矢澤にこ「きっと青春が聞こえる」 (224)

諸注意

シリアス、卒業ネタ

アニメ2期と時間軸は同じですが、2期とは違う世界の話です。
アニメ1期のあとのifものという感じです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402325332

introduction



 家に帰るまで、ツインテールは解かない。
 それが『矢澤にこ』のルールだ。

 時刻は深夜1時過ぎ。
 私はレギュラーの仕事を終えて帰宅した。
 上着とストッキングを脱ぎ捨てて、グラス片手に座椅子に体を放り投げる。
 鯖の缶詰を開けて、グラスに貰い物のスパークリングワインを注ぐと、
 ふうっと一息ついて、髪留めに指をかける。
 引っ張られていた頭皮が解放されるとともに、全身の緊張がすっと抜ける。

 ここから私のプライベートタイムがはじまるのだ。
 一口、二口、微発泡の柔らかい刺激が喉に心地いい。
 今日は少しいいことがあったので、ささやかなお祝いだ。

 ああ、気分がいいな。
 こういうときは、あのCDを聴きたくなってしまう。

 ブックシェルフに飾ってある一枚のCD。
 ジャケット写真もない、さらのケースの表面がこちらを向いている。

 この中に入っているのは、『私たち』そのものだ。
 今でもときどき思い出す。
 『私』が『私たち』だった、あの頃。
 今なお色褪せない、私たちの奇跡が、ここにあるんだ。

 のそっと立ち上がって、ディスクをプレーヤーにセットする。
 再生ボタンを押せば、あの音が聞こえてくるだろう。

 そう、きっと一生忘れることのない、青春の足音。

 ピアノが軽やかに踊る。
 シンセベースが柔らかくうねり、スネアが陽気に跳ねる。

 そして――

 私たちの音楽が、はじまる。



introduction 了

Track1 『僕らは今のなかで』



 ラブライブ本戦から数日後、いつもの部室。
 ぎこぎこと椅子を揺らしていた穂乃果が、誰に言うでもなく口を開いた。

【穂乃果】
「それにしても、なんだか気が抜けちゃったねー」

 それはあえて言葉にせずとも、みんな感じていたことだった。

 ラブライブで、私たちは敗北した。
 必死で練習して、すべてを出し切った結果のことだった。
 力及ばなかったのだ。悔しかった。とても。

 それから今に至るまで、みんなどこか上の空で、ぼんやりしていた。

 だけどそれは傷心を引きずっているような感じでもなくて、
 燃え尽き症候群というのだろうか、やけにゆったりした空気が支配していた。

 穂乃果の言葉に海未が返した。

【海未】
「そうですね、これまで目標があってやってきたのに、
 何もなくなってしまいましたから」

【にこ】
「なーに言ってんのよ」

 口を挟むのは私だ。

【にこ】
「あんたたち、スクールアイドル続けないわけ? 来年もきっとあるわよ、ラブライブ」

 希が軽い調子で続く。

【希】
「そうそう、新入生も入ってくるやろうし、新生μ'sでがんばっていかな!」

【穂乃果】
「うん、そうなんだけどねー……」

 穂乃果はやっぱり気の抜けた感じで、空を仰いでいる。

 みんなが心の中でため息をついたのを、私はなんとなく感じた。
 一方で真姫は本当にため息をついた。ある意味さすがである。

 と、そこに屋外から声が聞こえてきた。

【凛】
「ああ、ごめーん」

【花陽】
「だいじょうぶ、だいじょうぶー」

 凛と花陽だった。
 練習室の収納棚の奥から出てきた野球のグローブをぶら下げて、
 球遊びに興じていたのだ。呑気なものである。

 部室でだらだらすることに飽きていた私は、窓を開けて二人に声をかけた。

【にこ】
「そこにいなさいよー。私も行くから」

【希】
「あ、うちもー」

 希とともに外へ出ると、凛が手を振って迎えてくれた。

【凛】
「にこちゃーん、希ちゃーん、こっちこっちー」

【花陽】
「はい、グローブ」

 花陽が自分のグローブを外して手渡してくる。

 私は運動は得意な方じゃないけれど、球遊びは妹たちと度々することがあったので、
 まるきり下手っぴというわけではなかった。

【凛】
「いっくよー」

 凛が投げたボールを見事にキャッチすると、希と花陽が感嘆の声を上げて拍手した。

【にこ】
「ふふん」

 私は鼻が高かったが、同時になんだかバカにされてるような気もして癪だった。

 しばしボールのやりとりを続けていると、私のすぐ横で眺めていた希が話しはじめた。

【希】
「これからどうするん?」

【にこ】
「別にいいんじゃない、このままで。新学期になればまた変わるわ」

【希】
「じゃなくて、にこっちのことよ」

【にこ】
「私?」

【希】
「卒業したあと、どうするのかなって」

【にこ】
「……大学にいくけど?」

【希】
「そう……」

 希は言葉を切ったけど、言わんとしていることは察した。
 アイドル活動を続けるかどうかを問いたいのだろう。

 なんとなく口幅ったくて、今まではっきりとは言わないようにしていた。
 だけど、今こいつになら話してもいい、そんな気分になった。

【にこ】
「大学に通いながら、どっかオーディション受けたり、
 出演させてくれる劇場でも探して、やっていこうと思う」

 希の顔がぱっと明るくなる。

【希】
「そっか! うんうん、それがええよ」

【にこ】
「そんなこと気にしてたの?」

【希】
「にこっち、危なっかしいところあるやん? 勉強もちゃんとしないし……」

【にこ】
「う、うるさいわね、このお節介焼き」

【希】
「うん、そうよね」

Track2 『ダイヤモンドプリンセスの憂鬱』



 あくる日、練習室に集まって適当にストレッチをしていると、穂乃果が急に声を上げた。

【穂乃果】
「ライブだよ!」

 穂乃果というやつはいつもこうなのだ。
 藪から飛び出した棒に“ほTシャツ”を引っ掛ければ、
 おそらく穂乃果と見分けがつかないだろう。

【穂乃果】
「あぁー! どうして気が付かなかったんだろう!
 廃校がなくなっても、ラブライブが終わっても、
 私たちはアイドル研究部なんだから、ただライブをすればいいんだよ!」

