やよい「はわっ、でっかい虫!」ワーム「シャーッ」 (51)

やよい「あ、怪我してるの……?」

ワーム「シャーッ」

やよい「えっと、えっと、うー……ちょっと我慢してね!」

ワーム「シャーッ!?」

やよい「こうしてこうして……よし、これで血は止まるよね。治るまであんまり動いちゃダメだよ?」

ワーム「シャーッ!」

やよい「うぅ、怒ってるみたい。あ! もうこんな時間、早く事務所に行かなきゃっ」

ワーム「シャーッ」

やよい「じゃあバイバイ! もう怪我しちゃダメだよ!」

ワーム「シャーッ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1368759991

やよい「うっうー! 今日もいっぱい頑張ったなー! 早く帰って長介たちに晩ご飯……あれ?」

ワーム「ギ、ギ……ギシュ」

やよい「朝の……はわっ、カラスに襲われてる!?」

ワーム「ギギ……シャーッ!」

カラス「ア�ー! ア�ア�ー!!」

やよい「あっち行け、あっち行けー!」

ワーム「シャーッ!」

やよい「ふぅ、ふぅ、怖がらないで、大丈夫、何もしないよ……」

ワーム「シャーッ!」

やよい「動いちゃダメだよ! ダメ、ダメだよ……!」

ワーム「シャーッ」

やよい「うぅ、どうしよう。このままじゃまたカラスに……あ、あんなところに猫車!」

やよい「たっだいまー!」

長介「おかえり、やよい姉ちゃうわぁ!? その服どうしたの!? ペンキ被ったみたいに緑色……」

やよい「えへへ、ちょっとね。それより長介、カブトムシの幼虫って何食べるのか知ってる?」

長介「え? 急にそんなこと聞いてどうしたの?」

やよい「いいから! 長介男の子なんだから虫とか好きでしょ、どんなの食べるのか教えて!」

長介「うーん、木の根っことか腐葉土じゃなかったかな」

やよい「木の根っこって、ごぼうとか?」

長介「どうだろう、食べるのかな……」

やよい「そっか、ありがと!」

長介「え、姉ちゃんどこ行くんだよ! 晩ご飯は!?」

やよい「ちょっと待っててー!」

長介「え、えー……」

やよい「……食べないの?」

ワーム「……」

やよい「うぅ、ちゃんと食べないと怪我治らないよ? それともごぼうは食べられないの?」

ワーム「……」

やよい「じゃあじゃあ、ジャガイモは?」

ワーム「……ギギ、ギシュシュ」

やよい「あんまり食べてくれない……うーん、ニンジン?」

ワーム「……」

やよい「お、お魚! は違うよね、多分……」

ワーム「シャーッ」

やよい「え? あ、食べてる! 君はお魚食べるんだ!」

ワーム「シャーッ!」

やよい「良かったー、これならすぐ元気になるかなーって! 待っててね、もっと持ってくるから!」

ワーム「?」

やよい「美味しい?」

ワーム「ガシュ、ぞぶ、ギシュ……」

やよい「縁の下ならカラスも来ないし、怪我が治るまでゆっくりしていって!」

ワーム「ごぷ、ギシュ、キチチ」

長介「やよい姉ちゃん? そんなとこで何してんの、下に何かいるの?」

やよい「え!? あ、ちょっと落とし物しちゃって! でもでももう取れたから、大丈夫だから!」

長介「? 何でもいいけど、さっきからかすみたちがお腹空いたって」

やよい「うん、すぐ準備するね! ……おとなしくしてて、ね」

長介「ん、やよい姉ちゃん何か言った?」

やよい「ううん、なんでもない! 今日は魚が安かったから焼き魚に……」



ワーム「ガシュ、キチ、キチチ……シャーッ……」

やよい「いただきまーす!」

長介「あれ、なんでやよい姉ちゃんだけ魚ないんだよ」

やよい「あ、えっと……みんなの分買ったらお金足りなくて」

長介「……俺の半分、分けるよ」

やよい「え? だ、ダメだよ長介! 長介は育ち盛りなんだからいっぱい食べなきゃ!」

長介「いいよ、今日はあんまりお腹空いてないし」

