上条さんの学生寮に、御坂妹と一方通行が住む再構成。
上条一方が第1次実験の際にぶつかり合った設定。
進行亀。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1401991985
走る、走る―――。
日も沈み、街頭の明かりが目立ち始めた道の上を、一人の少年が駆け抜けていく。
少年はかれこれ1km以上もの道のりを異常な速度で走り続けているのだが、まだ幾分か余裕があった。
彼の名は、上条当麻。とある中学に通う、本人曰く至極普通の高校1年生だ。
成績は最悪だが運動神経は悪くない。これまた本人曰く女の子にもモテない。
そんな彼は、只今絶賛逃亡中だった。息を切らし、せっせと腕を振っている。
彼を追うのは、この街に、特にこの時間には大勢いるスキルアウトと呼ばれる不良たちだった。
上条「畜生!ついてねえ!いや、上条さんがついてないのはいつものことだけどさあ!!」
つい、走りながら妙なテンションで独り言を言ってしまうほど、彼はこんな毎日に辟易していた。
上条はできるだけ路地には入らないように、夜の通りを全力で駆け抜けた。
もう完全下校時刻も過ぎたというのに、学園都市の路上にはまだ多くの学生達がいた。
しかし、これも日常の一部。完全下校時刻を過ぎても出歩いてる学生なんてごまんといるし、逆に夜に出歩いたことのない生真面目な学生の方が稀有なほどである。
もちろん違反行為には違いないので、警備員に見つかれば補導確定ではあるのだが。
少々のリスクは、思春期の彼らにとってはスリルでこそあれ恐怖の対象ではないのだ。
上条は人のいる歩道を避け、道路の中央白線をまっすぐに走って行く。夜だからか、幸運な事に車は殆どいなかった。
上条は、懸命に走りながらも首だけで背後を振り返る。
背後の追跡者は随分数が減っていたが、まだ確かに追ってきている者がいた。
上条「やばいやばいやばいやばいって!!最近の不良は酒に煙草に薬物に運動不足で長距離走ができないハズなのでは!?なんで1km以上走ってんのに10数人も残ってるんだよ――
―嘘つき助けて!」
何年もの逃亡生活(主に不幸が原因)で足腰に自信のある上条だったが、丸腰の彼らと荷物を持っている彼とでは条件が随分と違っていた。
しかも、今日の荷物は一人分ではない。三人分である。上条と、彼の友人二人のカバンだ。
実はじゃんけんの罰ゲームで、学生寮まで荷物を運ぶのが上条に課せられた本日の使命なのだ。
一見微笑ましい友人間のやりとりのように思えるが、上条はその本質を、不幸な人生経験から的確に見抜いていた。
こういうとき、負けるのは必ず不幸体質持ちの上条なのだから。
つまり、これは一方的な荷物の押し付け行為なのだ。
さらに、薄情すぎる友情エピソードはそれだけではない。
友人が追われているとわかっているくせに、二人の友人は楽しそうに上条を見送ったのだ。一方今頃手ぶらで何をしているのか、上条には見当もつかない。
そうこうしていある間に、非情にも、不良たちとの距離は縮まりつつある。
上条の背後から、脅しにもとれるヤジが飛んでくる。
上条「くそったれ!」
ええいくそ、こうなったらあいつらの荷物なんて放ってやろうか!
上条が、そう考えた時だった。
不意に、後ろの不良たちから鈍い呻き声が上がった。
悲鳴のような呻き声は次々に
、まるで第三者の襲撃を受けたように背後は一瞬でパニックに陥っていた。
上条「!?」
上条が慌てて振り返ろうとすると、今度は前の、それも上の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
一方「なァにやってンですかこの三下はァ…」
御坂妹「いえ。そもそもの原因は空き缶を蹴った一方通行、貴方にあるのでは?とミサカは訂正を求めます」
一方「うるせェ」
上条「クソッ!テメェら面白がりやがって!」
見上げた先に、歩道橋の手すりに肘をついて退屈そうに立っている少年と、その傍らでバレルの長いスナイパーライフルを構えた少女がいた。
上条が抱えたかばんの持ち主共だ。
少年の名は一方通行。そして、隣の少女の名はミサカ00001号。ふたりとも、上条の狭い学生寮を更に狭くする同居人たちである。
上条「たかが不良を足止めすんのに物騒なもん使ってんじゃねえよ!」
上条が声を大にして叫ぶと、少女は大丈夫ですというように右手を振った。
御坂妹「問題ありません。弾は対能力者用の特殊なものですから。ほら、警備員が普段使っているものと同じです、とミサカは説明します」
一方「大体いつまで情けなく逃げまわってンだよ。こっちは家と真逆なンですけど」
上条「そうするしかねーだろ!上条さんは一般市民なんだよテメェらと一緒にするな!」
御坂妹「第一位を倒してあの実験を止めた現学園都市最強のセリフとは思えませんね」
一方「まったくだ」
上条「あのなあ…」
かれこれ何度目になるかわからない説明をしようとして、上条はやっぱり諦めて肩を落とした。
あの二人は、上条が何度こう言っても信じてくれないのだ。
――自分の能力はあくまで右腕だけに宿ったものであって、他は無能力者。最強なんて甚だおかしいと。
現に上条は、あの万能な一方通行と再戦したら100%負けるだろうと思っている。
なんたって一方通行は触れただけで、いや、上手く能力を使えば触れるまでもなく勝負をつけるレベル5なのだ。
一方通行は一方通行で上条には勝てないと認識しているらしいが、ありえないと上条は思っている。
それに、和解した今になって本気でやりあう未来はないだろうとも思っていた。
上条は再度追手に意識がないことを確認した後、ちらほらと通る通行人の奇異の目を避けながら不良たちの身体を道路から遠ざけ、二人の元へ行く。
早くここを離れなければ、もしかしたら通報がいっている可能性もある。
上条「お前ら、今日の晩飯はカップ麺だから」
上条が歩道橋を下りながら腹いせにそう宣言すると、御坂妹からは拳が、一方通行からは空き缶が飛んできた。
今日も、上条の地位は最低だった。
投下終わりです。また次回。
このSSまとめへのコメント
名作の予感
面白い
ん?期待されてたのに作者のモチベーションが下がったから終わりですとか?
マジで勘弁して…