ジール「ラヴォスエネルギーか……」 (140)

女王「おろか者め……! ちっぽけなお前達の力などラヴォス様には通用せぬわ!」

女王「わらわからの、おくりものだ。永遠の生命、受け取るがよいわ! ラヴォス様と一体となってな!
ククク……! ハーッハッハッ!!」

サラ「に……、逃げてください……クロノ……! あの生命には人の力では……」

クロノ「……」

女王「クロノと言ったか……サラの言うとおり、しっぽをまいて逃げ出したらどうだ?自分の命はおしいであろうが? クックック……。ハーッハッハッ……!」

クロノ「……」チャキ

女王「ほう、やるというのか? お前に何が出来る?その傷ついた体で、ただ一人ラヴォス様にいどむというのか?」

女王「ククク……。[ピーーー]い、虫ケラめが! ラヴォス様の力を見よ!」






許されるはずはないけれど……

どうか母を この国を……

にくまないで……。







――――――――

――――
――


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ジール「しかし、不思議な石よ。何者かからエネルギーを吸い取っておるようじゃ」

ボッシュ「ホッホッホ、流石ですな、的を得ているかもしれませんぞ、その考えは」

ジール「茶化すでない。何かもわからぬ摩訶不思議な力に頼ってこの国を支えとうないのじゃ」

ジールは怪訝そうに手に持った赤い石を目の前に持っていく
血のように赤々としたその石からは、ジールの手を通して明らかな力を感じさせていた

ボッシュ「ホッホ、まだ研究が終わっていないから確実なことは言えませんな。しかし、その石は従来の星の力のエネルギーを遥かに凌駕するエネルギーを作り出せるようですのじゃ」

ジール「制御できれば、かの……」

あまり晴れた顔をしないジールに、ボッシュは苦笑する

ボッシュ「ご安心くだされ。我々3賢者が必ずお役立ち出来るようにしてみせましょう」

ボッシュは力強く説得する。3賢者に勝る知識を持った者は、この国には居ない
ボッシュは何としてでもこの研究を成功させたかったのだ。これは、ジールにとっても、この国にとっても良いことであるはずだ

事実、従来の星の力……天冥火水の力を引き出す物質は年々減っていて、いつまでもこれに頼っているわけには行かないのも事実だ
それの代替となりえるエネルギーはボッシュの思っている通り、ジールにとっても喉から手が出るほど欲しい力であった

……だからこそ、ジールは必要以上と思われるほど慎重になっているのだ

ジール「うむ、期待しておる。報告ご苦労であったボッシュ。下がってよい」

ジールは女王の椅子から立ち上がると、赤い石をボッシュに手渡しする。ボッシュは申し訳ないように、膝をついて石を受け取った
物を受け取る時は私から行くと前までは口うるさく言っていたのだが、もう諦めたのかこの様子だ
ジールはどんな身分の人にも身近である存在で居たかったのだ

ボッシュは女王であるべき態度があると言っていたが

ボッシュ「では」

ボッシュは立ち上がると、大きな扉を開けて、出て行った
ジールは女王の椅子に戻ると、先ほどまで石を持っていた手を見つめた


ジール「……何もなければよいが」

扉の開く音が響く
ジールは手を下げると、少し警戒した表情で開いた扉の先を見た

ジール「何者か」

しかし、先に居た少年を確認してすぐに表情を緩める

ジール「ジャキ」

ジャキ「母様……」

ジールは椅子から立ち上がると、トコトコと歩くジャキの下まで近寄り、優しく抱擁する

ジール「何かあったか?」

ジャキ「ううん、母様に会いたくて」

ジール「うむ、わらわも同じじゃ」

ジャキのようなまだ年端もいかぬ子供をサラに任せきりで放置していることには責任を感じている
しかし、この国はまだ発展途上すぎるのだ。それに加えて、外は止まない猛吹雪に見舞われている