やよい「ダメ! ちゃんと長介が食べなさい! 私は、その、つまみぐい!つまみぐいしたからないの!」

長介「なんだ、心配して損した。俺、またやよい姉ちゃんが自分だけ我慢しようとしてるのかと思ったよ」

やよい「え、えへへ……あ、浩太郎! しっかり噛んで食べなきゃダメでしょー!」

長介「……つまみぐい、ね」

やよい「もうみんな寝たかな……」

長介「ぐぅ……ぐぅ……」

やよい「うん、大丈夫そう。あ、かすみったらまた布団け飛ばして……」

かすみ「ん、んん〜……」

やよい「ちゃんと布団被らないと風邪ひいちゃうよ? ……これでよし、と」

かすみ「すぅ……すぅ……」

やよい「浩太郎も、浩二まで……うん、これでバッチリかなーって」

浩太郎「んが……くぅ、くぅ……」

浩二「すぅ……すぅ……」

やよい「よく寝てるみたい……今なら大丈夫かも」

長介「……」

やよい「ごめんね、もうお魚ないから……でもお芋も栄養たっぷりなんだよー」

ワーム「シャーッ!!」

やよい「し、しー! 静かにしないとバレちゃう……!」

長介「誰に何がバレるの、やよい姉ちゃん?」

やよい「あ……長、介」

長介「そこ、何がいるの? 猫でも拾った?」

やよい「う、うぅ……長介、みんなに秘密に出来る? 誰にも言わない?」

長介「うわっ! すっげー、かっけー!」

やよい「え? あ、ダメ、出てきちゃ!」

長介「姉ちゃん何こいつ!? どこで……ん、怪我?」

やよい「その、怪我してて、カラスが食べようとしてて、それで」

長介「姉ちゃん」

やよい「怪我が治るまででいいの! このままじゃ、この子……!」

長介「……俺も手伝うよ。さっきの魚、こいつにあげたんだろ?」

やよい「長介……う、うっうー!」

やよい「おっはよーございまーす!」

貴音「おや、おはようございます、やよい。今日は一段と元気がよいですね」

やよい「はい、昨日すっごくいいことがあったんです! あ、でもこれは秘密で!」

貴音「誰しも秘密の一つや二つはあるもの、気にすることはありませんよ」

やよい「えへへ、そう言ってもらえると助かりますー」

貴音「ふふ、そう……秘密は誰もが持つもの、一つや二つや百程……」

やよい「あのー、ところで貴音さん?」

貴音「はて、そのように不思議な顔をしてどうしたのですか?」

やよい「あ、でもこれって聞いちゃダメなのかなーって」

貴音「構いませんよ、教えられないものはちゃんととっぷしぃくれっとだと答えることにしています。気軽に何でも聞いてください」

やよい「じゃあその、今日はどうして仮面とマントを付けてるんですか?」

貴音「とっぷしぃくれっとです」

やよい「え」

貴音「とっぷしぃくれっと」

やよい「あ、はい」

ガリ「ファッファッファッ」

やよい「!?」

貴音「ファッファッファッ、ファッファッファッですよやよい。わたくしは今日からファッファッファッと笑うことにしたのです」

やよい「そ、そう、なんですか?」

ガリ「ファッファッファッ」

貴音「ファッファッファッです」

やよい「あの、どうして風もないのにマントがはためいて……」

ガリ「ぬぅん」

貴音「ぬぅんです、わたくしが気合を入れればまんとの一つや二つ、簡単にはためくのです」

ガリ「ファッファッファッ」

貴音「ファッファッファッですよ、やよい」

やよい「ふ、ふぁっふぁっふぁっ……」

ガリ「ぬぅん」

貴音「ぬぅんですよ、やよい」

やよい「ぬ、ぬぅん」


貴音「む、わたくしはそろそろラジオの収録時間なのでこれにて」

やよい「あ、はい……気を付けて行ってきてください」

貴音「行ってきまっファッファッ」

ガリ「ファッファッファッ」

やよい「……今日も貴音さんは不思議だったなー。あ、伊織ちゃんおはよー」

伊織「おはよう、やよい」

