになることが分かった」 
  
 京太郎「どういうことなんだよ...それ」


 健夜「猿が人間になったように、人間が種としての新たな

    進化を遂げる時期に入ってるの」

 健夜「だけど、その進化はあまりにも急激すぎる」

 健夜「今はまだ偶発的にオルフェノクになる人間が
  
    出る程度だけど、その内爆発的に増える筈」

 京太郎「だから、そのメカニズムの研究と解明の為に

     罪もない人間達を攫っては[ピーーー]のか!」

 健夜「まぁ、私達が仲間を増やす方法は傍から見れば

    そう見えるんだけどね」

 健夜「話を戻すけど、まぁ、研究の甲斐あって人間の

    オルフェノク化のメカニズムが解明され始めた」

 健夜「それを遅らせる具体的な療法も、君の言うように

    荒療治ながら確立させている」

 健夜「だけど、私達オルフェノクにも誤算があった」

 健夜「iPS類がオルフェノクの存在に感づいた」

 健夜「おかしいと思わない?どうしてiPS類なんてのが

    爆発的に十年にもならないうちに出てきたなんて?」

 木場「ま、まさか...。オルフェノクのDNAとかを」

 健夜「その通り。私達でもiPS類のプロトタイプとなる

    存在を作り出した創造主はわからない」

 健夜「けど、iPS細胞とオルフェノクに変成した後の

    人間のDNAパターンと塩基配列がほぼ同じなの」

 健夜「わかる?iPSがこのまま数を増やせば、旧人類は

    あと二十年かそこいらで本当に絶滅する」

 健夜「旧人類のオルフェノク化はエイズのように、

    なってしまった後には進行を遅らせるしかない」

 健夜「今までは時間があったけど、今は政府が全世界の

    旧人類をiPS類へと移行させる計画を始めている」

 健夜「時間がないのよ!このままいけば君が共存を望む

    旧人類が滅ぶの」

 健夜「貴方達にもわかるでしょう?iPS類となった人間が

    果たしてちゃんとした種を存続できるのかどうかが」

 健夜「ここにいる全員は、少なくとも分かっている筈」

 健夜「世界を滅ぼそうとしている悪は一体誰なのかを」

 全員「......」

  時ここに至って、俺達は今更ながらとんでもない事態に

 直面している事に気が付いた。

  木場の言う人間との共存なんていう甘い夢に浸り、

 夢想する時間すら俺達には残されていなかったのだ。

 健夜「今、地球上の人口は約64億人」

 健夜「iPS類はそのうちの20億人を完全に掌握しました」

 健夜「対するオルフェノクはスマートブレインが

    確認出来る範囲でおよそ16億が現存しています」

 健夜「だけど、彼等は必ずしもスマートブレインに

    恭順を誓っている訳でもないし、奴隷でもない」

 健夜「自由と言えば自由な暮らしをしてるよ?」

 健夜「でも、世界がこうなった以上、一部のオルフェノクが

    悪い奴になってでも、人間に手を差し伸べなければ」

 健夜「人類側からもオルフェノク側からも更なる犠牲者が出る」
 
 健夜「そして、残りの28億人が普通の人間」

 健夜「だけど、そのバランスも徐々に崩れてきてる」

 健夜「日本に至っては、普通に何不自由なく暮らしている人間の

    人口が今日の時点で2000万人しかいないからね」

 健夜「だけど、その残りの大半ですらiPSの走狗として

    恭順を誓い、iPS類の世界征服を幇助している」

 健夜「近いうちに第三次世界大戦が起きる」

 健夜「国と国との利害関係で引き起こされた戦争じゃない、

    人と人とが滅びの道へと歩む地獄の窯が開くのよ」

 健夜「今ここでアクションを起こさなきゃ、絶対に人類の

    未来は閉ざされてしまう」

 健夜「木場君、共存共栄どころの話じゃないの」

 健夜「私達オルフェノクのように進化を受け入れ、種の保存を望む存在と

    iPS類のように種の繁栄を望み、結果的に滅びの道を歩む勢力が

    人間をモノとして奪い合うのが今の世界なの」

 木場「...はい」

 京太郎「人類崩壊の序曲か...」

  俺達は何も言えなくなってしまった。

  確かに人類がiPS類へと移行すれば、慢性的な人工不足からは

 解放されるだろう。

  だが、変質してしまったDNAが引き起こす未知の病や、

 有限資源である天然資源の枯渇はますます加速するだろう。

  その点、人類がオルフェノク化を運命として受け入れたの

 ならば、いつか滅びるとわかっていても、iPSとは異なり

 『普通』の人間であり続けることができる。

 
 『愛』を取るか『未来』を取るか。

 そして、ここにいる俺達が出す結論で未来が変わる。

  その重責が俺達の双肩にかかった。

 ~木場の視点~

 木場「俺は...」

  俺は今までオルフェノクとして生きていたけれど、肝心な現実は何一つとして

 知らなかった。

  いや、目を背けていたのかもしれない。

  いつか、醒めない悪夢が覚めてきっと人間に戻れるのかもしれないという

 砂粒よりも小さな希望にすがりながらこれまで生きてきた。

  だけど...。

 健夜『わかる?iPSがこのまま数を増やせば、旧人類は

    あと二十年かそこいらで本当に絶滅する』

  だったら、俺の掲げた理想は一体なんだったんだ?

  あと二十年で旧人類が滅ぶ?

  じゃあ、何のために海堂と結花は死んだんだ?

 健夜「今までは時間があったけど、今は政府が全世界の

    旧人類をiPS類へと移行させる計画を始めている」

  今の解放軍にたどり着くまで流離の旅を続けていた時、

 人間を襲わないオルフェノクとも沢山出会ってきた。

  オルフェノクに襲われたり、あるいは不慮の事故で亡くなってしまった

 彼等でも、それでも一生懸命生きてきた。

  そんな彼等に何度も俺の理想を語った。

  怪物みたいな人間になってしまったけど、それでも歩き続ければ、いつか

 きっと俺達に辿り着ける場所がある。

  そこが果たしてどんな場所なのかは分からないけど。

  だけど、彼等はそれは不可能だと泣き笑いを浮かべた。

 『ごめん、それはできない』

 『人を襲いたくないし、怪物となった自分が受け入れられない』

 『頑張ってくれ。応援しているよ』

  俺の理想についてきてくれる人は誰もいなかった。

  俺の理想が、何よりも大切だった海堂と結花を殺した。

 健夜『時間がないのよ!このままいけば君が共存を望む

    旧人類が滅ぶの』

  俺が共存を望んだ旧人類の姿も旅の途中で見てきた。

  おもちカーストとなった女性を助けようとして、危うく

 捕まりかけたこともあった。

  また、交通事故を引き起こした犯人がiPS類だからと言う理由だけで、

 無罪放免になった、あるいは刑が減刑されたというケースも見てきた。

  理不尽を正す事だけが、本当の正しさではない。

  だけど、その理不尽を取り除くべく必死になった先人達が

 作り上げてきた蓄積を、権利を、時間に対して、その理不尽が

 取って代わるとしたら?

  だったら、一体俺達は何を道標にすればいいんだ?

 健夜『私達オルフェノクのように種の保存を望む存在と

    iPS類のように種の繁栄を望み、結果的に滅びの道を

    歩む勢力が人間をモノとして奪い合うのが今の世界なの』

  iPS類、オルフェノク。

  共に人とは相いれない存在だけど、それでも彼等は人なんだ。

  同じ人であるならば、倫理もまた同じ。

 健夜『近いうちに第三次世界大戦が起きる』

 健夜『国と国との利害関係で引き起こされた戦争じゃない、

    人と人とが滅びの道へと歩む地獄の窯が開くのよ』 

  俺の夢がもし叶うとしたら?

  絵空事ではなく、本当に実現できるのだとしたら?

  俺は...

 ―――

 ――

 雅人の視点


 木場「小鍛治さん。わかりました」

 木場「俺は...」

  長いこと何かを考えていた木場が遂に口を開いた。

 木場「俺は、オルフェノクとして生きます」

 照「それは、心から言っているの?」

 木場「そうです」

  そうか...なら、コイツもまた俺の敵だ。

  俺がスマートブレインに手を貸すのはあくまでも私怨の為だ。

  真理を殺したオルフェノク。

  人を襲い、化け物に次々と変えていくオルフェノク。

  そんな奴等は野放しにできない。

  全部残らず滅べばいい。

  その為の拠点として、俺はスマートブレインを利用するんだ。

  眼の前の女はオルフェノクを人間に戻すための治療法が

 確立されたと言っていた。

  取り敢えず、奴らを信用させるためにiPS類と戦い、

 スマートブレイン内での自分の立場を確立させる。

  恨みはないが、iPS類もオルフェノク以上に危険な存在だ。

  俺の計画の邪魔になる奴は出来るだけ排除したい。

 木場「だけど、俺はできるだけ人間を守りたいんです」

 小鍛治「はぁ?!なにそれ」

 木場「自分でもこれが甘い考えだとわかっています」

 木場「勿論、最低限のけじめはつけます」

 小鍛治「ふうん、独我的でエゴイスティックな主張だね」

 小鍛治「自分のエゴだけで、守りたい存在を簡単に[ピーーー]んだ」

 木場「俺には...今、見捨てられない人がいます」

 木場「その人は、iPS類に心を傷つけられ、絶望していました」

 木場「俺自身、何が出来るのかは正直分かりません」

 木場「だけど、俺は彼女を見捨てられないんです」

 木場「彼女を守る為なら、それが人間であっても...」

 LEO『I do not dislike such a foolish view.』

   (俺はそんな馬鹿な考え方は嫌いじゃない)

 LEO『President(社長)』

 LEO『Is it a thing in which a pure fellow like

    grade foolish may be one person?』

(一人くらい馬鹿みたいに純粋なやつがいたって
      
   悪くないと俺は思うな)

 LEO『Even if the second half of the 100th inning is cut,

    the human being who can say the word of trusting people

    100 times, from the bottom of his heart does not appear

rarely very much.』

   (たとえ百回裏切られても、裏切られた回数の分だけ、誰かを

    信じるという言葉を心から言える人間はごく稀にしか現れない)
 
 LEO『I welcome him(俺は彼を歓迎するよ)』

 健夜「はぁ、ちゃんと責任を持ってね」

 LEO『Yes(はいはい)』

  フン、怪物は怪物同士仲良く分かりあったという訳か。

  だが、これで少なくとも俺がスマートブレインを利用できる

 足がかりは整ったわけだ。

  須賀京太郎は俺と同類だ。iPSとオルフェノクの違いはあれど、

 復讐の為に生きている。

 LEO『Faiz,I would like to also hear your opinion.

    Do not carry out whether it fawns.』

   (ファイズ、君の意見も聞きたい。我々に迎合するのか  

    それともしないのか?)

 京太郎「If it becomes as man.(人間としてならばな)」

 京太郎「Association as a cooperator and

    (協力者、よき隣人としての付き合いを望むよ)

     a good neighbor is desired.」

 LEO『It is problem solving openly.(問題解決だな)』

  香港系の青年の姿をしたオルフェノクは、木場勇治へと

 親しげに近寄り、肩を叩き握手を求めた。

 LEO『Leo. It is called so. I am a lion』
 
   (レオ、そう呼ばれている。百獣の王だから)

 LEO『ニホンゴハ、カタコトデシカ、ハナセナイ』

 LEO『ソコノトコロ、ヨロシクタノム』

 木場「よ、よろしくお願いします」

  木場がレオと呼ばれたオルフェノクの握手に応じたのと

 同様に須賀も執事服を着た小鍛治の秘書と握手を

 交わしていた。

 小鍛治「さてと、それじゃあ宮永さんの意見を聞かせてほしいな」
  
  さて、宮永照。お前はどう出る?

 智葉の視点
 
  ライダーズギアの適合者の二人とオルフェノクはあっさりと

 スマートブレインに迎合した。

  私としても思う所がないわけではない。

  彼等は元々、スマートブレイン側の人間だった。それは事実だ。

 だが、水原の裏切りの発覚後、続け様にあちら側に迎合されると

 とてもではないがやりきれない気分になる。

  何の為に私達は戦ってきたんだろう?というふうに。

  照、お前もまた私のところから離れて行ってしまうのか?

  なぁ、照...。


 ―――

 ――

 照の視点

 照(智葉、ごめんね...)

  荒川病院襲撃後、私と智葉は成す術もなく多くの罪なき

 人間達がiPSの魔手に掛かるのを黙って見るしかなかった。 

  誰もが自分の幸せを追い求めた結果が、今の世界を
 
 作り出してしまった。
 
 照(もう、これ以上人間解放軍にいたって何もできない)

  私のせいで、解放軍の多くの人達が命を失った。

  水原だって、幹部Dだって、何の罪もない人達だって、私が解放軍に

 匿われたせいで、私を守ったがために死んでしまった。

 照(だから、ここから先はもう誰も死なせない)

  あんなに凛々しく、美しかった智葉が今では焦燥と

 度重なる精神的疲労によってやつれ果ててしまっている。

  自分の操と同じように大切にしていた艶やかな黒髪も、

 いまでは傷み、褪せてしまった。

 照(智葉、ごめんなさい。貴女をこれ以上私のわがままに

   付き合わせることは出来ない)

 小鍛治「どうしたの?返事してよ」

 照「みんな、よく聞いて」

 辻垣内「おい、よせ!何言おうとしてるんだよ!」

 照「人類解放軍の総意として、私達は...」

 辻垣内「やめろおおおおおおおおお!!!!!」


 照「オルフェノクと協力し、iPS類を滅ぼします」
  

 ―――

 ――

 小鍛治「言質はとったからね」

 小鍛治「一応、ここにサインしてもらおうか」

 照「ペンを頂戴」

  俺達が固唾を呑む中、宮永照はサインを終えた。

  これにより、俺達はオルフェノクと共闘することになった。

  この判断が果たして正しいのか、それはわからない。

  だが、少なくとも前に進むことは出来た。

 智葉「ああ...っ」

  グラリ、身体を傾かせながら辻垣内智葉は地に倒れた。

 ハギヨシ「精神的ショックによるものですね」

 沙耶「ハギヨシさん。私、彼女を連れて行きます」

 ハギヨシ「いえ、私が責任を持って彼女を見ています」

  ハギヨシさんは俺達を一瞥した後、どこかへと消えていった。

  ふて腐れた沙耶は澤田を伴って、ハギヨシさんの後を追っていった。

 小鍛治「宮永さん。貴女の英断は間違っていません」

 小鍛治「良く決断してくれました」

 照「智葉を、スマートブレインで龍門渕透華と天江衣と

   一緒に預かってほしい」

 小鍛治「どうしてそんなことを知っているの?」

 照「須賀君が持ってきた軍事研究所の重要書類の中に

   書いてあった」

 小鍛治「同じ待遇でいいのかしら?」

 照「あと、ハギヨシさんに智葉の管理を頼みたい」

 小鍛治「彼女が餓える事無く、自[ピーーー]ることなく?」

 照「あとは他のオルフェノクから虐げられないように」

 照「貴女からも」

 小鍛治「うん。いいよ」

 ...辻垣内智葉はここでリタイヤか。

  これはきっと、まじめで融通が利かない彼女を今まで

 自分に付き合わせてきた宮永照なりの優しさなんだろう。

  辻垣内智葉は自戒と規律を自分にとても強く強いる女だ。 

  摩耗した心と体が壊れる前に、宮永照がこの世界で

 もっとも安全で信頼できる場所に彼女を預けたのはきっと

 正しい判断だったんだろう。

 小鍛治「さてと、草加君と木場君は別室で待機しててね」

 小鍛治「私は宮永さんと須賀君に重要な話があるから」

  デスクの上のボタンを押してから数秒後、草加と木場の前に

 スマートブレインの社員たちが現れ、二人を連れ去っていった。

 小鍛治「大丈夫、草加君は人間のまま返してあげるから」

  今日は色々な事があり過ぎた...。

  だが、まだ運命は俺達に休息を許さなかった。

 首都・ピンクハウスの一室


 咲「京ちゃん、お姉ちゃん...まだかなぁ」

 和「今しがた連絡が入りました。咲さん」

 和「スマートブレイン社を抜けて、後十分ほどで到着するそうです」 

 咲「うん...」

 和「やはり、緊張しますか?」

 咲「それは...そうだけど」

 和「咲さん」

 和「もし咲さんが望むのなら、お義姉さんと須賀君の元へ行ってください」

 和「ハルシオンデイズはもう終わりです」

 和「まないた党とヘテロ党が滅びた後は、人類の大半が私達の次の敵です」

 和「世界を変革した私の責任は非常に重い」

 和「ですが、咲さんは今でも解放軍の象徴です」

 和「命を賭して、お義姉さんは貴女を守ろうとしました」

 和「だからこそ私は、貴女との愛を交わす時以外、

   一片たりともその体に手を出していません」

 咲「和ちゃん!それはいくらなんでも言いすぎだよ!」

 咲「もう私は腹を括ったんだよ!?」

 咲「確かに今でも私は和ちゃんが憎い」
 
 咲「けど、それ以上に愛しちゃったんだもん!!」

 咲「馬鹿なことしたうえで、私の何もかもを破壊した癖に

   私のことを最後まで愛するなんていっちゃってさ!!」

 咲「だから、私は京ちゃんやお姉ちゃんの元には戻らない」

 和「咲さん...」

 咲「なんでも、ひとりで...背負わないで、よ」

 和「咲さん?咲さん!!」

 咲「うーっ、うううーっ!お腹、お腹痛い...」

 和「嘘...よりによって、こんな時に」

 和「誰かーっ、誰かーっ!」


 ―――

 ――

 ピンクハウス移動中・車内


 京太郎「なぁ、宮永」

 照「照でいい」

 京太郎「照か、まあいいか」

 京太郎「照...アンタは、咲に会って何がしたいんだ?」

 照「もう一回抱きしめたい」

 照「できることなら説得して、連れ帰りたい」

 京太郎「無理だな」

 照「さっきのは建前。本当は決別を言いに行くため」

 照「咲が私達を捨て、iPS側に与したとなれば一刻の猶予もない」

 照「あの原村の事だから、iPS類と人類の和解の印です。

   とか言って結婚式を挙げるつもり」

 照「そうなれば、少なくとも世界から日本に向けられる

   注目度は今まで以上になる」

 京太郎「俺達の行動に今まで以上の制限が付くってわけだな」

 照「これが終わったら人間解放軍とスマートブレインとの

   二足のわらじ生活が待っている」

 照「今までとは比にならない程のハードな日々が待ってる」

 京太郎「それでも俺はやる」

 京太郎「俺達しか立ち上がる奴がいないんだ」

 京太郎「これ以上、iPS類に人類の未来を勝手にさせない」

 京太郎「そして、全部を元通りにするんだ」

 照「咲...」 


 ―――

 ――

  俺達がiPSの牙城である首相官邸、通称ピンクハウスに到着してから、

 既に20分が経過していた。

  あの後、小鍛治健夜は俺と宮永照に『咲に会わせてあげる』と伝え、

 首相官邸へと連れてきた。

  これも仕組まれた罠の類だが、少なくとも肉体的な苦痛を伴う類の罠では

 ないだけ随分とましだ。

  しかし、手続きにしては随分と掛かるな...。

 小鍛治「ちょっと、貴方達私を誰だと思っているの?」

 戒能「ソーリー。宮永副総裁は只今出払っています」

 小鍛治「へぇ、随分と私を軽く見てるんだ」

 戒能「否定します。貴女は私達にとって想像ができない程の

    計り知れないお方です」

 戒能「蔑ろにするなどとんでもない」

 小鍛治「ふーん。随分とぞんざいに扱うんだね」

 戒能「...WHY?」

 小鍛治「いいのかな?貴女如きの裁量で明日から日本ががらりと変わっても?」

 戒能「火のない所に煙は立ちません」

 戒能「最も、蛇足に習うなら余計な詮索は控えるべきです」

 戒能「自分から墓穴を掘りたいのならどうぞ」

 小鍛治「へぇ~、シラ切って見逃されるなんて思ってるんだ」

 小鍛治「いいからとっとと出せよ?ん~?」

 小鍛治「さもないとテメェの部下、全員死ぬぞ?」

 戒能「FUCK OFF!」

  先程とは打って変わり、俺達に接したような困り顔で慇懃な態度だった

 小鍛治健夜はいきなり豹変した。

  ノーモーションで応接室にある上等のオーク材のデスクを全力で蹴り砕く。

  戒能良子とその部下も瞬時に、阿吽の呼吸で一斉に俺達を包囲する。

 小鍛治「つーかーまえた」

  その一言が聞こえたか否や、SS部隊の隊員達が糸の切れた

 マリオネットのように床へと倒れた。

  耳朶や口からごぼごぼと血を噴出しながら...。

 戒能「チッ、念動力とは小賢しい」

  忌々しげな一言には、倒れ、意識を失っている部下たちに

 対する憐憫の情は一切含まれていなかった。

 小鍛治「へぇ、水剣とは随分と器用な真似をするんだね」

 戒能「貴方方が動植物の力を手に入れたように、iPSへと

    進化した私達にも力が宿ったんですよ!」

  部下の身体から一瞬にして水分を吸い取った戒能はレイピアと自分の背後に

 十五の水球を造作もなく作り上げた。
  
 小鍛治「噂には聞いてたけど、厄介だね」

 戒能「右手だけで十分ですよ」

  その一言の後に、戒能良子の右腕は消えた。

 戒能「?!、どういう事ですか小鍛治さん!」

 小鍛治「あちゃ~、ばれちゃったか」

  俺の隣にいた宮永照の全身を鎌鼬が襲った。

  切り裂いた全身から現れた宮永照の顔を見た戒能良子はその瞬間、攻撃を止めた。  
  
 小鍛治「これでもまだシラを切るつもり?」


 戒能「...一度目の過ちは誰かのせい」

 戒能「二度目の過ちは己の愚かさのせい」

 戒能「次はありませんからね」

  再び能面のような無表情に戻った戒能は部下を助け起こし、ドアを開いた。

 戒能「引き返すなら、今の内ですよ」

  憐れみの表情を浮かべた戒能は、部下を部屋に残し

 俺達を咲のいる部屋へと連れて行った。


 ―――

 ――

 照の視点

 和「頑張って、頑張ってください!咲さん」

 咲「あーっ、あーっっううううううううう!!!」

  な、なにこれ?

 医者「よーし、これで体の半分が出たぞ!頑張れ!」

 菫「咲君、今日から君はお母さんなんだぞ!」

 菫「しっかり気を持て!原村咲!」

 咲「うん。うんっ!頑張る、頑張るからああああああ」

  咲?いつから妊娠してたの?

  咲?あそこにいるのは私の咲なの?

  咲...いつから原村咲になっちゃったの?

  ねぇ、咲...。股間に生えているそれは何?

 和「遂に、遂に私と咲さんの愛の結晶が生まれる...」

  愛の結晶?

  ああ...。

  ああああ......。

  わああああああああああああああああ!!!!!!!

 京太郎「小鍛治さん...アンタこれが狙いだったのか?」

 京太郎「なぜ、黙っていたんだ?」

 小鍛治「私に聞かないでよ。流石の私もこれは予想外だよ」

 小鍛治「うーわ、出てきちゃったよ」

 小鍛治「さしずめ、あれはニューボーンって奴かな?」

 小鍛治「エイリアン4を思い出すなぁ~」

 京太郎「和...そうか、お前それほどまでに咲を愛したのか」

 京太郎「原村咲、ね」

  原村さんよ、おまえ、俺の人生を滅茶苦茶にしといて、

 自分と咲だけの幸せな結婚生活を夢見てやがったのか...。

 京太郎「人の人生を狂わせといて、なに...やってんだよ!」

  本当に、とことん、俺と優希のことを軽く見てたんだな。

 京太郎「あの二人ともさよならだな」

  だけどな、それは和、お前も同じなんだよ。

  傲慢なお前は知らないだろうが、お前の事をかけがえのない

 存在だと思っている人間は、世界に三人いるかいないかなんだよ。

 京太郎「全面戦争だ。覚悟しろよ、和、咲」

  和ちゃんはかけがえのない存在だよって、心の底からお前にはっきり

 言えるのは、お前の親と咲くらいなんだよ。

  地球の総人口から見れば、たった二十億分の一程度の

 そんな価値程度の存在なんだ、お前は。

 京太郎「お前達の身勝手な愛が成就することは、ない」

  たまたま、無量大数分の一の超奇跡を手に入れたお前は

 自分の事を神のように思って、そのちんけで矮小な脳みそに

 都合よくインプットしたんだよな?