ここで、いかにして食物を作り、国を作り、人を支えなければならないか
ジールはここの女王として、一人の母親になりすぎるわけにはいかないのだ

ジールはジャキの蒼白色の髪を優しく撫でる

ジャキ「母様、今夜は一緒に寝れる?」

ジール「うむ、今日は早めに切り上げるとしよう。寝る前には絵本もよんでやるぞ」

ジャキ「ほんとう?」

ジール「うむ、それまで良い子でおるのじゃぞ」

ジャキ「うん」

ジャキはジールの胸元に顔を思い切りうずめたあと、ぱっとジールから離れた

ジャキ「母様、じゃましてごめんなさい」

この子は歳の割に出来すぎているとジールは思う。この歳じゃまだ母親に甘えて、離れないことが普通なのに

ジール「よい、ジャキなら何時だって構わぬ」

ジャキ「ううん、姉上と待ってる」

ジール「うむ、ではまた会おうぞ」

ジャキ「うん」

ジャキは滅多に見せない笑顔を見せ、女王の間から出て行く

ジール「赤き石の力を使えば、共にゆっくりと時間を過ごせるのかもな……」

ジールは一人苦笑し、顔を横に振った

ジール「何を言うておるジール……わらわには何千、何万もの命が託されて居るのじゃぞ。私利私欲で迂闊な判断は出来ぬ」

ジール「それを忘れるなジール……」

ジールには、あの赤い石からは強い魅力と同時に、強い危険性も感じていた


サラ「ジャキ!何処行っていたの!?」

ジャキ「姉上……母様のとこ……」

サラ「母様は忙しい見だから、あまり行っちゃダメって言ったでしょう?」

ジャキ「……でも、今夜は一緒に寝てくれるって」

サラ「……そう。でも、あまり迷惑かけちゃダメよ?」

ジャキ「うん、ごめんなさい」

ハッシュ「ジール女王は怖がっているようじゃな」

ボッシュ「それほど、この国を愛されておられるということじゃ。ワシはあのお方とは長いからよう解る」

ガッシュ「しかし……おそれて前に進まなければ、この国はもたない」

ハッシュ「ううむ……赤い石の研究、急いだほうがいいやもしれぬな」

ボッシュ「女王の決断はまったほうがいい。ワシも、この石からは多大なる力は感じておる。それは皆も承知じゃ。だからこそ、慎重に行かねばならん」

ガッシュ「時間はあまりない……がな」


大きなカプセルに入った赤い石は、生き物のように脈動し、赤く光り、暗い研究所を照らしていた

ダルトン「っだぁぁぁ!!なんで俺がこんな事せにゃならんのだ!!」

ダルトン「こんな事、星の力も使えねえもっと下々の連中にやらせりゃいいだろうが!違うか?」

ダルトンはやかましく部下に怒鳴る
ダルトンは今、とある海中捜索をしていた
……要するに、星の力を集める作業だ

水の力を利用した作業カプセルに乗り込み、海底を探しまわる
ダルトンは、自分の身分からは考えられないような作業をしていることに不満を募らせる

「し、しかし、ダルトン様にしか頼めないとも仰っておられましたよ。なんせ、此処らへんの海底は未捜索地帯ですから」

ダルトン「っはぁー……お前らはジールの言ったことを真に受けすぎなんだよなァ……」

ダルトン「確かに俺ァ凄いさ!星の力の扱いに関しては誰にも負けねぇ自信はあるくらいだ!」

ダルトン「だがな!!だからってこんな事させるこたァねえだろ!!」

「じ、自分にそう言われましても……」

ダルトン「あーあー、お前は俺の部下なんだから上司の愚痴くらいハイハイ言って聞いてろよなァ」

ダルトン「ったく!!」

文句を垂れながらも、ダルトンはめぼしい星の力を拾っていく
海底に転がっているのは、真新しい上質な星の力ばかりだった

ダルトン「だが、流石に未捜索地帯だけあるな。良いモンばっか転がってやがる」

ダルトン「あん?」

ダルトンはその時、見覚えのない物質を見つけた
あまり光のない海底で、深緑色の、刺のような物質

ダルトン「おい、こんなの見たことあるかお前」

「は?……いや、自分は……生き物の骨、ですかね?」

部下にそれを見せて、ダルトンは首をかしげた
――ただの海中の生物の骨なら、この妙な力は発しないはずだ……

ダルトン「……命の賢者にくれてやれば喜んで恩を売れるかもな」

ダルトンはそっとその物質を傷つけないように回収した





ジール「……村を救った勇者は、不思議山に帰っていきましたとさ」

ジャキ「……zzz」

ジール「おやすみなさい、ジャキ」

ジールは絵本を音を立てずに閉じると、ジャキの眠る枕元に置いた
そして、ジャキを起こさないように布団から起き上がる

ジャキの部屋から出ると、そこにはサラがいた

ジール「サラ、まだ起きておったのか」

サラ「母様、お疲れではないのですか」

ジール「ふふ、心配には及ばぬ」

サラ「……」

ジール「何があった、サラ?」

顔を伏せ、不安そうな顔のサラにジールはサラに問いかける

サラ「母様……先日、ジャキが黒い風を」

ジール「そうか、感じたか……」

サラ「母様は?」

ジール「……」

サラ「感じたの、ですね……」

ジール「確定的ではないのじゃ。わらわも、ジャキも完全というわけではない」

サラ「あの、赤い石のちからが確認されてからです」

ジール「サラよ、お主が心配することではない。これはわらわと3賢者の問題なのじゃ。危険とわかれば直ぐに研究は打ち切らせる」

サラ「……はい」

ジール「すまぬな、サラ……もう今日は時間も遅い。休むが良い」

サラ「はい、母様……」



ジャキ「……」

やっぱ古いゲームネタは伸びんねー

見てくれている人が意外と居て嬉しい
がんばります

どか、と目の前に置いた物質は海底で見た時よりも大きく感じられた
深緑色、先は鋭利に尖っている



ダルトン「んまぁ、こんなもんを見つけたってこった」

ボッシュ「ムム……これをか?」

ダルトン「部下にゃ生物の骨じゃないかと言われたがな、お前さんだったらなんだか解るんじゃねえか?この不可解なエネルギーといい、この形といい」

ボッシュ「これは……」

ダルトン「あ?どうかしたか?じいさんよ」

ボッシュ「これを見つけた海底のポイント、詳しく教えてくれ。それと、その付近にあった星の力も分けてもらいたい」

ダルトン「おいおい、俺の給料に関わるんだぜ?」

ボッシュ「礼なら心配せんで良い」

ダルトン「それを待ってたぜ、今回は盛大に色をつけてくれよな?」

ボッシュ「何故じゃ?」

ダルトン「俺の採集した星の力がすくねえんだよ。おかしいんだがよ、俺は結構な量を採集したはずなんだが部下の半分も無かった」

ボッシュ「どういうことじゃ?」

ダルトン「さあな、俺にもわからねえよ。回収用の容器も壊れちゃいなかったんだぜ?部下がくすねたかとも思ったんだがそれをやる時間すら無かったはずだ」

ボッシュ「ふぅむ」

ダルトン「ま、こんな奇妙なモン拾って遊んでたなんて思われても損だ、高値で貰ってくれや」

ボッシュ「よかろう」




ダルトン(しっかし、奇妙な趣味してる爺さんだまったく。俺だったら、あんな鳥肌が立つようなエネルギーを感じる物質なんざ、即座に破棄するがね)

ジール王国の外界は極寒の吹雪にさらされている
吹雪の始まりははるか昔、原始時代と言われているが、定かではない

ただ、この吹雪の原因はわかっていた

――ラヴォス

はるか昔、空より落下したとされる灼熱の火球
当時の大地を燃やし尽くし、深い雲で覆い尽くしたという
過去の文献にイヤというほど記載されていることだ

それは巨大な生物と言われているが、今何処に存在するのかは定かではない
それどころか、生きているのか、死んでいるのかも

どくり、と赤い石の脈動が深くなった
発せられる力が深く、強くなっていることが解る

ボッシュ「やはり……」

ボッシュはダルトンから受け取った物質を見て確信した
その物質に赤い石を近づけると、赤い石は深く脈動し、力が強くなるのだ

――この石は、この物質からエネルギーを吸収している

ボッシュ「……あとは、この物質がなんなのかじゃな」




ジール「太陽石の力が落ちていると?」

「はい……つい先日から突然なのですが」

ジール「参ったの……」

ジールは太陽石の監視者の報告に、頭を抱える
太陽石はジール王国を支えてきた重要な星の力のひとつだ
太陽の持つ強大なエネルギーをそのまま体現したかのようなその石は、常時光のほこらと呼ばれる場所に置かれている

不思議なことに、そこだけはこの猛吹雪がやまぬ中でも日光のさす唯一無二の場所であった
太陽石は常時その場所に置かれ、発せられるエネルギーを特殊な装置で採集しているのだ
太陽石の放つエネルギーはこの国に陽の光を与え、暖を与える重要なものだ

太陽石がもしエネルギーを使い果たし、暗黒石に戻ってしまったらもう取り返しがつかない事態となる
暗黒石となってしまったら、再び太陽石になるには気の遠くなるほどの時間が必要となるのだ

ジール「……わかった。わらわも様子を見に行くとする」

「じょ、女王様直々にですか!?外界に足を運ばれるなど、そんな恐れ多いことを……」

ジール「これはわらわ個人の問題ではないのじゃ。太陽石が今までどおり使えぬとならば、この国は一瞬で瓦解する」

ジール「そんな大問題を任せきりでしらんぷりと、一国の女王がすることかの?」

「……わ、わかりました。ただ、十分気をつけてください」

ジール「わかっておる、下がって良いぞ」



ジール「……時間はあまり無いようじゃな」

ジールは報告から数日経った日に、光のほこらに行くために寝室で外界に出るための装備を整えていた
そこに、人気を察したサラとジャキが入ってくる

サラ「母様。何処かに行かれるのですか?」

ジャキ「母様!」

ジール「うむ、外界にの……」

ジールを見つけたとたん、近づいてくるジャキをジールはそっと抱き上げる
数日ぶりに息子を抱いたジールは思わず顔が緩んでしまう

ジャキ「母様、外にでるの?」

ジール「うむ、外でとても重要な事ができたのじゃ」

ジャキ「外は吹雪で危ないって、命の賢者様が言ってたよ」

ジール「心配には及ばぬ。わらわはこの国の女王ぞ」ニコ

サラ「……星の力が劣化しているのですね」

サラが控えめな声でジールに問う。ジールはジャキに見えないように表情を固くし、サラを見た

ジール「あまり外で言うのではないぞ」

サラ「……すみません」

ジール「此処最近で異常なほどじゃ……太陽石まで光を失いつつあるのじゃ」

サラ「では光のほこらに?」

ジール「うむ……だからどうなるって訳でもなさそうじゃがな、状況は知っておかなければ」

サラ「母様、私も」

ジール「ダメじゃ。コレは女王の仕事ぞ。お主はジャキを見ておれ」

サラ「……はい」

ジャキ「母様?」

ジール「なんでもない。行ってくるぞ、ジャキ、サラ」

海底の採集から数日経ったある日、ダルトンは命の賢者の間に居た

大きな研究室になっているそこで、ボッシュに渡された研究経過の書類を怠そうにダルトンは眺めている
その書類には、ダルトンが拾った物質と赤い石の関係性が書かれていた

そして、最終的な仮説はあの物質がラヴォスであるということだった

ダルトン(ラヴォス……ねえ……。伽の話だろ?)

