P「……何かが違う気がするんだ」 (28)


「何が違うのでしょう?」

「良く解らない……けど違う気がするんだ」

夜の暗い765プロダクションの事務所で

俺は貴音に相談事を持ちかけていた

誰にも言えないような

いや、言えなくはないが言っても無駄な相談

俺が感じる違和感は

抽象的で具体性もなくて

どんなものかと聞かれたら口篭ってしまうような

曖昧なもの

だから……無駄

でも、貴音は

普段から謎の多い貴音なら……何かを感じ取っているかもしれないと思ったからだ

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「普段、何か感じたりしないか?」

「と、言われましても……」

貴音は困ったように首をかしげて

俺のことを心配そうに見つめる

頭がおかしいと思っているのかもしれないな……

「すまん……変なことのために残らせちゃって」

「いえ……プロデューサーが最近の仕事に身が入っていないのは存じていますから」

「…………そっか」

「そして悩みがあり、それを話す相手をわたくしにして下さったことに報いねばなりません」

貴音はそう言いながら

席を立とうと机についた俺の手に

そっと……手を重ねてきた


「貴音……」

「その違和感、具体的にお話することはできないのですか?」

「すまん。正直俺にも言い切る自信はないんだ」

「しかし……それが小骨のように引っかかる。と?」

「ああ」

貴音は真面目に考えてくれるらしく

椅子に座り込むと口元に手を当てる

その仕草はなんとなく探偵か何かのようにも感じたが

今はそんな冗談を言える空気ではなかった

「……では、違和感を感じるきっかけは?」

「そうだな……事務所にいると多いな。こんなはずじゃないのにって思うことがある」

「事務所……ですか」


「今はどうでしょう?」

「いや、今は全然問題ない」

「ふむ……では朝や昼のみながいる時間帯が原因と見るべきでしょうか」

「だとしたらみんなに何かあるってことになるんだが」

「案外そうかもしれませんよ。誰かが何かをした可能性もあります」

貴音は表情を険しくしながら

空から見下ろす月を見上げた

「……貴音?」

「わたくしのプロデュースで毎日休みなく仕事をしている。それがあなた様を苦しめている……とか」

「そんなことはない! そんなことは……苦しいなんてそんなことはありえない!」

「プ、プロデューサー……?」

気づけば椅子を蹴飛ばすように席を立っていて

回転椅子がキィィィ........っと不気味な音を立てた


「すまん……でも解ってくれ。本当に違う。貴音のことで苦しんでなんかいないんだ」

「プロデューサー……」

身を引いた貴音に対して

呟くような謝罪ではあったが

そう言ってもう一度椅子に座る

「それなら相談なんかしてないからな」

「そうですね……わたくしの失言でした」

貴音もそう言って頭を下げると

では……と、話を切り替えた

「何を見たらその違和感があるのですか?」

「ん~……例えば響が良く貴音とくっついてるだろ?」

「ええ」

「そういうのを見ると嫌悪感が……な。別々に見るときはほんと問題ないのにさ」

「……ふむ」


「他には真美が良く甘えてるだろ?」

「その相手は……?」

「ああ、それも貴音なんだ」

「では、やはりわたくしが……」

「違う! 嫌悪感を感じるのはむしろ響や真美が相手で、貴音には全然そんなことないんだ!」

思わず怒鳴り

貴音は驚きに目を見開いて

自分の口を抑える

……怖がらせちゃったんだろうか

なんでだろうな

貴音が自分のことを卑下したりすると

どうしても感情的になっちゃうんだよな……

これも違和感、かな

「すまん」

「いえ……」


「……ただ、わたくしが引き金になっていることは事実です」

「それは」

「響や真美を他の人と合わせてみた時はどうですか?」

真美や響が

春香や真、雪歩や美希達と……か

少しだけ考えてみたが

それには全く思うことはなかった

「何もないな……なぁ、貴音はどうだ? 誰かを見ててそんな風にはならないか?」

「わたくしは……その……」

貴音は少し考えてから

小さく首を縦に振った

「誰かを見ていて嫌悪感を抱く。という点ではわたくしもあなた様と同じかもしれません」


「やっぱりか! 嫌いじゃないのに嫌悪感を感じるこの違和感は貴音にもあるんだな!?」

「え、ええ……」

貴音は何故か俺から目をそらし

困ったようにため息をつく

「どうした?」

「実はあなた様とみなが仲良くしていると少し……」

「え……?」

それはまさか俺のことが……?

そう思うと途方もない虚脱感

あるいは絶望感に襲われ、言葉が出なくなって

ただ黙って貴音を見つめる

そして

「あなた様ではなく、みなに対してですが」

その一言で体が一気に軽くなって

今なら空でも飛べるんじゃないかとさえ思ってしまった


「……なんなんだろうな。これ」

「解りません……ですが、このままでは仕事に差し支える可能性があります」

確かに貴音の言うとおりだ

こんな状態では

誰かと一緒に仕事することなんて到底できないし

今企画が上がってきている

ユニットさえ組ませることはできない

……貴音ではなく、俺がダメっていう意味でだけど

「律子に話してみるか?」

「そうですね……律子嬢ならなにか解るかもしれません」

俺達は明日律子に相談することに決め

一旦解散することにした


………………のだが


「……ごめんなさい。もう一度言って頂けます?」

「これで何回目だよ……」

「いやぁ、私が聞くほどの事じゃない気がしてつい聞き流しちゃうんですよ」

翌日

俺達は予定通り律子に相談してみたのだが

ずっと同じことを繰り返していた

「なんで聞き流すんだ……」

「もしかしたらわたくし達に嫌悪感を抱いているのかもしれません」

俺の絶望に浸りつつある呟きに

貴音が耳元で小さく答えた

「そんな……」

「ありえない話ではありません。律子嬢がこんなことを冗談でするはずがありませんから」


「なんですかプロデューサー」

「くっ……」

確かに

律子が人の話を冗談で聞き逃すなんてことはないはず

例えこっちの話が冗談だとしても

それを理解していたとしても

ノリツッコミをする。それが律子のはずだからだ

「律子……お前、おれたちのことが嫌いなのか?」

「プ、プロデューサー!」

「貴音、率直に聞いておくべきだ。知らないまま嫌なこと続けるなんて嫌だろ?」

「それは……」

貴音は不安そうに顔をしかめて

俺の手をぎゅっと握った

「あなた様の言う通りですね……ですから律子嬢お答えください!」

「……ん~、正直嫌悪してるわね。すっごくどうでもいい事で仕事の邪魔されてるわけですし」


「ど、どうでもいいことってなんだよ」

「いや……事実じゃありません?」

俺達の中で

それぞれに嫌悪感を抱いている

それがどうでも良い事なんて

「律子……そんなに嫌か?」

「正直、この話は終わらせたいですね」

「なんでだよ……なんで……」

「この茶番いります?」

「わ、私に振られても……」

律子に話を振られた小鳥さんは

俺たちを見つめてあはは……っと乾いた笑い声を漏らした


「小鳥嬢もわたくし達を?」

「そ、そんなことはないわ? ただ……その、ね?」

小鳥さんは律子を一瞥し

律子はそれに対して呆れた微笑みを浮かべる

「なんですか?」

「ほ、本当に解ってないんですかプロデューサーさん」

「なにを?」

「プロデューサーさんや貴音ちゃんがその相手に嫌悪感を抱く理由です」

もしかして小鳥さんは解ってるのか?

このよくわからないものの答えを

そんな希望に目を輝かせながら

小鳥さんへと詰め寄る

そして言われたのは――

「プロデューサーさんも貴音ちゃんも、嫉妬してるんですよ。構って貰える相手に」

そんな言葉だった


「嫉妬……?」

「なぜ嫉妬しなければならないのですか?」

「なぜって……好きだからじゃないの?」

小鳥さんは貴音に対し

なんで解らないのか解らないといった感じで答える

「わたくしが……プロデューサーを?」

「俺が……貴音を?」

互いに呟きながら見つめ合う

好きという言葉が解らないわけじゃない

それがどういう感情によるものなのかも解らないわけではない

異性間でその感情を抱くということがどういうことか解らないわけじゃない

それは貴音も同じで

見つめ合う中で顔が真っ赤になっていくのを見ながら

自分も同じようになっていっている事を感じた


「た、貴音はアイドルですよ! そんな風に見るなんて」

「でも、見てるんですよね?」

「それは……」

「うぅ……」

「……………………」

隣で恥ずかしさに俯く貴音から目を逸らし

俺も同じように床を見つめる

考えていないといえば嘘になる

でも貴音はアイドルだ……しかもかなりの人気がある

だから……隠そうと思ってたんだがな

まさかそれに耐え兼ねて

ほかのアイドルに嫉妬し始めるなんて……

なんて馬鹿なんだろうな……俺は


「貴音」

「っ……」

「貴音……俺を見てくれ」

うつむいたままの貴音と正面で向かい合って

静かに頼む

「あなた……様……」

「貴音」

躊躇いながらも

貴音は普段は白い顔を真っ赤に染め上げたまま

俺のことを見上げる

「その……なんていうか、まぁ……そういうこと――」

「お、仰ってください!」

「え?」

「あ、あなた様の……気持ちを」

貴音は恥ずかしさで泣きそうになっているのか

瞳に涙を込めながらそう言った


「……………………」

「……………………」

二人して黙り込んでいたものの

律子達のパソコンの音が響いていたはずなのに

まるでそんなものがないかのように静かだった

そんな中で

俺は言葉に困って頭を掻きながらも

目の前で羞恥心に耐えながら俺を見る貴音のために

言葉を紡ぐ

「……好きだ。俺は、貴音のこと好きなんだ」

「あなた様……」

貴音は溜めていた涙をこぼし

嬉しそうに、幸せそうに、微笑みながら

「わたくしも……わたくしもあなた様を――お慕いしております」

そう答えた


「貴音……」

「あなた様……」

ずっと抱きしめたいと思っていた

ずっと触れたいと思っていた

貴音の魅力的な体をぎゅっと抱きしめる

「ふふっ」

「ははっ」

何人ものため息が事務所に響いたが

俺たちはそんなことを気にせずに笑い合う

「……あなた様」

「ん?」

「わたくしは永遠にあなた様のアイドルになります」

「なら俺は生涯のプロデューサーだな」

貴音はアイドルを、俺はプロデューサーを

辞めることなく生きていく

そう誓い合ったからなのか

誰かに嫉妬するようなことは――無事に無くなったのだった


終わりです
たまには貴音も……ね



この書き方はこういうジャンルには合わなかったらしい
失敗してしまった……ぐぬぬ

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