 京太郎『優希、俺は...当たり前のことをすることにしたよ』

  悲しみを知らない他の誰にも、この復讐は譲らない。

  このクソッタレな世界に俺は宣戦布告する。そして勝つ。

  iPS類を作った元凶達に必ず罪を償わせる。

  奴等を生きながらえさせるような贖罪は絶対にさせない。

  だから―――

 京太郎「帰りましょう、小鍛治さん」

  お前達を見逃すのは今日で最後だ...。

  精々、幸せな夢でも見てろ。

 再びスマートブレイン社内にて


  呆然自失となった照を俺が小鍛治健夜と共にスマートブレインへと

 連れ帰ったのは午後六時だった。

 小鍛治「悪いけど、今日はスマートブレインタワーに泊まって」

 小鍛治「謝罪で済む問題じゃないけど、本当にゴメン」

 京太郎「...宮永照が自殺しないように拘束具で拘束してくれ」

  咲、咲。私の世界でたった一人の妹。

  譫言の様にブツブツと呟く宮永照に草加も木場も事態が

 ただならぬ状況に転がり始めたことを明確に認識した。

  取り敢えず、俺と木場は草加の意見を採用し、宮永照が落ち着くまで

 スマートブレインに逗留することにした。

  失念していたが、解放軍のリーダーである水原は既に殺されてしまっていた。

  物事の流れからして、水原亡き後の解放軍の束ねる次のリーダーに

 宮永照はなる筈だった。

  だが、

  あの光景に受けたショックは計り知れない程、俺の心にも

 大きな傷を植え付けた。拭いきれない程のトラウマとして。

 草加「全く、君は一体何のために一緒についていったのかな」

 草加「最初の時点で不自然さに気が付いても良い筈だろう?」

 京太郎「その通りだ」

 草加「...ま、気持ちは分かるよ」

 草加「自分の心を占めるかけがえのない大切な人が、

    知らないうちに変わり果てた姿になってた」

 草加「痛い程、共感できるよ」

  不遜な態度と言動はそのままだったが、草加の目は俺と

 宮永照と同じくらい真っ赤になっていた。

 木場「草加君、まさかさっきのオルフェノクの二人組に

    何かひどいことを...」

  俺と草加の出す沈痛な表情に堪りかねた木場は草加の身に何が起きたのかを

 聞き出してしまった。

 草加「ああ、好きな女の子の死の瞬間を見せられたよ」

 草加「三時間かけて殺されたんだ。俺の好きな女の子は」

 草加「そのせいで俺は余計にオルフェノクが好きになった」

 草加「ありがとう。木場君」

 木場「...」

  後悔先に立たず。

  草加もまた表だって表情には出してはいなかったが、スマートブレインで

 かけがえのないものを失ってしまったのだ。

 木場「ご、ごめんっ!」

  慌てて逃げ出した木場だったが、草加はそれを咎める事無く

 ただただ執拗に自分の手をハンカチでぬぐっていた。

 草加「で?一体ピンクハウスで何があったのかなぁ?」

  木場が完全にいなくなったのを見計らった草加は、

 俺に先程起きた出来事の子細な説明を求めた。

 草加「ふぅん。なるほどね」

 草加「要するに宮永照の妹がiPS類に鞍替えしたわけか」

 京太郎「ああ、信じられないよ」

 京太郎「そうなった原因が目の前にいたんだ。ファイズの

     ベルトもちゃんと腰につけていた」

 京太郎「殺意も沸いていたのに、殺せなかった」

 草加「それは、単に君が甘いだけだろう?」

 草加「どうして君は自分を美化するのかなぁ?」
 
 京太郎「どういう意味だ?それ」

 草加「まだ未練が絶ち切れていないんだろう?」

 草加「人を[ピーーー]覚悟もない。守るべきものもない」

 草加「そんなんだから女一人守れないんだよ」

 京太郎「テメェ!」

 草加「気が済んだか?」

 京太郎「草加...どうして避けないんだよ」

 草加「もしかしたら、君の全力の力が籠ったパンチで運よく

    記憶喪失になれるかもしれないと思ったからかな?」

 草加「正直、今の俺も参っているんだ」

 草加「可笑しいと思うか?好きな女がとっくの昔に殺されて、

    それでもそんな現実を認めたくない」

 草加「真理は生きている、必ず。それだけを支えに今まで戦ってきた」

 草加「だけど、もう真理は...殺されたんだ」

 草加「もういないんだよ...」      

 草加「[ピーーー]るなら、死にたいのに...」

 京太郎「もういい」

 京太郎「とにかく、明日だ」

 京太郎「明日、どうするのか皆で話し合おう...」

 雅人の視点


  須賀がいなくなった後、俺はスマートブレインから宛がわれた

 一室に戻り、そのまま横になった。

 雅人「真理...真理...」

  世界の中で一番自分が真理に相応しく、真理の事を誰よりも知っていた。

  自分の本当の人生の始まりは流星塾に入ってからだと雅人は思っている。

  自分を殺したと思っていた父親と母親が自動車事故で死んだあと、

 様々な児童施設をたらい回しにされた挙句、巡り巡って流星塾へと

 引き取られた。

  中学に上がるまでの雅人は喘息もちで、両親の悪影響もあり、自分へと

 振るわれる暴力に対して過敏な程に怯えていた。

  すぐ近くで大きな物音がするたびに、自分を殺しに両親が地獄から

 舞い戻ってきた。と言う被害妄想だけでひきつけを起こし、精神病院入院

 一歩手前までになるほど心身共に重傷を負っていた。

  真理が助けてくれなければ、今頃自分は死んでいただろう。

  泣き虫だった自分をいつも励ましてくれた真理。

  五歳も年下だった真理が、自分を守る為にモップやバケツ、

 時にはバットや鋸まで持ち出して自分を守ろうとしてくれた真理。

  そんな彼女の姿にいつの間にか恋をしていた自分がいた。

  もう手に入ることは二度とないと諦めていた理想の未来が見えたのだ。

  真理が自分を慈しみ、その無償の愛の中に優しく包まれる。

 雅人はそんな彼女の手を引いて、いろんな場所へと旅をする。

  愛し合って、子供が生まれ、孫が生まれる。

  家族の愛に飢えた雅人にとってこれ以上の至福はない。

  何だっていい、真理の幸せに必要なものがあれば全部手に入れる。

  宝石やマイホーム、車、高級ブランド品。

  金はかかるが、真理が望むもの全てをきっと自分は手に入れて見せる。

 真理の幸せは雅人の幸せ、雅人の幸せは真理の幸せ。

  だが、真理は果たしてそう思ってくれているのだろうか?  

  いつか自分を捨てるのではないのだろうか?

  他の男を求め、自分を裏切るのではないのだろうか?

  耐えられない。嫌だそんなの、想像するのも悍ましい。
  
  じゃあ、俺はどうすればいい?

  だから雅人は強さを求めた。

  真理は雅人にとってのマリアだったが、同時に雅人の人生をあらゆる意味で

 網羅していた。

  雅人は真理の物であり、同時に真理は雅人の物だった。

  それは、雅人にとって世界中のどんな律法よりも遥かに重大で、何よりも

 遵守しなければならない、聖母の意志でもあった。

  流星塾の同窓会で、雅人は真理を失った。

  雅人はあの日、真理に告白するつもりだった。

  その為の予行演習として、沙耶との月四回の予行演習は

 欠かさなかったし、自分を磨くことを絶対に怠らなかった。

  昔日の泣き虫雅人を払拭し、新たに生まれ変わった真理を守れるほどに

 強くなったヒーロー、草加雅人として彼女と一緒に生きていこうと

 思っていたのだった。

  
  だが、雅人の懸念は最悪の形で現実になった。 
 
 
 ―――


 ――


  京太郎と照が健夜にどこかに連れて行かれた後、雅人はスマートブレインの

 社員達にある部屋へと連れて行かれた。

  そこは小会議室のようであり、既に何かを映し出す準備が整っていた。

  スピーカーから聞こえてきた、せせら笑う澤田の声。

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

 雅人「澤田アアアッ!真理はどこだ、何処にいるんだ!!」

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

 雅人「澤田アアアッ!」

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

  延々と五分もの間、澤田の声を聞き続けた雅人が会議室を

 出ようとしたその時、プロジェクターに真理が映し出された。

  そこはアリーナの様な場所だった。

  観客席は満員の状態であり、ざわめきの中に混じって

 巨大な動物の吠える声が聞こえてきた。

  そしてアリーナへ沢山の人が解き放たれた。

 アリーナの中央にある赤い檻の中に真理はいた。

  両足には義足をつけていたが、目は死んでいなかった。

 
  雅人は画面を凝視した。

  ビデオに加工が施してあったが、真理の檻の真正面に10mを

 超す怪物がいたのだ。

  その施された加工はゲームの始まりと共に消え失せた。

 加工が消失した箇所には巨大なサイのような怪物がいた。

 そいつを閉じ込める鉄のポールが収納された後は、一方的な大虐殺が始まった。

 巨大なサイが人間やオルフェノクを襲っては貪り喰らう衝撃的な場面だった。

  どうやらオルフェノク達は人間を使った賭けをしていたようだ。

  一人、また一人と殺されていく人間達。

  真理のいる赤い檻を全力で護る人間がいるあたり、どうやらこれは棒倒しを

 模したゲームのようだ。

  真理がオルフェノクに殺されたらゲーム終了。

  逆に真理を時間まで守りきれたら囚われた人間達はめでたく解放されるという

 システムなのだろう。

  残り十五分を切った後、真理を守る檻の近くには三体のオルフェノクと

 五人の人間がいた。

  最初の一時間の間に参加した200人の半分以上が食い殺されたことを鑑みれば、

 大善戦している方だろう。

  このままいけば真理は助かるかもしれない。

  雅人はそんな希望を抱いていた。

  しかし、幕切れはあっけなかった。

  残り七分の時点で、真理を守っていた檻が壊れた。

 そして三体のオルフェノク達の中で、鳥のようなオルフェノクが踏み潰され、

 頭からボリボリと貪り喰われた。

 残り五分、サイの様なオルフェノクが口から吐き出した

 火球で、一体のオルフェノクを除く全てが焼き尽くされた。

  残り二分、真理の身体は消し炭になった。

 雅人「真理―ッ!」

  絶叫と共に、映像は途切れた。

 ―――

 ――

 雅人「わああああああああ」

  絶叫と共に跳ね起きた雅人は、極度の興奮状態にあった。

 雅人「ガアアアアア!!!!」

  部屋の中にある全ての物体を叩き壊し始め、目立ったものが

 無くなると、今度はカイザギアを収納したケースに自分の拳を

 叩き付けはじめた。

 雅人「こんなっ、こんなものがあるせいで...ッ!」

 雅人「俺は、俺は―ッ」

 雅人「何のために強くなったんだ―ッ!」

 雅人「真理―ッ!真理ぃぃいいいいいい!!!」

 雅人「ちくしょう、ちく、しょ...う」

  興奮が冷めた後、雅人は生まれて初めて悲しみの涙を流した。

  この心の痛みを忘れないように、真理遊び半分で殺した

 オルフェノク達への復讐心を絶やさぬように...。

  零れ落ちる涙の数だけ、雅人は自分の信念をこの世の何にも勝る強さで固め、

 鍛えていった。

  最早、自分には守るべき聖母はいない。

  彼女は善であるがゆえに、悪に囚われ殺されたのだ。

  自分にあって、真理にはなかったもの。

  それは■■だ。

  正義も悪も何もかも破綻したこの世界で、雅人は自分の正義を再確認した。

  オルフェノクは滅びるべき悪だ。故に滅ぼす。

  自分にとって悪であるものを滅ぼすのは生ある者として当然であり、己が殺した

 存在に罪の意識など持たず、持ってはならない。故に自分は正義である。


  己の心に悪を宿せ。

  己だけで滅ぼすことが出来ぬ巨悪を唯一人で討つのなら、

 心に宿る正義に、何もできない善を守るための必要悪を求めろ。

  悪なる者に一欠すらの善を求めるな。

  奴等がどう変わろうと過去に犯した罪の清算は必ずさせる。

 罪には罰を、オルフェノクには苦痛を超えた凄惨な死を...。
 
  もはや、止まることは、許されない。

 照「わあああああああああああ」

 照「私は、今まで何のために、何の為に戦ってきたんだ―ッ」

 照「咲―ッ、菫―ッ」

 照「えっぐ、ひぐっ」

  宮永照は泣き叫んでいた。

  実の妹を守る為に、多大な犠牲を払って戦ってきたのに

 その宿敵の魔手に既に落ちていたことは照の心に大きな

 悲しみを生んだ。

  宮永咲は自分の予想を裏切り、健やかに何一つ不自由なく生きている。
 
  だが、照は咲を妹としてみることが出来なくなっていた。
 
 照「やだよぅ、戻ってきてよぉ...」

 照「咲~、菫」

 照「私を助けてよ...」

 照「ねぇ、どうして私を助けてくれないの...?」

 照「こんなに、こんなにも苦しいのに...。二人のせいで

   凄く心が苦しいのに...、ねぇってば...」

  世界が変わる前、まだ彼女が普通の学生だったときの

 一番の親友と血を分けた唯一の妹が照にとっての全てだった。

  世界が終わっても、きっと崩れる事は無いと信じていた。

  だが、その絆はあっけなく崩されてしまった。

  これから先、生きていてもしょうがない。

 雅人「...甘ったれるなよ!」

  答えの出ない照の自問自答に終止符を打ったのは、 

 あの草加雅人だった。

 雅人「奴等はなぁ、既にお前の知ってる人間じゃないんだよ」

 雅人「人の心を失ったバケモノに成り下がったんだよ!」

  雅人は照の拘束具の拘束を緩めながら、一言一言照に言い聞かせるようにして、

 照の心の傷を抉るような言葉を絞り出した。

 照「ぞんな、ごどっ、ない!」

 照「ざぎもっ、ずみれもッ!」

 照「バケモノなんかじゃない!」

  拘束具から抜け出した照は、自分の肩を強く握る雅人を跳ね除け、

 部屋の隅へと駆けこんだ。

  雅人は耳を塞ぎ、縮こまった照をそこから引き剥がし、その顔面に全力の

 パンチを叩き込んだ。

  吹っ飛び、仰け反る照。

  余りの痛みに悶絶し、起き上がることの出来ない照を雅人はガッ、と襟首を

 掴みあげ引き起こした。

 雅人「奴等が今までお前にしてきたことを思い出せよ!」

 雅人「お前の親友はお前を力づくで手に入れて、所有物の

    ように束縛しようとした」

 雅人「お前の妹はお前に守られながらも、結局は仲間や

    肉親のお前を裏切り、iPSに寝返った」

 雅人「それが全部わかってたから、お前は今まで叫んで

    いたんだろうがッ!」

 照「いやぁ、やめてぇ...やめてよ」

  雅人の絶叫が照を追い詰める。

  照とて理解していた。

  菫の気持ちも、咲への愛が必ず二人に通じている訳ではないことを。

  それでも照は二人の事を嫌うことは出来なかったし、いつかきっと

 和解できる日がくると信じていた。

  そうだ、その為に私は戦っていたんだ。

  全てはこんな狂った世界をあるべき正しい姿に戻し、帰るべき居場所に

 戻ることの出来る幸せをこの手に抱く為。

 雅人「いいか、よく聞けよ!」

 雅人「世界はこれから三つ巴の闘いになる」

 雅人「iPS類、オルフェノク、そして俺達人間だ」

 雅人「いざ戦う時になって、力のない人間は真っ先に死ぬ」

 雅人「だが、それ以上に守るべきものを守らずして死ぬ

    人間はオルフェノクやiPS以下なんだよ!」

 雅人「お前は一体誰なんだ?どうしてここにいるんだ」

  耳を塞ぎ、心を閉ざした照。

  だが、それでも雅人は諦めずに照へと激を飛ばす。

 雅人「お前の後ろには誰がいるんだ!」

  その一言が、琴線に触れた。

 照「解放軍の、皆...。こんな世界はおかしいと、思っている人達」

  その瞬間、照は悟ってしまった。

  そうだ、もう自分が好きだった親友と妹はどこにもいないんだ。

  菫は、咲は、もう自分より遥か先に行ってしまった...。

  彼女達がこの先、自分と手をとろうとしても、その根底にあるものの正体は、

 人とはかけ離れた悍ましい独占欲でしかないのだ。

  いつの間にか、流れ出した血は止まっていた。

  心からも、身体からも。

 雅人「いるんだよ。誰にだって守らなければならない存在が」

 雅人「戦わなければ、明日は来ない」

 照「草加さん...」

  この時、照は雅人がどれだけの想いを背負いながら

 戦いに望んでいるのかを垣間見たような気がした。

  自分や智葉のような善悪の捉え方とは異なりながらも、ただ一つの譲れない

 信念のためだけに草加雅人は生きている。

  全てを知りながら、それを隠し続け、全てを一人で背負い自分の中にある宿命と

 草加雅人は今も戦い続けている。

  誰にも理解されず、誰も理解しようとしない。

  だから、草加は自分のように迷いや躊躇いがなく、いかなる状況でも遺憾なく

 その強さを発揮できるのだ。

 雅人「だが、時には涙を流すことも必要かもしれない」

 雅人「誰かの胸の中でな...」

  雅人は何を想ったのか、照を自分の腕の中に抱いた。

 照「え、なに?どういう事」

 雅人「黙って立っていてやる。気が済むまで待ってやるよ」

 雅人「家族や恋人が[ピーーー]ば、誰だって、辛い...」

 雅人「泣けよ、ここで全部吐き出してしまえ」

 雅人「そして、明日からまた戦うんだ」

 雅人「これからはお前が解放軍のリーダーだからな」

 照「ありがとう...草加さん」

  今日は余りにも失ったものが多すぎた。

  だけど、喪失に浸っている暇はない。

  今も自分がこうしている間にも、世界は刻一刻と

 変わり始めている。

  だから、私も戦わなければいけない。

  失われた世界を偲びながら...。

 照「頑張るから...だから、力を貸して下さい」

 雅人「俺は、お前達の味方になったつもりはない」

 雅人「俺は、俺の復讐の為にお前達を利用しているだけだ」

 雅人「利用価値がある限り、俺はお前の下にいる」

 雅人「だから、お前がそんなことを言う必要はない」

 雅人「最大限、お前も俺を利用しろ」

 照「優しいんだね...」

 雅人「黙っていろ...」  

 今日の投下はここまでです

 ―――

 ――

  次の日の朝、スマートブレイン

 
 TV「速報です。昨日未明、新党iPS副総裁の宮永咲様が

   女の子を出産しました」

 TV「まだ詳しいことは判明しておりませんが、母子ともに

   健常であると原村大総統はコメントしました」

 TV「松実玄国防長官は『おめでとうございます。名付け親は

   ぜひ私になりたいです。早く彼女達の所に行かなくては』と

   コメントしました」

 ハギヨシ「健夜様」

 健夜「...分かってる。あと二週間の内に全部済まさなきゃね」

 健夜「宮永照とその他はどうしてる?」

 ハギヨシ「草加雅人が、宮永照に接触を図ったようです」

 健夜「ふーん、同類相憐れむってことでいいよね?これ」

 ハギヨシ「はい。辻垣内智葉は如何様になさいますか?」

 健夜「うーん、沙耶ちゃんと澤田君に持っていかせた方が

    いいかな?どのみちあの二人、出向組だもん」

 ハギヨシ「できることなら、差し出がましいことなのですが

      禍根の種に肥料をお与えになられるつもりですか?」

 健夜「面子の問題だよ。一応、政府の面子があるからね」         
 
 健夜「ま、厄介払いができるんだったらどうでもいいんだ」


 健夜「草加雅人から目を放さないでね。ハギヨシさん」

 健夜「いざとなったら、殺して」

 ハギヨシ「御意のままに」

 ハギヨシ「それでは、私は彼等の元へと向かいます」

 ハギヨシ「木場勇治はやはり、LEOが担当するのですか?」

 健夜「草加雅人より、彼は危険だからね」

 健夜「ああいう爆弾みたいなのにライダーズギアを持たせたら、 

    何をしでかすか分からないもん」

 健夜「まぁ、草加雅人みたいに非情になりきれていないだけ

    改心して良い方向に進む可能性も捨てきれないけど」

 ハギヨシ「須賀君に彼の事を頼んでみます」

 健夜「随分と高く信用してるんだね」

 ハギヨシ「解放軍の中で、彼が唯一の希望です」

 ハギヨシ「私では成し得なかったことを、きっと彼は

      やりのけるでしょう」

 健夜「まぁ、ハギヨシさんがそういうならいいけどね」

 健夜「種子島と関西方面の侵攻のメンバーの隊長は

    ハギヨシさんとLEO君だからね」

 健夜「LEO君には木場君、ハギヨシさんには草加雅人と

    須賀京太郎君を伴って施設を壊滅させてもらう」

 健夜「『ライオトルーパー・プラント』の拠点破壊、

    『青い薔薇計画』の奪還」

 健夜「どちらもスマートブレインの財産だからね」

 健夜「そろそろ返してもらわないと」
 
 健夜「ま、そういうことだから」

 健夜「行っていいよ。ハギヨシさん」

 健夜「衣ちゃんと透華お嬢様のところに」

 ハギヨシ「ありがとうございます。では」

 煌「これからの日本は一体どうなってしまうんでしょうか」

 煌「いや~、すばらとは言い難いですね」

  スマートブレイン社内の4Fに花田煌はいた。

  彼女はオリジナルのオルフェノクではなく、使徒再生によって

 オルフェノクへと転生したオルフェノクだった。

  彼女がオルフェノクになったのは、高校生になりたての頃で

 時期は覚えている限りでは四月の中頃だったはずだ。

 その時、自分は同じ部活の同級生と帰る途中に襲われた。

  煌にとっての不幸は、それがひったくり犯ではなく、怪物だった

 ことだった。いや、ひったくり犯と言っても差支えないだろう。

  自分の命をひったくられたのだから。

  死せるものが生き返ったとしても、生者の世界には

 二度と戻ることは出来ない。それから紆余曲折の末、

 彼女はスマートブレインに引き取られ、入社した。

  オルフェノクになった煌の唯一の自慢は、今に至るまで人を殺めていないことだ。

  スマートブレインの面接官に土下座をした甲斐があったと今でも煌は思う。

 『人を殺さなくても、私は御社に貢献できます』  
  
  それから煌は延々と十五分に渡り、自分の考えたことを


 熱情と共に面接官に話しはじめた。

  自分が子供好きな事に始まり、オルフェノクであっても人を襲わない

 生き方は出来るし、スマートブレイン程の大企業なら子供たち向けの

 教育教材を作ったり、絵本を書いたり、ピアノを弾いて、歌を歌って

 一緒に笑いあえるような職場がある筈だ、と。

  いつか生まれてくるオルフェノク同士の子供達にまで、何かを殺して

 生きることを教えたくはない。

  だから私は人は殺さない。オルフェノクになったからには後に続く世代の

 オルフェノクの子供達に『優しさ』を教えてあげたい。

  この主張が偽善であったとしても、それはきっと誰かの為になる善であると

 私は信じているからです。

  これが結果的に面接官の心を動かし、煌は見事にスマートブレイン本社の子供向け

 教育部門の内定をゲットした。

  勿論、オリジナルのオルフェノクより能力で劣る煌は最初の内は迫害を受けた。

  だが、彼女は持ち前の根気強さと粘り強さで着々と仲間や友達を増やした。

  そして、入社から五年後の21歳。

  遂に彼女は念願叶い、オルフェノクの子供達を集めた、日本全国に点々と

 存在する児童施設のエリアチーフに抜擢された。

  やりがいのある仕事だと煌は思っている。

  人を襲い、殺害したオルフェノクにも家庭はある。

  ジェノサイダーとなったオルフェノクは政府の特別収容所に

 収容され、モルモットにされた挙句、廃棄処分される。

  煌が任されたのは、自分のオルフェノク化を受け入れられない

 子供達の精神のケア、何も知らないままにオルフェノクの力に

 溺れた子供達の心の闇を照らし、社会に溶け込める子供を

 一人でも多く作ることだった。

  人類の極端なオルフェノク化とiPS類化が進んだ日本に残存する旧人類は、

 推定でおよそ2000万人いる。

  しかし、これはおもち党のおもちカーストや兵役や優先事業対象者となった

 一部の政府に恭順する旧人類を加えると、およそ5800万人にまで膨れ上がる。

  そして残りの四割の内、2500万人はiPS類、1000万人から1500万人弱が

 オルフェノクなのだ。

  日本におけるスマートブレインの影響力は確かに巨大だ。

  だが、数の暴力と国民の統制においては遥かに現政府の方が遥かに上手であり、

 オルフェノクを自由に好き勝手出来る権利の大半を握っているのだ。

 

  それでも、100万人を超えるスマートブレインに所属するオルフェノク達の

 結束力は強いと煌は信じている。

  例え自分達が生ける屍だとしても、生還を果たしたのならきっとその生には

 何か意味があるに違いない。

  いつかその中からiPS類や旧人類、オルフェノクが仲良く暮らせる未来への

 架け橋となる存在が現れるはずだ。

  その架け橋に自分はなることが出来ない。

  精々なれたとしても、一本のねじか鉄骨程度だろう。

  知らないうちに運命の歯車に組み込まれたのなら、自分の果たせる全てを必ず

 果たさなければならない。

  それが自分の使命なのだから。

  考え事をしながら、自分に宛がわれた職場の一室を煌が歩いていると、

 誰かにいきなり肩をポンと叩かれた。

 LEO「Hey SUBARA!(ヘイ、スバラ!)」

 煌「わわっと、これは閣下ではありませんか」

 煌「きょ、今日は一体どういったご用でしょうか?」

 LEO「you are returning here after a long time --

hearing it -- I would like to have come to talk

    to you in front of a duty over a long period of time」

   (いや、君が久々にこっちに戻ってきていると聞いてね、 」

    長期任務の前に君と話がしたくなったんだ)

 LEO「May you have time vacated?(大丈夫かな?)」

 煌「ええ、どうぞ!すぐにとります」

  ニヤリと笑いながら、独特のアクセントの英語で自分に語りかけてきた

 相手はLEOだった。

  自分の意中の相手が眼の前にいることに、すっかり舞い上がった彼女は、

 急いでお茶を入れ始めた。

 LEO「Don't hurry so much. It is closed today.」

   (そんなに急ぐなよ。今日は休みなんだ)

 LEO「It will be only easy documents arrangement?」

   (君も簡単な書類整理だけだろう?)

 LEO「Or isn't there any time?」

   (それとも、お邪魔だったかな?)