ボッシュ「……という訳なんじゃ。もっと詳しくあの辺り一帯を見てもらいたい」

ダルトン「ほーん、んじゃ俺の部下でも使わせるか」

ボッシュ「なにを言っておる。コレを採集したのはお主じゃろうが」

ダルトン「……は?」

ボッシュ「報酬は期待してくれていいぞ。結果次第じゃがな。それに、この地下には何があるかわからん。下手に他のものにさせるわけにもいかんじゃろう」

ダルトン「……………………は?」







ダルトン「っだああああああ!!」

ダルトン「ここいらの探索は終わったんだろう!?なああああんでまた俺がやるんだよ!??」

「し、しかたありませんよ、命の賢者様直々のご命令ですし」

ダルトン「あんにゃろう、恩を仇で返しやがって……絶対ただじゃおかねえ!!」

「けれど、それはダルトン様の能力を買っての事では?」

ダルトン「バーカ!!俺の能力は前から認められてんだ!!……それなのによォ」

ダルトン「なんでまた同じ所の海底探索なんだよ!!?」

ダルトンは以前と同じように海底に居た
前と同じように、特殊な作業カプセルに入り、周囲を探索する

「しかし、今回は星の力の採集ではないのですよね?」

ダルトン「ん?あぁ、ここいらの海底で不審な点は無いかの探索だとよ」

ダルトン「ってもよ、不審な点もクソも海底だぜ?」

「はぁ……」

ダルトン「場所によって地形も水質も温度も変わる。なにを見ろってんだか」

ダルトン「あー、お前ら勝手にやっててくれ、俺は寝てる」

「ちょ、それはまずいですって」

ダルトン「大丈夫不審な点なんかねえって、適当に報告すりゃいいだろ」

ダルトン「でっけえサメが居ましたとかよ、ハッハッハ!」

「だ、ダルトン様……」

ダルトンが不満を垂らし、カプセルが海底に達する
光の少ない海底に、カプセルから発せられる光が心もとなく辺りを照らしていた








ジールはこの国始まって以来の危機が迫っていることを改めて実感することになっていた
光のほこらに入った時、ジールは太陽石の力が落ちていることを確信した

輝きが以前見た時よりも落ちていたのだ

ジールは場当たり策とは解っていながら、太陽石から採集するエネルギーを通常の8割まで減らすように指示し、様子を見ることにした

ジール「……」

ジールは誰も居ない女王の間で静かに考えを張り巡らせた
ここから、どうすればいいのか

希望は、あった

あの赤い石だ

あの赤い石の力が判明し、利用でき、制御できるようであればこの国をより繁栄させることも可能であるはずだ
しかし、だからといって直ぐに手を出すのも愚行だ

結局、3賢者の報告を待つより他にないのだ

ジール「……わらわは、ただの臆病者かもしれぬな」

ジールは静かに自分を嘲笑した


ジール「王……貴方ならどうしますか……」

多分一週間くらいでおわります
書きためは終わってるので毎日更新します
おやすみなさい

王国のはずれ

ジャキ「……?」

「ニャーン」

ジャキ「きみ、一人なの?」

「……?」

ジャキ「黒猫……ねえ、ぼくと一緒にくる?」

「ニャーン!」

ジャキ「えへへ、おいで!姉上にもあわせてあげる!」

「ニャア!」






ダルトン「くぁぁ……」

「だ、ダルトン様……」

ダルトン「おー……どうだお前ら」

「い、いえ以前問題点は特に……」

ダルトン「しっかりしろー。怒られんのは俺なんだからな」

「……」

ダルトン「水中で寝るってのも乙なもんだな。えぇ?」

「あ、あの……もしカプセルが破損などしたらどうするおつもりで……」

ダルトン「しねえって、でけえ魔物に襲われもしない限りな、ハッハッハ!!」

ダルトン「ぐぉー」

「っちぇ、偉いからってまかせっきりでいいよな」

水中でいびきをかきながら眠るダルトンに部下は愚痴を漏らす
さっきから何もない海底でウロウロしているのは部下だけで、ダルトンは何もしていないのだ

「……ん?」

部下はダルトンの足元に亀裂があることに気づく
その亀裂は細くて見難いが、広範囲にわたっているようだった

「っけ、天誅だ」

魔が差した部下は、ダルトンから少し離れた場所でその亀裂にカプセルに付いているマニピュレーターを差し込む
そして、その亀裂を渡ってダルトンにぶつかるようにマニピュレーターから天のエネルギーを変換した小規模の電気を流し込んだ

ボゴォォン

「うわああ!?」

ダルトン「んが……なんだ……!?おわああ!?」

亀裂を渡って伝わったエネルギーは、亀裂の隅から隅まで渡り爆発を起こす
その爆発の予想以上の大きさに部下は叫んでしまった
ダルトンは爆発によって開いた亀裂にカプセルが挟まってしまう

ダルトン「ぐ、で、出れねえ!!」

「今出します!」

部下がダルトンのカプセルを掴み、引っ張り上げるがびくともしない

ダルトン「な、何があったんだよ!」

「じ、自分にはわかりません!!」

ダルトン「んなワケねえだろうが!!」

しらを切る部下にダルトンは怒鳴りつける

――その時、ダルトンにぞくりとした悪寒が走った


ダルトン「……離れろ!!」

「な、何を!?」

部下のカプセルを咄嗟に突き飛ばす
どか、とスローモーションに部下のカプセルが地面に落ちると同時に、ダルトンのカプセルの側にボコボコと気泡を立てて何かが飛び上がった

その何かは、海中で進路を変え、ダルトンのカプセルに落下する

ダルトン「うわあああああ!!」

それはダルトンのカプセルに直撃し、水圧から守る重装甲を易易と貫きダルトンのコックピットの真横を過ぎ去った

ダルトン「ご、があぁぁぁ」

カプセルに穴が空き、ダルトンは水圧に押しつぶされそうになる

「ダルトン様!!」

部下はダルトンのカプセルを掴むと一気に上昇する
今の一撃でダルトンのカプセルは亀裂から出ていたのだ

ダルトン「ハァ……ハァ……ハァ……」

ダルトンはどぼどぼとカプセルに侵入する海水をどうにかしようともせずに右目を抑えていた
ぎりぎり、と歯を食いしばる
右目からくる激痛と同時に、ダルトンは右目から光を失ってしまったのだ
鮮血で染まる右腕などダルトンにはわからない

ダルトン「クソが……じ、ジジィの言ったとおりかよ……」

ダルトン「ここの地下には、ラヴォスがいるようだな……クソ!!」

ダルトンは直に受けたエネルギーはラヴォスだと確信した
あんなエネルギー……普通の生物に出せるものではないのだ

ダルトンは右目からの激痛に耐え切れなくなり、がくりと意識を手放した

「ダルトン様の意識はまだお戻りになられておりません」

ボッシュ「そうか……右目は?」

「完全に抉られていましたね。現在の医学では再生は不可能です」

ボッシュ「そうか……悪いことをしたのう」

「右目だけで済んだことが奇跡だと思いますよ。深海用のカプセルを一直線に穴を開けていましたから」

ボッシュ「……それで、その時の状況は?」

「ダルトン様の部下もよくわからないようで……パニック状態になっていましたので現在は療養中です」

ボッシュ「じゃろうな……」

「あのカプセルを一撃でああしたとなれば……ただの事故とは思えません」

ボッシュ「ウム……ワシはこの事について更に追求する。お主はダルトンと部下の治療に専念してくれ」

「かしこまりました」

医者はボッシュに一礼すると、静かに命の賢者の間から出て行った

ボッシュ「ラヴォス、か……」

今日はここまでです
おやすみなさい


サラ「あらジャキ、その猫どうしたの?」

ジャキ「アルファドっていうんだ。僕の友だち」

「ニャーン」

サラ「かわいい……おいでアルファド」

「なーん」

サラ「ふふ、いい子ね……大切にするのよ?」ナデナデ

ジャキ「うん!」

数日後、病室

意識の回復したダルトンの前に、ボッシュが椅子に座っていた
治療用の白い眼帯をしたダルトンは、ボッシュを睨んだ

ボッシュ「……」

ダルトン「……ヨォ、俺を笑いに来たのか?」

ボッシュ「そんな下らぬことはせんよ」

ダルトン「状況が聞きてえんだろ……なァ?」

ボッシュ「ウム……治療中にすまぬ……」

ダルトン「っけ、報酬はわかってんだろうな」

ボッシュ「分かっておる、治療が終わったら浴びるほど呑むが良い」

ダルトン「……」

ダルトン「あれは、魔物の力じゃねえ……魔物じゃ出せねえよ」

ダルトンの証言の元、例の海底の調査が大掛かりに執り行われた
ダルトンの部下がエネルギーを流し込んだ亀裂に、ダルトンのカプセルが破壊された位置
しかし、そこには大きな穴とカプセルの部品が散らばり、何も見つからなかった
穴は深く、今のカプセルでは水圧に耐え切れないのだ