やよい「あれ? 伊織ちゃん、今日はぬいぐるみ二つなの? それにこっちのはすごくおっきい……」

ハム「シュッシュッ!」

やよい「!?」

伊織「ん、んん? どうしたのやよい? まるでぬいぐるみがひとりでに動いたのを見ちゃったような顔してるわよ?」

やよい「え、だって今」

ハム「シュッシュッ!」

やよい「ほら! 今! 今しゅっしゅって!」

伊織「どどどどこがよ全然動いてないわよほらこうやって叩いても全然動かへぶぅ!」

ハム「シュシュッ、ふんっ」

伊織「何すんのよあんたー! ぬいぐるみのふりしろってあれ程……!」

やよい「伊織ちゃん?」

伊織「……何、やよい?」

やよい「今ぬいぐるみのふり」

伊織「言ってない」

やよい「さっき動い」

伊織「気のせい」

やよい「今も動いてる」

伊織「遠近法よ」

やよい「……」

伊織「……」

ハム「シュシュッ、シュッシュッ!」

やよい「ねぇ伊織ちゃん」

伊織「つまり、水瀬の研究機関が古代生物を生き返らせたはいいのだけれど、その殆どに脱走されちゃったわけよ……」

やよい「それってすっごく危ないんじゃ……」

伊織「一応大丈夫って話らしいわ、一部気性の荒いのはいるけどそういうのはきっちり捕まえてあるって言ってたから」

やよい「え、じゃあどうして逃げ出しちゃったり」

伊織「温厚な個体から自然な生態データを取ろうとして外に出したらそのまま逃げたって……ほんと、学者って頭のいいバカばっかりよね」

やよい「うぅ、でも学校で言ってたよ? ガイライシュが来ると元あったセータイケー? がくずれちゃうって……」

伊織「勝手に増えることはないから心配いらないわ、万が一の為にその辺は配慮して蘇らせたみたいだし」

やよい「ふーん、じゃあ安心だね!」

伊織「……まぁ、そう日の経たない内に全個体が捕獲されるでしょ。研究員総出で探し回ってるらしいし」

やよい「あれ? 伊織ちゃんはこのうさぎさん、返さなくていいの?」

伊織「なんか気に入られたみたいで離れないのよ。学者もそれなら安心してデータを集められるとか言い出すし。ほんっと、バカじゃないの」

ハム「シュッシュッ!」

伊織「ってさっきから人に向かってシャドーボクシングしてんじゃないわよ!」

ハム「シュッ!」

やよい「仲良しなんだねー!」

伊織「まぁ、そんなわけで変な生き物みたら教えてちょうだい」

やよい「変な生き物……う、うん。それってどんなのがいるの?」

伊織「どんなだったかしら……研究室をちょっと見せてもらった時はあんまり興味なかったし……」

やよい「そ、そうなんだ」

伊織「あ、でも忘れようにも忘れられないキッツいビジュアルのが一匹いたわ!」

やよい「え!? それって、どんな?」

伊織「虫よ虫! こんなでっかい茶色い虫! 尖った牙、お腹でわさわさする足……ひぃ、思い出すだけで気持ち悪い!」

やよい「う、うぅ……あの、それって緑色の目でシャーッって鳴く?」

伊織「そうそう! 目が沢山横並びになっててどっから出してんだか分からないようなって、え? やよい、あんた知ってるの?」

やよい「……昨日、その子を拾ったかなーって」

伊織「……」

やよい「……え、えへへ」

ハム「ぷぅ」

伊織「空気読みなさいよこの屁こきうさへぷぅ!」

やよい「い、伊織ちゃん! ああ、鼻血が!」

伊織「その様子なら問題はなさそうね。一応報告はしておくけど、多分捕まえに行ったりはしないと思うわ」

やよい「う、うん」

伊織「あー、餌はこれ食べさせろって渡しに行くかも。ま、困ったら私に相談しなさい」

やよい「うん。伊織ちゃん、鼻大丈夫?」

伊織「ふ、ふふふ……大丈夫よ、大丈夫。強い者がリーダーシップを握るのよ、どっちがご主人様かきっちり仕込んでやるわ!」

やよい「やめようよ、伊織ちゃん〜……」

伊織「私は冷静よやよい、ええかつてない程に冷静よ」

ハム「シュッシュッ!」