【にこ】
「なに普通のことを大声で言ってんのよ……」

【穂乃果】
「え? にこちゃんもそう思ってたの? なら言ってよぉ!」

【にこ】
「いや、思ってたっていうか、
 別にラブライブが最後のライブだって決めたわけでもないし」

【穂乃果】
「こういうのは、はっきり『やる』って決めないと駄目なんだよ!」

 同調したのは絵里と海未だ。

【絵里】
「そうね、私たち、ここのところちょっと気が抜けてたし……
 やりましょうか、ライブ!」

【海未】
「ええ、やはり目標を持ってないといけません。
 気を引き締めなおして頑張りましょう!」

 ことりが「おー」と腕を振り上げ、穂乃果はうんうんと満足気に頷いている。

 真姫が疑問を投げかけた。

【真姫】
「それで、いつするの? もうすぐ冬休みに入っちゃうけど」

【ことり】
「冬休み中がいいんじゃないかな? 期末試験中にはできないでしょ?」

【絵里】
「そして冬休みが明けたら、私たちは本格的に受験シーズンまっただ中、
 やるなら冬休みしかないわ」

 二人の返事を受けて、真姫がぽつりと言った。

「それが最後のライブってことね」

 何気ない、しかしはっきりした事実の通告に、場が少し沈んだ……ような気がした。
 その空気を打ち破るかのように、穂乃果が声を張り上げた。

【穂乃果】
「よーし! 私たち9人の最後のライブ、おもいっきり楽しもう!
 真姫ちゃん、新曲お願い!」

【真姫】
「はぁ?! え、この期に及んで新曲?!」

【穂乃果】
「ノリノリで盛り上がれるやつがいいなぁ」

【真姫】
「いや、ちょっと待ってよ! ねえ、海未、ことりも、なにか言って!」

【海未】
「そうですね、詞の書き溜めは結構あるので、私は問題ないと思いますが……」

【ことり】
「冬休みまでになら、みんなにちょっと手伝ってもらえば衣装は間に合うと思うよっ」

【真姫】
「あなたたち本気なの?! ……まったくぅ!
 わかったわよ! さいっこうの曲作ってやるんだから!」

【穂乃果】
「やたー! 真姫ちゃん大好きー!」

 穂乃果が真姫にぐりぐりと体をすり寄せる。

【真姫】
「やめて!」

 なんとも愉快な仲間たちだ。
 私は笑いを噛み締めてくくっと肩を揺らし、意気揚々と立ち上がった。

【にこ】
「話はまとまったわね! それじゃあ屋上でレッスンするわよ!」

 部長らしく号令をかける。さあみんな、私についてきなさい!

【絵里】
「ああ、にこは待って」

【にこ】
「ってなによもう!」

 唐突な絵里の一声に私はつんのめった。かっこよくキメるシーンが台無しである。

【絵里】
「ちょっとね、生徒会の手続きで、やってもらわないといけないことがあるのよ」

【にこ】
「そ、そう……じゃあみんな、先に行っててちょうだい」

 向き直ったときには既にみんな部屋を出ていて、誰かが外から手だけで返事をしてきた。
 無礼千万とはこのことだ。黙って部長を置いていくなど……。
 しかし幸いなことに、私はこんなことには慣れっこなのである。
 心に傷など、少ししか負っていない。

【にこ】
「で、なに」

【絵里】
「……大丈夫?」

【にこ】
「なにがよ! 何一つ問題ないわ!」

【絵里】
「そ、そう、ならいいのだけど」

 絵里の用事というのは、部員の登録や来年度予算に関する書類だった。
 よくわからないので、全部絵里に言われるままに書いた。
 私が書く意味がないじゃないかと不平を言ったら、呆れられた。

【絵里】
「あなたが部長なんだから……」

【にこ】
「私なんて名ばかり部長じゃない。あんたの方がよっぽど……」

【絵里】
「そんなこと……」

 最後まで言わずに絵里は黙ってしまった。

【にこ】
「いいのよ、別に。自分でも向いてないって気づいてるわよ」

【絵里】
「そんなことないわ」

【にこ】
「いいの。にこはアイドルとしてなら誰にも負けないもん。ニコぉ~」

【絵里】
「ちょっと、ふてくされないでよ」

【にこ】
「ふてくされてないニコー」

【絵里】
「ふてくされてるじゃない」

【にこ】
「……なによ、別にいいでしょ。自分で向いてないって認めてるんだから構わないで」

【絵里】
「そんなことないって言ってるでしょ!」

【にこ】
「あんたに言われても説得力ないのよ! いつもみんなをまとめるのはあんたでしょ!
 みんなそれを認めてる、私だって……!」

【絵里】
「違うの! ああ、もう、この際だから言うわ……」

 絵里はかぶりを振ってため息を一つ漏らした。

【絵里】
「ねえ、にこ、私、あなたのこと……あぁ、なんて言えばいいのかしら……
 すごいと思ってるのよ、一目置いてるって言ったらいいのか……」

【にこ】
「……どこが? 気休めならやめて」

【絵里】
「ほんとよ! あなたは強いの……失敗しても、上手くいかなくても、
 負けない気持ちの強さを持ってる……それが、私は、羨ましい……!」

 羨ましい? こいつが? 私を?
 これにはさすがの私もカチンときてしまった。
 握った拳がぶるぶると震える。

【にこ】
「な、何よそれ……バカにしてるわけ?!」

【絵里】
「してないわよ!」

【にこ】
「してるわ!」

 声を荒らげてあらん限りの罵詈雑言をぶつける。
 目の前のロシア女の欠点を、これでもかとあげつらえてやる。

【にこ】
「あんたみたいな……! 歌もダンスも上手くて、スタイルもよくて、
 顔も綺麗で人望もあって……そんなやつが私の何が羨ましいって?!」

【絵里】
「なんなの……嫌味のつもり?!」

【にこ】
「違うわよ! 私が欲しい物、たくさん持ってるくせに……!」

【絵里】
「それがなんだっていうの! それでも私はあなたが羨ましい!」

【にこ】
「あんたと私の何がそんなに違うってのよ!」

【絵里】
「あなたが夢を追っているからよ!」

【にこ】
「あんたもそうすればいいでしょう!」

【絵里】
「私は! ……私は、もう負けたのよ……!」

 私たちは顔を真っ赤にして言い合った。
 褒めているんだか貶しているんだかわからなかった。
 はたから見れば滑稽に映っただろう。
 だけど当の私たちは真剣そのものだった。

 絵里が息も切れ切れに言葉を絞りだす。

【絵里】
「……あなたは、これからも、アイドルを目指していくんでしょう……」

【にこ】
「そうよ……」

【絵里】
「なってよ……にこ……本物のアイドルに……」

【にこ】
「なってやるわよ……!」

【絵里】
「……夢を叶えるところを、私に見せて」

【にこ】
「いいわ……ただし、あんたもよ。新しい夢を見つけて、それを叶えること」

 絵里は前のめりの姿勢を直して、ゆっくりと息を吐くと、複雑な顔で少し笑った。
 私はなんだか思いっきり脱力してしまった。

 絵里とこんなふうに話すのははじめてだな、と思った。
 なぜだか悪い気はしなかった。

 しばしの間を置いて、落ち着きを取り戻した絵里が、
 なにかを思い出したように視線を宙に走らせた。

【絵里】
「ねえ、にこ、私ね、聞いちゃったのよ」

【にこ】
「なにを?」

【絵里】
「穂乃果たちがね、話してたの。私たちのお別れライブをしたいって。
 このまま終わりたくない、ふさわしい場所でちゃんとお別れをしたいって」

【にこ】
「それで急にライブとか言い出したのね」

【絵里】
「ありがたいことね」

【にこ】
「……ええ、ほんとに」

【絵里】
「さて……そろそろ、屋上いきましょうか」

【にこ】
「ああ、そうね、いつまでもさぼってられないわ」

【絵里】
「……手繋いでいく?」

【にこ】
「ばーか!」

 まったく、すべて世はこともなし、だ。



Track2 了

今日はここまでです。ありがとうございました。

Track3 『ブルーベリー・トレイン』



【ことり】
「あぁーん! 間に合わないよぉー!」

【真姫】
「あなたねぇ! 大丈夫って言ったじゃない!」

【穂乃果】
「ことりちゃん、ファイトだよ!」

 で、こうなったわけだ。
 ある程度曲のイメージが固まらなければ、衣装製作には入れない。
 となると作業開始は必然的に遅れる。その上、作業内容もとりわけ物量勝負なのだ。
 さらに言えば、試験期間まっただ中である。残された時間は少ない。