もっと、大きなものが必要だった
それはもうカプセルのようなものではなく、施設と言ってもいいくらいの大きなものが

ボッシュの研究室

ボッシュ「……」

ボッシュはガラス張りのカプセルに入った、物質を見つめた
この物質の発見の後、異常なほどのエネルギーを確認する……
ただの偶然とは思えなかった

ボッシュはカプセルを開くと、その中に赤い石をそっと横に置いた

どくり、と赤い石は禍々しく輝く

ボッシュは慎重にカプセルを閉めると、幾重の封印術をかけた

ジール「……赤い石と例の物質の、か」

ボッシュ「どうも、あの赤い石はあの物質のエネルギーを吸い出すようなのじゃ」

ジール「……その物質のエネルギーは?」

ボッシュ「太陽石を軽く凌いでおる……代替のエネルギーにはぴったりじゃ」

ジール「……ボッシュ」

ボッシュ「は」

ジール「わらわの体質は知っておるな?」

ボッシュ「黒い風、ですかの?」

ジール「ウム……このところ、頻繁でな」

ボッシュ「……不吉の兆候と」

ジール「あの石の研究が始まってからなのじゃ」

ボッシュ「……」








ボッシュは息を切らしながら研究室に入った

ボッシュ「……」


『あれは、世界を破壊せしめん力を持っておる』

『力も使いようとはよく言うが……わらわは……』

『わらわはあのエネルギーが人知でどうにかなるものとは思えんのじゃ』

『……』


ボッシュ「……」

ボッシュはカプセルを見やると、直ぐに封印を解除した
そして、目を見開いた

物質が無くなっているのだ
中には、輝きを絶えず放つ赤い石しか残っていない

ボッシュ「こ、これは……」

ボッシュは慎重にカプセルを開き、赤い石を取り出した
その瞬間、赤い石はひときわ強く輝く

ボッシュが恐る恐る目を開くと、そこには輝きを失った赤い石があった
保持していたエネルギー全てが消えてしまったのだ

ボッシュ「……」

ボッシュは大きくため息をついた


――失敗だ


この赤い石は膨大なエネルギーをその場の一瞬だけ保持するが、何かあると全てを光に変えて放出してしまう
これでは、使い物にはならない

ボッシュ「ジール様も不安に思っておられた……潮時だったのかもしれぬな……」

『あら、何が潮時なのかしら?』

ボッシュ「!?」

ボッシュが突然の声に驚いて顔を上げると、そこには一人の魔物が浮いていた

ボッシュ「お、お前は……」

「こんにちは、おじいさん」

ボッシュ「い、いつの間にここに……」

「あら、ずっと居たわよ?ずいぶん長い間ガラス張りの中に閉じ込めてたじゃない」

ボッシュ「……」

「わからない?じゃあ自己紹介してあげる」

「私の名前はドリーン……。その赤い石の精霊みたいなものよ」

ボッシュ「ど、ドリーン!?じゃあこの赤い石は……」

ドリーン「あなたがずっと私にエネルギーを送り続けたせいで、飽和状態になったのよ。おかげで私は実態を持つことができたわ」

ボッシュ「無機質が精神をもったと言うのか……」

ドリーン「精霊だって言ってんでしょ」

ボッシュ「……お主には、聞きたいことが山ほどある」

ドリーン「わからないことのほうが多いわよ?それに、あなたの考えていることは大方合ってるんじゃない?」


ボッシュは急いで他の賢者を呼び集める
ハッシュもガッシュもドリーンの姿に驚きを隠せなかった

ハッシュ「こ、これがあの赤い石の!?」

ドリーン「ドリストーンだって言ってんでしょ」

ガッシュ「ううむ……にわかには信じがたい」

ボッシュ「しかし、事実なのじゃ。これはもしかすると」

ドリーン「……」

ボッシュ「……いや、研究を進めよう」

ガッシュ「ラヴォス・エネルギーを吸い取っておるのは間違いないのじゃな?」

ドリーン「昔の昔に堕ちてきた大きな炎。それのエネルギーが私に吸い寄せられてたのよ」

ドリーン「でもま、私みたいな例はもうないと思うわよ?精霊が宿った石なんてそうそうないんだから」

ハッシュ「ではあの物質はラヴォスで……」

ボッシュ「ウム……」




ジャキ「母様!」

ジール「ジャキ!」

突然謁見の間に入ってきた息子を、ジールは優しく抱きとめた
ジャキの後ろにはサラの姿もあった

サラ「突然申し訳ありません母様……」

ジャキがジールの体を強く抱きしめた
ジールの方に顔を埋める

ジール「ジャキ……?」

ジャキ「黒い風がね、やんだの」

ジール「黒い風が……?」

ジャキ「……怖いこどうが、なくなったの」

ジール「……」

サラ「母様……?」

ジール「ジャキ、今日は早く寝るのじゃ。わかったな?」

ジャキ「母様?」

ジール「そしたら、また一緒に寝れるから」

ジャキ「うん、わかった!」

ジャキはにこりと笑ってジールから離れる

サラ「……」

ジール「今は、何も聞くでない」

サラは黙って頷いた

ジールは、その時に見慣れない子猫を見つける

「ニャーン」

ジール「ジャキ、その子猫は?」

ジャキ「アルファドっていうんだよ!」

サラ「どこかで見つけてきたようでして」

ジール「そうか、近うよれ」

「なー」

ジール「ふふ、ジャキに似て愛くるしいのぅ」ナデナデ

「ニャア」

ジャキ「ぼくの友だちなんだ!」

ジール「そうか……ならば、大切にするのじゃぞ」

ジャキ「うん!」

今日はオワリです

ジールはボッシュからドリーンを紹介され、ドリストーンの存在、そしてラヴォスの存在を確信した
ジャキが黒い風を聞かなくなったのは、ドリーンの存在であることは明らかだった

ドリーンは自由気ままで、風のような存在だった
しかし、人に危害を加えるようなことはせず、興味本意で動いているだけだった

ジールはドリストーンの研究の続行を決意した



ドリーンの存在により、研究は加速した

巨大な外郭でドリストーンを囲み、吸ったエネルギーを逃さなくする
全体の巨大化による副作用で、吸収するエネルギーの底上げ

効率のよいエネルギーの摘出、変換方法

そして、魔神機計画が立ち上がったのだった

ジールは、何も言わずにその計画を許可してしまっていたのだった

同時期、医務室

ダルトン「……」

医師「無事、完治です。右目はもう回復しないでしょうが、普通の生活に支障はございませんでしょう。また定期的に診断に来てください」

意識が回復して数ヶ月、ダルトンはようやく白い眼帯を取り外すことが出来た
今は代わりの黒い眼帯を右目につけている

ダルトン「……ありがとよ」

医師「……なにか?」

ダルトン「最高の気分だって言ったんだよ!ヒャアハッハッハ!!」

医師「……」

ダルトンは高笑いをすると、病院を後にする

右目はもう見えないが、代わりに得たものがあるとダルトンは確信していた
体から溢れ出るような力が、身を通してわかる
そして、それは操れる『はず』だ

ダルトン(そう、この俺ならできる!)

ダルトン(この国を牛耳ることも!!)

ダルトンは醜悪な笑いを浮かべていた


夜 おやすみの間

ジャキ「母様?」

ジール「ジャキ、今日はどの絵本を読んでほしい?」

ジャキ「……母様」

ジール「ジャキ?」

ジャキ「父様の話を、聞きたい」

ジール「……父か」

ジール「そうじゃな、ジャキがサラくらいの歳になったら話してやろう」

ジャキ「そればっか」

ジール「はて、そうじゃったか?」

ジャキ「そうだよ、前もそういった」

ジール「ふふ、ジャキが立派な大人になるためなのじゃ」

ジャキ「……」

ジール「ジャキ?」

ジャキ「母様、これがいい」

ジール「わかった、むかしむかし、この世界には恐竜人という――」

ジャキ「……」スゥスゥ

ジール「……おやすみなさい、ジャキ」

ジールは静かに部屋から出ると、待っていたかのようにサラが出てくる

サラ「母様……」

ジール「サラ……」

ジールは、何も言わずにサラを抱きしめる
サラは、ジールの服をぎゅっと掴んだ

ジールは、サラをそっと離すと首にかけていたペンダントを渡した

サラ「母様……?」

ジール「本当は、サラが女王になってからと思っておったのじゃが」

ジールはサラの首にペンダントをつける
青く、綺麗に輝く宝石があしらわれたものだ

ジール「……魔神機計画。おそらく近日中に実行されるじゃろう……何が起こるかわからん。その時、このペンダントがサラを護ってくれるじゃろう」

ジール「わらわも、どうなるか……」

サラ「母様!」

サラ「母様、どうかそのようなことを……」

ジール「すまぬ、サラ……」

ジール「わらわは……無力なのじゃ……」





『システムオールグリーン。魔神機、セーフティーモードオン』

『ラヴォス・エネルギー吸収率を2割の設定で開始』

『ドリストーン反応開始。異常なし』

『魔神機、異常なし』

『吸収エネルギーを太陽石のエネルギーに変換開始……』

『変換率88%……これはすごい』

複数人の研究者たちが感嘆の声を上げた
魔神機のテスト運用は上々の出来栄えだった

エネルギーの回収、変換は滞り無く出来、膨大なエネルギーは無尽蔵にさえ感じた

ボッシュ「ウム……よろしい、魔神機をオフモードに」

『魔神機、シャットダウン開始』

『機体冷却開始、ドリストーン周囲にセーフティーシャッターを閉じます』

『ドリストーン反応低下……完全に吸収を止めました』

『吸収エネルギー、完全になくなりました』

『魔神機、シャットダウン終了。異常なし』

『ドリストーン、異常なし』

ハッシュ「ついに出来上がったな」

ボッシュ「……」

ガッシュ「これで、この国が安定してくれれば良いのだが」

ジール王国のはずれ
そこは、もう外界の猛吹雪の一歩手前のようなところだった

ダルトン「……」

ダルトンは、手のひらをかざし、念じる
ぐにゅると時空が歪み、漆黒の隙間から巨大な鉄球がどすんと落ちた

次にダルトンは、時空の隙間に自分自身が入り込む
そうしたら、ダルトンは自分の家の中に転移した

ダルトン「は、ハハハハ……!!」

ダルトン「ハァーハッハッハハッッハ!!」

ダルトン「ジールなんて目じゃねえ!!この力で俺はこの国を牛耳れる!!ヒャッハハハハハ!!」

湧き上がる力を制御できはじめたダルトンは笑みを隠せなかった






数日後

魔神機の置かれた間に、ジールとボッシュら三賢者が集まっていた
魔神機の本格的な稼働をするためだった
魔神機の周囲には、研究者たちがモニターを見つめている

ジール「引き返すなら……今か」

ボッシュ「……しかし、これ以上はもう国が持ちませぬ」

ジール「分かっておる」

ガッシュ「太陽石のちからは衰え、早かれ遅かれ潰えてしまうでしょうな」

ハッシュ「この力は、最後の望みですぞ」

ボッシュ「テストは重ねるに重ねました。大事はございませんでしょう」

ジール「……」

ジールは目を閉じ、全身を集中させた

ジール(黒い風は感じない……しかし、何なのじゃ。この胸騒ぎは……)