 煌「い、いえ、そんなことは滅相もありません」

  上下共にスマートブレインのトレーニング用のウェアに身を包んだLEOは

 煌のソファーにどっかりと腰を降ろした。

 LEO「Although oolong tea can be made by itself,

    it is not unluckily put in better by you.」 

   (自分でウーロン茶を入れられればいいんだけど、  

    生憎、君ほど上手に入れられないんだ)

 LEO「Would you carry out early?」

   (出来立てを早くね)

 煌「A hand trembles and it is not put in well.」

  (手、手が震えてう、上手く入れられません)

  前にLEOから教えられた通りの手順で茶葉を蒸らしてから、湯呑へと

 熱い烏龍茶を注ぐ煌の手はいつになく震えていた。

 LEO「It spills too much.(あーあ、こぼし過ぎだよ)」

  湯呑を乗せた盆がびちゃびちゃになったことに

 LEOは苦笑しながら、それを応接机の上に運んで行った。

 LEO「it is formal as usual -- don't become it tense so much」

   (相変わらず堅苦しいなぁ、そんなに緊張するなよ)

  LEOの対面に座ろうとした煌だったが、それを察知され、次の瞬間には隣に

 座らされていたのだった。

 煌(人の気持ちを少しは考えて下さい!)

  好意をストレートにぶつけてくれるのは煌にとって嬉しくはあるものの、

 やはりどうしても自分の自身の無さから無自覚の内にLEOを遠ざけようとしてしまう。

  加えて、LEOがモテることも煌の女としての劣等感を煽る一因となっている。

 LEO「Could it meet after a long time?」

   (久しぶりに会えたんだ)

 LEO「Would you tell your talk?」

   (君の話を聞かせてくれないか?)

 煌「そうですねぇ、どんな話が聞きたいですか?」

 LEO「That is right.

I would like to hear it about the appearance

    of the children of Orphenoch which is present

in a smart brain's facilities.」

   (スマートブレインの施設にいるオルフェノクの

 子供達の様子について聞きたい)
  
  朗らかに煌に話しかけるLEOの笑顔には煌は勝てない。

  清々しいまでに無邪気な笑みを自分に向けてくれる彼は自分にとって太陽だ。

  ただ、その輝きに自分が焼き焦がされてしまうことが煌の一番の懸念だった。

  このままいけば、抑えきれずにLEOに自分の想いを告白してしまいそうだった。

  iPS類とオルフェノクの熾烈な戦いの最前線に立つ、彼の様な存在に

 愛憎がらみのしがらみは絶対に背負わせてはいけない。

  ましてやそれが元で命を落としてしまえば、その原因が自分だったら、

 きっと煌は耐えきれない。
  

 LEO「Am I so fearful?(...そんなに俺が怖いのか?)」

  明らかに挙動不審な煌の心の内を知らないLEOは心の

 苛立ちを抑えながら、努めて明るく煌から話をさせた。

 煌「それでですね、今度スマートブレイン系列の体育館を

   借りて合唱コンクールをしようと思うんですよ」

 煌「関東地区と関西地区のオルフェノクの小学生達が

   全国一位を競うんです」

 煌「審査員の先生達にようやく当てが出来たんですよ」
   
 LEO「Then, I am also a judge specially and call? 」

   (その時は俺も特別審査員で呼んでくれよ?)

 LEO「But it is although it is the talk that I was alive.」

   (もっとも、それまで俺が生きていたらだけど)

 煌「...そんなこと、言わないでください」

 LEO「It is OK.It becomes somehow.」

   (大丈夫だよ。何とかなる)
 
 LEO「Were you rather the moderate party?」
   
   (君はどちらかと言えば穏健派だったね)

 煌「ええ、スマートブレインから見れば私は異端です」

 煌「だけど、あの時自分が言ったことは間違ってないと思いたい...」

 LEO「The idealistic theory of the intellectuals

who do not know sadness sometimes becomes further

easy to draw the worst end near.」

   (悲しみを知らない識者の理想論は、時として最悪の

    結末を更に引き寄せやすくなる)

 LEO「But, Orphenoch which has an understanding in a

smart brain's activity gradually by your favor

    is increasing.」

   (だが、君のお陰で、徐々にだけどスマートブレインの

    活動に理解を持ってくれるオルフェノクが増えているんだ)

 LEO「I am not realized only by violence,

although work solves things

    by violence.This work.」

   (俺は物事を暴力で解決するのが仕事だけど、暴力だけじゃ

    成り立たないんだよな。この仕事は)

 LEO「Since it is such a world, you have to carry out

    degassing by somewhere.」
  
   (こんな世の中だから、どこかでガス抜きをしなければならない)

 LEO「Probably you do not understand,

since you are a virgin, but get the third party who can

trust it in this way to only hear a trouble of you from

a pleasant sensation obtained by SEX, and can do your best.」

   (君は処女だからわからないだろうが、SEXで得られる快感よりも、

    こうして信頼できる第三者に自分の悩みを聞いてもらえるだけで

    俺達みたいなのは、また頑張れる様になるんだ)

 煌「その通りなんですよね」

 煌「その様子だと、何かご懸念でも?」

 LEO「Oh,the newcomer who will introduce to you

    shortly is required.」

   (ああ、今度君に紹介することになりそうな新入りがいる)

 LEO「Mentality is very unripe although it

    has a view which resembled you very much. 」

   (君と大分似た考え方をしているが、精神面が大分未熟だ)

 LEO「I would like to hear your opinion.」

   (君の意見を聞きたい)

 煌「大雑把に彼が言ったこと、覚えている限りでいいので

   できるだけ正確に言って頂けますか?」

 LEO「Is it good with a recording sound?」

   (録音音声でいいか?)

 煌「はい。大丈夫です」

 ~再生後~

 煌「うーん。やっぱり彼は二元論で物を考えてますね」

 LEO「Why?(というと?)」

 煌「物事を二元論で考える人間の傾向に多いのが、己の持つ

   意志が定まらないという傾向です」

 煌「閣下は、オルフェノクと人間の共存は可能だと思いますか?」

 LEO「I would like to believe that it is possible.

But, a process until it results there is

too difficult, and too severe.」

   (可能だと信じたい。

   だが、そこに至るまでの過程が困難で過酷過ぎる)

 煌「万人が耐え切れずに放棄することを成し遂げた人間は

   歴史上千人は軽く超えるでしょう」

 煌「ですが、それはあくまでも対人間の範囲です」

 煌「私達は、今更取り繕わずとも怪物です」

 煌「怪物と人間の共存は成立しえないのです」

 LEO「Does it say clearly?It is thrilling.」

   (はっきり言うね。痛快だよ)

 煌「もし仮に、彼がその理想を成就できる立場になれるとしたら」

 煌「それは、救世主に他なりません」

 LEO「It is opportunism fairly.」

   (随分とご都合主義なんだな)

 煌「神も悪魔も怪物も、人間の範疇を遥かに超えています」

 煌「だからこそ、先人たちはその存在を宗教のように

   最低限人が理解できる範疇に収める作業をしたのです。」

 煌「私が閣下に彼の事で助言できるのは、彼を一人でも多くの

   オルフェノクと触れ合わせ、その考え方を放棄させるか」

 煌「閣下が彼の踏み台となり、彼を助け、来るべき時まで

   大事に守ることくらいです」

 LEO「Is there nothing else?(他にはないのか?)」

 煌「後は...彼を大人にさせればいいのではないでしょうか?」

 煌「そ、その..童貞を捨てさせるとか..」

 LEO「I feel that it was understood how he

    should have been treated after this,

    thanks to the opinion which OK and you offered.」

(オーケー、君の出してくれた意見のお陰でこれから彼を

    どうやって扱えばいいのか分かった気がする)

 LEO「It is time.I have to go.(時間だ。行かなくては)」

 煌「あの、閣下...。次はいつ会えますか?」

 LEO「It does not understand.

However, it gives without forgetting the feeling」

(分からない。だけど、その気持ちを忘れないでくれ)

 LEO「Because I am also the same feeling(俺も同じ気持ちだから)」

  そういってLEOは煌の部屋を後にした。

 煌「...///」

  思わぬところでLEOの本音を聞けた煌は、顔を赤らめ

 バタバタと部屋の中を駆け回った。

  コメントを下さった方々に感謝の意を込めて、いくつかこのお話の世界観について補足をさせて頂きます。
 
 まず450番のコメントの方の「性転換して、同性での交尾強制」という旨のコメントですが、黒チャー率いる

 iPS類の楽園と化した日本でも、iPS類になれない人間達が居ます。

  たとえば超肥満体の人間だったり、性転換手術を受けた人達、そしてボディビルダーのような

 過剰なまでの肉体改造をした人たち、持病持ちの人間はiPS類への移行を認める委員会から不適格者通知が

 送られます。

  原作者様の二作の中で原村さんが主張したように、『私達は同性愛者にとっての楽園をつくりたい』という

 発言からもわかるように、彼女達の嗜好がiPS類に選ばれた人種に多分に反映されているのです。

  次に、皆さんがとても気にしている乾巧の登場の去就についてですが、タッ君は出ません。

 この一言でお気を悪くされる方々が沢山出てこられるかと思いますが、この物語は

 京太郎君の物語です。

  そして、公式や小説で散々不遇な扱いをされている草加さんと木場君が救われる

 お話でもあります。

  僕自身、題名に京太郎「パラダイス・ロスト」と銘打っていますが、草加さんの

 キャラの強さが今のところ京太郎君を遥かに凌駕しています。恐るべし。

  ですが、どのような形であれ京太郎君は必ずこの物語に欠かせない人物です。

  多分、彼なしには原村和は倒せないでしょう。

  お話の進行上、これ以上はあまり話せませんが、おいおい機を見て世界観の補足を

 していこうと考えてます。

 そうですね、アコチャーと灼さんは出すつもりですが、灼さんはiPSの犬となりレジェンゴと幸せな家庭を築き、

 アコチャーは荒川憩の助手として出そうと考えています。

 しずちゃんには悪いのですが、彼女は早期退場確定済みです。みんなのお姉さん宥さんも同じくです。 

  まこさんはキンクリされました。尭深さんはおもち党に所属していますが、彼女自身が表に立って戦うことを

 拒んだために裏方で日本政府のサポートをしています。

 ―――

 ――

 透華「起きて下さいまし!起きなさい、辻垣内智葉!」

  ゆさゆさと自分を揺さぶる誰かの大声が、眠りから智葉を無理やり起こす。

  寝起きの良い智葉でも、耳元で大声で叫ばれるのはいい気分はしないし、不愉快である。

 智葉「ん...うるせぇぞ...!朝から」

 透華「ようやく起きましたわね!辻垣内智葉」

  寝ぼけ眼をこすりながら、自分を叩き起こしたヤツの正体が、二度と会えないと

 思っていた、かけがえのない仲間だったなら話は異なってくる。

 智葉「透華、透華じゃないか!」

 透華「そうですわよっ!まったく、貴女と言う女性は...」

 透華「よく、よくぞ御無事で...。会いたかったですわ」

 智葉「バカ、そんなに易々と私と照が死ぬと思ったか?」

 透華「スマートブレインに拘留されてから、一切外部からの情報と隔絶されて...」

  よくもまぁ、ここまで騒がしくなれるもんだ。

  苦笑いを浮かべた智葉はボロボロと大粒の涙を流す透華をゆっくりと抱きしめた。

  色々と話したいことはあったが、彼女にとっての妹分がいないことに、智葉は

 得体の知れない不安に襲われた。

  ここでようやく、智葉は自分がいる部屋を見回した。

  白とベージュを基調にした簡素な部屋だった。

  最低限の退屈を紛らわすための、テレビやコンピューター、文庫本、冷蔵庫、

 そしてベッド。

  窓はなく、部屋の住人を外に結び付ける接点がドア一つ。

  たったそれだけしかない。

  圧迫感を感じるし、なによりも時計がない。

  並の人間なら、一ヶ月で正気を失い始めるだろう。

 智葉「それより、衣はどうした?」

 透華「...衣は、別の病棟にいますわ...」

  発芽を始める不安の芽を何とか取り除こうと智葉はここにいない衣の

 居場所を透華に聞いた。

 智葉「...透華、一体お前達に何があった?」

 透華「長い話に、なりますわよ」

 智葉「ああ、私もお前以上に長い話をするつもりだ」

 透華「でしたら、ベッドに腰掛けて下さいませ」

 透華「貴女と宮永照と別れた後に何があったのかを?」

 ―――

 ――

 透華「貴女と宮永照が水原に渡りを付けている間、私は国内の

    龍門渕グループのシェルターに一時避難しました」

 智葉「奴等の目をかいくぐるのにどれだけかかった?」

 透華「二ヶ月ですわ」

 智葉「そうか...それで?」

 透華「その二ヶ月間で龍門渕グループはある巨大企業へと

    全て合併されてしまいました」

 透華「そう、このスマートブレインにです」

 智葉「何だと!じゃあ、龍門渕グループは?」 

 透華「はい。一部の裏切者と私だけになってしまいました」

 透華「他の社員はiPSかオルフェノクになりましたの」

 透華「お父様もお母様もこの戦いの中で、反政府勢力の首魁と

    見做され、アメリカのどこかにある収容所に収容されました」

 透華「貴女の言うとおり、私は次期総帥の立場にありましたが...

    iPSの犬となった古参がこぞって龍門渕の株やら財産を

    あちこちに売り払い、最後には私を売り払おうとしました」

 透華「衣もハギヨシもいない。帰るべき家もない」

 透華「結局、私は御先祖様やお父様が受け継いできた龍門渕を

    何もできないまま潰してしまうところでした」

 智葉「苦肉の策だな...。私でもそうしただろう」

 透華「仕方なかったのです...。私は龍門渕透華なのですから」

 透華「それで、それで...。私の会社を乗っ取ったにっくき

    スマートブレインの村上に...取引を持ちかけたのです」

 智葉「村上?取引って一体何を取引したんだ?」

 透華「ハギヨシと衣をスマートブレインが取戻し、龍門渕

    グループを裏切った社員どもに止めを刺す」

 透華「それに応じれば、私と龍門渕グループを差し出す、と」

 智葉「一はどうしたんだ?」

 透華「オルフェノクの使徒再生に失敗して...死にました」

 透華「それで、スマートブレインは約束を守りました」

 透華「衣とハギヨシは私の元に戻り、裏切り者たちは

    全てスマートブレインに処分されました」

 智葉「そうか...」

 透華「それで、それで...それから後はずーっと貴方達の

    消息を三人で探していました」

 透華「そして、スマートブレインのホストコンピューターから政府軍の軍事機密を

    ハッキングした時に、貴女達の居場所を探り出しましたの」

 智葉「水原...いや、尾山豪だな」

 透華「貴女と照が入った人間解放軍の正体は、人間に成りすました

    オルフェノクやiPSのエージェントが、政府に残りの旧人類を

    差し出すための巧妙な隠れ蓑だったのですのよ?」

 智葉「それじゃあ...あそこにいる解放軍の幹部達は...?」

 智葉「おいおいおい!!!じゃあ、お前それを知ってて...?!」

 透華「話せば!」

 透華「貴女と宮永照は真っ先に『青い薔薇』の餌食でしたわ」

 智葉「青い、バラ?」

 透華「政府もスマートブレインも貴女と照を重要視していました」

 透華「ですが、既に自分達の基盤が出来た以上、さほど価値が

    あるとは思わなくなっていたのですわ」 

 透華「貴女と照が気が付かなければ、そのまま泳がし、気が付けば如何様にもしろ。

    尾山の指令にはそう記されていました」

 智葉「じゃあ、何もかもお前は知ってて...私達を」

 透華「貴女はともかく、宮永照にはまだまだ価値があります」

 透華「第二の日本iPS合衆国大統領にという案もありましたのよ?」

 智葉「どこまでも...極悪な真似を...」

 透華「ええ、ですが衣は政府の息がかかったオルフェノク軍に人間解放軍の

    アジトが焼き討ちにあった時、再び攫われてしまいました」

 透華「そこから先は、あの日と同じですわ」

 透華「私と貴女と照が取り残され、しんがりとなったハギヨシが

    私達を逃がして戦死した」

 透華「それが私の今までです」

 ―――

 ――

 智葉「済まないな」

 智葉「お前だってキツイのに、更に負担を強いてしまって」        

 透華「それはお互い様ですわよ」

 透華「貴女の髪、あんなに艶やかで流れるように美しかったのに」

 智葉「まぁそのうち、元に戻るさ」

 智葉「それで?私からもいくつか聞きたいんだが」

 智葉「村上っていうのがスマートブレインの社長なんだよな?」

 透華「ええ、そうですわよ?」

 智葉「私達もな、用あって昨日からスマートブレインに来てるんだ」

 智葉「だけど社長の椅子に座ってたのは、小鍛治健夜って女だ」 
    
 智葉「スマートブレインで何かあったのか?」


 透華「おそらく、派閥争いですわ」

 透華「詳しくは知りませんけど、村上社長は前社長の花形と

    なにかと意見の対立を頻繁に起こしていたらしいですわ」     
 
 透華「結果は、村上の敗北」


 透華「花形は自分の息のかかったオルフェノクの中で特に

    高い戦闘力を持つオルフェノクを据えたらしいですわ」

 智葉「じゃあ、今その二人はどこにいるんだ?」

 透華「村上は政府直轄の施設のどこかに葬られたと聞きました」

 透華「花形社長も、今は行方知れずらしいですの」

 透華「それより、今度はこちらが貴女に聞く番でしてよ?」

 透華「なにがあったのか、洗いざらい教えて下さいまし」

 智葉「ああ、分かったよ」

  智葉はハギヨシが死んだあとの事を洗いざらい話した。

  ハギヨシと入れ替わりに草加雅人と言う男が用心棒として解放軍に入ったこと、

 それから一年後、ファイズのベルトの適合者である須賀京太郎が解放軍の
 
 幹部を救い出し、デルタのベルトを奪還した事。そして照がオルフェノクと

 手を組み、iPS類との全面戦争を視野に入れたことを丁寧に、端的に話した。

 透華「草加雅人、須賀京太郎」

 透華「その二人は信用できるのですか?」

 智葉「出来ると思うがな...性格に大分難がある」

 智葉「しかし、それでもあの二人はとても貴重だよ」

 透華「今は一人でも多くの味方が欲しい」

 透華「ハギヨシがいれば...、きっと今頃」

 智葉「え?だってお前、ハギヨシさんがお前の身の回りのことを

    してるんじゃないのか」

 透華「それは一体どういう事ですの?!」

 智葉「え、ああ...だって、ハギヨシさんがいたんだよ」

 透華「嘘、嘘...そんな、ハギヨシがオルフェノク...」

 智葉「まさか、お前ハギヨシさんが戦死したままだと...」

 透華「ううっ、その...通りですわ」

 透華「ハギヨシ...ああ、なんてことなの」

 透華「また、貴男は私を置いてどこか遠くに」

 ここにきて智葉は小鍛治健夜がハギヨシとただならぬ関係に

 あるのだと推測した。だからこそ透華は涙をボロボロと流し、

 譫言の様にハギヨシの名前を連呼しているのだろう。

 智葉「お、おい...。じゃあ、なんだ?お前とハギヨシさんは
  
    一緒の場所にいたけど、囚われの身となってからは?」

 透華「スマートレディがずーっと私を監視し、身の回りの

    世話をしていました」

 透華「事あるたびに、ネチネチとずーっとハギヨシが死んだと

    呪文のように私に...私に...」

 透華「そうですわそうですわ...。ハギヨシはきっとあの女に

    誑かされて、ああ、私なんかの、私のせいで...」

 智葉(照...早く来てくれ)

  智葉は自分の不用意な一言で精神のバランスを崩してしまい、

 泣きじゃくる透華の背中をさすりながら、ただただ照が来るのを

 待ち続けるしかなかった。

 二日目の朝 スマートブレイン社 京太郎の部屋

  朝の八時に目を醒ました俺は、スマートレディの持ってきた豪勢な朝食に

 舌鼓をうった後、草加と木場。そして宮永照を呼び出し、これからの俺達の

 身の振り方について話し合っていた。

 京太郎「で、これから解放軍に帰った俺達がなにをすべきか?」

 京太郎「まずは水原の死を解放軍のメンバーに話す」

 京太郎「だけどよく考えてみれば、腑に落ちない」

  澤田に殺された水原だが、親切な事にスマートブレインは水原がiPSの

 スパイだとわざわざ教えた。

  それを視野に入れた上で、現在の解放軍の上層部、あるいは解放軍が匿っている

 一般人をもう一度洗い直す必要がある。

 木場「そうだね、水原が一人で今まで俺達を監視するのは不可能だ」

 木場「だけど、こういってはなんだけどさ、宮永さんは

    解放軍では『君臨すれど、統治せず』を貫いているだろ」

  木場の指摘はもっともだ。

  旧人類、それも現政府の体制に抵抗する勢力にとって宮永照の

 存在は無視できない程に大きい。

  解放軍など、iPS軍やオルフェノクから見れば烏合の衆の集まりだ。

  しかし、それでも人が怪物を倒す時に必要なのがシンボルだ。

  世界が崩壊する前、地球を支配しつつある現政府の二大巨頭と互角に渡り合い、

 熾烈な鍔迫り合いを繰り広げた宮永照はこの世界で虐げられているおもちカーストや

 旧人類が一様に思い浮かべる救世主の条件にぴたりと合致する。

 木場「それを考えてみれば、水原さんが死んだ後にいきなり

   『宮永照が次の解放軍のリーダーだ』って言っても

    彼等を刺激するだけだと思う」

  まとまらない意見を遮るように、草加が口を開く。

 草加「だからこそ、仕方なくスマートブレインに辻垣内智葉と

    デルタギアを置いていくんだよ」

 草加「水原はあれでも先陣を切って戦っていた」

 草加「帰り道に政府軍の連中に俺達は襲われた」

 草加「デルタギアでようやく変身して戦っていたものの、何体もの

    オルフェノクに智葉が捕まり、それを助けようとして戦死した」
 
 草加「言い訳としてはかなり苦しいが、それでもこれが一番いい」

 草加「なんだったら、デルタギアで変身した途端に灰になった」

 草加「カイザギアの一件がある以上、奴等は黙るしかないさ」

  草加の提案にうなずく照と木場。

  しかし、それはあくまでも辻垣内智葉の合意を得なければ成立しない。

  彼女の性格からして、照と離れることを拒絶するのは目に見えている。

 照「みんな、聞いて」

 照「私は智葉をスマートブレインに置いていきたくない」

 照「できることなら、草加さんの二番目の案を使っておきたい」

 草加「だが、他の解放軍のメンバーが危ないんじゃないのかなぁ?」

  照の気持ちと意見は俺達にとっても同感だった。

  仮に最悪の事態に解放軍が見舞われた後に、照が一人だけで

 解放軍をまとめるのは既に無理がある。

  それにスマートブレインとの同盟関係がある限り、必ずライダーズギアの

 適合者は共同任務のたびに解放軍を空けることになる。

  その隙を衝かれ、政府軍に襲われたら、ひとたまりもない。

  だからこそ、一人でも多く味方が欲しい。

  俺達の秘密を共有できるほどの信頼がおける頼もしいヤツが。

 草加「仮に校舎の案が上手くいったとして、ストッパー役の水原がいない

    解放軍の中で一番権力を持っているのはあの水原の取り巻き達だ」

 草加「仮に水原があの無能ぶりを意図して演出していたら、他の部下達も

    既に水原の死後に進めるべき計画を実行している筈だ」

 
 
 草加「宮永照の不在中に解放軍を壊滅せよ、とかね」





 草加「俺も須賀もスマートブレインの社員と言えば聞こえはいいが、その実

    体のいい派遣社員の様なものだ」 

 草加「運よくライダーズギアに体が適応しただけの人間さ」

 京太郎「ライダーズギアも、元々はオルフェノク専用に作られた

     専用ツールに過ぎないからな」

 京太郎「しかし、スマートブレインだってバカじゃない」

 京太郎「彼女の事だ。一つでも多くのスマートブレインの機密条項を

     俺達の為に持って来ようとするのは目に見えている」

 京太郎「敵陣で、しかも自分の持つ秘密すら隠すのに覚束ない

     場所であっても、彼女はきっと無理を押してやるだろう」

 京太郎「これは最低な案だが...」

 京太郎「敢えて解放軍が政府軍に襲われている時に、俺達がタイミングよく

     スマートブレインのオルフェノク部隊を引き連れ戻る」

 京太郎「そして、上辺だけでもいいからスマートブレインの

     兵士達を照の足元にかしずかせる」

 京太郎「それでスマートブレインと協力して、iPSをやっつけるぞ、とか言えば

     少なくとも誰もが納得はできる筈だ」

 京太郎「そうすれば説得力が増す。水原の死は無駄じゃない」

 京太郎「タイミングはいつになるか分からないが、そろそろ政府軍が

     俺達に対して何かアクションを起こすだろう」

 京太郎「取り敢えず、智葉も後から合流する筈だ」

 京太郎「その時に彼女に今の会話を説明する」

 京太郎「この話の落としどころとしては、水原の死因は

     カイザギアの持ち逃げでいいよな?」

 草加「中々面白いじゃないか...」

 木場「だったら、行方不明っていうことでいいとおもうな」

 木場「死人の名誉に泥は塗りたくないんだけど...、カイザギアで

    不適合者が灰化する時間は結構差があるんだろ?」
 
 草加「まぁ、変身を解いた後で三日間っていうのが最長の記録だ」

 草加「灰になれば、身元の特定はほぼ不可能だ」

 草加「オルフェノクにしてはいい案だ。素直にそう思うよ」

 草加「よし、辻垣内智葉は連れて帰ろう」

 草加「水原が『行方不明』ならリーダーが『不在』のままだ」

 草加「宮永照の専横はならず、解放軍のオルフェノクどもも

    迂闊に手を出すことはまずありえない」

 草加「その間に俺達は密通したオルフェノクを炙り出す」

 草加「ただでさえ乏しい解放軍の戦闘力と旧人類の人間の数が

    少なくなるが、それでいいか?」

 照「また眠れなくなりそう...」

 木場「俺は...覚悟を決めたよ」

 京太郎「残りの旧人類を、国外に出すことを考えなきゃな」

  草加、木場、照、そして俺も引き返すことが出来ない場所にいる。

  木場のように俺はオルフェノクを肯定はしないが、少なくともこれから

 一方的に解放軍に潜むオルフェノク達を[ピーーー]ことに躊躇いを覚えてしまう。

  だが、それでも自分が人間であり続けたいなら、絶えず止まらず前進するしかない。

  俺には護るべき存在は居ない。

  だが、木場や草加、照の三人にはまだそれが残っている。

  自分のエゴで誰かを[ピーーー]のなら、そのトリガーは最後まで

 引き続けなければならない。

  たとえ俺達のせいで解放軍の全員が皆殺しにされても...。 
  
 草加「時間だ、小鍛治健夜の所へ行くぞ」


 照「分かってる」

  正午を知らせるチャイムが俺達を次の段階へと進ませる。


 スマートブレイン社内 社長室

 
 健夜「宮永さん。昨日の事はごめんなさいね」

  社長室に俺達が足を踏み入れるなり、開口一番、小鍛治健夜は照への謝罪を始めた。

 照「気持ちの整理はつかないけど、どのみちそうなることは

   薄々予想してた」

 照「むしろ彼女達に気が付かれる事無く、何事も起きないうちに

   退却できたのは、むしろ僥倖だった」

 健夜「そう...」

  小鍛治健夜は照の表情を見て、安心した表情を浮かべた。

 照「それで、智葉を返してほしい」

 健夜「いいよ。ハギヨシさん」

 ハギヨシ「はっ」

 健夜「辻垣内智葉をここに連れてきて」

 ハギヨシ「畏まりました」

  懸念していたことが起きずに、一息ついたのも束の間、

 息せき切ったハギヨシさんが智葉を伴い、社長室へと慌てて

 駆け込んできた。
 
 ハギヨシ「た、大変です。社長」

 健夜「何?一体どうしたの?」

 ハギヨシ「政府の方がッ、LEOを今すぐここに」

  取り乱すことのないハギヨシさんが、我を忘れて取り乱している。

  緊迫した状況下の中、ドアがノックされた。

  ドアを押し開け、社長室に入ってきたのは...。


 和「失礼します」

  日本iPS合衆国大総統、原村和だった。

 和の視点


  咲さんが私との子供を産んでから、まだ一日と経過していません。

  しかし、昨夜遅くに戒能さんがお義姉さんと須賀君がピンクハウスに

 赴いたことを私に知らせてくれました。

  ふふっ、これで話が早くなりました。 

 照「原村―ッ!よくも、よくも咲をーっ!」

  激情したお義姉さんが私に掴みかかってきました。

  須賀君も表情一つ変える事無く、腰に回したベルトで変身を遂げ、

 私に素早く切りかかってきました。

 菫「照ッ!もう二度と離さないからな!」

  ですが、須賀君も甘いですね。
  
  まさか私自身が大胆不敵にお義姉さんを誘拐しに来るとは

 予想だにしていなかったことでしょう。

  後は手筈通り、弘世さんがお義姉さんを無理矢理にでもピンク

 ハウスに連れ帰れば計画は完遂です。

 照「いやああああっ!!はなしてぇええええ!!!」

 草加「くっ!変身ッ!」

  須賀君は、まぁ仕方ないとして...。

  残り二人の男は邪魔ですねぇ...