伊織「こ、この……ふんっ! 呑気にシャドーボクシングしてられるのも今の内よ、すぐに私の怖さを思い知らせてあげるわ!」

高木「おや、水瀬君。そろそろテレビ局に行かないと打合せに間に合わなくなるぞ」

伊織「嘘、もうこんな時間!? 命拾いしたわね[ピザ]うさぎ、覚えてなさい! 行ってきまーす!」

ハム「シュッシュッ!」

伊織「ちょ、ついてこないでよー!」

高木「うんうん、元気があっていいことだ」

やよい「あの、社長? なんだか今日は角ばってますねー」

高木「うむ、イメチェンというやつだよ、はっはっは」

やよい「へー、なんだかすごく、えーと、角ばってます!」

高木「なんてね、冗談だよ。備え付けのホワイトボードだけじゃ予定を書き切れないから、道に落ちてた黒板を拾ってきたんだ」

やよい「あ、黒板だったんですか……はわ!? い、今、黒板に立体的な顔がぼこって!」

高木「ん? 顔、顔……至って平面のようだが? む、今のは駄洒落ではないぞ!」

やよい「あ、はい」

高木「見間違いかなにかだろう、うん」

モノリス「ガタッ」

やよい「社、社長! 黒板から手みたいなのが生えました!」

高木「手? はっはっは、高槻君も冗談が好きだねえ。おっとそろそろ私は出掛けなければ。高槻君も頑張り給えよ」

モノリス「ガタッ」

やよい「あ、黒板が、浮いて……ついていっちゃった。もしかして、あれも伊織ちゃんが言ってたヘンな生き物?」

雪歩「うふふ、うふふふふ」

やよい「あ、おはようございます雪歩さん!」

雪歩「うん、おはようやよいちゃん」

やよい「雪歩さん、なんだかすっごくご機嫌ですね!」

雪歩「うふふ、うんっ。昨日夜空を見ながら詩を書いてたら、妖精さんが降りてきてね……」

ピクシー「ピュイッ」

やよい「あ、かわいいー!」

雪歩「ね、なんだかこの子に懐かれちゃったみたいで、昨日からずっとお話してるの、ふふ、うふふふふ」

やよい「昨日からずっとって、徹夜ですかー!? ちゃんと寝ないとダメですよー!」

雪歩「うん、でもこの子と話してると、どんどんインスピレーションが湧いてきて……あ、また良い詩が書けそう……!」

ピクシー「ピ、ピピ、ピュイ!」

雪歩「うん、そうだよね。そうだよね、書かなきゃっ。じゃあねやよいちゃん!」

やよい「あ、はい! あんなにフラフラで大丈夫かなーって……心配ですぅ」

響「やよいー! ライ吾郎見なかったか!?」

やよい「ライ、え?」

響「ライ吾郎! えーと狼みたいな感じで頭に角が生えてて、とにかく動物! 動物がこっちに来なかったか!?」

やよい「いえ、見てないですけど……どうかしたんですか?」

響「うん、この間、もう一週間以上前だな、ライ吾郎がうちの家族になったんだけど……」

やよい「あー! また逃げられちゃったんですかー!?」

響「またとか言うなー! 自分はただ、ちょっとだけご飯分けて貰おうとして……」

やよい「……」

響「と、とにかくこっちには来てないんだな!?」

やよい「えっと、はい、来てないです」

響「ライ吾郎ー! どこだー、自分が悪かったー! 戻って来てよー! ライ吾郎ー!」

やよい「狼なのに角……さっきの雪歩さんの妖精さんも、多分伊織ちゃんが言ってたヘンな生き物、だよね」

真美「ねーえやよいっち?」

亜美「こっち向ーいて?」

やよい「え? ……はわぁっ!?」

スエゾー「ハーッ!?」

真美「んっふっふ〜、ナイスリアクションだよやよいっち」

亜美「どうこの子、キモかわいいっしょー?」

やよい「え? え? なにこの……なに?」

亜美「わかんない、その辺歩いてたから捕まえた!」

真美「こんなん見たら誰だって捕まえるしかないっしょー!」

やよい「生きてる、の?」

真美「生きてるよん! もうこの子真美にベタ惚れで困っちゃうんだよねぃ」

亜美「違うよう、この子は亜美にゾッコンラビュなのー!」

スエゾー「ふぁあ……んがっ」

やよい「えっと、ちょっと怖いかなーって……」

真美「お子様のやよいっちにはまだ早かったかぁ……」

亜美「お子様には分からない苦み走ったミリキってやつさぁ……」

スエゾー「ハー……」

やよい「むっ、二人の方が私より年下でしょー! 私だって大人の味ぐらい分かるよー!」

真美「そうやって背伸びするところ、正に子供!」

亜美「やよいっちは終身名誉こどもだからちかたないね」

やよい「もー! いいかげんにしないと怒るよー!」

スエゾー「カーッ!」

亜美「うわーいやよいっちが怒ったー! 逃げろ逃げろー!」

真美「亜美ー、次誰驚かすー? んっふっふ〜!」

亜美「んとね、んとね……んっふっふ〜!」

やよい「全くもう……でもあんな変な生き物見たことないかなーって。もしかして逃げ
出した動物はみんなここに集まってる……?」

春香「おはようございまーす!」

ディノ「ギャオー!」

やよい「あ、春香さん! おはようござはわっ!? 春香さんも動物を……」

春香「おはようやよい! この子が気になる? ふふ、可愛いでしょ」

やよい「とってもかっこいいですー!」

春香「今朝起きたら家の庭でこの子が寝てたんだよ」

やよい「なんだか恐竜みたいですー」

春香「私も最初はちょっと怖かったけど、この子の目を見てたら守ってあげなきゃって思っちゃって」

やよい「えへへ、春香さんらしいですね!」

春香「この子はすごいんだよ、衣装とか入った鞄も楽々運べるし、それにほらっ」

ディノ「ギャオ」

やよい「うわー、力持ちなんですねー!」

春香「こうやって上に乗せてもらえば、もうドンガラアイドルなんて言われることもないし!」

やよい「春香さん、傾いてます傾いてます!」

春香「え? あ、すべすべで掴まる所が……きゃああ!?」

春香「あはは……ちょっと苦しいけどセーフかな?」

やよい「襟を口で噛んで春香さんを助けるなんて、すごい力ですー!」

春香「うん、服に穴空いちゃったけどね……」

やよい「でもでも、怪我しなくて良かったかなーって!」

春香「そうだよね。ありがとう、恐竜君!」

ディノ「ギャオン」

春香「あ、そろそろ局の人とのミーティング! 行くよ、恐竜君!」

ディノ「ギャオーン!」

やよい「行ってらっしゃいですー!」

小鳥「行ってらっしゃーい」

春香「行ってきまーす!」

やよい「あ、小鳥さん」

小鳥「おはよう、やよいちゃん」

やよい「あの、頭がツタでぐるぐる巻きになってますけど大丈夫なんですか?」

小鳥「これがこのこの子の愛情表現なの、全然苦しくないわよ?」

プラント「シュルシュル……」

やよい「植物なのにすっごく動いてますね」

小鳥「食虫植物、に近いみたいなのよね。ご飯も魚とかお肉とか食べるし」

やよい「肉食なんですか!?」

小鳥「そうよ? ほら、ここが口」

プラント「クェックェックェ!」

小鳥「ね?」

やよい「こ、こわいかなーって!」

小鳥「とっても大人しいんだか大丈夫よ、ほらほら」

やよい「そ、そんな所に手を入れたら噛まれちゃいますよ!」

小鳥「大丈夫よ、人を攻撃したりしないわ。ね?」

プラント「シュルシュル……」

やよい「小鳥さんが緑色のツタで巻かれたミイラみたいになっちゃった……」

小鳥「愛情表現よー? ……あら電話、はいこちら765プロです」

やよい「あれも伊織ちゃんが言ってた昔の動物、なのかなぁ……口、怖かったな」

律子「やよい、何をぶつぶつ言ってるの?」

やよい「あ、律子さん! 小鳥さんの顔にツタを巻いてるアレってなんなんですか?」

律子「? 何って、ただの観葉植物でしょ? 変なこと気にするのねえ」

やよい「だってあんなぐるぐる巻きになってて……あれ、律子さんが持ってるその玩具はなんですか?」