ジール「……ボッシュ」

ボッシュ「っは」



ジール「魔神機を稼働せよ!」

ウィィィンという音が響き、魔神機が立ち上がる

『システムオールグリーン。魔神機起動』

『ラヴォス・エネルギーの吸収率を100%で設定』

『ドリストーン反応開始。異常はありません』

『魔神機、異常なし』

『吸収エネルギーを太陽石のエネルギーに変換開始』

『変換率91%』

ボッシュ「監視を続けろ」

ジール「……」

ガッシュ「変換したエネルギーを太陽石のエネルギーと代替できるまでの時間は」

『およそ30分です』

ハッシュ「準備ができしだい代替開始」

『かしこまりました』

ジール「……」

ボッシュ「問題は今のところなさそうですな」

ジール(……この不安感が拭えぬ、この感覚は)

コツ、コツ、コツ





聞き覚えのある足音だった
それは、いつも一人ではなく、二人分の足音

ジールはそれを何処かで感じ取っていた

そして、その足音をずっと待ちかねていたものがあったのだ
それは静かに隠れ続け、足音が自分の元に来るのを待っていたのだ

ジール「……!?」

ジールがそれに気づいた時は、もう遅かった

ジール「ジャキ、サラ!!来てはならぬ!!!」

ジールの突然の叫びに周囲の人間は硬直する
そして、魔神機の間の扉が開き、その先にはサラとジャキが立っていた

それと同時に、魔神機の体が赤く、強く光りだし、アラート音を鳴り響かせる

ウィーン!ウィーン!ウィーン!

ボッシュ「何事だ!!」

『魔神機の出力が限界を突破しています!強制終了開始!』

『ダメです!受け付けません!』

ジールには魔神機の体から湧き出る、黒い霧が見えていた
そして、その霧が向かう先がなんとなく分かったのだ


ジール(サラ……!!)