 長々と述べたが、日本語にはこれらの事柄を一言で端的に表す優れた言葉がある。
 要するに「ヤバイ」ということだ。

【ことり】
「型は前のをそのまま使うとしてデザインは流用できるものはして
 素材選びと決定稿を出して仮縫いは飛ばしてあぁああぁぁぁー!」

 かつて見たことがないくらいことりが囀っている。悪いけど正直面白い。

【海未】
「ことり、落ち着いて! みんなで協力すれば大丈夫です!
 そ、そうだ! 外国に行きましょう! そうすれば時差で時間を稼げます!」

【絵里】
「ハラショーよ海未! ウラジオストク行きの旅券を取ってくるわ!」

【真姫】
「え、馬鹿?」

【穂乃果】
「真姫ちゃん、上級生だよ」

【希】
「エリチあかん! ウラジオストクは日本より時間が進んでる!」

【花陽】
「そこなのぉ?!」

【凛】
「え、どういう意味?」

【にこ】
「日本と外国の時間は違うのよ」

【凛】
「バカにしないでほしいにゃー! いくら凛でもそんな嘘に騙されないよ!」

 私の所感では、この中に本物のバカが二、三人いるが名前は伏せよう。
 とにかくこの状況をなんとか打開しなければ。

【にこ】
「焦ってもしかたないわ。そうでしょ?」

【ことり】
「でも、でもぉ! どうすればいいのか……」

【にこ】
「することは決まってるはずよ。
 そのための最善を考えて、それをすればいいだけ。ねえ、花陽?」

【花陽】
「あ、は、はい! できる、と思います。三人なら」

【ことり】
「三人?」

【花陽】
「にこちゃんと、私とで」

【ことり】
「……でも、悪いよ。二人もテスト勉強だってしなきゃだし……」

【花陽】
「それはことりちゃんも同じだよ?」

【ことり】
「それは、そうだけど……」

【海未】
「私も、できることは手伝いますから!」

【花陽】
「ううん、三人だけで大丈夫」

【海未】
「人手は多いほうが」

【にこ】
「あんたにはあんたの仕事があるでしょ。
 早く曲完成させてもらわないと練習もできないのよ」

【真姫】
「それはそうね」

【海未】
「まあ、確かに……わかりました」

【穂乃果】
「はいはーい! 私は他の作業ないし、手伝うよ!」

【にこ】
「あんたの仕事は体型維持よ! 前と同じサイズ決め打ちで作るんだから、
 あとで直す余裕ないわよ!」

【穂乃果】
「がーん!」

【絵里】
「そうね、みんな、衣装のことは三人に任せましょう」

【希】
「慣れてる人だけでやる方が効率もいいし、ウチらは手を出さん方がいいかもね」

【にこ】
「そういうこと。凛! あんたには特別な仕事をあげるわ」

【凛】
「なになに?」

【にこ】
「ドクターペッパーを買ってきなさい! さあいったいった!」

【凛】
「えぇー?!」

 閑話休題。
 私たち三人は家庭科室に移動した。作戦を立てて問題に対処しなければならない。

【にこ】
「で、どこまでできてるの?」

【ことり】
「デザイン案がいくつか……それだけです……」

 机にスケッチを広げる。
 デザイン案とは言うが、細部まで細かく描かれており、さながら設計図だ。
 これならこのまま製作に入れる。

【にこ】
「どれがいいと思う?」

【花陽】
「私は……これ、でしょうか」

 花陽が指したのは、フリルが特徴的なアラビア風のツーピースだった。
 お腹が丸出しの大胆なデザインだ。

【にこ】
「寒そうね……」

 今度のライブは街頭ライブなのだ。
 冬休み中に学校でやっても仕方ないということでそうなった。

【花陽】
「じゃあ、こっち?」

【にこ】
「いや、いいわ。花陽はこれがいいと思ったんでしょ。ことりはどう思う?」

【ことり】
「私はみんなが気に入ってくれれば、それで」

【にこ】
「じゃあこのアラビアンにしましょう」

【ことり】
「うん……二人とも、ごめんね、こんなことになって……」

 ことりは俯いて小さくなっている。

【にこ】
「一人でかかえるんじゃないわよ、衣装作りが一番労力使うんだから」

【花陽】
「そうだよ、私たちみんなのことなんだから、協力しなきゃ」

【ことり】
「うん、ありがとうね……」

 それから今後の作業工程について話し合った。
 とはいっても、ことりがあれこれ方法を提案し、私は「じゃあそれで」と言うだけだ。
 ことりが一番被服のことに詳しいのだから、ことりの言うことが正しい。
 大切なのは、「決定した」という事実を積み上げていくことだ。
 悩んだり迷ったりする部分を潰していけば、話は早いのだ。

