少女「魔族の少女が人間に凌辱される社会」 (77)


少女「あの、この街で一番の探偵事務所って、ここで合ってますか?」

少年「ああ、そうさ。なに、君、お客さんなの? ずいぶん小さいね?」

少女「ち、小さくないですよ。さっさと探偵さんのところに案内して」

少年「あのねえ、そんなフードですっぽり顔隠してる怪しいヤツ、案内できるわけないだろ」

少女「え……フードしてちゃ、ダメ?」

少年「ダメダメ。顔見せな。人間じゃなかったら、困るからな」

少女「……わかりましたよ、ほら、これでいい?」パサッ

少年「っ!……お、おい君、まさか!! 顔隠せバカ!!」

少女「もがっ! あなたが見せろって言ったんでしょう!」

少年「誰か見てなかっただろうな……?」

少女「あなたしか見ていないわよ」

少年「君は、警察署から逃げだして指名手配中の……?」

少女「別に何もしてないのにねえ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1401205754

過去作のリベンジ
エロがメインではないです


少年「……ダメだぜ。君はダメ。うちの事務所の敷居は跨がせられない」

少女「こんなにかわいい女の子が困ってるのに見捨てるの?」

少年「見捨てる。かわいいとか関係ない」

少女「否定はしないのね」

少年「……真面目な話、この探偵事務所は姉さんがやっとのことで城下町に構えた事務所

なんだよ」

少女「……」

少年「姉さんは引きこもりで月イチでしか働かない怠け者だけど、探偵としての腕だけは

本物だ。そんな姉さんを俺は尊敬してる。だからこの事務所は俺が守るんだ」

少女「そういうことなら……」

少年「君を見たことは誰にも言わないよ。でもここからは離れてくれ」

少女「うん……」


少女(くそ……聞き込みで一番評判の良い事務所だったのに)

少女(家を出てから一年……この街に来てから二週間……昼間は人の群れにまぎれるから安全だけど……)

少女(警察はいきなり襲いかかってくるし……いつの間にか指名手配されてるし……)

少女(もうこの国にいるのも限界なのかな)

少女(……でも、国外に逃げれば、お姉ちゃんをさらった連中の情報も得られなくなる)

少女(危険を冒しても、ここで情報を集めるしかない……!)

少女(もう夕方か……夜は危ないし、これで今日は最後かな)

少女「二番目に評判の良かった探偵事務所……」


探偵「おつらいですね……」

少女「……」

探偵「しかし、賢明な方だ。焦って警察に駆け込まずに、こうして民間の探偵事務所を頼るとは」

少女「ああ、警察にも行ったんですよ。あのときは本当に危なかったです」

探偵「すると……今は逃亡中の身ですか? まだお若いのに苦労されているようですね……」

少女「……お姉ちゃんに比べたら、これくらい何でもありません」

探偵「そう、お姉さんの救出の件でした……紅茶を飲まれますか?」

少女「いえ、けっこうです」

探偵「そう……もちろん協力したいと思っていますよ。ただご存知の通り、警察も黙認している事件でして……」

少女「無理ならいいんです。その場合は早めに言ってください。他にもアテはあるんですから」

探偵「まあ落ち着いて……つまり情報が不足しているということです」
探偵「しかし、あなたの貴重な証言があれば、事情は変わるかもしれない」

少女「……それはおおげさな言い方です」

探偵「いずれにしろ、もう日も落ちて危険です。今は戦時中だ」
探偵「魔法族はみんな戦争に駆り出されてますよ。サンタの少女といえども、政府が放っておくことはないでしょう?」

少女「まぁ、確かにそっちの追っ手もついてるみたいですが。いつものことですよ」

探偵「今夜はここに泊まってください。……実は、ちょうど夕食が出来る所でして」

少女「……じゃあ、お言葉に甘えて」


少女「……ごちそう、さま、でした」

探偵「ずいぶん眠そうですね……? ベッドなら余っていますが」

少女「いえ、そんにゃの、ダメですよぅ……」
少女(いや、いくらなんでも眠すぎる……!!)

探偵「ベッドまでご案内しますよ。さあ、テーブルに突っ伏してないで……」

少女「――っ触るな!!」ガンッ

探偵「痛っ! お、起こそうとしただけですよ!」

少女「黙れ……」

探偵「少女さん……?」

少女「――っお姉ちゃんを返せよ卑怯者め!!」

探偵「だから一体なにを……って、もういいか。バレたみたいだし」

少女(指名手配中の私を知らない探偵がいてたまるか……なんで気付かなかった……)
少女(くそ……立ってられない……いつもは警戒してたのに……)

少女「睡眠薬でも入れたの……」

探偵「紅茶は飲まねえくせに飯は食うとは、分からんやつだ」

少女「お前が……お姉ちゃんたちを、さらったんだ……そうでしょう……?」

探偵「違うな。魔法族の娘なんて俺たち下々の連中にまで回ってこねえ……が」
探偵「話だけなら聞いてるぜ。人間の娘とは比べ物にならない極上品だってな!」

少女「……安い挑発で時間を稼ごうったって、そうは行かないから」

探偵「そう、これだよ! 妹は慎重で疑り深い! かれこれ1年も逃げ続けてる!」
探偵「今も窓を破って逃げ出そうとしてるな」

少女(だからどうした……気付いたところで、お前に止められやしないわ……)


探偵「さっき連絡したからもう下にいるだろう」
探偵「窓を破るのはやめときな。警察の張った網に飛び込むことになるぜ」

少女「っ!?」

探偵「力を解放して強引に包囲網を破るか? 無理だろうな」
探偵「警察署では一暴れしたようだが、あのときはもともと入口を背にしていたんだろ」
探偵「いわば戦略的撤退をしただけだ。でも今、お前は包囲されているんだよ」

少女(眠すぎる……ピンチなのに……何とか、しなくちゃいけないのに……)

探偵「まあ、そんなにビビることはねえよ」
探偵「お前のお姉ちゃんだって、基本的には良い生活をしているはずさ。政府と警察に同時に追われてるお前よりも、よっぽどマシだと思うぜ?」

少女(そんなはずは……だって、それじゃ、一年間も、私はいったい、何のために……)

探偵「もう階段を駆け上がってくる音が聞こえる……!」


○城下町

少女(ん……なんか、揺れてる……)

少女(すごく良く寝た気がするけど……ベッドの上じゃないし……)

少女(誰かにおんぶされてる……)