ジールは、一瞬で理解をしていた
今強く放たれた光が、ただの光でないことに

そしてその光が、自分の与えてしまったものも

黒い霧の動きは早く、ジールの身体の動きでは間に合わなかった

ジール「……サラぁ!!!」

ジールの手のひらから、魔翌力のこもった波動が放たれる
手加減などできなかったその魔法はサラとジャキを吹き飛ばした

魔神機の間の扉をジールはうまく制御できない魔法で何とか閉め、封印術までかけた

ジール「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

ジールの目の前で蠢く黒い霧

ジール「……っく」

わかっていた
サラが居なくなった今、こいつが狙う先は――

魔神機の体から、再び赤い光が放たれた

ジール王国に赤い光がまばゆく広がった
その光は人を選び、浸透していく

「な、なんだ……?」

「この光は?」

「あぁ……すごい力を感じますわ!うるうる!」


ジール王国の魔法が栄える原因となった光
選ばれなかった人は旧人類として、地の民と蔑まれる原因となるのはそう遠くない話だった

ボッシュ「な、何が……」

ガッシュ「う、ぐぅ……」

ハッシュ「これは……」

めちゃくちゃになった魔神の間
そこには気絶した研究者

それと、魔神機の前に佇む一人の女性が居た

「クックック……!!素晴らしい……これがラヴォス様のお力か!」

ボッシュ「じ、ジール様……?」

女王「ボッシュ……この力の研究を進めよ。ラヴォス様のお力があれば、この国は永遠に栄えることができよう!」

女王「ックッックック……アーーハッハッハッハ!!!」

ボッシュが見たこともないような表情を浮かべたジール
ボッシュには何が起こったのかが分からなかった

今日はおわりです

サラ「いたた……ジャキ、大丈夫?」

ジャキ「う、うん……姉上?」

サラ「え?」

ジャキ「それ……」

サラ「あ……」

サラがジールから授かったペンダントが発光していた
青く、神秘的に輝くそれを見たサラは青ざめる

急いで立ち上がると、魔神機の間の扉を必死に叩く

サラ「母様!!母様!!扉を開けてください!!」

ジャキ「姉上……?」

サラ「……母様」

強固な封印がされた扉に、サラは両手を掲げる

再び、ペンダントがまばゆく光り始める

弾けるような音とともに、扉が開く

サラは急いでその先に入ると、そこには高笑いをする女王と、何処か怯えたような三賢者と研究者たちがいた

女王「サラか。お主は目覚めたようじゃな?」

サラ「……母様?」

女王「クックック……サラも感じよう?この素晴らしい力が……」

サラ「母様!魔神機は危険です!今直ぐに動作を……」

女王「愚か者!」

バチッとエネルギー波がサラを襲う

サラ「あぁ!」

ジャキ「姉上!!」

吹き飛んだサラを女王は見下す

ジャキ「母様!姉上になにをするの!?」

女王「喧しい……ラヴォス様のお力を理解できん愚か者など要らぬと言うておうるのじゃ」

女王「じゃが……サラよ、貴様はラヴォス様のお力を十二分に扱えるようじゃな……クックック……」

ジャキ「母様……?」

変わり果てた母親に、ジャキは怯えを隠せなかった

ダルトン「ッチ、なんなんだありゃあ……」

魔神機の間をこっそりとのぞきに来ていたダルトンは舌打ちをした
自分の力を今こそみせつけ、魔神機もろとも奪い去る作戦を立てていたのだ

ダルトン「俺の力がようやく制御できたってのによォ……!!」

ダルトン「あんな力……聞いてねえぞ!!」

ダルトンは自分と同じ力をジールが持ったことを即座に理解する
そして、それは自分のそれよりも遥かに上回るということも

ダルトン「ッチ、おれの王国を築くには、まだ早かったようだな」

ダルトン「……まぁ、ゆっくり頃合いをみつけるさ。ッハ!」

ダルトンはそうつぶやくと、魔神機の間から離れていったのだった

サラ「……ジャキ」

ジャキ「姉上……母様はどうしてしまったの?」

サラ「母様はね、研究で疲れてしまったのよ。直ぐ戻るから……」

ジャキ「黒い風が……」

サラ「聞こえるのね」

ジャキ「怖い、もう、消えないみたい……」

サラ「……ジャキ、あなたは」

ジャキ「?」

サラ「ううん、なんでもないわ。ジャキ、あなたはそのままで居てね」

数日後

女王「うん?」

「フシャー!」

ジャキ「アルファド!ダメだよここは……」

女王「……汚らわしい」ビッ

ジャキ「わあ!!」

「フシャア!!」

ジャキ「母様、やめてよ!アルファドだよ!?」

「フー」

女王「ジャキよ、その汚らわしい獣を二度とこの部屋に連れて来るでない。さもなければ貴様も地の民と同等の扱いにするぞ」

ジャキ「……」ギリ

「フシャー」

サラ「……それじゃあ、ジャキ行ってくるからね」

ジャキ「姉上……もう一緒にいれないの?」

サラはジール以上に魔翌力が扱えてしまった
その魔翌力は、魔神機の能力向上などに適していたことが分かった
ジールはそれを見逃さずに、サラを研究に参加させていたのだ

サラとジャキは二人で居る時間がめっきり減り、ジャキは常に一人になってしまっていた

サラ「ううん、そうじゃないのよ。すぐに……」

ジャキ「母様じゃないよ、あれ……」

サラ「……ごめんなさい、ジャキ。それでも私は……」

「フシャー!」

ジャキ「アルファド!ダメだよ、姉上だよ!」

「ウゥー」

サラ「……あなたには、わかるのね」

ジャキ「姉上……?」

サラ「ううん、なんでもないわ。それじゃあ、いい子にしてるのよ」

ジャキ「……わかってるさ、姉上」


ジャキ「こんなもののせいで、母様も、姉上もああなったなら」


ジャキは自分の体に封印術をかけた

小さな体からとは思えないほどの魔翌力は薄れ、消えていく


ジャキ「全部、嫌いだ!!」

およ
テスト 魔翌力

テスト
魔力

――――――
――――

――

あれから、数年の時間が過ぎた


ジール王国は上空へと浮かび上がり、天空の城を築いた

魔法の力は最大限に利用され、魔神機は天空に鎮座される

それでも魔神機とラヴォスの研究は女王の命令で続いた
それはもう、狂信的なものだった


ボッシュ「……」

ボッシュ「この一件……ワシが招いたことやもしれぬ……」

ボッシュ「もしもの時、魔神機を破壊するのはワシの役目じゃ」

ボッシュ「それで……ジール様の目も覚めてくれればよいのじゃが……」

ボッシュは自分の研究室にこもり、赤い石を加工した
出来上がった、刀身の短い赤いナイフ

それには、ボッシュの望みがこめられていた

『グラン兄ちゃん、僕らがこうしてドリーン姉ちゃんみたいに出て来れた理由が分かったよ』

『そうだな、リオン。ボッシュのじーさんの願いだもんな』

『その時まで、僕達……』

『あぁ、二人一緒だ。絶対に止めてみせる』

――B.C.12000

ジール王国は最盛をみせ、魔神機はよりラヴォスに近い海底へと移動する計画が発案される
海底神殿と呼ばれる巨大な施設を海底に設け、ラヴォスエネルギーの吸収をより効果的にするためだ
当初、ラヴォスの位置を最初に発見したダルトンがその計画の中心を担っていたのだが、預言者に取って代わられてしまった
ボッシュは女王の意思に反し、幽閉されてしまう

3人の少年少女が時空を超えて降り立ったのは、それからすぐだった

そしてジール王国はラヴォスの放った無数の光により崩落する

海底神殿は空へと浮かび、黒の夢と化したのだった

再開します


深い闇だった

ジールの精神はもう、深海を揺蕩う砂の一粒に等しかった

しかし、それでも女王の中にまだジールは存在できていた

サラとジャキをあの黒い霧から守ることが出来た
そして、自分の命よりも大切な子どもたちを好き勝手するこの女王に対する憎悪がジールを存在させていた

今はまだ何も出来ない
しかし、時がくれば……

この忌々しい女王を自分の手で――

女王「ほう……」


女王「クックク……」




漆黒の機械に包まれた一室

白い骸骨のような形をした椅子に腰をかける

もう何年もここに、老いも寿命も感じずに生きていた

ラヴォス・エネルギーを肌で感じ、身体で実感できる

それだけで女王は至福であった

女王「完全に死んだものだと思っておったが……」

女王「じゃが、コレはお主が望んだことであろう?」

女王「みよ、この無限に感じるラヴォス様の力を」

女王「わらわはお主と共に、永遠の命を手に入れたのじゃ」

女王「ク、ククク」

女王「尤も……お主の精神が前面に出ることなどもう無いがな?」

暗黒のボディに包まれた無機質な機械
この施設を守っているのは黒の夢のプログラムか、ダルトンの技術を流用して作られた、人工的な魔物だった
幾重にも重ねられたプロテクトは頑強だった

無尽蔵に吸い上げるラヴォスエネルギーで、ラヴォスの子孫を作り上げるほどだった

しかし、女王はそれでも、あの少年たちはここまで来ると、どこかで確信していた
そして、それは事実となる

武器を構え、目の前に立つクロノたちに女王は口を釣り上げた


ウィーン……と数個のカプセルが出現する
その中には、死んだ顔のクロノ達がいた

女王「ククク……。そこにねむっているのは、お前達の未来だ……。これから、かなうかもしれぬ夢……えられるかもしれぬ、よろこび悲しみ……お前達の明日そのものなのだ!」

女王「この黒の夢はあらゆる時間次元をこえてながれている……。ラヴォス様がめざめるその時を待ちながら……。お前達の未来はいつか必ずここにたどりつく。お前達に未来はない! わらわを倒し、この黒の夢を止めぬかぎりな!」

女王「来い、人の子よ! わらわがいざなってやろう ラヴォス様のねむりの中へ……。永遠の黒き夢に……!」


女王は王座から立ち上がると、魔翌力を開放する――

クロノ「……!!」

マール「クロノ!」

クロノは刀を構え、女王の魔力の塊を弾いた
クロノはそのまま突撃し、飛び上がる
大きく振りかぶった刀に、マールのアイスガが纏う

女王「……ほう?」

クロノのアイスガソードを女王は片手で作り上げた魔力の防壁で弾いた

女王「貴様、クロノとか言ったな?ラヴォス様に一度消されていながらよく助かったものよ……」

クロノ「……」

マール「もうあんな事させないから!」

ギュインと別方向から、女王はどこか同族を感じる魔力を感じた
ダークボムが女王の真上から落下、爆発する

女王「……」

女王は気だるそうに全身にまとったバリアでダークボムを凌ぐ

魔王「フン、ずいぶんと手加減をしているな。……それとも、それが本気なのか?」

女王「……裏切り者の預言者風情が。甘く見るでない」

女王は虹色のエネルギーを全身から放出した

女王『ハレーション』

全ての生命を死滅へと導くためだけに作り出されたかのようなその魔法は、クロノ達の体力を一瞬にして奪ってゆく

クロノ「……」

マール「なに、これ……」

女王「クックク……」

魔王「回復しろ!何をしている!」

マール「う、うん!クロノ!」

クロノ「……」チャキ

マールは力の入らない身体でなんとか魔力を振りしぼり、クロノの刀にむけて魔法を放った

マール『ケアル!』

クロノ「……」

クロノは魔力を帯びた刀身を周りに散らすように回転する
拡散した癒しの魔法はクロノ達を全回復とまではいかないが、癒していった

女王「ほう、しぶといの……静かにしておれば楽に死ねたものを」

魔王「楽に死ねないのは貴様だ」

女王「……フン」

女王の周りに闇の魔力の霧がまとわりつく
女王は、それを弾き飛ばす
しかし、その時にはクロノが跳んでいた

クロノ「……!!」

女王「む!?」

クロノは刀を振りかぶらずに跳んでいた
身体の内部から天の魔力を開放する

無数の光がクロノに集まり、それは巨大な雷となって放たれる

クロノ「!?」

女王はそれを防ごうとせずに、クロノに接近していた
あっという間に間合いを詰められ、クロノは刀を構えられなかった
女王はクロノの首根っこ掴むと、思い切りクロノに接吻していた

クロノ「……!?!?」

マール「な!?」

魔王「……」

クロノはもがき、女王を離すと妙な虚脱感に襲われる

女王「クロノとやら、貴様なかなか良い魔力を持っておるな」

マール「クロノに……何してんのよーーー!!」

女王の真上に巨大な氷塊が出現し、押しつぶす

魔王「……」

魔王はそれに合わせて再びダークボムを放つ
女王を爆心地とするように氷塊は砕け散る
女王はその先になおも立っていた

しかし、流石に無傷とはいかなかった

マール「……クロノも後でおもいっきり殴るから!」

クロノ「!?」

女王は血の流れる腕を一振りし、ローブの中に隠す

魔王「……ずいぶんと疲れたようだな」

女王「ここでは力が出せん……。良い事を思い付いた。キサマら魔神器に取り込んでくれる。ありがたく思うとよいぞ……。この船の一部になれることを! この私の一部になれることを!! ラヴォス様の一部になれることを!!!」

女王はそう言うと、時空の狭間に身を隠す
そして、女王の間の床がシフトして動き、魔神機が現れる

魔神機は依然ラヴォスエネルギーを吸い続け、赤々と光っていた

魔王「フン、死にぞこないのオモチャか」

マール「今度こそ壊してやるんだから!」

クロノ「……」

魔神機のエネルギーは無限と感じてしまうほどだった
あの時、あの赤いナイフは魔神機を止めるには遅すぎたのだ

魔神機は動く様子もなく、静かに佇んでいる

魔王「こいつは基本的に動けん……。攻撃し放題だが、防衛のシステムが動くと定期的に反撃してくる」

マール「なら、動かなくなるまで攻撃だね!」

クロノ「!」

魔王「油断するな。三賢者が粋を集めて作り上げた機械だ」

魔王は魔神機に魔力の塊をぶつける
しかし、魔神機はそれを無傷ではじき返した

魔王「並みの攻撃ではキズすら付けれん」

クロノ「……」

魔王「半端な魔力は魔神機に吸収される。貴様達で外装を破れ……私が最大火力でそこから破壊する」

クロノ「……」コクコク

マール「まっかせて!」

クロノは刀を構えると、高速で魔神機に近づく
魔神機の目の前で、高く飛び上がると全力で魔神機に斬りかかった
ギィン……と鈍い音が響き、クロノは弾き返される
ビリビリと手にしびれを感じるが、マールの回復魔法が即座にかかった