律子「ぎくぅ! こ、これ? これは何でもないのよ、何でも、うん。強いて言うなら新しいカメラってところかしら?」

やよい「へー、なんだか可愛い形のカメラですね! 足が四本生えてるみたいな、触ってみてもいいですかー?」

律子「ダメよ、ダメダメ! 壊れたらどうやって直すのか私も知らないし!」

ヘンガー「ウィ、ウィウィーン」

やよい「今シャッター切りました? 動いたような音が」

律子「切ったわ! やよいがあんまり可愛いからつい撮っちゃったわ! だからカメラには触っちゃダ」

ヘンガー「ガシャガシャ、チュイン、ガショ、キュゥン……」

やよい「はわっ、大きくなりましたよ!?」

律子「最新型だから! 今時のカメラは変形機能も付いてるのが普通だから!」

やよい「そうだったんですか!」

やよい「あり得ないかなーって」

律子「無茶な嘘だっていうのは分かってたわよ……それにしても水瀬財閥がねえ」

やよい「えへへ。事情を知らなかったら騙されてたかもですけど、もう何が来ても驚きませんよ!」

律子「へぇ? じゃあこれはどうかしらね、あずささーん!」

あずさ「はぁい」

律子「そのバケツの中身、やよいに見せてあげてください」

あずさ「え? でも……」

律子「どうやら大丈夫みたいです、それにその子の出処も分かりましたし」

あずさ「そうなんですか? じゃあ……はい、やよいちゃん」

やよい「あ、もしかしてお魚さんですか? ……? あの、水が入ってるだけみたいですけど」

律子「ふふ、そう思うでしょ? 私も最初は騙されたわ」

あずさ「出て来てー」

ゲル「ミョインッ、ベチャ!」

やよい「み、水が勝手に跳ねました!?」

律子「跳ねるだけじゃないわよ」

ゲル「ドロドロ、ドロロロ……ニュウ」

やよい「私と同じ形になっちゃいました! すごいですー!」

あずさ「ふふ、すごいわよねえ。ね、もう元の形に戻って?」

ゲル「ウニニニ……ドロロ」

やよい「水なのに人の形みたいな、何だか不思議な生き物ですねー」

あずさ「可愛らしいでしょう? 昨日シャワーを浴びていたら蛇口から出て来たの」

律子「メカメカしい割に肉食なうちの子も大概ですけど、そっちも相当ですよね」

あずさ「そうですか? 生きてるんですもの、お腹も減るわよねー?」

ゲル「チャプン」

あずさ「ほら、この子もそうだって言ってます」

律子「いやいや、その理屈はおかしい……あ、そろそろ水着グラビア撮る時間ですよ、あずささん」

あずさ「あら、じゃあこの子も連れて行こうかしら。水を服みたいにまとった写真なんて、面白そうじゃありませんか?」

ゲル「ニュルルル、プワン」

律子「なるほど、いいですね! じゃあそこにうちの子のレーザーを上手く反射させたりしてみたり……うん、いけるわ!」

ヘンガー「ウィウィー、カシャン」

あずさ「ふふ、律子さんもインスピレーションが湧いて来たみたいですね。それじゃあやよいちゃん、行ってくるわね」

律子「ってあずささんどこ行くんですか、こっちこっち! じゃあやよい、貴方もレッスン頑張るのよ! 行ってきまーす!」

やよい「行ってらっしゃいですー! やっぱり皆あの不思議な生き物拾ってたんだ……」

真「やよい、不思議な生き物って何の話?」

やよい「あ、真さん! おはようございまーす!」

真「おはよう、やよいは今日も元気だね」

やよい「はい! 私、元気だけが取り柄ですから! ……あれ? そっちの着ぐるみは誰が入ってるんですか?」

真「こ、これ!? えっと、雪歩」

雪歩「あ、おはよう真ちゃん。その着ぐるみ、なぁに?」

真「……じゃなくて、そう! 中には何も入ってないんだ! 手品! ボクも社長みたいに手品の練習中なんだ!」

ニャー「……フーッ」

やよい「あの、威嚇してるみたいな声が出てるんですけど」

真「いやー、腹話術を習得するのも苦労したよ! それはそうと雪歩、その肩の妖精みたいなのは一体」