少女「お姉ちゃん……?」

少年「ん、ようやく目が覚めたのか……姉さん、目を覚ましたよ」

女探偵「よかった」

少女「姉さん……お姉ちゃん……?……ね、ねむ……」

女探偵「なんだ、まだ寝てるじゃないか」

少年「いつまで寝惚けてるのさ。重いんだから早く下りてくれよ……」

少女「重くないよ……お姉ちゃんには言われたくないよ……」

少年「だーから、俺はお姉ちゃんじゃないって」

少女「じゃあ、あなた、だれよ……って、あれ?」

少年「普通にワンステップで目覚められないのかよ」

少女「男だ……」

少年「今、姉さんの事務所に向かって――」

少女「ひっ、キャ―――――――!!!」ガツン

少年「痛っ! 的確にこめかみを強打するな!」


少女「下ーろーせーへーんーたーいー!!」

少年「静かにしてくれ! せっかく撒いたんだから!」

女探偵「早く下ろしてやれよ、変態め」

少年「姉さんが俺に運べって言ったんだろ!」

少女「下ーろーせーへーんーたーいー!!」

少年「分かったよ! いま下ろすから! 暴れるな!」

少女「ふーっ、足を触ったでしょう変態め……って、あなたは昼の!」

少年「この街で一番の探偵事務所の助手ですよー」

少女「あなたも変態だったのね」

少年「あのね……」

女探偵「弟が変態でごめんね、後で一発ぶん殴ってあげて」

少女「そうします」

少年「いや、もうさっき殴ったじゃん。あと変態連呼すんな」

少女「……ところで、警察を撒いたって言いました?」

女探偵「うん。でも、まずは急いでくれる? また見つからないとも限らないし」

少女「私はまだあなた方を信じたわけじゃないんですが……」

女探偵「それがいいね。けど、君には他に行くアテはなさそうだよ」

少女「? どういうことですか」

少年「……特別警戒態勢が敷かれてる。この街のすべての宿に警官がいるし、すべての門は封鎖されている」

女探偵「このまま夜道を歩いていれば、必ずパトロール隊に出くわすよ」

少女「あなた方みたいな物好きに頼るしかないと……気に入らない展開です」

今日ここまで
少女はサンタで、サンタは魔族の一種という設定

悪い子になったから来なくなっただけなんだ、きっと
再開します


○女探偵の探偵事務所


少女「私は北側の国境近くのサンタの里の生まれなんです。父は幼いころ死んで……お姉ちゃんと私は母に……育てられました」

少女「私が10歳になって、初めてのクリスマスイヴに、初めてのプレゼント配りに出ることになったんです。お姉ちゃんが連れていってくれました」

女探偵「サンタの能力は10歳から開花するんだったね」

少女「ええ。ちなみにお姉ちゃんは4つ上で、もう一人前でした」

少女「プレゼントが残り一つになった時、吹雪がひどくて、視界が無くなりかけて……お姉ちゃんは、私に先に帰るように言いました。残りの一つは、自分が届けるからと」

少女「心配だったけど、私は一人で帰ったんです。でも家に帰ると、母がいて、驚いてたんです。なんで帰ってきたんだと、そう言ったと思います」

少年「…………」

少女「私は変な気がしましたけど、その日はそのまま寝ました。けど、朝になったら、お姉ちゃんはまだ戻っていなくて、私は慌ててあの家に探しに行きました」

少女「お姉ちゃんが最後のプレゼントを届けた家は、空き屋で、お姉ちゃんはいませんでした。母に伝えると、吹雪で迷子になったんだろうと言いました。……ありえません」

女探偵「…………」


少女「もう分かると思いますけど、全て母の狙い通りだったんです。私はその事に気付くのにバカみたいに時間がかかりました。ただ、あのクリスマスイヴ以来、母に見張られてる気がしてました」

少女「気付いてからすぐ、家からも里からも逃げだして、国境を越えて、南側に入りまし

た。お姉ちゃんを探すために。さらった理由くらい、私にもわかりますから」


女探偵(遭難でも誘拐でも無い……人身売買。魔族の少女なら法外な値がつくはず)
女探偵(でも、お姉さんはなぜ少女ちゃんを一人で帰したのかしら)
女探偵(少女ちゃんもサンタである以上、迷子になるはずないってのに……ふむ……)


女探偵「…………こっちの印象はどうだった?」

少女「いい所だなと思ってました。サンタであることは隠してましたけど、別に今みたい

な理由じゃないです。人間の国だけど、魔族にも優しくて、共存している、そんな印象でした」

少女「――戦争が始まってからは、変わっちゃいましたけどね」


○探偵事務所


少年「おはよ……姉さん、なにしてんの、こんな朝っぱらから」

女探偵「荷造りしてるのよ。昨夜、少女ちゃんの事情を聞いたでしょ」

少年「聞いたけど。それと荷造りに何の関係が……って、まさか!」

女探偵「……」

少年「まさか、この事務所を引き払うつもりなのか……?」

少女「――そんなのダメですよ」

少年「少女! お、起きてたのか……」

女探偵「聞こえてたよね、少女ちゃん? 朝のうちに出発するから、支度しなさい」

少年「マジで言ってるのか? 支度って、そんな急な話……」

少女「ダメです! きのう、弟さんから聞きました。この事務所は女探偵さんの大切な……!」

女探偵「困ってる子を助けられない事務所に価値はない」

少年「この街の人たちはどうするんだ! 身捨てて行っちゃうのか?」

女探偵「落ち着きなさい。徹夜明けの頭に響くでしょ……」

少女「――これが落ち着いていられますか!」


女探偵「あー……少女ちゃん?」

少女「弟さんが正しかったんです! 私を見捨てればこの事務所は安泰なんです!」
少女「まだ間に合いますから、私を追い出して! 力を使えば一人でこの街を出るくらい訳ないですし!」

少年「……」

女探偵「それじゃ、あなたのお姉さんのことはどうするの」
女探偵「一人で探し続けるには限界があると思うわ。それに脱出にしても、空はもう安全じゃないし……」

少女「いえ、ごめんなさい。間違えました」

女探偵「間違えた?」

少女「ええ……私は単純に、まだあなた方を信じられないだけなんです」

女探偵「……」

少女「お二人は仲が良いんですね」

少年「そうかなあ」

女探偵「黙ってなさい。少女ちゃん、続けて」

少女「私、とってもうらやましいと思いました……けど」
少女「そういうのを見ると、私は疑うんです。ぜんぶ演技なんじゃないかって。実際、何度もだまされてきましたし……」

少年「……」

少女「いまだに処女を守っているのは奇跡としか言いようがありません。組み伏せられ、服を剥がれるのは一瞬なんですよ」
少女「男の人を見て、あと何秒でそうなり得るのか、数えていたりするくらい。くせなんですよ、人を疑うのが……」

少年「少女……」


少女「最低ですよね……たぶん、本当に助けてくれようとしてるんだと、頭では分かってるんですけど」
少女「怖いんですよ、信じるのが。裏切られるかもしれないから」
少女「ここで助けられて、いつ裏切られるかとビクビクしながら過ごすくらいなら、見捨てられたほうがマシだと思ってるんです」
少女「こんなに助け甲斐のない子はいないでしょう?」

