春香「ダウンタウンさんの番組に出演…」 (28)

「春香達、頑張ってくれよ!この番組で成功すればさらに売れること間違い無しだ!」

プロデューサーさんはそう言うが、あのダウンタウンさんだ。
テレビでしか見た事が無い為、とても怖いイメージがある。

もし何か間違いがあったら、叩かれるどころじゃすまないかもしれない。

私達は、かなり緊張していた。

『ナハハハハ!』

テレビの向こう側で平気な顔をして他の出演者を叩く浜田さん。

私達も、こういうことされるのかなぁ…

…ああ、やだなあ。

今回ダウンタウンさんの番組に出演するのは、私と真美と真。

真は大丈夫だろうが、真美はまだ中学一年生。

プロデューサーさんに対する礼儀も無く、イタズラ大好きな小悪魔出来ない子供だ。

もしかしたら、もしかするかもしれない。

律子さんも、プロデューサーさんもその辺りは危惧しているようで、口酸っぱく真美に注意していた。

「いい?真美、あんたはただでさえそういうのに鈍いんだから、何かあったら一生芸能界やっていけなくなるかもしれないわよ?」

「それだけじゃない。真美以外のアイドル達も出づらくなるかもしれない。だからこそ、彼らにはこれでもかってくらい、礼儀正しくするんだぞ?」

「ん~………分かった!!」

ほんとに大丈夫かなぁ…

番組打ち合わせ時、スタッフの方々はさほど強張っていなかった。

それどころか、気楽にやって下さいとまで言ってくる。

楽屋挨拶さえ済ませてくれればいいと言う。

「あ、あの…やっぱり、受け答えとか、重要なんじゃ?」

真が恐る恐る聞いている。

当然の事だ、と思う。

しかし、スタッフの方々は口揃えて言う。

「浜田さんも松本さんも、そう言うのを嫌うんですよ。
寧ろそのままの貴方方でいてくれた方が良いんです」

多分、スタッフの方なりに緊張をほぐしてくれているんだろうなあ。

何にせよ、三日後の収録日に備えることにしよう。

収録日。

あれ程緊張を解いてくれたスタッフの方々に申し訳ないが、心臓はバクバク、呼吸は整わない。

『ダウンタウン 松本様控室』

やはり真美も、トップ芸能人を目の前にすると、緊張が隠しきれないのだろう。

口数がどんどん減っていた。

そして、誰が扉をノックするかで議論していると、扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「?誰かおんのー?」

やばい。

逃げようかとも思ったが、今逃げたら確実にバレる。

青ざめた顔をしていると、真が意を決したように、扉を控え目にノックした。

「はーい」

「あ、あの!本日お世話になります菊地真と、天海春香と、双海真美です!!」

すると、ああ!と言った後、どうぞーと少々ぶっきらぼうな感じに答える彼、松本さん。

ゆっくりと扉を開けると、椅子に腰掛けながら新聞を持ち、顔だけをこちらに向けた松本さんがいた。

「こ、こんにちは!!」

第一声は真美だ。

何だか子供じみた挨拶だ。

すると松本さんが笑い出す。

「ンフフ、それなんなん?」

面白がっているのか、私達をいじってきた。

「いや、こんにちはてww別にええねんけどwwほら、もっと、失礼しますとか言うかとww」

あ、やっちゃったなあと思ったが、松本さんは気にする事なく笑っている。

何だかテレビで見るよりも優しい感じだ。

それから松本さんは、これからは自分には挨拶しなくてもいいことと、緊張しなくてもいいことを言ってくれた。

「せやけどな、浜田はあれやで。
ほんまに!礼儀正しくせんと、しばかれるからな」

「ええええ…」

やっぱり浜田さんは怖い人なんだあ。
何かあったら松本さんを頼ろうかな、と思っていると、緊張も解れてきた真美が右手を挙げて答える。

「大丈夫だよ!まこちんが何とかしてくれるもん!」

「…ンフフっ!まこちん?何か卑猥やんそれ!」

すると、真と真美が顔を真っ赤にして俯く。

ああ、これが大阪の芸人さんの人柄なんだなあと思った。

とりあえず、浜田さんの所に行く時は、色々覚悟していこう。

それからダウンタウン 浜田様控室、と書いてある扉の前に立つ。

ああ、これから何されるんだろうか。

三人が顔を合わせていると、今度は中から凄まじい爆音が聞こえてきた。

何があったのか。
急いで扉を開けると、猛烈な悪臭が鼻を刺激した。

「浜田さ…くっさ!!」
「うわ!何この臭い!?」
「うえー!臭いよー!!」

鼻を摘まんでいると、今度はけたたましい笑い声が聞こえる。

部屋の奥で煙草を吸っていた浜田さんだった。

「ナハハハハ!!」

多分、いや、絶対煙草とオナラだ。

たまらず部屋から出てきてしまった。

ゴホンと咳を一つする。

すると中から浜田さんが笑顔で出てきた。

「ゴメンな!ちょーど屁こいた時に来てしもたんやな。悪いなぁ」

ここじゃなんやから、と一言断った後、私達を局内の自販機の前に連れていき、一本ずつジュースを買ってくれた。

「君らあれやろ?765プロの子達やろ?遠藤からよー聞いとるで!」

何だか、拍子抜けしてしまった。

テレビで見るのとでは、全く違った浜田さんが、そこにいたのだ。

どうやら松本さんに一杯食わされたらしい。

浜田さんは、物凄く気を使ってくれているのが分かるし、とても優しい方だ。

まあ、少々汚い振る舞いもあるが。

しかし、もっと驚いたのは、浜田さんはスタッフの方々に対して異常なまで礼儀正しいことだ。

一人一人に頭を下げ、常に笑顔。

これが長年トップ芸能人を続けている理由なのだろう。

そのおかげか、リハも順調に終わった。

本番になると、やはり番組通りだった。

「いやーそういえばね、このまこちんちゃんゆー子なんですけどね」

「まこちん?何やそれ、ち○こついてんの?」

「ついてるわけないでしょ!!」

「ンフフ、いや、この子もおもろいんですけどね、ほら普通、楽屋入ってきたら、失礼しますとか、すいませーんとかあるやないですか。
やけどね、あの~一番若い子?がね、手ぇ挙げて、『こんにちはー!!!』ってww」

「何やねんそれwww」

「幼稚園の先生かと思いましたわ…」

「ナハハハハ!!」

「もー!その話いいでしょー!!」

「あ、そうそうまこちん、君ってち○こついてるってことでええの?」

「さっきついてへん言うとったやろww何遍言わすねん!
アイドルやもんな君ら、言うてもええで?死ねハゲぇ!!て」

「ンフフwww」

どうしよう。笑いが止まんないや。

「それとね、遠藤が言うてんねんけど、何か星井言う子が好きらしくてね?今度紹介したってや」

「アイドルやってwwwまこちんしばいたれよもうwww」

「あの、何だかさっきのあれでまこちんって呼ばれるのが何だか…」

「「wwwwwwwwwww」」

「何でお前が笑とんねん!!言い出したんお前やろ!」

「もうねwwwあかんわwww」

「…ってか何でお前黙っとんねん!」ペシ

「うぇぇ!?私ぃ!?」

「あ!アイドル叩いた!これ訴えられるで!」

多分、浜田さんなりに気をつかってくれたのだろう。

その証拠に、全く痛みは無かった。

そしてそれを皮切りに、二人は今度は私をいじりだした。

「てか君もしかしたらリボンが本体なんちゃうの?」

「なんでやねん!バケモンやないか!」

「いやwww喋らんもんwww」

「ってかはよ歌歌わなあかんやろ!」

スタッフのカンペを見た浜田さんが私に言う。

「は、はい!行ってきます!!」

歌の準備が整ったようなので、行くことにした。

収録が終わり、再び楽屋に行くと、
今度は二人とも松本さんの楽屋にいた。

お疲れさんと一言言った浜田さんは、とても優しい顔をしていた。

やっぱり、オナラは臭かったけど。

それから、彼らをテレビで見る時の見方が変わった。

彼らの目の動きや、司会の手法。

それらを参考にして、勉強することにしたのだ。

ゲストとの接し方、気の使い方。

何だか、これからが楽しみだなあ。

「そういえば松本さん」

「ん?」

「あの春香って子、俺らの司会参考にさせてくれー言うてたやないですか」

「ああ、そういえば、HEY×3でありましたね」

「まあ、嬉しいと言えば嬉しいですね」

「んー…せやけどですよ?貴方のこないだの言葉、借りるとしたらですよ?」

「何ですのん?」

「あの子、あのまま行ったら芸能人じゃなくて芸人になりまっせ?」

「ンフフwwwww」

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