 方針が定まったので、実作業に入ることとなった。
 まずは買い出しだ。
 私たちは街へ繰り出した。

【ことり】
「このお店でほとんど揃うんだ」

 ことり御用達の手芸用品店だ。
 店員さんにも顔が知れているようで、互いに会釈などしている。

 私と花陽は、ことりが指定した生地や小物を探した。
 その間にもことりはいくつかの生地を見繕って、店員さんと寸法の相談などをしている。

【ことり】
「これのダブル巾を……これくらいと……こっちは112巾でいいかな……」

【花陽】
「すごいな、ことりちゃん。まるでプロの人みたい」

【にこ】
「そりゃそうよ。残ってくれてよかったわ、勝手な話だけど……」

 私は見つけた生地をことりのもとへ持っていった。

【にこ】
「これでいいかしら」

【ことり】
「あ、うん、そこに置いといて」

【店員さん】
「ねえ、メンバー増えたの?」

【ことり】
「え? いえ、増えてませんよ?」

【店員さん】
「あらそう、いつもより多い気がしたから」

【ことり】
「あっ、い、いえ、今回は生地たくさん使うデザインなのでっ……」

 おや、と思った。
 スケッチを見る限り、むしろ海未がごねそうなくらいの布地の少なさだったが。
 まあことりが言うならそうなのだろう。フリルとかあるし。

【店員さん】
「こっちもこれくらいでいいかしら、こんなもん?」

【ことり】
「はい、これでお願いします」

 仕入れが終わり、私たちは帰路についた。
 学校を出たときは明るかったが、今はもう日が落ちかけていた。

【にこ】
「生地って意外と重いしかさばるのね……」

【花陽】
「いつもことりちゃんに任せっきりで、悪いな……」

【ことり】
「ううん、好きでしてることだから、苦労なんて思ったことないよ」

 ドキリとした。
 いつもふにゃふにゃしてるくせに、かっこいいことを言う。
 案外こういう子が一番肝が座ってるのかもしれない。

【花陽】
「好きだから、苦労じゃない……そっか……そうだよね」

 花陽も何か思うところがあるようだ。
 口には出さないけれど、やっぱり気負いがあるのかもしれない。
 でも、私が言ってやれることは、そうはない。

 このひたむきな後輩たちのことが、なんだかとても愛おしくなって、
 私は二人の肩を抱き寄せた。

【にこ】
「いのち、みじかし、恋せよ乙女」

 古い唄だ。大昔の。それでも今の私たちにぴったりな気がする。

【にこ】
「朱きくちびる、あせぬ間に」

 空がブルーベリーの色に深く沈んでいく。
 ゴンドラは揺れながら、ゆっくりと、ゆっくりと、進む。



Track3 了

今日はここまでです。ありがとうございました。

Track4 『キューティー・パンサー』



【凛】
「…………」

【にこ】
「ちょっと、いつまでむくれてるのよ」

 ドクターペッパーを買いに行かせてほったらかしにして以来、
 凛はすっかりへそを曲げていた。

【真姫】
「にこちゃんのせいなんだから、なんとかしなさいよね」

【海未】
「そうですよ、こんなんじゃ練習に集中できません」

 非難囂々である。それはそうだろう。
 ラストライブも目前という時期にこの仲違いだ。
 普通は物語の序盤に処理しておくべきイベントである。

 そもそもの話、私は別にドクターペッパーなど飲みたくはなかった。
 ただ私は、海外ドラマによくあるような――
 会社のボスが部下に次々と指示を飛ばし、最後に秘書にコークとアスピリンを頼む
 ――そんなシーンを真似してみたかっただけなのである。

 その結果がこれだ。

【にこ】
「ねぇ、凛~、こっち見て、はい、にっこにっこにー」

【凛】
「バカにしないで」

 取り付く島もない。

【真姫】
「なんか芸でもやったら、面白いやつ」

 赤毛をくるくる巻きながら勝手なことを言う。

【にこ】
「…………あー……ジャガー!」

 私は高級車のエンブレムの形態模写をした。

【凛】
「…………」

【真姫】
「なにそれ、面白いのやってって言ったでしょ」

【にこ】
「ぐぬぬ……」

 こいつ全然関係ないくせに好き放題言いやがって……。
 ともあれしかしここで引くことはできない。
 私にも意地がある。

【にこ】
「……プジョー!」

 さっきとだいたい同じポーズをした。

【海未】
「ぶふっ」

 海未にはウケた。

【真姫】
「同じじゃない!」

【にこ】
「プーマ!」

 おおよそ似たようなポーズをした。

【海未】
「うっふふ! っ……ず、ずるい」

 海未には大受けだ。

【真姫】
「違うことやりなさいよ!」

【にこ】
「ライオンズマンション」

【海未】
「うふー! っくく……ふひゅっ……」

【真姫】
「全部おな……っく……同じじゃない!」

【にこ】
「今笑った!」

【真姫】
「……笑ってないわよ!」

【にこ】
「わーらったー、真姫ちゃんの笑いいただきました~」

【真姫】
「うるさい! ていうか目的忘れてない?!」

【にこ】
「はっ」

 凛はそっぽを向いていた。

【にこ】
「み、見てない……」

【海未】
「うふっ、うふっ、ほら凛、見てください、どぅふっ、面白いですよ」

【真姫】
「そうかしら……」

【にこ】
「笑ったくせに」

【真姫】
「ちが、あ、あんまりしつこいから……!」

 真姫のどうでもいいプライドには構ってられないので、最後まで聞かずに背中を向けた。

【真姫】
「露骨に無視しないで!」

【にこ】
「そうだ、あんたたちも何かしなさいよ! 私にだけ恥かかせる気!」

【真姫】
「えっ、いや……」

【海未】
「わ、私たちは関係ないですし……」

【にこ】
「関係ない……? 本気で言ってるの?」

 私はマジ芝居をするときの顔を作った。

【にこ】
「私たち、どんな困難も九人で力を合わせて乗り越えてきたじゃない!
 それが嘘だったっていうの?!」

【海未】
「そ、それはそうですが……」

【真姫】
「うぅ」

 海未はもっともらしいことを言えば簡単に騙せるし、
 真姫に至っては勢いだけでなんとかなる。
 かわいい連中である。

【海未】
「わかりました。凛が機嫌を直さないと、困るのは私たち全員です」

【真姫】
「あぁ、もう……うっそでしょ……」

【にこ】
「さあどっち?! どっちからやるの?!」

 二人はちらちら顔を見合わせて、もごもごしている。

【にこ】
「先の方が傷浅く済むかもね」

【真姫】
「傷つくこと前提じゃない……」

【海未】
「じゃあ、いきます……」

【真姫】
「えっ、待って!」

【海未】
「先にやりますか?」

【真姫】
「うぇえ……いえ、い、いいわ」

【海未】
「では……」

 海未は立ち上がった。

【海未】
「私はポーカーフェイスが得意なのです。何をされても表情を変えません」

【にこ】
「ジャガー!」

【海未】
「ふがっ」

【にこ】
「…………」

【真姫】
「…………」

 海未は座った。

【海未】
「終わりです」

【にこ】
「う、嘘でしょ……」

【真姫】
「……サイっテー」

【海未】
「真姫はこのようにならないよう頑張って……」

【真姫】
「う……よ、よし、いくわ」

 真姫は立ち上がった。

【真姫】
「……ハッピーターン!」

 くるっと回って非常口みたいなポーズをした。
 意味がよくわからなかった。

 真姫は2秒とポーズを維持できず、崩れ落ちた。
 耳まで真っ赤にして机に突っ伏している。

【にこ】
「真姫ちゃん、凛が見てない! もう一回やってもう一回!」

【真姫】
「もういやよ!」

【海未】
「もうなんなんですかこれ……」

 私たちはベストを尽くしたが、結果として凛の機嫌は直らなかった。

【にこ】
「そうだ凛、今度の曲であんたが目立つところ作ってあげる!」

【真姫】
「ええ? ちょっとおかしなことしないでよ?」

【にこ】
「ほらこんなのどう、素直になれずにい、た、の~」

 可愛いにゃんにゃんポーズをしながら、くねくねしてみせた。

【真姫】
「ジャガーじゃない! やめてよ!」

【にこ】
「猫よ!」

【凛】
「もういいよ、ごめん」

 ようやく凛が口を開いた。
 だけど、その声が震えていたのではっとした。

【凛】
「ごめんなさい、別に怒ったりしてないから」

【にこ】
「え、凛? ねえ、大丈……」

 凛の前に回りこんで覗き込むと、眼に涙を浮かべているのがわかった。
 私は焦った。

【にこ】
「え、ちょっと、そんなに? ごめん、悪かったわよ」

【凛】
「違うの、そうじゃない、大丈夫だから……」

 ついにぽろぽろ涙をこぼした。

【にこ】
「大丈夫じゃないじゃない! え、なんで? ねえ、凛……」

 私は凛の隣に座って、背中をなでながら言う。

【凛】
「ごめん……ひっく……凛は、ただ、みんなと……っく……
 楽しく過ごしたかった、だけ、なのに……」

【にこ】
「楽しくしてるわよ? 大丈夫よ? 凛……」

【凛】
「みんなで……ジュース飲みながら、お喋り、して、衣装、作って……」

 やっぱりあの時のことをこだわっているのだ。
 私たちは買い出しで遅くなり、学校に戻る頃には他のメンバーは解散となっていた。
 家庭科室には缶ジュースが四つ、ただ置いてあった。