 木場「はぁっ!」

  ユニコーンタイプのホースオルフェノクが弘世さんに果敢に

 切り込んだみたいですが、貴男如きでは彼女を止められませんよ?

 木場「ぐわあああああッ?!」

 竜華「総員、掛かれ―ッ!」

  部屋の外で待機していた竜華さんと彼女が率いる精強な

 SS部隊が瞬く間に旧人類どもを包囲しました。

 草加「小鍛治ッ!これはどういうことだ」

 小鍛治「言われなくてもッ!分かってるよ」

 小鍛治「ハギヨシ!やれッ!」

 ハギヨシ「変身ッ」

  チッ、厄介すぎる相手が出てきましたね。

  ですが、デルタの装備はデルタ―ムーバー一つだけ。

  そんなに恐れることはありません。

 Φ「Start up!」

  ほぉ、アクセルフォームですか...。

  随分と小癪な真似をしてくれますね、小蝿如きが。

 和「随分と調子に乗っていますねぇ...」

 和「キャンキャン吠える犬は、去勢してしまいましょう」

  弘世さんからお義姉さんを引き剥がすことは許してあげます。

  ですがこれ以上、蝿如きが私の視界に入ることは許せません。

 京太郎「和―ッ![ピーーー]えええええ!!!」

  お義姉さんを後ろに庇った須賀君は、私に多重の照準マーカーを

 合わせ、アクセルクリムゾンスマッシュを放ってきました。

 和「25t程度じゃ、私は灰になりませんよ?」

 和「私が法です。黙して従いなさい」

  最初に放たれた、こめかみへの一発を難なく避けた私は

 その後に続く二撃目を避け切り、三撃目でようやく右腕を動かして、

 須賀君を地面に叩き付けました。

  蹴り足を掴み取り、そのまま床に叩き付ける。

  咲さんの愛が私をここまで強くした。

  故に、私はその愛を超える愛でしか死ぬことが出来ない。

 京太郎「ぐふうっ!」

  這いつくばる須賀君、いえ優希のように『駄犬』とでもいえば

 いいのでしょうか?

  とりあえず、彼の腰に巻かれているファイズギアとか言う

 カッコいい変身ベルトを今の内に毟り取ってしまいましょう。

 竜華「大総統、逃げて下さい!」

  強化戦士オーガへと変貌を遂げた竜華さんの声で我に返った

 私は慌てて須賀君を盾にしました。

  潮時が来たようです。

  せめて弾除けにはなって下さいね?須賀君。

 菫「ぐうっ!」

 竜華「きゃあああああっ」

  しかし、思ったよりスマートブレインと言うのは

 一枚岩では無かったようです。 

 Δ「Exceed Chrage!」

 Ψ「Exceed Chrage!」

  まさか...、デルタ専用のマルチツールを開発していたとは..。

  そう思った時には既に時遅く、私の身体をデルタとサイガの

 必殺技が貫いていました。

 照「げほっ、げほっ!」

  始まりのベルトと『天』のベルト。

  その二本のベルトの最大攻撃を受けた私の身体には大穴が

 空いてしまいました。

 LEO「Don't slacken offensive until a fellow dies!」

 
   (奴の息の根を止めるまで、攻撃の手を緩めるな!)

 ハギヨシ「京太郎君!草加君!」

 ハギヨシ「次は君達の番です!」

  フォトンブラッドによる毒殺というのも中々乙ですね。
  
  ですが、私はその程度じゃ死にませんよ?

 草加「須賀ァッ!合わせろぉっ!」

 京太郎「任せろッ!」

  ファイズエッジから放たれた斬撃が数秒間私を拘束した。

  その間にカイザはミッションメモリーを装填し直し、デルタも新たな装備である

 デルタポインターを足元に括り付け、再度私を攻撃しにかかりました。

 竜華「二度も同じ手が通用すると思うてか!」

 Ω「Exceed Chrage!」

  ハギヨシさんともう一人の男の攻撃を食い止めるべく、竜華さんが
 
 私の前に立ちはだかり、オーガストランザーを展開し、迎え撃ちました。

 草加「でぃやあああああああ!!!!」

 ハギヨシ「ぬぅおおおおおおおおお!!」

  いかに三本のベルトであろうと、帝王のベルトには太刀打ちすら...。

 LEO「Do I place the bottom and have it performed from a head?」

   (首から下は、置いて行ってもらおうか?)

 和「しまっ!」

  最後まで言い終える事無く、私の首は身体から切り離されました。

  まぁ、計画通りとはいえ大激痛ですね。

 竜華「だっ、大総統―ッ!」

 菫「くっ、照!またお前に会いに行くからな!」

 菫「今度は結婚指輪とウェディングドレスも持ってくる!」

 照「もう、こないでぇ...」

  お義姉さん、その表情ごちそうさまです。

  首だけになった私を竜華さんと弘世さんが警護しながら、

 社長室のガラスをぶち破り、逃走経路を確保してくれました。

 菫「申し訳ありません、大総統」

 菫「計画の要でありながら、貴女の身体に傷をつけてしまった」

 和「いえいえ、別に大丈夫ですから」

  空中に待機していたジェットスライガーに乗り込んだ菫さんは

 大急ぎで政府の極秘施設へと移動を始め、私は暫し目を閉じた。

 和「私の強すぎる力に、今までの肉体が耐え切れなくなっていました」

 和「私の身体一つで貴方達が助かったのなら安いものです」

  特殊な溶液に浸かりながら、私は眠りに落ちました。

 健夜「ハギヨシさん!一体これはどういう事なんですか!」

 ハギヨシ「私ですら、状況を掴みあぐねている所です」

  嵐の様な十二分が過ぎ去った後の社長室はボロボロになっていた。

  怒鳴り散らす小鍛治健夜と苛立ちを隠せずに頭を捻るハギヨシさん。

 ハギヨシ「LEO、澤田君と木村さんは?」

 LEO「The fellow etc. betrayed(裏切りやがった)」
 
 LEO「The smart brain's security was cancelled,

    and it was killing and turning around Orphenoch of

almost all the SWAT(s) unit that is in the company.」

   (奴等、スマートブレインのセキュリティを無効化して、

    社内にいるSWAT部隊のオルフェノクの殆どを殺しやがった)

  LEOもまた怒りに身を震わせながら、事態の報告を始めた。

  聞き取れた範囲では、あの澤田と木村とかいうオルフェノクが

 スマートブレインを裏切り、政府に寝返ったという話らしい。

 健夜「ああもうっ!どうしてこうなるのかなぁ!」

 健夜「悪いけど、須賀君たちは帰って」

 健夜「iPSのトップが直々に出張ってくるなんて予想外すぎだよ」

 健夜「ハギヨシさん!今からシステムチェックと緊急会議の準備!」

 ハギヨシ「分かりました!」

 健夜「それとLEO君は全国各地のスマートブレインの戦闘部隊を

    関東地方に結集させて!」

 健夜「ここまで虚仮にされたら、報復しかない!」

 健夜「何してるの?!二人とも早く取り掛かりなさい!」

  小さな体を怒りにわなわなとふるわせながら、小鍛治健夜は

 俺達に帰れと手振りで指図した。

  吹き飛ばされ、気を失った木場を助け起こした俺は、草加の後ろで

 ぶるぶると震えている照と智葉に目配せをし、急いでスマートブレインから脱出した。

 書き溜めの為、いったん時間をおいてから再投下します。

 帰りの車内にて


 草加「....」

 木場「....」

 京太郎「....」

 照「....」

 智葉「....」

  先程起きた衝撃的なiPS類からの襲撃のショックで誰もが

 口を閉ざしている。

  ファイズとカイザに変身した俺達ですら、歯が立たなかった。

  ハギヨシさんとLEOのコンビネーションが無ければ、きっと今頃照は弘世菫に連れて

 行かれてしまっただろう。

 草加「しかし、iPS類っていうのは随分としぶといんだな」
 
  ようやく口を開いたのは草加だったが、心なしか純然たる実力差を見せつけられ、

 しおらしくなっていた。

  だが、草加以上に俺もショックを受けていた。

  [ピーーー]気で和へと切りかかった。

  アクセルフォームを使って仕留められない程の何かがiPS類にあるとはあまり

 考えたくないが、現にピンクハウスで戒能良子が部下の血液を用いて作り出した

 水の剣と言い、原村和の驚異的な生命力は、やはりこれから先、俺達の脅威となって

 立ちはだかるだろう。

草加「体に大穴を開けられてなお平然と佇み、首を切り落とされても
 
    生命活動を完全に停止していなかった」

 草加「上級オルフェノクでさえ、あの二撃を受けたら一たまりもない」

 草加「おい、宮永。お前何か知らないのか?」

  考え込む俺を余所に、草加は照をジロリと睨みつけた。

 照「私がiPS類について知っているのは、世界が変わる前まで」

 照「その時のiPS類達は、あんな超能力なんか使っていなかった」

 照「例え、iPSで一番強いのが居ても、精々が人に毛の生えた位の

   頑丈さ程度の存在だった」

  照の答えに不満げな表情を浮かべた草加は、天を仰いだ。

  そんな草加を見た木場は遠慮がちに自分の意見を述べ始めた。

 木場「あのさ、智葉さん」

 智葉「ん?なんだ」

 木場「もしかして、スマートブレインの誰かが政府の誰かに
 
    手を貸しているという可能性はないのかな?」

 智葉「続けてくれ、少し私にも思い当たる節がる」

  そして木場は俺達に自分の仮説を話しはじめた。    
 
 木場「俺が日本を放浪していた時、スマートブレインの社長は


    村上峡児って三十代の男だった」

 木場「そのことは解放軍の全員は知ってるよね?」

  木場の確認に草加と照が相槌を打つ。

 草加「ああ、だがソイツは半年以上前、社長を依願退職した」

 草加「亦野が調べ上げられる範囲で調べた所、前社長との確執が

    原因でスマートブレインが瓦解まで追い込まれたらしい」

 照「亦野の報告の正確さはここにいる誰もが知っている」

 照「問題は、草加さんの言ったその確執の内容」

  そうなのだ。

  オルフェノクにとっての砦であるスマートブレイン程の会社が

 社長同士の確執程度で瓦解寸前まで追い込まれたのはおかしい。

  確かに、二年程前に日本で最後までiPSに抵抗していた龍門渕

 グループがスマートブレインの強引な買収により、その傘下に

 収められたことは日本国民の記憶に新しい。

 草加「で?君が言いたいことはスマートブレインがiPS類と

    グルになって俺達を罠に嵌めるってことなのかなぁ」

 木場「いや、それはないと思う」

 木場「iPS類とオルフェノクの関係って言うのは国とマフィアに似てる」

 木場「オルフェノクは個人や会社に圧力をかける事ができるけど、

    国や軍隊に真っ向から勝負を挑まない」

 木場「これはもしもの話だけど、オルフェノクがiPS類と同じ土俵に

    立てたとするなら?皆は一体どうする?」

 京太郎「その『切り札』をチラつかせ、権力の座から引き下ろす」

  木場の質問の意図に誰もがハッ、と息を呑んだ。

 オルフェノクは人間の急激な進化の形だと、木場は以前俺に話した。

  そしてその急激な進化のせいで身体が灰化し、最後には一気に

 灰となって崩れ去る。

  しかし、その急激な進化に順応できる細胞がオルフェノクにも

 存在したら、果たしてどうなるのか?

 草加「まさか、iPS細胞がオルフェノク化と密接にかかわっていて、

    何らかの影響を与えているのか?」

 木場「うん。多分そうだと思う」

 木場「スパイダーマンって知ってるよね」

 木場「主人公のピーター・パーカーは、遺伝子を組み換えられた

    スーパー・スパイダーに噛まれた事によって蜘蛛の力を得た」

 木場「人間のオルフェノク化のメカニズムは解明されていないけど、

    スーパー・スパイダーに噛まれたのと同じような身体の

    DNAの組み換えが人体で自動的に行われたって俺は考えている」

 京太郎「じゃあ、オルフェノクが人間から馬になったりするのは?」

 木場「多分、DNAの中にそういう因子が混じっていて、死んだ後に

    その因子が俺達に強く働きかけて、オルフェノクを作り出す」

 木場「多分、その因子が人間のDNAを破壊するような癌細胞だったり、

    進化の過程で生じる適応の途中なのかは分からないけど」

  木場の仮説は恐らく100%正解だろう。

  小鍛治健夜もあの時、俺達二人を庇う時に念動力を使った。

  木場の仮説に基づけば、和の化け物じみた不死身の正体がおのずと判明する。

 智葉「木場、話の腰を追って悪いんだが『青い薔薇』って知ってるか?」

 木場「青い薔薇?」

 智葉「実はな、言いそびれたことがあって...」

  ここでようやく智葉が自分の話を切り出した。

 智葉「透華はスマートブレインに囚われている」

 智葉「彼女が私と照に合流したのはハギヨシさんが死ぬ

    半年前、まだ村上が社長だった頃だった」

 智葉「私達と合流する前、透華はハギヨシと一緒に政府の

    コンピューターにハッキングを仕掛け、水原の正体、

    及び照の処遇について書かれた書類を見つけたんだ」

 照「私はどういう風にしろって書かれてた?」

 智葉「松実玄の後釜、日本iPS合衆国大統領に就任させると言っていた」

  政府の奴等は相変わらずえげつないことを考えやがる。

 智葉「解放軍の幹部達は、恐らく全員がiPS類の手先だ」

 智葉「そして透華が口にした青い薔薇」

 智葉「政府はおそらくオルフェノクの使徒再生のメカニズムを

    完全に理解して、実用化に踏み切ったんだ」

 草加「何てことだ...じゃあ」

 智葉「ああ、恐らく近いうちに解放軍は必ず襲撃を受ける」

 智葉「そうだな、私はお前達と一緒にいなかったから分からないが、

    スマートブレインと共同任務に出た直後とかに

    政府軍は急襲を掛けるんじゃないのか?」

 京太郎「有り得る話だな」

 となると、事態はかなり予断を許さない状況になってくる。

  政府の連中は俺達の思っている以上に、オルフェノク化の

 メカニズムを完璧に理解し、実用化している。

  スマートブレインもオルフェノクに関する研究の大半を政府に

 引き渡したがために、後手後手に回ってしまっているが、組織としての

 質の高さでは政府に勝っている。

 京太郎「あと少しで、俺達のアジトに到着する」

  高速を降りて、アジトから5㎞離れた場所でスマートブレインの

 運転手は俺達を下ろした。

 京太郎「これから俺達がするべきことは、幹部達のいない機を見計らい、

     このメンバーだけで話し合おう」

 京太郎「木場、このことは絶対に誰にも言うなよ」

 木場「分かった。だけど、大星さんと愛宕さんはどうするんだい?」

 照「私があの二人を説得しておくから大丈夫」

 照「多分、これから私と智葉の監視が強くなると思うから

   私の代わりに亦野が皆と一緒に行動すると思う」

 照「私と智葉は幹部達を見張ることにする」

 草加「ドジを踏むなよ」

 草加「もし、木場や辻垣内の言う通りだとすれば『青い薔薇』は

    触れただけで人間を死に至らしめる究極の毒だ」

 草加「身の危険を感じる場所には入らないし、絶対に一人になるな」

 草加「スマートブレインからまた何か連絡が入るまでは、徹底して

    この方針を守るぞ」

 草加「いいな?」

 全員「了解」

 朧げながらもようやく掴んだ敵の力の正体、

  そして、いつ俺達に牙を剥くか分からない水原の部下たち。

  解放軍に帰った後も、俺達にはやることがまだまだ沢山ある。

  取り敢えず、今日の一番の課題はいかに解放軍の幹部達に

 水原の死を上手く説明するかということになりそうだ。

  長い夜になりそうだ...。

  521さん。コメントありがとうございます。

  先程の私が返答した455のコメントにあるように、555の人間とオルフェノクの負の側面を持つ草加さんと

 木場さんが報われる話を書きたかったために、555本編と比べて二人のキャラには大分補正をかけています。

  京太郎君は元のお話の方では、男性二人にレイプされそうになり、自分の平和だった暮らしを奪われた

 作中最大の被害者です。

  誰だって、自分の後ろの穴のヴァージンを無理矢理こじ開けられたら、殺意を抱き、殺したいほど

 その犯人を憎みますよね?住み慣れた地元を追われ、好きでもない、ちょっと顔のいい女の子と一緒に
 
 東欧の言葉も通じない日本人学校に転校させられたら悲しくなりますよね?僕はそんなの絶対に嫌です。

  
  京太郎君を突き動かす行動原理は、和に罪を償わせて罰を受けさせる。これに尽きます。

  つっこんだお話になりますが、この先でも京太郎君はぶれずに執拗に、咲さんと和ちゃんとの決着を望み、

 iPS類との戦いに臨んでいきます。

  一方で草加さんと木場さんは、かつて二人が辿った結末とは反対の明るい未来へと向かっていきます。

  草加さんは赦しと自己救済、そして再生。木場さんは人の温もりと愛、そして誰かを護るために剣を取る。

 というようにして書いて行こうと考えています。  

  長くなってしまいましたが、これがこのSSにおける京太郎、草加、木場の三人の担う役割です。

  今日はこれで投下をおしまいにさせて頂きます。おやすみなさい

  今晩は。怜ちゃんと竜華ちゃんやハッツの話題が取りざたされているので、そこら辺の補足をば。

 怜ちゃんはiPS側にとってのジョーカーです。付け加えれば、彼女は病弱の身なのでiPS類になってない

 本編中でも数少ない普通の人間です。

  ですが、彼女には特殊な力がありますよね?未来視です。

  昨日の時点で和ちゃんは首以外をスマートブレインにおいていきました。

  で、ここからが本題なのですが、和ちゃんは和ちゃん自身を使って更に段階が上のiPSを
 
 超越した存在へと自分を昇華させようとしているのです。

  本文中で説明すると整合性が取れず、ボロボロになってしまうのでこの場を借り、簡単に

 和ちゃんが一体何をしようかとしているのを説明します。

 

  和ちゃんはiPSで作り出した自分の精巣にあたる部分から、精子に相当する遺伝子を

 自分がiPS類になる前に取り出した自分の卵子に受精させることで、もう一つの自分の

 器となる身体を、それも例えるならオルフェノクの王以上のスペックを持つ首以外の

 身体を作り出し、そこに自分の首を接合させ、全てを超越した『神』になろうとしています。

  DIOとかアダム・アークライトじゃありませんよ?

  完全に彼女は自分の手によって自分を人類と言う矮小な存在から解き放つ扉を

 開こうとしているのです。これは咲以外、あの黒チャーですら知らないことです。

  既に現段階においても和の身体の強度は半端じゃありません。

  ハギヨシとLEOのルシファーズスピアとコバルトスマッシュをもろに受けても

 彼女はピンピンしてましたよね?

  iPS類に移行した人間達の何割か?まあその総数の大体20%がiPS類に移行した際に

 何らかの特殊能力を得ました。

  戒能さんは水を操り、和ちゃんは自分の身体が分刻みで進化するという感じです。

  オーガギアの適合者である竜華ちゃんと遂にヤンデレになった菫さんは特殊能力こそ

 発現しなかったものの、国の総力を挙げたオルフェノクの使徒再生のメカニズムを

 解析した上で作られたオルフェノクの記号に一発で順応したため、高い戦闘力を

 誇っています。

  いうなれば、人でありながらオルフェノクと同じことが出来る存在なのです。

 

 

  園城寺怜がiPS側の切り札になることは確かです。

  更に言えば、和ちゃんも変身して戦います。もちろんオカルトや非科学的な存在を

 信じない彼女が何に変身するのかは大体察しが付くと思います。

  これからはiPS細胞について調べたり、テスト勉強で時間が取れなくなり、更新が

 おろそかになりがちですが、取りあえず8月中旬には最初に投下したスピード並みの

 速さで更新をしていくつもりです。

  今日の更新はなしです。明日まとめて投下します。おやすみなさい

 どうも、みなさんこんばんわ。作者です。

 今自分が使っているパソコンを修理に出しているため、別のパソコンから投稿することにします。

 idは変わりますが、内容は変わりません。ご留意のほどをお願いいたします。

 

