踏み台に足を置き、梁に縄を掛けて輪を作る
その輪を見つめる男がいた
男は人生に絶望していた
俺は死んだら天国へ行けるのだろうか
…いや、自ら死ぬような人間は地獄へ行くんだろうな
男「俺の人生…振り返ると嫌なことばかりだったな」
そして縄を首にかけ、踏み台を蹴り飛ばした
………
……
男「あれ、どこだここ。天国?いや…」
男が目覚めると、そこは役所の待合室のような場所だった
受付にいる女性に声をかける
男「すみません、ここはいったい何処なんでしょうか?」
受付「こんにちは、あの世へようこそ」
男「あの世…やっぱり僕は死んだんですね」
受付「はい、貴方様は既にお亡くなりになっております」
男「ここは天国?それとも地獄?」
受付「はい、通常は故人様が歩んだ人生に応じて行き先が決まります」
受付「しかし貴方のように自殺をされますと一概には全うしておられない訳ですので、判断材料が足らなくなるのです」
男「なるほど…」
受付「そこで、これより面接にて選考を行って頂き、処遇が決まるという訳なのです」
男「え!?そんないきなり言われ
アナウンス「◯◯県◯◯区よりお越しの男様ー、男様ー、4番ドアにお入り下さい」
男「あ…う…」
受付「それでは、逝ってらっしゃいませ」
コンコン
男「失礼致します…」ガチャ
面接官「どうぞ、お座りください」
男「はい…」
面接官「それでは、お名前と死亡動機をお願いします」
男「は、はい。私は男です」
男「えー、死亡、死亡動機はですね…就職した会社がブラック企業で
面接官「ブラックというのは?」
男「はい、ブラック企業というのは休みなく給与もろくに払わないくせにサービス残業をさせる会社です…はい」
面接官「わかりました、続けてください」
男「私はそんな会社に勤めるうちに鬱病になりまして…それで退職しました」
男「新しい仕事も決まらず、お金も尽きまして」
男「そして私は生まれてから女性とお付き合いをした事もなくてですね…」
男「それで、人生に絶望したという訳です…」
男「これで、死亡動機は…以上です」
面接官「…わかりました」
面接官「それでは、事故PRをお願いします」
男「…え!?自己PRでなく事故PRですか?」
面接官「はい、事故PRです」
面接官「自殺するまで思い詰めるという事は大抵、不慮のアクシデントが絡むものなのです」
面接官「外から、避けられない被害を被ることは本人の責任ではありません」
面接官「事故PRも大いに選考のポイントとなるのです」
男「わ、分かりました…」
え、事故
男「えー、事故PR事故PR…」
男「しいて申し上げますと、あの、その…』
男「いえ、思い浮かびません…全部自分がまいた種です」
面接官「わかりました。以上で面接は終わりですが最後に質問はありますか?」
男「…最後に、質問ではありませんが一言申し上げさせて下さい」
面接官「構いませんよ、どうぞ」
男「…私は、今まで自分の人生から逃げて来ました
男「嫌なことを見ないようにして、後回しにして、先延ばしにして…」
男「自分が悪いんじゃない、理解してくれない周りが悪いんだって…」
男「そんな事に、恥ずかしながら死んでから気がつきました」
男「出来ることなら…出来る事なら…人生をやり直したい」
男「自分の未来から逃げずに歩んで生きたい…そう、思います。以上です」
面接官「わかりました。結果は後程お知らせしますので、外でお待ち下さい
男「ありがとう、ございました」バタン
男「あ、どうも」
受付「こんにちは、面接はどうでしたか?」
男「いや、さっぱりでした。でも…」
受付「でも?」
男「自分っていうものに初めて向き合う事が出来たと思います」
受付「…そうですか。良かったですね」
男「死んでから向き合っても遅いんですけどね」
受付「あら、そんな事ありませんよ」
受付「大事なことに、死んでも気が付かない人も大勢いるんですから」
アナウンス「◯◯県◯◯区よりお越しの男様ー、男様ー、4番ドアにお入り下さい」
男「あ、それでは」
受付「逝ってらっしゃいませ」
コンコン
男「失礼致します!」ガチャ
面接官「どうぞ、お座りください」
男「はい!」
面接官「それでは、選考結果をお伝えします」
面接官「えー、男さん」
男「はい」
面接官「今回は残念ながらご縁が無かったという事で採用を見送らせて頂く事となりました」
面接官「重ねて御礼申し上げますとともに男様の今後のご活躍をお祈り申し上げます」
男「そ、そうですか…」
男「あれ?…それってつまり…」
面接官「はい、もう一度現世でやり直して頂きます」
男「そうですか…人生を、人生をやり直せるんですね!!」グスン
面接官「一生涯を終えて天国へ行くのか、それとも地獄へ行くのか」
面接官「それはこれからの貴方の頑張り次第です」
男「わ、わかりました…ありがとうございました!」
………
……
あれ?ここはどこだ
知ってる天井だ
…ああ、俺の家だ
戻ったんだ…戻ったんだ!!!
ヴぐっ…
ぐるじい…なんだごれ!?
男「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛」
そう、やり直しと言っても人生のやり直しではなく
自殺のやり直しだったのだ
男は必死にもがき、足掻くも縄は既に男の喉元に食い込んでいた
そして、男は事切れた
受付「こんにちは、あの世へようこそ」
お終い
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