女探偵「……弟よ、何か言うことは?」

少年「……少女」

少女「なんですか……?」

少年「君を見捨てようとしたりして、すまなかった……」

少女「……ふん、信じないよ……信じられないんだもん」

少年「信じてくれ――なんて、軽々しく言えないけどさ」

少年「……正直、きのう君の事情を聞いたとき、俺には全然実感できてなかったよ」
少年「政府と警察に同時に追われてるんだって、それ以上のことは想像できなくて……」

少女「……」

少年「俺は男だし……君が会話してくれることすら、俺は感謝すべきなんだろうな」

少女「……」

少年「信じてもらえるように努力するよ」

少女「……どうやって?」

少年「それは……そうだな」



少年「君を……守ることで、とか」


少女「……」ポカーン

少年「……」

少女「……」

少年「……ダメか?」

少女「……」

少年「……」

少女「……」プイッ

少年「あ、そう……」

女探偵「くっくっく……」

少年「――わ、笑うところじゃないだろ!」

女探偵「少女ちゃんはかわいいなあ! 抱きしめてもいい?」ギュッ

少女「むぐっ!!」

女探偵「弟は変態だから信用しない方が良い。私が守ってあげよう!」

少年「なんか俺の扱いひどくないか!?」

女探偵「そんなことないって!」

少女「はは……」


少女(好きで疑ってるわけじゃない……本当は信じたいのに……)

少女(一年間、知らない土地を旅して、誰にも心を開かないで……)

少女(たぶん、もう私は参っちゃってたんだろうな……)

少女(だから、昨日の夜、ちょっと信じてみたいと思ってしまった……)

少女(この人たちは、警察から私を救ってくれた……でも、それは手柄を横取りするためかもしれない)

少女(なんて発想……でもそう疑わずにはいられない)

少女(……窓まで三歩。今ここを飛び出して、空を飛んで門を越えて……)

少女(それから……どこへ行くんだろう?)

少女(こわい……また捕まるかもしれない。今度は助けも来ないだろうし……)

少女(でももし、この人たちが、本当にいい人だったら……)

少女(甘いよね……でも、何だかもう疲れたよ……)


少女「……分かりました。信じることにします」

少年「……!」

女探偵「よかった!」

ここまで

再開


○城下町

ガラガラ...

少女「わざわざ馬車まで……ありがとうございます」

女探偵「顔を見られちゃ、いけないからね。当然のことよ。隠れててね」

少女「はい」

少年「門番に知り合いがいるんだ。以前、姉さんが依頼を受けた」
少年「彼ならチェックを甘くしてくれるはずだ」

女探偵「後ろから追い越し。声おとして」

ガラガラ...

男「やあ、お嬢さん。今日は良い天気ですな」

女探偵「ええ、そうですね……。今日は、娘さんとお出かけですか?」

男「いいや、仕事ですよ。それとこれは娘ではなく護衛です」
男「魔女ですよ。市場で買いましてね。これがなかなか優秀なんだな」

女探偵「…………」

男「誤解しないでくれ。確かに商品名としては奴隷だが、そんな扱いはしてない」
男「あくまで護衛だよ。私は恋愛の出来ない男ではない」

魔女「…………」ツーン


女探偵「誤解しませんわ。ちなみに、お仕事は……?」

男「私は刑事です」

女探偵「まあ……それじゃ、大変ですね」

刑事「察しが良い。そう、実は逃げ出したサンタの少女を捜索中でしてね」
刑事「赤いフードを被り、背は低くて金髪――」

女探偵「でも残念。私一度も見かけませんわ」

刑事「馬車の中は?」

女探偵「荷物だけですわ」

少年「俺もいる!」

女探偵「これも荷物みたいなものですわ」

刑事「はは、おっしゃる通りで。――おいお前、本当に他にはいないのか」

少年「急に態度悪いな! ああ、いないよ!」

刑事「ふむ……本当にいないか?」

魔女「……探知はサンタの専門です。私には」

刑事「まあいい……ご協力に感謝いたします、お嬢さん」

女探偵「いえ、そんな。頑張ってくださいね」


○城門前


女探偵「誠意にも色々あると思うのね。仕事への誠意とか、恩人への誠意とか」

門番「……まぁ、女探偵さんの頼みじゃ、断れませんが」

女探偵「いろいろと大事な荷物が積んであるから。依頼人の個人情報とかね」

門番「ああ、それは他人に見られたくないですね。分かります。……じゃあ」
門番「一応見させてもらいます。でも、少しだけ手抜きます」

女探偵「助かるわ」

門番「じゃ、ちょっと中を失礼。――おお、少年くんじゃないか」

少年「久しぶり、門番さん。あれから問題ないかい?」

門番「おかげさまでね。あ、そこ見せてもらっていい?」

少年「どうぞどうぞ」
少年(大きめの箱も開けずにスルー……少女がじっとしていれば大丈夫だ)

ガラガラ...

女探偵「…………さっきの刑事、勘づいたわね。こっちに来るわ」
女探偵「門番くん。後ろの馬車、チェック厳しめによろしく」
女探偵「特にあの奴隷の魔女の入手ルートを徹底的に聞いてやりなさい」

門番「…………刑事に追われてるんスか?」

女探偵「…………」

門番「…………本当に、他に誰も乗せてないんですよね?」

女探偵「あなたが自分でチェックしたんじゃない。誰もいなかったでしょ?」ニコ


○城下町

ガラガラ...

刑事「――全く、何なんだ、あの門番は……」
刑事「あの女に買収されたとしか思えん。手掛かりにはならないな」
刑事「やはり、お前の言うように、確証を得るためにはサンタが必要か」

魔女「…………彼女たちは、望まないでしょう」

刑事「ふ、奴隷の望みなど……おっと、お前もそうだったな、すまん」

魔女「事実ですから」

刑事「うむ。……よし、着いたな」

魔女「お供しますか?」

刑事「当然だ。拘束されているとはいえ、魔族。調教が済んでない者もあるだろう」
刑事「いつも通り、護衛を頼むぞ」

魔女「仰せのままに」


○銀行

コツコツ...

男「これはこれは、刑事さん。先日は商品をお買い上げいただき……」

刑事「挨拶は良い。早く中に案内したまえ」

男「どうぞお入りください。ご案内いたします。――商品のほうに何か問題などは」

刑事「無い。素晴らしいよ。だからまた来た」

男「ありがとうございます。――本日は、どのような子を御所望で?」

刑事「うむ……サンタだ」

男「…………まさか、うちを疑ってるので?」

刑事「む?……ああ、いや、そういう意味ではない。早合点するな」

男「なら良かったので」
男「しかし、サンタですか……少しお待ちください。在庫があるか……」

刑事「ああ、良い知らせを待ってるよ」


コツコツ...

刑事「魔女よ、あまり離れるな」

魔女「申し訳ありません」

刑事「火が欲しい。つけてくれ」

魔女「誤って消し炭にしてしまうかもしれません」

刑事「危険は冒すものじゃないな」
刑事「――しかし、なんだ。君もアイツに手を出されたのかね」

魔女「いえ、私はここに入ってすぐ、ご主人様に買って頂いたので」
魔女「そういう……接触は……一切経験してないのです」

刑事「それは良かった。誰にとっても」

刑事「しかし驚くべきことじゃないか。たった半年だ……ここまで劇的に変わるものか」
刑事「むろん戦前にもあった……しかし地下に潜ってるのが当たり前だった」
刑事「今じゃ、堂々と銀行に商品が眠ってるんだ。驚くべきことだ」
刑事「合理的ではあるがね。奴隷を購入するのは富裕層に限られるからな……」

魔女「…………」

刑事「おっと、すまん。つまらん話だな。いや、もしや怒ったのかね」

魔女「いえ、彼が戻ってきました」

刑事「!」


コツコツ...

刑事「やあ、見つかったかね」

男「申し上げにくいのですが、ただいま在庫を切らしているので」

刑事「そうか、残念だな。金なら出すが」

男「いえ、本当に切らしているので。ただ、せっかくいらしたのですし、どうでしょう」
男「他の商品をご覧になって行きませんか? お詫びにお安く提供するので」

刑事「そうか……まぁ、見るだけ見ていくか」

男「そちらの奴隷は――」

刑事「護衛だ。むろん彼女も同行させる」

男「では、ご案内するので」

今日はここまで

薬味程度にはあると思います


○地下

コツ...コツ...


刑事「やはり、サンタはこの辺りでは希少なのか」

男「もともと南部には少ないので。また飛行種でもありますので。なかなか……」

男(おいおいおい……! 首輪も付けずに魔女を地下に入れる気か?)


刑事「暗いな……足元が見えん。魔女、明かりを」


男「!」


魔女「しかし……いいのでしょうか?」

男「あ、いえいえ、お構いなく。ただいまランプに火を入れますので」

男(つけあがりやがって……だが今更追い返せないぞ……暴れなければいいが)


コツ..コツ...


男「しかし……」

刑事「――?」

男「サンタというのは、希少性の割に、あまり役に立たん連中ですので」
男「需要が低く、そのためあまり出回ってないのですよ」
男「――――刑事様は、いったい何に用いられるおつもりで?」

男(まあ答えないだろうが)


刑事「お前の知ったことじゃない」

男「そうですか」

男「――さて、このフロアは主に魔女を扱っております」

男(もし奴が事を起こすなら……ここでだろうな)
男(すぐに買われたせいで、ここの連中と面識もほとんど無いだろうが……)
男(同種族として要らぬ正義感に駆られ暴れ出さんとも限らない)

男(…………ダメで元々だ。言ってみるか)

男「そういえば、そちらの護衛は、首輪をつけてないようですが……」
男「新調いたしましょうか? ここですぐにご用意できますが…………」

刑事「ふ……心配か?」

男「!」


刑事「気持ちは分かる。……だが安心しろ。コイツは暴れんよ」
刑事「首輪は…………前のは私が破壊した。今後も必要ないと思うね」

男「なら…………結構で」

刑事「うむ」

魔女「…………」

男(くそっ、根拠あんのかよ……。ああ、もう早く追い返したい)
男「――ではもうこのフロアはよろしいので?」

刑事「ああ、次に行ってくれ」

男「では、参りますので」チラ

魔女「…………」

男(だがまあ……特に動く様子は無いな。杞憂だったか……?)
男(やはり、口ではああ言ってるが、調教済みか。でなきゃ首輪無しなんて……)

刑事「次のフロアは何があるんだね?」

男「ああ、エルフですよ。第2フロアでは主にエルフを扱ってますので」


○第2フロア


コツ、コツ、コツ……


男「着きましたので」

刑事「広いな。一体どれだけいるんだ」

男「さあ……100は下らないでしょうね」

刑事「…………余ってるのか?」

男「いえ、エルフに関しては……在庫からも高い利益が上がりますので」

刑事「在庫から利益が?」

男「他のフロアもやってることですがね。やはりエルフが人気ですよ」
男「人間から見れば奇跡的な顔立ち――そして、もちろん肉体の方も完璧ですから」
男「是非、味見して行ってください。ぜひぜひ、遠慮なさらず。お安くしますので」

男(このままじゃコイツ、一銭も落とさずに帰りそうだからな……)
男(せめて味見くらいさせておかないと、とんだ時間の無駄になる……)

男「少しお待ちくださいね。―――おい、お前! 来い!」


タッ、タッ、タッ……


エルフ少女「てんちょー、呼びましたかー」


男(この糞ガキが……仮にも得意様の前で、なんつう態度だ)
男(あとでブチ犯して分からせてやる……。二度と舐めた態度を取れんようにな)

男(だが、顔と身体だけで引き抜いたのは間違いだったか……)
男(まあ、かと言って売り物にしたくは無いんだが……それも計算づくなのか?)

エルフ少女「店長? 用は何です?」

男「……店長と呼ぶな。また商品に戻りたいのか」

エルフ少女「それはイヤ……」ウルウル

男「なら、もう少し弁えろ!」

男(こうも素早くウソ泣き出来るものか?)

エルフ少女「あ、それで御用は?」ケロッ

男(もういい、疲れる……)

男「……お得意様だ。お前がご案内しろ。私は味見中の客を下げに行く」

男「刑事様」
男「こちらのエルフがフロアをご案内いたしますので。味見などどうぞご自由に」
男「どの子かお気に召しましたら、お呼びくださいませ」


コツ…コツ…


男(やれやれ……もう後は知らんぞ……)


パンッ…パンッ…


男「お客さま、お楽しみの所、お邪魔してすみませんが――――」


刑事「…………」

エルフ少女「あ、どうも、エルフ少女と言います」
エルフ少女「では、左側から案内するんで……。ついて来てくださいね」

刑事「ああ、すまないね。邪魔してしまって」

エルフ少女「……!?」

刑事「どうかしたか?……ああ、私があまり礼儀正しいものだから驚いたかね」
刑事「私は奴隷だからと言って邪険にはしないぞ。魔族は尊敬しているからな」
刑事「この魔女は私の奴隷だが、どうだ。見てわかるだろう」

魔女「…………」ツーン

エルフ少女(魔力を封じる首輪を付けてない!……なんで?)

魔女「…………」チラ

エルフ少女「!」ムカ

エルフ少女(……どうせあたしのこと見下してるんでしょ。やな感じ)

刑事「……気付いたかね?」

エルフ少女「…………」ゴクリ
エルフ少女「あ、そういうことですか~!」

エルフ少女「首輪を付けてないです! よほど礼儀正しくて、忠実な奴隷なんですね!」
エルフ少女(そうよ、首輪が無いのに、なんで従ってるのかしら。バカねー)

魔女「…………」

エルフ少女「あ、じゃあ、ご案内しますね」

刑事「ああ、よろしく。お嬢さん」


コツ…コツ…


刑事(……どういうつもりだ……なぜ、こんなにも陽気なんだ)
刑事(それにあの男への態度……この子にとって、立場を悪くするだけのはずなのに)


コツ…コツ…


エルフ少女「見えますかねー……みんな檻の中に隠れちゃってー……」
エルフ少女「暗いし、何かごめんなさいね。みんな怖がっちゃってー……」

刑事(本当、変だ……。同胞を思いやる気持ちも無さそうだ)
刑事(第一、エルフにしては軽薄すぎる。人間もそうだが、変わり者はいるものだな)
刑事(いやそんな単純な話ではなく……どうも、こう、わざとらしいような……)


エルフ少女「――誰か、良い子いましたか?」チラ


刑事「!……む、そうだな。もう少し見てから……」

エルフ少女「ですねー」

刑事(いかんいかん……この子にばかり気を取られて……)
刑事(しかしな……もともと私は……味見というのは性に合わんし……)


コツ…コツ……コツン…


エルフ少女「――あの、もしかして」ジッ


刑事「……! なんだ?」ビクッ

刑事(近い! 普通わざわざ自分から近づくか? 何考えてるんだ?)


エルフ少女「味見とかされるタイプじゃないんですか?」

刑事「!」

刑事(コイツ……!! いや、動揺するな。ただの子供じゃないか)

エルフ少女「…………」ジーッ

刑事「…………なぜ、そう思う?」



エルフ少女「そーですねえ…………」

エルフ少女「奴隷も大切にされる、優しい方みたいだから?」
エルフ少女「気を遣っちゃって、味見とか出来ないんでしょうか、なんてー」ニコ

エルフ少女「…………」

刑事「…………」

エルフ少女「当たってました?」


刑事(コイツ……そういうことか。見定められてるのは、私の方だったか)


刑事「いや、そうだな……確かに」

刑事「私は恋愛の出来ない男ではないからな」
刑事「商品名が奴隷だとしても、君たちを尊厳ある存在と認めるとも」


エルフ少女「そうですかー……」

エルフ少女「うん。すごいです! そんな人、今まで見たことないですよ!」


刑事(納得した……。あの男に敢えて軽薄な態度を取り、注意を引きつけ……)
刑事(まんまとこの案内役のポストを取り、客を逆に品定めしていたのか)
刑事(もちろん、自分の顔と身体が最大の武器であることも理解して、利用している)

刑事「――素晴らしい。尊敬する」


エルフ少女「へ?」


刑事「この環境で、よくそこまで立ち回れたものだ……」
刑事「顔と身体だけじゃない。たくましい精神こそ、君の最も美しい部分だ……」

刑事「しかし……もう必要ないな」

エルフ少女「???」

刑事「――――おい、会計だ! 一人に決めたぞ! 連れ帰らせてもらう!」


男「――――おお、ありがとうございます!」

男「しばしお待ちを――いま向かいますので――!!」


コツコツコツ...


男「お待たせしました。お買い上げ、ありがとうございます!」

男(まさか買いがつくとは……いいぞ)
男(地下で魔女を放し飼いにしやがったことは、忘れてやろうじゃないか)
男(サンタもすぐに手配しよう……わざわざ仕入れるんだ。値は釣りあげられるだろう)


男「それで……、どの子に決められたので?」

刑事「その前にひとつ……確認しておきたいのだが――」

男「はい、はい。なんでしょう?」

刑事「このフロアにいるエルフなら、どれでも良いのだな?」

男「もちろんですとも。もともとそのための在庫なのですから」

刑事「しかしだな……私は本来、サンタを買いに来たのだ……」
刑事「その在庫が無かった詫びに、他の商品を安くすると、確か言っていたな?」

男「言いました。言いましたとも……」

男(なんだ……? なぜか嫌な予感がするが……)
男(しかし、当たり前の確認しかしていない。何も問題ないはず……)


刑事「よしよし、それじゃ……この子をお安く売ってもらおうか」


男「――――!!!!!!!!」


エルフ少女「――――えっ、あたしですか」

エルフ少女「そうだなー……刑事さんになら、あたし……」

エルフ少女「買われちゃってもいいかなー……」テレテレ


男(――この、糞ガキ……!!!!!)

男(冗談じゃない。まだ俺は触り程度しか……早すぎる……!!!!!!)
男(こんな糞ガキでも、顔と身体は上玉中の上玉だってのに……!!!!!)


刑事「それで、いくらになるかね」

男「……お、お待ちください」

刑事「なんだね」

男「その子は……うちの案内役でして……つまり従業員でして……」

刑事「しかし、奴隷だろう。まさか賃金を支払ってるわけじゃあるまい」

男「そうですが……確かにこのフロアならと申しましたが……」

男(クソッ……うかつだった。完全に……)

刑事「私はこの子に決めたのだ。当然売ってもらうし、それだけじゃない」
刑事「当然、相場よりも安くしてもらわないとな」

刑事「相場は……まあ、金貨50枚くらいか?」

エルフ少女「えー、刑事さん、あたしにそれしか出してくれないのー」ニコニコ

男(クソッ……もう売るしかないのか。もっと早く調教していれば……!!!!!)


男(だが、この糞ガキを厄介払い出来ると思えば……それに、サンタも売れるだろうし)
男(ここは…………やむを得ない。が、しかし……)

男「金貨50枚はさすがに安すぎるので。相場は70枚と言ったところでしょう」

男(まあ、実際は60枚と言ったところだろうが……)

刑事「ふむ、じゃあ、間を取って相場は金貨60枚と考えて……」
刑事「それから5枚は負けてもらおうか。金貨55枚で売ってもらおう」

男「…………いいでしょう」

刑事「そんな顔をするな。案内役は、他に適任者がいるだろう」
刑事「この子には、あまり合っていないように思える」

エルフ少女「あ、ひどーい。一生懸命ご案内したのにー」ニコニコ


ジャラ...ジャラ...


男「……40……50…55。確かに頂きました」


刑事「元気出せよ」

エルフ少女「それじゃ、今までお世話になりましたー」ペコ

男「……上までお送りいたします」
男「サンタですが、ただちに手配いたしますので、是非またいらしてください」

刑事「ああ、今更よそに乗り換えたりしないさ。楽しみに待ってるよ」
刑事「おい、魔女! 行くぞ!」


タッ...タッ...タッ...


魔女「お待たせしました」

刑事「何していたんだ?」

魔女「いえ、特には」

エルフ少女「ご主人様をお待たせしないでよね!」

刑事「まあ、いいじゃないか」

刑事「上はもう夕方だろうな……帰る前に、エルフ少女の服を買ってやることにしよう」

エルフ少女「…………!!!!!」バッ
エルフ少女「服を……あたしに!? ありがとうございます! ご主人様!」

刑事「声が反響するから、あまり叫ばないでくれ」

エルフ少女「はーい!」


男(幸せで仕方ないって顔だな……しかし、この刑事)
男(奴隷に手は出さないと言うが、そんなことがあり得るのか……)
男(あの魔女はポーカーフェイスで何も分からんし……)

男(まあ、糞ガキがどうなろうと知ったこっちゃないが…………)


魔女「…………」

今日はここまで
もっとエロいほうがいいですかね?

バランス難しい
今日はメインパーティのほう進めます


○隣の町

ガタ...ゴト...


少女「ええっ! あの宿屋に泊まるって、本気で言ってるんですか?」

女探偵「安心しなさい。あそこの店主とは知り合いだから、大丈夫よ」


少女(……あなたのお姉さん、引きこもりって言う割に、知り合い多くない?)ヒソヒソ

少年(知り合いっていうか、お得意様だろう。うちの常連さ)ヒソヒソ

少女(それだけで大丈夫というのもどうかと)ヒソヒソ


女探偵「なに二人だけでコソコソ話してるのよ」

少女「いや別に何も!……あー、そういえば! 私この宿屋に泊まったことありますよ!」
少女「この宿屋の一階にあるレストランが最高で――」

少年「宿屋とかレストランとか……逃亡中によくそんな金があったな」

少女「半年くらい前まで拠点にしてた街の、郵便局で働いてたのよ」
少女「ほら、私飛べるし……もちろん、戦争が始まる前のことだけど」

少年「へえ……それでその街では、パン屋にでも居候してたの?」

少女「ううん、郵便局の建物の部屋を借りてたけど。なんで?」

女探偵「――無駄口はそこまで。少女ちゃん、私の後ろで目立たないようにしてなさい」


○宿屋


チリン、チリン...


コツ...コツ...


店主「……こりゃあ驚いた。引きこもりの女探偵が俺の店に来やがった!」


女探偵「私だって月に一回くらい外出するわよ……」
女探偵「あれからどう? 上手くやってるの?」


店主「問題無しだ。一時は閉店も考えたくらいだが……まあ、今は見ての通りさ」


女探偵「…………よかった。それで……出来れば、奥のテーブルがいいんだけど」


店主「なんか訳ありなんだろ、了解さ……」

店主「えーと、三人か? ――――おっと、君は確か女探偵の助手の……」


少年「少年です。その節は、姉がご迷惑をおかけしました」ペコリ


女探偵「…………」ピク

女探偵「ご迷惑? 何の事だか分からないけど」


店主「―――まあまあ、結局、事件は解決してもらえたわけだし!」

少年「すいません……」


店主「それで後ろの子は?……ん、最近会ったかな?」


少年「――!」


女探偵「ああ、弟の友達だよ」


店主「……そうか」

店主「うん、それじゃ…………、テーブルまで案内しよう」


コツ...コツ...


客1「おいおい、女の子だぜ。こんなムサい酒場にちっさい女の子がいるぜ」

客2「フードで顔が見えないぞ。でもキレイな唇だな」

客3「いやいや、あんなにちっさくちゃ話にならん。絶壁のようだ」


女探偵「ちょっと、あなた達ねえ……私を差し置いてチビッ子に……!」


少年「…………」チラ


少女「…………」ジー


少年(なんで僕をじっと見つめてるんだ…………?)


客1「女探偵は、おっかねえしなあ……でも妹がいたとは知らなかったぜ」

客2「お嬢ちゃん、こっちに座ろうぜ、何でもおごるからさあ」


少女「…………」ジー


少年「…………なに?」


少女「…………」ハァ

少女「女探偵さん…………私、ここ、無理です」


女探偵「そっかー……」


客3「無理だとよ。残念だったなー」

客2「だが恥じらうその姿もいい」

客1「そんな君が好きなのに」


女探偵「――――お黙り」


女探偵「……じゃあ、もう休んじゃおうか?――部屋空いてるよね?」


店主「ああ、空いてるが……でも、夕飯抜くのか?」


女探偵「仕方ないでしょう……部屋を二つお願い」


客1「おいおい、行っちまうぜ。ちっさい女の子が行っちまうぜ」

客2「フードで顔が見えないぞ。でもキレイな髪だな」

客3「しっかり食べなきゃ大きくなれないぞー」


少女「……」グイ

少年「わっ、ちょっ、引っ張るなって!」


○部屋


少女「――さっそく裏切ったわね! 何が『君を守る』よ!」バン

少年「そ、そう言われても……」

少女「…………」ジト


少年「……あいつら別に、君に触れたわけじゃないだろ?」


少女「バカね!――そういう目で見られること自体、耐えられないの!」


少年「過敏すぎ……いや、何でも無い。にらむなよ……」


女探偵「……ごめんね、あいつら悪い連中じゃないんだけどさ……」
女探偵「少女ちゃんの事情を知らないから……」


少年「そうそう、酒も入ってたみたいだし、ちょっと調子乗っただけっていうか……」


少女「……ふん」

少女「男なんてみんな死に絶えちゃえばいいんだ……」


少年「…………あー、少女さん?」


少女「……もう、寝たいです」


女探偵「……だってさ。少年は隣の部屋で寝なさいね」


少女「そして永眠しちゃえ……」

少年「……でも、すごーくお腹すいてるんですが」

少女「メシかよ……」

少年「なんか口調まで崩壊してないか……?」


女探偵「別に下で食べてきてもいいよ?」
女探偵「でも、寝るときはちゃんと隣の部屋で寝ること」

少年「りょーかい……姉さんはどうするの?」

女探偵「少女ちゃんを一人には出来ないでしょ。一緒に寝るわ」


少女「…………」


少年「……気持ちは分かるけど、姉さんを巻き込むのはどうかと思うよ」
少年「それに……あれくらいのこと、今までいくらでもあったんだろ?」


少女「…………」


少年「まったく……じゃあ、おやすみなさい」

女探偵「うん、おやすみ――あ、さっきも言ったけど、明日は5時起きだから」


少年「ああ、――わかってるよ」


バタン...タッ、タッ、タッ...


女探偵「……さて、ランプ消そうか」


少女「…………」


女探偵「私は食生活とか完全に崩壊してるし、ご飯抜くこともよくあるから……」


少女「…………」


女探偵「少女ちゃんがお腹すいてたら、一応パンとか持ってきてるけど、食べる?」


少女「…………」


女探偵「…………」


少女「――……ごめん、なさい……」


女探偵「!」


少女「わがまま言っちゃって……」


女探偵「……仕方ないよ、嫌なモノは嫌でしょ?」


少女「はい…………」


女探偵「――――もう、寝ちゃおう」

女探偵「寝巻きに着替えない方が良いかな? 何が起こるか分からないし」


少女「ええ……、私はいつもこのまま寝ちゃいますよ」

少女「もう準備万端です……」


女探偵「じゃあ、ランプ消しちゃうよ?……」フー

少女「二人だとちょっと狭いかな……ベッド」

女探偵「ううん、これくらいでちょうどいいでしょ」

少女「……何に、ちょうどいいんですか」


女探偵「あー、あのさ」


少女「はい」


女探偵「……私は女の子だから少女ちゃんの身体ぺたぺた触ってもいいよね?」


少女「……ま」

少女「……まあ、いいと思いますけど。女探偵さんはいろいろ率直すぎますよ」


女探偵「もう冬だし……、密着してないと寒いし……」

女探偵「この長くてふわふわの金髪がねえ……いいにおい……」


少女「口に含まないようにして下さいね」

女探偵「あの指名手配の写真、可愛かったよねー。長い髪が印象的でさ……」


少女「はあ……」

女探偵「やっぱり……うーん……切るのはもったいないけど……」


女探偵「少女ちゃんさ」


女探偵「ショートカットにしてみる気はない?」


○部屋


少女「……女探偵さん、散髪もできるんですね」

女探偵「あんまり期待しないでよ? えーと、肩より上まで行って良い?」

少女「肩までは残して欲しいかなあ……」

女探偵「オーケー。ランプの明かりだけじゃ暗いか……ちょっと手助けしてと」


少女(わ、火が大きく……魔法だ……)


女探偵「じゃあ、まっすぐ前向いててねー」

少女「――あ、でも、切った髪の毛とかはどうするんですか?」


女探偵「ああ、後で回収しとくよ。魔法で」

女探偵「じゃあ切るからねー」


少女「はい、お願いします」


シャキン...シャキン...


少女「…………」

女探偵「…………」


少女「女探偵さん……」

女探偵「なにか?」


少女「今日、わざわざ宿屋に泊まったのはなぜですか?」


女探偵「――!」

少女「…………」

女探偵「あーそれは……実はね……私、ベッドが大好きだから……」


シャキン...シャキン...


少女「ウソ…………じゃないんでしょうけど――」

少女「――そうじゃないでしょう?」


シャキン...


女探偵「じゃあ、なんだと思うの?」


少女「…………」

少女「……私と、二人で――――話したかったからでしょう?」


女探偵「…………」

少女「……そうでしょ?」


女探偵「いやー……」

女探偵「うん、弟よりもずっと鋭いね、少女ちゃんは」


シャキン...シャキン...


少女「じゃあ、そうなんですね?」

女探偵「それもある、っていう感じかな……頭まっすぐしてくれる?」

少女「はい……」


女探偵「……」

少女「……」


シャキン...シャキン...


女探偵「……いつから伸ばしてるのかな、この髪は」


少女「さあ…………お姉ちゃんがまだ居たころからだと……」

少女「でも、バッサリ行っちゃっていいですよ。変装にもなりますし」


女探偵「うん、それに少女ちゃんはショートでもかわいいと思うよー」


少女(いまいち真意のつかめない人だ……)

少女「……さっきの話ですけど」


女探偵「うん……何から話そうか……」

少女「なんでも…………」

女探偵「じゃあ、弟のことで」

少女「はい」


女探偵「少女ちゃん、私は驚いてるんだよ? うちの弟と普通に話せてるから」

女探偵「男性不信になっても仕方ない事情を抱えてるのに、あんなに仲良く出来てさ」


少女「別に、――仲良くは……」

女探偵「仲良いよ……いや……」
女探偵「――――…………ちょっと仲良くしすぎかな」


少女(仲良くしすぎ……?)


女探偵「もちろん、アイツはまんざらでもないんだろうけど……」
女探偵「人並みには変態だし、少女ちゃんはかわいいし……」

女探偵「――そう簡単に信じていいもんじゃなくて」


少女「――はい」

女探偵「…………」

少女「?」


女探偵「さっきも…………」

女探偵「二人きりでヒソヒソ話なんか、しててさ……」
女探偵「そりゃ、決めるのは少女ちゃんなんだけど――」

女探偵「あんまりあっさり決めちゃうと――、弟が調子に乗るだろうし」
女探偵「何て言えばいいのかなー……」

少女(……んっ?)


少女「な、なんか……誤解して、ませんか?」

少女「私、あいつのことなんて――全然、信用してなくって…………」

少女「女探偵さんを信じて、ここまで付いてきた、だけで……」

少女「あいつは……男だし、変態だしっ…………その」


女探偵「……うん」

少女「――!」

女探偵「――その認識で合ってるよ」
女探偵「でも、正直さっきまで、ちょっと忘れてなかった?」


少女「……忘れては、なかったと思います――――けど」

少女(無意識に……? いや……無いと思う、けど)


少女「…………」

女探偵「まあ、……仕方ないよ…………」


女探偵「一年間も……ずっと一人で、追われて、旅してきて……」
女探偵「そこにつけこむように、信じてもらってる負い目はあるのよ。――ごめんね」

少女「…………」

少女「―――いいえ」


少女「……私が、自分で――信じるって決めたんです……」

少女「たとえ裏切られても、――――恨んだりしませんよ」


女探偵「…………そっか」

女探偵「信じてくれ……とは言わない。けど、弟は良い子だよ」


女探偵「『君を守る』は正直、予想外だったけど……本気で、言ってると思う……」

女探偵「女の子の気持ちに鈍感過ぎるのが、まあ、弱点ではあるかな…………でも」

女探偵「……少女ちゃんが助けてって言ったら、きっと助けてくれるから」


少女(…………ふん……)


少女「信じるなって言ってるのか、信じろって言ってるのか、分かんないですよ?」


女探偵「ああ、ごめん」

女探偵「もちろん――信じて欲しい、よ。……でも、疑うのも……忘れないで」

今日はここまで


○宿屋の部屋


少女(疑えって言った当人を疑うっていうのも、おかしいけど……)

少女(女だからって、それで信じられるわけじゃないのは確かだ)

少女(でも、もう……たぶん30分以上は寝たフリをしてるけど、動きは無い……)

少女(やっぱり女探偵さんはいい人なんだろうな……)

少女(? 寝息が止まった)

女探偵「……っ」

少女(ベッドから出て行く……? トイレかな?)
少女(いや、それは女探偵さんも寝たフリをしてた理由にならない……)

女探偵「……っ」

少女(部屋を出てく……追うか? いや、あの人はまだ未成年だ。この場でサーチできる)
少女(少年の反応は……隣の部屋から動かない……何か伝え忘れたことでもあったのかな

?)

少女(……いや、階下に下りて行ってる)
少女(……通報するつもりか)

少女(いや、それなら城下町の事務所でやってるはずね……ただし)
少女(あの夜、私が一睡もしてなかったことが、バレていた場合は別だ)
少女(一日かけて私を信用させて、油断を突く……ありそうな話ではある)

少女(階下のテーブルに座ってるのか……もう閉店してるはずだけど)
少女(くそ、たぶん話相手は大人なんだろう……だから反応しないんだ)

少女(自分で見て、聞いてこなくちゃ……!)
少女(女探偵さんが席を立てば、私には分かる。離脱も可能!)

少女「っとと……なんか頭に違和感が……」
少女「ショートって、頭が軽くて、変な感じ……だけど悪くない」

少女「……よし、行こう」


○宿屋一階


店主「――引きこもりの女探偵が柄にも無く遠出とはね」

女探偵「良い機会だし、ほら、実家にも長いこと帰ってないしさ……」


少女(話相手は……店主さん、か……。見たとこ、二人だけだけど……油断禁物ね……)


店主「今、ここは地獄だぜ」

店主「戦時下で物資は不足してるし、警察と称する強盗どもが略奪を繰り返してる」
店主「うちだってもうすっからかんだよ。戦場からは少し遠いが、物流は滞り、客も減っ

た」

女探偵「うーん、引きこもってると、そういうのあんまり実感しないんだけどね……」

店主「平時なら、予約なしでうちの部屋に泊まるなんて、まず無理だ」

女探偵「……ひもじいのはみんな同じさ」


店主「…………それだけじゃない」

店主「奴らは魔法族の若い女を血眼になって探して、片っ端から凌辱している」
店主「軍の連中も同じさ。軍の指揮を維持するためだとか、魔法族の血筋の者を増やし戦

力を増強するとか」
店主「何でも適当なことをほざいて……もともと、同じ国の民だというのに」
店主「結局これが俺達、南側の選択なのか。今じゃ奴隷市場ほど儲かる市場は他にない」

少女(……)

店主「――この状況で、あんたは逃げちまうのかよ?」


女探偵「…………」

女探偵「お忘れのようだけど――」
女探偵「私だって人間とは言え、女の子なんだよ?」


店主「…………ふぅ」


店主「女の子が聞いて呆れるぜ。かつては軍の中枢で暗躍してたくせに」


少女(…………!?)


女探偵「いつの話をしてるのよ」
女探偵「別に中枢ってほどじゃないし……もう忘れたし」


少女(軍……ですって?)


店主「嫌なことは忘れちまったってか。今でもあんたを頼りにしてる人は多いだろうに」

女探偵「若い頃にさんざん媚を売っておいた効果が、ようやく出てきただけよ」

店主「若い頃って、あんたまだ……19だろ?」

女探偵「私が少女ちゃんくらいだった頃の話よ」

女探偵「ほかに女なんかほとんどいなかったし、しかも私はまだうら若き乙女だったし」

女探偵「みんなのオカズにされて、気分いいやら悪いやら……いや、悪かったわね」


店主「やめてくれ」


女探偵「……あなたも良い人だよねえ」
女探偵「――以前、少女ちゃんがお世話になったみたいじゃない」

店主「! そういや、あの子……」
店主「大丈夫だったのか? 変なことされてないだろうな……?」

女探偵「ま、なんとかね……」

店主「そうか……」

女探偵「あの子、ここに泊まったことがあるって、言ってたけど……?」


店主「二週間くらい前までな。それなりの期間、滞在してたぜ……一週間だったか」
店主「いつも朝早く外出して、帰るのは夕方前……つまり客の少ない時間帯を狙ってたん

だろう……」

少女(……)

店主「いつもカウンターの一番端に座って、赤いフードをすっぽり被って、ずーっとうつ

むいてるばかりでさ」
店主「口を開くのは注文の時だけだったんだが、最後の日だけは、出発の前に挨拶しに来

てくれた」

少女(……)

店主「あの城下町に行くって言っててさ。……もちろん、俺は止めたんだ」
店主「このタイミングであの街に行くなんて、絶対やめた方が良い。女の子一人でなんて

危険すぎるってな」
店主「だがまさか、俺は君がサンタの少女だと知っているんだ、とまでは言えないし……



店主「……結局止められなかったよ」

少女(バレてたの……!?)


女探偵「あら、言えば良かったじゃない。そしたら保護してあげられたのに」


店主「言えるかよ。俺はそのとき初めてまともに会話したんだぞ? 保護なんて信じても

らえるわけない」


少女(…………)


女探偵「……懐柔と信用作りは、全部私に丸投げってわけね?」


店主「悪いが、苦手でな」
店主「俺には娘もいないし……もちろん、情報提供の方は全力でやるからさ」


女探偵「…………まあ、いいわ」

女探偵「喉渇いたわね。――何かちょうだい」

店主「あいよ。……ちょっと待ってな」ガタッ


コツ...コツ...


少女(――――ここなら大丈夫)


店主「…………」


ゴソ...コツ...コツ...


店主「――あんたは今、なに考えてる? 少女ちゃんをどうやって救うつもりだ?」


少女(……テーブルに戻って行く)


女探偵「……もちろん、軍や警察から死守するのよ」


店主「…………」


女探偵「捕まって奴隷に身を落とした魔法族の少女たちがこの国には何千人もいる」
女探偵「貴族たちは買い集めた彼女たちを、調教と称して特殊な器具で縛」


店主「――おい、そんなことは聞いてないぞ!」


女探偵「――特殊な器具で縛り、調教と称して凌辱するの」
女探偵「つまり、少女ちゃんを絶対守らなきゃならないのよ…………」


店主「…………具体的には?」


女探偵「うん……結局、最終的には、戦争が終わるのを待つしかない、ね」

店主「……」

女探偵「不満?」

店主「いや、そうだな……」

女探偵「うんうん……」


店主「南側は、もうおしまいだ。戦線はどんどん南下してきている」
店主「それも当然だ。戦力となるはずの魔族を、奴隷制度に組み込んでいるんだから」


女探偵「魔族の女の子ってのは、そんなにおいしいもんなのかなあ?」


女探偵「軍や警察の男どものヤバすぎる眼を見てると、ちょっと興味湧くんだけど……」


店主「…………」


女探偵「……どうなんでしょう?」


店主「……知らん、俺に聞くな」


女探偵「そう……ね。――たとえば、少女ちゃんに欲情しちゃったりしなかったの?」
女探偵「あの子無茶苦茶かわいいし……胸はないけど……」


少女(…………人のこと言えないでしょ)


店主「不謹慎すぎるだろう……本人がいないと思って……」


女探偵「私がしてるのに、あなたがしないっていうのもおかしいでしょ?」


店主「衝撃の告白だな、女探偵。女が女に欲情するとは……」

女探偵「そんなにおかしなことでもないわよー」


少女(あーっ……もういっか……これ……ただの雑談だ)
少女(ベッドに戻ろ。ほんとに眠たくなってきたし……)


少女(店主さん……私のこと分かって、見守っててくれたんだ……)

少女(もちろん、お姉ちゃんを助ける前に保護されるわけにはいかないけどね……)


少女(……さてと、さっきと同じ姿勢で寝てなくちゃ)


少女(一人だと……ベッドが広く感じちゃう……寒い……)

少女(ずいぶん気温が下がったな……そういや、そろそろクリスマスが近いなあ)

少女(去年のクリスマスイヴに家出して……ようやく一年っていうことね)

少女(お姉ちゃん……絶対助けに行きますから……)

少女(明日は5時起きなんだっけ……さっさと寝ちゃお……)

今日はここまで

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom