モバP「晴れの日、博識と」 (32)

頼子さん誕生日おめでとう。


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――事務所


P「ええ、分かりました」


P「はい……失礼します」ピッ


古澤頼子「……」パラッ



P「はぁー……予定の立て直しか……」


頼子「……何かあったんですか?」


P「ああ、頼子か、丁度いい。スケジュールの変更だ」


頼子「分かりました」パタン


P「美術館のリポートが数日前倒しになったから……あ」


頼子「……?」


P「ちひろさーん、ちょっと来てください!」


千川ちひろ「はーいっ、どうしましたかプロデューサーさん?」


P「スケジュール変更です、このロケがこうなって……」


ちひろ「とすると、この日のレッスンはこっちの日にですね……」


頼子「……?」


P「……あ、そこは空けられませんか」


ちひろ「……ああ、確かにそうですね!」


P「では、この日に……頼子聞いてくれ」


頼子「はい……それで、どうなりました?」


P「ロケが前倒しになったから――」



P「――よかったな。5月18日、オフになったぞ」


頼子「……!」


P「で、俺もこの日オフに……ほら、こっちの日のオフ前倒しで潰れてますから」


ちひろ「……あ、本当だ。このロケ、プロデューサーさんは頼子ちゃんに付きっきりでしたね」


P「ということで、俺もオフになった」


頼子「本当ですか……!」


ちひろ「……まあ、いいでしょう」


ちひろ「それと、その日の夕方は頼子ちゃんのお誕生日パーティーしますからね」


頼子「そんな、パーティーなんて……」


ちひろ「うちはアットホームな事務所ですから。ちゃんと皆も呼んでおきます」


P「お願いします」


ちひろ「パーティーの準備は時間かかりますし、頼子ちゃんは当日プロデューサーさんとでもデートしてきてください」


頼子「え……?!」


P「分かりました……だってさ、頼子」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――女子寮


頼子「……って、言われたんだけど……いいのかな、Pさん」


池袋晶葉「さあな……いいんじゃないか?」


頼子「さあって……そんな、私なんかとでいいのかな……?」


晶葉「頼子よ、君の話からだとPが頼子の誕生日に合わせて休暇を取ったのではないか?」


頼子「……うん」


晶葉「なら、Pが選んだのだからそれでいいだろう」


晶葉「私にはPが頼子とデートしたいが為に予定を合わせたように思えるがな」


頼子「……でも」


晶葉「頼子、あまり気にしなくていいぞ」


晶葉「それだけ、Pが君のことを大事に思っているんだ」


晶葉「……それに、常々私の助手でいるのは大変かもしれんからな」


晶葉「たまには助手にも休暇を与えなければと思っていたが、ちょうどいい機会だ!」


頼子「晶葉ちゃん……!」


晶葉「まあ、なんだ、その……デート、楽しんでくるといい」


頼子「……うん」


頼子「ありがとう、晶葉ちゃん」


晶葉「なあに、気にすることはない。頼子には助けられてばかりだからな」


晶葉「ふふん……さて、しばらく臨時の助手でも雇うか。アイスでも買って来るとしよう」


晶葉「……健闘を祈るぞ、頼子」


頼子「……でも」


頼子「デートって、どうすれば……」


頼子「……」ポワワ……


頼子「……!!」ボフン!




頼子「えっと、えっと……」




頼子「……」ポチポチ


頼子「もしもし……はい、ちょっと相談が……」


コンコンッ


ガチャッ


安部菜々「お邪魔しまーすっ!呼ばれて飛び出て、ウッサミーン♪」


頼子「……?」ポカン


菜々「……あー、いえ、ごほんごほんっ!こっちの話ですよっ」


菜々「それで、相談ってどうしたんですか?」


頼子「その……実は」



ゴニョゴニョ……



菜々「なるほど……デートですか」


頼子「!!」


菜々「えっ?Pさんと二人きりなんですから、デートですよね?」


頼子「えっと……はい、デートですけど」


菜々「ふむふむ……」


菜々「だったら頼子ちゃんの趣味に合わせて……って、その前に美術館ロケでしたっけ?」


頼子「はい……私、どうしたらいいのかなって」


菜々「そうですね……でも、きっとPさんはどんなことでも喜ぶと思いますよっ♪」


菜々「でも、せっかくのデートだからって、変に慣れていない場所に行ったりするのはあまり良くないと思いますし……」


菜々「だから、頼子ちゃんが普段行くような場所に行ってみるといいと思います!」


頼子「普段から行くお店、ですか……」


菜々「はいっ!頼子ちゃんらしく、でいいんですよ」


頼子「……そっか」フフッ


頼子「うん。ありがとう、菜々さん……」


菜々「いえいえ!いいんですよっ!」


菜々「頑張ってくださいね、頼子ちゃんっ♪」


――18日



頼子「うん、晴れて良かった……でも」キョロキョロ


頼子「少し早かったかな……あら」



P「おっ、いたいた……おはよう、頼子」


頼子「おはようございます、Pさん」


P「ああ、お互いに少し早かったんだな」


頼子「そうみたいですね……ふふ」



頼子「今日は、お買い物に付き合ってほしいな、って思って」


P「買い物?」


頼子「はい……私の好きなお店です」


P「いいぞ。その後は……俺に付き合ってもらえると、嬉しい」


――古本屋



P「へぇ……なんか、風情があるって感じだな」


頼子「ここは、よくお世話になってます」


頼子「珍しい本、好きですから」




P「おっ、漫画とかもあるのか……かなり古いな」


P「頼子は……」




頼子「……」ジーッ


頼子「どうしよう……今日こそ……でも……」


P(悩んでるな……よし)


頼子「……いえ、今日こそは……」


P「それ、ほしいのか?」


頼子「あ……はい、ずっと買おうか悩んでて」


P「そっかそっか。貸してくれ」


頼子「……?はい」




P「これください――」


チラッ


『7,800円』


P(高っ)


P(……まあ、いいか)


頼子「本当に、よかったんですか?」


P「いいのいいの。ちょっと早い誕生日プレゼントだ」


頼子「……ありがとうございます、Pさん」


P「珍しい本なのか、それ」


頼子「そうですね……たしか、もう絶版だったはずです」


P「なるほどな」


頼子「ずっと、買おうと思ってたんですが、手が出なくて……」



頼子「今日、やっと手を伸ばそうとしたら……ふふ」


P「あー……まずかったか」


頼子「いえ、いいんです。Pさんの気持ち……伝わった気がしますから」


P(それから数軒回って、買った本は何冊になるのやら……)


P「買って早速悪いんだが、一旦ロッカーに預けていこう」


頼子「……そうですね。全部は、流石に重たいですから」


頼子「でも、この後はどちらへ……?」


P「んー、そうだな……とりあえず地下鉄に乗ろう」


頼子「はい……Pさんに、お任せします」




P「で、降りたらしばらく歩いて」


頼子「はい……」


P「バスに乗って」


頼子「……?」


P「はい、到着」


頼子「ここは……」


――水族館


P「頼子ってさ、美術館とか好きだろ」


頼子「ええ」


P「芸術的で歴史あるような感じだろ」


頼子「まあ……そうですね」


頼子「それで、水族館ですか?」


P「そうだな」


頼子「……ふふ。Pさんのそういうところ、好きですよ」


P「……そりゃどうも」


頼子「本当にデートみたいで……嬉しいです」


P「……本当に、デートだからな」



P「おおっ、熱帯魚だ」


頼子「美しい色合いですね」


P「凄くカラフルだよなー」


頼子「一般的には、自分と同じ種かどうかを見分けるためだと聞きます」


頼子「鱗による光の反射で見分けているそうですよ」


P「へぇー……なるほど」


P「美しくなろうと頑張ったからとか、そんなんじゃないんだな」


頼子「……Pさんは、ロマンチストですね」クスッ


P「……どっかの非科学的科学者のせいだろうな」


P「おお、どこを見ても水槽だ」


頼子「本当ですね……ふふ」


P「ほら、あれ見て」


頼子「あら……」


P「凄いな、大群だ」


頼子「まるでスイミーですね……」


頼子「……ふふ」


P「どうした?」


頼子「いえ……Pさんはきっと、黒い魚だなって」


P「……?」


頼子「なんでもありませんよ」クスッ


P「へぇー、ペンギンがいる」


頼子「可愛らしいですね……ふふ」


P「ああ、なんかロボみたいだな……って、本物なのにな」


頼子「もう……今日は私だけを、見てください」


P「ああ、すまないな……今日は助手じゃないんだもんな」


頼子「そうですよ……だから、今日は」



ギュッ



頼子「私のわがままを、聞いてください」


P「……そうだな」


P(あれからずっと頼子が腕組んでくる……)


P(……こんなに積極的だったんだな)


頼子「……♪」


P(……楽しそうで何よりだな。うん)


頼子「どうしたんですか、Pさん?」


P「いや、何も……お姫様が楽しそうで、何よりです」


頼子「まあ。ではエスコートをお願いします、騎士様」


P「……ははは」


頼子「騎士というよりも、魔法使いですね」


P「馬車もドレスも出せないよ。ただ少し、皆に勇気をあげているだけさ」


頼子「それを、魔法と言うんですよ……ふふっ」


P(水族館を出てからは、ぱったりとくっつかなくなった)


P(……頼子なりに考えてくれてるんだろうか)


頼子「……Pさん、まだ時間はありますか?」


P「ん?まだ大丈夫だが……どうした?」


頼子「もう少し……Pさんとお話したいな、と思って」


P「ああ。いいぞ」


頼子「せっかく、今日は……その」


頼子「わ……私だけの、Pさん、ですから……」


P「そうだな」


――公園



P「……ほら、頼子。紅茶で良かったか?」


頼子「ありがとうございます」


P「喫茶店とかでも、良かったのに」


頼子「いえ、この方が落ち着くので……それと」


頼子「クレープ屋さんが、目に付いたので」


P「そうか……クレープ、好きだもんな」


頼子「ええ。特に……誰かと食べるクレープが、です」



頼子「……こうして、二人でお話するのも久しぶりですね」


P「そうだな」


頼子「いつもPさん、忙しいですもんね」


P「……だからって、頼子のこと、忘れてないからな」


P「頼子はずっと、みんなのこと考えてくれている」


P「事務所にとって欠かせない存在だよ」


頼子「そう、ですか……?」


P「もちろん」



P「……みんな、今日のこと応援してくれたんじゃないか?」


頼子「……うん」


頼子「晶葉ちゃんも、菜々さんも……私の背中を、押してくれました」


P「そういうことさ」


P「みんなも頼子のこと、頼りにしてるし、大切に思ってくれてるんだよ」



P「だから……たまには、ってことさ」


頼子「Pさん……」



頼子「……そうですね」


頼子「たまには、私も……」


P「頼子?」



ギュッ



頼子「……私も、決めました」


頼子「ふふ……Pさん、気を付けていないと」



グイッ



P「っ!」


頼子「私が奪ってしまうかも……なんて」


頼子「冗談、ですよ」


P「そ、そうか……」


頼子「……でも、安心しました」


頼子「ずっと、私を見ていてくれたんですから」


P「そりゃあ、プロデューサーとしてな」


頼子(プロデューサーとして……ちゃんと、全員を見ていてくれていますからね)


頼子(……皆を、平等に、ですけど)



頼子「……たまには、私だけを見てくれたって、いいんですからね」


P「……そうか」



P「俺は、どこまで行ってもプロデューサーだからな」


P「……たまにそんな日があるくらいなら、考えとくよ」


頼子「……はい。楽しみにしていますね」


――事務所



ガチャッ


P「お疲れ様です」


頼子「……お疲れ様、です」


晶葉「む、頼子にPじゃないか。お帰り」


菜々「お帰りなさいっ、頼子ちゃんにPさん!」


頼子「うん……ただいま、晶葉ちゃん、菜々さん」


菜々「ふふふ……上手くいったみたいですね、頼子ちゃんっ」


頼子「……!!」


頼子「は、はい……その、菜々さんのおかげ、です」


晶葉「そうかそうか。ああ、人手は足りているから、二人は待っていてくれ」


P「おう、任せた」






晶葉「……頼子、ちょっといいか」


頼子「!」


頼子「……うん」





晶葉「やけにいい笑顔だが……」


晶葉「私の助手は、譲らないからな?」



頼子「……そうだね」


頼子「でも、油断はダメだよ……」


頼子「私は……怪盗だから」



晶葉「ああ、そうだな」


頼子「……うん」



晶葉「そうだ、聞いてくれ。皆のお陰でいいプレゼントが出来たんだ。あとで見せるから楽しみにしていたまえ」


頼子「本当?……ふふ、いつもありがとう、晶葉ちゃん」


晶葉「なあに、私の友達の為だ。君が喜んでくれると……私も嬉しいよ」

以上で終わりです。

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