【にこ】
「そうね、うん、今日もこの後、衣装作りするのよ。凛も一緒にやろ?」

【凛】
「ちょっとでも、長く、一緒に……だって、だって、にこちゃんは……もうすぐ……」

【にこ】
「あ……」

 ああ。なんてことだ。
 私は、裏切ってしまったんだ。
 まもなく離ればなれになる友達と、少しでも長く一緒にいたいなんて、
 そんな、ささやかな願いを、裏切ってしまった。

【にこ】
「凛、ごめんね、凛……」

 私は立ち上がって、凛の頭を抱きしめた。
 涙があふれそうになるのを必死でこらえた。

 私に泣く権利はない。

 凛の涙を、ただ、受け止めるだけ。



Track4 了

今日はここまでです。ありがとうございました。

Track6 『エンドレス・パレード』



 ライブを終えた私たちは、学校の練習室に移動した。
 打ち上げ兼お別れ会だ。

 部屋は綺麗に飾り付けをされていて、黒板にも色々書いてあった。
 休みの間に準備していたらしい。

 まだはじまったばかりだというのに、花陽なんかはもう泣いている。

【にこ】
「ちょっと花陽~、今からそんなに泣いて、肝心なときに涙切らさないでよ」

【希】
「目薬も買ってきといたらよかったかな?」

【花陽】
「ずびば……えっぐ、だっで、おえっ」

【凛】
「かよちん泣き方が汚いにゃー」

【花陽】
「ひど、ひどいぉりんぢゃ、ぐずっ」

【真姫】
「ちょっとみんな、やめなさいよー、ふふふっ」

 大きなバスケットを持って二年生組が入ってきた。
 飲食物を準備して、調理室にしまっていたらしい。

【穂乃果】
「おまたせー」

【ことり】
「みんなで作ってきたんだ」

【海未】
「サンドイッチに、お饅頭、おにぎり、お菓子も色々ありますよ」

【凛】
「すごーい!」

【絵里】
「なんだか今日、食べてばっかりね私たち」

【穂乃果】
「今まで我慢したぶん、取り戻すんだ」

【海未】
「あとで泣くことになりますから、程々に」

【穂乃果】
「もう、やなこと言わないでよ!」

【ことり】
「今日くらいは何も考えずに楽しもうよ」

【穂乃果】
「そうそう! あとのことはあとで考えよう!」

【絵里】
「じゃあ、乾杯しましょうか」

【希】
「部長さん、音頭を!」

 私は立ち上がった。

【にこ】
「えー」

【全員】
「かんぱーい!」

【にこ】
「ふざけんな!」

 こうして宴会がはじまった。

【花陽】
「おぇっ、おに、ぎり、おいし、いよぉ、ひっぐ」

【真姫】
「今日ずっとそれでいく気?」

【凛】
「カツサンド取って! カツサンド!」

【穂乃果】
「私もカツサンドちょうだい!」

【希】
「ウチも! ウチも!」

【ことり】
「カツばっかりなくなっちゃうよぉ」

【絵里】
「あー、これはあとで大変ね、海未」

【海未】
「厳しく絞りますよ」

【にこ】
「誰か芸やって! 私たちを送り出す芸やって!」

【凛】
「真姫ちゃんのアレが見たいにゃー」

【希】
「なにそれ! なんかあるん?!」

【穂乃果】
「見たい見たい!」

【真姫】
「え、ちょ……」

【にこ】
「やってよー! 真姫ちゃんやってー!」

【真姫】
「いや、もう見たじゃない……」

【希】
「にこっちは見たの?! ずるいー! ウチも見たいー!」

【真姫】
「い、いいじゃない別に……」

【希】
「ウチこのままじゃ卒業できひん……」

【海未】
「やりましょう、真姫。わりかし面白かったですよ」

【希】
「真姫ちゃんのアレ見れんと留年してまうかも……」

【真姫】
「わかったわよ、もう……」

【穂乃果】
「いえーい!」

【真姫】
「ハッピーターン! アンドリターン!」

【ことり】
「え? どういう意味?」

【にこ】
「ぶふっ」

【希】
「あっはは、ことりちゃんナイス!」

【凛】
「ことりちゃん面白いにゃー!」

【ことり】
「え? え?」

【にこ】
「ことりに助けられたわね」

【真姫】
「もう殺して……」

【海未】
「介錯しますよ」

 しばし歓談。他愛のないお喋りが続く。
 それから一、二時間もした頃だろうか。

【穂乃果】
「あっ飲み物少なくなってきたね。私持ってくるよ」

 穂乃果が出ていった。瞬間空気が変わったのを感じた。
 そういうことか。下手だなあ。
 絵里が耳打ちしてくる。

【絵里】
「泣く準備したほうがいいかしら」

【にこ】
「それより驚く準備」

 間もなく穂乃果が戻ってきた。
 その両手に何本かのペットボトルを抱えて。

【海未】
「ほ、穂乃果!」

【ことり】
「穂乃果ちゃん!」

【穂乃果】
「あっ! しまっ……」

 海未とことりが焦ってわたわたしだした。
 穂乃果は海未とことりに引きずられ、再び退場した。

【にこ】
「……くっくっ」

【絵里】
「……ふふっ」

【希】
「……あはっ」

 あはははははは!
 私たちは今日一番大笑いした。
 一年生たちは居辛そうに苦笑いしていたが、三年組には大受けだった。

 やがて二年組が戻ってきた。その腕には花束が抱えられていた。

【穂乃果】
「ちょっと早いけど、卒業おめでとうございます!
 そして、今までありがとうございました!」

 穂乃果がさっきのことをさもなかったように進めるので、
 私たちはまた大笑いしてしまうのだった。

【穂乃果】
「あ、あれ?」

 海未は頭を押さえて、ことりは力なく笑った。

【絵里】
「もう、出そうと思ってた涙が引いちゃったわ」

【希】
「ほんと、でもこういうのもウチららしいのかもね」

【にこ】
「あはは、上出来よ、穂乃果」

【海未】
「すみませんでした……」

 ギャグになっちゃった空気を立て直してやろう。
 これが私が先輩としてできる最後のことだ。

【にこ】
「みんなありがとう。では、三年生から挨拶を、絵里」

【絵里】
「そうね、まずはみんな、お疲れさま」

 絵里は立ち上がって姿勢を正した。

【絵里】
「私たちは、学校を救うという名目で集まりました。
 だけど、いつしかそれを越えて、
 私たちはもっと大切なもので繋がっていたように思います」

【希】
「エリチ、かたいよー」

 茶々を入れる希の声は少し震えていた。

【絵里】
「もう、やめてよ。それで、ええと、そう、私ね、希と話したことがあるの。
 私はこのメンバーに必要なかったんじゃないか、
 私がいなくても、μ'sは成功していたんじゃないかって……
 だけど、それじゃ駄目だったんだって、今ならはっきりわかる。
 だって、それじゃあ私の気持ちが入っていないもの。
 逆だったの。私にμ'sが必要だったのよ。
 μ'sという場を与えてもらって、そしてみんなからとても大きな宝物をもらいました。
 私、本当に、あなたたちと出会えて、よかった……以上です」

