小咲「バナージ君、私……」 バナージ「え……?」 (485)
ニセコイの一条楽を、ガンダムUCのバナージ君に入れ替えただけです
中の人繋がりがやりたかっただけです…
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バナージ「……」テクテク
千棘「遅刻遅刻ぅ~!」シュバッ
バナージ「え」
千棘「げ」
バキャアッ!!
バナージ「ぐはあッ!!」
千棘「あたた……ごめんね! 急いでたから!」ダダダ
バナージ「な、何を……」ガクッ
[教室]
小咲「バナージ君!? どうしたのその怪我!」
バナージ「……突然やられたんだ。学校の塀を飛び越えた変な女の人に……」
集「おいおい、ウチの学校の塀は2m以上あるんだぞ。それを飛び越えるって……」
バナージ(強化人間かもしれない。じゃなきゃ、あんなことできるはずが……)
小咲「は、鼻血出てるよ? ちょっと待って、今絆創膏を……」
バナージ「いいよこのくらい。すぐ直るから」
小咲「ダメだよ! ばい菌入ったらどうするの?」ペタ
バナージ「あ、ありがと……」
集「ほう……良かったなあ、バナージ」ニヤニヤ
バナージ「……何がだよ」ムスッ
バナージ(正直嬉しかったかな……。小野寺さん優しいし)
バナージ「もてない男の絶望を押しつけてもらっては困る!」
リディ「バナァァァァジィィィィィッ!!」
先生「おーし、今日は転校生を紹介するぞ。桐崎さん、入ってー」
千棘「初めまして! アメリカから転校してきた桐崎千棘です! この通り日本語はバッチリなので、皆さん仲良くして下さいね!」
<ウオー!! カワイイー!
<スゲービジンダゾ!!
千棘「ん? あの人……」チラ
バナージ「……」プルプル
千棘「あーーーっ!!」
バナージ「あ、あなたはっ!!」ガタッ
千棘「あなたさっきの……」
バナージ「……どうして、どうしてあの時、俺に膝蹴りなんかしたんですか!」
千棘「ひ、膝蹴りって……人聞きが悪いわね! たまたまぶつかっただけでしょ! それに、ちゃんと謝ったじゃない!」
バナージ「あれを謝ったと言うのなら、あなたはどうかしている! ぶつかったって……あんなの、人のやることじゃありませんよ!」
千棘「何ですってェーーッ!!!」ブチッ
ドゴオォン!!
バナージ「ぐああっ!!」ドシャァ
こうして、俺の苦労の毎日が始まった。
けど、俺は負けない。
自分の中にある、可能性という名の内なる神を信じて――。
俺の名前はバナージ・リンクス。
この春から高校に通う、ごく普通の高校生だ。
とは言っても、周りからすれば俺はどうも普通には見えないらしい。
それもそのはず、俺の家は“ビスト財団”と呼ばれる超巨大財閥の家柄で、父さんはその当主であり、そして俺はその一人息子。
だから、何をするにもお目付役のガエルさんがいて、俺の面倒を見ていてくれるのだが……
バナージ「まずい、遅刻してしまう!」
ガエル「バナージ様、ご心配には及びません。只今、ベースジャバーを手配しております」
バナージ(大袈裟ですよ!)
俺がケンカで負けてボロボロになりながら帰って来た時も、ガエルさんはモビルスーツに乗って報復をしたことがあったっけ……。
とまあ、そんな感じで、色々と苦労の絶えない生活を送っているけれども、まさかこんなことになろうとは思ってもいなかったんだ。
カーディアス「バナージ。我が財団と、ある武装組織との抗争については知ってるな?」
バナージ「まあ、それなりには……」
カーディアス「それがいよいよ、全地球圏を巻き込む戦争になりかねない事態になってしまった」
バナージ「! 戦争って……いけませんよそんなこと!」
カーディアス「そうだ。だからこそ私も、全力で阻止したいと考えている。そこでだ。たった一つだけ、この戦争を回避する方法がある。しかもそれはバナージ、お前にしかできないことだ」
バナージ「……俺にしか、できない……?」
カーディアス「……やってくれるな?」
バナージ「やります! 俺にできることなら、何だって……!」
カーディアス「そうか。そう言ってくれると信じていた」
バナージ(戦争だなんて、絶対にあっちゃいけないんだ! それを止められるのなら、俺は!)
カーディアス「実は、向こうの組織のリーダーとは面識があってな。あの男にも、お前と同い年の娘がいるらしい」
バナージ「……?」
カーディアス「そこでだバナージ。その子と、恋人同士になってくれないか?」
バナージ「…………、はい?」
一瞬、この人が何を言ってるのかわからなかった。
生まれて初めて、実の父親の気が確かなのか、本気で疑ってしまった。
カーディアス「なにも本当に恋人同士にならなくていい。あくまでフリだ。財団の息子と組織の娘が恋仲と知れば、下の連中も下手に動けんだろう」
バナージ「そんな無茶苦茶な……!」
バナージ(俺には、小野寺さんがいるんだぞ……。彼女の目の前で、恋人を演じろと言うのか?)
カーディアス「だが、これで無益な血を流さなくて済むのだ。わかってくれ、バナージ」
バナージ「ぐっ……」
バナージ(でも、何でもするって言ってしまったしな……。あくまでフリなら、数日で済むだろうし、これで戦争が避けれるなら……)
カーディアス「よし、では入ってくれたまえ」
バナージ「ちょ……、もう来てるのか?」
<「だ、だからパパ! まだ私やるって言ってないし……!」
<「やるかやらないかという問題ではない。それが現実だ」
<「いやいや、でも……」
バナージ(…………この声、まさか……)
カーディアス「紹介しよう。この子がお前の恋人になる、桐崎千棘ご令嬢だ」ガラッ
千棘「ま、待ってよパパ! まだ心の準備が……」アタフタ
フロンタル「わがままを言うな千棘。ご挨拶に向かうのだ」
バナージ「」
千棘「…………えっ、何でアンタが……」
そう、俺はこの女の人を知っている。
学校の塀を飛び越え、いきなり俺に跳び膝蹴りを喰らわした、強化人間。
あの日以来、俺と彼女は何かと衝突し合ってばかりで、決して仲が良いとは言えない関係だ。
が、まさかこんな形で彼女と巡り会うなんて、これも何かの因縁なのだろうか。
フロンタル「ほう。既に面識があったか。そう言えば二人は、同じ学校に通っているのだったな」
カーディアス「それなら話は早い。早速だが君達二人には今日から向こう3年間、恋人同士になってもらう」
バナージ「えっ……、ええ!?」
千棘「えぇーーーッ!!?」
かくして、相性最悪の俺達は今日この瞬間から、恋人になったわけだ。
千棘「ちょ、ちょっと待ってよ! どういうことなのパパァ!?」
バナージ「父さん! これは一体何だってん言うですか! それに、この変な仮面を付けた人は誰です!?」
カーディアス「紹介が遅れたな。この方が、武装組織“袖付き”のリーダーであるフル・フロンタル大佐だ。千棘お嬢様は、大佐のご息女にあたるお方なのだ」
フロンタル「君のことは、お父上からよく聞いている。不肖の娘だが、よろしく頼むよ。バナージ・リンクス君」
バナージ「よろしく頼むって……無理ですよ!! 大体、どうやったら俺と彼女が恋人同士なんて……!」
千棘「そうよパパ! 私とコイツ、学校じゃもの凄く仲悪いんだから!! そもそも、誰がこんなもやし男と!!」
バナージ「強化人間だからって、何ヤケになってるんです!」
千棘「誰が強化人間だゴラァ!!」
ドッカン バッコン
ギャー!! ギャー!!
カーディアス「ふむ。見た所仲良さそうじゃないか」
フロンタル「同感ですなご当主」
バナージ&千棘「良くない!!」
カーディアス「だがな、この戦争を止めるには、もう他に方法は無いのだ」
フロンタル「そうだ。しかもこのままでは、かなり面倒な事になる」
バナージ「ええっ! それってどういう意味……」
???「お嬢ーーーーーッ!!!!」
ドッギャアァン!!
バナージ「な、何だ!?」
???「お嬢、私が目を離したばっかりに……お許し下さい」
千棘「ぜ、ゼクス……!! あんたなんで来たの!?」
ゼクス「このゼクス・マーキス、お嬢のお目付役として例え火の中水の中、いかなる場所であろうと馳せ参じます!」
バナージ(モビルスーツで突っ込んで来るなんて……この人はどうかしている!)
ガエル「ご当主、バナージ様! お怪我は……」
バナージ「ガエルさん!」
ガエル「……よもやテロリスト風情が、我らビスト財団に刃を向けるとは。愚の骨頂ですな」
ゼクス「連邦との癒着から抜け出せず、惰眠を貪る輩がよく言う。ただの“ガンダムもどき”が、私の《トールギス》に勝てるとでも?」
ガエル「……」ゴゴゴゴ…
ゼクス「……」ゴゴゴゴ…
バナージ(こ、これは危険だ! このままでは、本当に全面戦争になってしまう……!)
フロンタル「下がりたまえ、ゼクス特尉。私は、無駄な争いはしたくないのでな」
ゼクス「は……これは失礼致しました、大佐」
フロンタル「それにだ。仲睦まじい少年少女の間柄を、大人の勝手な都合で引き裂いてしまうのも、気が引けるというものだ」
ゼクス「……?」
カーディアス「そうだな。何を隠そうこの二人は――」
フロンタル「超ラブラブの」
カーディアス「恋人同士なのだから」
ガエル「」
ゼクス「」
バナージ(な、何ですってェーーーッ!!)
千棘(何言ってんのよおおォーーッ!!)
ガエル「バ、バナージ様……。とうとう交際相手をお作りになったのですね。何と嬉しい限りか……」
バナージ「ちょ、違う! 違うんです! まだ俺は恋人なんて……」
ゼクス「お嬢……申し訳ありませんでした。まさかお嬢が、ここまで立派なレディに育っておられるとは……。これを喜ばずして、何がお嬢のゼクスでしょうか……」
千棘「い、いや……まだ私、恋人だなんて言ってないし!」
ガエル「そういうことなら話は別です。バナージ様の未来のためにも、直ちに戦線を下がらせます!」
ゼクス「我々も同じです。お嬢が安心して交際できるよう、全力でサポート致します。全軍撤退だ! お嬢の邪魔立てをしてはならんぞ!」
ギュイィン!
シュゴオォ……
バナージ「……帰って行ったのか?」
千棘「そ、そうみたいね……」
バナージ(てか、どうすんだよコレ! 完全に恋人だと思われたじゃないか!)
千棘(あああ、最悪! 恋人の真似ならまだしも、よりによってコイツなんかの相手をするなんて!)
カーディアス「若い連中も納得してくれたようだな。これで当分は、争わなくて済みそうだ」
フロンタル「自分達の仲――それも恋愛を認めさせることで、争いを避ける。これが若さか……」
バナージ(自分達の都合で、子供をダシに使うなんて……大人のやることですか!)
そんなわけで、俺と彼女のニセモノの恋が始まった。
しかし、この先に待ち構える苦難がどれほどのものか、俺はまだ想像もしていなかった。
フロンタル「さて、私達も帰るとするか。ところでバナージ君」
バナージ「あ……はい」
フロンタル「君とは以前、どこかで会ったような気がするのだが、私の思い違いかな?」
バナージ「え……」
フロンタル「まあいい。今度、君とは娘も交えてお茶でも一緒にしてくれると嬉しく思う」
千棘「ちょっ、ちょっとパパったら……!」
実は俺も、全くの初対面にもかかわらず、この人と会った瞬間から何か因縁じみたものを感じていたんだ。
どこか遠い世界で、この人と会ったような……。
フロンタル「千棘、コックピットに乗りなさい。すぐさまここを離脱するのでな」
千棘「ま、待ってよパパ?!」
あの人はそれだけ言い残して、赤いモビルスーツに乗って帰って行った。
そのモビルスーツも、俺はどこかで見たような記憶があると思ったのは、気のせいだろうか。
>>69の文字化け修正
フロンタル「さて、私達も帰るとするか。ところでバナージ君」
バナージ「あ……はい」
フロンタル「君とは以前、どこかで会ったような気がするのだが、私の思い違いかな?」
バナージ「え……」
フロンタル「まあいい。今度、君とは娘も交えてお茶でも一緒にしてくれると嬉しく思う」
千棘「ちょっ、ちょっとパパ……!」
実は俺も、全くの初対面にもかかわらず、この人と会った瞬間から何か因縁じみたものを感じていたんだ。
どこか遠い世界で、この人と会ったような……。
フロンタル「千棘、コックピットに乗りなさい。すぐさまここを離脱するのでな」
千棘「ま、待ってよパパー!」
あの人はそれだけ言い残して、赤いモビルスーツに乗って帰って行った。
そのモビルスーツも、俺はどこかで見たような記憶があると思ったのは、気のせいだろうか。
――次の日
バナージ「ふあぁ……もう朝か」チュン チュン
バナージ(昨日のせいでまだ疲れが残ってるな……。今日は家に籠もって寝ていよう)
ガエル「お目覚めですか、バナージ様」
バナージ「ガエルさん……おはようございます」
ガエル「バナージ様、お疲れのところ申し訳ないのですが、バナージ様にお客様がお見えになっています」
バナージ(客……俺に?)
ガラッ
千棘「ご……ごきげんようダーリン!」ダラダラ
バナージ「……」
ガエル「……」
千棘「と、突然で悪いんだけど……今からデートに行かない!?」オドオド
ガエル「バ、バナージ様……これは……」
バナージ(何なんだよ朝っぱらから……!)ズーン
ゼクス「今日は良い日和だ。こんな日に付き合いたてのカップルがデートに行かない理由など、どこにも無いハズだが」
バナージ「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 学校はどうするんだ!」
ガエル「……今日は土曜日です。バナージ様……」
バナージ(なっ……何ィ……!)
ゼクス「……少年。何を浮かない顔をしているのだ?」
バナージ「デ……デートって、どうして俺がそんなこと……!」
ゼクス「どうしてもこうも無いだろう。君とお嬢は恋人同士なのだからな」
バナージ「ぐっ……!」
ゼクス「……もしや、お嬢とのデートが嫌だと、君はそう思っているのか?」ゴゴゴゴ…
バナージ「ち、違います! 断じてそういう意味では……」
バナージ(凄まじいプレッシャーだ! 近くにいるだけで震えが……!)ブルブル
ゼクス「ならば、早く準備を済ませるのだな。男子たる者、レディを待たせるものではない」
バナージ「……はい。すぐ支度します……」タッタッタ
千棘「……は、早くしなさいよ!」ムキー!
バナージ(言われなくてもわかってますよ!)
[街中]
千棘「……なんで、なんで私がこんな目に遭わなきゃなんないのよおォーー!!」ウワーン!
バナージ「…………(朝から騒がしい人だ……)」
千棘「なんなのよコレ! なんの嫌がらせ!? 私の大切な初デートが、こんなもやし男とだなんて、人生始まった以来の汚点だわ!!」
バナージ(……せっかく見た目は可愛いのに、その粗暴な態度や言動が全てを台無しにしてると、この人はわかってないのか?)チラ
千棘「……何見てんのよこのカス! ジロジロ見んな変態!!」ウガー!
バナージ「見てませんよ!」
バナージ(ダメだこの人……。こんな強化人間、いっそ再調整してもらった方が良いんじゃないか?)
千棘「あーもう、やってらんない! それじゃ私、先帰るから」
バナージ「え?」
千棘「え?じゃないわよ。ゼクス達もいなくなったんだから、これ以上私とあんたがここにいる理由なんてないでしょ。それともあんた、まさか本気でこのあたしと――」
バナージ「!」ティリリン!!
千棘「ちょっ、急に真顔に……」
バナージ「静かに!! (木陰に誰かがいる……?)」キッ
千棘「ひッ!」ビクッ
ゼクス(……む!? あの少年、こちらに気付いたのか?)ガサゴソ
ガエル(流石、ご当主の血を引くお方だ。かような小細工は直ぐに見破られると……)ゴソゴソ
千棘「ど、どうしたのよ……?」
バナージ「……つけられている。ついて来て!」ガシッ
千棘「えっ、ちょっ/// 離しなさいよこのもやしー!」ジタバタ
[近くの公園]
千棘「はあ……はあッ……。疲れた……」ゼェゼェ
バナージ「…………っ」ハー ハー
バナージ(かなり走ったはずだけど、まだ誰かの視線を感じる……。大人数で来ているのか? それとも、偵察用モビルスーツが遠くから俺達を監視している……? どちらにしても、撒くのは難しいな)
千棘「ちょっとアンタねぇ! いきなり私の腕を引っ張って走らせて、一体何のつもり!?」
バナージ「……俺達、誰かに見られていますよ」
千棘「ええっ!? そ、それってストーカーじゃない!!」
バナージ「多分、俺達の仲を疑わしく思った誰かが、尾行を付けたんでしょう。恐らくは、あのゼクスさんとかいう人の差し金です」
千棘(あ……あいつったら、本当に過保護なんだから……!)
バナージ「とにかく、今は全力で恋人のフリをしましょう。もし俺達の本当の関係がバレたら、取り返しのつかないことになる……!」
千棘「……そっ、そうよね! 戦争だけは止めなきゃいけないもんね! 下手すりゃ、でっかい隕石が落ちてくるかもしんないし……」
バナージ(良識はあるんだな、一応……)
千棘「でも、恋人とは言っても、私達一体何すればいいのよ……」
バナージ「知りませんよ。大体、俺なんか誰かと付き合ったことなんて無いんですから」
千棘「わ、私だって無いわよ!」
バナージ「……そうなのか?」
千棘「……し、仕方ないじゃない! 恋愛とか、そういう関係みたいなのあんまり得意じゃないし、よくわかんないのよ……」モジモジ
バナージ「……何で縮こまってるんです?」
千棘「う、うっさいわね! ちょっとトイレに行きたくなっただけよ! ついてくんじゃないわよこのバカもやし!!」ダダッ
バナージ「…………」ハァ
千棘(ていうか、さっきコイツに手を引かれただけで、何でこんなにドキドキしてんのよ! あたしとしたことが、全くの不覚だわ!)
バナージ(本当によくわからないな、あの人……。ああも騒がれるだけで、こんなに疲れが溜まるなんて……)ゲンナリ
バナージ「……もし、このデートが小野寺さんとだったら、どんなに嬉しいことか……」ハァ
???「あ、あの……今呼んだ?」
バナージ「」
小咲「お、おはようバナージ君!」
バナージ(……お、小野寺さん……なのか……!!?)ビクビクゥ
小咲「もう、びっくりしたんだよ? バナージ君見つけて声かけようとしたら、急に私の名前呼ぶんだもん」
バナージ(聞かれていたのか!? どうする俺……!)
小咲「……こんな所で、何してたの?」
バナージ「い……いや、ちょっと散歩に……」
小咲「そうなんだ……。でもどうして、私の名前なんか呼んだの……?」
バナージ「そ、それは……!」
バナージ(ダメだ、言葉が思いつかない! そもそも、あんな独り言聞かれた時点で何を言い訳すればいいんだ……!)
一方その頃……
ゼクス「……よし、後方の《アイザック》は下がらせろ。後は私一人で見張っている」ボソボソ
???『了解しました。ゼクス』プツン
ゼクス「……やはり、私の読みが正しかったようだな。恋愛に馴染めない男も、少しは役に立つということだ」
ゼクス(あの二人、恋人らしい素振りも見せなければ、会話もお嬢の罵声しか聞こえない……。だとすれば……!)
ゼクス「……少年。君が本当にお嬢の恋人かどうか、この眼で見定めさせてもらうぞ……!」ジーッ
千棘(……ま、マズい! ゼクスの奴、ここまでついてきたの!?)
千棘(大変だわ! このままじゃ、私の今日までの苦労が全て水の泡になっちゃうじゃない……!!)
千棘(……は、恥ずかしいけど、やるしかないわよ、私!)グッ
千棘「ダーリーン! おっ待たせーー!! ごめんねー! 思ったよりずっと時間掛かっちゃって!」バッ
シーン……
小咲「」ポカーン
バナージ「」アングリ
千棘「えぇー…………」シュン…
小咲「……き、桐崎さん……? え……今、バナージ君のこと“ダーリン”って……」
千棘(げえええぇェェ!!?)
バナージ(あなたは……あなたって人は、こんな時に何やってんです!!?)ガクガク
小咲「え……えーとその……、ダーリンてことはつまり…………二人は付き合って………?」
バナージ「そ、それは違――」
千棘(ちょっと待ったァ!)バッ
バナージ(な、何するんです!?)モガモガ
千棘(このバカ! ここでそんなこと言ってみなさいよ! ゼクス達が聞いているかもしれないのよ!?)ゴニョゴニョ
バナージ(そうだった……今は恋人のフリを……! い……いや、でも俺は、小野寺さんの前でそんなこと……!!)
千棘「そ、そうなのよー! もう彼ったら、私にぞっこんでさー!!」ガバッ
小咲「!!」
バナージ(なっ……/// 何も抱きつかなくても……!)タジタジ
千棘(いいでしょほら! とにかく話合わせて! クラスメートの前で恥ずかしいのはわかるけど、背に腹は代えられないでしょ!)
バナージ(わかってます……わかってますよ! わかってるけど、俺は……!!)
小咲「そ……そうなんだ……。びっくりしちゃったよ……全然知らなかったから……」ドキドキ
バナージ(違う! 違うんだ小野寺さん! これには深いワケが……!)
千棘「てなわけで、私達これからデートに行くのよね! ダーリンと一緒に♪」
バナージ「あ、ああ……そうなんだよな……」
バナージ(くそッ! いくら戦争を止めるためとはいえ……小野寺さんの目の前で恋人を演じるなんて、こんな心が痛む行為……!)
小咲「……そっ、そっかぁ……。じゃ、あんまりラブラブな二人の邪魔をするわけにもいかないから、私はもうこれで……。二人とも、デート楽しんで来てね!」タッタッタ
千棘「ありがと! また学校でねー!」バイバイ
バナージ「あ、ああ……!(小野寺さんに、誤解がぁ……!)」
千棘「…………ふー、何とかやり過ごしたわね。てか、あんたどうしたの?」
バナージ「……なんでもありません…………」ドヨーン
バナージ(と……とにかく今は、俺達の成すべきことをやるしかない、か……。 小野寺さんの誤解を解くのは、また今度しっかり話した上で……)
バナージ「……で、これからどうするんです?」
千棘「どうするって……こういうのは普通、男の方からエスコートするもんでしょ? デートなんてあたし初めてだし、あんたが決めなさいよ」
バナージ(俺だって初めてなのに………)
バナージ「……なら、美術館なんてのはどうです?」
千棘「美術館って……あんた、随分渋いチョイスするわね。ま、いいわ。あんたの言う通りにしてあげるわよ」
バナージ(……意外だな。てっきり文句言われるかと思ったけど……)
[美術館]
千棘「へえー、こんな面白い絵もあるんだ……」マジマジ
バナージ(何だかんだで楽しんでるようだな……。これでようやく落ち着けるし、ちょうど良かったか)
千棘「ねえねえあそこ! 世界の名画が展示されてるんだって! レプリカらしいけど、面白そうだから行ってみるわよ!」グイッ
バナージ「ああ……はい」ズルズル
バナージ(館内では静かに……ってこと、わかってるのか? ま、悪い意味で騒がれなくて気は楽だけど……)
千棘「すっごーい……。こんなに綺麗な壁画があるなんて……」
バナージ(いや……壁画と言うよりも、タペストリー、じゃないか?)
千棘「……『貴婦人と一角獣(ユニコーン)』だって、これ。レプリカらしいけど、いつか本物を見てみたいわね」
バナージ「ユニコーン……」
そう口にした瞬間、ドクンと俺の心臓が跳ねた。
何故かはわからないが、体中の血がざわめく。
千棘「あの絵の中にある、天幕の上に書かれた文字、あれどういう意味かな……。『A mon seul desir』……? 英語じゃない……フランス語? やっぱりダメだ、私には読めない」
バナージ「……“私の、たった一つの望み”……」
無意識に口にして、ぞくりと悪寒が走る。
読めるはずがない、知っているはずがないのに。
千棘「あ……あんた、あれが読めるの?」
バナージ「い……いや、俺はそんな……」
俺はそう答えたが、彼女は怪訝そうに眉をひそめるだけだ。
本当はわかっている、と俺は内心に呟いたけど、前にテレビや教科書で目にしたとか、そんな話ではない。
自分はこのタペストリーを知っているし、触れたことさえある。
ずっと昔、まだこのタペストリーの下端に手も届かなかった頃、誰かが自分を抱き上げて、ここに描かれた事々の意味を教えてくれたような……。
バナージ「……っ、があァッ!!」ガクン
千棘「ちょ、ちょっと! どうしたの!?」
凄まじい痛みが頭に走り、思わず膝から崩れ落ちる。
同時に、見たこともない無数のビジョンがはっきりと映し出されて、まるで記憶の奔流が俺の頭を駆け巡っているかのような感覚がした。
バナージ「ぐがあああぁァァ……!!」
千棘「どうしたのよ! ねえ! ねえったら!!」
あまりの激痛に、頭を抱えてうずくまることしかできなかった。
意識も朦朧とし始めて、彼女が俺を呼ぶ声も、痛みに耐えきれず叫ぶ自分の声も、だんだん聞こえなくなってくる。
千棘「しっかりしなさいよ! バナージ! バナージィ!!」
彼女が、最後に何を言っていたのかわからなかったけど、俺の意識はそこで完全に途絶えた。
その時、微かに覚えていたのは、虹のように鮮やかな光が、俺の視界を埋め尽くしていたことだけだった。
―― 恐れるな。自分の中の可能性を信じて力を尽くせば、道は自ずと拓ける。
――自分で自分を決められるたった一つの部品だ。なくすなよ。
――人を想って流す涙は別だ。何があっても泣かないなんて奴を、俺は信用しちゃいない。
――可能性に殺されるぞ! そんなもの……捨てちまえ!
――バナージ…………悲しいね……。
――受け止めなさい、バナージ……!
――君はもう、みんなの所へは帰れない。
――あれは呪いじゃなくて祈りだったんだ……! ニュータイプなんてものが生まれてこなければ!!
――何故貴様なのだ!? 望んでもいない貴様が! 何故必要とされる!?
――やるぞバナージ! この光は、俺達だけが生み出してるものじゃない!
――二機のガンダムが揃って楯突くか。人の総意の器であるこの私に!
――君に、託す。成すべきと思ったことを……。
――お前は光だ。悲しみすら糧として、道を照らせ。姫様と二人で……。
――約束して。必ず私の所へ帰って来るって。
バナージ「…………っはあッ!!」ガバッ
千棘「ひえっ!? め、目が覚めた!?」ビクッ
バナージ「……こ、ここは……?」キョロキョロ
千棘「あ……あたしの家よ! いきなり倒れ込んだあんたを、ここまで運んできてあげた挙げ句、面倒まで看てあげたんだから感謝しなさい!」プイッ
バナージ(……そうか。俺はあの時……)
バナージ「何か……色々と迷惑かけて、すみません……」
千棘「いいわよ別に……。ただ、いきなりぶっ倒れるような危なっかしい奴を、放っておけなかっただけなんだからね! あんたのことが心配だとか、そういう意味じゃないのよ!」
バナージ(……この人、根は優しいんだな。素直じゃないけど……)
千棘「それよりもアンタ、あの場で倒れるなんて一体どうしたのよ? 何か病気でもあるわけ?」
バナージ「よくわからないんです。ただ、もの凄く頭が痛くなって、思わず……」
千棘「ふーん……。ま、一度病院とか行ってみた方が良いんじゃない?」
バナージ「そうします……」
そうは言ってみたけど、正直俺自身の体のことよりも気になったのは、あの時に見えた無数の光景のことだ。
その光景の中には、顔も名前もわからない一人の少女が映し出されていて、その人のことを思い出そうとすると、遠い昔に会ったような、それでいてどこか懐かしい感じがした。
それと同時に、大切な何かを置き去りにして、忘れていたような気分になってしまうのも、また事実だった。
バナージ(約束、か……。必ず帰るって、どういう意味なんだ……?)
千棘「今日はゆっくりしてなさいよ。そもそも、これでフリだったデートもおじゃんになったわけだし」
バナージ「……そうですね」
千棘「……全く、ちょっと損しちゃったじゃない……」ボソッ
バナージ「え?」
千棘「何でもないわよ! もやしのようにか弱い病人は大人しく寝てろっての!」ビシ
バナージ「あ痛ッ! ……す、すいません」ヒリヒリ
バナージ(……やっぱり、よくわからないなこの人。だけど、俺がこんなことにならなければ、楽しんでいた美術館に留まることもできたのか……)
バナージ「……今日は、本当にすいませんでした。また今度行けたら、その時は……」
千棘「……じゃ、そう思ってんなら、いつかあのタペストリーの本物を見せてもらおうかしら?」
バナージ「へ?」
千棘「アレ、本物は世界に一つしかないんでしょ? 私、あのタペストリーの本物見てみたいから、今日の看護代としていつかあんたが見せてよね」
バナージ「……わかりました。約束します」
バナージ(大変な約束しちゃったな……。でもまあ、俺も男ならこれくらいは言ってみせないと駄目だよな……)
――U.C.0096
[インダストリアル7 某所]
オードリー「…………」ハァ
リディ「ん? どうしたミネバ」ニコニコ
オードリー「……バナージは、どこに行ってしまったのでしょうか……」
リディ「…………(ちッ、まだ諦めてなかったか……)」
オードリー「リディ少尉は、あの後《ユニコーン》を追いかけたのでしょう? 何とか居場所はわからないのですか?」
リディ「そうは言われてもな……。いきなりどっかに行っちまうし、手掛かりが無いんじゃまるでどうしようもない……」
オードリー「そんな…………バナージ……!」グスン
リディ(可能性さえあれば、それで良いって言ったのに……! 完成されたニュータイプなんて結果は、誰も求めちゃいないんだ! このままお前が帰って来ないんなら、本当にオードリーを取っちまうぞ!)
[教室]
バナージ「…………はあ」ゲッソリ
あのデートの日から2日が経った。
どうやらクラスの中に、あの日俺と桐崎さんが一緒に街中を歩いている所を目撃した生徒がいたらしく、俺も彼女も学校では終始質問攻めにあっていた。
おまけに、あのゼクスさんとかいう人も俺達のことを監視しているせいで、家同士で済むはずの恋人のフリを、学校でも続けなくちゃならない。
そんなわけで、放課後になった今もなお、疲れがピークに達して机に突っ伏しているのだが……
バナージ(いつまでこんなことを続けるつもりなんだ……。ん……?)チラ
小咲「……!!」クルッ
バナージ「…………」ズーン
一昨日のこともあってか、今日の小野寺さんは俺を見る度に目を背け、そわそわしている。
きっとまだ、俺と桐崎さんの関係を気にしているのだろう……。
このままでは、俺の小野寺さんへの想いをわかってもらえる日が来るとは到底思えない。
だから……だから俺は今日、何としても小野寺さんの誤解を解かなければならないんだ!
バナージ「あ……あの、小野寺さん……」
小咲「どどっ、どうしたのバナージ君?」ビクッ
バナージ「ご、ごめん……。驚かしちゃった?」
小咲「い、いやぁ……何でもないよ! 私に何か用?」
バナージ「……実は、一昨日のことなんだけど……」
小咲「……?」
バナージ「その……俺と桐崎さんは、別にああいう関係じゃないって言うか……」
小咲「も、もう……バナージ君ったら! 照れるのはわかるけど、それじゃ桐崎さんが可哀想だよ?」プンプン
バナージ「ち、違うんです! 本当に、あの人と俺は恋人なんかじゃ……! これには深い事情があって、ただ恋人のフリをしているだけで……」
小咲(……恋人の、フリ……?)ピクッ
小咲「……で、でも、どうしてそんなことを、私にだけ言うの?」
バナージ「…………小野寺さんだけには、勘違いして欲しくないと、そう思ったから……」
小咲「ええ……?」
小咲(そ、それって……どういう意味……?)ドキン ドキン
バナージ「とにかく……そういうことだから、俺とあの人のことは気にしないで下さい」
小咲「……え、ああ……うん」
小咲(そんなこと言われても……。でも……もし、もしもバナージ君の言うことが本当なら、私は……どうする?)カアアァ
バナージ(顔が赤くなってる……。熱でもあるのか?)
バナージ「……小野寺さん、どこか具合でも悪いんですか?」
小咲「なななっ、何でもないよ! それじゃ、私お母さんのお手伝いしなきゃいけないから、先に帰るね!」アタフタ
バナージ「そうだったのか……。すいませんでした、余計な話しちゃって……」
小咲「ううん、良いんだよ! そ、それじゃ、またねー!」ダダッ
バナージ「…………」ポツーン
バナージ(小野寺さん、ちゃんとわかってくれただろうか……)
[帰り道]
集「で、どうだね? 例の金髪美少女との進展は」ニヤニヤ
バナージ「進展って……俺は別に――」
バナージ(……小野寺さんには“秘密”を話したけど……口の軽いコイツじゃあ、すぐに校内に知れ渡る可能性が……。ゼクスさんの耳に入るのもマズいから、ここは話を合わせるか)
バナージ「正直、まだ彼女とあまり打ち解けてないって言うか……」
集(そういうことを聞いてるんじゃないんだけどなぁ……)
集「嘘をつくなよ? あんなラブラブっぷりを見せつけられちゃあ、誰だって仲良さげに見えるもんだぞ」
バナージ「異性の前だと、多少つっかかるくらい当たり前じゃないのか? あの人だって、女子となら仲良くしてるだろ?」
集「それがそうでもないのよ。桐崎がお前以外の特定の誰かと仲良くしてる所って、一度も見たことないぜ?」
バナージ「……そうなのか?」
集「そりゃまあ、女子と楽しくお喋りしてる所くらいは見たことあるけど、お前といる時ほどじゃあないよな……」
バナージ(……あの人、ああいう性格してるから、クラスにはもう馴染んでるのかと………。いや、もしかしたら……)
バナージ「……ごめん、俺教室に忘れ物したから、先に帰っててくれ」ダッ
バナージ(いつも不思議だと思っていた……。何故あの人が、俺より先に下校しないか)
[廊下]
<「何か、あたしらって避けられてるのかな……」
<「バナージ君の時と全然態度違うし……」
<「そもそも、金髪美人の帰国子女ってだけで話辛いかも……」
<「本当は、あたし達のことを見下してんじゃない?」
ヒソヒソ……
バナージ「…………」
思えば、あの人が転校してきて以来、かなり長い間一緒にいたけど、恋人のフリをするのに精一杯で、普段のあの人のことなんて全然考えてなかった。
嫌いだと思ってる俺に、彼女がよくつっかかってくる度に疑問だとは思っていたけど、今は彼女の気持ちがわかる気がする。
バナージ(今ならまだ……間に合うか)
[教室]
千棘「ミコットさんは工学部で……活発で明るくてお喋りが大好き。よく話しかけてきてくれる……」カリカリ
千棘「カテジナさんは……私と同じ金髪の人。美人でもちょっと掴めない所があるけど……私には優しくしてくれるし、今度はこっちから話しかけてみようかな……」カリカリ
バナージ(やっぱり、ここにいたか……)
バナージ「…………何、してるんです?」
千棘「うわあっ!! だだっ、誰!?」ガッシャアァン
バナージ「俺ですよ! ……ったく、驚かさないで下さい」
千棘「なななっ、なんであんたがここにいんのよ……!! 一体いつから……!!」カアァ
バナージ「教室に忘れ物取りに来ただけなんだけど……」
千棘「……み、見たの……? 聞いたの……!?」プルプル
バナージ「え……そりゃまあ、ちょっとは……」
千棘「……!!!」グアッ
バナージ「危ないッ!」ヒョイッ
千棘「こんのぉ、避けんなー! おとなしく殴られろー!」ブンブン
バナージ「同じ手が二度も通用すると思ってるんですか!」ヒョイ ヒョイ
千棘「……フン! 笑いたければ笑いなさいよ! こうでもしなきゃ、みんなのこと覚えられないんだから……!」
バナージ(友達作りのノート、か……。そう言えば俺も昔、こんなことしてた時期があったな……)
千棘「どうやって話かければ良いのかわかんないし……。友達の作り方とかも、私わかんないだもん……」シュン…
バナージ(何となく想像はついてたけど、結構思いつめていたのか……)
千棘「ゼクスっているでしょ? 知っての通り過保護でね。幼い頃から良くしてくれるのはいいんだけど……学校行くのに護衛つけたり、お出かけ先でもモビルスーツでついて来るし、おまけに私の交友関係まで調べ出す始末でさ……」
バナージ(それって……ストーカーと変わりないんじゃ……。 ガエルさんも過保護っぽい所はあるけど、そこまで極端じゃないぞ……)
千棘「全く、アイツのせいで友達作るのにどれだけ苦労したことか……」ハァ
バナージ「……大変だったんですね」
千棘「普通に友達作って、普通の暮らしがしたいだけなのに……。日本の学校に来れば、みんな私が武装組織の娘だってことは知らないしチャンスだと思った。けど、やっぱり上手くいかなくて……」
バナージ「……まるで、昔の俺みたいだ」
千棘「え……?」
バナージ「俺も、父さんが財団の当主だという理由だけで、小さい頃からクラスや学校が変わる度に色々言われてたんです。それこそ、友達すらまともに作れなかった。だから、今のあなたが持ってるノートみたいな物を作って、必死になってた時期があった」
千棘「……!!」
バナージ「この学校には、色んな国から来た人も多い。あなただって、友達になろうと思えばなれますよ。ミコットなんかは、あなたともっと話したがってました。カテジナさんは……たまに目つきが怖いけど、本当は優しい人です(たぶん……)」
千棘「……そ、そうなんだ。でも、私にできるかな……?」
バナージ「できるかできないかじゃなくて、やればいいんです。自分の成すべきと思ったことを。もし、まだ不安だと言うなら、俺も手伝います。あなたとはまだ完全に打ち解けてなくても、あなたの気持ちはわかるから……」
千棘(……な、何なのよコイツの真剣な目は……! 調子狂うじゃない……///)
千棘「……あーそう!! そ、そこまで言うんなら、手伝わせてあげなくもないけど!?」プイッ
バナージ(どっちなんだ……)
バナージ「あなたって人は、つくづく可愛げが無い人ですね。もっと素直になればいいのに……」
千棘「なっ、何だとコノヤロー!! 大体、なんであたしがホントの恋人みたいにアンタに可愛くしなきゃならないのよ!」ギャー ギャー
バナージ「そういうことを言ってるんじゃない! なんでこう、もっと穏やかになれないんです!?」ガミガミ
……とまあ、何はともあれこの日以来、彼女は俺の手伝いもあってかクラスにだいぶ馴染めることに成功したようだ。
もっとも、恋人のフリを続けなくちゃならないのに変わりは無いから、クラスに入る度にお互い難儀してるのは確かなんだけど……。
それでも俺は、彼女の笑顔が増えただけでも、素直に喜べることなんだろうと思っている。
――時は変わって6月上旬
[屋上]
るり「……あの二人、いつも一緒にいるわよね」
小咲「……いいよね、二人ともラブラブで……」ボンヤリ
小咲(恋人のフリだって、バナージ君は前に話してくれたけど……あんなに仲良さそうだと、そう思えないんだよなぁ……)ハァ
るり「いいわけないでしょ。全く……さっさと告ればいいのに」
小咲「るっ、るるるりちゃん!? 一体何を……!?」ブフッ
るり「呆れた……。気付いてないとでも思ってたの? あんたがバナージ君のこと好きだってことくらい、雰囲気でバレバレなんだから」
小咲「うぅ……」アセアセ
るり「それにね、どうやらバナージ君もあんたのこと好いてるみたいだよ」
小咲「え……えええぇぇッ!!? そんなわけないよぉ……!」カアァ
るり「……彼、時々あんたの方に視線向けるのよ。本人は気づかれてないと思ってるけど……」
小咲「えっ……(そ、そうなの……?)」ドキッ
るり「だからさ、あんたもバナージ君の気持ちを確かめてみたら?」
小咲「で……でも、バナージ君には桐崎さんがいるんだよ? 私、邪魔にしかならないよ……」
るり「相手に好きな人がいるからって、自分の気持ちを伝えちゃいけないなんて決まりは無いよ」
小咲「それはそうだけど……」
るり(……仕方ない。ここはあたしが、何かセッティングしてやらなきゃね)
[校内プール]
千棘「……助っ人?」
るり「うん。ウチの水泳部、今度の練習試合でメンバー足らなくなっちゃってね。ただでさえウチのチームはゴック級と言われてるのに、今度負けたら一番遅いゾック級に降格しちゃうの。だから、差し支えなければ運動神経抜群の桐崎さんにお願いしたくて……」
千棘「あたしなら全然いいわよ! 体動かすの好きだしね! ていうか、それよりもさ……」
バナージ「…………」ポツーン
千棘「なんでコイツ……いや、ダーリンがいるわけ?」
バナージ(何なんだこれは……。一体、何が起こってるんだ……?)ダラダラ
バナージ「宮本さん……ここって女子水泳部だろ? 何で男の俺が……」
るり「バナージ君には頼みたいことがあるからね。後で説明するけど」
バナージ(冗談じゃないぞ……。水着の女の人しかいないこの空間で男一人が浮いてるなんて、これほどやり場に困る場面があるのか……!?)
小咲「る……るりちゃああぁぁん……!!」
バナージ(なっ……/// おっ……小野寺さん!!)
小咲「なんで私が選手登録されてるの!? 私、カナヅチなのに……!」アタフタ
るり「しょうがないでしょ。人手が足らないんだから」
小咲「別に私じゃなくても……ってあれ!? バナージ君!?」
バナージ「や、やあ……」
小咲(桐崎さんだけじゃなくバナージ君まで来るなんて、聞いてないよぉ……!)ドキドキ
バナージ(どうしたんだ俺……! 目の前にいるのはいつもの小野寺さんだと言うのに、水着だけでなんでこうも緊張するんだ!)
るり「それじゃ、本題に入るね。バナージ君にお願いしたい事というのは、小咲が明日の練習試合までに泳げるように、手取り足取り指導してやって欲しいのよ」
バナージ「!!(お、俺が小野寺さんに……!?)」
小咲(えっ……ええエェーーッ!!?)
というわけで…………
バナージ「……小野寺さん、よろしく」
小咲「こっ、ここ……こちらこそよろしくお願いします……」
バナージ(まさか、こんな展開になるとは……)
小咲(バナージ君に教えてもらうのかぁ……。やっぱり緊張しちゃうよるりちゃん!)ドキドキ
バナージ「ええっと……まずは基本中の基本、ばた足から始めればいいのか?」スッ
小咲「う、うん……」ギュッ
バナージ(小野寺さん、握り方が強いぞ……!)ドキドキ
小咲「ぜっ、絶対手を離さないでね?」ウルウル
バナージ「はっ、はいッ」
バナージ(怯えているのか……。ていうか、小野寺さんとちゃっかり手を繋いでいるんだよな、俺……)ドクン ドクン
小咲「こ……こうかな?」バシャバシャ
バナージ「そう、その調子です。後は体を浮かすのを意識すれば……」スイー
小咲(泳ぎが苦手な私でも、ここまでついて来れるなんて……。やっぱり、バナージ君は凄いなぁ……///)ポーッ
小咲「あっ」ツルン
バナージ「えっ」
バッシャアァン!!
バナージ「ぶはッ! お、小野寺さん大丈夫か?」
小咲「ぷはぁっ、な……何とか……」
バナージ「……ごめん。俺がもっとしっかり握ってれば、こんな事には……」
小咲「そそっ、そんなこと無いよ! 今のは私がボーッとしてたから……!」
小咲(バナージ君に気を取られてた……/// 駄目だよ私、こんな事してちゃ!)ブンブン
バナージ「どうします? 練習始めてから時間経ったし、少し休んだ方が……」
小咲「……ううん。せっかくバナージ君に教えてもらってるんだもん。私、頑張る……!」ニコッ
バナージ「! そ……そうですか……」
バナージ(……やっぱり女の人と付き合うなら、小野寺さんみたいに正直で健気な人が良いよな……。あの人もそれができれば良いと思うんだけど……)チラッ
千棘「…………」プカー
千棘(……何よアイツ。小野寺さんといる時はあんなにデレデレしちゃってさ……)ムスッ
――翌日、練習試合当日
バナージ「無理はしないで下さい。とにかく、完走すれば良いんですから……」
小咲「うん。ありがとうバナージ君」ニコニコ
千棘「……」イライラ
バナージ「……あなたも、暇なら準備体操くらいしたらどうです?」
千棘「うっさいわね! あんたは私の保護者か!!」ウガー!
バナージ(後で痛い目を見ても知らないぞ……)
<『それでは、スタート位置について下さい』
小咲(頑張れ私……!! バナージ君に昨日たくさん教えてもらったんだから、絶対にできる……!)グッ
千棘(ああもう、何でこんなにイラついてるんだろ、私……)ムッスー
<『スタート!』パァン
バナージ「ごめん宮本さん。小野寺さん、一日だけじゃ完全に泳げるようにはできなかった……」
るり「……あ、ああ……。まあ別に、問題は無いわよ」
るり(元々、小咲がバナージ君と触れ合う機会を作るためだったし……)
バナージ「彼女、溺れたりしないか?」
るり「んなわけないでしょ。ここのプール足つくし、そう簡単に……」
<「ねえねえ、あの人溺れてない?」
<「た、確かに……結構ヤバそうだよ」
バナージ&るり「!!?」バッ
千棘(や、ヤバいッ……!!)ジタバタ
バナージ「!! あ、あれは……!」
千棘(こんな時に足つっちゃうなんて……しかも両方……!!)ゴボゴボ
バナージ(全く、あなたって人は……!)バッ
ザッパアァン!!
バナージ「間に合ってくれ……!」ザバザバ
千棘(く……苦し……)ゴパァ
バナージ(! 見つけた……!)
千棘(あ、あれ…………意識が……)ボンヤリ
バナージ(あなたは、何でこんな所で……!)ガシッ
ザバーン!
バナージ「ぶはあッ!」ゼェ ゼェ
小咲「バナージ君大丈夫!? 捕まって!」グイッ
バナージ「あ……ありがと……」パシッ
集「バナージ! 桐崎さんは大丈夫か?」
バナージ「わからない! 少し見てやってくれ……」ゲホ ゲホ
るり「私、先生呼んでくるから。そこにじっとしといて」ダッ
集「はてさて、呼吸はどうなんだ……?」スッ
千棘「」スー スー
集「……息、してないぞ(ウソ)」ボソッ
小咲「えっ!?」
バナージ「なっ……何だって!?」ビクッ
集「……バナージよ。こういう時……何をすべきか、お前ならわかっているな?」キリッ
バナージ「当たり前だろ!! 今すぐ人工呼吸して、息を吹き返させるんだ!」バッ
集「えっ」
小咲「バナージ君……(凄く大胆だけど、こういう所がカッコいいなぁ……///)」キュン
るり(……流石ね。女子からの人気が何気に高いだけのことはある。彼の真っ直ぐで素直な性格に、小咲も惚れたのかしら……)フムフム
バナージ(……大丈夫だ。既にこういうことは、一度タクヤが溺れた時に経験している。相手が異性だからって、躊躇ってる場合じゃない……!)ソーッ
千棘「…………んん?」パチッ
バナージ「目、目が開いた……!?」ビクッ
千棘「……!!! なっ……/// 何しようとしてくれてんのよおおおぉぉォォーーーッッ!!!」グオオォ
ブッピガン!!
バナージ「うわらば!!」ドグシャア
小咲「バ、バナージ君……」アワワ…
るり(あちゃー、やっぱり舞子君が仕込んでたんだ)
バナージ(なんで…………こうなる……!)ガクッ
千棘「ホンっト、サイテーだわ!! ここまでスケベだとは思わなかったわよ、このエロもやし!!」プンスカ
集「…………(俺、悪いことしたよな……)」
――次の日 お昼休み
千棘「小野寺さん、宮本さん、一緒にお昼食べよー!」
小咲「いいよ! あと……それと、私のことは“小咲”って呼んでいいよ」
るり「私も、“るり”でいいわ」
千棘「ホント!? じゃあ、あたしのことも“千棘”って下の名前で呼んで欲しい!」
ワイワイ
キャピキャピ
集「桐崎さんも、下の名前で呼び合うようになったんだな」
バナージ「ああ……。元気そうで良かった」モグモグ
集「……何か、昨日はごめんな。俺がもっとしっかり桐崎さんのこと見てりゃ、殴られずに済んだのによ……」
バナージ「あれはまあ、ああいうことになったらしょうがないっていうか……って、なんで集が謝るんだよ」
集「いや…………やっぱなんでもねぇ! お前、本当に良いヤツだわ!」ビシッ
バナージ「……?」モグモグ
千棘「るりちゃん、昨日はごめんね。せっかく助っ人で出たのに、失格になっちゃって……」
るり「気にしなくていいのよ。こっちこそ、無理に誘ってごめん。何より、千棘ちゃんに大事がなくてホッとしてるし……」
千棘「まあ、るりちゃんが心配することじゃないわよ。きっと私が溺れたのだって、全部あのもやしがいけないんだから」
小咲「それって……バナージ君のこと?」
千棘「そうよ! あいつったら、試合前からいちいち一言うるさいし、私が溺れた時も人の寝込みを襲おうとするし……ホンット、サイテーなんだから……!!」
小咲「……千棘ちゃん、何も聞いてないの?」
千棘「え、何が?」
小咲「……昨日、プールで千棘ちゃんを助けたの、バナージ君なんだよ……?」
千棘「…………へ?」
――放課後
[廊下]
千棘「む……ムリムリムリムリ! やっぱ無理!! お礼つったって、今更何言えばいいのよ……!」アタフタ
小咲「でも、今言っといた方がいいよ? 私達も見守ってあげるからさ」
るり「……大丈夫よ。彼の性格からして、千棘ちゃんのこと悪く思うわけないし」
千棘「……そ、そうかな……?」
るり(恋人同士なら、お互いの性格くらいわかってるはずなんだけど……)
バナージ「…………」テクテク
千棘(やべッ、来た……!)
小咲(千棘ちゃん、頑張って!)コソコソ
るり「…………」ジーッ
千棘(ああ……もう! ここまで来たらやるっきゃないわよ、私!)
千棘「……んんっ、ちょっとそこのもやし君?」
バナージ「……え?」クルッ
千棘「ちょ……ちょっとだけ、耳貸しなさいよ」モジモジ
バナージ「何ですか……?」
千棘「あー……あのさ、昨日のことなんだけど……」
バナージ「昨日……?」
千棘「ほら、昨日……あったでしょ。その……私がさぁ……」ドギマギ
バナージ「……何の話をしてるんです?」
千棘「何て言うか、その……私は昨日のことで、あんたに言いたいことがあんのよ!」
バナージ「俺に、言いたいこと……?」
千棘「……ほら、昨日あたし溺れたでしょ? その時あんたが、一番先に助けに来たって聞いてさ……。一応、礼くらいは言っておこうかなっと思って……」
バナージ「……ああ、あれのことですか。別にいいですよ。それはまあ、最初は息止まってるのかと思って、かなり焦りましたけど……結局、意識も戻って何事も無かったから、安心しました」
千棘(な、何よこいつ……。そんなにあたしのこと心配してくれたわけ……?)ドキ
千棘「……案外あんたも、男らしい所あったのね。わざわざ嫌いなあたしを助けに来るなんて、その……意外と言うか大胆と言うか……」
バナージ「別に、そんなんじゃないです。ただ、目の前に助けられる命があるから、俺はすぐに体が動いてしまった。相手が好きだとか嫌いだとか、関係無いですよ。そういうの……」
千棘「………(な、なんでこんな真面目な顔してんのよ……///)」ゴクリ
バナージ「……確かに、あなたと俺は仲良くないし、実際本当の恋人でもない。けど、だからと言ってあなたをあの場で見捨てることなんて、俺にはできない。ただ、自分の成すべきと思ったことを信じてやったまでです」
千棘「……!」ドキッ
千棘(何……何なの? この妙に胸に迫る奇妙な感覚は……!?)ドクン ドクン
バナージ「……ところで、俺そろそろ帰っていいですか? 父さんに呼ばれてるので……。飼育当番、今日はお願いできますよね?」
千棘「えっ、ああ……うん。助けてもらったお礼もあるもんね。それくらい任せなさいよ」
バナージ「ありがとうございます。じゃあ、俺はこれで……」タタッ
千棘「…………」ポツーン
千棘(……あいつって、あんなに優しい顔してたっけ……///)ポッ
るり「……聞いた小咲? 今の……」
小咲「う、うん……」
小咲(バナージ君と千棘ちゃんが恋人……じゃない? バナージ君が前に言ってたこと、本当だったの……?)ドキドキ
[教室]
るり「……なるほど、それで二人は恋人のフリをしてたってワケね」
千棘「そうなのよ。いくら家の事情とはいえ、あのもやしに付き合う度にどれだけ苦労したことか……」ハァ
るり「……じゃあ千棘ちゃんは、この先バナージ君を好きになるような女の子が現れたとして、その子とバナージ君が付き合うことになっても構わない……と?」
小咲「……!」ピクリ
千棘「とっ……当然よ!! そもそもあたし達、端っから恋人でもなんでもないんだし! まあ、あんなスケベでヘタレなヤツを好きになるような特異な方がいれば、喜んでのしつけてあげますけどォ!!」ドヤァ
小咲(うっ……)グサリ
千棘「……あ! でも、この話は絶対秘密にしといてね? あたし達が本当の恋人じゃないって知られたら、かなりヤバいことになっちゃうから……」
小咲「う……うん。分かったよ」
るり「……了解」
千棘「……でないと、地球が人の住めない星になってしまうので……」ササーッ
るり「……千棘ちゃんの家って、一体何してるの?」
千棘「い……一応普通の家庭です……」アハハ…
小咲(とても普通じゃないように思うけど……)
千棘「じゃあ私、飼育係の当番だからそろそろ行くね。言っとくけど二人とも、今の話絶対にバラしちゃダメよ! 約束だからね!?」
小咲「う、うん。約束するよ」
るり「わかったわよ……。それじゃ、また明日ね」
バイバーイ!
るり「……千棘ちゃんはああ言ってたけど、あんたはどうすんのさ?」
小咲「え……?」
るり「この際、いっそ告れば?」
小咲「ええ!? い……いやいやそんな……! いきなり告るとか、そんなこと……」ハワワ…
るり「あんたねぇ……そんなこと言ってたら、本当に誰かに取られちゃうよ?」
小咲「うう……」
小咲(……でも、るりちゃんの言う通りだよね。せっかくチャンスが回ってきたんだから、ここで想いを伝えなきゃ、きっと後悔しちゃうかも……)
小咲「……私、頑張るよ。この気持ち、いつか必ず伝えてみせる……!!」グッ
るり(ようやくその気になったか……)
――次の週
バナージ「転校生?」
集「なんでも、突然決まったらしいぜ。実はそいつ、男なんだとよ。しかも噂によれば、超美男子!! マジテンション下がるわー」ケッ
バナージ(わかり易っ……)
千棘「私と同じ転校生かぁ……どんな人なんだろ? ちょっと楽しみね」ウキウキ
バナージ(……この人みたいに、すぐ暴力に訴える人でなければ誰でもいいや……)
千棘「……今、どことなく私のことバカにした?」ギロリ
バナージ(なんでこういう所だけ妙に鋭いんだ……。まさか、この人は俺の心が読めるのか?)
先生「よーしお前ら、今日は突然だが転校生を紹介するぞ。鶫さん、入って来てー」ガラッ
鶫「……初めまして。鶫誠士郎と申します。どうぞよろしく」キリッ
<キャー!! キャー!!
<チョーイケメンヨー!!
小咲(うわぁ……凄く綺麗な人だね)パチパチ
るり「…………」ボーッ
集「…………」ケッ
バナージ(……確かに、顔立ちは整って優しそうだ。後は性格が気になるけど……男同士、仲良くはしたいよな……)
鶫「……」チラッ
バナージ「ン……?」
鶫「…………」フッ
バナージ(……!? 今、何で笑われたんだ……?)
千棘「…………!! つぐみ……!?」ガタッ
鶫「……! お久しぶりです、お嬢ーーーッ!!」ダキッ
バナージ(……! なっ……!?)
集「おお!?」
<「うおお!? 転校生が桐崎さんに抱きついたぞ!!」
<「さてどうする? バナージ!」
ワイワイ
ガヤガヤ
千棘「ちょっちょっちょっ……/// 何やってんのよ! みんなの前で……!!」カアァ
鶫「ああ、お嬢……! お会いしとうございあました……!!」ウルウル
バナージ(な、何なんだこの人……。またよくわからない人が増えたのか? しかも男だぞ……)
>>200 訂正
千棘「…………!! つぐみ……!?」ガタッ
鶫「……! お久しぶりです、お嬢ーーーッ!!」ダキッ
バナージ(……! なっ……!?)
集「お……おお!?」
<「うおおー!? 転校生が桐崎さんに抱きついたぞ!!」
<「さてどうする? バナージ!」
ワイワイ
ガヤガヤ
千棘「ちょっちょっちょっ……/// 何やってんのよ! みんなの前で……!!」カアァ
鶫「ああ、お嬢……! お会いしとうございました……!!」ウルウル
バナージ(な、何なんだこの人……。またよくわからない人が増えたぞ。しかも男で……)
――休み時間
鶫「突然で申し訳ございませんでした。私としても、急に決まったことだったので……」
千棘「それは別にいいけど……。そもそもなんで、あたしの学校にわざわざ来たのよ?」
鶫「ゼクス様のご命令により、お嬢の側について見聞を広めよと仰せつかりまして……」
千棘「ゼクス……あいつが……?」
バナージ「…………」
バナージ(大体想像はつく。この人を監視役につけて、俺達の仲をまだ怪しんでるんだろ……)」
鶫「……ところで、お嬢には最近素晴らしい恋人ができたと聞いたのですが……」
千棘「ええっ!?」ドッキリ
鶫「よろしければ、私にも紹介して頂けませんか?」ニコッ
千棘「えーと……そ、そうよね! 一応ちゃんと紹介くらいはしとかないとね!」
千棘(ほ……ほら! さっさと来なさいよ……!)チョイチョイ
バナージ(わかってますって……)スタスタ
千棘「ああ……ほら、この人が私の恋人よ……!」グイッ
バナージ(い、いきなり……! けど、やるしかないのか……)
バナージ「……初めまして、バナージ・リンクスです。よろしくお願いします」ペコリ
鶫「おお……! 噂はかねがね聞いておりましたが、こうしてお会いすると、なんとも頼りがいのあるお方ではありませんか……! 素晴らしい!! これで、ネオ・ジオンも安泰ですね!」キラキラ
バナージ「あぁ……どうも……」ポリポリ
鶫「……おっと失礼。改めまして私、鶫誠士郎と申します。お嬢とは年も近いことから、幼少期はよく一緒に育った仲なんです。最近はお嬢に会える機会も少なくなり、ずっとお嬢のことを思って過ごしておりました……!」
バナージ「そ、そうだったんですか……(いい人じゃないか? この人……)」
鶫「もちろん、お嬢の伴侶となるあなたとも親交を深めたいと思っていますから、以後よろしくお願いしますね」
千棘「はっ、伴侶って……/// 何言ってんのよつぐみー!?」カアァ
バナージ「ああ……はい。こちらこそ……」
バナージ(……悪い人には思えないな。俺の考え過ぎか?)
――昼休み
[屋上]
バナージ「……どうしたんです? わざわざこんな場所に呼び寄せるなんて……」
鶫「いえ……。どうしてもバナージさんに、一つだけ確かめたいことがありまして……」
バナージ(俺に……?)
鶫「……あなたは、お嬢のことを本気で愛していらっしゃいますか?」
バナージ「なっ……!!?」ビクリ
バナージ(……落ち着け、落ち着けよバナージ。これは演技なんだ……!)フゥー
バナージ「……当たり前でしょう。遊び目的で付き合うなんて不純な真似、俺にはできません」
鶫「……そうですか。では、お嬢のためなら死んでも構わない……と?」
バナージ「俺だって男ですよ? 彼女の身に何かあったら、それくらいの覚悟はできてます」
鶫「……なるほど、さすがはお嬢が認めただけのことはある。それを聞いて安心しましたよ」ニコリ
バナージ「……?(さっきから何が言いたいんだ? この人は……)」
鶫「……では、死んで下さい」チャキッ
バナージ「!!」ティリリン!!
バシィッ!
鶫「何っ……!?」
バナージ「……くッ!」グググ…
鶫(私のCQC(Close Quarters Combat:近接格闘)を受け止めた……だと!?)
バナージ「……っ、はあァッ!!」ブンッ
鶫「ちィッ!」ダンッ
バナージ(と、跳んだ!?)
鶫「……フッ」スタッ
バナージ(あの身体能力…………まさか、この人こそ本物の強化人間か?)
鶫「お嬢が惚れ込んだ男だと聞いてみれば……なるほど、確かにそれに見合うだけの力はあるようだな」
バナージ「いきなり襲いかかるなんて……あなたは何がしたいんですか!」
鶫「……だが、無愛想で恋愛に無頓着な男だとゼクス様から聞かされていては、貴様を野放しにしておくわけにもいかない。先の言葉が嘘か真か、それも確かめられないのではな!」
バナージ「あ、あなたは何言って……!?」
バナージ(マズい……。前々から確信を持たれていたのか……?)
鶫「……吐け。貴様の目的は何だ? お嬢を騙して我々ネオ・ジオンに取り入り、組織の転覆でも狙っているのか? 或いは、スペースノイドの繁栄が面白くない貴様らにとっては、我々の邪魔をするのが得策だと?」
バナージ「ちょっと待って下さいよ! 誰がそんな話……!」
鶫「……しかし分からん。仮に騙されているとしても、なぜお嬢はこんな味気ない男を選んだのだ……? 魅力なら、絶対私の方があるに決まっているのに……!」ブツブツ
バナージ「……は、はぁ……?(今度は何だ?)」
鶫「て言うか、ぶっちゃけ絶対私の方がお嬢を愛しているのにィーーーッッ!!!」ダンダン
バナージ「…………(今、ハッキリわかった。この人もあの人と同じだ。自分の世界に入って話を振りかざすばかりで、相手の話をまともに聞こうともしないんだ)」
鶫「……フッ、まあいい。私は正々堂々、貴様からお嬢を取り返してみせる。誰がお嬢の隣にふさわしいか、すぐに証明してやるさ……!」ツカツカ
バナージ(……俺だって、好きでこんなことしてるんじゃない。でも……これで俺達の関係がバレたら、もう俺達だけの問題じゃなくなるんだ! 地球の……みんなの命が賭かってるんだ!)
バナージ「……待って下さいよ。わざわざ呼びつけといて相手の話も聞かずに、自分の言い分だけ喋って勝手に帰るつもりですか?」
鶫「…………」ジロリ
バナージ「あの人の隣にふさわしいのは誰かって、あなたは言いましたけど……答えは既に決まってます」
鶫「何……?」ピクッ
バナージ「あの人は……俺の恋人だ!! 誰にも渡しはしませんよ!!」クワッ
鶫「……!!」ギロッ
千棘(え……えええぇぇェッ!!? な……何コレ……。いやまあ、何となく状況は掴めるけど……!)ドキドキ
鶫「……ほう、“恋人”だと……? お嬢にふさわしいのは自分の方だと……貴様はそう言いたいのか……?」ゴゴゴゴ
バナージ(この感覚は……強烈なプレッシャー……!)
千棘「ちょっ……!! 二人ともストップストップ!!」バン!
鶫「お……お嬢!?」
千棘「ホラホラ、何やってんのよつぐみもダーリンもー! ちゃんと仲良くしないとダメでしょー!?」アセアセ
鶫「……お嬢、申し訳ありません。ですが……私はやはり、この男をお嬢のパートナーとして認めるわけにはいきません……!」
千棘「え……えぇ?」
鶫「お嬢はご存じではないかもしれませんが……私はお嬢をお守りできるように強くなると誓い、この十余年間、血の滲むような訓練と試練を乗り越えて来たのです!」クワッ
千棘「えぇー……(そ、そうだったの……)」
鶫「それがどうです……! なぜ、今お嬢をお守りするべき男が、このようなどこの馬の骨かもわからぬ奴なのですか!! 納得いきません!!!」ビシィッ
バナージ(言いたいこと言ってくれて……! 俺だって、父さんの息子だってこと、誇りに思ってるんだ!)ギリッ
鶫「お嬢はスペースノイドの希望を象徴する“ネオ・ジオン”のご令嬢……! お嬢を守れると言うのなら、それ相応の力を見せてもらわねば認められない……!!」
バナージ「…………」グッ
鶫「バナージ・リンクス!! お嬢を賭けたこの戦い……貴様に“ガンプラバトル”で決闘を申し込む!!!」バアァーン!!
千棘「つ、つぐみ!? あんた何言って……!」
バナージ「ガ……ガンプラバトル……!?」
鶫「一応聞いておくが……貴様、ガンプラの経験は?」
バナージ「まあ、それなりには……」
鶫「……いいだろう。勝負は5日後、その間に貴様は自分のガンプラを組み上げ、決闘に向けて準備するがいい。言っておくが私は、ガンプラバトルでは負けを知らないからな」
千棘「ちょ……ちょっと待ってよつぐみ! なんでコイツ……ダーリンとの勝負が、ガンプラバトルなのよ!?」
鶫「……私は、この男よりもお嬢を守れると、その資格があると自負しています。ですが、この私を差し置いてお嬢の側に居続けるのなら、全てにおいて私の実力を超えていなければ意味がない。それはもちろん、私の最も得意とするガンプラバトルも例外ではありません」
千棘「あ、あんたねぇ……! いくらなんでもムチャクチャじゃ……!」
バナージ「……止めないで下さい。これは、男同士の話です。勝負を挑まれて逃げ出すほど、俺は落ちぶれちゃいない……!」
バナージ(それにもう、この人は俺達の関係をかなり不審に思っているようですし……)ヒソヒソ
千棘(……! なるほどね。ゼクスの差し金ってワケでしょ?)
バナージ「だから……やるしかないんですよ。どれだけ俺が不利だとしても、勝たなければ全てがお終いになる……」
千棘「しょうがない……わね」
鶫「私に勝てる実力があるのなら、貴様のことは認めてやろう。が、もしも私に勝てないのなら……」
バナージ「……?」
鶫「貴様は地獄以上の苦しみを与えてから……殺す!!」グゴゴゴ…
千棘「ちょっとつぐみ! 落ち着きなさいって……!」
バナージ(……俺のことはいい。ただ、みんなの命が助かる可能性に賭けて、この人との勝負に勝つだけだ)
鶫「忘れるなよ? 勝負は5日後だ。もし逃げるようなことがあれば……その時も殺す。覚悟しておけ」ツカツカ
バタン!
バナージ「ようやく出て行ったか……」
千棘「あー……もう、面倒なことになったわね!」クシャ クシャ
バナージ「あの人、一体どういう人なんですか? やたらとあなたを気にかけていたようですけど……」
千棘「……あの子はね、小さい頃にゼクスに拾われた孤児なのよ。当時は、北米のオーガスタにある施設で暮らしてた子供達が逃げ出す事件があって、鶫もその一人だったらしいわ。まだ友達なんてよく知らないもんだから、私も小さい頃にはよくあの子と遊んでたのよ」
バナージ「そうなんですか……」
バナージ(……待てよ。オーガスタってことは、まさか本当に……)
千棘「それに、つぐみは元々の身体能力は高かったって聞いてるし、ゼクスに色々な英才教育や特殊訓練を受けて育てられて、今ではウチの組織の優秀なヒットマンなのよ」
バナージ「……殺し屋、ですか」
千棘「それだけじゃないわ。あの子はどういうわけか、ガンプラの製作に非凡な才能を発揮するのよね。出来栄えが強さに比例するガンプラバトルでは、機体性能だけで一般的なファイターとガンプラを凌駕してしまうほどの超凄腕よ」
バナージ「……そ、そうなのか?(あの外見では想像もつかないな)」
千棘「でも、肝心のガンプラバトルに関しては、最初はかなりの弱小だったらしいわ。私とつぐみがしばらく会ってない数年間、あの子は必死にガンプラの操縦技術を学んだの。そして遂には、ガンプラバトル世界大会で優勝を勝ち取って、去年も3連覇を達成したって言ってたわ」
バナージ「……俺、そんなに手強い人と戦うんですか……」
千棘「まあ……つまり、少しガンプラをいじくっただけのあんたなんて、つぐみにとってはド素人同然ってワケ。あの子にガンプラバトルで勝てるなんて、普通考えられないんだから……!」
バナージ(……この人がそこまで言うのなら、相当気を引き締めていかないといけないのか……)
バナージ「それにしても、どうしてガンプラバトルなんでしょう? 俺が邪魔なら、実力行使でどうにでもなるはずじゃ……」
千棘「……つぐみはね、ああなったら最後、手段なんて問わないの。自分が一番得意とする方法で相手を完膚無きまでに叩きのめして、負けを認めさせるだけよ。例えガンプラバトルでも、負けたらあんたの命は無いし……」
バナージ「そうですか……。なら尚更、俺も今まで以上の本気でいきます(もっとも、ガンプラバトルで本気出すのは初めてだけど……)」
千棘「……まあ、まず99%無理だとは思うけど…………負けないでよね」ボソッ
バナージ「……え?」
バナージ(……ひょっとして、心配してくれてるのか?)
千棘「べっ……別にあんたのことが心配だからとか、そういう意味じゃないから!! あんたが負けると色々大変なことになるし、責任重大なのよ!? ヘマしたら許さないんだから……!!」ガミガミ
バナージ「それくらい……わかってます(言われなくたって……!)」
千棘(……全っ然わかってないわよ、コイツ……)プイッ
[ビスト邸]
バナージ「父さん、何か俺にピッタリのガンプラってありませんか? 俺、久しぶりにガンプラバトルをやってみたいと思うんです」
カーディアス「そうか……。そういう話なら任せなさい。財団の総力を挙げて、お前にこそふさわしいガンプラを開発しよう」
カーディアス『ガエル、聞こえているな? 今すぐRX-0の設計データと、アレに使用していたサイコフレームの余剰パーツを用意しろ。原型機を144/1スケールまでダウンサイジングし、プラモデルとして一から作り直すのだ』ピピッ
ガエル『はっ……承知致しました。ご当主』
カーディアス「今、ガエルに指示を出した。全てのパーツが完成するまで、遅くてもあと1日だそうだ」
バナージ(早いな……。でも、これなら十分に準備ができるはずだ……!)
バナージ「父さん……ありがとう」
カーディアス「礼には及ばん。財団の力を以てすれば造作もないことだからな」
>>257の訂正
[ビスト邸]
バナージ「父さん、何か俺にピッタリのガンプラってありませんか? 俺、久しぶりにガンプラバトルをやってみたいと思うんです」
カーディアス「そうか……。そういう話なら任せなさい。財団の総力を挙げて、お前にこそふさわしいガンプラを開発しよう」
カーディアス『ガエル、聞こえているな? 今すぐRX-0の設計データと、アレに使用していたサイコフレームの余剰パーツを用意しろ。原型機を1/144スケールまでダウンサイジングし、プラモデルとして一から作り直すのだ』ピピッ
ガエル『はっ……承知致しました。ご当主』
カーディアス「今、ガエルに指示を出した。全てのパーツが完成するまで、遅くてもあと1日だそうだ」
バナージ(早いな……。でも、これなら十分に準備ができるはずだ……!)
バナージ「父さん……ありがとう」
カーディアス「礼には及ばん。財団の力を以てすれば造作もないことだからな」
――決闘4日前
[鶫の自室]
鶫「…………」プシュー プシュー
千棘「つぐみー! おやつ食べよー!」ガチャリ
鶫「……ああ、いけませんお嬢……」ヨロヨロ
千棘「う……うぷッ、なっ、なにこの臭い……! 鶫、あんたまさか……」オエェ
鶫「……すみません。ずっと部屋に籠もってたもので……」フラフラ
千棘「あ、あんたねぇ……なんで換気しないのよ!! スプレー缶とか接着剤使うんなら、それくらい当たり前じゃないの!?」
鶫「いやぁ……ついつい作業に熱が入ってしまいまして、忘れてました……」ゲッソリ
千棘(……そう言えば、ガンプラに熱中し過ぎると初歩的なミスをやらかすのが、この子の悪い癖だったような……)
――決闘3日前
[教室]
小咲「……バナージ君、今日もお休みだね」
集「病欠だからしょうがないんじゃないの? ま、あいつが2日間連続で休むなんて珍しいけどな……」
るり「……千棘ちゃん、バナージ君から何か聞いてないの?」
千棘「ええっ!? ま、まあ……治るのに少し時間がかかりそうだって、ダーリンには聞いたわ……」
小咲「そっか……。早く治るといいね……」ションボリ
るり(……小咲、元気無いわね。ま、好きな相手が病気と知りゃ無理もないか……)
千棘(今頃あいつ、家で特訓してんのかしら……。みんなに心配かけてんだから、その分しっかり頑張んなさいよね)
――決闘2日前
[バナージの自室]
バナージ「“フルアーマー・プラン”?」
タクヤ「実際には“フル・ウェポン”と言った方が正しいけどな。このガンプラに使える武装を可能な限り搭載して、大火力を実現させようってのが俺の案だ」
バナージ「なるほど……。でもそれじゃあ、武器の重さで動きが鈍くならないか?」
タクヤ「だから、コイツの背面に94式ベースジャバーの大型ブースターを備えつけて、スピードを維持させるんだ。もちろん、使用済みの武装はデッドウェイト化を避けるために、すぐにパージできるようにしておく。そこら辺の帳尻は上手く合わせるから、心配すんなって」
バナージ「……ありがとう。わざわざこんな時に来てもらって、助かるよ」
タクヤ「お前が現役チャンピオンのガンプラファイターとやり合うって聞いたら、俺もじっとしてられるかよ。ガンプラビルダーとしての腕が鳴るってモンだぜ!」
――決闘前日
[鶫の自室]
鶫「……よし、完成だ!」カチリ
鶫(まだ試作段階だが……この新機能があれば、負ける気がしない!)
千棘「つぐみー……入ってもいい?」ガチャリ
鶫「お嬢! どうされたのですか?」
千棘「……いよいよ明日、なのよね」
鶫「ええ。見てて下さいお嬢。私が必ずや勝利を手にし、お嬢をあの男の魔の手から救ってみせます!」メラメラ
千棘「いやー……あの人、一応私の彼氏なんだけど……。あんまり酷い事しないでね?」
鶫「……申し訳ありません。ですが……これはもう、私がお嬢のボディーガードで居続ける為には、どうしても避けられない戦いなのです……」
千棘「そ、そっか……(こりゃ、完全に聞く耳持たないわね……。つぐみには悪いけど、今回ばかりはあのアホもやしを応援させてもらうわ……)」
――決闘当日
[校内 ガンプラバトル・ルーム]
鶫「……フン、逃げずに来たことは褒めてやろう」
バナージ「…………(いよいよだな……)」
集「おーーッス!! バナージ!」
バナージ「集? どうしてここに……」
集「いやぁ、模型部の知り合いが非公式のガンプラバトルを頼まれたって言っててさ。しかも対戦者がお前とつぐみちゃんと聞かされちゃ、観ないわけにもいかないだろ?」
バナージ「そうか……」
バナージ(あいつの他にも大勢の人が来ている……。そんなに俺達の決闘が知れ渡っていたのか?)
小咲「私、ガンプラバトルを間近で観るのは初めてだよ」ワクワク
るり「普通はテレビで観るくらいだもんね……」
バナージ「おっ……小野寺さんと宮本さんまで!?」
小咲「あっ、バナージ君! 病気はもう大丈夫なの?」
バナージ「……この通り、身体はもう大丈夫です。みんな、心配かけてすいませんでした」
るり「……元気そうで良かったわね」
小咲「うん……! 本当に良かった……」
るり(……にしても、彼が学校に戻って来た今日にいきなりガンプラバトルをやるなんて、これも何かの偶然なのかしら……)
バナージ(仮病を使って5日間学校を休んだんだ……。特訓の成果を出し切れよ、バナージ)
鶫「さて、ギャラリーも増えて賑やかになったところで、そろそろ始めようか」
バナージ「……いいでしょう」
鶫「バトルフィールドは私が指定する。今回の戦場は……ここだ!」
BATTLE FIELD:SPACE (A BAOA QU)
千棘(出た……! つぐみの得意な宙域戦に持ち込むつもりね……)
バナージ(空間戦闘か……。あの人自身が決めるんだから、向こうに有利な場所なんだろうけど……やってみせる!)
鶫「……よし。では、お互いのガンプラをベースにセットしたらバトル開始だ!」カチッ
バナージ「…………」カチッ
ザワ…ザワ…
集「おお……! あれが、つぐみちゃんのガンプラ《ビルドストライクガンダム・コスモス》か! 見た目は前見たやつと若干違うけど……間違いねえ!」
小咲「ええっと……それって、強いの?」
集「俺も最近知ったんだけど、つぐみちゃんは去年のガンプラバトル世界大会優勝者で、しかも三年連続で優勝してるんだ。そしてその優勝を飾ったガンプラこそ、あのガンプラなんだぜ。こりゃあ、完全にバナージの分が悪いな……」
小咲「そ、そうなんだ……(私、どっちかって言うとバナージ君に勝って欲しいんだけどな……)」
るり「ところで、バナージ君のガンプラは……?」チラリ
集「……一本角の、真っ白いガンプラ? 知らないし見たことねぇな……。それに、やたらと武器が満載しててゴツそうだぜ?」
千棘(あのもやし……火力で勝負する気? つぐみの最も得意とする高機動戦闘には、相性が悪いのに……)
鶫(ほう……。アレが奴のガンプラか。一体どんな性能が秘められているのか気になるところだが……経験で勝っている私に、勝てる道理など無い!)
バナージ(父さんとガエルさん、それにタクヤにも手伝ってもらって完成させたんだ。頼むぞ、ユニコーン……!)
<『プラフスキー粒子、戦闘濃度散布。各ファイターは、発進どうぞ』
鶫「では行くぞ! 鶫誠士郎、《ビルドストライクガンダム・ヴィクトリー》出る!!」ドシュ
バナージ「バナージ・リンクス、《ユニコーンガンダム》行きます!」ドシュ
千棘「……始まったわね」
千棘(一応……あんたはあたしの彼氏なんだからね。負けんじゃないわよ、アホもやし……)
シュゴオォ……
鶫(……行くよ、レイジ。君との約束を果たすまで、私は負けない! 君と共に戦い抜いたこのガンプラで、必ずお嬢を守ってみせる!!)ギュイィン!
――試合開始3分経過
[バトルフィールド/ア・バオア・クー宙域]
ドガガガ
ドカァン ドカァン
バヒュウゥン!
鶫(……なるほど、実弾を多く積んでいるのか。だが……)
バナージ「くッ……当たらない……!」バシュ バシュ
鶫「当たらなければどうということはない!」キシューン キシューン
バナージ「! 危ないっ!」バシュウ
鶫「あっ、“Iフィールド”!? 相手もビーム対策はしてあったのか……!」
バナージ「弾数が少ない……。一気に行く!」ギュイーン
鶫「スピードで勝負するつもりか……面白い!」ギュイーン
ゴオオオ…
バナージ「……(スピードはほぼ互角。攻撃を当てることさえできれば……!)」
鶫「……フフッ。貴様のガンプラで、この《ビルドストライク》に追いつこうと思っているようだが……そうはいかないぞ!!」
バナージ「なに……!?」
鶫「“プラフスキードライブ”を使う!」ゴアアッ
バナージ「なっ……!?(速い!! まだあんなスピードが出せるのか……!?)」
鶫(これが、《V2ガンダム》からヒントを得た新しい力“プラフスキードライブ”だ! この圧倒的スピードの前に、貴様のガンプラはついて来れまい!)ゴオオオッ
フッ
バナージ「なっ……(Vの字の残像を残して……消えた!?)」
鶫「どこを見ている!」ブォン
バナージ「!! 上か!?」ティリリン!
バチィン!
ジガガガ…
鶫「この距離、この一瞬で私の一撃を受け止められるとは……大したものだ」バチバチ
バナージ「ぐうぅ……!」バチバチ
鶫「だが、所詮私と貴様では力の差は歴然!」
バナージ「くっ……舐めるな!」ボシュ ボシュ
鶫「やる気のない弾など!」ボンッ ボンッ
バナージ「効いてない……!」チッ
鶫「私から逃げられはせん!」グオォッ
鶫「言ってやる! 貴様では、お嬢を守ることなどできん!!」ブォン
バナージ「守る守るって……どうしてあなたは、そういうことしか考えられないんですか!」バチィン
鶫「なにィ……!?」グググ…
バナージ「あの人は……あなたに守られてばかりで収まる程、ヤワな人間じゃありませんよ!!」
鶫「……!!」
バナージ「あなたは、あの人のことを本当にわかってあげようとしているんですか? だったら、どうして温かく見守ってあげようとしないんです!?」
鶫「……っ、知ったようなことを……!!」
千棘「……あなたがここに来るまでに、あの人なりに悩んで苦しんでいる時もあった。俺は気付くのが遅かったけど……彼女は自分なりに、自分の力で何とかしようとしていたんだ!」
鶫「……」ギリギリ
バナージ「鶫さん! あなたのその行き過ぎた愛情が、あなた自身を歪めているんだ! それに気付いて下さい!」
鶫「…………だっ、黙れええぇェェーーッ!!」ギュオォン
>>305の修正
鶫「ハッキリ言ってやる! 貴様では、お嬢を守ることなどできん!!」ブォン
バナージ「守る守るって……どうしてあなたは、そういうことしか考えられないんですか!」バチィン
鶫「なにィ……!?」グググ…
バナージ「あの人は……あなたに守られてばかりで収まる程、ヤワな人間じゃありませんよ!!」
鶫「……!!」
バナージ「あなたは、あの人のことを本当にわかってあげようとしているんですか? だったら、どうして温かく見守ってあげようとしないんです!?」
鶫「……っ、知ったようなことを……!!」
バナージ「……あなたがここに来るまでに、あの人なりに悩んで苦しんでいる時もあった。俺は気付くのが遅かったけど……彼女は自分なりに、自分の力で何とかしようとしていたんだ!」
鶫「……」ギリギリ
バナージ「鶫さん! あなたのその行き過ぎた愛情が、あなた自身を歪めているんだ! それに気付いて下さい!」
鶫「…………だっ、黙れええぇェェーーッ!!」ギュオォン
鶫「……お嬢と会ってたかだか数ヶ月しか経っていない貴様なんぞに、お嬢の……私の何がわかるって言うんだァ!!」キシューン キシューン
バナージ「ぐッ!」バシュゥ
鶫「私はっ、お嬢のお側にお仕えしなければならないのだ!! 今までも……そしてこれからも! それを邪魔すると言うのなら、貴様はここで……墜とす!!」
バナージ「そうやって、何でもかんでも自分を縛り付けて……! いつか自分を殺し尽くしてしまうぞ……!」
鶫「本当の自分など、とうの昔に棄てている!! 私を拾ってくれたゼクス様や……私に生きる光を与えてくれたお嬢のためなら……!」キュピイィン!
バナージ「……っ、ぐぅッ!(何だ……胸が苦しい……。彼女の声が、俺の頭に響く……!)」
鶫「光の翼でェッ!! 殺ってやる!」ブワアァッ
バナージ「つ……鶫さん、ダメだ!(あ……あれは危険な光だ!)」
ウイイィン……
小咲「み、見て! あれ……」
集「バナージのガンプラが……」
るり「……赤く、発光している……?」
♪「UNICORN」
https://www.youtube.com/watch?v=BnaC0RgEPCw
シュンッ
鶫「なッ……(奴のガンプラが、消えた……だと!?)」
絶対に避けれないと思った一撃。
しかしそれは、危ないと思った瞬間に俺のガンプラが勝手に動いて、当たることはなかった。
バナージ「…………、この光……」
そして今、俺の《ユニコーンガンダム》が赤い燐光を迸らせ、その姿を変えていく。
――信じろ。自分の中の可能性を。為すべきと思ったことを、為せ。
バナージ(……そうだ、俺は彼女を止めたい。止めなきゃならないんだ……! ガンダム!)
〈NT-D〉ウイイィン…
バナージ「俺に力を貸せ!」ピピピピ
鶫「奴のガンプラが変形……いや、変身した……!?」
鶫(しかもあの赤い光……。GN粒子でもなければ、プラフスキー粒子の放つ光でもない……? 何だあれは!)
ギュイン ギュイン
ゴオオオッ
鶫「スピードは私の《ビルドストライク》と互角……しかし、あの動きはなんだ? ガンプラに、あんなムチャクチャな機動ができるハズが……!」
バナージ「凄い……(俺のガンプラ、考えただけで動いてくれるのか?)」
鶫「……だが、素人の貴様がいくら動いたところで、私の勝ちが揺らぐものか!」ビュイィン
バナージ「!! 来る……!」ティリリン!
ガキィン!!
ガガガガ…
鶫「近接戦に持ち込めば、その重っ苦しい武器も邪魔にしかなるまい!」グググ…
バナージ「……っ!」グググ…
鶫「このまま押し通る!」グインッ
バナージ「くっ……、させるか!」ガキン、シュゴオォ
鶫「おのれぇ……逃げるなァ!」
バナージ「……当たれッ!」バヒュウゥン! バヒュウゥン!
鶫「! その程度の射撃で……」
バチチッ
ボカァン!
鶫「な、何ィ!?」
鶫(左腕を持っていかれた……!? 確かに避けたハズだぞ? いや……まさか、掠めただけであの威力か……!!)
バナージ(余分な武器は捨てて……後はビームマグナムとシールドがあれば!)ガション
鶫「よくも……よくも、私のガンプラに傷をつけたなァ!!」ブチッ
バナージ「……!!(このプレッシャーは……!)」ビクッ
鶫「沈めえェッ!! スタービームキャノン!」ビュアァッ
バナージ(避けてくれ、ユニコーン!)
シュンッ
鶫「……チッ!(外した……この私が……!)」キシューン キシューン
バナージ(見える……! 動きが見える!)シュンッ、シュンッ
鶫「なぜだ! なぜ当たらない!?」イライラ
鶫(あいつ……私の射線を読んでいる……!? !! そうか、奴は……)
鶫「“ニュータイプ”……!!」ギンッ
鶫「貴様が……貴様さえいなければ!」キュピイィン!!
バナージ(な……何だ? この肌が粟立つような感覚は……!)ゾクリ
鶫(ニュータイプ……。私や、私の仲間達のような者を生み出す“呪い”そのものだ! その“呪い”を体現する者がいるのなら……!)
鶫「……誰かが人柱になって、鎮めなきゃなァ!!」ゴオオオッ
バナージ「落ち着いて鶫さん! あなたは憎しみに呑まれている!」
鶫「それがどうしたァ!!」ビュオォン!
バナージ「うぐぅあッ!」ガコン!
鶫「貴様達ニュータイプに少しでも近付くために、望んでもいない非ィ人道的な実験や仕打ちを受けて生きてきたんだ!! これが憎まずにいられるか!」
バナージ「だからって……! 自分が地獄を見たからって、他人にそれを押し付けていいってことはないんだ!」
鶫「しゃべるなああァッ!!」ババババ
バナージ「うわぁッ!」
鶫「……もののついでだ。お嬢を貴様から取り返し、ニュータイプが人の進化の形だなんていう幻想を打ち砕いてやる! ニュータイプである……貴様を倒すことでなァ!!」
バナージ「本気なのか……!?」
鶫「そろそろケリをつけてやる! “RGシステム”、起動!!」
シュイイィン…
千棘(あの青白い光は……つぐみが奥の手を使う証拠だわ! アホもやし……どうすんのよ!?)ジリッ
鶫(……バナージ・リンクス。ニュータイプの貴様に打ち勝ち、私は自らの因縁を断ち切ってみせるぞ!)シュゴオォ
鶫「喰らえェッ! ビルドナックルゥッ!!」ブアアッ
バナージ「鶫さん!!(あれに当たったら、確実にやられる! この距離では……避けれない!!)」
鶫「終わりだ……!!」ニヤリ
バナージ「…………っ、もう……もう止めてくれえぇェッ!!」
ピキイィン!!
鶫「なッ……何ィ!!?(わ、私の《ビルドストライク》が、弾き飛ばされた……!!)」
バナージ「…………!?(い……一体何がどうなって……?)」
ウイイィン……
集「おいおい……何だよあれ! さっきは赤く光ったと思ったら、今度は緑色かぁ!?」
るり「…………(バナージ君のガンプラ……一体どういう作りしてるの?)」
小咲「…………(綺麗な光……)」
バトルフィールドの宙に浮かぶ《ユニコーンガンダム》がその身を悶え、獣のような呻き声を上げる。
それと同時に、機体から露出したサイコフレームの発光色が赤から緑がかった虹色へと変わり、七色の燐光が撒き散らされた。
鶫(あの光は……何が起こっているんだ……! 奴のガンプラには、まだ仕掛けがあるのか!?)ギリギリ
バナージ(…………何だ? 俺の心の中に、何かが流れ込んでくる……?)
――彼女は苦しんでいる。お前もわかっているはずだ。
バナージ「だ……誰です……?」
反射的に、そう口走ってしまった。
でもどうしてだろう、俺はその“声”の主をとてもよく知っている気がする。
――今は思い出さなくてもいい。だが、私はお前をずっと見ている。見守り続けている……。この虹の彼方で……。
目の前にいっぱいに広がる虹の光の中に見えた、優しく微笑む女の人――。
その人が光の奥へ吸い込まれて消えてしまった時には、俺の意識はあったのか無かったのか、それさえもわからない。
ただ、あの人に言われるままに、苦しむ“彼女”を救うため、俺はそっと目を閉じた。
シーン…
バナージ「」ウイイィン……
鶫「……?(……何故かはわからないが、奴の動きが止まっている。今なら……!)」
鶫「……今度こそ、確実にやれるッ!!」ブンッ
シュイン…シュイン…
ピキンッ!
鶫「なあァッ!?(た……ただのシールドが、勝手に動いて……!!?)」
バナージ「」ズズズズ…
鶫(……私の、最強のビルドナックルが、たかだか奴のシールド3枚に防がれる、だと……?)ワナワナ
鶫「…………ッ!
貴様ごときがあァッ!!」ビュアァッ
バシュウッ
鶫「…………!!」ゾクリ
鶫(……何なんだ、何なんだあの光はッ!! 私の攻撃が、全てあの光に弾かれて……!)ガチガチ
バナージ「」スッ…
鶫「……?」ゴクリ
キュピイィン!!
鶫「……!! う、動かない……!?」カチカチ
バナージ「」クンッ
鶫「ひッ……!(《ビルドストライク》が、奴のガンプラに引き寄せられている……!!)」
バナージ「」ゴゴゴゴ…
鶫「……う、うぅ……っ、うわあああぁァッ!!」
[精神世界]
――今日もお薬の時間よ。
――い、イヤだ!!
――どうして? これ飲まないと、あなた死んじゃうのよ?
――だって……私見たんだもん! お薬たくさん飲んだ子が、血を噴き出して死んだんだもん!!
――ここはもう駄目だな。早くその欠陥品諸共処分しよう。
――はい。《サイコガンダムMk-?》のパイロットは……決まりませんでしたね。
――ああ。よく頑張ってくれたが……この子達には適性が無かったようだ。せめて楽に死なせてやりなさい。
――……承知しました。G3ガスの使用許可を所長に申請して参ります。
――寒い……寒いよ……。
――……なんと酷い。こんなにもやせ細って……。ノイン、この子に温かいスープを用意してやれ。
――……おじさん、誰……?
――そうだな……。火消しの風(プリベンター・ウインド)とでも名乗っておこう。
>>360の文字化け修正
[精神世界]
――今日もお薬の時間よ。
――い、イヤだ!!
――どうして? これ飲まないと、あなた死んじゃうのよ?
――だって……私見たんだもん! お薬たくさん飲んだ子が、血を噴き出して死んだんだもん!!
――ここはもう駄目だな。早くその欠陥品諸共処分しよう。
――はい。《サイコガンダムMk-2》のパイロットは……決まりませんでしたね。
――ああ。よく頑張ってくれたが……この子達には適性が無かったようだ。せめて楽に死なせてやりなさい。
――……承知しました。G3ガスの使用許可を所長に申請して参ります。
――寒い……寒いよ……。
――……なんと酷い。こんなにもやせ細って……。ノイン、この子に温かいスープを用意してやれ。
――……おじさん、誰……?
――そうだな……。火消しの風(プリベンター・ウインド)とでも名乗っておこう。
――お嬢! どうして……どうして行ってしまわれるのですか!?
――事情が事情なのだ。仕方あるまい。力を失った我々には、こうするしか……。
――ですが……!
――今は堪えろ。私とて、お嬢のお側にいられないのは心苦しいのだ。
――うっ…………っ、ううぅ………!!
――私は、何をすればいいのだ……?
――おーい、あのでっかい壁に映ってるアレ、ありゃ一体なんだ?
――……あの街頭テレビのことか。ガンプラバトルのPVだろう? どうして知らないんだ?
――へぇーっ、ガンプラバトルって言うのか、あれ……。
――……君、誰なんだ? ここいらじゃ見ない服着てるな。
――俺か? 俺はレイジ。そういうお前こそ、誰だよ?
――……鶫、誠士郎だ。
――ふーん……。長ったらしいから、“セイ”って呼んでいいか?
――えっ……ええ?
――なあ、セイ! 俺にも、あのガンプラバトルってヤツを教えてくれよ!
――……ふふっ。面白いヤツだな、君は……
――どうして……どうしてだよ! 約束したじゃないか! 来年も……再来年も、ずっと一緒に、ガンプラバトルをやろうって……!
――…………なあ、セイ。
――……?
――……この前、お前と戦って俺はこう思ったんだ。強くなったお前とガンプラバトルがしたい、ってな。それが、今の俺の願いだ。
――……レイジ?
――なぁに、心配すんなって。またいつか会えるさ。そう……俺達はいつでも繋がってんだからな!
―あ……! 待って! レイジ!!
――強くなれ。これは約束だ。
――……レッ、レイジィィィッッ!!
鶫(裸)「……うぅっ、うああぁぁ……っ……!」ポロポロ
バナージ(裸)「…………(こんな…………こんなの、哀しすぎます……)」
鶫(裸)「…………お嬢と離れ離れになって、レイジも遠くに行ってしまって……ようやく私は、再びお嬢と巡り会えたというのに……」グス グス
バナージ(裸)「…………」
鶫(裸)「……なのに、お嬢の側には貴様がいた……」
鶫(裸)「嫌だったんだ……怖かったんだ……! 貴様がお嬢の恋人で、お嬢がいつか、私に振り向かなくなる時が来ることが……!」
バナージ(裸)「……(俺、別に好きであの人と恋人やってるわけじゃないんだけどな……)」
鶫(裸)「……だから、お嬢にくっつく貴様から、お嬢を奪い返したいと思った……。そのためなら、手段も選ばないって……!」
バナージ(裸)「…………」
鶫(裸)「お嬢の側にいるのは……私だ! 私なんだ! いきなり現れた貴様には……!!」
バナージ(裸)(……この人の心の中に巣くう澱んだ感情……。これが、あなたを狂わせていたのか……)
――その一途な想いが、他人も自分も傷つける。
鶫(裸)「だ……誰……!?」
バナージ(裸)「…………(この声、あの時の……?)」
――落ち着いて周りを見渡せばいい。世界は広い。こんなにたくさんの人が響き合っている……。
鶫(裸)「な、何……!? 何なんだこれは……!」
――全く……どうしちまったんだよ、セイ。
鶫(裸)「レ、レイジ……!?」
――俺が知ってるお前は、そんなタマの小せえ奴じゃねえだろ?
――そうよ。大体あんた、私なんかのために自分を窮屈にさせて、それでいいわけ?
鶫(裸)「お嬢の声まで……!! 私は……一体、何を聞いてるんだ……!?」
――私のこと、大切に思ってくれてるのは嬉しい。けどね、あんたにはもっと、自分の人生を自分の幸福ために使って欲しいのよ。一人の女の子としてね。それが、今のあんたに対する、私なりのお願いだから……。
鶫(裸)「お…………お嬢……っ!!」パアァァ…
バナージ(裸)(……これは、“暖かな光”……。鶫さんの心が、洗われているのか……?)
鶫(裸)「……で、ですが……! 私はもう、女を捨てた身です! それに今更、こんな身も心もボロボロになった私なんかが、どう生きていけばいいかなんて……わからない!」ポロポロ
――なら、目の前にいる彼に助けを求めればいい。バナージなら、きっと一緒に導いてくれるだろう。
鶫(裸)「…………バナージ・リンクス……?」キョトン
バナージ(裸)「…………」スッ
バナージ(裸)(誰かはわからない……けど、俺は今、彼女に必要とされている……。そうですよね?)
――自分の為すべきと思ったことを為す。そうだろう? バナージ……。
バナージ(裸)「…………(……そうだ。俺は彼女を……鶫さんを救うために……)」
鶫(裸)「…………い、いいのか? 私なんかが、貴様の手を取って……。あんなに酷いことを、言ったのに……?」ウルウル
バナージ(裸)「……今はもう、関係ないですよ。それに俺は、最初からあなたを……あの澱んだ黒い感覚に囚われて苦しんでいたあなたを、救い出したいと思っただけですから……」
鶫(裸)「…………!!」ジワァ
バナージ(裸)「行きましょう。あの人も待ってます」
鶫(裸)「………あ、ああ……!」ゴシゴシ
――負けんなよ、セイ。
鶫(裸)「……、レイジ……?」
――またいつか、お前と会ってガンプラバトルをするまで、俺はいつでもお前を待ってる。だから、お前はお前のままで良いんだよ。あの、ガンプラバトルが大好きだったお前のままで……。
鶫(裸)「……ありがとう、レイジ。またいつか、君に会うまで……!」シュウゥゥ…
――ああ。約束だ!
[校内 ガンプラバトル・ルーム]
ビーッ ビーッ
『バトル終了。勝者、バナージ・リンクス』
小咲「バナージ君が……勝った!」
集「なんか……最後のあれ、呆気なかったよな」
るり「ええ……」
るり(バナージ君のガンプラに触れた瞬間、鶫ちゃんのガンプラがバラバラに崩れた……。一体何がどうなってるの?)
千棘「…………あのもやし、本当に勝っちゃった……」ポカーン
千棘(ま、まあ……でも、これで結果オーライってことでいいのよね?)
バナージ「鶫さん!」ダッ
鶫「……う、うぅ…………」グッタリ
バナージ「鶫さん……! 大丈夫ですか?」
鶫「…………バナージ。私は……」
バナージ「無理しないで下さい。立てますか?」ガシッ
鶫「ちょっ……/// やめろ! 一人で立てる……!」グラリ
バナージ「そんなこと言って……足がふらついてますよ!」パシッ
鶫「うう……」ギクッ
バナージ「変な意地なんか張らずに、俺に掴まって下さい」
鶫「……わ、わかった……」オドオド
鶫(……どうしてなんだ。さっきまで敵だった私に、どうしてここまで優しくできる……!)ドキドキ
鶫「……わ、悪かったな。理不尽な言い掛かりをつけて、貴様を……目の敵にしてしまって……」モジモジ
バナージ「鶫さん……」
鶫「もっと、早く気づけば良かったんだ。私にはまだ、ありのままの自分を生きることができるって……。そう思えたから、貴様とも分かり合えて、こうして話ができる……」
バナージ「……本当の、自分の心に従えば、それでいいんです」
鶫「そうだな……。貴様のおかげだ。礼を言うよ」
バナージ「礼だなんて……。俺は別に……」
――自分で自分を決められるたった一つの部品だ。なくすなよ。
バナージ(……何だろう、凄く胸に響く言葉だ。誰が言ってたんだ……?)
鶫「……貴様のガンプラ、まだ……輝いているな」
バナージ「え……」
彼女が指差す方向に視線を向ける。
バトルフィールドの中央に佇む俺のガンプラ《ユニコーンガンダム》が、今なお淡い虹色の光を輝かせていた。
バナージ「…………、オードリー……」ボソッ
鶫「……? 何か言ったか……?」
バナージ「……! い、いえ……なんでも……」
無意識に口にしてしまった言葉。
知らない人の名前……かもしれないが、とても懐かしい響きだった。
バナージ(……俺は、一体どうしたんだ……?)
あの時、彼女の心と触れ合った瞬間、辺りを包み込んだ光――。
そう、俺はあの光を知っている。
みんなの思いが集まった、あの暖かな光を、俺は……。
バナージ「…………」
何かを思い出しそうになる。
忘れてはいけない大切な記憶が、もしかしたらあるのかもしれない。
けれども今は、何も考えないでおいた。
いつの日か、それを取り戻すまで、俺は彼女を……鶫さんの側についていようと思う。
それが、今の俺が為すべき事――自分の心に従った選択なのだから。
このSSまとめへのコメント
ガンダム、ニセコイどちらも
好きな俺にとっては面白いssだな
これは神スレ。是非とも続けてほしい。てか俺も中の人ネタやりたかったのにィィィィィ!
NT-D発動できる1/144フルコーン欲しいw
ユニコーン見ようかなー。
だれかKHのロクサスかヴェントゥスのほうもやってほしいな。
全員声優一緒なんでゲスが