クロノ「……!」

マール『ヘイスト!』

マールの支援魔法がクロノにかかる
身体の軽くなったクロノは、先程斬りかかった場所に何度も刀の攻撃を加える

魔王「……動くぞ!」

魔神機の頭部にある赤き石がどくりと脈動した

魔神機に蓄積された魔力が防衛システムに使われ、爆発を起こす
近くにいたクロノは吹き飛ばされ、余波はマールと魔王にも及ぶ

クロノ「……」

マール「……いてて」

魔王「攻撃の手を緩めるな!」

魔王の身体にはドス黒い魔力が蓄積されている
もう少しなのだとクロノはどこかで理解し、再び斬りかかる

マール「クロノ!」

マールが叫ぶと、クロノは魔神機に飛び乗り、さらに飛び上がる
マールはその隙に自身のボウガンを構え、強力な一撃を放った

何度も一点を切り込まれ、脆くなった外装にボウガンの矢が突き刺さる
クロノは刀を突き刺すように構え、魔神機に急降下した
ベギ、と魔神機の外装に刀が突き刺さり、外装に穴が開く

クロノ「……!」チラ

魔王「死にたくなければ引け!!」

クロノは素早く刀を引き抜き、魔神機から離れた

そこに、魔王の最大火力の魔力が形成された

魔王『ダークマター!!』

魔神機の穴を起点に作られた魔法が、魔神機を内部から破壊していく
頭部の赤き石は割れ、魔神機は機能を停止させた

クロノ「……」ハァハァ

マール「……こ、壊れたの?」

魔王「……フン」

クロノの前に時空にゆがみが形成され、再び女王が現れる
その顔は憎悪で覆われていた


女王「虫ケラどもが……。わらわは、ラヴォス神と共に永遠にこの世をしはいする女王なるぞ。そのわらわに、さからおうというか」

女王の言葉に、魔王が少し前に出る

魔王「おろかな……。全ての存在は、滅びの宿命から逃れることは出来ぬ……」

魔王「ジールよ。ラヴォスに見入られた、悲しき女。せめてもの情けだ……」



魔王「この手で、全てを終わらせてくれる!」



女王「呪われし予言者よ。そなたが海底神殿でおかした罪わらわはわすれておらぬぞ。今こそ、その死を以ってつぐなうがよい!」

女王の身体が大きく変化を始める
黒い霧のようなものが女王を覆うと、女王は巨大な仮面と、2つの手がそれぞれ独立して浮く、まるで魔物のように変化を遂げた

女王「行くぞ!!」

クロノ「……!!」

マール「負けないんだから!」

魔王「……」









『じゃ……ジャ、き……』







戦闘シーンとか書けません
今日はおわりです

莫大なエネルギーだった
それは、きっと、人の夢を乗せ、新たな生命を産ませ、繁栄に導いてくれる

あのような極寒の地となった星では、それが必要だった

人の希望となるような、巨大なエネルギーが

一番最初にそれに近いものを発見したのは、名も無き男だった
その男は、人々がまだ星の力も発見されていない、まだ洞窟に住んでいる時にそれを発見した

極寒の地をなけなしの動物の毛皮で身体を覆い、歩き続けた
死んだ海は全面凍りつくし、全てが大地に覆われているかのようだった

男は、凍った海を渡り歩き、とある山に辿り着いたのだった
その山は光輝き、暖かだった

――太陽石

人類がおそらく初めてであろう、そしてそれ以上無いほどのエネルギーを秘めた星の力の発見だった

光のほこらと名付けられたそこで、人々は話し合い、研究を始めた
そこから、他の種類の星の力が発見され、応用されていった。

そして、星の力で外界から守られた王国が出来上がったのだった

見つけた男は、初代国王となり王国を大きくさせたのだった

「……ずいぶんと優しい顔をしておったのじゃな」

「ジイさんのこと?」

「うむ、肖像画の中でもよく分かる」

「……口うるさい奴だったらしいけどね。オヤジから聞いた話だけど」

「それほど、全ての者を愛してやりたかったのじゃろう」

「……キミも、優しいな」

「な、何を突然言うておるのじゃ」

「ハハハ、本当のことだよ」

「……もう、あまりからかうでない」

「ありがとう、ジイさんに祈ってくれて」

「良いのじゃ。わらわがやりたくて来ただけなのじゃ」

「それでも、ありがとう――ジール」

「国王様ー!お幸せにー!」

「ジール様、お美しいです!」

「国王様ー!」

「ジール様!」


「な、なんだか恥ずかしいな……」

「おいおい、女王になるんだからもっとしゃんとしてくれないと」

「う、うむ……しかし、どうもこのような服は……」

「似合ってるよ。それにおどおどしてたら国民に笑われちゃうよ」

「……そ、そうじゃな」


『それでは、愛の誓のキスを』


「愛してる」

「嬉しい……」


ワーワー

「国王様ー!」ドタドタ

「何事だ!」

「し、失礼します……ハァハァ……お、奥さまのご様態が……」

「な、なんだとぉ!?ジール!!」バーン

「んぎゃあ!?」



「国王様……奥さまは今、危険な状態です!」

「近くに居たいんだ、ダメか!?」

「し、しかし……」

「頼む!ジールの近くに居させてくれ!」

「……」



「ジール、俺だ!頑張るんだ!」

「国、王……」

「ジール!」

「……!!」



「んぎゃ、ほぎゃあ」

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」

「ジール……」

「ばか者……国王が弱気なところを見せてどうするのじゃ」

「ジール……ありがとう……」

「ふふ……名前、サラじゃったな」

「あぁ……やったなジール!」ギュウ

「こら、もう少しやさしくせぬか……」






『サラ――』

『ジャキ――!』





激しい魔力がぶつかり合い、黒の夢は轟いていた
変化した女王の内包する魔力はラヴォスの力を表しているかのように強大だった

しかし、クロノ達の力の前に女王は屈してしまっていた

女王「こ、こんな、こんな……!!」

女王「か、身体が動かぬ……だと……!?」

女王の身体は上手く動かなくなっていた
変化していた身体は元の女性の姿に戻り、女王を包んでいた魔力は溶けるように消え去る

女王はがくりと膝をついた

女王「ム、虫ケラのぶんざいでこのわらわを追いつめるとは……ラヴォス神よ、その御力をわらわに!!」

マール「な、何……!?」

ウィン……と黒の夢が怪しく稼働を始めた
黒い船内に赤い光が放たれる

女王「フ、フフフ……ハハハ……!ついに、ラヴォス神がおめざめになる!貴様達虫ケラなぞ、ラヴォス神の前では赤子同然!」

狂気に満ちた女王の瞳
崩れながらも狂信するラヴォスを崇め、狂った笑いをあげる

女王「わらわは、ラヴォス神とともに永遠の生命を手にする事としよう!は、ハハハ……!!」

マール「や、やめなさい!!」

クロノ「……!」チャキ

魔王「来る……!」

女王「ハハ……は……が、ぁぁぁ!?」

マール「え……?」

高笑いを続けていた女王が、突如苦しみだす
喉を押さえ、息が詰まったような咳を繰り返す
すると、女王の身体から黒い霧が現れた

魔王「これは……」

世界の悪意と狂気を体現したようなそれは、ジールから離れていく

ジールの表情は苦しみから憎しみのようなそれに変わっていき、ギリッと歯を食いしばると目を開いた
先程の狂気に満ちた瞳はもう無かった





ジール「ラヴォスに呑まれるのは、貴様だけで十分じゃ!!」





ジールの身体から黒い霧が全て放出される
そして、ジールは身体から光を放つように魔力を解放させる
ジールの頭の髪飾りは砕け散り、黒い霧も消滅してしまった

ジールはぺたんとその場で崩れ落ち、荒い息を整えようとする

マール「な、何があったの……」

魔王「……」

ジールは力なく顔を上げると、出口にむけて指をさした

ジール「ら、ラヴォスがもう少しで復活する……お主達は、直ぐに脱出してラヴォスを叩くのじゃ……」

マール「え、え……?どういうことなの……?」

魔王「フン……ラヴォスに魅入られたのではなかったか」

魔王の問いにジールは力なく笑った

ジール「ふ、フフ……。わらわの心の弱さが引き起こしたことに変わりはない……」

マール「え、ってことは、女王様は、ラヴォスに操られてたってことなの!?」

マールの問いに答える間もなく、黒の夢が振動を始めた
所々で崩落が始まったのだ

ジール「は、早くするのじゃ……ここに来たということは、ラヴォスと戦うことも覚悟の上なのじゃろう?」

クロノ「……」

ジール「わ、わらわは此処に残って、黒の夢のシステムを最大まで引き上げる!」

マール「で、でも!」

ジール「魔神機が壊れた今、前のようにとは行かぬが……この黒の夢自体にラヴォスからエネルギーを吸い上げる力がある……」

ジール「ほんのわずかでも……あの生命体の力を抑えることができるはずじゃ……」