 最後の方は涙声で、たどたどしくも一生懸命、言葉を絞り出している様子だった。

 落ち着きかけていた花陽が、また大粒の涙を溢れさせていた。
 他のみんなも、ぐっと歯を食いしばったり、肩を震わせている。

【絵里】
「あー、恥ずかしい……さ、希」

【希】
「うん」

 希は両手でぐっと目頭を押さえてから、話しはじめた。

【希】
「あんな、ウチ、高校に入るまで、ずっと友達おらんかったんよ。
 みんなで一つのことに向かって頑張るなんてことも、したことなくって……
 もちろん友達と旅行に行ったりしたこともなかった。
 みんなで枕投げしたり、一緒に温泉に入ったり、
 こうやって美味しいもの囲んでお喋りしたりとか、全然したことなくて……
 でも、μ'sに入って、全部できちゃった。
 ウチ、こんなに幸せでいいのかなって、怖くなるよ。
 こんなに毎日楽しくて……ああ、もう、時間が止まればいいのに……」

 崩折れてそれ以上は言葉になっていなかった。
 こんなふうになる希を見るのははじめてだった。

 もうみんな、涙を隠しもしなかった。

【絵里】
「……にこ、お願い」

 喋れなくなってしまった希をいたわるように、絵里が促した。

 私は眼からこぼれそうなものを誤魔化すために、上を向いた。

【にこ】
「みんな、ありがとう……」

 違う、こんなこと言いたいんじゃない。

【にこ】
「大好き……」

 ああ……伝えたいことはたくさんあるのに、どう話せばいいのかわからない。

【にこ】
「えっと……」

 こんな簡単な言葉じゃ全然足りない……本当のことが伝わらない……。

【にこ】
「ごめんなさい」

 この九人で、泣いたり笑ったりしたこと、その全部。

【にこ】
「……μ'sの全部が、私の全部でした。私の全部が、μ'sでした」

 私の気持ちが届かない。届けたいのに、どうすればいいのかわからない。

【にこ】
「だから……」

 そのとき、ぎゅっと抱きしめられた。

【穂乃果】
「届いてるよ」

【にこ】
「あ……」

 そっか、届いてたんだ。

 それをきっかけに、みんなが寄り集まって、団子みたいに抱き合った。

 私たちは、ただ、泣いた。

 言葉はいらなかった。

 誰かの肩と肩の間に、少し離れたところで一人で顔を覆っている、
 赤毛の女の子が見えた。

 私は彼女に歩み寄って、頭を撫でてあげた。

 すると彼女は、私にすがりついてお腹に顔を埋め、わんわん声を上げた。

 私の声が聞こえる?

 あなたの声は、聞こえてるよ。



Track6 了

Track7 『輝夜の城で踊りたい』



 後日、私は部室にきた。荷物整理をするためだ。

 今日は部活は休みということになっている。だから誰と会うこともない。

 見渡すと、我ながら呆れるほどのアイドルグッズの山だ。

 さすがに全部は持っていけないので、この中から取捨選択をする。

 しかし、持ち帰らなければならないものなどあるだろうか?

 それぞれに思い入れもある品々だが、今の私に必要なものなのだろうか。

 改めて考えると、どれも必要ない気がする。

 好きで買い集めた大事なコレクションのはずなのに、不思議なものだ。

 ミナリンスキーのサインは持っていこう。置いといてもことりが嫌がる。

 伝伝伝は置いていこう。家にも一つあるからだ。

 あとは……CDを何枚か、雑誌を一、二冊、それから……。

 片付けは思いのほかすぐに終わった。

 荷物が軽い。

 ここにいる理由は、もうなくなった。

 帰ろう。出入口に向かう。

 だけど、扉の前で足が止まった。

 この敷居を跨げば、いよいよ私は、一人。

 スクールアイドルというブランドを失い、
 曲も作れなければ、衣装も作れるかどうかわからない。

 機材も持ってないし、手伝ってくれるスタッフもいない。

 助け合い、励まし合い、高め合う仲間もいない。

 一人ぼっちの私の居場所だった、この部室とも、お別れ。

 何もできない、何も持ってない、行き場のない私が、たった一人。

 目の前が真っ暗になる。

 これから私は、いったいどうしたらいいのだろうか。

 答えはわかってる。

 どうしようもない。

 脚が震える。扉にかけた手が、凍りつく。

 動けない。

 動けない。動けない。だけど、そのとき、扉は勝手に開いた。

【にこ】
「え……」

【穂乃果】
「にこ、先輩?」

 どうして、どうしてこいつは、こんなときに。

【穂乃果】
「なんで?」

【にこ】
「私物を片付けに……あんたは?」

【穂乃果】
「生徒会の用事があって」

【にこ】
「…………」

【穂乃果】
「入っていい?」

【にこ】
「あ、ああ、うん……」

 私たちはいつもの自分の席に座った。
 ここでただすれ違って別れるのも変な感じがしたので、そうした。

【穂乃果】
「この部屋、九人じゃせまかったよね」

【にこ】
「そうね」

【穂乃果】
「でも六人にはちょっと広いかな……」

【にこ】
「……そうかもね」

【穂乃果】
「ねえ、にこちゃん」

【にこ】
「なに?」

【穂乃果】
「本当のアイドルに、なるの?」

 私は答えられなかった。

 希に話した時とも、絵里と話した時とも、まるで気持ちが違っていた。

 その夢を、口にできる気分じゃなかった。

【穂乃果】
「私も、なってみようかなぁ……」

 ドクン、と、心臓が跳ねた。

【にこ】
「なに、言ってるのよ、そんな簡単なわけ……」

【穂乃果】
「そうだよねぇ」

【にこ】
「簡単なことじゃないの、遊びじゃないのよ。
 それをやってお金をもらって生きていくの。きっと嫌な目にもたくさん遭うし、
 人を嫌な目に合わせるかもしれない。好かれるのと同じくらい嫌われる。
 μ'sみたいにはいかない。楽しいばかりじゃない。
 もしかしたらアイドルを、嫌いになってしまうかもしれない!」

 穂乃果に言っているのに、自分の言葉が自分の耳に激しく刺さる。

【穂乃果】
「すごいな、色んなこと考えてるんだ……」

【にこ】
「そりゃ、そうよ……」

【穂乃果】
「私、きっとにこちゃんに比べたら、なんにも考えてないんだ。
 にこちゃんが言ったこと、あんまり想像できないし、ぴんとこない……」

【にこ】
「……そんなもんよ、普通は」

【穂乃果】
「でも、いっこだけわかったよ。
 にこちゃんが、本当に心から、アイドルになりたいんだって」

 心臓が暴れる。苦しいくらいに鼓動が大きくなる。

【穂乃果】
「私、その気持ちだけは、わかる気がする。
 私がスクールアイドルをはじめようと思ったときの気持ち。
 ライブに誰もきてくれなくて、それでも続けようと思ったときの気持ち。
 みんなに迷惑かけて、それでもまたアイドルをやりたいって、思ったときの気持ち」

 胸の中をわけのわからないものが渦巻く。
 どうしようもなく心が騒ぐ。

【にこ】
「なりたいの……?! 穂乃果!」

 穂乃果の手を掴まえる。自分でも信じられないくらいの力を込めて握りしめる。

【にこ】
「なろうと思ってるの?! 本当のアイドルに!」

【穂乃果】
「まだ、にこちゃんの返事、聞いてないよ」

 心の中のつっかえ棒が、粉々に砕け散る。

【にこ】
「なりたい! なりたいわ! なりたいの!」

【穂乃果】
「私も、なれるのかな」

【にこ】
「私が連れていってあげる!」

 あのとき、この暗い部屋に閉じこもっていた私を、
 陽のもとに引っ張りあげてくれた穂乃果。

 私に輝ける場所を作ってくれた穂乃果。

 そして今、海の底に沈みかけていた私に、手を差し伸べてくれた穂乃果。

【にこ】
「今度は私が、あんたを一番きれいな場所に連れていってあげる!」

 穂乃果の手を掴む私の手。その上に、また穂乃果の手が重なる。

【穂乃果】
「はい、お願いします!」

 穂乃果は向日葵のように、力強く、誇らしげに笑った。

【穂乃果】
「必ず追いかけるから、一生懸命追いかけるから!
 だから、先にいって、待ってて、にこちゃん!」

 いこう、穂乃果、私たち、一緒に。

 そして、いつかきっと、二人で、きっと――輝夜の城で踊りたい。



Track7 了

明日で最後です。ありがとうございました。

Track8 『これからのサムデイ』



 春休みのある日の昼下がり。

 家でテレビを見ながらゴロゴロしていると、チャイムが鳴った。

 ダルい。眠い。動きたくない。

 二度、三度と、電子音に急かされる。

 必死の思いで起き上がり、玄関に向かう。

 ドアを開けると、見慣れた怒り顔。

【海未】
「いるんじゃないですか! 早く出てください!」

 練習着姿の海未。今日もレッスンがあるのだろう。在校生は大変だ。

【にこ】
「うー、なによ、なんか用」

【海未】
「もっと歓迎する感じとか、ないんですか?」

【にこ】
「ああ、歓迎するわ」

【海未】
「口ばっかり……」

【にこ】
「ささ、どうぞ中へ、お客様」

【海未】
「大した用じゃないのでここでいいです」

 海未は手に下げていた大きな紙袋を差し出してきた。

【にこ】
「これは?」

【海未】
「お饅頭ですよ、まあ、進学祝いみたいなものです」

【にこ】
「あ、そうなの、ありがとう」

【海未】
「それじゃあ、これで」

【にこ】
「え、これだけ?」

【海未】
「はい」

【にこ】
「そ、そう、わかったわ。ありがとね」

【海未】
「にこ先輩」

【にこ】
「ん?」

【海未】
「穂乃果をお願いしますね」

 訳知りらしい。プレッシャーをかけにきたのだ。姑のようだ。

【にこ】
「あんたが見張っていたら?」

【海未】
「私はいいんです」

 それとなく誘ったがふられてしまった。

【海未】
「穂乃果の後ろをついていくのはもうやめるんです。
 穂乃果には穂乃果の、ことりにはことりの道があります。
 私だけ、二人のあとについていくだけなんて、かっこ悪いじゃないですか」

【にこ】
「ちょっと見ない間に立派になっちゃって」

【海未】
「ふふ、そうですか?」

【にこ】
「わかったわ、穂乃果のことは私に任せて」

【海未】
「お願いします。じゃあ、下で真姫が待ってるので、もう行きますね」

【にこ】
「なによ、くればよかったのに」

【海未】
「私もそう言ったんですけどね、頑固で困ったものです」

 私たちは別れた。
 リビングに戻ると妹たちが飛びついてきた。

【ココロ】
「お姉さま~、それなんですか?」

【にこ】
「お饅頭だって」

【ココア】
「わーい、お饅頭ー!」

【虎太郎】
「じゅうー」

【ココロ】
「開けていいですか?」

【にこ】
「仲良く食べてね」

【ココア】
「はーい」

 妹たちは袋をがさごそやりはじめたが、すぐに何かに気づいた。

【ココア】
「お姉ちゃん、これお饅頭じゃないよー」

【にこ】
「え?」

 袋を覗きこむ。

【にこ】
「なにこれ!」

 入っていたのは、まるでアイドルが着るような、可愛いドレス。
 μ'sのものじゃない。はじめて見るやつだ。

 それから一枚のCDと、メッセージカードのようなもの。

『今後の役に立ててください 園田海未
 サイズあってるといいな (・8・)
 私たちの厚意を無駄にしないでよね! マッキー』

 私は慌ててベランダに飛び出した。
 二人の姿を探す。

【にこ】
「あっ! おーい! 海未ー! 真姫ー!」

 二人が振り返った。

 私は、遠くからでもよく見えるように、
 思いっきり大きな動きで“にっこにっこにー”をやった。

 海未がニコッと笑った。
 真姫は一度そっぽを向いて、それからもう一度こちらを向き、
 そして小さく“にこにーポーズ”をした。

【にこ】
「ありがとー!」

 二人は手を振り、去っていった。

 まったく、あいつらときたら、一言くらい言えばいいのに。
 私は部屋に戻って、突然届いた素敵な贈り物を眺めた。

【にこ】
「そういえば」

 ことりと買い物に行った時のことを思い出した。
 いつもより多めに買った生地。そうか、そうだったんだ。

 まったく……。ことりにもあとで電話をしなくちゃ。

 CDを見ると、裏側に曲目が書いてあった。
 私たちがこれまでに歌ってきた曲だ。

 Track1 僕らは今のなかで
 Track2 ダイヤモンドプリンセスの憂鬱
 Track3 ぶる~べりぃvとれいん
 Track4 Cutie Panther
 Track5 Music S.T.A.R.T!!
 Track6 ENDLES PARADE
 Track7 輝夜の城で踊りたい
 Track8 これからのSomeday

 そしてもう一曲、見たことのないタイトルが書いてあった。

【にこ】
「これは……」

 気になってCDをプレーヤーにかけた。
 右ボタンを連打して、トラックナンバーを合わせる。

 どしゃがしゃうるさいドラム。
 そしてカットインで割り込むボーカル。

 にこぷり にこにこ にこぷり いぇい にこにこ

【にこ】
「あは」

 真姫が歌っていた。途中で「いぇい」と言ったのは海未だ。

【にこ】
「っは……ははは、あはははは!」

 あの二人が、こんな素っ頓狂な曲を真顔で歌ってるのかと思うと、
 おかしくって、おかしくって、涙を流しながら笑った。

【にこ】
「ははは……ぐす、もう、なんなの……あぁ……おかしい」

 これがあれば、大丈夫。
 この先、何があっても、この新しい武器と鎧があれば、誰にも負けない。
 そんな気分。

 やってやろうじゃないか!

 これからのことに思いを馳せる。
 五年後、十年後、あるいは二十年後、
 ふと思い立ってこのCDを聴く日もあるかもしれない。

 そのとき、いったいどんな音が聞こえてくるだろう。
 どんな気持ちで、それを聞くんだろう。

 過ぎ去ったことの終奏として懐かしむのか、
 それとも、新しい私のはじまりの前奏曲なのか。
 今の私にはそれはわからない。

 一年にも満たない短い間のできごとだったけれど、
 この先ずっと、擦り切れるまで、私は思い出すのかもしれない。

 ビニールに入っている真新しい衣装を取り出して、袖を通した。

【にこ】
「あ……」

 もうすぐ新しい春がくる。
 それまでに、マイナス2キロ。



Track8 了

outroduction



 艶やかなオーバードライブのギターがエンディングを奏でて、
 私たちの肖像に幕が下りる。

 追憶の残り香は部屋に溶け、やがてワインの泡と一緒に消えた。

 あれから二年近くが経った。

 私はなんとか私の音楽を続けている。

 でももう、それも終わり。

 なんでかって?

