春香「過ぎ去っていく日々」 (14)
例えばの話
目の前に飲み物が置いてあるとする
1つはただの水で、もう片方は炭酸水
飲むとしたらどちらを取るだろうか
「お疲れ様です」
スケジュールは文字で埋め尽くされ
時間に余裕の無い毎日
家に帰り着く頃には、いつも空は真っ暗
それなりに人気も出ているのだろう
今日も1日の仕事を終え、仕事現場を出る
少し疲れている私が今どちらかを飲むとしたら…
炭酸水を選ぶだろう
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「今日はどうだったか?」
「まぁまぁ…ですかね」
仕事現場を出る私を1人待つプロデューサーさん
ここ最近疲れ気味の私に
プロデューサーさんはよく気を遣うようになった
「無理はするなよ」
体が1番だからな
そう私に伝える
仕事が急激に増えた生活に
私自身まだ慣れていないようだ
「喉…渇いただろ、何か飲むか?」
自動販売機の前に立ち止まり
プロデューサーさんは財布を取り出す
「そうですね…」
目の前に飲み物が並ぶ
温かいものから冷たいもの
コーヒー、お茶、炭酸、水…
いろいろある中で
「炭酸が飲みたいですね」
いつもはあまり飲まないものを、私は選んだ
「春香にしては珍しいな」
「えへへ…そんな気分なんです」
疲れた体を癒すにはちょうどいいだろう
「体の調子はどうだ?」
「今は…大丈夫です」
疲れてはいるけど、特に異常はない
「無理はするなよ」
「これくらい平気です」
そうか…
そう呟くプロデューサーさんを私は見つめる
私がアイドルになってから数年
プロデューサーさんには沢山お世話になった
そのおかげでもあり、今の私がいる
必要以上に心配させるわけにはいかない
「何か…食べにいかないか?」
必要以上にプロデューサーさんは私を気遣ってくる
プロデューサーさんがこうなったのはあの時から
………………。
今から2週間前
歌の収録中に私は倒れ、救急車で運ばれた私は
そのまま入院することになった
何か重い病気にでもかかったのかと
一時は不安になったものの
医師から伝えられたのは軽い貧血
私はすぐに退院することになった
その時からプロデューサーさんは私に気を遣うようになった
いや、プロデューサーさんだけでなく
事務所の皆も…
「食べたいものは、今は特に無いです」
特にお腹が空いてるわけでもなかった私は
そのままわけを伝え、誘いを断る
「じゃあ今度食べに行こう」
それでもプロデューサーさんはしつこく私を誘おうとする
何でここまで私に気を遣うのだろう
私はここ最近の皆に疑問を抱える
私の体に別状はない
特に悪いところもないし、心配するものは何も無いはず
私の親だって、最近私に優しくなった
「何でそんなに気を遣うんですか?」
率直な疑問をプロデューサーさんに伝える
「それはだな…」
私の質問に対しプロデューサーさんは言葉を詰まらせる
何かがおかしい
最近皆私に優しすぎるよ
逆に不安になるじゃん…
………………
………………………
いや、本当はもう分かってるのかもしれない
私が認めたくないだけ
「プロデューサーさん」
「な、何だ?」
「本当の事を言ってください」
私が倒れたのは軽い貧血
そのはずだった
でも…私自身何か違和感を感じている
「私…実は知ってるんです、何で皆が私に優しいのか」
「………」
「だから、プロデューサーさんの口から聞かせてください」
「……いいのか?」
真剣に聞いてくるプロデューサーさんに私は頷いた
「……春香」
「はい…」
「春香はもう…」
「………………」
「あと1ヶ月なんだ」
「………………」
涙ながらに
プロデューサーは私を見て、そう言った
「カーーーット!」
「今の良かったよー!次のシーンもその調子でいこうか!」
春香「本当ですか!?やりましたねプロデューサーさん1発ですよ!1発!」
P「はは…俺自身信じられないな」
春香「プロデューサーさんがドラマの撮影に出るなんてびっくりしちゃいました!」
春香「しかも私と共演だなんて!」
P「はは…頑張ろうな」
春香「次いきますよ!プロデューサーさん!」
完
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