 解放軍のアジトにて

 幹部A「嘘をつくな!お前たちが水原さんを殺したんだろ!」

 草加「ああ、半分程はあっているがな」

  俺たちがスマートブレインから帰ってきたのが午後八時。
 
  そして照と智葉が解放軍の幹部達に緊急招集を掛けてから

 すでに二時間半が経過していた。

  集められた幹部達は、水原の姿が見えないことに対して

 不審も露に俺たちを睨み付けていたが、まがりなりにも解放軍の

 中心的存在だった水原がいなくなったことに殆ど動揺していない。

  おそらく、こちらの出方を既に予測していたのだろう。

  限りなく黒に近いグレーだ。   

 草加「奴は恥知らずなことに、政府に寝返り、あまつさえ

    重要な戦力であるライダーズギアを持ち逃げした」

 草加「だが、俺達とスマートブレインが水原を見つけた時、そこには

    奴の灰に塗れたカイザギアがあった」

 幹部A「お前ッ...!」

 幹部B「じゃあ水原さんが生きているって証拠はあるのか?」

 幹部E「水原さんは先陣を切ってオルフェノクとiPS類との

     戦いに臨んでいた」

 幹部A「その水原さんが俺達を見捨てて一人で逃げ出すなんて

     到底考えられない」

  照が話したことを二度も三度も繰り返し説明させられた

 草加の虫の居所は最高に悪かった。

  このままいくと自制の聞かなくなった草加が余計なことまで

 口に出してしまうと考えた俺は木場とアイコンタクトを取り、

 草加と交代することに決めた。

 幹部U「あーあ、お前たちは救世主でもなんでもねぇよ」

 幹部U「単なる疫病神そのものだ」

  草加と同僚の会話をさえぎるように口を開いたのは、水原の

 副官でありサブリーダー的な幹部だった。

 幹部U「アンタだよ、宮永照」

 幹部U「お前とその仲間が来たせいで、この解放軍の秩序が乱れた」

 照「秩序が乱れた分、貴方達の私腹は肥えたはずでしょう?」

 幹部U「仮にそうだとしても、マイナス分がはるかに多い」

 幹部U「穴の開いた袋に沢山の物資を詰め込んでも、そこから

     ボロボロ物がこぼれりゃまったく意味ねえし」

  普段なら言わないような相手の神経を逆なでする発言は

 解放軍の幹部達と俺たちの間に亀裂を生んだ。

  妹の裏切り、利用関係とはいえ今まで自分たちを襲ってきた

 オルフェノクたちとの同盟の盟主。そして今、政府との密通者を

 あぶりださなければならない重責に晒されている。

 ボロボロの精神に鞭を打ち、気丈に振舞っているものの

 照のストレスは相当のものだ。

  彼女の持ち味の冷静さがここにきて剥がれかけている。

 亦野「お言葉ですが、そういう言い方はないと思います!」

 亦野「スマートブレインに宮永総裁や智葉さん、草加さん以外に

    同行を願い出た幹部の方は誰もいないはずです」

 亦野「にも拘らず、貴方方の利害の一致不一致でスマートブレインとの

    同盟を結んだ総裁の判断にケチをつけるのは無責任ではありませんか?」

  机を思い切り叩き、勢いよく自分の主張を話した亦野のお陰で幹部達は

 一様に苦い表情を浮かべながらも、自分達の不満を収めた。

 亦野「いいですか?宮永照や草加雅人、そしてその取り巻きが

    大嫌いな人達でも耳の穴をかっ穿ってよく聞いてください」

 亦野「今現在私達がここを根城にして、オルフェノクやiPSに

    襲われたことは数え切れないほどありますよね?」

 亦野「市民暴動の真似事をしてiPSやオルフェノクのいる建物に

    放火や爆発物を仕掛けては逃げ、報復を受ける」

 亦野「そんなことをしてて、私達が生き延びるチャンスが本当に
 
    あるとお思いですか?仲間家族が敵になる世界なんですよ?」

  亦野誠子。宮永照付のSPであり旧まないた党の懐刀。

  ここに来て日が浅い俺でも、彼女がかなりの切れ者であることは

 一発で理解できた。

  現実を理解し、いかなる時も任務遂行の為、柔軟でニュートラルな

 思考をしている彼女が、解放軍のオルフェノクやiPS政府の情報を

 かき集めているからこそ、今日の解放軍は成り立っている。

  その証拠にあれだけ草加と照に対してあれこれとわめき散らした

 幹部たちが渋々ながらも亦野の発言に耳を素直に傾けている。

 亦野「幹部DさんはSATの警察学校の教官だった。水原さんは警備会社の

    チーフだった。今まで死んでいってしまった幹部や兵士の方々も

    それぞれの人生があったじゃないですか!!」

 亦野「ここにいる全員がかけがえのないものを失い、悲しみの涙を

    流してきました」

 亦野「だからこそ、そうした人達が立ち上がって、人類解放軍を

    結成したはずです」
 
 亦野「ですが、水原さんも幹部Dさんも死の際には何もそんなことを

    気に掛けず、まるで急ぐかのように死んでしまいました」

 亦野「今必要なのはいったい何なんですか?!」

 亦野「何か大切に思える『希望』って奴が欲しかったからこそ」

 亦野「皆さんは宮永総裁や智葉さん、草加さんを諸手を挙げて迎え入れ

    今日という一日の大切さを噛み締めて生きてきた筈です!!」
  
  彼女の一言に幹部達は何も言えず、押し黙ってしまった。

 彼女の一言に幹部達は何も言えず、押し黙ってしまった。

  草加みたいに性格や生い立ちに難がある奴ならともかく、宮永照が

 世界がiPSの手に落ちるまでは、奴らとの戦いの第一線に立って戦っている

 ということを知っていたからこそ、解放軍の幹部達は何の力も持たない

 非力なジャンヌダルクを迎え入れたのだ。


 亦野「いざ、iPSと戦ったらここにいる全員が死ぬかもしれません」

 亦野「だけど、今まで私達が戦ってきた二大勢力の内のオルフェノクが

    iPS類に対して牙を剥いたんです」
 
 亦野「この機に乗じて、私達が生きている証を世界に刻み付けないで

    一体、誰が、いつ人類を開放するって言うんですかーッ!」

  絶叫。

  沈黙。

 幹部V「じゃあ、俺達はこいつ等を信用しなけりゃならないのか?」

 亦野「信用したくなければ、しなくてもいいのです」

 亦野「ただ、これからiPS合衆国政府と戦う彼らが」

 亦野「私達に齎す光を、」

 亦野「光を見失わなければ...きっと奇跡は起こせます」

  亦野が幹部の一人へ伝えたその言葉は、俺の心に勇気をくれた。

  こんな状況下、明日への展望が分からない中、ただひたすらに俺達を

 信じてくれている人間がいるのがこんなにも嬉しいことだとは想像だに

 していなかった。

 幹部U「はぁ...亦野にはかなわねぇなぁ」

  亦野の渾身の説得により、頑なに心を閉じていた解放軍の

 幹部達が一様に俺達を見てきた。

  その眼差しには、未だに根強く猜疑が残っていたものの、もう一度

 俺たちに賭けてみようという気持ちがありありと浮かんでいた。  

 幹部U「分かったよ...俺達は宮永照に従えばいいんだな?」 

 亦野「その言葉に偽りはありませんか?」

 
 幹部B「俺達は、まだ宮永照を信用したわけじゃない」

 幹部B「亦野誠子の口から語られた、あの熱情にほだされて

     もう一度、誰かを信じてみようと思っただけだ」

 幹部F「それを踏まえてもう一度聞くぞ、亦野」

 幹部全員「俺達は、信じていいんだな?」

 亦野「はい。私達旧人類の御輿は宮永照です」

  その瞬間、名実ともに宮永照が解放軍の新リーダーへと決まった。

 幹部U「宮永総裁サマよぉ、俺達を押しのけてリーダー張るんだったら」

 幹部U「ここにいる何の力もない奴等を守ってやれよ」

 幹部U「流石に捨て駒にされるのは勘弁だが、俺達のやることは変わらない」

 幹部U「きちんと俺達を使ってくれよ?」

  そう言った幹部Uは席を立ち、そのまま部屋から出て行った。

  それに習い、他の幹部たちも照に期待の言葉を一言ずつ掛けてから

 部屋を出て行った。

 照「亦野...、本当になんていったらいいのかわからない...」

 亦野「宮永先輩、今日は休んでください」

  しゃくりあげながら、亦野の胸で泣きじゃくる照の背中を

 智葉がやさしくなで続け、木場もまた照れくさそうに微笑んでいた。

 亦野「スマートブレインから連絡が来るまで、ゆっくりと休んで、

    心を整理して、そこから再び始めましょう」

  亦野の言葉に頷いた俺達は、このめそめそと泣き続ける

 解放軍の新リーダーに一言ずつ言葉を掛けていった。

 京太郎「その通りだ」

 草加「懸念もあるが、取り敢えず、今はお前が名実共に

    旧人類の希望の象徴だ」

 京太郎「金もない、武器もない、食い物もない」

 智葉「だけど、希望はまだ尽きてはいない」

 木場「それだけで、俺たちは戦える」

 木場「戦うことができるんだ」

  俺の言葉を草加が引き継ぎ、その次に智葉、そして木場が綺麗に

 締めくくった。

  何も言わずに各々の言葉が一つのメッセージになったことに

 俺達は一様に『以心伝心』という言葉を思い浮かべた。

 草加「フンッ」

 草加「フッ」

 京太郎「はぁ、やれやれ...」

 智葉「いい笑顔じゃないか、草加」

 木場「違うよ、皆がすごくいい笑顔を浮かべてるんだよ」

  草加の照れ隠しをからかう智葉に木場がナイスフォローを入れる。

  照はそんな三人のやり取りを見ながら、泣き笑いの表情を浮かべていた。

 京太郎「もう、十二時か...」

  腕時計に目をやると、後一時間ほどで今日が終わるところだった。

 照「ありがとう。みんな」

 照「頑張るから...。私、頑張るから」

  物静かで慎ましげな笑顔を浮かべた照は、新たに前に進むことを決意した。

 草加「さてと、俺は疲れたから先に失礼しようかな」
 
 草加「といいたいところだが...」

  怪訝に思う俺達を尻目に、草加はホールの床を空け、なにやら袋に

 包まれた物を取り出してきた。

 草加「新リーダーの就任祝いが、ただの激励だけじゃ総裁サマも

    ハリが出ないだろう?」

 草加「解放軍の幹部連中の目を盗むのは大変だったが...」

  草加が包みから取り出したのは一本の白ワインだった。

 智葉「バタール・モンラッシェ?」

  掠れたラベルに書かれた文字をそのまま読み上げた智葉だったが、

 その隣にいた木場は興奮もあらわにその瓶を手に取った。

 木場「聞いたことがある...。確か凄く価値がある高級ワインだ」

 木場「でも、どうしてこんなワインがここにあるんだろう」

 草加「俺がここに来たときに、ホテルの総責任者の部屋の棚に隠されてた」

 草加「まぁ、こんな高価な酒を隠しているとは思わなかったけど」

 草加「この酒を飲むには、まさに今日はぴったりだと思わないか?」
 
 京太郎「そうだな...ああ、そうだよな」

 コルクを栓抜きで抜いている草加を全員が固唾を飲んで見守っている。

 京太郎「そういえば、グラスは...済まない、野暮だったな」

  解放軍の拠点がホテルということもあり、コップくらいはあるかと

 思っていたが、もう何年も使われていないコップが殆どだろう。

  埃を被ったワイングラスに、バタールのような超高級品を入れるなど

 論外にもほどがある。

 木場「困ったなぁ、ここ水道も止まってるし...」

 草加「早くしろよ、折角冷えてるのにぬるくなるだろうが」

  木場のピント外れの答えに、草加が苛立つ。

 智葉「なら、いい方法があるぞ」

  ニヤリと笑った智葉はその方法を話し始めた。

 智葉「今ここにいる全員で盃を交わせばいい」

 木場「盃って、あのVシネマのヤクザ映画のあれ?」

 智葉「あれって言うなよ、まあ大体あってるけどな」

 智葉「私は女だから盃なんて貰える立場じゃないし、死んだ

    親父もそれを許さなかった」

 智葉「だけど、盃を交わすのに今日ほど相応しい日があるか?」

 照「盃...、智葉カッコイイ」

 照「やろう。皆でやろうよ」

  うきうきとした智葉に連れられて、照もその盃の話にすっかり

 乗り気になった。

 照「それで、どんなやり方でするの?」

 智葉「それはだな...」

  智葉が全員に盃の交わし方を説明する。

  彼女の説明を噛み砕いて理解すると、どうやら今から交わす盃は

 自分達が対等な間柄であることを示す「飲み分けの兄弟盃」という

 ものらしい。

  色々と準備や手順はあるが、そんなものは関係ないと言ってのける

 あたり、辻垣内智葉の地の性格を垣間見たような気がした。

 草加「ま、なんでもいいからさ」

 草加「取り敢えず、早くこの上等な酒を飲もう」
 
 草加「ぬるくなったワインなんて不味いだけだ」

  会話に割り込んできた草加。

  だが、この中で一番智葉の話に食いついているのが自分だと気がついていない。 

 智葉「うむ、それじゃあ全員輪になって並んでくれ」

  照を基点に智葉、木場、俺、そして草加の順に並んだ俺達は

 智葉から最後の説明を受けた。

 智葉「照がまず最初に一言、ここにいる全員に向けて話す」

 智葉「そして次に順周りにワインを回し、渡された人間はそれを飲み

    これからの意気込みをなんでもいい、とにかく言うんだ」

 智葉「そして最後に草加がシメをとり、晴れて終わりというわけだ」

 木場「分かった」

 京太郎「同じく分かった」

 照「それじゃあ、私から」

  全員が頷いたのを確認した照は、草加から手渡されたワインの瓶を

 グッと傾け、口に含んだ。

 照「私は、私たちは必ずこの国を変えてみせる」

 照「ここにいる全員を私は心から信用しているし、裏切られても

   絶対に責めたりはしない」

 照「だから、この五人は絶対に何があっても最後まで戦い抜こう」

  バタールを嚥下し、口を開いた照の言葉は『信』に重きを置いていた。

  誰かを信じるのはとても勇気がいる行為だ。
 
  信じた人間を失い続け、裏切られ続けられた照にとって、

 それはなによりも重んじなければならない重要なことだ。

  眼差しに強い光を宿した照は、次に智葉へと瓶を渡した。

 智葉「そうだな、私は照のことが好きだ」

 智葉「ポンコツで間が抜けているけど、私たちを束ねるのに

    コイツは相応しいリーダーだ」

 智葉「だから、私はその日が来るまでコイツをどんな敵からも守る」

 智葉「コイツを助けて、最後まで戦うさ」

  正々堂々と自分の気持ちを臆すことなく打ち明けた智葉。

  おそらく、今の彼女はiPS類達と殆ど同じだろう。

  だが、彼女が奴等と決定的に違うのはその思いの質と深さだ。

 体を重ね、互いの想いを確認するのも確かに愛の一つだろう。

  しかし、日本を支配するiPS達やおもちカースト恭順者たちが、

 手元に置き、その好意を向けた対象に抱いている感情は、

 愛ではなく恋に過ぎないのだ。

  言葉で思いを伝え、形にして確かめ合うのが恋。

  だけど、本当の愛の姿すら分からない俺達にはそれが

 果たしてどちらなのか分からない。

  だからこそ、今の智葉の発言は何よりも重いのだ。

 智葉「さぁ、次は木場。お前だ」

  一息に口をつけてラッパ飲みした瓶を、ぐいっと木場に

 押し付けた智葉は照の肩に手を回した。

 木場「俺は...オルフェノクと人間が共存する未来を作りたい」    

 木場「オルフェノクは怪物で、化け物かもしれない」

 木場「だけど、化け物になってもちゃんと人の心はある!

    自分の未来を決めるための手足だってちゃんとある」

 木場「だから俺は戦いたい。未来のために」

  木場は言わずもがな、『夢』に重きを置いていた。

  先程の智葉と同じように、コイツも自分の気持ちになにかしらの

 迷いが生じていて、それを振り切ることができず、迷っている。

  人間である俺たちから見れば、草加のしていることは絶対にとは

 いえないが、正義に準じているのだ。

  事実を俯瞰している第三社の物の見方が特別なだけで、

 俺達人間にとって草加雅人は頼もしい味方であり、仲間を殺された

 オルフェノクの視点から見れば、カイザは悪なのだ。

  今の木場のものの見方は、彼自身の生来の生真面目さと

 何の意味もなく殺されていったオルフェノクの無念、そして

 自己否定からくる後ろ向きでネガティブな考えが一緒くたに

 ごちゃごちゃと入り混じった複雑なものだ。

  オルフェノクが人を襲わない世界。

  人がオルフェノクを殺さない世界。

  木場の理想が叶うときが来るとしたら、それはどちらか一方が

 もう一方に敗れ、全滅するときだろう。

 だが、木場が望んでいるのはそんな血なまぐさい未来ではなく、

 第三の選択肢である、流血を伴わない平和的な解決なのだ。

  難しいと思う。それを成し遂げるための意思の強さが木場勇治に

 あるかと問われればここにいる全員がNOと答えるだろう。

  だけど、スマートブレインとの協力関係ができた今、木場にも

 自分の夢が絵空事ではないと思える希望が生まれた。

  俺に出来ることがあるとすれば、それは木場が自分を見失なった時、

 助けの手を差し伸べることくらいだ。

 木場「京太郎君、どうしたんだい?」

 京太郎「頑張れよ」

  ま、今のところはこの一言が俺の木場に対する率直な気持ちだけどな。

  手渡されたワインは少しずつぬるくなってきた。

  正直、酒をたしなまない俺にとって高級ワインの味など分からないが、

 それでも口に含んだ途端、甘い夢を見ているような気分に陥った。

  一瞬の間だったが、清澄にいたときの自分を思い出していた。

  あの時が、おそらく俺の人生でもっとも幸せだった時期だろう。


 京太郎「俺は、この一年で現政府を打倒する」

 京太郎「照のようにこの国の未来を真剣に憂いているわけでもない」

 京太郎「草加の様に明確な目的のために突き進んでいるわけでもない」

 京太郎「だからこそ俺は、俺自身が前に進む為に、原村和と決着をつける」

  木場や照、智葉とは異なった考えではある。

  復讐のために己の力を使った人間は結末はどうあれ破滅しか訪れない。

  だが、俺はその『破滅』という形で自分の人生を終わらせようと思う。

  俺は原村和のことが好きだった。

  宮永咲は俺のことを好きだった。


  俺と敵対するあの二人が、昔も今も俺に対して抱いている気持ちが

 果たしてどういうものなのか、知るすべはない。

  だけど、知ったところで過去に戻ることは出来ない。

  だから、俺は未練を自分の胸の中に秘め、俺を信じてくれる

 仲間の為にファイズとしてiPS類との戦いを始めようと思う。

  まだ俺は、自分自身である『須賀京太郎』を肯定できていないから...。

 草加「ようやく俺の番が回ってきたな」

  退屈そうな口調で、俺の手から瓶を取った草加は残った中身を一息に

 飲み干し、真剣な表情で語り始めた。

 草加「俺は、オルフェノクを撲滅する」

 草加「人間解放軍はそのための手段だ」

 草加「ただ自分の仲間を増やすためだけに人を襲い、殺害する存在は

    この世界に必要ない」

 草加「復讐が俺の戦う動機だ」

  草加の戦う理由は相変わらずぶれることが無い。
  
  ここにいる誰もが草加の過去を何一つとして知らない。

  それは、俺たちが踏み入ってはならない領域だからだ。

  俺と違い、草加のオルフェノクに対するスタンスは

 とても明確ではっきりとしている。

  事実、オルフェノクの外見もその行動も怪物そのものであり、

 木場のような人間性を喪失していないオルフェノクがとても

 貴重なマイノリティなだけの話だ。

  何の力もない一般人から見れば、ファイズよりもカイザのほうが

 余程明確な大義も正義も兼ね備えている。

 草加「俺は死ぬのは御免だが、死ぬよりも悲惨な環境で生きるのは
   
    さらに御免だ」

 草加「正直な話、俺は真理と自分の敵さえ取れれば世界が

    どうなろうと知ったことじゃない」
 
 草加「だが、それ以上に真理の身に起きた悲劇と同じ目に遭う

    子供たちを一人でも減らしたい気持ちは確かにある」
 

 草加「だから、オルフェノクを撲滅させるより先にiPS類を

    片付けなければならない」

 草加「奴らをこのまま放置しておけば、いずれ第三次戦争が起き、

    人類の半分以上は確実に死ぬだろう」

 草加「スマートブレインと政府にある帝王のベルト」

 草加「そして人類には三本のベルトが残された」

 草加「現状でiPS類とオルフェノクに対抗できるのは俺たちだけだ」

 草加「ここにはオルフェノクでありながら人の皮を被った化け物がいるし、

    お飾りで頼りないリーダーとその腰巾着もいる」

  


 草加「だが、そんな奴らと一緒に俺は戦うことにしたよ」

 



 照「草加さん...」

 智葉「草加...」

 木場「草加君...」

  この場にいる全員がまるでありえないものを見るような

 表情で草加雅人を見つめた。

  自分勝手に動き、時には命令違反まで犯してオルフェノクに

 憎悪をむき出し、滅ぼすことを優先してきたあの草加が自分の節を
 
 曲げたことに誰もが絶句した。

 草加「勘違いするなよ」

 草加「俺は真理の敵を討ったら独自に動かせてもらう」

 草加「それまではお前達と一緒に行動するだけの、ただそれだけの話だ」

  いつもと全く同じ口調にも拘らず、草加の発言を聞いて気を悪くする奴は

 この場にはいなかった。

  流石に普段と異なる反応をされた草加は、バツが悪そうに

 鼻の頭を掻き、ボソボソと付け加え始めた。

 草加「三人で戦えば、より多くのオルフェノクやiPS類を始末できる」

 草加「群れずに一人でやっていけるほど、敵は甘くなかったしな,,,」

  珍しく弱音を吐いた草加。

  そんな彼を見た俺達は、大分心が軽くなった気がした。

 草加「さて、それじゃあ」

  その一言と共に、草加は照の肩に右手を回し、左腕を前に突き出した。

  俺たちも草加に習い、同じように前に突き出した。

 照「誰かに裏切られても、何度でも手を差し伸べることができるように」

 智葉「私は、最後まで宮永照を守り抜く!」

 木場「俺達の叶えたい夢の為に!」

 京太郎「和と咲と俺の関係に決着をつける為に!」

 草加「人が人らしく生きられる世界の為に!」

  互いの決意と夢を共有した俺達は拳を重ね、付き合わせた。

  時を止めた置時計の鐘の音と、腕時計が十二時になったのは同時だった。

 草加「俺達は誰一人死ぬ事無く、この戦いを戦い抜く!」

 草加「全員死ぬな!戦いぬけ!そして生きろ」

 四人「未来の為に!」

  こうして俺は生まれて初めて、心が通じた仲間に出会うことが出来た。

  たとえ、この先悲惨な目に遭おうと、今日このときに交わした誓いを

 忘れることはきっとないだろう。

  だから...俺もそろそろ前に歩き出そう。

 きょうはこれでおしまいです

 大統領府の一室にて

 初美「はぁ...もう、こんな世界に生きていたくない」

 初美「どうしてなんですかねー、いつから霞ちゃんは狂ってしまい、

    巴もはるるも笑わなくなっちゃったのは,,,」

  薄墨初美が石戸霞に捕らわれ、軟禁状態になってから早三年が

 光のように過ぎ去った。

  その間に日本はおもち党と新党iPSに征服されてしまい、かつての

 アメリカという国が犯した人類史上、最も類を見ない愚行を再び

 繰り返してしまったのだ。

  『人類の進化』という大義名分で。

 初美は幼児体形をコンプレックスにしていた。

  別に背が小さいのはいい。

  年を取り、結婚して、子供を生んで幸せになる。

 そういう女の特権が初美にもあるのは事実だからだ。

  時代の流れから取り残された神境で、姉妹同然に育った

 女の子達も世間知らずとはいえ、白馬の王子様に憧れていた。

  自分の危機に颯爽と駆けつけてくれて、並み居る敵をバッタバタと

 倒して、万事を円満に解決してくれ、なおかつダメダメな自分を

 心から愛してくれる運命の男と巡り合いたいと心から思っていた。

  しきたりのせいでその夢が叶う機会はついぞ与えられなかったけど。

 霞「ただいま~」

 初美「実家にお帰りくださいませ、霞お嬢様」

  今の自分をこんなクソッタレな環境にぶち込みやがった

 おっぱいお化けが疲れきった表情で『家』に帰ってきた。

  悔しいけど、石戸霞は初美にとって母のように大切な女性だ。

  このご時勢、外見だけで人を判断する人間が多いのは

 きっとその人間の品格が隠されることなく、顔に出ている

 からだと初美は考えている。

  だが、自分が仕えていた姫と石戸霞は本物だった。

  立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。

  道行く誰もが、霞を見ればそのあまりの美しさに絶句し、言葉を失う。

  最初から霞は女として完成していた。

  何をやらせても、優れた結果を残し、誰にでも優しい。
  
  もちろんそれはマザー・テレサみたいな歴史に名を轟かす聖人に比べれば

 劣るものの、それでも彼女は日本にいるどんな女性よりも優れている

 遥か上の存在であると初美は思っていた。

  幼くして母を亡くした初美を育てたのは、しきたりにガチガチに囚われた

 厳格な祖母とその妹だった。

  自分の孫が霧島の姫の近侍となる為に、彼女たちは惜しみない

 『愛』という名のしつけを鹿児島に行くまで徹底的に初美に仕込んだ。

  朝の八時半からやっているプリキュアのまねをしていたら全力のピンタが飛び、

 読み上げる祝詞を一つでも間違えたら、自分の尻が青黒く鬱血するまで

 鞭で叩かれた。

  一挙一動を強力な接着剤で固定するように、彼女たちは

 とにかく初美を拘束した。

  もっとも、彼女達が初美にこんな苦行を強いた理由はどこの馬の骨とも

 分からない男と駆け落ちした淫売の母親というレッテルを本家と分家筋に

 薄墨家に張られた為ということを、初美は知っていた。

  知りたくもない現実を知ってなお、初美は頑として糞婆達の

 母を糾弾する言葉の数々を信じなかった。

  大好きだった母親を心から憎めば、幼い初美の心は張り裂け、生ける屍のように

 成り果ててしまうことを理解していた初美の祖父が、苦し紛れに初美の母の振りをして

 手紙を送り、それを頼りに初美は小学校での日々を過ごした。

  精神的なストレスが人体に及ぼす悪影響のせいで、また、成長期に巫女としての

 勤めを優先させ、体のことを何一つ気にかけなかった祖母のせいで初美の発育は

 小学生のときに終わってしまった。

  それほどに過酷な仕打ちを彼女は初美に強制したのだ。

 ―――

 ――

 