ピクシー「ピュイ?」

雪歩「あ、背中にチャックが付いて……ひぃ!?」

真「あ! 開けちゃダメー!!」

雪歩「きゅう……」

ピクシー「ピュウ……」

真「気絶しちゃった……うーん、こっちの子も人形じゃないみたいだし、本当に妖精?」

やよい「あのー、真さん。この着ぐるみの中には何が入ってるんですか?」

真「うーん、これ以上嘘をついても仕方ないか。実は着ぐるみじゃないんだ、だから背中のチャックを開けたら内臓とかが詰まってる」

やよい「えっ」

真「雪歩が気絶するのも仕方ないよね、あはは……」

やよい「い、生き物なのにチャックが、ついてるんですか?」

ニャー「……ニィ」

真「不思議だよねー。さて、雪歩をソファに運ばなきゃ。キミも手伝って」

ニャー「ミャ」

やよい「すごい、雪歩さんを軽々……」

美希「おはようなのー……あふぅ」

やよい「おはようございます、美希さん!」

美希「おはよ。やよいにも紹介したげるね、ミキの新しいお友達」

ラウー「ボヘェ」

やよい「今度はお猿さん……」

美希「なんかこの子といるとのーんびりしちゃうの……あふぅ」

やよい「ちょっと分かる気がします」

美希「そういうわけだから、ミキは向こうでお昼寝するね……あふぅ」

ラウー「グオォ……ボヘェ」

やよい「は、はい」

ラウー「ウイー、ウォホホ」

やよい「え? バナナ、くれるんですか? ありがとうござい、ます?」

ラウー「……ボヘェ」

やよい「もぐもぐ……ごく。もしかすると、千早さんも不思議な生き物を連れてきてるかなーって」

千早「あら。こんにちは、高槻さん」

やよい「待ってましたー! こんにちは、千早さん!」

千早「待ってたの? 私を? 何か用事かしら」

やよい「あのあの、不思議な生き物に会ったりしましたか?」

千早「不思議な……生き物かどうかは分からないのだけれど、確かに会ったわ。でもどうして?」

やよい「話すと長くなるんですけど、実は伊織ちゃんの所の……」

千早「へえ、やっぱりそうだったのね」

やよい「やっぱり?」

千早「ええ、最初はもしかしてあの子じゃ、って思ったりもしたのだけれど」

やよい「? あの子って一体」

千早「ほら、出てきなさい。この子の姿を見てると、どうしても思い出しちゃうのよ」

ゴースト「スウゥ……」

千早「優のこと、少しだけ思い出しちゃうの。もう吹っ切れたと思っていたのだけれどね」

やよい「千早さん、あの、私……」

千早「いいの、気にすることはないわ。一人暮らしも寂しく思い始めた所だったから、ね?」

ゴースト「ヒュルルルー……ポンッ」

千早「こうやって手品で楽しませてくれるもの、退屈しないわ」

やよい「……うっうー! 千早さんが嬉しそうで私も嬉しいですー!」

千早「それにしても今日は事務所の中が賑やかね、お客さんかしら?」

やよい「はい! 実は千早さんだけじゃなくて皆さんも不思議な生き物に出会ってて」

千早「皆も?」

やよい「ただいまー!」

長介「おかえり姉ちゃん! こいつすごいよ、もう傷が塞がってるんだ!」

ワーム「シャーッ」

やよい「ちょ、長介! かすみたちに見つかったら」

長介「大丈夫だよ、俺がちゃんと説明しといたから。かすみたちも家族が増えたって喜んでる」

やよい「でも、お父さんやお母さんには」

長介「二人が帰ってきたら言ってみよう? 俺も説得、手伝うからさ。家族は多い方が楽しいだろ?」

やよい「……そっか。うん、そうだよね! よーし、それじゃもっともーっとお金を稼いで、うんと美味しいご飯作らなきゃね!」

ワーム「ギチチ、キチ、キチチチ」

やよい「えっへへー、明日は一緒に事務所行こうね! きっと沢山お友達が出来るよ!」

社長「音無君、これは一体どういうことかね?」

小鳥「私にもさっぱり……もう事務所っていうか動物園ですね」

ディノ「ギャオン」

ライガー「ガウ、ガウッ」

ハム「シュッ、シュシュッ」

ラウー「……ボヘェ」

スエゾー「ハーッ、ンガ」

ワーム「シャーッ」

ゲル「チャプチャプ、ドタプーン」

ガリ「ファッファッファッ」

モノリス「カタカタカタ」

ニャー「……ニィ」

社長「……賑やかだねぇ」

小鳥「そうでモゴモゴ」

プラント「シュルシュル……」

やよい「じゃあこれで逃げ出した動物は全部なの?」

伊織「みたいね。まさかうちの事務所に全員集まるとは思ってなかったけれど、とにかく見つかって良かったわ」

やよい「ね、伊織ちゃん。あの子たち、いつかは連れて帰っちゃうの?」

伊織「どうかしら。人に危害加えたりしたら一発で処分だと思うけど、学者連中は喉から手が出る程データが欲しいでしょうし」

やよい「怪我させたりなんかしないよ!」

伊織「そうよね、うちのバカうさぎ以外は大人しそうだし。なんであいつはあんなに反抗的なのかしら」

やよい「い、伊織ちゃん、あの子も悪気があるわけじゃ、だから」

伊織「分かってるわよ、送り返したりしないわ。ま、もうしばらく主導権争いは続くでしょうけど。ふ、ふふっ、ふふふ」

やよい「伊織ちゃん……怖いよ?」

伊織「今日こそはどっちがご主人様が思い知らせてやるわ……!」

やよい「あぅ……が、頑張ってね」

亜美「なーんかスエッチョは真美ばっかり構っててつまんない感じー!」

スエゾー「ハーッ!?」

亜美「ふん、何さ何さ! 社長もおたおたしながらしっかり手懐けちゃってさ!」

モノリス「ガタッ」

亜美「……白いキャンバスを汚したくなるのは人のサガだよねぃ?」

モノリス「カタカタカタカタカタカタカタカタ」

亜美「隙ありぃーっ!!」

モノリス「ガタタッ」

亜美「くぬ、くーしてくーして……へへ、一丁上がり!」

モノリス「……」

亜美「黒地に白の落書きがかっこいいぜぃ!」

スエゾー「ハッ……!?」

亜美「ん? スエッチョどうかちたの?」

モノリス「カタ、カタカタカタカタ、ガタタッ」

亜美「え?」

モノリス「ガタガタガタガタガタガタ!!」

亜美「ちょ、そんなに怒んないでよー! お茶目なイタズラ、冗談っしょー!?」

モノリス「ガタガタガタガタガタガタ!!」

亜美「ス、スエッチョ助けてー!」

スエゾー「フアァ……ンガ」

亜美「役立たずー!」

モノリス「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!」

亜美「ひ、や……きゃあー!?」

伊織「亜美、亜美!?」

亜美「いおりん……亜美は一体……そうだ、社長のモノッペに落書きしたら、そしたら」

ラクガキ「ヘヘッ!」

亜美「うあうあー!? 何これ何これー!?」

伊織「ん、こんな時に電話? もしもし……え? これも古代生物? こいつのデータも? ちょ、ちょっと!」

亜美「どったのいおりん?」

ラクガキ「シシシシ」

伊織「そのよく判らない奴も昔の文献に記述があるからデータを取りたいって研究者がってなんで早速仲良く肩組んでるのよ!?」

亜美「いやー、なんだかポンチーカンを覚えちゃって」

伊織「それを言うなら親近感でしょ、はぁ。仲良くなれたのなら都合がいいわ、そいつは亜美が引き取りなさい」

亜美「え? いいの!? やったー! 」

ラクガキ「ヘヘッ!」

伊織「ますます事務所が狭く、騒がしくなるわね……ま、賑やかなのもたまにはいいかしらね?」

ハム「ぷぅ」

伊織「おならしてんじゃないわよ! 空気読みなさいよバカウサはぶっ!」

ハム「シュシュッ、シュッ」

伊織「こ、この……! 待ちなさーい!」



やよい「元気になってよかったね、これからずーっと一緒だよ! えへへ!」

ワーム「シャーッ」

おわり

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom