海未「懐かしき日々」 (55)

・設定はSIDとかアニメとかごっちゃになってるので、生暖かく見守っていただけると幸いです。

・地の文は海未ちゃん一人語り。SID風に捉えていただけると。

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とある日の放課後のことです。

今日は久々にμ’sの練習もお休みということで穂乃果のお宅にお邪魔していました。

穂むらの和菓子とお茶をいただきながら、ゆっくりとした時間が流れるこの感じ。

昔からの幼馴染3人のペース。

言葉を発さずとも、ほっとするこの空気が私は好きです。

「あっ」

「どうしました?ことり」

「ねえねえ穂乃果ちゃん、これアルバム?」

「ほうだよー」

もぐもぐとお饅頭を頬張りながら答える穂乃果。

「こら、お行儀が悪いですよ」

「ごめんごめん」

ぺろり、と舌を出しながら。

まったく穂乃果は……。

「穂乃果ちゃん、これ見てもいい?」

「どうぞどうぞ」

「あ、私も見たいです」

みんなでアルバムを覗き込みます。

そこには、小さい頃の穂乃果がたくさん。

泥だらけではしゃいでいたり、満面の笑顔でピースしてたり。

「ちっちゃい穂乃果ちゃん可愛いー♪」

「へへ、ありがとー」

「穂乃果は昔から穂乃果ですねえ……」

濃い抹茶とお茶菓子をいただきながら、思い出話に花を咲かせます。

本当に、長い付き合いですからね。話は尽きません。

「あ……これ」

「え、なになに?」

何かを見つけたことりが、写真を指さして。

その写真には、泣いている私達3人の姿。

泥だらけで、みんなひどい顔です。

「ああ……これは」

「あー、懐かしいねえ」

たはは、とみんな苦笑い。

この写真が撮影された日。

それは、子供の頃の私達にとっての大冒険の記憶。

思い出すのは私を引っ張ってくれる手の暖かさと穂むらのお饅頭の甘さ。

本当に、懐かしい―――

―――――――――

あれは、小学校低学年の頃でした。

私達の小学校の裏手にはちょっとした山……とも言えないような、本当に小さな雑木林がありました。

子どもたちにとってはいい遊び場で、特に男の子たちは秘密基地なんか作ったり、走り回って遊んでいましたね。

ですが、小学校低学年くらいの子たちでは少々危険な場所だったのです。

先生方からは入らないように、と釘を刺されていました。

とある日の放課後。

『ねえねえ、ほのかたちも遊びに行ってみようよ!』

小さな穂乃果は突然そんなことを言い出しました。

昔から穂乃果は穂乃果で、今と変わらず猪突猛進な子でしたから。

『えぇ~?危ないからわたしたちはまだダメってせんせえが言ってたよ?』

『そ、そうですよ……怖いです』

まだ気弱だった私は強く言えませんでした。

今の私ならきっと「ダメです!」とキッパリ言えたのでしょうが……。

『だいじょーぶだよ!ぜったい楽しいよ!』

穂乃果はまったく聞き入れません。

『う~ん……』

『やめましょうよぉ……』

やっぱり躊躇する私達でしたが、そこは穂乃果で。

『わたしは行くよ!入り口で待ってるからねー!』

と言って走り去ってしまいました。

穂乃果を1人にするわけにもいかず、恐る恐る裏山へ。

『ちょっとだけですよ?危ないんですから……』

『わかってるわかってるー♪』

そんなことを言いながら穂乃果の目はキラキラと輝いていて。

『わー、かわいい木の実がいっぱい!』

なんだかんだとことりも楽しんでいるようです。

かくいう私も、鬱蒼と茂る木々の中を歩いているとなんだか冒険みたいで。

怖い気持ち半分、ワクワクする気持ち半分で穂乃果たちについて行っていました。

子供のやることですから、「このあたりで引き返そう」なんて発想はなくて。

あちこちを歩きまわっているうちにすっかり日が暮れてしまっていました。

『ねえ穂乃果ちゃん、そろそろ帰らないと怒られちゃうよ?』

『わ、ホントだ……もうこんなに暗くなってる』

『か、帰りましょう……どんどん暗くなってきました』

規模が小さいといってもやっぱり山ですから、暗くなるのはあっという間。

やっぱり怖くなってきます。

『そうだね、帰ろー』

穂乃果はすたすたと歩き出します。

私たちも後を追っていきますが、一向に出口に出られません。

『穂乃果ちゃん、こっちでいいの…?』

『た、たぶん……?』

『穂乃果ぁ……』

辺りはあっという間に暗くなり、どんどん不安になっていきます。

もう帰れないんじゃないか。

早く帰って、ご飯が食べたい。

おかあさん、おとうさん……。

いろんな気持ちがないまぜになって。

『痛っ!』

疲れた足がもつれて、小さな私は転んでしまいました。

『海未ちゃん!』

『海未ちゃん、大丈夫!?』

擦りむいた膝から血が出てしまって。

痛いのと、不安な気持ちとで涙が出てしまいます。

『ぐすっ……うえええええん……』

こんな状況で1人が泣き出してしまうと、伝染するのが子供の性。

『おかあさん……おなか空いたよぉ……』

ことりも泣き出してしまいます。

暗い山の中、子供の泣き声が響きます。

ですが、穂乃果は。

『……』

穂乃果だけは、泣きませんでした。

自分が連れてきてしまったという責任からでしょうか。

必死に歯を食いしばって、涙をこらえる姿をよく覚えています。

『ねえ、手を繋ごうよ!』

穂乃果は気丈にそんなことを言います。

泣いている2人の手をとって、3人で手を繋いで。

『あーるーこー、あーるーこー』

なんて無理やり元気に歌いながら。

私達も穂乃果に引っ張られるように涙まじりで歌って。

しばらく歩くと、開けた場所に出ます。

そこは小高い丘みたいになっていて、街を一望できる子どもたちの間では秘密の場所。

あちこち歩きまわっているうちにいつの間にか着いてしまったようです。

すっかり夕暮れになっている街を見渡しながら、3人並んで座ります。

『お腹、すいたね……』

『はい……』

たくさん歩いて、泣いて。

私達の体力はもう限界でした。

また泣いてしまいそうになったそのとき。

『じゃあ、これみんなで分けて食べよ!』

穂乃果がおもむろにランドセルから見つけたお饅頭を差し出します。

たったひとつのお饅頭を3つに分けて。

もぐもぐ、と大事に食べます。

『おいしいね』

『はい、とっても……』

優しいお饅頭の甘さが体に溶けるように。

ちょっだけ安心して。

『そうだよ、ウチのお饅頭だもん!』

ちょっぴり穂乃果が誇らしげに。

ふう、と3人息をついて。

これからどうしよう……なんて不安な気持ちがまた湧いてきたころ。

急に私達を光が照らしました。

光の先には懐中電灯を持った警察官のおじさん。

そして、私達3人のおとうさん、おかあさん。

どうやら帰りの遅い私たちを心配して、みんなで探していたようでした。

ああ、やっと帰れる……そんな風にほっとして。

だけど、私達の中で誰より早く。

『おかあさああああん……うええええええん……』

穂乃果がお母様に飛びついていきました。

私たちの前ではやはり我慢していたのでしょう。

堰を切ったようにわんわん泣いています。

そんな穂乃果を見て、私たちも糸が切れたように泣いて泣いて。

穂乃果のお母様が「あんたたち、ひどい顔ねえ」なんて言いながら。

だけど心底ほっとした表情で。

びーびー泣いてる私たち3人を並ばせて、ぱしゃり、と写真を撮りました。

「あんたたちの恥ずかしい思い出にとっておくんだ」なんて言って。

そのあと。

それぞれ泣き疲れて、私たちは眠ってしまったようです。

おとうさんの大きな背中におんぶされながら、気づいたらそれぞれの家に。

目覚めた後、こっぴどく叱られたのは言うまでもありません。

これは、そんな思い出の写真。

そして、相変わらず穂乃果は私たちの手を引いていっています。

今は、μ’sのリーダーとして。

―――――――――

「いやー、懐かしいねえ」

「まったく、本当に怖かったんですよ!」

「あはは……大変だったよねぇ」

あれからずいぶん時間は経ちましたが、私たちは変わらず私たちのままで。

「ねえ、行ってみない?」

急に穂乃果がそんなことを言い出します。

「え、どこに?」

「あの裏山!」

「なんでそうなるんですか……」

「いやー、思い出話してたら行ってみたくなっちゃって」

相変わらず突拍子もない子です。

「んー……いいんじゃない?」

「ことり!?」

ことりまで乗ってしまうとは……。

「これではあの時と同じではないですか……」

やっぱり振り回される私。

本当に……何も変わらないんですから。

「はぁ……仕方ないですね」

なんて言いながら。

「じゃあ行ってみよー!」

穂乃果の元気な声に引きづられて、あの裏山に向かうのでした。

―――

少し歩いて裏山へ。

あの頃の記憶と照らし合わせると、ずいぶんと木々が低く感じます。

「ね、海未ちゃん、ことりちゃん」

そう言って穂乃果は手を差し出します。

ふふ、そういうことですか。

子どもみたいに、みんなで手を繋いで。

「あーるーこー、あーるーこー」

なんて、歌いながら。

そして歩くこと10分弱。

あっという間にあの丘へ。

「はー、こんなに近かったんだねえ」

「あのときはあんなに苦労したのにね」

「本当ですね……」

高校生になった私たちの歩幅、道を知っているということ。

様々な要因はあるにしてもずっと近かった。

そして、あのときと同じように3人並んで腰を下ろします。

眼下に見えるのはオトノキの景色。

あのときとはずいぶんと変わりました。

たくさんのビルが立ち、懐かしい景色……とは言えないくらいに様変わりして。

だけど、私たちもこの街と共に成長してきました。

一緒に歩んで、大きくなって。

「街の景色は変わったかもしれないけどさ」

穂乃果はぽつりと話し出します。

「やっぱり私はこの街が好きだな」

「うん、私も」

「そうですね……私も、この街が大好きです」

変わりゆくものと変わらないもの。

あの頃、憧れていたオトノキの女子高生のお姉さんたちが今は私たち。

時の流れはどうしたって早いけれど。

今、私の横にいる2人は全然変わっていません。

どれだけ時が経とうとも、それだけはきっと変わらない。

ずっとずっと大事な幼馴染で、親友。

「へへ、それでね……持ってきたんだ、これ」

穂乃果はお饅頭を取り出します。

今日は人数分、3つ。

「わあ、すごい!」

「なかなか、粋な計らいですね」

なんて言いながら。

一口、口に含むと。

やっぱり優しい甘さ。

あの頃の穂むらのお饅頭と寸分違わぬ味。

大好きな味。

「おいしいね」

みんなで言い合いながら。

あの頃の私たちの幼い笑顔がフラッシュバックして。

ゆっくり、ゆっくりと沈んでいく夕陽。

3人の影がすーっと伸びて。

あの頃の私たちの影よりずっと大きくなったけれど。

きっと、私たちはいつまで経ってもこのままなんだろうな。

このままで、ありたいな。

そんな風に思った1日でした。

以上です。

東京にそんな山はねえ!ってツッコミは勘弁してくださいオナシャス

では、html依頼出してまいります!

感想ありがとうございます!

海未ちゃんの言葉遣いについては一応SIDのほうだと小3の時点で敬語だったんで敬語にしました。

まあでも設定自体にはあんまりこだわらず書いてるので力抜いて読んでいただければと思いますw

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年05月25日 (日) 18:03:07   ID: 5I6L4PXD

ホントに早いですね♪
ハラショーです。あお疲れ様です>ω<//

2 :  SS好きの774さん   2014年05月25日 (日) 23:11:07   ID: Lsq3i05V

良いですね。ホッコリします(^_^)

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