 今日、事務所でタレント募集の選考書類を見たんだ。

 そして、あの名前を見つけた。

 誰だかわかるよね?

 あの日あの部室で、手を取り合って約束したあいつよ。

 だから、まもなく私の音楽は終わって。

 これから、私たちの音楽がはじまる、ってわけ!



outroduction 了











 ……。

 さてこれで、私の思い出話はおしまい。

 最後まで読んでくれてありがとう。

 ……と、言いたいところだけど、ここでちょっと別の話をしましょうか。

 たとえば、そう……あの子たちは、今どうしてるのかしらね?

 さあ、耳を澄ませてみて。

 そうすれば、ほら、聞こえてくるでしょう?

 何かを告げる鐘の音が、すぐそこに。

Bonus track 星空凛「シグナル」



 ――――――――遠くに、鐘の音が聞こえる。

【凛】
「かーよちーん、まーたその雑誌見てるのぉ?」

 かよちんは最近ずっとこの雑誌を見ている。
 カグヤ・ナイト・フェスというアイドルイベントの特集に、
 にこ先輩と穂乃果先輩が写ってるからだ。

【花陽】
「あ、凛ちゃん」

【凛】
「そんなに見てると穴が開いちゃうよー」

【花陽】
「大丈夫、もう一冊あるから……」

 そういう意味じゃないんだけどな。たとえだよ。

【凛】
「かよちんも、こういうふうになりたいんだよね?」

【花陽】
「う、ううん、そんなこと……」

 かよちんは嘘つきだ。本当はなりたいって思ってるのに……。

【凛】
「知ってるんだ、かよちんがときどき、募集のページも見てること」

【花陽】
「えっ! う、うそ……」

【凛】
「なりたいんなら、応募しなよー」

【花陽】
「でも、そんな、なれないよ、プロになんて……」

【凛】
「もう、昔のかよちんに戻っちゃったみたい」

【花陽】
「でも、部活のこともあるし……
 うん、いいんだ、私はμ'sをやってるだけでじゅうぶんだから」

【凛】
「かよちん……」

 神様、凛は嘘つきです。

 本当は、かよちんじゃなくて、凛がなりたいんだ。

 凛にはこんなの似合わないって思ってた。

 だけど、可愛い衣装を着て、みんなの前で歌って踊って、
 見てる人が喜んでくれるのが、すごく嬉しくて。

 先輩たちみたいに、綺麗なスポットを浴びて、
 もっとたくさんの人たちの前で、これができたらなんて。

 そんなふうに、思ってしまうのです。

 ――――――遠くに、鐘の音が聞こえる。

【凛】
「でも、無理だよね、凛にアイドルなんて……」

【真姫】
「あなたプロになりたいの?」

【凛】
「うわぁ! ま、真姫ちゃん……」

 凛の後ろから、突然ひょっこり現れた。

【凛】
「えっと、な、なんのこと?」

【真姫】
「今言ったじゃない。アイドルがどうのって」

【凛】
「言ってないよ……」

【真姫】
「言ったでしょ、プロのアイドルなんて、とかなんとか」

【凛】
「プロのとは言ってない!」

【真姫】
「じゃあ、やっぱりアイドルとは言ったんじゃない!」

【凛】
「うっ」

【真姫】
「なんなの、なりたいならなればいいじゃない」

【凛】
「で、でも、凛なんて、そんな……」

【真姫】
「あなた、昔の花陽みたいよ」

【凛】
「え、えへ、凛みたいなものが……えへへ」

【真姫】
「なにその気持ち悪い喋り方!」

 真姫ちゃんに手を掴まれた。

【真姫】
「行くわよ、ジャージに着替えて!」

【凛】
「え、ど、どこいくの?」

【真姫】
「グラウンド!」

 ――――遠くに、鐘の音が聞こえる。

【凛】
「ねえ真姫ちゃん、なにするのぉ……?」

【真姫】
「走って。10周」

【凛】
「え、なんで?!」

【真姫】
「いいからいく! はい、スタート!」

【凛】
「やだよー!」

 こうして凛は、真姫ちゃんに無理やりグラウンドを10周も走らされた。

【真姫】
「はい、ラストー! 3周追加!」

 正確には13周だけど。

【凛】
「ぜっ、はっ、はぁっ……」

【真姫】
「お疲れさま、はい、汗拭いて」

 タオルをもらう。

【凛】
「はぁ、はぁ、ふー」

【真姫】
「水飲んで」

 ペットボトルをもらう。

【凛】
「んぐっ、んぐっ」

【真姫】
「名前書いて」

 ペンをもらう。

【凛】
「星空……凛……と」

【真姫】
「はいオッケー」

【凛】
「え、なに?! それなに?!」

【真姫】
「履歴書だけど」

【凛】
「なんでそんなものがあるにゃー!」

【真姫】
「あとはこれを送るだけよ。まあ送らなくてもいいけど、好きにしなさい」

【凛】
「……ねえ、なんで凛、走らされたの?」

【真姫】
「酸欠状態にして思考力を鈍らせるためよ。なんの疑問もなく名前書いたでしょ?」

【凛】
「ひ……」

 ――遠くに、鐘の音が聞こえる。

【凛】
「はぁ……ひどい目にあった……」

 でも、真姫ちゃんの言うように、別に送らなくてもいいんだ。

 うちに帰ったら、捨てて、それでおしまい。

 それでいいの?

 うん、いいんだよ。

 遠くに、鐘の音が聞こえる。

【花陽】
「あわっ!」

 角から急に出てきたかよちんとぶつかる。

 凛は尻餅をついて、かばんを取りこぼしてしまう。

【凛】
「たた……」

【花陽】
「……ねえ、凛ちゃん、それ……」

 かばんの中身が飛び散っていた。

【凛】
「あっ、これは……!」

 かよちんがいつも見てる雑誌と同じやつ。
 見すぎて本当に穴が開いちゃった、凛のやつ。
 癖がついて、勝手に開くそのページ。
 にこ先輩と穂乃果先輩が写ってるページ。

 そして、さっき書かされた履歴書。

 鐘の音が聞こえる。

 かよちんは何も言わない。

 だけど、じっと凛を見てくる眼は、まるで漫画みたいに、火が灯ってて。

【凛】
「あの……」

【花陽】
「凛ちゃん!」

 耳のそばで、鐘の音が聞こえる。

 ああ、もう、聞こえないふりできない!

【花陽】
「やろう、一緒に!」

 はじまりのベルが鳴る。



Bonus track 了
矢澤にこ「きっと青春が聞こえる」 完

これにて全て終了です。
彼女たちの青春の一瞬の瑞々しさを感じ取っていただけたなら成功です。
一週間お付き合いありがとうございました。にっこにっこにー!

このSSまとめへのコメント

1 :  凛ちゃん好きの874さん   2014年06月18日 (水) 02:19:02   ID: K0WjG74X

SSを読んで、久々に泣きました
最高です♪

2 :  SS好きの774さん   2014年06月18日 (水) 15:01:14   ID: mT-aAdeu

2期の6話の衣装作りの場面もこんな感じなら良かったのにね

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