 初美「...また、今日も私に性的虐待をするんですか」

 霞「しないわよ。もうくたくただわ」

  疲れ果てた表情を浮かべ、自分の着ている服を乱暴に脱ぎ捨てた

 霞は、初美を閉じ込めている檻に近づいた。

  ブラジャーからまろび出る、かつて自分が頭の上に載せていた

 巨大な乳房に、思わず反射的に初美はつばを飲み込む。

 初美「そうだ、聞いてくださいよ霞ちゃん」

 初美「霞ちゃんに一年以上私のちっちゃい体を開発された影響で、

    おっぱいがCカップになっちゃいましたよ」

 霞「ハッちゃん、一緒にお風呂に入りましょうか」

  霞は自分の手に持った鍵で檻を開け、初美を出した。

 初美「そうですか、今日はソーププレイがしたい日なんですね?」

 初美「はるると巴も呼んでくださいよ」

 初美「流石の私でも30cmは骨が折れますから」

  初美は霞を睨み付けながら、自分が思いつく限りの罵倒を口にして、

 彼女を出来るだけ不愉快で不安な気持ちにさせようと試みる。

  この囚われの日々の中で初美の体は大きく変わってしまった。

  さくらんぼの様な薄赤色の乳首はすっかり黒ずみ、小学生並みの

 背丈は10cm以上伸びた。おかげで今は152cmになった。

  もっと早く今の体形になっていたら、霞が道を踏み外さないで

 済んだたかもしれないとあまりにも都合のいいことを夢想してしまう。

  だけど、もう遅いのだ。何もかも

 霞「ふぅ、またお尻の穴にビーズを入れて欲しいのかしら?」

 霞「それとも、プラグのほうがいい?」

 初美「ひっ、や、やだ。やだぁ」

  霞が自分を『抱く』時、決まって彼女は舌なめずりをする。

  そのときの霞は、まるで嫌がる女を無理やりオルガズムの

 連続に叩き落し、陥落させる下種な男と同じ表情をしている。

 霞「ふふっ、臆病でチキンなハッちゃんの調教もいよいよ佳境ね」

 霞「いやらしい言葉を聞いただけで、目がトロンとなってる...」

 霞「そうそう、前にお風呂に入ったのはいつだったかしら?」

  霞のせいで、いやおうなしに発情し続ける体質になった初美。

  自分の意思ではどうにもならないほどに体が常に絶頂を求め続け、日に五回は

 [田島「チ○コ破裂するっ!」]をしなければ、発狂してしまうほどに体が熱く火照り、飢えている。

 霞「ほらぁ、言って御覧なさい?」

 霞「いつものように...」

 初美「かっ、霞ちゃん!」

  絹のショーツから大きくはみ出た巨大なiPS類の陰茎が

 初美の無防備な顔面に盛大な精液の迸りを飛ばす。

  生臭く、メスとオスの淫らなフェロモンを充満させた最高の芳香が、初美の脳を

 目くるめく快感に叩き落とし、いともたやすく彼女の理性を吹き飛ばす。

 初美「はふぅ...。顎が外れちゃうぅ~」

 初美「啜っても啜っても、じゅるるっ!」

  小さな口をひょっとこのお面のようにすぼめては、霞の陰茎を舌で

 舐めまわし、ずぞぞ、と淫らに吸い上げる。

  iPS類になった霞の精力は絶倫以上で、初美のいやらしい口内奉仕に

 答えるべく、完全に自分の制御下においた射精機能をフルに活用し、

 初美の鼻から自分の精液が逆流するまで無尽蔵に勢いよく精液を

 吐き出し続ける。

 

 霞「ふふん、小蒔も巴も春も最初は泣き叫んだけど」

 霞「堕ちてしまえば、かわいいものね」

  ‭一際大きな射精を終えた後、霞は気絶して、床に身を

 横たわらせた初美の顔に放尿を始めた。 

 初美「げぼっ、ぷっはぁ」

  鼻の中に大量の尿が入り込んだことにより、咳き込みながら

 気絶から目覚めた初美は直ぐに起き上がり、霞の陰茎に残っている

 精液を吸いだそうと再び口を開いた。

 霞「初美ちゃんもようやくイマラチオのよさが分かったみたいね」

 初美「あぁんっ!このくっさいお汁が全部悪いんです!」

  ちゅるちゅると先ほどとは違う優しい吸引に、征服欲と

 心地よさが入り混じった表情を浮かべた霞は母乳が吹き出る

 自分の乳首を初美に吸わせた。

 初美「そしてこのKカップも、このこのっ」

 霞「んぅっ...、ふあああ」

  自分の一番の性感帯をなすがままに攻めさせ、しびれるような

 その快感に浸っていたい気持ちも確かにあったが、それ以上に霞は自分に

 屈服つつある初美の心を今日、ここで完全にへし折ることを決意した。

 初美「どうだ、このっ!おっぱいお化けめ!」

 初美「ハッちゃんが霞をやっつけてやる!」

  まるで失った愛を取り戻すかのようにがむしゃらになって自分の

 おっぱいに吸い付く初美の小さな唇に人差し指を当て、やんわりと彼女の

 頭を剥がし、床に散らばった下着を身に着けた霞は先ほどとは打って変わり、

 本当に虫けらを見るような目で初美をただただ無感情に、冷静に見下ろしていた。

 霞「違うでしょう?」

 初美「ふぇぇぇっ!どうしておっぱいをしまうですかー」

  自分が既に身も心も堕ちていることを認めずに、今日までやってきたつもりの

 初美は、今日初めて試した、この新たな仕打ちに戸惑いと恐怖を隠せずに

 あわあわと慌て始めた。

 霞「違うでしょう」

  スカートを履きなおし、今度は床に落ちたYシャツを拾い上げ

 ゆっくりとボタンを一つずつ閉めなおしていく。

 初美「霞様~、お願いします...怖いことしないで...」

  自分が霞の機嫌を、徹底的に損ねてしまった。

  iPS類に逆らった仲間の末路を見せつけ続けられた初美は

 その恐怖から逃れるため、まずは霞に敬称をつけた。

 霞「違うでしょう?」

  しかし、それではまだ不十分だ。

  初美は今まで自分のしてきた仕打ちにまがりなりにも抵抗し続けて、今日まで

 自分の精神を保ってきた。

 初美「あううう~、や、やだぁ。意地悪しないで」

  初美にとって、霞は姉ではなく、母なのだ。

  だからこそ、姫の近侍の誰よりも霞に対して好意を持っていたし、常に彼女と

 行動を共にしたのだ。

  あのふくよかな胸に抱かれ、自分の頭を微笑みながら何も言わずに

 撫でてくれる霞の、あの笑顔の前でだけ、薄墨初美は『石戸初美』でいられた。

  辛い過去も、自分のコンプレックスも全部忘れられた。

 霞「言わなきゃいけないことを言わないからよ」

 霞「さあ、言いなさい?」

  だけど、今再び『母』は自分を見捨ててどこかにいってしまう。

  朦朧とする意識の中で初美は恐怖した。



  お母さーん、やだぁ、行っちゃやだぁ~!

  初美、貴女が四歳のとき、貴女の母親は泣き叫ぶ貴女に...


 『初美、ごめんなさいね』

 『貴女といると、私は幸せになれない』

 『ばいばーい。元気でね~』

  
  本土に行く連絡船の上から、そう叫んだのですよ...。

  自分を捨てた母親の話を打ち明けたのは後にも先にも霞だけ。

  霞しか自分の心の傷を癒せないし、自分が求める母性をいつでも好きなときに

 与えてくれるのが霞なのだ。

 

  霞に見捨てられたら、今度こそ自分は本当に『孤独』になる。

  厳しかった唯一の血縁である祖母も伯母達も全員死んだ。

  初美にはもう、霞しか残っていない...。 

 初美「ま、ママ...」

  懇願する瞳で、搾り出した言葉を聞いた霞はぴたりとその動きを止めた。

  背中を向けているため、自分には霞がどういう表情をしているのか分からない。

  だが、きっと『ママ』は振り向いてくれる。

  だって、『ママ』だから...。

 霞「はい。よくできました」

  その笑顔は、誰よりも眩しくて、

 霞「ようやく、私のことを受け入れてくれたのね」

  とても、残酷な結末を初美に下したのだった...。

 咲が出産する一週間前  鳥取県地下施設

 

 和「都道府県ライオトルーパー部隊兵士諸君」

 和「これより、諸君らには国防の任についてもらう」

  開口一番、原村和は鳥取県の政府の秘密研究施設にて、自分と赤坂郁乃が

 主導したプロジェクトの一応の完成体を集め、激励のスピーチを行った。

  自分の左右の傍らには、かつて『自衛隊』という名前の国防を担った

 組織の上級幹部達が憎悪の篭った目で自分とその『子供』達をにらみ続けている。

 東西日本iPSエリア統括委員会。

  これは、iPS類が自分達の反対勢力の反乱の芽をつぶし、より円滑に自分たちの

 支配力を強めるために作り出された組織である。

  ‏どちらかといえば、王を守る憲兵団や近衛兵団にそのシステムは

 きわめて似ているが、一つだけ一線を画している点がある。

  そう、権力の座を握っているのが全て『女』みたいな人類なのだ。

 
 和「今現在、日本を主導として人類のiPS類化を推進する国は

   喜ばしいことに年々増え続けている」

 和「オセアニア、マレーシア、カザフスタン、カナダ、サハリン、

   アメリカでは先週末に5州が我々の活動に賛同し、協力関係と

   相互不可侵条約を結んだ」

  松実玄が大統領を退いた真の理由は、日本国内における自分の

 限界を知っていたからではない。

  しかし、表向きにはそうなっている。

  今の日本のトップは原村和である。

  全世界最強の新人類、原村和。今現在の和の通り名である。

  彼女が松実玄と肉体での真っ向勝負を挑み、それに勝利した和が

 総理大臣と大統領を兼任した大総統になったのはiPS類の記憶に新しい。

  この世界で類を見ない史上初の政権交代は、全世界の注目を浴び、

 動画サイトや映画化、果てはブロマイドやコラージュが出回るまでに

 話題を集めた。

  
  そして、日本iPS合衆国のトップとなった和の最初の仕事は

 世界中を駆け巡る『オルフェノク』という病の撲滅である。

 和「我々人類のiPS類化の真の理由、それは」

 兵士達「オルフェノク!」

 和「そう、我々iPS類もオルフェノクも人間なのだ」

 和「だが、オルフェノクというのは人間の病であり、

   その治療法は未だに確立すら困難だ」

 和「そして、オルフェノクは人を襲い、仲間を増やす」

 和「彼等が仲間を増やすメカニズムはいたって簡単だ」

 和「オルフェノクの因子を人間の心臓に埋め込む」

 和「だが、その因子に適合できる人間はあまりにも少ない」

 和「我々政府はその因子のメカニズムを解析したものの、

   ネズミ算式に増えるこの病の増加を抑えるのは難しい」

 和「今現在、私に出来ることはオルフェノクを研究し、その病をいかに抑制し、

   我々人類に発露させないかという具体的な方法を確立させることだ」

 和「その為には、我々政府に快く協力してくれた諸君等の

   人生が必要不可欠だった」

 和「君達の体には、『オルフェノク』の人工因子が遺伝子レベルで

   組み込まれている」
   
 和「男性でありながら、iPS類にシフトし、なおかつオルフェノクの

   記号に適合した君達は『選ばれた存在』だ」

 和「これから日本、いや世界は激動の時代へと突入するだろう」

 和「オルフェノク、旧人類、そして我々iPS類の三つ巴戦だ」

 和「彼等には、我々の目的を理解しながらも歩み寄ろうとする

   心が殆どない、交渉の余地がないのだ」

 和「彼らは我々の存在を悪と断じる」

 和「だが、悪にこの身を落としてでも成し遂げたい何かがある」

 和「我々の続く世代に、核兵器や大量殺人兵器は必要か?」

 兵士達「断じて否だ!」

 和「その通り!」

 和「しかし、その平和の尊さを誰よりも知っているのは誰だ!」

 兵士達『人間だ!』

 和「そう、この世界の支配者である人間だ」

 和「諸君らは誇るべきだ!」

 和「誰も核兵器や大量殺人兵器、そして目の前で行われている

   人種差別に気がつきながらも目を背けている『人間』とは」

 

 和「一線を...画したことに」



 

 和「恐らく、オルフェノクも旧人類も我々の動きを敏感に察知し、

   死に物狂いで戦いを挑んでくるだろう」

 和「死ぬのが怖いか?戦うことに意味を見出せないか?」

 和「だが、安心しろ...」



 和「私が、諸君等の大義となり、正義となろう」



 

 和「時が来れば、君達と共に私も戦う!」

  高々と天高く突き上げた和の拳に、兵士達はまさしくその名の通り、

 騒乱と共に彼女に準じた。

  その兵士達の名は、騒乱の兵士、ライオット・トルーパー。

 和「ゆえに、君達は常に迷う事無く大義の為に生きろ!」

 和「敵前逃亡も許す!寝返りも、戦闘放棄も許す!」

 和「だからこそ最後まで、自分の未来を諦めるな!」

 和「私の話はこれで以上だ」

 和「我々が目指すのは失われた楽園<パラダイス>ではない」

 和「真の楽園<エデン>だ」

 真紅のマントを翻した和は堂々とした足取りで壇上から降りた。

  そしてそれを見た兵士達は、モーセに道を明けた海のように

 真っ二つに割れ、彼女の進む道を作った。

 

 
 和「皆さん、がんばりましょう」



  頬を上気させ、桃色の髪と同じ色に染めた彼女の年相応の笑みに

 仮面の下の素顔を兵士達は緩ませた。

  
  この後、原村和は半年の間、世界から姿を消すことになる。

 ウクライナ、キエフ


 優希「優太郎~、帰ったよ~」

  片岡優希、今は須賀優希となった彼女が仕事先から自宅に戻ったのは

 午後八時だった。

  自分の息子である優太郎は今年で一歳になる。

  自分の好きだった同級生と、少々事情が異なる形での海外逃亡は、片岡優希を

 失意のどん底に突き落とした。

  優希はこれを、仲間を見捨てた自分への罰だと捉えていた。

  しかし、神様はこんな罪深い自分に宝物をくれのだ。

  京太郎からの愛がもらえなかった代わりに、かけがえのない一人息子を

 神様は自分に与えたのだ。

  強くて優しい男になって欲しい。

  だから優太郎と名づけた。

  本当は、優希と京太郎の子供だからという意味が強かったけど、

 そんな細かいことはきにしないのが自分の長所なのだ。

 優希「あれから、もう三年以上たつのか...」

  激化する新党iPSとまないた党とヘテロ党の争い。

  自分が好きだった男の子は、日本の裏事情など何も知らない

 ごくごく普通の、家がちょっとお金持ちなだけの男の子だった。

  だけど、信じていた親友の裏切りに自分が加担したせいで、

 世界でもっとも平和な国、日本が壊れてしまった。

  あの時、京太郎を見捨てていればこんなことにはならなかったと

 優希は今でも悔いている。

  だけど、そんなことをした後に自分が生きていられるのかと

 問われれば、断固として優希は死を選ぶだろう。

  それくらい京太郎のことを優希は愛していた。

 うとうとと眠りかけたとき、息子のぐずる声で目が覚めた。

 優太郎「オギャー、オギャー」

 優希「よーしよし、いいこだからね~」

  どうやら、おっぱいが欲しくて泣いていたようだ。

  京太郎との結婚生活はお世辞にも愛に溢れていない冷淡なものだった。

  だけど、その原因が自分にある以上、京太郎がこの先自分を

 受け入れることがないと分かっていても、優希は京太郎が欲しかった。

  セックスレスなのは許せる。不倫したって文句は言わない。

  だけど、離婚だけは許さない。

 優希「痛ッ!」

  そんなネガティブな考えを読み取ったのだろうか?

  優太郎が生えかけの乳歯を優希の乳首につきたてた。

 優希「痛いじゃないか、ん~、優太郎」

 優希「なあ、優太郎」

 優希「お前のパパはな...世界で一番カッコイイ男なんだぞ」

  自分の罪も、京太郎がどうして危険を犯して日本へと

 戻ったのかを知っている優希は、だからこそ自分の息子に

 その心情を吐露するしかなかった。

 優希「仲間を裏切って、敵に屈服した裏切り者のママをな、

    ずーっと支えてくれたんだ」

  ウクライナの日本人学校に来て、慣れない英語で周りの高校生や

 大人に嘲り笑われても、京太郎は自分を見捨てる事無く

 身を挺して守ってくれた。

  だけど、そのたびに京太郎の瞳から自分の存在が消えていく。

  時が経つにつれ、自分の京太郎に対する思いに確信が持てなくなる。

 

  幸い日本政府から寄付金という形で、右も左も分からない

 高校生二人が異国の地で豪遊できるだけのお金を和は欠かさずに

 毎月振り込んでくれた。

  そして、京太郎は自分をここまで追い詰めた和から渡される金で

 生きていかなければならないことにとても苦痛を感じていた。

  京太郎を追い詰めた責任を取るために、優希は死に物狂いで努力をした。

  嫌いだった運動をがんばった。

  英語のほかにロシア語とフランス語を勉強した。

  自分の口癖を矯正し、笑顔を絶やさないようにした。

  そんなことをしても、京太郎の顔に清澄で過ごしていたときの

 あの笑顔は取り戻せなかったけど、それでも自分の過去を完全に
 
 振り切るために、優希は出来ないことを一つずつ克服していった。

 
 

 柄の悪いマフィアとつるみ始め、家に寄り付かなくなった

 京太郎がいないことをいいことに、優希は個人経営のダイナーで

 アルバイトを始めた。
  
  京太郎から貰い受けたタコスノートに書かれたタコスをオーナーに

 試食してもらい、一発で採用されたときはとても嬉しかった。

  学校を卒業するころには、新しいメニューの開発を任されるようになり

 金回りも大分よくなっていた。

  異国の地で稼ぎに稼ぎまわった貯金を全額はたき、アメジストと

 ダイアモンドの婚約指輪と結婚指輪を二つずつ買って、京太郎に

 一世一代のプロポーズをした。

  京太郎は、何も言わずに優希を抱きしめただけだった。

 優希「結婚もプロポーズも私からしたんだ...」

 優希「京太郎は...黙って指輪をはめてくれた...ッ」  

 優希「そんな、そんな資格もない私を...抱いてくれた」

 優希「わ、私がお、お前のふるさとを滅茶苦茶にしたんだ!」

 優希「何とか言ってよ...京太郎」

 優希「京太郎より、タコスを作るのがうまくなったって...

    しょうがないんだよ...」

 優希「京太郎より、京太郎のことを好きになったってしょうがないんだよ」

 優希「寂しい、寂しいんだ...」

 優希「ねぇ...京太郎」
  
  何もかも思い通りにいかない自分の人生にとって、優太郎が

 最後の希望だった。

  だから、今日も優希は涙を流しながら神に祈る。

  願わくば、京太郎が自分と自分の息子を愛してくれるように...。

  どうか、京太郎が無事に戻ってこれますように、と。

 種子島、ロケット発射場

 
 江口「西日本IPSエリア統括委員会、特殊任務隊隊長江口セーラ。

    只今を持ちまして、この種子島宇宙センターの

    護衛の任に就きます」

 赤坂「うん。ご苦労様~」

 赤坂「セーラちゃんはともかくとして...」

 姉帯「東日本IPSエリア統括委員会、SS部隊准佐姉帯豊音です」

 姉帯「江口隊長と同じく、この種子島宇宙センターの

    護衛任務に只今を持ちまして着任しました」

 赤坂「ん~、まぁアンタ等のことやから無駄なことを

    一々説明せんでも分かってると思うけど...」

 赤坂「ここはな、オーガとライオトルーパーの変身システムを

    司っている宇宙衛星の統制管理をしている基地やねん」

 赤坂「人間解放軍の宮永照とスマートブレインが手を組んだら、

    真っ先にここを潰すッちゅう程にここは重要な場所や」

 赤坂「原村首相の計画の要がここに詰まってんねん」

 赤坂「それで二人にとその部下達、3400人にはこの基地の守りを

    任せたいんや」

 赤坂「ここまではOKやな?」

 姉帯「はい、ですが...」

 江口「赤坂委員長、スマートブレインは本当にその...」

 赤坂「うん?政府を裏切るかって?」

 赤坂「まぁ、そこらへんは本人達がここに来たときにしか分からん」

 赤坂「けど、原村首相が弘世さんと部下数人伴って、スマートブレインに

    カチコミかけたんは知ってるやろ?」

 姉帯「まさか、小鍛冶健夜がその報復に来ると?」

 赤坂「うん。オリジナルのオルフェノク達が、東京に続々と

    集結してるんや」

 江口「...フェイクでしょうか?」

 赤坂「ん~、まぁ、種子島にいく飛行機と連絡船はこの一ヶ月運行を

    取りやめ、人っ子一人立ち入れないようにする手筈になってる」

 赤坂「仮に潜水艦で来たとしても、海上自衛隊の潜水艦が即迎撃。

    不審な連中は海の藻屑や」

 江口「はぁ...」

 赤坂「まぁ、要の宇宙衛星のコントロール制御システムは既に
 
    筑波にある宇宙センターに譲り渡してある」

 赤坂「ええか?あんた等のやるべきことは、作戦通りに種子島から

    誰一人本土へと戻らせないこと」

 赤坂「それが侵入者であってもや」

 姉帯「わかりました。それで?その侵入者達は如何様にしても?」

 赤坂「うん。何しようがかまへん」

 赤坂「楽しんだ後に、必ず殺せばな」

 江口「分かりました。赤坂委員長」

 姉帯「了解しました」

 ―――

 ――

 絹恵「失礼します」

 末原「失礼します」

 赤坂「いや~ん、そんなにかたくならんといてや~」

 赤坂「二人ともウチの下で働くのがそんなにいやなん?」

 末原「いやではありませんが、それ以上に...」

 赤坂「ん~、お姉ちゃんのことは大丈夫。任せなさい」

 絹恵「ほ、ホンマですか?」

 赤坂「絹ちゃん。お姉ちゃんは今、解放軍のアジトに軟禁されてるんや」

 絹恵「な、軟禁?!」

 赤坂「それでなぁ、お姉ちゃん、わっるーい男に誑かされて

    骨抜きにされてしまったんや」
 
 絹恵「う、ううう嘘や!そんなん絶対に嘘や!!」

 赤坂「いくらなぁ、お姉ちゃんとにゃんにゃんチュッチュして

    切望してたわが子を産んだってな」

 

 赤坂「お姉ちゃんは、絹ちゃんのことを受け入れてないんやで?」



 末原「代行、いえ...郁乃さん」

 末原「貴女、最低ですよ?」

 絹恵「うっ、うううううう~」

 赤坂「ま、二人には近いうちに東京の菫ちゃんのところに飛んでもらう」

 赤坂「解放軍の強化戦士達がアジトを留守にしている間に、そこの

    人間達を殆どさらってしまう作戦があるんや」

 赤坂「末原ちゃんと絹ちゃんはそこで一番槍を務める」

 赤坂「奇襲やから、丑三つ時くらいになる」

 赤坂「ま、寝込みを襲われたら誰でも一たまりもない」

 赤坂「そういうことや」

 絹恵「はい。ありがとうございます。赤坂監督」

 赤坂「絹ちゃん。話は変わるけど、お母さん元気にしてる?」

 絹恵「はい。監督の取り計らいによってニュージーランドで

    娘と一緒に暮らしています」

 赤坂「まぁ、母子共々息災なのは、なによりなにより」

 赤坂「まさちゃんやったっけ?絹ちゃんによう似てるわぁ~」

 末原「郁乃さん、雅と書いて『みやび』と読むんですよ」

 赤坂「うわーん、末原ちゃんが人の揚げ足取った~」

 赤坂「絹ちゃん、罪悪感に苛まれる位ならいっそのこと

    こんなところにいないほうが遥かにマシやで?」

 絹恵「罪悪感って、何ですかそれ!」

 絹恵「私のことを半端者だって馬鹿にしてるんですか!」

 赤坂「賢者は生きるために情を捨て、馬鹿は死ぬために情を取る」

 赤坂「絹ちゃんは死にたいんか?」

 赤坂「お姉ちゃんとお母さん、そして一人娘と幸せになりたいんやろ」

 絹恵「ぐっ」

 赤坂「自分で姉貴をレイプして孕ませて、無理矢理ひりださせた子や」

 赤坂「お姉ちゃんだって、絹ちゃんのこと好き好き大好きって今でも

    思っているって、本当にそう思ってるの?」

 絹恵「じゃあ、謝ればいいんですか?それとも...」

 赤坂「昔のよしみと人生の先輩として一つアドバイスしたる」

 赤坂「自分が傷つけた人に対して償いをしたいのなら、その人が

    受けた痛みと全く同じものを自分に課して、それ以上に

    苦しまなければいけないんや」

 赤坂「絹ちゃんの言ってることには重みがない」

 赤坂「レイプされ、中絶できなくて結局ずるずると生んだ子供に

    いったい誰が親として愛情を注げるっていうんや?」

 絹恵「だまれええええええええええ!!」

 絹恵「わかりました。監督の仰りたいことも、自分に足りない

    その何かの正体も、全部理解しました」

 末原「?!アカンッ、絹ちゃん。それ言ったら本当に後戻りが

    できなくなってまうで!!やめるんや!」

 絹恵「私は、愛宕洋榎を...」

 
 

 絹恵「私しか見れないように、その全てを塗りつぶします!」



 赤坂「はぁ、本当に世話の焼ける姉妹やね~」

 赤坂「ふぅ。ま、せいぜい頑張りや」

 赤坂「けど、絹ちゃん」

 赤坂「最後にこれだけは覚えとき」

 赤坂「絹ちゃんがお姉ちゃんに抱いている『愛』は」

 赤坂「絹ちゃんが『女』になったときに、木っ端微塵になる」

 絹恵「意味分からんこと言って、ウチの決心を鈍らせないで!」

 末原「あっ、待ちなさい、絹ちゃん」

 赤坂(ふぅ、あんたら今いくつや?二十歳過ぎてるやろ?)

 赤坂(はぁーあ、そろそろウチも寝返ることを考えておこうかなぁ)

 赤坂「これも末原ちゃんに惚れた弱みって奴なんやろな?」

 赤坂(松実前大統領はともかく、問題は花形の奴や)

 赤坂(あいつをどうにかして出し抜かなアカン)

 赤坂(そうじゃないと、末原ちゃんも絹ちゃんも確実に殺される)

 赤坂「結局ウチは、女としても教育者としても半端者やなぁ...」

 解放軍アジト


  俺達が盃を交わしてから二日が立った。

  解放軍の幹部達の協力もあってか、照が水原の後を継いだ二代目の

 解放軍のリーダーに就任することに、誰も反対はしなかった。

  できることなら、解放軍の古参の幹部達を信用したい。

  だが、智葉が発案した盃の誓約が俺達五人にある以上、必ず意見の差異が

 生じるし、その差異がこれからの俺達に取り返しのつかない不協和音や

 亀裂を生む前に、徹底的にその原因を確実に潰さなければならない。

  照と智葉は、あの日の取り決め通りに幹部達の中に内通者が

 いないかどうかを注意深く調べている。

  草加と亦野が照と智葉の食事を運ぶ際に、彼女達から幹部達の

 様子を聞きだすも、彼女達二人の目を以ってしても幹部達は

 決してぼろを出さなかったとのことだ。

  そして、草加と亦野が諜報任務の為に解放軍のアジトから

 早朝に出発した後、俺と木場はホテルの一室でスマートブレインと

 政府がどう出るのかを考え、意見を出し合っていた。
  


 木場「京太郎君の強奪した資料を見ると、政府に対して

    スマートブレインは惜しみないオルフェノクの研究の

    成果を譲渡、あるいは子会社の技術を提示している」

 木場「だけど、政府側がスマートブレインにヘッドハンティングを

    仕掛けた人材の中に一つだけ妙な点がある」

 木場「村上社長にも政府が何らかのポストを用意していたのに

    その前の花形社長のデータは全くない」

 木場「スマートブレインが創立当初からオルフェノクたちの

    巣窟だと考えてみれば、これはおかしいと思う」

  木場の視点はとても鋭い。

  俺が昨日渡した機密情報のメモリースティックのコピーのデータを

 僅か一晩のうちに殆ど要点をまとめていたのだ。

 京太郎「俺もそのことについて何回も考えたんだ」

 京太郎「花形の経歴を俺も探すだけ探してみたが、一番古い記録が

     奴の成人式の写真、次いでスマートブレインの社長に

     僅か四十六歳で就任したくらいしか判明していない」

  

 木場「しかも、ノンキャリアでいきなり部外者が社長就任と来た」

 木場「コングロマリオットに合非問わずに介入して、あれこれと色々

    口出しできるのは、政府かマフィアのどっちかだけだ」

 木場「だとすると、花形は政府の手のものだと考えたほうがいい」

 木場「けど、動機が釈然としない」

 木場「村上や小鍛冶のように、自分の欲やオルフェノクのための
  
    世界を作り出すためならいざ知らず」

 木場「自分の指先一つでオルフェノク達を動かせるのに、自分の

    後釜を据えた直後に、流星塾なんてのを作った」

 木場「お手上げだよ、花形が何を考えているのか全く分からない」

  俺がライダーズギアを貰ったときの社長は小鍛冶健夜だった。

  だが、草加がカイザギアを託されたときは村上峡児、

 ハギヨシさんがデルタギアを貰ったときには花形社長だったと

 照とハギヨシさんから言質を取った。

  調べる程に不自然さが際立つ花形。

  警察やスマートブレインに敵対する企業のデータベースに

 何度もアクセスして調べ続けたが、何一つとして花形の正体に
 
 関する情報はヒットしなかった。

  恐らく、今の日本政府の後ろにはオルフェノクに精通している黒幕が

 何人かいることは確かだということは分かっている。

  そして、花形という男こそ政府のオルフェノクに関するあらゆることを

 全て網羅している首魁だと俺は睨んでいた。

 京太郎「オルフェノクの存在は遅かれ早かれ、必ず世界に露見する」

 木場「その露見を遅らせるために、政府と手を組んだ?」

 京太郎「いや、その逆かもしれない」

 木場「逆?」

 京太郎「荒唐無稽な話だが、もしも花形がオルフェノクを

     何らかの理由で絶滅させようと考えたとしたら?」

 木場「草加君じゃあるまいし、わざわざ何も出来なかった

    自分に絶望して、死ぬことを選ぶ?」

 木場「地位も名誉も金も全部手に入れている男が、それを

    わけの分からない怪物の為に全部投げ出す?」

 木場「そんなの正気じゃない、どうかしてるよ」
 
  視点を変えて、花形という男が何を考えているのかを考えてみよう。

  草加の過去を知らない俺達だが、オルフェノクに愛する人を殺された人間が

 復讐を遂げたケースは年間判明しているだけで500件以上に上る。

  勿論、スマートブレインと政府の秘密条約でオルフェノクの存在は

 極力表に出回らないようになっている。

  花形もオルフェノクに人生を狂わされてしまった一人だと考えれば、

 復讐という動機が花形の原動力だと捉えても全く差し支えない。

  だけど、それでは決め手にかける。

  仮にオルフェノクを全滅させるために、松実玄や原村和に

 手を貸すとしても、その二人を殺して自分がその座へと代わりに

 成り代われば何も問題はない。

  iPS類の旧人類に対する支配が、今度はオルフェノクに代わるだけの話だ。

  だが、それすらも欺く為に花形が政府に手を貸しているのであれば、

 そこにはもっと深い理由があるはずだ。

  考えろ。

  今、日本を支配している絶対的な力は一体なんだ?

  原村和、違う。

  松実玄、違う。

  ん?

  原村和、松実玄...。

  オルフェノクは死ぬと青い炎に包まれて灰になる...。

  思い出せ、スマートブレインでの木場と小鍛冶のやりとりを。

 ~~~~

 健夜「ねぇ、木場君?」

 健夜「オルフェノクの最後はどうなるのか知ってる?」

 木場「...青い炎に包まれて灰になります」


 健夜「全人類は遅かれ早かれオルフェノクになることが判明した」 

 健夜「猿が人間になったように、人間が種としての新たな

    進化を遂げる時期に入ってるの」

 健夜「だけど、その進化はあまりにも急激すぎる」

 健夜「今はまだ偶発的にオルフェノクになる人間が

  
    出る程度だけど、その内爆発的に増える筈」

 ~~~~
 健夜「まぁ、私達が仲間を増やす方法は傍から見れば

    そう見えるんだけどね」

健夜「話を戻すけど、まぁ、研究の甲斐あって人間の

    オルフェノク化のメカニズムが解明され始めた」

 ~~~~

 そうか、そういうことだったんだな!

 
 健夜「だけど、私達オルフェノクにも誤算があった」




健夜「iPS類がオルフェノクの存在に感づいた」   





 京太郎「なぁ、木場」

 京太郎「神算鬼謀って知ってるか?」

 木場「まさか、い、いやありえないだろ?!」

 木場「おもちカーストもヘテロよりの考え方を弾圧した、あの

    阿呆らしい何もかも全てが...」


 
 木場「全て花形という男の策略だった?」    
 


 京太郎「いい線いってると思うぜ」

 京太郎「だが、俺だったらそこにもう一つ付け加える」


 
 
 京太郎「iPS細胞が人類のオルフェノク化の抑止力だ、と」

 




 京太郎「覚えてるか、スマートブレインで小鍛冶健夜がお前と

     俺達に話したあの会話の内容を」

 木場「覚えてるも何も、オルフェノク化を抑制するとかその内

    全人類がオルフェノク化するとか...」

 京太郎「違う、そこじゃない」

 京太郎「小鍛冶健夜はあの時、俺達にiPS類がオルフェノクの

     存在に感づいたっていってたろ?」

 京太郎「その前にも私達オルフェノクにも誤算があったとか

     奴は言っていた」

 木場「まさか、花形は本気でオルフェノクを滅ぼそうと...」

 京太郎「かもな...お前にはキツイかも知れないが」

 木場「あっ、ああーっ!思い出した、今思い出した!」

 木場「小鍛冶健夜が『けど、iPS細胞とオルフェノクに変成した後の

    人間のDNAパターンと塩基配列がほぼ同じなの』って言ってた」

 京太郎「しっ、声が大きい」

  俺と木場は一旦、部屋の外に出て誰もいないことを確認してから

 素早く会話の手段を筆談へと切り替えた。

 木場「iPS細胞が最初に取り出された動物はネズミだった」

 木場「蛇の血清は馬とか人間よりも大きな哺乳類に薄めた蛇の毒を

    流し込み、その抗体が出来たものを色々と加工したものだ!」

 木場「人間も哺乳類なら、今の二つの例のようなことが出来る筈だ!」

 京太郎「なぜなら、生物は進化するから」

 木場「その通り!!」

 木場「そうだ、そうだよ!人類はiPS細胞をオルフェノク化することで

    擬似的にとはいえ、体内で生成できるんだ」

 木場「植物の祖先がミトコンドリアを取り込んだのと同じように、

    人間がiPS細胞を我が物にしようとしているんだ!」

 木場「進化の過渡期における選別として考えれば、iPS類と

    オルフェノクが何を考えているのか全部見通せる!」

  興奮を抑えきれずに、シャーペンをノートに走らせる木場。

 木場「動物と人間の染色体の数は違う」

 京太郎「だけど、キメラという存在は自然界に存在する」

 京太郎「そうか、iPS細胞が染色体に働きかければ、人間が

     どんなオルフェノクになるのかある程度予測できる」

 木場「オルフェノクが仲間を増やすための使徒再生の方法は...」

 京太郎「触手を心臓に差し込んだり、針を骨髄に差し込む」

 木場「そうだ、そこからオルフェノクの体内で変成したiPS細胞が、

    人間の中にある眠れるiPS細胞へと働きかける」

 京太郎「使徒再生に失敗した人間は灰になる」

 京太郎「その灰の主成分を調べたが、骨密度がとても薄い状態になり、

     燐に似た物質が体の内部を燃やし尽くす」

 京太郎「骨を粉末状にして砕いたものに、とてもよく似てたよ」

 木場「大変だ、直ぐに照さんと智葉さんに知らせなきゃ!」

 京太郎「まて、待つんだ!」

 京太郎「取り敢えず、このことは草加と三人で話し合おう」

 京太郎「照と智葉に話すと、幹部達の中にいる裏切り者が絶対に

     あの二人に襲い掛かるはずだ」

 木場「でも、やっぱり言った方がいい!」

 京太郎「ああ、だがそれは今じゃない」

 京太郎「解放軍の中にいる内通者を炙り出してからだ」

 木場「...ッ、まだ君はそんなことをッ!」

 京太郎「アイツ等の命はもうアイツ等だけのものじゃないんだ!」 

 京太郎「照がここで死んだら、俺達『人間』は今度こそ瓦解する」

 京太郎「目と鼻の先に死神がいるんだ」

 京太郎「頭を低くして奴等が過ぎ去るのを待たなければ、盃を交わした

     五人の首が一気に飛ぶんだぞ!!」     

 木場「分かったよ...」

 木場「君の言うとおりだ。確かに軽率な行動は命取りだ」

 木場「筆談をやめていいかな?」

 京太郎「ああ、もう大丈夫だ」

  長かった筆談を切り上げた俺は木場にこれからのことを簡単に

 手短にまとめて話し始めた。

 京太郎「草加が帰ってくるのは二日後だ」

 京太郎「その間、お前は智葉の傍にいろ」

 木場「えっ?どうしてかな」

 京太郎「女二人に男一人がいれば、幹部達があの二人に手を出す

     確率はグンと下がる」

 京太郎「俺はその間に、これからスマートブレインに対して

     より俺達が優位に立てるような作戦を考える」

 京太郎「草加が帰ってきた夜の十二時半に、五階の594号室で話し合おう」

 木場「分かった。二人に伝えるよ」

 京太郎「ああ、この二日間しっかりと二人を守ってくれよ?」

 草加の視点

 
 
  宮永が解放軍のリーダーに就任した後、スマートブレインから俺に


 一本の電話が入ってきた。

  電話の主は、須賀の旧知の仲であるハギヨシと、あの帝王のベルトの持ち主である

 LEOというオルフェノクだった。

  ハギヨシと名乗る執事は内密の用件があるとだけ一方的に告げ、電話を切った。

  このことをあの四人に伝えようかどうか迷ったものの、連中を伴い、

 再びiPS達のいる大都会へと舞い戻るのは危険だと俺は判断した。

  幸い、亦野が新宿に出向く用があると聞いていたため、彼女に同行する形で、

 俺はこの二日間スマートブレインの連中と顔突き合わせ、この二日間粛々と

 ある計画を企てていたのだった。

 二日後 


 照「お帰りなさい。草加さん」

 智葉「お疲れ様、草加」

 木場「お疲れ様」

 京太郎「二日間、ご苦労様だったな」

 草加「ああ、ただいま」

  しかし、自分が帰ってきたときに笑顔で出迎えられるのも悪くはないと

 実感している自分に、驚きを禁じ得ない自分がいた。

  解放軍の用心棒としてオルフェノクやiPS類の施設をたった一人で襲い、

 命からがら帰ってきても、誰も俺を労う人間はいなかった。

  だが、今は違う。

  信用できないオルフェノクがいるものの、腹を割ってきちんと

 自分の考えを伝え合い、コミュニケーションが取れる仲間がいる。

  信用できる相手がいるとだいぶ気が楽になる。

 太郎「悪いな、草加」

 京太郎「早く眠りたいところなのに」

 草加「別に気にしてないさ、君達の配慮のなさは元からだろう」

  コーヒーを人数分入れた須賀の言葉を軽く受け流し、

 俺は宮永と辻垣内に幹部達の挙動について聞くことにした。

 草加「それより、宮永」

 照「なに?」

 草加「幹部達の様子はどうなっているんだ?」

 照「ダメ、全然尻尾を出さない」

  時刻は午前一時。

  古ぼけたアルコールランプとランタンの明かりが全員の表情を照らす。

 草加「まぁ、あの水原でさえ自白するのに五年以上は掛かったんだ」

 草加「水原が死んだ所で、その部下達がぼろを出すとは到底思えん」

 智葉「すまないな、草加」

  辻垣内の報告も同様に、幹部達は常に忙しく動き回り、

 各地の人間解放軍と密に連絡を取り合っている。

  ボロを出すどころか、積極的に宮永に協力しているために、宮永も辻垣内も

 全く連中のことを疑うことが出来ない。

  ま、これも想定範囲内だ。

  だが、連中が全員人間であれば、政府とオルフェノク側にとってこれほど

 動かしやすい駒はない。

 智葉「だが、お前がいないときに変なものを見たという人がいるんだ」

 木場「変なもの?」

  スマートブレインにて俺が一足早く聞かされた、旧人類を一掃する
 
 恐るべき二つの計画、『都道府県一万人ライオトルーパー計画』

 そして『青い薔薇』計画。

  政府の連中が秘密裏にこの計画を進め、成果を挙げたいのは

 目に見えている。

 智葉「ああ、なんだか青い蝶が青い花に止まっているって...」

 京太郎「何でそれを早く言わないんだ!」

  須賀も俺と考えていることはどうやら同じようだった。

  青い薔薇。

  とあるオルフェノクの使徒再生の方法を完全に解析した政府が、更に改良を加え、

 日本にいる残りの旧人類を殆どiPS類へと完全に移行させる計画の重要な要だ。

  ハギヨシとLEOが言うには、俺と須賀と木場の三人でその薔薇の使徒再生の

 メカニズムを持つオルフェノクを救助しなければならないのだ。

 智葉「まだ青い薔薇とは決まったわけではないだろう!」
 
  須賀の口調に反感を持った辻垣内は、沸騰した湯を沸かしたやかんのように

 ピーピーと喚きたて始めた。

  須賀と辻垣内の相性はあまりよくないようだ。

  もしかしたら俺よりも、悪いかもしれない。

 木場「おちついてよ、須賀君、智葉さん」

  万が一ということもある。

  宮永照と辻垣内智葉は、iPS類と同じように関係が親密すぎる。

  辻垣内は日本刀のような女だ。

  切れるうちはいいが、今の奴は情や連帯感で徐々になまくら刀に

 成り下がっている、ただの腕っ節の強い女でしかない。

  木場がいつ心変わりをするか分からない可能性がある以上、智葉と木場を

 懇ろの仲にして、この二人の行動原理を常に人間寄りにしておく必要がある。

  だが、今はヒートアップした辻垣内の頭を冷静にさせるほうが先決だ。

  俺も、そのうち辻垣内のようなことになるのだろうか...。



 草加「辻垣内、明日の朝に発見者と一緒に俺達にその場所を案内しろ」

 草加「もしもの場合がある。それに」

 草加「東京の奥多摩にはそんな蝶はいない」

 草加「そいつの言ったことは、印象に残るほど鮮やかな色、

    かつ日本ではお目にかかれない綺麗な色をしたチョウ」

 智葉「そう、そんな感じのことを言ってた」

  辻垣内の証言の元となった数人の子供達が目撃した蝶は

 全部で三匹ほどだった。

  濃い水色、エメラルドみたいな色の蝶、鮮やかな赤い蝶。

  そんな極彩色をした蝶は日本にはいない。

  確かに蝶のテーマパークは日本にもあるが、関東近辺だと、

 一番近くて栃木県、距離に直せば200km以上ここから離れている。

  仮に一匹か二匹が運よく逃げ延びても、逃亡の途中に鳥や

 蜘蛛に食べられて一貫の終わりだ。

  だからこそ、この蝶はオルフェノクの何らかの能力だと見て間違いない。  

 京太郎「やはりオルフェノクの超能力か?」

  オルフェノクの持つ能力は主に形態変化が主になる。
 
  鳥類に属するオルフェノクであれば、飛行能力。

  動物に属する能力を持つオルフェノクであれば、スピードや

 パワー、極まれに強い毒を得る傾向がある。

  植物は再生能力と毒、そして超能力。

  それぞれが、変成したオルフェノクの元となった生物の利点や

 弱点を補う能力を一つないし二つほど宿す。

 草加「俺の倒したオルフェノクに、蝗の群れを操るオルフェノクがいた」

  幹部達、あるいは解放軍がかくまっている人間達の中にはまず確実に昆虫を操る

 オルフェノクがいる。

  今はそれが分かっただけでも幸先がいい。

 草加「おそらく、そいつと同じ能力だろう」

 草加「辻垣内、よくやった」

 智葉「お、おう」

  辻垣内が素直な奴で本当によかった。

  怒りの矛先を収めた辻垣内は、口を閉じようやく静かになった。

 草加「取り敢えず、この話はここで打ち切りだ」

  ここにいる全員が睡魔に襲われない内に、本題を切り出そう。

 草加「今から俺がお前達に話すことは、正直かなり重大なことだ」

 草加「同盟を組んだ初っ端から、俺達は大博打を打つことになる」

  ハギヨシとLEOが俺に持ちかけてきた情報が果たしてどれほどの

 正確さと信頼性を持っているのか、正直に言えば理解できない。

  だが、それでもやるしかない。

 京太郎「...取り敢えず、話してくれ」

  誰もが口を閉じている中、須賀が重い口を開いた。

  俺は事の顛末を話すことに決めた。

 草加「俺がこの二日間、一体何をしていたのかというと」

 草加「スマートブレインに呼び出され、ある取引を持ちかけられた」

 木場「取引?」

 草加「そうだ。取引を持ちかけてきたのはハギヨシとかいう執事」

 京太郎「は、ハギヨシさんが?!」

 草加「そして『天』のベルトの持ち主であるLEO」

 木場「なっ、一体何を彼らは...」

  須賀と木場、それぞれに因縁のある相手からの個人的な取引。

  ショックを受けたように固まる男とは反対に、宮永と辻垣内は

 至極冷静に構えていた。

  ここまでくれば、もう言うしかない。


 草加「お前達に分かるように、説明するとだな...」
 

 草加「スマートブレインの社長を挿げ替える」

 草加「そういうことだ」


 ――――

 ――

 照の視点
 

 京太郎「草加、お前自分が何を言ってるのか」

 京太郎「そこんとこ、きっちり分かってるのか?」

  京太郎君が草加さんの口から飛び出した発言に眉をひそめ、

 明らかに疑いの目を向けた発言をした。

  ハギヨシさんのことは私と智葉がこの中にいる誰よりもよく知っている。

  須賀君もハギヨシさんが信頼した人間の一人なんだろうけど、それは多分、

 ハギヨシさんの表の顔だと思う。

  解放軍にいたときのハギヨシさんは、素敵滅法な執事ではなく、粛々と、

 冷酷にオルフェノクと政府の人間を殺して回っていた処刑人だったから。

 草加「ああ、お前の知り合いだったんだっけな。あの執事」

 草加「その執事が、俺にこの話を持ちかけてきた」

  草加さんは何一つ表情を変えずに、懐から三つの封筒を取り出した。

  木場君と須賀君には緑色の封筒。

  そして、草加さんから手渡された文書を見た私たちは思わず声を失った。

 京太郎「要人救出、及び政府重要機密施設の破壊...」

 草加「木場とお前、そして俺の三人で一週間後にスマートブレインの

    特殊部隊と政府直轄の施設に殴り込みをかける」

  私と智葉は二人に許可を取り、それぞれの封筒を見比べた。

  書いてあることは殆ど同じだったけど、須賀君と草加さんが

 ハギヨシさんと一緒に種子島宇宙センターの衛生施設の破壊で、

  木場君とスマートブレインの『天』のベルトを持つLEOが

 鳥取県某所にあるライオトルーパー生産プラントの破壊を担っていた。
  
  スマートブレインとの同盟に何も裏がなければ、この作戦は

 至極真っ当な作戦だと思う。

  けど、草加さんも須賀君も解放軍の特記戦力である三本のベルトの持ち主であり、

 木場君はオルフェノクの中でもかなり高い戦闘力を持つオルフェノクだとLEO本人が

 言っていた。

  それは残りの三人も同じ考えのようで、木場君は早速草加さんに私の懸念を

 話し始めた。

 木場「草加君、悪いけど罠って可能性が拭いきれないよ」

 草加「ああ、だがお前の意見を聞いても須賀の表情は一向に晴れないぞ」

 京太郎「.....」

  木場君も解放軍に立派に貢献してくれている。

  だけど、彼自身はあまりにも私達のことを知らなさすぎる。

  こういうときに何も言うことが出来ない自分が恨めしい。

 照「草加さん、もう引き返せないところまで私達は来ている」

 照「これがバレたら、私たちは一貫の終わり」

  草加さんの言った『社長の首を挿げ替える』

  おそらくLEOとハギヨシさんは目的こそ違えど、なんらかの利害の一致で

 手を結び、小鍛冶健夜の作戦に自分達の思惑をかぶせたのだろう。

  
  おそらく、草加さんと須賀君から木場君が離されたのは、救出する予定の要人を

 信用させるため、あるいは木場君を本格的にスマートブレインに引き込もうとする

 魂胆が確実にある。

  そして、そのことに木場君は全く気がついていない。

 智葉「草加、社長の首を挿げ替えるってことは...」

 木場「やっぱりスマートブレインは政府の手先、なのか」

 草加「ああ、小鍛冶健夜は黒だ」

 智葉「どういうことだ?」

 草加「ハギヨシは、小鍛治健夜を花形子飼いのオルフェノクだと言っている」

 京太郎「それは本当なのか?」

 草加「本当だ。更に言えば社長の交代劇のときに、村上峡児を罠に嵌めて、

    更に龍門渕グループを強引に買収したのが小鍛冶健夜だったらしい」

 智葉「おいおい、らしくなさすぎだぞ草加」 

 智葉「スマートブレインの企業買収については、あの時に私が透華の口から

    はっきりと聞いたんだ」

 智葉「龍門渕グループの全部を奪ったのは、村上だったってな」

 草加「そうか、まぁどっちにしろ透華のことは保留しておこう」

  小鍛冶健夜は前社長を追い出した花形社長の派閥に属していた。

  それは智葉が透華から聞いたことを私に話してくれたから知っていた。

  だけど、草加さんの話と智葉が透華に聞いた話には大分齟齬が生じていた。

  草加さんが嘘をつくはずもないし、ここは一つ、私が聞かなければならないことを

 聞くことにしよう。

 草加「さて、話は変わるが」

 照「草加さん、聞きたいことがいくつかある」

 草加「なにかな?」

 照「一週間後のスマートブレインとの合同任務なんだけど、

   任務の中に要人救出が含まれていた」

 照「その要人って、もしかして...」

 草加「ああ、村上社長だ」

  苛立たしげに足を踏み鳴らした草加さんは歯を食いしばり、

 全員にその要人の名前を告げた。


 ~~~

 ~~

 京太郎の視点

  草加は何かを躊躇うように、ポツリポツリと俺達にスマートブレインでの

 やり取りを聞かせ始めた。


 草加「まず最初に、お前達に俺がスマートブレインで今まで何をしていたのかを

    最初から話す必要がある」

 草加「スマートブレイン、いやオルフェノクの当面の活動目標は

    政府が隠している、ある機密情報を奪取することにある」

 照「その機密情報って、須賀君が持ってきたあのデータのこと?」

 草加「ああ。だが、須賀のデータは閲覧許可A+ランク、

    つまり、特級の最上機密までは書かれていないんだ」

 草加「須賀、お前の持っているあのデータを貸せ」

  草加の差し出した手に、俺はいつも持ち歩いている小型のメモリーを渡した。

  草加はそれを自分のノートパソコンに差込み、パスワードを打ち込みながら、

 説明に必要な項目を探し出した。

 草加「いいか?このページをよく見ろ」

  草加が俺達に見せたページは、日本各地にいる上級オルフェノク達の個人情報と

 所属先のページだった。

  その中にはハギヨシさんとLEO、スマートブレインの前社長だった花形と村上の名前、

 そして小鍛冶健夜の名前もあった。

 草加「花形は日本で最も初期に生まれたオルフェノクだ」

 草加「村上も、LEOもオルフェノクの中ではずば抜けて強い。

だが、花形は更にその上を行く」

  草加は苦々しげに顔を歪める。

 

 木場「まさか現存するオルフェノクの中で一番強いとか?」

 草加「...忌々しいことだが、正解だ」  

 草加「スマートブレインが日本に出来たのは丁度今から20年前程だった」

 草加「花形はその時既に、オルフェノクに関する研究の第一人者として

    オルフェノクの中でも高い地位にいた」

 草加「そして、奴はスマートブレイン本社が見つけたある存在を守る為の装備、

    つまり今、俺達が持っているライダーズギアの研究を任された」

  草加の口から明らかにされたライダーズギアのルーツ。

  花形が日本におけるオルフェノクの先駆けだということはよく分かった。

  徐々に明かされつつある、花形と言う男の全貌。

  だが、まだ足りない。

  なぜ花形はオルフェノクを裏切り、政府側についてオルフェノクを迫害する

 立場になったのか?

  その理由がなによりも重要だ。

 智葉「ある存在?オルフェノクが一体何を守るって言うんだ?」

  

 草加「全てのオルフェノクの支配者」

 草加「つまり、オルフェノクの『王』を守る」

 草加「それがライダーズギア本来の役目だ」    

  草加の口から放たれた衝撃の真実に、俺達は呆然とした。

 京太郎「おいおい、じゃあ...」

  動揺を隠せなかったのは俺だけではなかった。

  木場も、照も、智葉も一様に絶望的な表情を浮かべていた。

  全員の動揺を見て取った草加は一旦口を閉じた。




 木場「じゃ、じゃあ」

 木場「花形とか、政府に組する一部の上級オルフェノクは

    全員、その『王』の忠実な腹心なのか...」  

 草加「そろそろ頃合だな」

 草加「お前達にも俺の過去について話すときがきたようだ」
 
  木場の呟きに敏感に反応した草加は、何かを諦めたような表情を浮かべ、

 自分の出生についての秘密を明かし始めた。

  
 ~~~~

 ~~

 草加「花形の真の狙い、それをお前達が正しく理解できるように簡単に

    噛み砕いて話してやる」

 草加「それにはまず、お前達は『流星塾』の存在を知らなければならない」

 智葉「流星塾?」

 草加「そう、流星塾はスマートブレインが経営していたある種の教育機関だ」

 草加「身寄りのない子供達を引き取り、英才教育を施しては

    何人もの優秀な社員達を世の中に送り出してきた」

 草加「だが、その流星塾に集められた子供達には一つの共通項があった」

 草加「『九死に一生を得た子供』」

 草加「それが流星塾生になるための必要条件だった」

 木場「九死に一生って...」

 草加「まあ、黙って聞けよ」

 草加「スマートブレインは病院や警察の中にパイプを持ち、火災や水難事故、

    そして現代医学では治療できない難病から奇跡の生還を果たした子供達の

    存在を調べた」

 智葉「二束三文で買い叩いたわけだ」

 草加「ああ、俺は小学生のときに親に殺されかけた」

 草加「頭蓋骨陥没、心肺停止」

 草加「俺が物心ついたときに担当医から聞いた話だ」

 草加「だが、俺は奇跡的に後遺症もなく無事に生還した」

 草加「そんな俺みたいな生徒をスマートブレインは日本各地から

    何かに取り付かれた様に集めまくった」

 照「でも、どうしてそんな意味の分からないことを?」 

 草加「...オルフェノクの『王』が九死に一生を得た子供達の中にいる」

 草加「流星塾にいたときに、花形がそれを部下に話していた」

 木場「え、花形って流星塾の創立者なの?」

 草加「そうだ、奴はライダーズギアの研究上、その適合者となる

    オルフェノクを片っ端から捕らえ、実験台にした」

 草加「その中には、人工のオルフェノクの記号に関する研究も含まれていたし、

    ライダーズギアの実用化に必要な夥しいほどの実験体が必要だったからだ」

 智葉「なぁ、草加」

 智葉「花形の言うことが狂言だっていう可能性もきっと

    無きにしも非ずってところだろう?」

 智葉「それに、オルフェノクの王ってどんな姿をしてるんだ?」

 草加「辻垣内の主張ももっともだ」

 草加「だが、オルフェノクの王によく似た『存在』の姿を

    俺達は飽きるほどにいつも見ている筈だ」

 京太郎「おい、それって...」

 草加「ファイズ、カイザ、デルタ」

 草加「俺達が身に着けて、オルフェノクを殺して回るための

あの強化戦闘ツールがオルフェノクの王を模した物だ」

 草加「ま、本物はもう少し格好悪い姿をしているらしいが...」

 草加「取り敢えず、話を戻そう」

 草加「オルフェノクの王は実在したらしい」

 草加「だが、何らかの理由で王は姿を消した」

 草加「どうしてオルフェノクの王が九死に一生を得た

子供達に宿る理由は未だに判明していないが...」

 草加「ハギヨシの話によると、オルフェノクの王は花形と

    あと一人の人間を自分に忠実な臣下としたようだ」

 四人「まさか...」

 草加「そう、今のスマートブレインの社長である小鍛冶健夜だ」

 草加「ハギヨシが言うには、花形と村上の熾烈な争いの影には

    村上がオルフェノクの王を殺そうとしたことに端を発している」

 京太郎「理由は?」

 草加「その理由は分からない。だが、結果として村上の目論見は

    大体成功したともいえる」

 草加「オルフェノクの王にしこたまフォトンブラッドをぶち込み、

    生命活動が困難になるまで追い込んだんだ」

 草加「そして、王は姿を消した」

 木場「それで、王に歯向かった村上は今どこにいるんだい?」

 草加「ああ、ライオトルーパー生産プラントの最奥にある

    地下牢にぶち込まれているらしい」

 草加「ここまで話せば理解できるはずだ」

 草加「オルフェノクの王は本能のままに人間を皆殺しにして、

地球上のありとあらゆる生命の頂点に君臨するということが」


  草加から齎された情報はとてもショッキングだった。

  特にオルフェノクである木場には、とてもではないがその現実を

 受け入れられないでいるのが目に見えて明らかだった。

 京太郎「なぁ、草加。お前がいない間に俺と木場でiPSの本当の

     狙いを考えてみたんだ」

  この際だ、草加がいない間に木場と話し合ったあの仮説を

 皆に聞いてもらおう。

  あのときの木場とのやり取りを簡潔にまとめたレポートを

 一時間近く掛けて、照たちに説明し続けた。

 

 iPS細胞が人類のオルフェノク化の抑止力であること。

  あのおもちカーストと言う制度が、実は花形の計画に必要な

 人間を集めるためだけに作られた隠れ蓑だということ。

  オルフェノクは進化の際に、自分の体でiPS細胞を進化の形に

 あわせて生成することが出来、人間の中の眠れるオルフェノクの   

 因子に語りかけ、オルフェノクへの進化を促すということ。

  今思いつくだけのありったけの仮説を三人に話し続けた。

 照「京太郎君と木場さん、そして草加さんの仮説」

 照「これで全部が一つの線で結ばれた...」

  俺と木場の説明を聞き終えた照は、今までの話をまとめた結論を出した。

 照「オルフェノクの王を蘇らせ、オルフェノクの王国を作り出すのが
 
   オルフェノクの真の目的」

 照「iPS類の真の目的は、オルフェノクという『進化』を完全に食い止める為に、

   世界中の人類をiPS類へと完全に変貌させる」

 照「そして私達旧人類のオルフェノク化という共通の問題を共有した

   スマートブレインの上層部と、今の原村政権は一時的に手を取り合った」

 草加「iPS側としてはオルフェノクを野放しにしては、旧人類、いや奴隷の数は

    減少を続け、オルフェノク側に次世代の覇権を奪われてしまう」

 木場「オルフェノク、いやスマートブレインは、このままiPS類を

放置し続けると、オルフェノクが生きる場所を失い、更には

生きる権利すら剥奪される恐れがあると考えた」

 木場「だからこそ、彼らはそうならないように政府と水面下で

秘密裏に熾烈な争いを繰り広げ、オルフェノクがこの世界で

生きる権利を勝ち取るために今まで戦ってきた」  

  俺達の敵の真の目的の全貌がハッキリと見えてきた。

  iPS、いや原村和はオルフェノクの撲滅を足がかりに、日本が

 世界の中心に躍り出ることを考えている。

  そしてオルフェノク側からは、スマートブレインが全人類を

 オルフェノク化することによって、日本かアメリカにオルフェノクの

 帝国を作り上げ、全てのオルフェノクを絶対的な支配下に置く

 世界征服を考えている。  

  どちらも旧人類のことをこれっぽっちも考えていないのは

 火を見るより明らかだ。

  だからこそ、俺達はまず出来ることからやるしかない。

 草加「俺達のやろうとすることはクーデターだ」

 草加「クーデターが失敗した時は、俺達が全員死ぬときだ」

 草加「今ならまだ引き返せる」

 草加「どのみち村上はあと三ヶ月で処刑される手筈になっている」

 草加「だが村上が俺達の提示する条件を全部承諾する保障はどこにもない」

 草加「はっきり言って、無謀だ。それでもやるか?」

  草加は多分、俺達が誰も賛成しなくても、たとえ一人になったとしても

 このクーデターを実行に移すだろう。

  小鍛冶健夜がオルフェノクの王にどんな力を授かったのかは未だに不明だ。

  もしかしたらフォトンブラッドもなにも効かないような、そんな不死身の、

 正真正銘の魔物になっているかもしれない。

  村上よりもいい条件を提示して、この先俺達を全面的に支持し、サポートを

 惜しまないと言う可能性も捨てきれない。

  だから俺は正直に言えば...草加の意見には反対だ。

  しかし、この場における俺の意見はそこまで重要ではない。

 照「...」

  俺や草加、智葉と木場が戦う理由と大義は全て宮永照に集約されるからだ。

  それぞれが叶えたい夢や理想を持っている。

  しかし、それは一人では叶えることが難しく、かといって他者と

 協調することが限りなく不可能に近いものだからだ。

 俺は原村和への復讐。

  智葉は世界を本来あるべき姿に戻し、iPSどもに償いをさせること。

  木場はオルフェノクと人間の共存。

  草加はオルフェノクの撲滅。

  盃を交わし、仲間と認めた人間と同じ形の夢を持つ奴は

 この中には誰一人としていなかった。 

  それだけ、俺達の夢は今の自分を構成する上で重要な意味を持っているからだ。

  だからこそ、俺達には目的が必要だった。

  たとえ見ているものや志が異なろうと、一致団結し、明日に進む為の象徴が...。

 
 長い沈黙を破り、照が遂に口を開いた。

 照「木場さん...前にも言ってたよね?」

 照「オルフェノクにも人間の心を持った奴はいるって...」

 照「私もそう思う」

 照「iPS類になることを選んだ人間にだってそれはきっと当てはまる」

  ああ、お前の言うとおりだよ照。

  きっと世界中の誰もがお前の言うことは正しいと肯定するだろう。

 照「だけど、木場さんがスマートブレインタワーで言った、あの一言」

 照「貴方がオルフェノクとして生き、それでも尚、その夢と理想を

   実現させるために、人間を守るという大義名分を掲げても」

 照「スマートブレインを信じていたって...」



 照「オルフェノクもiPS類も人間を家畜以下にしか見ていない」




 照「それが今の私達『人間』を取り巻く世界の真理」


  皆もよく聞いて、そう前置きした照は更に言葉を続けた。

 照「権利に保障された社会的弱者以下の存在が、これから先、

   スマートブレインの体のいい取引相手になったって...」

 
 照「私達には明日なんて来ない」




  普段とはかけ離れ、激情に駆られた照の言葉に誰もが驚きを隠せなかった。

  まるで草加が乗り移ったかのような口調で滔滔と語り続ける

 照の目にはかつてないほどの熱がみなぎっていた。

 


 照「この五人を束ねるリーダーとして」

 

 照「私は草加さんの意見を採用します」

 照「どちらにしろ、私達の戦闘はスマートブレインに大きく

   左右されている」

 照「なら、手を差し伸べてくれる味方を一人でも多く

   味方につけて、確固とした立場を着実に確立させるため」



 照「私達はスマートブレインを手に入れる」

 照「いつまでも解放軍で燻っている訳には行かない」

 照「私達五人は、解放軍を近いうちに出て行く」
 
  照の口から出てきた信じられない言葉のオンパレードに

 木場も智葉も、あの草加でさえ口をあんぐりとあけていた。

  しかし、俺達にとってそれ以上に衝撃的だったのが、照の

 解放軍を見捨てるという信じられない発言だった。

 智葉「照...お前、まさか解放軍を捨てるのか?」

 照「...解放軍のリーダーになったけど、やっぱり駄目だった」

 照「どのみちいつかは、こうすることを考えていた」

  更に驚いたことに、照はこのことを大分前から考えていた。

  俺も草加も口には出さなかったが、もうしばらくは解放軍に腰を落ち着け、

 政府の出方を伺う腹積もりだった。

  しかし、照の口ぶりだと二週間以内にここから全員が煙のように消える感じの

 意味合いに聞こえる。

  事実そうなのだろう。

  照の言うことは間違いなく正しい。

  俺達に残された時間が少ないことと、現時点で相手の真の狙いが判明し、なおかつ、

 その二大勢力が俺達の出方を慎重に伺っている以上、照の提案はまたとない正論だ。

  ここで旧人類の象徴である照がスマートブレインに就けば、俺達の個々の理想は

 ともかくとして、オルフェノクの大半を味方につけることが可能になる。

  俺達が喉から手が出るほど欲しくてたまらなかった『軍事力』をここにきて

 手に入れる絶好のチャンスだ。

  だが、俺達のやろうとしていることは人としてもっとも最低の行為だ。

  俺達を信じ、命を預けてくれた人間達、その全員の希望を粉々に打ち砕くからだ。

  だが、それ以上に自分の掲げた理想を貶めてまで戦い続ける強さを今のところ、

 木場と智葉は持っていない。

  それでも、iPS類に勝つには...。

 
 智葉「...後悔は、ないのか?」

 照「0×0は0にしかならない」 

  長年連れ添った智葉の問いかけに、照は懸命に涙と自分の心の中にある感情を

 押さえ込みながら、敢えて私情を挟まず、非情に言い切った。 


 照「口だけの懺悔には、もううんざりした」

 照「解放軍のリーダーになっても、私は結局守られる側の

   草加さんに言わせれば、ただの女の子でしかない」

 照「私が智葉や草加さんみたいに強ければ、咲だって守れた」

 照「けど、その咲も私を裏切った」

  なにも知らない、心から大切にしている存在を失った痛みを知らない人間が、

 今のやり取りを見ていれば、きっと青臭い正論を振りかざし、なんとか翻意を

 求めるだろう。

  しかし、俺達は違う。

  草加はオルフェノクに愛する人を殺された。

  木場はオルフェノクの仲間を政府に殺された。

  智葉は政府に家族を殺された。

  照は守り続けてきた妹に裏切られ、また自分がいたせいで

 解放軍の多くの人間達を死に追いやってきた。

  俺は原村和に全てを奪われた。

  だからこそ、俺達が戦わなければならない。

  もう二度と、まだ見ぬ誰かが俺達と同じような目に遭うような世界が

 完成しないように抗わなければならないのだ。

  ふっ、

  結論が出てるのに、どうしても躊躇するあたりが、きっと俺達が紛れもなく

 人間であると言う証なんだろう。

  贅沢だな...俺達は。

 照「智葉、もう私...疲れたよ」

 照「ただの女が人類を背負う救世主のように祭り上げられ、そこから
  
   逃げられない自分に絶望しながら心の奥で泣き叫ぶのに...」

 照「そして、そんな出来もしないことを引き受けることで、

   今にも崩れ落ちそうな自分の心を騙すことに、今このときでさえ

   全身全霊を懸けているそんな自分がたまらなく大嫌い...」

 木場「照さん...」

  照の涙。

  この解放軍に来て、ようやく分かったことがある。

  宮永がどうしてあまり感情を表に出さないのか?

  それはきっと、何かを捨てても何度でも立ち上がれる

 心の強さを追い求めた結果だと俺は思う。

  今に至るまで、宮永が捨ててきたものは俺の想像を絶する筈だ。

  その中で取りこぼしてきたもの、なくしてきたものをたった一人で背負い

 続けると決心したその覚悟が宮永照を一人の女から『旧人類の希望』へと変えた。

  人並みの幸せも、女としての夢も何もかもを失い、それでもなお、その苦悩を

 誰にも打ち明ける事無く、照はこの日々を生き抜いてきた。

  それ故に生き抜いてこられたのだ。

  そうでなければ、生きられるはずがなかったのだ...。

  声を押し殺し、俺達に背中を向けて泣き続ける照の背中に草加が語り掛ける。

 草加「今の答えは、きっとお前じゃなかったら出せなかった」

 草加「お前の出した答えだからこそ、価値があるんじゃないのか?」 

 照「やめてよ...そんな言葉を掛けられる資格は...」

  良心の呵責に耐えかね、草加の手を振り払って部屋から出て

 行こうとする照を智葉が引き止める。

  

 草加「いいや、ある」 

 草加「確かにあるんだよ、お前には」

  照自身が分からないことを、絶対の自信を持って言い切った

 草加の表情はとても男らしかった。

  草加雅人はもしかしたら宮永照を好きになりかけているのか?

  いいや、そんな邪推は余計だろう。

  人が人を好きになるのは、自由の中でも究極の部類に入る。

  誰かを受け入れることが、共存の第一歩だとしたら?

  きっと草加も心の底では誰かさんの理想を認め始めているのかもしれない。


 草加「忘れたのか?あの約束を?」

 草加「正直に言えば、ガキマンガのような青臭くて古ぼけた

センスの欠片も何一つ入っていない寒いものだが...」

 草加「あれは、要するに信じ合うための絆とかいうやつなんだろう?」

 草加「だから、お前は後先を考えなくてもいい」

 草加「今しばらく俺達は馬鹿を見てやる」


  この時、雅人は自分がどんな表情を浮かべていたのかを知らない。

  彼自身、どうしてここ最近照を気にしているのかという理由を

 理解できていない。

  だけど、彼が今浮かべている表情は...

  
  雅人が大好きだった真理の浮かべた笑顔と同じだった。


 草加「ま、いい年こいた大人や人間臭いバケモノの青臭い

理想論には正直うすら寒さすら感じたが...」

 草加「俺はあの時、お前を信じると決めた」

 草加「お前に力がなければ、補えばいいんだろう?」

 草加「俺達に出来ないことがあれば、お前が代わりにすればいい」


 
 草加「救世主が一人だけでは駄目だと、一体誰が決めたんだ?」



 木場「草加君...君は」

 草加「いいじゃないか、救世主」

 草加「君みたいな無責任なヤツが、人類の希望の象徴にだってなれるんだ」

 草加「だったら、スマートブレインに寝返った解放軍の用心棒が救世主を

    自称したって、別に構わない筈だ」

 草加「ついでに世界を救えば、万々歳。違うか?」

 草加「そういうことなんだよ。結局」

 草加「オルフェノクの分際でも、ヤクザの娘でも、人生を

    滅茶苦茶にされた奴でも、大好きな家族を奪われた奴でも」





 草加「ソイツ等が世界を救う権利は、まだ誰にも奪われちゃいない」

 
  

 


 草加「それでもお前が、解放軍を捨てたことを気に病むのなら

    裁判でも何でも開き、罪を問われればいい」

 草加「ま、こういうのは気にしてもどうしようもならない」

 草加「こういうのはきっと、自分で納得するしかない話だ」

 草加「お前達も俺が折角分かりやすく、わざわざ気の利いた

    台詞を考えて、精一杯気を使ってやったんだ」

 草加「さっさと答えを出せ」 


 智葉「草加、お前...本当に変わったな」

 草加「宮永照は頼りないからな」

 草加「しょうがなく、渋々変わってやったんだよ」

 京太郎「だよな」

 照「もう...」

 木場「でも、みんなもう答えは決まってるんだろう?」

 智葉「ああ、勿論だ」

 京太郎「スマートブレインを掌握し、この世界を歪めた元凶、原村和と

     その他諸々をとっちめる」

 京太郎「そして日本を元の姿に正しく戻す」

 木場「その通り」

 草加「だな」

 道のりは長く、険しいだろう。

  この戦いが終わる前にこの五人が全員死ぬ可能性の方が

 高いのは目に見えている。

  iPS類の実力は未だに底が見えない。

  まともにやりあって、俺は奴等に勝つことが出来るのだろうか?

  いや、勝つんだ!

  何を躊躇っているんだ、俺は?!

  あの時の恨みを忘れたのか?

  人を虫けらのように扱う連中が、のうのうと幸せに生きていい

 道理なんかどこにもない。

  あの二人を生かすわけには行かない!

  そうでなければ、優希に顔向けできない...。

  
 草加「宮永、今何時だ?」

 照「午前三時」

  智葉に脇腹を小突かれて、あわてて我に戻った。

 草加「ま、今日の話はここまでにしておこう」

  大欠伸をしながら、草加は手短に明日からの動きを話しはじめた。

  草加の話を聞きながら、俺はウクライナにいる優希と息子の事を考えていた。

  なぁ、優希。

  お前は今、元気にしているのか...。

  名前を付ける事無く、目を背け続けてきた息子のことが今になって脳裏に

 浮かびあがってくる。

 京太郎「タコス...喰てえなぁ」

  懐かしい響きがする一言が、ゆっくりと俺を眠りに誘う。

 
 幕間1    亦野の手記

  解放軍で私が成すべき仕事は終わった。

  恐らく、この手記が彼等に渡る頃、きっと私はもう死んでいる。

  後悔はない。

  世界が大きく歪められてしまったせいで、今もどこかで助けを

 求め、泣き叫んでいる人達がいるはずだ。

  せめてもの贖罪に、私の命を使って...もう一度世界をやり直す為の

 革命の導火線に火をつけたいと思う。

  希望の種は既に蒔かれている。

  信じることと疑うことは紙一重で絶望に変わる。

  だからこそ...

  人の心の闇を切り裂き、光を齎す救世主が必要なのだ。

  人々の欲望が結実し生み出された神々ではなく、人が人を導く為の

 救世主こそがこの世界には必要なのだ。

  どうか、後に残された人類が夢をみることを諦めませんように...。

  
 
 ~~~~

 幕間2  とある研究所にて


 研究者1「被験体・天江衣の様子は?」

 研究者2「状態は安定しています。完璧ですよ」

 研究者2「彼女はオルフェノクの激情態を制御できる、現状では

      世界でたった一人の『R-O-L-L』計画の成功体です」

 研究者2「もっとも、彼女の理性と性格は既にロストしていますが」

 研究者2「実際の所、我々に必要なのは彼女の血液だけですからね」

 研究者1「そうだな。我々の明日には彼女が必要だ」

 衣「.....」

 研究者3「主任、天江衣の量産型クローンのことですが...」

 研究者1「なんだ、また失敗したのか?」

 研究者3「はい。オリジナルに比べて血中のオーブ濃度が低く

      更にiPS細胞に耐えられないほど肉体が脆弱です」

 研究者2「チッ、またDNA解析のし直しかよ」

 研究者2「猫の首に一体誰が首輪をつけるってんだよ」

 研究者1「それが我々なのだよ」

 研究者1「さぁ、ぐずぐずせずにとっとと実用化してしまおう」

 研究者1「石戸司令の期待に背けば、我々は処刑される」

 研究者1「早急に取り組みたまえ!」

 幕間3  スマートブレインにて


 ハギヨシ「LEO、遂に明日ですね」

 LEO「ソウダナ、ツイニアシタダ」

 LEO「ハギヨシ、コカジヲコロシタアトノアトガマハダレダ?」

 ハギヨシ「透華お嬢様に決まっているでしょう」

 LEO「イチオウ、アノBITCHヲコロスサンダンハツイタ」

 LEO「ダガ、コロセタトシテモ...イヤナンデモナイ」

 ハギヨシ「でしょうね。まぁ、人の気持ちを踏みにじり続けた

      悪党には、お似合いの最後でしょう」

 LEO「ワカッテルトオモウガ、オレノプレジデント、ムラカミヲ

    タスケルケイカクモ、テツダッテモラウ」

 ハギヨシ「どちらにしろ、そのつもりですよ」

 ハギヨシ「ただ、政府側についている花形がどう動くかが

      今後の私達の最大の懸念ですが...」

 LEO「ドチラニシロ、ヤツトヤリアエルノハ、ムラカミシカイナイ」

 LEO「ダガ、セイフノレンチュウノセイデ、イキテイタトシテモ

    カツテノチカラガダセナイホド、スイジャクシテイル」

 ハギヨシ「言い換えれば、その為の小鍛治健夜なのです」

 ハギヨシ「彼女の心臓と脳だけを残し、後は焼却して下さい」

 ハギヨシ「くれぐれも、失敗しないでください」

 LEO「ワカッタ」

 幕間4  首都 国会議事堂の一室で...


 霞「ふぅん、なるほどねぇ...」

 霞「アメリカが本腰入れて動くってことは、核の一つや

   二つを日本に落とすって事かしら?」

 霞「ま、それはそれでおもしろそうだけど...」

 はやり「はやや~、かすみんってば悪女の顔してる~」

 霞「アラサーのはやりんがここになんのようかしら?」

 はやり「次言ってみな、ブッ殺スぞ☆」

 霞「はぁ、憂鬱だわぁ」

 はやり「ん~?解放軍とスマートブレインのこと?」

 霞「そうなのよ。ねぇ、はやりん」

 霞「咲ちゃんと照ちゃんと...後は解放軍の辻垣内さんだったら、誰を残したい?」

 はやり「はや~♪ガイトちゃんは残したいなぁ」

 はやり「あとは、宮永ちゃんたちは...ポイしてもいいや」

 霞「じゃあ、私は...あら?」

 霞「別に残さなくてもいい連中ばっかりね」

 はやり「ふーん、殺しちゃうんだ~」

 霞「最終的には、だけどね」

 霞「取り敢えず、はやりんにはアメリカに飛んでもらいます」

 霞「そうねぇ、手始めにカナダを陥落してもらおうかしら?」

 はやり「その後は、ホワイトハウスに『雨』を降らせるの?」

 霞「『原液』を特別に使いましょうか」

 霞「主要な軍事施設にもばらまきましょう」

 はやり「わ~、大変だー☆」

 はやり「核兵器落とされても知らないぞ?」

 霞「暫くの間、アメリカには動けなくなくなってもらわないと

   都合が悪いのよ...。ロシアの目を惹きつける為にね」

 はやり「うんうん。分かったよ」

 はやり「それじゃあ、まったね~」

 霞「カナダを手土産に帰ってきて頂戴ね?」

 霞「あそこがあるのとないのじゃ、結構響くから」

 はやり「はやや~☆」

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