ジール「ラヴォスを討つ、少しもの支援にはなろう……」

魔王「……」

魔王は何も言わずに踵を返す

魔王「行くぞ!それとも黒の夢と共に沈みたいのか?」

マール「で、でも!……お母さんなんでしょ!」

魔王「……私に母など居ない」

ジール「……」

ジール「時間が無い!急がぬか!……このくらいせねば、あの生命体は倒せぬ!」

クロノ「……!」

クロノがマールの腕を引いて走り始める

マール「く、クロノ!!」

魔王はそれを見ると、後に続こうと身体を少しだけ浮遊させる

ジール「じゃ、ジャキ……」

ジール「大きく……なったな……」

魔王「……」

ジール「立派になった、ジャキを最期に見れて……わらわは幸せだ……」

魔王「……」

魔王「キサマの尻ぬぐいなら最後までやってやる……この私のためにも、な……」

崩れ落ちていく黒の夢で、ジャキはぼそりとそれだけを言い、クロノを追いかけ始めた

ジール「……たのむ」

ジールは足を引きずり、コンソールを呼び出す
ウィ……ンと出てきたコンソールに、命令を入力する

黒の夢のシステムを最大まで引き上げる
吸収するエネルギーに耐え切れずに黒の夢は崩落を加速させてしまうが、ジールは構わなかった

自分の生体認証を済ませると、黒の夢はビービーと警告音が響かせた
ジールはずるりとその場で崩れ、壁にもたれかかる

ジール「……」

今日はおわりです

ラスト投下です

――――――――
――――

――



『父様!』

『サラ!』

「よしよし、ほーら」ダッコ

「父様ー!」ニコニコ

「楽しそうじゃな、ふたりとも」

「ジール!」

「母様!」

「起きてて大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃ、ジャキもきっと二人に会いたがってたはずじゃ」

「大きくなったもんな。元気に出てくるんだぞー」ナデナデ

「ジャキ、姉様ですよー」ナデナデ

「ははは、サラももうお姉さんだな」

「ふふ、サラも待ち遠しいな?」

「はい!」

「お、奥さまー!!」

「どうしたのじゃ、騒々しい」

「た、大変です!国王様が、国王様が外界で事故に見まわれました!!」

「な、なんじゃと!?」

「い、意識不明な状態が続いております!」

「何処にいるのじゃ!?」

「下の医務室です!!」

「王ーー!!」ドカーン

「あぎゃあ!!」

「結局、国王様は意識も戻らずに……」

「奥さまはジャキ様もまだ身ごもっていらっしゃるというのに、なんて痛ましい……」

「こんな不幸が未だかつてあっただろうか……」

「母様……父様は……」

「サラ……父様はな、この国のためにな……」

「母様……うぅ……」

「すまぬ、サラ……少しの間、父様と二人にしてくれぬか……?」

「母様……」

「どうして、どうして先に行ってしまわれたのですか……」

「く、うぅ……」

「どうして、一人にするのですか……」

「……」



(母様……)

「あぎゃあ、ふぎゃあ」

「ご健闘されましたね。おめでとうございます、元気な男の子ですよ」

「ジャキ……」

(国王……あなたの息子ですよ……)

「……」

「わらわが、今日からこの国の女王となるジールである!」

「この国を、国民を愛した国王はこの国のために先立った。わらわは、その意思を継ぐものである!」

「――!!」



「ご立派でしたぞ」

「茶化すでない、ボッシュ」

「……素人なのが丸わかりじゃ」

「貴女なら、国王様の立派な後継者となりましょう」

「ありがとう……」

「さ、ジャキ様とサラ様の所へ行きなされ。貴女は母親でもあるのじゃからな。ここはこのボッシュに任せなされ」

「……すまぬ」

「母様、ジャキが……」

「サラ、どうしたのじゃ」

「しゃ、ら……」

「そうか、ジャキ、お主喋れるようになったのじゃな……」

「……サラ、気苦労ばかりかけてしまうな」ギュウ

「母様、私なら良いのです」

「ジール様、この国の資源の問題が……」

「ジール様!最近の暴徒の件がまだ……」

「ジール様、それよりも税金の調整が……」

「ふむ……」



「かあさま……」



「ジャキ……!?」

「み、皆の者、5分、いや3分でいい!わらわに時間をくれぬか!?」

「しかしジール様!」

「今一時を争うのです!」

「女王様の決断がなければ!」

「う……」

「……かあさま」

「ホッホッホ、何をそんなに騒いでおる。……皆の話、女王に変わりこの命の賢者が聞いてやろう」

「え……?」

「ジール様、子供をあまり一人にさせるものではないですぞ」

「すまぬ、ボッシュ!」




「かあさま……ごめんなさい……」

「いや、違うのじゃジャキ……悪いのはわらわなのじゃ……」

「ぐす……うぇえええぇえぇん」

「すまぬ、すまぬジャキ……」ギュウ

「母様、ジャキは私が面倒を見ます」

「サラ、しかし……」

「良いのです。母様はこの国を導くお方……」

「ですが、忘れないで下さい。私は絶対に母様を一人にはしません」

「サラ……」







――

――――
――――――――

ジール「ふふ……最期まで助けられてばっかだったな……」

ジール「……母親らしいことを一つもしなかったくせに」

ジール「……ジャキ、すまぬ」

ジール「サラを……頼んだぞ……」

黒の夢が本格的な崩落を始める
強固な装甲は剥がれ、ボトボトと真下の海に沈んでいく
それでもラヴォスへの急激なエネルギー吸収は止まらない

船内も天井の瓦解が始まり、崩れていく音が響く
大きな振動が黒の夢を揺らした

その中で、ジールはその場から動こうともしなかった
黒の夢の様子とは反面、ジールの表情は安らかだった


ジール(不思議じゃ……)

ジール(ラヴォスがこんなにも近いのに、黒い風をまったく感じぬ……)



――ジール


この声は幻聴なのか、それとも現実なのか、ジールにはもう分からなかった
しかし、分かる必要ももうジールにはなかった

かつて愛し合った人が優しく笑い、こちらに手を伸ばしてくれている

ジール(あぁ、そうか――)

ジール(あの人のところにいくんだ――)

ジールはその手に手を伸ばした
結果、ジールは空を掴むだけだった
しかし、それでもジールは満足だった
あの人の体温を感じられたように思えたからだ

ジール(ずいぶん、待たせてしまったな……)

ジール(今、私もそっちに――)




黒の夢が完全に崩落する
ラヴォスが出現し、黒の夢は消滅した
跡形もなく、巨大な船はたった一人の女王の狂気と願いを乗せて沈んでいったのだった



ザァ……と静かに波打つ海が一望できる丘に、三人の男女が来ていた

ルッカ「クロノー!ここよここ!」

クロノ「……!」

マール「はやくー!」

クロノ「……!!」ヨロヨロ

どすんとクロノは持っていた大きめの十字架を丘に立てた

クロノ「……」ゼェゼェ

ルッカ「情けないわねー、男でしょ!」

マール「重いからしょうがないんだよ」

ルッカ「未来を救った勇者様がこれだものね」

クロノ「……」ションボリ

マール「まぁまぁ、せっかくの雰囲気が台無しになっちゃうよ」

ルッカ「……湿っぽいの、苦手なのよね」

クロノ「……」

十字架には、ジールの名前が刻まれていた
この時代でジールの名を知っているものはクロノ達以外居ないだろう
それでもクロノ達は、一つの綺麗な無人島にジールの墓を作ることにしたのだ

ルッカ「まさか、敵の墓を作ることになるなんてね」

マール「……ううん、この人は敵じゃなかったんだよ」

マールは十字架に花束を添えた

クロノ「……」

マール「誰よりも、ラヴォスに苦しめられて……最後は立派に戦ってたの」

マール「それに、魔王はああ言ってても……お母さんだったんだよ」

ルッカ「……そうね」

優しい風がなびき、暖かく照らす太陽に雲がかかる
日はもう一日の折り返し地点を過ぎている

クロノ「……」クイクイ

ルッカ「そうね、行きましょうマール」

マール「うん。そろそろ帰らないとね」

マールは立ち上がると、クロノとルッカと共にその島を後にしたのだった

心地よい風が十字架を撫でた

さらりと花が揺れる

落ち着いた波の音

暖かな陽の光

その島は、誰にも邪魔されることも無く静かに時間を過ごす

一人の女性の、魂を乗せて



<了>

おわりです
優しいジール様と、目を覚ますジール様を書きたかっただけなんです

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました

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